(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000897
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、電極膜用合材スラリー、電極膜、および二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20231226BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231226BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20231226BHJP
【FI】
C01B32/174
H01M4/139
H01M4/62 Z
C09K23/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099875
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】平林 穂波
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA04
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB35
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050CB25
5H050DA10
5H050EA10
5H050EA24
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】導電性が高く、経時安定性の良好なカーボンナノチューブ分散液であり、該カーボンナノチューブ分散液を用いた電極用合材スラリー、および電極膜により、優れたレート特性及びサイクル特性を有する二次電池を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含み、
レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定した体積基準の粒度分布曲線において、
粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲と、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲に粒度分布ピークを有し、累積粒子径D
50が4μm以上である、カーボンナノチューブ分散液により解決される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含み、
レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定した体積基準の粒度分布曲線において、
粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲と、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲に粒度分布ピークを有し、
累積粒子径D50が4μm以上である、
カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
透過型電子顕微鏡で測定したカーボンナノチューブの繊維径分布において、繊維径0.1nm以上20nm以下の範囲に少なくとも2つの繊維径分布を有する、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
0.5nm以上3nm未満の範囲である第一の繊維径分布と、3nm以上10nm以下の範囲である第二の繊維径分布を有する、請求項2記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記分散剤は、フッ素系樹脂を含む、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
カーボンナノチューブに対するフッ素系樹脂の質量比が0.1~10である、請求項4記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
前記溶媒は実質的に水を含まず、かつpHが8以上12以下である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散液と、電極活物質と、を含む電極膜用合材スラリー。
【請求項8】
請求項1~6いずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散液、または請求項7記載の電極膜用合材スラリーの塗工膜を備える電極膜。
【請求項9】
正極と、負極と、電解質と、を具備してなる二次電池であって、請求項8記載の電極膜を正極または負極の少なくとも一方に用いた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、カーボンナノチューブ分散液、電極膜用合材スラリー、電極膜、および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電気自動車及び携帯機器等のバッテリーとして広く用いられている。電気自動車及び携帯機器等の高性能化に伴い、リチウムイオン二次電池には、高容量、高出力、及び小型軽量化といった要求が年々高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質及び負極活物質に大きく依存することから、これらの電極活物質に用いるための各種材料が盛んに研究されている。しかし、実用化されている電極活物質を使用した場合の充電容量は、いずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電極膜内の電極活物質の充填量が増加すれば、単純に充電容量を増加させることができるため、充電容量には直接寄与しない導電材及びバインダー樹脂の添加量を削減することが試みられている。
【0004】
導電材は、電極膜内部で導電パスを形成したり、電極活物質の粒子間を繋いだりする役割を担っており、導電パス及び粒子間の繋がりは、電極膜の膨張収縮によって切断が生じにくいことが求められる。少ない添加量で導電パス及び粒子間の繋がりを維持するためには、導電材として比表面積が大きいナノカーボン、特にカーボンナノチューブ(CNT)を使用することで、効率的な導電ネットワークを形成することが有効である。しかし、比表面積が大きいナノカーボンは凝集力が強いため、ナノカーボンを電極用合材スラリー中及び/又は電極膜中に良好に分散させることが難しいという問題があった。
【0005】
こうした背景から、各種分散剤を用いて導電材分散液を作製し、導電材分散液を経由して電極用合材スラリーを製造する方法、或いは、カーボンナノチューブそのものの物性を工夫する方法が提案されている(特許文献1~3参照)。
【0006】
特許文献1~3では、複数の導電材を併用することで、分散時及び乾燥時の導電材の凝集を抑制したり、導電材及びバインダー樹脂の添加量を少なくしたリチウムイオン電池用電極の調製が提案されている。
また、一般に、カーボンナノチューブの外径が小さくなるほど比表面積が大きくなることから、溶媒への濡れ性が悪くなり、高濃度かつ良好な分散液を得るのが難しくなる。しかし、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブほど理想的には効率的な導電ネットワークを形成させることができることから、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブを、カーボンナノチューブ特有の導電性を担持しつつ、より具体的にはその繊維長を折ることなく活かして、良好に分散した分散液を得ることが急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-044820号公報
【特許文献2】特表2010-238575号公報
【特許文献3】特開2016-025077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3で得られる分散液中のカーボンナノチューブは繊維長が短く、導電性を維持しつつ安定にカーボンナノチューブを分散させることが充分にはできていない。さらに複数のカーボンナノチューブを併用することで、カーボンナノチューブ同士の構造粘性が高まり、経時増粘、またはゲル化する可能性がある。
【0009】
そこで本発明は、導電性が高く、経時安定性の良好なカーボンナノチューブ分散液であり、該カーボンナノチューブ分散液を用いた電極用合材スラリー、および電極膜により、優れたレート特性及びサイクル特性を有する二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討したところによると、溶媒と分散剤とカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散液であって、特定の粒度分布特性を有するカーボンナノチューブ分散液とすることで、複数のカーボンナノチューブを含む場合であっても導電性を損なわずに、経時による安定性も優れており、電極用合材スラリーを調製する際及び電極膜を製造する際にもその良好な分散状態を維持して、電極中で良好な導電ネットワークを形成することが可能となることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。
〔1〕カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含み、
レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定した体積基準の粒度分布曲線において、
粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲と、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲に粒度分布ピークを有し、
累積粒子径D50が4μm以上である、
カーボンナノチューブ分散液。
〔2〕透過型電子顕微鏡で測定したカーボンナノチューブの繊維径分布において、繊維径0.1nm以上20nm以下の範囲に少なくとも2つの繊維径分布を有する、〔1〕のカーボンナノチューブ分散液。
