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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089675
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】高純度間葉系幹細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240626BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12Q1/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050204
(22)【出願日】2024-03-26
(62)【分割の表示】P 2021570631の分割
【原出願日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/002197
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516385996
【氏名又は名称】PuREC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】松崎 有未
(72)【発明者】
【氏名】陶山 隆史
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QX01
4B065AA93X
4B065AC12
4B065AC14
4B065BA21
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】均一性を有し増殖の早いヒト間葉系幹細胞の高純度細胞集団を提供する。また、高純度で均一性の高いRECの選別方法、及び細胞性能を担保する指標を提供する。
【解決手段】LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす、前記細胞集団。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNGFR(CD271)が陽性、又は LNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす、前記細胞集団。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
【請求項2】
変動係数が30%以下である、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
平均細胞サイズが14μm~18μmである、請求項1又は2に記載の細胞集団。
【請求項4】
LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団の品質を評価する方法であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす細胞集団を、高品質であると判定する、前記方法。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
【請求項5】
変動係数が30%以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
平均細胞サイズが14μm~18μmである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団から、臨床に適用可能な細胞集団を選抜する方法であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす細胞集団を、治療用間葉系幹細胞集団として選抜する、前記方法。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
【請求項8】
変動係数が30%以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
平均細胞サイズが14μm~18μmである、請求項7又は8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一性を有し増殖の早いヒト間葉系幹細胞の高純度細胞集団に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞 (Mesenchymal Stem Cells:MSC)は、細胞採取に伴う倫理的問題が少なく、骨・軟骨・脂肪などへの多様な分化能を持つことから、造血幹細胞に次いで臨床応用が盛んに行われている体性幹細胞の一つである。MSCは、比較的簡単な手技により分離できることから、主に試験管内で軟骨や骨などへ分化誘導後に局所へ移植するなど、バイオマテリアルの材料として広く用いられている。
そして、臨床応用を進める際には、一定の機能を維持する細胞を必要量製造できることが、製品化の必須条件となる。
【0003】
しかしながら、出発材料(ヒト骨髄液等)の性質にばらつきがある場合、すなわちドナーに由来する性質に差異がある場合は、製品としての細胞製剤の性質は大きく影響を受ける。
このため、ばらつきの少ない高純度の間葉系幹細胞を得ることが重要である。
本発明者らは、骨髄液からLNGFR、Thy-1共陽性細胞をフローサイトメトリーにより分離し、増殖の早いクローン(Rapidly Expanding Clone:REC)を得ており、ドナーに由来するMSCの増殖性の差を排除できる精製分離方法を確立した(特許第6463029号、WO2016/017795、Mabuchi Y. et al., Stem Cell Reports 1(2): 152-165, 2013)。この方法では、例えばRor2の発現を指標としてRECを分離選別している。
