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▶ プファイファー・ヴァキューム・テクノロジー・アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089625
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ポンプ及び封止部を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20240626BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20240626BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20240626BHJP
   F04B 53/14 20060101ALI20240626BHJP
   F04B 53/16 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F04C29/00 U
F04D19/04 Z
F04C25/02 N
F04C25/02 Z
F04B53/14 B
F04B53/16 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023189799
(22)【出願日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】22215608
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520415627
【氏名又は名称】プファイファー・ヴァキューム・テクノロジー・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100191938
【弁理士】
【氏名又は名称】高原 昭典
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・コーチ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス・ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン・ラッタ
【テーマコード(参考)】
3H071
3H129
3H131
【Fターム(参考)】
3H071AA15
3H071BB01
3H071CC26
3H071CC44
3H071CC47
3H071DD89
3H071EE08
3H071EE09
3H129AA02
3H129AB06
3H129BB44
3H129CC02
3H129CC39
3H131AA02
3H131CA34
(57)【要約】
【課題】防食が改善されたポンプを提供する。
【解決手段】ポンプにおいて、被覆を有してポンプ作用を奏するコンポーネントを備え、被覆は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって生成された、細孔を有する酸化物層と、フッ素フリーのポリマーをベースとする及び/又はゾルゲルをベースとする封止部とを有し、酸化物層の細孔は、少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は封止部が含浸されている、及び/又は封止部によって充填されている。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ、特に真空ポンプにおいて、
被覆を有してポンプ作用を奏するコンポーネントを備え、
前記被覆は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって生成された、細孔を有する酸化物層と、フッ素フリーのポリマーをベースとする及び/又はゾルゲルをベースとする封止部とを有し、
前記酸化物層の細孔は、少なくとも部分的に前記封止部によって覆われている、及び/又は前記封止部が含浸されている、及び/又は前記封止部によって充填されている、ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプは、スクロール要素として構成された複数の圧送要素を備えるスパイラルポンプ又はスクロールポンプ、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された前記圧送要素のうちの少なくとも1つに被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に前記シリンダ内壁及び/又は前記ピストンに被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項4】
前記ポンプは、ターボ分子真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に動翼及び/又は静翼に被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項5】
ポンプのポンプ作用を奏するコンポーネントを被覆する方法において、以下の
ステップA)表面上に多孔質の酸化物層を有する軽量合金工作物からなる、ポンプ作用を奏するコンポーネントを用意し、
ステップB)ポンプ作用を奏する前記コンポーネントを負圧にさらし、
ステップC)少なくとも1種の、特にフッ素フリーのポリマーをベースとする封止部前駆体及び/又は少なくとも1種のゾルゲルをベースとする封止部前駆体を含む溶液に多孔質の前記酸化物層を接触させる、ステップを有し、
その際、少なくともステップA)からC)までの1つの間でポンプ作用を奏する部分に電圧を印加する、方法。
【請求項6】
ステップC)で、溶液はイオン及び/又はイオン化合物を含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップC)の溶液中に、例えば置換アクリレート及び/又は置換アセテート及び/又は置換スチレン及び/又は置換イソシアネート及び/又はカルボキシル及び/又はスルホン酸等の有機アニオンのファミリー、及び/又は例えばケイ酸塩、アルミン酸塩等の無機イオンのファミリーからなる官能基を有する少なくとも1種の化合物が含まれている、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
電圧を、ポンプ作用を奏する前記コンポーネントの処理中に漸次増加させる、請求項5から7の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電圧は、50Vから300Vの間である、請求項5から8の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電圧を、直流を用いてポンプ作用を奏する前記コンポーネントに印加する、請求項5から9の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ポンプ作用を奏する前記コンポーネントを、電気化学的処理の終了後に好ましくは約100℃から300℃までの温度で熱処理する、請求項5から10の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
封止部前駆体は、電気化学的処理の間に細孔に析出される、請求項5から11の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
封止部前駆体は、細孔内で重合する、請求項5から12の少なくともいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項5から13のいずれか一項に記載の方法に従って得られるポンプ作用を奏するコンポーネントを備える、ポンプ。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポンプである、請求項14に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば互いに対して可動の少なくとも2つの圧送要素と、2つの圧送要素のうちの1つに配置された少なくとも1つのシールとを備えるポンプ、特に真空ポンプに関する。本発明によれば、少なくとも部分的に、特に圧送要素の少なくとも1つに被着された封止部が設けられている。さらに本発明は、ポンプ、特に真空ポンプを製造するための、封止部が設けられた構成部材及び少なくとも1つのシールの使用、及び封止部を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ、特に真空ポンプの圧送空間をシールするために、一般的に、油脂又は油等の流体を使用できる。ピストンポンプは、例えば、基本的に、圧送空間とピストンとの間に間隙を有する。この間隙は、流体シール式又は流体潤滑式の構成では、ポンプの運転中、大抵は油又は油脂である流体によって充填され、その際、流体は、ピストンと圧送空間との間のシールとして作用する。さらに、表面構造における欠損箇所(亀裂、穴、細孔等)が間隙のように作用し得る。特に、幾つかの被覆(塗料、アルマイト層等)が、欠損箇所を有する。この種のポンプの欠点は、ポンプによって圧送される、気体又は蒸気等の媒体が、シールとして使用される流体と反応し得、これにより、特にシール効果が低下し得ることである。別の問題は、特に真空ポンプの場合、使用される流体によるレシピエントの汚染にある。
【0003】
このような理由から、とりわけ真空ポンプに対して、圧送される媒体が流体に接触しないいわゆる乾式の手段が好適である。この場合、基本的に、化学耐性のある材料、通常はプラスチックからなる、スライドシール又は接触シールが使用される。例えばピストンポンプでは、この種のシールは、通常、ピストンに配置される。運転中、シールは、生じる圧送空間をできるだけ緊密にシールするために、シリンダの内壁に擦過する。通常は同様に乾式の、すなわち流体の潤滑剤なく運転されるポンプの他の例は、スクロールポンプ又はスパイラルポンプである。スクロールポンプは、三日月状の吸込室を有し、吸込室は、横断面で渦巻き状のロータによって、同種の渦巻き状のステータに係合した状態で形成され、この場合、ロータは、偏心駆動装置によって軌道運動させられる。圧送空間をシールするために、スクロール端面に、それぞれシールが設けられていて、この場合、ロータの端面側のシールは、ステータに擦過し、またその逆もいえる。
【0004】
この種のスライドシール又は接触シールの欠点は、シールが、通常、常時生じる滑り摩擦に起因して、極めて強い摩耗にさらされていて、多くの場合限られた耐用期間しか有しないことである。特に、吸込室内で、所定の運転時間が経過すると、粉塵の形態でシールの損耗が生じ得る。摩耗の増加とともに、接触シールのシール作用は低下し、これにより、達成可能な最終圧力に不都合な影響が及ぼされる。
【0005】
摩耗を減らすために、例えば欧州特許出願公開第3153706号明細書に記載されているように、スライド層又は保護層が設けられてよい。この種の封止部は、酸を含む、特にしゅう酸、硫酸又はこれらの混合物を含む電解液中での陽極酸化によって生成される酸化物層を有してよい。これらの封止部/保護層は、さらに、基材の耐食性及び摩耗耐性を向上させる。
【0006】
