(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089739
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】簡易着付け衣装
(51)【国際特許分類】
A41D 1/00 20180101AFI20240627BHJP
【FI】
A41D1/00 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205112
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】522497489
【氏名又は名称】内海 里映
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】内海 里映
【テーマコード(参考)】
3B030
【Fターム(参考)】
3B030BA03
3B030BB01
3B030BC01
(57)【要約】
【課題】寝具に仰向けで横臥した姿勢が強いられる医療的ケア児等の着用対象者に対して簡単且つスムーズに着付けることができ、着用後において医療用管の引き回し処理を容易に行うことが可能な簡易着付け衣装を提供する。
【解決手段】上身頃1の脇部または上身頃1に連続して設けられる袖部の少なくとも一方に部分的に開閉可能な部分開口部1qを設け、着付け完了状態において上身頃1及び下身頃2のうち背面開放部1e、2eの周辺部分を対象者Yの背面と対象者Yが横臥する寝具との間に挟み込んだだけの状態となる簡易着付け衣装Xにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも上身頃と下見頃を備え、寝具に仰向けで横臥した対象者に対して着付けることが可能な衣装であり、
前記上身頃及び前記下身頃は、正面側を閉じ且つ背面側にこれら上身頃及び下身頃を開放状態とする背面開放部を有するものであり、
前記上身頃の脇部または前記上身頃に連続して設けられる袖部の少なくとも一方に、部分的に開閉可能な部分開口部を有し、
前記上身頃及び前記下身頃のうち前記背面開放部の周辺部分を前記対象者の背面と前記寝具との間に挟み込んだ着付け状態において、前記対象者の背面のうち前記背面開放部に臨む部分全体が前記寝具に対面するように構成していることを特徴とする簡易着付け衣装。
【請求項2】
前記部分開口部を左右両方の前記脇部または左右両方の前記袖部に形成している請求項1に記載の簡易着付け衣装。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療的ケアが日常的に必要な子ども(医療的ケア児)等にも簡単に着付けることが可能な衣装に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気や障がい等によって日常的に医療的ケアが必要な子どもに対して、着物やドレスなどの晴れ着を着せてあげたいという親や関係者の切実な願いはあるものの、寝た姿勢を強いられる医療的ケア児に通常の着物やドレスを着付けることは困難である。
【0003】
下記特許文献1には、車椅子等に着座したまま、或いは横たわったままでも着付けでき、車椅子等の着座において、また立位正面視においても、本物の着物のような外観となる簡易着付け式着物を提供すべく、左右上身頃の正面側を縫着し背面側に上開口を備える上身頃と、上身頃上部に位置する衿部と、上身頃左右に位置する左右袖部と、上身頃の胴部の表面に位置する帯部と、上身頃の下端部に位置し背面側に下開口を備える下身頃と、上開口及び下開口の開口度合いを調節する上連結部材及び下連結部材とからなる簡易着付け式着物が開示されている。
【0004】
特許文献1には、具体例として、左上身頃と右上身頃を正面側で縫着し、背面側に上開口を有する上身頃を着用した状態で、左右上身頃の背面側に上開口が形成され、この上開口の開口度合いを、帯の内側に縫製された面ファスナーからなる上連結部材によって調節する構成が開示されている。また、同特許文献には、下身頃の背面側に形成される下開口の開口度合いを、下開口部の端部に縫製された面ファスナーからなる下連結部材によって調節する点も開示されている。
【0005】
このような簡易着付け式着物であれば、着座したまま或いは横たわったままでも、簡易に着付けすることができ、車椅子に着座すれば上開口が車椅子の背凭れに隠れて、背面側の上開口が第三者から視認され難く、本物の着物のような外観になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような簡易着付け式着物を医療的ケア児に実際に着付けることを想定した場合、寝具に仰向けで横臥した医療的ケア児の背中側に形成される開口の開き具合を連結部材で調整する作業は極めて困難であり、その調整作業中は医療的ケア児に無理な姿勢を強いることになったり、着付け完了後において背中と寝具との間に連結部材が存在することによる違和感を医療的ケア児に与える懸念がある。
【0008】
また、上述のような簡易着付け式着物を着用した場合に、痰の吸引や人工呼吸器の装着を必要とする医療的ケア児に挿管されている医療用管(医療用嘴管、体液誘導管等)を簡易着付け式着物から外に引き出して装置に接続することも困難である。
【0009】
本発明は、このような問題の解消を図るべく、寝具に仰向けで横臥した姿勢が強いられる医療的ケア児等の着用対象者に対して簡単且つスムーズに着付けることができ、着用後において医療用管の引き回し処理を容易に行うことが可能な簡易着付け衣装を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、寝具に仰向けで横臥した対象者に対して着付けることが可能な上身頃及び下身頃を備えた簡易着付け衣装であり、上身頃及び下身頃として、正面側を閉じ且つ背面側にこれら上身頃及び下身頃を開放状態にする背面開放部を有するものを適用し、上身頃の脇部または前記上身頃に連続して設けられる袖部の少なくとも一方に、部分的に開閉可能な部分開口部を形成し、上身頃及び下身頃のうち背面開放部の周辺部分を対象者の背面と寝具との間に挟み込んだ着付け状態において、対象者の背面のうち背面開放部に臨む部分全体が寝具に対面するように構成していることを特徴としている。
【0011】
