(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089808
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置、転倒予防支援システムおよび転倒予防支援方法
(51)【国際特許分類】
A63B 71/06 20060101AFI20240627BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240627BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A63B71/06 T
A61B5/11 210
A63B69/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205243
(22)【出願日】2022-12-22
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】519057081
【氏名又は名称】学校法人北海道科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋一郎
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA11
4C038VB15
(57)【要約】
【課題】高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うことができる転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置、転倒予防支援システムおよび転倒予防支援方法を提供する。
【解決手段】足圧分布データ及び足圧中心データを取得する計測データ取得部41と、母趾と母趾の付け根における足圧データを算出する足圧データ算出部42と、母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出部43と、母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出部44と、足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別部47と、足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力部48としてコンピュータを機能させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足圧分布計によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する計測データ取得部と、
前記足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する足圧データ算出部と、
前記足圧中心データと、母趾の前記足圧データとに基づいて、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出部と、
母趾の前記足圧データと、母趾の付け根における前記足圧データとに基づいて、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出部と、
前記母趾協調性指数と前記母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別部と、
前記足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力部と
してコンピュータを機能させる転倒予防支援プログラム。
【請求項2】
前記母趾協調性指数算出部は、相互相関関数を用いて、タイムラグがゼロのときにおける、前記足圧中心データと、母趾における前記足圧データとの相関係数を前記母趾協調性指数として算出する、請求項1に記載の転倒予防支援プログラム。
【請求項3】
前記母趾荷重割合算出部は、母趾の前記足圧データの計測時間内の平均値と、母趾の付け根における前記足圧データの計測時間内の平均値との割合を前記母趾荷重割合として算出する、請求項1または請求項2に記載の転倒予防支援プログラム。
【請求項4】
前記足指機能タイプは、足指全体を上手く使えているタイプと、足指が上手く使えていないタイプと、足指に体重が乗っていないタイプと、足指全体を上手く使えていないタイプとに分類されている、請求項1または請求項2に記載の転倒予防支援プログラム。
【請求項5】
前記母趾協調性指数および前記母趾荷重割合のうち、少なくとも一方に基づいて、どの程度転倒しやすい状態であるかを示す転倒リスクを評価する計測結果評価部としてコンピュータを機能させる、請求項1または請求項2に記載の転倒予防支援プログラム。
【請求項6】
足圧分布計によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する計測データ取得部と、
前記足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する足圧データ算出部と、
前記足圧中心データと、母趾の前記足圧データとに基づいて、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出部と、
母趾の前記足圧データと、母趾の付け根における前記足圧データとに基づいて、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出部と、
前記母趾協調性指数と前記母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別部と、
前記足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力部と、
を有する、転倒予防支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の転倒予防支援装置と、前記足圧分布計とからなる転倒予防支援システム。
【請求項8】
足圧分布計によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する計測データ取得ステップと、
