(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089749
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0206 20160101AFI20240627BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240627BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20240627BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240627BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240627BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20240627BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M8/0206
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1213
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/65
C25B9/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205131
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞絵
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 保夫
(72)【発明者】
【氏名】島津 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉晃
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA07
4K021DB53
5H126AA02
5H126AA14
5H126BB06
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】インターコネクタとその周辺部材との接合強度の低下に起因する燃料電池セルの性能劣化を抑制する。
【解決手段】電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体は、電解質層と、電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルと、空気極と燃料極との一方である特定電極に対して第1の方向における電解質層とは反対側に直接または特定電極と電気的に接続された集電部材を介して接合され、Mnを含むインターコネクタと、を備える。インターコネクタは、第1の方向における一方側の表層を構成する第1表層部と、第1表層部と反対側の表層を構成する第2表層部と、第1表層部と第2表層部とに挟まれる中央部と、を有し、中央部のMn濃度C
Cと、第1表層部のMn濃度C
S1と、第2表層部のMn濃度C
S2とは、以下の式(1)および式(2)を満たす。
C
S1<C
C ・・・(1)
C
S2<C
C ・・・(2)
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルと、
前記空気極と前記燃料極との一方である特定電極に対して前記第1の方向における前記電解質層とは反対側に直接または前記特定電極と電気的に接続された集電部材を介して接合され、Mnを含むインターコネクタと、を備える、電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体において、
前記インターコネクタは、前記第1の方向における一方側の表層を構成する第1表層部と、前記第1表層部と反対側の表層を構成する第2表層部と、前記第1表層部と前記第2表層部とに挟まれる中央部と、を有し、
前記中央部のMn濃度CCと、前記第1表層部のMn濃度CS1と、前記第2表層部のMn濃度CS2とは、以下の式(1)および式(2)を満たす、
ことを特徴とする電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体。
CS1<CC ・・・(1)
CS2<CC ・・・(2)
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体において、
前記第1表層部のMn濃度CS1と、前記第2表層部のMn濃度CS2とは、CS2≦CS1であるとしたとき、以下の式(3)を満たす、
ことを特徴とする電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体。
1.0≦CS1/CS2<5.0 ・・・(3)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体において、
前記中央部のMn濃度CCと、前記第1表層部のMn濃度CS1と、前記第2表層部のMn濃度CS2とは、以下の式(4)および式(5)を満たす、
ことを特徴とする電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体。
1.1≦CC/CS1 ・・・(4)
1.1≦CC/CS2 ・・・(5)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物型の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)を備える。単セルは、電解質層と、電解質層の所定の方向(以下、「第1の方向」という。)の一方側に配置された空気極と、電解質層の第1の方向の他方側に配置された燃料極と、を備える。
【0003】
燃料電池単セル-インターコネクタ複合体は、上述の単セルと、インターコネクタとを備える。インターコネクタは、空気極と燃料極との一方(以下、「特定電極」という。)に対して、第1の方向における電解質層とは反対側に、直接または特定電極と電気的に接続された集電部材を介して接合される。インターコネクタは、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。そのため、インターコネクタは、マンガン(Mn)を含んでいる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インターコネクタに含まれるMnは、SOFCの運転中にインターコネクタと接合している周辺部材へと拡散する。このとき、インターコネクタと、その周辺部材とにMnが存在することにより、互いの接合強度が向上する。しかしながら、SOFCの運転を継続することにより、インターコネクタに含まれるMnは、周辺部材よりもさらに遠くの部材にまで拡散し、インターコネクタおよび周辺部材のMn濃度は経時的に低下する。Mn濃度が低下するのに従って、インターコネクタと、その周辺部材との接合強度も低下する。そのため、SOFCを構成する部材間の接合強度が低下することによって、SOFC全体の抵抗値の増大を招き、ひいては、SOFCの性能劣化を引き起こすという課題がある。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う電解単セル(以下、「SOEC」という。)