(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089600
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】硫黄分解酵母菌及びその野菜と果物の脱硫における使用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20240626BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C12N1/00 R
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023075462
(22)【出願日】2023-05-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】202211644470.2
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】520133961
【氏名又は名称】広東省農業科学院蚕業与農産品加工研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安可▲じん▼
(72)【発明者】
【氏名】徐玉娟
(72)【発明者】
【氏名】王宇▲てぃん▼
(72)【発明者】
【氏名】呉継軍
(72)【発明者】
【氏名】余元善
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065BA21
4B065BD11
4B065CA41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】揮発性硫化物を効率的に分解できる酵母菌株を提供する。
【解決手段】2022年10月9日付で広東省微生物菌種寄託センターにおいて寄託番号GDMCC No:62855で寄託されている、Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株を含む微生物製剤を開示する。前記微生物製剤中のMeyerozyma caribbica GAADS 0917菌株の含有量は、≧1×10
7CFU/mL以又は≧1×10
7CFU/mgであってよい。前記硫黄分解酵母GAADS 0917を加熱殺菌された果汁中で用いて揮発性硫化物を分解させることで、果汁中の揮発性硫化物に起因する「蒸れ」異臭を低減させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2022年10月9日付で広東省微生物菌種寄託センターにおいて寄託番号GDMCC No:62855で寄託されている、Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株。
【請求項2】
請求項1に記載のMeyerozyma caribbica GAADS 0917菌株を含む微生物製剤。
【請求項3】
前記微生物製剤中のMeyerozyma caribbica GAADS 0917菌株の含有量が、≧1×107CFU/mL以又は≧1×107CFU/mgであることを特徴とする、請求項2に記載の微生物製剤。
【請求項4】
前記微生物製剤が、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株の細胞培養液であることを特徴とする、請求項3に記載の微生物製剤。
【請求項5】
前記微生物製剤の調製方法が、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株を培地で一定期間培養すること、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株の菌体細胞を含む細胞培養液をそのまま微生物製剤として収集するか、又は、前記菌体細胞を洗浄且つ凍結乾燥して微生物製剤を得ることを含むことを特徴とする、請求項3に記載の微生物製剤。
【請求項6】
ライチジュース中の硫黄含有化合物の含有量を低減する方法であって、
前記ライチジュースに、請求項1に記載のMeyerozyma caribbica GAADS 0917菌株を、当該Meyerozyma caribbica GAADS 0917の菌株濃度が≧1×106CFU/mLとなるように添加し、25~35℃で2~8時間発酵させることを含み、
前記硫黄含有化合物は、ジメチルスルフィド、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドのうちの1つ又は複数であることを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1に記載のMeyerozyma caribbica GAADS 0917菌株又は請求項2から5のいずれか一項に記載の微生物製剤の、硫黄含有化合物の分解における使用であって、
