(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089570
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】水中沈設構造物及び水中沈設構造物の製造方法並びにそれに使用する型枠
(51)【国際特許分類】
A01K 61/70 20170101AFI20240626BHJP
【FI】
A01K61/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204985
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】502392711
【氏名又は名称】株式会社グリーン有機資材
(74)【代理人】
【識別番号】100121371
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 和人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 晃
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 菜月
【テーマコード(参考)】
2B003
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB01
2B003CC03
2B003CC05
2B003DD00
2B003DD06
2B003EE04
(57)【要約】
【課題】磯焼けが生じた沿岸海域でも海藻や海草が着生を効果的に行い得る水中沈設構造物の提供。
【解決手段】水中沈設構造物は、錐台状の基体と、基体の傾斜側面全体に段差状に形成された段差部を備え、基体の上面の表層及び段差部は、生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維が、細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルをバインダとして凝結・硬化した綿状竹繊維含有部により構成され、基体の綿状竹繊維含有部以外の部分は、粗骨材がモルタルにより封入され凝結・硬化されてなる綿状竹繊維非含有部により構成される。基体の底面を水平と、段差部には、垂直に又は基体内側に向かい傾斜し立ち上がる面構造に形成された段崖部と、水平又は凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された段差が全周に亘って形成され、各テラス部には周方向に沿って凹条溝が形成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に沈設して表面に水生植物を着生させるための水中沈設構造物であって、
下面部、及び該下面部よりも小面積の上面部、並びに前記下面部から前記上面部にかけて形成され全体が前記下面部から前記上面部に向かって上向きに傾斜する傾斜側面を有する錐台状に形成された基体と、
前記基体の傾斜側面の全体に亘り段差状に形成された段差部と、を備え、
前記基体の上面の表層及び前記段差部は、生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維が、細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルをバインダとして凝結・硬化された綿状竹繊維含有部により構成され、
前記基体の前記綿状竹繊維含有部以外の部分は、粗骨材が前記モルタルにより封入され凝結・硬化されてなる綿状竹繊維非含有部により構成されており、
前記基体の底面を水平とするとき、前記段差部には、垂直に又は前記基体の内側に向かって傾斜して立ち上がる面構造に形成された段崖部と、水平又は凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された段差が全周に亘って形成されており、
前記各テラス部には、該テラス部の周方向に沿って凹条溝が形成されていること
を特徴とする水中沈設構造物。
【請求項2】
前記各凹条溝は、その断面形状が、溝底部から離れるに従って溝幅が漸増するV字溝状に形成されており、且つ、前記基体の底面を水平としたとき、内側の溝側面は、前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続する、垂直面又は前記基体の内側に向かって上方に傾斜する傾斜面であり、外側の溝側面は、垂直面又は前記基体の外側に向かって上方に傾斜する傾斜面であることを特徴とする請求項1記載の構造物成形枠体。
【請求項3】
前記各凹条溝は、その断面形状が、平坦な溝底部と、前記基体の底面を水平としたとき、垂直に又は前記基体の内側に向かって上方に傾斜して該溝底部の内側端から立ち上がった内側の溝側面と、垂直に又は前記基体の外側に向かって上方に傾斜して該溝底部の外側端から立ち上がった外側の溝側面と、を有するU字溝状に形成され、且つ、前記内側の溝側面は前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続していることを特徴とする請求項1記載の構造物成形枠体。
【請求項4】
前記基体の傾斜側面には、傾斜上部から傾斜下部にかけて、前記段差部の前記段崖部及び前記テラス部と交差する溝である排砂泥溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の水中沈設構造物。
【請求項5】
水底に沈設して表面に水生植物を着生させるための水中沈設構造物を製造する製造方法であって、
上底面に対し下底面が小面積の錐台状の内部空間を有する箱状であり上底面の側が全面開口する箱室が形成され、前記箱室の開口端を上とすると、前記箱室の内部側壁面の全周が前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜し、且つ、前記内部壁側面の全周に亘り、垂直に又は前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜して起立する面構造に形成された段崖部と、凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された構造の段差が形成され、前記各テラス部には該テラス部の周方向に沿って凹条溝が形成された構造物成形枠体を、前記箱室の開口端が上向きとなるように設置した後、
