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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089480
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】抗真菌組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20240626BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20240626BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K8/46
A61Q11/00
A61K47/20
A61K8/60
A61P1/02
A61P31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204875
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】591166400
【氏名又は名称】富士製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】草塩 英治
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA22
4C076BB22
4C076CC32
4C076DD05
4C076DD21
4C076DD29
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD43
4C076DD46
4C076EE31
4C076FF02
4C076FF63
4C083AB172
4C083AB242
4C083AC092
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC302
4C083AC312
4C083AC432
4C083AC781
4C083AC782
4C083AD262
4C083AD391
4C083AD392
4C083CC41
4C083DD22
4C083EE32
4C083EE33
4C083EE36
4C086AA01
4C086EA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA23
4C086MA27
4C086MA28
4C086MA57
4C086NA03
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】長期の保存安定性に優れたナタマイシンを含有する抗真菌組成物を提供する。
【解決手段】ナタマイシンおよびドデシル硫酸ナトリウムを含有し、前記ドデシル硫酸ナトリウムの含有量が0.5mg/g以上、4mg/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナタマイシンおよびドデシル硫酸ナトリウムを含有し、
前記ドデシル硫酸ナトリウムの含有量が0.5mg/g以上、4mg/g以下である、抗真菌組成物。
【請求項2】
前記ナタマイシンの含有量が0.001mg/g以上、100mg/g以下である、請求項1に記載の抗真菌組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の真菌は、歯垢の形成を促進することが知られている。歯垢の増加は、病原性微生物を増加させ、結果的に、う蝕や歯周病を引き起こす。
【0003】
特許文献1には、ポリエン系抗真菌剤を含有する製品の一例として、口腔用組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、抗真菌特性を提供する口腔用組成物が開示されており、ナタマイシンを使用することが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-527079号公報
【特許文献2】特表2010-538074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2にはナタマイシンを含有する抗真菌組成物に関する具体的な記述はない。商業化のためにはある程度長期間、例えば3年間にわたって安定であるナタマイシンを含有する組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、安定なナタマイシン含有組成物を提供すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ドデシル硫酸ナトリウムを用いることでナタマイシンの不安定化を阻止することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一態様である抗真菌組成物は、ドデシル硫酸ナトリウムが0.5mg/g以上、4mg/g以下含有されている。
【0009】
別の好ましい態様では、抗真菌組成物のナタマイシンの含有量は0.001mg/g以上、100mg/g以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナタマイシンを含有する安定な抗真菌組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<抗真菌組成物>
本明細書では、抗真菌組成物を、単に「組成物」ということがある。
【0012】
(ナタマイシン)
ナタマイシンは、Streptomyces natalensisの培養により生成されるポリエンマクロライド系抗真菌薬であり、真菌の生育を阻害する。ナタマイシンは、現在、食品添加物としての使用が認められている。また、ナタマイシンは、難溶性であり、水に可溶化し難いという特徴を有している。ナタマイシンは、消化管から吸収されないため、口腔内に選択的に作用させることができる。また、ナタマイシンは、殺菌的に真菌に作用するため、耐性獲得がなく、常在細菌叢には影響しないという利点を有している。
【0013】
組成物中のナタマイシンの含有量は、所期の抗真菌活性が得られる範囲で適宜設定することができる。製剤的なナタマイシン含有量の規格を維持しやすいことから、0.001mg/g以上であることが好ましく、0.002mg/g以上であることがより好ましく、5mg/g以上であることがさらに好ましい。また、口腔内に適用する場合には、安全性の観点から、100mg/g以下であることが好ましく、20mg/g以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明におけるナタマイシンは、組成物中において一部又は全部が固体分散体として存在していてもよい。
【0015】