前記硫黄含有化合物は、ジメチルスルフィド、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドのうちの1つ又は複数であることを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄分解酵母菌、及びその野菜と果物の脱硫における使用に関し、微生物分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ライチは、中国で最も特色がある熱帯並びに亜熱帯の果物の一つであり、栄養が豊富で独特の風味があり、消費者に好まれている。中国はライチの生産大国であり、その栽培面積と生産量はそれぞれ世界一であり、世界の総栽培面積と生産量の約70%、65%を占めている。ライチの成熟期が短期間に集中しており、その鮮度保持技術が確立しにくいため、その腐敗や劣化による年間損失率は、約25~30%となる。そのため、ライチ産業の健全な発展にとっては、ライチのディープ加工が不可欠である。
【0003】
果汁は、栄養価が高く、ビタミン、ミネラル及び食物繊維が豊富で、抗酸化作用、胃腸の働きに対する促進作用、心臓血管系の病気に対する制御作用などの機能を具備しているので、消費者に深く好まれている。加熱殺菌処理は、酵素の鈍化や殺菌効果に優れていることから、果汁加工において最もよく用いられる技術である。しかしながら、ライチは、熱に弱い果物の中でも典型的なものであり、加熱温度が55℃を超えると、顕著に「蒸し芋、茹でキャベツの味」が現れるほか、加熱温度の増加及び加熱時間の増加に伴って蒸れ臭が増し、「蒸し芋、茹でキャベツのような臭い」から「ニンニク/タマネギのような臭い」となり、後期の段階でさらに「腐った卵のような臭い」となり、ライチジュースの品質を著しく低下させる。本願発明の発明者による初期的研究の結果、4つの揮発性硫化物であるジメチルスルフィド(DMS)、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド(MTP)、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルトリスルフィド(DMTS)が、加熱殺菌されたライチジュースの「蒸れたジャガイモ/茹でたキャベツのような臭い」や「ニンニク/タマネギのような臭い」などの「蒸れ臭」の主な原因物質であることを判明した。
【0004】
加熱殺菌による果物と野菜ジュースの異臭問題に対して、国内外の研究者は、一般的にマルトデキストリン包埋、脱気、及び阻害剤(ポリフェノール、Vc)の添加により異臭を抑制している。しかしながら、脱気処理は安定性を欠き、マルトデキストリン包埋は主に果皮の脱苦のために応用され、ポリフェノールやVcは異臭に対する抑制効果が芳しくない。ここで、微生物による形質転換とは、微生物細胞を介して複雑な基質の構造を修飾すること、即ち、微生物の代謝過程で生成した何らかの酵素又は一連の酵素を用いて基質の特定部位(遺伝子)を触媒反応させることである。1990年代から発展してきた生物脱硫技術は、海外でも盛んに研究されているが、そのコアテクノロジーはまだ海外の少数の多国籍企業に握られており、現在の中国では生物脱硫に対する研究基盤はまだ比較的に弱い。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、果物と野菜ジュースの加熱殺菌による「熱異臭」という問題を解決することを目的として、揮発性硫化物を効率的に分解できる酵母菌株を提供している。
【0006】
本発明は、Meyerozyma caribbicaと分類、命名された、Meyerozyma caribbica GAADS 0917菌株を提供する。当該菌株は2022年10月9日付けで、中国広東省微生物菌種寄託センターにおいて寄託番号GDMCC No:62855で寄託されている。当該寄託センターの住所は、中国広東省広州市先烈中路100号大院59号ビル5階である。
【0007】
本発明は、また、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917を含む微生物製剤を提供している。
【0008】
一実施形態において、前記微生物製剤において、Meyerozyma caribbica GAADS 0917の含有量は、1×107CFU/mL以上又は1×107CFU/mg以上である。
【0009】
一実施形態において、前記微生物製剤は、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917の細胞培養液である。
【0010】
一実施形態において、前記微生物製剤の調製方法は、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917を培地で一定期間培養し、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917の菌体細胞を含む細胞培養液をそのまま微生物製剤として収集するか、又は、さらに洗浄且つ凍結乾燥して微生物製剤を得るステップを含む。
【0011】
本発明は、また、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917又は前記微生物製剤の、硫黄含有化合物の分解における使用を提供している。
【0012】
