(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089692
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】プレス金型の製造方法及びプレス金型の製造装置
(51)【国際特許分類】
B21D 37/00 20060101AFI20240627BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B21D37/00 B
B21D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205030
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516356594
【氏名又は名称】株式会社アデック
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 拓律
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA21
4E137AA23
4E137CB01
4E137CB03
4E137EA01
4E137FA14
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】金型トライアル用のプレス装置と量産用のプレス装置の機差を把握することができるプレス金型の製造方法及びプレス金型の製造装置を提供する。
【解決手段】プレス金型の製造方法は、プレス装置10の金型配置エリアD1に複数のロードセル50を配置するロードセル配置工程と、ロードセル50にシム55を配置する等して、プレス装置10により生じる各ロードセル50における荷重を調整する荷重調整工程と、各ロードセル50に掛かる荷重と、荷重調整工程で得られる荷重に対応するプレス装置の変形量から変形量シートDMを作成する変形量シート作成工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置の金型配置エリア内に複数のロードセルを配置するロードセル配置工程と、
前記プレス装置により生じる各ロードセルにおける荷重を調整する荷重調整工程と、
前記荷重調整工程で得られる、各前記ロードセルに掛かる荷重と、前記荷重に対応する前記プレス装置の変形量から変形量シートを作成する変形量シート作成工程と、
を備えるプレス金型の製造方法。
【請求項2】
前記変形量シート作成工程で作成した前記変形量シートに基づいて仮想プレス装置モデルを作成する仮想プレス装置モデル作成工程と、を備える、請求項1に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項3】
異なる2つの前記プレス装置に対してそれぞれ前記仮想プレス装置モデルを作成し、1つのプレス金型モデルと、作成した2つの前記仮想プレス装置モデルにより、各前記プレス装置の製品形状を設定する、請求項2に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項4】
荷重とプレス装置の変形量との関係を示す変形量シートであって、トライ用プレス装置についての前記変形量シートであるトライ用プレス変形量シートを作成するトライ用プレス変形量シート作成工程と、
前記トライ用プレス変形量シートに基づいて仮想トライ用プレス装置モデルを作成する仮想トライ用プレス装置モデル作成工程と、
量産用プレス装置についての前記変形量シートである量産用プレス変形量シートを作成する量産用プレス変形量シート作成工程と、
前記量産用プレス変形量シートに基づいて仮想量産用プレス装置モデルを作成する仮想量産用プレス装置モデル作成工程と、
前記仮想量産用プレス装置モデルと製品の形状を転写したプレス金型モデルを用いて、良品が得られる量産用プレス金型モデルに玉成するため複数回のシミュレーション作業を繰り返すCAE見込み工程と、
前記CAE見込み工程で得られた量産用プレス金型モデルと前記仮想トライ用プレス装置モデルを用いて、前記トライ用プレス装置による前記製品のプレス成形におけるトライ用製品形状を準備するトライ基準作成工程と、
を備えるプレス金型の製造方法。
【請求項5】
プレス装置の金型配置エリア内に複数配置されるロードセルと、
前記ロードセルの高さを変更することにより前記ロードセルに掛かる荷重を調整可能に形成される荷重調整手段と、
前記ロードセルからの荷重出力と、前記荷重調整手段の調整量から、荷重とプレス変形量との関係を示す変形量シートを作成する変形量シート作成装置と、
を備えるプレス金型の製造装置。
【請求項6】
