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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089822
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】塩素発生用電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/093 20210101AFI20240627BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20240627BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240627BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20240627BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B1/26 A
C25B1/26 C
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/077
C25B11/081
C25B11/063
C25B11/031
C02F1/461 Z
C25B15/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205271
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松前 健司
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡
(72)【発明者】
【氏名】雨森 博彰
(72)【発明者】
【氏名】松本 勘
【テーマコード(参考)】
4D061
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4D061DA03
4D061DA04
4D061DB09
4D061EA02
4D061EB02
4D061EB05
4D061EB14
4D061EB19
4D061EB30
4D061EB31
4D061EB39
4D061GC16
4K011AA04
4K011AA06
4K011AA11
4K011AA21
4K011AA28
4K011AA30
4K011CA04
4K011DA03
4K021AA03
4K021AB07
4K021BA03
4K021BB03
4K021DA13
4K021DC07
(57)【要約】
【課題】水道水等の希薄塩水を比較的高い電流密度で,短時間毎に極性を切替える条件下において、塩素発生効率が高く、かつ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極の提供。
【解決手段】チタン又はチタン基合金よりなる基体と、
前記基体上に設けられた多孔性白金被覆物と酸化チタンからなる中間層と、
金属換算で、特定のモル含有率の白金および酸化イリジウムおよび酸化タンタルをそれぞれ特定のモル比率からなり、特定の条件下で陽極と陰極の電極を切り替えて稀薄塩水を電解するために使用する、塩素発生用電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン基合金よりなる基体と、中間層と、触媒層を順に含む塩素発生用電極であって、
前記中間層が前記基体上に設けられた多孔性白金被覆物と酸化チタンからなり、
前記触媒層が、金属換算で、白金2モル%~24モル%および酸化イリジウム41モル%~49モル%および酸化タンタル35モル%~49モル%からなり、
電流密度0.05~0.25A・cm-2で陽極と陰極の極性切替えを5~60秒間毎に繰返しながら希薄塩水を電解することによって塩素を発生させるために使用する、前記塩素発生用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、水道水等の希薄塩水中で陽極として使用し、殺菌力がある電解水を生成するのに有用な塩素発生用電極に関し、さらに詳しくは、比較的高い電流密度で、短時間毎に極性を切替える条件下において、塩素発生効率が高く、かつ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水を電気分解し、殺菌水を生成する装置、特に家電製品に装着する装置では、家電製品に装着可能な小さいサイズにするため、比較的高い電流密度で、かつ、短時間毎に極性切替えを行う条件下において、塩素発生効率が高く、かつ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極が強く要望されている。
【0003】
