(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008960
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】回路基板及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240112BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20240112BHJP
H05K 3/38 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B23K20/10
H01L23/36 C
H05K3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183259
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2022581312の分割
【原出願日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2021020504
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 怜
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恒平
(57)【要約】
【課題】超音波接合技術を転用して回路パターンに接合した追加の金属層に、はんだにより実装する半導体チップ等の電子部品の放熱性を、より向上させることを可能にする回路基板及び製造方法を得る。
【解決手段】基板5上に回路パターン3を備え、回路パターン3の上に追加の金属層9を積層し接合した回路基板1であって、追加の金属層9は、半導体チップ11をはんだで固定する取付面部13と、取付面部13に隣接して設けられ追加の金属層9を回路パターン3の上に超音波振動により接合させるための振動伝達用の工具の工具凹凸部を係合させる係合凹凸部17を備え、取付面部13は、係合凹凸部17よりも凹凸の小さい面からなる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に回路パターンを備え、前記回路パターンの上に追加の金属層を積層し接合した回路基板であって、
前記追加の金属層は、
電子部品を固定する取付面部と、
この取付面部に隣接して設けられ前記追加の金属層を前記回路パターンの上に超音波振動により接合させるための振動伝達用の工具の工具凹凸部を係合させる係合凹凸部と、
を備え、
前記取付面部は、前記係合凹凸部よりも凹凸の小さい面からなり、
前記係合凹凸部は、係合凹部及び係合凸部を備え、
前記係合凸部は、頂部に凹みを備え又は頂部に平坦面を備えた、
回路基板。
【請求項2】
請求項1記載の回路基板であって、
前記取付面部は、平面である、
回路基板。
【請求項3】
請求項1記載の回路基板であって、
前記取付面部は、前記係合凹凸部よりも小さい凹凸を有する凹凸面である、
回路基板。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の回路基板であって、
前記係合凹凸部は、前記取付面部の周囲を囲む全周又は全周の一部に備えた、
回路基板。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の回路基板であって、
前記係合凹凸部は、前記係合凹部及び前記係合凸部が間欠的又は連続的に備えられた、
回路基板。
【請求項6】
請求項5記載の回路基板であって、
前記間欠的に備えられた係合凹部及び係合凸部は、隣接する係合凹部相互及び係合凸部相互が整列又は位置ずれして配置された、
回路基板。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の回路基板であって、
前記係合凸部は、前記取付面部よりも突出する、
回路基板。
【請求項8】
請求項7記載の回路基板であって、
前記係合凸部は、前記追加の金属層の塑性変形により前記取付面部よりも隆起した、
回路基板。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の回路基板であって、
前記係合凹凸部は、前記工具凹凸部の圧痕である、
回路基板。
【請求項10】
請求項1~8の何れか一項に記載の回路基板であって、
前記係合凹凸部は傾斜した側面を有する、
回路基板。
【請求項11】
基板上に回路パターンを備え、前記回路パターンの上に追加の金属層を積層及び接合し、前記追加の金属層が、電子部品を固定する取付面部と、この取付面部に隣接して設けられた係合凹凸部と、を備え、前記取付面部が、前記係合凹凸部よりも凹凸の小さい面からなる回路基板の製造方法であって、
