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特開2024-89490地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法
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  • 特開-地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法 図1
  • 特開-地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089490
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/10 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
E01C23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204890
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】504424454
【氏名又は名称】アップコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】松藤 展和
(72)【発明者】
【氏名】川口 宏二
(72)【発明者】
【氏名】吉村 曜人
(72)【発明者】
【氏名】田村 直道
【テーマコード(参考)】
2D053
【Fターム(参考)】
2D053AA14
2D053AD01
2D053AD03
(57)【要約】
【課題】 膨張性樹脂を用いて地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を効果的に処置する方法を提供すること。
【解決手段】 管に破損や亀裂が生じたり、管と管の接合部分に隙間が生じたりしたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、損傷部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没した際、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることによる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法であって、管に破損や亀裂が生じたり、管と管の接合部分に隙間が生じたりしたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、損傷部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没した際、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることによる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没が多発している。その態様は様々であるが、代表的な態様として、管路の老朽化により、管に破損や亀裂が生じたり、管と管の接合部分に隙間が生じたりしたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、損傷部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没する態様がある。陥没した道路をそのままにしておくと、交通インフラに影響や支障をきたすことになる。従って、適切な処置が必要となるが、こうした処置を行う方法の1つとして、発生した空洞に発泡ウレタンなどの膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋める方法が知られている(特許文献1)。この方法は、例えば、下方に空洞が存在するアスファルトをドリルを用いて削孔することで設けた孔から膨張性樹脂を空洞に注入するだけでよいので、交通量が多いことから日数を要する大がかりな工事を行うことが困難な主要道路においても採用しやすい方法として評価されている。しかしながら、この方法によって地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する場合、管路に損傷部が存在することを念頭に置いた上で、膨張性樹脂を用いて空洞を埋めることをしなければ、効果的な処置を行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-144269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、膨張性樹脂を用いて地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を効果的に処置する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の点に鑑みてなされた本発明は、請求項1記載の通り、地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法であって、管に破損や亀裂が生じたり、管と管の接合部分に隙間が生じたりしたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、損傷部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没した際、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることによる方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、膨張性樹脂を用いて地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を効果的に処置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の方法によって処置することができる、地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没の一例を示す模式図である。
