(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089693
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】鍵盤楽器及び鍵盤楽器の製造方法
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20240627BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G10B3/12 100
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205031
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 弘和
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
(57)【要約】
【課題】見栄え良く取付部材を取り付けた複数の鍵を備える鍵盤楽器及び鍵盤楽器の製造方法を提供する。
【解決手段】鍵盤楽器10は、天面である天板301の上面301p及び側面303を備える鍵ベース部材300と、側面303側に設けられている取付部材である第1取付部材310、第2取付部材320と、側面303側に設けられ、取付部材によって押し込まれている場合に、取付部材側に向けて付勢力が生じるよう調整された調整部370と、を有する鍵を備える。また、調整部370は、取付部材の厚さが厚いほど取付部材側に向けた突出量が減衰されるよう調整されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天面及び側面を備える鍵ベース部材と、
前記側面側に設けられている取付部材と、
前記鍵ベース部材の前記側面側に設けられ、前記取付部材によって押し込まれている場合に、前記取付部材側に向けて付勢力が生じるよう調整された調整部と、
を有する、
鍵を備える鍵盤楽器。
【請求項2】
天面及び側面を備える鍵ベース部材と、
前記側面側に設けられている取付部材と、
前記鍵ベース部材の前記側面側に設けられ、取り付けられる前記取付部材の厚さが厚いほど前記取付部材側に向けた突出量が減衰されるよう調整された調整部と、
を有する、
鍵を備える鍵盤楽器。
【請求項3】
前記側面は、前記側面から窪む凹部が設けられている、請求項1又は請求項2に記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記鍵ベース部材は、前記側面の下側に突出しているスイッチ押圧部を備え、
前記凹部は、前記側面の外縁近傍に溝状に設けられていると共に、前記スイッチ押圧部に対応する位置で、前記スイッチ押圧部から離間するよう側面視凸状に設けられている、請求項3に記載の鍵盤楽器。
【請求項5】
前記鍵ベース部材は、前記側面の下側に突出しているスイッチ押圧部を備え、
前記凹部は、前記スイッチ押圧部に対応する位置で幅広に設けられている、請求項3に記載の鍵盤楽器。
【請求項6】
前記調整部は、前記側面にU字状に切り欠かれた板バネに設けられている、請求項1又は請求項2に記載の鍵盤楽器。
【請求項7】
前記板バネは、前記鍵ベース部材の長手方向に長く設けられている、請求項6に記載の鍵盤楽器。
【請求項8】
天面及び側面を備え、前記側面側には弾発可能な調整部が設けられている鍵ベース部材の前記側面側或いは取付部材側に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記取付部材を前記側面に配置する取付部材配置工程と、
前記天面に対応して前記鍵ベース部材に対向して設けられている側縁に、それぞれ工具面を当接して前記取付部材を前記側面に圧着する圧着工程と、
を有する鍵盤楽器の製造方法。
【請求項9】
前記調整部は、前記取付部材によって押し込まれている場合に、前記取付部材側に向けて付勢力が生じるよう調整可能である、請求項8記載の鍵盤楽器の製造方法。
【請求項10】
前記調整部は、取り付けられる前記取付部材の厚さが厚いほど前記取付部材側に向けた突出量が減衰されるよう調整可能である、請求項8記載の鍵盤楽器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器及び鍵盤楽器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鍵ベース部材の側面に木目調部材や木質部材等の取付部材を取り付けた鍵を備える鍵盤楽器が提案されている。例えば、特許文献1では、鍵ベース部材の天板の幅が広い幅広部に対応して、板状の木質部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
