(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089575
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】回路基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/12 20060101AFI20240626BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240626BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20240626BHJP
H05K 3/24 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H05K3/12 610B
H05K1/03 610L
H05K3/38 B
H05K3/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204990
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098350
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 睦彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】登口 将吏
(72)【発明者】
【氏名】清水 信哉
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA17
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB44
5E343BB48
5E343BB71
5E343BB72
5E343DD01
5E343DD33
5E343DD43
5E343ER35
5E343FF02
5E343FF16
5E343GG08
5E343GG11
(57)【要約】
【課題】リジッドな基材においても金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】回路基板10は、ガラスエポキシ製の基材11と、基材11上に形成され、エポキシ樹脂を含む樹脂層12と、樹脂層12上に形成された金属微粒子の光焼結層からなる導電膜13と、導電膜13上に形成されためっき層14とを備えて構成される。その一態様として、樹脂層を構成する樹脂は室温から190℃の範囲内の硬化温度を有するとともに、当該樹脂のTG-DTA分析において360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスエポキシ製の基材と、
前記基材上に形成され、エポキシ樹脂を含む樹脂層と、
前記樹脂層上に形成された金属微粒子の光焼結層からなる導電膜と、
前記導電膜上に形成されためっき層と
を備えた回路基板。
【請求項2】
前記樹脂層を構成する樹脂は室温から190℃の範囲内の硬化温度を有するとともに、当該樹脂のTG-DTA分析において360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記樹脂層の厚さの平均値は5μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の回路基板。
【請求項4】
ガラスエポキシ製の基材上にエポキシ樹脂を含む樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層上に金属微粒子の光焼結によって光焼結層からなる導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上にめっき層を形成する工程と
を備えた回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層を構成する樹脂は室温から190℃の範囲内の温度で硬化させることを特徴とする請求項4に記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂層は、硬化後の樹脂のTG-DTA分析において360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする請求項4または5に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リジッドな基材においても金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板は、樹脂などの絶縁性基材(ベース材料)の上に金属層を形成した後、この金属層の不要な部分をエッチングにより除去することによって配線パターンを形成するサブトラクティブ法という方法で製造されてきた。この方法では大量の水と、エッチングで捨てられる余分な金属を使用し、多くの工程を経ねばならなかった。
【0003】
