(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089479
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】解析装置、学習装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
E21D 9/11 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
E21D9/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204869
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(71)【出願人】
【識別番号】394017446
【氏名又は名称】マック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】董 佳文
(72)【発明者】
【氏名】森 守正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】永野 琢馬
(72)【発明者】
【氏名】宮原 宏史
(72)【発明者】
【氏名】山東 開
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC20
2D054GA17
2D054GA63
2D054GA74
(57)【要約】
【課題】削孔位置の装薬量を精度よく推定することを目的とする。
【解決手段】解析装置は、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像とを取得する取得部と、前記削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定する推定部と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、
トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像とを取得する取得部と、
前記削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定する推定部と、
を含む解析装置。
【請求項2】
前記モデルは、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するニューラルネットワークモデルである請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークモデルは、畳み込み層を含む請求項2記載の解析装置。
【請求項4】
前記センサデータは、ドリルにより削孔を行う際の削孔速度、穿孔エネルギー、又はダンピング圧を含む請求項1記載の解析装置。
【請求項5】
前記モデルは、更に前記切羽全景画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する請求項1~請求項4の何れか1項記載の解析装置。
【請求項6】
トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像と、前記切羽位置の発破結果から求められる前記削孔位置の最適な装薬量とを含む学習データを取得する学習データ取得部と、
前記学習データに基づいて、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習する学習部と、
を含む学習装置。
【請求項7】
コンピュータを、
トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、
トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像とを取得する取得部、及び
前記削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定する推定部
として機能させるための解析プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像と、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像と、前記切羽位置の発破結果から求められる前記削孔位置の最適な装薬量とを含む学習データを取得する学習データ取得部、及び
前記学習データに基づいて、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習する学習部
として機能させるための学習プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、学習装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トンネル工事における装薬量は以下の手順(i)~(iv)で決定される。
【0003】
(i)弾性波探査等の事前調査により、トンネル地質縦断図および各位置における支保工パターンの標準値を定める。
【0004】
(ii)上記データを基に、各支保工パターンにおける標準削孔/装薬配置を作成する。
【0005】
(iii)経験技術者は施工時に現地で切羽全体を観察し、削孔位置の目視状況およびジャンボを用いて削孔する際のパーカッションドリルの手応え、既施工切羽の施工実績(目視確認した余掘り量等)を総合的に判断し、装薬量を決定する。
【0006】
(iv)部分的に硬い岩盤が存在する場合、標準パターンに対して削孔装薬本数を任意で増やす。
【0007】
上記のように、装薬量の決定は経験技術者の感覚に依るところが極めて大きく、今後少子高齢化が進んでいく中で、経験技術者の判断を介在することなく装薬量を決定する必要がある。
【0008】
また、近年、ジャンボにおけるパーカッションドリルの手応えに対応する各種データ(穿孔速度、ダンピング圧、回転圧並びに3項目から算出される穿孔エネルギーなど)と穿孔位置の座標を数値化して自動取得するコンピュータジャンボが開発され、このデータを利用した装薬量決定手法に各社取り組んでいる(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「国内初導入した4ブームフルオートコンピュータジャンボによる大断面トンネルの施工実績」、<URL:https://jcmanet.or.jp/bunken/symposium/2018/2018r18.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術の多くは、各種データと別途測定した切羽の余掘り量を説明変数とし、余掘り量が出来る限り少ない装薬量を決定するものである。