取付部材は、その側面と、鍵ベース部材の天面の側縁とが同一平面に位置するように鍵ベース部材に取り付けることで、見栄えの良い鍵とすることができる。しかしながら、取付部材には、厚み方向に製造上の誤差がある。従って、鍵ベース部材の側面に取り付けられた取付部材の側面は、鍵ベース部材の天面の側縁から僅かに突出していたり凹んでいたりすることがある。そうすると、このような鍵が複数設けられる鍵盤楽器の鍵盤は、見栄えの悪いものとなってしまうことがあった。
【0005】
本発明は、見栄え良く取付部材を取り付けた複数の鍵を備える鍵盤楽器及び鍵盤楽器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鍵盤楽器は、天面及び側面を備える鍵ベース部材と、前記側面側に設けられている取付部材と、前記鍵ベース部材の前記側面側に設けられ、前記取付部材によって押し込まれている場合に、前記取付部材側に向けて付勢力が生じるよう調整された調整部と、を有する、鍵を備える。
【0007】
本発明に係る鍵盤楽器は、天面及び側面を備える鍵ベース部材と、前記側面側に設けられている取付部材と、前記鍵ベース部材の前記側面側に設けられ、取り付けられる前記取付部材の厚さが厚いほど前記取付部材側に向けた突出量が減衰されるよう調整された調整部と、を有する、鍵を備える。
【0008】
本発明に係る鍵盤楽器の製造方法は、天面及び側面を備え、前記側面側には弾発可能な調整部が設けられている鍵ベース部材の前記側面側或いは取付部材側に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記取付部材を前記側面に配置する取付部材配置工程と、前記天面に対応して前記鍵ベース部材に対向して設けられている側縁に、それぞれ工具面を当接して前記取付部材を前記側面に圧着する圧着工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、見栄え良く取付部材が取り付けられた複数の鍵を備える鍵盤楽器及び鍵盤楽器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の
図1のII-II断面図である。白鍵と黒鍵は側面を示している。
【
図3】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の白鍵を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の鍵ベース部材の右側面図であり、接着剤を塗布した状態を示す。
【
図5】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の鍵ベース部材の下面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の鍵に取付部材をプレス装置で圧着している様子を示す、プレス装置を正面(鍵ベース部材の下側)から見た図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の鍵ベース部材に取付部材を取り付けた状態の下面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の鍵ベース部材の取付部材を取り付けた
図7のVIII-VIII断面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る鍵盤楽器の鍵ベース部材の取付部材を取り付けた
図7のIX-IX断面図である。
【
図10】本発明の実施形態の変形例に係る鍵盤楽器の鍵ベース部材の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1に示す鍵盤楽器10は、複数の鍵としての複数の白鍵30と複数の黒鍵40を備えるフルサイズ(88鍵)の鍵盤50と、ケース20とを備える。なお、以下の説明においては、鍵盤50の鍵の前後方向FBにおける前を前側F、鍵の前後方向FBの後を後側Bとし、鍵盤50に向かって左を左側L、右を右側Rとする。鍵盤50の鍵の配列方向LRは、左右方向である。また、鍵盤楽器10の上下方向ULにおいて上を上側Up、下を下側Loとする。本実施形態の鍵盤楽器10は、電子ピアノについて示しているが、奏者(ユーザ)の押鍵操作に応じて発音する楽器であればその他の鍵盤楽器であってもよい。