生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維を、少なくとも、前記構造物成形型枠体の前記箱室の前記内部側壁面に形成された凹凸の凹部及び前記箱室の内部底面を覆うように敷設する第一工程と、
前記構造物成形型枠体の前記箱室の上向き開口端から、粗骨材を投入して前記箱室内に詰め込む第二工程と、
前記粗骨材が投入された前記構造物成形型枠体の前記箱室の上向き開口端から、細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルを流入し、前記構造物成形型枠体の前記箱室の内部に前記モルタルを充填する第三工程と、
を備えた水中沈設構造物の製造方法。
【請求項6】
前記第一工程で用いる前記構造物成形枠体の前記箱室の内部側壁面の前記各テラス部に設けられた前記凹条溝の溝内には、前記箱室の内部側壁面の傾斜上部から傾斜下部にかけて前記各段崖部及び前記各テラス部を横断するように交差する直線に沿って、途切れ途切れの畝条として構成された凸条部が、間隔をおいて複数条設けられていることを特徴とする請求項5記載の水中沈設構造物の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の水中沈設構造物の製造方法に使用する構造物成形型枠であって、
上底面に対し下底面が小面積の錐台状の内部空間を有する箱状であり上底面の側が全面開口する箱室が形成され、
前記箱室の開口端を上とすると、前記箱室の内部側壁面の全周が前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜しており、
且つ、前記内部壁側面の全周に亘り、垂直に又は前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜して起立する面構造に形成された段崖部と、凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された構造の段差が形成され、
前記各テラス部には、該テラス部の周方向に沿って凹条溝が形成されたことを特徴とする構造物成形型枠。
【請求項8】
前記各凹条溝は、その断面形状が、溝底部から離れるに従って溝幅が漸増するV字溝状に形成されており、
且つ、前記箱室の内部底面を水平としたとき、前記凹条溝の外側の溝側面は、前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続する、垂直面又は前記箱室の外側に向かって上方に傾斜する傾斜面であり、前記凹条溝の内側の溝側面は、前記箱室の内側に向かって上方に傾斜する傾斜面であることを特徴とする請求項7記載の構造物成形型枠。
【請求項9】
前記各凹条溝は、その断面形状が、平坦な溝底部と、前記箱室の内部底面を水平としたとき、垂直に又は前記箱室の外側に向かって上方に傾斜して該溝底部の外側端から立ち上がった外側の溝側面と、垂直に又は前記箱室の内側に向かって上方に傾斜して該溝底部の内側端から立ち上がった内側の溝側面と、を有するU字溝状に形成され、
且つ、前記外側の溝側面は前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続していることを特徴とする請求項7記載の構造物成形型枠。
【請求項10】
前記箱室の内部側壁面の前記各テラス部に設けられた前記凹条溝の溝内には、前記箱室の内部側壁面の傾斜上部から傾斜下部にかけて前記各段崖部及び前記各テラス部を横断するように交差する直線に沿って、途切れ途切れの畝条として構成された凸条部が、間隔をおいて複数条設けられていることを特徴とする請求項7乃至9の何れか一記載の構造物成形型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に沈設してその表面に水中植物を着生させるための水中沈設構造物及び水中沈設構造物の製造方法並びにそれに使用する型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に沈設してその表面に水中植物を着生させたり魚貝類を蝟集させるための水中沈設構造物としては、特許文献1~7に記載のものが公知である。
【0003】
特許文献1記載の「魚礁」は、自然石、割石、コンクリート屑、煉瓦屑、鉱滓、貝殻など1種若しくは2種以上からなる魚礁材料をミキサーに入れ、セメント又はセメントと細砂に水を加えて混合したのち、型枠に装入固化せしめ定形集塊状の魚礁とするものである。(仝文献 明細書3頁左上段1行~左下段18行、
図3,
図4参照)
【0004】
特許文献2記載の「漁場施設用コンクリート成形体」は、網状のベース材と、このベース材の周縁に立設する網状の側枠とで上面を開口したコンクリート型枠を形成し、このコンクリート型枠の内部に骨材として貝殻を充填するとともに、この貝殻にペースト状の固化剤(セメント)を吹き付けて貝殻が表面側に表れるように成形したものである(仝文献
図1,
図2参照)。特許文献3にも、これに類似の「人工魚礁」が記載されている。
【0005】
特許文献4記載の「漁場施設用成形体」は、コンクリートによって中空状に形成した内筒体を成形するとともに、その内筒体を囲むようにして通水性を備えた円筒状の型枠を設け、この型枠と前記内筒体との間に貝殻を充填し、この貝殻にペースト状の固化剤(セメント)を吹き付けて内筒体の外周縁を覆う外筒体を、貝殻が表面側に表れるように成形したものである。(仝文献
図1,
図2参照)
【0006】
特許文献5には、魚礁に用いるコンクリートブロックとして、骨材として少なくとも貝殻または陶器、磁器、セラミック、コンクリート、アスファルトの破砕片の1つを含んだコンクリートを打設して形成したことを特徴とするコンクリートブロックが記載されている。
【0007】
特許文献6には、海水取水路の清掃やカキ養殖地で大量に廃棄された原料貝類を、洗浄処理やスカム等の分級処理を施してスカム残存の貝殻片とし、該貝殻片を人工魚礁の部材表面に、貝殻片間の隙間を大とすると共に貝殻片を表面に突出させるようにして、接着剤により被覆したことを特徴とする人工魚礁用魚類蝟集材が記載されている。
【0008】
特許文献7には、ブロック状の基盤に少なくとも1本の柱状部を立設した骨格構造体に、海藻種苗を担持基体に着生させた海藻種苗担持具を当該柱状部外周面の適宜位置に略環状に取着してなる藻場造成用構造物であって、海藻種苗担持具は、滑り止め手段を介して取着された藻場造成用構造物が記載されている。
【0009】