前記回路パターンの上に前記追加の金属層を積層し、
前記取付面部と前記係合凹凸部とに対応した退避部と工具凹凸部とを備えた工具を、前記追加の金属層の表面に押し当てて超音波振動し、前記退避部に応じた範囲に前記取付面部を前記追加の金属層の表面に残し、且つ前記工具凹凸部により前記係合凹凸部を前記追加の金属層の表面に形成しつつ前記超音波振動の伝達により前記追加の金属層を前記回路パターンの上に接合させた、
回路基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の回路基板の製造方法であって、
前記超音波振動時に、前記退避部と前記追加の金属層の表面との間に摩擦低減材を介在させ、前記退避部が前記摩擦低減材を介して前記追加の金属層の表面に押し当てられる、
回路基板の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の回路基板の製造方法であって、
前記退避部が、前記追加の金属層の表面に対する摩擦を低減させる低減凹凸部を有し、
前記低減凹凸部が、前記追加の金属層の表面に押し当てられる、
回路基板の製造方法。
【請求項14】
請求項11~13の何れか一項に記載の回路基板の製造方法であって、
前記追加の金属層の表面に押し当てる工具の押付け荷重は、前記追加の金属層の塑性変形により前記係合凹凸部の係合凸部が前記取付面部よりも隆起する程度である、
回路基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の回路基板の製造方法であって、
前記工具の押付け荷重は、前記係合凹凸部の係合凸部の頂部に凹み又は平坦面を形成する程度である、
回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板及びその製造に用いる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーデバイスの大電流化ニーズは益々高まっており、同時に半導体のコスト低減ニーズも高まっている。これに応じ、低価格で大電流に対応できる回路基板の開発要求が高まっている。
【0003】
従来の回路基板として特許文献1に記載のものがある。
【0004】
この回路基板の回路パターンは、銅箔(Cu箔)或いはアルミ箔(Al箔)の湿式エッチングにより形成されている。
【0005】
大電流化等のためには、Cu箔を厚くして回路パターンに搭載される半導体チップ等電子部品の発熱を効果的に放熱することが肝要となるが、Cu箔を厚くするとエッチング加工時間が長くなり、回路パターンの寸法精度も悪化することになる。
【0006】
これに対し、特許文献2に記載の配線基板は、Cu箔のエッチングにより形成した回路パターン上に、コールドスプレー法で上積み回路パターンが形成されている。この配線基板は、上積みにより回路パターンを部分的に厚くすることでエッチング加工時間を抑制しながら放熱性を高めている。
【0007】
しかし、コールドスプレー法は、溶射材料粒子を固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成する技術である。このため、上積み回路パターンのCu層には大きな残留応力や熱応力が生じ易く、基板の反りが懸念されていた。また、原材料として粉末を使用するのでコストが高くなっていた。
【0008】
これに対し、特許文献3に記載の超音波接合技術を転用し、Cu箔等の回路パターンに追加のCu箔等の金属層を積層し接合することが考えられる。この接合技術は、超音波ホーンによって電極端子を加圧しながら回路パターンとの接合面の面方向に超音波振動を加えるもので、超音波振動により電極端子を回路パターンに接合させている。
【0009】
かかる超音波接合技術を単に転用すると、超音波ホーンによって追加の金属層を加圧しながら接合面の面方向に超音波振動を加えて金属層を回路パターンに接合させることになる。
【0010】
したがって、特許文献2のコールドスプレー法のように基板の反りを招き難く、高価な粉末を使用することもないという利点はある。
【0011】
しかし、電子部品の実装面を含めた追加の金属層の表面に、超音波ホーンの加圧によるツール痕(溝)が残る。このため、追加の金属層上に電子部品をはんだにより実装すると、熱伝導率の低いはんだがツール痕に溜まって余分に残留するため電子部品の放熱性向上に限界を招くことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】2002-012653号公報
【特許文献2】2006-319146号公報