【0012】
ケース20は、左右方向を長手方向とする略長矩形板状であり、上ケース21と下ケース22に分割される。上ケース21及び下ケース22は、それぞれ樹脂材料により形成される。ケース20の内部には、基板や電源である電池等が収納される。上ケース21の左側の上面には、ボリュームや各種設定用のツマミやダイヤルを備える操作部11が設けられている。また、上ケース21の左側の前面には、イヤフォンジャック12が設けられている。
【0013】
上ケース21の左側において鍵盤50に隣接する上ケース21の上面21a及び右側において鍵盤50に隣接する上ケース21の上面21bは、後方から前方に亘って下る傾斜面とされている。また、上ケース21の中央上部に設けられる左右に長い上面21cも傾斜面とされている。また、図示しないが、上ケース21の背面には、スピーカに対応する孔部が設けられている。
【0014】
図2に示すように、ケース20は、下ケース22から立設する下ボス部23と、上ケース21から立設する上ボス部24とがボルトにより螺合接合される等して、上ケース21と下ケース22が組み合わされている。ケース20の内部には、内部ケース25が設けられている。内部ケース25は、鍵の配列方向LRに長く設けられ、
図2の断面視においては下側Loに開口側を向けた略コ字状の断面を備えている。内部ケース25には、上面に回路基板60が設けられている。回路基板60には、各白鍵30及び各黒鍵40に対応して、複数のスイッチ61が設けられている。各白鍵30及び各黒鍵40には、スイッチ61に対応する位置にスイッチ押圧部33(
図2は白鍵30のスイッチ押圧部33を示し、黒鍵40のスイッチ押圧部は不図示)が設けられている。
【0015】
内部ケース25の後方には、各白鍵30及び各黒鍵40を回動自在に支持する支持軸25aが、各白鍵30及び各黒鍵40に対応して設けられている。内部ケース25内には、各白鍵30及び各黒鍵40に対応してハンマー部材70が設けられている。ハンマー部材70は、後側Bにウェイト部71が設けられている。ウェイト部71から前側Fに延びる腕部72は、内部ケース25に設けられる支持軸25bにより回動自在に支持されている。腕部72の先端には、各白鍵30及び各黒鍵40から下側Loに延びるハンマー押圧部31(
図2は白鍵30のハンマー押圧部31を示し、黒鍵40のハンマー押圧部は不図示)に係合するハンマーキャップ73が設けられている。ハンマー押圧部31には、ハンマーキャップ73が係合する孔部31aが設けられている。また、各白鍵30には、前端部に、下側Loに延びて、先端部分が後方に突出する鉤状の規制突起32が設けられている。
【0016】
白鍵30を例に、白鍵30とハンマー部材70の動作を説明する。白鍵30を押下すると、白鍵30のハンマー押圧部31がハンマーキャップ73を押し下げる。すると、ハンマーキャップ73と支持軸25bを挟んで対向して設けられるハンマー部材70のウェイト部71は上昇する。このようにして、白鍵30は、本物のピアノと同様の重みを感じながら打鍵することができる。そして、上昇したウェイト部71は、内部ケース25に設けられるハンマー用の上クッション26に当接する。
【0017】
一方、白鍵30の押下により規制突起32は押し下げられて、規制突起32に対応して設けられる下クッション29に当接する。また白鍵30を押下したとき、白鍵30に設けられるスイッチ押圧部33によりスイッチ61が押下され、打鍵した白鍵30に対応する音が発音される。そして、白鍵30から手を離すと、ハンマー部材70のウェイト部71が下がって下クッション27に当接し、規制突起32の顎部は上クッション28と当接し、
図2の状態となる。なお、
図5に示すように、規制突起32は、板状の左規制突起32aと、板状の右規制突起32bとからなる。
【0018】
次に、白鍵30の構成について説明する。以下では、音階Bに対応するB鍵としての鍵である白鍵30を例として、
図3~
図9に基づいて説明する。
