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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089779
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 9/04 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
A46B9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205190
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香嶋 郁美
(72)【発明者】
【氏名】和田 行紀
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB15
3B202DB01
3B202EA01
3B202EC05
3B202EF10
(57)【要約】
【課題】小臼歯を清掃する際にもヘッドが揺れたり跳ね上がったりせず安定し、清掃性や使用感の良好なコンパクトヘッドの歯ブラシを提供せんとする。
【解決手段】ヘッド部2を毛束4が突出している腹側からみた平面視で、複数配列された植毛穴のうち最も外側に環状に配置される複数の植毛穴20の開口外縁同士を最短距離で結んだ仮想線に囲まれた内側領域R1の面積を植毛面積S1とし、該植毛面積S1が、125mm2未満であり、且つ、植毛面積S1に対する前記複数配列されたすべての植毛穴20の開口総面積の割合が35%以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の毛束が植設されるヘッド部を有する歯ブラシであって、
前記ヘッド部を前記毛束が突出している腹側からみた平面視で、複数配列された植毛穴のうち最も外側に環状に配置される複数の植毛穴の開口外縁同士を最短距離で結んだ仮想線に囲まれた内側領域の面積を植毛面積とし、
該植毛面積が、125mm未満であり、
且つ、前記植毛面積に対する前記複数配列されたすべての植毛穴の開口総面積の割合が35%以上であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記内側領域の歯ブラシの軸方向に沿った縦方向の寸法(縦寸法)とこれに直交する左右幅方向の寸法(横寸法)との縦横比(縦寸法/横寸法)が、2未満である、請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記複数の毛束が、先端が平坦毛切り状で互いに同じ丈である、請求項1又は2記載の歯ブラシ。
【請求項4】
各毛束の毛丈が12mm以下である、請求項1又は2記載の歯ブラシ。
【請求項5】
各毛束の毛が先細り形状の毛を含む、請求項1又は2記載の歯ブラシ。
【請求項6】
各毛束の毛が、脂肪族系ポリアミド樹脂である、請求項1又は2記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛束が植設されるヘッド部と、該ヘッド部に連設されたハンドル体とを備える歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通常の大きさ(植毛面積が125mm以上)のヘッドを有する歯ブラシでは、植毛の密度が高すぎると清掃性が低下し、とくに歯間の清掃性が低下することが知られていた(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、近年では、奥歯まで届いてしっかり磨けるように、ヘッドが小さいコンパクトヘッドの歯ブラシも提供されている。このようなコンパクトヘッドの歯ブラシは、とくに奥歯(大臼歯)の手前(小臼歯)を清掃する際に、小臼歯は歯列弓の中でも内側に入っており段差があり、当該段差でヘッドが揺れたり跳ね上がったり不安定化しやすく、清掃性や使用感が低下するという課題があった。