【特許文献3】2016-096172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする問題点は、超音波接合により回路パターンに追加の金属層を接合し、その追加の金属層上に電子部品をはんだにより実装すると、電子部品の放熱性向上に限界を招く点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の回路基板は、基板上に回路パターンを備え、前記回路パターンの上に追加の金属層を積層し接合した回路基板であって、前記追加の金属層は、電子部品をはんだで固定する取付面部と、この取付面部に隣接して設けられ前記追加の金属層を前記回路パターンの上に超音波振動により接合させるための振動伝達用の工具の工具凹凸部を係合させる係合凹凸部と、を備え、前記取付面部は、前記係合凹凸部よりも凹凸の小さい面からなり、前記係合凹凸部は、係合凹部及び係合凸部を備え、前記係合凸部は、頂部に凹みを備え又は頂部に平坦面を備えた。
【0015】
本発明の回路基板を製造するための製造方法は、前記回路パターンの上に前記追加の金属層を積層し、前記取付面部と前記係合凹凸部とに対応した退避部と工具凹凸部とを備えた工具を、前記追加の金属層の表面に押し当てて超音波振動し、前記退避部に応じた範囲に前記取付面部を前記追加の金属層の表面に残し、且つ前記工具凹凸部により前記係合凹凸部を前記追加の金属層の表面に形成しつつ前記超音波振動の伝達により前記追加の金属層を前記回路パターンの上に接合させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回路基板によれば、回路パターンの上に追加の金属層を積層し接合したので、追加の金属層の取付面部にはんだで固定した電子部品の放熱性を金属層による厚みの増加により高めることができる。
【0017】
追加の金属層の接合は、金属層の係合凹凸部に工具凹凸部が係合する状態で、工具により面方向の超音波振動を伝達して確実に行うことができる。
【0018】
また、追加の金属層の取付面部に電子部品を固定する際には、はんだの流出を取付面部に隣接した係合凹凸部が抑制することができる。
【0019】
本発明の回路基板の製造方法によれば、追加の金属層の表面に取付面部を備えつつ、超音波振動により接合させる際に使用した係合凹凸部を利用して、電子部品を固定するはんだの流れ出しを抑制できる。
【0020】
本発明の回路基板の製造方法に用いる工具は、回路基板の製造方法を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1に係り、半導体チップ搭載前の回路基板の概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係り、半導体チップ搭載後の回路基板の概略断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係り、半導体チップ搭載後の追加銅板の概略拡大平面図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線矢視における概略拡大断面図である。
【
図5】
図5(A)は、実施例1の変形例に係る追加銅板の要部拡大概略断面図、
図5(B)は、実施例1の他の変形例に係る追加銅板の要部拡大概略断面図である。
【
図6】
図6(A)及び(B)は、追加銅板を回路パターンに超音波接合する状況の概略断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1の変形例において、工具を追加銅板に押し付けた状態の要部拡大断面図である。
【
図8】
図8は、実施例1の変形例に係り、追加銅板の取付面部及び係合凹凸部を示す要部拡大断面図である。
【
図9】
図9は、実施例1の他の変形例において、工具を追加銅板に押し付けた状態の要部拡大断面図である。
【
図10】
図10は、実施例1の他の変形例に係り、追加銅板の取付面部及び係合凹凸部を示す要部拡大断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例2に係り、半導体チップ搭載前における追加銅板の概略平面図である。
【
図16】
図16は、実施例3に係り、半導体チップ搭載前における追加銅板の概略平面図である。
【
図18】
図18(A)及び(B)は、実施例3の変形例に係り、
図18(A)は、
図16のXVII部における要部拡大平面図、
図18(B)は、
図16のXVII部における要部拡大断面図である。
【
図19】
図19(A)及び(B)は、本発明の実施例4に係り、
図19(A)は、半導体チップ搭載前における追加銅板の概略平面図、
図19(B)は、
図19(A)のXIX部の断面図である。
【
図20】
