(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089687
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ハイドロゲル及びハイドロゲル形成組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 15/22 20060101AFI20240627BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240627BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240627BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240627BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240627BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240627BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20240627BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20240627BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240627BHJP
A61K 50/00 20060101ALI20240627BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240627BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61L15/22 300
A61K9/06
A61K47/34
A61K47/32
A61K8/02
A61Q19/00
A61K8/81
A61K8/86
A61Q1/00
A61K50/00 200
C09J11/06
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205023
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 快
(72)【発明者】
【氏名】前山 洋輔
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C083
4C085
4J040
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC19
4C076EE13A
4C076EE23A
4C076EE26
4C076FF34
4C076FF35
4C081AA07
4C081AA12
4C081BA16
4C081BB07
4C081BB09
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4C081CA181
4C081CA232
4C083AC421
4C083AC422
4C083AD021
4C083AD022
4C083BB36
4C083CC01
4C083CC02
4C083CC07
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4C083DD41
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4C085JJ12
4C085KB68
4C085KB74
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4J040DF041
4J040DF051
4J040DF091
4J040GA07
4J040GA14
4J040GA22
4J040HB11
4J040LA01
(57)【要約】
【課題】自己支持性と水系溶媒への溶解性とを有するハイドロゲルの提供。
【解決手段】非架橋の水溶性高分子、水、多価アルコールを含むハイドロゲルであって、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも1つを含み、多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含むハイドロゲル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非架橋の水溶性高分子、水、多価アルコールを含むハイドロゲルであって、
前記非架橋の水溶性高分子を構成する単官能単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも1つを含み、
前記多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含むハイドロゲル。
【請求項2】
前記非架橋の水溶性高分子を構成する単量体が、架橋性単量体を含まない請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記非架橋の水溶性高分子を構成する単量体が、下記式(1)の単官能単量体を含む請求項1に記載のハイドロゲル。
【化1】
(式中、R
1は水素又はメチル基であり、R
2は水素又はアルキル基であり、R
3は水素又はアルキル基である)
【請求項4】
ハイドロゲル全体における非架橋の水溶性高分子と多価アルコールの合計が70質量%以上であり、かつ前記非架橋の水溶性高分子に対する分岐ポリグリセリンの質量比が、10:1.0~1.0:3.5の間である請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む皮膜形成剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む経皮吸収材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む化粧品用保護材料。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含むマスキング材。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む仮固定材。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む防曇剤。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む生体用電極。
【請求項12】
単官能単量体、水、多価アルコールを含み、
単官能単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも1つを含み、
前記多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含み、
架橋性単量体の濃度が、前記単官能単量体100質量部に対して0.015質量部以下であるハイドロゲル形成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル及びそれを形成するためのハイドロゲル形成組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、皮膚に対して低刺激性であり、環境への負荷が低いソフトマテリアル素材という観点から注目されている。ハイドロゲルには粘着性・導電性が付与できるため、生体に貼付する心電図用電極や創傷被覆剤等の幅広い分野で利用されている。しかしながら、従来のハイドロゲルは水に不溶であり、産業上の利用において制限があった。このため、水やエタノールといった環境負荷の少ない水系溶媒にて簡便に溶解するハイドロゲルの開発が待たれている。
【0003】
従来から知られているハイドロゲルの構成成分としては、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなど水溶性高分子が広く使用されている。これらの構成成分が通常の有機化学的方法により共有結合的に架橋されたハイドロゲルは、強度が低く脆い材料であると共に、分子同士が架橋しているため、一度硬化すると水への溶解性がほとんど無くなる。しかしながら、有機溶媒に溶解させてハイドロゲルを除去する方法は、環境への影響が懸念される。
【0004】
上述のような問題を解決すべく様々なハイドロゲルが報告されているが、現在までに、手で触っても容易に崩れない実用的な機械的強度である自己支持性と水系溶媒への溶解性を同時に併せ持つハイドロゲルは見いだせていない。
