(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089637
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】金属黒鉛質ブラシ
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20240626BHJP
H01R 39/20 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H02K13/00 P
H01R39/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203671
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2022204189
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】青沼 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】舘山 峰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政広
【テーマコード(参考)】
5H613
【Fターム(参考)】
5H613AA03
5H613BB15
5H613GA09
5H613GB09
5H613GB12
(57)【要約】
【課題】乗性の向上と摩擦摩耗の安定性を確保でき、長寿命な金属黒鉛質ブラシを提供する。
【解決手段】本発明にかかる金属黒鉛質ブラシは、黒鉛と金属粉末を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、少なくとも摺動面上に、長尺形状の気孔を有し、開気孔率が15%以上40%以下である。前記長尺形状の気孔の長軸方向が、摺動方向に対し、45°以上135°以下の角度で配向していることが好ましく、また、前記長尺形状の気孔のアスペクト比が、2以上20以下であることが好ましく、更に前記長尺形状の気孔は、平面視上、楕円形状または矩形形状であることが望ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛と金属粉末を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、少なくとも摺動面上に、長尺形状の気孔を有し、開気孔率が15%以上40%以下であることを特徴する金属黒鉛質ブラシ。
【請求項2】
前記長尺形状の気孔の長軸が、摺動方向に対し、45°以上135°以下の角度に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項3】
前記長尺形状の気孔のアスペクト比が、2以上20以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項4】
前記長尺形状の気孔は、平面視上、楕円形状または矩形形状であることを特徴とする請求項1に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項5】
気孔の長軸方向長さは、20μm以上300μm以下、気孔の短軸方向長さは、5μm以上50μm以下であり、前記長軸方向長さ及び前記短軸方向長さを有する気孔が、全気孔の5%以上80%以下であることを特徴とする請求項1記載の金属黒鉛質ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、発電機等の電気機械等に用いられる金属黒鉛質ブラシに関し、座乗性の確保と摩擦摩耗の安定性が優れた金属黒鉛質ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
金属黒鉛質ブラシは、摺動接触により、回転電機の固定部から回転部に通電する機能を有する部材であるため、導電性、摺動性及び耐摩耗性が要求される。
この金属黒鉛質ブラシは、特許文献1に示すように、導電性を確保するための金属粒子、摺動性及び耐摩耗性を確保するための黒鉛粒子、並びに金属粒子と黒鉛粒子とを結合させるためのバインダーを混合して成形した後、焼成することによって製造される。
【0003】
ところで、上記に示すような金属黒鉛質ブラシは、弾性係数が大きいため、回転電機の高速回転下では、回転部の凹凸又は回転電機自体の振動の影響により、金属黒鉛質ブラシがジャンピングして、整流子とブラシ接触部の間で火花が発生し、ブラシ摩耗が増加するという課題があった。
