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特開2024-89667免疫能力と抗ウイルスの調節におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089667
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】免疫能力と抗ウイルスの調節におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/741 20150101AFI20240626BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A61K35/741
A61P37/04
A61P1/00
A61P31/12
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215595
(22)【出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】111149133
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】509013611
【氏名又は名称】生展生物科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】陳威仁
(72)【発明者】
【氏名】蔡侑倫
(72)【発明者】
【氏名】李爾博
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC61
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA73
4C087ZB02
4C087ZB03
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
【課題】
本発明は、プロバイオティクスの用途、特に免疫能力の調節におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途に関するものである。
【解決手段】
本発明は、免疫能力の調節におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途を開示し、それは、当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を用いて免疫能力を調節する有効成分として機能することを含み、当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の受託番号はBCRC911126及びDSM34255である;有効量のストレプトコッカス・サーモフィルスST7を一つの個体に投与することにより、細胞のIL-12p40の発現量を向上させ、且つ腸管菌相を調整し、腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を高めて免疫能力を向上させ、及び抗ウイルス能力を向上させる効果を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫能力を調節する医薬組成物の調製におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7(Streptococcus thermophilus ST7)の用途であって、それは、当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を用いて免疫能力を調節する有効成分として機能し、当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の受託番号がBCRC911126及びDSM34255である、用途。
【請求項2】
当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、不活化菌である、請求項1に記載の用途。
【請求項3】
当該医薬組成物は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7以外の他の菌種を含まない、請求項1に記載の用途。
【請求項4】
当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、細胞のIL-12p40の発現量を向上させるために用いることができ、且つIL-12p40の発現量は、400pg/mL~1000pg/mLである、請求項1に記載の用途。
【請求項5】
当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、腸管菌相を調整し、且つ腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を高めて免疫能力を向上させるために用いることができる、請求項1に記載の用途。
【請求項6】
当該ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、抗ウイルス能力を向上させるために用いることができる、請求項1に記載の用途。
【請求項7】
当該抗ウイルス能力は、ウイルスによる腸管損傷を緩和し、抗ウイルスの免疫力を向上させることである、請求項6に記載の用途。
【請求項8】
当該抗ウイルス能力は、ウイルス感染時にCD4のT細胞、CD8のT細胞の活性化を増加させることである、請求項6に記載の用途。
【請求項9】
当該抗ウイルス能力は、当該CD4のT細胞、CD8のT細胞を誘発してIFN-γを発現することである、請求項8に記載の用途。
【請求項10】
当該ストレプトコッカス・サーモフィラスST7の服用量は、1×10~1×1010CFU/日である、請求項1に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロバイオティクスの用途、特に免疫能力と抗ウイルスの調節におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、ヒトに対して脅威性を有する病原としては、例えばウイルス、細菌、寄生虫が挙げられ、その中で最も脅威と認められているのはウイルス、例えば2019コロナウイルス病(coronavirus disease 2019,Covid-19)の大流行であり、人間社会の行動パターンに衝撃を与える。
【0003】
人体の免疫力には異なる特化方向があり、例えばT細胞の免疫は、抗ウイルス傾向のTh1、抗真菌と寄生虫のTh2、自己免疫反応を阻害するTreg等に調整することができる。Th1免疫反応は、ウイルスによる症状の緩和に寄与し、罹患時間を短縮させ、Th1の代表的な抗ウイルス指標は、IFN-γ、IL-12であることが知られている。そのうち、微生物を食用することは免疫系を調節する能力がある可能性があり、促進のメカニズムは菌相を調節することによるか、微生物が免疫を調節する有効成分を有することが知られている。
