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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089839
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 14/00 20060101AFI20240627BHJP
   F04C 14/08 20060101ALI20240627BHJP
   F04C 2/10 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F04C14/00 A
F04C14/00 C
F04C14/08
F04C2/10 341Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205306
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】青嶋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB03
3H041CC15
3H041CC22
3H041DD36
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC14
3H044CC22
3H044CC26
3H044DD26
3H044DD45
(57)【要約】
【課題】従来技術よりも生産時間を短縮することができ、回転数を適切に補正することができる電動オイルポンプを提供する。
【解決手段】電動オイルポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、モータ部3を制御する制御部4とを備える。制御部4は、ポンプ部2のクリアランス、油温、回転数、押しのけ容積および圧力に基づいて、ポンプ部2の推定流量を演算する推定流量演算手段26と、回転数および押しのけ容積からポンプ部2の理論流量を演算する理論流量演算手段27と、理論流量を元にした指令回転数に、推定流量から算出される補正回転数を加算する回転数補正手段28とを備えた。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧を発生させるポンプ部と、このポンプ部を駆動するモータ部と、このモータ部を制御する制御部とを備えた電動オイルポンプであって、
前記制御部は、
前記ポンプ部のクリアランス、油温、回転数、押しのけ容積および圧力に基づいて、前記ポンプ部の推定流量を演算する推定流量演算手段と、
前記回転数および前記押しのけ容積から前記ポンプ部の理論流量を演算する理論流量演算手段と、
前記理論流量を元にした指令回転数に、前記推定流量から算出される補正回転数を加算する回転数補正手段と、
を備えた電動オイルポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動オイルポンプにおいて、前記モータ部の温度または前記制御部の温度を検出する温度検出手段を備え、前記制御部は、前記温度検出手段で検出された温度と前記油温との関係を設定する温度関係設定手段を有し、前記推定流量演算手段は、前記温度検出手段で検出された温度を、前記温度関係設定手段で設定された関係に照合して前記油温を推定する電動オイルポンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動オイルポンプにおいて、前記モータ部の電流を検出する電流検出手段を備え、前記制御部は、前記電流検出手段で検出された電流と前記圧力との関係を設定する電流・圧力関係設定手段を有し、前記推定流量演算手段は、前記電流検出手段で検出された電流を、前記電流・圧力関係設定手段で設定された関係に照合して前記圧力を算出する電動オイルポンプ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電動オイルポンプにおいて、前記制御部は、前記電動オイルポンプの個体毎に前記クリアランスを記憶する電動オイルポンプ。
【請求項5】
油圧を発生させるポンプ部と、このポンプ部を駆動するモータ部と、このモータ部を制御する制御部とを備えた電動オイルポンプであって、
前記制御部は、
前記ポンプ部の理論圧力と理論流量とのPQ特性を記憶するPQ特性記憶手段と、
前記ポンプ部の回転数および押しのけ容積から前記ポンプ部の理論流量を演算する理論流量演算手段と、
前記理論流量を元にした指令回転数に、前記ポンプ部の前記理論圧力と推定圧力との圧力差から算出される補正回転数を加算する回転数補正手段と、