これに対し、本出願人は、ポリイミドフィルムのような熱可塑性樹脂により構成された絶縁性基材上に、インクジェット法などで金属ナノ粒子(金属微粒子)を含む導電性インクを必要な部分にのみ塗布し、さらに抵抗値を下げるためめっき処理で金属層を増膜するという手法を提案している(特許文献1)。従来のサブトラクティブ法とは異なるこのような手法(非サブトラクティブ法)により基板製造工程の大幅な簡略化を可能とし、特に使用する水の量を大幅に削減すること、さらに二酸化炭素の排出量削減に成功した。このような非サブトラクティブ法は環境に良い、工程数の少ない回路基板の製造方法と言える。また、インクジェット法は、オンデマンドで少量の回路基板を最小の時間とコストで作れる信頼できる方法である。
【0004】
特許文献2には、ポリエーテルエーテルケトンを基材としてその上に金属ナノ粒子のインクを塗布し、光焼結膜を形成して、その上に、めっき層を形成することにより、回路形成を行う場合、基材上にプライマーと呼ばれる樹脂層(下地層)を塗布して改良するなどの方策が開示されている。光焼結はキセノンランプなどを加熱源として金属ナノ粒子の焼結(焼成)を行うものであり、基材の温度上昇を抑制しつつ、金属ナノ粒子のインク部を選択的に加熱することを可能とするものである。これにより、耐熱性の低い基材でも熱影響を最小限にして短時間での焼結が実現される。特許文献2において、下地層としての樹脂層を用いる理由は、基材表面に直接金属ナノ粒子のインクを塗布して光焼結(フォトシンタリング:PS)した場合に、基材に対するめっき層の密着強度が不足するからである。また特許文献3には、基板に対して、熱伝導性の低い樹脂の下地層を設けて、焼結性を向上させた例もある。この下地層としてポリイミドを用いるという記載があるが、ポリイミドはアルカリ耐性が弱いという欠点もあり、ほかの材料が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6300213号公報
【特許文献2】特開2020-188074号公報
【特許文献3】特表2012-522383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、古くから使用されているいわゆるガラスエポキシ基板のようなリジッドな基板(RPCB)においては、特許文献2のプライマーとしての樹脂層を用いて全く同様に回路基板を製造することは困難であった。
【0007】
その理由の1つは、従来技術に用いられたと同様のプライマーとしての樹脂層を塗布した場合、光焼結の際に樹脂層(および金属ナノ粒子層)が吹き飛ぶ現象がたびたび発生して、回路基板を作ることが困難であるということである。
【0008】
図1は、光焼結後の基板表面を撮影した顕微鏡写真であり、光焼結の際に樹脂層およびその上に塗布された金属ナノ粒子層が完全に吹き飛んだ状態を示している。
【0009】
図2は、同じく光焼結後の基板表面を撮影した顕微鏡写真(×20)であるが、これは樹脂層および金属ナノ粒子層が部分的に吹き飛んだ状態を示している。
【0010】
また、「吹き飛び」が生じなかった場合でも、光焼結後に形成された光焼結層およびめっき層の基材への密着強度は非常に低く、ほぼゼロN/mmに近いと結果となった。
【0011】
他の理由として、一般にガラスエポキシ製の基材を用いて製造されるリジッド基板においては、ガラス繊維の織り目が基材表面に凹凸を生じさせ、この凹凸のせいで、金属ナノ粒子の光焼結が、平滑なポリイミドフィルムと同様には行えないという事情があった。このような基材表面の凹凸は、光焼結後の基板表面に、
図3の光学顕微鏡写真(×100)に示すような模様として現れる。
【0012】
この基材表面の模様に関してさらに電子顕微鏡写真(×100)で観察すると、光焼結の程度の差により生じていることが明らかになった。すなわち、
図4の左側に示す薄い色の表面部分41の方が良く焼結しており、同図右側の濃い表面部分42の方が十分でない焼結状態である。このようにリジッドな基材においては構造的に焼結ムラが生成することが分かった。
【0013】
このような焼結ムラが生じる理由は、おそらくガラス繊維とエポキシ樹脂の熱伝導度が1桁異なるために、光焼結の際に熱の伝わり方が場所によって異なることに起因しているものと考えられる。すなわち、この焼結ムラはガラス繊維の織物の内部構造を反映したものである。ちなみに、熱伝導率はエポキシ樹脂:0.17~0.21W/mK、ガラス:1.03W/mKである。
【0014】
実際、
図5に示すように、下地層としての樹脂層を薄塗りして焼結ムラが顕著に表れた場合について、光焼結後の基板断面の電子顕微鏡写真を見ると、周期的に金属ナノ粒子がくぼみ51に溜まった状態が観測された。これも、ガラス繊維の織り目によってできる周期的なくぼみの底部では光焼結が十分でないことを示すものと考えられる。
【0015】
図6に、ガラスエポキシ基板における光焼結による表面の焼結ムラに関する模式図を示す。
図6(a)は樹脂層(プライマー層)が無く、焼結ムラが生じている場合を示している。ガラスエポキシ製の基材61はガラス繊維62を含んでおり、その織物により形成された基材表面の凹凸に起因して、金属ナノ粒子層(インク層)63に部分的に未焼結部分64が生じている。このような構造が、密着強度を低下させる要因になっていると推測される。
【0016】