図3に示すように、白鍵30は、取付部材としての第1取付部材310及び第2取付部材320と、鍵ベース部材300とを備える。鍵ベース部材300は、樹脂の射出成形により製造されている。第1取付部材310及び第2取付部材320は、木質の部材、表面に木目調の印刷処理が施されている合成樹脂を含む木目調部材、及び外表面が木質部材で内部が合成樹脂を含む部材の多層構造部材のいずれかである。白鍵30は、第1取付部材310及び第2取付部材320が鍵ベース部材300の左右の側面303(左側面303L(
図5参照)、右側面303R)に取り付けられることで、質感が高められている。
【0019】
鍵ベース部材300には、先述のハンマー押圧部31と、規制突起32、スイッチ押圧部33が設けられている。スイッチ押圧部33は、鍵ベース部材300の側面303の下側に突出して設けられている(
図7、
図9も参照)。また、鍵ベース部材300の後端部には、ケース20の内部の内部ケース25の支持軸25aと回転自在に係合する回転孔部308が、鍵の配列方向LRに貫通するように設けられている。また、鍵ベース部材300には、左側Lに段部300aが設けられている。段部300aよりも後方側は、黒鍵40に隣接して配置される幅狭の部分であり、段部300aよりも前方側は、打鍵面を備える幅広の部分である。
【0020】
図3~
図5に示すように、鍵ベース部材300は、上面301pを天面とし、その反対側を下面301qとする天板301を備える。天板301は、段部300aから前方の幅広部301aと、段部300aから後方の幅狭部301bとを備える。天板301の前端近傍の下面301qからは、下方に延設する前板302が設けられている。前板302は、鍵の前後方向FBに板面を向けて配置され、天板301の幅広部301aと同幅に設けられている。
【0021】
図3、
図4に示すように、鍵ベース部材300の右側Rにおいて、天板301の右側Rの側縁301dと、前板302の右側Rの側縁302dは、略連続している。同様に、
図5に示すように、鍵ベース部材300の左側Lにおいて、天板301の左側Lの前側Fの側縁301c1と、前板302の左側Lの側縁302cは、略連続している。すなわち、側縁301c1,301d,302c,302dは、上面301pに対応して鍵ベース部材300に対向して設けられる。また、前板302の背面側には、規制突起32が設けられている。
【0022】
図5に示すように、鍵ベース部材300は、天板301の幅広部301aの左側Lの下面301qから垂下して設けられる左前側板305FLと、天板301の幅広部301aの右側Rの下面301qから垂下して設けられる右前側板305FRとを有する。左前側板305FL及び右前側板305FRは、鍵の前後方向FBに長く、板面を鍵の配列方向LRに向けた略長矩形板状に設けられている。
【0023】
鍵ベース部材300の幅狭部301bには、幅狭部301bに対応する下面301qから垂下して設けられる後縦板305Bが設けられている。後縦板305Bは、上下方向の長さが、左前側板305FLや右前側板305FRよりも短く設定されている。後縦板305Bは、
図9にも示すように、下端が二股状に分かれて、左側Lを左後縦板305BL、右側Rを右後縦板305BRとして中央部分に下側開放部305B1が設けられている。
【0024】
図5に示すように、左前側板305FLは、左前側板305FLの後端から右側Rに直交するよう設けられる接続板305CNを介して、左後縦板305BLを含む後縦板305Bと接続している。接続板305CNにより接続される部分は、クランク状に形成されている。鍵ベース部材300の左側面303Lは、左前側板305FLの左側面303L1と、後縦板305Bの左側面303L2とにより構成されている。
【0025】
また、右前側板305FRは、右後縦板305BRを含む後縦板305Bと接続している。また、右前側板305FRの右側面は、後縦板305Bの右側面と連続している。よって、鍵ベース部材300の右側面303Rは、右前側板305FRの右側面と後縦板305Bの右側面から成っている。
【0026】
図4に示すように、右側面303Rには、3つの調整部370が設けられている。各調整部370は、右側面303Rの主面から突出する突起状であって、略円盤状に形成されている(
図5も参照)。各調整部370は、鍵ベース部材300の長手方向(鍵の前後方向FB)に長い板バネ371の先端に設けられている。従って、調整部370は、後述する製造方法において、第2取付部材320の取付時に第2取付部材320に当接されることによって内側に押し込まれた場合に、これに抗するよう第2取付部材320側に向けて付勢力が発生するように設けられている。