図20(A)及び(B)は、本発明の実施例4に係り、
図20(A)は、取付面部の形成前における追加銅板の概略平面図、
図20(B)は、
図20(A)のXX部の断面図である。
【
図21】
図21(A)及び(B)は、本発明の実施例5に係り、
図21(A)は半導体チップ搭載前における追加銅板の概略平面図、
図21(B)は
図21(A)のXXI部の断面図である。
【
図22】
図22は、本発明の実施例5に係る追加銅板を回路パターンに超音波接合する状況の概略断面図である。
【
図23】
図23は、実施例5の変形例に係る追加銅板を回路パターンに超音波接合する状況の概略断面図である。
【
図24】
図24は、本発明の実施例6に係る追加銅板を回路パターンに超音波接合する状況の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、超音波接合技術を転用して回路パターンに接合した追加の金属層に、はんだにより実装する半導体チップの放熱性を、より向上させるという目的を、以下のように実現した。
【0023】
本発明の回路基板は、基板(5)上に回路パターン(3)を備え、回路パターン(3)の上に追加の金属層(9)を積層し接合している。追加の金属層(9)は、電子部品(11)をはんだで固定する取付面部(13)と、この取付面部(13)に隣接して設けられ、追加の金属層(9)を回路パターン(3)の上に超音波振動により接合させるための振動伝達用の工具(T)の工具凹凸部(15)を係合させる係合凹凸部(17)とを備える。取付面部(13)は、係合凹凸部(17)よりも凹凸の小さい面からなる。
【0024】
取付面部(13)は、係合凹凸部(17)よりも凹凸の小さい面であればよいため、平面や係合凹凸部よりも小さい凹凸を有する凹凸面とすることができる。
【0025】
係合凹凸部(17)は、取付面部(13)よりも突出する係合凸部(17b)を備える形態とする。ただし、係合凹凸部(17)の凹凸は相対的なものであり、係合凸部(17b)が取付面部(13)と面一の高さや取付面部(13)よりも低い係合凸部(17b)を備える形態によっても実現できる。取付面部(13)よりも突出する係合凸部(17b)は、追加の金属層(9)の塑性変形により取付面部(13)よりも隆起する形態にすることができる。係合凸部(17b)は、頂部に凹み(17c)を備え又は頂部に平坦面(17d)を備える形態として実現できる。また、係合凹凸部(17)は、傾斜した側面(17e)を有する形態としてもよい。
【0026】
係合凹凸部(17)は、工具凹凸部(15)の圧痕である。係合凹凸部(17)は、超音波振動伝達用の工具(T)とは別の専用の工具の押し付けにより形成することもできる。係合凹凸部(17)は、追加の金属層(9)に切削やレーザー等で加工することもできる。
【0027】
係合凹凸部(17)と工具凹凸部(15)とは、工具凹凸部(15)の押し付けで係合凹凸部が形成される場合は1:1で対応するが、係合凹凸部(17)を切削やレーザー等で加工する場合には工具凹凸部(15)を係合凹凸部(17)よりも少ない凹凸部に設定しても実現できる。
【0028】
係合凹凸部(17)は、取付面部(13)の周囲を囲む全周又は全周の一部に備えてもよい。係合凹凸部(17)は、工具の工具凹凸部(15)が係合でき超音波振動を追加の金属層(9)に伝達し、且つはんだの流れ出しを一部でも抑制できればよい。
【0029】
係合凹凸部(17)は、係合凹部(17a)及び係合凸部(17b)が間欠的又は連続的に備えられて実現した。間欠的な係合凹部(17a)及び係合凸部(17b)は、隣接する係合凹部(17a)相互及び係合凸部(17b)相互が取付面を囲む全周方向及び周交差方向に整列配置された形態、規則的に位置ずれして配置された形態、ランダムに配置された形態の何れでも実現できる。連続的な係合凹凸部(17)は、係合凹部(17a)及び係合凸部(17b)が取付面部(13)を囲む全周で連続する形態、間欠的に連続する形態の何れでも実現できる。
【0030】
回路基板を製造するための製造方法は、取付面部(13)と係合凹凸部(17)とに対応した退避部(21)と工具凹凸部(15)とを備えた工具(T)を用いる。すなわち、回路パターン(3)の上に追加の金属層(9)を積層し、工具(T)を追加の金属層(9)の表面に押し当てて超音波振動する。これによって、退避部(21)に応じた範囲に取付面部(13)を追加の金属層(9)の表面に残し、且つ工具凹凸部(15)により係合凹凸部(17)を追加の金属層(9)の表面に形成しつつ超音波振動の伝達により追加の金属層(9)を回路パターン(3)の上に接合させる。
【0031】