この整流子とブラシ接触部で生じる火花は、ブラシの座乗性に影響され、一般的に座乗性を向上させるためには、弾性率を低下させることが有効である。
【0004】
特許文献2では、弾性率を低下させ、座乗性を向上させるために、金属黒鉛質ブラシを多孔質化することが提案されている。
具体的には、水銀ポロシメーターによる気孔径分布の測定で5~300μmの気孔径の占める気孔量が気孔量全体の20%~70%を占め、かつそれらの5~300μmの気孔がブラシ組織内に分散されている金属黒鉛質ブラシが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2775902号公報
【特許文献2】特開平2-197238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献2に記載された金属黒鉛質ブラシにあっては、多孔質化により弾性率の低減が図られ、座乗性を向上させることができる。その結果、整流子とブラシ接触部の間での火花を抑制でき、ブラシの摩耗は低減できると考えられていた。
【0007】
しかしながら、前記弾性率を低下させると、金属黒鉛質ブラシの硬度は低くなり、摺動摩耗の回転時に金属黒鉛質ブラシの摩耗量が多くなる。この金属黒鉛質ブラシの磨耗量が多いと、金属黒鉛質ブラシが摩耗し、整流子に付着する凝着膜が厚くなりやすく、しかもブラシと固着し易く、また均一な凝着膜を形成できなくなり、火花が発生するという課題があった。
【0008】
本発明者らは、この課題を解決するためには、多孔質化した金属黒鉛質ブラシを前提に、弾性率を低く保ちながら、凝着膜を均一に形成する方法を鋭意研究した。
即ち、均一な凝着膜を形成するには、凝着膜の形成、剥離(凝着膜の形成、剥離のサイクル)を正常に行われることが必要であること着目し、本発明を想到するに至った。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、座乗性の向上と摩擦摩耗の安定性を確保でき、長寿命な金属黒鉛質ブラシを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明にかかる金属黒鉛質ブラシは、黒鉛と金属粉末を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、少なくとも摺動面上に、長尺形状の気孔を有し、開気孔率が15%以上40%以下であることを特徴としている。
尚、前記長尺形状とは一方向に長く伸びた気孔形状を意味する。
【0011】
本発明に係る金属黒鉛質ブラシは、座乗性が向上するとともに、凝着膜に広く接触させることができ、凝着膜を効率的に剥離することができる。
【0012】
ここで、前記長尺形状の気孔の長軸が、摺動方向に対し、45°以上135°以下の角度に形成されていることが望ましい。
このように、気孔の長軸が、摺動方向に対し、45°以上135°以下の角度に形成されているため、摺動方向の気孔長軸側のエッジを整流子表面に生成した凝着膜に接触させることができ、凝着膜を効率的に剥離することができる。即ち、長尺形状の気孔のエッジによって、積極的に凝着膜を剥離することで、新しい膜の形成を促し、安定した摺動磨耗特性を得ることができる。
その結果、座乗性の向上と摩擦摩耗の安定性を確保でき、長寿命な金属黒鉛質ブラシとすることができる。
【0013】
ここで、前記長尺形状の気孔のアスペクト比が、2以上20以下であることが望ましい。
尚、前記長尺形状の気孔は、平面視上、楕円形状または矩形形状であっても良い。
【0014】
更に、気孔の長軸方向長さは、20μm以上300μm以下、気孔の短軸方向長さは、5μm以上50μm以下であり、前記長軸方向長さ及び前記短軸方向長さを有する気孔が、全気孔の5%以上80%以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、座乗性の向上と摩擦摩耗の安定性を確保でき、長寿命な金属黒鉛質ブラシを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、金属黒鉛質ブラシの摺動面を展開した図であって、気孔の配向を模式的に表した図である。
【
図2】
図2は、金属黒鉛質ブラシの摺動面に形成された気孔の断面を模式的に表した断面図である。
【
図3】
図3は、本発明にかかる金属黒鉛質ブラシの製造方法を示すフローチャート図である。