を備えた電動オイルポンプ。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の電動オイルポンプにおいて、前記制御部は、前記電動オイルポンプが適用される油圧アプリケーションの漏れ流量を記憶するアプリケーション漏れ流量記憶手段を有し、前記推定流量演算手段は、前記油圧アプリケーションの前記漏れ流量に基づいて、前記ポンプ部の前記推定流量を補正する電動オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両のオートマチックトランスミッション等に適用される電動オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
車載向けの電動オイルポンプは、オートマチックトランスミッション(以下A/T)ギヤ等油圧作動機器に対して油圧を供給する。
電動オイルポンプは、トロコイド等のギヤを採用したギヤポンプで回転数を制御して、ポンプの流量を制御するものが知られている。このようなギヤポンプは製造時のばらつきによりギヤのクリアランスにもばらつきが生じる。クリアランスのばらつきにより、ポンプからオイルが漏れる量が変わり、指定する回転数では、実際に供給したい流量に足りなかったり、多かったりすることが起こる。
【0003】
そのため、電動オイルポンプでは所望の流量を得ることができるよう、ポンプの漏れ流量が最大となるポンプを想定した回転数でポンプを制御し、流量不足が起こらないようにしている。しかし、最大以下の漏れ流量のポンプに対して、最大回転数で制御することでポンプの圧力が高くなる。それに伴い、モータが出力するモータ電流も大きくなり、消費電力が多くなる。消費電力が多くなることでバッテリの消費が早くなり、車の燃費悪化につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5755497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、流量補正方法として、ポンプ毎に油温と回転数の関係を出荷検査した結果に基づいて流量の補正を実施している(特許文献1)。しかし、ポンプ毎に検査結果から補正を取得する必要がある。このように出荷検査時にポンプ毎に油温と回転数の関係を取得する検査を実施した場合、生産時間が過大にかかってしまう。
【0006】
本発明の目的は、従来技術よりも生産時間を短縮することができ、回転数を適切に補正することができる電動オイルポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動オイルポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、このポンプ部2を駆動するモータ部3と、このモータ部3を制御する制御部4とを備えた電動オイルポンプであって、
前記制御部4は、
前記ポンプ部2のクリアランス、油温、回転数、押しのけ容積および圧力に基づいて、前記ポンプ部2の推定流量を演算する推定流量演算手段26と、
前記回転数および前記押しのけ容積から前記ポンプ部2の理論流量を演算する理論流量演算手段27と、
前記理論流量を元にした指令回転数に、前記推定流量から算出される補正回転数を加算する回転数補正手段28と、
を備えている。
前記ポンプ部2のクリアランスは、チップクリアランス、サイドクリアランスおよびボディクリアランスの少なくともいずれか1つを含み、これらクリアランスはポンプ部の製造時に測定される。
この明細書において「回転速度」とは、単位時間当たりの回転数と同義である。以後、この単位時間当たりの回転数を、単に「回転数」という場合がある。
【0008】
この構成によると、推定流量演算手段26は、クリアランス、油温、回転数、押しのけ容積および圧力に基づいてポンプ部2の推定流量を演算する。回転数補正手段28は、回転数および押しのけ容積から演算される理論流量を元にした指令回転数に、前記推定流量から算出される補正回転数を加算する。この場合、従来技術のように出荷検査時にポンプ毎のデータを取得することなくポンプ部2の回転数を適切に補正することができる。このため、従来技術に対し、生産時間を短縮し得るうえ、モータ部3のモータ電流を不必要に高めなくて済むことから消費電力を低減し得る。これによりモータ部3の電源であるバッテリ等の消費を抑えることができる。
【0009】
前記モータ部3の温度または前記制御部4の温度を検出する温度検出手段18を備え、前記制御部4は、前記温度検出手段18で検出された温度と前記油温との関係を設定する温度関係設定手段30を有し、前記推定流量演算手段26は、前記温度検出手段18で検出された温度を、前記温度関係設定手段30で設定された関係に照合して前記油温を推定してもよい。
前記「制御部4の温度を検出する」とは、制御部4であるコントローラの温度を直接検出するだけでなく、コントローラの周囲温度(例えば、コントローラを覆うハウジング5の温度)を検出することも含む。