【0005】
このため、手で触っても容易に崩れない実用的な機械的強度である自己支持性を有すると共に、水やエタノールといった環境負荷の少ない水系溶媒にて簡便に溶解する組成物の開発が待たれている。
【0006】
特許文献1は、(A)水溶性有機高分子と、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目の中に(C)水が包含されている有機・無機複合ヒドロゲルについて開示している。このハイドロゲルは、機械的性質が向上するが、水系溶媒に不溶である。
【0007】
特許文献2は、コア部に親水性の線状ポリマーを有し、該線状ポリマーの両末端をデンドロン化し、デンドロン表面にグアニジン基、チオ尿素基、及びイソチオ尿素基からなる群から選ばれるカチオン性の基が結合してなるポリイオンデンドリマー及び粘土鉱物を含有してなるハイドロゲル材料について開示している。ポリイオンデンドリマーが静電気的な相互作用及び水素結合等を介してナノシート構造を有する粘土鉱物の表面と結合してできる複合体よりなるハイドロゲルは、高い機械的強度と瞬時に完全に自己修復する性質を併せ持つ材料となるが、このハイドロゲルは水系溶媒に不溶である。
【0008】
特許文献3は、ポリグリセロールデンドリマーがエチレングリコールジグリシジルエーテル又はポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルによって架橋されているポリグリセロールデンドリマーの3次元架橋物が、水又はエタノールを分散媒として膨潤されていることを特徴とするヒドロゲルについて開示している。しかしながら、このヒドロゲルの水系溶媒に対する溶解性については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-053629号公報
【特許文献2】国際公開第2011/001657号公報
【特許文献3】特開2008-100941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決すべき課題は、上記のような従来のハイドロゲルの欠点を克服し、自己支持性と水系溶媒への溶解性とを有するハイドロゲル、及びかかるハイドロゲルを形成するためのハイドロゲル形成組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.非架橋の水溶性高分子、水、多価アルコールを含むハイドロゲルであって、
前記非架橋の水溶性高分子を構成する単官能単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも1つを含み、
前記多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含むハイドロゲル。
項2.前記非架橋の水溶性高分子を構成する単量体が、架橋性単量体を含まない項1に記載のハイドロゲル。
項3.前記非架橋の水溶性高分子を構成する単量体が、下記式(1)の単官能単量体を含む項1に記載のハイドロゲル。
【化1】
(式中、R
1は水素又はメチル基であり、R
2は水素又はアルキル基であり、R
3は水素又はアルキル基である)
項4.ハイドロゲル全体における非架橋の水溶性高分子と多価アルコールの合計が70質量%以上であり、かつ前記非架橋の水溶性高分子に対する分岐ポリグリセリンの質量比が、10:1.0~1.0:3.5の間である項1に記載のハイドロゲル。
項5.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む皮膜形成剤。
項6.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む経皮吸収材。
項7.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む化粧品用保護材料。
項8.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含むマスキング材。
項9.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む仮固定材。
項10.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む防曇剤。
項11.項1~4のいずれかに記載のハイドロゲルを含む生体用電極。
項12.単官能単量体、水、多価アルコールを含み、
単官能単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも1つを含み、
前記多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含み、
架橋性単量体の濃度が、前記単官能単量体100質量部に対して0.015質量部以下であるハイドロゲル形成用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自己支持性と水系溶媒への溶解性とを有するハイドロゲル、及びかかるハイドロゲルを形成するためのハイドロゲル形成組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を指す。「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを指す。「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを指す。
【0015】
本明細書において、「ハイドロゲル」とは、3次元構造の水溶性高分子が水系媒体中で膨潤したものである。
本明細書において、「単官能単量体」とは、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を1つ有する単量体を指す。
本明細書において、「架橋性単量体」とは分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する単量体を指す。
本明細書において、「シート」は、200μm以上の厚さの層状体を指し、「フィルム」は200μm未満の厚さの層状体を指す。
【0016】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。さらに、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0017】
<ハイドロゲル>
本発明の一態様によれば、非架橋の水溶性高分子、水、多価アルコールを含むハイドロゲルであって、非架橋の水溶性高分子を構成する単官能単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも一つを含み、多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含むハイドロゲルが提供される。
【0018】
非架橋の水溶性高分子とは、当該水溶性高分子中を構成する全単量体(モノマー)中の架橋性単量体の量が0.01mol%以下である水溶性高分子を指す。架橋性単量体の量が単官能単量体が0.01mol%以下であると、ハイドロゲルは水系溶媒への溶解性に優れている。架橋性単量体の量が単官能単量体0.01mol%を超えると、水系溶媒へ不溶となる場合がある。
【0019】
好ましくは、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体(モノマー)中に架橋性単量体が含まれない。より好ましくは、非架橋の水溶性高分子は、単官能単量体のみからなる重合体である。つまり非架橋の水溶性高分子を構成する単量体がすべて単官能単量体である。
単官能単量体は、後述する1種類又は2種類以上の単官能単量体であってもよい。
【0020】
上記単官能単量体は、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合であるビニル基を1つ有する単官能単量体であり、特に限定されないが、(メタ)アクリルアミド系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ラクタム構造を含む基を有する単量体、(メタ)アクリル酸又はその塩等が好ましく用いられる。これらの単官能単量体は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
