(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089620
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】注入率制御装置、浄水施設、注入率制御方法、注入率制御プログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240626BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240626BHJP
C02F 1/66 20230101ALI20240626BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20240626BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20240626BHJP
【FI】
C02F1/00 K
C02F1/52 Z
C02F1/66 510B
C02F1/66 530K
C02F1/66 530C
C02F1/66 530P
C02F1/76 A
C02F1/66 521B
C02F1/66 522A
C02F1/66 540A
C02F1/66 540Z
C02F1/66 540G
C02F1/50 510A
C02F1/50 520C
C02F1/50 531P
C02F1/50 550L
C02F1/50 550C
C02F1/50 560B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172340
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022204842
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】権 大維
(72)【発明者】
【氏名】チャン ティタントゥイ
(72)【発明者】
【氏名】松永 晃
(72)【発明者】
【氏名】布 光昭
(72)【発明者】
【氏名】上中 哲也
【テーマコード(参考)】
4D015
4D050
【Fターム(参考)】
4D015BA21
4D015BB05
4D015CA14
4D015DA04
4D015DA05
4D015EA03
4D015EA06
4D015EA12
4D050AA03
4D050BB06
4D050BD03
4D050BD08
4D050CA06
4D050CA15
4D050CA16
(57)【要約】
【課題】凝集剤注入ポンプにて動作する部品の寿命が長くなる可能性を高くすると共に、原水の水質の変化に迅速に対応する。
【解決手段】注入率制御装置(2)は、凝集剤注入ポンプに対して、設定すべき注入率を指示する制御部(13)を備え、制御部(13)は、記憶部(12)の対応テーブル(21)を参照して、原水の濁度に応じて指示頻度を決定する指示頻度決定部(32)と、指示頻度に基づいて注入率を凝集剤注入ポンプに指示する注入率指示部(34)とを備え、対応テーブル(21)において、指示頻度は、濁度が取り得る値を区分したレベル毎に定められている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理工程で添加する薬剤を、処理対象である液体に注入する注入装置であって、外部からの指示に応じて前記薬剤の注入率が設定される注入装置に対して、設定すべき前記注入率を指示する制御部を備え、
該制御部は、
前記液体の水質指標に応じて、単位時間当たりの前記指示の回数である指示頻度と、前記指示頻度に対応し、次回の指示までの期間を示す指示周期との何れかである指示情報を決定する決定部と、
前記指示情報に基づいて前記注入率を前記注入装置に指示する指示部とを備え、
前記指示情報は、前記水質指標が取り得る値を区分したレベル毎に定められている、
注入率制御装置。
【請求項2】
前記薬剤は凝集剤であり、
前記水質指標は、前記液体の濁度の値または変化率である、請求項1に記載の注入率制御装置。
【請求項3】
前記薬剤はpH調整剤であり、
前記水質指標は、前記液体のpHの値または変化率である、請求項1に記載の注入率制御装置。
【請求項4】
前記薬剤は塩素剤であり、
前記水質指標は、前記液体の塩素要求量、紫外線吸光度、色度、および全有機炭素の何れかの値または変化率である、請求項1に記載の注入率制御装置。
【請求項5】
前記指示情報は前記指示頻度であり、
相対的に低い値が区分された前記レベルほど、前記指示頻度が少なくなるように定められている、請求項1に記載の注入率制御装置。
【請求項6】
前記指示情報は前記指示頻度であり、
前記制御部は、前記水質指標に応じた前記注入率を取得する取得部をさらに備え、
前記指示部は、前記指示頻度に対応する前記指示周期ごとに前記取得部が複数の注入率を取得する場合、該複数の注入率の平均値を、前記注入装置に指示する注入率とする、請求項1に記載の注入率制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記水質指標を入力として前記注入率を出力するように機械学習された推定モデルを用いて、前記水質指標に応じた前記注入率を推定する推定部をさらに備え、
前記指示部は、前記単位時間内に前記推定部が推定した前記注入率を用いて、前記単位時間内において前記注入装置に指示する注入率を決定する、請求項1に記載の注入率制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の注入率制御装置を備える浄水施設。
【請求項9】
前記薬剤は塩素剤であり、
前記水質指標は、前記浄水施設に流入する原水の塩素要求量、紫外線吸光度、色度、および全有機炭素の何れかの値または変化率である、請求項8に記載の浄水施設。
【請求項10】
水処理工程で添加する薬剤を、処理対象である液体に注入する注入装置であって、外部からの指示に応じて前記薬剤の注入率が設定される注入装置に対して、設定すべき前記注入率を指示する制御ステップを含み、
該制御ステップは、
前記液体の水質指標に応じて、単位時間当たりの前記指示の回数である指示頻度と、前記指示頻度に対応し、次回の指示までの期間を示す指示周期との何れかである指示情報を決定する決定ステップと、
前記指示情報に基づいて前記注入率を前記注入装置に指示する指示ステップとを含み、
前記指示情報は、前記水質指標が取り得る値を区分したレベル毎に定められている、
注入率制御方法。
【請求項11】
請求項1に記載の注入率制御装置としてコンピュータを機能させるための注入率制御プログラムであって、前記制御部としてコンピュータを機能させるための注入率制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理工程で添加される薬剤であって、処理対象である液体に注入される薬剤の注入制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の水処理システムは、まず、被処理水の水質を所定期間以下で測定すると共に、上記被処理水を処理した処理水の画像を所定期間以下で撮像する。次に、上記水処理システムは、撮像した画像に対して所定の画像処理を施した処理画像から特徴量を取得する。そして、上記水処理システムは、取得した特徴量と、上記測定した水質の値と、学習データとを用いて、被処理水への処理が適切であるか否かを判定し、判定結果に基づき、被処理水に凝集剤を添加する添加装置へ該凝集剤の添加量を示す制御信号を送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記被処理水の水質が悪化してから、上記被処理水への処理が不適切であると判定されるまでにはタイムラグがある。そこで、上記水処理システムにおいて、被処理水への処理が適切である場合にも、上記凝集剤の添加量を決定し、該添加量を示す制御信号を上記添加装置に送信することが考えられる。しかしながら、この場合、上記添加装置において上記添加量を調整する調整機構の動作を変更する可能性が高くなる。そして、当該動作の変更に伴い上記添加装置にて動作する部品(例えば摺動部品など)が摩耗したり、上記変更の繰返しに伴い上記部品が疲労したりする可能性が高くなる。その結果、上記部品の寿命(lifetime)が短くなる可能性が高くなる。
【0005】
本発明の一態様は、水処理工程で添加する薬剤を、処理対象である液体に注入する注入装置にて動作する部品の寿命が長くなる可能性を高くすると共に、上記液体の水質の変化に迅速に対応することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る注入率制御装置は、
水処理工程で添加する薬剤を、処理対象である液体に注入する注入装置であって、外部からの指示に応じて前記薬剤の注入率が設定される注入装置に対して、設定すべき前記注入率を指示する制御部を備え、該制御部は、
前記液体の水質指標に応じて、単位時間当たりの前記指示の回数である指示頻度と、前記指示頻度に対応し、次回の指示までの期間を示す指示周期との何れかである指示情報を決定する決定部と、前記指示情報に基づいて前記注入率を前記注入装置に指示する指示部とを備え、前記指示情報は、前記水質指標が取り得る値を区分したレベル毎に定められている。
【0007】
本発明の別の態様に係る浄水施設は、上記構成の注入率制御装置を備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様に係る注入率制御方法は、