三日月状の吸込室の間には、極めて狭い間隙(百分の数mm)がある。吸込室を形成する2つの構成部材同士の接触のとき又は固体が入り込んだときに、硬質のスライド層及び保護層によって、基材の耐用期間の延長がもたらされる。しかし、この種の酸化物層は、その多孔質構造に基づいて、要求される最終圧力及び気密性を達成できない、又はより長い運転時間(いわゆるウォームアップ運転時間)の後でようやく達成できることが分かっている。試験によって、特に新しく被覆された構成部材では、被覆された構成部材の加熱プロセスによってウォームアップ運転時間の短縮又は最終圧力の改善を達成できることが示されているが、しかし、達成可能な最終圧力及びウォームアップ運転時間の短縮に関して、依然として改善の必要性がある。
【0007】
耐食性の向上は、ピストンポンプ及びスクロールポンプだけでなく、ターボ分子ポンプでも必要とされている。ターボ分子ポンプは、ロータシャフトの回転軸線を中心に回転するロータを有する真空ポンプである。ポンプ作用を奏するコンポーネントは、例えば欧州特許出願公開第3153706号明細書に記載されているように、前述のスライド層又は保護層に対してと同様に、耐食性を向上させるために酸化物層が設けられた軽量合金、特にアルミニウムからなってよい。
【0008】
運転中、ポンプ作用を奏するコンポーネントは、ポンプ作用を奏するコンポーネントに腐食作用を及ぼし得る、ポンピングされる媒体に接触する。この場合、多孔質の酸化物層を有する構成部材では細孔で始まる電解腐食が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3153706号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第3940234号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、防食が改善されたポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、独立請求項に記載のポンプ及び方法によって解決される。
【0012】
本発明に係るポンプは、好ましくは真空ポンプである。ポンプは、被覆を有してポンプ作用を奏するコンポーネントを備え、被覆は、細孔を有する酸化物層と、フッ素フリーのポリマーをベースとする及び/又はゾルゲルをベースとする封止部とを有し、酸化物層の細孔は、少なくとも部分的に封止部によって覆われている、及び/又は封止部が含浸されている、及び/又は封止部によって充填されている。
【0013】
本発明に係るポンプでは、ポンプ作用を奏するコンポーネントが封止部に基づいて防食されていることが分かっている。特に、通常は細孔で始まる電解腐食は、本発明による封止部によって効果的に阻止されている。封止部に基づいて、防食が、例えばスクロールポンプ、ターボ分子ポンプ又はピストンポンプ等の様々なタイプのポンプに対して与えられている。
【0014】
さらに、封止部は、他の課題を解決する。スクロールポンプ及びピストンポンプでは、封止部は、スライド層としても作用するので、2つの機能、すなわち1)スライド層/トライボロジー系の最適化と、2)保護層、すなわち損傷、摩耗及び腐食からの基材の防護とが満たされる。試験によって、特にスクロールポンプに硬質の表面被覆が施されないと、極めて短時間のうちに基材が損傷し得ることが示されている。
【0015】
酸化物層は、好ましくは、特に酸を含む電解液中での陽極酸化によって生成されている。好ましくは、電解液は、しゅう酸及び/又は硫酸を含み、この場合、硫酸がなお一層好適である。酸化物層は、好ましくは、アルミニウムの電解酸化によって生成されたアルマイトである。この酸化物層は、本明細書に記載されているように封止部がその上に被着されている場合には、スライド効果及び保護効果に関して前述の多機能特性を有することができる。
【0016】
例えばフッ素フリーのポリマー含浸物及び/又はゾルゲル含浸物の形態の酸化物層と封止部とを有するスライド層を備える本発明に係るポンプは、例えば欧州特許出願公開第3153706号明細書又は欧州特許出願公開第3940234号明細書に記載されているようなスライド層よりも低い最終圧力を可能にすることが分かっている。摩耗から防護するために被着された硬質の酸化物層は、細孔と欠損箇所と熱に起因する亀裂とを有する。細孔は、層に対して主に垂直に配置されていて、この場合、層内に、層に対して水平に配置された、垂直の細孔を互いに繋ぐ幾つかの枝部も存在する。細孔の他に、この種の硬質の酸化物層は、例えば介在物の形態の別の欠損箇所と亀裂とを有する。欠損箇所及び細孔は、気体が流れ得る微細な通路を形成する。さらに、これらの箇所から、物質、例えば水のガス放出が生じ得る。これにより、気密性が低下し、このことは、達成可能な最終圧力に不都合に作用する。このことは、特にスクロールポンプにおいて、要求される最終圧力及び気密性が達成不能である、又はより長い運転時間の後でようやく達成可能であることを意味する。いわゆるウォームアップ運転プロセスの間、細孔及び欠損箇所は、主に、関係する箇所で、シールの摩耗によって閉じられる。さらに、混在した媒体、例えば被覆残物のガス放出が行われる。封止部によって、必要とされる最終圧力をさらにより迅速に到達でき、その際、同時に摩耗に対する高い防護が維持されることが分かっている。このことは、おそらく、本発明に係るポンプでは、酸化物層に含まれる細孔が封止部によって閉じられていて、封止された層、例えばスライド層内の気体の流れ又はそこからのガス放出が阻止されている又は少なくとも減じられていることによって説明できる。前述の従来技術による封止部又はスライド層と比較して、本発明に係るポンプでは、酸化物層の細孔は、封止部のゾルゲルをベースとする材料又はフッ素フリーのポリマーによって少なくとも部分的に充填されていることが予想される。これにより、垂直の孔間、すなわち層に対して水平に配置された枝部間の横方向接続部もシールされる。これにより、公知のスライド層よりもさらに短いウォームアップ時間が達成される。
【0017】
欧州特許出願公開第3153706号明細書又は欧州特許出願公開第3940234号明細書に記載されたような従来技術とは異なり、ポリマーをベースとする封止部は、フッ素フリーである。「フッ素フリー」とは、ここでは、実質的にフッ素を含有しない材料として記載されている。このことは、フッ素含有化合物は、不純物又は他の添加物の形態で含まれ得るが、しかし、フッ素含有化合物は、封止部の基本的な特性、すなわち防食の改善を大きくは変化させないことを意味する。好ましくは、本明細書において「フッ素フリー」とは、100ppm(=100μg/g)以下のフッ素含有量を意味する。フッ素含有量は、例えば、蛍光X線測定によって特定できる。
【0018】
さらに、本発明は、ポンプのポンプ作用を奏するコンポーネントを被覆する方法に関する。本発明に係る方法は、以下のステップ、すなわちステップA)表面上に多孔質の酸化物層を有する軽量合金工作物からなる、ポンプ作用を奏するコンポーネントを用意し、ステップB)ポンプ作用を奏するコンポーネントを負圧にさらし、ステップC)少なくとも1種の、特にフッ素フリーのポリマーをベースとする封止部前駆体及び/又は少なくとも1種のゾルゲルをベースとする封止部前駆体を含む溶液に多孔質の酸化物層を接触させる、ステップを有し、その際、少なくともステップA)からC)までの1つの間にポンプ作用を奏する部分に電圧を印加する。
【0019】
本発明に係る方法によって、多孔質の酸化物層は、ポンプ作用を奏するコンポーネントの表面上で封止され、これにより、防食される。本発明に係る方法では、負圧が用いられるので、介在物は、酸化物構造の細孔から除去される。これにより、一方では、封止部前駆体がより良好にかつより深く細孔内に進入できる。他方では、酸化物層から水分が除去され、これにより、封止された酸化物層の摩耗がさらに僅かになる。
【0020】
軽金属工作物は、特にアルミニウム工作物であり、例えば本明細書で述べたアルミニウム合金のうちの一種からなる。
【0021】
電圧を印加することによって、酸化物層の細孔へ封止部前駆体が移送されるので、封止部による細孔の極めて深い浸透が得られる。この浸透に基づいて、本発明に係る方法によって、水平の細孔と垂直の細孔との両方が封止されることが推測される。これにより、達成可能な最終圧力及び必要なウォームアップ時間は、極めて僅かになる。
【0022】
さらに本発明は、本発明に係る方法によって得られる、ポンプ作用を奏するコンポーネントを備えるポンプに関する。
【0023】
本発明の好適な一形態によれば、本発明に係るポンプは、スクロール要素として構成された圧送要素を有する、好ましくはスパイラルポンプ又はスクロールポンプ、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプである。特に好適には、封止された酸化物層は、少なくともチップシールの場合に設けられている。この場合、封止部は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された圧送要素の少なくとも1つに被着されている。スパイラルポンプ又はクロールポンプのとき、本発明は、より低い達成可能な最終圧力と同時に、ウォームアップ時間を短縮するという付加的な課題を解決する。
【0024】
代替的な一形態によれば、本発明に係るポンプは、ピストンポンプ、特にピストン真空ポンプである。ピストンポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備える。本発明によるこの形態では、封止部は、少なくとも分的にシリンダ内壁及び/又はピストンに被着されている。スクロールポンプの形態と同様に、ピストンポンプの場合、封止部は、ポンプ作用を奏するコンポーネントのスライド層として作用する。これにより、漏れがわずかになり、ウォームアップ運転時間が短縮される。
【0025】
別の好適な一形態によれば、本発明に係るポンプは、ターボ分子ポンプであり、この場合、封止部は、少なくとも部分的に動翼及び/又は静翼に被着されている。ポンプ作用を奏するコンポーネント上の従来の多孔質の酸化物層では、電解腐食が、酸化物層の細孔で始まる。本発明ではこの酸化物層の細孔が封止されているので、電解酸化も起こり得ない。したがって、耐食性の向上は、本発明のこの好適な形態によるターボ分子ポンプの寿命を改善する。
【0026】
好ましくは、ポンプ作用を奏するコンポーネントは、軽金属材料から形成されている。軽金属材料は、好ましくはアルミニウム合金であるが、本発明はこれに限定されない。4000シリーズ、5000シリーズ及び6000シリーズのアルミニウム合金が特に適していることが分かっていて、この場合、6000シリーズのアルミニウム合金が特に好適である。6000シリーズのアルミニウム合金の例示的な代表は、AlMgSi1(EN AW-6082)およびAlMgSi0.5(EN AW-6060)である。
【0027】
ポンプ作用を奏するコンポーネントの表面は、酸化物層を有する。酸化物層は、様々な形で生成できる。そのための公知の方法は、例えば陽極酸化である。本発明では、ポンプ作用を奏するコンポーネントは、好ましくは、酸電解液中で陽極酸化することによって酸化物層が設けられる、前述のアルミニウム合金のうちの一種から形成されている。酸電解液は、例えば硫酸電解液又はシュウ酸電解液であってよく、この場合、電解液には、電解液と他の酸との混合物及び別の添加物が含まれ得る。
【0028】
本発明に係るポンプでは、封止部の層厚は、好ましくは5μm以下、より好適には3μm以下、さらに好適には1μm以下である。本発明による製造方法では、封止部の層厚は、前駆体化合物、例えばアクリレート塩及び/又はその誘導体の濃度及び種類の変化によって、電流強さによって、そしてポンプ作用を奏するコンポーネントの処理期間によって影響を及ぼせる。層厚は、例えば、電子顕微鏡撮像によって特定できる。