図2】本発明の方法において、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設した状態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を処置する方法は、管に破損や亀裂が生じたり、管と管の接合部分に隙間が生じたりしたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、損傷部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没した際、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることによる方法である。以下、本発明の方法を図面に基づいて説明するが、本発明の方法は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図1は、下水道管の上部に破損が生じたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、破損部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没した場所(破損部は上方の土砂が失われて露出している)を示す模式図である。
【0010】
本発明の方法において、発生した空洞への対処は、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることにより行うが、空洞に膨張性樹脂を充填する前に、管の破損部の周辺に、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設することを行うことが、本発明の方法における重要な工程である。その主たる理由として、下記の2つの利点が挙げられる。
【0011】
第1の利点は、管の破損部の周辺に、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設しないで、空洞に膨張性樹脂を充填した場合、空洞に充填した膨張性樹脂は液状であるので、破損部から管内に流れ落ちて入り込んでしまうことによりその少なくとも一部を損失することになるとともに、管内に流れ落ちて入り込んでしまった膨張性樹脂が管内で膨張して管の内壁に固着してしまい、管内における下水の流れの障害になるが、管の破損部の周辺に、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填することで、砕石の敷設層が、空洞に充填した膨張性樹脂が破損部から管内に流れ落ちて入り込んでしまうことの妨げとなり、このような事態を回避することができる。管の破損部の周辺に、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填しても、充填した膨張性樹脂が個々の砕石と砕石の間を伝って破損部から管内に流れ落ちて入り込んでしまう可能性はあるが、膨張性樹脂の膨張は数秒から数十秒の僅かの時間で始まるので、個々の砕石と砕石の間を伝っている時間内に膨張性樹脂は膨張することから、管内に流れ落ちて入り込んでしまう膨張性樹脂の量はあってもごく僅かである。
【0012】
第2の利点は、空洞に充填した膨張性樹脂が個々の砕石と砕石の間を伝っている時間内に膨張することにより、膨張した樹脂によって個々の砕石と砕石が固定され、砕石と砕石の間の隙間がなくなることで、砕石の敷設層が膨張した樹脂と相俟って、管の破損部を塞ぐ、いわば蓋として機能し、以後の空洞に充填した膨張性樹脂や周りの土砂の管内への入り込みを防ぐことができる。
【0013】
図2は、図1に示した、下水道管の上部に破損が生じたことにより、そこから周りの土砂が管路内に入り込んでしまった結果、破損部の上方に空洞が発生したことで道路が陥没した場所に対し、空洞に膨張性樹脂を充填する前に、管の破損部の周辺に、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設した状態を示す模式図である。管の破損部の周辺への砕石の敷設は、例えば、ドリルを用いてアスファルトを削孔することで砕石投入管(ホースや筒など)を備え付けるための孔を設け、設けた孔に備え付けた砕石投入管から砕石を投入することで行う。
【0014】
砕石投入管から投入する砕石の大きさは、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさであるが、その上限は粒度が40mm(4号規格まで)とすることが望ましい。管の破損部が、粒度が40mmを超える砕石が管内に入り込んでしまうほどである場合は、破損の程度が深刻であると言わざるを得ないので、本発明の方法を適用するのではなく、管を取り換えるといった処置を行うことが賢明である。砕石の大きさの下限は、例えば粒度が5mm(6号規格から)である。なお、砕石投入管から投入する砕石の大きさの選定は、管の破損の程度に応じて行わなければならないので、管の破損の程度を事前に確認しておく必要があるが、管の破損の程度の確認は、アスファルトの割れた隙間などから肉眼で確認することができる場合は肉眼で行えばよい。地上から肉眼で管の破損の程度を確認することができない場合は、アスファルトの割れた隙間や、ドリルを用いてアスファルトを削孔することで設けた孔などから、CCDカメラを空洞に差し込むなどして確認すればよい。
【0015】
砕石投入管から投入する砕石の量は、用いる砕石の大きさや管の破損の程度に依存するが、砕石の敷設層の厚みを20~80mmにする量が望ましい。砕石の敷設層の厚みが薄すぎると、砕石を敷設することの効果が十分に得られない恐れがある一方、砕石の敷設層の厚みが厚すぎると、敷設した砕石の容量の分だけ空洞の容量が減ることになり、空洞に充填する膨張性樹脂の量が減ることで、空洞で膨張性樹脂を膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることによる効果が減じられてしまう恐れや、砕石の敷設層の重みが増して管に悪影響を与える恐れがある。
【0016】