また、水中植物の着生が目的ではないが、貝殻を海底に投棄する構造物としては、特許文献8に記載のものが公知である。特許文献8記載の「貝殻投棄用容器」は、立体状に構成した外枠に通水性ネット(鋼製又はプラスチック製ネット)を張って形成した収納空間に廃棄物である貝殻等を充填してなる貝殻投棄用容器で、外枠の各面に入口及び出口を開口して各面に張った通水ネットに連続する通水ネットを内面に張った通水経路を、収納空間内に縦断又は横断して設け、外枠の底面に、ベースを固着した脚部を設け、更にベースに移動防止杭を設けたものである。(仝文献
図1,
図2参照)収納空間に、カキ殻等の廃棄物を収容して海洋投棄すると、収納空間に充填した廃棄物は、通水性ネットを通して海流が収納空間へ流れ込み、水中生物や好気性微生物分解等が促進される。また、通水経路を設けることで、外枠の構成いかんでは海流が流れ込みにくい収納空間の隅の部分へも海流を行き渡らせることができる。これにより、カキ殻等の廃棄物に付着するカキの肉片やフジ壺、海藻類等の付着生物の死骸が嫌気的に腐敗して硫化水素を発生させ、海水を汚染することが防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭56-099736号公報
【特許文献2】特開2003-061504号公報
【特許文献3】特開平11-225612号公報
【特許文献4】特開2003-092951号公報
【特許文献5】特開平11-46619号公報
【特許文献6】特開平9-215459号公報
【特許文献7】特開2000-139267号公報
【特許文献8】実用新案登録第3031263号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、日本各地の沿岸海域において、海藻が著しく減少・消失し、海藻が繁茂しなくなる磯焼けの問題が深刻化している。このように磯焼けが生じた沿岸海域においては、上記背景技術に挙げたような蛎殻等の貝殻を容器に入れ又はセメントで固化・固定したような構造物を海底に設置しただけでは、海藻や海草が着生する可能性は低く、従って、海藻や海草の群落をエサ場や住処とする海洋生物の蝟集効果は少ないと考えられる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、磯焼けが生じた沿岸海域において、海藻や海草が着生を効果的に行い得る水中沈設構造物及び水中沈設構造物の製造方法並びにそれに使用する型枠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る水中沈設構造物の第1の構成は、水底に沈設して表面に水生植物を着生させるための水中沈設構造物であって、
下面部、及び該下面部よりも小面積の上面部、並びに前記下面部から前記上面部にかけて形成され全体が前記下面部から前記上面部に向かって上向きに傾斜する傾斜側面を有する錐台状に形成された基体と、
前記基体の傾斜側面の全体に亘り段差状に形成された段差部と、を備え、
前記基体の上面の表層及び前記段差部は、生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維が、細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルをバインダとして凝結・硬化された綿状竹繊維含有部により構成され、
前記基体の前記綿状竹繊維含有部以外の部分は、粗骨材が前記モルタルにより封入され凝結・硬化されてなる綿状竹繊維非含有部により構成されており、
前記基体の底面を水平とするとき、前記段差部には、垂直に又は前記基体の内側に向かって傾斜して立ち上がる面構造に形成された段崖部と、水平又は凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された段差が全周に亘って形成されており、
前記各テラス部には、該テラス部の周方向に沿って凹条溝が形成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、水中沈設構造物を海洋や河川や湖沼の水底に設置後、基体の上面の表層及び段差部の綿状竹繊維含有部に含有される綿状竹繊維に、水中の窒素固定菌が誘導されて繁殖し、時間と共にチッソ肥料成分が蓄積される。これにより、水生植物の必須肥料成分の窒素化合物が基体の上面の表層及び段差部の表面に蓄積されるため、水中植物の着生が促進される。従って、例えば、磯焼けが生じた沿岸海域においても、基体の上面の表層及び段差部の表面で水中植物の着生が促進されて、海藻や海草が着生を効果的に行い得る水底緑化資材又は魚礁として機能する。また、水中沈設構造物は、基体の段差部(傾斜側面部)及び上面部の表層部にのみ含有され、基体の表層より深部には綿状竹繊維は含有されない(粗骨材がモルタルにより封入され凝結・硬化されてなる)コンクリート構造体なので、綿状竹繊維含有部以外の部分は内部に有機物を含まず構造体全体として長期に亘り強度が高く維持される。
【0015】
また、段差部のテラス部に形成された凹条溝により、水中沈設構造物の段差部の表面積が大きくなり、その結果、段差部に含まれる綿状竹繊維と外部の水との接触面積(曝水表面積)が大きくなるため、水中に存在する窒素固定菌が綿状竹繊維に着生し易くなるとともに、綿状竹繊維に着生した窒素固定菌は水中に存在する窒素を取り込み易くなる。従って、チッソ肥料成分の蓄積が効率的に行われる。また、突条部により水中沈設構造物の側面に凹凸が形成されるため、水中植物の種子や胞子が水中沈設構造物の側面に定着し易くなり、これにより水中植物の着生がより促進される。
【0016】
ここで、「錐台状」とは、数学的に厳密な錐台(錐体から、頂点を共有し相似に縮小した錐体を取り除いた立体図形)の形状を意味するものではなく、下面部、上面部、傾斜側面を有して錐台に近似する(側面に凹凸があることを許容する)形状を意味する。「錐台状」には、円錐台状、楕円錐体状、及び多角錐台状(三角錐台状、四角錐台状等)などの下底面及び上底面が様々な形状の錐体が含まれる。「生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維」とは、生竹を細胞壁が裂開するまで二軸スクリュー圧潰機により圧潰し、二軸スクリュー圧潰機の出口でカッター刃により千切ることによって製造される綿状の竹繊維をいう。「細骨材」とは、砂,真砂土,砂状クリンカー,フライアッシュのような、モルタルに於いてセメントに添加される補充材料をいう。「セメント」としては、ポルトランドセメント,高炉セメント,マグネシアセメント等を用いることが出来る。また、耐水性や強度などの物理的特性を改善するために、セメントには添加剤が加えられていても良い。特に、添加剤としてリン酸化合物を使用すると、水生植物の必須肥料成分のリンも同時に供給することができるため、海藻や海草が着生をより効果的に行い得る。「粗骨材」とは、粒径の大きい骨材をいい、砂利,石塊,粗粒クリンカーなどの通常のコンクリートで用いられる粗骨材の他、貝殻,蛎殻,ウニ殻,魚骨,動物骨などの水産業又は畜産業に於けるカルシウム骨格を有する粗粒廃棄物も含まれる。「凹条溝」とは、凹み状のすじ(細長く一続きになっている凹み)となった溝をいう。「段差が全周に亘って形成されており」とは、段差が全周に亘って環状に形成されている場合(実施例1~6参照)に加え、段差が全周に亘って螺線状に形成されている場合(実施例7参照)も含む。