このようにモータ部等の温度を温度検出手段18で検出して油温を推定する場合、油温を直接測定する油温センサ等を用いるよりもコスト低減を図れる。
【0010】
前記モータ部3の電流を検出する電流検出手段15を備え、前記制御部4は、前記電流検出手段15で検出された電流と前記圧力との関係を設定する電流・圧力関係設定手段29を有し、前記推定流量演算手段26は、前記電流検出手段15で検出された電流を、前記電流・圧力関係設定手段29で設定された関係に照合して前記圧力を算出してもよい。このようにモータ部3の電流を電流検出手段15で検出して圧力を算出する場合、モータ部の圧力を直接測定する圧力センサ等を用いるよりもコスト低減を図れる。
【0011】
前記制御部4は、前記電動オイルポンプ1の個体毎に前記クリアランスを記憶してもよい。この場合、ポンプ部2の漏れ流量を精度よく求め得るため、推定流量をより精度よく演算することが可能となる。
【0012】
本発明の他の電動オイルポンプ1Aは、油圧を発生させるポンプ部2と、このポンプ部2を駆動するモータ部3と、このモータ部3を制御する制御部4Aとを備えた電動オイルポンプであって、
前記制御部4Aは、
前記ポンプ部2の理論圧力と理論流量とのPQ特性を記憶するPQ特性記憶手段31と、
前記ポンプ部2の回転数および押しのけ容積から前記ポンプ部2の理論流量を演算する理論流量演算手段32と、
前記理論流量を元にした指令回転数に、前記ポンプ部2の前記理論圧力と推定圧力との圧力差から算出される補正回転数を加算する回転数補正手段28Aと、
を備えている。
【0013】
この構成によると、PQ特性記憶手段31は、理論圧力と理論流量とのPQ特性を記憶する。回転数補正手段28Aは、回転数および押しのけ容積から演算される理論流量を元にした指令回転数に、ポンプ部2の理論圧力と推定圧力との圧力差から算出される補正回転数を加算する。この場合、従来技術のように出荷検査時にポンプ毎のデータを取得することなくポンプ部2の回転数を適切に補正することができる。このため、従来技術に対し、生産時間を短縮し得るうえ、モータ部のモータ電流を不必要に高めなくて済むことから消費電力を低減し得る。これによりモータ部3の電源であるバッテリ等の消費を抑えることができる。
【0014】
前記制御部4,4Aは、前記電動オイルポンプ1,1Aが適用される油圧アプリケーションの漏れ流量を記憶するアプリケーション漏れ流量記憶手段41を有し、前記推定流量演算手段26は、前記油圧アプリケーションの前記漏れ流量に基づいて、前記ポンプ部2の前記推定流量を補正してもよい。このように油圧アプリケーションの漏れ流量に基づいて、ポンプ部2の推定流量を補正することで、ポンプ部2の回転数をきめ細かく且つ高精度に補正することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電動オイルポンプは、回転数補正手段は、回転数および押しのけ容積から演算される理論流量を元にした指令回転数に、クリアランス等から演算した推定流量または理論圧力と推定圧力との圧力差から算出される補正回転数を加算する。このため、従来技術よりも生産時間を短縮し、回転数を適切に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動オイルポンプの斜視図である。
図2】同電動オイルポンプのポンプ部の横断面図である。
図3】同電動オイルポンプのポンプ部の縦断面図である。
図4】同電動オイルポンプのモータ部の縦断面図である。
図5】同電動オイルポンプの制御部のブロック図である。
図6】同制御部の要部のブロック図である。
図7】同制御部の基板の平面図である。
図8】同ポンプ部の漏れ流量と圧力との関係を示す図である。
図9】同ポンプ部の圧力とモータ電流との関係を示す図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る電動オイルポンプの制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態:クリアランス記憶]
本発明の実施形態に係る電動オイルポンプを図1ないし図9と共に説明する。電動オイルポンプは、例えば、車両に搭載され、オートマチックトランスミッション(A/T)ギヤ等の油圧作動機器に対して油圧を供給する。
【0018】
<電動オイルポンプの全体構成>
図1の電動オイルポンプ1は、A/Tケースの底部に設けられた図示外のオイルパンからオイルを吸引し、このオイルを吐出してA/T内にオイルを圧送する。これにより、A/T内で必要な油圧が確保される。
電動オイルポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、このポンプ部2を駆動するモータ部3と、センサ類と、モータ部3を制御する制御部4と、これらポンプ部2、モータ部3、センサ類および制御部4を収容するハウジング5とを備える。
