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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089714
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】膜支持体及び膜支持体を備えた複合膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1058 20160101AFI20240627BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20240627BHJP
   H01M 8/106 20160101ALI20240627BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240627BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20240627BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240627BHJP
【FI】
H01M8/1058
H01M8/1062
H01M8/106
C08K3/22
C08L79/04 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205074
(22)【出願日】2022-12-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/機能性ナノファイバーフレームワークを基本骨格とする低コスト・高耐久性電解質複合膜の研究開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊
(72)【発明者】
【氏名】宮口 典子
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩良
【テーマコード(参考)】
4J002
5H126
【Fターム(参考)】
4J002CM021
4J002DE096
4J002FD016
4J002FD036
4J002GK01
4J002GQ00
5H126FF03
5H126FF05
5H126GG12
5H126GG18
(57)【要約】
【課題】酸化セリウムが均一に含有しており、高分子電解質と複合し複合膜とした際にラジカルにより劣化しにくい複合膜が実現できる膜支持体、及び、固体高分子電解質と前記膜支持体とを備えた固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用できる複合膜を提供する。
【解決手段】前記膜支持体は、ポリベンズイミダゾール樹脂を含む繊維から構成された不織布の構成繊維の表面に、酸化セリウムを含有している。前記複合膜は、固体高分子電解質と、前記固体高分子電解質を補強するための前記膜支持体とを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンズイミダゾール樹脂を含む繊維から構成された不織布の構成繊維の表面に、酸化セリウムを含有している、膜支持体。
【請求項2】
固体高分子電解質と、前記固体高分子電解質を補強するための請求項1に記載の膜支持体とを備えた複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜支持体、及び、固体高分子電解質と前記膜支持体とを備えた固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用できる複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池には、高分子電解質膜が用いられているが、高分子電解質膜の課題として、膜厚を薄くした際に膜が破れやすく、膜が破れることにより電極間の短絡が起こるおそれがあること、また、固体高分子型燃料電池内の反応で発生するラジカルにより高分子電解質膜が劣化し、電解性能や電池性能が低下するおそれがあった。
【0003】
これらの課題を解決するため、国際公開第2008/026666号(特許文献1)には、内部に酸化セリウムなどのラジカル捕捉剤が固定されたポリテトラフルオロエチレン膜等の多孔質膜で補強された燃料電池用補強型電解質膜が開示されている。また特許文献1には、多孔質膜を形成する多孔質体とラジカル捕捉剤とを混錬し、混練物を圧縮成形することで前記燃料電池用補強型電解質膜を製造することが開示されている。
【0004】
特開2021-017474号公報(特許文献2)には、固体高分子電解質の劣化を起こすラジカルの発生を抑制し、又は前記ラジカルを消去する作用がある金属元素のイオン、及び/又は、前記金属元素を含む化合物を含む、固体高分子電解質を補強するための多孔膜が開示されている。前記金属元素としては、セリウムなどの希土類金属元素、銀などの遷移金属元素が挙げられており、前記金属元素を含む化合物としては、例えば硝酸セリウム、硫酸セリウム、塩化セリウム、セリウムアセチルアセトナート、硝酸銀、銀アセチルアセトナートなどが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/026666号