(メタ)アクリルアミド系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有のカチオン性アクリルアミド系化合物;4-アクリロイルモルフォリン、tert-ブチルアクリルアミドスルホン酸等のスルホン酸基含有アニオン性単官能単量体又はその塩;及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、及びN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド中の各アルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、炭素数は好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル等のアルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸1-アダマンチル等の脂環式(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシトリエチレングリコール等の(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール等のアルコキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル等の(ヒドロキシアルキル基にエーテル結合を介してアリール基が結合していても良い)(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;メタクリル酸2- (ジメチルアミノ)エチルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキル;モノ(メタ)アクリル酸グリセリン;モノ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等のモノ(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール;(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル;及び(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
ラクタム構造を含む基を有する単量体のラクタム構造は、水溶性の観点から、5員環ラクタム構造、6員環ラクタム構造、又は7員環ラクタム構造であることが好ましく、5員環ラクタム構造、又は6員環ラクタム構造であることがより好ましく、5員環ラクタム構造であることが特に好ましい。
【0024】
ラクタム構造を含む基を有する単量体としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム等のビニルラクタムなどが挙げられる。
ハイドロゲルの非架橋の水溶性高分子がビニルピロリドンの重合体である場合、ビニルアルコールとビニルピロリドンの共重合体、エーテル変性されたビニルアルコールとビニルピロリドンの共重合体、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体等のビニルピロリドン共重合体;等が挙げられる。非架橋の水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムをさらに含んでもよい。これらの非架橋の水溶性高分子は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
(メタ)アクリル酸又はその塩としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
本発明の実施形態のハイドロゲルにおいて、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも一つを含む。アミド基を有する化合物中のアミド基、ラクタム構造を含む基を有する化合物中のラクタム構造、アクリル酸のカルボキシル基、及びメタクリル酸のカルボキシル基の各々と、分岐構造を有するポリグリセリンの水酸基とが、分子間相互作用である水素結合により架橋しているため、ハイドロゲルは水、エタノール、又は水とエタノールの混合溶媒等の揮発性溶媒に容易に溶解することができる。また、上記溶媒に溶解したハイドロゲルを塗布すると、ゲル状皮膜を形成できる。
【0027】
非架橋の水溶性高分子を構成する単量体は、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも2つを含んでもよいし、3つを含んでもよいし、4つを含んでもよい。例えば、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体は、アミド基を有する化合物と、アクリル酸とを含んでもよい。
【0028】
非架橋の水溶性高分子を構成する単量体がアミド基を有する化合物を含むためには、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体の少なくとも一部が、アミド基を有する化合物であることが好ましい。アミド基を有する化合物は、上記(メタ)アクリルアミド系単量体から選択することができる。非架橋の水溶性高分子中のアミド基は、カルボン酸とアミンとが脱水縮合した構造を指し、カルボキシル基の水酸基がアミンで置換されたカルボン酸の誘導体と捉えることもできる。
【0029】
非架橋の水溶性高分子を構成する単量体がラクタム構造を含む基を有する化合物を含むためには、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体の少なくとも一部が、ラクタム構造を含む基を有する化合物であることが好ましい。ラクタム構造を含む基を有する化合物は、上記ラクタム構造を含む基を有する単量体から選択することができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体は、下記式(1)の単官能単量体を含む。
【化2】
(式中、R
1は水素又はメチル基であり、R
2は水素又はアルキル基であり、R
3は水素又はアルキル基である)
R
2のアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、炭素数は好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
R
3のアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、炭素数は好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
【0031】
式(1)の単官能単量体の例としては、アクリルアミド;N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド中の各アルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、炭素数は好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
【0032】
いくつかの実施形態において、非架橋の水溶性高分子を構成する単量体は、式(1)の単官能単量体のみを含む。式(1)の単官能単量体は、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドのみであってもよいし、アクリルアミドとN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドとを含んでもよいし、N-アルキル(メタ)アクリルアミドとN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドとを含んでもよいし、アクリルアミドとN-アルキル(メタ)アクリルアミドとN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドとを含んでもよい。N-アルキル(メタ)アクリルアミドのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドに対する質量比は特に限定されないが、95:5~5:95、より好ましくは90:10~10:90である。N-アルキル(メタ)アクリルアミドとN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドの割合の調整により、ハイドロゲルの硬さを制御することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、非架橋の水溶性高分子を構成する全単量体中のアミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸の合計量の割合は、0.1~100質量%であることが自己支持性と水系溶媒への溶解性の点で好ましい。