【0011】
コンピュータジャンボから得られる各種データのみでは岩種、亀裂、互層介在物などの判断は困難である。現状、それらの項目は経験技術者が目視確認を行うことで判断を行い、装薬量選定の一因としているが、従来技術のコンピュータジャンボから得られる各種データのみで装薬量を判断する手法ではこの影響を考慮するのが困難である。更に、切羽の余掘り量を測定するには発破直後の不安定な切羽に接近して三次元レーザースキャナ等を用いて直接データを取得する必要があるが、切羽崩壊の可能性が高く、危険を伴う作業である。
【0012】
本発明は上記事実を考慮して、削孔位置の装薬量を精度よく推定することができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る解析装置は、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像とを取得する取得部と、前記削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定する推定部と、を含んで構成されている。
【0014】
本発明に係る解析装置によれば、取得部によって、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像とを取得する。そして、推定部によって、前記削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定する。
【0015】
このように、削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定することにより、削孔位置の装薬量を精度よく推定することができる。
【0016】
本発明に係る前記モデルは、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するニューラルネットワークモデルである。
【0017】
本発明に係る前記ニューラルネットワークモデルは、畳み込み層を含むことができる。
【0018】
本発明に係る前記センサデータは、ドリルにより削孔を行う際の削孔速度、穿孔エネルギー、又はダンピング圧を含むことができる。
【0019】
本発明に係る前記モデルは、更に前記切羽全景画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力することができる。
【0020】
本発明に係る学習装置は、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像と、前記切羽位置の発破結果から求められる前記削孔位置の最適な装薬量とを含む学習データを取得する学習データ取得部と、前記学習データに基づいて、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習する学習部と、を含む。
【0021】
本発明に係る学習装置によれば、学習データ取得部によって、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像と、前記切羽位置の発破結果から求められる前記削孔位置の最適な装薬量とを含む学習データを取得する。そして、学習部によって、前記学習データに基づいて、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習する。
【0022】
このように、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習することにより、削孔位置の装薬量を精度よく推定することができる。
【0023】
本発明に係る解析プログラムは、コンピュータを、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像とを取得する取得部、及び前記削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定する推定部として機能させるためのプログラムである。
【0024】
本発明に係る学習プログラムは、コンピュータを、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、前記切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像と、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、前記削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、前記切羽全景画像の内の前記削孔位置を含む部分画像と、前記切羽位置の発破結果から求められる前記削孔位置の最適な装薬量とを含む学習データを取得する学習データ取得部、及び前記学習データに基づいて、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習する学習部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の解析装置及び解析プログラムによれば、削孔位置毎に、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、前記削孔位置の装薬量を推定することにより、削孔位置の装薬量を精度よく推定することができる、という効果が得られる。
【0026】
また、本発明の学習装置及び学習プログラムによれば、前記支保工パターン、前記センサデータ、及び前記部分画像を入力とし、前記削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習することにより、削孔位置の装薬量を精度よく推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態に係る解析装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る解析装置を示す機能ブロック図である。
【