【0004】
プロバイオティクス健康食品において、ほとんどのプロバイオティクスサプリメントは、生菌の形態で消費者に提供され、その主な原因は、(1)一般に、生菌のみが菌相を調節する能力を有すると考えられること、(2)プロバイオティクスは、免疫系を調節する有効成分として、生菌の代謝物である可能性があること、(3)不活化加工時に、免疫を調節する有効成分を活性を失わせる可能性があることであり;しかしながら、悩んでいるのは、プロバイオティクス生菌が常温貯蔵下で、生菌数が急速に衰退し、生菌から死菌に転換した後の機能が疑われる。
【0005】
腸細胞は、様々な形態でウイルスの存在を検出することができ、例えば、パターン認識受容体におけるToll様受容体(toll-like receptor,TLR)を用いてウイルスゲノムの二本鎖RNA(double-strandedRNA,dsRNA)又はウイルス複製過程におけるdsRNAを認識し、後続の免疫反応を引き起こす。ポリイノシン酸-ポリシチジル酸(Polyinosinic acid-polycytidylic acid、以下、poly I:Cと略称する)は、合成されたdsRNA類似体であり、TLR3は、poly I:CとdsRNAを認識でき、その後、NF-kBを活性化して炎症反応を発現する。poly I:Cで誘導された腸管障害動物モデルでは、腹膜内にpoly I:Cを投与すると、腸管免疫反応が誘発され、TLR3依存の方式で腸管内に深刻な粘膜傷害を引き起こす。
【0006】
しかしながら、免疫能力を調節するためのプロバイオティクスの従来技術において、同時に細胞のIL-12p40の発現量を大幅に向上させ、且つ腸管菌相を調整し、腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率(Firmicutes/Bacteroidetes ratio,F/B ratio)を高めて免疫能力を向上させ、抗ウイルス能力の効果を向上させることができるプロバイオティクスが乏しい;なお、免疫能力を調節するためのプロバイオティクスの従来技術において、複数種の生菌プロバイオティクス由来の複合菌株であることが多く、現在、単一の菌株のプロバイオティクスが不活化状態で免疫能力(抗ウイルス能力)の向上及び腸管菌相の調整に用いられていることが見られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これを踏まえ、本発明者らは、従来技術の不足と欠陥を深く理解し、革新的に改良し、永年にわたる研究の結果、細胞のIL-12p40の発現量を大幅に向上させることができるとともに、腸管菌相を調整し、腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を高めて免疫能力を向上させ、抗ウイルス能力の効果を向上させるできるプロバイオティクスを成功に分離し、プロバイオティクスによる免疫能力の調節のために新規かつ低コストの保健ポリシーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、免疫能力を調節する医薬組成物の調製におけるストレプトコッカス・サーモフィルスST7(Streptococcus thermophilus ST7)の用途を提供することにあり、それは、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を用いて免疫能力を調節する有効成分として機能することを含み、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の受託番号はBCRC911126及びDSM34255である。
【0009】
本発明の一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、不活化菌である。
【0010】
本発明の一実施例では、医薬組成物は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7以外の他の菌種を含まない。
【0011】
本発明の一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、細胞のIL-12p40の発現量を向上させるために用いることができ、且つIL-12p40の発現量は、400pg/mL~1000pg/mLである。
【0012】
本発明の一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、腸管菌相を調整し、且つ腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を高めて免疫能力を向上させるために用いることができる。
【0013】
本発明の一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、抗ウイルス能力を向上させるために用いることができる。
【0014】
本発明の一実施例では、抗ウイルス能力は、ウイルスによる腸管損傷を緩和し、抗ウイルスの免疫力を向上させることである。
【0015】
本発明の一実施例では、抗ウイルス能力は、ウイルス感染時にCD4のT細胞、CD8のT細胞の活性化を増加させることである。
【0016】
本発明の一実施例では、抗ウイルス能力は、CD4のT細胞、CD8のT細胞を誘発してIFN-γを発現することである。
【0017】
本発明の一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィラスST7の服用量は、1×10~1×1010CFU/日である。
【発明の効果】
【0018】
以上総合すると、本発明に用いられるストレプトコッカス・サーモフィルスST7(Streptococcus thermophilus ST7)生菌は、同種の菌株に比べてより多くの抗ウイルス指標IL-12p40を誘発することができ、特に熱不活化後に効果がより顕著になる。驚くべきことに、マウスウイルスdsRNA模倣物poly I:Cを腹腔内注射してウイルス感染をシミュレーションする実験において、ストレプトコッカス・サーモフィラスST7の不活化菌は、抗ウイルス指標IFN-γ及びT細胞抗ウイルス能力を向上させるほか、腸管損傷を緩和し、腸管菌相を変化させ、驚くべき抗ウイルスポテンシャルも示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】異なる菌株のストレプトコッカス・サーモフィラスで誘発される細胞が抗ウイルスを発現する指標IL-12p40含有量比較の棒グラフである。
図2】本発明の動物実験デザイン図である。