【特許文献2】特開2021-017474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の燃料電池用補強型電解質膜は、撥水性のポリテトラフルオロエチレン膜を用いていること、また、この燃料電池用補強型電解質膜は、多孔質膜を形成する多孔質体とラジカル捕捉剤とを混錬し、混練物を圧縮成形して製造するものであることから、多孔質膜内部に酸化セリウムを均一に含有させるのが難しく、ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を十分に抑制できるものではなかった。
また、特許文献2に記載の多孔膜に含まれる金属元素を含む化合物に例示されている硝酸セリウム、硫酸セリウム、塩化セリウム、セリウムアセチルアセトナート等は、燃料電池の運転時、多孔膜がプロトン伝導により酸性環境になった際に多孔膜の外部に流失しやすく、ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を十分に抑制できるものではなかった。
【0007】
本発明はこのような従来の問題点に基づくものであり、酸化セリウムが均一に含有しており、高分子電解質と複合し複合膜とした際にラジカルにより劣化しにくい複合膜が実現できる膜支持体、及び、固体高分子電解質と前記膜支持体とを備えた固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用できる複合膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、「ポリベンズイミダゾール樹脂を含む繊維から構成された不織布の構成繊維の表面に、酸化セリウムを含有している、膜支持体。」である。
本発明の請求項2にかかる発明は、「固体高分子電解質と、前記固体高分子電解質を補強するための請求項1に記載の膜支持体とを備えた複合膜。」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1にかかる膜支持体は、ポリベンズイミダゾール樹脂を含む繊維から構成された不織布から構成されていることから、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂に比べて比較的親水性が高いことから酸化セリウムが膜支持体上で凝集しにくく、均一に酸化セリウムを含有した膜支持体を実現できる。また、膜支持体の空隙率が高いことから、電解質を十分に充填した膜を得ることができ、プロトン伝導性に優れた膜が実現できる。更に、膜支持体に含まれる酸化セリウムは、ラジカルを捕捉する作用を有し、かつ酸性環境下で膜支持体の外部に流失しにくい。これらにより、ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を十分に抑制できる膜支持体である。
【0010】
本発明の請求項2にかかる複合膜は、ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を十分に抑制できる膜支持体を含む、固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用できる複合膜であることから、耐久性が優れる固体高分子型燃料電池を実現できる複合膜である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の膜支持体および複合膜を構成するために用いられるポリベンズイミダゾール(PBI)としては、従来高分子電解質膜を構成するために提案されたポリベンズイミダゾールを含め、不織布(好ましくはナノファイバー不織布)を形成することのできるものであれば、任意のポリベンズイミダゾールを用いることができる。本発明において用いる代表的なポリベンズイミダゾールとしては、下記式(1)で示されるものが挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】
前記式(1)中、Rは、少なくとも1つの芳香環を有する4価の基であり、例えば、ベンゼン環や、2個のベンゼン環が直接結合や-O-、-CO-、-SO-などで連結されている芳香族環含有の4価の基などが好ましいものとして挙げられ、具体的には、例えば下記のような化学構造が好ましいものとして挙げられる。
【0014】
【化2】
【0015】
また、式(1)中、Rは、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、-O-、-CO-、-SO-などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、具体的には、例えば下記のような化学構造が好ましいものとして挙げられる。
【0016】
【化3】
【0017】
本発明において用いられる、前記式(1)で表されるポリベンズイミダゾール重合体は、下記反応式に示すように、芳香族テトラアミンと芳香族ジカルボン酸のモノマーから合成することができる。芳香族テトラアミンとしては、化合物中にベンゼン環を1~2個含有するものが望ましい。芳香族テトラアミンとしては、例えば、3,3’-ジアミノベンジジン、1,2,4,5-ベンゼンテトラアミンなどが、好ましいものとして挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ビス安息香酸、4,4’-オキシビス安息香酸などが、好ましいものとして挙げられる。また、スルホン化芳香族ジカルボン酸を用いることで、複合膜のスルホン酸基量の更なる増加が可能である。スルホン化芳香族ジカルボン酸としては、例えば、5-スルホイソフタル酸、4,8-ジスルホニル-2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0018】