図2に示したように、管の破損部の周辺に、管の破損部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設した後、空洞に膨張性樹脂を充填する。空洞への膨張性樹脂の充填は、砕石投入管を備え付けるために設けた孔や、新たにドリルを用いてアスファルトを削孔することで設けた孔などから、膨張性樹脂を自体公知の注入ガンを用いて注入することで行えばよい。砕石の敷設層に到達した膨張性樹脂は、砕石の敷設層の全体に浸みわたって短時間のうちに膨張することにより、膨張した樹脂によって個々の砕石と砕石が固定され、砕石と砕石の間の隙間がなくなることで、砕石の敷設層が膨張した樹脂と相俟って、管の破損部を塞ぐ、いわば蓋として機能した後、空洞で膨張性樹脂が膨張し、膨張した樹脂が空洞を埋め、陥没しているアスファルトを所定の高さまで上昇させる(アスファルトの上昇の程度は例えばレーザー水平器を用いて確認することができる)。アスファルトが所定の高さまで上昇すれば、アスファルトの割れた個所、砕石投入管を備え付けるために設けた孔、CCDカメラを空洞に差し込むために設けた孔や空洞に膨張性樹脂を充填するために設けた孔(削孔した場合)を、自体公知のアスファルト補修材(モルタル、常温合材、アスファルト乳剤など)を用いて補修し、処置を完了すればよい。処置を開始してから2~3時間もすれば交通を再開させることができる。
【0017】
膨張性樹脂は、従来から地盤の改良のために用いることができることが知られている膨張性樹脂であってよい。中でも地球温暖化を引き起こすことなく環境に優しいノンフロン系膨張性樹脂が望ましい。ノンフロン系膨張性樹脂としては、フロンガスを発生することなく反応して発泡ウレタンとなる、ポリオールとイソシアネートからなる市販のものなどが挙げられる(具体的には日本パフテム株式会社のノンフロンポリオールFF5020-UCと同社のイソシアネートNP-90の組み合わせが例示される)。ノンフロン系膨張性樹脂は、ポリオールとイソシアネートからなるものの他、水とイソシアネートとの反応で炭酸ガス発泡するもの、液化炭酸ガスを利用して発泡させるもの、発泡特性を有する炭化水素系のものなどであってもよい。
【0018】
膨張性樹脂には、膨張性樹脂に加えることで膨張した樹脂の強度を向上させることができる第三成分、例えば、鉄鋼スラグ、鉄粉などの金属粉、土、砂、礫などの膨張した樹脂よりも強度が高い粒状や粉末状の固形物質(膨張性樹脂と反応性を有しないもの)を加えてもよい。膨張性樹脂にこうした第三成分を加えることには、膨張性樹脂の膨張時の反応熱によるスコーチ(焦げ)の発生を抑制することができるといった利点もある。こうした第三成分は、膨張性樹脂1に対して0.1~50.0の重量比で、膨張した樹脂が所望する強度(例えば130~1400kN/m)になるように膨張性樹脂に加えればよい。
【0019】
なお、図2に示した砕石の敷設層は、単一の大きさの砕石を用いて形成されているが、砕石の敷設は、異なる大きさの砕石を混合して用いて行ってもよい(いずれの砕石も管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさであることを条件として)。大きな砕石と大きな砕石の間の隙間に小さな砕石が入り込むようにすることで、空隙率が低い敷設層を形成すれば、空洞に膨張性樹脂を充填する前に、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設することよる、上述した第1の利点と第2の利点は、より高まったものになる。また、最初に大きな砕石を敷設し、次に大きな砕石を敷設した上に小さな砕石を敷設するといったように、異なる大きさの砕石を層状に敷設してもよい。
【0020】
また、図1図2に基づく以上の説明では、地中の下水道管の詳細について言及しなかったが、損傷を原因として道路の陥没を引き起こすことで、本発明の方法による処置の対象となる地中の下水道管路は、特段制限されるものではなく、地表から例えば500~3000mmの深さに埋設された、塩化ビニル管をはじめとする合成樹脂管やコンクリート管(ヒューム管)などから構成される、直径が例えば50~1000mmのものであってよい。
【0021】
損傷して道路の陥没を引き起こした下水道管路が合成樹脂管から構成される場合、空洞に膨張性樹脂を充填する前に、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設することには、上述した第1の利点と第2の利点に加え、第3の利点として、膨張性樹脂の膨張時の反応熱によって合成樹脂管がその耐熱温度を超える温度にまで上昇してしまうことを妨げる効果がある。例えば塩化ビニル管の場合、その耐熱温度は60℃であるが、管の損傷部の周辺に、管の損傷部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設しないで、空洞に発泡ウレタンを充填した場合、発泡ウレタンの反応熱が直に管に伝わり、管の温度が100℃以上にまで上昇してしまうことで管が変形や変色してしまうこと、管の損傷部の周辺に、管の損傷部から管内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に発泡ウレタンを充填することで、管の温度の上昇を40℃程度にまで抑えることができることを、本発明者らはモデル実験により確認している。
【0022】
また、図1図2に示した空洞上のアスファルトは、空洞に崩れ落ちていないので、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めることにより、アスファルトを所定の高さまで上昇させる処置を行いさえすればよいが、本発明の方法は、空洞上のアスファルトの全部または一部が、空洞に崩れ落ちている場合においても適用することができる(即ち本発明の方法を適用することができる道路の陥没は空洞上のアスファルトが空洞に崩れ落ちているかいないかを問わない)。この場合は、例えば、空洞に崩れ落ちているアスファルトを除去し、管路の損傷部の周辺に、管路の損傷部から管路内に入り込んでしまわない大きさの砕石を敷設してから、空洞に膨張性樹脂を充填して膨張させ、膨張した樹脂で空洞を埋めた後、所定のアスファルト舗装体(アスファルトと路盤で構成されるもの)を施工すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、膨張性樹脂を用いて地中の下水道管路の損傷を原因とする道路の陥没を効果的に処置する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2