【0029】
本発明に係る方法では、好適には、ステップC)で溶液がイオン及び/又はイオン化合物を含む。本発明に係る方法の間に電圧を印加することによって、イオン又はイオン化合物は、酸化物層の細孔に深く進入し、これにより、そこで封止部が提供され得る。細孔への深い進入に基づいて、多孔質の酸化物層の深い位置にある水平の枝部も封止される。
【0030】
さらに本発明に係る方法では、好適には、ステップC)の溶液中に、例えば置換アクリレート及び/又は置換アセテート及び/又は置換スチレン及び/又は置換イソシアネート及び/又はカルボキシル及び/又はスルホン酸等の有機アニオンのファミリー、及び/又は例えばケイ酸塩、アルミン酸塩等の無機イオンのファミリーからなる官能基を有する少なくとも1種の化合物、すなわち封止部を生成するための前駆体化合物が含まれている。特に、置換アクリレートが好適である。アクリレート官能基のカルボン酸を介して、重合可能であるがイオン性の化合物は、電圧によって多孔質の酸化物層の細孔の深くに移送できるので、深い封止が可能である。したがって、特に好適には、ステップC)の溶液は、アクリル酸の塩及び/又はアクリル酸誘導体の塩を含む。アクリル酸及び/又はアクリル酸誘導体の塩は、ステップC)の溶液中に溶解又は分散されていてよい。しかし、本発明は、アクリル酸及びその誘導体に限定されるものではない。
【0031】
官能基を有する化合物の濃度は、好適には1.0重量パーセントから25重量パーセントの範囲、より好適には3重量パーセントから20重量パーセントの範囲、さらにより好適には5重量パーセントから15重量パーセントの範囲にある。
【0032】
ステップC)の溶液は、好適には水溶液、特にイオン性分散液の形態の水性のアクリレート塩溶液である。
【0033】
本発明では、ポンプ作用を奏するコンポーネントの処理中に電圧を漸次増加させることが有利であると分かっている。好ましくは、電圧は、40Vから300V、特に50Vから150Vである。
【0034】
本発明に係る方法では、電流密度は、好適には0.25A/dmから20A/dmの範囲、より好適には0.5A/dmから15A/dmの範囲、さらに好適には1.0A/dmから10A/dmの範囲、最も好適には1.5A/dmから7.0A/dmの範囲にある。
【0035】
本発明に係る方法では、電圧を、直流電流を用いて、ポンプ作用を奏するコンポーネント印加することが有利であると分かっている。これにより、封止部の前駆体が、深く酸化物層の細孔内に移送され、そこで封止部が生成される。細孔内では、前駆体化合物、例えばアクリレート塩及び/又はその誘導体が析出又は堆積されるので、封止部が細孔内に生成される。これにより、多孔質構造の水平の枝部も閉じる深い含浸がもたらされる。
【0036】
本発明に係る方法の好適な一形態によれば、ポンプ作用を奏するコンポーネントは、電気化学的処理の終了後に熱処理される。熱処理は、好ましくは80℃から300℃の範囲、特に100℃から230℃の範囲の温度で行われる。熱処理に際して、封止部の前駆体から封止部が生成される。さらに、熱処理に基づいて、ポンプ作用を奏するコンポーネントの多孔質の層中の水分を減少でき、これは、トライボロジー的な摩耗に有利に作用する。
【0037】
本発明に係る方法の好適な一変化例では、封止部前駆体は、電気化学的処理中に細孔内に析出される。特にゾルゲルをベースとする封止部の場合、封止部の前駆体、すなわちゾルは、まず酸化物層の細孔内に進入する。この場合、析出は、ゲル、すなわち封止部の生成と同時に行われる。ゾルは細孔の極めて深くに進入できるので、封止も細孔において深く行われる。これにより、細孔は、少なくとも部分的に充填され、特に水平の枝部が封止される。
【0038】
本発明に係る方法の別の好適な一変形例によれば、封止部前駆体は、孔内で重合される。その際、封止部前駆体は、例えばモノマー又はプレポリマーとして存在し、溶液又は分散液の形態で酸化物層の細孔に深く進入できる。重合によって、モノマー又はプレポリマーの大きさが増大するので、モノマー又はプレポリマーは、細孔内で封止し、細孔内に留まる。重合に基づいて、モノマー又はプレポリマーの溶解度を変化させることもできるので、モノマー又はプレポリマーが細孔内で析出され、酸化物層の多孔質構造の水平の枝部でも深い封止がもたらされる。
【0039】
本発明に係る方法のさらに好適な一変形例によれば、ステップB)において、ステップA)で用意されたポンプ作用を奏するコンポーネントが負圧にさらされる、すなわち多孔質の酸化物層の生成後に負圧が使用される。原則的に、多孔質の酸化物層の生成も負圧下で行ってよい。好適には、ポンプ作用を奏するコンポーネントは、さらに乾燥させることなく、酸化物層の生成後に、別の方法にさらされる。例えば陽極酸化による酸化物層の生成後に乾燥が行われる場合には、細孔は、自然酸化によって閉じられ得、これにより、封止の品質が損なわれる。したがって、好ましくは、ポンプ作用を奏するコンポーネントの表面上に酸化物層が生成された後で、別の方法が、さらなる乾燥及び/又は保管なく実施される。換言すると、封止は、好ましくはウェットインウェットで、すなわち、専ら例えば陽極酸化による酸化物層の生成と別の方法との間で任意選択的なフラッシングでもって行われる。
【0040】
本発明に係る方法は、好ましくは、本明細書に記載されたような、ポンプ、特に真空ポンプの製造の一部である。
【0041】
本発明の好適な一変形例によれば、本明細書に記載の方法によって得られるポンプ作用を奏するコンポーネントを有する、本発明に係るポンプは、本明細書において本発明に係る方法とは独立して、ポンプについて記載された全ての詳細を有するポンプである。
【0042】
本発明を、以下、単なる例として概略図及び例に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】スクロールポンプを断面図で示す。
図2】スクロールポンプのエレクトロニクスハウジングを示す。
図3】スクロールポンプを斜視図で示し、選択された要素は露出している。
図4】ポンプに組み込まれた圧力センサを示す。
図5】ポンプの可動のスクロール部材を示す。
図6図5で視認可能な側とは反対の別の側のスクロール部材を示す。
図7】スクロール部材用のクランプ装置を示す。
図8】異なるスクロールポンプのバランスウェイトを有する偏心シャフトを示す。
図9】異なるスクロールポンプのバランスウェイトを有する偏心シャフトを示す。
図10】操作グリップを有するガスバラストバルブを斜視図で示す。
図11図10のバルブを断面図で示す。
図12図5及び図6のスクロール部材の部分領域を示す。
図13】外側の端部領域でスクロール壁を通るスクロール部材の断面図を示す。
図14図1のスクロールポンプのエアガイドフードを斜視図で示す。
図15】引離し用ねじ山を断面図で示す。
図16図1によるスパイラルポンプ又はスクロールポンプの詳細図である。
図17】酸化物層の電気顕微鏡による断面図を示す。
図18図16の酸化物層の電子顕微鏡による著しく拡大された断面図を示す。
図19図16及び図17の酸化物層の電子顕微鏡による平面図を示す。
図20】様々に被覆された又は被覆されない圧送要素を有するスクロールポンプの使用時の真空の発生を示す。
図21】ターボ分子ポンプを斜視図で示す。
図22図21のターボ分子ポンプを下面図で示す。
図23図22に示された切断線A-Aに沿ったターボ分子ポンプを断面図で示す。
図24図22に示された切断線B-Bに沿ったターボ分子ポンプを断面図で示す。
図25図22に示された切断線C-Cに沿ったターボ分子ポンプを断面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明が、図1から図16に例示されているように、スクロールポンプ20に限定されていない場合でも、そのために極めて適切であることが分かっている。原則として、本発明に係るポンプは、ターボ分子ポンプ(図21から図25に基づく例示的な説明参照)又はピストンポンプであってもよい(図示されていない)。
【0045】
図1は、スクロールポンプ20として構成された真空ポンプを示す。この真空ポンプは、第1のハウジング要素22と第2のハウジング要素24とを有し、この場合、第2のハウジング要素24は、ポンプ作用を奏する構造、すなわちスクロール壁26を有する。したがって、第2のハウジング要素24は、スクロールポンプ20の固定のスクロール部材を形成する。スクロール壁26は、可動のスクロール部材30のスクロール壁28と相互作用し、この場合、可動のスクロール部材30は、ポンプ作用を発生させるために、偏心シャフト32を介して偏心的に励起される。この場合、ポンピングされるべき気体は、第1のハウジング要素22に設定された吸気口31から、第2のハウジング要素24に設定された排気口33へ圧送される。
【0046】
偏心シャフト32は、モータ34によって駆動されていて、そして2つの転がり軸受36によって軸支されている。偏心シャフト32は、偏心シャフト32の回転軸線に対して偏心的に配置された偏心ジャーナル38を有し、偏心ジャーナル38は、別の転がり軸受40を介して、偏心ジャーナル38の偏心的な揺動を可動のスクロール部材30へ伝達する。可動のスクロール部材30には、シールを目的として、さらに、波形ベローズ42の、図1において左側の端部が取り付けられていて、その右側の端部は、第1のハウジング要素22に取り付けられている。波形ベローズ42の左側の端部は、可動のスクロール部材30の揺動に追従する。
【0047】
スクロールポンプ20は、冷却空気流を発生させるためのファン44を有する。この冷却空気流に対して、エアガイドフード46が設けられている。エアガイドフード46には、ファン44も取り付けられている。エアガイドフード46及びハウジング要素22、24は、冷却空気流が大体においてポンプハウジング全体の周りを流過し、したがって良好な冷却性能が達成されるように成形されている。
【0048】
スクロールポンプ20は、さらにエレクトロニクスハウジング48を有し、エレクトロニクスハウジング48内に、制御装置と、モータ34を駆動するためのパワーエレクトロニクスコンポーネントとが配置されている。エレクトロニクスハウジング48は、さらにポンプ20のスタンド脚部を形成する。エレクトロニクスハウジング48と第1のハウジング要素22との間に通路50が視認可能である。通路50を通って、ファン44によって発生させられる空気流が第1のハウジング要素22に沿って、そしてエレクトロニクスハウジング48にも沿って案内されるので、これら両方は、効果的に冷却される。
【0049】
エレクトロニクスハウジング48は、図2に、具体的に詳しく示されている。エレクトロニクスハウジング48は、複数の個別のチャンバ52を有する。これらのチャンバ52において、エレクトロニクスコンポーネントを封入でき、したがって有利には、遮蔽されている。好適には、エレクトロニクスコンポーネントを封入するとき、使用される封入材料をできるだけ少量にできる。例えば、封入材料を、まずはチャンバ52内に導入し、これに続いてエレクトロニクスコンポーネントを押し込んでよい。好ましくは、チャンバ52は、様々な形態のエレクトロニクスコンポーネント、特に様々な実装形態の基板を、エレクトロニクスハウジング48内に配置及び/又は封入できるように構成されてよい。この場合、特定の形態において、個々のチャンバ52は、空所のままにしてもよい、つまりエレクトロニクスコンポーネントを有しなくてもよい。ゆえに、いわゆるモジュールシステムを様々なポンプタイプに対して容易に実現できる。封入材料は、特に熱伝導性に及び/又は電気絶縁性に構成されてよい。