【0034】
非架橋の水溶性高分子を構成する全単量体中の単官能単量体の量は、99.9mol%~100質量%mol%であることが好ましく、99.95mol%~100mol%であることがより好ましい。
【0035】
ハイドロゲルにおける単官能単量体に由来する構造単位の含有量(ハイドロゲルを構成する全成分中の単官能単量体の含有量としてもよい)は、特に限定されないが、ハイドロゲルの保形性及び柔軟性の観点から、非架橋の水溶性高分子、水、及び多価アルコールの合計100質量部に対して、10~50質量部の範囲内であることが好ましく、15~45質量部の範囲内であることがより好ましい。含有量が10質量部以上であると、ハイドロゲルが保形性を十分に有するため好ましい。また、含有量が50質量部以下であると、ハイドロゲルの柔軟性の点で好ましい。
【0036】
ハイドロゲルにおける水の含有量は、特に限定されないが、保形性や電気特性を確保するためには、非架橋の水溶性高分子、水、及び多価アルコールの合計100質量部に対して、5~30質量部の範囲内であることが好ましく、10~20質量部の範囲内であることがより好ましい。水は、非架橋の水溶性高分子及び多価アルコールと同様、ハイドロゲルの構成成分の一つとして、添加されてもよいし、多価アルコールの材料又は製品に含まれる水として最終製品のハイドロゲルに含有されてもよい。水の含有量が30質量部以下であれば、ハイドロゲルが保形性を十分に有するため好ましい。
【0037】
多価アルコールは、ハイドロゲルに保湿力を付与し、水分の蒸散を抑え、ゲルの柔軟性を保つものである。ハイドロゲルに含まれる多価アルコールは、分岐構造を有するポリグリセリンを含む。上記非架橋の水溶性高分子と分岐ポリグリセリンとが親和性に優れているため、ハイドロゲルを形成することができる。
【0038】
分岐構造を有するポリグリセリンとしては、グリシドールの重付加反応により製造することができるポリグリセリンや、グリセロール又はトリメチルプロパン末端水酸基のアリル化と、触媒を用いたアリル基の二重結合のジヒドロキシ化の繰り返しによって得られるポリグリセリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書において、「分岐構造を有するポリグリセリン」分岐構造を有するポリグリセリンの例として、例えば下記式(II)で示される分岐構造を有するポリグリセリンが挙げられる。直鎖状ポリグリセリンや直鎖状ポリグリセリンの変性物(例えば、ポリエーテル付加(ポリ)グリセリン等)は、「分岐構造を有するポリグリセリン」には含まない。
【0040】
【0041】
分岐構造を有するポリグリセリンは、ポリグリセリン全体のヒドロキシル基の50%以上であることが好ましい。なお、特定の化合物に含まれる全水酸基の占める1級水酸基の割合は、炭素原子に対する核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定する方法を用いて測定される。
例えば、ポリグリセリンの炭素原子に対するNMRスペクトルは、以下のようにして測定することができる。
【0042】
ポリグリセリン500mgを重水2.8mLに溶解し、ろ過後、ゲートつきデカップリングにより13C-NMR(125MHz)スペクトルを得る。なお、ピーク強度は炭素数に比例する第1級水酸基と第2級水酸基の存在を示す13C化学シフトはそれぞれメチレン炭素(CH2OH)が63ppm付近、メチン炭素(CHOH)が71ppm付近であり、これらのシグナル強度を分析することにより、1級水酸基と2級水酸基の存在比を算出する。但し、2級水酸基を示すメチン炭素(CHOH)は、1級水酸基を示すメチレン炭素に結合するメチン炭素にさらに隣接するメチレン炭素ピークと重なるため、それ自体の積分値を得られない。そのため、メチン炭素(CHOH)と隣り合うメチレン炭素(CH2)の74ppm付近のシグナル強度により積分値を算出する。
【0043】
分岐構造を有するポリグリセリンの重合度の下限値は、特に限定されないが、3以上が好ましい。重合度の上限値は、特に限定されないが、100以下が好ましい。
分岐構造を有するポリグリセリンの平均分子量は200~5,000g/molが好ましく、230~3,000g/molがより好ましい。
【0044】
分岐構造を有するポリグリセリンの粘度(40℃)は5,000~50,000mPa・sが好ましく、8,000~30,000mPa・sがより好ましい。
分岐構造を有するポリグリセリンの水酸基価は500~2,000KOHmg/gが好ましく、800~1,200KOHmg/gがより好ましい。なお、水酸基価は、第7版食品添加物公定書「油脂類試験法」又は基準油脂分析試験法に準じて算出することができる。
分岐構造を有するポリグリセリンは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0045】
分岐構造を有するポリグリセリンとしては、株式会社ダイセルから販売されている以下のものを使用することができる。なお、粘度は、E型粘度計を用いて、40℃で、粘度に応じ1~5rpmの回転数により測定されたものである。
商品名PGL03P:平均分子量=240g/mol、粘度(40℃)=8,300mPa・s、水酸基価=1,100~1,200KOHmg/g
商品名PGL06:平均分子量=460g/mol、粘度(40℃)=23,000mPa・s、ヒドロキシル価=900~1,000KOHmg/g
商品名PGL10:平均分子量=660g/mol、粘度(40℃)=27,900mPa・s、ヒドロキシル価=800~900KOHmg/g
商品名PGL10PSW:平均分子量=780g/mol、粘度(40℃)=16,800mPa・s、ヒドロキシル価=805~855KOHmg/g
商品名PGL20PW:平均分子量=1,500g/mol、粘度(40℃)=9,260mPa・s、ヒドロキシル価=695~755KOHmg/g
商品名PGLX:平均分子量=3,000g/mol、粘度(40℃)=8,500mPa・s、ヒドロキシル価=675~715KOHmg/g
商品名PGLXPW:平均分子量=3,000g/mol、粘度(40℃)=19,800mPa・s、ヒドロキシル価=650~750KOHmg/g
【0046】
ハイドロゲルに含まれる多価アルコールのうちの分岐構造を有するポリグリセリンの割合は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であることが好ましい。特定の実施形態では、本発明の実施形態のハイドロゲルに含まれる多価アルコールのうちの分岐構造を有するポリグリセリンの割合は100質量%である。
【0047】
ハイドロゲルにおける分岐構造を有するポリグリセリンの含有量は、特に限定されないが、自己支持性の観点から、非架橋の水溶性高分子、水、及び多価アルコールの合計100質量部に対して、50~80質量部の範囲内であることが好ましく、60~70質量部の範囲内であることがより好ましい。分岐構造を有するポリグリセリンの含有量が50質量部以上であると、ハイドロゲルに高い強度が付与できるため好ましい。また、含有量が80質量部以下であると、ハイドロゲル組成物の粘性が比較的低く取扱いしやすいため好ましい。
【0048】
また、自己支持性の観点から、ハイドロゲル全体における非架橋の水溶性高分子と多価アルコールの合計が70質量%以上であり、かつ非架橋の水溶性高分子に対する分岐ポリグリセリンの質量比が、10:1.0~1.0:3.5が好ましく、2.0:1.0~1.0:3.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:2.5がより好ましい。
【0049】
また、多価アルコールとして、分岐構造を有するポリグリセリンに加えて、直鎖状のポリグリセリンや、他の高アルコールを含むことができる。本明細書において、「直鎖状のポリグリセリン」とは、グリセリンの脱水縮合反応や、エピクロロヒドリンの重付加反応によって製造することができるポリグリセリンを意味する。直鎖状のポリグリセリンの例として、例えば下記式(III)で表されるポリグリセリンである。
【0050】
【0051】
直鎖状のポリグリセリンの重合度は、特に限定されないが、1~20が好ましく、1~10がより好ましい。
