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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089576
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】回路基板とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20240626BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20240626BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H05K1/03 610L
H05K1/09 C
H05K3/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204991
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098350
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 睦彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】登口 将吏
(72)【発明者】
【氏名】須賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】中村 純也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 有哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 信哉
【テーマコード(参考)】
4E351
5E343
【Fターム(参考)】
4E351AA03
4E351BB31
4E351BB33
4E351CC06
4E351CC08
4E351DD04
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD19
4E351DD20
4E351GG02
5E343AA17
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB44
5E343BB48
5E343BB72
5E343DD12
5E343DD43
5E343GG02
(57)【要約】
【課題】ポリイミド製の基材に対して金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】回路基板10は、ポリイミド製の基材11と、基材11上に形成され、エポキシ樹脂を含む樹脂層12と、樹脂層12上に形成された金属微粒子の光焼結層からなる導電膜13と、導電膜13の上に形成されためっき層14とを備える。その一態様として、樹脂層12を構成する樹脂は、130℃から200℃の範囲内にその硬化温度を有し、当該樹脂のTG-DTA分析において、360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド製の基材と、
前記基材上に形成され、エポキシ樹脂を含む樹脂層と、
前記樹脂層上に形成された金属微粒子の光焼結層からなる導電膜と、
前記導電膜の上に形成されためっき層と
を備えた回路基板。
【請求項2】
前記樹脂層を構成する樹脂は、130℃から200℃の範囲内にその硬化温度を有し、前記樹脂のTG-DTA分析において、360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記樹脂層を構成する樹脂のTG-DTA分析における500℃の残留重量が30%以上であることを特徴とする請求項2に記載の回路基板。
【請求項4】
ポリイミド製の基材上にエポキシ樹脂を含む樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層上に金属微粒子の光焼結によって光焼結層からなる導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上にめっき層を形成する工程と