と、インターコネクタとを備える電解単セル-インターコネクタ複合体にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼び、燃料電池単セル-インターコネクタ複合体と電解単セル-インターコネクタ複合体とをまとめて電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体と呼び、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼び、燃料電池スタックと電解セルスタックとをまとめて電気化学反応セルスタックと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応セルスタック等の種々の電気化学反応装置にも共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体は、電気化学反応単セルと、インターコネクタとを備える。前記電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。前記インターコネクタは、前記空気極と前記燃料極との一方である特定電極に対して前記第1の方向における前記電解質層とは反対側に直接または前記特定電極と電気的に接続された集電部材を介して接合され、Mnを含む。前記インターコネクタは、前記第1の方向における一方側の表層を構成する第1表層部と、前記第1表層部と反対側の表層を構成する第2表層部と、前記第1表層部と前記第2表層部とに挟まれる中央部とを有する。前記中央部のMn濃度CCと、前記第1表層部のMn濃度CS1と、前記第2表層部のMn濃度CS2とは、以下の式(1)および式(2)を満たす。
CS1<CC ・・・(1)
CS2<CC ・・・(2)
【0010】
本電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体によれば、第1の方向におけるインターコネクタの中央部のMn濃度が、第1表層部および第2表層部のMn濃度と比較して高い。これにより、例えば、本電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体を備える電気化学反応装置の運転中に、Mnの拡散駆動力が生じ、インターコネクタに含まれるMnは、集電部材等の周辺部材へ経時的に拡散する。周辺部材へのMnの拡散は、インターコネクタと、その周辺部材との接合強度の確保において重要であり、インターコネクタと、その周辺部材との界面にMnが存在することにより、互いの接合強度が向上する。インターコネクタの中央部から周辺部材へMnが継続的に供給されることで、電気化学反応装置の運転中も接合強度を保つことができる。そのため、電気化学反応装置の運転中における、構成部材間の接合強度の低下に起因する抵抗値の増大を抑制することができる。
【0011】
また、Mnはインターコネクタに含まれる主要な他の元素(例えば、Fe、Cr)と比較して線膨張係数が大きく、部材の反りに対する寄与が特に大きい。そのため、例えば、CS1<CC<CS2、或いは、CS2<CC<CS1のような構成では、インターコネクタの第1の方向の両側の表層部において、熱膨張率の差が顕著になる。そのような構成では、インターコネクタの反りが起こりやすい。そのため、中央部のMn濃度が、第1表層部および第2表層部の双方のMn濃度よりも高いことにより、電気化学反応装置の運転中における、インターコネクタの反りを抑制することができる。
【0012】
(2)上記電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体において、前記第1表層部のMn濃度CS1と、前記第2表層部のMn濃度CS2とは、CS2≦CS1であるとしたとき、以下の式(3)を満たす構成としてもよい。
1.0≦CS1/CS2<5.0 ・・・(3)
【0013】
本電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体によれば、第1表層部および第2表層部のMn濃度比が一定の範囲内となるような構成とすることで、インターコネクタにおける両側の表層部の線熱膨張係数の差を一定の範囲内に収めることができる。そのため、電気化学反応装置の運転中における、インターコネクタの反りをより効果的に抑制することができる。
【0014】
(3)上記電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体において、前記中央部のMn濃度CCと、前記第1表層部のMn濃度CS1と、前記第2表層部のMn濃度CS2とは、以下の式(4)および式(5)を満たす構成としてもよい。
1.1≦CC/CS1 ・・・(4)
1.1≦CC/CS2 ・・・(5)
【0015】
本電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体によれば、第1表層部および第2表層部のMn濃度に対し、中央部のMn濃度を一定以上の高さにすることで、Mnが周辺部材へ拡散する効率が向上する。そのため、電気化学反応装置の運転中における、構成部材間の接合強度の低下に起因する抵抗値の増大をより効果的に抑制することができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セルと、インターコネクタとを備える電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体、複数の電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体を備える電気化学反応セルスタック、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図6】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図7】インターコネクタ190とその周辺(
図6のVII-VII断面の一部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図
【
図8】インターコネクタ190におけるMn濃度測定用サンプルの切り出し位置の定義を示した説明図
【
図9】インターコネクタ190と燃料極側集電部材144との接合強度の評価基準
【
図10】インターコネクタ190の形状測定の評価基準
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
図4は、
図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている(
図5以降においても同様)。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0019】
図1から
図4に示すように、燃料電池スタック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に積層されてなる複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106と、下端用セパレータ189とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106のうちの一方(以下、「上側エンドプレート104」という。)は、7つの発電単位102からなる発電ブロック103の上側に配置されており、一対のエンドプレート104,106のうちの他方(以下、「下側エンドプレート106」という。)は、発電ブロック103の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106は、発電ブロック103を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0020】