水処理工程で添加する薬剤を、処理対象である液体に注入する注入装置であって、外部からの指示に応じて前記薬剤の注入率が設定される注入装置に対して、設定すべき前記注入率を指示する制御ステップを含み、該制御ステップは、前記液体の水質指標に応じて、単位時間当たりの前記指示の回数である指示頻度と、前記指示頻度に対応し、次回の指示までの期間を示す指示周期との何れかである指示情報を決定する決定ステップと、前記指示情報に基づいて前記注入率を前記注入装置に指示する指示ステップとを含み、前記指示情報は、前記水質指標が取り得る値を区分したレベル毎に定められている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、水処理工程で添加する薬剤を、処理対象である液体に注入する注入装置にて動作する部品の寿命が長くなる可能性を高くすると共に、上記液体の水質の変化に迅速に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。
【
図2】上記水処理システムにおける注入率制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】上記注入率制御装置の記憶部に記憶された対応テーブルの一例を表形式で示す図である。
【
図4】上記水処理システムにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】上記対応テーブルの別の例を表形式で示す図である。
【
図6】本発明の別の実施形態に係る水処理システムにおける注入率制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】上記水処理システムにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明のさらに別の実施形態に係る水処理システムにおける注入率制御装置の記憶部に記憶された対応テーブルの一例を表形式で示す図である。
【
図9】本発明のさらに別の実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。
【
図10】上記水処理システムにおける注入率制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】上記注入率制御装置の記憶部に記憶された第1対応テーブルおよび第2対応テーブルの一例を表形式で示す図である。
【
図12】上記水処理システムにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図13】本発明のさらに別の実施形態に係る水処理システムにおける注入率制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図14】上記水処理システムにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図15】本発明のさらに別の実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。
【
図16】上記水処理システムにおける注入率制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図17】上記注入率制御装置の記憶部に記憶された対応テーブルの一例を表形式で示す図である。
【
図18】上記水処理システムにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図19】本発明のさらに別の実施形態に係る水処理システムにおける注入率制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図20】上記水処理システムにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図21】上記水処理システムにおけるモデル更新処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。
【0012】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0013】
(水処理システム)
図1は、本実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。本実施形態の水処理システム1は、例えば河川等から浄水施設に流入する原水(液体)を清浄な水に処理するシステムである。具体的には、本実施形態の水処理システム1は、上記原水に含まれる懸濁物質等を、凝集剤によって凝集させ、重力沈降によって原水から分離する凝集沈澱プロセスを実現するものである。
図1に示すように、水処理システム1は、上記凝集沈殿プロセスを実現する設備として、着水井101、急速混和池102、フロック形成池103、および沈澱池104を備える。
【0014】
着水井101は、導水管によって送られてくる原水による水面の動揺を抑制し、着水井101以降の設備に送られる原水の水理的な安定性を確保するための槽である。原水には、塩素剤およびpH(水素イオン濃度指数)調整剤が注入されてもよい。ここで、塩素剤とは、原水中成分の酸化、原水の消毒などを行うための薬剤である。塩素剤は、例えば次亜塩素酸ナトリウム等の薬剤であり、図示しない注入装置によって着水井101から急速混和池102までの間に注入される。また、pH調整剤とは、原水のpHを調整するための薬剤である。pH調整剤は、例えば硫酸、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)等の薬剤であり、図示しない注入装置によって着水井101から急速混和池102までの間に注入される。また、着水井101よりも上流側の取水点から急速混和池102までの間には、粉末活性炭が投入されてもよい。粉末活性炭は、臭気物質の除去、トリハロメタンおよびトリハロメタン前駆物質の除去、等に利用される。
【0015】
着水井101には水質計111が設けられている。水質計111は、着水井101に着水した原水の水質を測定する。当該水質は、少なくとも濁度であり、他の例として、色度、水温、導電率、pH(水素イオン濃度指数)、アルカリ度(酸消費量)、紫外線吸光度等が挙げられる。なお、水質計111は、急速混和池102に設けられてもよいし、急速混和池102より上流側の水路に設けられてもよい。水質計111によって測定された水質を示す水質データは、注入率制御装置2に入力される。
【0016】
着水井101と急速混和池102との間の導水管LPには流量計112が設けられている。流量計112は、着水井101から急速混和池102に送られる原水の流量を測定する。流量計112によって測定された流量のデータは、凝集剤を注入する注入装置として用いられる凝集剤注入ポンプ113に入力される。なお、流量計112は、着水井101よりも上流側に設けられてもよい。
【0017】
急速混和池102は、着水井101から送られてきた原水に凝集剤を注入して、急速撹拌するための混和池である。ここで、凝集剤とは、原水に含まれる物質を凝集させるための薬剤である。凝集剤は、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC:PolyAluminumChloride)や硫酸アルミニウム(硫酸バンド)等の薬剤であり、凝集剤注入ポンプ113によって急速混和池102に注入される。
【0018】
また、急速混和池102には、上記急速撹拌を行うための急速撹拌機114が設けられている。急速撹拌機114は、例えば、フラッシュミキサである。急速撹拌機114は、一定の撹拌速度で動作するものであってもよいし、モータ、減速機などの制御によって撹拌速度を調節できるものであってもよい。急速混和池102では、凝集剤の注入と、急速撹拌機114の撹拌とによって微小な凝集フロックが形成される。このような微小な凝集フロックを含む処理水は後段のフロック形成池103に送られ、フロック形成池103以降の設備において凝集フロックのさらなる集塊化が促進される。
【0019】
フロック形成池103は、処理水中においてより大きな凝集フロックを形成するための撹拌槽である。フロック形成池103は複数の形成池を含み、各形成池には緩速撹拌機115が設けられている。緩速撹拌機115による処理水の緩速撹拌によって凝集フロックのさらなる集塊化が促進される。緩速撹拌機115は、例えばフロキュレータである。フロック形成池103の処理水は、所定時間の撹拌の後に後段の沈澱池104に送られる。なお、フロック形成池103は、撹拌機を用いない迂流式であってもよい。
【0020】
沈澱池104は、フロック形成池103からの流入水に含まれる集塊化した凝集フロックを沈降分離するための池である。上記流入水が沈澱池104に所定時間(例えば1~3時間程度)滞留することにより、フロック形成池103において形成された粒径の大きな凝集フロックが重力により沈降する。これにより、凝集フロックが処理水から分離され、その上澄み液が沈澱水として、図示しない濾過池に送られる。なお、沈澱池104の後段には、上記濾過池に送られる処理水に対してオゾン処理や生物活性炭処理等の付加的な処理を施す設備が設けられてもよい。また、沈澱池104に沈澱した凝集フロックは汚泥として引き抜かれ、図示しない汚泥処理設備に送られる。また、フロック形成池103を省略し、沈澱池104を高速凝集沈澱池に変更してもよい。
【0021】