図3】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の体重変化への影響のスキャッタグラムである。
図4】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の小腸病理への影響の病理組織図及びスキャッタグラムである。
図5】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の血中のIFN-γ含有量への影響のスキャッタグラムである。
図6】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の腸内細菌相への影響の統計グラフであり、図中、図AはAlpha多様性を示し、図B及び図Cは群別のBeta多様性を示す。
図7】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の腸内細菌への影響において、存在率が有意に異なる微生物分類群を示す図である。
図8】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の腸内細菌への影響において、フィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を示す図である。
図9】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7が脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞の活性化に影響することを示す図である。
図10】動物実験のストレプトコッカス・サーモフィルスST7が脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞内にIFN-γを発現することに影響することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[用語定義]
【0021】
本明細書において、バイオ技術分野で従来用いられている多くの技術的及び科学的な用語が広く用いられており、以下の説明においては、本明細書と特許請求の範囲及びそれらの用語の範疇において明らかに一致するものとして、以下のとおり定義する。以下において特に定義される他の用語については、当業者であれば共通に理解できる意味である。
【0022】
本発明で使用される材料は、特に断りのない限り、いずれも入手が容易である市販の材料である。本発明の実施例で使用されるストレプトコッカス・サーモフィルスST7(Streptococcus thermophilus ST7)は、台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託され、受託番号がBCRC 911126であり;及びドイツ国家菌種保存センター(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures,DSMZ)に寄託され、受託番号がDSM34255であるものである。
【0023】
本明細書で使用される「又は」、「及び」、「と」は、特に断りのない限り、「又は/及び」を意味する。また、用語「包含する」、「含む」は、いずれも制限されていない開放式接続詞である。前述の段落は、全体的な言及のみであり、本発明の主体に対する制限と解釈すべきではない。
【0024】
本明細書において「%」とは、特に断らない限り「重量百分率(wt%)」を意味する;数値範囲(例えば10%~11%のA)は、特に断らない限り上、下限値(即ち10%≦A≦11%)を含む;数値範囲の下限値(例えば0.2%より低いB、又は0.2%以下のB)について特に制限されない場合、いずれもその下限値が0である可能性がある(即ち0%≦B≦0.2%);各成分の「重量百分率」の比例関係は、「重量部」の比例関係に置き換えてもよい。
【0025】
本明細書で開示される全ての数値は、±10%の標準技術測定誤差(標準偏差)を有する可能である。「約」という用語は、ある所定値に対して±10%、±5%、±2.5%、又は±1%を意味し、つまり、「約20%」は、20±2%、20±1%、20±0.5%、又は20±0.25%を意味する。
【0026】
本明細書で使用される「免疫能力を調節する」とは、専門的又は非排他的に免疫反応を増加又は減少することを指し、アレルギー反応又は自己免疫反応を阻害することができるが、同時に外部からの侵入物又は癌細胞に対する抵抗作用を保留するか、ひいては向上することを意味する。
【0027】
本明細書で使用される「医薬組成物」とは、固体又は液体組成物を指し、その形態、濃度及び純度の程度が患者に投与するのに適しており、投与した後、所望の生理学的な変化を誘発することができる。医薬組成物は、無菌及び/又は非発熱性(non-pyrogenic)のものである。
【0028】
本明細書で使用される「個体」とは、霊長類、げっ歯類、ペット、ラボ試験動物、飼養野生動物を含む、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の組成物を必要とするか、又は潜在的に必要とされる任意の哺乳動物を指す。例えば、サル、ヒト、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ科動物、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ(felines)、イヌ(canines)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、個体は、マウス又はヒトである。
【0029】
本明細書で使用される「有効量」、「投与量」及びその類似用語は、本明細書において疾患、障害、又は副作用を治療、治癒、予防又は改善するために用いられ、又は疾患や障害の進行速度を低下させる方向に作用する薬剤の量である。当該用語は、その範囲内に正常生理機能を効果的に強化する量も含む。
【0030】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」とは、物質又は組成物がその薬学的に許容される配合物の他の成分と相溶性があり、かつ患者の症状を進行させないことを意味する。
【0031】
本発明に係る医薬組成物は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者で周知の技術を用いて、本発明に係る有効成分又は組成物と、少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアー(vehicle)とを本発明の組成物に適用する剤形に調製することができる。当該剤型は、溶液、懸濁液、粉末、錠剤、経口錠、錠剤、チューインガム、カプセル、及びその他の類似又は本発明に適用する経口剤型が含まれるが、それに限るものではない。