図6(b)は基材表面の凹凸を平滑化する樹脂層(図には表れていない)の存在のおかげで焼結ムラが生じていない場合を示している。しかし、焼結ムラの問題は基材表面の凹凸のせいであるとして、これを単に樹脂などを塗布して平滑化すると、上述したような光焼結の際の樹脂層が吹き飛ぶ現象が発生し、単純な方法では解決できないことが判明した。
【0017】
上記課題を簡単にまとめると次のとおりである。すなわち、インク中の金属ナノ粒子(金属微粒子)を塗布した後に光焼結する際に、光焼結層と基材の間の密着性に寄与すると考えられる樹脂層を設ける場合、使用する樹脂によって樹脂層の吹き飛びが生じる。それ以外に上述したような焼結ムラが必ず発生する。焼結ムラのある系は、密着強度が非常に低いものとなる。また下地の樹脂層を厚くすることで立体的な凸凹は解消可能であるが、下地層である樹脂層を厚くして光焼結しようとすると「吹き飛び」の現象が生じる。
【0018】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、その目的は、リジッドな基材においても金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、光焼結時に下地層としての樹脂層が吹き飛ぶ現象を回避できる回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、光焼結層により形成される導電膜ひいてはその上のめっき層と基材の間の密着強度を高めることができる回路基板およびその製造方法を提供することにある。なお、これら複数の目的は必ずしもすべてが達成されなければならない訳ではない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明者等は材料面から解決するアプローチを採用した。すなわち、同じ樹脂でもポリイミド製の基材では光焼結の際に吹き飛びが起きにくいことから、基材の材質と樹脂の材質に相性があることに気づき、樹脂層に使用する樹脂の特性を分析した。一般にリジッド基板と呼ばれる基板はガラス繊維とエポキシ樹脂の複合体なので、ガラエポ基板と呼ばれている。エポキシ樹脂を含む基材には、エポキシ樹脂の接着層が密着するであろうことは容易に推定できる。但し、同じエポキシ樹脂であってもその組成や成分の違いにより「吹き飛び」が発生したりしなかったりすることが実験的に判明した。
【0022】
そこで、エポキシ樹脂の塗布から硬化、その後の昇温過程での挙動をTG-DTA(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis:熱重量分析と示差熱分析)で分析した。
【0023】
図7に、光焼結の際に「吹き飛び」が発生しやすいエポキシ樹脂の典型的な熱重量分析と示差熱分析(TG-DTA)のチャートを示す。このチャート内のTG曲線(図中、曲線B)は、分析対象の試料の、上昇していく温度(横軸)の関数としての重量変化量(%)を表している。その負の値は重量の減少を示している。DTA曲線(図中、曲線A)は、上昇していく温度の関数としての、試料と基準物質との温度差を示している。この温度差は示差熱電対の起電力μVで表される。DTG曲線(図中、曲線C)は、上昇していく温度の関数としての、試料の重量の時間変化率(μg/min)を示している。(図中の各曲線から左または右方向に伸びた矢印はその曲線に適用される縦軸を示している。)
【0024】
図7のチャートで、DTA曲線(曲線A)の200℃以下の領域(範囲)では発熱を示す上側に凸のピークが観測されるが、これはエポキシモノマーが熱重合(硬化)するときに発生する熱を示している。このときに重量変化を表すTG曲線(曲線B)は平坦で、試料における物質の出入りが無いことを示している。一方で360℃以上で450℃以下の領域では、大きな重量減少がTG曲線で確認され、DTA曲線によればその領域で熱の出入りは発熱の方向である。このことは通常、この温度領域で燃焼が起こったと考えることができる。そしてその後の450℃以上でも、発熱が観測されるので、継続して燃焼が発生したと考えるのが合理的である。このことはDTG曲線(曲線C)において大きく急峻なピークとして表れているように、光焼結により急激に加熱された際に燃焼が起きて、これが爆発的な場合に「吹き飛び」の現象を惹起したと考えることができる。
【0025】
図8(a)に、
図7のDTA曲線(曲線A)の360℃から450℃の温度領域について、そのピークがベースラインから発熱(正)の方向である場合を示した。ベースラインは低温側から引くのが良い。そしてその後の450℃以上でも、発熱が観測されるので、継続して燃焼が発生したと考えるのが合理的である。このとき、発熱のピークが大きい場合には、先に示した吸熱のピークがキャンセルされたり、ベースラインが引きにくくなったりするため、低温側からのベースラインのみで判断する。
図8(b)に同温度領域におけるピークがベースラインから吸熱(負)の方向である場合を示した。
【0026】
他方、