【化4】
【0019】
また、本発明において用いられるポリベンズイミダゾール重合体は、下記反応式に示すように、1分子中に2個のアミノ基と1個のカルボキシル基を有する芳香族化合物から合成されたものであってもよい。
【0020】
【化5】
【0021】
ポリベンズイミダゾールの重量平均分子量(Mw)は、5.0×10~1.0×10であることが好ましく、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnは、1~5であることが好ましい。Mwが5.0×10未満であると、ポリベンズイミダゾールの分子鎖の絡み合いが少なくなり、均一なナノファイバーの作製が困難になることがある。一方、Mwが1.0×10を超えると、ポリマー溶液の粘性が高くなり、均一なナノファイバーの作製が困難になることがある。また、Mw/Mnが5を超えると、均一なナノファイバーの作製が困難になることがある。
【0022】
本発明の膜支持体、複合膜を構成する不織布は、ポリベンズイミダゾール樹脂を含む繊維から構成されているが、不織布を構成する繊維にポリベンズイミダゾール樹脂以外の有機樹脂を含んでいてもよい。
ポリベンズイミダゾール樹脂以外の有機樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ乳酸、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸樹脂など)、多糖類(デンプン、セルロース系樹脂、プルラン、アルギン酸、ヒアルロン酸など)、たんぱく質類(ゼラチン、コラーゲンなど)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を挙げることができる。また、上述の樹脂の側鎖にスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基を含有したものを用いても良い。なお、他の樹脂の種類は複数種類であっても良く、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。
【0023】
本発明の膜支持体は、これに限定されるものではないが、例えば、以下の製造方法により製造することができる。まず、ポリベンズイミダゾール樹脂を含む繊維から構成された不織布(好ましくはナノファイバー不織布)を作製し、得られたポリベンズイミダゾール不織布の構成繊維の表面に酸化セリウム(好ましくは酸化セリウムナノ粒子)を導入することにより、酸化セリウム含有ポリベンズイミダゾール不織布として、本発明の膜支持体を得ることができる。
【0024】
ポリベンズイミダゾール不織布の作製は、これに限定されるものではないが、例えば、通常の静電紡糸法により実施することができる。静電紡糸法を実施することのできる公知の製造装置及びそれを用いる製造方法は、例えば、特開2003-73964号公報、特開2004-238749号公報、特開2005-194675号公報に開示されている。
【0025】
本発明においては、紡糸工程で得られる不織布の構成繊維の繊維径は、通常、10nm~5μmであり、好ましくは50nm~2μmであり、より好ましくは50nm~1μmである。静電紡糸を安定して行うことができるように、ノズルの内径は0.2~1mmであることが好ましい。
ポリベンズイミダゾール不織布の構成繊維の繊維径が細いことにより、薄膜化を行いやすくなり、厚さ方向におけるイオン伝導がしやすくなる。また、繊維の比表面積が大きく、後述する酸ドープ時に多くの酸をドープでき、この不織布を含む複合膜のプロトン伝導がしやすくなる。
【0026】
ポリベンズイミダゾール不織布を静電紡糸法により作製することにより、均一性が高く、空隙率の高い支持体とすることができる。ポリベンズイミダゾール不織布の空隙率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上であり、上限は99%である。
空隙率が高いほど、固体高分子電解質(例えば、ナフィオン(登録商標))を充填しやすくなり、固体高分子電解質と繊維との間に空洞を生じにくく、固体高分子電解質の充填量を多くすることができるので、複合膜のイオン伝導性を高くすることができる。
一方、空隙率を高くしすぎると、不織布表面が毛羽立ちやすく、取扱いが困難となるため、空隙率の上限は99%である。
【0027】
このようにして得られたポリベンズイミダゾール不織布に、酸化セリウムを導入する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化セリウム粒子を適当な分散媒、例えば、水、アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等)に分散して得られる酸化セリウム粒子分散液を、ポリベンズイミダゾール不織布上に塗工した後、乾燥し、分散媒を蒸発させることにより実施することができる。
【0028】