〔3〕0.5nm以上3nm未満の範囲である第一の繊維径分布と、3nm以上10nm以下の範囲である第二の繊維径分布を有する、請求項2記載のカーボンナノチューブ分散液。
〔4〕前記分散剤は、フッ素系樹脂を含む、〔1〕~〔3〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
〔5〕カーボンナノチューブに対するフッ素系樹脂の質量比が0.1~10である、〔1〕~〔4〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
〔6〕前記溶媒は実質的に水を含まず、かつpHが8以上12以下である、〔1〕~〔5〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
〔7〕〔1〕~〔6〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液と、電極活物質と、を含む電極用合材スラリー。
〔8〕〔1〕~〔6〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液、または〔7〕記載の電極用合材スラリーの塗工膜を備える電極膜。
〔9〕正極と、負極と、電解質と、を具備してなる二次電池であって、〔8〕記載の電極膜を正極または負極の少なくとも一方に用いた二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、導電性が高く、経時安定性の良好なカーボンナノチューブ分散液であり、該カーボンナノチューブ分散液を用いた電極用合材スラリー、および電極膜により、優れたレート特性及びサイクル特性を有する二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1におけるカーボンナノチューブ分散液の、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法における、レーザー光透過率60%での粒度分布を表すグラフであ
【
図2】
図2は、実施例1におけるカーボンナノチューブ分散液の、透過型電子顕微鏡で測定した繊維径の分布図を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態であるカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、電極用合材スラリー、電極膜、及び二次電池等について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0015】
本明細書において、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラック等の導電材を包含して「導電材」と表記することがある。カーボンナノチューブの繊維径を「外径」と表記することがある。なお、本明細書では、本明細書において、本発明の塗膜を、「電極膜」という場合がある。
【0016】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
≪カーボンナノチューブ分散液≫
本発明の実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含む。また、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定した体積基準の粒度分布曲線において、粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲と、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲に粒度分布ピークを有し、累積粒子径D50が4μm以上である。
【0018】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状であり、単層カーボンナノチューブ、又は多層カーボンナノチューブを含み、これらが混在してもよい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくてもよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブも本明細書ではカーボンナノチューブとする。
【0019】
カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状等を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0020】
カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0021】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、平均繊維径が異なる少なくとも2種のカーボンナノチューブを用いることが好ましく、具体的には、少なくとも第一のカーボンナノチューブ及び第二のカーボンナノチューブを含むことができる。
【0022】
第一のカーボンナノチューブの平均繊維径は0.1nm以上であることが好ましく、0.5nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることがより好ましい。
また、5nm未満であることが好ましく、3nm未満であることがより好ましい。
第二のカーボンナノチューブの平均繊維径は3nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。
また、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
カーボンナノチューブの平均繊維径は、透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、短軸の長さを計測し、300本のカーボンナノチューブの平均値により、算出することができる。
【0023】
具体的には、カーボンナノチューブの平均繊維径は、例えば、カーボンナノチューブの希釈液を用いて膜を形成し、直接透過型電子顕微鏡(H-7650、株式会社日立製作所社製)を用いて、5万倍の倍率で観察し、任意に抽出した300本のカーボンナノチューブの繊維径を測定し、その平均値により、算出することができる。
【0024】
第一のカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであることが好ましく、第二のカーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであることが好ましい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有し、多層カーボンナノチューブは、二層又は三層以上のグラファイトが巻かれた構造を有するものである。
【0025】
第一のカーボンナノチューブは、凝集力が強く、分散性が悪い炭素材料であり、直線性が高いことから、電極層において比較的距離が離れた活物質間の導通に寄与するが、活物質との接触確率は比較的低いものと考えられる。一方で、第二のカーボンナノチューブは、凝集力が弱く、分散性が良好な炭素材料であり、直線性が低いことから、比較的距離が近い活物質間の導通に寄与し、活物質との接触確率が比較的高いものと考えられる。
【0026】
第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率は、1:10~20:1であり、1:9~10:1であることが好ましく、1:5~5:1であることがより好ましい。上記の範囲内であることにより、分散性が良好で、活物質間の導通に優れ、活物質との接触確率が高く、また、剥離強度(密着性)に優れた電極層を形成することができるカーボンナノチューブ分散液を得ることができる。
【0027】
カーボンナノチューブの炭素純度はカーボンナノチューブ中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度はカーボンナノチューブ100質量%に対して、80質量%が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0028】
カーボンナノチューブの炭素純度は純化処理によって調整することができる。カーボンナノチューブの純化処理方法としては、従来公知の様々な方法を用いることができる。例えば、酸処理、黒鉛化処理、及び塩素化処理が挙げられる。
【0029】
カーボンナノチューブを酸処理する際に使用する酸としては、カーボンナノチューブに含まれる金属及び金属酸化物を溶解できるものであればよく、例えば、無機酸及びカルボン酸が好ましく、無機酸の中でも、塩酸、硫酸、及び硝酸が特に好ましい。カーボンナノチューブの酸処理は液相中で行われることが好ましく、液相中でカーボンナノチューブを分散及び/または混合することが更に好ましい。酸処理後のカーボンナノチューブは水洗し、乾燥することが好ましい。
【0030】
カーボンナノチューブの黒鉛化処理は、特に限定されないが、酸素濃度0.1%以下の不活性雰囲気下、カーボンナノチューブを1500℃~3500℃で加熱することにより行うことができる。
【0031】
カーボンナノチューブの塩素化処理は、特に限定されないが、例えば、酸素濃度0.1%以下の不活性雰囲気下において、塩素ガスを導入し、カーボンナノチューブを800℃~2000℃で加熱することにより行うことができる。
【0032】
カーボンナノチューブは表面又は末端が官能基又はアルキル基で修飾されていてもよく、またアルカリ金属又はハロゲンでドーピングされていてもよい。例えば、酸中で加熱することにより、カルボキシル基、スルホ基、水酸基で官能基化させてもよい。重合体(A)及び重合体(B)によって、得られるカーボンナノチューブ分散液の良好な安定性と流動性を両立できることから、カルボキシル基及びスルホ基等の酸性官能基を有さないカーボンナノチューブを使用することが好ましい。
【0033】
導電材として、更にカーボンブラック、グラファイト等の炭素材料を1種または2種以上併用して用いてもよい。これらの導電材の中でも、分散剤の吸着性能の観点からカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラック、及び黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0034】
<分散剤>