上記濾過池は、沈澱池104から流入する沈澱水を濾過する濾過設備を備えた池である。上記濾過池では、沈澱水に残留する微小な固形物が濾過によって分離される。濾過された沈澱水は塩素剤によって消毒された後、水道水として需要者に供給される。
【0022】
(注入率制御装置)
図1に示すように、水処理システム1は、注入率制御装置2を備える。注入率制御装置2は、原水の水質データに基づいて、原水へ注入する凝集剤の注入率を決定するものである。ここで、上記注入率は、原水に注入する凝集剤の、原水に対する割合である。上記注入率は、従来、ジャーテストの結果、過去の知見、所定の計算式などを用いて決定されている。
【0023】
注入率制御装置2は、決定した注入率を凝集剤注入ポンプ113に指示(出力)する。凝集剤注入ポンプ113は、流量計112からの流量のデータと、注入率制御装置2からの注入率とに基づいて、凝集剤の注入量を決定して急速混和池102に注入する。
【0024】
図2は、注入率制御装置2の要部構成の一例を示すブロック図である。注入率制御装置2は、入力部11、記憶部12、制御部13、および出力部14を含んでいる。
【0025】
入力部11は、ユーザの入力を受け付け、当該入力に基づく入力信号を、各部へ出力する。また、入力部11は、外部の装置(例えば、水質計111など)から出力された情報を入力データとして受信し、受信した入力データを制御部13に出力する。
【0026】
出力部14は、制御部13が生成した情報を出力する。出力部14による出力方法は特に限定されない。例えば、出力部14は、当該情報を画像として表示する表示装置であってもよいし、当該情報を音声として出力する音声出力装置であってもよい。また、出力部14は、当該情報を電気信号として、凝集剤注入ポンプ113へ出力する。
【0027】
記憶部12は、注入率制御装置2にて使用されるプログラムおよびデータを保持する。本実施形態では、記憶部12は対応テーブル21を記憶する。対応テーブル21では、単位時間当たりの注入率の指示の回数である指示頻度が、原水の水質の指標である水質指標が取り得る値を2つに区分けしたレベル毎に定められている。
【0028】
図3は、対応テーブル21の一例を表形式で示す図である。本実施形態では、上記水質指標は、
図3に示すように、原水の濁度の値であるが、これに限定されるものではなく、原水の水質の指標となる種々の値またはそれらの組合せを採用することができる。例えば、上記水質指標は、色度、pHなど、上述の例で挙げた水質の値であってもよい。
【0029】
また、
図3の例では、濁度が取り得る値を、濁度が50mg/L以上である「高」濁度レベルと、濁度が50mg/L未満である「低」濁度レベルとの2つに区分けされている。「高」濁度レベルの場合、指示頻度が60回/時間である。これは、水質計111による単位時間当たりの水質データの測定回数である測定頻度と同じである。このように、指示頻度は測定頻度を上回る必要はない。一方、「低」濁度レベルの場合、指示頻度が1回/時間であり、「高」濁度レベルの場合の指示頻度よりも著しく低くなっている。
【0030】
制御部13は、注入率制御装置2の各部を統括して制御する。制御部13は、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサは、ストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部13に含まれている各部が構成される。
【0031】
制御部13は、
図2に示すように、濁度取得部31、指示頻度決定部32(決定部)、注入率取得部33(取得部)、および注入率指示部34(指示部)を含む。濁度取得部31は、入力部11が受信した原水の水質データの中から、原水の水質指標である濁度を取得する。濁度取得部31は、取得した濁度を指示頻度決定部32および注入率取得部33に送出する。なお、濁度取得部31は、濁度以外の上記水質データを取得してもよい。
【0032】
指示頻度決定部32は、濁度取得部31からの原水の濁度に応じて指示頻度を決定する。具体的には、指示頻度決定部32は、記憶部12の対応テーブル21を参照して、濁度取得部31からの濁度に対応する濁度レベル(レベル)を特定し、特定した濁度レベルに対応する指示頻度を取得する。指示頻度決定部32は、取得した指示頻度を注入率指示部34に送出する。
【0033】
注入率取得部33は、過去の知見に基づいて濁度と注入率とが対応づけられたテーブル、所定の計算式、などを利用して、濁度取得部31からの濁度に応じた注入率を取得する。従って、注入率取得部33が単位時間当たりに注入率を取得した回数である注入率の取得頻度は、濁度の測定頻度(例えば、60回/時間)と同じである。注入率取得部33は、取得した注入率を注入率指示部34に送出する。
【0034】
注入率指示部34は、指示頻度決定部32からの指示頻度と、注入率取得部33からの注入率とに基づき、凝集剤注入ポンプ113に指示する指示用注入率を決定し、該指示用注入率を、出力部14を介して凝集剤注入ポンプ113に指示する。
【0035】
ここで、上記指示頻度が、上記取得頻度および上記測定頻度と同じである場合、注入率指示部34は、上記指示頻度に対応し、次回の指示までの期間である指示の周期(
図3参照)ごとに、注入率取得部33から1つの注入率を取得する。従って、注入率指示部34は、上記1つの注入率を上記指示用注入率として決定する。
【0036】
一方、上記指示頻度が、上記取得頻度および上記測定頻度よりも小さい場合、注入率指示部34は、上記指示頻度に対応する指示の周期(
図3参照)ごとに、注入率取得部33から複数の注入率を取得する。そこで、本実施形態では、注入率指示部34は、上記複数の注入率の平均値を上記指示用注入率として決定する。
【0037】
例えば、上記指示頻度が1回/時間であり、上記注入率の取得頻度(すなわち、上記濁度の測定頻度)が60回/時間である場合、注入率指示部34は、1時間(単位時間)に取得した60個の注入率の平均値を、上記指示用注入率として決定する。なお、本実施形態では、平均値を利用しているが、これに限定されるものではなく、中央値、最頻値など、種々の代表値を利用することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態の注入率制御装置2は、原水に含まれる懸濁物質等を凝集させる凝集剤を、上記原水に注入する凝集剤注入ポンプ113であって、外部からの指示に応じて上記凝集剤の注入率が設定される凝集剤注入ポンプ113に対して、設定すべき上記注入率を指示する制御部13を備え、該制御部13は、上記原水の濁度に応じて、単位時間当たりの上記指示の回数である指示頻度を決定する指示頻度決定部32と、上記指示頻度に基づいて上記注入率を凝集剤注入ポンプ113に指示する注入率指示部34とを備え、上記指示頻度は、上記濁度が取り得る値を区分した2つのレベル毎に定められている。
【0039】
上記の構成によれば、原水の濁度に応じて、単位時間当たりの指示の回数である指示頻度が決定される。これにより、例えば、上記原水が良好な濁度である場合には、上記指示頻度を少なくすることにより、凝集剤注入ポンプ113の動作を変更する可能性が低くなる。この場合、凝集剤注入ポンプ113が定常動作である可能性が高くなり、内部の部品の動作(例えばダイヤフラムポンプであれば、ダイヤフラムのストローク長およびパルス数(ストローク数)、駆動モータの回転数、など)も定常状態である可能性が高くなる。
【0040】
一般に、機械は、或る定常動作から別の定常動作に遷移している過渡的動作の方が、定常動作よりも部品に対する負担が大きく、部品が摩耗する可能性が高い。また、上記遷移を繰り返すことにより、部品が疲労する可能性が高い。その結果、部品の寿命が短くなる可能性が高い。
【0041】
これに対し、本実施形態では、凝集剤注入ポンプ113の動作を変更する可能性が低くなるので、凝集剤注入ポンプ113内の部品が摩耗したり疲労したりする可能性が低くなる。その結果、上記部品の寿命が長くなる可能性が高くなる。また、上記原水が改善すべき濁度である場合には、上記指示頻度を多くすることにより、上記原水の水質の変化に迅速に対応することができる。
【0042】
(注入率制御処理)
図4は、上記構成の水処理システム1における注入率制御処理(制御ステップ)の流れの一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、濁度取得部31は、水質計111が測定した原水の水質データの中から、原水の濁度を取得する(ステップS11、以下「ステップ」の記載を省略する。)。
【0043】
次に、指示頻度決定部32は、上記濁度に応じて指示頻度を決定する(決定ステップ)。具体的には、指示頻度決定部32は、記憶部12の対応テーブル21を参照して、上記濁度に対応する濁度レベルを特定し、特定した濁度レベルに対応する指示頻度を取得する(S12)。また、注入率取得部33は、過去の知見に基づいて濁度と注入率とが対応づけられたテーブル、所定の計算式、などを利用して、上記濁度に応じた注入率を取得する(S13)。なお、S12およびS13の順序は任意である。
【0044】
次に、注入率指示部34は、上記指示頻度が、上記注入率の取得頻度(上記濁度の測定頻度)に比べて、同じであるか、或いは小さいかを判定する(S14)。上記指示頻度が上記取得頻度と同じである場合、注入率指示部34は、上記指示頻度に対応する指示の周期(指示周期)ごとに、注入率取得部33が取得した1つの注入率を、凝集剤注入ポンプ113に指示する指示用注入率として決定する(S15)。