【0017】
本発明に係る水中沈設構造物の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記各凹条溝は、その断面形状が、溝底部から離れるに従って溝幅が漸増するV字溝状に形成されており、且つ、前記基体の底面を水平としたとき、内側の溝側面は、前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続する、垂直面又は前記基体の内側に向かって上方に傾斜する傾斜面であり、外側の溝側面は、垂直面又は前記基体の外側に向かって上方に傾斜する傾斜面であることを特徴とする。
【0018】
このように、凹条溝をV字溝状に形成すれば、水中沈設構造物の製造時に綿状竹繊維を段差部に保持してモルタルで固めることが容易となる。また、水中沈設構造物の段差部は鋸歯状の段差となり、水中沈設構造物を水低に設置した際に、周囲の水に流れがあれば、その流れは、段差部の表面で渦流となって凹条溝の溝底部近辺まで容易に入り込む。従って、凹条溝内の水の入れ替わりが良好となり、綿状竹繊維に着生した窒素固定菌は水中に存在する窒素をより取り込み易くなる。
【0019】
ここで、「段差を生じることなく滑らかに連続して接続する」とは、境界部で段差を生じることなく連続する平面又は曲面若しくは折面としてつながっていることをいう。
【0020】
なお、前記第2の構成に於いては、当然ながら、内側の溝側面及び外側の溝側面がともに垂直面となる場合は除かれる。溝の両溝側面がともに垂直とすると溝幅が0となるので「V字溝状」とはならないからである。
【0021】
本発明に係る水中沈設構造物の第3の構成は、前記第1の構成に於いて、前記各凹条溝は、その断面形状が、平坦な溝底部と、前記基体の底面を水平としたとき、垂直に又は前記基体の内側に向かって上方に傾斜して該溝底部の内側端から立ち上がった内側の溝側面と、垂直に又は前記基体の外側に向かって上方に傾斜して該溝底部の外側端から立ち上がった外側の溝側面と、を有するU字溝状に形成され、且つ、前記内側の溝側面は前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続していることを特徴とする。
【0022】
このように、凹条溝を、外側の溝側面が基体の外側に向かって上方に傾斜して平坦な溝底部の外側端から立ち上がったU字溝状に形成すれば、水中沈設構造物を水低に設置した際に、周囲の水に流れがあれば、その流れは、段差部の表面で渦流となって凹条溝の溝底部近辺まで容易に入り込む。従って、凹条溝内の水の入れ替わりが良好となり、綿状竹繊維に着生した窒素固定菌は水中に存在する窒素をより取り込み易くなる。
【0023】
本発明に係る水中沈設構造物の第4の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記基体の傾斜側面には、傾斜上部から傾斜下部にかけて、前記段差部の前記段崖部及び前記テラス部と交差する溝である排砂泥溝が形成されていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、排砂泥溝を設けたことにより、水中沈設構造物を水底に設置後、水流にのってテラス部の凹条溝の侵入する砂泥が排砂泥溝から排出されるため、凹条溝が砂泥により埋没しにくくなるため、砂泥の被覆による段差部の表面が水中に露出する面積(曝水表面積)の減少が抑制される。従って、長期に亘る窒素固定菌による高い窒素固定機能の持続が維持される。
【0025】
本発明に係る水中沈設構造物の製造方法の第1の構成は、水底に沈設して表面に水生植物を着生させるための水中沈設構造物を製造する製造方法であって、
上底面に対し下底面が小面積の錐台状の内部空間を有する箱状であり上底面の側が全面開口する箱室が形成され、前記箱室の開口端を上とすると、前記箱室の内部側壁面の全周が前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜し、且つ、前記内部壁側面の全周に亘り、垂直に又は前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜して起立する面構造に形成された段崖部と、凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された構造の段差が形成され、前記各テラス部には該テラス部の周方向に沿って凹条溝が形成された構造物成形枠体を、前記箱室の開口端が上向きとなるように設置した後、
生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維を、少なくとも、前記構造物成形型枠体の前記箱室の前記内部側壁面に形成された凹凸の凹部及び前記箱室の内部底面を覆うように敷設する第一工程と、
前記構造物成形型枠体の前記箱室の上向き開口端から、粗骨材を投入して前記箱室内に詰め込む第二工程と、
前記粗骨材が投入された前記構造物成形型枠体の前記箱室の上向き開口端から、細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルを流入し、前記構造物成形型枠体の前記箱室の内部に前記モルタルを充填する第三工程と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、第一工程で、綿状竹繊維を、構造物成形型枠体の内部側壁面に敷設すると、構造物成形型枠体の内部側壁の段差テラス面及び内部底面に綿状竹繊維が堆積した状態となる。この状態で、第二工程で構造物成形型枠体の上部の開口から、粗骨材を投入して詰め込み、その後、第三工程で細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルを注入し充填する。モルタルが凝結・硬化した後に、構造物成形型枠体を取り外せば水中沈設構造物が製造される。構造物成形型枠体内に綿状竹繊維を敷設した後、粗骨材又は封入物を投入してモルタルを注入し充填し、凝結させるだけなので、専用の土木機械を必要とせず、専門的な土木技術を有さない水産業従事者でも容易に実施することができる。また、粗骨材として貝殻,蛎殻,ウニ殻,魚骨などの水産廃棄物を用いれば、これらの水産廃棄物を悪臭等を周囲に拡散させることなく容易に処分することが可能となり、またこれら水産廃棄物はモルタルで封入され水底に沈められるため環境に負荷をかけることもない。