【0019】
<ポンプ部>
図2のように、ポンプ部2は、ポンプケース6と、アウターロータ7と、インナーロータ8とを有するトロコイドギヤポンプである。ポンプ部2にトロコイドギヤポンプを採用した場合、インナーロータ8とアウターロータ7の図3に示すボディクリアランスδ1、図2のチップクリアランスδ2およびサイドクリアランスδ3(図3)からポンプ部2の漏れ流量が決まる。アウターロータ7の内径側にインナーロータ8が配置される。アウターロータ7には複数の内歯が設けられ、インナーロータ8には複数の外歯が設けられている。図3のように、ポンプケース6は、これらインナーロータ8およびアウターロータ7を収容する。
【0020】
図2のように、アウターロータ7は、インナーロータ8に対して偏心した位置に設けられている。アウターロータ7の一部の歯部がインナーロータ8の一部の歯部と噛み合う。インナーロータ8の歯数をnとすると、アウターロータ7の歯数はn+1である。アウターロータ7は、ポンプケース6の内周面に回転可能に支持されている。アウターロータ7は、インナーロータ8の回転に伴って従動回転する。
【0021】
<モータ部>
図4のように、モータ部3は、ポンプ部2(図3)と軸方向に並べて配置される。モータ部3として、例えば、3相ブラシレスDCモータが適用される。モータ部3は、ハウジング5に固定されるステータ9と、ステータ9の径方向内方に所定のラジアルギャップを介して対向するロータ10と、ロータ10を回転自在に支持する出力軸11とを有する。ハウジング5には、軸方向両側に所定間隔を空けて転がり軸受12,12が設けられ、これら転がり軸受12,12に出力軸11が回転自在に支持されている。
【0022】
<ポンプ部とモータ部との関係について>
図3のように、出力軸11の軸方向一端部は、ポンプ部2のインナーロータ8が直結されている。換言すれば、出力軸11とポンプ部2との間には、減速機が設けられておらず、モータ部の回転速度とポンプ部2の回転速度は同一である。図4のように、軸方向一端側の転がり軸受12と図3のインナーロータ8との間には、ポンプ部2から図4のモータ部3へのオイルの漏れを防止するためのシール13が設けられている。
【0023】
<潤滑系統について>
図3のハウジング5には、ポンプ部2に連通するオイル流路が設けられる。前記オイル流路は、吸入側オイル流路と吐出側オイル流路とを有する。吸入側オイル流路は、図2のインナーロータ8とアウターロータ7の噛み合い部に開口する吸入側空間5aと、ハウジング5の表面に開口する吸入孔5bと、これら吸入側空間5aと吸入孔5bの間を連通する吸入側連通路5cとを有する。前記吐出側オイル流路は、前記噛み合い部に開口する吐出側空間5dと、ハウジング5の表面に開口する吐出孔5eと、これら吐出側空間5dと吐出孔5eの間を連通する吐出側連通路5fとを有する。
【0024】
図4のモータ部3を回転駆動すると、図2のインナーロータ8が回転することでアウターロータ7が従動回転する。これにより両歯部間に形成される空間が回転に伴って拡大および縮小する。よって、前記オイルパンに貯留されたオイルが、前記吸入側オイル流路を介して図3のポンプ部2に吸入されて所定の油圧を発生させた後、前記吐出側オイル流路を経て、油圧アプリケーションであるトランスミッションの内部に吐出される。
【0025】
<センサ類>
図5のように、モータ部3には、ロータ10(図4)の回転角を検出する回転角検出手段14が設けられている。回転角検出手段14は、例えば、図4の出力軸11の軸方向他端部に固定された図示外のセンサマグネットと、このセンサマグネットに所定のギャップを介して対向する磁気センサとを有する。磁気センサは、例えば、MR素子またはホール素子等から成りハウジング5に設けられる。図5の制御部4において、回転角検出手段14で検出された回転角を時間に関して微分することで回転速度(回転数)が算出される。モータ部3の回転数が得られるため、ポンプ部2の回転数が求められる。
【0026】
モータ部3には、電流を検出する電流検出手段15が設けられている。電流検出手段15として、例えば、シャント抵抗両端の電圧を検出するアンプから成る電流センサ、またはモータ部3の相電流の通電経路周囲の磁束等を検出する非接触式センサ等を用いることができる。電流検出手段15は、例えば、インバータ16のモータドライバを構成する素子等の端子電圧等を検出する構成としてもよい。
【0027】
図4のハウジング5には基板が収納されている。後述する図5の制御部4は図7に示す複数の電子部品等により構成され、これら電子部品は基板17に実装されている。複数の電子部品のうち、例えば、半導体素子またはドライバIC等の発熱部品に近接して温度検出手段18が設けられている。図5の温度検出手段18は、モータ部3の温度または制御部4の温度を検出する手段であり、例えば、サーミスタが適用される。