奥歯である大臼歯の手前の小臼歯は大臼歯の次に虫歯になりやすいとされており、小臼歯も良好に清掃できるコンパクトヘッドの歯ブラシが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3201616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、小臼歯を清掃する際にもヘッドが揺れたり跳ね上がったりせず安定し、清掃性や使用感の良好なコンパクトヘッドの歯ブラシを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、かかる現況に鑑み、鋭意検討した結果、コンパクトヘッドの歯ブラシは、通常の歯ブラシに比べ、毛および毛束の総数が少ないため、清掃の際に毛束一束あたりに生じる荷重が大きくなり、これにより毛束が根本から大きく撓んでヘッドが傾きやすくなり、結果、使用感や清掃性が悪化すること、また、このように撓んだ毛束が復元する際、たとえば大臼歯から小臼歯に移動する際の歯面の段差(落差)を通過する際、大きな反発力となってコンパクトで軽いヘッドを跳ね上げるため、ヘッドの姿勢が不安定になるとともに清掃性も悪化することを見出した。そして、更に鋭意検討した結果、当該コンパクトなヘッドの植毛の密度を一定以上に上げることで、上記ヘッドの傾きや跳ね上がりを解消でき、使用感や清掃性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 毛束が植設されるヘッド部を有する歯ブラシであって、前記ヘッド部を前記毛束が突出している腹側からみた平面視で、複数配列された植毛穴のうち最も外側に環状に配置される複数の植毛穴の開口外縁同士を最短距離で結んだ仮想線に囲まれた内側領域の面積を植毛面積とし、該植毛面積が、125mm未満であり、且つ、前記植毛面積に対する前記複数配列されたすべての植毛穴の開口総面積の割合が35%以上であることを特徴とする歯ブラシ。
【0008】
(2) 前記内側領域の歯ブラシの軸方向に沿った縦方向の寸法(縦寸法)とこれに直交する左右幅方向の寸法(横寸法)との縦横比(縦寸法/横寸法)が、2未満である、(1)記載の歯ブラシ。
【0009】
(3) 前記複数の毛束が、先端が平坦毛切り状で互いに同じ丈である、(1)又は(2)記載の歯ブラシ。
【0010】
(4) 各毛束の毛丈が12mm以下である、(1)~(3)の何れかに記載の歯ブラシ。
(5) 各毛束の毛が先細り形状の毛を含む、(1)~(4)の何れかに記載の歯ブラシ。
(6) 各毛束の毛が、脂肪族系ポリアミド樹脂である、(1)~(5)の何れかに記載の歯ブラシ。
【発明の効果】
【0011】
コンパクトヘッドでありながら、小臼歯を清掃する際にもヘッドの揺れや跳ね上がりが抑えられ、清掃性や使用感が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の代表的実施形態に係る歯ブラシを示す平面図。
図2】同じく歯ブラシの側面図。
図3】同じく歯ブラシの毛束を根本で切断した状態のヘッド部を示す拡大図。
図4】摩擦力の試験方法を説明する説明図。
図5】同じく摩擦力の試験方法を説明する説明図。
図6】同じく摩擦力の試験における試験結果を示すグラフであり、(a)が実施例1の試験結果のグラフ、(b)が比較例1の試験結果のグラフ。
図7】同じく摩擦力の試験におけるヘッド部の様子を撮影した写真であり、(a)が比較例2の写真、(b)が比較例3の写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る歯ブラシ1の代表的実施形態は、図1図3に示すように毛束4が植設される先端側のヘッド部2と、基端側のハンドル部12と、ヘッド部2とハンドル部12とを連結するネック部11とを備える手動の歯ブラシである。ただし、本発明はこのような手動の歯ブラシに限定されるものではなく、駆動機構を内蔵する把持部としての本体部の先端側に、ヘッド部及びネック部からなる歯ブラシ清掃体が接続される電動歯ブラシでもよく、その他の形態でもよい。
【0015】
ヘッド部2は、略平板状の植毛台5より構成され、この植毛台5の腹面側に位置する植毛面21に複数の毛束4が植毛されている。毛束4は、植毛台5に形成された植毛穴20に対し、平線とともに打ち込んで植毛するものや、平線を使用せずに融着式やインモールド式などで毛束4を立設したものでも勿論よい。
【0016】