【0050】
エレクトロニクスハウジング48の、図2に関して後側に、複数の壁又はフィン54が形成されていて、壁又はフィン54は、冷却空気流を導くための複数の通路50を画定する。チャンバ52は、さらに、チャンバ52内に配置されたエレクトロニクスコンポーネントから、特に熱伝導性の封入材料と相俟って、フィン54への特に良好な放熱を可能にする。したがって、エレクトロニクスコンポーネントを特に効果的に冷却でき、その耐用期間が改善される。
【0051】
図3には、スクロールポンプ20の全体が斜視図で示されているが、図3では、エアガイドフード46が省かれているので、特に固定のスクロール部材24及びファン44が視認可能である。固定のスクロール部材24には、放射状に配置された複数の凹部56が設けられていて、凹部56は、それぞれ凹部56の間に配置されたフィン58を画定する。ファン44によって発生させられる冷却空気流は、凹部56を、そしてフィン58の傍を通って案内され、ゆえに固定のスクロール部材24を特に効果的に冷却する。その際、冷却空気流は、まずは固定のスクロール部材24の周りを流過し、これに続いてようやく第1のハウジング要素22又はエレクトロニクスハウジング48の周りを流過する。この配置は、ポンプ20のポンプ作用を奏する領域が、運転時の圧縮に基づいて、高い発熱量を有し、したがってそこが優先的に冷却されるので、特に有利である。
【0052】
ポンプ20は、ポンプ20に組み込まれた圧力センサ60を有する。この圧力センサ60は、エアガイドフード46内に配置されていて、固定のスクロール部材24にねじ込まれている。圧力センサ60は、部分的にしか図示されていないケーブル接続部を介して、エレクトロニクスハウジング48と、その中に配置された制御装置とに接続されている。この場合、圧力センサ60は、スクロールポンプ20の制御に組み込まれている。例えば、図1において視認可能なモータ34は、圧力センサ60によって測定された圧力に応じて制御できる。例えばポンプ20が高真空ポンプ用の補助ポンプとして真空システムに使用されると、例えば、高真空ポンプは、圧力センサ60が十分に低い圧力を測定するときにのみオンに切替え可能である。したがって、高真空ポンプは、損傷から防護できる。
【0053】
図4は、圧力センサ60と、固定のスクロール部材24における圧力センサ60の配置とを断面図で示す。圧力センサ60に対して通路62が設けられていて、通路62は、ここでは固定のスクロール部材24のスクロール壁26と可動のスクロール部材30のスクロール壁28との間のポンプ作用を奏しない外側領域に開口する。したがって、圧力センサは、ポンプの吸込圧力を測定する。代替的に又は付加的に、例えばスクロール壁26とスクロール壁28との間の圧力を、ポンプ作用を奏する領域で測定してもよい。したがって、圧力センサ60又は通路62の位置に応じて、例えば中間圧力の測定もできる。
【0054】
圧力センサ60は、例えば圧縮の特定を介して、特に、ポンプ作用を奏するコンポーネント、特にチップシールとも称されるシール要素64の摩耗状態の認識を可能にする。さらに、測定された吸込圧力は、ポンプ(特にポンプ回転数)の制御に使用してもよい。ゆえに、例えば吸込圧力をソフトウェア側で予め設定し、そしてポンプ回転数の変化によって吸込圧力を調整できる。測定された圧力に応じて、摩耗に起因する圧力上昇を、回転数増加によって補整できることも考えられる。したがって、チップシール交換の延期又はより長い交換間隔の実現が可能である。要するに、圧力センサ60のデータは、概して、例えば摩耗特定に、ポンプの状況に応じた制御に、プロセス管理等に利用できる。
【0055】
圧力センサ60は、例えば、任意選択的に設けてよい。圧力センサ60の代わりに、例えば通路62を閉じる盲栓を設けてよい。この場合、圧力センサ60は、例えば必要に応じて後付けできる。特に後付けに関して、しかも一般的に有利には、圧力センサ60がポンプ20の制御装置に接続されると自動的に認識されることが想定され得る。
【0056】
圧力センサ60は、ファン44の冷却空気流内に配置されている。これにより、圧力センサ60も有利に冷却される。さらにその結果、圧力センサ60の耐熱性を高めるための特別な措置を講じなくてよく、したがって低コストのセンサを使用できる。
【0057】
さらに、圧力センサ60は、特に、圧力センサ60によってポンプ20の外寸が拡大されていない、したがってポンプ20がコンパクトに保たれるように配置されている。
【0058】
図5及び図6には、可動のスクロール部材30が、様々な観察方向で示されている。図5では、スクロール壁28の渦巻き状の構造が特に良好に視認可能である。スクロール壁28の他に、スクロール部材30は、ベースプレート66を有し、ベースプレート66から、スクロール壁28が延在する。
【0059】
図6には、ベースプレート66の、スクロール壁28とは反対の側が視認可能である。この側では、ベースプレートは、とりわけ、例えば図1において視認可能な軸受40及び波形ベローズ42を取り付けるための複数の取付用空所を有する。
【0060】
ベースプレート66の外側に、ベースプレート66の周にわたって間隔を置いて、そして周にわたって均一に分配された3つの保持突出部68が設けられている。この場合、保持突出部68は、半径方向外方へ延在する。保持突出部68は、特に全てが同一の径方向の高さを有する。
【0061】
2つの保持突出部68の間には、ベースプレート66の周の第1の中間部分70が延在する。この第1の中間部分70は、第2の中間部分72及び第3の中間部分74よりも大きな径方向の高さを有する。第1の中間部分70は、スクロール壁28の最も外側の120°の部分に対向して配置されている。
【0062】
可動のスクロール部材30を製作するとき、好適には、ベースプレート66とスクロール壁28とは、1つの内実の材料から一緒に切削によって製作され、つまり、スクロール壁28とベースプレート66とは一体に形成されている。
【0063】
例えば仕上加工に際して、スクロール部材30は、保持突出部68で直接にクランプされてよい。同一の1回のクランプの範囲内で、例えば、ベースプレート66の、図6に示された側も加工でき、特に、取付用空所を加工できる。基本的に、このクランプの範囲内で、内実の材料からのスクロール壁28の切削による製作も行える。
【0064】
この目的のために、スクロール部材30は、図7に示されているように、例えばクランプ装置76を用いてクランプされてよい。クランプ装置76は、3つの保持突出部68に直接に当接する液圧式の3爪チャック78を有する。さらに、クランプ装置76は、貫通する空所80を有し、空所80によって、スクロール部材30への、特にスクロール部材30の、図6に示された側への工具アクセスが可能である。したがって、クランプ中に両側から複数の加工動作を、特にスクロール壁28の少なくとも1つの仕上加工と取付用空所の加工とを行える。
【0065】
保持突出部68の輪郭及びクランプ装置76のクランプ圧は、好適には、スクロール部材30の臨界的な変形が起こらないように選択されている。3つの保持突出部68は、好適には、外寸、つまりスクロール部材30の最大直径が拡大されないように選択されている。したがって、一方では材料を、そして他方では切削加工量を節約できる。保持突出部68は、特に、波形ベローズ42のねじ締結部へのアクセスが与えられているように構成されている及び/又はそのような角度位置に配置されている。波形ベローズ42のねじ締結箇所の数は、好適には、可動のスクロール部材30における保持突出部68の数に等しくない。
【0066】
図1の偏心シャフト32には、励起されたシステムのアンバランスを補整するための2つのバランスウェイト82が取り付けられている。図8には、図1において右側のバランスウェイト82の領域が拡大して示されている。バランスウェイト82は、偏心シャフト32にねじ固定されている。
【0067】
図9には、好適には図1のポンプ20と同一のシリーズに属する別のスクロールポンプにおける同様の部分図が示されている。図9に基づくポンプは、特に別の寸法を有し、したがって、別のバランスウェイト82を要する。
【0068】
偏心シャフト32、バランスウェイト82及びハウジング要素22は、それぞれ図示された取付位置で、図示された2つのタイプのバランスウェイト82のうちの特定の1つのタイプだけが、偏心シャフト32に組付け可能であるように寸法設定されている。
【0069】
バランスウェイト82は、図8及び図9において、バランスウェイト82に対して設定された構造空間の特定の寸法と共に寸法記入されていて、これにより、図9のバランスウェイト82が偏心シャフト32に組付け不能であり、その逆もいえることが明らかである。もちろん、記入された寸法は、単に例示的に挙げられたものである。
【0070】
ゆえに、図8では、取付穴84とシャフト段部86との間の距離は、9.7mmである。図8のバランスウェイト82は、対応する方向により短く、つまり9mmの長さに形成されていて、したがって問題なく組付けできる。図9のバランスウェイト82は、それぞれ取付穴から測定して11mmの延在長さを有する。したがって、図9のバランスウェイト82は、図8の偏心シャフト32に組付け不能である。というのも、シャフト段部86が、組み付けようと試みるとバランスウェイト82と衝突するからである、又はしたがって、図9のバランスウェイト82は、図8の偏心シャフト82に完全に当接できないからである。図9のバランスウェイト82は、寸法記入された両方の寸法が、図8の取付穴84とシャフト段部86との距離よりも大きいことによって、逆向きの組付けも阻止されている。さらに、図8のバランスウェイト82の21.3mmの寸法は、通常は正しいバランスウェイト82の、逆向きの、したがって間違った組付けの方向付けを妨げる。
【0071】
図9において、取付穴84とハウジング肩部88との間の長手方向の距離は、17.5mmである。21.3mmの延在部を有する、図8のバランスウェイト82は、図9の偏心シャフト32に挿入しようとすると、ハウジング肩部88と衝突するはずなので、完全な組付けは不可能である。間違った組付けは、さしあたり可能であるが、確実に認識される。図9の偏心シャフト32に、図8のバランスウェイト82を、取付穴84の軸線を中心に回動させて組み付けると、21.3mmの延在部が、取付穴84から13.7mmの距離だけ離れて配置されたシャフト肩部86と衝突するはずである。
【0072】
バランスウェイト82、特にモータ側のバランスウェイト82は、概して、組付け及び/又は保守のとき、バランスウェイトと他の構造サイズを有するバランスウェイトとの取り違えが回避されるように構成されている。バランスウェイトは、好適には、貫通ねじを用いて取り付けられる。様々なポンプサイズの同様のバランスウェイトは、特に、シャフト上の隣り合う段部と、バランスウェイトのねじ山及び貫通孔の位置と、ハウジング内の段部の位置とに基づいて、間違ったバランスウェイトの組付けが防止されるように構成されている。
【0073】
図10及び図11には、スクロールポンプ20のガスバラストバルブ90が示されている。ガスバラストバルブ90は、図3におけるポンプ20の全体図でも視認可能であり、固定のスクロール部材24に配置されている。
【0074】