を備えた回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層を構成する樹脂は130℃から200℃の範囲内の温度で硬化させることを特徴とする請求項4に記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂のTG-DTA分析において、360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする請求項5に記載の回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂層を構成する樹脂のTG-DTA分析における500℃の残留重量が30%以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド製の基材に対して金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板は、樹脂などの絶縁性基材(ベース材料)の上に金属層を形成した後、この金属層の不要な部分をエッチングにより除去することによって配線パターンを形成するサブトラクティブ法という方法で製造されてきた。この方法では大量の水と、エッチングで捨てられる余分な金属を使用し、多くの工程を経ねばならなかった。
【0003】
これに対し、本出願人は、ポリイミドフィルムのような熱可塑性樹脂により構成された絶縁性基材上に、インクジェット法などで金属ナノ粒子(金属微粒子)を含む導電性インクを必要な部分にのみ塗布し、さらに抵抗値を下げるためめっき処理で金属層を増膜するという手法を提案している(特許文献1)。従来のサブトラクティブ法とは異なるこのような手法(非サブトラクティブ法)により基板製造工程の大幅な簡略化を可能とし、特に使用する水の量を大幅に削減すること、さらに二酸化炭素の排出量削減に成功した。このような非サブトラクティブ法は環境によい、工程数の少ない回路基板の製造方法と言える。また、インクジェット法は、オンデマンドで少量の回路基板を最小の時間とコストで作れる信頼できる方法である。
【0004】
特許文献2には、ポリエーテルエーテルケトンを基材としてその上に金属ナノ粒子のインクを塗布し、光焼結膜を形成して、その上に、めっき層を形成することにより、回路形成を行う場合、基材上にプライマーと呼ばれる樹脂層(下地層)を塗布して改良するなどの方策が開示されている。光焼結はキセノンランプなどを加熱源として金属ナノ粒子の焼結(焼成)を行うものであり、基材の温度上昇を抑制しつつ、金属ナノ粒子のインク部を選択的に加熱することを可能とするものである。これにより、耐熱性の低い基材でも熱影響を最小限にして短時間での焼結が実現される。特許文献2において、下地層としての樹脂層を用いる理由は、基材表面に直接金属ナノ粒子のインクを塗布して光焼結(フォトシンタリング:光焼結)した場合に、基材に対するめっき層の密着強度が不足するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6300213号公報
【特許文献2】特開2020-188074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし光焼結の際には、プライマー(下地層)の種類や配合によって、この層やインク層が吹き飛ぶ現象が発生した。また吹き飛ばなかった場合でも、密着強度は非常に低く、ほぼゼロN/mmに近いと結果となる場合もあった。光焼結で吹き飛ぶ現象は、下地もろとも吹き飛ぶ場合とインク層のみ吹き飛ぶ場合などがあり、どちらも基板上の一部、あるいは全部から、塗布したものが消滅する現象である。キセノンランプなどによる瞬間的な光照射では、特にナノサイズの粒子がある場合に光吸収が起こり、急激に加熱したのと同じ効果があるとされている。この際に粒子の周囲にあった有機物が急加熱され、爆発的に燃焼したりすると考えられている。光照射の装置の電圧調整などで、エネルギーを最適化して、その材料の条件にあった光量を照射する必要がある。一方で材料側では、この調整領域が広くなるような材料の選択が必要になる。
【0007】
さらに無電解Cuめっき時のPHの高いアルカリ条件に対して、ポリイミドに合うと考えられるポリアミドやポリイミド系プライマーを用いると導体密着強度が低下する問題があった。
【0008】
上記課題を簡単にまとめると次のとおりである。すなわち、インク中の金属ナノ粒子(金属微粒子)を塗布した後に光焼結する際に、光焼結層およびめっき層と基材との間の密着性に寄与すると考えられる樹脂層を設ける場合、使用する樹脂によって樹脂層の吹き飛びが生じた。
【0009】
そこで種々のプライマーを検討したが、例えばポリイミドに適合するように選択した類似の構造のポリイミド系やポリアミド系のプライマーは、めっきのプロセスで強度が劣化するなどの問題があった。
【0010】
代替案として、硬化したあとの強度の高いエポキシ樹脂を検討した。しかし、多くのエポキシ樹脂の中でも、この系に適合するものとしないものがあることが分かった。