このような本発明に係る簡易着付け衣装であれば、上身頃及び下見頃をそれぞれ背面開放部から広げるように展開することで、寝具に仰向けで横臥した姿勢にある対象者に対して対象者の正面側からスムーズに着付けることが可能になり、背面開放部の周辺部分を対象者の背面と寝具との間に挟み込んだ着付け状態において上身頃や下身頃が所定の着付け位置から大きくずれることを防止・抑制することができるとともに、対象者の背面のうち背面開放部に臨む部分全体が寝具に対面するように構成しているため、着付け状態において対象者が自身の背中側に強い違和感を持つおそれを解消することができる。また、本発明に簡易着付け衣装であれば、背面開放部の周辺部分を対象者の背面と寝具との間に挟み込むだけでよく、例えば背面開放部の開口具合を適宜の手段・パーツを用いて対象者の背面側で調整する作業や、背面開放部の開口サイズが不意に広がることを防止する適宜の留め具を用いて対象者の背面側で留める作業が不要であり、着付け作業を簡単且つスムーズに完了することができる。したがって、本発明に係る簡易着付け衣装によれば、着付け作業中に対象者に無理な姿勢を強いることなく、着付け後においても対象者の背中と寝具との間に開口調整具や留め具等の物品・パーツが存在せず、背面開放部が開放されたままの状態であり、対象者が背中側に違和感を感じる事象を回避することができる。
【0012】
加えて、本発明に係る簡易着付け衣装であれば、上身頃の脇部または上身頃に連続して設けられる袖部の少なくとも一方に、部分的に開閉可能な部分開口部を設定しているため、医療的ケア児など対象者に挿管されている医療用管を部分開口部から当該簡易着付け衣装の外側に引き出して装置に接続することが可能になり、医療的ケア児に必要な医療的ケアを確保した状態で着衣することができ、好適である。
【0013】
特に、部分開口部を左右両方の脇部または左右両方の袖部に形成した簡易着付け衣装であれば、部分開口部を片方の脇部または袖部に形成した構成と比較して、医療用管を引き出す方向の選択肢が増え、対象者個々の医療態様に応じた医療用管の良好な引き回しを確保することができる。
【0014】
本発明に係る簡易着付け衣装には、上身頃と下身頃を別体にしたもの、または一体にしたもの、これら両方のタイプを包含し、和服にも洋服にも適用することができる。
【0015】
また、本発明に係る簡易着付け衣装が、被布や帯またはベルトを備えたものであってもよい。この場合、被布や帯を上身頃の外側または上身頃及び下見頃の外側から被せた状態で、上身頃または下見頃に着脱可能に取付可能に構成すれば、被布や帯等を対象者の背中側で留めずに済むため、着付け作業をスムーズに行うことができ、被布や帯等を着用する対象者にとっても負担が増えることなく、より一層見栄えの良い衣装を対象者は着用することができる。
【0016】
特に、帯等の種類や構成パーツを交換可能に構成すれば、帯等のバリエーションが増えて、対象者自身や保護者等の好みに応じた選択した帯等を着用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上側背面開放部及び下側背面開放部の周辺部分を対象者の背面と寝具との間に挟み込んだ着付け状態において、対象者の背面のうち上側背面開放部及び下側背面開放部に臨む部分全体が寝具に対面するように構成しているため、対象者の背中側では上身頃及び下身頃の留めずに対象者の体で寝具との間に挟み込んでいるだけの状態で着崩れを防止可能な着付け完了状態を維持することができ、着用者の背中側で上身頃や下見頃を専用の留め具等を用いて留める必要がなく、着付け易い簡易着付け衣装を提供することができる。さらに、本発明によれば、上身頃の脇部または上身頃に連続して設けられる袖部の少なくとも一方に設けた部分的に開閉可能な部分開口部を利用して、医療用管の引き回し作業をスムーズに行うことが可能な着付け易い簡易着付け衣装を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る簡易着付け衣装を対象者に着付けた状態を示す正面側から示す図。
【
図2】同実施形態に係る簡易着付け衣装を対象者に着付けた状態を示す背面側から示す図。
【
図3】同実施形態の上身頃を対象者に着付けた状態を正面側から示す図。
【
図4】同実施形態の上身頃を対象者に着付けた状態を背面側から示す図。
【
図5】同実施形態に係る簡易着付け衣装を着付けた状態で医療用管の引き回し例を示す図。
【
図6】同実施形態の上身頃及び下見頃を対象者に着付けた状態を正面側から示す図。
【
図7】同実施形態の上身頃及び下見頃を対象者に着付ける中途状態を正面側から示す図。
【
図8】同実施形態の上身頃及び下見頃を対象者に着付けた状態を背面側から示す図。
【
図9】同実施形態の簡易着付け衣装の一部を拡大して正面側から示す図。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る簡易着付け衣装を対象者に着付けた状態を示す正面側から示す図。
【
図11】同実施形態に係る簡易着付け衣装を対象者に着付けた状態を示す背面側から示す図。
【
図12】同実施形態の上身頃及び下見頃を正面側示す図。
【
図13】同実施形態の上身頃及び下見頃を対象者に着付けた状態を正面側から示す図。
【
図16】本発明の第3実施形態に係る簡易着付け衣装を対象者に着付けた状態を示す正面側から示す図。
【
図17】同実施形態に係る簡易着付け衣装を対象者に着付けた状態を示す背面側から示す図。
【
図18】同実施形態に係る簡易着付け衣装を正面側から示す図。
【
図19】同実施形態に係る簡易着付け衣装を背面側から示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
〈第1実施形態〉
本実施形態に係る簡易着付け衣装Xは、
図1及び
図2に示すように、七五三に着る着物のうち、特に三歳女児を着用対象者Yとする着物(以下、三歳女児用簡易着物Aと称す)である。本実施形態に係る三歳女児用簡易着物Aは、相互に独立した3パーツからなり、具体的には上身頃1、下身頃2及び被布3の3パーツから構成されるものである。以下の説明で用いる図面では、トルソー(腕無しタイプ)を着用者Yとみなしている。なお、
図1、
図2はそれぞれ着用者Yに三歳女児用簡易着物Aを着付けた状態を正面側、背面側から示す図である。
【0021】
上身頃1は、
図3及び