本実施形態の分散剤は、カーボンナノチューブを分散安定化できる範囲で特に限定されず、界面活性剤、樹脂型分散剤を使用することができる。界面活性剤は主にアニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性に分類される。カーボンナノチューブの分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
【0035】
アニオン性界面活性剤を選択する場合、その種類は特に限定されない。具体的には脂肪酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸スルホン酸塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル及びポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩及びβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
またカチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩類及び第四級アンモニウム塩類がある。具体的にはステアリルアミンアセテート、トリメチルヤシアンモニウムクロリド、トリメチル牛脂アンモニウムクロリド、ジメチルジオレイルアンモニウムクロリド、メチルオレイルジエタノールクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ラウリルピリジニウムジサルフェート、セチルピリジニウムブロマイド、4-アルキルメルカプトピリジン、ポリ(ビニルピリジン)-ドデシルブロマイド及びドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが挙げられるが、これらに限定されない。また両性界面活性剤としては、アミノカルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
またノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びアルキルアリルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
選択される界面活性剤は単独の界面活性剤に限定されない。このため二種以上の界面活性剤を組み合わせて使用することも可能である。例えばアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ、又はカチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが利用できる。その際の配合量は、それぞれの界面活性剤成分に対して好適な配合量とすることが好ましい。組み合わせとしてはアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが好ましい。アニオン性界面活性剤はポリカルボン酸塩であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤はポリオキシエチレンフェニルエーテルであることが好ましい。
【0039】
また樹脂型分散剤として具体的には、フッ素系樹脂、セルロース誘導体(セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル系重合体等が挙げられる。特にフッ素系樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル系重合体が好ましい。樹脂型分散剤の分子量は1万~30万であることが好ましい。
【0040】
フッ素系樹脂は、ポリエチレンの水素がフッ素またはトリフルオロメチルで置換された構造を備えるとよい。フッ素系樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等のホホモポリマー;パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキシソールコポリマー(TPE/PDD)等のコポリマー等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。フッ素系樹脂の中でも耐性面からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、これらの構造単位を有する樹脂、これらの変性体、またはこれらの組み合わせが好ましい。なかでも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく、例えば、ポリフッ化ビニリデンのホモポリマー;フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等とのコポリマー等が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は変性されていてもよく、例えばカルボキシ基等の酸性基が導入されていてもよい。フッ素系樹脂は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
フッ素系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、耐性及び密着性と樹脂粘度とをバランスよく維持するために、100,0000~5,000,000が好ましく、200,000~3,000,000がより好ましく、500,000~1,500,000がさらに好ましい。フッ素樹脂のガラス転移点は、電極膜の成膜性の観点から、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましい。
【0042】
ポリフッ化ビニリデン及びその変性体の市販品としては、例えば、株式会社クレハ製のKFポリマーシリーズ「W#7300、W#7200、W#1700、W#1300、W#1100、W#9700、W#9300、W#9100、L#7305、L#7208、L#1710、L#1320、L#1120」等、solvay製solefシリーズ「6008、6010、6012、1015、6020、5130、9007、460、41308、11010、21510、31508、60512」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0043】
分散剤の酸化耐性の観点から、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル系重合体、フッ素系樹脂が好ましい。
【0044】
これらのなかでも、分散剤は、フッ素系樹脂であることが特に好ましい。異なる粒子径分布を有する複数のカーボンナノチューブを均一に分散し安定に存在させる観点において、カーボンナノチューブへの吸着能と溶媒との親和性のバランスからフッ素系樹脂であることが好ましい。また、フッ素系樹脂はカーボンナノチューブの分散剤としてだけでなくバインダー樹脂としても機能する。フッ素系樹脂を分散剤として用いることで、他のバインダー成分や活物質を混合する合材スラリー調製工程、さらには塗工し乾燥させて塗膜化工程においても、分散液でのカーボンナノチューブの均一な分散状態を保持したまま存在させることでき、長い導電パスを形成させることができる。
また、カーボンナノチューブに対するフッ素系樹脂の質量比がカーボンナノチューブ1に対して0.1~10であることが好ましく、0.5~8であることがより好ましく、1~5であることがさらに好ましい。上記範囲であることで、優れた導電性を担持させつつ均一な分散液を得ることができる。
【0045】
また、分散剤に加えて、アミン化合物や無機塩基を加えることが好ましい。アミン化合物としては、第1アミン(1級アミン)、第2アミン(2級アミン)、第3アミン(3級アミン)が用いられ、アンモニアや第4級アンモニウム化合物は含まない。アミン系化合物は、モノアミン以外にも、分子内に複数のアミノ基を有するジアミン、トリアミン、テトラミンといったアミン系化合物を用いることができる。具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミンなどの脂肪族1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミンなどの脂肪族2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミンなどの脂肪族3級アミン、アラニン、メチオニン、プロリン、セリン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システインなどのアミノ酸、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、ピペリジンなどの脂環式含窒素複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ土類金属のリン酸塩等が挙げられる。
【0046】
分散剤の含有量は、カーボンナノチューブの分散安定性の観点から、カーボンナノチューブ100質量部に対して、10~1000質量部が好ましく、20~500質量部がより好ましい。上記範囲とすることで、分散性の異なるカーボンナノチューブ、それぞれの良好な分散状態を保つことができる。
【0047】
<溶媒>
本実施形態の溶媒は、カーボンナノチューブを分散可能なものであれば、限定されないが、水またはアミド系有機溶媒等の有機溶媒を用いることができる。
カーボンナノチューブの濡れ性の観点から、アミド系有機溶媒を用いることが好ましい。
アミド系有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなどが挙げられる。
特に、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0048】
本実施形態溶媒として有機溶媒を用いる場合、カーボンナノチューブの増粘抑制の観点から、実質的に水分を含まないことが好ましい。具体的には、水分は、カーボンナノチューブ分散液を基準として、100~3000ppmであることが好ましく、200~1500ppmであることがより好ましく、1000ppm以下が好ましい。水分が大量に含まれると、カーボンナノチューブ分散液もしくはそれを用いた電極スラリーの増粘やゲル化に悪影響を及ぼすことがあるが、この範囲にあることで、分散性の異なるカーボンナノチューブ、それぞれの良好な分散状態を保ち、カーボンナノチューブ分散液が貯蔵中に増粘するという問題を減少させることができる。