【0032】
本明細書で使用される「薬学的に許容されるキャリアー」は、溶媒、乳化剤、懸濁剤、分解剤、結合剤、賦形剤、安定剤、キレート剤、希釈剤、ゲル化剤、防腐剤、潤滑剤、界面活性剤、及び他の類似又は本発明に適用する経口キャリアーから選択される組成タイプの一種又は複数種を含む。
【0033】
前記組成物には、必要に応じて、一種以上の製剤分野で通常使用される溶解補助剤、緩衝剤、着色剤、調味剤等を適宜添加してもよい。
【0034】
本明細書で使用される「薬学的に許容される賦形剤」は、ポリマー、樹脂、可塑剤、充填材、潤滑剤、希釈剤、接着剤、崩壊剤、溶媒、共溶媒、界面活性剤、防腐剤、甘味剤、調味剤、薬学的に許容される染料又は顔料、及び粘度剤の少なくとも1つを含むが、それに限るものではない。
【0035】
[ストレプトコッカス・サーモフィルスST7]
【0036】
本発明で使用されるストレプトコッカス・サーモフィルスST7(Streptococcus thermophilus ST7)は、2022年4月25日に台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託され、受託番号がBCRC 911126であり;及びドイツ国家菌種保存センター(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures,DSMZ)に寄託され、受託番号がDSM34255であるものである。
【0037】
一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、その発酵生成物であってもよく、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7代謝物であってもよい;一実施例では、ストレプトコッカス・サーモフィラスST7は、生菌体又は不活化菌であってもよいが、免疫力を向上させる観点から、ストレプトコッカス・サーモフィラスST7が不活化菌であることが好ましく、本発明で使用されるストレプトコッカス・サーモフィルス(Heat-killed)を熱殺菌することがより好ましい。
【0038】
本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を、免疫能力を調節する有効成分として機能するが、そのうちの有効成分の種類が制限されず、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、一種又は複数種の他のプロバイオティクスの菌種又は菌株と組み合わせてプロバイオティクス組成物を形成してもよく、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7のみを有効成分としてもよい。一実施例では、生産コストの観点から、免疫能力を調節する有効成分は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7のみを含むことが好ましく、つまり、免疫能力を調節する医薬組成物の調製における本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途において、その医薬組成物は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7以外の他の菌株又は菌種を含まないことが好ましい。
【0039】
[免疫力の向上方法]
【0040】
本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の免疫力向上のための方法をさらに開示し、当該方式は、受託番号がBCRC911126及びDSM34255であるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の有効量を必要な個体に投与することである。
【0041】
本発明の免疫力向上の方法は、個体(例えばヒト個体)にストレプトコッカス・サーモフィルスST7を投与して免疫能力を調節することに関する。本発明に係る免疫力向上方法は、個体に細胞のIL-12p40の発現量を向上させること、腸内細菌相を調整する(腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を向上させる)こと、抗ウイルス能力を向上させる(ウイルスによる腸管損傷を緩和し、CD4のT細胞、CD8のT細胞の活性化を増加させ、当該CD4のT細胞、CD8のT細胞を誘発してIFN-γを発現させる)ことにも適用できる。
【0042】
一実施例では、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7が細胞を誘発して抗ウイルスを発現する指標IL-12p40の発現量は、約400pg/mL~1000pg/mLであり、例えば約450pg/mL、500pg/mL、550pg/mL、600pg/mL、650pg/mL、700pg/mL、750pg/mL、800pg/mL、850pg/mL、900pg/mL、950pg/mL、及び前記任意の2つの数値の間の範囲である。IL-12p40に対する本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の誘発効果は、他のストレプトコッカス・サーモフィラス菌株よりも優れている。
【0043】
[ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の投与]
【0044】
本発明に係る医薬組成物の適切な投与経路は、経口、静脈、直腸、エアゾール、腸管、眼、肺、粘膜貫通、皮膚透過、膣、耳、鼻又は局所投与が含まれるが、それに限るものではない。また、腸管投与の例は、筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、及び髄鞘内、心室内、腹腔内、リンパ内又は鼻腔内注射を含むが、それに限るものではない。本発明に提供される医薬組成物の使用剤型は、必要に応じて適宜調整されることができ、特に限定されないが、好ましくは経口剤型である。
【0045】
[ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の投与量]
【0046】
本発明の免疫力向上方法では、有効量のストレプトコッカス・サーモフィルスST7を必要な個体に投与する。詳しくは、投与目的、需要個体の健康及び体調、年齢、需要個体の分類群(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、霊長類等)、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の剤型、治療臨床医師による医学的状況の評価及びその他の関連因子に応じて変化する。この量は、比較的広い範囲であると予想され、これは通常の試験によって測定することができる。