直鎖状のポリグリセリンの平均分子量は90~5,000g/molが好ましく、230~3,000g/molがより好ましい。直鎖状のポリグリセリンの粘度(40℃)は5,000~50,000mPa・sが好ましく、8,000~30,000mPa・sがより好ましい。直鎖状のポリグリセリンの水酸基価は500~2,000KOHmg/gが好ましく、800~1,200KOHmg/gがより好ましい。
直鎖状のポリグリセリンとしては、阪本薬品工業株式会社から販売されている商品名ポリグリセリン#310、#500、#750等を使用することができる。
いくつかの実施形態において、ハイドロゲルは、直鎖状のポリグリセリンを含まない。
【0052】
ハイドロゲルが架橋性単量体を含む場合、架橋性単量体としては、例えばメチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリルアミド又は多官能(メタ)アクリル酸エステル、テトラアリロキシエタン、ジアリルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0053】
ハイドロゲルは、必要に応じて、電解質を含有してもよい。ハイドロゲルに電解質を配合することにより、導電性のゲルが得られる。導電性が付与されたハイドロゲルは、心電図測定用電極、低周波治療器用電極、各種アース電極等の生体電極用ハイドロゲルとして好適に用いることができる。このような生体電極用ハイドロゲルとして用いる場合、電解質が含まれるハイドロゲルの比抵抗は、0.01~100kΩ・cmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
電解質としては特に限定されず、例えば、ハロゲン化ナトリウム(例えば塩化ナトリウム)、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属;ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化カルシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属;その他の金属ハロゲン化物;各種金属の、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、燐酸塩;アンモニウム塩、各種錯塩等の無機塩類;酢酸、安息香酸、乳酸等の一価有機カルボン酸の塩;酒石酸等の多価有機カルボン酸の塩;フタル酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸等の多価カルボン酸の一価又は二価以上の塩;スルホン酸、アミノ酸等の有機酸の金属塩;有機アンモニウム塩;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリtert-ブチルアクリルアミドスルホン酸、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンとの高分子電解質の塩;等が挙げられる。
また、上記電解質としては、ハイドロゲルの配合時には不溶性であり、配合液調製中には分散した形態であっても、時間とともにハイドロゲル中に溶解する特性を有する物質を使用しても良い、このような電解質として、ケイ酸塩、アルミン酸塩、金属酸化物、水酸化物等を挙げることができる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0055】
ハイドロゲルに導電性を付与する場合において、ハイドロゲルにおける電解質の含有量は、非架橋の水溶性高分子、水、及び多価アルコールの合計100質量部に対して、0.05~10質量部の範囲内であることが好ましく、0.1~5質量部の範囲内であることがより好ましい。水分を含んだハイドロゲルは、元来誘電体としての特性を有し、電極素子と複合させて電極を作成した場合は、ゲルの厚さや電極素子面積に応じた電気容量を有する。しかし、電極のインピーダンス(Z)は、特に1kHz未満の低周波領域では、電解質濃度に大きく影響される。ハイドロゲルにおける電解質の含有量が0.001質量部以上であると、インピーダンスを低くすることができ、導電性用途に好適である。また、10質量部以下であると、電解質をハイドロゲルへ均一に溶解させることができ、ゲル内部で結晶の析出が生じたり、他の成分の溶解を阻害したりするということが生じ難い。
【0056】
上記電解質は、ハイドロゲルに導電性を付与する目的以外で用いられていても良い。例えば、ハイドロゲルのpHを調整する目的で、酸性塩、塩基性塩、多官能塩や、水酸化ナトリウム等の塩基が添加されていても良い。又はハイドロゲルの保湿性能の向上や抗菌性を持たせる目的で、上記電解質が添加されていても良い。
【0057】
ハイドロゲルは、任意選択で、他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、防腐剤、殺菌剤、防徴剤、防錆剤、酸化防止剤、消泡剤、安定剤、香料、界面活性剤、着色剤、薬効成分(例えば、抗炎症剤、ビタミン剤、美白剤等)等が挙けられる。これらの添加剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの添加剤は、非架橋の水溶性高分子、水、及び多価アルコールの合計100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲内で用いることができる。
【0058】
本発明の実施形態のハイドロゲルは、上記構成を有することにより、従来のハイドロゲルにはない、手で触っても容易に崩れない実用的な強度である自己支持性と水又はアルコール等の水系溶媒への優れた溶解性を有する。さらに、非架橋の水溶性高分子と分岐構造を有するポリグリセリンが水素結合で架橋しているため、ハイドロゲルは自己修復性も有する。
【0059】
本発明の実施形態のハイドロゲルの機械的強度は、例えば硬化時の貯蔵弾性率により評価することができる。後述の実施例の条件で貯蔵弾性率G'を測定した場合に、下限が1000Paの貯蔵弾性率(周波数0.1Hz時)で表される粘弾特性を有するハイドロゲルが、実用的な機械的強度を有するハイドロゲルである。ハイドロゲルの貯蔵弾性率のより好ましい下限は1200Pa、さらに好ましい下限1400Paである。ハイドロゲルの貯蔵弾性率の好ましい上限は15000Pa、より好ましい上限は13000Paである。貯蔵弾性率が1000Pa以上あると、ゲルの硬さが保たれ、ゲルの千切れにくく、ハンドリング性、形状安定性、特定の形状に加工する際の加工性の点で有利である。貯蔵弾性率が15000Pa以下であると、ゲルが硬くなりすぎず、粘着力の点で有利である。
【0060】
ハイドロゲルの水系溶媒に対する溶解性が優れているため、使用後にハイドロゲルを水又は水系溶媒と一定時間接触させる(例えば水又は水系溶媒の噴霧又は水又は水系溶媒への浸漬)するだけでも、被着面からハイドロゲルを容易に除去することができる。従来は、水溶性高分子を仮固定やマスキング材の用途で使用する場合、形成された一時的な皮膜を完全に除去するには、これまで、時間がかかる上に加熱をしたり、又は有機溶媒に溶解させて除去しており、環境への影響が懸念されたが、本発明のハイドロゲルは、ユーザビリティが向上し、様々な分野への応用が期待できる。
【0061】
ハイドロゲルの厚みは、特に限定されるものではないが、0.01~10mmの厚みを有するシート状又はフィルム状であっても良い。このような0.01~10mmの厚みを有するシート状又はフィルム状のハイドロゲルは、柔軟性に優れると共に、生体皮膚表面への追従性に優れる。
【0062】
<ハイドロゲルの製造方法>
本発明の実施形態のハイドロゲルは、単官能単量体、水、多価アルコールを含むハイドロゲル形成用組成物であって、単官能単量体が、アミド基を有する化合物、ラクタム構造を含む基を有する化合物、アクリル酸、及びメタクリル酸から成る群から選択された少なくとも1つを含み、多価アルコールが分岐構造を有するポリグリセリンを含み、架橋性単量体の濃度が、前記単官能単量体100質量部に対して0.015質量部以下であるハイドロゲル形成用組成物を用い、ハイドロゲル形成用組成物中の単量体を重合させる製造方法によって容易に製造することができる。ハイドロゲル形成用組成物は、必要に応じて、上述の電解質、及び/又は各種の添加物を含むことができる。
【0063】
また、本発明の実施形態のハイドロゲルは、予め単官能単量体を重合させることによって形成された非架橋の水溶性高分子に、水、及び分岐構造を有するポリグリセリンを含む多価アルコール、並びに、必要に応じて、電解質、及び/又は各種の添加物を含浸させる製造方法によっても製造可能である。
【0064】