燃料電池スタック100を構成する各層(上側エンドプレート104、各発電単位102、下端用セパレータ189)のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近には、各層を上下方向に貫通する孔が形成されており、下側エンドプレート106のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近における上側の表面には、ネジ孔が形成されている。これらの各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、上下方向に延びるボルト孔109を構成している(
図4参照)。以下の説明では、ボルト孔109を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、ボルト孔109と呼ぶ場合がある。
【0021】
図1および
図4に示すように、各ボルト孔109にはボルト22が挿入されている。各ボルト22の下端部は下側エンドプレート106に形成されたネジ孔に螺号しており、各ボルト22の上端部にはナット24が嵌められている。ナット24の下側の表面は、絶縁シート26を介してエンドプレート104の上側の表面に当接している。このような構成のボルト22およびナット24により、燃料電池スタック100の各層が一体に締結されている。なお、絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0022】
また、
図1から
図3に示すように、燃料電池スタック100を構成する各層(各発電単位102、下端用セパレータ189、下側エンドプレート106)のZ軸方向回りの周縁部には、各層を上下方向に貫通する4つの孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、最上部の発電単位102から下側エンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0023】
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の後述する空気室166に供給するガス流路である空気極側供給マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である空気極側排出マニホールド162として機能する。酸化剤ガスOGとしては、例えば空気が使用される。
【0024】
また、
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する辺の内、上述した空気極側排出マニホールド162として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の後述する燃料室176に供給するガス流路である燃料極側供給マニホールド171として機能し、上述した空気極側供給マニホールド161として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である燃料極側排出マニホールド172として機能する。燃料ガスFGとしては、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0025】
図2および
図3に示すように、燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。
図2に示すように、空気極側供給マニホールド161の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、空気極側供給マニホールド161に連通しており、空気極側排出マニホールド162の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、空気極側排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料極側供給マニホールド171の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料極側供給マニホールド171に連通しており、燃料極側排出マニホールド172の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料極側排出マニホールド172に連通している。なお、各ガス通路部材27と下側エンドプレート106の表面との間には、絶縁シート26が介在している。
【0026】
(エンドプレート104,106の構成)
図2から
図4に示すように、一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。一対のエンドプレート104,106の中央付近には、それぞれ、Z軸方向に貫通する孔32,34が形成されている。Z軸方向視で、一対のエンドプレート104,106のそれぞれに形成された孔32,34の内周線は、後述する各単セル110を内包している。そのため、各ボルト22およびナット24による締結によって生じるZ軸方向の圧縮力は、主として各発電単位102の周縁部(後述する各単セル110より外周側の部分)に作用する。また、本実施形態では、上側エンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側エンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0027】
(下端用セパレータ189の構成)
図2から
図4に示すように、下端用セパレータ189は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えば金属により形成されている。下端用セパレータ189の周縁部は、発電ブロック103と下側エンドプレート106との間に挟み込まれた状態で、下側エンドプレート106と例えば溶接により接合されており、下側エンドプレート106と電気的に接続されている。
【0028】
(発電単位102の構成)
図5は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図6は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
【0029】
図5および
図6に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、単セル用セパレータ120と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ190と、インターコネクタ用セパレータ191と、空気極側フレーム130と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電部材144と、を備えている。単セル用セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ用セパレータ191におけるZ軸方向回りの周縁部には、各マニホールド161,162,171,172として機能する各連通孔108を構成する孔と、各ボルト孔109を構成する孔とが形成されている。
【0030】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116と、電解質層112と空気極114との間に配置された反応防止層118とを備える燃料電池単セルである。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、反応防止層118)を支持する燃料極支持形の単セルである。単セル110は、特許請求の範囲における電気化学反応単セルの一例である。空気極114および燃料極116は、特許請求の範囲における特定電極の一例である。