前記変形量シート作成装置により作成された前記変形量シートに基づいて仮想プレス装置モデルを作成する仮想プレス装置モデル作成装置を備える、請求項5に記載のプレス金型の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形用のプレス金型の製造方法及びプレス金型の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プレス金型は、当該プレス金型によるプレス成形品の量産の前に、良品を生産できるように金型トライアル(試験的なプレス成形によるプレス製品の製造)が行われる。この金型トライアルでは、良品を得るためにプレス金型の調整が行われる。この金型トライアルは、一般に、量産用のプレス装置とは別の金型トライアル用のプレス装置を用いて行われる。金型トライアルに量産用のプレス装置を用いると、量産用のプレス装置において現状行われているプレス成形品の量産を停止することとなり、現に生産を行っているプレス成形品の製造計画や製造コストに多大な影響を及ぼすからである。
【0003】
しかしながら、金型トライアル用のプレス装置と、量産用のプレス装置とでは、プレス成形時におけるフレームやボルスタ等のたわみ(ひずみ量)に機差が有り、そのため、金型トライアル用のプレス装置で良品が得られるようにプレス金型を調整し、このプレス金型を量産用のプレス装置に取り付けてプレス成形しても良品が得られず、再度、プレス金型の調整が必要となることがある。そこで、特許文献1では、量産用のプレス装置(模擬対象プレス)のボルスタやスライドで発生するたわみを、金型トライアル用のプレス装置(機差模擬プレス)で模擬するため、金型トライアル用のプレス装置に剛性を調整する機構を設けて、量産用のプレス装置のたわみを目標たわみとして、金型トライアル用のプレス装置のたわみを目標たわみになるようにするプレス金型の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレス装置の剛性の調整には、プレス成形に掛かるエネルギーに加えて、プレス装置の剛性を調整するため、更にエネルギーが消費されることとなる。よって、金型トライアル用のプレス装置と量産用のプレス装置の機差による影響をプレス金型の調整で解消できれば、プレス成形以外の多大なエネルギー消費を避けることが可能と考えられる。しかしながら、従来のプレス金型の製造方法では、金型トライアル用のプレス装置と量産用のプレス装置の機差による影響を少なくすることができるのみで、当該機差を把握できず、よって金型トライアル用のプレス装置と量産用のプレス装置の機差による影響をプレス金型の製造段階で解消することができなかった。
【0006】
本発明は、金型トライアル用のプレス装置と量産用のプレス装置の機差を把握することができるプレス金型の製造方法及びプレス金型の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの態様に係るプレス金型の製造方法は、プレス装置の金型配置エリア内に複数のロードセルを配置するロードセル配置工程と、前記プレス装置により生じる各ロードセルにおける荷重を調整する荷重調整工程と、前記荷重調整工程で得られる、各前記ロードセルに掛かる荷重と、前記荷重に対応する前記プレス装置の変形量から変形量シートを作成する変形量シート作成工程と、を備える。
【0008】
本発明の一つの態様に係るプレス金型の製造方法は、荷重とプレス装置の変形量との関係を示す変形量シートであって、トライ用プレス装置についての前記変形量シートであるトライ用プレス変形量シートを作成するトライ用プレス変形量シート作成工程と、前記トライ用プレス変形量シートに基づいて仮想トライ用プレス装置モデルを作成する仮想トライ用プレス装置モデル作成工程と、量産用プレス装置についての前記変形量シートである量産用プレス変形量シートを作成する量産用プレス変形量シート作成工程と、前記量産用プレス変形量シートに基づいて仮想量産用プレス装置モデルを作成する仮想量産用プレス装置モデル作成工程と、前記仮想量産用プレス装置モデルと製品の形状を転写したプレス金型モデルを用いて、良品が得られる量産用プレス金型モデルに玉成するため複数回のシミュレーション作業を繰り返すCAE見込み工程と、前記CAE見込み工程で得られた量産用プレス金型モデルと前記仮想トライ用プレス装置モデルを用いて、前記トライ用プレス装置による前記製品のプレス成形におけるトライ用製品形状を準備するトライ基準作成工程と、を備える。
【0009】