【0045】
一方、上記指示頻度が上記取得頻度よりも小さい場合、注入率指示部34は、上記指示頻度に対応する指示の周期ごとに、注入率取得部33が取得した複数の注入率の平均値を上記指示用注入率として決定する(S16)。
【0046】
そして、注入率指示部34は、決定した指示用注入率を、出力部14を介して凝集剤注入ポンプ113に、上記指示頻度に従って指示する(S17、指示ステップ)。その後、S11に戻って、上記注入率制御処理を繰り返す。
【0047】
〔変形例〕
図5は、対応テーブル21の別の例を表形式で示す図である。
図5の例では、濁度の取り得る値が5つの濁度レベルに区分され、該濁度レベル毎に指示頻度が定められている。また、相対的に低い濁度が区分された濁度レベルほど、上記指示頻度が低くなるように定められている。このように、対応テーブル21は、濁度レベルが3つ以上に区分され、濁度レベル毎に指示頻度が定められていてもよい。また、対応テーブル21の代わりに任意の数式を用いて、上記水質指標から上記指示頻度を算出してもよい。
【0048】
〔実施形態2〕
本発明の別の実施形態について、
図6および
図7を参照して説明する。本実施形態の水処理システム1は、
図1~
図4に示す水処理システム1に比べて、注入率制御装置2の構成が異なり、その他の構成は同様である。
【0049】
図6は、本実施形態における注入率制御装置2の要部構成の一例を示すブロック図である。
図6に示す注入率制御装置2は、
図2に示す注入率制御装置2に比べて、記憶部12が推定モデル22をさらに記憶している点と、制御部13が注入率取得部33に代えて注入率推定部35(推定部)を備える点とが異なり、その他の構成は同様である。
【0050】
推定モデル22は、原水の濁度を入力として凝集剤の注入率を出力するように機械学習された学習モデルである。上記学習には、多変量回帰分析、ランダムフォレスト回帰(RandomForestRegressor)など、種々の手法を利用することができる。
【0051】
注入率推定部35は、記憶部12の推定モデル22を用いて、濁度取得部31からの濁度に応じた注入率を推定する。従って、注入率推定部35が単位時間当たりに注入率を推定した回数である注入率の推定頻度は、濁度の測定頻度(例えば、60回/時間)と同じである。注入率推定部35は、推定した注入率を注入率指示部34に送出する。
【0052】
図7は、上記構成の水処理システム1における注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7に示す注入率制御処理は、
図4に示す注入率制御処理に比べて、S13に代えてS21が設けられている点が異なり、その他は同様である。
【0053】
S21では、注入率推定部35は、記憶部12の推定モデル22を用いて、S11にて取得した濁度に応じた注入率を推定する。なお、S12およびS21の順序は任意である。このように、凝集剤の注入率は、種々の手法を用いて原水の濁度から取得することができる。
【0054】
〔実施形態3〕
本発明のさらに別の実施形態について、
図8を参照して説明する。本実施形態の水処理システム1は、
図1~
図7に示す水処理システム1に比べて、上記水質指標が濁度の変化率である点が異なり、その他の構成は同様である。
【0055】
(濁度の変化率に基づいた凝集剤の注入頻度)
図8は、本実施形態の対応テーブル21の一例を表形式で示す図である。本実施形態では、上記水質指標は、
図8に示すように、原水の濁度の変化率であるが、これに限定されるものではなく、原水の水質の指標となる種々の値またはそれらの組合せの変化率を採用することができる。例えば、上記水質指標は、色度、pHなどの上述の例で挙げた水質の値の変化率であってもよい。ここで、変化率とは、単位時間あたりの水質の値の変化量であり、例えば、1分あたりの変化量である。
【0056】
また、
図8の例では、濁度の変化率が取り得る値を、上記変化率が15mg/L/minよりも大きい「高」レベルと、上記変化率が5mg/L/min以上15mg/L/min以下である「中」レベルと、上記変化率が5mg/L/min未満である「低」レベルとの3つに区分けされている。「高」レベルの場合、指示頻度が60回/時間であり、上述のように、測定頻度と同じである。このように、指示頻度は測定頻度を上回る必要はない。一方、「中」レベルの場合、指示頻度が6回/時間であり、「高」レベルの場合の指示頻度よりも著しく低くなっている。また、「低」レベルの場合、指示頻度が2回/時間であり、「中」レベルの場合の指示頻度よりも低くなっている。
【0057】
上記の構成によれば、原水の濁度の変化率に応じて、単位時間当たりの指示の回数である指示頻度が決定される。これにより、例えば、上記濁度の変化率が小さい場合には、上記指示頻度を少なくすることにより、凝集剤注入ポンプ113の動作を変更する可能性が低くなる。これにより、上述のように、凝集剤注入ポンプ113内の部品の寿命が長くなる可能性が高くなる。一方、上記濁度の変化率が大きい場合には、上記指示頻度が多くなる。この場合、上記水質指標として上記水質の値を採用する場合に比べて、上記水質の変化にさらに迅速に対応することができる。
【0058】
(付記事項)
なお、上記実施形態では、凝集剤を注入する注入装置として凝集剤注入ポンプ113を利用しているが、これに限定されるものではない。例えば流量調整弁など、凝集剤を含む薬液を所定の流量に調整できるものであれば、上記注入装置として利用することができる。上記流量調整弁の場合、上記指示頻度が少なくなることにより、内部の摺動部品の動作頻度が低減する可能性が高くなる。その結果、上記摺動部品の寿命が長くなる可能性が高くなり、上記摺動部品の交換期間が長くなる可能性が高くなる。
【0059】
〔実施形態4〕
本発明のさらに別の実施形態について、
図9~
図12を参照して説明する。
【0060】
図9は、本実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。本実施形態の水処理システム1は、
図1に示す水処理システム1に比べて、注入率制御装置2が、凝集剤注入ポンプ113に代えてpH調整剤注入ポンプ116を制御する点が異なり、その他の構成は同様である。
【0061】
注入率制御装置2は、原水の水質データに基づいて、原水へ注入するpH調整剤およびその注入率を決定するものである。ここで、上記注入率は、原水に注入するpH調整剤の、原水に対する割合である。上記注入率は、従来、ジャーテストの結果、過去の知見、所定の計算式などを用いて決定されている。なお、注入率制御装置2は、急速混和池102に設けたpH計(図示せず)の値と、急速混和池102のpH目標値との差分に応じて、上記pH調整剤および上記注入率を決定するフィードバック制御を行ってもよい。
【0062】
注入率制御装置2は、決定したpH調整剤およびその注入率をpH調整剤注入ポンプ116に指示(出力)する。pH調整剤注入ポンプ116は、流量計112からの流量のデータと、注入率制御装置2からの指示とに基づいて、pH調整剤およびその注入率を決定して急速混和池102に注入する。なお、pH調整剤注入ポンプ116は、着水井101から急速混和池102までの間にpH調整剤を注入すればよい。
【0063】
図10は、注入率制御装置2の要部構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の注入率制御装置2は、
図2に示す注入率制御装置2に比べて、記憶部12が対応テーブル21に代えて第1対応テーブル41および第2対応テーブル42を記憶する点と、制御部13が濁度取得部31、指示頻度決定部32、注入率取得部33、および注入率指示部34に代えて、pH取得部51、指示頻度決定部52、注入率取得部53、および注入率指示部54を備える点と、薬剤決定部55を新たに備える点とが異なり、その他の構成は同様である。
【0064】
図11は、第1対応テーブル41および第2対応テーブル42の一例を表形式で示す図である。第1対応テーブル41および第2対応テーブル42では、単位時間当たりの注入率の指示の回数である指示頻度が、原水の水質の指標である水質指標が取り得る値を3つに区分けしたレベル毎に定められている。本実施形態では、上記水質指標は、
図11に示すように、原水のpHの変化率の値であるが、これに限定されるものではなく、原水の水質の指標となる種々の値またはそれらの組合せを採用することができる。例えば、上記水質指標は、原水のpHの値であってもよい。
【0065】
第1対応テーブル41は、アルカリ剤である水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)がpH調整剤として注入される場合に適用される。第2対応テーブル42は、酸剤である硫酸がpH調整剤として注入される場合に適用される。このように、複数のpH調整剤にそれぞれ対応する複数の対応テーブルを記憶部12に記憶してもよい。また、複数のpH調整剤に共通する1つの対応テーブルを記憶部12に記憶してもよい。
【0066】
また、
図11に示す第1対応テーブル41の例では、上記pHの変化率が取り得る値を、上記変化率が1min
-1よりも大きい「高」レベルと、上記変化率が0.5min
-1以上1min
-1以下である「中」レベルと、上記変化率が0.5min
-1未満である「低」レベルとの3つに区分けされている。また、
図11に示す第2対応テーブル42の例では、上記pHの変化率が取り得る値を、上記変化率が2min