ヘッド部2は、ネック部11およびハンドル部12とともに、ポリアセタール樹脂(POM),ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリアミド樹脂などの曲げ弾性率2300MPa以上の硬質合成樹脂によって一体成形されている。ハンドル部12やネック部11は、同一樹脂で一体成形するもの以外に、第2の合成樹脂やエラストマーで被覆部を二色成形したもの等でも勿論よい。
【0017】
ヘッド部2は、コンパクトな大きさに設定されている。具体的には、図3に示すように、植毛面21に複数配列された植毛穴20のうち最も外側に環状に配置される複数の植毛穴20の開口外縁同士を最短距離で結んだ仮想線L1に囲まれた内側領域R1の面積(植毛面積)S1が、125mm未満、好ましくは100mm以下の大きさに設定されている。また、厚さ(台厚)T1についても、4.0mm以下、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.5mm以下の薄型に構成されている。
【0018】
本発明の歯ブラシ1は、このように通常のヘッドよりも小さい植毛面積S1に設定されたコンパクトヘッドを有する歯ブラシにおいて、当該植毛面積S1に対するすべての植毛穴20の開口総面積の割合(植毛密度)を35%以上に設定することで、毛束に生じる圧が強くなりすぎず、コンパクトでありながらヘッドの揺れや跳ね上がりが抑えられ、毛束同士の支え合いもあって、ブラシ全体に荷重が均等にかかり、スムーズに動かすことができ、清掃性や使用感を向上させた歯ブラシである。
【0019】
また、内側領域R1の歯ブラシの軸方向に沿った縦方向の寸法(図3に示す縦寸法a1)とこれに直交する左右幅方向の寸法(図3に示す横寸法b1)との縦横比(a1/b1)は、2未満、好ましくは平均的な小臼歯の歯面の縦横比に合わせて1.35~1.75に設定され、コンパクトヘッドでありながら奥歯やその手間の小臼歯などの歯面で均等に毛が広がり、スムーズに動かせ且つ歯面や歯間にフィットし、清掃性が向上するとともになめらかな磨き心地が得られ、且つ見栄えも良いものとされている。
【0020】
各植毛穴20の開口径、深さや、植毛穴20の個数、配列形態などは、設定される上記植毛密度に応じて適宜設定される。植毛穴20の開口径は1.0~2.5mm程度で適宜決められる。また、植毛穴20の深さは1.5~3.5mmの範囲で適宜決められる。
【0021】
毛束4の先端は互いに同じ丈になるように平坦に毛切りされている。各毛束4の毛丈は、好ましくは12mm以下、より好ましくは10mm以下に設定されている。毛束4を構成する各毛(フィラメント)の材質も特に限定されず、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィンなどの樹脂材料からなる人工毛でもよく、豚毛などの天然毛でもよい。なかでも、本発明では特に口の中で吸水して柔らかくなり、毛の動きがよりスムーズになる脂肪族系ポリアミド樹脂からなる毛が好ましい。また、各毛の断面形状や断面の大きさ、長さ、先細形状の有無なども、公知の形態を広く採用できる。なかでも本発明では先細形状の毛を含むことが好ましい。
【0022】
ネック部11は、中央の位置よりも先端側の部分について、前後方向の厚み寸法、左右方向の幅寸法は、いずれも5.5mm以下、より好ましくは3.5mm以上、4.5mm以下の細型ネックとされている。このように、中央の位置よりも先端側の部分について、厚み及び幅をコンパクトヘッドに対応させて5.5mm以下に形成した場合、奥歯の細かい部位までヘッド部2が届き、奥歯を含めて口腔内全体をより確実にしっかりと磨くことが可能である。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【0024】
以下、植毛面積、植毛面積に対する植毛穴の開口総面積(以下、「総穴面積」と称す。)の割合が異なる複数の歯ブラシサンプルを作製し、清掃性、摩擦力を測定した結果について説明する。
【0025】
(サンプル)
図1に示す形態を基本とし、下記表1に示す植毛穴の数、植毛領域の縦寸法、横寸法、縦横比、植毛面積、総穴面積/植毛面積を有する6種類(実施例1~3、比較例1~3)の歯ブラシサンプルを作製した。いずれも、ヘッド部の材質(ポリブチレンテレフタレート(PBT)製)、ヘッド部の厚さ(3.0mm)、植毛穴の穴径(1.5mm)、毛の材質(ナイロン製)、毛丈(9.5mm)は共通とした。
