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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089630
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240626BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K3/14 520M
C09K3/14 530C
C09K3/14 520C
C09K3/14 530G
F16D69/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198406
(22)【出願日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2022204336
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 茂
(72)【発明者】
【氏名】宮道 素行
(72)【発明者】
【氏名】山本 博司
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058BA44
3J058BA76
3J058CA02
3J058CA42
3J058EA08
3J058EA13
3J058GA33
3J058GA55
3J058GA62
3J058GA64
3J058GA65
3J058GA68
3J058GA78
3J058GA82
3J058GA92
3J058GA93
(57)【要約】
【課題】銅を含有せずとも、熱履歴前における高速高減速度時の安定した摩擦特性と、耐水熱クラック性を両立した摩擦材を提供すること。
【解決手段】摩擦調整材、繊維基材及び結合材を含む摩擦材であって、前記摩擦調整材として、θ-アルミナ粒子を2~12質量%含有し、前記繊維基材として、アルミナ繊維を0.2~0.6質量%含有し、銅成分を含有しない、摩擦材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整材、繊維基材及び結合材を含む摩擦材であって、
前記摩擦調整材として、θ-アルミナ粒子を2~12質量%含有し、
前記繊維基材として、アルミナ繊維を0.2~0.6質量%含有し、
銅成分を含有しない、摩擦材。
【請求項2】
前記θ-アルミナ粒子の比表面積が40~150m/gである、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記アルミナ繊維の平均繊維長が50~150μmである、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記θ-アルミナ粒子の平均粒子径が1~300μmである、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項5】
前記結合材として、シリコーンゴム変性フェノール樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項6】
前記シリコーンゴム変性フェノール樹脂中のシリコーンゴムの含有量が10~30質量%である、請求項5に記載の摩擦材。
【請求項7】
前記シリコーンゴム変性フェノール樹脂の含有量が1~5質量%である、請求項5に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材に関し、更に詳しくは、産業機械、鉄道車両、貨物車両、乗用車等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦材は、ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、あるいはクラッチ等に使用され、ディスクブレーキ等の相手材と摩擦することにより制動の役割を果たしている。摩擦材に求められる特性としては、例えば、摩擦係数が高いこと、高負荷時等での摩擦係数が低下しにくいこと(フェード特性)、相手材攻撃性が低いこと等が挙げられる。
【0003】
摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与えかつその摩擦性能を調整する摩擦調整材、これらの成分を一体化する結合材などの原材料からなっている。原材料の一つとして用いられてきた銅は、摩擦表面で延びて皮膜を形成するため、熱履歴前における高速高減速度時およびフェード時における摩擦係数の安定性に寄与しうる。ただし近年の環境対策の観点から、銅を実質的に含まない摩擦材が求められており、銅の代替として種々の材料が検討されている。
たとえば、特許文献1に記載された摩擦材は、銅や銅合金の含有量が少なくても、チタン酸リチウムカリウムおよび黒鉛を含有することで優れた摩擦係数、耐クラック性、および耐摩耗性を発現している。特許文献2に記載された摩擦材では、θ-アルミナ粒子を主成分とするアルミナ粒子を含有することで湿度環境の変化に対する摩擦係数の安定性を高め、相手材への攻撃性を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6760449号公報