-1よりも大きい「高」レベルと、上記変化率が0.5min
-1以上2min
-1以下である「中」レベルと、上記変化率が0.5min
-1未満である「低」レベルとの3つに区分けされている。
【0067】
また、
図11に示す第1対応テーブル41および第2対応テーブル42は、
図8に示す対応テーブル21に比べて、レベル毎の指示頻度および指示の周期が異なる。具体的には、第1対応テーブル41および第2対応テーブル42は、「高」レベルの場合、指示頻度が10回/分であり、「中」レベルの場合、指示頻度が5回/分であり、「低」レベルの場合、指示頻度が1回/分である。
【0068】
なお、第1対応テーブル41および第2対応テーブル42は、レベルの区分けおよび指示頻度(指示の周期)が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、レベルの区分けがpHに基づいて行われてもよい。この場合、第1対応テーブル41および第2対応テーブル42は、少なくともレベルの区分けが異なる。
【0069】
pH取得部51は、入力部11が受信した原水の水質データの中から、原水のpHを取得する。pH取得部51は、取得したpHを指示頻度決定部52、注入率取得部53、および薬剤決定部55に送出する。なお、pH取得部51は、pH以外の上記水質データを取得してもよい。
【0070】
薬剤決定部55は、pH取得部51からのpHに基づいて、pH調整剤注入ポンプ116が注入するpH調整剤を決定する。具体的には、薬剤決定部55は、目的に応じて設定された目標値よりもpHが小さい場合に水酸化ナトリウムをpH調整剤として決定する一方、上記目標値よりもpHが大きい場合に硫酸をpH調整剤として決定する。薬剤決定部55は、決定したpH調整剤を指示頻度決定部52および注入率指示部54に通知する。
【0071】
上記目標値の例としては、ポリ塩化アルミニウムによる凝集処理に適したpH(6~8)、水道の水質管理目標設定項目としての目標値であるpH(7.5程度)などが挙げられる。上記凝集処理に適したpHは、ジャーテストにより原水に応じて設定されることが望ましい。
【0072】
指示頻度決定部52は、pH取得部51からの原水のpHに応じて指示頻度を決定する。具体的には、薬剤決定部55から通知されたpH調整剤が水酸化ナトリウムである場合、指示頻度決定部52は、記憶部12の第1対応テーブル41を参照して、pH取得部51からのpHの変化率に対応するレベルを特定し、特定したレベルに対応する指示頻度を取得する。一方、薬剤決定部55から通知されたpH調整剤が硫酸である場合、指示頻度決定部52は、記憶部12の第2対応テーブル42を参照して、pH取得部51からのpHの変化率に対応するレベルを特定し、特定したレベルに対応する指示頻度を取得する。指示頻度決定部52は、取得した指示頻度を注入率指示部54に送出する。
【0073】
注入率取得部53は、過去の知見に基づいてpHと注入率とが対応づけられたテーブル、所定の計算式、フィードバック制御などを利用して、pH取得部51からのpHに応じた注入率を取得する。なお、注入率取得部53は、薬剤決定部55から通知されたpH調整剤と、上記pHの変化率とに応じた注入率を取得してもよい。従って、注入率取得部53が単位時間当たりに注入率を取得した回数である注入率の取得頻度は、pHの測定頻度(例えば、60回/時間)と同じである。注入率取得部53は、取得した注入率を注入率指示部54に送出する。
【0074】
注入率指示部54は、指示頻度決定部52からの指示頻度と、注入率取得部53からの注入率とに基づき、pH調整剤注入ポンプ116に指示する指示用注入率を決定し、該指示用注入率を、出力部14を介してpH調整剤注入ポンプ116に指示する。なお、上記指示用注入率の決定方法は、
図2に示す注入率指示部34と同様である。
【0075】
以上のように、本実施形態の注入率制御装置2は、原水のpHを調整するpH調整剤を、上記原水に注入するpH調整剤注入ポンプ116であって、外部からの指示に応じて上記pH調整剤の注入率が設定されるpH調整剤注入ポンプ116に対して、設定すべき上記注入率を指示する制御部13を備え、該制御部13は、上記原水のpHの変化率に応じて、単位時間当たりの上記指示の回数である指示頻度を決定する指示頻度決定部52と、上記指示頻度に基づいて上記注入率をpH調整剤注入ポンプ116に指示する注入率指示部54とを備え、上記指示頻度は、上記pHの変化率が取り得る値を区分した3つのレベル毎に定められている。
【0076】
上記の構成によれば、原水のpHの変化率に応じて、単位時間当たりの指示の回数である指示頻度が決定される。これにより、例えば、上記原水のpHの変化率が小さい場合には、上記指示頻度を少なくすることにより、pH調整剤注入ポンプ116の動作を変更する可能性が低くなる。これにより、上述のように、pH調整剤注入ポンプ116内の部品の寿命が長くなる可能性が高くなる。また、上記原水のpHの変化率が大きい場合には、上記指示頻度を多くすることにより、上記水質指標として上記pHの値を採用する場合に比べて、上記pHの変化にさらに迅速に対応することができる。
【0077】
(注入率制御処理)
図12は、上記構成の水処理システム1における注入率制御処理(制御ステップ)の流れの一例を示すフローチャートである。
図12に示すように、まず、pH取得部51は、水質計111が測定した原水の水質データの中から、原水のpHを取得する(S31)。
【0078】
次に、薬剤決定部55は、上記pHに基づいて、pH調整剤注入ポンプ116が注入するpH調整剤を決定する(S32)。
【0079】
次に、指示頻度決定部52は、薬剤決定部55が決定したpH調整剤と、上記pHの変化率に応じて指示頻度を決定する(決定ステップ)。具体的には、指示頻度決定部52は、記憶部12の第1対応テーブル41および第2対応テーブル42のうち、薬剤決定部55がpH調整剤に対応する対応テーブルを参照して、上記pHの変化率に対応するレベルを特定し、特定したレベルに対応する指示頻度を取得する(S33)。また、注入率取得部53は、過去の知見に基づいてpHと注入率とが対応づけられたテーブル、所定の計算式、などを利用して、上記pHに応じた注入率を取得する(S34)。なお、S33およびS34の順序は任意である。
【0080】
S35~S37の処理は、それぞれ、
図4に示すS14~S16の処理と同様である。そして、注入率指示部54は、決定したおよび指示用注入率と、S32にて決定した上記pH調整剤とを、出力部14を介してpH調整剤注入ポンプに、上記指示頻度に従って指示する(S38、指示ステップ)。その後、S31に戻って、上記注入率制御処理を繰り返す。
【0081】
〔実施形態5〕
本発明のさらに別の実施形態について、
図13および
図14を参照して説明する。本実施形態の水処理システム1は、
図9~
図12に示す水処理システム1に比べて、注入率制御装置2の構成が異なり、その他の構成は同様である。
【0082】
図13は、本実施形態における注入率制御装置2の要部構成の一例を示すブロック図である。
図13に示す注入率制御装置2は、
図10に示す注入率制御装置2に比べて、記憶部12が取得データベース43、第1推定モデル44、および第2推定モデル45をさらに記憶している点と、制御部13がpH取得部51および注入率取得部53に代えて、データ取得部56および注入率推定部57(推定部)をそれぞれ備える点と、制御部13がモデル更新部58をさらに備える点とが異なり、その他の構成は同様である。
【0083】
データ取得部56は、入力部11が受信した原水の水質データの中から、原水のpHを取得する。また、データ取得部56は、入力部11から入力データを取得する。上記入力データは、水処理システム1の各部から注入率制御装置2に入力されるデータである。
【0084】
上記入力データは、原水の水質に関連する水質関連データを含む。上記水質関連データは、着水井101よりも上流側の取水点における濁度(取水濁度)と、着水井101における濁度(着水濁度)、pH、紫外線吸光度、水温、EC(電気伝導度)、およびORP(酸化還元電位)とを含む。従って、上記水質関連データは、原水のpH(上記取水点から着水井101までの間におけるpH)を含む。また、上記水質関連データの他の例としては、原水の流量、浄水施設の上流に設けられたダムにおける放流の有無、原水の水源が複数存在する場合における当該複数の水源からの水の混合比、などが挙げられる。
【0085】
上記入力データは、原水の水質の変動要因となり得る変動要因データを含む。上記変動要因データは、受水流量、回収水流量、および浮上分離返送水量を含む。また、上記入力データは、pH調整剤の注入に影響を及ぼす影響要因データを含む。上記影響要因データは、pH調整剤の注入位置と、上記注入位置よりも上流側の位置とにおいて注入される凝集剤、塩素剤、粉末活性炭など、pH調整剤以外の薬剤の注入率を含む。
【0086】
上記入力データは、第1推定モデル44および第2推定モデル45の更新に利用する入力データをフィルタリングするためのフィルタ用データを含む。本実施形態では、上記フィルタ用データは、上記濾過池に送られる沈澱水の濁度である。
【0087】
データ取得部56は、取得した原水のpHを指示頻度決定部52、注入率取得部53、および薬剤決定部55に送出する。また、データ取得部56は、取得した入力データを注入率推定部57に送出すると共に、記憶部12の取得データベース43に蓄積する。
【0088】