【0028】
<制御部>
制御部4は、マイコンと略称されるマイクロコンピュータ19およびインバータ16を含む。トランスミッションシステムコントロールユニット(略称:TCU)20は、制御部4の上位制御手段である。TCU20は、アクセルペダル等の操作量に応じた指令回転数を制御部4に指令する。
【0029】
<制御部の基本構成>
制御部4のマイコン19は、モータ部3の各検出値および制御値等の情報を出力インタフェース21(図10参照)からTCU20に出力する機能を有する。図6のマイコン19は、CPU22、ROM23、RAM24およびEEPROM25を有する。図5のインバータ16は、複数のスイッチング素子を含むブリッジ回路で構成される。マイコン19は、TCU20から与えられる指令回転数に対応する電流指令を演算しこの電流指令に対し、電流検出手段15で検出されるモータ電流を得て追従させる電流フィードバック制御を行う。マイコン19は、電流フィードバック制御により電圧指令を算出し、PWMドライバに電圧指令を与える。PWMドライバは、与えられた電圧指令に従ってインバータ16を駆動する。インバータ16は、図示外のバッテリの直流電力をモータ部3の駆動に用いる三相の交流電力に変換する。
【0030】
<制御部の特徴構成>
図6のように、マイコン19のROM23には、推定流量演算手段26、理論流量演算手段27および回転数補正手段28が設けられている。これら各手段26,27,28は、例えば、プログラム化されてROM23に格納されている。推定流量演算手段26は、CPU22からの演算指令により、ポンプ部2(図5)のクリアランス、油温、回転数、押しのけ容積および圧力に基づいて、ポンプ部2(図5)の推定流量を演算する。具体的には、推定流量演算手段26は、押しのけ容積に回転数を乗じて得られる理論流量から漏れ流量を減じることで推定流量を演算する。
【0031】
押しのけ容積はポンプ部2(図5)の諸元で予め定められている。回転数は、前述のように回転角検出手段14(図5)で検出された回転角に基づいて算出される。例えば、押しのけ容積はEEPROM25に記憶され、回転数はRAM24に記憶される。理論流量演算手段27は、回転数および押しのけ容積からポンプ部2(図5)の理論流量を演算する。理論流量は下記式から求め得る。
理論流量=押しのけ容積×回転数
図5のTCU20からの指令は、理論流量を元にした回転数で指令されるため、上記式から電動オイルポンプ1内で理論流量を求める。
【0032】
前記クリアランスは、図2のチップクリアランスδ2と、図3のサイドクリアランスδ3と、ボディクリアランスδ1とを含む。各クリアランスδ1,δ2,δ3は、ポンプ部2の製造時に測定を実施し、各測定データは、ポンプ部アッシを組み立てる際、図6のマイコン19内のEEPROM25に記憶される。各クリアランスδ1,δ2,δ3は、全数検査による測定であってもよく、抜き取り検査であってもよい。例えば、ロット毎にクリアランスのばらつきを把握できていればロット毎に抜き取り検査を行ってもよい。
【0033】
図5のポンプ部2の流量を補正する場合、実際にオイルを流したい流量に対して、漏れ流量分回転数を加算する。記憶したクリアランスδ1,δ2,δ3に油温、圧力を加味して演算することで、漏れ流量を以下のように求め得る。ここで図8は、ポンプ部の漏れ流量と圧力との関係を示す図である。同図のように、漏れ流量と圧力とは比例関係にあり、クリアランスの大小に応じて圧力に対する漏れ流量が変化する。
漏れ流量=圧力×(チップクリアランス×a(T))+サイドクリアランス×b(T)+ボディクリアランス×c(T))
a,b,c:油温Tによる変数
【0034】
図6のEEPROMには、電流・圧力関係設定手段29および温度関係設定手段30が設けられている。電流・圧力関係設定手段29は、図5の電流検出手段15で検出された電流と圧力との関係を設定する。推定流量演算手段26は、電流検出手段15で検出された電流を、電流・圧力関係設定手段29(図6)で設定された関係に照合して前記圧力を算出する。図9のように、ポンプ部の圧力はモータ電流に比例する傾向にあるが、温度依存性もある。このため、モータ部または制御部の温度に対するモータ電流値をマップ化しておき、モータ電流および温度からそのときの圧力を推定する。
【0035】
図6の温度関係設定手段30は、図5の温度検出手段18で検出された温度と油温との関係を設定する。推定流量演算手段26は、温度検出手段18で検出された温度を、図6の温度関係設定手段30で設定された関係に照合して油温を推定する。