前記足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する足圧データ算出ステップと、
前記足圧中心データと、母趾の前記足圧データとに基づいて、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出ステップと、
母趾の前記足圧データと、母趾の付け根における前記足圧データとに基づいて、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出ステップと、
前記母趾協調性指数と前記母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別ステップと、
前記足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力ステップと、
を有する、転倒予防支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者等の転倒を予防するための転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置、転倒予防支援システムおよび転倒予防支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者等の転倒による死亡事故が増加している。また、高齢者等の転倒は、死に至らずとも健康寿命を短縮させたり、医療費や介護費等の社会保障費を増大させて財政の逼迫を招くなど、社会的な問題となっている。
【0003】
なお、歩行者の転倒を未然に防止する技術として、例えば、特開2021-3248号公報には、歩行者の足首に取り付けられたウェイトと、前記ウェイトに取り付けられた加速度センサと、前記加速度センサの測定値に基づいて転倒を誘発するリスクの高い歩行状態を検出したことを報知する歩行監視部と、を備えた転倒予防システムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明を含め、従来、高齢者等の転倒は、老化による体幹や下肢全体の筋力低下が原因と考えられている。このため、転倒を予防するための施策や取り組みの多くは、体幹や下肢全体の筋力強化に着眼しているものの、大きな成果は得られていないという現状がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うことができる転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置、転倒予防支援システムおよび転倒予防支援方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、高齢者等による転倒の主たる原因が、足指機能の低下にあることを見出した。そこで、係る知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0008】
本発明に係る転倒予防支援プログラムは、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うという課題を解決するために、足圧分布計によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する計測データ取得部と、前記足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する足圧データ算出部と、前記足圧中心データと、母趾の前記足圧データとに基づいて、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出部と、母趾の前記足圧データと、母趾の付け根における前記足圧データとに基づいて、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出部と、前記母趾協調性指数と前記母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別部と、前記足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力部としてコンピュータを機能させる。
【0009】
また、本発明の一態様として、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標として適切な母趾協調性指数を算出するという課題を解決するために、前記母趾協調性指数算出部は、相互相関関数を用いて、タイムラグがゼロのときにおける、前記足圧中心データと、母趾における前記足圧データとの相関係数を前記母趾協調性指数として算出してもよい。
【0010】
さらに、本発明の一態様として、母趾にどの程度体重をかけているかを示す指標として適切な母趾荷重割合を算出するという課題を解決するために、前記母趾荷重割合算出部は、母趾の前記足圧データの計測時間内の平均値と、母趾の付け根における前記足圧データの計測時間内の平均値との割合を前記母趾荷重割合として算出してもよい。
【0011】
また、本発明の一態様として、身体の揺れに合わせて母趾をタイミングよく使えているか否か、および母趾に体重をかけて踏ん張ることができているか否かに応じた足指機能タイプに分類するという課題を解決するために、前記足指機能タイプは、足指全体を上手く使えているタイプと、足指が上手く使えていないタイプと、足指に体重が乗っていないタイプと、足指全体を上手く使えていないタイプとに分類されていてもよい。
【0012】
さらに、本発明の一態様として、被計測者の転倒リスクを簡易かつ高精度に評価するという課題を解決するために、前記母趾協調性指数および前記母趾荷重割合のうち、少なくとも一方に基づいて、どの程度転倒しやすい状態であるかを示す転倒リスクを評価する計測結果評価部としてコンピュータを機能させてもよい。
【0013】