【0027】
また、製造される水中沈設構造物は、側面部及び上面部(構造物成形型枠体の内部底面に当接する部分の面)の表層部にのみ綿状竹繊維が含有され、構造物の表層より深部には綿状竹繊維は含有されないので、全体として高い強度となる。また、側面部及び上面部に綿状竹繊維が含まれるので、この綿状竹繊維により、水底に設置後、水中の窒素固定菌が誘導されて、時間と共にチッソ肥料成分が蓄積されて、これにより水中植物の着生が促進され、水底緑化資材又は魚礁として機能する。
【0028】
また、構造物成形型枠体の内部側壁の段差のテラス部に形成された凹条溝により、製造される水中沈設構造物の側面には段差形状が形成されると共に、段差のテラス部には全周に亘る凹条溝が形成される。この段差部には、綿状竹繊維が多く含有される。この凹条溝を備えた段差構造により、水中沈設構造物の側面の表面積が大きくなるため、チッソ肥料成分の蓄積が効率的に行われる。また、水中沈設構造物の側面に凹凸が形成されるため、水中植物の種子や胞子が水中沈設構造物の側面に定着し易くなり、これにより水中植物の着生がより促進される。
【0029】
ここで、「敷設」とは、綿状竹繊維を敷き設けることをいい、具体的には、振り掛けや吹き付けなどによって綿状竹繊維を構造物成形型枠体の内壁側のテラス部や内部底面の上に敷き詰めるように設けることをいう。尚、「振り掛け」とは、転圧することなく振って散らしかけることをいう。「吹き付け」とは、圧力(吹付圧)を加えて吹いて付着させることをいう。
【0030】
本発明に係る水中沈設構造物の製造方法の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記第一工程で用いる前記構造物成形枠体の前記箱室の内部側壁面の前記各テラス部に設けられた前記凹条溝の溝内には、前記箱室の内部側壁面の傾斜上部から傾斜下部にかけて前記各段崖部及び前記各テラス部を横断するように交差する直線に沿って、途切れ途切れの畝条として構成された凸条部が、間隔をおいて複数条設けられていることを特徴とする。
【0031】
これにより、製造される水中沈設構造物の傾斜側面には、傾斜上部から傾斜下部にかけて、前記段差部の前記段崖部及び前記テラス部と交差する溝である排砂泥溝が形成される。
【0032】
本発明に係る構造物成形型枠の第1の構成は、前記第1の構成の水中沈設構造物の製造方法に使用する構造物成形型枠であって、
上底面に対し下底面が小面積の錐台状の内部空間を有する箱状であり上底面の側が全面開口する箱室が形成され、
前記箱室の開口端を上とすると、前記箱室の内部側壁面の全周が前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜しており、
且つ、前記内部壁側面の全周に亘り、垂直に又は前記箱室の中心から外側に向かって上向きに傾斜して起立する面構造に形成された段崖部と、凹陥状の面構造に形成されたテラス部とが交互に繰り返された構造の段差が形成され、
前記各テラス部には、該テラス部の周方向に沿って凹条溝が形成されたことを特徴とする。
【0033】
本発明に係る構造物成形型枠の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記各凹条溝は、その断面形状が、溝底部から離れるに従って溝幅が漸増するV字溝状に形成されており、
且つ、前記箱室の内部底面を水平としたとき、前記凹条溝の外側の溝側面は、前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続する、垂直面又は前記箱室の外側に向かって上方に傾斜する傾斜面であり、前記凹条溝の内側の溝側面は、前記箱室の内側に向かって上方に傾斜する傾斜面であることを特徴とする。
【0034】
本発明に係る構造物成形型枠の第3の構成は、前記第1の構成に於いて、前記各凹条溝は、その断面形状が、平坦な溝底部と、前記箱室の内部底面を水平としたとき、垂直に又は前記箱室の外側に向かって上方に傾斜して該溝底部の外側端から立ち上がった外側の溝側面と、垂直に又は前記箱室の内側に向かって上方に傾斜して該溝底部の内側端から立ち上がった内側の溝側面と、を有するU字溝状に形成され、
且つ、前記外側の溝側面は前記段崖部と段差を生じることなく滑らかに連続して接続していることを特徴とする。
【0035】
本発明に係る構造物成形型枠の第4の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記箱室の内部側壁面の前記各テラス部に設けられた前記凹条溝の溝内には、前記箱室の内部側壁面の傾斜上部から傾斜下部にかけて前記各段崖部及び前記各テラス部を横断するように交差する直線に沿って、途切れ途切れの畝条として構成された凸条部が、間隔をおいて複数条設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明によれば、基体の上面の表層及び段差部の綿状竹繊維含有部に含有される綿状竹繊維により、水底に設置後、水中の窒素固定菌が誘導されて、時間と共にチッソ肥料成分が蓄積されるので、磯焼けが生じた沿岸海域においても、水中植物の着生が促進され、海藻や海草が着生を効果的に行い得る水底緑化資材又は魚礁となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施例1の水中沈設構造物の製造方法で用いる構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図2】
図1の構造物成形型枠の(a)平面図、(b)A-A線矢視断面図、(c)B-B線矢視断面図である。
【
図3】実施例1に係る水中沈設構造物を製造方法の工程を表す図である。
【
図4】(a)綿状竹繊維の原料、(b)綿状竹繊維の製造の様子、(c)綿状竹繊維の外観写真である。
【
図6】実施例1の水中沈設構造物の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図である。
【
図7】実施例1の水中沈設構造物の供試体の表面の外観写真である。
【
図8】内部側壁面5の段崖部5aの段数を12段とした場合の(a)構造物成形型枠の外観斜視図及び(b)水中沈設構造物の外観斜視図である。