【
図4】
図4は、実施例1の金属黒鉛質ブラシの摺動面の状態を写した光学顕微鏡の写真を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例1の金属黒鉛質ブラシの摺動面の状態を写した光学顕微鏡の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかる金属黒鉛質ブラシ及び金属黒鉛質ブラシの製造方法の実施形態について説明する。この実施形態は本発明の一例を示すものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(金属黒鉛質ブラシ)
本発明にかかる金属黒鉛質ブラシは、黒鉛と金属粉末を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシ1であって、
図1に示すように、少なくとも摺動面2上に、長尺形状の気孔3を有すると共に、望ましくは前記長尺形状の気孔3の長軸3aが、摺動方向4に対し、45°以上135°以下の角度に形成されている。
【0019】
このように、摺動面2上に、長尺形状の気孔3が形成されている。尚、長尺形状の気孔3とは、一方向に長く伸びた気孔をいう。しかも、前記長尺形状の気孔3の長軸(気孔が長く伸びる方向の軸)3aが、摺動方向4に対して45°以上135°以下の角度となるように、前記気孔3が配向されていることが望ましい。
そのため、摺動方向4の気孔長軸側のエッジ3bを整流子表面に生成される凝着膜に接触させることができ、前記エッジ3bによって、効率的に凝着膜6を剥離することができる。即ち、長尺形状の気孔3であるため、円形の気孔の場合に比べて、凝着膜に広く(長く)接触させることができ、凝着膜6を効率的に剥離することができる。
【0020】
この長尺形状の気孔3のエッジ3bによって、積極的に凝着膜6を剥離することで、新しい膜の形成を促し、安定した摺動磨耗特性を得ることができる。
その結果、座乗性の向上と摩擦摩耗の安定性を確保でき、長寿命な金属黒鉛質ブラシとすることができる。
ここで、金属黒鉛質ブラシの摺動面とは、ブラシにおける整流子と接する面のことをいう。
【0021】
また、摺動面上の長尺形状の気孔3は、平面視上、楕円形状または矩形形状であっても良い。尚、この楕円形状は、幾何学的な楕円だけではなく、全体的に丸みを帯びた長円形状を含むものであり、形状に欠け等がっても良い。また、矩形形状は、幾何学的な矩形だけではなく、縦方向、横方向が直線ではない、長矩形形状を含むものであり、形状に欠け等がっても良い。
【0022】
また、前記長尺形状の気孔3のアスペクト比(L1/L2)は、2以上20以下であることが望ましい。
したがって、前記長尺形状の気孔3は、長軸寸法L1が短軸寸法L2より、2倍以上20倍以下の長さを有していることが望ましい。
【0023】
前記長尺形状の気孔3のアスペクト比(L1/L2)が、2以上20以下であることにより、座乗性の向上と摩擦摩耗の安定性を確保できる。さらに好ましくは、気孔3のアスペクト比は、2.5以上17以下であることが望ましい。
【0024】
また、気孔3の長軸3aが、前記したように、摺動方向4に対し、45°以上135°以下の角度になるように、気孔3が形成されていることが望ましい。
気孔3の長軸3aが摺動方向に対し、45°以上135°以下の角度で形成されていることにより、摺動方向4の気孔長軸側のエッジ3bを整流子表面に生成した凝着膜に接触させることができ、凝着膜を効率的に剥離することができる。
即ち、長尺形状の気孔であるため、円形の気孔の場合に比べて、凝着膜に広く接触させることができ、凝着膜を効率的に剥離することができる。
【0025】
また、
図2に示すように、この気孔3の周縁部には,角部3cが形成される。特に、気孔3の摺動方向4の長軸側角部は、整流子5表面に形成された凝着膜6を剥離するエッジ3bとして機能する。
即ち、気孔3の摺動方向4の長軸側角部3c(エッジ3b)は、整流子5表面に生成する凝着膜6に接触し、前記エッジ3bによって、整流子5表面に形成された凝着膜6を剥離する。
【0026】
また、好ましくは前記金属黒鉛質ブラシの内部には、図示しないが、閉気孔が形成されている。この閉気孔は、摺動面上の気孔と同様に、長尺状に形成されていることが望ましい。
即ち、前記金属黒鉛質ブラシの摺動面上が摩耗した際、内部から長尺状の気孔が露出(発現)するように構成されている。
【0027】