図9に、光焼結において同じエネルギーで光照射しても「吹き飛び」が生じにくいエポキシ樹脂の典型的なTG-DTAチャートを示す。この例では、DTA曲線(曲線A)で360℃から450℃にかかる領域では、負の方向に大きなピークが観測される。このことは、吸熱を意味し、樹脂が分解する際に直ちに燃焼するのではなく、分解物、例えばモノマーが蒸発することで吸熱が発生することが考えられる。すなわち急激な発熱ではなく、吸熱のために相対的に穏やかな分解となり、光焼結の際に「吹き飛び」が発生しにくかったものと解される。もちろん、この領域では、蒸発以外に燃焼も起こっているはずであり、両者の正負のピークが重なり合った結果、図のような曲線になっていると考えられる。このように、360℃から450℃の温度範囲内におけるDTA曲線の挙動は「吹き飛び」の有無に深く関与していることが知得される。
【0027】
さらに、
図9の場合には、曲線B(TG曲線)で重量変化を見ると、右端の400℃あたりでほとんどの成分がなくなってしまっていることが分かる。この場合、「吹き飛び」は無かったが、密着性を支えるはずの樹脂層が消滅しているものと考えられる。逆に言えば、TG曲線の右端側で樹脂層がある程度以上残存していることが密着性確保のための条件となっていることが分かった。その厚さの平均値は実験結果によれば好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0028】
なお、
図9の例では樹脂の溶液に34重量%の溶剤を含んでいるので、最初の200℃以下の領域での発熱ピーク(曲線A参照)の前に溶剤の蒸発で大きな重量変化(曲線Bおよび曲線C参照)を観測しているが、この溶剤の存在は「吹き飛び」の有無や密着性には直接関与しない。
【0029】
以上のような分析から、ガラスエポキシ製の基材に適した樹脂層をTGDTA分析から予測して選択することが可能である。すなわち、本開示における回路基板およびその製造方法は以下のような態様を有する。
【0030】
本開示の回路基板は、第1の態様において、ガラスエポキシ製の基材と、前記基材上に形成され、エポキシ樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層上に形成された金属微粒子の光焼結層からなる導電膜と、前記導電膜上に形成されためっき層とを備える。この構成により、リジッドな基材においても金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で回路基板が適正に作成される。
【0031】
この回路基板の第2の態様において、前記樹脂層を構成する樹脂は室温から190℃の範囲内の硬化温度を有するとともに、当該樹脂のTG-DTA分析において360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする。このような樹脂を光焼結層の下地層として用いることにより光焼結時の樹脂が吹き飛ぶ現象が抑止される。
【0032】
前記回路基板の第3の態様において、前記樹脂層の厚さの平均値は5μm以上15μm以下であることを特徴とする。このような樹脂を光焼結層の下地層として用いることにより光焼結層と基材との密着強度が向上する。5μm未満では光焼結の際に下地ガラス部の熱吸収の影響を受けやすく、15μm超では、作製条件においてエポキシ樹脂の硬化不良を起こしやすくなる。
【0033】
本開示の回路基板の製造方法は、第1の態様において、ガラスエポキシ製の基材上にエポキシ樹脂を含む樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層上に金属微粒子の光焼結によって光焼結層からなる導電膜を形成する工程と、前記導電膜上にめっき層を形成する工程とを備える。
【0034】
この回路基板の製造方法の第2の態様において、前記樹脂層を構成する樹脂は室温から190℃の範囲内の温度で硬化させることを特徴とする。
【0035】
前記回路基板の製造方法の第3の態様において、前記樹脂層は、硬化後の樹脂のTG-DTA分析において360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様によれば、リジッドな基材においても金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【0037】
本発明の他の態様によれば、光焼結時に下地層としての樹脂層が吹き飛ぶ現象を回避できる回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【0038】
本発明のさらに他の態様によれば、光焼結層により形成される導電膜ひいてはその上のめっき層と基材の間の密着強度を高めることができる回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】光焼結後の基板表面を撮影した顕微鏡写真(完全吹き飛びの場合)である。
【
図2】光焼結後の基板表面を撮影した顕微鏡写真(部分吹き飛びの場合)である。
【
図3】光焼結で模様が生じた場合の光学顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】光焼結後の色の濃い部分と薄い部分の上方からの電子顕微鏡写真である。
【