図4に示すように、左上身頃1a(着た時に着用者Yの左側になる部分)と右上身頃1b(着た時に着用者Yの右側になる部分)を正面側で相互に縫い付ける一方、背面側において左上身頃1aと右上身頃1bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左上身頃1aの分断縁部1cと右上身頃1bの分断縁部1dに挟まれる部分)に形成される背面開放部1eによって背面側を開放可能にしたものである。このように、本実施形態の上身頃1は、正面側(前身頃1f)を閉じる一方で、背面側(後身頃1g)に背面開放部1eを設定し、この背面開放部1eによって上身頃1のうち両脇線よりも背面側の部分(後身頃1g)を左右幅方向に広げるように展開可能に構成している。本実施形態では、背面開放部1eを後身頃1gの左右幅方向(身幅方向)中央部分に形成し、後身頃1gの左右幅方向に沿った全長の約3分の1に相当する部分を背面開放部1eに設定している。したがって、上身頃1は、対象者Yの背中全体を覆う形状ではない。特に、本実施形態の上身頃1は、背面開放部1eによって分断された後身頃1gの左上身頃1aと右上身頃1bを、さらに対象者Yの肩甲骨あたりを覆う部分(上側後身頃1h)と、対象者Yの脇腹の背面側あたりを覆う部分(下側後身頃1i)とに分断している。上側後身頃1hと下側後身頃1iとを分断したことによって、上側後身頃1hの下端部側の所定領域及び下側後身頃1iの上端部側の所定領域がフリーになり、その結果、上身頃1の脇の開きである身八つ口1jを通常の着物よりも大きく開口することが可能になる(
図5参照)。
【0022】
本実施形態の上身頃1には衿部1k及び袖部1mを縫い付けている。本実施形態では、袖部1mの袖口1nの開口寸法を、袖部1mのうち袖付けから袖下までの開いた部分である振りの開口寸法と同程度に広げることができるように構成している。具体的には、
図5に示すように、袖部1mの袖口1nに取り付けた面ファスナ1p同士の係合状態(結合状態)を解除することで、袖口1nの開口寸法を面ファスナ係合状態における開口寸法よりも大きくすることが可能である。本実施形態では、面ファスナ1p同士による係合箇所を袖口1nに所定ピッチで複数設けている。このように、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(三歳女児用簡易着物A)は、上身頃1に連続する左右の袖部1mの袖口1nにそれぞれ部分的に開閉可能な部分開口部1qを形成している。
【0023】
衿部1kは、対象者Yの首の後ろ側において相互に重なる自由端部1r同士を面ファスナ1sで着脱可能に固定できるように構成されている(
図4参照)。本実施形態の衿部1kには、半衿1tを縫い付けている(
図3参照)。なお、半衿の色等が異なる複数パターンの上身頃1から着用者の好み等に応じて選択できるようにしている。
【0024】
また、本実施形態では、
図3に示すように、上身頃1の正面側である前身頃1fのうち、下身頃2と重なる部分に面ファスナ1uを設けている。具体的には、前身頃1fの衿先よりもやや上側の位置において左右幅方向中央部分と左右両脇近傍部分の計3箇所に面ファスナ1uを設けている。これら面ファスナ1uは、下見頃取付位置の目印として機能するとともに、上身頃1に対する下見頃2の良好な取付状態を維持する機能を発揮するものである。
【0025】
本実施形態では、上身頃1のうち対象者Yに触れる裏生地部分は、綸子等の柔らかい生地を用いて構成している。
【0026】
下見頃2は、
図1、
図2、
図6及び
図7に示すように、左下身頃2aと右下身頃2bを正面側で縫い付ける一方、背面側において左下身頃2aと右下身頃2bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左下身頃2aの分断縁部2cと右下身頃2bの分断縁部2dに挟まれる部分)に形成される背面開放部2eによって背面側を開放可能にしたものである。このように、本実施形態の下身頃2は、正面側(前身頃2f)を閉じる一方で、背面側(後身頃2g)に背面開放部2eを設定し、この背面開放部2eによって下身頃2のうち両脇線よりも背面側の部分(後身頃2g)を左右幅方向に広げるように展開可能に構成している(
図7参照)。本実施形態では、背面開放部2eを後身頃2gの左右幅方向中央部分に形成し、後身頃2gの左右幅方向に沿った全長の約4分の1に相当する部分を背面開放部2eに設定している。このような構成により、下身頃2の背面開放部2eの左右幅方向に沿った開口幅寸法と、上身頃1の背面開放部1eの左右幅方向に沿った開口幅寸法とが多少の差はあるもののほぼ同程度の開口幅を有するように設定している。
【0027】
また、本実施形態では、下身頃2の正面側である前身頃2fのうち、上身頃1と重なる部分に面ファスナ(図示省略)を設けている。具体的には、前身頃2fの上端部近傍における裏面のうち、前身頃2fの左右幅方向中央部分と、左右の脇線近傍部分の計3箇所に面ファスナを設けている。下身頃2のうち対象者Yに触れる裏生地部分は、綸子等の柔らかい生地を用いて構成している。
【0028】
被布3は、
図1及び
図2に示すように、上身頃1及び下身頃2の上に羽織る上着であり、三歳児が着用するものである。被布3は、正面側(前身頃3f)を閉じ、且つ背面側(後身頃3g)において左身頃3aと右身頃3bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左身頃3aの分断縁部3cと右身頃3bの分断縁部3dに挟まれる部分)に形成される背面開放部3eによって背面側を開放可能にしたものである。本実施形態では、背面開放部3eを後身頃3gの左右幅方向(身幅方向)中央部分に形成し、後身頃3gの左右幅方向に沿った全長の約4分の1に相当する部分を背面開放部3eに設定している。すなわち、被布3の背面開放部3eの左右幅方向に沿った開口幅寸法を、上身頃1の背面開放部1eの左右幅方向に沿った開口幅寸法よりも小さく設定している。特に、被布3の後身頃3gは、