【0031】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))を含むように構成されている。すなわち、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、例えばペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))を含むように構成されている。燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。反応防止層118は、Z軸方向視で空気極114と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように構成されている。反応防止層118は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する機能を有する。
【0032】
単セル用セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。単セル用セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、単セル110(電解質層112)の周縁部における上側の表面に対向している。単セル用セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、単セル110(電解質層112)と接合(接続)されている。単セル用セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が抑制される。
【0033】
単セル用セパレータ120における貫通孔121付近には、ガラスを含むガラスシール部125が配置されている。ガラスシール部125は、接合部124に対して空気室166側に位置しており、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部の表面と、単セル110(本実施形態では電解質層112)の表面との両方に接触するように形成されている。ガラスシール部125により、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が効果的に抑制される。
【0034】
インターコネクタ190は、略矩形の平板形状の平板部150と、平板部150から空気極114側に突出した複数の略柱状の空気極側集電部134と、を有する導電性の部材であり、Mnを含む金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成されている。本実施形態では、インターコネクタ190の表面(空気室166に面する表面)に、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性の被覆層194が形成されている。また、本実施形態では、インターコネクタ190における被覆層194とは反対側の表面(燃料室176に面する表面)に、酸化被膜192が形成されている。酸化被膜192は、燃料室176に面するMn(例えば、MnCr2O4)を含む層と、Mnを含む層に隣接し、主にCr2O3により形成されたクロミア層とからなる。以下では、被覆層194および酸化被膜192に覆われたインターコネクタ190を、単にインターコネクタ190という。
【0035】
各発電単位102において、上側のインターコネクタ190は、単セル110に対して空気室166を挟んで上側(空気極114に対してZ軸方向の電解質層112とは反対側)に配置されている。上側のインターコネクタ190(の各空気極側集電部134)は、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性接合材196を介して、単セル110の空気極114に接合されており、これにより単セル110の空気極114に電気的に接続されている。また、各発電単位102において、下側のインターコネクタ190は、単セル110に対して燃料室176を挟んで下側に配置されており、後述する燃料極側集電部材144を介して、単セル110の燃料極116に電気的に接続されている。インターコネクタ190は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を抑制する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ190は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ190は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ190と同一部材である。下側のインターコネクタ190は、燃料室176を画定している。なお、最も下側に位置する発電単位102においては、下側のインターコネクタ190の代わりに、下端用セパレータ189を備えている(
図2から
図4参照)。導電性接合材196は、特許請求の範囲における集電部材の一例である。
【0036】
各発電単位102(最も下に位置する発電単位102を除く)は、上述した単セル110とインターコネクタ190(各発電単位102における下側のインターコネクタ190)とを備える複合体(燃料電池単セル-インターコネクタ複合体)180を含んでいると言える。複合体180は、特許請求の範囲における電気化学反応単セル-インターコネクタ複合体の一例である。
【0037】
インターコネクタ用セパレータ191は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔181が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。インターコネクタ用セパレータ191における貫通孔181を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、インターコネクタ190の周縁部における上側の表面に例えば溶接により接合されている。ある発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ用セパレータ191のうち、上側のインターコネクタ用セパレータ191は、該発電単位102の空気室166と、該発電単位102に対して上側に隣り合う他の発電単位102の燃料室176とを区画する。また、ある発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ用セパレータ191のうち、下側のインターコネクタ用セパレータ191は、該発電単位102の燃料室176と、該発電単位102に対して下側に隣り合う他の発電単位102の空気室166とを区画する。このように、インターコネクタ用セパレータ191により、発電単位102の周縁部における発電単位102間のガスのリークが抑制される。なお、最も上側に位置する発電単位102の上側のインターコネクタ190に接合されたインターコネクタ用セパレータ191は、上側エンドプレート104に電気的に接続されている。