本発明に係る転倒予防支援装置は、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うという課題を解決するために、足圧分布計によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する計測データ取得部と、前記足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する足圧データ算出部と、前記足圧中心データと、母趾の前記足圧データとに基づいて、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出部と、母趾の前記足圧データと、母趾の付け根における前記足圧データとに基づいて、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出部と、前記母趾協調性指数と前記母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別部と、前記足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力部と、を有する。
【0014】
本発明に係る転倒予防支援システムは、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うという課題を解決するために、前記転倒予防支援装置と、前記足圧分布計とからなる。
【0015】
本発明に係る転倒予防支援方法は、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うという課題を解決するために、足圧分布計によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する計測データ取得ステップと、前記足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する足圧データ算出ステップと、前記足圧中心データと、母趾の前記足圧データとに基づいて、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出する母趾協調性指数算出ステップと、母趾の前記足圧データと、母趾の付け根における前記足圧データとに基づいて、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出する母趾荷重割合算出ステップと、前記母趾協調性指数と前記母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別する足指機能タイプ判別ステップと、前記足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するトレーニング情報出力ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置および転倒予防支援システムの一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態における足圧分布データの一例を示す図である。
【
図3】本実施形態の計測結果画面の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態の転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置および転倒予防支援方法によって実行される処理を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る転倒予防支援プログラム、転倒予防支援装置、転倒予防支援システムおよび転倒予防支援方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0019】
本実施形態の転倒予防支援システム100は、パーソナルコンピュータ、タブレット、スマートフォン等のコンピュータからなる転倒予防支援装置1と、この転倒予防支援装置1とデータ通信可能な足圧分布計10とから構成されている。また、本実施形態の転倒予防支援装置1は、
図1に示すように、主として、表示手段2と、記憶手段3と、演算処理手段4とを有している。以下、各構成について説明する。
【0020】
足圧分布計10は、被計測者の足圧に関するデータを計測するものである。本実施形態において、足圧分布計10は、複数の圧力センサがマス目状に配置されたマット状に構成されている。そして、被計測者には足圧分布計10の中心で片足立ちまたは両足立ちの状態で静止させ、足圧の計測を行う。これにより、所定の計測時間中(最大30秒間)、各圧力センサから所定のサンプリング周波数で圧力値が出力されるようになっている。
【0021】
表示手段2は、液晶ディスプレイやタッチパネル等で構成されており、ユーザに各種の情報を視認させるものである。本実施形態において、表示手段2は、後述するとおり、被計測者の母趾協調性指数、母趾荷重割合、足指機能タイプおよびトレーニング情報等を表示する。
【0022】
記憶手段3は、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段4が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本実施形態において、記憶手段3は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等で構成されており、
図1に示すように、プログラム記憶部31と、トレーニング情報記憶部32とを有している。
【0023】
プログラム記憶部31には、本実施形態の転倒予防支援プログラム1aがインストールされている。そして、演算処理手段4が転倒予防支援プログラム1aを実行することにより、転倒予防支援装置1としてのコンピュータを後述する各構成部として機能させるようになっている。
【0024】
なお、転倒予防支援プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD-ROMやDVD-ROM等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に転倒予防支援プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からクラウドコンピューティング方式やASP(Application Service Provider)方式で転倒予防支援プログラム1aを利用してもよい。
