(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089634
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ガラス繊維巻回体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F26B 13/10 20060101AFI20240626BHJP
F26B 23/08 20060101ALI20240626BHJP
F26B 3/347 20060101ALI20240626BHJP
F26B 3/30 20060101ALI20240626BHJP
C03C 25/12 20060101ALI20240626BHJP
C03C 25/64 20060101ALI20240626BHJP
C03C 25/326 20180101ALI20240626BHJP
C03C 25/25 20180101ALI20240626BHJP
【FI】
F26B13/10 E
F26B23/08 A
F26B3/347
F26B3/30
C03C25/12
C03C25/64
C03C25/326
C03C25/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201262
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022203921
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石野 光洋
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 智基
(72)【発明者】
【氏名】瀧 昭彦
【テーマコード(参考)】
3L113
4G060
【Fターム(参考)】
3L113AA02
3L113AB02
3L113AB05
3L113AB07
3L113AC10
3L113AC12
3L113AC35
3L113BA23
3L113CA08
3L113CA20
3L113CB06
3L113CB07
3L113CB22
3L113DA10
3L113DA24
4G060BA02
4G060BA05
4G060BB02
4G060BC03
4G060BD15
4G060BD22
4G060CB22
4G060CB33
(57)【要約】
【課題】集束剤中に含まれる水分を効率よく低減することが可能なガラス繊維巻回体の製造方法を提供する。
【解決手段】水分を含んだ集束剤が塗布されたガラス繊維を巻き取ることによって形成されるガラス繊維巻回体2aを準備する準備工程、及び、
ガラス繊維巻回体2aを乾燥させる乾燥工程、
を備える、ガラス繊維巻回体2bの製造方法であって、
乾燥工程が、ガラス繊維巻回体2aに対し、誘電加熱及び雰囲気加熱を同時に行う、ガラス繊維巻回体2bの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含んだ集束剤が塗布されたガラス繊維を巻き取ることによって形成されるガラス繊維巻回体を準備する準備工程、及び、
前記ガラス繊維巻回体を乾燥させる乾燥工程、
を備える、ガラス繊維巻回体の製造方法であって、
前記乾燥工程が、前記ガラス繊維巻回体に対し、誘電加熱及び雰囲気加熱を同時に行う、ガラス繊維巻回体の製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気加熱が熱風加熱である、請求項1に記載のガラス繊維巻回体の製造方法。
【請求項3】
前記熱風加熱に使用する熱風の温度が120℃未満である、請求項2に記載のガラス繊維巻回体の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程を1時間~8時間行う、請求項1または2に記載のガラス繊維巻回体の製造方法。
【請求項5】
前記誘電加熱に、周波数が4~80MHzである高周波を使用する、請求項1または2に記載のガラス繊維巻回体の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程において、前記ガラス繊維巻回体を乾燥させながら換気を行う、請求項1または2に記載のガラス繊維巻回体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含んだ集束剤が塗布されたガラス繊維を巻き取ることによって形成される例えばロービング、ケーキ等のガラス繊維巻回体を乾燥する工程を備える、ガラス繊維巻回体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス繊維は、その製造工程で、水分を含んだガラス繊維集束剤が塗布され、湿潤した状態でコレット、ボビン等に巻き取られ、ガラス繊維巻回体となる。