したがって、前記金属黒鉛質ブラシの内部の閉気孔のアスペクト比も、2以上20以下であることが望ましく、より望ましくは、2.5以上17以下である。
また、金属黒鉛質ブラシの内部の閉気孔の長軸も、摺動方向に対し、45°以上135°以下の角度をもって形成されていることが望ましい。
このように、ブラシの内部から露出(発現)する気孔も、長尺形状の気孔であるため、円形の気孔の場合に比べて、凝着膜に広く接触させることができ、凝着膜を効率的に剥離することができる。
【0028】
前記金属黒鉛質ブラシに形成された気孔の開気孔率は、15%以上40%以下であることが望ましい。気孔の開気孔率が15%未満である場合、座乗性が悪くなり火花が起きやすくなる。また、40%超える場合、ブラシの機械的強度が悪化し、機械的摩耗が著しく悪化する。
尚、金属黒鉛質ブラシに形成された気孔の開気孔率とは、摺動面を含む金属黒鉛質ブラシ全体の開気孔率という。
また、摩耗によりブラシ内部の気孔が露出した場合であっても開気孔率は15%以上40%以下であることが好ましい。
【0029】
さらに前記金属黒鉛質ブラシに形成された開気孔の長軸方向長さL1は、20μm~300μm、気孔の短軸方向長さL2は、5μm~50μmであることが望ましい。これにより、効率的に凝着膜の剥離と形成のサイクルが成され安定した摺動摩耗の状態を維持することができる。
【0030】
更に、所定の長軸方向長さL1、短軸方向長さL2を有する気孔が、開気孔全体の5%以上80%以下であることが望ましい。
ここで、気孔の長軸方向長さL1が、20μm~300μm、気孔の短軸方向長さL2が、5μm~50μmである気孔が、開気孔全体の5%以上80%以下であることにより、効率的に凝着膜を剥離することができる。
【0031】
また、上記した気孔を有する金属黒鉛質ブラシの密度は、2.4g/cm3~2.6g/cm3であることが望ましい。
金属黒鉛質ブラシの密度が、2.4g/cm3~2.6g/cm3の範囲内であることにより、同じ銅含有量組成におけるブラシ密度が2.8~3.0g/cm3よりも低密度化している。即ち、開気孔率は大きくなり、材料に気孔が形成された結果、低密度化している。
【0032】
尚、前記金属黒鉛質ブラシの摺動面に形成される開気孔は、整流子表面に形成された凝着膜全体をより均一に剥離するように、少なくとも、上記した長尺形状の気孔(楕円形状または矩形形状の気孔を含む)を含む必要があるが、円形状(球状)の気孔を含んでいても良い。
また、金属黒鉛質ブラシの内部に形成される閉気孔は、摩耗によって、ブラシの内部からブラシの摺動面に露出する気孔であるため、ブラシの摺動面に形成される開気孔と同様に、少なくとも、上記した所定のアスペクト比を有する楕円形状、矩形形状の気孔を含む必要があるが、円形状(球状)の気孔を含んでいても良い。
【0033】
ところで、この金属黒鉛質ブラシに使用される金属粉末としては、例えば銅、銀、アルミニウム、錫、鉛、マンガン、鉄、ニッケルなどを用いることができるが、特に銅、銀が好ましい。前記銅、銀を用いた場合には、導電性にすぐれているという特質をいかすことができる。また、金属粉末として導電性に優れ、抵抗率や強度の調整が容易などの理由から電解銅粉末を用いても良い。
尚、前記電解銅粉末は、その粒径が40乃至50μm(または300メッシュパス)のものが用いられる。
【0034】
また、この金属黒鉛質ブラシに使用される黒鉛(黒鉛粉末)としては、例えば燐片状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛粉末、カーボンブラック、コークス粉末などの人造黒鉛を挙げることができるが、特に天然黒鉛粉末を使用することが好ましい。
天然黒鉛粉末を用いた場合には、人造黒鉛よりも潤滑性に優れているために、摺動特性を向上させることができ、金属黒鉛質ブラシとしての寿命を長くさせることに寄与できる。
【0035】
(金属黒鉛質ブラシの製造方法)
この金属黒鉛質ブラシを製造するには、
図3に示すように、黒鉛粉末はバインダーを添加し、混練し、乾燥し、粉砕し、造粒する(S1~S4)。
好ましくは、前記黒鉛粉末の粒径は、20μm乃至1000μmのもの(または15メッシュパス)が用いられ、より好ましくは、50μm乃至300μmのものが用いられる。
前記黒鉛粉末の粒径が上記範囲であることにより、安定したブラシ強度と抵抗率の物理特性を得ることができる。
【0036】