【0025】
トレーニング情報記憶部32は、足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を記憶するものである。本実施形態では、各足指機能タイプごとに、足指の機能を強化するためのトレーニング動画を個別に作成し、事前に外部サーバ等にアップロードしておく。そして、トレーニング情報記憶部32には、各トレーニング動画にアクセスするためのQRコード(登録商標)やURL(Uniform Resource Locator)等がトレーニング情報として記憶されている。
【0026】
演算処理手段4は、CPU(Central Processing Unit)等で構成されており、プログラム記憶部31にインストールされた転倒予防支援プログラム1aを実行することにより、
図1に示すように、計測データ取得部41と、足圧データ算出部42と、母趾協調性指数算出部43と、母趾荷重割合算出部44と、前後位置特定部45と、計測結果評価部46と、表示データ出力部47と、足指機能タイプ判別部48と、トレーニング情報出力部49として機能する。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0027】
計測データ取得部41は、足圧分布計10によって計測された時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得するものである。本実施形態において、足圧分布計10から出力される生データ(各センサの圧力値)は、足圧分布計10専用のソフトウエアによって、時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データに変換された後、計測データ取得部41によって取得される。
【0028】
なお、足圧分布データは、
図2に示すように、圧力センサの配置に対応するマス目状に構成されており、各マス目の圧力値によって、サンプリング周波数に応じた各時刻(例えば、1/100秒)における足圧の分布が示される。また、足圧中心(center of pressure:COP)とは、床反力作用点、圧力中心とも呼ばれ、床と身体との接触面に働く力の分布の中心点である。そして、この中心点の座標が足圧中心データとして取得される。
【0029】
足圧データ算出部42は、足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出するものである。本実施形態において、足圧データ算出部42は、まず、足圧分布データから母趾および母趾の付け根に当たる部分の足圧分布データを抜き出す。例えば、
図2に示す足圧分布データ(23行×10列)であれば、足の裏の形状と照合することで、1~2行目かつ8~9列目の4マス分(2行×2列)を母趾に相当する部分とし、6~7行目かつ8~9列目の4マス分(2行×2列)を母趾の付け根に相当する部分とすることができる。なお、母趾に相当する部分、および母趾の付け根に相当する部分は、上記の行・列で指定された部分に限定されるものではなく、被計測者の足の裏の形状に応じて、適宜変更してもよい。
【0030】
つぎに、足圧データ算出部42は、抜き出した各マスの圧力値を計測時間分の時系列データとして同定する。例えば、サンプリング周波数が50Hzで、計測時間が30秒であれば、1500個の時系列データとなる。そして、足圧データ算出部42は、母趾に相当する4マス分の時系列データにおける同一時刻の和をそれぞれ算出し、その和の時系列データを母趾における時系列の足圧データとする。同様に、足圧データ算出部42は、母趾の付け根に相当する4マス分の時系列データにおける同一時刻の和をそれぞれ算出し、その和の時系列データを母趾の付け根における時系列の足圧データとする。
【0031】
母趾協調性指数算出部43は、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数を算出するものである。本実施形態において、母趾協調性指数算出部43は、計測データ取得部41によって取得された時系列の足圧中心データと、足圧データ算出部42によって算出された母趾における時系列の足圧データとに基づき、相互相関関数を用いて、タイムラグがゼロのときにおける、足圧中心データと、母趾における足圧データとの相関係数を母趾協調性指数として算出する。
【0032】
なお、相関係数は、-1から1までの値をとるため、本実施形態では、相関係数の絶対値を100倍した値を母趾協調性指数として使用している。
【0033】
母趾荷重割合算出部44は、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合を算出するものである。本実施形態において、母趾荷重割合算出部44は、足圧データ算出部42によって算出された母趾および母趾の付け根における足圧データを取得する。そして、母趾荷重割合算出部44は、母趾の足圧データの計測時間内の平均値と、母趾の付け根における足圧データの計測時間内の平均値との割合(母趾/母趾の付け根)を母趾荷重割合として算出する。
【0034】
前後位置特定部45は、足圧中心の前後位置を特定するものである。この前後位置は、被計測者が足圧分布計10の上で片足立ちまたは両足立ちしている間、足圧中心が足部の中心からずれているか否かを判定するためのものである。ここで、足部の中心とは、足部長軸(人差し指(第二指)から踵を結ぶ線)と舟状骨レベルの交点である。
【0035】
本実施形態において、前後位置特定部45は、計測データ取得部41によって取得された足圧中心データの計測時間内の平均値を足圧中心の前後位置として特定する。そして、前後位置の中心(舟状骨レベル)に対して、足圧中心の前後位置が、かなり前側、やや前側、ほぼ中心、やや後側およびかなり後側という5段階で評価するようになっている。
【0036】