ガスバラストバルブ90は、操作グリップ92を有する。操作グリップ92は、プラスチックボディ94とベース要素96とを有し、ベース要素96は、好適には特殊鋼から製作されている。ベース要素96は、貫通する孔98を有し、孔98は、一方ではバラストガスを接続及び導入するために設けられていて、他方では逆止弁100を包囲する。孔98は、さらに、図面において、栓102によって閉じられている。栓102の代わりに、例えば、フィルタが設けられてもよく、この場合、バラストガスは、好適には空気であってよく、そしてフィルタを介して、特に直接にバルブ90に進入する。
【0075】
操作グリップ92は、3つの取付ねじ104によって、バルブ90の回動可能な要素106に取り付けられている。取付ねじ104は、各々の孔108内に配置されていて、図11の選択された断面図では、そのうちの1つだけが視認可能である。回動可能な要素106は、図示されていない、孔110を通って延在する取付ねじによって、第2のハウジング要素24に回動可能に取り付けられている。
【0076】
バルブ90を操作するために、手動で操作グリップ92に加えられる回転モーメントが、回動可能な要素106に伝達され、したがって、回動可能な要素106が回動させられる。これにより、孔98が、ハウジングの内部に連通する。この場合、バルブ90には、3つの切替位置が設けられていて、すなわち、図10に示された、遮断位置である切替位置、そしてそれぞれ右に回動させられた位置及び左に回動させられた位置であり、左右に回動させられた位置では、孔98が、ハウジングの内部のそれぞれ異なる領域に連通する。
【0077】
孔108、110は、蓋112によって閉じられている。ガスバラストバルブ90のシール作用は、軸方向にプレスされたOリングによるものである。バルブ90が操作されると、相対移動がOリングに及ぼされる。例えば粒子等の不純物がOリングの表面に達すると、早期に故障するおそれが生じる。蓋112は、グリップ92のねじに不純物等が侵入するのを阻止する。
【0078】
この蓋112は、3つのセンタリング要素のしまりばめを介して取り付けられる。具体的には、蓋112は、各孔108に対して、図示されていない挿入ピンを有し、挿入ピンによって、蓋112は、孔108に保持されている。したがって、孔108、110及びその中に配置された取付ねじは、不純物から防護されている。特に、回動運動を可能にする、孔110に配置された図示されていない取付ねじでは、バルブ機構への不純物の侵入を効果的に最小限に抑え、ゆえに、バルブの耐用期間を改善できる。
【0079】
特殊鋼のベース部分の周りに射出成形されたプラスチックグリップは、良好な耐食性と、これと同時に低い製造コストをもたらす。さらに、熱伝導性が抑えられていることに基づいて、グリップのプラスチックが比較的低温に維持され、これにより、良好に操作できる。
【0080】
ファン44には、例えば図1及び図3において視認可能であるように、好適には、回転数制御部が設けられている。ファンは、例えばエレクトロニクスハウジング48内に収容されたパワーモジュールの消費電力及び温度に応じて、PWMによって制御される。回転数は、消費電力に対応して調整される。ただし、制御は、50℃のモジュール温度からようやく可能になる。ポンプが、起こり得るディレーティング(温度に起因する出力低下)の温度範囲になると、自動的に、最大のファン回転数に制御される。この制御によって、低温のポンプでは、最小の騒音レベルが達成され、最終圧力又は低負荷時に低い騒音レベル(ポンプ騒音に相当する)が作用し、低い騒音レベルと同時にポンプの最適な冷却が達成され、そして温度に起因する出力低下の前に最大の冷却出力が確保されることが可能になる。
【0081】
最大のファン回転数は、特に状況に応じて適合可能であってよい。例えば、最大のファン回転を低下させることが、高い水蒸気適合性にとって効果的であり得る。
【0082】
図12には、可動のスクロール部材30が、部分的に、そして図5に比べて拡大して示されている。図12に示されたA-A線に沿ったスクロール部材30の断面図が、図13に、縮尺通りではないが、概略的に示されている。
【0083】
スクロール壁28は、ベースプレート66とは反対の側で、そしてここには図示されていない固定のスクロール部材24のベースプレートに向いた端部に、ここでは同様に図示されていないシール要素64、つまりいわゆるチップシールを挿入するための溝114を有する。運転状態での配置は、例えば図4において良好に視認可能である。本発明によるポンプの有利な形態によれば、チップシールが設けられていて、チップシールは、スライド層、すなわち封止された酸化物層にスライド接触している。
【0084】
溝114は、外側及び内側で、対向する2つの側壁、つまり内側の側壁116と外側の側壁118とによって画定されている。第1のスクロール部分120では、外側の側壁118は、第1のスクロール部分120における内側の側壁116よりも厚く構成されていて、そして別の第2のスクロール部分122における両方の側壁116、118よりも厚く構成されている。
【0085】
第1のスクロール部分120は、例えば図5にも示されているように、図12に示された箇所からスクロール壁28の外側の端部にまで延在する。第1のスクロール部分120は、ここでは、例えば163°にわたって延在する。
【0086】
第1のスクロール部分120は、スクロール壁28の外側の端部部分を形成する。この場合、第1のスクロール部分120は、少なくとも部分的に、特に完全に、スクロール壁28の、ポンプ作用を奏しない領域に配置されている。特に、第1のスクロール部分120は、スクロール壁28の、ポンプ作用を奏しない領域を、少なくともほぼ完全に占めてよい。
【0087】
図5において視認可能であるように、好適には、他の中間部分72、74よりも大きな半径方向の高さを有する第1の中間部分70は、2つの保持突出部68の間で、第1のスクロール部分120に対向して配置されてよい。したがって、より厚い側壁118によってもたらされるアンバランスは、第1の中間部分70のより大きな重量によって補整できる。
【0088】
軸受及び他の構成部材のシステム負荷を低くするために、可動のスクロール部材は、概して好適には、小さな自重を有するべきである。したがって、スクロール壁は、通常、極めて薄く構成される。さらに、壁が薄くなるにつれ、ポンプ寸法(有効外径)がより小さくなる。その結果、チップシール溝の側壁は、特に薄くなっている。総スクロール壁厚さに対するチップシール肉厚の比は、例えば最大で0.17である。しかし、チップシール溝に基づいて、スクロール壁先端は、例えば組付け時又はチップシールの交換時等の取扱いに際して衝突に対して極めて敏感である。例えば輸送時でも僅かな衝突によって、溝の側壁は、内向きに押圧され得、その結果、チップシールはもはや組付け不能である。この問題を解決するために、溝は、非対称な肉厚を有し、特にスクロール壁の、外向きの局所的な増厚部を有する。この領域は、好適には、ポンプ作用を奏さず、したがってより大きな公差をもって製作してよい。特に最後の半分の巻状における片側の増厚によって、損傷が大幅に低減される。構成部材の残りの箇所では、好適には、スクロール壁の増厚は不要である。というのも、壁が、構成部材の突出する要素によって防護されているからである。
【0089】
図1に示されたエアガイドフード46は、破線の矢印124によって示唆されているように、空気流を規定する。ファン44は、エアガイドフード46を通って延在する図示されていないケーブルと差込接続部とを介して、エレクトロハウジング48内に設けられた制御装置に接続されている。差込接続部は、ソケット126とプラグ128とを有する。ソケット126は、エレクトロニクスハウジング48に支持されている、及び/又はエレクトロニクスハウジング48内に配置された基板に取り付けられている。ソケット126は、例えば図2及び図3においても視認可能である。プラグ128は、図示されていないケーブルを介してファン44に接続されている。
【0090】
差込接続部126、128は、仕切壁130によって、空気流124から分離されている。空気流124は、例えば塵埃又は同様の不純物を含み得、したがって、差込接続部126、128から隔離される。したがって、一方では、差込接続部126、128自体が防護され、他方では、不純物が、ソケット126のために設けられた、エレクトロニクスハウジング48内の開口を通って、エレクトロニクスハウジング48内に侵入し、制御装置及び/又はパワーエレクトロニクスに至ることが阻止される。
【0091】
図14には、エアガイドフード46が、個別に斜視図で示されている。とりわけ、仕切壁130が、仕切壁130の後方に設定された、プラグ128のために設けられた空間と共に視認可能である。仕切壁130は、プラグ128からファン44へ向けてケーブルを導通するための、ここではV字形の切込みとして構成された凹部132を有する。
【0092】
例えばコスト削減のために、シールを有しない低コストの差込コネクタ(例えばIP保護コードを有しない)を使用してよい。というのも、仕切壁130によって、吸い込まれた空気が差込コネクタ126、128の貫通部を介してエレクトロニクスに至らないようになるからである。ファンのケーブルは、V字形の切込み132によって、側方で仕切板130を通って案内される。切込み132は、差込コネクタ126、128に対して側方のずれを有し、これにより、ラビリンス効果が達成され、したがって、差込コネクタ126、128への冷却空気の漏れのさらなる低減が達成される。エアガイドフード46内の仕切壁130によって、さらに、エレクトロニクスハウジング48とポンプハウジング22との間の通路50内への空気ガイドが改善される。比較的僅かなファン44の乱流及び背圧しか生じない。
【0093】
図15は、第1のハウジング要素22と第2のハウジング要素又は固定のスクロール部材24との間の当接領域を概略断面図で示す。第2のハウジング要素24は、中間ばめ部134でもって、部分的に第1のハウジング要素22に挿入されている。この場合、Oリング136を用いたシールが設けられている。中間ばめ部134は、例えば第1のハウジング要素22に対して第2のハウジング要素24をセンタリングするのにも役立つ。
【0094】
保守目的で、例えばシール要素64を交換するには、第2のハウジング要素24を、例えば取り外さなければならない。その際、第2のハウジング要素24が十分な程度に真っ直ぐに引き抜かれないとき、中間ばめ部134又はOリング136が挟み込まれることが起こり得る。この問題を解決するために、引離し用ねじ山138が設けられている。好適には、少なくともほぼ径方向に反対の側に位置する第2の引離し用ねじ山が設けられてもよい。第2のハウジング要素24を可能な限り真っ直ぐに案内して外すために、ねじが引離し用ねじ山138から外へ突出し、第1のハウジング要素22に当接するまで、ねじを引離し用ねじ山138にねじ込むことができる。さらなるねじ込みによって、ハウジング要素22、24は、互いに対して離される。
【0095】
引き離すために、例えば図1及び図3に示されているように、例えば第2のハウジング要素24を第1のハウジング要素22に取り付けるために設けられた取付ねじ142を用いることができる。この目的のために、引離し用ねじ山138は、好適には、取付ねじ142のために設けられた取付ねじ山と同一のねじ山タイプを有する。
【0096】
第2のハウジング要素22には、引離し用ねじ山138に対応付けられた凹み140が設けられている。ねじが引離し用ねじ山138にねじ込まれるときに摩耗粒子が運び出されると、摩耗粒子は、凹み140に集まる。したがって、この種の摩耗粒子が例えばハウジング要素22、24同士の完全な当接を妨げることが阻止される。