【0049】
<その他任意成分>
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、必要に応じて、湿潤剤、界面活性剤、pH調整剤、濡れ浸透剤、レベリング剤等、その他の添加剤、その他の導電材を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができ、分散液作製前、分散時、分散後、電極形成用組成物の作製時等、任意のタイミングで添加することができる。
【0050】
<カーボンナノチューブ分散液の製造方法>
カーボンナノチューブ分散液の製造方法は、特に限定されず、例えば、カーボンナノチューブ、分散剤、および溶媒と、必要に応じて任意成分含む混合物を、分散装置を使用して分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、少なくとも2種のカーボンナノチューブを含むことが好ましく、それぞれのカーボンナノチューブは、同時に分散してもよく、別々に分散したプレ分散液を製造し、それらのプレ分散液を混合してカーボンナノチューブ分散液としてもよい。
また、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理としてもよい。
【0051】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(BRANSON社製Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL 450DA、エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、高圧ホモジナイザー(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられる。特に、カーボンナノチューブの濡れを促進し、粗い粒子を解す観点から、分散の初期工程ではハイシアミキサーやビーズミルを用い、続いて、導電材のアスペクト比を保ったまま分散させる観点から、高圧ホモジナイザーを用いるのが最も好ましい。
【0052】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、導電材の解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を、各種評価方法を用いることにより管理することが好ましい。例えば、実施例に記載の方法で管理することができる。
【0053】
CNTの繊維長が大きいCNTを、長さを一定以上に保ったまま均一かつ良好に分散させることで、発達した導電ネットワークが形成される。特に、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、外径(繊維径)及び繊維長の異なる、すなわち、異なる分散性を有する2種カーボンナノチューブを最適な分散度でそれぞれの繊維を破断させず適度に維持したまま分散させ安定に解れた状態とすることで、効率的な導電ネットワークを形成させることができる。したがって、単に樹脂組成物の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのではなく、複素弾性率および位相角を、粘度等の従来の指標と組み合わせて分散状態を判断することが特に有効である。複素弾性率および位相角を上記範囲とすることで、導電性および電極強度の良好なカーボンナノチューブ分散液を得ることができる。
【0054】
[粒度分布特性]
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定した体積基準の粒度分布曲線において、粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲と、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲に粒度分布ピークを有し、累積粒子径D50が4μm以上である。
【0055】
カーボンナノチューブの分散性安定性および良好な導電性の観点から、粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲である小粒子径側ピークは、粒子径0.5μm以上であることが好ましい。また、粒子径2μm以下であることが好ましく、粒子径1.5μm以下であることがより好ましい。定かではないが、小粒子径側のピークは、多層カーボンナノチューブに由来するものと推定される。小粒子径側のピークを上記範囲とすることで、適切な分散状態の導電材分散液を得ることができる。小粒径側のピークが上記範囲を超えると凝集した状態の導電材が存在し、また、上記範囲を上回ると微細に破断された導電材が多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなるおそれがある。
【0056】
カーボンナノチューブの分散性安定性および良好な導電性の観点から、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲である大粒子径側のピークは、粒子径15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、粒子径80μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。定かではないが、大粒子径側のピークは、単層カーボンナノチューブに由来するものと推定される。大粒子径側のピークを上記範囲とすることで、単層カーボンナノチューブの優れた導電性を担持させつつ均一な分散液を得ることができ、さらに塗膜作成等の乾燥によっても凝集することなく、乾燥後の電極中でも均一に分散した状態を保持することができる。
【0057】
累積粒子径D50は4μm以上であり、8μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、100μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。累積粒子径D50が上記範囲内であることで、カーボンナノチューブは、破断することなく分散液中で解れた状態となり、長い導電パスを有するカーボンナノチューブ分散液となる。また、カーボンナノチューブ同士の構造粘性による増粘を抑制することができ、導電性と安定性を両立することができる。
累積粒子径D50が4μm以上であることにより、細かくカーボンナノチューブを分散しすぎてカーボンナノチューブ同士の構造粘性が上がることを抑制し、経時安定性が悪化することがない。さらに、長い導電パスが充分に存在し、導電性との両立が可能となる。
【0058】
レーザー回折/散乱式粒度分布測定は、レーザー回折/散乱式粒度分布装置を用い、レーザー光の透過率が60%の条件で測定し、求めることができる。希釈溶媒は、カーボンナノチューブ分散液中の溶剤と同溶媒を用いて測定する。
具体的には、実施例に記載の方法により、求めることができる。
【0059】
レーザー回折/散乱式粒度分布測定法は、分散粒子径及び分散状態を示す一つの指標として用いることができ、粒子(本明細書においては、カーボンナノチューブ)にレーザー光を照射した際の粒子からの散乱(回折)光の情報から粒子径分布を算出する測定方法である。一般的に、粒子の散乱光強度は、粒子の直径(周長)に比例し、入射レーザー光の波長に反比例する。また、粒子固有の屈折率に依存して変化する。粒子径が大きい場合は、散乱光は前方に集中し、粒子径がレーザー光の入射波長より小さくなると、散乱光は側方、後方を含めた全方向に散乱するようになる。なお、これらの散乱光をディテクターで検出し、フーリエ変換により、横軸を粒子径、縦軸を体積基準の頻度とする連続した粒度分布曲線が測定できる。
レーザーの光透過率は、測定時の試料濃度に相関し、試料が希薄なほど透過率は増加する。
【0060】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、体積基準の粒度分布曲線において、少なくとも2つの粒度分布ピークを有し、それぞれの粒度分布ピークとなる粒子径は、ピーク内の最も高い頻度の粒子径を指し、モード径ともいう。
【0061】
例えば、
図1に示す粒度分布曲線では、2つの粒度分布ピークを有し、粒子径が0.1μm以上3μm以下の範囲である0.7μmと、粒子径が10μm以上100μm以下の範囲の範囲である19.9μmとにピークを有し、累積粒径D
50は、11.1μmである。
【0062】
カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの繊維長が大きいほど、少量で効率的に導電ネットワークを形成することができ、電池電極中に必要な導電材量を低減することができる。しかしながら、繊維長の大きいカーボンナノチューブは凝集力が強く、分散が困難であり、更に、分散工程でカーボンナノチューブが折れやすく、カーボンナノチューブの繊維長制御もまた困難である。カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの粒度分布特性が上記の通りであることで、複数のカーボンナノチューブが凝集することなく安定に分散でき、経時安定性が向上できる。これにより、少量で効率的に導電ネットワークを形成することができ、電池電極中に必要な導電材量を低減することができる。また、分散性と安定性を両立でき、また、電極用合材スラリー中及び/又は電極膜中においても良好な分散を保持することができる。
【0063】
カーボンナノチューブ分散液の粒度分布特性を上記のように制御する方法としては、用いるカーボンナノチューブの種類および配合量、分散剤の種類および配合量、溶媒の種類、または分散条件等により適宜調整することができる。
なかでも、繊維径が異なる複数のカーボンナノチューブを用いること、カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブを併用すること、複数のカーボンナノチューブの配合量の調整、分散条件等により制御することがカーボンナノチューブ分散液の経時安定性と電池の導電性との両立に効果的であるために好ましい。
【0064】
[繊維径分布]
カーボンナノチューブ分散液は、透過型電子顕微鏡で測定したカーボンナノチューブの繊維径分布において、繊維径0.1nm以上20nm以下の範囲に少なくとも2つの繊維径分布を有することが好ましい。