酸化チタン層を有するチタン又はチタン基合金電極基体に、多孔性白金被覆層と、白金被覆層上に担持せしめられた酸化イリジウム30~65モル%、酸化タンタル10~40モル%及び白金25~60モル%の複合体である電極触媒層とからなる海水電解用電極が提案されている(特許文献1参照)。この提案されている電極は、塩素発生効率が高く、酸洗時の卑なる電位環境下でも安定であるという利点があるものの、比較的高い電流密度で,短時間毎に極性切替えを行う条件下では寿命が十分ではないという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平08-170187公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水道水を直接電気分解し、殺菌水を生成する装置では、水道水の電気抵抗が高いため、極間距離を2mm以下に設定されていることが多い。また、極間距離を2mm以下にした際に、陰極側で発生するスケール成分の除去を目的とし、短時間毎に極性切替えを行うことがメンテナンスフリーの観点から好ましい。また,前記装置を小さいサイズにするため、高電流密度下で塩素発生効率がより高く、且つ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極が強く要望されている。
すなわち、水道水等の希薄塩水を比較的高い電流密度で,短時間毎に極性を切替える条件下において、塩素発生効率が高く、かつ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極を開発することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく鋭意検討した結果、水道水等の希薄塩水を比較的高い電流密度で,短時間毎に極性を切替える条件下において、中間層上に形成した白金、酸化イリジウムおよび酸化タンタルからなる触媒層において所定の配合比(Pt:Ir:Ta=2~24mol%:41~49モル%:35~49モル%)により、塩素発生効率が高く、かつ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極を見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0007】
かくして、本発明によれば、
チタン又はチタン基合金よりなる基体と、中間層と、触媒層を順に含む塩素発生用電極であって、
前記中間層が前記基体上に設けられた多孔性白金被覆物と酸化チタンからなり、
前記触媒層が、金属換算で、白金2モル%~24モル%および酸化イリジウム41モル%~49モル%および酸化タンタル35モル%~49モル%からなり、
電流密度0.05~0.25A・cm-2で陽極と陰極の極性切替えを5~60秒間毎に繰返しながら希薄塩水を電解することによって塩素を発生させるために使用する、前記塩素発生用電極、が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電極は、比較的高い電流密度で、短時間毎に極性を切替える条件下において、塩素発生効率が高く,かつ寿命がより長い特性を有する塩素発生用電極を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、チタン又はチタン基合金よりなる基体と、中間層と、触媒層を順に含む塩素発生用電極であって、中間層が基体上に設けられた多孔性白金被覆物と酸化チタンからなり、触媒層が、金属換算で、白金2モル%~24モル%および酸化イリジウム41モル%~49モル%および酸化タンタル35モル%~49モル%からなり、電流密度0.05~0.25A・cm-2で陽極と陰極の極性切替えを5~60秒間毎に繰返しながら希薄塩水を電解することによって塩素を発生させるために使用する、塩素発生用電極である。
【0010】
極性切替えとは、電解時間が所定の時間(例えば5~60秒)に達するごとに、2つの電極の間に印加する電圧の極性を反転させることをいう。電解を間欠的に行う場合には、電解時間の累積(累積電解時間)が所定の時間(例えば5~60秒)に達するごとに、2つの電極の間に印加する電圧の極性を反転させる。
【0011】
本発明の電極の触媒層は、金属換算で、白金2モル%~24モル%および酸化イリジウム41モル%~49モル%および酸化タンタル35モル%~49モル%からなるものである。
【0012】
電流密度0.05~0.25A・cm-2で陽極と陰極の極性切替えを5~60秒間毎に繰返しながら希薄塩水を電解し、塩素を発生させる電極において、触媒層における酸化イリジウムおよび酸化タンタルの濃度が上記範囲を下回ると耐久性が低下する。また、触媒層における酸化イリジウムおよび酸化タンタルの濃度が上記範囲を超えると塩素発生効率が低下する。ここで希薄塩水とは、塩素イオン濃度:5~100ppmを含む水をいう。
【0013】
触媒層は、金属換算で、白金4モル%~23モル%および酸化イリジウム42モル%~48モル%および酸化タンタル35モル%~48モル%であることが好ましい。触媒層は、金属換算で、白金4モル%~21モル%および酸化イリジウム42モル%~48モル%および酸化タンタル37モル%~48モル%であることがさらに好ましい。
【0014】
以下、限定されるものでないが、本発明の電極及びその製造法についてさらに詳細に説明する。
【0015】
〈基体〉
本発明において使用される基体の材質としては、チタンまたはチタン基合金が挙げられる。チタン基合金としては、チタンを主体とする耐食性のある導電性の合金が使用され、例えば、Ti-Ta-Nb、Ti-Pd、Ti-Zr、Ti-Al等の組合わせからなる、通常電極材料として使用されているTi基合金が挙げられる。これらの電極材料は板状、有孔板状、棒状、網板状等の所望形状に加工して基材として用いることができる。