本発明の一つの態様に係るプレス金型の製造装置は、プレス装置の金型配置エリア内に複数配置されるロードセルと、前記ロードセルの高さを変更することにより前記ロードセルに掛かる荷重を調整可能に形成される荷重調整手段と、前記ロードセルからの荷重出力と、前記荷重調整手段の調整量から、荷重とプレス変形量との関係を示す変形量シートを作成する変形量シート作成装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金型トライアル用のプレス装置と量産用のプレス装置の機差を把握することができるプレス金型の製造方法及びプレス金型の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法を含む、プレス金型のモデリング及び設計からプレス成形品の量産までの工程を示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法における、トライ基準の作成の工程を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造装置におけるシステムを示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造装置に係るロードセルが設けられたプレス装置の正面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造装置係るロードセルが設けられたプレス装置をボルスタ上面から見た平面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法において、スライドとボルスタの変形を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法における荷重調整工程を説明するための図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法における変形量シートの一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法における仮想プレス装置モデルを示す斜視図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係るプレス金型の製造装置のロードセルが設けられたプレス装置をボルスタ上面から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、図に基づいて説明する。本発明は、プレス金型の製造方法と、その製造装置に関し、より具体的には、金型トライ用のプレス装置(以下、「トライ用プレス装置」という。)と量産用のプレス装置(以下、「量産用プレス装置」という。)の機差を把握し、トライ用プレス装置と量産用プレス装置の機差による影響を解消することで、プレス金型の調整時間を短縮することができるものである。ここで、プレス金型とは、プレス装置(プレス機械、サーボプレス、油圧プレス等を含む)によりプレス成形するための金型である。
【0013】
また、トライ用プレス装置は、量産用プレス装置とは異なるプレス装置である。量産用プレス装置は、長時間継続するプレス成形に耐え得るように高い剛性を備えたプレス装置が用いられることがある。一方で、トライ用プレス装置は、汎用的なプレス装置が用いられることがある。よって両者には、プレス成形時(すなわち、荷重発生時)において、フレームや、プレス金型の取付部(スライドやボルスタ)に生じるたわみ(ひずみ量)が異なること、すなわち機差が存在する。
【0014】
図1のフローチャートは、本発明に係るプレス金型の製造方法を含み、プレス金型のモデリング及び設計からプレス製品の量産までの工程を示している。以下、
図1の各工程について説明する。
【0015】
量産用プレス変形量シート作成工程(ステップST10);本工程では、量産用プレス装置についての変形量シートである量産用プレス変形量シートを作成する。詳細は後述する。
【0016】
仮想量産用プレス装置モデル作成工程(ステップST20);本工程では、ステップST10で作成した量産用プレス変形量シートに基づいて仮想量産用プレス装置モデルを作成する。詳細は後述する。
【0017】
CAE見込み工程(金型モデリング及び設計)(ステップST30);本工程では、ステップST20で作成した仮想量産用プレス装置モデルと、プレス成形品であるプレス製品(以下、単に「製品」ともいう。)の形状を転写したプレス金型モデル(以下、「転写プレス金型モデル」ともいう。)を用いて、このプレス金型モデルを、良品が得られる量産用のプレス金型モデル(以下、「量産用プレス金型モデル」ともいう。)に玉成するため、CAE(computer aided engineering)により、複数回のシミュレーション作業を繰り返す。具体的には、量産用のプレス金型を製造(加工)するための量産用プレス金型モデルのモデリングと型構造の設計を行う。量産用プレス金型モデルのモデリングは、目的とするプレス成形品の形状寸法に納まるまで後に説明する仮想量産用プレス装置モデルを用いて転写プレス金型モデルの金型意匠面のモデリングを変更し、CAEにより良品が得られるであろう量産用プレス金型モデル形状の玉成作業が行われる。なお、本工程とは別の工程(トライ基準作成工程、