【0097】
固定のスクロール部材24を組み付けるとき、ねじを再びねじ外さなければならない。というのも、そうしないと第1のハウジング要素22における固定のスクロール部材24の完全なねじ締結(ハウジングの平面上での正しい嵌込み)が場合によっては阻止されるからである。結果として、漏れ、傾斜姿勢及びポンプ性能の低下が起こり得る。この組付けエラーを回避するために、エアガイドフード46は、図14に示された特に付加的な少なくとも1つのドーム144を有し、このドーム144は、引き離すために用いられるねじ、特に取付ねじ142が再び取り外されたときにだけ、エアガイドフード46の組付けを可能にする。ドーム144を有するエアガイドフード46は、これが、場合によっては引離し用ねじ山138にねじ込まれた引離し用ねじのねじ頭と衝突するように構成されているので、エアガイドフード46が完全には組付け可能ではない。特に、エアガイドフード46は、引離し用ねじが完全に取り外されたときにしか組付けできない。
【0098】
図16は、シール150が、ベースプレート66の形態の、スライド層152、すなわち封止された酸化物層が設けられた支持体154に接触する領域で、先行の図面に示されたスパイラルポンプ又はスクロールポンプ20の詳細図を模式的に示す。特に、スクロール要素26、28の配置は、シール150がベースプレート66の形態の支持体154に押し付けられるように行われる。ベースプレートへのシールの押付けは、スクロール要素26、28の両側の間の圧力差を介して行われる。シール150は、境界面151を介して、スクロール要素26、28に接合されている。スライド層152の酸化物層及び封止部は、封止部が酸化物層の細孔及び欠損箇所に進入し、それらを閉じるので、個別には示されていない。付加的な層の構築は、必ずしも行われるわけではない。好ましくはフッ素フリーの封止部は、スライド層152の乾式潤滑特性を促進し、付加的にその摩耗を低減するだけでなく、スライド層152の気密性も改善し、これにより、達成可能な最終圧力の改善及びウォームアップ時間の短縮が生じる。
【0099】
ベースプレート66の形態の支持体154及び渦巻き状の壁26、28は、それぞれ一体に構成されていて、AlMgSi系のアルミニウム合金からなる。スライド層152の酸化物層は、硫酸電解液中での陽極酸化によって生成されるアルミニウム酸化物層である。スライド層152は、特に、圧送空間に面する、スクロール部材24、30の全ての面に被着されている。図6に示されたシール150(チップシール)は、例えばアクリレートをベースとするフッ素フリーのポリマーである。
【0100】
本発明に係るポンプは、図1から図16を参照して前述した1つ又は複数の特徴を有してよく、この場合、本発明に係るポンプでは、これらの特徴の任意の組合せを実現できる。
【0101】
図17には、ベースプレート66上に被着された39.08μmの厚さを有する酸化物層156を示す、横断面の電子顕微鏡撮像を示す。図17の縮尺は、10μmの長さを示している。酸化物層156は、気密性を損なう亀裂158と欠損箇所158とを有する。その上更に拡大された図が、図18に示されていて、図18では、細孔構造のみならず細孔を互いに繋ぐ欠損箇所も視認可能である。図18の縮尺は、200nmの長さを示している。酸化物層156の多孔質構造は、図19によっても認められる。図19は、図17及び図18の酸化物層を電子顕微鏡による平面図で示し、この場合、細孔160は、暗く鉛直に延在するスジとして現れ、極めて小さな欠損箇所158も、隣り合う細孔160を互いに繋ぐ暗い模様として視認可能である。図18の縮尺は、200nmの長さを示している。極めて小さな細孔160のみならずより大きな細孔160、亀裂158及びそれらの枝部が視認可能である。図17から図19には、それぞれ細孔及び欠損箇所の幾つかだけに符号が付されている。
【0102】
本発明に係るポンプのスライド層の効果は、図20に示されたグラフに基づいて看取される。横軸(X軸)に時間が時間の単位で記入されていて、縦軸に圧力がhPaの単位で記入されている。それぞれ同一の条件で、スクロール真空ポンプを用いて負圧を発生させ、その際、その都度の負圧の発生を時間にわたって記録した。
【0103】
AからDまでの全ての線でそれぞれHiScroll型のポンプが使用された。線Aでは圧送要素が被覆を有しない点にのみ違いがある。線Bでは、圧送要素は、欧州特許出願公開第3153706号明細書に記載されたような被覆を有し、この場合、酸化物層を作製するために硫酸電解液が使用された、つまり陽極生成された酸化物層を有する。線Cは、欧州特許出願公開第3940234号明細書に記載されたような、フッ素含有ポリマーをベースとする封止されたスライド層を用いる真空の発生を示す。線Dは、本発明に係る真空ポンプを用いた真空の発生を示し、ここでは、酸化物層に付加的にアクリレートをベースとするフッ素フリーのポリマーベースの封止部が設けられている。線Dの酸化物層の封止部は、以下の例に基づいて説明するように作製された。
【0104】
線Aから看取されるように、被覆されていない圧送要素で極めて迅速に低い最終圧力が得られるが、この最終圧力は、圧送要素の摩耗に基づいて安定していない。圧送要素が陽極被覆を有するとき、安定した、しかし長いウォームアップ運転段階後であっても比較的高い最終圧力が得られる。このことは、線Bから明確になる。線Bのポンプでは、短い運転時間の後で試験が中断され、酸化物層に封止部が被着された。試験を続けると、圧力が極めて迅速に降下し、著しく低い最終圧力が達成されることに気付かされる。線Cは、従来技術から公知のフッ素含有封止部を用いるとより低い最終圧を達成できることを示すが、しかし、引き続きある程度のウォームアップ運転段階が必要であり、その性質の耐性に基づいて環境保護の理由から場合によっては理想的ではないフッ素含有成分の欠点が存在する。線Dのとき、すなわち本発明に係るポンプのときに使用された封止された圧送要素は、線B(試験の中断まで)のときよりも著しく低い最終圧力を可能にし、この場合、得られる真空は、線Aのときとは異なり安定している。線B及び線Cの場合、より低い最終圧力に達するまでに著しく長いウォームアップ運転時間が予測される。したがって、本発明による封止部によって、極めて優れた達成可能な最終圧力が達成される傾向にあるだけでなく、ウォームアップ運転時間も大幅に短縮される。このことは、短いウォームアップ運転時間と低い最終圧力と高い衝撃耐性及び摩耗耐性に関して、酸化物層の細孔構造の封止部に基づいて得られる著しい効果を顕著にする。
【0105】
しかも、本発明に係るポンプは、図21から図25にまとめて説明するターボ分子ポンプであってもよい。
【0106】
図21に示されたターボ分子ポンプ111は、吸気口フランジ113によって取り囲まれたポンプ吸気口115を有する。ポンプ吸気口115には、それ自体公知のように、図示されていないレシピエントを接続してよい。レシピエントから到来する気体は、ポンプ吸気口115を介してレシピエントから吸い込まれ、そしてポンプを通ってポンプ排気口117へと圧送できる。ポンプ排気口117には、例えばロータリベーンポンプ等の補助真空ポンプを接続してよい。
【0107】
吸気口フランジ113は、図21による真空ポンプの向きでは、真空ポンプ111のハウジング119の上端部を形成する。ハウジング119は、下部分121を有する。下部分121には、側方にエレクトロニクスハウジング123が配置されている。エレクトロニクスハウジング123内には、例えば真空ポンプ内に配置された電動モータ125(図23も参照)を作動させるための、真空ポンプ111の電気的及び/又は電子的なコンポーネントが収容されている。エレクトロニクスハウジング123には、アクセサリに対する複数の接続部127が設けられている。さらに、データインタフェース129(例えばRS485規格に準拠するもの)及び電流供給接続部131が、エレクトロニクスハウジング123に配置されている。
【0108】
取り付けられたこの種のエレクトロニクスハウジングを有さずに、外部の駆動エレクトロニクスに接続されるターボ分子ポンプも存在する。
【0109】
ターボ分子ポンプ111のハウジング119には、通気用吸気口133が、特に通気弁の形態で設けられている。通気用吸気口133を介して、真空ポンプ111を通気してよい。下部分121の領域には、その上さらに、シールガス接続部135(パージガス接続部とも称される)が配置されている。シールガス接続部135を介して、パージガスを、ポンプによって圧送される気体に対して電動モータ125(例えば図23参照)を防護するために、モータ空間137内に送り込んでよい。モータ空間137内で、真空ポンプ111に、電動モータ125が収容されている。下部分121には、その上さらに2つの冷却剤接続部139が配置されている。この場合、一方の冷却剤接続部は、冷却剤用の吸気口として、そして他方の冷却剤接続部は、排気口として設けられている。冷却剤は、冷却目的で真空ポンプ内に導入可能である。存在する別のターボ分子真空ポンプ(図示されていない)は、専ら空冷式に運転される。
【0110】
真空ポンプの下面141は、ベースとして使用できるので、真空ポンプ111は、下面141を基準に縦置きで運転してよい。しかも、真空ポンプ111は、吸気口フランジ113を介してレシピエントに固定し、したがって、いわば懸架した状態で運転してもよい。さらに、真空ポンプ111は、図21に示されたのとは別の向きで整向されているときでも運転できるように構成してもよい。下面141を下向きではなく、横向きに又は上向きに配置できる真空ポンプの形態も実現可能である。この場合、原則として、任意の角度が考えられる。
【0111】
特に図示されたポンプよりも大きな、存在する別のターボ分子真空ポンプ(図示されていない)は、縦置きでは運転できない。
【0112】
図22に示された下面141には、様々なねじ143がさらに配置されている。これらのねじ143によって、ここでは詳細には特定されない真空ポンプの構成部材が互いに固定されている。例えば、軸受カバー145が下面141に固定されている。
【0113】
下面141には、固定孔147がさらに配置されている。固定孔147を介して、ポンプ111を、例えば設置面に固定できる。このことは、特に図示されたポンプよりも大きな、存在する別のターボ分子真空ポンプ(図示されていない)では、不可能である。
【0114】
図22から図25には、冷却剤管路148が示されている。冷却剤管路148内で、冷却剤接続部139を介して導入及び導出される冷却剤が循環可能である。
【0115】
図23から図25の断面図に示されているように、真空ポンプは、複数のプロセスガスポンプ段を有する。プロセスガスポンプ段は、ポンプ吸気口115に作用するプロセスガスをポンプ排気口117へ圧送するためのものである。
【0116】
ハウジング119内には、ロータ149が配置されている。ロータ149は、回転軸線151を中心に回転可能なロータシャフト153を有する。
【0117】
ターボ分子ポンプ111は、ポンピング作用を及ぼすように互いに直列に接続された複数のターボ分子ポンプ段を有する。ターボ分子ポンプ段は、ロータシャフト153に固定された半径方向の複数の動翼155と、動翼155同士の間に配置され、そしてハウジング119内に固定された複数の静翼157とを有する。この場合、1枚の動翼155とこれに隣り合う1枚の静翼157とが、それぞれ1つのターボ分子ポンプ段を形成する。静翼157は、スペーサリング159によって、互いに所望の軸方向の間隔を置いて保持されている。