【0011】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、その目的は、ポリイミド製の基材に対して金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、光焼結時に下地層としての樹脂層が吹き飛ぶ現象を回避できる回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、光焼結層により形成される導電膜ひいてはその上のめっき層と基材の間の密着強度を高めることができる回路基板およびその製造方法を提供することにある。なお、これら複数の目的は必ずしもすべてが達成されなければならない訳ではない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、エポキシ樹脂の塗布から硬化、その後の昇温過程での挙動をTG-DTA(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis:熱重量分析と示差熱分析)で分析した。
【0015】
図1に、光焼結の際に「吹き飛び」が発生しやすいエポキシ樹脂の典型的な熱重量分析と示差熱分析(TG-DTA)のチャートを示す。このチャート内のTG曲線(図中、曲線B)は、分析対象の試料の、上昇していく温度(横軸)の関数としての重量変化量(%)を表している。その負の値は重量の減少を示している。DTA曲線(図中、曲線A)は、上昇していく温度の関数としての、試料と基準物質との温度差を示している。この温度差は示差熱電対の起電力μVで表される。DTG曲線(図中、曲線C)は、上昇していく温度の関数としての、試料の重量の時間変化率(μg/min)を示している。(図中の各曲線から左または右方向に伸びた矢印はその曲線に適用される縦軸を示している。)
【0016】
図1のチャートで、DTA曲線(曲線A)の200℃以下の領域では発熱を示す上側に凸のピークが観測されるが、これはエポキシモノマーが熱重合するときに発生する熱を示している。このときに重量変化を表すTG曲線(曲線B)は平坦で、試料における物質の出入りが無いことを示している。一方で360℃以上で450℃以下の領域では、大きな重量減少がTG曲線(曲線B)で確認され、DTA曲線(曲線A)によればその領域で熱の出入りは発熱の方向である。このことは通常、この温度領域で燃焼が起こったと考えることができる。図2(a)に、図1のDTA曲線(曲線A)の360℃から450℃の温度領域について、そのピークがベースラインから発熱(正)の方向であることを示した。ベースラインは低温側から引くのが良い。そしてその後の450℃以上でも、発熱が観測されるので、継続して燃焼が発生したと考えるのが合理的である。このとき、発熱のピークが大きい場合には、先に示した吸熱のピークがキャンセルされたり、ベースラインが引きにくくなったりするため、低温側からのベースラインのみで判断する。DTG曲線(曲線C)において大きく急峻なピークとして表れているように、光焼結により急激に加熱された際に燃焼が起きて、これが爆発的な場合に「吹き飛び」の現象を惹起したと考えることができる。
【0017】
さらに補足すると、200℃以下のDTA曲線(曲線A)では発熱ピークが見られ、重量の減少が無いことから、エポキシ樹脂の硬化が起こったものと判断できる。但し、あらかじめ溶剤を含む系では、ここに溶剤の蒸発の吸熱ピークが重なることが多く、見えなくなる場合もある。以下の他のチャートについても同様である。
【0018】
他方、図3に、光焼結において同じエネルギーで光照射しても「吹き飛び」が生じにくいエポキシ樹脂の典型的なTG-DTAチャートを示す。この例では、DTA曲線で360℃から450℃にかかる領域では、負の方向に大きなピークが観測される。図2(b)に、このピークがベースラインから吸熱(負)の方向であることを示した。このことは、樹脂が分解する際に直ちに燃焼するのではなく、分解物、例えばモノマーが蒸発することで吸熱となることが考えられる。すなわち急激な発熱ではなく、吸熱のために相対的に穏やかな分解となり、光焼結の際に「吹き飛び」が発生しにくかったものと解される。もちろん、この領域では、蒸発以外に燃焼も起こっているはずであり、両者の正負のピークが重なり合った結果、図のような曲線になっていると考えられる。このように、360℃から450℃の温度領域におけるDTA曲線の挙動は「吹き飛び」の有無に深く関与していることが知得される。
【0019】
さらに、図3の場合には、TG曲線(曲線B)で重量変化を見ると、右端の400℃あたりでほとんどの成分がなくなってしまっていることが分かる。この場合、「吹き飛び」とは別に、密着性を支えるはずの樹脂層が消滅しているものと考えられる。逆に言えば、TG曲線の右端側で樹脂層がある程度以上残存していることが密着性確保のための条件となっていることが分かった。この点については後に詳述する。
【0020】