図2のステップST120)にて、良品が得られるであろう量産用プレス金型モデルと、後に説明する仮想トライ用プレス装置モデルを用いて、実際のトライ用プレス装置を用いたトライアルを行った時に成形されるであろうプレス成形品の形状もCAEにて確認し、トライ用プレス装置でプレス成形した製品の形状(トライ用製品形状)をトライ基準として準備しておく。
【0018】
金型加工工程(ステップST40);本工程では、ステップST30で玉成された良品が得られる量産用プレス金型モデルに基づいて、金型用の材料を加工して、プレス金型を作製する。
【0019】
トライ用プレス装置工程(ステップST50);本工程では、金型トライアルとして、金型加工工程(ステップST40)で作製したプレス金型をトライ用プレス装置に取り付けてプレス成形を行う。
【0020】
トライ基準に適合するか否かの判定(ステップST60);本工程では、トライ用プレス装置におけるプレス成形品(製品形状、製品寸法)がトライ基準に適合しているか否かを判定する。トライ基準に適合していない場合には、プレス金型を調整(金型修正工程、ステップST65)し、再度、トライ基準に適合しているか否かを判定し、適合するまでこれを繰り返す。その後、このトライ基準を満たすプレス金型を用いて量産用プレス装置でプレス成形すれば、即座に製品基準を満たすプレス成形品を得られる。
【0021】
量産用プレス装置による量産工程(ステップST70);本工程では、ステップST60の判定により、トライ基準に適合したプレス金型を量産用プレス装置に取り付けて、製品を量産するためのプレス成形を行う。
【0022】
ここで、ステップST60の適合判定に用いられるトライ基準は、
図2に示すフローチャートに従って作成することができる。
【0023】
トライ基準の作成には、ステップST100トライ用プレス装置の変形量シートが作成され、ステップST110で仮想トライ用プレス装置モデルが作成される。一方、前述の通り、
図1のステップST10では、量産用プレス装置の変形量シートが作成され、ステップST20では仮想量産用プレス装置モデルが作成される。以下では、変形量シートの作成と、仮想プレス装置モデルについて説明する。なお、変形量シートとは、荷重とプレス変形量との関係を示すものである。また、仮想プレス装置モデルとは、変形量シートに基づいて作成されることにより、変形量シートに従って変形する3D-CADのモデルである。トライ用プレス装置について作成された変形量シートをトライ用プレス変形量シートといい、量産用プレス装置について作成された変形量シートを量産用プレス変形量シートという。また、トライ用プレス変形量シートに基づいて作成した仮想プレス装置モデルを仮想トライ用プレス装置モデルといい、量産用プレス変形量シートに基づいて作成した仮想プレス装置モデルを仮想トライ用プレス装置モデルという。
【0024】
変形量シートや仮想プレス装置モデルの作成は、
図3に示すシステム100を用いて行われる。
図3において、プレス装置10は、スライド20と、ベッド30と、ボルスタ40を備える。なお、
図3のプレス装置10は、スライド20を駆動する駆動機構やフレーム等は図示が省略されている。システム100のプレス装置10のボルスタ40の上面には、複数のロードセル50が配置されている。本実施形態においては、各ロードセル50には、荷重調整手段として調整用のシム55が載置される。調整内容によっては、シム55が載置されないロードセル50もある。
【0025】
ここで、ロードセル50は、円柱状とされ、プレス装置10により荷重が負荷されても破損しない剛性を備え、外周面にはひずみゲージが貼られて設けられるものである。複数のロードセル50は、同じ高さに揃えられている。ロードセル50は、ボルスタ40の上面に載置され、ボルト等による固定は必要としない。ロードセル50の上面には、シム55を配置することができる。シム55は、種々の厚みのシム55を複数準備しておく。なお、ロードセル50は、他の形式の公知のロードセルを用いることができる。また、シム55に換えて、他の荷重調整手段、例えば、高さを異ならせたロードセル50や、ロードセル50の高さを変更可能な構造とすることもできる。
【0026】
システム100は、ロードセル50で検出した荷重を出力する荷重検出装置110を有する。荷重検出装置110は、例えば、データロガー等が用いられる。また、システム100は、荷重検出装置110と接続する変形量シート作成装置120と、変形量シート作成装置120と接続する仮想プレス装置モデル作成装置130と、仮想プレス装置モデル作成装置130と接続する解析装置140とを有する。プレス金型の製造装置は、複数のロードセル50と、複数のシム55である荷重調整手段と、荷重検出装置110と、変形量シート作成装置120、仮想プレス装置モデル作成装置130、解析装置140とを有する。