【0047】
一実施例では、必要に応じて、異なるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の服用量を採用してもよく、通常、約1×10~1×1010CFU/日であり、例えば、約5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10CFU/日、及び前記任意の2つの数値の間の範囲であってもよい。
【0048】
一実施例では、必要に応じて、異なるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の服用周期を採用してもよく、通常、約2日~4か月又はそれ以上であり、例えば、約2、4、6、8、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60日であってもよい;また例えば、約1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間又はそれ以上であってもよい。
【0049】
一実施例では、必要に応じて、異なるストレプトコッカス・サーモフィルスST7の服用頻度を採用してもよく、例えば、約1日に1~3回、2日に1~6回、3日に1~9回、1週間に1~14回、1月に1~60回投与することができる。
【0050】
本発明に係る医薬組成物は、可食性材料をさらに添加して、食品製品又は健康食品として調製することができる。ここで、当該可食性材料は、水(Water)、流体乳(Fluid milk products)、ミルク(Milk)、濃縮牛乳(Concentrated milk)、ヨーグルト(Yogurt)、サワーミルク(Sour milk)、フローズンヨーグルト(Frozen yogurt)、ラクトバチルス発酵飲料(Lactic acid bacteria-fermented beverages)、粉ミルク(Milk powder)、アイスクリーム(Ice cream)、チーズ(Cream cheeses)、カッテージチーズ(Dry cheeses)、豆乳(Soybean milk)、発酵豆乳(Fermented soybean milk)、野菜果汁(Vegetable-fruit juices)、果汁(Juices)、スポーツ飲料(Sports drinks)、デザート(Confectionery)、ゼリー(Jellys)、キャンディ(Candies)、乳児用食品(Infant formulas)、健康食品(Health foods)、動物飼料(Animal feeds)、漢方生薬(Chinese herbals)又はサプリメント(Dietary supplements)を含むが、それに限るものではない。
【0051】
以下、いくつかの実施例と比較例を挙げて、免疫能力の調節における本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の用途を説明するが、本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更と修飾を行うことができる。
【0052】
以下の各実施例のデータは、Prism software (GraphPad,USA)を用いてMann-Whitney t tests及びone-way ANOVAを解析したものであり、結果の誤差線は、標準偏差(the standard error of the mean,SEM)とした。菌相濃化分析にはLDA(Linear discriminant analysis)、LEfSe(Linear discriminant Analysis Effect Size)法を用い、Kruskal-Wallis とWilcoxonで比較データを検定する。P≦0.05かつ対数LDAスコア≧2の場合には、顕著であると判定される。
【0053】
[実施例1:生体材料の用意]
【0054】
ストレプトコッカス・サーモフィラスST7は、一般的な生育培地、例えば約1~2%グルコース、約1~2%ペプトン、約0.01~0.08%硫酸マグネシウムなどを含有する培地に培養することができる。以下の実施例で使用される他のストレプトコッカス・サーモフィルス株は、いずれも本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に入手できるものであるため、寄託する必要がない。
【0055】
[実施例2:ストレプトコッカス・サーモフィラスST7は、細胞が抗ウイルスを発現する指標IL-12p40の含有量を大幅に誘発する]
【0056】
本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7が他のストレプトコッカス・サーモフィルス株と比較して、より優れた免疫調節効果を有すること、及びストレプトコッカス・サーモフィルスの各菌株の生菌体又は不活化菌がその免疫調節に影響を及ぼすか否かの効果を説明するために、本実施例において、ストレプトコッカス・サーモフィルスSTI-001、STI-002、STI-003、Ta39、BCRC14086、BCRC13689、ST7などの異なる菌株を選択し、上記各菌株を生菌体群と不活化菌群に分けて試験を行い、具体的な実験方法は、以下の通りである;
【0057】
約50%の脳心浸出培養液(Brain Heart Infusion broth,BHI broth)を約50%MRS(DeMan-Rogosa-Sharpe)培養液と混和した後、この培養液を用いて約37℃で上記ストレプトコッカス・サーモフィルスの各菌株を培養し、静止期(stationary phase)の前期にサンプルを採取し、遠心して約0.9%NaCl溶液で洗浄し、そして約0.9%NaCl溶液に再懸濁させ、生菌体とした;生菌体を約70℃で約30分間加熱して不活化菌(熱不活性化菌)とした。
【0058】
生物資源保存及び研究センターから購入したマウスマクロファージJ774A.1細胞株(BCRC 60140)を用いて、ウシ胎児血清(fetal bovine serum)を約10%含むDMEM (Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地で、約37℃ 5%COで培養を行った。約4×10/100μLのJ774A.1細胞を96ウェルプレートに添加して培養し、さらに約2×10/50μLのストレプトコッカス・サーモフィルスの各菌株を加え、コントロール群は、いずれのストレプトコッカス・サーモフィラスも添加せずにJ774A.1細胞を単独で添加した。ストレプトコッカス・サーモフィルスを加えて約24時間後、培養上清を回収し、酵素結合免疫吸着法(enzyme linked immunosorbent assay,ELISA)キットを用いてIL-12p40の含有量を測定した。