【0038】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を画定する。空気極側フレーム130は、単セル用セパレータ120の周縁部における上側の表面と、上側のインターコネクタ用セパレータ191の周縁部における下側の表面とに接触しており、両者の間のガスシール性(すなわち、空気室166のガスシール性)を確保するシール部材として機能する。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ用セパレータ191間(すなわち、一対のインターコネクタ190間)が電気的に絶縁される。空気極側フレーム130には、空気極側供給マニホールド161と空気室166とを連通する空気極側供給連通流路132と、空気室166と空気極側排出マニホールド162とを連通する空気極側排出連通流路133とが形成されている。
【0039】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を画定する。燃料極側フレーム140は、単セル用セパレータ120の周縁部における下側の表面と、下側のインターコネクタ用セパレータ191の周縁部における上側の表面とに接触している。燃料極側フレーム140には、燃料極側供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料極側供給連通流路142と、燃料室176と燃料極側排出マニホールド172とを連通する燃料極側排出連通流路143とが形成されている。
【0040】
燃料極側集電部材144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電部材144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147(
図7参照)とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116の下側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ190の上側の表面に接触して拡散接合されている。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下側に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ190を備えていないため、該発電単位102における燃料極側集電部材144のインターコネクタ対向部146は、下端用セパレータ189に接触している。燃料極側集電部材144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ190(または下端用セパレータ189)とを電気的に接続する。なお、燃料極側集電部材144の電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電部材144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電部材144を介した燃料極116とインターコネクタ190(または下端用セパレータ189)との電気的接続が良好に維持される。燃料極側集電部材144は、特許請求の範囲における集電部材の一例である。
【0041】
A-2.インターコネクタ190とその周辺の詳細構成:
図7は、インターコネクタ190とその周辺(
図6のVII-VII断面の一部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。平板部150は、上下方向における空気室166側の表層を構成する空気室側表層部150SCと、上下方向における燃料室176側の表層を構成する燃料室側表層部150SAと、空気室側表層部150SCと燃料室側表層部150SAとに挟まれた中央部150Cとに仮想的に分割することができる。燃料室側表層部150SAと、中央部150Cと、空気室側表層部150SCとは、平板部150を厚み方向(すなわち、上下方向)に仮想的に3等分したときの各層に等しい。空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAは、特許請求の範囲における第1表層部ないし第2表層部の一例である。
【0042】
上述したように、インターコネクタ190は、Mnを含んでいる。
図7には、インターコネクタ190の各層に含まれるMn濃度の分布を概念的に示している。すなわち、インターコネクタ190のMn濃度は一定ではなく、濃度勾配を有している。
【0043】
インターコネクタ190は、以下の第1の条件を満たす。
(第1条件)
インターコネクタ190について、中央部150CのMn濃度CCと、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとは、以下の式(1)および式(2)を満たす。すなわち、インターコネクタ190の厚み方向における中央部150CのMn濃度CCは、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度であるCSCおよびCSAと比較して高い。
CSA<CC ・・・(1)
CSC<CC ・・・(2)
【0044】
インターコネクタ190は、さらに、以下の第2条件を満たす。
(第2条件)
インターコネクタ190について、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとで、Mn濃度が同じである場合に、いずれか一方を第1表層部、他方を第2表層部とし、Mn濃度が異なる場合に、Mn濃度が高い方を第1表層部、Mn濃度が低い方を第2表層部としたとき、第1表層部のMn濃度CS1と、第2表層部のMn濃度CS2とは、以下の式(3)を満たす。すなわち、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度比が一定の範囲内となる。
1.0≦CS1/CS2<5.0 ・・・(3)
【0045】
インターコネクタ190は、さらに、以下の第3条件を満たす。
(第3条件)
インターコネクタ190について、中央部150CのMn濃度CCと、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとは、以下の式(4)および式(5)を満たす。すなわち、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度に対し、中央部150CのMn濃度は一定以上高い値を示す。
1.1≦CC/CSA ・・・(4)
1.1≦CC/CSC ・・・(5)
【0046】
なお、本明細書において、中央部150CのMn濃度CCと、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとは、各層におけるMn濃度の平均値を表している。
【0047】
A-3.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図5に示すように、酸化剤ガスOGは、空気極側供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して空気極側供給マニホールド161に供給され、空気極側供給マニホールド161から各発電単位102の空気極側供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図6に示すように、燃料ガスFGは、燃料極側供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料極側供給マニホールド171に供給され、燃料極側供給マニホールド171から各発電単位102の燃料極側供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
【0048】