【0027】
変形量シート作成装置120は、荷重検出装置110から出力される荷重と、別途入力されるシム量から変形量シートDM(
図8参照)を作成することができる。仮想プレス装置モデル作成装置130は、変形量シート作成装置120により作製された変形量シートDMから仮想プレス装置モデル10M(
図9参照)を作成することができる。解析装置140は、仮想プレス装置モデル作成装置130により作成した仮想プレス装置モデル10Mを用いてCAEによる解析を行うことができる。変形量シート作成装置120、仮想プレス装置モデル作成装置130、解析装置140は、それぞれ、又は組み合わせた機能部(アプリケーションソフトウェア)を備えるPC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータにより構成することができる。
【0028】
変形量シートの作成について、
図4~
図8に基づいて説明する。変形量シートを作成するには、まず
図4、
図5に示すように、プレス装置10の金型配置エリアD1(
図5参照)内に複数のロードセル50を配置する、ロードセル配置工程を行う。ここでは、ボルスタ40の上面に固定されるプレス金型の下型の範囲を金型配置エリアD1として、この金型配置エリアD1内に、8個のロードセル50を置く。
【0029】
本実施形態においては、複数のロードセル50は8個であり、ボルスタ40の前後方向の中心線CLR(
図5参照)に沿って、左右対称の間隔で配置される。8個のロードセル50は、
図4、
図5の右から順に、LC1~LC8の番号を付す。
【0030】
ロードセル配置工程の次に、荷重調整工程を行う。荷重調整工程は、まず、ロードセル50が配置されたプレス装置10で、ロードセル50にシム55を載置しないでスライド20を下降させ、スライド20の下面と各ロードセル50の上面を当接させて、各ロードセル50を加圧する。各ロードセル50に掛かる荷重は、荷重検出装置110から出力される。
【0031】
各ロードセル50に掛かる荷重は、圧縮荷重を計測するロードセル50毎に異なる。
図6には、例として、スライド20A、ボルスタ40Aを備える、2ポイントのプレス機械としてのプレス装置10Aにより、3個のロードセル50A,50Bに荷重が掛けられた様子を模式的に示している。このとき、プレス装置10Aでは、スライド20Aが上側に凸状に湾曲し、ボルスタ40Aが下側に凸状に湾曲する。すると、スライド20Aの下面は、中央のロードセル50Aには軽く当接し、左右のロードセル50Bには強く当接する。従って、中央部分のロードセル50Aの荷重は、左右のロードセル50Bよりも低くなる。
【0032】
そこで、中央部分のロードセル50Aに所定のシム量のシム55Aを配置して、スライド20Aがロードセル50Aに当接する強さを、左右のロードセル50Bと同程度となるよう調整する。このようにして、プレス装置10Aにより生じる各ロードセル50A,50Bにおける荷重を略均一とするよう調整することができる。そして、このときのシム量(ここでは、シム55Aの厚み)が、そのときロードセル50Aに掛かる荷重に対するプレス変形量及び荷重調整手段における調整量となる。なお、シムによる荷重の調整には、シムを配置しないことも含まれる(シムを配置しないでもよい場合がある)。このようにして、荷重調整工程では、プレス装置10Aにより生じるロードセル50における荷重を調整することで、当該荷重が掛かったときのプレス装置10Aの変形量を取得することができる。
【0033】
図4、
図5に示すプレス装置10における荷重調整工程の具体例を
図7に示す。例えば、公称能力が3000kNのプレス装置10において、公称能力の20%の600kNの加圧能力を発揮できるようにプレス装置10を設定したとき、各ロードセル50に生じる荷重が、シム55を配置しない場合に、
LC1=150kN、LC2=50kN、LC3=40kN、LC4=35kN、LC5=20kN、LC6=35kN、LC7=75kN、LC8=140kN
であるときに、各ロードセル50に、以下のシム量(厚み)のシム55を配置する。
LC1;0mm(シム55を配置しない)
LC2;0.06mm
LC3;0.08mm
LC4;0.13mm
LC5;0.14mm
LC6;0.11mm
LC7;0.07mm
LC8;0.01mm
【0034】
すると、各ロードセル50に生じる荷重が、
LC1=80kN、LC2=85kN、LC3=80kN、LC4=75kN、LC5=80kN、LC6=85kN、LC7=80kN、LC8=75kN、