なお、図3の例では樹脂の溶液に34重量%の溶剤を含んでいるので、最初の200℃以下の領域内の発熱ピーク(DTA曲線参照)の前に溶剤の蒸発で大きな重量変化(TG曲線およびDTG曲線参照)を観測しているが、この溶剤の存在は「吹き飛び」の有無や密着性には直接関与しない。
【0021】
さらに、本発明者らは、同じ系統のエポキシ樹脂において、密着強度と、光焼結後の下地層の残留量に相当する高温時の残留樹脂量に相関があることを見出した。この高温時の温度をTG-DTA分析で必ず取得している温度である500℃とすることにより、この温度における残留樹脂量をTG-DTAのチャートから割り出すことができる。この温度では、ポリイミドは別として、通常の有機物は燃焼する温度なので、光焼結においても一定量の樹脂成分は燃焼するものと考えられる。この様子を、図4に示す。この図4は、光焼結(PS)後の500℃での残留プライマーの重量%と、密着強度(N/mm)の関係を表したグラフである。
【0022】
この関係から、UL規格を満足する密着強度は0.35N/mmなので、30%の残留樹脂がある種類のエポキシ樹脂について密着強度を満足することが分かる。
【0023】
以上のような分析から、本発明に適した下地層としての樹脂層をTG-DTA分析から予測して選択することが可能である。すなわち、本開示における回路基板およびその製造方法は以下のような態様を有する。
【0024】
本開示による回路基板は、ポリイミド製の基材と、前記基材上に形成され、エポキシ樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層上に形成された金属微粒子の光焼結層からなる導電膜と、前記導電膜の上に形成されためっき層とを備える。このような構成により、ポリイミド製の基材に対して金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で回路基板が適正に作成される。
【0025】
この回路基板は、その一態様として、前記樹脂層を構成する樹脂は、130℃から200℃の範囲内にその硬化温度を有し、当該樹脂のTG-DTA分析において、360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする。このような樹脂を光焼結層の下地層として用いることにより光焼結時の樹脂が吹き飛ぶ現象が抑止される。
【0026】
この回路基板は、他の態様として、前記樹脂層を構成する樹脂のTG-DTA分析における500℃の残留重量が30%以上であることを特徴とする。このような樹脂を光焼結層の下地層として用いることにより光焼結層と基材との密着強度が向上する。
【0027】
本開示による回路基板の製造方法は、ポリイミド製の基材上にエポキシ樹脂を含む樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層上に金属微粒子の光焼結によって光焼結層からなる導電膜を形成する工程と、前記導電膜上にめっき層を形成する工程とを備えたものである。
【0028】
この回路基板の製造方法は、その一態様として、前記樹脂層を構成する樹脂は130℃から200℃の範囲内の温度で硬化させることを特徴とする。
【0029】
この回路基板の製造方法は、他の態様として、前記樹脂のTG-DTA分析において、360℃以上で450℃以下の領域内に吸熱ピークを有することを特徴とする。
【0030】
前記回路基板の製造方法は、さらに他の態様として、前記樹脂層を構成する樹脂のTG-DTA分析における500℃の残留重量が30%以上である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、ポリイミド製の基材に対して金属微粒子のインクを用いて非サブトラクティブ法で適正に作成することができる回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【0032】
他の態様によれば、光焼結時に下地層としての樹脂層が吹き飛ぶ現象を回避できる回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【0033】
さらに他の態様によれば、光焼結層により形成される導電膜ひいてはその上のめっき層と基材の間の密着強度を高めることができる回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】光焼結の際に吹き飛びやすいエポキシ樹脂の典型的なTG-DTAチャートである。
図2】(a)ベースラインに対して発熱側のピークが出た場合および(b)ベースラインに対して吸熱側のピークが出た場合のDTA曲線(曲線A)の説明図である。
図3】光焼結の際に吹き飛びにくいエポキシ樹脂の典型的なTG-DTAチャートである。
図4】500℃での残留プライマー量(重量%)と密着強度の関係を示すグラフである。