【0016】
〈基体の前処理〉
上記の如き基体には、当該技術分野で通常行われているように、予め前処理をするのが望ましい。そのような前処理の好適具体例としては以下に述べるものが挙げられる。先ず
、前述したチタン又はチタン基合金よりなる基体表面を常法に従い、例えばアルコール、アセトン等での洗浄及び/又はアルカリ溶液中での電解により脱脂した後、フッ化水素濃度が1~20重量%のフッ化水素酸又はフッ化水素酸と硝酸、硫酸等の他の酸との混酸による酸処理する。この酸処理により基体表面の酸化膜が除去される。またこの酸処理により基体表面の結晶粒界が特にエッチングされる。なお、基体表面の酸化膜は完全に除去されることが好ましいが、本発明の目的に沿うものである限り、完全に除去された基体に限定するものではない。当該酸処理は、基体の表面状態に応じて常温ないし約40℃の温度において数分間ないし十数分間行うことができる。なお、粗面化を十分行なうためにブラスト処理を併用してもよい。
【0017】
〈水素化チタン化処理〉
次に、基体表面を濃硫酸と接触させて(硫酸処理)、基体表面の結晶粒界以外の部分(結晶粒内)を特に突起状に細かく粗面化するとともに該チタン基体表面に水素化チタンの薄い層を形成する。
【0018】
使用する濃硫酸は一般に40~80重量%、好ましくは50~60重量%の濃度のものが適当であり、この濃硫酸には必要により、処理の安定化を図る目的で少量の硫酸ナトリウム、その他の硫酸塩等を添加してもよい。該濃硫酸との接触は通常チタン基体を濃硫酸の浴中に浸漬することにより行うことができ、その際の浴温は一般に約100~約150℃、好ましくは約110~約130℃の範囲内の温度とすることができ、また浸漬時間は通常約0.5~約10分間、好ましくは約1~約3分間で十分である。
【0019】
上記硫酸処理により、基体表面の結晶粒界以外の部分(結晶粒内)を突起状に細かく粗面化させるとともに、基体の表面にごく薄い水素化チタンの被膜を形成させることができる。硫酸処理されたチタン基体は硫酸浴から取り出し、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で急冷してチタン基体の表面温度を約60℃以下に低下させる。この急冷には洗浄も兼ねて大量の冷水を用いるのが適当である。
【0020】
したがって、本発明の基体のうち、中間層と接する基体表面は、突起状に細かく粗面化されていてもよい。
【0021】
このようにしてごく薄い水素化チタンの被膜層を表面に形成せしめた基体は、希フッ化水素酸又は希フッ化物水溶液(例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等の水溶液)中で浸漬処理して該水素化チタン被膜を生長させ、該被膜の均一化及び安定化を図る。ここで使用しうる希フッ化水素酸又は希フッ化物水溶液中のフッ化水素の濃度は、一般に0.05~3重量%、好ましくは0.3~1重量%の範囲内とすることができ、また、これらの溶液による浸漬処理の際の温度は、一般に10~40℃、好ましくは20~30℃の範囲とすることができる。該処理は基体表面に、通常0.5~10ミクロン、好ましくは1~3ミクロンの厚さの水素化チタンの均一被膜が形成されるまで行うことができる。この水素化チタン(TiHy、ここでyは1.5~2の数である)は水素化の程度に応じて灰褐色から黒褐色を呈するので、上記範囲の厚さの水素化チタン被膜の生成は、経験的に基体表面の色調の変化を標準色源との明度対比によってコントロールすることができる。
【0022】
〈多孔性白金被覆物の形成〉
このようにして基体表面を粗面化するとともに水素化チタンの被膜を形成した基体は、適時水洗等の処理を行った後、その表面に多孔性白金被覆物を形成する。この多孔性白金被覆物の形成は通常電気めっき法により行うことができる。この電気めっき法に使用しうるめっき浴の組成としては、たとえばHPtCl、(NH4)PtCl、KPtCl、Pt(NH(NO等の白金化合物を、硫酸溶液(pH1~3)又はアンモニア水溶液に、白金換算で2~20g/l、特に5~10g/lの濃度になるよ
うに溶解し、さらに必要に応じて浴の安定化のために硫酸ナトリウム(酸性浴の場合)、亜硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム(アルカリ性浴の場合)等を少量添加した酸性又はアルカリ性のめっき浴が挙げられる。
【0023】
かかる組成のめっき浴を用いての白金電気めっきは、基体表面に形成された水素化チタン被膜の分解をできるだけ抑制するため、所謂ストライクめっき等の高速めっき法を用い約30~約60℃の範囲内の比較的低温で行うのが望ましい。この電気めっきにより、基体の水素化チタン被膜上に物理的密着強度の優れた多孔性白金被覆物を形成せしめることができる。
【0024】
ここで、「多孔性」の尺度は、「白金被覆物の見掛密度」によって特定される。多孔性白金被覆物の見掛密度は8~19g/cm、好ましくは12~18g/cmの範囲内にあるのが適当である。多孔性白金被覆物の見掛け密度が8g/cmより小さいと白金の結合強度が低下して剥離しやすくなり、反対に19g/cmを越えると後述する熱分解で得られる白金と酸化イリジウムの安定な担持が困難となる。多孔性白金被覆物の見掛密度のコントロールは、例えば基体の前処理条件、白金めっき浴の浴組成及び/又はめっき条件(電流密度や電流波形等)を経験的に調節することによって行うことができる。なお、より多孔性の高い白金被覆物を得たい場合には、多孔性の白金被覆物を形成した後、更に化学的もしくは電気化学的方法によって多孔性を高めることができる。