図8に示すように、両脇線から背面側に連続する部分(下側後身頃3h)と、肩山(肩の一番高い部分であって前身頃3fと後見頃3gの折り目の山)から背面側に連続する部分(上側後身頃3i)とを相互に重ね合わせた状態で面ファスナ3jよって係合可能に構成している。これら面ファスナ3j同士を係合させた状態(結合状態)では被布3の脇口3kに連続する部分を閉止することができる一方、面ファスナ3j同士の係合状態(結合状態)を解除することで、脇口3kに連続する部分を開放することができる。このように、本実施形態の被布3は、被布3の両脇部近傍であって且つ脇口3kに連続する部分に開閉可能な部分開口部3qを有するものである。具体的には、面ファスナ3j同士の係合箇所を丈方向に所定ピッチで設定し、面ファスナ3j同士の係合状態(結合状態)を解除することで、脇口3kの開口寸法を面ファスナ係合状態における開口寸法よりも大きくすることが可能である。本実施形態では、全ての面ファスナ3j同士の係合状態(結合状態)を解除することで、下側後身頃3hと上側後身頃3iを相互に完全に分離させることができる。
【0029】
また、被布3の衿部3mは、対象者Yの首の後側まで周回しない形状である。本実施形態の被布3は、
図2及び
図8に示すように、右身頃3bの後身頃3gにおける上端部に対象者Yの首元付近おいて左身頃3aの上端部に重なる舌片状の留め部分3nを設け、留め部分3nと左身頃3aの上端部にそれぞれ設けた面ファスナ3p同士の係合により着脱可能に留めることできる。被布3の衿ぐり付近には、
図9に示すように、装飾具3rを取り付けている。本実施形態では、装飾具3rにマグネット3sを付帯させるとともに、被布3の衿ぐり付近にもマグネット3sを取り付け、これらマグネット3s同士の磁力によって予め用意された複数種類の装飾具3rから選択した装飾具3r(
図1及び
図5に示すボタンを模した装飾具3r、
図9に示す花びらを模した装飾具3r)をワンタッチで簡単に取り付けたり、交換できるように構成している。
【0030】
以上に述べた上身頃1、下見頃2及び被布3の3点のみで構成される簡易着付け衣装X(三歳女児用簡易着物A)の着付け手順及び作用について説明する。
【0031】
先ず、ベッド上の寝具に横臥した医療的ケア児等の対象者Yの正面側から上身頃1を着せる。この作業は、上身頃1の後身頃1gに形成した背面開放部1eを広げるようにして上身頃1を適宜の展開形態にして、対象者Yの腕を片方ずつ袖部1mに順番に通す。この際、袖部1mの袖口1nに設けた部分開口部1qを開口状態(面ファスナ1p同士の係合状態を解除した状態)にしておくことで袖部1mに腕を通しやすくなる。なお、袖口1nの部分開口部1qを閉止状態(面ファスナ1p同士を係合させた状態)のまま袖口1nに腕を通してもよい。
【0032】
次いで、上身頃1の後身頃1gを対象者Yの両脇からそれぞれ背中側に回す。本実施形態では、背面開放部1eによって分断された後身頃1gの左上身頃1a及び右上身頃1bをそれぞれ対象者Yの背中側に回すことになる。より具体的には、対象者Yの肩甲骨あたりを覆う部分である上側後身頃1hと、対象者Yの脇腹あたりを覆う下側後身頃1iをそれぞれ対象者Yの背中側に回す。また、衿部1kのうち対象者Yの首の後側において相互に重なる自由端部1r同士を面ファスナ1sによって係合させる。以上の作業によって上身頃1を着付けた状態を
図3及び
図4に示す。
【0033】
続いて、下身頃2を上身頃1に少し重ねるようにして対象者Yの正面側から着せる。この作業は、下身頃2の後身頃2gに形成した背面開放部2eを広げるようにして下身頃2を適宜の展開形態にして、対象者Yの胸部より下側の部分を正面側から覆うように仮置きし(
図6参照)、下身頃2のうち背面開放部2eによって分断された左下身頃2a及び右下身頃2bをそれぞれ対象者Yの背面側(腰、臀部、脚の背面側)に回すことで済む(
図5参照)。特に、仮置きの際に、上身頃1の正面側に露出している面ファスナ1uに、下身頃2の裏面側に設けている面ファスナ2hを係合させることで、上身頃1に対する下見頃2の着用位置を簡単に決めることができ、上身頃1に対して下見頃2の取付位置が大きくずれる事態を防止・抑制可能な良好な取付状態を確保することができる。
【0034】
最後に、被布3を上身頃1及び下見頃2に重ねるようにして対象者Yの正面側から着せる。この作業は、被布3の後身頃3gを構成する下側後身頃3hと上側後身頃3iとを分離させた状態(被布3の脇口3kに連続する部分に設けた部分開口部3qを全開放した状態)で、下側後身頃3hと上側後身頃3iをそれぞれ対象者Yの背面側に回し込み、対象者Yの脇下部分において面ファスナ3j同士を係合するとともに、対象者Yの背面側において首元付近で相互に重なる面ファスナ3p同士を着脱可能に留める作業である。
【0035】
以上の手順によって、上身頃1、下身頃2及び被布3からなる本実施形態に係る簡易着付け衣装X(三歳女児用簡易着物A)を対象者Yに無理な姿勢な強いることなく、簡単且つスムーズに着付けることができる。このようにして着付けた状態(着付け状態)では、対象者Yの背中側は、上身頃1の背面開放部1e、下身頃2の背面開放部2e、被布3の背面開放部3eを通じて開放されたままであり、これら背面開放部1e、背面開放部2e、背面開放部3eによって分断された上身頃1の後身頃1g、下身頃2の後身頃2g、被布3の後身頃3gを対象者Yの体と寝具との間に挟み込むだけで、上身頃1、下見頃2及び被布3がずれることを防止することができ、上身頃1や下身頃2を対象者Yの背面側において専用の留め具等を用いて留める必要がなく、着付けのし易さが向上する。また、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(三歳女児用簡易着物A)は、上身頃1の背面開放部1e、下身頃2の背面開放部2e、被布3の背面開放部3eに留め具等が存在せず、対象者Yの背面のうち、これら上身頃1の背面開放部1e、下身頃2の背面開放部2e、被布3の背面開放部3eに臨む部分全体が開放されて寝具に対面する構成であるため、対象者Yは、その背面側において普段の横臥姿勢時と比較して特に強い違和感を感じることもなく、良い着心地を対象者Yに与えることができる。
【0036】
そして、対象者Yが医療的ケア児等、医療用管Zを挿管している場合には、
図5に示すように、上身頃1の身八つ口1j、被布3の脇口3k、上身頃1の振り(袖部のうち袖付けから袖下までの開いた部分)、さらに上身頃1の袖部1mの袖口1nに医療用管Zを通すことで、着物Aの外側に医療用管Zを引き出して医療装置に接続することができる。特に、被布3の脇口3kや上身頃1の袖口1nは、それぞれ部分開口部3q、部分開口部1qによる開閉状態を切り替えることで開口寸法の大きさを調節することができ、このような開口部分(被布3の脇口3kや上身頃1の袖口1n)を利用した医療用管Zの引き回し作業をスムーズに行うことが可能である。