【0027】
一方、調整部370は、第2取付部材320の取付時に第2取付部材320に当接されても内側に押し込まれなければ、第2取付部材320側に向けて付勢力が発生することがない。換言すれば、第2取付部材320の厚さが規定値よりも薄く、公差ずれによる下限値である場合、調整部370は、取り付け前の右側面303Rの主面から突出した状態が維持されたままで第2取付部材320と当接している。逆に第2取付部材320の厚さが下限値よりも厚い場合、調整部370が、第2取付部材320の取付時に第2取付部材320に当接されることによって内側に押し込まれるため、調整部370の突出量は、第2取付部材320の厚さが厚いほど減衰するよう調整される。
【0028】
いずれの場合であっても、すなわち、第2取付部材320(或いは第1取付部材310)の厚さにばらつきがあっても、
図8に示すように、鍵ベース部材300の右側Rにおいて、天板301の右側Rの側縁301dに対して第2取付部材320の外側面が面一になり、同様に鍵ベース部材300の左側Lにおいて、天板301の左側Lの側縁301cに対して第1取付部材310の外側面が面一になるため、白鍵30全体の幅の長さLwを一定に調整することができる。なお、白鍵30全体の幅は、本実施形態では、
図8で示す幅広部301aに対応する白鍵30の幅の他、幅狭部301bに対応する白鍵30の幅もある。板バネ371は、開口側を前側Fに向けた略U字状のスリットを、右側面303Rに貫通するように切り欠くことで設けられている。なお、板バネ371を形成するための略U字状のスリットは、開口側を後側Bに向けて設けても良い。
【0029】
3つの調整部370のうち、1つは右前側板305FRに対応する右側面303Rに設けられ、他の2つは、後縦板305Bに対応する右側面303Rに設けられている。なお、調整部370は、弾発可能に設けられていれば、板バネ371以外の付勢手段(弾性部材等)を用いることができる。
【0030】
図5に示すように、左側面303Lには、右側面303Rの各調整部370に対向する位置に、右側面303Rに設けられる調整部370と同様の調整部370が設けられている。従って、左側面303Lに設けられる3つの調整部370のうち、1つは左前側板305FLに対応する左側面303L1に設けられ、他の2つは後縦板305Bに対応する左側面303L2に設けられている。図示しないが、左側面303Lに設けられる調整部370は、右側面303Rに設けられる調整部370と同様に、板バネ371の先端に設けられている。
【0031】
図4に示すように、鍵ベース部材300の右側面303Rには、右側面303Rから窪む凹部380としての右側凹部380Rが設けられている。右側凹部380Rは、右側面303Rの外縁近傍に、右側面303Rの外形にほぼ沿うように設けられている。右側凹部380Rは、連続する凹溝として設けられている(
図8、
図9も参照)。ここで、スイッチ押圧部33に対応する右側凹部380Rの部分は、スイッチ押圧部33から離れるように右側面視略凸状とされ、スイッチ押圧部33を回避する回避部381が設けられている。
【0032】
図8、
図9に示すように、左側面303Lにも同様に凹部380とされる左側凹部380Lが設けられている。左側凹部380Lは、左前側板305FLの左側面303L1と、後縦板305Bの左側面303L2のそれぞれの外縁近傍にそれぞれの外形にほぼ沿うように設けられている。また、左側凹部380Lは、スイッチ押圧部33に対応する位置に、回避部381が設けられている。
【0033】
図3に示すように、鍵ベース部材300の左側面303Lに取り付けられる第1取付部材310は、配置される左前側板305FLの左側面303L1に対応した外形を備える前取付部材311と、後縦板305Bの左側面303L2に対応した外形を備える後取付部材312と、を有する。前取付部材311及び後取付部材312共に、鍵の前後方向FBに長い略長矩形状の板状とされている。
【0034】
鍵ベース部材300の右側面303Rに取り付けられる第2取付部材320は、配置される右側面303Rに対応した形状の1枚の板状とされている。すなわち、第2取付部材320は、右前側板305FRに対応する前側部分321と、後縦板305Bに対応し、前側部分321よりも上下方向の長さが短い後側部分322とを有し、前側部分321及び後側部分322が一体的に形成されている。