【0026】
実施例1、実施例3、比較例1の各サンプルは、植毛穴の配列が図1のとおりであり、植毛穴の数は合計20個、実施例2、比較例2の各サンプルでは、図1と異なり、横4つ並ぶ植毛穴の列を3列ではなく4列とし、植毛穴の数は合計24個、比較例3のサンプルは前記列を5列とし、植毛穴を合計28個としている。植毛領域からヘッド外縁までの距離は、一般的な歯ブラシ同様、おおむね1.0mmとした。
【0027】
【表1】
【0028】
(清掃性試験)
清掃性試験は、ブラッシング圧及び移動速度を一定に保ちながら、固定した顎模型(株式会社ニッシン製D15-500H)の歯をブラッシングできるように設計されたブラッシングシミュレータを用いた。顎模型の上顎左側第一大臼歯、第1小臼歯、第2小臼歯に擬似プラークを塗布し、各歯ブラシサンプルをブラッシングシミュレータにセットして、ブラッシング圧:200gf、ブラッシング速度:150rpm、ストローク幅:20mm、時間2秒にて、ブラッシング(歯並び方向への往復ブラッシング(横磨き))を行った。
【0029】
そして、ブラッシング後、顎模型を側方より撮影し、歯面部、歯間部、歯頚部における擬似プラーク除去率を画像解析にて算出した。第1大臼歯、第1小臼歯、第2小臼歯について、歯面、歯間、歯頚の清掃性を測定した結果を、表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
表2からわかるように、とくに第1小臼歯、第2小臼歯の歯間部の清掃性について、比較例1、2ではヘッドが不安定化して歯間に届かず、45%未満となったが、実施例1~3では68%以上となり、歯面部、歯頚部を含め、優れた清掃性が得られることがわかる。比較例3は従来からの大きなヘッドで植毛の密度が大きいため、歯間部の清掃性が著しく低下するとともに、歯面部や歯頚部の清掃性も最も悪かった。
【0032】
(摩擦力試験)
摩擦力試験は、図4に示すような左上顎を模した治具を準備し、上記した各歯ブラシサンプルの一部の(実施例1、3、比較例1~3)について、図5に示すように歯磨き圧検知器を有する固定台に支持させて、3軸力覚センサ内蔵の触感計測器(新東科学社製トライボギアTYPE33)に固定した上記治具の歯面に毛を垂直に(Z方向に)当てた状態で、Z荷重が最大値200gfとなるよう押し込み量を設定したうえ、奥歯から犬歯に向かう図中X方向に摺動させ、その摺動時のX方向、Y方向、Z方向の荷重を上記触感計測器の3軸の力覚センサによって測定した。
【0033】
そして、X方向の荷重変化により、第1大臼歯に当たり、最も荷重が上がる最大点(P1)から、第1小臼歯、第2小臼歯を通過して犬歯に当たる前の最小点(P2)までの間に測定されたデータの標準偏差を計算した。この標準偏差の値から、凹凸に対する毛先の摩擦力や動きを推定できる。すなわち標準偏差が大きいほどヘッドが不安定化していることがわかる。
【0034】
結果を下記表3および図6に示す。図6は、実施例1、比較例1の結果のグラフを例示している。標準偏差は、この図6に例示されるP1、P2間のX方向の荷重の標準偏差である。
【0035】
【表3】
【0036】
本発明に係る実施例1、3は、標準偏差が19未満であり、第1大臼歯から第1小臼歯、第2小臼歯を通過する間、ヘッドが安定化していることがわかる。比較例3は従来からの大きなヘッドで植毛の密度が大きいため、ヘッドは安定するものの上述のとおり清掃性が著しく低下する。
【0037】
図7の写真は、(a)が比較例2の試験中の様子、(b)が比較例3の試験中の様子を示している。(a)に示すように、ヘッドが小さく植毛密度が小さいと、毛が大きく撓み、ヘッドが不安定化することがわかる。(b)に示すように、逆にヘッドが大きく植毛密度が大きいと、毛がほとんど動かず、押し付け圧も小さいため、歯の凹凸に追従できなくなることがわかる。
【符号の説明】
【0038】
1 歯ブラシ
2 ヘッド部
4 毛束
5 植毛台
11 ネック部
12 ハンドル部
20 植毛穴
21 植毛面
L1 仮想線
R1 内側領域
S1 植毛面積
T1 台厚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7