図5】焼結ムラが顕著に表れた場合の、光焼結後の基板断面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】ガラスエポキシ基板における光焼結による焼結ムラに関する模式図である。
【
図7】光焼結の際に「吹き飛び」が発生しやすいエポキシ樹脂の典型的なTG-DTAチャートである。
【
図8】(a)ベースラインに対して発熱側のピークが出た場合および(b)ベースラインに対して吸熱側のピークが出た場合のDTA曲線(曲線A)の説明図である。
【
図9】光焼結の際に「吹き飛び」が発生しにくいエポキシ樹脂の典型的なTG-DTAチャートである。
【
図10】本開示の実施形態による回路基板の基本構成を模式的に表した断面図である。
【
図11】実施例1で用いたエポキシ樹脂溶液のプロフィール(TG-DTAデータ)を表した図である。
【
図12】実施例1における光焼結後の基板表面の写真である。
【
図13】実施例1における光焼結後の基板表面の光学顕微鏡写真である。
【
図14】実施例1における引きはがし試験の結果を表す図である。
【
図15】比較例1における薄く塗布した樹脂層の場合の光焼結後の光学顕微鏡写真である。
【
図16】比較例2で用いたエポキシ樹脂溶液のプロフィール(TG-DTAデータ)を表した図である。
【
図17】比較例2で用いた樹脂層の場合の光焼結後の光学顕微鏡写真である。
【
図18】実施例2のエポキシ樹脂溶液のプロフィール(TG-DTAデータ)を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本実施形態では、金属微粒子としての金属ナノ粒子を含んだインクをガラスエポキシ製の基材上に塗布する際に、特定の条件にあった下地の樹脂層を用いるというアプローチを採用する。
【0041】
<回路基板の構成>
図10に本実施形態による回路基板の基本構成を模式的に表した断面図を示す。
図10(a)は概略の構成を示し、
図10(b)は具体的な構成例を示している。
【0042】
図10(a)に示すように、回路基板10は、基本的に、絶縁性の基材としてのガラスエポキシ製の基材11と、この基材11上に塗布された樹脂層12と、この樹脂層12の上に塗布された金属ナノ粒子層(インク層)で形成された光焼結層13(導電膜)と、この光焼結層13の上に形成されためっき層14とを備えて構成される。めっき層14は回路のための導電層を構成する。
【0043】
図10(b)には部分的なプリント配線の状態の回路基板の断面図を示す。この図においては、光焼結層13aは、パターン状に形成された金属ナノ粒子層のインク層13aが光焼結されたものである。この光焼結層13aの上にめっき層14aが形成される。このめっき層14aは光焼結層13aに倣って同様のパターン状に形成される。
【0044】
回路基板10の構成要素の具体的な構成は次のとおりである。
【0045】
(基材11)
本実施形態における絶縁性の基材(絶縁性基材)11は、ガラス繊維の織物にエポキシ樹脂を含侵したもので、典型的な織り方は平織であるが、必ずしもこれに限るものではない。基材11は、エポキシ樹脂の変性具合や、添加物により種々のものがありうるが、特に限定するものではない。厚さは0.2mmから1.6mmくらいのものが典型的であるが、必ずしもこれらに限定するものではない。
【0046】
(樹脂層12(プライマー、下地層))
本実施形態におけるプライマーとしての樹脂層12のための樹脂溶液の組成は、エポキシ樹脂モノマーを用い、アミン系の硬化剤を1~5重量%添加したものを、エチレングリコールモノエチルエーテルで50重量%に希釈したものである。
【0047】
エポキシ樹脂モノマーとしては、変性エポキシ等を用い、オリゴマーや官能奇数の異なるモノマーを配合して用いることができる。硬化剤に関して、アミン系以外のものでもよい。なお本発明の実施形態においては、ポリマー(分子量1万以上)のものは含まれない。
【0048】
(金属ナノ粒子層13:インク層:金属ナノ粒子を含む層:光焼結層:導電膜)
本実施形態における金属ナノ粒子層13の厚みは、100nmから20μmが好ましく、200nmから5μmがさらに好ましく、500nmから2μmが最も好ましい。この層が薄すぎると、機械的強度が低下するおそれがある。逆に、インク塗布層が厚すぎると、一般に金属ナノ粒子の方が通常の金属よりも高価であるため、製造コストが大きくなってしまうおそれがある。
【0049】
金属ナノ粒子(金属微粒子)の素材としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)などが用いられ、一種または複数の金属を含んでもよいが、導電性の観点から金、銀、銅が好ましく、銅に比べて酸化されにくく金に比べて安価な銀がよいが、さらに安価な銅を利用可能ならばなおよい。
【0050】
金属ナノ粒子の平均粒子径は1nmから200nmが好ましく、10nmから100nmがより好ましい。粒子径が小さすぎる場合、粒子の反応性が高くなりインクの保存性・安定性に悪影響を与えるおそれがある。粒子径が大きすぎる場合、薄膜の均一形成が困難になると共に、インクの粒子の沈殿が起こりやすくなるおそれがある。
【0051】
(めっき層14)