そして、その後、電磁波加熱(誘電加熱)器等によって、ガラス繊維巻回体のガラス繊維は乾燥される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、電磁波は、ガラス繊維中に含まれる水分子にエネルギーを付与し、ガラス繊維巻回体を均一に加熱できるため、多量の水分を含んだガラス繊維を短時間に乾燥させることには適している。しかし、乾燥が進んでガラス繊維巻回体中の水分量が少なくなると、それ以上加熱することができずにガラス繊維巻回体の温度が低下していき、十分に乾燥することができないという問題がある。そこで、水分を含んだガラス繊維巻回体を誘電加熱した後、雰囲気加熱を行う方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1995538号公報
【特許文献2】特開2016-217679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の方法に従い、ガラス繊維巻回体に対して誘電加熱による乾燥を行った後に、雰囲気加熱による乾燥を行うと、一度温度が低下したガラス繊維巻回体を再加熱することになり、エネルギー効率に劣る。そのため、ガラス繊維巻回体を十分に乾燥できなかったり、あるいは、十分に乾燥するために乾燥時間を長くする必要があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、集束剤中に含まれる水分を効率よく低減することが可能なガラス繊維巻回体の製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]上記課題を解決するために創案された本発明に係るガラス繊維巻回体の製造方法は、水分を含んだ集束剤が塗布されたガラス繊維を巻き取ることによって形成されるガラス繊維巻回体を準備する準備工程、及び、前記ガラス繊維巻回体を乾燥させる乾燥工程、を備える、ガラス繊維巻回体の製造方法であって、前記乾燥工程が、前記ガラス繊維巻回体に対し、誘電加熱及び雰囲気加熱を同時に行うことに特徴づけられる。ここで、雰囲気加熱とは、加熱対象に対して、外部から、伝導、放射、対流等によって熱を付与する加熱のことを意味し、例えば熱風加熱や赤外線加熱等が挙げられる(以下、同様)。
【0008】
この構成では、誘電加熱と同時に雰囲気加熱を行うことにより、雰囲気加熱が誘電加熱の補助を行う状態となり、ガラス繊維巻回体中の水分を効率よく低減できる。より詳細には、上述したように、誘電加熱のみではガラス繊維巻回体中の水分量が少なくなってきた場合に、それ以上加熱することができずにガラス繊維巻回体の温度が低下していくという問題があるが、この構成では、ガラス繊維巻回体中の水分量が少なくなっても、雰囲気加熱によりガラス繊維巻回体中の温度低下を抑制できるため、乾燥の進行が妨げられにくくなる。なお上記構成では、誘電加熱と雰囲気加熱を併用していることから加熱効率が高く、雰囲気加熱の熱量が比較的低くても乾燥効果が得られやすい。そのため、エネルギー効率が高いだけでなく、ガラス繊維巻回体が高温雰囲気下に晒されることに起因する不当な着色を軽減することができる。
【0009】
[2]上記の構成[1]において、前記雰囲気加熱が熱風加熱であることが好ましい。この構成では、乾燥工程において、ガラス繊維巻回体中の周辺に空気の流れを作ることができるため、加熱により水蒸気となったガラス繊維巻回体中の水分を、ガラス繊維巻回体中の外部に効率よく排出することが可能となる。
【0010】
[3]上記の構成[2]において、前記熱風加熱に使用する熱風の温度が120℃未満であることが好ましい。
【0011】
[4]上記の構成[1]~[3]のいずれかにおいて、前記乾燥工程を1時間~8時間行うことが好ましい。このようにすれば、ガラス繊維巻回体中を十分に乾燥することができる。
【0012】
[5]上記の構成[1]~[4]のいずれかにおいて、前記誘電加熱に、周波数が4~80MHzである高周波を使用することが好ましい。このようにすれば、ガラス繊維巻回体中を十分に乾燥することができる。
【0013】