超音波振動時には、退避部(21)と追加の金属層(9)の表面との間に摩擦低減材(27)を介在させ、退避部(21)が摩擦低減材(27)を介して追加の金属層(9)の表面に押し当てられてもよい。また、退避部(21)が、追加の金属層(9)の表面との間の摩擦を低減させる低減凹凸部(25)を有し、低減凹凸部(25)が、追加の金属層(9)の表面に押し当てられてもよい。
【0032】
回路基板の製造方法において、追加の金属層(9)の表面に押し当てる工具(T)の押付け荷重は、係合凹凸部(17)の係合凸部(17b)が取付面部(13)よりも追加の金属層(9)から一体に隆起する程度としてもよい。
【0033】
また、工具の押付け荷重は、係合凸部(17b)の頂部に凹み(17c)又は平坦面(17d)を形成する程度としてもよい。
【0034】
回路基板の製造方法に用いる工具(T)は、取付面部(13)と係合凹凸部(17)とに対応した退避部(21)と工具凹凸部(15)とを備える。
【実施例0035】
[回路基板]
図1は、実施例1に係り、半導体チップ搭載前の回路基板の概略断面図である。
図2は、半導体チップ搭載後の回路基板の概略断面図である。
【0036】
図1、
図2の回路基板1は、大電流化ニーズに応じた回路パターン3として追加の金属層により回路パターンを部分的に厚くしたものである。
【0037】
回路基板1は、金属基板5上に絶縁層7を介して回路パターン3を備えた金属ベース回路基板である。ただし、回路基板1は、セラミック基板上に回路パターン3を形成したセラミック回路基板等としてもよい。回路パターン3は、追加の金属層である追加銅板9を積層し接合している。これにより、回路パターン3は、部分的に厚くされ放熱性を高められている。
【0038】
回路パターン3は、例えば厚みが0.5mmの回路用銅材料で形成されている。回路パターン3の厚みはエッチング加工時間を考慮して設定され、0.5mm以外の厚みを選択することもできる。回路パターン3は、アルミニウム等で形成することもできる。
【0039】
この回路パターン3は、エッチングで形成され、複数の回路導体3aを備えている。複数の回路導体3aの構成は、回路パターン3の要求特性に応じている。なお、回路パターン3は、予めプレスや切削によって形成されたものを金属基板5上に絶縁層7を介して貼り付けてもよい。
【0040】
金属基板5は、例えば、単体金属又は合金からなり、厚さは、例えば2.0mmに設定されている。金属基板5は、可撓性を有していてもよく、可撓性を有していなくてもよい。金属基板5の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、又はステンレスを使用することができる。金属基板5は、炭素などの非金属を更に含んでいてもよい。例えば、金属基板5は、炭素と複合化したアルミニウムを含んでいてもよい。また、金属基板5は、単層構造、又は多層構造を有していてもよい。
【0041】
金属基板5は、高い熱伝導率を有している。例えば、銅材では、370~400W・m-1・K-1、アルミ材では、190~220W・m-1・K-1、鉄材では、60~80W・m-1・K-1の熱伝導率を有している。
【0042】
なお、回路基板1としては、ヒートシンク形状の金属基板を用いることもできる。
【0043】
絶縁層7は、回路パターン3を金属基板5から電気的に絶縁する役割を果たしているのに加え、それらを互いに張り合わせる接着剤としての役割も果たしている。そのため、絶縁層7には一般に樹脂が使用され、厚さは、例えば0.13mmに設定されている。
【0044】
さらに、絶縁層7は、回路パターン3に実装される素子の高い発熱性に対する高い耐熱性と、この発熱を金属基板5に伝達する高い熱伝達性とが必要とされるため、絶縁層7は無機充填材を更に含有することが好ましい。
【0045】
絶縁層7は、エポキシ樹脂、シアネート樹脂等によって構成することができる。エポキシ樹脂には、例えばアミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤が組み合わされる。シアネート樹脂には、例えばジシアンジアミドやフェノール樹脂が硬化剤として組み合わされる。また、絶縁層7は、熱可塑性樹脂である全芳香族ポリエステル等の液晶ポリマーやその他の熱可塑性樹脂によって構成してもよい。
【0046】
絶縁層7が含有する無機充填材としては、電気絶縁性に優れかつ熱伝導率の高いものが好ましく、例えば、アルミナ、シリカ、窒化アルミ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0047】
絶縁層7における無機充填材の充填率は、無機充填剤の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、絶縁層7に含有される樹脂の全体積を基準として85体積%以下であることが好ましく、30~85体積%がより好ましい。