導電層としてのめっき層14は、金属ナノ粒子層13の上にめっき処理(電解めっきまたは無電解めっき)により形成される。無電解めっきにはホルムアルデヒドを還元剤とした硫酸銅溶液をpH10以上にした標準的なものを用いることができる。
【0052】
めっき金属としては、銅、ニッケル、錫、銀、金などを用いることができるが、経済性および導電性の観点から銅を用いることが最も好ましい。
【0053】
めっき層14の厚さは、3μmから100μmが好ましく、3μmから35μmがより好ましい。めっき層14が薄すぎると、機械的強度が不足すると共に、導電性が実用上十分に得られないおそれがある。逆に、めっき層14が厚すぎると、めっき処理に必要な時間が長くなり、製造コストが増大するおそれがある。一般に電解めっきの方が無電解めっきに比べてめっきに必要な時間が短いため、電解めっきの場合のほうがより厚いめっき層に現実的なコストで対応できる。ただし、無電解めっきは、つながった電極ラインだけでなく、島として浮いた領域にめっきができる利点を有する。
【0054】
<回路基板の製造方法>
(プライマーの塗布工程)
ガラスエポキシ製の基材の表面にプライマーとしての樹脂層12のための樹脂溶液を塗布する。このプライマーの塗布方法としては特に限定するものではないが、リジッドな基材は硬いので、枚葉印刷の手法が用いられることが多い。例えばスクリーン印刷などが適したものと考えられる。あるいはグラビア印刷やオフセット印刷を用いることも可能である。塗布したプライマーとしての樹脂層は室温から190℃の範囲内の温度で硬化させる。ここに、室温~200℃がプライマーとしてのエポキシ樹脂の硬化に適当な温度範囲であるが、ガラスエポキシ製の基材は200℃を越えて加熱すると、熔けたり焼けたりするので、硬化温度の上限を190℃としている。プライマーとして使用する樹脂の組成としても室温から190℃の範囲内で硬化するものを用いることが好ましい。
【0055】
(インクの塗布工程)
この工程では、プライマーが塗布・硬化された基材の表面に、金属ナノ粒子を含むインクを塗布する。この塗布は、基材上に全面塗布する場合とパターン状に塗布する場合とがありうる。パターン状に塗布する場合には、印刷による方法が採用でき、典型的にはインクジェット法を用いる。但し、必ずしもインクジェット法に限るものではなく、これ以外の塗布方法を用いてもよい。また、後述する実験では、バーコーターによる塗布も行っている。
【0056】
金属ナノ粒子を含んだインクを基材に塗布した後、溶媒がある場合はこれを除去する乾燥工程を行う。この工程は公知の金属ナノ粒子インクの乾燥工程と同様である。金属ナノ粒子を含んだインクの乾燥方法としては、オーブンなどによる加熱、温風乾燥等を採用することができる。
【0057】
(光焼結工程)
上記インク塗布工程、乾燥工程の後、光焼結の工程を実行する。そのためには、市販のフォトシンタリング(PS)の装置、例えば、ウシオ電機株式会社製の光焼結装置(B0320―A)を利用可能である。その際、基材とランプの間隔を設定し、電圧と照射時間などを調整して行う。光焼結は瞬時に終了するので、次の工程に進むまでの時間が短くて済む。
【0058】
(めっき工程)
形成された光焼結層に対し、めっき処理を行う。これにより、焼結層の表面および内部にめっき金属を析出させる。めっき方法は公知のめっき液を用いた公知のめっき処理と同様であり、具体的には無電解銅めっき、電解銅めっき、電解ニッケルめっき等を含みうる。
【0059】
次に、本実施形態の樹脂層(下地層)を用いて光焼結およびめっき処理を行う具体的な実施例を示す。
【0060】
(実施例1)
実施例1では、ガラスエポキシ樹脂製の基材として、100mm×100mmのES-33515(利昌工業株式会社社製)のガラスエポキシ基板を用いた。この基材に対して、50重量%の、エポキシ樹脂層(下地層)になるモノマー、オリゴマー、ポリマーを含んだ溶液を塗布し、150℃で1時間の硬化を行った。塗布方法は、基材をアセトンで洗浄後、30μmの乾燥前の厚さを塗布するバーコーターおよびBevs1818S Miniautomatic Applicator(Bevs社製)を用いて、40mm/secの速度で塗布した。マイクロメーターで測定すると下地層の厚さは11μmから15μmの範囲で凹凸によるばらつきがあった。この断面の電子顕微鏡写真ではその厚さは8μmであり、この結果はマイクロメーターによる測定値と異なる値となった。なお、本実施形態におけるマイクロメーターでの厚さの測定では5点以上の箇所での測定値の平均値を求めた。電子顕微鏡写真での厚さの測定では測定対象の層の上下の境界に2本の線を引いてその2線の間隔を測定した。
【0061】
ここでプライマーとして用いたエポキシ樹脂は、ビスフェノールAの骨格を持つエポキシモノマーを中心に、3次元硬化するために必要な2官能性モノマー、3官能性モノマーを配合し、アミン系の硬化剤を用いている。溶媒はエチレングリコールモノエチルエーテルで、当初は66重量%であるものを、さらに同じ溶媒を加えて50重量%にして塗布した。
【0062】
このエポキシ樹脂の特徴(プロフィール)は、TG-DTAチャートで示すと
図11のようになる。
【0063】