第1推定モデル44および第2推定モデル45は、上記入力データの一部種類を入力としてpH調整剤の注入率を出力するように機械学習された学習モデルである。上記学習には、多変量回帰分析、ランダムフォレスト回帰など、種々の手法を利用することができる。
【0089】
第1推定モデル44は、アルカリ剤である水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)がpH調整剤として注入される場合に適用される。第1推定モデル44の目的変数は、水酸化ナトリウムの注入率である。第1推定モデル44の説明変数は、原水の水質の関連項目のデータとして、上記取水濁度と、着水井101における着水濁度、水温、pH、EC(電気伝導度)、およびORP(酸化還元電位)とを含む。第1推定モデル44の説明変数は、上記水質の変動要因のデータとして、受水流量、回収水流量、および浮上分離返送水量を含む。第1推定モデル44の説明変数は、上記水酸化ナトリウムの注入の影響要因のデータとして、上記水酸化ナトリウムの注入位置と上記注入位置よりも上流側の位置とにおいて注入される凝集剤、硫酸、塩素剤、その他の薬剤の注入率を含む。
【0090】
第2推定モデル45は、酸剤である硫酸がpH調整剤として注入される場合に適用される。第2推定モデル45の目的変数は、硫酸の注入率である。第2推定モデル45の説明変数は、原水の水質の関連項目のデータとして、上記取水濁度と、着水井101における着水濁度、水温、pH、EC、およびORPとを含む。第2推定モデル45の説明変数は、上記水質の変動要因のデータとして、受水流量、回収水流量、および浮上分離返送水量を含む。第2推定モデル45の説明変数は、上記硫酸の注入の影響要因のデータとして、上記硫酸の注入位置と上記注入位置よりも上流側の位置とにおいて注入される凝集剤、水酸化ナトリウム、塩素剤、その他の薬剤の注入率を含む。
【0091】
注入率推定部57は、記憶部12の第1推定モデル44または第2推定モデル45を用いて、データ取得部56から取得した入力データに応じたpH調整剤の注入率を推定する。具体的には、薬剤決定部55がpH調整剤として水酸化ナトリウムを決定した場合、注入率推定部57は、記憶部12の第1推定モデル44を用いて、上記入力データに応じた水酸化ナトリウムの注入率を推定する。一方、薬剤決定部55がpH調整剤として硫酸を決定した場合、注入率推定部57は、記憶部12の第2推定モデル45を用いて、上記入力データに応じた硫酸の注入率を推定する。注入率推定部35は、推定した注入率を注入率指示部34に送出する。
【0092】
モデル更新部58は、記憶部12の取得データベース43を用いて、記憶部12の第1推定モデル44および第2推定モデル45を更新する。具体的には、モデル更新部58は、記憶部12の取得データベース43から第1推定モデル44の目的変数および説明変数を含む教師データの群を抽出する。次に、モデル更新部58は、抽出した教師データの群を用いて機械学習を行い、学習モデルとしての推定モデルを構築する。
【0093】
モデル更新部58は、例えば、ランダムフォレスト(RF:Random Forest)、勾配ブースティング(GBR:Gradient Boosted tree Regression)またはニューラルネットワーク(NN:Neural Network)により得られる回帰モデルを上記推定モデルとして生成する。モデル更新部58は、構築した推定モデルで記憶部12の第1推定モデル44を更新する。なお、第2推定モデル45の更新は、上述のような第1推定モデル44の更新と同様であるので、その説明を省略する。
【0094】
(注入率制御処理)
図14は、上記構成の水処理システム1における注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図14に示す注入率制御処理は、
図12に示す注入率制御処理に比べて、S31およびS34に代えてS41およびS42がそれぞれ設けられている点が異なり、その他は同様である。
【0095】
S41では、データ取得部56は、水処理システム1の各部から注入率制御装置2に入力される入力データ(原水のpHを含む)を取得する。S42では、注入率推定部57は、記憶部12の第1推定モデル44または第2推定モデル45を用いて、S41にて取得した入力データに応じたpH調整剤の注入率を推定する。なお、S33およびS42の順序は任意である。このように、pH調整剤の注入率は、種々の手法を用いて取得することができる。
【0096】
〔実施形態6〕
本発明のさらに別の実施形態について、
図15~
図18を参照して説明する。
【0097】
(水処理システム)
図15は、本実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。本実施形態の水処理システム1aは、上記原水または上記原水を処理した処理水に対し、塩素剤を用いて消毒処理を行うものである。なお、アンモニア態窒素等のような塩素と反応する物質の原水中濃度と、これらの反応式に基づく理論式とを用いて塩素要求量を算出し、算出した塩素要求量を、塩素剤の注入率を設定する上での参考とすることが、従来より行われている。
【0098】
ここで、塩素要求量とは、水処理での塩素注入において、水中の被酸化物が全量酸化され残留塩素が検出され始めるまでに注入した塩素量をいう。なお、アンモニア等を含む水の場合、残留塩素が増加した後減少し、再び0近くになる点(ブレイクポイント)がある。このブレイクポイントを過ぎると、残留塩素は単調増加する。この場合、塩素要求量は、ブレイクポイントまでに注入した塩素量である。
【0099】
図9に示すように、水処理システム1aは、上記消毒プロセスを実現する設備として、着水井101、急速混和池102、フロック形成池103、沈澱池104、中段の塩素混和池105、濾過池106、後段の塩素混和池107、および配水池108を備える。なお、
図9に示す着水井101、急速混和池102、フロック形成池103、および沈澱池104は、それぞれ、
図1に示す着水井101、急速混和池102、フロック形成池103、および沈澱池104と同様である。
【0100】
着水井101の上流側の導水管には流量計121が設けられている。流量計121は、着水井101に送られる原水の流量を測定する。流量計121によって測定された流量のデータは、前段の注入装置122に入力される。着水井101では、前段の注入装置122により前段の塩素剤が注入される。上記前段の塩素剤により、原水を消毒すると共に、原水に含まれている有機物等を酸化することができる。
【0101】
沈澱池104と中段の塩素混和池105との間の導水管には流量計123が設けられている。流量計123は、沈澱池104から中段の塩素混和池105に送られる処理水の流量を測定する。流量計123によって測定された流量のデータは、中段の注入装置124に入力される。
【0102】
中段の塩素混和池105は、沈澱池104から送られてきた沈澱水に中段の塩素剤を注入するための混和池である。上記中段の塩素剤は、中段の注入装置124によって中段の塩素混和池105に注入される。上記中段の塩素剤により、原水を消毒すると共に、原水に含まれている溶解性マンガンを後段の濾過池106にて除去することができる。
【0103】
濾過池106は、沈澱池104から中段の塩素混和池105を介して流入する沈澱水を濾過する濾過設備を備えた池である。濾過池106では、沈澱水に残留する微小な懸濁物質が濾過によって分離される。濾過池106にて濾過された水は、浄水として後段の塩素混和池107に送られる。
【0104】
濾過池106と後段の塩素混和池107との間の導水管には流量計125が設けられている。流量計125は、濾過池106から後段の塩素混和池107に送られる浄水の流量を測定する。流量計125によって測定された流量のデータは、後段の注入装置126に入力される。
【0105】
後段の塩素混和池107は、濾過池106から送られてきた浄水に後段の塩素剤を注入するための混和池である。上記後段の塩素剤は、後段の注入装置126によって後段の塩素混和池107に注入される。上記後段の塩素剤は、配水池108から配水される水の残留塩素濃度を調整するために利用される。
【0106】
配水池108は、濾過池106から後段の塩素混和池107を介して流入する浄水を一時的に貯留し、需要量に応じて流出制御を行う制御設備を備えた池である。配水池108から水道管を介して需要者に浄水が供給される。
【0107】
配水池108の上流側には、濃度計127が設けられている。濃度計127は、配水池108に送られる浄水の塩素濃度を測定する。濃度計127によって測定された塩素濃度の測定データは、注入率制御装置2aに入力される。なお、上記塩素濃度の測定データは、後述の実施形態にて利用される。
【0108】
(注入率制御装置)
図15に示すように、水処理システム1aは、注入率制御装置2aを備える。注入率制御装置2aは、水へ注入する前段、中段、および後段の塩素剤の注入率のそれぞれを、原水の属性等に応じて決定するものである。ここで、上記注入率は、水に注入する塩素剤の、当該水に対する割合である。上記注入率は、従来、ジャーテストの結果、過去の知見、所定の計算式などを用いて決定されている。
【0109】