【0037】
特に、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(三歳女児用簡易着物A)は、上身頃1の両袖口1n、被布3の両脇口3kにそれぞれ部分開口部3q、部分開口部1qを設定しているため、医療用管Zの引き回しパターンが1通りに限定されず、複数のパターンから対象者Yごとに適した医療用管Zの引き回しを選択することができる。
【0038】
このように、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(三歳女児用簡易着物A)によれば、対象者Yが寝たきりや体を動かすことが難しい幼児や児童であっても、医療施設等、記念撮影が想定されていない場所において保護者や関係者が簡単に着付けることができ、七五三の記念撮影を医療施設等で行うことが可能になる。また、上身頃1、下見頃2及び被布3の3点全てを自宅で洗濯可能な素材で構成することで、取り扱い易さも向上する。
【0039】
〈第2実施形態〉
本実施形態に係る簡易着付け衣装Xは、
図10及び
図11に示すように、七五三に着る着物のうち、特に七歳女児を着用対象者Yとする着物(以下、七歳女児用簡易着物Bと称す)である。本実施形態に係る七歳女児用簡易着物Bは、相互に独立した3パーツからなり、具体的には上身頃1、下身頃2及び帯4の3パーツから構成されるものである。以下の説明で用いる図面では、第1実施形態と同様に、トルソー(腕無しタイプ)を着用者Yとみなしている。なお、
図10、
図11はそれぞれ着用者Yに七歳女児用簡易着物Bを着付けた状態を正面側、背面側から示す図であり、
図11は帯4を着用者Yの背面側に完全に装着し終えていない状態(展開状態)を示す図である。
【0040】
上身頃1は、
図10乃至
図13に示すように、七歳女児用簡易着物Bの上身頃1と比較して、サイズの相違はあるものの構成はほぼ同じである。すなわち、上身頃1は、左上身頃1aと右上身頃1bを正面側で縫い付ける一方、背面側において左上身頃1aと右上身頃1bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左上身頃1aの分断縁部1cと右上身頃1bの分断縁部1dに挟まれる部分)に形成される背面開放部1eによって背面側を開放可能にしたものである。このように、本実施形態の上身頃1は、正面側を閉じる一方で、背面側に背面開放部1eを設定し、この背面開放部1eによって上身頃1のうち両脇線よりも背面側の部分(後身頃1g)を左右方向に広げるように展開可能に構成している。本実施形態では、背面開放部1eを後身頃1gの左右幅方向(身幅方向)中央部分に形成し、後身頃1gの左右幅方向に沿った全長の約4分の1に相当する部分を背面開放部1eに設定している。したがって、上身頃1は、対象者Yの背中全体を覆う形状ではない。
【0041】
また、上身頃1の脇の開きである身八つ口1jの開口寸法は適宜調整することができる。特に、本実施形態の上身頃1は、身八つ口1j(脇口)の開口寸法を広げることができるように構成している。具体的には、身八つ口1j(脇口)に連続する部分に面ファスナ(図示省略)を設け、面ファスナ同士の係合状態(結合状態)を解除することで、身八つ口1j(脇口)の開口寸法を面ファスナ係合状態における開口寸法よりも大きくすることが可能である。このように、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(七歳女児用簡易着物B)は、左右の身八つ口1j(脇口)に連続する部分に、部分的に開閉可能な部分開口部1yを形成している。
【0042】
本実施形態の上身頃1には、衿部1k及び袖部1mを縫い付けている。本実施形態の上身頃1は、袖部1mの袖口1nの開口寸法を、袖部1mのうち袖付けから袖下までの開いた部分である振りの開口寸法と同程度に広げることができるように構成している。具体的には、袖部1mの袖口1nに取り付けた面ファスナ(図示省略)同士の係合状態(結合状態)を解除することで、袖口1nの開口寸法を面ファスナ係合状態における開口寸法よりも大きくすることが可能である。このように、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(七歳女児用簡易着物B)は、上身頃1に連続する左右の袖部1mの袖口1nにそれぞれ部分的に開閉可能な部分開口部1qを形成している。
【0043】
衿部1kは、対象者Yの首の後ろ側において相互に重なる自由端部1r同士を面ファスナ1sで着脱可能に固定できるように構成されている。本実施形態の衿部1kには、半衿1tを縫い付けている。半衿1tを適宜の手段で着脱可能に衿部1kに取り付ける構成を適用することもでき、この場合、対象者Yの好み等に応じて複数種から選択した半衿1tを衿部1kに取り付けることが可能である。
【0044】
また、本実施形態では、上身頃1の正面側である前身頃1fのうち、下身頃2と重なる部分に面ファスナ1uを設けている。具体的には、前身頃1fの衿先よりも上側の位置において左右幅方向中央部分と左右両脇近傍部分の計3箇所に面ファスナ1uを設けている。これら面ファスナ1uは、下見頃取付位置の目印として機能するとともに、上身頃1に対する下見頃2の良好な取付状態を維持する機能を発揮するものである。
【0045】
本実施形態では、上身頃1のうち対象者Yに触れる裏生地は、綸子等の柔らかい生地を用いて構成している。
【0046】
下見頃2は、
図10乃至
図13に示すように、左下身頃2aと右下身頃2bを正面側で縫い付ける一方、背面側において左下身頃2aと右下身頃2bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左下身頃2aの分断縁部2cと右下身頃2bの分断縁部2dに挟まれる部分)に形成される背面開放部2eによって背面側を開放可能にしたものである。このように、本実施形態の下身頃2は、正面側(前身頃2f)を閉じる一方で、背面側(後身頃2g)に背面開放部2eを設定し、この背面開放部2eによって下身頃2のうち両脇線よりも背面側の部分(後身頃2g)を左右幅方向に広げるように展開可能に構成している。なお、