計測結果評価部46は、計測結果を評価するものである。本実施形態において、計測結果評価部46は、母趾荷重割合算出部44によって算出された母趾荷重割合に基づいて、母趾にどの程度力が入っているかを示す荷重量を評価する。また、計測結果評価部46は、母趾協調性指数算出部43によって算出された母趾協調性指数に基づいて、母趾をうまく使えているかを示す協調性を評価する。さらに、計測結果評価部46は、母趾協調性指数算出部43によって算出された母趾協調性指数および母趾荷重割合算出部44によって算出された母趾荷重割合のうち、少なくとも一方に基づいて、どの程度転倒しやすい状態であるかを示す転倒リスクを評価する。
【0037】
具体的には、荷重量、協調性および転倒リスクのそれぞれについて、事前に5段階程度の評価段階ごとに閾値の範囲(上限値および下限値)および評価コメントを設定しておく。そして、計測結果評価部46は、算出された母趾協調性指数や母趾荷重割合が、どの範囲に入っているかによって評価段階を特定するようになっている。
【0038】
表示データ出力部47は、表示手段2に各種の表示データを出力するものである。本実施形態において、表示データ出力部47は、
図3に示すように、表示データとして、母趾協調性指数算出部43によって算出された母趾協調性指数、母趾荷重割合算出部44によって算出された母趾荷重割合、前後位置特定部45によって特定された前後位置、および計測結果評価部46によって評価された評価結果(荷重量、協調性、転倒リスク)等を表示手段2に出力する。
【0039】
足指機能タイプ判別部48は、母趾協調性指数と母趾荷重割合とに基づいて、足指の機能に応じて分類された足指機能タイプを判別するものである。本願発明者は、鋭意研究の結果、身体の揺れに合わせて母趾をタイミングよく使えているか否か、および母趾に体重をかけて踏ん張ることができているか否かの2点が、転倒の原因と深い関連性があることを見出した。そこで、上述した母趾協調性指数および母趾荷重割合を新たに定義し、これら2つを変数として、足指の機能タイプを分類することとした。
【0040】
足指の機能タイプとしては、以下の4タイプに分類した。
タイプA:足指全体を上手く使えているタイプ(足指自体は問題なし)
タイプB:足指(特に母趾)が上手く使えていないタイプ
タイプC:足指(特に母趾)に体重が乗っていないタイプ
タイプD:足指全体を上手く使えていないタイプ
【0041】
そして、足指機能タイプ判別部48は、母趾協調性指数aおよび母趾荷重割合bによって分類された以下の分類基準に従って、足指機能タイプを判別するようになっている。
タイプA:a>90点 かつ b>90
タイプB:20点<a<90点 かつ b>60
タイプC:20点<a<90点 かつ b<60
タイプD:a<20点 かつ b<90
【0042】
なお、上記分類基準の策定に際しては、10名程度の若年成人について、母趾協調性指数および母趾荷重割合を算出するとともに、実際に片足立ちしている様子に基づいて、タイプA~Dのいずれか該当するかを目視により選定した。そして、当該選定したタイプに8割以上の確率で一致するように上記分類基準の数値を決定した。特に、母趾荷重割合については、母趾をうまく使えずに、片足立ちしている間ずっと踏ん張っている人もいるため、タイプDのような基準値とした。
【0043】
トレーニング情報出力部49は、足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力するものである。本実施形態において、トレーニング情報出力部49は、足指機能タイプ判別部48によって判別された足指機能タイプに対応するトレーニング情報をトレーニング情報記憶部32から取得し、表示手段2へ出力するようになっている。
【0044】
なお、本実施形態では、
図3に示すように、トレーニング情報として、各トレーニング動画のURLにアクセスするためのQRコード(登録商標)やハイパーリンクが表示手段2に表示される。また、各トレーニング動画によって指示される足指機能タイプ別のトレーニング内容としては、例えば、以下のような内容とすることができる。
【0045】
タイプA:両足で立ってスクワットする。その際、母趾で床を押しながら行う。10回を1セットとして2セット行う。
【0046】
タイプB:下記(1)~(3)の運動を行う。
(1)足指を広げる体操。足指のそれぞれの間に手指を入れこんで広げる。手指が届かない場合、指の間に入れるセパレーターを使用してもよい。15秒間を1セットとして2セット行う。
(2)足指をグーパーする(握って開く)運動。1回のグーパーを2秒間で行う。10回のグーパーを1セットとして2セット行う。
(3)片足で立って5秒間キープする。この時、母趾で床を押すように力をいれる。5秒間を1セットとして2セット行う。
【0047】
タイプC:下記(1)~(3)の運動を行う。
(1)足指を力いっぱい握る運動。5秒間を1セットとして5セット行う。
(2)土踏まずを上げる運動。足裏を床につけた状態で、土踏まずを浮かすように持ち上げて保持する。5秒間保持するのを1セットとして5セット行う。
(3)片足で立って5秒間キープする。この時、母趾の付け根で床を押すように力をいれる。5秒間を1セットとして2セット行う。
【0048】
タイプD:下記(1)~(2)の運動を行う。
(1)足首の柔軟性を改善させる。立位姿勢のまま、ふくらはぎ(腓腹筋)を伸ばすようにストレッチを行う。15秒間を1セットとして3セット行う。
(2)全身の重心を前に移動させる運動。膝や股関節は曲げずに、できる限り前に重心を移動させた状態で5秒間その姿勢を保持し、その後ゆっくり真っ直ぐな状態に戻る。これを1セットとして5セット行う。
【0049】
なお、タイプA~Dのいずれにも該当しない場合、足指が変形している等の可能性があるため、トレーニング情報ではなく、病院などで診察を受けるようアドバイス情報を表示してもよい。また、各タイプに応じたトレーニング内容も、上記内容に限定されるものではなく、適宜変更してもよい。
【0050】
つぎに、本実施形態の転倒予防支援プログラム1a、転倒予防支援装置1、転倒予防支援システム100および転倒予防支援方法による作用について説明する。
【0051】
本実施形態の転倒予防支援装置1を用いて被計測者の転倒予防を支援する場合、まず、足圧分布計10の中心で被計測者に片足立ちの状態で静止させ、所定の時間、足圧を計測する。これにより、被計測者は歩いたり走ったりすることなく、単に片足立ちするだけでよいため、高齢者等であっても身体への負担が少ない。また、足圧分布計10を設置するスペースさえ確保できれば計測でき、歩行データや走行データを計測するための広いスペースが不要である。