なお、注入率制御装置2aは、着水井101に設けた濃度計(図示せず)からの塩素濃度の測定値と、塩素濃度の目標値との差分に応じて前段の上記注入率を決定するフィードバック制御を行ってもよい。また、注入率制御装置2aは、塩素混和池105に設けた濃度計(図示せず)からの塩素濃度の測定値と、塩素濃度の目標値との差分に応じて中段の上記注入率を決定するフィードバック制御を行ってもよい。また、注入率制御装置2aは、塩素混和池107に設けた濃度計(図示せず)からの塩素濃度の測定値と、塩素濃度の目標値との差分に応じて後段の上記注入率を決定するフィードバック制御を行ってもよい。
【0110】
注入率制御装置2aは、決定した前段の塩素剤の注入率(以下、「前段の注入率」と称することがある。)を前段の注入装置122に出力する。前段の注入装置122は、流量計121からの流量のデータと、注入率制御装置2aからの前段の注入率とに基づいて、前段の塩素剤の注入量を決定して着水井101に注入する。
【0111】
また、注入率制御装置2aは、決定した中段の塩素剤の注入率(以下、「中段の注入率」と称することがある。)を中段の注入装置124に出力する。中段の注入装置124は、流量計123からの流量のデータと、注入率制御装置2aからの中段の注入率とに基づいて、中段の塩素剤の注入量を決定して中段の塩素混和池105に注入する。
【0112】
また、注入率制御装置2aは、決定した後段の塩素剤の注入率(以下、「後段の注入率」と称することがある。)を後段の注入装置126に出力する。後段の注入装置126は、流量計125からの流量のデータと、注入率制御装置2aからの後段の注入率とに基づいて、後段の塩素剤の注入量を決定して後段の塩素混和池107に注入する。
【0113】
なお、注入率制御装置2aは、ハードウェアおよびソフトウェアの構成群を備えた1台の情報処理装置によって構成されてもよいし、複数台の情報処理装置によって構成されてもよい。
【0114】
16は、注入率制御装置2aの要部構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の注入率制御装置2aは、
図2に示す注入率制御装置2に比べて、記憶部12が対応テーブル21に代えて対応テーブル61を記憶する点と、制御部13が濁度取得部31、指示頻度決定部32、注入率取得部33、および注入率指示部34に代えて、データ取得部71、指示頻度決定部72、注入率取得部73、および注入率指示部74を備える点が異なり、その他の構成は同様である。
【0115】
図17は、対応テーブル61の一例を表形式で示す図である。対応テーブル61では、単位時間当たりの注入率の指示の回数である指示頻度が、原水の水質の指標である水質指標が取り得る値を3つに区分けしたレベル毎に定められている。
【0116】
本実施形態では、上記水質指標は、
図17に示すように、原水の紫外線吸光度の変化率の値であるが、これに限定されるものではなく、原水の水質の指標となる種々の値またはそれらの組合せを採用することができる。例えば、上記水質指標は、原水の塩素要求量またはその変化率であってもよいし、当該塩素要求量に影響する水質指標またはその変化率であってもよい。上記塩素要求量に影響する水質指標の例としては、上記紫外線吸光度の他に、全有機炭素(TOC:Total Organic Carbon)、色度などが挙げられる。なお、紫外線吸光度の単位はAbs.(Absorbance)である。
【0117】
また、
図17の例では、上記紫外線吸光度の変化率が取り得る値を、上記変化率が0.1Abs./minよりも大きい「高」レベルと、上記変化率が0.05Abs./min以上0.1Abs./min以下である「中」レベルと、上記変化率が0.05Abs./min未満である「低」レベルとの3つに区分けされている。なお、
図17の例では、レベル毎の指示頻度および指示の周期は、
図11に示す第1対応テーブル41および第2対応テーブル42と同様である。
【0118】
データ取得部71は、入力部11が受信した原水の水質データの中から、原水の紫外線吸光度を取得する。データ取得部71は、取得した紫外線吸光度を指示頻度決定部72に送出する。
【0119】
また、データ取得部71は、
図13に示すデータ取得部56と同様に、入力部11から入力データを取得する。上記入力データは、水処理システム1aの各部から注入率制御装置2aに入力されるデータである。データ取得部71は、取得した入力データを注入率取得部73に送出する。
【0120】
指示頻度決定部72は、データ取得部71からの原水の紫外線吸光度の変化率に応じて指示頻度を決定する。具体的には、指示頻度決定部72は、記憶部12の対応テーブル61を参照して、データ取得部71からの上記紫外線吸光度の変化率に対応するレベルを特定し、特定したレベルに対応する指示頻度を取得する。指示頻度決定部72は、取得した指示頻度を注入率指示部74に送出する。
【0121】
注入率取得部73は、過去の知見に基づいて上記入力データと注入率とが対応づけられたテーブル、所定の計算式、などを利用して、データ取得部71からの入力データに応じた注入率を取得する。具体的には、注入率取得部73は、前段の注入装置122に関する入力データに応じた前段の注入率を取得する。また、注入率取得部73は、中段の注入装置122に関する入力データに応じた中段の注入率を取得する。そして、注入率取得部73は、後段の注入装置122に関する入力データに応じた後段の注入率を取得する。注入率取得部73は、取得した前段、中段、および後段の注入率を注入率指示部74に送出する。なお、注入率取得部73は、上記入力データの全てを利用する必要は無く、上記入力データの一部を利用して前段、中段、および後段の注入率を取得してもよい。
【0122】
なお、前段、中段、および後段の指示用注入率のそれぞれについて、上記指示頻度に対応する指示の周期(
図17参照)ごとに、注入率取得部53から複数の注入率を取得する場合、注入率指示部74は、
図2に示す注入率指示部34と同様に、上記複数の注入率の平均値を上記注入率として決定すればよい。
【0123】
以上のように、本実施形態の注入率制御装置2aは、水処理工程で添加する薬剤である塩素剤を、処理対象である液体に注入する注入装置122、124、および126であって、外部からの指示に応じて上記塩素剤の注入率が設定される注入装置122、124、および126に対して、設定すべき上記注入率を指示する制御部13を備え、該制御部13は、上記原水の紫外線吸光度の変化率に応じて、単位時間当たりの上記指示の回数である指示頻度を決定する指示頻度決定部72と、上記指示頻度に基づいて上記注入率を注入装置122、124、および126に指示する注入率指示部74とを備え、上記指示頻度は、上記紫外線吸光度の変化率が取り得る値を区分したレベル毎に定められている。
【0124】
上記の構成によれば、原水の紫外線吸光度の変化率に応じて、単位時間当たりの指示の回数である指示頻度が決定される。これにより、例えば、上記原水の紫外線吸光度の変化率が良好な場合(小さい場合)には、上記指示頻度を少なくすることにより、注入装置122、124、および126の動作を変更する可能性が低くなる。これにより、上述のように、注入装置122、124、および126内の部品の寿命が長くなる可能性が高くなる。また、上記原水の紫外線吸光度の変化率が改善すべき場合(大きい場合)には、上記指示頻度を多くすることにより、上記原水の水質の変化に迅速に対応することができる。また、上記水質指標として上記原水の紫外線吸光度の値を採用する場合に比べて、上記水質の変化にさらに迅速に対応することができる。
【0125】
(注入率制御処理)
図18は、上記構成の水処理システム1aにおける注入率制御処理(制御ステップ)の流れの一例を示すフローチャートである。上記注入率制御処理は、注入装置122、124、および126のそれぞれに対して実行される。
図18に示すように、まず、データ取得部71は、原水の紫外線吸光度を含む入力データを取得する(S61)。
【0126】
次に、指示頻度決定部72は、水質指標である原水の紫外線吸光度の変化率に応じて指示頻度を決定する(決定ステップ)。具体的には、指示頻度決定部72は、記憶部12の対応テーブル61を参照して、上記原水の紫外線吸光度の変化率に対応するレベルを特定し、特定したレベルに対応する指示頻度を取得する(S62)。また、注入率取得部73は、過去の知見に基づいて上記入力データと注入率とが対応づけられたテーブル、所定の計算式、などを利用して、上記入力データに応じた注入率を取得する(S63)。なお、S62およびS63の順序は任意である。
【0127】
S64~S66の処理は、
図4に示すS14~S16の処理と同様である。そして、注入率指示部54は、決定した指示用注入率を、出力部14を介して対象の上記注入装置に、上記指示頻度に従って指示する(S67、指示ステップ)。その後、S61に戻って、上記注入率制御処理を繰り返す。
【0128】
〔実施形態7〕
本発明のさらに別の実施形態について、
図19~
図21を参照して説明する。本実施形態の水処理システム1aは、
図15~
図18に示す水処理システム1aに比べて、注入率制御装置2aの構成が異なり、その他の構成は同様である。
【0129】
図19は、本実施形態における注入率制御装置2aの要部構成の一例を示すブロック図である。
図19に示す注入率制御装置2aは、16に示す注入率制御装置2aに比べて、記憶部12が取得データベース62、前段推定モデル63、中段推定モデル64、および後段推定モデル65をさらに記憶している点と、制御部13がデータ取得部71および注入率取得部73に代えて、データ取得部75および注入率推定部76(推定部)をそれぞれ備える点と、制御部13がモデル更新部77をさらに備える点とが異なり、その他の構成は同様である。データ取得部75は、16に示すデータ取得部71に比べて、さらに、記憶部12の取得データベース62に蓄積する点が異なり、その他は同様である。