図4】ニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る解析装置の解析処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態の手法を用いた実験結果を示す図である。
【
図7】本実施形態の手法を用いた実験結果を示す図である。
【
図8】本実施形態の手法を用いた実験結果を示す図である。
【
図9】本実施形態の手法を用いた実験結果を示す図である。
【
図10】本実施形態の手法を用いた実験結果を示す図である。
【
図11】本実施形態の手法を現場に適用した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
<本発明の実施の形態の概要>
本発明の実施の形態では、コンピュータドリルジャンボのドリルナビより取得した穿孔エネルギーデータ、及び削孔箇所の局所画像を用いて、ニューラルネットワークを学習し、各削孔箇所の装薬量を予測する。
【0030】
<本発明の実施の形態の解析装置の構成>
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る解析装置100は、CPU(Central Processing Unit)12、グラフィックカード13、GPU(Graphics Processing Unit)14、RAM(Random Access Memory)16、HDD(Hard Disk Drive)18、通信インタフェース(I/F)21、及びこれらを相互に接続するためのバス23を備えている。
【0031】
CPU12、GPU14は、各種プログラムを実行する。RAM16は、CPU12による各種プログラムの実行時におけるワークエリア等として用いられる。記録媒体としてのHDD18には、後述する解析処理ルーチンを実行するためのプログラムを含む各種プログラムや各種データが記憶されている。
【0032】
本実施形態における解析装置100を、解析処理ルーチンを実行するためのプログラムに沿って、機能ブロックで表すと、
図2に示すようになる。解析装置100は、入力部10、演算部20、及び出力部50を備えている。
【0033】
入力部10は、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、当該切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を、入力として受け付ける。
【0034】
入力部10は、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、当該削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、切羽全景画像の内の当該削孔位置を含む部分画像とを、入力として受け付ける。
【0035】
センサデータは、ドリルにより削孔位置の削孔を行う際の削孔速度、穿孔エネルギー、又はダンピング圧を含む。例えば、センサデータは、削孔位置の削孔を行う際にコンピュータジャンボのドリルナビより得られた削孔速度、穿孔エネルギー、及びダンピング圧を含む。
【0036】
演算部20は、取得部22、推定部24、モデル記憶部26、学習データ取得部28、及び学習部30を備えている。
【0037】
取得部22は、入力部10に入力された、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、当該切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得すると共に、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、当該削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、切羽全景画像の内の当該削孔位置を含む部分画像とを取得する。
【0038】
例えば、
図3に示すように、センサデータとして、坑口からの距離、削孔長、平均エネルギー、土被りを取得し、支保工パターンとして、「CI」、「CII」、「DI」、「DII」の何れであるかを取得すると共に、部分画像の格納場所を取得する。なお、
図3では、学習データとして、更に装薬量を取得する例を示している。
【0039】
推定部24は、削孔位置毎に、支保工パターン、センサデータ、及び部分画像を入力とし、削孔位置の装薬量を出力する予め学習されたモデルを用いて、削孔位置の装薬量を推定する。
【0040】
具体的には、モデルは、支保工パターン、センサデータ、及び部分画像を入力とし、削孔位置の装薬量を出力するニューラルネットワークモデルである。より具体的には、ニューラルネットワークモデルは、畳み込み層を含む。
【0041】
例えば、
図4に示すように、ニューラルネットワークモデル32は、支保工パターン、当該削孔位置のセンサデータ、及び当該削孔位置の部分画像を表す520パラメータを入力とする入力層321と、入力層321の出力を表す520パラメータを入力とする中間層322と、当該削孔位置の装薬量を表す1パラメータを出力とする出力層323とを含む。
【0042】
なお、ニューラルネットワークモデルは、更に切羽全景画像を入力としてもよい。
【0043】
モデル記憶部26は、学習済みモデルを記憶している。
【0044】
学習データ取得部28は、上記
図3に示すように、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像の内の削孔位置を含む部分画像と、切羽位置の発破結果から求められる削孔位置の最適な装薬量とを含む学習データを取得する。
【0045】
学習部30は、学習データ取得部28により取得した学習データに基づいて、支保工パターン、センサデータ、及び部分画像を入力とし、削孔位置の装薬量を出力するニューラルネットワークモデルを学習し、学習済みモデルを、モデル記憶部26に格納する。
【0046】
<解析装置の動作>
次に、本発明の実施の形態に係る解析装置100の動作について説明する。
【0047】
まず、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置毎に、最初の所定回数(例えば、5回)分だけ、人手により、切羽位置の断面上の複数の削孔位置と、各削孔位置の装薬量とを決定し、解析装置100の入力部10が、最初の所定回数分、人手により決定された各削孔位置の装薬量を入力として受け付ける。
【0048】