本発明におけるナタマイシンは、組成物中における含量均一性を維持する観点から、当該組成物中(例えば、製剤中)のナタマイシン粒子のメジアン径が100μm以下であることが好ましい。ナタマイシン粒子のメジアン径が100μm以下の範囲において、ナタマイシンは十分な抗真菌活性を発揮することができる。メジアン径は、レーザー回折法によって測定した値をいう。レーザー回析法による測定は、後述する実施例に示されるように実施することができる。
【0016】
また、使用するナタマイシン原薬は未粉砕のものでもよく、粉砕したものでもよく、目的の組成物に合わせて、当業者が適宜選択することができる。ナタマイシンを粉砕する場合、例えば、ジェットミルを用いて粉砕することができる。
【0017】
(ドデシル硫酸ナトリウム)
ドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSと呼称することがある。)は、アニオン界面活性剤である。本発明の組成物においては、組成物中のナタマイシンの安定性を向上させる観点からSDSの含有量の下限値は0.5mg/g以上である。一方で、上限値は4mg/g以下であることが好ましく、3mg/g以下であることがより好ましい。異なる好ましい態様として、組成物中のナタマイシンの重量を1とした時のSDSの含有量は0.1~0.8を挙げることができる。
【0018】
(その他の成分)
本発明の一態様に係る組成物は、ナタマイシン及びSDS以外の成分を含有していてもよい。他の成分としては、清掃剤、着色剤、粘結剤、湿潤剤、防腐剤、発泡剤、pH調整剤、香料、清涼剤、保存安定化剤、ナタマイシンを固体分散させるための高分子マトリックス等が挙げられる。また、本発明の一態様に係る組成物は、ナタマイシン以外の抗菌剤を含有していてもよい。これらの成分は、本発明の効果を損ねるものでなく、且つ安全に使用可能なものであれば特に限定されない。また、各成分の含有量は、当業者が適宜調整することができる。
【0019】
(剤形と用途)
本発明の一態様に係る組成物は、任意の剤形を適宜選択することができる。剤形としては、例えば、懸濁液、半固体が挙げられる。半固体としては、ジェル、クリーム、ペースト等が挙げられる。
【0020】
本発明の一態様に係る組成物の用途は特に限定されず、抗真菌活性が求められる種々の用途において広く利用することができる。例えば、口腔用途において広く利用することができる。例えば、潤製歯磨剤、練歯磨剤、液状歯磨剤、液体歯磨剤、又は洗口剤であってもよい。
【0021】
(製造方法)
本発明の一態様に係る組成物の製造方法は、特に限定されず、剤形に応じて、それぞれ公知の方法で調製することができる。
【0022】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る抗真菌組成物は、ナタマイシンおよびドデシル硫酸ナトリウムを含有し、前記ドデシル硫酸ナトリウムの含有量が0.5mg/g以上、4mg/g以下である。
【0023】
本発明の態様2に係る抗真菌組成物は、態様1において、前記ナタマイシンの含有量が0.001mg/g以上、100mg/g以下であることが好ましい。
【0024】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0025】
以下に示す実施例において製造元を記載していない試薬および装置は、当技術分野で通常用いられるものを使用した。
【0026】
[実施例1:ナタマイシンの安定性試験]
(抗真菌組成物の調製)
表1に示すとおりにナタマイシン含有基剤を調製した。ナタマイシン含有基剤に含まれているナタマイシン粒子のメジアン径は、4.20μmであった。なお、ナタマイシン粒子のメジアン径は、メジアン径が約20μmのナタマイシンの原薬をジェットミルで粉砕し、レーザー回析式粒子径分布測定装置(マスターサイザー 3000 Hydroシリーズ、湿式試料分散ユニット、Malvern Instruments Ltd.)を用いて測定した値である。その後、表2に示すとおりに、ナタマイシン含有基剤、20(w/w)%SDS水溶液、水及びグリセリンを混合して、A~Fの組成物及び比較例1~3の組成物を調製した。調製した組成物は、試験に使用するまで4℃で保管した。なお、使用したナタマイシンは水分補正を行い、ナタマイシンとしての含有量としている。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
<苛酷試験>
処方A~F及び比較例1~3を、それぞれ約0.2gずつ小分けし、2mLサンプルチューブに入れたものを安定性試験サンプルとした。各安定性試験サンプルを60℃の恒温器に入れ試験を行った。60℃の苛酷試験では、安定性試験サンプルを苛酷環境下に置いてから3週間後にサンプルを回収した。回収したサンプルは、回収後速やかに4℃の恒温器に入れ、抽出操作まで保管した。尚、60℃で3週間の保管は、室温で3年間保管したときと同等の熱量に曝露されることを意味する。
【0030】
(抽出方法)
各サンプルを一定量計り取り、水で3倍希釈、さらにMeOHで10倍希釈したものを30分間超音波処理し、その後、3,000×gで5分間遠心分離し、上清回収して、測定用サンプルを調製した。
【0031】
(HPLCによる測定)
各測定用サンプルを以下の条件でHPLCで測定して、ナタマイシンのピーク面積を算出した。
注入量:50μL
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:303nm)
カラム:内径3.0mm、長さ15cmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:酢酸アンモニウム1.0gを水/メタノール/テトラヒドロフラン混液(47:44:2)1000mLに溶解。
流量:ナタマイシンの保持時間が約4分になるように調整。
【0032】
尚、ナタマイシンの残存率は、各サンプルの4℃保管サンプルを100%として算出した。苛酷試験の結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
上記の結果から、ナタマイシンの残存率は組成物中にSDSを含まない比較例1では83.9%であったのに対し、0.5mg/gのSDSを含有する処方Fでは95.5%であり、ナタマイシンの分解が抑制され、安定性が向上していた。他方、SDSを5mg/g含む比較例3及び10mg/g含む比較例2では比較例1に比べてナタマイシンの分解が進んでおり、安定性は低下していた。従って、0.5~4mg/gのSDSを含む組成物は室温で3年間保管したときにSDSを含まない組成物よりも安定であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、ナタマイシンの分解を抑制することが可能であり、長期の保存安定性に優れた抗真菌組成物を提供することができる。