【0118】
真空ポンプは、半径方向で互いに内外に配置され、そしてポンピング作用を及ぼすように互いに直列に接続されたホルベックポンプ段をさらに有する。ホルベックポンプ段を有しない別のターボ分子真空ポンプ(図示されていない)が存在する。
【0119】
ホルベックポンプ段のロータは、ロータシャフト153に配置されたロータハブ161と、ロータハブ161に固定され、そしてこのロータハブ161によって支持される円筒側面状の2つのホルベックロータスリーブ163、165とを有する。ホルベックロータスリーブ163、165は、回転軸線151に対して同軸に配向されていて、そして半径方向で互いに内外に係合している。円筒側面状の2つのホルベックステータスリーブ167、169がさらに設けられている。ホルベックステータスリーブ167、169は、同様に、回転軸線151に対して同軸に配向されていて、そして半径方向で見て互いに内外に係合している。
【0120】
ホルベックポンプ段の、ポンピング作用を奏する表面は、側面によって、つまりホルベックロータスリーブ163、165及びホルベックステータスリーブ167、169の半径方向の内側面及び/又は外側面によって形成されている。外側のホルベックステータスリーブ167の半径方向の内側面は、半径方向のホルベック間隙171を形成しつつ、外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向の外側面に対向していて、そしてこの外側面と共に、ターボ分子ポンプに後続する第1のホルベックポンプ段を形成する。外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向の内側面は、半径方向のホルベック間隙173を形成しつつ、内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向の外側面に対向していて、そしてこの外側面と共に、第2のホルベックポンプ段を形成する。内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向の内側面は、半径方向のホルベック間隙175を形成しつつ、内側のホルベックロータスリーブ165の半径方向の外側面に対向していて、そしてこの外側面と共に、第3のホルベックポンプ段を形成する。
【0121】
ホルベックロータスリーブ163の下端部には、半径方向に延びるチャネルが設けられてよい。チャネルを介して、半径方向外側に位置するホルベック間隙171が、中央のホルベック間隙173に接続されている。内側のホルベックステータスリーブ169の上端部には、半径方向に延びるチャネルがさらに設けられてよい。チャネルを介して、中央のホルベック間隙173が、半径方向内側に位置するホルベック間隙175に接続されている。これにより、互いに内外に係合する複数のホルベックポンプ段が、互いに直列で接続される。半径方向内側に位置するホルベックロータスリーブ165の下端部には、排気口117に通じる接続チャネル179がさらに設けられてよい。
【0122】
ホルベックステータスリーブ167、169の、前述のポンピング作用を奏する表面は、回転軸線151を中心に螺旋状に周回しつつ軸方向に延びる複数のホルベック溝をそれぞれ有する。その一方で、ホルベックロータスリーブ163、165の、これに対向する側面は、滑らかに形成されていて、そして真空ポンプ111の運転のための気体をホルベック溝内において前方へ送り出す。
【0123】
ロータシャフト153の回転可能な軸支のために、ポンプ排気口117の領域に転がり軸受181が設けられていて、ポンプ吸気口115の領域に永久磁石式の磁気軸受183が設けられている。
【0124】
転がり軸受181の領域には、ロータシャフト153に、円錐形のスプラッシュナット185が設けられている。スプラッシュナット185は、転がり軸受181の方へ増大する外径を有する。スプラッシュナット185は、作動媒体貯蔵部の少なくとも1つの掻落とし部材と滑り接触している。存在する別のターボ分子真空ポンプ(図示されていない)では、スプラッシュナットの代わりに、スプラッシュねじが設けられてよい。これにより、様々な構成が実現可能であるので、上記関係において、「スプラッシュ尖端」との用語も用いられる。
【0125】
作動媒体貯蔵部は、上下にスタックされた吸収性の複数のディスク187を有する。これらのディスク187には、転がり軸受181用の作動媒体、例えば潤滑剤が含浸されている。
【0126】
真空ポンプ111の運転時、作動媒体は、毛管現象によって、作動媒体貯蔵部から掻落とし部材を介して、回転するスプラッシュナット185へと伝達され、そして、遠心力に基づいて、スプラッシュナット185に沿って、スプラッシュナット185の、増大していく外径の方へと、転がり軸受181に向かって送られる。そこでは、例えば潤滑機能が満たされる。転がり軸受181及び作動媒体貯蔵部は、真空ポンプ内で槽状のインサート189と軸受カバー145とによって囲繞されている。
【0127】
永久磁石式の磁気軸受183は、ロータ側の軸受半部191と、ステータ側の軸受半部193とを有する。これらは、それぞれ1つのリングスタックを有し、リングスタックは、軸方向に上下にスタックされた永久磁石の複数のリング195、197からなる。リング磁石195、197は、互いに半径方向の軸受間隙199を形成しつつ、対向していて、この場合、ロータ側のリング磁石195は、半径方向外側に、そしてステータ側のリング磁石197は、半径方向内側に配置されている。軸受間隙199内に存在する磁界は、リング磁石195、197の間に磁気的反発力を引き起こす。その反発力は、ロータシャフト153の半径方向の軸支を実現する。ロータ側のリング磁石195は、ロータシャフト153の支持部分201によって支持されている。支持部分201は、リング磁石195を半径方向外側で取り囲む。ステータ側のリング磁石197は、ステータ側の支持部分203によって支持されている。支持部分203は、リング磁石197を通って延びていて、そしてハウジング119の半径方向の支材205に懸架されている。回転軸線151に対して平行に、ロータ側のリング磁石195が、支持部分203に連結されたカバー要素207によって固定されている。ステータ側のリング磁石197は、回転軸線151に対して平行に1つの方向で、支持部分203に結合された固定リング209と支持部分203に結合された固定リング211とによって固定されている。固定リング211とリング磁石197との間に、皿ばね213がさらに設けられてよい。
【0128】
磁気軸受内に、非常用軸受又は安全軸受215が設けられている。非常軸受又は安全軸受215は、真空ポンプの通常運転時には、非接触で空転し、そしてロータ149がステータに対して相対的に半径方向に過剰に変位するとようやく係合し、これにより、ロータ側の構造とステータ側の構造との衝突が阻止されるように、ロータ149に対する半径方向のストッパが形成される。安全軸受215は、非潤滑式の転がり軸受として構成されていて、そしてロータ149及び/又はステータと共に半径方向の間隙を形成する。間隙によって、安全軸受215は、通常のポンプ運転時には係合しないようになる。半径方向の変位に際して安全軸受215が係合し、半径方向の変位は、十分に大きく寸法付けられているので、安全軸受215は、真空ポンプの通常運転時は係合せず、そして同時に十分に小さいので、ロータ側の構造とステータ側の構造との衝突があらゆる状況で阻止される。
【0129】
真空ポンプ111は、ロータ149を回転駆動する電動モータ125を有する。電動モータ125の電機子は、ロータ149によって形成されている。ロータ149のロータシャフト153は、モータステータ217を通って延びる。ロータシャフト153の、モータステータ217を通って延びる部分には、半径方向外側に又は埋入して、永久磁石アセンブリが配置されてよい。モータステータ217と、ロータ149の、モータステータ217を通って延びる部分との間には、中間室219が配置されている。中間219は、半径方向のモータ間隙を有する。モータ間隙を介して、モータステータ217と永久磁石アセンブリとは、駆動トルクを伝達するために、磁気的に影響を及ぼしてよい。
【0130】
モータステータ217は、ハウジング内で、電動モータ125に対して設けられたモータ空間137内に固定されている。シールガス接続部135を介して、シールガス(パージガスとも称され、これは例えば空気や窒素であってよい)が、モータ空間137に到達し得る。シールガスを介して、電動モータ125を、プロセスガス、例えばプロセスガスの腐食性の部分に対して防護できる。モータ空間137は、ポンプ排気口117を介して真空引きしてもよい。つまりモータ空間137内に、少なくとも近似的に、ポンプ排気口117に接続された補助真空ポンプによって実現される真空圧が作用する。
【0131】
ロータハブ161と、モータ空間137を画成する壁部221との間には、それ自体公知のいわゆるラビリンスシール223がさらに設けられてよい。これにより、特に、半径方向外側に位置するホルベックポンプ段に対するモータ空間217のより良好なシールが達成される。
【0132】
以下、多孔質の酸化物層の封止部を例示的に説明する。当然のこととして、以下の説明は、具体的に述べるものでしかなく、本発明を限定するものでは全くない。
【0133】
アルミニウム合金(EN AW-6082)から成る、スクロール真空ポンプの、ポンプ作用を奏するコンポーネントは、まず陽極酸化され、これによりこのコンポーネントの表面上に酸化物層が生成される。陽極酸化のために、5℃の浴温度の硫酸電解液及び4A/dmの電流密度が用いられる。
【0134】
これに続いて、すなわち乾燥を介在することなく、コンポーネントは、真空セル内で負圧にさらされ、これにより残留物及び不純物が酸化物層の細孔から除去される。コンポーネントは、次いで、真空の作用下で、水性の10重量パーセントのナトリウムアクリレート溶液で処理される。当然のこととして、その際、真空は、ナトリウムアクリレート溶液が沸騰しないように選択されている。ナトリウムアクリレートは、水溶液中のイオンを生成する分散系として存在する。ナトリウムアクリレート溶液による処理中、コンポーネントは、陽極として極性付けられ、その際、60Vの直流電圧及び2A/dmの電流密度が印加される。本例では、処理期間は5分である。電流密度(整流電流)によって、アクリレート(粒子)イオンが、細孔に取り出され/析出され/堆積され、したがって、陽極酸化によって作製された酸化物層の細孔が閉じられる。
【0135】
これに続いて、ナトリウムアクリレート溶液が除去され、構成部材が、100℃から180℃で温度処理される。その際、アクリレートの重合が生じ、これにより、細孔は、持続的に閉じられる。
【0136】
封止された表面を作製する例示的な方法では、<1μmの表面上の膜厚さが生じる。期間及び電流強さによっては、著しく厚い膜も達成でき、すなわち、5μmまでの厚さが達成可能である。その逆に、極めて小さな膜厚さも達成でき、すなわち、アクリレートの重合は、大体において細孔内で行われる。膜厚さは、事前に陽極酸化によって生成された多孔質の表面上の封止部による付加的な被着に関連する。
【符号の説明】
【0137】
20 スクロールポンプ
22 第1のハウジング要素
24 第2のハウジング要素/固定のスクロール部材
26 スクロール壁
28 スクロール壁
30 可動のスクロール部材
32 偏心シャフト
34 モータ
36 転がり軸受
38 偏心ジャーナル
40 転がり軸受
42 波形ベローズ
44 ファン
46 エアガイドフード