図5】本発明の実施形態による回路基板の基本構成を模式的に表した断面図である。
図6】実施例1で用いたエポキシ樹脂溶液のプロフィール(TG-DTAデータ)を表したチャートである。
図7】実施例2で用いたエポキシ樹脂溶液のプロフィール(TG-DTAデータ)を表したチャートである。
図8】実施例4で用いたエポキシ樹脂溶液のプロフィール(TG-DTAデータ)を表したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本実施形態では、金属ナノ粒子(金属微粒子)を含んだインクを基材上に塗布する際に、特定の条件にあった下地の樹脂層を用いるというアプローチを採用する。
【0036】
<回路基板の構成>
図5に本実施形態による回路基板の基本構成を模式的に表した断面図を示す。図5(a)は概略の構成を示し、図5(b)は具体的な構成例を示している。
【0037】
図5(a)に示すように、回路基板10は、基本的に、絶縁性の基材としてのポリイミド製の基材11と、この基材11上に塗布された樹脂層12と、この樹脂層12の上に塗布された金属ナノ粒子層(インク層)で形成された光焼結層13(導電膜)と、この光焼結層13の上に形成されためっき層14とを備えて構成される。めっき層14は回路のための導電層を構成する。
【0038】
図5(b)には部分的なプリント配線の状態の回路基板の断面図を示す。この図においては、光焼結層13aは、パターン状に形成された金属ナノ粒子層のインク層13aが光焼結されたものである。この光焼結層13aの上にめっき層14aが形成される。このめっき層14aは光焼結層13aに倣って同様のパターン状に形成される。
【0039】
回路基板10の構成要素の具体的な構成は次のとおりである。
【0040】
(基材11)
本実施形態における絶縁性の基材(絶縁性基材)11は、ポリイミドである。その厚さは本実施形態では例えば約25μmであるが、12.5μmから125μmの範囲が良く、特に25μmから50μmが好ましい。但し、これに限るものではない。
【0041】
(樹脂層12(プライマー、下地層))
本実施形態におけるプライマーとしての樹脂層12のための樹脂溶液の組成は、エポキシ樹脂モノマーを用い、アミン系の硬化剤を1~5重量%添加したものを、エチレングリコールモノエチルエーテルで5重量%に希釈したものである。
【0042】
エポキシ樹脂モノマーとしては、変性エポキシ樹脂等を用い、オリゴマーや官能奇数の異なるモノマーを配合して用いることができる。硬化剤に関して、アミン系以外のモノでもよい。
【0043】
(金属ナノ粒子層13:インク層:金属ナノ粒子を含む層:光焼結層:導電膜)
本実施形態における金属ナノ粒子層13の厚みは、100nmから20μmが好ましく、200nmから5μmがさらに好ましく、500nmから2μmが最も好ましい。この層が薄すぎると、機械的強度が低下するおそれがある。逆に、インク塗布層が厚すぎると、一般に金属ナノ粒子の方が通常の金属よりも高価であるため、製造コストが大きくなってしまうおそれがある。
【0044】
金属ナノ粒子の素材としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)などが用いられ、一種または複数の金属を含んでもよいが、導電性の観点から金、銀、銅が好ましく、銅に比べて酸化されにくく金に比べて安価な銀がよいが、さらに安価な銅を利用可能ならばなおよい。
【0045】
金属ナノ粒子の平均粒子径は1nmから200nmが好ましく、10nmから100nmがより好ましい。粒子径が小さすぎる場合、粒子の反応性が高くなりインクの保存性・安定性に悪影響を与えるおそれがある。粒子径が大きすぎる場合、薄膜の均一形成が困難になると共に、インクの粒子の沈殿が起こりやすくなるおそれがある。
【0046】
通常のインクでは、金属ナノ粒子を混合しても、ポリイミドのような樹脂基材に金属ナノ粒子を強く定着する理由が無く、多数の金属ナノ粒子が焼結されて初めて樹脂基材に密着することができる。また、バインダーを用いたインクでは、ある程度の強度で金属粒子を定着することが可能であるが、金属ナノ粒子の濃度を低減した場合はこの限りでは無い。金属ナノ粒子が焼結していない場合、金属ナノ粒子が脱落・流出してしまい、密着性が得られないばかりか、めっき槽にも悪影響を与えるおそれがある。
【0047】
この無電解めっきはホルムアルデヒドを還元剤とした硫酸銅溶液をpH10以上にした標準的なものである。
【0048】
(めっき層14)
導電層としてのめっき層14は、金属ナノ粒子層13の上にめっき処理(電解めっきまたは無電解めっき)により形成される。無電解めっきにはホルムアルデヒドを還元剤とした硫酸銅溶液をpH10以上にした標準的なものを用いることができる。
【0049】