繊維径分布は、透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブを観測するとともに撮像し、得られた観測写真において、任意の300本のカーボンナノチューブを選び、それぞれの繊維径を計測することにより求められる。
また、カーボンナノチューブの平均繊維径(nm)は、数平均から算出する。
具体的には、繊維径分布および平均繊維径は、実施例に記載の方法で、透過型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0065】
少なくとも2つの繊維径分布とは、繊維径分布において少なくとも2つのピークがあることを意味する。2つのピークは重ならないことが好ましい。2つのピークの一部が重なる場合は、ピークの重なり部分の頻度(%)曲線の変曲点が極小となる繊維径を境に、小繊維径の領域を第一の繊維径分布(I)とし、これよりも繊維径の大きい、大繊維径の領域を第二の繊維径分布(II)とする。
【0066】
第一の繊維径分布(I)は、0.1nm以上4nm未満の範囲であることが好ましい。より好ましくは、最小の繊維径が0.5nm以上であり、さらに好ましくは1nm以上である。また、より好ましくは、最大の繊維径が3nm未満である。
第二の繊維径分布(II)は、4nm以上20nm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、最小の繊維径が3nm以上である。また、より好ましくは、最大の繊維径が10nm以下である。
第一の繊維径分布(I)および第二の繊維径分布(II)がこの範囲にあることで、カーボンナノチューブが絡み合った凝集体を形成することなく、均一に分散した分散液が得られる。また、塗膜作製等の乾燥によっても凝集することがなく、乾燥後の電極中でも均一に分散した状態を保持することができ、二次電池の出力及びサイクル寿命が向上する。
【0067】
第一の繊維径分布(I)を構成するカーボンナノチューブ(I)の含有量は、カーボンナノチューブの全量を基準として、個数基準で10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。また、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。また、第二の繊維径分布(II)を構成するカーボンナノチューブ(II)の含有量は、カーボンナノチューブの全量を基準として、個数基準で5%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。また、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。カーボンナノチューブ(I)及びカーボンナノチューブ(II)を上記下限以上含むことで、カーボンナノチューブ同士の構造粘性を抑えることができ、かつ、短い導電パスと長い導電パスを形成できるカーボンナノチューブ分散液とすることができる。
【0068】
第一の繊維径分布(I)のピークの繊維径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましい。
また、3nm以下であることが好ましく、3nm未満であることがより好ましく、2nm以下であることがより好ましい。
第二の繊維径分布(II)のピークの繊維径は、は、5nm以上であることが好ましい。
また、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。
【0069】
本発明の実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、繊維長5.0μm以下のカーボンナノチューブの含有率が、カーボンナノチューブの全量を基準として、個数基準で90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましい。また、繊維長5.0μmより大きいカーボンナノチューブの含有率が、カーボンナノチューブの全量を基準として、個数基準で5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。
【0070】
カーボンナノチューブが上記条件を満たすとき、繊維径分布の異なるカーボンナノチューブを凝集させることなく分散させることができ、経時増粘が抑制できるため、電極用合材スラリー中及び/又は電極膜中においても良好な分散を保持することができるために好ましい。カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの繊維長は、次のようにして確認することができる。まず、走査型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、カーボンナノチューブの繊維長を計測することで確認できる。また、平均繊維長は、上記観測写真において、無作為に300本のカーボンナノチューブを選び、それぞれの繊維長を計測し、その平均値を平均繊維長とする。尚、本発明の実施形態におけるカーボンナノチューブの繊維長は、カーボンナノチューブ分散液中の繊維長、すなわちカーボンナノチューブ分散液を調製した後の繊維長である。
【0071】
[pH]
本発明の実施形態の導電材分散液の「pH」とは、カーボンナノチューブ分散液に水を添加することで、水を添加する前の固形分濃度を100%としたとき、水を添加した後の固形分濃度が50%となるように調製し、一般的なpHメーターを用いて測定した値を指し、例えば、以下の方法で測定することができる。
固形分濃度2%のカーボンナノチューブ分散液を、ディスパーなどで撹拌しながら、カーボンナノチューブ分散液の固形分濃度が1%になるように水を添加する。均一に撹拌した後、25℃にて、卓上型pHメーター(セブンコンパクトS220Expert Pro、メトラー・トレド製)を用いることで、カーボンナノチューブ分散液のpHを測定することができる。
カーボンナノチューブ分散液のpHは、8以上が好ましい。また、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。pHを上記範囲内に調整することで、CNTの濡れ性を向上させ、更に、分散液の安定性を向上できる。pHが上記範囲内であると、電池内での各種原料及び外装材等の腐食、またはバインダーのゲル化といった問題が抑制しやすいために好ましい。
【0072】
カーボンナノチューブ分散液のpHは、(1)CNT中に含まれる金属水酸化物量、(2)CNT表面の官能基種及び量、(3)添加する塩基種及び量、によって調整することができる。上記(1)~(3)の全ての因子を総合してpHを調整することで、CNTの濡れ性を向上するだけでなく、分散性の異なる複数のカーボンナノチューブを併用した場合であっても、それぞれの分散に寄与する分散剤を取り合うことなく安定化させることができ、分散性だけでなく安定性にも優れるカーボンナノチューブ分散液を得ることができる。また、電極用合材スラリーを製造する上で添加する活物質やバインダー樹脂との混合時のpH変化に対応する、緩衝効果も得られる点においてもカーボンナノチューブ分散液のpHを適切な範囲に調整することは好ましい。
【0073】
[複素弾性率および位相角]
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の分散性は、動的粘弾性測定による複素弾性率および位相角で評価でき、複素弾性率および位相角は、実施例に記載の方法により測定することができる。カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率は、カーボンナノチューブ分散液の硬さを示し、カーボンナノチューブの分散性が良好であるほど、また、カーボンナノチューブ分散組成物が低粘度であるほど小さくなる傾向にある。しかし、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合、カーボンナノチューブが媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、カーボンナノチューブ自体の構造粘性があるため、複素弾性率が高い数値となる場合がある。また、カーボンナノチューブの分散状態に加え、カーボンナノチューブ、分散剤、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によっても変化する。また、位相角は、カーボンナノチューブ分散液に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となり、カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。しかし、複素弾性率と同様に、導電材自体の構造粘性がある場合には、導電材が分散媒中で均一かつ安定に解れた状態であっても、位相角が低い数値となる場合がある。また、複素弾性率と同様に、カーボンナノチューブの分散状態に加え、カーボンナノチューブ、分散剤、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によっても変化する。
【0074】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、分散液中のカーボンナノチューブの粒度分布特性を特定の範囲条件に制御することで、このようなカーボンナノチューブの繊維径および繊維長の関係に関し、分散液の硬さ構造粘性を高度に制御することで、複数のカーボンナノチューブの凝集を抑制し、カーボンナノチューブ分散液の経時安定性が優れている。さらにこのカーボンナノチューブ分散液を用いて電極用合材スラリーを調製する際、及び電極膜を製造する際にもその良好な分散状態を維持して、電極中で良好な導電ネットワークを形成することが可能である。
【0075】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の動的粘弾性による複素弾性率は、5Pa~800Paであることが好ましく、5Pa~400Paであることがより好ましい。
【0076】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の位相角は、3°~50°であることが好ましく、7°~50°であることがより好ましい。
【0077】