【特許文献2】特開2017-160296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2の技術では、フェード時の摩擦係数の向上を見込めるものの、熱履歴前における高速高減速度時の摩擦係数の向上が不十分である。また、θ-アルミナ粒子を多く含有すると、摩擦材を浸水させたときの耐熱クラック性(耐水熱クラック性)の悪化が懸念される。
【0006】
本発明では、銅を含有せずとも、熱履歴前における高速高減速度時の安定した摩擦特性と、耐水熱クラック性を両立した摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、摩擦材に、摩擦調整材として特定量のθ-アルミナ粒子と、繊維基材として特定量のアルミナ繊維を含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記摩擦材に関するものである。
摩擦調整材、繊維基材及び結合材を含む摩擦材であって、
前記摩擦調整材として、θ-アルミナ粒子を2~12質量%含有し、
前記繊維基材として、アルミナ繊維を0.2~0.6質量%含有し、
銅成分を含有しない、摩擦材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の摩擦材によれば、特定量のθ-アルミナ粒子と特定量のアルミナ繊維を併用することで、熱履歴前における高速高減速度時およびフェード時における摩擦係数が向上し、耐水熱クラック性に優れた摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の摩擦材について詳細に説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、摩擦調整材、繊維基材及び結合材を含む摩擦材であって、前記摩擦調整材として、θ-アルミナ粒子を2~12質量%含有し、前記繊維基材として、アルミナ繊維を0.2~0.6質量%含有し、銅成分を含有しない。
【0012】
<摩擦調整材>
摩擦調整材は、耐摩耗性、耐熱性、耐フェード性等の所望の摩擦特性を摩擦材に付与するために用いられる。
本発明の実施形態に係る摩擦材は、熱履歴前における高速高減速度時の摩擦特性を安定させるために、摩擦調整材としてθ-アルミナ粒子を含有する。
【0013】
θ-アルミナ粒子は、ベーマイトや擬ベーマイト等の水酸化アルミニウム水和物を出発原料として、およそ800~1000℃で焼成することにより得られる。出発原料を焼成すると脱水反応が起こり、θ-アルミナ粒子は脱水によりその結晶構造内に細孔が多く生じる表面構造となる。θ-アルミナ粒子を摩擦材中に含有させることにより、細孔には高温制動時に有機物成分の熱分解によって生じたタール(液状分解物)やガスが吸着されるため、フェードによる効きの低下が抑制されると推測される。なお、本発明はかかる推測理論に制限されるものではない。
【0014】
θ-アルミナ粒子の比表面積は、40~150m/gであることが好ましい。θ-アルミナ粒子の比表面積が40m/g以上であれば、調湿特性が十分に得られ、本発明の所望の効果を得ることができ、また、制動時に発生するタール(液状分解物)やガスの吸着が十分であるため高いフェード特性が得られる。また、θ-アルミナ粒子の硬度が高くなり過ぎず、相手材への攻撃性を抑制できる。なお、本発明における比表面積は窒素ガス吸着によるBET法により測定した値とする。
【0015】
また、比表面積は、大きくなりすぎると結合材のθ-アルミナ粒子への吸着量が多くなるため、摩擦調整材や繊維基材が十分に一体化されず、熱成形性も悪くなり摩擦材にクラック等が発生する恐れがあるため、150m/g以下であることが好ましい。
【0016】
比表面積は、60m/g以上であることがより好ましく、120m/g以下であることがより好ましく、100m/g以下であることが更に好ましい。
【0017】
θ-アルミナ粒子の平均粒子径は、1~300μmであることが好ましい。θ-アルミナ粒子の平均粒子径が1μm以上であれば、制動時の効きが充分に得られる。また、平均粒子径が300μm以下であれば、相手材への攻撃性を抑制でき、摩擦材の耐摩耗性が悪化する虞がない。平均粒子径は、20μm以上であることがより好ましく、250μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。
なお、θ-アルミナ粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)の値により求めることができる。
【0018】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、θ-アルミナ粒子以外のその他のアルミナ粒子として、α-アルミナ粒子、β-アルミナ粒子、γ-アルミナ粒子、δ-アルミナ粒子等のいずれかが含まれていてもよい。
【0019】
本発明実施形態に係る摩擦材は、θ-アルミナ粒子を、摩擦材中、2~12質量%含有する。摩擦材がθ-アルミナ粒子を2質量%以上含有していることで、摩擦材の耐フェード性が十分に得られる。θ-アルミナ粒子の含有量は、摩擦材中、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。