図12では、左右幅方向に展開した状態にある下見頃2を示している。本実施形態では、背面開放部2eを後身頃2gの左右幅方向中央部分に形成し、後身頃2gの左右幅方向に沿った全長の約4分の1に相当する部分を背面開放部2eに設定している。このような構成により、下身頃2の背面開放部2eの左右幅方向に沿った開口幅寸法と、上身頃1の背面開放部1eの左右幅方向に沿った開口幅寸法とが多少の差はあるもののほぼ同程度の開口幅を有するように設定している。
【0047】
また、本実施形態では、下身頃2の正面側である前身頃2fのうち、上身頃1と重なる部分に面ファスナ(図示省略)を設けている。具体的には、前身頃2fの上端部近傍における裏面のうち、前身頃2fの左右幅方向中央部分と、左右両サイド近傍部分の計3箇所に面ファスナを設けている。さらに、下見頃2の前身頃2fのうち帯4を巻くライン上に面ファスナ2vを設けている(
図12及び
図13参照)。本実施形態では、前身頃2fの左右幅方向中央部分と、左右両サイド近傍部分の計3箇所に面ファスナ2vを設けている。これら面ファスナ2vは、帯取付位置の目印として機能するとともに、下身頃2に対する帯4の良好な取付状態を維持する機能を発揮するものである。下身頃2のうち対象者Yに触れる裏生地部分は、綸子等の柔らかい生地を用いて構成している。
【0048】
帯4は、
図10、
図11、
図14及び
図15に示すように、上身頃1及び下身頃2の上から取り付けるものであり、帯本体4a(いわゆる帯)と、帯揚げ4bと、しごき4cとを相互に重ね合わせた状態で一体的に取り扱うことが可能なものである。本実施形態では、おはしょり4dも帯本体4aに取り付けている。具体的に、これら帯本体4a、帯揚げ4b、しごき4c及びおはしょり4dは、相互に重なる所定部分に面ファスナを設け、面ファスナ同士を係合させることによって着脱可能に取り付けることができ、さらに帯本体4aに設けた紐通し部(図示省略)に帯紐4fを通すことで、帯紐4fも一体的に取り扱うことができるように構成している。帯紐4fには、帯飾り4gを着脱可能に取り付けている。これら各パーツ(帯本体4a、帯揚げ4b、しごき4c、おはしょり4d、帯紐4f、帯飾り4g)の組み合わせは対象者Y等の好みによって適宜変更することができる。帯4は、対象者Yの脇腹の背面側に回すことが可能な長さであって、且つ対象者Yの胴回りを周回しない程度の長さに設定されている。また、帯4(帯本体4a)の裏面のうち、帯4の左右幅方向中央部分と、左右両サイド近傍部分の計3箇所に面ファスナ4hを設けている(
図15参照)。
【0049】
以上に述べた上身頃1、下見頃2及び帯4の3点のみで構成される簡易着付け衣装X(七歳女児用簡易着物B)の着付け手順及び作用について説明する。
【0050】
先ず、ベッド上の寝具に横臥した医療的ケア児等の対象者Yの正面側から上身頃1を着せる。この作業は、上身頃1の後身頃1gに形成した背面開放部1eを広げるようにして上身頃1を適宜の展開形態にして、対象者Yの腕を片方ずつ袖部1mに順番に通す。この際、身八つ口1j(脇口)に設けた部分開口部1yや袖部1mの袖口1nに設けた部分開口部1qを開口状態にしておくことで袖部1mに腕を通しやすくなる。なお、身八つ口1j及び袖口1nの部分開口部1y、部分開口部1qを閉止状態にして身八つ口1j及び袖口1nに腕を通してもよい。
【0051】
次いで、上身頃1の後身頃1gを対象者Yの両脇からそれぞれ背中側に回す。本実施形態では、背面開放部1eによって分断された後身頃1gの左上身頃1a及び右上身頃1bをそれぞれ対象者Yの背中側に回すことになる。また、衿部1kのうち対象者Yの首の後側において相互に重なる自由端部1r同士を面ファスナ1sによって係合させる。
【0052】
続いて、下身頃2を上身頃1に少し重ねるようにして対象者Yの正面側から着せる。この作業は、下身頃2の後身頃2gに形成した背面開放部2eを広げるようにして下身頃2を適宜の展開形態にして、対象者Yの胸部より下側の部分を正面側から覆うように仮置きし、下身頃2のうち背面開放部2eによって分断された後身頃2gの左下身頃2a及び右下身頃2bをそれぞれ対象者Yの背面側(腰、臀部、脚の背面側)に回すことで済む。特に、仮置きの際に、上身頃1の正面側に露出している面ファスナ1uに、下身頃2の裏面側に設けている面ファスナ2hを係合させることで、上身頃1に対する下見頃2の着用位置を簡単に決めることができ、上身頃1に対して下見頃2の取付位置が大きくずれる事態を防止・抑制可能な良好な取付状態を確保することができる。以上の作業によって上身頃1及び下身頃2を着付けた状態を
図13に示す。
【0053】
最後に、帯4を対象者Yの正面側から巻くように帯4の左右両端部分を対象者Yの背面側に回す。この際、下身頃2の正面側に露出している面ファスナ2vに、帯4の裏面側に設けている面ファスナ4hを係合させることで、下見頃2に対する帯4の着用位置を簡単に決めることができ、下身頃2に対して帯4の取付位置が大きくずれる事態を防止・抑制可能な良好な取付状態を確保することができる。
【0054】
以上の手順によって、上身頃1、下身頃2及び帯4からなる本実施形態に係る簡易着付け衣装X(七歳女児用簡易着物B)を対象者Yに無理な姿勢な強いることなく、簡単且つスムーズに着付けることができる。また、オプションの装飾品として髪飾り10を着用者の髪に取り付けることもできる。このようにして着付けた状態(着付け状態)では、対象者Yの背中側は、上身頃1の背面開放部3e、下身頃2の背面開放部2eを通じて開放されたままであり、これら背面開放部3e、背面開放部2eの周辺部分を対象者Yの体と寝具との間に挟み込むだけで、上身頃1及び下見頃2がずれることを防止することができ、上身頃1や下身頃2を対象者Yの背面側において専用の留め具等を用いて留める必要がなく、着付けのし易さが向上する。帯4についても、左右の両端部分を対象者Yの体と寝具との間に挟み込むだけでよく、通常の帯の着付けと比較して極めて簡単且つスムーズに着付け作業を行うことができる。
【0055】
そして、対象者Yが医療的ケア児等、医療用管を挿管している者である場合には、上身頃1の身八つ口1j(脇口)、上身頃1の振り(袖部のうち袖付けから袖下までの開いた部分)、さらに袖部1mの袖口1nに医療用管を通すことで、着物の外側に医療用管を引き出して医療装置に接続することができる。特に、上身頃1の身八つ口1jや袖口1nに連続する部分に設けた部分開口部1q,部分開口部1yの開閉状態を切り替えて開口寸法を調節することができ、このような開口部分(上身頃1の身八つ口1jや袖口1n)を利用した医療用管の引き回し作業をスムーズに行うことが可能である。