この樹脂溶液は、30重量%ほどの溶剤を含んでおり、チャート上では100℃より上の温度で蒸発し、重量が減少し(曲線B参照)、吸熱があった様子が見て取れる(曲線A参照)。一方で、400℃以上のところで吸熱の部分が確認され、その後に発熱する様子が観測される(曲線A参照)。この温度付近での発熱は燃焼によるものと解釈できる。吸熱部分は200℃までに硬化した一部の樹脂成分が分解して蒸発するときの吸熱と考えられる。
【0064】
このようなエポキシ樹脂は、そのTG-DTA結果により特定できれば足り、特定の組成に限定されるものではない。同等のTG-DTA結果が得られれば、種々の添加物などで変性したものでもよい。
【0065】
樹脂層(下地層)の硬化後の基板に、15重量%の濃度の銅ナノ粒子のインクを10μmの塗布膜厚のバーコーターで塗布した。塗布した基板は室温で溶剤が乾くのを確認してから60℃のオーブンで30分乾燥した。このナノ粒子のインクの溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテルを用いた。
【0066】
乾燥の終了した基板は光焼結装置 B0320―A(ウシオ電機株式会社製)にセットし、2700Vから3000Vの間の電圧で光焼結操作を行った。具体的にはOhir社製サーマルセンサーL50(150)A-LP2-35を用いて、1.2W ±0.02Wの範囲にキセノンランプの光量が出るように電圧と照射時間(ミリ秒)の調整をした。キセノンランプからサンプル表面までの距離は5cmとした。
【0067】
樹脂層の吹き飛びは、ひどい場合には目視ですぐに分かるが、微妙な場合には、デジタルマイクロスコープ(VHX-8000 株式会社キーエンス社製)を用いて光学顕微鏡写真を撮って確認した。抵抗値は4端子の抵抗計RM3544(日置電機株式会社社製)を用いて行った。
【0068】
この結果、実施例1では吹き飛びが無く、抵抗値が0.5Ω以下の光焼結層(光焼結膜)からなる導電膜を得ることができた。
【0069】
図12に、実施例1における光焼結後の基板表面の写真を示す。光の反射から、良い条件で焼結できても、表面には基板の織り目の模様が確認できる。すなわち、この写真は基板表面の大きなうねりがまだ見えることを示すものである。他方で
図13に示すように、光学顕微鏡写真(×100)では
図3で示したような焼結ムラがほとんど見えなくなっているのが分かる。
【0070】
このようにして得られた金属ナノ粒子を含む光焼結層(導電膜)を形成した基板に対し、10%硫酸で10秒間処理し、水洗した。その後、無電解銅めっき液のプレディップを行い、銅、アルカリ、ホルムアルデヒドを主成分とする無電解銅めっき液を用いて、液温65°Cで4時間の無電解銅めっきを行った。その後、変色防止剤に常温で1分間浸けたあと、乾燥させた。
【0071】
その結果、光焼結後の基板表面にめっき処理によりめっき層が形成され、通常のデバイスに使える導電性も確保された。
【0072】
このようにして出来上がった基板に対して200℃で1時間のアニールを行い、引きはがし試験に掛けたところ、
図14(a)に示すような安定した0.4N/mm以上の密着強度を得ることができた。これは米国のUL規格(0.35N/mm)を超える強度である。
図14(b)は比較対象として、アニール前の、ほとんど引きはがし強度が無い場合(0.113N/mm)を示している。
【0073】
(比較例1)
比較例1として、実施例1のエポキシ樹脂の樹脂層を用いて、5重量%の濃度の溶液を10μmの塗布膜厚のバーコーターで塗布した場合について説明する。それ以外の点で実施例1と異なるところは無い。比較例1の場合の樹脂層の膜厚はマイクロメーターと断面の電子顕微鏡写真で計って2μm以下であった。
図15に比較例1の光焼結後の光学顕微鏡写真を示す。この写真から、焼結ムラのほかに一部の銅が吹き飛んで、穴が開いているのが見える。
【0074】
この場合、めっき後、引きはがし試験の結果は、ほぼ0.0N/mmとなった。よって同じ樹脂でも樹脂層が薄い場合には、密着強度に及ぼす影響が小さく、まったく強度が得られないことが分かった。
【0075】
(比較例2)
この比較例2の実験方法は実施例1と同様であるが、
図16に示すように、プライマーに用いる樹脂層のエポキシ樹脂のTG-DTAのプロフィールが異なる。この例は300℃以上のところに、発熱のピークがあり、燃焼が主な分解の樹脂であると考えられる。この場合、光焼結の際に、爆発的な燃焼が起こり、「吹き飛び」が発生しやすいことを確認した。
【0076】
この場合、塗布した膜厚が10μmのバーコーターであったこともあり、さらにTG-DTAのプロフィールから想像できるように「吹き飛び」が発生しやすい性質もあることから、光焼結の後に焼結ムラがはっきりと観測された。
図17にこの樹脂層の場合の光焼結後の光学顕微鏡写真を示す。
【0077】
金属ナノ粒子を含むインク層を形成した基材に対し、流水で1分間のクリーニングを行った。その後、無電解銅めっき液のプレディップを行い、銅、アルカリ、ホルムアルデヒドを主成分とする無電解銅めっき液を用いて、液温60°Cで180分間の無電解銅めっきを行った。その後、変色防止剤に常温で1分間浸けたあと、乾燥させた。
【0078】