さらに、複素弾性率X(Pa)および位相角Y(°)を上記の好ましい範囲とし、かつ、これらの積(X×Y)が15以上5,000以下となるようにすると、高い流動性を有し、導電性が非常に良好な電極膜を得ることができる。
【0078】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの量は、カーボンナノチューブ分散液100質量部に対して、0.4質量部~5.0質量部が好ましく、0.4質量部~3.0質量部がより好ましい。
【0079】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の粘度は、B型粘度計を用いて、60rpmで測定した粘度が10,000mPa・s以下であることが好ましく、6,000mPa・s以下であることがより好ましく、3,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0080】
≪電極用合材スラリー≫
電極用合材スラリーは、前記カーボンナノチューブ分散液と正極活物質または負極活物質とを含むものである。さらにバインダー樹脂や他の導電材、溶媒を含んでもよく、任意の成分をさらに混合してもよい。
本明細書では、正極活物質及び負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられる。本明細書では、正極活物質または負極活物質を含む電極用合材スラリーを、それぞれ「正極用スラリー」、「負極用スラリー」、「合材スラリー」、または単に「電極用スラリー」という場合がある。電極用合材スラリーは、均一性及び加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。
【0081】
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物及び金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixNiyCozMn1-y-zO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV2O5、V6O13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、TiS2、及びFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。これらの活物質の中でも、特に、Ni及び/またはMnを含有する活物質は(遷移金属中のNi及び/またはMnの合計量が50mol%以上の場合は殊更)、原料由来成分または金属イオンの溶出によって、塩基性が高くなる傾向があり、その影響によってバインダーのゲル化や分散状態の悪化が起こりやすいことから、本発明の課題が顕著に出ることがある。したがって、Ni及び/またはMnを含有する活物質を含有する電池の場合、本発明が特に有効である。
【0082】
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiXTiO2、LiXFe2O3、LiXFe3O4、LiXWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン合金負極を用いる場合、理論容量が大きい反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0083】
電極用合材スラリー中のCNTの含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。また、導電材としてさらにカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1%以上であることがさらに好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。導電材としてカーボンナノチューブとカーボンブラックを併用する場合、それぞれの合計添加量が上記範囲であることが好ましい。上記範囲を上回ると、電極中の活物質の充填量が低下して電池の低用量化を招く。また、上記範囲を下回ると、電極及び電池の導電性が不十分となる場合がある。
【0084】
電極用合材スラリー中の分散剤の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0085】
<バインダー樹脂>
電極用合材スラリーがバインダー樹脂をさらに含む場合、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、電極用合材スラリーに用いるバインダー樹脂は、活物質、導電材等の物質間を結合することができる樹脂である。電極用合材スラリーに用いるバインダー樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;セルロース樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、及び共重合体でもよい。これらの中でも、正極のバインダー樹脂として使用する場合は、耐性面から前述のフッ素系樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等をバインダー樹脂として用いることが好ましい。また、負極のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なCMC、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0086】
電極用合材スラリーがバインダー樹脂を含有する場合、電極用合材スラリー中のバインダー樹脂の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
電極用合材スラリー中の固形分量は、電極用合材スラリーの質量を基準として(電極用合材スラリーの質量を100質量%として)、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0088】
電極用合材スラリーは、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、カーボンナノチューブ分散液に活物質を添加して作製する方法;カーボンナノチューブ分散液に活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法;カーボンナノチューブ分散液にバインダー樹脂を添加した後、活物質を添加して作製する方法等が挙げられる。分散に使用される分散装置は特に限定されない。カーボンナノチューブ分散液の説明において挙げた分散手段を用いて電極用合材スラリーを得ることができる。したがって、電極用合材スラリーを作製する方法としては、カーボンナノチューブ分散液にバインダー樹脂を添加することなく、電極活物質を加えて分散させる処理を行ってもよい。
【0089】
<電極膜>
電極膜は、前記カーボンナノチューブ分散液を用いて形成した膜、前記電極用合材スラリーを用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む。電極膜は、さらに集電体を含んでもよい。電極膜は、例えば、集電体上に電極用合材スラリーを塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。正極合材組成物を用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材組成物を用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む電極用合材スラリーを用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
【0090】
前記電極膜の形成に用いられる集電体の材質及び形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0091】
集電体上にカーボンナノチューブ分散液または電極用合材スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、自然乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0092】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0093】
カーボンナノチューブ分散液または電極用合材スラリーを用いて形成された膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
【0094】
<二次電池>
二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが、前記電極膜を含む。
【0095】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0096】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0097】
非水電解質二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0098】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例0099】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、カーボンナノチューブを「CNT」と称する場合がある。
【0100】
<カーボンナノチューブの平均繊維径>
カーボンナノチューブの平均繊維径は、カーボンナノチューブの希釈液を用いて膜を形成し、直接透過型電子顕微鏡(H-7650、株式会社日立製作所社製)を用いて、5万倍の倍率で観察し、任意に抽出した300本のカーボンナノチューブの繊維径を測定し、その平均値により、算出することができる。
【0101】
<カーボンナノチューブ分散液のレーザー回折/散乱式粒度分布測定>
粒度分布の測定は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製;Partical LA-960V2)を用いた。本測定装置のレーザー光波長は650nmであり、検出器として、リング状64分割シリコンフォトダイオードを1点、4chアレイディテクタを5点、シリコンフォトディテクタを3点備えている。また、測定部は合成石英によるフロー式セル(試料セル)を使用している。