[6]上記の構成[1]~[5]のいずれかにおいて、前記乾燥工程において、前記ガラス繊維巻回体を乾燥させながら換気を行うことが好ましい。この構成では、乾燥工程において、ガラス繊維巻回体中の周辺に空気の流れを作ることができるため、加熱により水蒸気となったガラス繊維巻回体中の水分を、ガラス繊維巻回体の外部に効率よく排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集束剤中に含まれる水分を効率よく低減することが可能なガラス繊維巻回体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス繊維巻回体の製造方法に使用する乾燥装置を示す概略側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガラス繊維巻回体を示す概略斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガラス繊維巻回体の製造方法に使用する乾燥装置に示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るガラス繊維巻回体の製造方法に使用する乾燥装置を示す概略側面図である。このガラス繊維巻回体の乾燥装置1は、ガラス繊維巻回体2a(乾燥前のガラス繊維巻回体)を乾燥させる乾燥装置である。乾燥装置1は、ガラス繊維巻回体2aを誘電加熱及び雰囲気加熱で乾燥させる乾燥手段3と、ガラス繊維巻回体2a及び乾燥後のガラス繊維巻回体2bを搬送する搬送手段4とを備える。
【0018】
図2に拡大して示すガラス繊維巻回体2aは、水分を含んだ集束剤が塗布されたガラスストランドSを綾振りしながら巻き取ることによって形成されるものである。ガラス繊維巻回体2aは、直接巻き取り法によって製造されるガラスロービング(DWR)の製品となるものである。つまり、ガラス繊維巻回体2aを、乾燥装置1によって、集束剤に含まれる水分を蒸発させると、集束剤の被膜が形成された状態となり、DWRの製品となる。
【0019】
乾燥させる前のガラス繊維巻回体2aは、以下のような工程によって形成される。まず、各種の無機ガラス原料を高温状態に加熱されたガラス溶融槽に投入し、この内部で溶融した後に、白金製ブッシングより引き出された溶融ガラスを複数のガラスフィラメントに引き伸ばし、それぞれのガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布する。次いで、これらの複数のガラスフィラメントを引き揃えて、ガラスストランドSとし、回転するコレットに綾振りしながら巻き取る。これによって、乾燥させる前のガラス繊維巻回体2aが形成される。
【0020】
ガラスストランドSの直径は、例えば1mm~10mmである。ガラスストランドSは、例えば100本~10000本のガラスフィラメントで構成される。ガラスストランドSとなるガラスフィラメントの直径は、例えば1μm~100μmである。
【0021】
無機ガラス原料は、Eガラスのガラス組成(無アルカリガラス組成)となるように調合される。Eガラスのガラス組成は、酸化物基準の質量%で、SiO2 52~62%、Al2O3 10~16%、B2O3 0~8%、MgO 0~5%、CaO 16~25%及びR2O(但し、Rは、Li、Na及びKのうちの少なくとも1つ) 0~2%である。
【0022】
ガラスフィラメントに塗布される集束剤としては、ウレタン系、エポキシ系、酢酸ビニル系の何れもが適用可能である。なお、これらの集束剤には、樹脂の他に、潤滑剤やシランカップリング剤を添加することができる。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係るガラス繊維巻回体の製造方法に使用する乾燥装置に示す概略正面図である。乾燥手段3は、その内側の両側方に誘電加熱手段3a(誘電加熱のための電極)が配設されている。誘電加熱手段3aによる誘電加熱は、ガラス繊維巻回体2a内の水分子を回転又は振動させるための条件であれば特に制限は無く、誘電加熱に高周波を使用する場合は、周波数が例えば4~80MHzのものを使用できる。また、誘電加熱にマイクロ波を使用してもよい。
【0024】
乾燥手段3には誘電加熱手段3aとともに、雰囲気加熱手段3bが設けられている。雰囲気加熱としては、例えば熱風加熱や赤外線加熱等が挙げられる。
図3では雰囲気加熱として熱風加熱を採用しており、雰囲気加熱手段3bとして熱風加熱装置が乾燥手段3の内側の上方に設置されている。熱風加熱装置は、熱風Hを生じるための熱源と、熱風Hを送風するためのファンを備えている。雰囲気加熱として赤外線加熱を採用する場合には、、熱風加熱装置の替わりに赤外線加熱装置を設置する。なお、雰囲気加熱手段3bは乾燥手段3の内側の下方に設置してもよい。このようにすれば、熱風Hは密度が低く乾燥手段3の上方に向かって流れやすいため、乾燥効率を向上させることができる。雰囲気加熱手段3bは、乾燥手段3の内側の上方及び下方の両方に設置してもよい。あるいは、雰囲気加熱手段3bは乾燥手段3の内側の側方に設置してもよい。また、雰囲気加熱手段3bとして熱風加熱装置と赤外線加熱装置を併用しても構わない。