酸化セリウム粒子の平均粒径は、1~1000nmであることが好ましく、5~200nmであることがより好ましい。平均粒径が1nmより小さい酸化セリウムであると、酸化セリウムが繊維表面から流出しやすく、平均粒径が1000nmより大きい酸化セリウムであると、ポリベンズイミダゾール不織布の内部の繊維表面への含有が困難となるおそれがあるからである。
【0029】
酸化セリウム粒子分散液の粒子濃度は、1~30質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。酸化セリウム粒子分散液の粒子濃度が1質量%未満であると、不織布への導入時に繊維表面への酸化セリウムの含有量が小さくなり、酸化セリウム粒子分散液の粒子濃度が30質量%より大きいと、酸化セリウムの含有量が過剰になり固体高分子電解質樹脂の充填量が小さくなるおそれがあるからである。
【0030】
酸化セリウム粒子分散液の塗工量は、不織布に導入された酸化セリウムの含有量として、0.1~500質量%であることが好ましく、1~300質量%であることがより好ましい。酸化セリウム粒子分散液の塗工量が0.1質量%未満であると、ラジカルを捕捉する作用を十分に得られないおそれがあり、酸化セリウム粒子分散液の塗工量が500質量%を超えると、プロトン伝導を阻害するおそれがあるからである。
【0031】
分散媒の蒸発は、例えば、60~400℃における真空乾燥または熱風式オーブンにより実施することができる。
【0032】
本発明の膜支持体は、所望により、ポリベンズイミダゾール不織布に酸ドープを実施することができる。酸ドープに用いる酸としては、イミダゾール基と酸塩基相互作用できる酸である限り、特に限定されるものではないが、例えば、フィチン酸、リン酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。以下、フィチン酸を例にとって説明するが、当業者であれば、酸ドープに用いる酸の種類によって適宜変更して本発明の膜支持体を調製することができる。
【0033】
ポリベンズイミダゾール不織布にフィチン酸をドープする場合、これまで述べたようにして作製したポリベンズイミダゾール不織布にフィチン酸をドープすることによって、フィチン酸ドープポリベンズイミダゾール不織布が作製される。フィチン酸ドープは、ポリベンズイミダゾール不織布を、例えば、1~95質量%、好ましくは10~85質量%の濃度のフィチン酸溶液に浸漬することにより行うことができる。フィチン酸ドープ前後のポリベンズイミダゾール不織布の重量変化を測定し、以下の式により算出した値をフィチン酸ドープポリベンズイミダゾール不織布のフィチン酸含有量と定義する。
フィチン酸含有量(質量%)={(フィチン酸ドープポリベンズイミダゾール不織布重量-未ドープポリベンズイミダゾール不織布重量)/未ドープポリベンズイミダゾール不織布重量}×100
【0034】
フィチン酸ドープポリベンズイミダゾール不織布のフィチン酸含有量は、1~500質量%であることが好ましく、10~300質量%であることがより好ましい。フィチン酸含有量が1質量%未満である場合、フィチン酸がプロトン輸送部位として充分に働かないことがあり、500質量%を超えるとフィチン酸の溶出が激しく、さらにフィチン酸ドープポリベンズイミダゾール不織布の安定性の低下が著しい場合があるためである。
【0035】
フィチン酸溶液への浸漬時間は、使用されるポリマー、浸漬温度、要求されるフィチン酸含有量などにより異なることから特に限定されるものではないが、1秒~72時間が好ましく、また、温度は20~90℃が好ましい。フィチン酸ドープ後のポリベンズイミダゾール不織布の乾燥のための熱処理温度を含めての乾燥条件は、60~400℃における真空乾燥または熱風式オーブンが好ましく、乾燥は、重量変化がなくなるまで行われることが好ましい。
【0036】
本発明の複合膜は、これに限定されるものではないが、例えば、このようにして得られた本発明の膜支持体である酸化セリウム含有ポリベンズイミダゾール不織布、あるいは、酸化セリウム含有酸ドープポリベンズイミダゾール不織布へ、固体高分子電解質(例えば、ナフィオン(登録商標))を塗工および加熱処理することにより、得ることができる。
【0037】
本発明の複合膜に含まれる固体高分子電解質は、複合膜のプロトン伝導性が優れるように、プロトン伝導性に優れたポリマーを好ましく用いることができる。この上記のプロトン伝導性に優れたポリマーとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)、アクイビオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、スルホン化ポリアリーレンエーテル(SPAE)、スルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)、スルホン化ポリイミド(SPI)、スルホン化ポリベンズイミダゾール(SPBI)、スルホン化ポリフェニレン(SPP)、スルホン化ポリフェニレンオキシド(SPPO)、スルホン化ポリフェニレンスルフィド(SPPS)、スルホン化ポリスチレンおよびその共重合体(SPSt)、ポリビニルスルホン酸およびその共重合体(PVS)等を用いることができる。
【0038】
本発明の複合膜の膜厚は、膜厚が薄いほど、燃料電池の電解質膜として使用した際に、発電で生じた水が電解質膜に逆浸透することで、無加湿あるいは低加湿でも、膜のイオン伝導性を高くすることができるため、更には、膜厚は薄いほど水の逆浸透による効果が高いため、50μm以下であるのが好ましく、45μm以下であるのがより好ましく、40μm以下であるのが更に好ましく、35μm以下であるのが更に好ましく、30μm以下であるのが更に好ましい。本発明の複合膜は、ポリベンズイミダゾール不織布で補強されているため、30μm以下という薄膜でも取扱性に優れている。