この場合、めっき後200℃で1時間アニールしたのちでも、引きはがし試験の結果は0.066N/mmと小さな値になった。アニール前は0.018N/mmであった。よってTG-DTAのプロフィールが悪く、樹脂層が薄い場合には、十分な密着強度が得られないことが分かった。
【0079】
(実施例2)
この実施例2は、ガラスエポキシ樹脂製の基材として、100mm×100mmのES-33515(利昌工業株式会社社製)のガラスエポキシ基板に50重量%の、エポキシ樹脂層(下地層)になるモノマー、オリゴマー、ポリマーを含んだ溶液を塗布し、150℃で1時間の硬化を行った。塗布方法は、基板をアセトンで洗浄後、30μmの乾燥前の厚さを塗布するバーコーターを用いて、Bevs1818S Miniautomatic Applicator(Bevs社製)を用いて、40mm/secの速度で塗布した。マイクロメーターで測定すると下地層の厚さは11μmから15μmで凹凸によるばらつきがあった。
【0080】
ここでプライマーとして用いたエポキシ樹脂は、実施例1と同様にビスフェノールAの骨格を持つエポキシモノマーを中心に、3次元硬化するために必要な2官能性モノマー、3官能性モノマーを配合し、アミン系の硬化剤を用いているが、実施例1とは配合がわずかに異なる。溶媒は同様にエチレングリコールモノエチルエーテルで、当初は66重量%であるものを、さらに同じ溶媒を加えて50重量%にして塗布した。
【0081】
このエポキシ樹脂の特徴は、TG-DTAチャートで示すと
図18のようになる。
【0082】
このチャートのDTA曲線によれば、400℃以上のところで吸熱の部分が認識され、その後に発熱する様子が観測される(曲線A参照)。この温度付近での発熱は燃焼によるものと解釈できる。吸熱部分は200℃までに硬化した一部の樹脂成分が分解して蒸発するときの吸熱と考えられる。
【0083】
このようなエポキシ樹脂は、そのTG-DTA結果により特定できれば足り、特定の組成に限定されるものではない。同等のTG-DTA結果が得られれば、種々の添加物などで変性したものでもよい。
【0084】
樹脂層(下地層)の硬化後の基板に、15重量%の濃度の銅ナノ粒子のインクを10μmの塗布膜厚のバーコーターで同様に塗布した。塗布した基板は室温で溶剤が乾くのを確認してから60℃のオーブンで30分乾燥した。このナノ粒子のインクの溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテルを用いた。
【0085】
乾燥の終了した基板は光焼結装置 B0320―A(ウシオ電機株式会社製)にセットし、2700Vから3000Vの間の電圧で実施例1と同様に光焼結操作を行った。この結果、吹き飛びが無く、抵抗値が0.5Ω以下の光焼結層(光焼結膜)からなる導電膜を得ることができた。
【0086】
(樹脂層(下地層)の厚さについて)
表1に樹脂層(下地層)の厚さ(膜厚)の実験結果(100mmx100mmの基板サンプル内)をまとめて示す。
【表1】
【0087】
上述した実施例1で説明したように、50重量%のエポキシ系樹脂の溶液を30μmのバーコーターを用いて塗布した場合の下地層(乾燥・硬化後)の膜厚はマイクロメーターによる計測値としては、密着強度0.4N/mm付近の実験例ではマイクロメーターの測定で11μmから15μmの膜厚であった。また、断面SEMの計測値としては8μmであった。
【0088】
これに対して、下地層の二度塗りや原液の直塗りでは同様に30μバーコーターを使用したが、その膜厚は非常に大きな値になった。
【0089】
100μmを超える下地層の厚さのサンプルでは、光焼結の際に「吹き飛び」が発生しやすくなり、調整が困難となった。光焼結条件が調整しやすいのは20μm以下の下地層のときと考えられる。この状況で、20から100μmの膜厚のものを作製しようとしたが困難であり、再現性が難しかったが、偶然得られた25μmの場合には吹き飛んだので、膜厚が厚くなると吹き飛びやすくなると考えられる。
【0090】
5重量%で同じ下地層のエポキシ系樹脂を塗布した場合には、電子顕微鏡の断面観察の結果から3μmから4μmの下地層の厚さであった。この場合には、「吹き飛び」は少ないが、密着強度の効果が得られなかった。
【0091】
以上の実験結果に基づき、光焼結条件の調整および密着強度の観点から、下地層としての樹脂層の膜厚の平均値は5μm以上で15μm以下が適当と考えられる。
【0092】
(変形例)
以上、好適な実施形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形・変更を行うことが可能である。使用した材料、長さ、厚さ、比率、温度、時間等は例示であり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0093】
10 回路基板
11 基材(絶縁性基材)
12 樹脂層(プライマー、下地層)
13 金属ナノ粒子層(インク層、光焼結層、導電膜)
14 めっき層
14b 配線パターン(導電パターン)
41,42 表面部分
51 くぼみ
61 ガラスエポキシ製の基材
62 ガラス繊維
63 金属ナノ粒子層(インク層、光焼結層、導電膜)
64 未焼結部分
65 めっき層
A 曲線(DTA曲線)
B 曲線(TG曲線)
C 曲線(DTG曲線)