【0130】
前段推定モデル63、中段推定モデル64、および後段推定モデル65は、上記入力データの一部種類を入力として前段、中段、および後段の塩素剤の注入率をそれぞれ出力するように機械学習された学習モデルである。上記学習には、多変量回帰分析、ランダムフォレスト回帰など、種々の手法を利用することができる。
【0131】
前段推定モデル63の目的変数は、前段の塩素剤の注入率である。前段推定モデル63の説明変数は、原水の水質の関連項目のデータとして、上記取水点における紫外線吸光度と、上記取水濁度と、着水井101における着水濁度、水温、pH、EC、およびORPとを含む。前段推定モデル63の説明変数は、上記水質の変動要因のデータとして、上記受水流量、上記回収水流量、および上記浮上分離返送水量を含む。前段推定モデル63の説明変数は、上記前段の塩素剤の注入の影響要因のデータとして、上記前段の塩素剤の注入位置と上記注入位置よりも上流側の位置とにおいて注入される凝集剤、水酸化ナトリウム、硫酸、その他の薬剤の注入率を含む。
【0132】
中段推定モデル64の目的変数は、中段の塩素剤の注入率である。中段推定モデル64の説明変数は、原水の水質の関連項目のデータとして、上記取水点における紫外線吸光度と、上記取水濁度と、着水井101における着水濁度、水温、pH、EC、およびORPとを含む。中段推定モデル64の説明変数は、上記水質の変動要因のデータとして、上記受水流量、上記回収水流量、および上記浮上分離返送水量を含む。中段推定モデル64の説明変数は、上記中段の塩素剤の注入の影響要因のデータとして、上記中段の塩素剤の注入位置と上記注入位置よりも上流側の位置とにおいて注入される凝集剤、水酸化ナトリウム、硫酸、前段の塩素剤、その他の薬剤の注入率を含む。
【0133】
後段推定モデル65の目的変数は、後段の塩素剤の注入率である。後段推定モデル65の説明変数は、原水の水質の関連項目のデータとして、上記取水点における紫外線吸光度と、上記取水濁度と、着水井101における着水濁度、水温、pH、EC、およびORPとを含む。後段推定モデル65の説明変数は、上記水質の変動要因のデータとして、上記受水流量、上記回収水流量、および上記浮上分離返送水量を含む。後段推定モデル65の説明変数は、上記後段の塩素剤の注入の影響要因のデータとして、上記後段の塩素剤の注入位置と上記注入位置よりも上流側の位置とにおいて注入される凝集剤、水酸化ナトリウム、硫酸、前段の塩素剤、中段の塩素剤、その他の薬剤の注入率を含む。
【0134】
注入率推定部76は、記憶部12の前段推定モデル63を用いて、データ取得部75から取得した入力データに応じた前段の塩素剤の注入率を推定する。また、注入率推定部76は、記憶部12の中段推定モデル64を用いて、データ取得部75から取得した入力データに応じた中段の塩素剤の注入率を推定する。そして、注入率推定部76は、記憶部12の後段推定モデル65を用いて、データ取得部75から取得した入力データに応じた後段の塩素剤の注入率を推定する。注入率推定部76は、推定した前段、中段、および後段の塩素剤の注入率を注入率指示部74に送出する。
【0135】
モデル更新部77は、記憶部12の取得データベース62を用いて、記憶部12の前段推定モデル63、中段推定モデル64、および後段推定モデル65を更新する。具体的には、モデル更新部77は、記憶部12の取得データベース62から前段推定モデル63の目的変数および説明変数を含む教師データの群を抽出する。次に、モデル更新部77は、抽出した教師データの群を用いて、機械学習を行い、学習モデルとしての推定モデルを構築する。
【0136】
モデル更新部77は、上述のように、例えば、ランダムフォレスト、勾配ブースティングまたはニューラルネットワークにより得られる回帰モデルを上記推定モデルとして生成する。モデル更新部77は、構築した推定モデルで記憶部12の前段推定モデル63を更新する。なお、中段推定モデル64および後段推定モデル65の更新は、前段推定モデル63の更新と同様であるので、その説明を省略する。
【0137】
本実施形態では、モデル更新部77は、配水池108の塩素濃度が所定範囲外である入力データを、上記教師データから除外する。これにより、塩素剤の注入率の推定精度が向上する。
【0138】
(注入率制御処理)
図20は、上記構成の水処理システム1aにおける注入率制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図20に示す注入率制御処理は、
図18に示す注入率制御処理に比べて、S63に代えてS71が設けられている点が異なり、その他は同様である。
【0139】
S71では、注入率推定部76は、記憶部12の前段推定モデル63、中段推定モデル64、および後段推定モデル65を用いて、S61にて取得した入力データに応じた前段、中段、および後段の塩素剤の注入率をそれぞれ推定する。なお、S62およびS71の順序は任意である。このように、塩素剤の注入率は、種々の手法を用いて取得することができる。
【0140】
(モデル更新処理)
図21は、上記構成の水処理システム1aにおけるモデル更新処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、上記モデル更新処理は、前段推定モデル63の更新に関する処理であるが、中段推定モデル64および後段推定モデル65の更新に関する処理も同様である。
【0141】
図21に示すように、まず、モデル更新部77は、記憶部12の取得データベース62から、入力データを取得する(S81)。
【0142】
次に、モデル更新部77は、上記入力データに含まれる配水池108の塩素濃度が所定範囲内であるか否かを判断する(S82)。上記配水池108の塩素濃度が所定範囲外である場合、S84に進む。
【0143】
一方、上記配水池108の塩素濃度が所定範囲内である場合、前段推定モデル63の目的変数および説明変数を含む教師データを上記入力データから抽出して、教師データの群に追加する(S83)。その後、S84に進む。
【0144】
S84において、上記取得データベース62から全ての入力データを取得したか否かを判断する。一部の入力データを未だ取得していない場合、S81に戻る。
【0145】
一方、全ての入力データを取得した場合、モデル更新部77は、上記教師データの群を用いて機械学習を行って、学習モデルとしての推定モデルを構築し、構築した推定モデルで記憶部12の前段推定モデル63を更新する(S85)。その後、上記モデル更新処理を終了する。
【0146】
〔付記事項〕
なお、上記実施形態では、注入率制御装置2、2aは、上記指示頻度を決定し利用するが、上記指示頻度に対応し、次回の指示までの期間である上記指示の周期を決定し利用してもよい。すなわち、注入率制御装置2、2aは、上記指示頻度または上記指示の周期(指示周期)である指示情報を決定し利用すればよい。
【0147】
また、上記実施形態では、凝集剤、pH調整剤、および塩素剤を水に注入する場合に本発明を適用しているが、これに限定されるものではない。例えば粉末活性炭を水に注入する場合など、水処理工程で添加する任意の薬剤を、処理対象である液体に注入する場合に本発明を適用することができる。
【0148】
〔ソフトウェアによる実現例〕
注入率制御装置2、2a(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部13に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0149】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0150】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0151】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0152】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0153】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0154】
1、1a 水処理システム
2、2a 注入率制御装置
11 入力部
12 記憶部
13 制御部
14 出力部
21、61 対応テーブル
22 推定モデル
31 濁度取得部
32、52、72 指示頻度決定部(決定部)
33、53、73 注入率取得部(取得部)
34、54、74 注入率指示部(指示部)
35、57、76 注入率推定部(推定部)
41 第1対応テーブル
42 第2対応テーブル
43、62 取得データベース
44 第1推定モデル
45 第2推定モデル
51 pH取得部
55 薬剤決定部
56、71、75 データ取得部
58、77 モデル更新部
63 前段推定モデル
64 中段推定モデル
65 後段推定モデル
101 着水井
102 急速混和池
103 フロック形成池
104 沈澱池
105、107 塩素混和池
106 濾過池
108 配水池
111 水質計
112、121、123、125 流量計
113 凝集剤注入ポンプ(注入装置)
114 急速撹拌機
115 緩速撹拌機
116 pH調整剤注入ポンプ(注入装置)
122、124、126 注入装置
127 濃度計