【0004】
また、精製済み間葉系幹細胞組成物及び間葉系幹細胞組成物を精製する方法も知られており(特許6025329号)、この方法では、直径が150μm以下の間葉系幹細胞が精製されている。
しかしながら、RECのクローンには分化能や増殖能において依然としてばらつきが観察される。また、増殖性に優れるRECといえども継代による劣化は避けられず、有効な品質管理方法が求められていた。そして、Ror2の発現を指標にした場合でも増殖能との相関には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6463029号
【特許文献2】国際公開2016/017795号パンフレット
【特許文献3】特許第6025329号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mabuchi Y Morikawa S, Harada S; Niibe K, Suzuki S, Renault-Mihara F, Houlihan DD, Akazawa C, Okano H, Matsuzaki Y. LNGFR+ Thy-1+ Vcam-1hi+ cells reveal functionally distinct subpopulations in mesenchymal stem cells. Stem Cell Reports 1(2): 152-165, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明においては、高純度で均一性の高いRECの選別方法、及び細胞性能を担保する指標を確立することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、ヒト骨髄液からLNGFR及びThy-1が共に陽性の細胞を得て、単一の細胞から数多くのRECのクローンを製造し、分化能及び増殖能の測定を繰り返すうちに、細胞の大きさと均一性が、それぞれのクローンの分化能及び増殖能とより強く相関することを見出した。
【0009】
また本発明者は、各クローンを構成する細胞の大きさとそのばらつきをフローサイトメトリ―における前方散乱光(FSC)を指標に分析し、サイズが小さくFSCのCV値が小さいほど、増殖能、分化能に優れることを見出し、この指標をもとに各クローンの選抜を行うことで一定の範囲内の機能を持つ細胞を製造できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす、前記細胞集団。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
(2)変動係数が30%以下である、(1)に記載の細胞集団。
(3)平均細胞サイズが14μm~18μmである、(1)又は(2)に記載の細胞集団。
(4)LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団の品質を評価する方法であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす細胞集団を、高品質であると判定する、前記方法。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
(5)変動係数が30%以下である、(4)に記載の方法。
(6)平均細胞サイズが14μm~18μmである、(4)又は(5)に記載の方法。
(7)LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団から、臨床に適用可能な細胞集団を選抜する方法であって、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす細胞集団を、治療用間葉系幹細胞集団として選抜する、前記方法。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
(8)変動係数が30%以下である、(7)に記載の方法。
(9)平均細胞サイズが14μm~18μmである、(7)又は(8)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、細胞の大きさに均一性を有し、しかも増殖能、分化能に優れる間葉系幹細胞集団を選抜することができた。選抜された細胞集団は臨床に適用し得る品質を有しており、心筋梗塞、脳梗塞、脊髄損傷、骨又は軟骨形成関連疾患、移植片対宿主病(GVHD)、肝硬変、表皮水泡症、下肢虚血などの治療に使用することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明においてRECを選別する手法の概要を示す図である。
図2】フローサイトメトリーによる前方散乱光(FSC)のCV値の測定結果を示す図である。
図3】細胞増殖能及び脂肪分化能を評価した結果を示す図である。
図4】RECクローンの網羅的解析結果を示す図である。
図5】本発明の解析結果のまとめを示す図である。
図6】RECクローンの網羅的解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明者は、以前の研究により、LNGFR(CD271)が陽性の間葉系幹細胞(CD271+細胞)、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の間葉系幹細胞(CD271+CD90+細胞)の中から、増殖が早い高速増殖性の細胞クローン(Rapidly Expanding Clone:REC)を単離することに成功した。