【0048】
絶縁層7は、例えば、カップリング剤、分散剤等を更に含有してもよい。
【0049】
なお、絶縁層7として半硬化状態の絶縁シートを用いることもできる。
【0050】
[追加の金属層]
図3は、半導体チップ搭載後の追加の金属層の概略拡大平面図である。
図4は、
図3のIV-IV線矢視における半導体チップ搭載後の追加の金属層の概略拡大断面図である。
図5(A)及び(B)は、実施例1の変形例に係り、
図5(A)は、係合凸部の頂部に凹みを備えた追加銅板に半導体チップを搭載した状態の概略要部拡大断面図、
図5(B)は、係合凸部の頂部に平坦部を備えた追加銅板に半導体チップを搭載した状態の概略要部拡大断面図である。
【0051】
図1~
図4のように、追加の金属層である追加銅板9は、銅板材で形成され、取付面部13と、係合凹凸部17とを備えている。なお、追加の金属層は、回路パターン3に応じて適宜の材質を採用することが可能であり、例えばアルミニウム板材による追加アルミ板などで構成することもできる。
【0052】
追加銅板9は、回路パターン3の選択した回路導体3aに接合されている。追加銅板9は、例えば10mm角、厚さ1.0mmとなっている。なお、追加銅板9は、回路導体3aの厚みを増加させるためのものであり、その寸法は対象となる回路導体3aや半導体チップ11の寸法に応じている。
【0053】
取付面部13は、電子部品である半導体チップ11をはんだで実装するためのものである。取付面部13は、係合凹凸部17よりも凹凸の小さい面からなり、本実施例において全体を平面とする。ただし、取付面部13は、一部又は全部に凹部等が存在しても実現できる。
【0054】
取付面部13の平面形状は、搭載する半導体チップ11の平面視の外郭形状と相似的に形成されている。この取付面部13は、平面視で正方形の半導体チップ11よりも大きくほぼ正方形に設定されている。
【0055】
ただし、取付面部13の平面形状を半導体チップ11の平面視の外郭形状と異ならせることもできる。例えば、取付面部13は、平面視で円形等としてもよい。また、取付面部13の平面形状は、半導体チップ11よりも小さく、或いは半導体チップ11と同等に形成されてもよい。
【0056】
係合凹凸部17は、取付面部13に隣接して設けられ、追加銅板9を回路パターン3の上に面方向の超音波振動により接合させるための振動伝達用の工具T(
図7で後述する。)の工具凹凸部15(
図7で後述する。)を係合させるものである。この係合凹凸部17は、追加銅板9を回路パターン3の上に接合させた状態で、工具凹凸部15を係合させるものとして既使用となっている。また、係合凹凸部17は、はんだの追加銅板9外への流れ出しを抑制するために備えられている。
【0057】
なお、係合凹凸部17の取付面部13に対する隣接は、取付面部13の外縁に接する位置、取付面部13の外縁に対して間隔を有する外側位置のいずれでもよい。
【0058】
かかる係合凹凸部17は、係合凹部17a及び係合凸部17bを備えている。係合凹部17a及び係合凸部17bは、取付面部13の周囲を囲む全周で間欠的に備えられている。
【0059】
係合凹部17a及び係合凸部17bが取付面部13の全周で間欠的とは、正方形状の取付面部13の各辺に沿って係合凹部17a及び係合凸部17bが一定間隔で規則的に配置されていることを意味する。係合凹部17a及び係合凸部17bの間隔は、ランダムに設定することもできる。
【0060】
係合凹部17a及び係合凸部17bは、追加銅板9の正方形の外縁各辺と取付面部13との間で2列又は3列に配列形成されている。この列の数は特に限定されず、増減することもできる。正方形の各辺で列の数を異ならせることもできる。
【0061】
係合凹部17a及び係合凸部17bは、取付面部13の周囲を囲む全周の一部に備えることもできる。
【0062】
図3、
図4のように、係合凹凸部17の係合凹部17aは、平面視で四角形状に形成され、断面で逆四角錐状となっている。この結果、係合凹凸部17は、傾斜した側面17eを有する。ここでの傾斜とは、追加銅板9の板厚方向に対して傾斜することをいう。
【0063】
図4のように係合凹凸部17の係合凹部17aは、底部が取付面部13よりも低くなっている。係合凹凸部17は、工具凹凸部15(
図7で後述する。)を係合させ、且つはんだの流れ出しを抑制するものであればよく、係合凹部17aの形状も特に限定されず、曲面で形成された凹部等とすることもできる。
【0064】
係合凹凸部17の係合凸部17bは、取付面部13よりも突出するように設定されている。係合凹部17a及び係合凸部17bを含む係合凹凸部17は、後述する工具凹凸部15の圧痕であり、係合凸部17bは、追加銅板9の塑性変形により取付面部13よりも隆起して形成されている。