【0056】
特に、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(七歳女児用簡易着物B)は、上身頃1の両脇口2及び両袖口1nにそれぞれ部分開口部1q、部分開口部1yを設定しているため、医療用管の引き回しパターンが1通りに限定されず、複数のパターンから対象者Yごとに適した医療用管の引き回しを選択することができる。
【0057】
〈第3実施形態〉
本実施形態に係る簡易着付け衣装Xは、
図16乃至
図19に示すように、七五三に着る着物のうち、特に五歳男児を着用対象者Yとする着物(以下、五歳男児用簡易着物Cと称す)である。本実施形態に係る五歳男児用簡易着物Cは、相互に独立した2パーツからなり、具体的には上身頃1及び下身頃2の2パーツから構成されるものである。以下の説明で用いる図面では、第1実施形態と同様に、トルソー(腕無しタイプ)を着用者Yとみなしている。なお、
図16、
図17はそれぞれ着用者Yに五歳男児用簡易着物Cを着付けた状態を正面側、背面側から示す図であり、
図18、
図19はそれぞれ床面に平置きした状態の五歳男児用簡易着物Cを正面側、背面側から示す図である。
【0058】
上身頃1は、着物5の前身頃部分5fと羽織6とを有し、これら着物5及び羽織6を一体的に扱えるように適宜箇所を相互に縫い付けたものである。着物5は、左上身頃5aと右上身頃5bを正面側で縫い付けたものである。本実施形態の着物5は、着用者Yの肩周辺を被覆可能な形状の後身頃5gを有する。後身頃5gの左上身頃5aと右上身頃5bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左上身頃5aの分断縁部5cと右上身頃5bの分断縁部5dに挟まれる部分)に形成される背面開放部5eによって背面側を開放可能にしたものである(
図17参照)。着物5の前身頃部分5fには衿部5k及び半衿5tを縫い付けている。衿部5kのうち対象者Yの首の後ろ側において相互に重なる自由端部5r同士を面ファスナ5sで着脱可能に固定できるように構成している。
【0059】
羽織6は、着物5の上から羽織った形態で着物5に縫い付けたものであり、背面側において左上身頃6aと右上身頃6bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左上身頃6aの分断縁部6cと右上身頃6bの分断縁部6dに挟まれる部分)に形成される背面開放部6eによって背面側を開放可能にしたものである(
図17参照)。羽織6は衿部6k及び袖部6mを備えている。
【0060】
このような着物5及び羽織6を一体的に有する上身頃1は、正面側を閉じる一方で、背面側に背面開放部6eを設定し、この背面開放部6eによって後身頃6gの左上身頃6aと右上身頃6bを左右方向に広げるように展開可能に構成したものである。本実施形態では、背面開放部6eを後身頃6gの左右幅方向(身幅方向)中央部分に形成し、後身頃6gの左右幅方向に沿った全長の約4分の1に相当する部分を背面開放部6eに設定している。
【0061】
本実施形態の上身頃1は、袖部6mの袖口6nの開口寸法を、袖部6mのうち袖付けから袖下までの開いた部分である振りの開口寸法と同程度に広げることができるように構成している。具体的には、袖部6mの袖口6nに取り付けた面ファスナ6p同士の係合状態(結合状態)を解除することで、袖口6nの開口寸法を面ファスナ係合状態における開口寸法よりも大きくすることが可能である(
図18及び
図19参照)。このように、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(五歳男児用簡易着物C)は、上身頃1に連続する左右の袖部6mの袖口6nにそれぞれ部分的に開閉可能な部分開口部6qを形成している。
【0062】
さらに、本実施形態の上身頃1は、羽織6の脇口(脇のあき部分、身八つ口6j)に連続する部分に、面ファスナ6wによって開閉可能な部分開口部6yを設けている。本実施形態では、羽織6の身八つ口6jに連続する部分に設けた部分開口部6yを全開状態にすると、脇線部分に沿った領域が全開するように構成している(
図18及び
図19参照)。
【0063】
また、本実施形態では、上身頃1の正面側である着物5の前身頃部分5aのうち、下身頃2と重なる部分に面ファスナ5uを設けている(
図18参照)。具体的には、着物5の衿先よりも上側の位置において左右幅方向中央部分と左右両脇近傍部分の計3箇所に面ファスナ5uを設けている。これら面ファスナ5uは、下見頃取付位置の目印として機能するとともに、上身頃1に対する下見頃2の良好な取付状態を維持する機能を発揮するものである。なお、本実施形態では上身頃1の正面側において羽織6を左右方向に開く(前開きする)ことができるように構成し、計3箇所に設けた面ファスナ5uのうち左右両脇部近傍部分の面ファスナは、着物5のうち羽織6を前開きした場合に正面に露出する所定箇所に設けている(
図18参照)。
【0064】
本実施形態では、上身頃1のうち対象者Yに触れる裏生地は、綸子等の柔らかい生地を用いて構成している。
【0065】
本実施形態の下見頃2は、袴7であり、襞を有する正面側は閉じられ、背面側において左下身頃2aと右下身頃2bとを相互に縫い付けずに分断し、この分断部分(左下身頃2aの分断縁部2cと右下身頃2bの分断縁部2dに挟まれる部分)に形成される背面開放部2eによって背面側を開放可能にしたものである(
図17参照)。このように、本実施形態の下身頃2は、正面側(前身頃2f)を閉じ且つ背面側(後身頃2g)に背面開放部2eを設定し、この背面開放部2eによって下身頃2のうち両脇線よりも背面側の部分(後身頃2g)を左右幅方向に広げることができるように構成している。なお、
図18及び
図19では、左右幅方向に展開した状態にある下見頃2(袴7)を示している。本実施形態では、背面開放部2eを後身頃2gの左右幅方向中央部分に形成し、後身頃2gの左右幅方向に沿った全長の約4分の1に相当する部分を背面開放部2eに設定している。このような構成により、下身頃2の背面開放部2eの左右幅方向に沿った開口幅寸法と、上身頃1の背面開放部1eの左右幅方向に沿った開口幅寸法とが多少の差はあるもののほぼ同程度の開口幅を有するように設定している。