単官能単量体の重合は、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。ハイドロゲル形成用組成物に重合開始剤を含有させることが好ましい。重合開始剤としては、特に限定されず、光重合開始剤、熱重合開始剤等が挙げられる。ハイドロゲル形成用組成物を加熱せずに重合を開始できる点では、光重合開始剤が好ましい。
【0065】
光重合開始剤としては、紫外線又は可視光線で開裂して、ラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、2,2’-アゾビス-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミドや 2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロリド等のアゾ系重合開始剤、α-ヒドロキシケトン、α-アミノケトン、ベンジルメチルケタール、ビスアシルホスフィンオキサイド、メタロセン等が挙げられ、より具体的には、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-プロパン-1-オン(製品名:Omnirad(登録商標)2959、IGM Resins B.V.社製)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(製品名:Omnirad(登録商標)1173、IGM Resins B.V.社製)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(製品名:Omnirad(登録商標)184、IGM Resins B.V.社製)、2-メチル-1-[(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(製品名:Omnirad(登録商標)907、IGM Resins B.V.社製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン(製品名:Omnirad(登録商標)369、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。これらの光重合開始剤は1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0066】
熱重合開始剤としては、熱により開裂して、ラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスアミジノプロパン二塩酸塩等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらの熱重合開始剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、必要に応じて、硫酸第1鉄やピロ亜硫酸塩等の還元剤と過酸化水素、チオ硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸塩等の過酸化物とからなるレドックス開始剤を熱重合開始剤と併用しても良い。
【0067】
重合開始剤の使用量は、ハイドロゲル形成用組成物の全量(得られるハイドロゲルの全量)100質量部に対して、0.01~1.0質量部であることが好ましく、0.05~0.5質量部であることがより好ましい。0.01質量部以上であると、重合反応が十分に進み、得られるハイドロゲル中に残存する単官能単量体の量を低減させることができる。また、1.0質量部以下であると、得られるハイドロゲル中に残存する重合開始剤による変色(黄変)や臭気を防止することができる。
【0068】
単官能単量体を重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、単官能単量体等を含む混合物(上記ハイドロゲル形成用組成物等)に対して加熱、光照射、又は放射線照射を行う方法等が挙げられる。具体的には、上記混合物に、重合開始剤として熱重合開始剤を含有させ、加熱により前記混合物中の単官能単量体を重合させる方法;上記混合物に、重合開始剤として光重合開始剤を含有させ、光照射(紫外線又は可視光線照射)により前記混合物中の単官能単量体を重合させる方法;上記混合物に、重合開始剤として熱重合開始剤と光重合開始剤とを含有させ、光照射と加熱を同時に行うことにより、前記混合物中の単官能単量体を重合させる方法;上記混合物に、電子線やガンマ線等の放射線を照射することにより、前記混合物中の単官能単量体を重合させる方法等を挙げることができる。なお、熱重合開始剤として、レドックス開始剤を併用する場合、加熱をしなくても反応を行うことが可能であるが、残存モノマーの低減又は反応時間の短縮のため、レドックス開始剤を併用した場合であっても、加熱を行うことが好ましい。また、上述のとおり、上記混合物に対して放射線照射を行い、前記混合物中の単官能単量体を重合させることも可能ではあるが、放射線照射のための特殊な設備を要するため、前記混合物中の単官能単量体を重合させる方法としては、上記混合物に対して、加熱又は光照射を行う方法が好ましく、安定した物性のゲルを得ることができるという観点から、上記混合物に対して、光照射を行う方法がより好ましい。
【0069】
上記混合物に光重合開始剤を含有させて、紫外線照射により重合を行う場合には、紫外線の積算照射量は、1000mJ/cm2以上であることがより好ましい。
【0070】
なお、ハイドロゲルの製造に使用する成分(例えば、単官能単量体、任意選択の架橋性単量体、多価アルコール、水、電解質、任意選択の添加剤等)の総質量(あるいは、ハイドロゲル形成用組成物の質量)に対する、単官能単量体及び任意選択の架橋性単量体以外の成分(例えば、多価アルコール、水、電解質、その他添加剤等)の含有量の割合は、本発明のハイドロゲルにおける単官能単量体及び任意選択の架橋性単量体に由来する構造単位以外の成分の含有量の割合に等しいとみなすことができる。ハイドロゲルの製造に使用する成分の総質量(あるいは、ハイドロゲル形成用組成物の総質量)に対する、単官能単量体の含有量の割合は、本発明のハイドロゲルにおける単官能単量体に由来する構造単位の含有量の割合に等しいとみなすことができる。例えば、上記ハイドロゲル形成用組成物中における単官能単量体の含有量の割合は、本発明のハイドロゲルにおける単官能単量体に由来する構造単位の含有量の割合に等しいとみなすことができる。さらに、ハイドロゲル形成用組成物が架橋性単量体を含まず、非架橋の水溶性高分子を構成するモノマーが単官能単量体のみである場合、上記ハイドロゲル形成用組成物中における単官能単量体の含有量の合計は、本発明のハイドロゲルにおける非架橋の水溶性高分子の含有量に等しいとみなすことができる。
【0071】
<ハイドロゲルシート>
本発明の実施形態のハイドロゲルは、例えば液状のハイドロゲル形成用組成物を重合架橋してゲル化させたものであるため、用途に合わせて適宜成形することが可能である。
【0072】
図1に、本発明の実施形態のハイドロゲルを含むゲルシートの一実施形態の断面を示す。本実施形態のゲルシート1は、シート状又はフィルム状のハイドロゲル2の両面に、ハイドロゲル2を保護するためのベースフィルム3及びトップフィルム4が積層されている。ハイドロゲル2の厚み(中間基材5が埋め込まれている場合、中間基材5の上下のハイドロゲル2の合計の厚み)は、ゲルシート1の用途に応じて適宜設定することができるが、例えば0.01~10mmである。例えば、ゲルシート1を生体に貼着して使用する場合には、ハイドロゲル2の厚みを0.01mm~2.0mmの範囲内とすることが好ましい。
【0073】
ベースフィルム3としては、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)、ポリスチレン、ポリウレタン等の樹脂からなる樹脂フィルム、紙、樹脂フィルムをラミネートした紙等を使用することができる。これらベースフィルム3のハイドロゲル2と接する面は、シリコーンコーティング等の離型処理がなされていることが好ましい。すなわち、上記ベースフィルム3を離型紙として使用する場合は、樹脂(例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン等)からなる樹脂フィルム、紙、前記樹脂フィルムをラミネートした紙等のフィルムの表面に離型処理を施したものをベースフィルム3として好適に用いることができる。二軸延伸したPETフィルム、二軸延伸したポリプロピレン(OPP)フィルム等が、離型処理が施される上記ベースフィルムとして特に好ましい。離型処理の方法としては、シリコーンコーティングが挙げられ、特に、熱又は紫外線で架橋、硬化反応させる焼き付け型のシリコーンコーティングが好ましい。