めっき金属としては、銅、ニッケル、錫、銀、金などを用いることができるが、経済性および導電性の観点から銅を用いることが最も好ましい。
【0050】
めっき層14の厚さは、3μmから100μmが好ましく、3μmから35μmがより好ましい。めっき層14が薄すぎると、機械的強度が不足すると共に、導電性が実用上十分に得られないおそれがある。逆に、めっき層14が厚すぎると、めっき処理に必要な時間が長くなり、製造コストが増大するおそれがある。一般に電解めっきの方が無電解めっきに比べてめっきに必要な時間が短いため、電解めっきの場合のほうがより厚いめっき層に現実的なコストで対応できる。ただし、無電解めっきは、つながった電極ラインだけでなく、島として浮いた領域にめっきができる利点を有する。
【0051】
<回路基板の製造方法>
(プライマーの塗布工程)
この工程では、ポリイミド製の基材の表面にプライマーとしての樹脂層12のための樹脂溶液を塗布する。プライマーの塗布は限定するものではないが生産性を考慮すると、ポリイミドフィルムのロールトゥロールの塗工方式が好ましい。塗布したプライマーとしての樹脂層は室温から200℃の範囲内の温度で硬化させる。
【0052】
(インクの塗布工程)
この工程では、プライマーが塗布・硬化された基材の表面に、金属ナノ粒子を含むインクを塗布する。この塗布は、基材上に全面塗布する場合とパターン状に塗布する場合とがある。パターン状に塗布する場合には、印刷による方法が採用でき、典型的にはインクジェット法を用いる。但し、必ずしもインクジェット法に限るものではなく、これ以外の塗布方法を用いてもよい。また、後述する実験では、バーコーターによる塗布も行っている。
【0053】
金属ナノ粒子を含んだインクを基材に塗布した後、溶媒がある場合はこれを除去する乾燥工程を行う。この工程は公知の金属ナノ粒子インクの乾燥工程と同様である。金属ナノ粒子を含んだインクの乾燥方法としては、オーブンなどによる加熱、温風乾燥等を採用することができる。
【0054】
(光焼結工程)
上記インク塗布工程、乾燥工程の後、光焼結の工程を実行する。そのためには、市販のフォトシンタリングの装置、例えば、ウシオ電機株式会社製の光焼結装置(B0320―A)を利用可能である。その際、基材とランプの間隔を設定し、電圧と照射時間などを調整して行う。光焼結は瞬時に終了するので、次の工程に進むまでの時間が短くて済む。
【0055】
(めっき工程)
形成された光焼結層に対し、めっき処理を行う。これにより、焼結層の表面および内部にめっき金属を析出させる。めっき方法は公知のめっき液を用いた公知のめっき処理と同様であり、具体的には無電解銅めっき、電解銅めっき、電解ニッケルめっき等を含みうる。
【0056】
次に、本実施形態の樹脂層(下地層)を用いて光焼結およびめっき処理を行う具体的な実施例を示す。
【0057】
(実施例1)
実施例1では、厚さ25μmのポリイミド製の基材に5重量%の、エポキシ樹脂の下地層になるモノマー、オリゴマー、硬化剤を含んだ溶液を10μmの塗布膜厚になるバーコーターで塗布し、150℃で1時間の硬化を行った。
【0058】
このエポキシ樹脂の樹脂溶液の特徴は、TG-DTAで示すと図6のようになる。
【0059】
この樹脂溶液は、33重量%ほどの溶剤を含んでおりチャート上では100℃より上の温度(150℃付近)で蒸発して重量が減少し(曲線B参照)、吸熱があった様子(曲線A参照)が見て取れる。また、400℃以上のところでも吸熱の部分が確認され(曲線A参照)、その後に発熱する様子が観測される(曲線A参照)。400℃過ぎあたりで曲線Bに表れた重量の変化のわりに、曲線Aに表れたこれらの吸熱と発熱のピークは相殺しあってどちらも小さい。この温度付近での発熱は燃焼によるものと解釈できる。400℃を越えた辺りの吸熱部分は200℃までに硬化した一部の樹脂成分が分解して蒸発するときの吸熱と考えられる。
【0060】
この重量減少を示す曲線Bで500℃のところを見ると、25%程度の重量は残留しており、焼結操作で強度を失うほど減少するリスクは小さいと推定できる。
【0061】
このようなエポキシ樹脂は、そのTG-DTA分析結果により特定できれば足り、特定の組成に限定されるものではない。同等のTG-DTA分析結果が得られれば、種々の添加物などで変性したものでもよい。
【0062】
下地層の硬化後の基板に、15重量%の濃度の銅ナノ粒子のインクを10μmの塗布膜厚のバーコーターで塗布した。塗布した基板は室温で溶剤が乾くのを見てから60℃のオーブンで30分乾燥した。
【0063】
乾燥の終了した基板は光焼結装置 B0320―A(ウシオ電機株式会社製)にセットし、2700Vから3000Vの間の電圧で光焼結操作を行った。具体的にはOhir社製サーマルセンサーL50(150)A-LP2-35を用いて、1.2W ±0.02Wの範囲にキセノンランプの光量が出るように電圧と照射時間(ミリ秒)の調整をした。ランプからサンプル表面までの距離は5cmとした。