一方、本発明の複合膜の下限は、機械的強度に優れ、取り扱い性に優れているように、また、燃料ガスの利用効率を高めると共に、劣化しにくいように、1μm以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の複合膜における、固体高分子電解質の含有量は、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、72~90質量%が更に好ましい。固体高分子電解質の含有量が50質量%未満であると、電解質が不足し複合体のプロトン伝導性が低下するおそれがあり、不織布への導入時に繊維表面への酸化セリウムの含有量が小さくなり、固体高分子電解質の含有量が50質量%より大きいと、支持体の含有量が少なく、複合膜が破れやすく、複合膜が破れることにより電極間の短絡が起こるおそれがあるためである。
【0040】
本発明の複合膜は、複合膜を構成する膜支持体の構成繊維の表面に酸化セリウムを含有している。本発明の複合膜における酸化セリウムの含有量は、0.7~50質量%が好ましく、1.4~25質量%がより好ましく、2.8~20質量%が更に好ましい。酸化セリウムの含有量が0.7質量%未満であると、ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を十分に抑制できないおそれがあり、酸化セリウムの含有量が50質量%より大きいと、複合膜が破れやすく、複合膜が破れることにより電極間の短絡が起こるおそれがあるためである。
【0041】
本発明の複合膜は、上述のとおり、複合膜を構成する膜支持体の構成繊維の表面に酸化セリウムを含有しているが、複合膜におけるラジカル捕捉を目的として、複合膜中にセリウムイオンおよび硝酸セリウム、硫酸セリウム、炭酸セリウム、リン酸セリウム、塩化セリウム等の、酸化セリウム以外のセリウム塩を含んでもよい。
【0042】
酸化セリウム以外のセリウム塩の平均粒径は、1~1000nmであることが好ましく、5~200nmであることがより好ましい。平均粒径が1nmより小さいセリウム塩であると、セリウム塩が繊維表面から流出しやすく、平均粒径が1000nmより大きいセリウム塩であると、ポリベンズイミダゾール不織布の内部の繊維表面への含有が困難となるおそれがあるからである。また、本発明の複合膜におけるセリウム塩と酸化セリウムとの合計含有量は、セリウム塩と酸化セリウムとの合計含有量が大きすぎると、複合膜が破れやすく、複合膜が破れることにより電極間の短絡が起こるおそれがあるため、50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0043】
本発明の複合膜は、複合膜中に例えばシリカ粒子などのセリウム塩以外の無機粒子を含んでいてもよい。この無機粒子を含んでいることで、(1)複合膜の機械特性が向上する、(2)酸が脱離しにくくなるため、複合膜の耐久性が向上する、(3)酸のドープ量が少なくても、複合膜のイオン伝導性を高めることができる、などの効果がある。このような無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、イットリア安定化ジルコニア粒子、アルミナ粒子を挙げることができる。
【0044】
前記無機粒子の平均粒径は1nm~1μmであるのが好ましく、500nm以下であるのがより好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。平均粒径が大きくなると本発明の膜支持体との複合膜を作製する際に、均一な膜を作製できない場合があるためである。
また、前記無機粒子の含有量は、1~40質量%であるのが好ましく、3~30質量%であるのがより好ましく、5~20質量%であるのが更に好ましい。前記無機粒子の添加量が少ないと、前述のような物性の向上効果が得られにくく、前記無機粒子の添加量が多いと複合膜の機械的強度が低下し、取り扱いが困難となりやすい。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
《実施例1》
ポリベンズイミダゾール(PBI)をジメチルアセトアミドに溶解し、ポリマー濃度20質量%の紡糸溶液を作製した。以下の条件で、静電紡糸法によってシートを作製した(目付3.5g/m、厚さ20μm)。
<紡糸条件>
吐出量1mL/hr、ノズル(針)と捕集体(基材)との距離6cm、温度25℃、湿度30%RH、針:内径0.33mm、電圧15kV。
【0047】
作製したシートを基材から剥がし、200℃で30分間熱処理することでPBIナノファイバー不織布を得た。PBIナノファイバー不織布を5質量%フィチン酸水溶液に室温で1時間浸漬させ、その後、純水中で繰り返し洗浄し、ドープされなかったフィチン酸を除去した。フィチン酸修飾したナノファイバーは200℃で30分間熱処理することでフィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布を得た。ナノファイバー不織布に平均粒径10nmの酸化セリウムナノ粒子の粒子濃度10質量%分散液(分散媒:水)を塗工し、80℃で乾燥し、フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布に酸化セリウムナノ粒子を導入した酸化セリウム含有フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布を得た。質量変化率から不織布に導入された酸化セリウムは291質量%だった。