【0074】
トップフィルム4としては、基本的にベースフィルム3と同じ材質のものを使用することも可能であるが、光重合を妨げないために、光を遮断しない材質のフィルムを選択することが好ましい。また、バッキング材(裏打材)に用いるフィルムは、トップフィルム4として使用しない方が好ましい。特に、バッキング材に用いるフィルムが紫外線等の照射により劣化する可能性がある場合には、バッキング材に用いるフィルムをトップフィルム4として使用すると、バッキング材に用いるフィルムが直接紫外線を照射される側に位置することになるため、好ましくない。
【0075】
また、任意選択で、ハイドロゲル2の引裂強度と取扱い性を向上させることを目的として、ハイドロゲル2の面方向に沿って、織布又は不織布からなる中間基材5が埋め込まれていてもよい。不織布及び織布の材質は、セルロース、絹、麻等の天然繊維や、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維、又はそれらの混紡が使用可能であり、必要に応じて、バインダーを用いても良く、さらに、必要に応じて着色しても良い。
【0076】
上記不織布の製造方法は特に限定されないが、乾式法や湿式法、スパンボンド法、メルトブローン法、エアレイド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法が挙げられる。目付や材質に応じた製法を採用し、目付ムラがないことが中間基材5の位置制御のためにより好ましい。織布についても、平織やトリコット、ラッセル等、特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0077】
また、上記織布又は不織布の目付は、中間基材5としての所定の物性を得ることができる目付であれば特に限定されないが、例えば、10~40g/m2の範囲内であることが好ましく、10~28g/m2であることがより好ましい。目付が10g/m2以上であると、ハイドロゲル2の補強等を十分に行うことができ、また目付ムラが抑えられるため、ハイドロゲル2の製造時における液の浸透が均一になり、中間基材5の位置変動が抑制されるため好ましい。目付が40g/m2以下であると、中間基材5が硬くなりすぎず、ハイドロゲル2の皮膚への追従性が良好となるため好ましい。
【0078】
中間基材5の厚みは、好ましくは0.05~2.0mmの範囲内である。また、0.05~0.5mmであることがより好ましく、0.08~0.3mm であることが特に好ましい。0.05mm以上であると、ハイドロゲル2の補強等を十分に行うことができ、また目付ムラが抑えられるため、ハイドロゲル2の製造時における液の浸透が均一になり、中間基材5の位置変動が抑制されるため好ましい。2.0mm以下であると、液の浸透性が良好となるため好ましい。
【0079】
ゲルシート1の製造方法としては、ハイドロゲル2の組成、中間基材5の材質、厚み等によって条件が異なり、特に限定されるものではない。例えば、ベースフィルム3の上側に、中間基材5に対し一定のテンションをかけた状態で中間基材5を保持し、その中間基材5の上側及び下側に、各成分を混合したゲル組成物を流し込み、トップフィルム4を被せて光照射及び/又は熱によりハイドロゲル2を架橋及び硬化させてゲルシート1を得る方法、表面が平滑なハイドロゲルを2つ作製した後、一定のテンションをかけた状態で保持している中間基材5をこれらのハイドロゲルで挟持し、さらに両側にベースフィルム3及びトップフィルム4を積層してゲルシート1を得る方法等を適宜採用することができる。
【0080】
<ハイドロゲルの用途>
本発明のハイドロゲルは、自己支持性を有し、原料組成によりその強度や変形率を調整することができるとともに、水系媒体に容易に溶解し、乾燥させ、自在に皮膜を成形することが可能である。その特性を生かして、基材などを皮膜で一時的に保護することにより、傷つき、汚れの付着、変質等を防止するマスキングや、皮膜によりある部材を一時的に別の部材に接着させる仮固定をはじめ、種々の製品に応用することができる。
【0081】
マスキング材や仮固定材に用いる基材の材質は、特に制限はないが、紫外線を透過できる材料からなる基材が好ましい。このような紫外線を透過できる材料としては、水晶、ガラス、プラスチック等が挙げられる。
【0082】
本発明のハイドロゲルは、皮膚に適用した場合、皮膚に対する付着性に優れ、皮膚への刺激性が低いか無い。さらに、水系媒体に容易に溶解するため、粘着性のハイドロゲルの剥離時、皮膚に痛みを与えず、皮膚裂傷を緩和し、皮膚の角質層を保護することができる。
【0083】
本発明のハイドロゲルは、例えば、皮膜形成剤、創傷被覆材、ハップ剤、止血材等の外用薬を含む基材、経皮吸収材、及び皮膚保護材料;パック用シート等の化粧品素材、化粧品用保護剤、及び化粧品用保護材料;芳香剤、消臭剤用ゲル素材又はマスキング材;調湿材;パッキング材;防曇剤;生体用電極ハイドロゲル;医療用外用材等として好適に使用することができる。
【0084】
皮膜形成剤は、被塗物上に皮膜を形成する役割を果たす層状物であり、例えば、本発明のハイドロゲルか、これをエタノール等の溶媒に溶解したものを、被塗物上に適用し、乾燥させることにより形成することができる。被塗物は例えばヒトの皮膚であってもよいがこれに限定されない。
経皮吸収剤は、皮膚に貼付して特定の成分を皮膚から持続的に投与するための物品であり、例えば、特定の成分を含有する本発明のハイドロゲル形成用組成物中を重合させてなるハイドロゲルのシートであってもよい。
【0085】
化粧品用保護材料としては、中間基材を有するハイドロゲルのうち、特に中間基材として合成樹脂製編布が使用されているものが挙げられる。
マスキング材は、ガラス基材などの基材の一部又は全部を被覆するために使用される本発明のハイドロゲルである。
仮固定材は、電子部品等の加工時に一方の部材をもう一方の部材に一時的に接着させるために使用される本発明のハイドロゲルである。
防曇剤は、基材表面の防除のために使用される層状物であり、例えば、本発明のハイドロゲルか、これをエタノール等の溶媒に溶解したものを、基剤上に適用し、乾燥させることにより形成することができる。
【0086】
本発明の一態様によれば、上記ハイドロゲルを含む生体用電極が提供される。生体用電極は、上記ハイドロゲルと、導電材料から構成される電極とが積層された電極であってよい。電極は、導電性材料を含んでいればよい。そのような材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、銀、銀-塩化銀の複合体、金、錫、チタン、ニッケル、モリブデン等の金属、カーボンブラックやグラファイト等の導電性炭素材料、これらの混合物等が挙げられる。
【0087】
本態様の生体用電極は、心電図、脳波、眼振、筋電等に使用する生体電位測定用電極や、経皮的電気刺激療法(TENS)、低周波治療等に使用する電気刺激用電極、電気メス用対極板やイオントフォレシス用電極等の医療用電極として用いることができる。
【0088】
本発明の一態様によれば、支持体と、支持体の少なくとも片面に設けられた上記ハイドロゲルとを備えた医療用外用材が提供される。
【0089】
本態様の医療用外用材は、(i)支持体の片面又は両面に、上記ハイドロゲル形成用組成物を塗布し、重合及び架橋させるか、(ii)上記ハイドロゲルを直接支持体の片面又は両面に貼合わせるか、(iii)離型紙上にハイドロゲル形成用組成物を塗布し、重合及び架橋させたものを支持体に貼合わせるか、(iv)離型紙上に貼合わせたハイドロゲルを、支持体に貼合わせることにより、作成される。ハイドロゲルはシート状であってよい。
【0090】
支持体は、ハイドロゲルを保持し得るものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えば絆創膏、粘着包帯、又はパップ剤等に用いられるフィルム状あるいはシート状のものが挙げられるのであり、これらは多孔質か無孔かを問わない。
【0091】