一実施形態において、前記硫黄含有化合物は、ジメチルスルフィド(DMS)、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド(MTP)、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルトリスルフィド(DMTS)のうちの一種以上を含むが、これらに限定されない。
【0013】
一実施形態において、前記使用では、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917又は前記微生物製剤を、硫黄含有化合物を含む環境に添加して、25~35℃で一定期間処理する。
【0014】
一実施形態において、前記硫黄含有化合物を含む環境は、果汁を含むが、これに限定されない。
【0015】
一実施形態において、前記果汁は、低温殺菌(85℃、30分間)を経ったライチクリアジュースを含むが、これらに限定されない。
【0016】
一実施形態において、前記使用では、果汁に、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917を、当該Meyerozyma caribbica GAADS 0917の菌濃度が1×106CFU/mL以上となるように添加し、25~35℃で2~8時間発酵させる。
【0017】
一実施形態では、前記Meyerozyma caribbica GAADS 0917を麦汁培地で一定期間培養した後、果汁に移し替える。
【0018】
(有益な効果)
本発明は、ジメチルスルフィド(DMS)、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド(MTP)、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルトリスルフィド(DMTS)などの多種の揮発性硫化物に対して分解能力を有する非醸造酵母を提供する。前記非醸造酵母は、加熱殺菌された果汁における揮発性硫化物を分解するためにより広く使用することができる。これにより、果汁における揮発性硫化物に起因する「蒸れ臭」を低減させて、消費者に受け入れられやすくなる。また、本発明が提供する酵母は、ライチジュースに対する硫黄分解処理に用いられることで、さらにライチジュースの特徴的な香気成分を増加させて、ライチジュースの風味品質を著しく向上させることができるとともに、処理方法が簡単で、コストが低いという利点も有している。
【0019】
(生物材料の寄託)
Meyerozyma caribbica GAADS 0917は、Meyerozyma caribbicaと分類し命名されており、2022年10月9日付で広東省微生物菌種寄託センターにおいて寄託番号GDMCC No:62855で寄託されている。当該寄託センターの住所は、中国広東省広州市先烈中路100号大院59号ビル5階である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】酵母菌株を接種してから6時間を経った後、ライチジュースの風味に対する官能評価を行って得られた図である。
【
図2】酵母菌GAADS 0917及び同バッチとしてスクリーニングされた他の菌株の、鋳型DNAのPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動図である。
【
図3】GAADS 0917菌株が麦汁培地中の硫化物を分解したことを示すGC-MSプロットである。
【
図4】GAADS 0917菌株及び同属菌種の、ライチジュース中の硫化物を分解した効果を比較した対比図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
【0022】
(実施例1)菌株のスクリーニング、分離
新鮮で防腐処理されていないライチ表皮を原料として、ライチの「蒸れ」異臭を分解する菌株をスクリーニングし、加熱殺菌されたライチジュースの風味に対して改善作用を具備している菌株を6株特定した。当該菌株に対して、官能分析、GC-MS検測を行ったところ、最終的に、加熱殺菌されたライチジュースの「蒸れ」異臭を分解する作用が比較的に強いGAADS 0917菌株を特定した。スクリーニング分離の過程は以下の通りである。
【0023】
ライチジュースの試料10mLを生理食塩水90mLに入れ、30℃で恒温振盪機において3時間培養してライチの菌懸濁液を得るとともに、勾配希釈を行った。なお、勾配ごとに3つの並行グループとした。ウルトラクリーンベンチにおいて、各グループの菌懸濁液を100μLずつ吸い上げ、麦汁培地に均一に塗布し、標識した後、30℃のインキュベーターで一定の時間恒温培養した。その後、フラットプレートから形態の異なるコロニーを選択して採取し、それを対応する新たな培地に置き、フラットプレートスクライビングを行った。続いて、30℃で2日培養した後、成長したコロニーの大きさ、形態特徴を観察した。なお、フラットプレート上のコロニーの大きさ、形態特徴が一致するまで、上述の操作を繰り返した。カルボールフクシン(Carbol Fuchsin)染色液で染色した後、顕微鏡での検査によりその精製化が確認されると、純培養物が得られた。精製された菌株について、培養したフラットプレートから菌塊4~7輪(培地を少量含んだ)を接種用針で採取し、菌株寄託管に入れて蓋を締め、十分に激しく振盪した後、後の使用のために-80℃の冷蔵庫で保存した。