このRECは、96ウェルプレートに1個ずつ細胞を播種して培養したときに、2週間でコンフルエントに達することができる細胞であり、従来法で得た間葉系幹細胞と比較し、増殖能、分化能及び遊走能の全てが1000倍以上の能力を有する。そして、特に遊走能を保持しているため、経静脈内投与が可能となり、骨・軟骨形成不全症等の重篤な全身性疾患への応用が期待できる。
【0014】
しかし、このようなRECクローンであっても、中には、分化能や増殖能においてばらつきが観察されることがある。
本発明は、このようなばらつきの少ない細胞クローン、及び当該細胞クローンの選別方法を提供するものである。
【0015】
本発明の細胞クローンを含む細胞集団は、LNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性であり、かつ、増殖が早い間葉系幹細胞クローンの集団であり、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴を満たす。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
【0016】
2.ヒト間葉系幹細胞濃縮方法
本発明において、LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の間葉系幹細胞を得るには、例えばWO2009/31678号に記載の方法に従うことができる。
その方法の概要は以下の通りである。
【0017】
まず、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、LNGFR(CD271)が陽性(CD271+)、又はCD271及びCD90が共陽性(CD271+CD90+)の細胞分画を選別することにより、間葉系幹細胞を高度に濃縮する。なお、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団に血球系細胞が含まれる場合は、非血球系の細胞を選別するために、CD45及びCD235aが共陰性(CD45-CD235a-)の細胞を選別する工程を加えてもよい。
【0018】
間葉系幹細胞が含まれる細胞集団は、フローサイトメトリーやアフィニティー・クロマトグラフィーによって調製することができる。
この細胞集団を得るための材料は特に限定されないが、例えば、骨髄や末梢血(G-CSF投与後の末梢血を含む)等が挙げられる。なお、骨髄は、脊椎、胸骨、腸骨等の骨髄を用いればよい。
【0019】
細胞調製の際、材料が間葉系幹細胞を巻き込んだ細胞塊になっている場合には、必要により、材料に対してピペッティング等による物理的処理や、トリプシン、コラゲナーゼ等による酵素処理を行うことができる。また、材料に赤血球が混入している場合には、予め赤血球を溶血しておくことが好ましい。
上記の通り調製された細胞集団を用い、CD271+細胞又はCD271+CD90+細胞を選別する。
【0020】
CD271+細胞又はCD271+CD90+細胞を選別する方法としては、例えば、抗体を用いる方法が挙げられる。
抗体は、CD271+細胞又はCD271+CD90+細胞を選別することが可能な、抗CD271抗体及び/又は抗CD90抗体である。選別にフローサイトメトリーを用いる場合には、FITC、PE、APC等の異なる蛍光色素で標識された抗CD271抗体、又は抗CD271抗体と抗CD90抗体を、適宜組み合わせて用いることにより、生細胞を短時間で選別することが可能になる。また、フローサイトメトリー以外にも、磁気ビーズを用いる方法やアフィニティー・クロマトグラフィーを用いる方法によって、CD271+CD90+細胞を選別することが可能である。
なお、これらの方法を用いる前に、予め、死細胞を染色する蛍光色素(例えば、PI)を細胞集団と反応させ、蛍光で染色された細胞を除去することにより、死細胞を除去してもよい。
【0021】
3.REC細胞濃縮
次に、選別したLNGFR陽性細胞、又はLNGFR及びThy1共陽性細胞を単一細胞(クローン)培養し、増殖が速いロットを選択することで、増殖能・分化能・遊走能にすぐれた高純度ヒト間葉系幹細胞(REC: Rapidly Expanding Clone)を得る。
図1に単クローン培養法によるREC分離工程を例示する。
【0022】
ヒト骨髄又は脂肪・胎盤絨毛膜から単核細胞を調製し、骨髄単核細胞を抗LNGFR単独、又は抗LNGFR及び抗Thy1で染色する。次に、フローサイトメトリー(セルソータ)を用い、LNGFR陽性細胞、又はLNGFR陽性及びThy1陽性細胞を96穴培養プレートにクローンソートする。すなわち、1ウェルに細胞1個ずつ播種する。単一細胞培養2週間後に培養プレートを顕微鏡下で撮影し、コンフルエント又はセミコンフルエントになったウェルを選別し、当該ウェルに含まれる細胞をRECとする。
【0023】
ここで、「増殖が速い」、「高速増殖性」とは、96穴培養プレートの1ウェルに細胞1個ずつ播種して培養したときに、培養開始2週間後又はそれ以前に培養プレートがコンフルエント又はセミコンフルエントになる程度の増殖速度(倍加時間(ダブリングタイム)が26±1時間)を有することを意味する。