各発電単位102において、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが多孔質な空気極114内に進入し、かつ、燃料室176に供給された燃料ガスFGが多孔質な燃料極116内に進入すると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は、導電性接合材196を介して一方のインターコネクタ190に電気的に接続され、燃料極116は、燃料極側集電部材144を介して他方のインターコネクタ190に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0049】
図2および
図5に示すように、各発電単位102の空気室166から空気極側排出連通流路133を介して空気極側排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、空気極側排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。また、
図3および
図6に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料極側排出連通流路143を介して燃料極側排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料極側排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0050】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、複合体180は、単セル110と、インターコネクタ190とを備える。単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを含む。インターコネクタ190は、空気極114と燃料極116との一方である特定電極に対して第1の方向における電解質層112とは反対側に直接または特定電極と電気的に接続された導電性接合材196または燃料極側集電部材144を介して接合され、Mnを含む。インターコネクタ190における平板部150は、第1の方向における空気室166側の表層を構成する空気室側表層部150SCと、第1の方向における燃料室176側の表層を構成する燃料室側表層部150SAと、空気室側表層部150SCと燃料室側表層部150SAとに挟まれる中央部150Cとを有する。中央部150CのMn濃度CCと、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとは、以下の式(1)および式(2)を満たす。
CSC<CC ・・・(1)
CSA<CC ・・・(2)
【0051】
本実施形態の複合体180によれば、第1の方向におけるインターコネクタ190の平板部150の中央部150CのMn濃度CCが、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度であるCSCおよびCSAと比較して高い。これにより、中央部150CのMn濃度CCが比較的高いことによってMnの拡散駆動力が生じ、インターコネクタ190に含まれるMnは、導電性接合材196および燃料極側集電部材144等の周辺部材へ拡散する。周辺部材へのMnの拡散は、インターコネクタ190と、その周辺部材との接合強度の確保において重要であり、インターコネクタ190と、その周辺部材との界面にMnが存在することにより、互いの接合強度が向上する。インターコネクタ190の中央部150Cから周辺部材へMnが継続的に供給されることで、燃料電池スタック100の運転中も接合強度を保つことができる。そのため、燃料電池スタック100の運転中における、構成部材間の接合強度の低下に起因する抵抗値の増大を抑制することができる。
【0052】
また、Mnはインターコネクタ190に含まれる主要な他の元素(例えば、Fe、Cr)と比較して線膨張係数が大きく、部材の反りに対する寄与が特に大きい。そのため、例えば、CSC<CC<CSA、或いは、CSA<CC<CSCのような構成では、インターコネクタ190の厚み方向の両側の表層部において、熱膨張率の差が顕著になる。そのような構成では、インターコネクタ190の反りが起こりやすい。そのため、中央部150CのMn濃度が、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAの双方のMn濃度よりも高いことにより、燃料電池スタック100の運転中における、インターコネクタ190の反りを抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態の複合体180では、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのうち、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度が同じである場合に、いずれか一方を第1表層部、他方を第2表層部とし、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度が異なる場合に、Mn濃度が高い方を第1表層部、Mn濃度が低い方を第2表層部とし、第1表層部のMn濃度をCS1、第2表層部のMn濃度をCS2であるとしたとき、以下の式(3)を満たす。
1.0≦CS1/CS2<5.0 ・・・(3)
【0054】
本実施形態の複合体180によれば、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度比が一定の範囲内となるような構成とすることで、インターコネクタ190における両側の表層部の線熱膨張係数の差を一定の範囲内に収めることができる。そのため、燃料電池スタック100の運転中における、インターコネクタ190の反りをより効果的に抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態の複合体180では、中央部150CのMn濃度CCと、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとは、以下の式(4)および式(5)を満たす。
1.1≦CC/CSC ・・・(4)
1.1≦CC/CSA ・・・(5)
【0056】
本実施形態の複合体180によれば、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度に対し、中央部150CのMn濃度を一定以上の高さにすることで、Mnが周辺部材へ拡散する効率が向上する。そのため、燃料電池スタック100の運転中における、構成部材間の接合強度の低下に起因する抵抗値の増大をより効果的に抑制することができる。
【0057】
A-5.性能評価:
次に、本実施形態の性能評価について説明する。Mn濃度が異なる複数のインターコネクタ190のサンプルを作製し、当該サンプルを用いて性能評価を行った。
【0058】
(サンプル作製方法)
厚み方向のMn濃度が一定であるインターコネクタ190を、加湿空気が供給される管状炉内に設置した。インターコネクタ190の各表面の近辺にセラミックヒーターを設置し、サンプル毎にセラミックヒーターの温度と熱処理時間を変え、インターコネクタ190に熱処理を施した。熱処理温度は、例えば、700℃~1000℃であり、熱処理時間は、例えば、100時間程度である。熱処理によって、インターコネクタ190の表面からMnを飛散させることにより、Mn濃度が異なる複数のサンプルを作製した。
【0059】
(Mn濃度の測定)