【0059】
図1を参照して、図1は、異なる菌株のストレプトコッカス・サーモフィラスで誘発される細胞が抗ウイルスを発現する指標IL-12p40の含有量を示し、図から分かるように、一般的なストレプトコッカス・サーモフィルスSTI-001、STI-002、STI-003、BCRC14086、Ta39、又はBCRC13689などの菌株と比較して、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、細胞が抗ウイルスを発現する指標IL-12p40の含有量を大幅に誘発することができ、これにより、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、他のストレプトコッカス・サーモフィルスに比べて、より優れた免疫能力を調節する効果を有することが示される。
【0060】
そして、図1から分かるように、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、他の菌株の添加が不要となり、顕著な免疫能力を調節する効果を有し、即ち、本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7以外の他の菌株又は菌種を含む必要がなく、プロバイオティクスの免疫能力の調節のために新規かつ低コストの保健ポリシーを提供する。
【0061】
また、図1から分かるように、一般的なストレプトコッカス・サーモフィルスSTI-001、STI-002、STI-003、BCRC14086、Ta39、又はBCRC13689などの菌株において、不活化菌と比較して、その生菌体がマクロファージJ774A.1を誘発して抗ウイルスを発現する指標IL-12p40の含有量が高める傾向にある;一方、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7において、逆に不活性菌がマクロファージJ774A.1を誘発して抗ウイルスを発現する指標IL-12p40の含有量が顕著に高いことを示し、これにより、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7と一般的なストレプトコッカス・サーモフィラス菌株とが免疫調節において非常に異なる特性を有することが示され、且つ本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の不活化菌が比較的良い免疫能力を調節する効果を有するため、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の不活化菌で以下の試験を行う。
【0062】
本発明の実施例で使用されるストレプトコッカス・サーモフィルスST7以外のストレプトコッカス・サーモフィルス菌株は、比較例として、これらの菌株(STI-001、STI-002、STI-003、BCRC14086、Ta39、BCRC13689)が本発明を実現できるか否か根拠として評価すべきものではなく、必要に応じて、これらの菌株に代えて、市販又は他の任意の方法で取得したストレプトコッカス・サーモフィルス菌株を使用してもよい。比較例としては、これらの菌株(STI-001、STI-002、STI-003、BCRC14086、Ta39、BCRC13689)に代えて、市販又は他の任意の方法で取得したストレプトコッカス・サーモフィルス菌株を使用することは、本発明の実施に影響しない。
【0063】
[実施例3:動物実験デザイン]
【0064】
まず、年齢約8週間のC57BL/6JNar1雄性マウス(国家動物センターから購入)を用意し、無特定病原(specific-pathogen-free)の環境にて飼育し、マウスを7日間自由に平衡食(Conventional Balanced diet)摂食させる;次に、図2を参照して、図2は、本発明の動物実験のデザイン図であり、図に示すように、7日間自由に平衡食摂食させた後の日を0日目とし、次いでマウスをコントロール群、poly I:C群、poly I:C+ST7群などの3群に分け、3組のマウスは、いずれも自由に平衡食摂食させる。
【0065】
図2を参照して、コントロール群において、0日目から7日目までの間に管で純水を投与し、8日目に約100μg/gのリン酸緩衝液(phosphate buffered saline,PBS)を腹腔内注射し、2時間後、採血し、生化学分析を行い、poly I:C群において、0日目から7日目までの間に管で純水を投与し、8日目に約100μg/gのpoly I:Cを腹腔内注射し、2時間後、採血し、生化学分析を行う;poly I:C+ST7群において、0日目から7日目までの間に管で107 Cells/mouse/dayのストレプトコッカス・サーモフィルスST7の不活化菌を投与し、8日目に約100μg/gのpoly I:Cを腹腔内注射し、2時間後、採血し、生化学分析を行い、3つの群に対して、いずれも9日目に体重を秤量し、腸管組織(例えば小腸と盲腸における糞便)を収集して-80℃に保管し、菌相分析に供する;血清を-80℃に保管し、市販のELISAキットで血清IFN-γの含有量を分析する。
【0066】
[実施例4:ストレプトコッカス・サーモフィルスST7でpoly I:Cを軽減することによる体重の減少]
【0067】
図3を参照して、図3は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7がマウスの体重に影響を及ぼすことを示し、コントロール群のマウスの体重減少率にくらべて、n=5,p<0.05形式で表される;図に示すように、poly I:Cは、ウイルス感染をシミュレートするために用いられ、poly I:Cのウイルス感染群は、マウスに体重減少(約5%)を生じさせる;一方、poly I:C+ST7の投与群がウイルスによる体重減少(約2%)を著しく軽減したため、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、ウイルスによる体重減少を軽減し、ウイルスの症状を改善する効果を有する。
【0068】
[実施例5:ストレプトコッカス・サーモフィルスST7でpoly I:Cによる小腸損傷を緩和する]
【0069】
小腸組織の病理評価の方法は、以下の通りである:小腸を切除してPBSで洗浄し、さらにホルマリン溶液に浸漬して固定し、脱水包埋して切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin and eosin stain,H&E stain)で染色し、病理スコア及び絨毛丈は下記の技術文献を参照するとよい。
Int J Clin Exp Pathol 2014,7,4557-4576.
PLoS One 2014,9,e110549,doi:10.1371/journal.pone.0110549.