コンフルエントとは、培養容器表面(培養面)の90%以上を培養細胞が覆っている状態である。また、セミコンフルエントとは、培養容器表面(培養面)の70~90%を培養細胞が覆っている状態である。使用する培養器具のサイズ及び種類は、細胞の増殖速度に応じ適宜変更可能である。遅れて増殖している細胞(Moderately/Slowly Expanding Cells)、すなわち単一細胞培養2週後になってもセミコンフルエント又はコンフルエントにならなかった細胞は破棄する。RECとして選別した各ウェルから回収したRECを各ウェル毎に培養フラスコに移入し、さらにコンフルエントになるまで培養する(拡大培養)。その後、拡大培養した細胞を別々に回収する。1ウェル由来のRECを1ロットとし、これを後述の選別に使用する。
【0024】
ここで、本発明の細胞は、1ウェルに細胞1個ずつ播種するクローンソートにより得られたものであるから、増殖した細胞同士の遺伝形質はすべて同じである。従って、本発明においては細胞集団全体を「クローン」と言うことも、細胞集団を構成する個々の細胞を「クローン」ということもある。
【0025】
また、本発明において、選別に使用するためのRECは、RECマーカー(抗Ror2)により予め評価しておくこともできる。例えば、前記拡大培養後、全ロットから付着増殖した細胞を回収し、各ロットの一部 (1~3×105個程度)の細胞をとりわけて、抗Ror2に対するモノクローナル抗体で単一染色を行う。抗Ror2に対するモノクローナル抗体で単一染色を行う手法は公知である(WO2016/17795)。要約すると、RECマーカーを用いたフローサイトメトリー解析により、回収細胞におけるRECマーカー陽性細胞の比率を求める。比率は、定量的PCRを用いてRor2のmRNA発現を定量してもよいし、顕微鏡により同比率をマニュアルにより求めてもよい。上記陽性比率が一定値(例えば65%)以上のロット(細胞集団)を合格とし、これを後述の選別に使用することもできる。
【0026】
4.本発明の幹細胞集団の選別
本発明においては、個々のロットのRECクローンについて、細胞の増殖能、脂肪分化能、REC特異的マーカー発現量、細胞サイズの均一性を調べ、それぞれの相関性を解析することにより、高純度でより細胞性能の高いRECを選別することが可能となった。
本発明においては、前方散乱光の変動係数(Coefficient of Variation:CV値)及び細胞の平均サイズを選別の指標とする。
前方散乱光(Forward Scatter)とは、レーザー光の軸に対して前方向の小さい角度で散乱する光である。前方散乱光は、細胞表面で生じるレーザー光の散乱光、回折光及び屈折光からなり、サンプルの大きさに関する情報が得られる。
【0027】
変動係数(Coefficient of Variation:CV)は、標準偏差を平均値で割った値のことで、単位の異なるデータのばらつきや、平均値に対するデータとばらつきの関係を相対的に評価する際に用いる数値である。
本発明においては、上記CV値が35%以下のものを選別する。CV値が35%以下の細胞集団は、大きさが均一な細胞により構成されている細胞集団である。好ましくは、CV値は30%以下、25%以下、又は20%以下である。
また、本発明により選別された細胞集団における細胞の平均サイズは、20μm以下である。好ましくは18μm以下であり、14μm~18μmの範囲の大きさである。
【0028】
本発明は、LNGFR陽性細胞、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の高速増殖性間葉系幹細胞クローンの細胞集団の品質を評価する方法も提供する。本発明においては、以下の(a)及び(b)の少なくとも1つの特徴、好ましくは両方の特徴を満たす細胞集団を、高品質であると判定する。
(a)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である。
(b)平均細胞サイズが20μm以下である。
【0029】
このようにして評価及び選別された細胞集団は、当該集団を構成する細胞クローンの数が限定されるものではなく、例えば1mlの溶液に0.8X107~1.2X107個程度の細胞を有する。
また、当該細胞集団は、治療用間葉系幹細胞集団として、例えば以下の疾患の治療目的とした臨床に適用することが可能である。但し、疾患はこれらに限定されるものではない。
遺伝子疾患(表皮水泡症、低ホスファターゼ症等)
骨関節疾患(膝軟骨欠損、変形性膝関節症、椎間板ヘルニア等)
心疾患(心筋梗塞、虚血性心不全等)
肝臓疾患(肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎等)
【0030】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0031】
1.フローサイトメトリーによる前方散乱光(FSC)のCV値測定
公知方法(WO2016/17795)及び図1に示すスキームにより予め調製しておいたRECクローン(クローン番号:1~45)を、フローサイトメトリーによる前方散乱光のCV値測定に用いた。
フローサイトメトリーにおけるFSCは細胞の表面積又は大きさに比例する。本実施例では、FSCのCV値を指標として細胞サイズのばらつきを評価した。図2に、フローサイトメトリーによる前方散乱光のCV値測定結果を示す。
【0032】
(a)個々のRECクローンに対してPI染色を行い、PI陰性の生細胞集団にゲートを設定して、死細胞を解析の対象から除外した。
(b)PI陰性の生細胞集団をFSC/SSCのサイトグラムで展開し、メインの細胞集団にゲート(P1)を設定して、ゴミやノイズを解析の対象から除外した。
(c)P1ゲート内の細胞集団をFSCのヒストグラムで展開し、マーカー(M1)を設定して、CV値を計測した。
【0033】