【0024】
精製された菌株を、加熱殺菌されたライチジュースに接種して、官能検査による一次すくクリーニングにより、発酵後、ライチ本来の特徴的な香り、甘み、花の香りがより良好に保ち、「さつまいも風味」、「タマネギ風味」などの加熱殺菌したライチジュースの「蒸れ」異臭を低減できるJ01、J03、J05、J06、J07、R02の6つの菌株が得られ、これら6つの菌株は、菌株はジュースの風味に悪影響を及ぼさなかった。なお、J01、J03、J05、J06、J07、R02のコロニー形態は、丸いコロニーとなり、表面が湿潤し且つ滑らかであり、わずかに隆起していた。これは、酵母菌の菌株によく見られるコロニー形態である。検証した結果、いずれもMeyerozyma属の菌株であることが確認された。
【0025】
(実施例2)菌株の同定
1.DNAの抽出
(1)Spin ColumnをCollection Tubeに入れ、Buffer BLを250μL加え、12000rpm/分で1分間遠心分離し、シリカゲル膜を活性化させた。
(2)乾燥組織サンプル(20mg以下)を採取し、液体窒素を加えて十分に粉砕した。粉砕後、1.5mLの遠沈管に入れ、Buffer GP1を400μL加え、1分間渦振動し、65℃で10~30分間水浴した。この間、十分に分解させるように、サンプルを取り出し、逆さまにして混合してもよい。
(3)Buffer GP2を150μL加え、1分間渦振動し、5分間氷浴し、12,000rpm/分で5分間遠心分離し、上清を新たな遠沈管に移した。
(4)上清と同体積である無水エタノールを加え、直ちに十分に均一に振り混ぜ、全部の液体をSpin Columnに移し、12,000rpm/分で30秒間遠心分離し、廃液を廃棄した。
(5)Spin ColumnにBuffer Pw(使用前に無水エタノールを添加した)を500μL加え、12,000rpm/分で30秒間遠心分離し、廃液を廃棄した。
(6)Spin ColumnにWash Buffer(使用前に無水エタノールを添加した)を500μL加え、12000rpm/分で30秒間遠心分離し、廃液を捨てた。さらに、この操作を1回繰り返した。
(7)Spin ColumnをCollection Tubeに戻し、12,000rpm/分で2分間遠心分離し、蓋を開けて1分間自然乾燥させた。
(8)Spin Columnを取り出し、清潔な遠沈管に入れ、吸着膜の中央に50~100μLのTE Buffer(65℃で予熱されたTE Buffer)を加え、20~25℃で2分間放置し、12,000rpm/分で2分間遠心分離した。
【0026】
2.硫黄分解菌株のITS領域のPCR増幅
(1)真菌の菌種を同定するための共通プライマー:菌株のゲノムDNAを抽出し、共通プライマーITS1/ITS4を用いてITS領域の塩基配列を増幅した。
(2)PCR反応条件:98℃で2分間;98℃で10秒間;56℃で10秒間;72℃で10秒間という操作を35回サイクル繰り返した後、72℃で5分間伸長させた。
(3)PCR反応系:1×TSE101 Gold Medal mix 45μLと、ITS1 2μLと、ITS4 2μLと、ゲノムDNA 1μLとで、計50μLであった。
【0027】
3.菌株の標的遺伝子断片の回収
(1)増幅されたPCR産物について、アガロースゲル電気泳動(2μL サンプル+6μL ブロモフェノールブルー)を電圧300Vで12分間行い、同定のゲル電気泳動図を得た(
図2に示す)。
(2)増幅されたPCR産物は、Wuhan Tsingke Innovation Biotech Co.,Ltd.に送付してシーケンシングを行った。
【0028】
(実施例3)菌株による「蒸れ臭」の低減に対する官能評価
実施例1でスクリーニングして得られた6株の菌について、加熱殺菌されたライチジュースの「蒸れ」異臭を全体的に低減させる効果を評価した。具体的な方法は、以下の通りである。
(1)加熱殺菌されたライチジュースの調製:新鮮なライチ果肉を予冷してパルプ化(300W、5分間)し、ダブルガーゼで濾過した後、低温遠心分離機(4℃、9000r/分、10分間)を用いて遠心分離し、ライチジュースを得た。その後、このライチジュースを密封し、85℃で低温殺菌を30分間行った。
(2)実施例1でスクリーニングして得られた菌株を、それぞれ麦汁培地(12.05±0.01 Brix、pH5.6±0.2)で活性化し、拡大培養(30℃、200r/分、12時間)した。接種後の透明なライチジュースにおける菌濃度が1×10
6CFU/mLとなるように、活性化し、拡大培養した菌液(OD=4)を、滅菌された透明なライチジュースに体積率7%で添加し、30℃の恒温下で、6時間動的培養した。表1に従って官能評価を行った。その結果は
図1に示す。
【0029】
【0030】
香りの官能評価の分析:5点強度法(5は非常に強く、3は中程度の強度、0は無臭)を用いて、サンプルの香り特徴を評価した。具体的な操作は以下の通りである。サンプル40mLを正確に量り取り、125mLの嗅ぎ瓶に移した。これをアルミホイルで包み(視覚的効果による誤差を避けるため)、ランダムに3桁番号を付けた後、官能評価室(21±1℃)中の各評価者に届けた。評価者は、各属性と対応する基準品の香りの強さを尺度とし、嗅ぎ評価を3回行った。なお、各評価間の感覚リセット時間は20分間とした。3回の繰り返し実験の平均値を取って香りプロファイルのレーダーチャートをプロットした。