【0025】
雰囲気加熱として熱風加熱を採用する場合、熱風の温度は、120℃未満、110℃以下、特に100℃以下であることが好ましい。加熱温度が高すぎると、乾燥後のガラス繊維巻回体2bが不当に着色する恐れがある。またエネルギーロスに繋がる。熱風の温度の下限は特に限定されないが、低すぎると乾燥が不十分になったり、集束剤の硬化が不十分となって、ガラス繊維表面に所望の被膜が形成されにくくなるため、70℃以上、特に80℃以上であることが好ましい。
【0026】
乾燥手段3による加熱時間は、1時間~8時間が好ましく、2時間~7時間がより好ましく、3時間~6時間がさらに好ましく、3時間~5時間が特に好ましい。加熱時間が短すぎると、乾燥が不十分になったり、集束剤の硬化が不十分となって、ガラス繊維表面に所望の被膜が形成されにくくなる。一方、加熱時間が長すぎると、乾燥後のガラス繊維巻回体2bが不当に変色するおそれがある。またエネルギーロスに繋がる。
【0027】
乾燥手段3内にダクト等の換気設備を設けて、ガラス繊維巻回体2aを乾燥させながら換気を行うことが好ましい。このようにすれば、乾燥工程において、ガラス繊維巻回体2a中の周辺に空気の流れを作ることができるため、加熱により水蒸気となったガラス繊維巻回体2a中の水分を、ガラス繊維巻回体2aの外部に効率よく排出することが可能となる。
【0028】
本実施形態では、搬送手段4は、コンベアで構成され、白矢印で示すように、ガラス繊維巻回体2aを、連続的に乾燥手段3に搬入し、その後、乾燥手段3から搬出する。なお、雰囲気加熱手段3bをコンベアの下方に設置する場合は、熱風Hがガラス繊維巻回体2aに届くよう、コンベアに開口部を設ける(例えばコンベアをメッシュ状にする)ことが好ましい。もっとも、搬送手段4はこれに限定されず、例えば台車や、レールに沿って移動可能なハンガー等の別の手段で構成されてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、乾燥手段3において、ガラス繊維巻回体2aを1個ずつ乾燥しているが、バッチ式で、ガラス繊維巻回体2aを複数個ずつ乾燥してもよい。また、乾燥手段3の内部にガラス繊維巻回体2aが配置された際に、搬送手段4によるガラス繊維巻回体2aの移動を停止してもよいし、搬送手段4によるガラス繊維巻回体2aの移動を継続したままでもよい。
【0030】
また、乾燥手段3の搬入口及び搬出口には、シャッターがあってもよいし、なくてもよい。
【実施例0031】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
表1は本発明の実施例及び比較例1~3を示す。
【0033】
【0034】
Eガラスのガラス組成となるように調合した各種ガラス原料をガラス熔融炉中で熔解し、均質な状態にした。次いで、この熔融ガラスをガラス熔融炉の成形域に備えられたブッシングへと導いて、耐熱性ノズルから引き出し、ガラスフィラメントの直径が17μmとなるように冷却条件、巻き取り条件等を調整した状態で成形した。引き出されたガラスフィラメントを冷却し、次いで予め準備した各種のガラス繊維集束剤を集束剤塗布装置であるアプリケータローラによって均等に塗布した。
【0035】
このようにガラスフィラメント表面にガラス繊維用集束剤が塗布されたガラスフィラメントを集束器によって4000本を束ねて1本のガラスストランドとし、さらに紙管に巻き取ってガラス繊維巻回体とした。このガラスストランドの直径は約5mmであった。
【0036】
ガラス繊維巻回体に塗布されたガラス繊維集束剤の成分は、アミノシラン0.5質量%、エーテル系ウレタン10質量%、潤滑剤0.5質量%であった。
【0037】
このように作製したガラス繊維巻回体を、表1に記載の条件で乾燥した。乾燥後のガラス繊維巻回体中に含まれる水分量を以下のようにして測定した。乾燥後のガラス繊維巻回体を130℃の雰囲気温度に設定した乾燥炉に8時間以上静置して追加乾燥を行い、((追加乾燥前のガラス繊維巻回体の質量-追加乾燥後のガラス繊維巻回体の質量)/(追加乾燥前のガラスロービングの質量))×100(質量%)の式により算出した。結果を表1に示す。なお、得られたガラス繊維巻回体の強熱減量は0.5質量%であった。
【0038】
表1に示すように、実施例では、4時間の乾燥工程でガラス繊維巻回体中の水分量を0.1質量%まで低減することができた。一方、比較例1~3では、6時間の乾燥工程でガラス繊維巻回体中の水分量を、最も少ない場合でも0.2質量%までしか低減することができなかった。このように、実施例では熱風温度が90℃と比較的低いにもかかわらず、誘電加熱と併用することで、ガラス繊維巻回体を短時間で効率よく乾燥できることがわかる。