まず、試料セルを含む試料バス中に分散液と同溶媒であるNMPを投入し、循環/超音波洗浄を実施した。動作モードとして、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間1分、撹拌速度:7、撹拌モード:連続とした。続いて、空気抜きのため、超音波強度:7、超音波時間5秒にて超音波作動を行った後、ブランク(バックグラウンド)測定を実施した。粒子径基準は体積とし、粒子屈折率は1.920-0.522i(カーボン材料)、溶媒屈折率は1.468(NMP)を設定した。測定時のレーザー光透過率が60%±1%となるように分散液を滴下し、試料調整を実施した。測定中の動作モードは、循環速度:3、撹拌速度:7、撹拌モード:連続として測定を実施した。
例えば、
図1は、カーボンナノチューブ分散液1の粒度の頻度の分布図を表すグラフであり、左縦軸が全体に対する頻度(%)であり、左縦軸が累計頻度に相当する。
【0102】
<カーボンナノチューブ分散液のCNT繊維径>
カーボンナノチューブ分散液を適宜希釈しコロジオン膜上に数μL滴下し、室温で乾燥させた後、直接透過型電子顕微鏡(H-7650、株式会社日立製作所社製)を用いて、観察した。観察は5万倍の倍率で、視野内に10本以上のCNTが含まれる写真を複数撮り、無作為に抽出した300本のカーボンナノチューブの繊維径を測定した。無作為に抽出した300本のカーボンナノチューブの繊維径を、縦軸に個数基準の頻度(%)、横軸に繊維径(nm)をとってプロットし、繊維径分布を確認した。
例えば、
図2は、カーボンナノチューブ分散液1の繊維径の分布図を表すグラフであり、縦軸の頻度(%)が「カーボンナノチューブの全量に対して個数基準での含有率」に相当する。
【0103】
<カーボンナノチューブ分散液のpH>
カーボンナノチューブ分散液を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、カーボンナノチューブ分散液を十分に撹拌し、カーボンナノチューブ分散液の固形分濃度を100%とし、その固形分濃度が50%となるように、ディスパーで撹拌しながらカーボンナノチューブ分散液に水を添加した。均一に撹拌した後、25℃にて、卓上型pHメーター(セブンコンパクトS220Expert Pro、メトラー・トレド製)を用いて測定した。
【0104】
本実施例において使用した材料の詳細は、以下のとおりである。
<カーボンナノチューブ>
・CNT(1-1):TUBALL SWCNT 93%(OCSiAl社製、単層カーボンナノチューブ)
・CNT(1-2):TUBALL SWCNT 80%:OCSiAl社製、単層カーボンナノチューブ)
・CNT(1-3):TNSAR(Timesnano社製、単層カーボンナノチューブ)
・CNT(2-1):JENOTUBE6A(JEIO社製、多層カーボンナノチューブ)
・CNT(2-2):JENOTUBE10B(JEIO社製、多層カーボンナノチューブ)
・CNT(2-3):CNT(2-1)を下記純化処理行ったもの
・CNT(2-4):CNT(2-2)を下記純化処理行ったもの
・CNT(3-1):VGCF(昭和電工株式会社製、カーボンナノファイバー)
【0105】
(CNT(2-3)の製造:カーボンナノチューブ純化処理)
CNT(2-1)(JEIO社製、JENOTUBE6A)を120Lの耐熱性容器に10kgを計量し、CNTが入った耐熱性容器を炉内に設置した。その後、炉内に窒素ガスを導入して、陽圧を保持しながら、炉内中の空気を排出した。炉内の酸素濃度が0.1%以下になった後、30時間かけて、1500℃まで加熱した。炉内温度を1500℃に保持しながら、塩素ガスを50L/分の速度で100時間導入した。その後、窒素ガスを50L/分で導入して陽圧を維持したまま冷却し、CNT(2-3)を得た。
【0106】
(CNT(2-4)の製造:カーボンナノチューブ純化処理)
CNT(2-1)をCNT(2-2)に変更した以外は、CNT(2-3)の製造と同様にして、CNT(2-4)を得た。
【0107】
CNTの平均繊維径[nm]とBET比表面積[m
2/g]を下記に示した。
【表1】
【0108】
<分散剤>
・分散剤(B-1):Therban(R)4307(ARLANXEO株式会社製、水素化アクリロニトリル系ゴム、アクリロニトリル含有量43.0%)
・分散剤(B-2):Zetpole(R)3300(日本ゼオン株式会社製、水素化アクリロニトリル系ゴム、アクリロニトリル含有量23%)
・分散剤(B-3):ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-30、重量平均分子量40,000)
・分散剤(B-4):ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、BL-10、計算分子量15,000)
・分散剤(B-5):PVDF:ポリフッ化ビニリデン(Solef#5130(Solvey株式会社製)、固形分100%)
【0109】
<添加剤>
・NaOH;水酸化ナトリウム (富士フィルム和光純薬社製、試薬特級)
・KOH;水酸化カリウム (富士フィルム和光純薬社製、試薬特級)
・2-アミノエタノール(富士フィルム和光純薬社製、和光1級)
【0110】
(製造例1;カーボンナノチューブプレ分散液1の作製)
表2に示す組成に従い、ステンレス容器に分散剤(B-1)を2部、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)を97.6部加え、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(1-1)0.4部をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,500rpmの速度で全体が均一になるまでバッチ式分散を行った。
次に、上記ステンレス容器の内容物を送液し、直径1.0mmφのジルコニアビーズを充填したビーズミル(ダイノーミルMULTI LAB、シンマルエンタープライセズ社製)により、滞留時間10分間の循環式分散処理を行った。
続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、20回パス式分散処理を行い、カーボンナノチューブプレ分散液1を得た。
分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。
【0111】
(製造例2~4、6~16;カーボンナノチューブプレ分散液2~4、6~16)
表2に示す組成に従い、製造例1と同様にして、各分散液(カーボンナノチューブプレ分散液2~16)を得た。尚、製造例13~15では、添加剤として表2に示す塩基を分散剤と同時に加えて、それ以外は実施例1と同様にして、分散液を作製した。
【0112】
(製造例5;カーボンナノチューブプレ分散液5)
表2に示す組成に従い、ステンレス容器に分散剤(B-1)を2部、NMPを97.6部加え、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(1-1)0.4部をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,500rpmの速度で全体が均一になるまでバッチ式分散を行った。
次に、上記ステンレス容器の内容物を送液し、直径1.0mmφのジルコニアビーズを充填したビーズミル(ダイノーミルMULTI LAB、シンマルエンタープライセズ社製)により、滞留時間30分間の循環式分散処理を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、20回パス式分散処理を行った。
分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。
【0113】
【0114】
(実施例A-1)
ステンレス容器に製造例1で作製したカーボンナノチューブプレ分散液1とカーボンナノチューブプレ分散液6を1:5のCNT質量比率となるように計量した。その後、ディスパーで均一になるまで撹拌し、カーボンナノチューブ分散液1を得た。
【0115】
(実施例A-2~17、比較例A-1~3)
表2に示す組成および配合量(質量部)に変更した以外は、実施例A-1と同様にして、各カーボンナノチューブ分散液(カーボンナノチューブ分散液2~17、20~22)を得た。
【0116】
(実施例A-18)
ステンレス容器に分散剤(B-1)1.20部、NMP97.84部を加え、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(2-1)0.80部を計量し、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になるまでバッチ式分散を行った。その後、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に供給し、パス式分散処理を20回行った後、CNT(1-1)0.16部を高圧ホモジナイザーに供給し、パス式分散処理をさらに10回行うことで、カーボンナノチューブ分散液20を得た。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。
【0117】
(実施例A-19)
ステンレス容器に分散剤(B-1)0.40部、NMP47.84部を加え、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(2-1)0.80部を計量し、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になるまでバッチ式分散を行い、カーボンナノチューブプレ分散液21aを得た。
またステンレス容器に分散剤(B-5)0.80部、NMP50.00部を加え、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(1-1)0.16部を計量し、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になるまでバッチ式分散を行い、カーボンナノチューブプレ分散液21bを得た。
【0118】
その後、カーボンナノチューブプレ分散液21aをステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に供給し、パス式分散処理を20回行った後、カーボンナノチューブプレ分散液21bを、配管を介して高圧ホモジナイザーに供給し、パス式分散処理をさらに10回行うことで、カーボンナノチューブ分散液21を得た。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。