2.細胞増殖能及び脂肪分化能の評価(図3
(1)細胞増殖能の評価方法
1x105個のREC細胞を100mm培養皿に播種して、37℃、5%CO2環境下で5日間培養し、その後、セルカウンターを用いて細胞数及び平均細胞サイズを計測した。なお、培養液は、FBS、basic FGF、Hepes、Penicillin-Streptomycinを添加したDMEM培地(富士フイルム和光純薬社)を用いた。
(2)脂肪分化能の評価方法
5x104個のREC細胞を24穴プレートに播種して、37℃、5%CO2環境下で2日間培養し、その後、脂肪分化誘導培地に置換して、さらに14日間培養した。培養14日後にオイルレッド0染色を行い、画像解析により脂肪滴面積を算出した。なお、脂肪分化誘導培地は、(1)の培養培地にDexamethasone、Indomethacin、IBMXを添加した培地を用いた。
【0034】
3.網羅的解析
1回のソーティングで得られたREC、45クローンについて網羅的解析を行った(図4)。
それぞれのRECクローンについて、FSCのCV値、細胞増殖率(増殖能)、平均細胞サイズ、脂肪分化能を調べたところ、FSCのCV値が低いRECクローン(#3,#5,#15,#16,#17)は、増殖能、分化能が共に高く、平均細胞サイズが小さいことがわかった。
一方で、FSCのCV値が高いRECクローン(#7,#32,#39,#40,#44)は、増殖能、分化能が共に低く、平均細胞サイズが大きいことがわかった。
CV値30%~35%のクローンの平均増殖率は6.4であり、CV値25%~30%のクローンの平均増殖率は9.2、CV値25%以下のクローンの平均増殖率は15.1であった。また平均細胞サイズが18μm~20μmのクローンの平均増殖率は7.0であり、平均細胞サイズが16μm~18μmのクローンの平均増殖率は12.7、平均細胞サイズが16μm以下のクローンの平均増殖率は21.3であった。
これらの結果より、FSCのCV値及び平均細胞サイズを指標として、増殖能、分化能が共に高い、高品質なRECクローンの選別が可能となった。
【0035】
4.典型的解析例のまとめ(図5
FSCのCV値が低く、平均細胞サイズの小さいクローンAは、脂肪分化能、増殖能が共に高い、高品質なRECクローンである。
FSCのCV値が高く、平均細胞サイズの大きいクローンBは、脂肪分化能、増殖能が共に低い、規格外なRECクローンである。
【実施例0036】
2種の骨髄液ロット(# 18TL158166と# 8F5040)を2つの方法(CD271とCD90共陽性およびCD271単独)でソートし、得られるColony、REC、MEC、SECの比率を比較した(図6)。
図6において、左パネルはセルソーティングの結果を示す。枠で囲んだ部分の細胞を96-wellのプレートに播種し、得られるコロニーの割合を右の表の“Colony”に示した。得られたコロニー中、増殖の速いコロニー(REC)、中程度のコロニー(MEC)、増殖の遅いコロニー(SEC)の割合を表中に示した。
LNGFR、CD90共陽性を指標にソートした場合に比較して、LNGFR単独でソートした場合、コロニーの得られる割合は多かったが、RECの得られる割合は低かった。
しかし、LNGFR陽性単独でソートしても、RECが分離できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-04-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト間葉系幹細胞の臨床に適用可能な細胞集団の製造方法であって、
(a)LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の間葉系幹細胞の集団を得るステップ、
(b)前記間葉系幹細胞のクローンを単一細胞培養するステップ、
(c)増殖が速いクローンを回収し、拡大培養するステップ、
(d)前記拡大培養後の細胞集団に対し、フローサイトメトリーによって前方散乱光の変動係数を測定するステップ、及び
(e)フローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である細胞集団を選抜するステップ、
を含む製造方法。
【請求項2】
前記変動係数が30%以下である細胞集団を選抜する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(c)において、前記増殖が速いクローンが複数ある場合、当該クローンが互いに独立に回収及び拡大培養される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(d)において、前記拡大培養後の細胞集団が互いに独立に前記フローサイトメトリーに供される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ヒト間葉系幹細胞の細胞集団の培養物であって、
前記細胞集団は、
(a)LNGFR(CD271)が陽性、又はLNGFR(CD271)及びThy-1(CD90)が共陽性の間葉系幹細胞の集団を得るステップ、
(b)前記間葉系幹細胞のクローンを単一細胞培養するステップ、及び
(c)増殖が速いクローンを回収するステップ、
によって得られ、
前記培養物のフローサイトメトリーの前方散乱光の変動係数が35%以下である、培養物。
【請求項6】
変動係数が30%以下である、請求項5に記載の培養物。
【請求項7】
平均細胞サイズが20μm以下である、請求項5又は6に記載の培養物。
【請求項8】
平均細胞サイズが14μm~18μmである、請求項5~7のいずれか1項に記載の培養物。