また、解析装置100の入力部10が、最初の所定回数分だけ、支保工パターン、各削孔位置のセンサデータ、及び切羽全景画像の内の各削孔位置の部分画像を入力として受け付ける。
【0049】
また、解析装置100の学習部30は、最初の所定回数で得られた、支保工パターン、各削孔位置のセンサデータ、各削孔位置の部分画像、及び各削孔位置の装薬量を学習データとして、モデルを学習し、学習済みモデルを、モデル記憶部26に格納する。
【0050】
そして、最初の所定回数の後、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置毎に、解析装置100の入力部10が、支保工パターン、各削孔位置のセンサデータ、及び切羽全景画像を入力として受け付けると、解析装置100によって、
図5に示す解析処理ルーチンが実行される。
【0051】
まず、ステップS100において、取得部22は、入力部10に入力された、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像を取得する。
【0052】
そして、ステップS102において、取得部22は、トンネル切羽用の装薬のために人手で決定された切羽位置の断面上の削孔位置毎に、削孔位置の削孔を行う際に得られたセンサデータと、切羽全景画像の内の削孔位置を含む部分画像とを取得する。
【0053】
ステップS104において、推定部24は、削孔位置毎に、支保工パターン、センサデータ、及び部分画像を入力とし、学習済みモデルを用いて、当該削孔位置の装薬量を推定する
【0054】
ステップS106において、上記ステップS104における各削孔位置の装薬量の推定結果を出力部50により出力する。
【0055】
ユーザは、各削孔位置の装薬量の推定結果を参考に、各削孔位置の装薬量を決定する。そして、決定した各削孔位置の装薬量で、当該切羽位置の発破を実際に行い、ユーザは、発破結果から、各削孔位置の最適な装薬量を決定する。そして、解析装置100の入力部10が、各削孔位置の最適な装薬量を入力として受け付ける。
【0056】
ステップS108において、学習データ取得部28は、各削孔位置の最適な装薬量の平均値を、正解データとして取得する。
【0057】
ステップS110において、学習データ取得部28は、トンネルの掘削対象となる地山の切羽位置に対して予め決定された支保工パターンと、トンネル切羽用の装薬のための削孔位置毎に、削孔位置に削孔を行う際に得られたセンサデータと、切羽位置をカメラで撮影した切羽全景画像の内の削孔位置を含む部分画像と、正解データとして取得した、各削孔位置の最適な装薬量の平均値とを含む学習データを取得する。
【0058】
ステップS112において、学習部30は、学習データに基づいて、予め定められた損失関数を最適化するように、学習済みモデルを更新することにより、学習済みモデルを学習する。
【0059】
ステップS114において、地山の切羽工事が終了したか否かを判定する。地山の切羽工事が終了していない場合には、上記ステップS100へ戻り、次の切羽位置について、上記ステップS100~S114の処理を繰り返す。
【0060】
<実施例>
トンネルの640m分の施工データを用いて、2つの比較例となる手法と比較し、上記実施形態で説明した手法の有効性を検証した。
【0061】
比較例1は、数値データのみを使用した重回帰を用いた手法である。比較例1の手法は、数値データを扱う分析として、表現力は低いが過学習しにくい手法である。
【0062】
比較例2は、数値データのみを使用したLightGBM回帰を用いた手法である。この手法は、数値データを扱う分析として、表現力は高いが過学習しやすい手法である。比較例2の手法は、例えば、ランダムフォレストと勾配ブースティングを使用した決定木ベースの手法である。ハイパーパラメータには、3~4パターンほど試した結果、問題なさそうなものを選定した。
【0063】
上記実施形態で説明した手法は、数値データと画像データを使用した、MLP回帰を用いた手法である。なお、学習に乱数を用いるため、毎回同じ結果になるわけではない。
【0064】
図6では、最初から95回目~110回目の切羽位置のうちの6回の切羽位置のデータを学習データとして用い、118回目以降の切羽位置のうちの65回の切羽位置のデータを検証データとした実験結果を示す。
図6(A)は、比較例1の実験結果を示し、
図6(B)は、比較例2の実験結果を示し、
図6(C)は、上記実施形態の手法の実験結果を示している。
図6では、白丸が、モデルによる各掘削位置の装薬量の推定結果の平均値を示し、ドット付きの丸が、正解データとして得られた、各削孔位置の装薬量の平均値を示している。縦軸は、装薬量であり、横軸は、坑口からの距離である。
【0065】
学習データ5件の時点では、どの手法も予測は難しい状態であることが分かる。しかし、比較例1ではマイナスに振り切れていたり、比較例2ではほとんど同じ予測しか出さないのに対し、上記実施形態の手法は、比較的現実的な予測を行っていると言える。
【0066】
図7では、最初から95回目~168回目の切羽位置のうちの15回の切羽位置のデータを学習データとして用い、172回目以降の切羽位置のうちの56回の切羽位置のデータを検証データとした実験結果を示す。
図7(A)は、比較例1の実験結果を示し、
図7(B)は、比較例2の実験結果を示し、
図7(C)は、上記実施形態の手法の実験結果を示している。
【0067】
比較例1では、ある程度点群の塊を捉えるようになったが、依然データ範囲外の予測を出してしまうなど問題は多い。しかし、上記実施形態の手法では、直後の予測のずれは小さく抑えることができていることが分かる。
【0068】
図8では、最初から95回目~313回目の切羽位置のうちの40回の切羽位置のデータを学習データとして用い、317回目以降の切羽位置のうちの31回の切羽位置のデータを検証データとした実験結果を示す。
図8(A)は、比較例1の実験結果を示し、
図8(B)は、比較例2の実験結果を示し、
図8(C)は、上記実施形態の手法の実験結果を示している。
【0069】
比較例1の手法では、表現力の問題で予測が難しいことが分かる。比較例2では、データ数が増えたことである程度予測がうまくいくようになってきている。しかし、決定木系の手法の特性上、未知のデータに対し同じ値が出やすい傾向は変わらない。
【0070】
上記実施形態の手法では、直後の予測についてもその後の予測についても2つの比較例の手法より近い予測が得られることが分かった。
【0071】