この黒鉛粉末の添加量は、20~80重量%である。黒鉛粉末の添加量が20~80重量%であることにより、黒鉛による良好な摺動状態とブラシ抵抗率のバランスを保つことができる。ここでの添加量は、ブラシの総重量に対しての重量%である。
【0037】
また、前記した黒鉛粉末に対して添加されるバインダーとしては、常温においては粉末状であり、加熱によって液状となる例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用するのが望ましい。このバインダーは、アルコールに溶解して黒鉛粉末に添加される。
また前記バインダーの添加量は成型後、熱処理により必要充分な結合強度を得られる量であればよい。好ましくは、バインダーの添加量は黒鉛粉末の重量に対して1~30重量%である。
そして、所定の黒鉛粉末にバインダー(フェノール樹脂)を添加し混練した(S2)。
【0038】
そして、混練物は乾燥した後(S3)、粉砕機により粉砕し、篩通しを行い、所望の造粒粉を得る(S4)。造粒粉の粒径は、20μm乃至1000μmのもの(または15メッシュパス)が好ましく、より好ましくは、50μm乃至300μmである。
更に、造粒粉に金属粉末を添加し、混合機により混合し混合粉を得る(S5)。
金属粉末の添加量は、造粒粉と金属粉末の総重量に対して20~80重量%であることが好ましい。
このとき、気孔を形成するためにPVA(ポリビニルアルコール)粉を添加する(S5)。
【0039】
好ましくは、PVA(ポリビニルアルコール)粉の添加量は、造粒粉と金属粉末の総重量に対して5~20重量%である。PVA(ポリビニルアルコール)粉の添加量が5重量%~20重量%であることにより、低密度化による座乗性向上と凝着膜を効率的に剥離することができる。
【0040】
尚、黒鉛粉末にバインダーを添加する際に、気孔を形成するためのPVA(ポリビニルアルコール)粉を添加しても良く(S1)、あるいはまた前記したように、金属粉末を添加する際に、PVA(ポリビニルアルコール)粉を添加しても良い(S5)。
【0041】
前記PVA粉は、溶融固化させたシート状のものを粉砕したものが用いられる。このように、シート状の粉砕粉を用いるのは、長尺形状の気孔を形成するためである。
また、PVA(ポリビニルアルコール)粉の他、PVB(ポリビニルブチラール)樹脂やアクリル樹脂等熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0042】
また、シート形状の粉砕物以外に、短繊維形状のものでも良い。この短繊維形状のものにあっては、混練物中に分散するものもあれば、凝集塊となるものもある。
しかし、ブラシ製造プロセスにおける成形はプレス成形を用いているため、混練物を一方向からの押圧することにより、凝集塊は潰れ、長尺形状になり、長尺状の気孔を得ることができる。
【0043】
シート状の粉砕粉は粉砕条件により幅広く任意の大きさを得ることができる。本発明においては、5μm~300μmの気孔を形成できる粉砕条件で良く、アスペクト比が2~20の気孔を形成できる形状寸法であれば良い。
【0044】
気孔を形成するためのPVA(ポリビニルアルコール)粉を形成するには、水に溶解させた液状のPVAを薄いシート状に乾燥成形する。
次に、前記シート状PVAを、粉砕・破砕し、粉体や薄片状にすることによって、所定寸法形状の粉体を製作する。
【0045】
そして、上記したように、黒鉛粉末にバインダーを添加、造粒し、所定の粒径を有する黒鉛造粒粉とし、PVA(ポリビニルアルコール)粉と金属粉末として電解銅粉を添加し(S5)、混合する(S6)。
尚、PVA(ポリビニルアルコール)粉と電解銅粉を添加する際、固体潤滑剤を添加しても良い。固体潤滑剤としては、高温時の潤滑性に優れているという理由により、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、窒化ホウ素(BN)のいずれか1つまたは複数が用いても良い。
【0046】
さらに混合粉を一軸プレスにより成形し、ブラシの成形体を作製した。例えば成型圧力は2乃至4トン/cm2で成型することが好ましい(S7)。熱処理温度(焼成温度)は400℃以上900℃以下で処理することが好ましい(S8)。そして、前記熱処理より、金属黒鉛ブラシが製造される(S9)。
このとき、添加したPVAは焼成時の熱処理により溶融し、その後分解、ガス化し飛散する。そして、焼成体には分解したPVAはなくなり、その跡は空隙となり気孔が形成される。
【実施例0047】
(実施例1)