支持体の原料には、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニル、無可塑軟質ポリ塩化ビニル(例えば内部共重合体又はブレンド系)、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、シリコーンゴム、発泡ポリエチレン、発泡ポリウレタン、発泡エチレン-酢酸ビニル共重合体等の合成樹脂、アルミ及び銅等の金属類等がフィルムもしくはシート状に成形されたものが用いられる。このほか、天然繊維又は合成繊維(例えば、再生セルロース(例えばレーヨン)、セルロースエステル等)からなる紙、不織布、織布、網布等も利用され、目的に応じて、通気性のある基材又は通気性をもたない基材が適宜選択される。また、上記フィルム、金属フィルム又はシート、織布等を適宜組み合わせて重接合(ラミネート)し、ラミネートの支持体とすることも可能である。例えばラミネート体の支持体の例としては、ポリエチレン-レーヨンラミネート加工紙、PETとアルミのラミネート、ポリウレタンとレーヨンのラミネート等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0092】
フィルムもしくはシートである支持体の厚み(ラミネートの場合は合計厚み)は特に限定されないが、例えば5~300μm、好ましくは10μm~100μmとすることができる。
【0093】
支持体とハイドロゲルの接着性を高める目的で支持体とハイドロゲルの間に表面処理層を設けても良い。表面処理層の具体的な例としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、火炎処理等の物理的表面処理や、シランカップリング処理、アンカーコート、プライマーコート等の塗工剤による表面処理又はこれらの組合せが用いられる。
【0094】
支持体の表面に表面処理を施し、生じた表面処理層の上にハイドロゲル形成用組成物を直接塗工及び重合することにより、支持体とハイドロゲルが強固に接着する。
【0095】
医療用外用材に支持体を設けることで、医療用外用材をサージカルテープとして使用可能である。
【0096】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【実施例0097】
使用材料
・DMAA:N,N’-ジメチルアクリルアミド
・NIPAM:N-イソプロピルアクリルアミド
・AAm:アクリルアミド
・AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
・GAA:アクリル酸、純分80%
・NVP:N-ビニル-2-ピロリドン
・MBAA:N,N’-メチレンビスアクリルアミド
・PGL 06:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度6、純分100%
・PGL 10PSW R:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度10、純分95%
・PGL 20PW R:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度20、純分90%
・PGL X:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度40、純分90%
・濃グリセリン:グリセリン、純分100%
・ユニグリG-6:直鎖状のポリグリセリン、日油株式会社製、重合度6、純分90%
・ポリグリ#750:直鎖状のポリグリセリン、ポリグリセリン#750、阪本薬品工業社製、重合度10、純分90%
・Omnirad2959:光重合開始剤、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-プロパン-1-オン、IGM Resins B.V.社製
【0098】
実施例1
単官能単量体としてN,N’-ジメチルアクリルアミドを2.5質量部、多価アルコールとして分岐状構造を有するポリグリセリン(株式会社ダイセル製、製品名「PGL 06P」、グリセリンの6量体)6.5質量部、溶媒として水を1.0質量部混合し、溶解攪拌してハイドロゲル形成用組成物を得た。
【0099】
次に、その配合液に対して、光重合開始剤として1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製商品名Omnirad2959)を0.01質量部加え、さらに攪拌溶解した。
【0100】
次に、ガラス上に置いたシリコーン処理を施した厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルム上のシリコーン製型枠(130mm×130mm、厚さ1.0mm)に組成物を流し込み、さらに型枠上にシリコーン処理を施した100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを気泡が入らないように置き、石英ガラスを乗せて厚みを制御したものを製作した。これをピーク強度95mW/cm2の紫外線ランプで紫外線を60秒照射して取りだし、型枠より切り出してサンプルとした。
【0101】
実施例2~9及び比較例1~8
各実施例及び比較例において、表1に示す各組成で、粘着性ハイドロゲル形成用組成物を作製した。
表1において、実施例及び比較例の各成分の量は、単官能単量体の合計を「2.5」としたときの相対的な量で示している。
【0102】
実施例10 皮膜形成剤
実施例1で得られたハイドロゲル5質量部を、95質量部のエタノール中に溶解し、ポンプ式の化粧品容器に入れて1回プッシュして約0.1~0.3gを出し、左前腕皮膚に塗布してまんべんなく広げ、30分間放置する。このときの環境は、室温26~27℃、相対湿度55~60%である。以上により、皮膜形成剤が調製される。
【0103】
実施例11 経皮吸収材
実施例1に示すハイドロゲル形成用組成物に含まれる水1.0質量部のうち、0.15質量部を、薬効成分として10%ビタミンC水溶液に置き換えた以外は同様にして経皮吸収ゲルシートを作製する。
【0104】
実施例12 化粧品用保護材料
中間基材としてナイロン製編布を内在させた以外は実施例1と同様にして化粧品用保護材料を作製する。
【0105】
実施例13 マスキング材
ガラス基材の表面の一部又は全部を、実施例1で得られたハイドロゲルで一時的に覆うことで、マスキング材を作製する。実施例1と同様の組成物をガラス基材の表面の一部又は全部に塗布し、実施例1と同様の条件で紫外線を照射して、マスキング材を作製する。
【0106】
実施例14 仮固定材
ガラス基材の表面の一部又は全部を、実施例1で得られたハイドロゲルで一時的に覆うことで、仮固定材を作製する。実施例1と同様の組成物をガラス基材の表面の一部又は全部に塗布し、実施例1と同様の条件で紫外線を照射して、仮固定材を作製する。
【0107】
実施例15 防曇剤
実施例1で得られたハイドロゲル50質量部とエタノール50質量部を混合し、防曇剤とした。得られた防曇剤をポリカーボネート(PC)樹脂板に、膜厚が10μm程度になるように塗布もしくは噴射し、塗装直後の防曇膜中に含まれる溶剤を揮発乾燥させることで、基材(被塗装物)表面に防曇膜が形成される。
【0108】
実施例16 生体用電極
実施例1で得られたハイドロゲルと、導電材料から構成される電極とを積層することで、上記ハイドロゲルを含む生体用電極が提供される。電極は、導電性材料を含んでいればよい。
【0109】
〔評価条件〕
(1)ゲル化性
スライドガラス基板上に0.5mm厚となるようにスペーサーを置いて組成物を塗布し、上からPETフィルムを貼った。ピーク強度95mW/cm2の紫外線ランプで紫外線を60秒照射した後、PETフィルムを剥がしてから、組成物が指触にて硬化しているかどうかを確認した。
○:硬化している(液ではないため、組成物が手に付着しない)
×:硬化していない(液(組成物)が付着する)
【0110】
(2)水溶解性
上記の「(1)ゲル化性」を確認した試験片約1gを1Lビーカーに入れ、水を100g程度注いだ。そのビーカーを超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ製、US-20PS)に入れて最も弱いレベル(5段階の1段目)の超音波を30分間かけた。その後、試験片を取り出し、目視で組成物が残っているかどうかを確認した。
〇:組成物が残っていない
×:組成物が残っている
【0111】
(3)硬化時の貯蔵弾性率G'
ハイドロゲルの貯蔵弾性率を測定した。具体的には、粘弾性測定装置(Anton Paar製「PHYSICA MCR301」)を用い、23℃、0.1Hzの周波数における歪量1%の粘弾性測定を行った。冶具は25mmφのアルミ製パラレルプレートに25mmφのゲル片を貼り合わせ、0.5Nになる荷重点まで押し当てた後、0.1Hzにて貯蔵弾性率を算出した。貯蔵弾性率が高いほど、弾性を示す硬さの指標となる。23℃において、下限が1,000Paの貯蔵弾性率(周波数0.1Hz時)で表される粘弾特性を有するものを、実用的な機械的強度を有するとした。
【0112】