【0065】
係合凸部17bは、
図5(A)の変形例のように、頂部に凹み17cを備え、又は
図5(B)の他の変形例のように頂部に平坦面17dを備えてもよい。
【0066】
図5(A)の凹み17cは、係合凹部17aの開口部周縁の隆起部17caによって形成されている。取付面部13に最も近い係合凹部17aの隆起部17caは、平面視で取付面部13に隣接している。追加銅板9の外縁部では、隆起部17caが外縁の平面部19に隣接している。なお、追加銅板9の外縁まで係合凹凸部17を形成し、外縁の平面部19は備えなくてもよい。平面部19は、係合凹凸部17形成前の追加銅板9の共通表面であり取付面部13と同一の高さとなっている。
【0067】
図5(B)の他の変形例のように、係合凸部17bが頂部に平坦面17dを有する場合、
図5(A)の変形例の追加銅板9と同様に隆起部17caが取付面部13と外縁の平面部19とに隣接している。
【0068】
半導体チップ11は、取付面部13にはんだにより固定されている。半導体チップ11は、図示はしないがアルミニウム製ワイヤ等で他の回路導体3aに結線される。
【0069】
以上説明したように、回路基板1は、回路導体3aの上に追加銅板9を超音波接合して回路パターン3を部分的に厚くした。
【0070】
このため、追加銅板9の取付面部13にはんだで実装した半導体チップ11の放熱性を追加銅板9による厚みの増加により高めることができる。
【0071】
追加銅板9は、中央の取付面部13が平面である。このため、半導体チップ11を取付面部13には、半導体チップ11の実装時に半導体チップ11と取付面部13との間のはんだが必要以上に残ることが抑制される。これにより、回路基板1の放熱性の低下を抑制することができる。
【0072】
半導体チップ11の実装時に半導体チップ11を取付面部13に固定するはんだが取付面部13から周囲へ流出するときは、係合凹凸部17がはんだの流出を抑制することができる。つまり、追加銅板9外へのはんだの流れ出しを抑制することができる。
【0073】
また、取付面部13が係合凹凸部17で囲まれることにより、取付面部13を容易に認識して半導体チップ11を実装することができる。
【0074】
追加銅板9が備える係合凹凸部17は、隆起部17caが取付面部13を基準面とした山として取付面部13よりも突出している。
【0075】
このため、追加銅板9外へのはんだの流れ出しを抑制する既使用の係合凹凸部17の機能をより高めることができる。
【0076】
[回路基板の製造方法]
図6(A)及び(B)は、実施例1に係り、回路パターンに超音波接合する状況の概略断面図である。
図7は、実施例1の変形例において、工具を追加銅板に押し付けた状態の要部拡大断面図である。
図8は、実施例1の変形例に係り、追加銅板の取付面部及び係合凹凸部を示す要部拡大断面図である。
図9は、実施例1の他の変形例において、工具を追加銅板に押し付けた状態の要部拡大断面図である。
図10は、実施例1の他の変形例に係り、追加銅板の取付面部及び係合凹凸部を示す要部拡大断面図である。
【0077】
本発明実施例の回路基板の製造方法は、
図7、
図8の変形例、
図9,
図10の他の変形例を代表して説明するが、
図3、
図4の例においても製造方法は共通する。
【0078】
図6のように、この製造方法では、工具Tを用いる。なお、
図6(A)は、10mm角の追加銅板9に対しこれより大きな12mm角の工具Tを用いた例である。
図6(B)は、例えば10mm角の追加銅板9に対しこれより小さな5.8mm角の工具Tを用いた例である。
【0079】
工具Tは、
図7の断面形状において、取付面部13と係合凹凸部17とに対応した退避部21と工具凹凸部15とを備えている。
【0080】
工具Tは、
図3、
図5(A)の追加銅板9の平面形状、断面形状に対応し、下面のフラットな面の中央に退避部21が形成され、その周囲に工具凹凸部15が形成されている。
【0081】
退避部21は、平面であり、工具Tの追加銅板9への押し当て時に取付面部13に対して間隔を形成する。ただし、退避部21は、取付面部13に接触してもよい。退避部21は、工具凹凸部15に対して退避できればよい。退避とは、工具Tの追加銅板9の表面への押し当てが完了した状態で、退避部21の存在により係合凹凸部17よりも凹凸の小さい面である取付面部13を残せる程度を意味する。つまり、退避には、工具Tの追加銅板9の表面への押し当ての過程において、退避部21が追加銅板9を押圧して取付面部13を形成し、押し当てが完了した状態で退避部21が取付面部13に接触し又は間隔を形成するものも含む。この退避部21は、取付面部13を確保できる限り、平面以外にも湾曲面や凹凸面などその表面形状の選択は自由である。