また、摩擦材におけるθ-アルミナ粒子の含有量が12質量%以下であることで、熱成形性が良好となり、また、相手材への攻撃性が抑制できる。θ-アルミナ粒子の含有量は、摩擦材中、11質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下がより好ましく、9質量%以下が更に好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る摩擦材には、本発明の主旨に沿う限り、通常用いられるその他の摩擦調整材を使用することができる。
その他の摩擦調整材としては、例えば、無機充填材、有機充填材、研削材、潤滑材、金属粉末等を挙げることができる。
【0021】
無機充填材としては、例えば、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ等の無機材料が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0022】
無機充填材の含有量は、摩擦材全体中、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%である。
【0023】
有機充填材としては、例えば、各種ゴム粉末(生ゴム粉末、タイヤ粉末等)、ゴムダスト、レジンダスト、カシューダスト、タイヤトレッド、メラミンダスト等が挙げられる。これらは各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0024】
有機充填材の含有量は、摩擦材全体中、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1~10質量%である。
【0025】
研削材としては、例えば、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、酸化クロム、四三酸化鉄(Fe)、クロマイト等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0026】
研削材は、θ-アルミナ粒子を含んだ研削材総量を、摩擦材全体中、好ましくは1~40質量%、より好ましくは10~35質量%用いられる。
【0027】
潤滑材としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化スズ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0028】
潤滑材の含有量は、摩擦材全体中、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%である。
【0029】
金属粉末としては、例えば、アルミニウム、スズ、亜鉛等の粉末が挙げられる。これらは各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0030】
金属粉末の含有量は、摩擦材全体中、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%である。
【0031】
摩擦調整材の含有量は、所望する摩擦特性に応じて、適宜調整すればよく、θ-アルミナ粒子を含んだ摩擦調整材総量で、摩擦材全体において、60~90質量%とすることが好ましく、65~85質量%とすることがより好ましい。
【0032】
<繊維基材>
繊維基材は摩擦材としたときの補強用に用いられる。
本発明の実施形態に係る摩擦材は、繊維基材として、アルミナ繊維を含有する。本発明の実施形態に係る摩擦材中のアルミナ繊維の含有量は0.2~0.6質量%である。本発明の実施形態に係る摩擦材が0.2~0.6質量%のアルミナ繊維を含有することで、熱履歴前における高速高減速度時の安定した摩擦特性と、耐水熱クラック性が得られる。これは、摩擦調整材として特定量のθ-アルミナ粒子を含有させることで、制動時に発生するタール(液状分解物)やガスが吸着されるので、特定量のアルミナ繊維を含有させても研削効果がより発揮しやすくなると推測される。
【0033】
また、アルミナ繊維製造過程での焼成温度制御によって本発明の摩擦材の研削性を抑制することができ、アルミナ繊維の適切な配合量を選択することにより本発明の摩擦材の相手材への攻撃性を低下させることが可能である。
【0034】
アルミナ繊維の摩擦材全体中の含有量は、0.3~0.6質量%が好ましく、より好ましくは0.4~0.6質量%である。
【0035】
なお、アルミナ繊維とは、アルミナ(Al)及びシリカ(SiO)を主成分として含有する人造鉱物繊維のことである。アルミナ繊維におけるAl及びSiOの化学組成比は、Al:SiO=70~80:30~20が好ましく、より好ましくはAl:SiO=70:30である。
【0036】
また、アルミナ繊維の平均繊維長は50~150μm、平均繊維径は1~10μmが好ましい。なお、本発明においてアルミナ繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、マイクロスコープ等により観察することによって測定できる。
【0037】
アルミナ繊維は従来公知の方法によって製造できる。例えば、アルミニウム塩類の溶液等に有機重合体を加えて増粘し、これを機械的に繊維化して焼成する、いわゆる前駆体繊維法が用いられる。
【0038】
繊維基材としては、上記のものの他に、例えば、有機繊維、無機繊維等が挙げられる。繊維基材は各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0039】