天然黒鉛粉末90重量%に対して、液状フェノール樹脂10重量%を添加し、混練機にて混練した。混練物を粉砕し篩通しを行い、粒径が50乃至300μm(または50メッシュパス)の造粒粉を得た。天然黒鉛粉末は、粒径が、50μm乃至300μmのものを用いた。
そして、造粒粉55重量%に対して、電解銅粉末40重量%及びPVAシートの破砕粉5重量%を添加し、乾式にて混合し、混合粉を得た。
電解銅粉末は、粒径が40乃至50μm(または300メッシュパス)のものを用いた。PVAシートの破砕粉は、長軸方向長さが、10μm~500μm、短軸方向長さが、3μm~80μmのものを用いた。
【0048】
得られた混合粉を金型にセットし、2ton/cm2で一軸プレスにて加圧し所望のブラシ形状を得た。得られた成形体を800℃不活性雰囲気下で2時間焼成し、ブラシを得た。
天然黒鉛粉末、造粒粉および電解銅粉末の粒径は、レーザー回折・散乱法により測定した。
得られたブラシはJIS-R1634「ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法」により開気孔率の評価を行った結果、開気孔率は22%であった。
【0049】
その後、摺動面となる面の組織を光学顕微鏡により評価し、気孔形状を観察した。
この実施例1の摺動面の組織を
図4に示す。また
図4の気孔を抜き出し、模式的表した気孔を
図5に示す。
【0050】
更に、得られたブラシについて、摺動摩耗試験機にて摩耗量の評価を行った。
評価条件は10m/Sの周速、押し付け圧力200g/cm2、回転電機の材質(Cu-Ag合金)の条件下で金属黒鉛質ブラシを1000時間摺動させ、評価前後のブラシの消耗量を単位時間あたりに計算し比較した。その結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様にして得た造粒粉56.6重量%に対して、電解銅粉末40重量%及びPVAシートの破砕粉3.4重量%を添加し、乾式にて混合し、混合粉を得た。その後、実施例1と同様にして、ブラシ作製し、評価した。
その結果、得られたブラシの開気孔率は15%であった。
【0052】
(実施例3)
実施例1と同様にして得た造粒粉51重量%に対して、電解銅粉末40重量%及びPVAシートの破砕粉9重量%を添加し、乾式にて混合し、混合粉を得た。その後、実施例1と同様にして、ブラシを作製し、評価した。
その結果、得られたブラシの開気孔率は40%であった。
【0053】
(比較例1)
PVAシート破砕粉は添加することなく、他の条件は実施例1と同様にして、実施例1と同一形状のブラシを試作した。
そして、実施例1と同様に、開気孔率を測定した結果、開気孔率は13%であった。
また、実施例1と同様に、摺動面となる面の組織を光学顕微鏡により評価し、気孔形状を観察した。この比較例1の摺動面の組織を
図6に示す。また
図6の気孔を抜き出し、模式的表した気孔を
図7に示す。
【0054】
(比較例2)
実施例1と同様にして得た造粒粉49.8重量%に対して、電解銅粉末40重量%及びPVAシートの破砕粉10.2重量%を添加し、乾式にて混合し、混合粉を得た。その後、実施例1と同様にして、ブラシを作製し、評価した。
得られたブラシの開気孔率は45%であった。 更に、実施例1と同様に、比較例1、2についても、摺動摩耗試験機にて摩耗量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
PVAシート破砕粉を添加することで、開気孔率は大きくなり、ブラシに気孔が形成できていることが分かった。
【0057】
また、摺動面の組織観察の結果、
図4、
図5に示すように、実施例1には長尺形状の気孔が観察された。更に気孔の長軸3aが、整流子の回転方向と所定の角度をなすように、気孔が形成されていた。
一方、比較例1には、
図6、
図7に示すように、円形状の気孔が観察され、実施例1に見られるような、長尺形状の気孔は見られなかった。
【0058】
また、表1に示すように、試験結果より実施例1~3は摺動摩耗が安定し、摩耗量も少なくなっていることが分かる。
以上から長尺形状の気孔の導入により、長尺形状の気孔のエッジが凝着膜に接触し剥離作用が促され、従来よりも摩擦摩耗状態が安定し、更に長寿命になることが分かった。
【0059】
本発明の金属黒鉛質ブラシは、整流子用またはスリップリング用のいずれにも用いることができるが、特に、スリップリングと接触するスリップリング用の金属黒鉛質ブラシのとして用いるのが、より好ましい。