図8は、インターコネクタ190におけるMn濃度測定用サンプルの切り出し位置の定義を示した説明図である。インターコネクタ190の厚み方向に平行な方向視において、インターコネクタ190のうち単セル110と重なる領域を縦方向および横方向にそれぞれ4等分したとき、縦方向および横方向の両方における中央の2区画に含まれる領域をインターコネクタ190の中心部ENとし、それ以外の領域を外周部EXとした。Mn濃度測定用サンプルは、インターコネクタ190において導電性接合材196および燃料極側集電部材144の少なくとも一方と接する箇所と厚み方向に重なる部分の中から、中心部ENから3か所、外周部EXから3か所(計6か所)を切り出し、Mn濃度の測定を行った。Mn濃度の測定は、GO-OES法(グロー放電発光分析法)にて、例えば、5μm間隔でスパッタリングし、インターコネクタ190の厚み方向のMn濃度分布を測定した。空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのそれぞれについて、測定した6か所それぞれにおけるMn濃度の最小値の平均値を算出し、各サンプルのMn濃度とした。また、中央部150Cについて、測定した6か所それぞれにおけるMn濃度の最大値の平均値を算出し、各サンプルのMn濃度とした。なお、インターコネクタ190の厚みが例えば2mm以上である場合には、GO-OES法に代えて、インターコネクタ190の厚み方向に沿った断面を、EDS(エネルギー分散型分析法)を用いて分析することにより、Mn濃度の分布を測定してもよい。
【0060】
(熱サイクル試験)
インターコネクタ190の各サンプルを燃料電池スタック100の構成部材として適用し、熱サイクル試験を実施した。昇温(室温~700℃、1.5時間)→加熱(700℃、3時間)→降温(700℃~室温、13時間)を1サイクルとし、計10サイクルを実施した。熱サイクル実施後、燃料電池スタック100を解体し、後述の「接合強度の評価」および「形状評価」を実施した。
【0061】
(接合強度の評価)
図9は、インターコネクタ190と燃料極側集電部材144との接合強度の評価基準を示している。本性能評価においては、インターコネクタ190と燃料極側集電部材144との接合強度である燃料極側接合強度の評価を行った。接合強度の評価は、熱サイクル試験実施後のインターコネクタ190と燃料極側集電部材144との間の抵抗測定により評価した。抵抗測定は、例えばテスターを用い、測定端子の一方をインターコネクタ190の表面に、測定端子のもう一方を燃料極側集電部材144の表面に当てることにより測定できる。評価基準は、測定された抵抗値が、0mΩより大きく、20mΩ以下であったサンプルを優良「○」、20mΩより大きく、40mΩ以下であったサンプルを可「△」、40mΩより大きいサンプルを不可「×」とした。すなわち、燃料電池スタック100の運転後、インターコネクタ190周りの抵抗値が低いサンプルであるほど、インターコネクタ190とその周辺部材との接合強度が高いものとして評価を行った。
【0062】
(形状評価)
図10は、インターコネクタ190の形状測定の評価基準を示している。形状測定は、インターコネクタ190の厚み方向に垂直な方向視における、熱サイクル試験実施後のインターコネクタ190の部材の反りにより評価した。形状測定は、例えばレーザー変位計を用いた非接触形状測定システムによって測定することができる。形状評価にあたり、インターコネクタ190の中心部ENに含まれ、燃料極側集電部材144と接する箇所である任意の位置xy1、xy2を選択する。xy1およびxy2における厚み方向の長さをそれぞれ4等分にしたとき、xy1およびxy2のそれぞれにおいて、表面から厚み方向の長さの1/2離れた座標を結ぶ線をa線とし、両側の表面から厚み方向の長さの1/4離れた座標を結ぶ線をb線とする。評価基準は、インターコネクタ190の厚み方向の両側の表面について、いずれもb線と重ならないサンプルを優良「○」、いずれかがb線と重なるサンプルを可「△」、いずれかがa線と重なるサンプルを不可「×」とした。
【0063】
(性能評価結果)
図11は、性能評価結果を示す説明図である。「Mn濃度(mass%)」は、各サンプルにおける燃料室側表層部150SAのMn濃度C
SA、中央部150CのMn濃度C
Cおよび空気室側表層部150SCのMn濃度C
SCを示している。「条件1」は、前述の式(1)および式(2)に対応しており、式(1)および式(2)について、それぞれの式に当てはまるサンプルは「○」、当てはまらないサンプルは「×」として示している。「条件2」は、前述の式(3)に対応しており、空気室側表層部150SCおよび燃料室側表層部150SAのうち、Mn濃度が高い方を第1表層部、Mn濃度が低い方を第2表層部とし、第1表層部のMn濃度をC
S1、第2表層部のMn濃度をC
S2であるとしたときのC
S1/C
S2の値を示している。「条件3」は、前述の式(5)に対応し、C
C/C
SAの値を示している。
【0064】
式(1)および式(2)のいずれの式にも当てはまるサンプルを、条件1を満たすサンプルとし、式(1)および式(2)の少なくとも一方の式を満たさないサンプルは、条件1を満たさないサンプルとする。また、式(3)に当てはまるサンプルを、条件2を満たすサンプルとし、式(3)に当てはまらないサンプルを、条件2を満たさないサンプルとする。また、式(5)に当てはまるサンプルを、条件3を満たさないサンプルとし、式(5)に当てはまらないサンプルを、条件3を満たさないサンプルとする。
【0065】
S1およびS3では、条件1および条件3のそれぞれを満たしていることから、燃料極側接合強度は優良「○」であった。また、条件1および条件2のそれぞれを満たしていることから、形状測定も優良「○」であった。
【0066】
また、S2およびS4では、条件1および条件3のそれぞれを満たしていることから、燃料極側接合強度は可「△」であった。また、条件1および条件2のそれぞれを満たしていることから、形状測定は優良「○」であった。
【0067】
また、S5では、条件1および条件3のそれぞれを満たしていることから、燃料極側接合強度は可「△」であった。また、条件1および条件2のそれぞれを満たしていることから、形状測定は可「△」であった。
【0068】
また、S6では、条件1および条件3のそれぞれを満たしていることから、燃料極側接合強度は優良「○」であった。また、条件1および条件2のそれぞれを満たしていることから、形状測定は可「△」であった。
【0069】
また、S7では、条件1の式(2)を満たしていないものの、条件1の式(1)および条件3のそれぞれを満たしている(つまり、インターコネクタ190において、少なくとも中央部150Cと燃料室側表層部150SAのMn濃度の関係は満たしている)ことから、燃料極側接合強度は可「△」であった。また、条件1および条件2のいずれも満たしていないことから、形状測定は不可「×」であった。
【0070】
また、S8では、条件1および条件3のいずれも満たしていないことから、接合強度は不可「×」であった。また、条件1および条件2のいずれも満たしていないことから、形状測定も不可「×」であった。
【0071】
また、S9では、条件1および条件3のいずれも満たしていないことから、接合強度は不可「×」であった。また、条件1を満たしていないものの、条件2を満たしていることから、形状測定は可「△」であった。
【0072】
以上の評価結果から、空気室側表層部150SC、中央部150Cおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度を調節することにより、インターコネクタ190と周辺部材との接合強度の低下と、インターコネクタ190の反りとを抑制することができることが確認された。
【0073】