【
図9】実施例2の水中沈設構造物を製造するために使用する構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図10】
図9の構造物成形型枠の(a)平面図、(b)断面図、(c),(d)部分拡大断面図である。
【
図11】実施例2の水中沈設構造物の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図である。
【
図12】実施例3の水中沈設構造物を製造するために使用する構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図13】
図12の構造物成形型枠の(a)平面図、(b)A-A線矢視断面図、(c)B-B線矢視断面図、(d)部分拡大断面図である。
【
図14】
図12,
図13の構造物成形型枠を用いて製造される、実施例3の水中沈設構造物の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図である。
【
図15】実施例4の水中沈設構造物を製造するために使用する構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図16】
図15の構造物成形型枠の(a)平面図、(b)A-A線矢視断面図、(c)B-B線矢視断面図、(d)部分拡大断面図である。
【
図17】
図15,
図16の構造物成形型枠を用いて製造される、実施例4の水中沈設構造物の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図である。
【
図18】実施例5の水中沈設構造物を製造するために使用する構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図19】
図18の構造物成形型枠の(a)平面図、(b)A-A線矢視断面図、(c)B-B線矢視断面図、(d)C-C線矢視断面図である。
【
図20】
図18,
図19の構造物成形型枠を用いて製造される、実施例5の水中沈設構造物の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図である。
【
図21】実施例6の水中沈設構造物を製造するために使用する構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図22】
図21の構造物成形型枠1の(a)平面図、(b)A-A線(B-B線)矢視断面図、(c)部分拡大断面図である。
【
図23】
図21,
図22の構造物成形型枠1を用いて製造される、実施例6の水中沈設構造物10の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図、(c)部分拡大断面図である。
【
図24】実施例7の水中沈設構造物10を製造するために使用する構造物成形型枠1の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
【
図25】
図24の構造物成形型枠1の(a)平面図、(b)A-A線矢視断面図、(c)部分拡大断面図である。
【
図26】実施例7の水中沈設構造物10の(a)外観斜視図及び(b)断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例0039】
図1は、本発明の実施例1の水中沈設構造物の製造方法で用いる構造物成形型枠の(a)左前斜め上方から視た斜視図及び(b)右前斜め下方から視た斜視図である。
図2は、
図1の構造物成形型枠の(a)平面図、(b)A-A線矢視断面図、(c)B-B線矢視断面図である。
【0040】
構造物成形型枠1は、金属又は樹脂により構成される。
図1の構造物成形型枠1は、全体が平面視で四角形状に形成され、中央にある型枠本体2の4つの上側辺には、転倒防止のため、下方に向かって四角枠状の脚部3が形成されている。尚、
図1,
図2では、構造物成形型枠1は、平面視でほぼ正方形状に形成された例を示しているが、構造物成形型枠1の縦横の長さは任意に設定できる。また、平面視で四角形に限らず、多角形とすることもできる。
【0041】
型枠本体2は、一端が全面開口する漏斗状の箱室2aを有する箱状に形成されている。箱室2aの開口端を上とすると、型枠本体2の外側壁面は、上部面が四角柱面状、下部面が逆四角錐台面状に形成されている(
図1(b)参照)。また、型枠本体2の外側壁面の上部面と、脚部3の外面とは面一となるように接続されている。型枠本体2の箱室2aの内側壁面は、最下部(最奥部)にある中央の四角形平面状の内部底面4と、内部底面4の4つの辺から、それぞれ、内側から外側に向かって上方に傾斜する段差構造に形成された内部側壁面5とから構成されている。この段差構造は、垂直又は外向き上方に傾斜する段崖部5aと、全周に亘って凹条溝5cが形成されたテラス部5bとが交互に繰り返された構造とされている(
図2(c)の部分拡大図を参照)。最下段以外の段崖部5aは、内部底面4を水平として型枠本体2を置いたときに、垂直となるように形成されている。最下段の段崖部5aは、内部底面4を水平として型枠本体2を置いたときに、外側に向かって上向きに傾斜するように形成されている(
図2(b)(c)参照)。
【0042】
ここで、段差構造に於ける「段崖部」とは、段丘構造に於ける段丘崖の部分に相当する部分をいい、「テラス部」とは、段丘構造に於ける段丘面の部分に相当する部分(段崖部以外の部分)をいう。より正確に言えば、「段崖部」とは、段差構造が形成された斜面をその斜面の法線を含む垂直面で切断した断面を考えたとき、斜面最下部点から斜面最上部点へ向かう傾斜面に沿った有向線分を「傾斜断面線」とし、斜面最下部点から斜面最上部点を結ぶ直線を「平均傾斜線」すると、傾斜断面線上の各点Pのうち、その点Pに於ける傾斜向き(接線方向ベクトル)が、平均傾斜線の傾斜向き(斜面最下部点から斜面最上部点への方向ベクトル)と同じ向き(点Pに於ける傾斜向きの水平面(水平線)に対する傾斜角の正負が、平均傾斜線の傾斜向きの水平面(水平線)に対する傾斜角の正負と同じ)であって、傾斜断面線の点Pよりも斜面下部側の区間に点Pよりも高い区間又は点Pと同じ高さの区間が存在しないような、点Pの集合からなる区間部分に該当する斜面部分をいう。
【0043】
各テラス部5bに形成された凹条溝5cは、その断面が、平坦な溝底部5c-1の両側から外側部5c-2及び内側部5c-3が垂直又は外開きに立ち上がった形状に形成されている(