【0066】
また、本実施形態では、下見頃2の前紐2iに面ファスナ2hを設けている(
図19参照)。具体的には、前紐2iにおける裏面のうち、左右幅方向中央部分と、左右両サイド近傍部分の計3箇所に面ファスナ2hを設けている。下身頃2のうち対象者Yに触れる裏生地は、綸子等の柔らかい生地を用いて構成している。
【0067】
以上に述べた上身頃1及び下見頃2の2点のみで構成される簡易着付け衣装X(七歳女児用簡易着物B)の着付け手順及び作用について説明する。
【0068】
先ず、ベッド上の寝具に横臥した医療的ケア児等の対象者Yの正面側から上身頃1を着せる。この作業は、上身頃1を構成する羽織6の後身頃6gに形成した背面開放部6eを広げるようにして上身頃1を適宜の展開形態にして、対象者Yの腕を片方ずつ袖口6nに順番に通す。この際、身八つ口6j(脇口)に設けた部分開口部6yや袖口6nに設けた部分開口部6qを開口状態(面ファスナ同士の係合状態を解除した状態)にしておくことで袖部1mに腕を通しやすくなる。なお、部分開口部6q、部分開口部6yを閉止状態(面ファスナ同士を係合させた状態)のまま袖口6nに腕を通してもよい。
【0069】
次いで、羽織6の後身頃6gを対象者Yの両脇からそれぞれ背中側に回す。本実施形態では、羽織6のうち背面開放部6eによって分断された後身頃6gの左上身頃6a及び右上身頃6bをそれぞれ対象者Yの背中側に回すことになる。また、衿部6kのうち対象者Yの首の後側において相互に重なる自由端部6r同士を面ファスナ6sによって係合させる。
【0070】
続いて、下身頃2を上身頃1のうち着物5と羽織6の間に配置するように対象者Yの正面側から着せる。この作業は、下身頃2の後身頃2gに形成した背面開放部2eを広げるようにして下身頃2を適宜の展開形態にして、着物のうち対象者Yの胸部より下側の部分を正面側から覆うように仮置きし、下身頃2のうち背面開放部2eによって分断された後身頃2gの左下身頃2a及び右下身頃2bをそれぞれ対象者Yの背面側に回すことで済む。特に、仮置きの際に、上身頃1のうち着物5に設けた面ファスナ5uに、下身頃2の裏面側に設けた面ファスナ2hを係合させることで、上身頃1に対する下見頃2の着用位置を簡単に決めることができ、上身頃1に対して下見頃2の取付位置が大きくずれる事態を防止・抑制可能な良好な取付状態を確保することができる。
【0071】
以上の手順によって、上身頃1及び下身頃2からなる本実施形態に係る簡易着付け衣装X(五歳男児用簡易着物C)を対象者Yに無理な姿勢な強いることなく、簡単且つスムーズに着付けることができる。このようにして着付けた状態(着付け状態)では、対象者Yの背中側は、上身頃1の背面開放部5e,6e、下身頃2の背面開放部2eを通じて開放されたままであり、これら背面開放部5e,6e、背面開放部2eの周辺部分を対象者Yの体と寝具との間に挟み込むだけで、上身頃1及び下見頃2がずれることを防止することができ、上身頃1や下身頃2を対象者Yの背面側において専用の留め具等を用いて留める必要がなく、着付けのし易さが向上する。
【0072】
そして、対象者Yが医療的ケア児等、医療用管を挿管している者である場合には、上身頃1の身八つ口6j(脇口)、振り(袖部のうち袖付けから袖下までの開いた部分)、さらに袖部6mの袖口6nに医療用管を通すことで、着物の外側に医療用管を引き出して医療装置に接続することができる。特に、上身頃1の身八つ口6j(脇口)や袖口6nは、それぞれ部分開口部6y,部分開口部6qによる開閉状態を切り替えて開口寸法を調節することができ、このような開口部分(上身頃1の身八つ口6jや袖口6n)を利用した医療用管Zの引き回し作業をスムーズに行うことが可能である。
【0073】
特に、本実施形態に係る簡易着付け衣装X(五歳男児用簡易着物C)は、上身頃1の上身頃1の両身八つ口6j及び両袖口6nにそれぞれ部分開口部6y、部分開口部6qを設定しているため、医療用管の引き回しパターンが1通りに限定されず、複数のパターンから対象者Yごとに適した医療用管の引き回しを選択することができる。
【0074】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、部分開口部を開閉可能に構成する具体例として上述の実施形態では面ファスナを用いた態様を例示したが、面ファスナに代えて、または併用してボタン、ホック等を用いて開閉可能な構成にすることもできる。
【0075】
また、部分開口部を両袖、両脇に設けず、何れか一方の袖や脇に設けた構成も本発明に含まれる。
【0076】
上述の各実施形態で例示した着物(和装)に限らず、上身頃と下見頃を備えたドレス(洋装)であってもよい。この場合、上身頃及び下見頃の正面側(前身頃)を何れも閉じた形状にし、背面側(後身頃)に背面開放部を有する形状にすることで、上述の着物のように対象者に無理な姿勢を強いることなく簡単且つスムーズに洋装を着付けることができる。
【0077】
また、上身頃の脇口に連続する部分に部分開口部を設けることで、医療用管の引き回しを開放した部分開口部を通じて好適に行うことができる。腰回りにベルト(上述の帯に準じた長さのもの)を取付可能に構成したドレスであってもよい。
【0078】
本発明では、主たる着用対象者(対象者)として医療的ケア児を想定しているが、医療的ケア児に限らず、病気や事故等で身体が不自由な人(大人、子どもの両方)を対象者として本発明の簡易着付け衣装を着付けることもできる。
【0079】
また、本発明に係る簡易着付け衣装の対象者は、ベッド等の寝具に横臥している人の他、車椅子利用者であってもよい。この場合、車椅子の背凭れ部分と対象者の背面との間に管理着付け衣装の一部(後身頃に相当する部分)を挟み込むことで衣装のずれを防止することができる。すなわち、本発明における寝具とは、対象者が横臥(斜め姿勢も含む)した状態で背面側に配置されるベッドのマットレスや布団、車椅子、ソファ、椅子等を包含する趣旨で用いた語である。
【0080】
その他、各部の具体的構成や処理内容についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…上身頃
2…下見頃
1e、2e、3e、5e、6e…背面開放部
1q、1y、3q、6q、6y…部分開口部
X、A、B、C…簡易着付け衣装