となった。このようにして、種々のシム量のシム55を用いることにより、プレス装置10により生じる各ロードセル50における荷重を略均一とするよう調整する。荷重の略均一の程度は、プレス装置10の能力や、目的とするプレス成形品の形状等によって設定することができる。例えば、各ロードセル50に生じる最大荷重と最小荷重の差がプレス装置10で設定した加圧能力の約5%以内であれば、略均一と判断することができる。
【0035】
荷重調整工程は、プレス装置10の加圧力を変更して複数行う。例えば、プレス装置10の公称能力の20%、30%、40%の加圧力が発生するよう設定して、それぞれについて荷重調整工程を行う。プレス装置10の加圧力の変更は、例えば、プレス機械であれば高さが異なるロードセル50を用いて行うことができる。また、下死点位置を変更することができるプレス機械やサーボプレス、油圧プレス等では、スライド20の下死点位置を変更することで、加圧力を変更することができる。なお、各ロードセル50における荷重の調整は、略均一とすることに限られず、種々の目的、条件等によって、任意に設定することができる。
【0036】
荷重調整工程の次に、変形量シート作成工程を行う。変形量シート作成工程では、各ロードセル50(LC1~LC8)に掛かる荷重と、各ロードセル50に配置したシム55のシム量(すなわち、荷重調整工程で得られる、各ロードセル50に掛かる荷重と、当該荷重に対応するプレス装置10の変形量)から、
図8に示すような変形量シートDMを作成する。変形量シートDMは、横軸を荷重(kN)、縦軸をプレス変形量(mm)(シム量(mm))として、各ロードセル50において検出した荷重が生じたときのシム量をプロットすることで作成することができる。変形量シート作成装置120は、各ロードセル50における荷重とシム量をスプレッドシート等に入力することで、グラフ化された変形量シートDMを作成することができる。
【0037】
なお、変形量シートDMのグラフは、
図8のように直線的なものだけではなく、プレス装置10の特性に応じて、曲線として表される場合もある。
【0038】
変形量シート作成工程の次に、仮想プレス装置モデル作成工程を行う。仮想プレス装置モデル作成工程では、作成した変形量シートDMに基づいて、
図9に示すような仮想プレス装置モデル10Mを作成する。仮想プレス装置モデル10Mは、変形量シート作成装置120から変形量シートDMが入力された仮想プレス装置モデル作成装置130により、3D-CADデータや縦横の厚み等の数値データなどのデジタルデータとして作成される。
【0039】
仮想プレス装置モデル10Mは、例えば、スライド部20M、ボルスタ部40Mを有する。スライド部20Mには、プレス金型モデル70Mの上型部71Mを取り付けることができる。ボルスタ部40Mには、プレス金型モデル70Mの下型部72Mを取り付けることができる。
【0040】
仮想プレス装置モデル10Mは、プレス装置10のスライド20、ボルスタ40の弾性変形モデルであり、直方体状のスライド部20M、ボルスタ部40Mのみを有する簡単な構成とすることができる。仮想プレス装置モデル10Mは、変形量シートDMに基づいて作成されているため、解析装置140において所定荷重を加える等して応力解析のCAEを行うことにより、変形量シートDMに対応して変形する(すなわち、プレス装置10と同様に弾性変形する)3D-CADや数値データ等のデジタルデータとされる。
【0041】
解析装置140は、仮想量産用プレス装置モデルを用い、転写プレス金型モデルの金型意匠面のモデリングを変更しながら良品が得られる量産用プレス金型モデルをCAEを用いて玉成させ(
図1のステップST30)、その後、仮想トライ用プレス装置モデルと玉成された良品が得られる量産用プレス金型モデルを用いて、トライ基準であるトライ製品の形状や寸法をCAE結果として準備することができる(
図2のステップST130)。
【0042】
図1のステップST10では、変形量シート作成装置120により、量産用プレス装置についての変形量シート(量産用プレス変形量シート)を作成する。そして、
図1のステップST20では、仮想プレス装置モデル作成装置130により、ステップST10で作成した変形量シート(量産用プレス変形量シート)に基づいて仮想量産用プレス装置モデルを作成する。この仮想量産用プレス装置モデルを用いて、解析装置140により、CAE見込み工程(ステップST40)が行われ、量産用プレス金型モデルが作成される。
【0043】
一方、トライ基準を作成する際には、
図2に示すように、トライ用プレス装置について、変形量シート作成装置120により、トライ用プレス装置の変形量シート(トライ用プレス変形量シート)を作成する(トライ用プレス変形量シート作成工程、ステップST100)。そして、トライ用プレス変形量シート作成工程で作成したトライ用プレス変形量シートに基づいて、仮想プレス装置モデル作成装置130により、トライ用プレス装置の仮想プレス装置モデル(仮想トライ用プレス装置モデル)を作成する(仮想トライ用プレス装置モデル作成工程、ステップST110)。