【0052】
被計測者の足圧が計測されると、
図4に示すように、計測データ取得部41が、足圧分布計10から時系列の足圧分布データおよび時系列の足圧中心データを取得する(ステップS1:計測データ取得ステップ)。つぎに、足圧データ算出部42が、ステップS1で取得された足圧分布データに基づいて、母趾および母趾の付け根における時系列の足圧データを算出する(ステップS2:足圧データ算出ステップ)。これらの足圧データにより、被計測者が片足立ちしている間、母趾をうまく使えていたか、および母趾で踏ん張れていたかを評価することが可能となる。
【0053】
つづいて、母趾協調性指数算出部43が、ステップS1で取得された足圧中心データと、ステップS2で算出された母趾の足圧データとに基づいて、母趾協調性指数を算出する(ステップS3:母趾協調性指数算出ステップ)。これにより、身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標である母趾協調性指数が得られる。
【0054】
つぎに、母趾荷重割合算出部44が、ステップS2で算出された母趾の足圧データと、母趾の付け根における足圧データとに基づいて、母趾荷重割合を算出する(ステップS4:母趾荷重割合算出ステップ)。これにより、母趾にどの程度体重をかけているかを示す母趾荷重割合が得られる。
【0055】
つづいて、前後位置特定部45が、ステップS1で取得された足圧中心データに基づいて、足圧中心の前後位置を特定する(ステップS5:前後位置特定ステップ)。これにより、被計測者が、母趾に体重がかかる前側荷重であるのか、高齢者に多い後側荷重であるのかが判別される。
【0056】
つぎに、計測結果評価部46は、ステップS3で算出された母趾協調性指数や、ステップS4で算出された母趾荷重割合に基づいて、計測結果を評価する(ステップS6:計測結果評価ステップ)。これにより、被計測者の荷重量、協調性および転倒リスクのそれぞれが簡易かつ高精度に評価される。
【0057】
つぎに、表示データ出力部47が、ステップS3で算出された母趾協調性指数、ステップS4で算出された母趾荷重割合、ステップS5で特定された前後位置およびステップS6で評価された評価結果等を表示手段2に出力する(ステップS7:表示データ出力ステップ)。これにより、
図3に示すように、表示手段2には、被計測者の母趾協調性指数、母趾荷重割合、前後位置および評価結果等が表示される。
【0058】
つづいて、足指機能タイプ判別部48が、ステップS3で算出された母趾協調性指数と、ステップS4で算出された母趾荷重割合とに基づいて、足指機能タイプを判別する(ステップS8:足指機能タイプ判別ステップ)。これにより、身体の揺れに合わせて母趾をタイミングよく使えているか否か、および母趾に体重をかけて踏ん張ることができているか否かによって分類された足指機能タイプが特定される。そして、この足指機能タイプにより、被計測者がどのような原因によって転倒しやすいのかが明確になる。
【0059】
最後に、トレーニング情報出力部49が、ステップS8で判別された足指機能タイプと、その足指機能タイプに合わせたトレーニング情報を出力する(ステップS9:トレーニング情報出力ステップ)。これにより、表示手段2には、
図3に示すように、被計測者の足指機能タイプと、その足指機能タイプに合わせたトレーニング情報が表示される。このため、被計測者は、当該トレーニング情報に従ってトレーニングを行うことにより、足指の機能が向上し、転倒が効果的に予防される。
【0060】
以上のような本実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
1.転倒の原因を特定し、当該原因に合わせたトレーニングを提示することにより、高齢者等の転倒を効果的に予防するための支援を行うことができる。
2.身体の揺れに合わせてどの程度タイミングよく母趾を使えたかを示す指標として適切な母趾協調性指数を算出することができる。
3.母趾にどの程度体重をかけているかを示す指標として適切な母趾荷重割合を算出することができる。
4.身体の揺れに合わせて母趾をタイミングよく使えているか否か、および母趾に体重をかけて踏ん張ることができているか否かに応じた足指機能タイプに分類することができる。
5.被計測者の荷重量、協調性および転倒リスクを簡易かつ高精度に評価することができる。
【0061】
なお、本発明に係る転倒予防支援プログラム1a、転倒予防支援装置1、転倒予防支援システム100および転倒予防支援方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0062】
例えば、上述した本実施形態では、足圧分布計10の上で被計測者を片足立ちさせて足圧データを計測しているが、この構成に限定されるものではなく、片足立ちが難しい被計測者については、両足で立たせた状態で計測してもよい。この場合、母趾協調性指数および母趾荷重割合は、各足ごとに別々に算出してもよく、各足の平均値を算出してもよい。
【0063】
また、上述した本実施形態では、トレーニング情報出力部49が、トレーニング動画のURLにアクセスするためのQRコード(登録商標)やハイパーリンクを表示手段2に出力しているが、この構成に限定させるものではない。例えば、トレーニング内容を説明した文章等を直接表示させてもよく、あるいは、トレーニング内容が印刷された紙をプリンター等から出力させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 転倒予防支援装置
2 表示手段
3 記憶手段
4 演算処理手段
10 足圧分布計
31 プログラム記憶部
32 トレーニング情報記憶部
41 計測データ取得部
42 足圧データ算出部
43 母趾協調性指数算出部
44 母趾荷重割合算出部
45 前後位置特定部
46 計測結果評価部
47 表示データ出力部
48 足指機能タイプ判別部
49 トレーニング情報出力部
100 転倒予防支援システム