【0064】
「吹き飛び」は、ひどい場合には目視ですぐに分かるが、微妙な場合には、デジタルマイクロスコープ(VHX-8000 株式会社キーエンス製)を用いて光学顕微鏡写真を撮って確認した。抵抗値は4端子の抵抗計RM3544(日置電機株式会社製)を用いて行った。この結果、「吹き飛び」が無く、抵抗値が0.1Ω以下の光焼結層(光焼結膜)からなる導電膜を得ることができた。
【0065】
このようにして出来上がった金属ナノ粒子を含む焼結層を形成した基板に対し、10重量%硫酸で10秒間処理し、水洗した。その後、無電解銅めっき液のプレディップを行い、銅、アルカリ、ホルムアルデヒドを主成分とする無電解銅めっき液を用いて、液温65℃で4時間の無電解銅めっきを行った。その後、変色防止剤に常温で1分間浸けたあと、乾燥させた。
【0066】
その結果、光焼結後の基材表面にめっき処理によりめっき層が形成され、通常のデバイスに使える導電性も確保された。
【0067】
このようにして出来上がった基板を150℃で1時間のアニールを行い、引きはがし試験に掛けたところ、0.48N/mmの密着強度を得ることができた。これは米国のUL規格を超える強度である。さらに150℃96時間では、0.40N/mmの密着強度を保った。また85℃湿度85%の環境に96時間置いた後は、0.70N/mmと密着強度が上がった。その理由は現状解明されていないが、このように過酷な環境においても実用に耐えうるレベルのサンプルを作ることができた。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、厚さ25μmのポリイミド製の基材に5重量%の、エポキシ樹脂の樹脂層になるモノマー、オリゴマー、硬化剤を含んだ溶液を10μmの塗布膜厚になるバーコーターで塗布し、150℃で1時間の硬化を行った。
【0069】
このエポキシ樹脂の樹脂溶液の特徴は、TG-DTAで示すとの図7のようになり、図6と比べるとわずかに異なるのが分かる。
【0070】
この樹脂溶液は、34重量%ほどの溶剤を含んでおり、チャート上では100℃より上の温度(150℃付近)で蒸発して重量が減少し(曲線B参照)、吸熱があった様子(曲線A参照)が見て取れる。他方、400℃以上のところでも吸熱の部分が確認され(曲線A参照)、その後に発熱する様子が観測される(曲線A参照)。400℃過ぎあたりで曲線Bに表れた重量の変化のわりに、曲線Aに表れたこれらの吸熱と発熱のピークは相殺しあってどちらも小さい。この温度付近での発熱は燃焼によるものと解釈できる。400℃を越えた辺りの吸熱部分は200℃までに硬化した一部の樹脂成分が分解して蒸発するときの吸熱と考えられる。
【0071】
この重量減少を示す曲線Bで500℃のところを見ると、25%程度の重量は残留しており、焼結操作で強度を失うほど減少するリスクは小さいと推定できる。
【0072】
このようなエポキシ樹脂は、そのTG-DTA分析結果により特定できれば足り、特定の組成に限定されるものではない。同等のTG-DTA分析結果が得られれば、種々の添加物などで変性したものでもよい。
【0073】
樹脂層(下地層)の硬化後の基板に、15重量%の濃度の銅ナノ粒子のインクを10μmの塗布膜厚のバーコーターで塗布した。塗布した基板は室温で溶剤が乾くのを見てから60℃のオーブンで30分乾燥した。
【0074】
乾燥の終了した基板は光焼結装置 B0320―A(ウシオ電機株式会社製)にセットし、3400Vから4000Vの間の電圧で光焼結操作を行った。電圧等の設定は操作後の基板の導電性を4端子の表面抵抗測定装置を用いて調整した。この結果、吹き飛びが無く、抵抗値が0.1Ω以下の光焼結層(光焼結膜)からなる導電膜を得ることができた。
【0075】
このようにして得られた金属ナノ粒子を含む焼結層を形成した基板に対し、10%硫酸で10秒間処理し、水洗した。その後、無電解銅めっき液のプレディップを行い、銅、アルカリ、ホルムアルデヒドを主成分とする無電解銅めっき液を用いて、液温65℃で4時間の無電解銅めっきを行った。その後、変色防止剤に常温で1分間浸けたあと、乾燥させた。
【0076】
その結果、光焼結後の基材表面にめっき処理によりめっき層が形成され、通常のデバイスに使える導電性も確保された。
【0077】
このようにして出来上がった基板を150℃で1時間のアニールを行い、引きはがし試験に掛けたところ、0.46N/mmの密着強度を得ることができた。これは米国のUL規格を超える強度である。さらに150℃96時間では、0.33N/mmの密着強度を保った。
【0078】
また、温度85℃、湿度85%の環境に96時間置いた後は、0.65N/mmと密着強度が上がった。