有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、耐炎性アクリル繊維等が挙げられる。
【0040】
無機繊維としては、例えば、生体溶解性無機繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられる。生体溶解性無機繊維としては、例えば、SiO-CaO-MgO系繊維、SiO-CaO-MgO-Al系繊維、SiO-MgO-SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。
【0041】
繊維基材の含有量は、摩擦材の強度確保の観点から、アルミナ繊維を含んだ繊維基材総量で、摩擦材全体中、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0042】
<結合材>
結合材は摩擦材に含まれる繊維基材及び摩擦調整材を一体化するために用いられる。結合材としては、例えば、ストレートフェノール樹脂、エラストマー等による各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。エラストマー変性フェノール樹脂としては、アクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂などを挙げることができる。これらの結合材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
なかでも、シリコーンゴム変性フェノール樹脂を用いると摩擦材の耐水熱クラック性を高められる点で好ましい。これはシリコーンゴムの弾性と撥水性によるものと考えられる。シリコーンゴム変性フェノール樹脂中のシリコーンゴムの含有量は10~30質量%であることが好ましい。またシリコーンゴム変性フェノール樹脂の含有量は、耐水熱クラック性の観点から摩擦材全体に対し、1~5質量%とすることが好ましい。摩擦材におけるシリコーンゴムの含有量は、耐水熱クラック性の観点から摩擦材全体に対し、0.1~1.5質量%とすることが好ましく、0.5~1.5質量%とすることがより好ましい。
【0044】
結合材の含有量は、十分な機械的強度、耐摩耗性を確保するため、シリコーンゴム変性フェノール樹脂を含んだ結合材総量で、摩擦材全体に対し、1~20質量%とすることが好ましく、3~15質量%がより好ましい。
【0045】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、繊維基材、摩擦調整材及び結合材以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
【0046】
ただし、環境負荷低減の観点から、本発明の摩擦材は、銅成分を含有しない。銅成分を含有しないとは、実質的に含有しないことを意味し、不可避的に含有することを除外しない。より詳しくは、元素としての銅含有量が0.5質量%以下であることを意味する。
【0047】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、摩擦調整材として特定量のθ-アルミナ粒子と、繊維基材として特定量のアルミナ繊維を含有することで、銅を含有せずとも、熱履歴前における高速高減速度時の安定した摩擦特性と、耐水熱クラック性を両立できる。
【0048】
本発明の実施形態に係る摩擦材の製造は、公知の製造工程により行うことができ、例えば、摩擦材組成物の予備成形、熱成形、加熱、研摩等の工程を経て摩擦材を作製することができる。
摩擦材を備えたブレーキパッドの製造方法は、一般的に以下の工程を有する。
(a)板金プレスにより鋼板(プレッシャプレート)を所定の形状に成形する工程
(b)上記プレッシャプレートに脱脂処理、化成処理およびプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程
(c)繊維基材と、摩擦調整材と、結合材等の粉末原料とを配合し、混合により十分に均質化した摩擦材組成物を、常温にて所定の圧力で成形して予備成形体を作製する工程
(d)上記予備成形体と接着剤が塗布されたプレッシャプレートとを、所定の温度および圧力を加えて両部材を一体に固着する熱成形工程(成形温度130~180℃、成形圧力30~80MPa、成形時間2~10分間)
(e)アフターキュア(150~300℃、1~5時間)を行って、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程
このような工程により、本発明の実施形態に係る摩擦材を製造することができる。
【0049】
以上より、本明細書は以下の摩擦材を開示する。
〔1〕摩擦調整材、繊維基材及び結合材を含む摩擦材であって、
前記摩擦調整材として、θ-アルミナ粒子を2~12質量%含有し、
前記繊維基材として、アルミナ繊維を0.2~0.6質量%含有し、
銅成分を含有しない、摩擦材。
〔2〕前記θ-アルミナ粒子の比表面積が40~150m/gである、〔1〕に記載の摩擦材。
〔3〕前記アルミナ繊維の平均繊維長が50~150μmである、〔1〕又は〔2〕に記載の摩擦材。
〔4〕前記θ-アルミナ粒子の平均粒子径が1~300μmである、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の摩擦材。
〔5〕前記結合材として、シリコーンゴム変性フェノール樹脂を含有する、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の摩擦材。