【0025】
また、上記白金の電気めっきは上記基体上への白金の被膜量が通常少なくとも0.2mg/cm以上となるまで継続する。白金の被膜量が0.2mg/cmより少ないと、後述する焼成処理に際して水素化チタン被膜部の酸化が進み過ぎて導電性が低下する傾向がみられる。白金の被膜量の上限は特に制限されないが、必要以上に多くしてもそれに伴うだけの効果は得られず、劫って不経済となるので、通常は5mg/cm以下の被膜量で十分である。白金の好適な被膜量は1~3mg/cmの範囲内である。ここで、多孔性白金被覆物における白金の被覆量は、ケイ光X線分析法を用い次の如くして求めた量である。すなわち、前述した如く前処理した基体上に前記の方法で種々の厚さに白金めっき量を湿式分析法及びケイ光X線分析法により定量し、両方法による分析値をグラフにプロットして標準検量線を作成しておき、次いで実際の試料をケイ光X線分析にかけてその分析値及び標準検量線から白金の被覆量を求める。また、白金被覆量の密度(δ(g/cm))は、上記の如くして求めた白金の被覆量(w(g/cm))と試料の断面顕微鏡観察で求めた白金被覆物の厚さ(t(cm))からδ=w/tによって求めたものである。
【0026】
〈酸化チタンの形成〉
多孔性白金被膜物を設けた基体は、次いで大気中で焼成する。この焼成により、白金被覆物の下の水素化チタンの被膜の層を熱分解して、水素化チタンの被膜の層中の水素化チタンを実質的にほとんど金属に戻し、さらに少なくとも、白金被覆物の多孔部分であって白金で被覆されていない部分に対応する基体のチタンを低酸化状態の酸化チタンに変えることができる。
【0027】
上記の焼成は一般に約300~約600℃、好ましくは約300~約400℃の温度で10分~4時間程度加熱することにより行うことができる。これにより基体表面にごく薄い導電性の酸化チタンが形成される。この酸化チタンの厚さは一般に100~1,000オングストローム、好ましくは200~600オングストロームの範囲内にあるのが好適であり、また、酸化チタンの組成はTiOxとしてxが一般に1<x<2、特に1.9<x<2の範囲にあるのが望ましい。また別法として、白金の分散被覆を行った基体は、上記の如き焼成処理を行わずに直接次の工程に付してもよい。この場合には、次工程での熱分解処理時に基体表面の水素化チタンの被膜の層は、金属及び低酸化状態の酸化チタンに
変換される。このようにして、多孔性白金被覆物と基体との高い密着強度を維持し、更に電気伝導性のある酸化チタン(不働態化膜)が形成され化学的強度をも高めることができる。
【0028】
したがって、本発明の中間層は基体上に設けられた多孔性白金被覆物と酸化チタンからなることが好ましい。ただし、本発明の目的に沿うものである限り、白金被覆物の下の基体表面の水酸化チタンが完全に金属化されること、または、白金被覆物の多孔部分であって白金で被覆されていない部分に対応する基体のチタンを完全に低酸化状態の酸化チタン化されることに限定するものではない。
【0029】
〈触媒層の形成〉
次に、多孔性白金被膜物を設けた基体上に、白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物を含む溶液を塗布し、乾燥した後焼成して、白金-酸化イリジウム-酸化タンタルからなる層を形成せしめる。
【0030】
ここで使用する白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物は、以下に述べる条件下で分解してそれぞれ白金及び酸化イリジウム及び酸化タンタルに転化しうる化合物であり、白金化合物としては、ジニトロジアンミン白金、塩化白金酸、塩化白金等が例示され、特に塩化白金酸が好適である。また、イリジウム化合物としては、例えば、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、塩化イリジウムカリ等が挙げられ、特に塩化イリジウム酸が好適である。さらに、タンタル化合物としては、例えば、塩化タンタル、タンタルエトキシド等が挙げられる。
【0031】
一方、これら白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物を溶解するための溶媒としては、低級アルコールが好適であり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はこれらの混合物等が有利に用いられる。なお、ジニトロジアンミン白金は、低級アルコールに直接溶解しないので、はじめに硝酸水溶液に溶解し、白金金属換算で250~450g/lの濃度に調整した後、低級アルコールに溶解するのが好ましい。
【0032】
低級アルコール溶液中における白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物の合計の金属濃度は、一般に20~200g/l、好ましくは40~150g/lの範囲内とすることができる。該金属濃度が20g/lより低いと触媒担持効率が悪くなり、また200g/lを越えると触媒が凝集しやすくなり、触媒活性、担持強度、担持量の不均一性等の問題が生ずる。