【0044】
なお、仮想量産用プレス装置モデルにプレス金型モデルを取り付けて解析装置140で解析した結果(荷重分布や製品の形状寸法(製品形状))は、
図1のステップST70で量産用プレス装置でプレス成形した製品の製品基準とすることもできる。製品基準は、目的とする製品の形状寸法のみを基準とすることもできる。
【0045】
次に、トライ基準作成工程として、
図1のステップST30のCAE見込み工程で作成した良品が得られる量産用プレス金型モデルと、
図2のステップST110の仮想トライ用プレス装置モデル作成工程で作成した仮想トライ用プレス装置モデルを用いて、解析装置140によりCAEを行い(ステップST120)、トライ用プレス装置によるプレス成形における製品形状(トライ用製品形状)を準備してトライ基準とすることで、トライ基準が完成する(ステップST130)。
【0046】
図1に戻り、トライ用プレス装置工程(ステップST30)では、トライ用プレス装置に、ステップST40で作成した実際のプレス金型(量産用プレス金型モデルに基づいて作成したプレス金型)を取り付けて、プレス成形し、このプレス成形品がトライ基準に適合するようにプレス金型を調整(修正)する(ステップST65)。この場合のプレス金型の調整は、シミュレーション(トライ用製品形状として示されるトライ基準)と、実際のトライ用プレス装置によるプレス成形とのギャップが生じた場合等に行われ、プレス金型の意匠面の加工の調整も含まれる。トライ用プレス装置におけるプレス成形がトライ基準に適合することが確認できれば、その後は前述の通り、ステップST70の工程が行われ、プレス成形品が量産される。
【0047】
ここで、トライ基準は、製品基準と異なる基準とされる。すなわち、トライ基準を満たすように調整されたプレス金型は、量産用プレス装置に取り付けてプレス成形を行うことで、即座に製品基準に適合するプレス成形を行うことができるものである。従って、トライ用プレス装置に、トライ基準を満たすプレス金型を取り付けてプレス成形しても、製品基準を満たすプレス成形品を得ることはできない。
【0048】
従来は、トライ用プレス装置における金型トライアルにおいても、良品が得られるようにプレス金型を調整していた。従って、トライ用プレス装置と量産用プレス装置の機差により、トライ用プレス装置による金型トライアルが完了したプレス金型であっても、再度量産用プレス装置による調整が必要であった。本発明では、トライ用プレス装置による金型トライアルは、トライ基準に合致するプレス成形品を満たすようにプレス金型を調整すればよく、トライ基準に合致するプレス成形を行うことができるよう調整されたプレス金型は、即座に量産用プレス装置で製品基準を満たすプレス成形を行うことができる。よって、トライ基準を満たすプレス金型は、トライ用プレス装置と量産用プレス装置の機差による影響を解消したプレス金型である。
【0049】
このように、本発明では、異なる2つのプレス装置(トライ用プレス装置と量産用プレス装置)に対してそれぞれ仮想プレス装置モデル10Mを作成し、1つのプレス金型モデル70Mと、作成した2つの仮想プレス装置モデル10Mにより、各プレス装置の製品形状を設定する。これにより、一方のプレス装置でプレス成形した場合には、一方の仮想プレス装置モデル10Mとプレス金型モデル70Mとで作成した製品形状を満たすように実際のプレス金型を調整すればよく、そうすれば、他方のプレス装置でプレス成形した場合のプレス成形品は、他方の製品形状を満たすものとなる。よって、異なる2つのプレス装置の機差を把握して、当該機差による影響を解消したプレス金型を金型トライアルの段階で完成させることができるので、プレス金型の製造に掛かる時間を大幅に削減することができる。
【0050】
なお、当然に、仮想トライ用プレス装置モデル及び仮想量産用プレス装置モデルを作成しておけば、別のプレス金型の製造の際に利用することができるので、再度のトライ用プレス変形量シート及び量産用プレス変形量シートの作成は省略することができる。
【0051】
なお、仮想プレス装置モデルに換えて、各プレス装置(トライ用プレス装置や量産用プレス装置)の3D-CADデータを用いることも考えられるが、プレス装置の構造は一般に複雑であり、よってCAEによる解析時間も多大に掛かることから、簡単な部品形状からなる仮想プレス装置モデル10Mを用いる本発明では、よりプレス金型の製造に掛かる時間を削減することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は本実施形態によって限定されることはなく、種々の変更を加えて実施することができる。例えば、システム100におけるロードセル50は、直線的に配置された複数のロードセル50に限られず、