図2(c)の部分拡大図参照)。外側部5c-2の溝側面は、内部底面4を水平として型枠本体2を置いたときに、垂直となるように形成されており、段崖部5aと、段差を生じることなく滑らかに連続して接続されている。また、内側部5c-3の溝側面は、内部底面4を水平として型枠本体2を置いたときに、溝底部5c-1から垂直に立ち上がって内向き上方に向かって彎曲するように形成されている。
【0044】
尚、
図1,
図2に示した例では、外側部5c-2の溝側面は、内部底面4に対し垂直としたが、他の例としては、内部底面4を水平として型枠本体2を置いたときに、外側部5c-2の溝側面は、外向き上方に向かって傾斜するように構成することもできる。
【0045】
また、
図1,
図2では、図示の便宜上、内部側壁面5の段差の段数は6段としているが、段数は、製造する水中沈設構造物のサイズに応じて適宜変更することが出来る。
【0046】
次に、上述の構造物成形型枠1を用いて水中沈設構造物を製造する方法について説明する。
図3は、実施例1に係る水中沈設構造物を製造方法の工程を表す図である。
図3の(S1)~(S5)は各工程の図を表す。
【0047】
まず、工程(S1)に於いて、
図1,
図2に示した構造物成形型枠1を水平な地面に、箱室箱室2aの開口端が上向きとなるように設置する。
【0048】
次に、工程(S2)に於いて、生竹を綿状に圧潰した綿状竹繊維6を、少なくとも、構造物成形型枠体1の箱室2aの内部側壁面5に形成された凹条溝5c及び箱室2aの内部底面4を覆うように敷設する。綿状竹繊維6は、吹き付けにより敷設してもよいが、吹き付けの場合には、専用の吹き付け機が必要なので、綿状竹繊維6の散布(振り掛け)により敷設する。「散布(振り掛け)」とは、上から振り散らしてかけることをいう。
【0049】
ここで、「綿状竹繊維」とは、生竹を細胞壁が裂開するまで二軸スクリュー圧潰機により圧潰し、二軸スクリュー圧潰機の出口でカッター刃により千切ることによって製造される綿状の竹繊維をいう。生竹には、竹林の間伐材などを利用することができる。
図4に、(a)綿状竹繊維の原料、(b)綿状竹繊維の製造の様子、(c)綿状竹繊維の外観写真を示す。また、
図5に、本発明で使用する綿状竹繊維の電子顕微鏡写真を示す。
図5に示すように、綿状竹繊維は、竹の繊維の1本1本がバラバラに解され、竹繊維の細胞壁まで裂開した状態となっている。この綿状竹繊維を自然界に散布すると、竹繊維の細胞壁内に窒素固定菌が繁殖し、空中や水中の窒素が綿状竹繊維内部に固定される(特開2010-070963号公報参照)。
図4(c)に示すように、綿状竹繊維は、綿のように竹の繊維が絡み合った状態であり、内部に多くの隙間を含み、安息角が大きい。そのため、構造物成形型枠1の箱室2a内に、上方の開口端から綿状竹繊維を振りかけると、綿状竹繊維は、箱室2aの内部側壁面5のテラス部5bの凹条溝5cを埋めるように堆積するとともに、箱室2aの内部底面4に堆積する。このようにして、箱室2aの底面及び側面に綿状竹繊維が敷設される。
【0050】
次に、工程(S3)に於いて、構造物成形型枠1の箱室2aの上向き開口端から、粗骨材を投入して箱室2a内に詰め込む。「粗骨材」とは、粒径の大きい骨材をいい、砂利,石塊,粗粒クリンカーなどの通常のコンクリートに用いられる粗骨材の他、貝殻,蛎殻,ウニ殻,魚骨,動物骨などの水産業又は畜産業に於けるカルシウム質骨格を有する粗粒廃棄物も含まれる。また、粗骨材に加えて、例えば、漁網,ワイヤ,粉砕した繊維強化プラスチックなどの漁業廃棄物などの封入物を投入してもよい。ここで、「封入物」とは、水中沈設構造物の内部に封入する物をいう。
【0051】
次に、工程(S4)に於いて、粗骨材が投入された構造物成形型枠体1の箱室2aの上向き開口端から、細骨材及びセメントの混合物に水又は海水を添加し混練したモルタルを、箱室2aの内部に注入し充填する。細骨材には、砂,フライアッシュ等の通常のセメントモルタルで用いられている細骨材が使用される。また、セメントには、通常のポルトランドセメントの他、マグネシアセメントを使用することもできる。マグネシアセメントを使用する場合、セメントの耐水性を向上するとともに、水生植物の必須栄養素であるリンや鉄の供給源とするため、少量のリン酸塩や硫酸第一鉄を混和剤として用いることも出来る。箱室2aの内部に注入されたモルタルは、粗骨材7の隙間を埋めるとともに、綿状竹繊維6の繊維間の空間にも侵入して埋める。これにより、凹条溝5c及び内部底面4に堆積した綿状竹繊維6はモルタルに埋没し、綿状竹繊維6はフィラーのようにも機能する。
【0052】
次に、工程(S5)に於いて、箱室2a内に充填したモルタルが、十分に凝結し硬化する程度の時間だけ養生した後、構造物成形型枠1の箱室2aから、その内容物である水中沈設構造物10を取り出す。この水中沈設構造物10は、箱室2aの上部開口端の側が下面、箱室2aの内部底面4の側が上面とされる。
【0053】
図6に、製造される水中沈設構造物10の(a)外観斜視図及び(b)断面斜視図を示す。
図6(b)の断面は、水中沈設構造物10の中心軸を通り、水中沈設構造物10の底面の前側辺及び後側辺に平行な垂直面で切断した断面である。製造される水中沈設構造物10は、四角錐状台の基体10a(
図3の(S5),
図6(b)参照)の傾斜側面に、複数段の段差構造の段差部10bが環状に形成された構成を有する。基体10aの上面部10c及び下面部10gは、平面視で四角形状の平坦面である。基体10aの4方の傾斜側面に環状に形成された段差部10bの各段は、
図6(b)の部分拡大図に示すように、垂直に立ち上がった段崖部10dと、水平なテラス部10eとからなり、テラス部10eの内側には、断面がV字状の凹条溝10fが形成されている。凹条溝10fは、折曲線である溝底部10f-1から、基体10aの外側及び内側に向かって、それぞれ外側部10f-2(外側の溝側面),内側部10f-3(内側の溝側面)が起立したV字溝状に形成されている。内側の内側部10f-3は、基体10aの下面部10gを水平として基体10aを置いたときに、垂直に立ち上がる垂直面であり、段崖部10dと面一とされている。外側の外側部10f-2は、断面形状が基体10aの外側に向かって彎曲した円弧状となるように形成されているている。凹条溝10fの外側部10f-2の上縁はテラス部10eの外縁よりも内側に位置しており、凹条溝10fの上縁とテラス部5bの外縁との間に、水平なテラス平坦部10e-1が形成されている。
【0054】
水中沈設構造物10の基体10aの上面部10c以外の部分(
図6(b)に於いて領域Bとして示された部分)は、粗骨材7の隙間にモルタル8が充填された構成となっている。また、基体10aの上面部10c及び段差部10b(