【0070】
図4を参照して、図4は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7が小腸の病理に影響を及ぼすことを示し、図4における上図は、小腸の切片後のヘマトキシリン・エオジンで染色した後の病理写真であり、左下図は、小腸組織病理スコアであり、右下図は、小腸絨毛丈であり、n=5,p<0.05,**p<0.01である;図に示すように、poly I:Cのウイルス感染群は、マウスの小腸組織の炎症、絨毛短縮を誘発し、一方、poly I:C+ST7の投与群は、ウイルスによる小腸炎症、絨毛短縮を著しく減少させるため、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、ウイルスがTLR3を透過することによる腸管の損傷を緩和し、ウイルスの症状を改善する効果を有する。
【0071】
[実施例6:ストレプトコッカス・サーモフィルスST7でpoly I:CでIFN-γ発現量を有意に増加させる]
【0072】
IFN-γ発現量の分析方法は、以下の通りである:細胞を、ホルボールエステル(phorbol myristate acetate)100ng/mL、イオノフォアA23187 (ionophore A23187)1μg/mL、10%体積パーセントのウシ胎児血清(fetal bovine serum,FBS)を含むRPMI培地にて3時間培養し、さらにブレフェルジンA(brefeldin A)5μg/mLを加えて2時間培養し、細胞をT細胞に関連する表面マーカーで染色し、IFN-g-APC (XMG1.2)又はアイソタイプコントロール(isotype control)を細胞内に染着し、次いでフローサイトメータで分析する。
【0073】
図5を参照すると、図5は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7が血中のIFN-γ含有量に影響を及ぼすことを示し、***p<0.001である;図に示すように、poly I:Cのウイルス感染群は、マウスを刺激して血清IFN-γを産生させる;一方、poly I:C+ST7の投与群は、ウイルスによる血清IFN-γの含有量を著しく増加させるため、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7を服用することで、抗ウイルスの免疫力を向上させることができる。
【0074】
[実施例7:ストレプトコッカス・サーモフィルスST7でpoly I:C刺激後の腸内細菌相を調節する]
【0075】
ストレプトコッカス・サーモフィルスST7がマウスの腸管菌相に影響を及ぼすことを説明するために、本試験は、各群のマウス糞便の微生物群のAlpha多様性を検知し、その方法は、市販のQIAamp Fast DNA Stool Mini Kit (QiaGen,Germany)を用いてマウス糞便のDNAを抽出し、さらにIllumina Miseq system汎用のプライマーを用いて341F及び805Rに対して細菌16S rRNAのV3-V4 regionを増幅させた。cutadapt(v1.12)を用いて余分な序数を削除した。フィルタリング後のシーケンスは、R (v3.6.1)ソフトウェアにおけるDADA2パケット(v1.14.1)を用いて処理された。サンプルにおけるV3-V4配列変異は、DADA2 パケットを用いて推定され、各サンプルにおけるそれぞれのシーケンスの周波数を取得した。菌種分類は、SILVAデータベース(v138)を用いて行った。シーケンスアライメントと系統解析作成は、DECIPHER(v2.14.0)とphangorn(v2.14.0)ソフトウェアを用いて行い、及びphyloseq(v1.30.0)ソフトウェアを用いてコロニー解析を行った。Alpha多様性指数を算出して菌種の豊富さを推定した。Wilcoxon-Mann-Whitney検定(α=0.05)を用いて統計解析を行った。より詳細な試験方法は、下記の技術文献Brain SCi 2021,11,doi:10.3390/Brainsci11081085.を参照するとよい。
【0076】
図6を参照すると、図6は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7がマウスの腸管菌相に影響を及ぼすことを示し、サンプルは、各群のマウスの糞便から採取して糞便の微生物群の分布を検知し、図6のA図から分かるように、各群の微生物群のAlpha多様性は、いずれも類似しているが、図6のB図から分かるように、コントロール群のマウスに比べて、poly I:Cのウイルス感染群処理は、微生物群の分布を顕著に変化させ、そのBetaの多様性に影響を及ぼし、図6のC図から分かるように、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7のpoly I:C+ST7を給餌した投与群は、微生物群の分布を再変化させることができる。
【0077】
以下、図6のB図をより具体的に説明すると、それは、コントロール群、poly I:Cのウイルス感染群とpoly I:C+ST7の投与群のマウスの主成分分析図である。ここで、Beta多様性の有意差分析は、多変量分散分析(permutational multivariate analysis of variance;vegan::adonis,1000 permutations)を用いて、Betadisper(vegan::Betadisper,1000 permutations)を用いて定量化した。AdonisとBetadisper指数は、それぞれP value<0.05とP value>0.05を生成する。
【0078】
図7を参照すると、図7は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の腸管菌相の微生物分類群に対する影響を示し、それはLEfSe分析を用い、顕著な分類群差異をLDAスコア(log10)≧2,p<0.05と定義する;図7から分かるように、コントロール群には、アクチノバクテリア門(Actinobacteriota)、バクテロイデス門(Bacteroidota)、カンピロバクター門(Campilobacterota)及び細菌門-バチルス属のPatescibacteriaが多く存在する。コントロール群と比較して、poly I:C群は、プロテオバクテリア門(Proteobacteria、ガンマプロテオバクテリア綱(Gammaproteobacteria綱、アリスティペス属(Alistipes)が多く存在する。poly I:C群に比べて、ST7+poly I:C群は、フィルミクテス門(Firmicutes)、クロストリジウム綱(Clostridia)、Lachnospirales科が多く存在する。
【0079】