【0035】
鍵盤楽器の製造方法としての第1取付部材310及び第2取付部材320を鍵ベース部材300に取り付ける製造工程は、以下の工程を備えている。
【0036】
接着剤塗布工程;
図4に示すように、鍵ベース部材300の側面303(左側面303L、右側面303R)に接着剤Gを塗布する。接着剤Gは、調整部370が設けられる板バネ371を避けた位置の側面303に塗布することで、板バネ371の周囲の隙間から、鍵ベース部材300の内部(左前側板305FLと右前側板305FRの間や、後縦板305Bの下側開放部305B1)に接着剤Gが入り込んでしまうことが低減される。
【0037】
取付部材配置工程;取付部材(第1取付部材310、第2取付部材320)を鍵ベース部材300の側面303(左側面303L、右側面303R)に配置する。より詳細には、
図3を参照して、例えば第1取付部材310の前取付部材311は、前取付部材311の前面と前板302の背面及び前取付部材311の上面と天板301の下面301qが当接するように位置決めして、前取付部材311を左前側板305FLの左側面303L1に配置する。このとき、前取付部材311の鍵ベース部材300側の側面と、左側面303L1の調整部370とを当接させてもよい。同様に、第1取付部材310の後取付部材312は、天板301の下面301q、接続板305CNの背面と当接させて位置決めして後縦板305の左側面303L2に配置する。第2取付部材320は、天板301の下面301qや前板302の背面と当接するように位置決めして、右側面303Rに配置する。
【0038】
圧着工程;天板301の天面である上面301pに対応する左右の側縁301c,301d及び上面301pに対応する左右の側縁302c,302d(前板302の左右の側縁302c,302d)に、それぞれ工具面を当接して第1取付部材310、第2取付部材320を左側面303L、右側面303Rに圧着する。ここで、上面301pに対応する左右の側縁301c,301d及び上面301pに対応する左右の側縁302c,302dは、
図3に示すように、鍵ベース部材300について対向して設けられ、第1取付部材310及び第2取付部材320の側面を合わせたい基準位置である。また、工具面とは、
図6に示すプレス装置400におけるベース410の上面410aと、ラム420の下面420aである。
【0039】
ここで、プレス装置400は、設置面に固定して下側に設けられるベース410と、上側に設けられてベース410に対して接近離間するよう駆動されるラム420を有する。ラム420は、第1ラム421と、第2ラム422を有する。第1ラム421は、第1取付部材310の前取付部材311(幅広部301a、左前側板305FL)に対応する。第2ラム422は、第1取付部材310の後取付部材312(幅狭部301b、後縦板305B)に対応する。ラム420は、第1ラム421の下死点位置が第2ラム422の下死点位置よりも上方に位置するように設定されている。
【0040】
本工程では、先ず、ベース410の上面410aに、取付部材配置工程で第1取付部材310、第2取付部材320が配置された鍵ベース部材300を載置する。ここでは、第2取付部材320側をベース410の上面410aに載置する。このとき、ベース410の上面410aと第2取付部材320の側面が当接している。
【0041】
そして、ラム420を駆動して第1ラム421と第2ラム422が下降すると、第1ラム421の下面421aは第1取付部材310の前取付部材311の側面に当接し、第2ラム422の下面422aは後取付部材312の側面に当接する。更にラム420が下降すると、第1取付部材310(前取付部材311、後取付部材312)、第2取付部材320は、調整部370の弾発力に抗して左右の各側面303に向けて移動する。
【0042】
そして、更にラム420が下降すると、第1ラム421の下面421aは、第1取付部材310の前取付部材311の側面と当接しながら天板301の左側Lにおける前側Fの側縁301c1及び前板302の左側Lの側縁302cに当接する。第2ラム422の下面422aは、第1取付部材310の後取付部材312の側面と当接しながら天板301の左側Lにおける後側Bの側縁301c2と当接する。そして、ベース410の上面410aは、第2取付部材320の側面と当接しながら天板301の右側Rの側縁301d及び前板302の右側Rの側縁302dと当接する。