〔6〕前記シリコーンゴム変性フェノール樹脂中のシリコーンゴムの含有量が10~30質量%である、〔5〕に記載の摩擦材。
〔7〕前記シリコーンゴム変性フェノール樹脂の含有量が1~5質量%である、〔5〕又は〔6〕に記載の摩擦材。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0051】
<摩擦材の製造>
(実施例1~13、比較例1~7)
表1~表3に示す配合材料を、混合攪拌機に投入し、常温で4分間混合し、摩擦材組成物を得た。その後、得られた摩擦材組成物を以下の(i)予備成形、(ii)熱成形、(iii)熱処理の工程を経て、摩擦材を備えたブレーキパッドを作製した。
(i)予備成形
混合物を予備成形プレスの金型に投入し、常温にて20MPaで10秒間成形を行い、予備成形体を作製した。
(ii)熱成形
この予備成形体を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャプレート)を重ね、150℃、35MPaで6分間の加熱加圧成形を行った。
(iii)熱処理
この加熱加圧成形体に、250℃、3時間の熱処理を実施した後、表面を研摩した。
次いで、この加熱加圧成形体の表面に仕上げ塗装を行い、摩擦材を得た。
【0052】
フェノール樹脂A:ストレートフェノール樹脂
フェノール樹脂B:シリコーンゴム変性フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製RS-2210MB、シリコーンゴム含有量10質量%)
フェノール樹脂C:シリコーンゴム変性フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製RS-2230MB、シリコーンゴム含有量30質量%)
θ-アルミナ粒子:比表面積100m/g、平均粒子径20μm
アルミナ繊維:平均繊維長100μm、平均繊維径4.5μm
【0053】
得られた摩擦材に対して以下の方法および基準により、熱履歴前における高速高減速度時の摩擦特性、空転ディスクロータ攻撃性、耐水熱クラック性の評価を行った。
【0054】
<熱履歴前における高速高減速度時の摩擦特性の評価>
得られた摩擦材に対し、フルサイズのダイナモメータを用いて摩擦試験を行い、第2効力及び第1フェードの摩擦係数を測定した。
第2効力は、JASO C 406:2000に準拠して、初速度130km/h、制動減速度5.88m/sでの第2効力における摩擦係数を測定した。
第1フェードは、JASO C 406:2000に準拠して、第1フェードにおける10制動中の最低摩擦係数を測定した。
第2効力と第1フェードの評価基準は以下の通りである。
〔第2効力の評価基準〕
◎:0.35以上
○:0.30以上、0.35未満
×:0.30未満
〔第1フェードの評価基準〕
◎:0.30以上
○:0.25以上0.30未満
×:0.25未満
【0055】
<空転ディスクロータ攻撃性(相手材攻撃性)の評価>
得られた摩擦材からテストピース(20mm×30mm)を切り出し、1/7スケールテスタを用いてテストピースを面圧0.06MPaでディスクロータ(材質FC200)に押し付け、室温(約20℃)、速度60km/hで空転させた際の、40時間後のロータ摩耗量(μm)を測定した。空転ディスクロータ攻撃性の評価基準は以下の通りである。
〔評価基準〕
◎:15μm未満
○:15μm以上20μm未満
×:20μm以上
【0056】
<耐水熱クラック性の評価>
得られた摩擦材を、浸水させ、取り出して200℃の加熱炉で10時間加熱後、摩擦材の温度が室温になるまで室温で放置を1サイクルとし、5サイクル実施した後、クラックの発生について目視で評価した。耐水熱クラック性の評価基準は以下の通りである。
〔評価基準〕
◎:クラックの発生無し、または、ヘアークラック(微小なクラック)発生
○:クラック長さが、15mm未満
×:クラック長さが、15mm以上
【0057】
各試験の結果を表1~表3に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表1および表3の結果より、特定量のθ-アルミナ粒子と特定量のアルミナ繊維を含む実施例1~7の摩擦材は、熱履歴前における高速高減速度時の摩擦特性、空転ディスクロータ攻撃性、耐水熱クラック性のいずれにおいても優れた摩擦材であることが分かる。θ-アルミナ粒子およびアルミナ繊維のいずれかまたは両方を含まない比較例1~3の摩擦材と、θ-アルミナ粒子とアルミナ繊維のいずれかの含有量が本願発明の範囲外である比較例4~7の摩擦材は、熱履歴前における高速高減速度時の摩擦特性、空転ディスクロータ攻撃性、耐水熱クラック性の少なくとも一つにおいて基準を満たさなかった。
特に、実施例3の摩擦材と、比較例1~3の摩擦材の摩擦特性試験の対比から、特定量のθ-アルミナ粒子と特定量のアルミナ繊維の両方を含むことで、いずれか一方のみを含む場合よりも、第1フェード摩擦係数を維持しながら第2効力時の摩擦係数を高めることができ、熱履歴前における高速高減速度時の摩擦特性が向上したことが分かる。
また、表2の結果より、結合材としてシリコーンゴム変性フェノール樹脂を含む実施例8~13の摩擦材は、結合材の種類以外は同じ組成である実施例5の摩擦材よりも、耐水熱クラック性が向上したことが分かる。