図6(b)に於いて領域A(左下向き点線ハッチ(点線毳)が附された領域)として示された部分)は、綿状竹繊維6の隙間にモルタル8が充填された構成となっており、その表面には、綿状竹繊維6が露出している。以下、領域Aを「綿状竹繊維含有部」と呼び、領域Bを「綿状竹繊維非含有部」と呼ぶ。従って、水中沈設構造物10を、海洋や湖沼の水底に設置した場合、基体10aの上面部10c及び段差部10bの表面に露出する綿状竹繊維6により、水中の窒素固定菌が誘導されて、窒素固定が行われる。これにより、基体10aの上面部10c及び段差部10bの表面に於いて、水生植物が生育し易くなる。
【0055】
また、水中沈設構造物10の側面を、凹条溝10fを有する段差構造としたことで、水中沈設構造物10の水中に露出する表面積が大きくなるため、水中の窒素固定菌の誘導がより促進されることになる。また、凹条溝10fには、ゴカイなどの多毛類や、カニ,ウニ,サザエなどの水底生息生物が蝟集されやすく、魚礁としての機能も高められる。また、水生植物の種子や胞子が凹条溝10f内にトラップされやすくなるため、水生植物が着生し易くなる。
【0056】
また、水中沈設構造物10を、海洋や湖沼の水底に数年の期間設置すると、綿状竹繊維6が含まれる部分が徐々に剥がれ落ち又は削れ落ちて、綿状竹繊維含有部Aは徐々に減少する。しかし、剥がれ落ち又は削れ落ちた竹繊維は天然素材なので、マイクロプラスチックなどとは違い、水中に拡散したとしても無害である。また、一般にセメントの内部に有機物が多いとセメントの強度が低下するが、水中沈設構造物10に於いて綿状竹繊維6を含む部分は、基体10aの上面部10c及び段差部10b(
図6(b)に於いて領域Aとして示された部分(綿状竹繊維含有部))に限られているので、基体10aの上面部10c以外の部分(
図6(b)に於いて領域Bとして示された部分(綿状竹繊維非含有部))の強度は長期間に亘り維持される。従って、基体10aが破壊されて、水中沈設構造物10が流亡したり、基体10aの内部に封入された粗骨材7や封入物が水中や水底に散逸されることが防止される。
【0057】
図7は、実施例1の水中沈設構造物の供試体の表面の外観写真である。
図7の供試体は、セメントモルタルを注入して硬化させた後の綿状竹繊維の表面への露出の様子を調べるための試験用の供試体であり、試験用型枠としては、
図1,
図2に示したものではなく、内部空間が円錐台形状の小形のプラスチック型枠を用いている。試験用型枠のサイズは高さ120mm,上端部(開口端部)内径90mmφ,下端部内径50mmφである。供試体の作成は次の手順で行った。
【0058】
(1)まず、試験用型枠の内底部に、12mm程度の厚みで綿状竹繊維を敷き詰める。
(2)次に、試験用型枠の上部の開口端から、粗骨材としての蛎殻を試験用型枠の上端までいっぱいになるまで投入する。
(3)次に、粗骨材が投入された試験用型枠の上部の開口端から、細骨材及びセメントの混合物に水などを添加し混練したモルタルを流入し、試験用型枠の内部をモルタルで充填して供試体を作成する。ここで、試験に用いたモルタルの水以外の成分は次の通りとした。
砂(細骨材) 80wt%
酸化マグネシウム(MgO) 15wt%
無水塩化マグネシウム(MgCl2) 3wt%
塩化ナトリウム(NaCl) 2wt%
上記各成分の混合物1重量部に対し、水を、外掛けで0.2重量部加えて混練し、モルタルを作成する。尚、酸化マグネシウム(MgO)に塩化マグネシウム(MgCl2)を混合したセメントバインダは、オキシ塩化マグネシウムセメント(MOC:magnesium oxychloride cement)として知られているものである。
(4)最後に、この供試体を室温・空気中で24時間養生して凝結・硬化させた後、供試体を試験用型枠から取り出し、上下反転させた状態で、屋外に1週間放置して更に硬化させる。そして、最後に水で洗浄して供試体が完成する。
【0059】
図7(a)は、供試体の綿状竹繊維含有部の側(即ち、試験用型枠の内底部に当たる側)を上にして撮影した外観写真であり、
図7(b)は、供試体の綿状竹繊維非含有部の側(即ち、試験用型枠の開口部に当たる側)を上にして撮影した外観写真である。
図7(c),(d),(e)は、綿状竹繊維含有部の表面の拡大写真である。
図7(a)(c),(d),(e)より、供試体の綿状竹繊維含有部の表面には、綿状竹繊維が髭状に露出し、また、綿状竹繊維の内部にセメントバインダが十分に浸入し、綿状竹繊維はセメントバインダにより十分に固められて、容易に剥がれ落ちない状態となっていることが分かる。
【0060】
また、水中沈設構造物の表面に後から綿状竹繊維をセメントバインダと共に吹き付けるのではなく、最初から綿状竹繊維を型枠内に入れた状態でセメントバインダを流し込んで固めているため、
図7(a)(b)の写真からも分かるように、綿状竹繊維含有部と綿状竹繊維非含有部とはセメントバインダにより一体となって強固に結合した状態となり、水中において波浪や水流の影響下に曝されたとしてても、綿状竹繊維含有部が容易に剥離することはない。
【0061】
尚、構造物成形型枠1の箱室2aの内部側壁面5の段差の段数を適宜増やすことにより、内部側壁面5により多くの綿状竹繊維6がトラップされ易くすることで、水中沈設構造物10の段差部10bの綿状竹繊維6の量を増やして、窒素固定効果を高めることができる。
図8に、内部側壁面5の段崖部5aの段数を12段とした場合の構造物成形型枠1の外観斜視図、及びそれにより製造される水中沈設構造物10の外観斜視図を示す。
構造物成形型枠1の箱室2aの上部から綿状竹繊維6を散布した場合、箱室2aの内部側壁面5に於いては、綿状竹繊維6は主に凹条溝5cでトラップされる。従って、内部側壁面5の段差の段数を増やして凹条溝5cの数を多くすれば、内部側壁面5により多くの綿状竹繊維6がトラップされ易くなる。但し、段差の段数を増やし過ぎると、凹条溝5cの幅が狭くなりすぎて、逆に綿状竹繊維6がトラップされ難くなるので、内部側壁面5に綿状竹繊維6が最もよくトラップされるように適度な段数に設定することが必要である。
このように水中沈設構造物10を円錐台形に構成すれば、水底に設置した際に、実施例1の場合よりも水流の抵抗が小さくなり、水中沈設構造物10が水中で転倒したり、流されたりし難くなる。
尚、本実施例に於いて、構造物成形型枠1の箱室2aの内部側壁面5の段差の段数(及び水中沈設構造物10の段差部10bの段差の段数)は、実施例1と同様、綿状竹繊維6が内部側壁面5に最もよくトラップされるように適宜変更することができる。