【0043】
このようにして、ベース410の上面410aとラム420の下面420a(下面421a,422a)により鍵ベース部材300が挟み込まれると、第1取付部材310、第2取付部材320は調整部370により弾発されているため、第1取付部材310及び第2取付部材320の厚み方向に誤差があっても、鍵ベース部材300の側縁301c,301d,302c,302dと第1取付部材310、第2取付部材320の外側側面とが略同じ高さに揃えられるよう調整できる。
【0044】
そして、ラム420の下降によるベース410とラム420とで白鍵30を挟み込み、所定時間保持することで、第1取付部材310、第2取付部材320と各側面303との間の隙間に接着剤Gが広がって固化し、第1取付部材310、第2取付部材320を側面303に固定することができる。
【0045】
ここで、第1取付部材310、第2取付部材320は、木質部材により形成される場合には、厚さ方向の公差が比較的大きい。しかしながら、第1取付部材310、第2取付部材320を調整部370により弾発しながらベース410とラム420とで白鍵30を挟み込むことで、
図7~
図9に示すように天板301の側縁301c,301dと第1取付部材310、第2取付部材320の外側側面を揃えることができるので、外観の美しい白鍵30を製造することができる。
【0046】
更に、第1取付部材310、第2取付部材320が側面303に向けて押し込まれる際に、第1取付部材310、第2取付部材320の厚さ方向の公差によっては、余分な接着剤Gが生じてしまうことがある。しかしながら、側面303の凹部380により、余分な接着剤Gは凹部380に流れ込むこととなる。従って、凹部380により、接着剤Gによる接着面積を増大しつつ、接着剤Gが側面303の下側に流れ、白鍵30の外観を毀損してしまうことが低減される。
【0047】
そして、凹部380は、スイッチ押圧部33に対応して回避部381が設けられるので、万が一、凹部380では余分な接着剤Gが収まらない場合であっても、スイッチ押圧部33まで所定間隔が設けられているので、接着剤Gによるスイッチ押圧部33の汚染を低減することができる。
【0048】
ここで、凹部380は、凹溝の他、側面303から窪んだ部分として設けても良い。例えば、
図10に示すように、側面303(右側面303R)の外縁近傍に段状に窪む凹部380Aとすることもできる。なお、天板301に沿う凹部380Aの部分は、天板301の下面301qを壁面とする溝状に形成される。凹部380Aにおいても、スイッチ押圧部33に対応する部分には、スイッチ押圧部33への接着剤Gの流出を低減するための回避部381Aを設けることができる。回避部381Aは、スイッチ押圧部33を回避するように他の凹部380Aよりも幅広に設けることで、接着剤Gをより多く貯留することができ、よってスイッチ押圧部33への接着剤Gの流出を低減することができる。
【0049】
また接着剤Gの塗布工程を簡略化するため、接着剤Gを、側面303において、調整部370及び板バネ371上を覆い且つ鍵の長尺方向に沿うように一繋がりに塗布してもよい。
【0050】
上記実施形態では、接着剤塗布工程において、側面303側に接着剤Gを塗布したが、第1取付部材310側及び第2取付部材320側に接着剤Gを塗布してもよく、或いは、側面303側と、第1取付部材310側及び第2取付部材320側との両方に塗布してもよい。
【0051】
なお、以上の実施形態では、B鍵を例としたが、他の音階の鍵についても同様に実施することができる。すなわち、段部300aが左右両側に設けられる白鍵30においては、本実施形態の白鍵30の左側Lの構成を左右両側に対称に適用すればよい。段部300aが設けられていない鍵では、本実施形態の白鍵30の右側Rの構成を左右両側に対称に適用すればよい。右側Rに段部300aが設けられる白鍵30では、本実施形態の白鍵30と対称の構成とすればよい。
【0052】
以上、本発明の実施形態では、鍵盤楽器10は、天面である天板301の上面301p及び側面303を備える鍵ベース部材300と、側面303側に設けられている取付部材である第1取付部材310、第2取付部材320と、側面303側に設けられ、取付部材によって押し込まれている場合に、取付部材側に向けて付勢力が生じるよう調整された調整部370と、を有する鍵を備える。また、調整部370は、取付部材の厚さが厚いほど取付部材側に向けた突出量が減衰されるよう調整されている。