【0033】
また、白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物の相対的使用割合は、それぞれ金属Pt、金属Ir及び金属Taに換算して、白金化合物は2モル%以上~24モル%以下、イリジウム化合物は41モル%以上~49モル%以下、タンタル化合物は酸化タンタル35モル%以上~49モル%以下とする。
【0034】
多孔性白金被膜物が設けられた基体上に、白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物を含む溶液を塗布した後、約20~約150℃の範囲内の温度で乾燥させ、酸素含有ガス雰囲気中、例えば空気中で焼成する。焼成は、例えば電気炉、ガス炉、赤外線炉等の適当な加熱炉中で、一般に約450~約650℃、好ましくは約500~約600℃の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。加熱時間は、焼成すべき基体の大きさに応じて、大体3分~30分間程度とすることができる。この焼成により、白金-酸化イリジウム-酸化タンタルからなる層を形成担持させることができる。
【0035】
そして、1回の担持操作で充分量の白金-酸化イリジウム-酸化タンタルからなる層を
形成担持することができない場合には、以上に述べた溶液の塗布-乾燥-焼成の工程を所望の回数繰り返し行うことができる。
【0036】
白金-酸化イリジウム-酸化タンタルからなる層(電極触媒層/複合体)における各成分の割合は、それぞれ金属Pt、金属Ir及び金属Taに換算して、白金2モル%~24モル%および酸化イリジウム41モル%~49モル%および酸化タンタル35モル%~49モル%となる。
【0037】
このようにして、「触媒層(外層)/中間層(多孔性白金被覆物-酸化チタン)/基体」から構成される電極を製造することができる。すなわち、白金被覆物の多孔部分であって白金で被覆されていない部分の基体の表面に酸化チタンが形成されている。
【0038】
次に実施例により、本発明の電極の製造法及び特性についてさらに具体的に説明する。
【実施例0039】
実施例1~3、比較例1~3
基体として、JIS1種チタン板素材(t0.5mm×100mm×100mm)をアセトンに浸漬させ10分間超音波洗浄して脱脂した後、20℃の8重量%弗化水素酸水溶液中で2分間処理し、次いで、120℃の60重量%硫酸水溶液中で3分間処理した。
次いで基体を硫酸水溶液から取りだし、窒素雰囲気中で冷水を噴霧し急冷した。更に20℃の0.3重量%弗化水素酸水溶液中に2分間浸漬した後水洗した。
【0040】
水洗後ジニトロジアンミン白金を硫酸溶液に溶解して白金含有量5g/L、pH≒2、50℃に調整した状態の白金めっき浴中で、30mA/cmで約6分間のめっきを行って、見掛密度16g/cmで電着量が1.7mg/cmの多孔性の白金被覆物を基体上に形成した。
【0041】
乾燥後、400℃の大気中で1時間焼成した。
【0042】
次に、白金濃度70g/Lに調整した塩化白金酸のブタノール溶液と、イリジウム濃度100g/Lに調整した塩化イリジウム酸のブタノール溶液と、タンタル濃度200g/Lに調整したタンタルエトキシドのブタノール溶液を、Pt-Ir-Taの金属換算の組成比が表1に示すモル%になるようにそれぞれ秤量し、各金属成分の金属換算値を足した合計濃度が75g/Lになるようにブタノールにて希釈し、表1に示す金属換算の組成比で電極触媒層塗布溶液を作製した。塗布溶液をピペットで250μl秤量し、それを多孔性白金被膜物が設けられた基体上に塗布し、ピンセットを用いて基体を傾けて、溶液を基体全面に塗り拡げた後、室温で乾燥し、さらに530℃の大気中で10分間焼成した。この塗布・乾燥・焼成を4回繰り返し、実施例1~3、比較例1、2の電極を作製した。
【0043】
作製した実施例1~3並びに比較例1、2の電極を用いて、以下の様に、塩素発生効率を評価した。電解液には、水道水(草加市水)を用いた。電極間距離2mm、流量0.3L/min、電流密度0.12A/cm、30秒毎の極性切り替え制御にて電解し、電解した液を10mL採取しDPD法により遊離塩素濃度を測定し塩素発生効率を算出した。
【0044】
作製した実施例1~3並びに比較例1、2の電極を用いて、以下の様に、寿命を評価した。電解液には、水道水(草加市水)を用いた。電極間距離2mm、流量0.3L/min、電流密度0.12A/cm、30秒毎の極性切り替え制御にて電解試験を行った。塩素発生効率が1%以下になった時点を寿命と判定した。
【0045】
得られた実施例1~3、比較例1、2のデータを表1に示す。
【表1】
【0046】
実施例1~3の電極は、比較例1、2の電極と比べ、塩素発生効率が2.8%と高く、且つ、寿命も220時間以上と比較例1、2の電極より長かった。
【0047】
以上の結果より、中間層が前記基体上に設けられた多孔性白金被覆物と酸化チタンからなり、触媒層が金属換算で、白金2モル%~24モル%および酸化イリジウム41モル%~49モル%および酸化タンタル35モル%~49モル%からなる電極触媒層を備える電極は良好な特性を示すことがわかる。