【0082】
工具凹凸部15は、工具凹部15a及び工具凸部15bが、係合凹凸部17の係合凸部17b及び係合凹部17aを形成するために対応し、退避部21の周囲を囲む全周で間欠的に備えられている。工具凹部15a及び工具凸部15bは、断面が相対的に逆向きの台形状となっている。工具凸部15bの先端15baは、係合凹部17aの底部17aaに応じて平坦な面となっている。
【0083】
この工具Tを用いた本実施例の製造方法は、回路パターン3の上に追加銅板9を積層し、工具Tを追加銅板9の表面に押し当てて超音波振動する。これによって、退避部21に応じた範囲に取付面部13を追加銅板9の表面に残し、且つ工具凹凸部15により係合凹凸部17を追加銅板9の表面に形成しつつ、超音波振動の伝達により追加銅板9を回路パターン3の回路導体3a上に接合させる。
【0084】
具体的には、まず、金属基板5を予め治具等により固定支持しておき、回路パターン3の何れかの回路導体3aの上に積層する追加銅板9を位置決めて配置する。
【0085】
次いで、工具Tを追加銅板9の表面に押し当てて加圧しながら回路導体3aの面方向に超音波振動を伝達する。
【0086】
この超音波振動により接合面において塑性流動が生じ、追加銅板9が回路導体3a上に接合結合される。
【0087】
このとき、工具Tの追加銅板9の表面に対する押し当てに基づき、退避部21に応じて取付面部13を追加銅板9の表面に残し、且つ工具凹凸部15により係合凹凸部17を追加銅板9の表面に形成する。
【0088】
工具Tの追加銅板9に対する押付け荷重は、係合凹凸部17の係合凸部17bが取付面部13よりも一体に隆起する程度とした。このとき、退避部21が取付面部13に対して
図7のように間隔を形成してもよいし、退避部21が取付面部13に接触してもよい。
【0089】
図7の押付け荷重による加圧の程度では、
図8のように係合凹部17aの開口部周縁に取付面部13を基準面とした山として隆起部17caが形成され、係合凸部17bの頂部に凹み17cを残す。係合凹部17aは、取付面部13を基準面とした谷として形成され、底部17aaは、平坦に形成されている。
【0090】
図9の他の変形例では、工具Tの押付け荷重を
図7の場合よりも強くしている。
図9の押付け荷重による加圧の程度では、隆起部17caが工具Tの下面である工具凹部15a内のフラットな面に当接し、係合凸部17bの頂部が平坦面17dとなる。
【0091】
以上説明したように、実施例1の製造方法では、工具Tにより係合凹凸部17を形成しながら追加銅板9に面方向の超音波振動を伝達し、追加銅板9を回路パターン3の何れかの回路導体3aの上に接合させる。
【0092】
したがって、工具Tを追加銅板9の表面に押し当てて退避部21に応じた範囲で取付面部13を追加銅板9の表面に残すことができる。この工具Tの工具凹凸部15により係合凹凸部17を追加銅板9の表面に形成しつつ工具Tにより追加銅板9に超音波振動を伝達し、追加銅板9を回路導体3a上に接合させることができる。
【0093】
工具Tは、退避部21の外周の工具凹凸部15が追加銅板9の表面に強固に食い込むため超音波接合時に追加銅板9と回路導体3aとの良好な接合が得られる。
【0094】
かかる製造方法により製造された回路基板1は、超音波振動の伝達の際に使用した既使用の係合凹凸部17を、はんだの流れ出しを抑制するために備えることができる。
【0095】
このため、半導体チップ11を実装する追加銅板9の取付面部13をはんだの残存を必要以上に残さないよう平面にすることができる。追加銅板9外へのはんだの流れ出しを既使用の係合凹凸部17で抑制する構造を平面の取付面部13と共に簡単に得ることができる。
【0096】
工具凹凸部15による圧痕で追加銅板9に残される既使用の係合凹凸部17は、追加銅板9表面の塑性変形により生じさせることができる。かかる塑性変形により係合凹部17aの開口周囲に隆起部17caを生じさせることができる。この隆起部17caは、取付面部13を基準面とした山として取付面部13よりも突出させることができる。
【0097】
追加銅板9は、回路導体3aに対し超音波接合するため、回路パターン3の全体を厚くしてエッチング加工する場合に比較して加工時間を短くすることができる。
【0098】
追加銅板9は、超音波接合するため回路導体3aとの間で摩擦により発熱する。しかし、この発熱は局所的かつ瞬間的であり、残留応力も発生しないか、少なくともコールドスプレー法に比較して抑制することができる。このため、接合後の基板の反りが発生しないか、少なくともコールドスプレー法に比較して抑制することができる。
【0099】
バルク状の追加銅板9を用いるため、粉末を使用するコールドスプレー法に比較して安価に製造することができる。