【0031】
結果分析:
図1から分かるように、加熱殺菌されたライチジュースに、J01、J03、J05、J06、J07、R02を接種した後、加熱殺菌されたライチジュースの風味がすべて改善され、それぞれの「蒸れ」異臭がいずれもある程度低下した。短時間(3~8時間)発酵したライチジュースのアルコール量は非常に低く(<0.50%)、発酵ジュースの形態はフレッシュジュースに近く、しかも再度滅菌された後、目立った異臭はなかった。その中でもJ06株が最も効果的である。J06菌株で発酵したライチジュースのフルーティな香り、甘い香り及び花の香りなどのライチの特徴的な香りの強さは、他の菌株に比べて有意に高く、しかも、「サツマイモ臭」、「タマネギ臭」等の臭い強度も、他の菌株による発酵ジュースに比べて有意に低かった。J06菌株は、加熱殺菌されたライチジュースの風味に対する改善効果は最も顕著かであった。
【0032】
(実施例4)菌種の揮発性硫化物に対する低減効果の試験
実施例3で検証した「蒸れ」異臭の分解が良かった6種の菌株を用いて6時間処理した後の加熱殺菌されたライチジュース中のジメチルスルフィド(DMS)、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド(MTP)、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルトリスルフィド(DMTS)の含有量を測定した。その具体的な方法は、以下の通りである。
【0033】
サンプルの平衡化:ライチジュース15mLを正確に量り取り、50mLのヘッドスペース抽出ボトルに移し、2gのNaClと磁気撹拌ローターを加え、45℃の水浴中で20分間平衡化した。
サンプルの吸着:三相固相マイクロ抽出針(PDMS/DVB/CAR)を用いて、45℃の水浴下で、揮発性画分を30分間抽出した後、針をGC-MSのサンプル注入口に素早く挿入し、ファイバーヘッドを押し出して10分間熱分解し、同時にGC-MSを起動してデータを採集した。
【0034】
GC-MSの条件:フルスキャンモード(scan mode)による信号採集、電子イオン化EI、電子エネルギー70eVのイオン源、インターフェース温度Aux-2 280℃、イオン源の温度230℃、四重極温度150℃、スキャン質量範囲35-350 amu、スキャンスピード5.2回/秒。
【0035】
DMS、MTP、DMDS、DMTSの精密定量:SIMモード、標準物質、内部標準物質を用いて標準曲線を確立し、分解率を算出した。
【0036】
【0037】
分解率の算出:
ここで:Aは加熱処理後のジュース中の硫化物の含有量ug/mLであり、Bは菌を接種した後の硫化物の含有量ug/mLである。
【0038】
【0039】
表3のデータの分析によれば、加熱殺菌されたライチジュースに、ジメチルスルフィド、ジメチルスルフィド、トリメチルスルフィド、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド等の揮発性硫黄含有化合物が高濃度で含まれていたが、J06菌株を用いると、上記4つの硫化物のいずれに対しても良い分解効果を発揮し、ジメチルスルフィドの分解率は69.27%であり、残りの3つの硫化物の分解率は100%であったことが分かった。
【0040】
シーケンシング結果から表明するように、塩基配列の断片、及びシーケンシング結果から得られたITS領域の配列をNCBIで解析した結果、J06菌株とMeyerozyma caribbicaとで配列相同性が99%超であることが示された。このため、当該菌株をMeyerozyma caribbica GAADS 0917菌株と名付けた。
【0041】
(実施例5)菌株が硫黄を低減する効果についての検証
異なる濃度の揮発性硫化物を含む培地を用い、菌株GAADS 0917の、硫黄の低減に対する効果を検証した。具体的な手順は、以下の通りである。
菌株GAADS 0917を麦汁培地(12.05±0.01 Brix、pH5.6±0.2)に30℃で12時間培養し、菌体培養液(OD=4)を得た。接種後の菌濃度が10
6CFU/mLとなるように、この菌体培養液を、最終濃度0、0.5、1ug/mLの硫黄含有化合物を含む麦汁培地に、体積率7%で添加し、30℃で6時間培養して、硫黄含有化合物の含有量及び分解率を検測した。その結果は
図4に示す。
【0042】
【0043】
(対比例)
GAADS 0917を同属同種の別の菌株であるSHBCC D55517(Shanghai Bioresource Collection Centerから購入)に置き代えた点以外は、具体的な実施形態を実施例4と同様にして実施した。結果は表5に示す。
【0044】
【0045】
以上、本発明を好ましい実施例により開示したが、これらの実施例は本発明を限定するためのものではない。当業者であれば、本発明の宗旨及び範囲から逸脱しない範囲で、様々な変更及び修飾を行うことができるので、本発明の保護範囲は、請求の範囲に規定されているものに準じるべきである。
【外国語明細書】