【0119】
【0120】
《カーボンナノチューブ分散液の物性値および評価》
カーボンナノチューブ分散液の粒度分布測定、カーボンナノチューブ繊維径、pH、ならびに初期および経時(40℃3日後)の粘度、複素弾性率、および位相角を下記の方法で評価した。結果を表4、5に示す。
【0121】
<カーボンナノチューブ分散液の初期および経時の粘度測定>
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業株式会社製「BL」)を用いて、カーボンナノチューブ分散液を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて行った。測定に使用したローターの種類は、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のローターをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られたカーボンナノチューブ分散液が明らかに分離又は沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎:3,000mPa・s未満(優良)
〇:3,000mPa・s以上6,000mPa・s未満(良)
△:6,000mPa・s以上10,000mPa・s未満(可)
×:10,000mPa・s以上、沈降又は分離(不良)
【0122】
<カーボンナノチューブ分散体の初期および経時の複素弾性率と位相角の測定>
カーボンナノチューブ分散体の複素弾性率X及び位相角Yは、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。得られた複素弾性率が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良である。また、得られた位相角が大きいほど分散性が良好であり、小さいほど分散性が不良である。
複素弾性率の判定基準
〇:5Pa以上400Pa未満(良)
△:400Pa以上800Pa以下(可)
×:5Pa未満、または800Paを超える(不可)
位相角の判定基準
〇:7°以上50°未満(良)
△:3°以上7°未満(可)
×:3°未満または50°以上(不可)
【0123】
【0124】
【0125】
表5に示す通り、実施例のカーボンナノチューブ分散液1~19はいずれも初期粘度、および経時後も非常に分散性および安定性に優れることが確認できた。一方、比較例のカーボンナノチューブ分散液20~22は高粘度であり、さらに経時増粘した。
【0126】
(実施例B-1)
容量150mLのプラスチック容器にカーボンナノチューブ分散液(CNT分散液1)と、バインダーとして8質量%PVDF(ポリフッ化ビニリデン、Solef#5130(Solvey株式会社製))を溶解したNMPとを加えた後、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、カーボンナノチューブ分散組成物を得た。その後、電極活物質としてNMC(NCM523(日本化学工業株式会社製、組成:LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)を添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで20分間にわたり撹拌した。更にその後、NMPを添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌して、電極用合材スラリーを得た。電極用合材スラリーの固形分は70質量%とした。電極用合材スラリーの不揮発分の内、電極活物質:CNT:バインダーの不揮発分比率は98:0.5:1.5とした。
【0127】
電極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cm2となるように調整した。更にロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、密度が3.0g/cm3である電極膜1を有する正極1を作製した。
【0128】
<標準負極用合材スラリーの作製>
容量150mLのプラスチック容器にデンカブラックLi-400(デンカ株式会社製)と、CMC#1190(ダイセルファインケム株式会社製)と、水とを加えた後、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに負極活物質として人造黒鉛CGB-20(日本黒鉛工業株式会社製)を添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(スチレンブタジエンゴム、TRD2001(JSR株式会社製、固形分48%))を加えて、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材スラリーを得た。標準負極用合材スラリーの固形分は48質量%とした。標準負極用合材スラリー中の負極活物質:導電材:CMC:SBRの固形分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0129】
<標準負極の作製>
負極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、負極合材層の密度が1.5g/cm3となる負極を作製した。
【0130】
<電池1の作製>
上記の標準負極と、得られた正極1とを各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥させた。続いて、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液を2mL注入し、アルミ製ラミネート袋を封口して二次電池1を作製した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを1:1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)を電解液100部に対して1部加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液である。
【0131】
(実施例B-2~19、比較例B-1~3)
表6に示すCNT分散液に変更した以外は、実施例B-1と同じ手順に従って、それぞれ電極膜スラリー、電極膜、正極および二次電池を作製した。
【0132】
《二次電池の評価》
二次電池のレート特性およびサイクル特性を下記の方法で評価した。結果を表6に示す。
【0133】
<リチウムイオン二次電池のレート特性評価>
ラミネート型リチウムイオン二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1.0mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1.0mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧2.5Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式で表すことができる。
(式) レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)
[評価基準]
◎:レート特性が80%以上(優良)
〇:レート特性が70%以上80%未満(良)
△:レート特性が60%以上70%未満(可)
×:レート特性が60%未満(不可)
【0134】
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性評価>
ラミネート型リチウムイオン二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流50mA(1C)にて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1.25mA(0.025C))を行った後、放電電流50mA(1C)にて、放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。1Cは正極の理論容量を1時間で放電する電流値とした。サイクル特性は25℃における3回目の1C放電容量と200回目の1C放電容量の比、以下の式で表すことができる。
(式)サイクル特性=3回目の1C放電容量/200回目の1C放電容量×100(%)
[評価基準]
◎:サイクル特性が80%以上(優良)
〇:サイクル特性が70%以上80%未満(良)
△:サイクル特性が60%以上70%未満(可)
×:サイクル特性が60%未満(不可)
【0135】
【0136】
表6に示す通り、分散性に優れ、粘度および安定性が良好なカーボンナノチューブ分散液を正極膜に備えた電池はレート特性及びサイクル特性が良好であり、粘度が不良であるカーボンナノチューブ分散液を正極膜に備えた電池はいずれの特性も悪かった。粘度が良好であると正極膜で均一に導電パスが形成されるためレート特性が良化するものと推定される。また、比較的に低抵抗である電極活物質粒子にサイクルの負荷が集中するため、劣化が促進されてしまうのに対し、全体に良好な導電ネットワークが形成されている場合、負荷が分散されるため劣化しにくくなると推定される。
【0137】
以上のように、特定の粒度分布特性を有するカーボンナノチューブ分散液とすることで、複数のカーボンナノチューブを含む場合であっても導電性を損なわずに、経時による安定性も優れていることが確認できた。
なかでも、特定の2種のカーボンナノチューブを特定の質量比で含むカーボンナノチューブ分散液を使用した場合には、2種のカーボンナノチューブの特性をそれぞれ最大限引き出し、電極膜中で良好な分散状態を維持して効率的な導電ネットワークを形成することができ、レート特性及びサイクル特性がとくに良好な電池を製造することができた。
【0138】
上記実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記によって限定されるものではない。本発明の構成及び詳細は、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。