なお、条件2を満たすサンプルのうち、CS1/CS2が1.0以上であって、3.33以下のサンプルは、優良「〇」と判定され、3.33より大きく、5.0より小さいサンプルは、可「△」と判定された。これらの結果から、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCと、燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとで、Mn濃度が同じである場合に、いずれか一方を第1表層部、他方を第2表層部とし、Mn濃度が異なる場合に、Mn濃度が高い方を第1表層部、Mn濃度が低い方を第2表層部としたとき、第1表層部のMn濃度CS1と、第2表層部のMn濃度CS2との比であるCS1/CS2値は、好ましくは1.0以上、5.0未満であり、より好ましくは1.0以上、3.33以下であると言える。
【0074】
また、条件3を満たすサンプルのうち、CC/CSAが2.50以上のサンプルは、優良「○」と判定され、1.1以上であって、2.50より小さいサンプルは、可「△」と判定された。これらの結果から、中央部150CのMn濃度CCと、空気室側表層部150SCのMn濃度CSCおよび燃料室側表層部150SAのMn濃度CSAとの比であるCC/CSCおよびCC/CSAの値は、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは2.50以上であると言える。
【0075】
また、本性能評価においては、接合強度の評価をインターコネクタ190と燃料極116側の部材との間でしか検証されていない。しかしながら、インターコネクタ190からのMnの拡散は、空気極114側でも同様に起こると考えることができ、実際には空気極114側の部材との接合強度も同様に向上することができる。
【0076】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0077】
上記実施形態における燃料電池スタック100の構成や燃料電池スタック100を構成する各部分の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0078】
上記実施形態では、インターコネクタ190は被覆層194および酸化被膜192を含んでいるが、インターコネクタ190が該被覆層194および酸化被膜192を含んでいなくてもよい。また、上記実施形態(または変形例、以下同様)では、単セル110が反応防止層118を有しているが、単セル110が反応防止層118を有していなくてもよい。
【0079】
上記実施形態では、インターコネクタ190が、空気極側集電部134を介して空気極114と接合され、燃料極側集電部材144を介して燃料極116と接合される構成であるが、インターコネクタ190が、空気極114および燃料極116と直接接合される構成であってもよい。
【0080】
式(1)~(5)については、燃料電池スタック100に含まれるすべてのインターコネクタ190に適用されることが必須ではなく、燃料電池スタック100に含まれる一部のインターコネクタ190において適用される形態であってもよい。
【0081】
インターコネクタ190の厚み方向におけるMn濃度の変化は、漸次的に変化するものに限られるものではなく、段階的に変化するものであってもよい。
【0082】
上記実施形態における燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数(発電単位102の個数)は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0083】
また、本発明を、特開2018-195414号公報に記載されているような、金属支持型(メタルサポート型)の単セル110を備える構成に適用してもよい。このような構成において、電極を支持している金属支持体が、例えばフェライト系ステンレスのようなMnを含む材料で形成されている場合、当該金属支持体を本発明におけるインターコネクタ190として解釈することができる。
【0084】
上記実施形態の燃料電池スタック100は、カウンタータイプのSOFCであるが、本明細書に開示される技術は、コフロータイプのSOFCにも同様に適用可能である。また、本明細書に開示される技術は、クロスフロータイプのSOFCにも同様に適用可能である。
【0085】
上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池スタック100を対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルを複数備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの基本的な構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるが、おおよそ以下の通りである。すなわち、電解セルスタックの構成は、上述した実施形態の燃料電池スタック100の構成において、「発電単位」を「電解セル単位」と読み替え、「単セル」を「電解単セル」と読み替え、「酸化剤ガス供給マニホールド」を「空気排出マニホールド」と読み替え、「酸化剤ガス排出マニホールド」を「空気供給マニホールド」と読み替え、「燃料ガス供給マニホールド」を「水素排出マニホールド」と読み替え、「燃料ガス排出マニホールド」を「水蒸気供給マニホールド」と読み替え、「酸化剤ガス供給連通流路」を「空気排出連通流路」と読み替え、「酸化剤ガス排出連通流路」を「空気供給連通流路」と読み替え、「燃料ガス供給連通流路」を「水素排出連通流路」と読み替え、「燃料ガス排出連通流路」を「水蒸気供給連通流路」と読み替えた構成である。
【0086】
上記実施形態では、いわゆる平板型の燃料電池スタックを例に用いて説明したが、本明細書に開示される技術は、平板型に限らず、他のタイプ(いわゆる円筒平板型や円筒形)の燃料電池(または電解セル)にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 32,34:孔 100:燃料電池スタック 102:発電単位 103:発電ブロック 104,106:エンドプレート 108:連通孔 109:ボルト孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 118:反応防止層 120:単セル用セパレータ 121:貫通孔 124:接合部 125:ガラスシール部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:空気極側供給連通流路 133:空気極側排出連通流路 134:空気極側集電部 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料極側供給連通流路 143:燃料極側排出連通流路 144:燃料極側集電部材 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:平板部 150C:中央部 150SA:燃料室側表層部 150SC:空気室側表層部 161:空気極側供給マニホールド 162:空気極側排出マニホールド 166:空気室 171:燃料極側供給マニホールド 172:燃料極側排出マニホールド 176:燃料室 180:複合体 181:貫通孔 189:下端用セパレータ 190:インターコネクタ 191:インターコネクタ用セパレータ 192:酸化被膜 194:被覆層 196:導電性接合材 CC:中央部150CのMn濃度 CSA:燃料室側表層部150SAのMn濃度 CSC:空気室側表層部150SCのMn濃度 CS1:第1表層部のMn濃度 CS2:第2表層部のMn濃度 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス EN:内周部 外周部:EX