図8を参照すると、図8は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の腸管菌相のフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を示し、フィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率は、近年の微生物体の研究において、特定の疾患リスクを評価するための因子の1つであり、腸炎疾患において、通常、フィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率の比率低下を観察することができ、図8から分かるように、poly I:Cのウイルス感染群において、フィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率が低くなるが、poly I:C+ST7の投与群において、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7の投与によって、フィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を著しく増加させ、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、腸管菌相を変化させ、腸炎疾患を緩和することができることが示される。
【0080】
以上より、腸内細菌叢の乱れが常に炎症及び感染と同時に出現するため、一般的に、プロバイオティクスの生菌は、腸内菌相を調節し、腸炎症を改善する潜在力を有すると考えられるが、本試験の結果から、驚くべきことに熱不活化したストレプトコッカス・サーモフィルスST7が、poly I:Cが腸炎を誘導した後に腸管菌相を調節することができることを見出し、即ち、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の不活化菌は、ウイルスで誘導される腸管損傷マウスの菌相脱調を改善することができる。
【0081】
[実施例8:ストレプトコッカス・サーモフィラスST7は、ウイルス感染時にCD4のT細胞、CD8のT細胞の活性化を増加させる]
【0082】
本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の免疫細胞への影響を説明するために、本試験は、フローサイトメトリーを用いて実験を行い、細胞表面分子を特定抗体で染色した後、フローサイトメーターで分析した。BioLegend蛍光染料に結合された下記抗体:CD3-FITC(2C11)、CD8α-APC-Cy7(53-6.7)、CD19-PB(6D5)、CD4-PE-Cy7(GK1.5)、又はCD69-PE(H1.2F3)を用い、上記試験によりpoly I:C刺激後のCD69発現を検出して、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7がT細胞活性化を調節できるか否かを調べた。
【0083】
図9を参照すると、図9は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7が脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞の活性化に影響を及ぼすことを示し、n=5,p<0.05であり、図に示すように、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を単独で給餌したことは、脾臓のCD69+CD8T細胞及びCD69CD4T細胞の計数に影響しないが、poly I:C+ST7の投与群において、CD69CD8T細胞及びCD69CD4T細胞の計数上昇が観察され、poly I:C刺激がある場合、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞の活性化を促進し、これにより免疫能力、及び抗ウイルス能力の効果を向上させることを示している。
【0084】
[実施例9:ストレプトコッカス・サーモフィルスST7がCD4のT細胞、CD8のT細胞を誘発してIFN-γを発現する]
【0085】
IFN-γは、重要な抗ウイルス細胞ホルモンであり、IFN-γ発現に対する本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7の影響を説明するために、各群のマウスにpoly I:C又はPBSを注射してから2時間、その脾臓CD4T細胞とCD8Tの細胞内のIFN-γ発現量を測定する。
【0086】
図10を参照すると、図10は、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7が脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞内でIFN-γを発現することに影響を及ぼすことを示し、n=5,p<0.05であり、図に示すように、poly I:C2時間刺激した後、脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞内のIFN-γ発現量は変わらないが、驚くべきことは、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を単に服用するだけで脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞内のIFN-γ発現量を顕著に増加させ、且つpoly I:C存在下で効果がより強くなり、poly I:C刺激の有無に関わらず、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7はpoly I:C刺激後の脾臓CD8T細胞及びCD4T細胞内でIFN-γを発現することを促進し、これにより免疫能力を向上させ、抗ウイルス能力の効果を向上させることができる。
【0087】
以上より、ストレプトコッカス・サーモフィルスST7を食用することは、CD4T細胞とCD8T細胞の抗ウイルス能力を誘導することができ、そしてpoly I:Cと同時に刺激する場合、CD4T細胞とCD8T細胞の活性化を増加させることができ、良好な予防、ウイルス感染と関連症状を緩和する能力が示される。
【0088】
本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスST7は、以下の特徴を有する。
(1)IL-12p40に対するストレプトコッカス・サーモフィルスST7の誘発効果は、他のストレプトコッカス・サーモフィラス菌株よりも優れている。
(2)不活化した後ストレプトコッカス・サーモフィラスST7は、逆に効果が増強され、他のストレプトコッカス・サーモフィルスとは明らかに異なる。
(3)ストレプトコッカス・サーモフィルスST7(特に不活性菌)を食用することは、菌相を調節する能力を持ち、腸管におけるフィルミクテス門とバクテロイデス門の存在比率を高めることができる。
(4)ストレプトコッカス・サーモフィルスST7(特に不活化菌)を食用することは、抗ウイルス能力を向上させ、血清IFN-γ発現量を向上させ、且つCD4T細胞、CD8T細胞を誘発することによりIFN-γを発現させ、及びウイルス感染時にCD4T細胞、CD8T細胞の活性化を向上させることにより、T細胞の抗ウイルス機能を促進させることができる。
【0089】
上記の詳細な説明が、本発明の実現可能な実施例についての具体的な説明であるが、この実施例は、本発明の特許請求の範囲を制限するものではなく、本発明の精神から逸脱することのない等価実施又は変更は、いずれも本願の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【0090】
上記の多くの効果は、実際に新規性及び進歩性の法定特許要件に十分に適合しており、法に基づいて本願を出願し、貴局に本件発明特許出願案を承認し、発明を促すことをお願いする。
図1
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図10