【0048】
作製した酸化セリウム含有フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布をPETフィルム上に広げた。更に、塗布装置(スリット厚さ:300μm)を用いて、不織布へナフィオン(登録商標)樹脂分散液(固形分濃度:20質量%)を塗布した。この状態のまま加熱温度を80℃に調整したオーブンへ1時間処理し、続けて140℃で10分間処理することで、ナフィオン樹脂中に電解質膜用支持体として不織布を備えてなる電解質膜(厚さ25μm)を調製した。電解質膜中のナノファイバー不織布の含有量は7質量%、酸化セリウムの含有量は18.9質量%だった。
【0049】
《実施例2》
粒子濃度を5.0質量%分散液にした以外は実施例1と同じ操作を実施し、酸化セリウム含有フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布を作製した。質量変化率から不織布に導入された酸化セリウムは183質量%だった。
続いて、実施例1と同様に厚さ25μmの電解質膜を作製した。電解質膜中のナノファイバー不織布の含有量は7質量%、酸化セリウムの含有量は12.8質量%だった。
【0050】
《実施例3》
粒子濃度を2.5質量%分散液にした以外は実施例1と同じ操作を実施し、酸化セリウム含有フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布を作製した。質量変化率から不織布に導入された酸化セリウムは86質量%だった。
続いて、実施例1と同様に厚さ25μmの電解質膜を作製した。電解質膜中のナノファイバー不織布の含有量は7質量%、酸化セリウムの含有量は5.7質量%だった。
【0051】
《実施例4》
粒子濃度を1.0質量%分散液にした以外は実施例1と同じ操作を実施し、酸化セリウム含有フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布を作製した。質量変化率から不織布に導入された酸化セリウムは40質量%だった。
続いて、実施例1と同様に厚さ25μmの電解質膜を作製した。電解質膜中のナノファイバー不織布の含有量は7質量%、酸化セリウムの含有量は2.8質量%だった。
【0052】
《実施例5》
実施例1に記載のPBIナノファイバー不織布に、平均粒径10nmの酸化セリウムナノ粒子の粒子濃度1.0質量%分散液(分散媒:水)を塗工し、80℃で乾燥し、酸化セリウムナノ粒子を導入した酸化セリウム含有PBIナノファイバー不織布を得た。質量変化率から不織布に導入された酸化セリウムは45質量%だった。
作製した酸化セリウム含有PBIナノファイバー不織布に、実施例1と同様の方法でナフィオン(登録商標)樹脂分散液を塗布及び加熱処理し、ナフィオン樹脂中に電解質膜用支持体として不織布を備えてなる電解質膜(厚さ25μm)を調製した。電解質膜中のナノファイバー不織布の含有量は7質量%、酸化セリウムの含有量は3.2質量%だった。
【0053】
《比較例1》
PBIナノファイバー不織布に酸化セリウム粒子を含有させることなく、ナフィオン分散液を塗工することで、ナフィオン樹脂中に電解質膜用支持体として不織布を備えてなる厚さ25μmの電解質膜を調製した。4cm×3cmに切り出した電解質膜を、1.1mmol/Lの硝酸セリウム水溶液に室温で48時間浸漬し、ナフィオンのプロトンとセリウムイオンとの交換を行うことで、セリウムを含有した電解質膜を得た。
【0054】
《セリウムの安定性試験》
実施例1~5の電解質膜の断面を作製し、電界放出型走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置(FE-SEM/EDX)で断面観察したところ、いずれもセリウムが膜内のナノファイバー不織布層に分布していることを確認した。比較例1の電解質膜についても同様にFE-SEM/EDXで断面観察したところ、セリウムが膜全体に導入されたことを確認した。
【0055】
実施例1~5および比較例1の電解質膜を4cm×3cmに切り出し、5質量%硝酸溶液に室温で1時間浸漬した。浸漬後の膜の断面を作製し、FE-SEM/EDXで断面観察したところ、実施例1~5はセリウムが残存していることを確認した。比較例1ではセリウムが計測されなかった。
【0056】
以上から、本発明によって、酸化セリウム粒子を含有したポリイベンズミダゾール不織布を含有した電解質膜であり、均一に酸化セリウム粒子を補強層に保持し、酸性溶液中でも流出しにくい電解質膜を提供できる。
また、本発明によってラジカルに対する耐久性に優れた電解質膜を提供できると考えられる。
【0057】
《比較例2》
ナフィオン分散液に酸化セリウムナノ粒子を添加し、電解質膜の作製を試みたが、ゲル化したため、作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の複合膜は、固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用できる。