48 エレクトロニクスハウジング
50 通路
52 チャンバ
54 フィン
56 凹部
58 フィン
60 圧力センサ
62 通路
64 シール要素
66 ベースプレート
68 保持突出部
70 第1の中間部分
72 第2の中間部分
74 第3の中間部分
76 クランプ装置
78 3爪チャック
80 空所
82 バランスウェイト
84 取付穴
86 シャフト段部
88 ハウジング肩部
90 ガスバラストバルブ
92 操作グリップ
94 プラスチックボディ
96 ベース要素
98 孔
100 逆止弁
102 栓
104 取付ねじ
106 回動可能な要素
108 孔
110 孔
112 蓋
114 溝
116 内側の側壁
118 外側の側壁
120 第1のスクロール部分
122 第2のスクロール部分
124 空気流
126 ソケット
128 プラグ
130 仕切壁
132 凹部
134 中間ばめ部
136 Oリング
138 引離し用ねじ山
140 凹み
142 取付ねじ
144 ドーム
150 シール
152 スライド層
154 支持体
111 ターボ分子ポンプ
113 吸気口フランジ
115 ポンプ吸気口
117 ポンプ排気口
119 ハウジング
121 下部分
123 エレクトロニクスハウジング
125 電動モータ
127 アクセサリ接続部
129 データインタフェース
131 電流供給接続部
133 通気用吸気口
135 シールガス接続部
137 モータ室
139 冷却剤接続部
141 下面
143 ねじ
145 軸受カバー
147 固定孔
148 冷却剤管路
149 ロータ
151 回転軸線
153 ロータシャフト
155 動翼
157 静翼
159 スペーサリング
161 ロータハブ
163 ホルベックロータスリーブ
165 ホルベックロータスリーブ
167 ホルベックステータスリーブ
169 ホルベックステータスリーブ
171 ホルベック間隙
173 ホルベック間隙
175 ホルベック間隙
179 接続チャネル
181 転がり軸受
183 永久磁石式の磁気軸受
185 スプラッシュナット
187 ディスク
189 インサート
191 ロータ側の軸受半部
193 ステータ側の軸受半部
195 リング磁石
197 リング磁石
199 軸受間隙
201 支持部分
203 支持部分
205 半径方向の支柱
207 カバー要素
209 支持リング
211 固定リング
213 皿ばね
215 非常用軸受又は安全軸受
217 モータステータ
219 中間室
221 壁部
223 ラビリンスシール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【手続補正書】
【提出日】2023-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ、特に真空ポンプにおいて、
被覆を有してポンプ作用を奏するコンポーネントを備え、
前記被覆は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって生成された、細孔を有する酸化物層と、フッ素フリーのポリマーをベースとする及び/又はゾルゲルをベースとする封止部とを有し、
前記酸化物層の細孔は、少なくとも部分的に前記封止部によって覆われている、及び/又は前記封止部が含浸されている、及び/又は前記封止部によって充填されている、ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプは、スクロール要素として構成された複数の圧送要素を備えるスパイラルポンプ又はスクロールポンプ、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された前記圧送要素のうちの少なくとも1つに被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に前記シリンダ内壁及び/又は前記ピストンに被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項4】
前記ポンプは、ターボ分子真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に動翼及び/又は静翼に被着されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項5】
ポンプのポンプ作用を奏するコンポーネントを被覆する方法において、以下の
ステップA)表面上に多孔質の酸化物層を有する軽量合金工作物からなる、ポンプ作用を奏するコンポーネントを用意し、
ステップB)ポンプ作用を奏する前記コンポーネントを負圧にさらし、
ステップC)少なくとも1種の、特にフッ素フリーのポリマーをベースとする封止部前駆体及び/又は少なくとも1種のゾルゲルをベースとする封止部前駆体を含む溶液に多孔質の前記酸化物層を接触させる、ステップを有し、
その際、少なくともステップA)からC)までの1つの間でポンプ作用を奏する部分に電圧を印加する、方法。
【請求項6】
ステップC)で、溶液はイオン及び/又はイオン化合物を含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップC)の溶液中に、例えば置換アクリレート及び/又は置換アセテート及び/又は置換スチレン及び/又は置換イソシアネート及び/又はカルボキシル及び/又はスルホン酸等の有機アニオンのファミリー、及び/又は例えばケイ酸塩、アルミン酸塩等の無機イオンのファミリーからなる官能基を有する少なくとも1種の化合物が含まれている、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
電圧を、ポンプ作用を奏する前記コンポーネントの処理中に漸次増加させる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
電圧は、50Vから300Vの間である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項10】
電圧を、直流を用いてポンプ作用を奏する前記コンポーネントに印加する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項11】
ポンプ作用を奏する前記コンポーネントを、電気化学的処理の終了後に好ましくは約100℃から300℃までの温度で熱処理する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項12】
封止部前駆体は、電気化学的処理の間に細孔に析出される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項13】
封止部前駆体は、細孔内で重合する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項14】
請求項5に記載の方法に従って得られるポンプ作用を奏するコンポーネントを備える、ポンプ。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポンプである、請求項14に記載のポンプ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0136
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0136】
封止された表面を作製する例示的な方法では、<1μmの表面上の膜厚さが生じる。期間及び電流強さによっては、著しく厚い膜も達成でき、すなわち、5μmまでの厚さが達成可能である。その逆に、極めて小さな膜厚さも達成でき、すなわち、アクリレートの重合は、大体において細孔内で行われる。膜厚さは、事前に陽極酸化によって生成された多孔質の表面上の封止部による付加的な被着に関連する。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下を含む。
1.
ポンプ、特に真空ポンプにおいて、
被覆を有してポンプ作用を奏するコンポーネントを備え、
前記被覆は、特に、酸を含む電解液中での陽極酸化によって生成された、細孔を有する酸化物層と、フッ素フリーのポリマーをベースとする及び/又はゾルゲルをベースとする封止部とを有し、
前記酸化物層の細孔は、少なくとも部分的に前記封止部によって覆われている、及び/又は前記封止部が含浸されている、及び/又は前記封止部によって充填されている、ポンプ。
2.
前記ポンプは、スクロール要素として構成された複数の圧送要素を備えるスパイラルポンプ又はスクロールポンプ、特にスパイラル真空ポンプ又はスクロール真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に、スクロール要素として構成された前記圧送要素のうちの少なくとも1つに被着されている、上記1のポンプ。
3.
前記ポンプは、シリンダ内壁とシリンダ内で可動のピストンとを有する少なくとも1つのシリンダを備えるピストンポンプ、特にピストン真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に前記シリンダ内壁及び/又は前記ピストンに被着されている、上記1のポンプ。
4.
前記ポンプは、ターボ分子真空ポンプであり、前記封止部は、少なくとも部分的に動翼及び/又は静翼に被着されている、上記1のポンプ。
5.
ポンプのポンプ作用を奏するコンポーネントを被覆する方法において、以下の
ステップA)表面上に多孔質の酸化物層を有する軽量合金工作物からなる、ポンプ作用を奏するコンポーネントを用意し、
ステップB)ポンプ作用を奏する前記コンポーネントを負圧にさらし、
ステップC)少なくとも1種の、特にフッ素フリーのポリマーをベースとする封止部前駆体及び/又は少なくとも1種のゾルゲルをベースとする封止部前駆体を含む溶液に多孔質の前記酸化物層を接触させる、ステップを有し、
その際、少なくともステップA)からC)までの1つの間でポンプ作用を奏する部分に電圧を印加する、方法。
6.
ステップC)で、溶液はイオン及び/又はイオン化合物を含有する、上記5の方法。
7.
ステップC)の溶液中に、例えば置換アクリレート及び/又は置換アセテート及び/又は置換スチレン及び/又は置換イソシアネート及び/又はカルボキシル及び/又はスルホン酸等の有機アニオンのファミリー、及び/又は例えばケイ酸塩、アルミン酸塩等の無機イオンのファミリーからなる官能基を有する少なくとも1種の化合物が含まれている、上記5又は6の方法。
8.
電圧を、ポンプ作用を奏する前記コンポーネントの処理中に漸次増加させる、上記5から7の少なくともいずれか一つの方法。
9.
電圧は、50Vから300Vの間である、上記5から8の少なくともいずれか一つの方法。
10.
電圧を、直流を用いてポンプ作用を奏する前記コンポーネントに印加する、上記5から9の少なくともいずれか一つの方法。
11.
ポンプ作用を奏する前記コンポーネントを、電気化学的処理の終了後に好ましくは約100℃から300℃までの温度で熱処理する、上記5から10の少なくともいずれか一つの方法。
12.
封止部前駆体は、電気化学的処理の間に細孔に析出される、上記5から11の少なくともいずれか一つの方法。
13.
封止部前駆体は、細孔内で重合する、上記5から12の少なくともいずれか一つの方法。
14.
上記5から13のいずれか一つの方法に従って得られるポンプ作用を奏するコンポーネントを備える、ポンプ。
15.
上記1から4のいずれか一つのポンプである、上記14のポンプ。
【外国語明細書】