【0053】
これにより、木質部材のような、厚み方向に比較的公差が大きい取付部材であっても、取付部材の側面と鍵ベース部材300の側縁301c,301d,302c,302dとが合うように取付部材を鍵ベース部材300に設け、取付部材が鍵ベース部材300の側縁301c,301d,302c,302dから突出してしまうことを低減でき、よって見栄え良く取付部材を取り付けた複数の鍵を備える鍵盤楽器10を提供することができる。
【0054】
また、側面303は、側面303から窪む凹部380,380Aが設けられている。これにより、接着剤Gにより取付部材を鍵ベース部材300の側面303に取り付ける場合であっても、鍵ベース部材300の下方等から接着剤Gがはみ出してしまうことを低減でき、よって見栄えの良い鍵を提供することができる。
【0055】
また、鍵ベース部材300は、側面303の下側に突出するスイッチ押圧部33を備え、凹部380は、側面303の外縁近傍に溝状に設けられると共に、スイッチ押圧部33に対応する位置で、スイッチ押圧部33から離間するよう側面視凸状の回避部381が設けられる。又は、凹部380Aは、スイッチ押圧部33に対応する位置で幅広に設けられる。これにより、スイッチ押圧部33への接着剤Gの付着を低減でき、鍵に対応するスイッチ61を備える電子鍵盤楽器としての鍵盤楽器10の誤動作を低減することができる。
【0056】
また、調整部370は、側面303にU字状に切り欠かれた板バネ371設けられる。これにより、弾発可能な調整部を備えた鍵ベース部材300を、樹脂材料による射出成形で一体的に成形することができる。
【0057】
また、板バネ371は、鍵ベース部材300の長手方向に長く設けられる。これにより、板バネ371の長さを調整して、調整部370の弾発力を適正なものとすることができる。
【0058】
また、鍵盤楽器の製造方法は、天板301の天面である上面301p及び側面303を備え、側面303には弾発可能な調整部370が設けられる鍵ベース部材300の側面303に接着剤Gを塗布する接着剤塗布工程と、取付部材である第1取付部材310、第2取付部材320を側面303に配置する取付部材配置工程と、鍵ベース部材300の対向する側縁301c,301d,302c,302dに、それぞれ工具面を当接して取付部材を側面303に圧着する圧着工程と、を有する。これにより、見栄えの良い鍵を備えた鍵盤楽器の製造方法を提供することができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10 鍵盤楽器 11 操作部
12 イヤフォンジャック 20 ケース
21 上ケース 21a 上面
21b 上面 21c 上面
22 下ケース 23 下ボス部
24 上ボス部 25 内部ケース
25a 支持軸 25b 支持軸
26 上クッション 27 下クッション
28 上クッション 29 下クッション
30 白鍵 31 ハンマー押圧部
31a 孔部 32 規制突起
32a 左規制突起 32b 右規制突起
33 スイッチ押圧部 40 黒鍵
50 鍵盤 60 回路基板
61 スイッチ 70 ハンマー部材
71 ウェイト部 72 腕部
73 ハンマーキャップ 300 鍵ベース部材
300a 段部 301 天板
301a 幅広部 301b 幅狭部
301c,301c1,301c2,301d 側縁
301p 上面 301q 下面
302 前板
302c,302d 側縁
303 側面 303L 左側面
303L1 左側面 303L2 左側面
303R 右側面 305 後縦板
305B 後縦板 305B1 下側開放部
305BL 左後縦板 305BR 右後縦板
305CN 接続板 305FL 左前側板
305FR 右前側板 308 回転孔部
310 第1取付部材 311 前取付部材
312 後取付部材 320 第2取付部材
321 前側部分 322 後側部分
370 調整部 371 板バネ
380 凹部 380A 凹部
380L 左側凹部 380R 右側凹部
381 回避部 381A 回避部
400 プレス装置 410 ベース
410a 上面 420 ラム
420a 下面 421 第1ラム
421a 下面 422 第2ラム
422a 下面