【0079】
わずかであるが、150℃96時間の耐熱試験ではUL規格よりも密着強度が下がってしまった。TG-DTA分析結果のわずかな差が、このような結果に反映したものと思われる。
【0080】
しかし、250℃で1時間のアニールをしたものは、基材破断を起こすほどの強固な密着強度になった。
【0081】
(実施例3)
実施例3では、厚さ25μmのポリイミド製の基材に5重量%の、エポキシ樹脂の下地層になるモノマー、オリゴマー、硬化剤を含んだ溶液を10μmの塗布膜厚になるバーコーターで塗布し、150℃で1時間の硬化を行った。
【0082】
このエポキシ樹脂の樹脂溶液の特徴は、TG-DTAで示すと図3のようになった。すなわち、300℃以上400℃以下の領域内に大きな吸熱のピークが観測され(曲線A参照)、光焼結時の「吹き飛び」は生じなかった。
【0083】
しかし、500℃の残留樹脂量は5%以下と、ほとんどなく(曲線B参照)、密着強度は0.05N/mmであった。すなわち、十分な密着強度が得られるためには、光焼結時の「吹き飛び」が生じないことは次の工程に進むために必要であるが、強度に関しては十分ではないことが分かる。この結果から、TG-DTAデータで、高温時(500℃)の残留樹脂が少なくなったものは、プライマーが光焼結時にも著しく減少し、密着強度を維持するだけの樹脂量が存在しない可能性があると推定した。
【0084】
(実施例4)
実施例4では、厚さ25μmのポリイミド製の基材に5重量%の、エポキシ樹脂の下地層になるモノマー、オリゴマー、硬化剤を含んだ溶液を10μmの塗布膜厚になるバーコーターで塗布し、150℃で1時間の硬化を行った。
【0085】
このエポキシ樹脂の樹脂溶液の特徴は、TG-DTAで示すと図8のようになった。すなわち、300℃以上の領域内に顕著な吸熱のピークが見られず発熱のピークのみが観測され(曲線A参照)、光焼結時には「吹き飛び」が生じやすかった。但し、低電圧で光焼結することで、吹き飛びを回避してサンプルを作製することができた。このように吹き飛びやすいものも、光照射条件の調整で吹き飛びを回避できる場合も、まれにある。
【0086】
また、このエポキシ樹脂の500℃での残留重量は41%であり(曲線B参照)、密着強度は0.6N/mmと良好であった。
【0087】
ここで、表1に上記実施例で用いたエポキシ樹脂の試料1~5についての実験データをまとめたものを示す。
【表1】
【0088】
この表1において、「エポキシ樹脂No.」は使用したエポキシ樹脂の試料番号および対応する実施例を表している。「硬化温度℃」はそのエポキシ樹脂の試料のTG-DTA分析結果のチャート(曲線A)から読みとった130~200℃の温度領域内の発熱ピークの温度である。また「360℃以上吸発熱ピーク温度℃」も試料のTG-DTA分析結果のチャート(曲線A)から読みとった360℃以上の温度領域内の吸発熱ピークの温度である。「吹き飛び抑止」の項目はその試料についての光焼結時の「吹き飛び」の有無に関し「〇」は「吹き飛び」は無し、「△」は若干の「吹き飛び」有りを表している。左側の「500℃残量」(500℃残留重量)は当該試料のTG-DTA分析結果のチャート(曲線B)から読みとった当該樹脂の残留重量(重量%)を表している。右側の「500℃残量」は当該樹脂の溶剤抜き固体分の残留重量(重量%)を表している。これは元から溶剤を含んでいる樹脂系について「溶剤抜き個体分」について換算した残留重量である。「密着強度」はULアニール後の強度測定値(N/mm)を示し、「〇」は良好、「×」は不良を表している。
【0089】
なお、試料5は、「500℃残量」が34%、「密着強度」が0.4N/mmと良好であるが、360℃以上の領域内に吸熱ピークが無く、「吹き飛び抑止」が若干の「吹き飛び」有りの実施例5を示している。この実施例5については便宜上、TG-DTA分析結果のチャートは図示せず、データのみを挙げている。
【0090】
(変形例)
以上、好適な実施形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形・変更を行うことが可能である。使用した材料、長さ、厚さ、比率、温度、時間等は例示であり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0091】
10 回路基板
11 基材(絶縁性基材)
12 樹脂層(プライマー、下地層)
13 金属ナノ粒子層(インク層、光焼結層、導電膜)
14 めっき層
14b 配線パターン(導電パターン)
41,42 表面部分
A 曲線(DTA曲線)
B 曲線(TG曲線)
C 曲線(DTG曲線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8