図9では、最初から95回目~586回目の切羽位置のうちの60回の切羽位置のデータを学習データとして用い、590回目以降の切羽位置のうちの11回の切羽位置のデータを検証データとした実験結果を示す。
図9(A)は、比較例1の実験結果を示し、
図9(B)は、比較例2の実験結果を示し、
図9(C)は、上記実施形態の手法の実験結果を示している。
【0072】
どの手法も学習終了後の次の1回の予測については、近い値を出している。しかし、比較例1、2については平均に近い値を出して、偶然正解したように思えるのに対し、上記実施形態の手法では予測がばらついており、入力パラメータに従って変動している様子が見える。
【0073】
次に、相関評価を行った結果について説明する。各手法において、坑口からの距離ごとに予測に使用したデータと正解データの相関係数を評価した結果を
図10に示す。縦軸は、相関係数であり、横軸は、坑口からの距離である。正の相関が得られれば予測が機能しているといえる。
【0074】
比較例1、2による回帰が、明確な正の相関を示していないのに対し、上記実施形態の手法では長い区間にわたり正の相関を示している。
【0075】
学習データが足りない前半部分や、評価データが少なくなってくる後半部分で相関が乱れてしまうが、上記実施形態の手法についてのみ有効性が見て取れる結果である。
【0076】
以上のように、上記実施形態の手法と2つの比較例の手法を比較して、画像を用いた回帰に一定の効果がみられることが分かった。
【0077】
次に、トンネル工事の現場で適用した結果について説明する。
【0078】
まず、2022年7月28日までの施工データに基づき、学習データを作成した。また、7月28日時点で坑口から948mまで施工を完了した。画像データ有効断面数は、145断面であり、有効データ数は3998個であった。また、相関係数が0.99となるまでモデルの学習を行った。
【0079】
予測データとして、8月以降の支保工パターンDIII区間での装薬量予測を、モデルを用いて実施し、9月1日時点で、合計2断面予測を実施した。この結果を
図11に示す。
【0080】
図11では、白丸が、実績として得られた各掘削位置の装薬量の平均値を示し、ドット付きの丸が、モデルにより推定された各削孔位置の装薬量の平均値を示している。縦軸は、装薬量(1孔あたりの装薬本数)であり、横軸は、坑口からの距離である。
【0081】
1つ目の予測と実績との比較では、予測結果が2.34本/孔であり、実績が2.64本/孔であった。誤差0.30本/孔にて火薬量を補正して発破を行ったが、アタリ等の掘削支障は無かった。
【0082】
また、2つ目の予測と実績との比較では、予測結果が2.63本/孔であり、実績が2.64本/孔であった。誤差0.01本/孔にて火薬量を補正して発破を行ったが、アタリ等の掘削支障は無かった。予測結果と、ほぼ同量の装薬量にて発破掘削が可能であることがわかった。
【0083】
以上より、事前掘削での装薬量実績を元に、支保工パターンDIII区間での装薬量を予測して補正して発破を行った結果、アタリ等の掘削支障無く施工が行うことが出来た。
【0084】
この事から、ドリルナビの穿孔エネルギーデータ及び削孔箇所の局所切羽画像を用いて装薬量を予測するシステムを構築したと考えられる。
【0085】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る解析装置によれば、削孔位置毎に、支保工パターン、センサデータ、及び部分画像を入力とし、削孔位置の装薬量を出力する予め学習された学習済みモデルを用いて、削孔位置の装薬量を推定することにより、削孔位置の装薬量を精度よく推定することができる。
【0086】
また、支保工パターン、センサデータ、及び部分画像を入力とし、削孔位置の装薬量を出力するモデルを学習することにより、削孔位置の装薬量を精度よく推定するモデルを学習することができる。
【0087】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0088】
例えば、上記の実施形態では、学習処理と解析処理とを1つの装置で実現する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、学習処理を行う学習装置と、解析処理を行う解析装置とに分けて構成してもよい。この場合、学習装置の演算部は、モデル記憶部、学習データ取得部、及び学習部を備え、解析装置の演算部は、取得部、推定部、及びモデル記憶部を備える。
【0089】
また、同じ現場のトンネル工事において、装薬量の推定とモデルの学習とを交互に繰り返す場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。過去に行われた別の現場のトンネル工事のデータを用いて学習された学習済みモデルを用いて、対象とする現場のトンネル工事において、装薬量を推定するようにしてもよい。
【0090】
また、上記の実施形態では、切羽位置の各削孔位置の装薬量の平均を正解データとして、損失関数を設計する場合を例に説明したが、現場で装薬量を決定する際のプロセスや考え方を取り入れた損失関数を用いてもよい。例えば、切羽位置の各削孔位置の装薬量をそのまま正解データとして用いて、損失関数を設計してもよい。
【0091】
また、センサデータとして、ドリルにより削孔位置の削孔を行う際の削孔速度、穿孔エネルギー、又はダンピング圧を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。装薬量の決定に寄与するような他のセンサデータを用いてもよい。
【0092】
また、人手で装薬のための削孔位置を決定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。コンピュータが自動で削孔位置を決定するようにしてもよい。例えば、コンピュータドリルジャンボの穿孔エネルギーと切羽画像情報から、装薬のための削孔位置を自動で決定すると共に、上記の解析装置により、装薬量を推定するようにしてもよい。
【0093】
また、本発明のプログラムは、記憶媒体に格納して提供するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10 入力部
20 演算部
22 取得部
24 推定部
26 モデル記憶部
28 学習データ取得部
30 学習部
32 ニューラルネットワークモデル
50 出力部
100 解析装置
321 入力層
322 中間層
323 出力層