図10に示すように、格子状に設けられたものや、任意の位置に配置されたものを用いることができる。
【0053】
以上の本発明の実施形態によれば、プレス金型の製造方法は、プレス装置10の金型配置エリアD1内に複数のロードセル50を配置するロードセル配置工程と、ロードセル50にシム55を配置する等して、プレス装置10により生じる各ロードセル50における荷重を調整する荷重調整工程と、荷重調整工程で得られる、各ロードセル50に掛かる荷重と、各ロードセル50に配置したシム55のシム量(当該荷重に対応するプレス装置10の変形量)から変形量シートDMを作成する変形量シート作成工程と、を備える。
【0054】
これにより、変形量シートをトライ用プレス装置と量産用プレス装置のそれぞれに作成して、両者の機差を把握することができる。
【0055】
また、プレス金型の製造方法は、変形量シート作成工程で作成した変形量シートDMに基づいて仮想プレス装置モデル10Mを作成する仮想プレス装置モデル作成工程と、を備える。これにより、構造が複雑な各プレス装置(トライ用プレス装置、量産用プレス装置)の3D-CADデータを用いることなく、単純な構成の仮想プレス装置モデル10Mを作成して、CAEの負荷を低減することができる。
【0056】
また、プレス金型の製造方法は、2つのプレス装置であるトライ用プレス装置、量産用プレス装置に対してそれぞれ仮想プレス装置モデルを作成し、1つのプレス金型モデルと、作成した2つの仮想プレス装置モデルにより、プレス装置毎の製品形状を設定する。これにより、トライ基準と、製品基準を作成することができる。
【0057】
また、プレス金型の製造方法は、トライ用プレス装置及び量産用プレス装置それぞれの変形量シート、仮想プレス装置モデルを作成する工程を有し、量産用プレス装置の仮想量産用プレス装置モデルを用いて量産用プレス金型モデルを作成する工程(CAE見込み工程)と、量産用プレス金型モデルとトライ用プレス装置の仮想トライ用プレス装置モデルを用いて、トライ用製品形状を準備するトライ基準作成工程と、を備える。
【0058】
なお、トライ用プレス変形量シート作成工程(
図2のステップST100)及び仮想トライ用プレス装置モデル作成工程(
図2のステップST110)と、量産用プレス変形量シート作成工程(
図1のステップST10)及び仮想量産用プレス装置モデル作成工程(
図1のステップST20)は、同時に行っても良い。トライ用プレス変形量シート作成工程(
図2のステップST100)及び仮想トライ用プレス装置モデル作成工程(
図2のステップST110)は、トライ用プレス装置工程(ステップST50)より前に行っていればよい。
【0059】
また、プレス金型の製造装置は、プレス装置10の金型配置エリアD1内に複数配置されるロードセル50と、各ロードセル50に配置可能に設けられる複数のシム55のように各ロードセル50の高さを変更することによりロードセル50に掛かる荷重を調整可能に形成される荷重調整手段と、各ロードセル50からの荷重出力と、ロードセル50に配置されたシム55のシム量(荷重調整手段の調整量)から、荷重とプレス変形量(シム量)との関係を示す変形量シートを作成する変形量シート作成装置120と、を備える。これにより、トライ用プレス装置と量産用プレス装置の機差を把握することができるプレス金型の製造装置を提供することができる。
【0060】
また、プレス金型の製造装置は、変形量シート作成装置120により作成された変形量シートDMに基づいて仮想プレス装置モデル10Mを作成する仮想プレス装置モデル作成装置を備える。これにより、構造簡単な仮想プレス装置モデル10Mにより応力解析等の解析を行うことができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は本実施形態によって限定されることはなく、種々の変更を加えて実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 プレス装置 10A プレス装置
10M 仮想プレス装置モデル 20 スライド
20A スライド 20M スライド部
30 ベッド 40 ボルスタ
40A ボルスタ 40M ボルスタ部
50 ロードセル 50A ロードセル
50B ロードセル 55 シム
55A シム 70M プレス金型モデル
71M 上型部 72M 下型部
75M プレス成形品モデル 100 システム
110 荷重検出装置 120 変形量シート作成装置
130 仮想プレス装置モデル作成装置 140 解析装置
D1 金型配置エリア DM 変形量シート