回転数補正手段28は、理論流量を元にした指令回転数に、推定流量から算出される補正回転数を加算する。補正回転数、補正後回転数は、以下の式により求め得る。補正後回転数により所望の流量を得ることができる。
補正回転数=漏れ流量/押しのけ容積
補正後回転数=指令回転数+補正回転数
【0036】
<作用効果>
以上説明した図5の電動オイルポンプ1によると、推定流量演算手段26は、クリアランス、油温、回転数、押しのけ容積および圧力に基づいてポンプ部2の推定流量を演算する。回転数補正手段28は、回転数および押しのけ容積から演算される理論流量を元にした指令回転数に、前記推定流量から算出される補正回転数を加算する。この場合、従来技術のように出荷検査時にポンプ毎のデータを取得することなくポンプ部2の回転数を適切に補正することができる。このため、従来技術に対し、生産時間を短縮し得るうえ、モータ部3のモータ電流を不必要に高めなくて済むことから消費電力を低減し得る。これによりモータ部3の電源であるバッテリ等の消費を抑えることができる。
【0037】
モータ部等の温度を温度検出手段18で検出して油温を推定するため、油温を直接測定する油温センサ等を用いるよりもコスト低減を図れる。モータ部3の電流を電流検出手段15で検出して圧力を算出するため、モータ部3の圧力を直接測定する圧力センサ等を用いるよりもコスト低減を図れる。制御部4の基本構成で用いる既存の電流検出手段15を用いて油温を推定しているため、部品点数の増加を抑え構造を簡素化できる。
【0038】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0039】
制御部4は、電動オイルポンプ1の個体毎に前記クリアランスδ1,δ2,δ3を記憶してもよい。この場合、ポンプ部2の漏れ流量を精度よく求め得るため、推定流量をより精度よく演算することが可能となる。
【0040】
[第2の実施形態:PQ特性記憶]
図10のように、制御部4Aの特徴構成として、マイコン19Aは、PQ特性記憶手段31と、理論流量演算手段32と、回転数補正手段28Aとを備えた構成としてもよい。制御部4Aの基本構成については、第1の実施形態と同様である。
理論流量演算手段32は、上位制御手段であるTCU20から入力インタフェース33および入出力処理部34を介して与えられた指令回転数に、押しのけ容積を乗じてポンプ部2の理論流量を演算する。理論流量演算手段32において演算された理論流量は、後段のPQ特性記憶手段31に与えられる。
【0041】
PQ特性記憶手段31は、ポンプ部2の理論圧力と理論流量とのPQ特性35を記憶する。PQ特性記憶手段31では、電動オイルポンプ1Aの各油温に対するPQ特性35を油温毎に事前に記憶しておく。PQ特性記憶手段31において、入力された理論流量およびPQ特性表から理論圧力をマップ演算する。前記油温は、温度検出手段18で検出された温度を、温度関係設定手段30で設定された関係に照合して推定される。
【0042】
回転数補正手段28Aは、理論流量を元にした指令回転数に、ポンプ部2の理論圧力と推定圧力との圧力差から算出される補正回転数を加算する。具体的には、回転数補正手段28Aは、補正回転数フィードバック演算部36と、補正後回転数演算部37と、回転数フィードバック制御部38と、推定圧力マップ演算部39とを有する。推定圧力マップ演算部39は、電流検出手段15で検出されるモータ電流と、温度検出手段18で検出され換算された油温から、ポンプ部2の油温毎の推定圧力を演算する。
【0043】
補正回転数フィードバック演算部36は、前記推定圧力と、マップ演算された前記理論圧力との圧力差から定められた関係に従って補正回転数を演算する。前記定められた関係は、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により予め定められる。補正後回転数演算部37は、入出力処理部34からの指令回転数に前記補正回転数を加算して補正後指令回転数を演算する。回転数フィードバック制御部38は、補正後指令回転数に対し、回転角検出手段14で検出される回転角から算出される実回転数を追従させる回転数フィードバック制御を行い、PWMドライバ40に指令電圧を与える。PWMドライバ40は、与えられた指令電圧に従ってインバータ16を駆動する。
【0044】
第2の実施形態の電動オイルポンプ1Aによると、クリアランスを記憶する構成に比べ、電動オイルポンプ1台毎にクリアランスの調整を実施しなくてもよい。このため、生産時の調整時間がなくなり、従来技術よりも生産時間を短くすることができる。その他前述の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0045】
いずれかの実施形態において、図5図10のように制御部4、4Aは、電動オイルポンプ1、1Aが適用されるオートマチックトランスミッションの漏れ流量を記憶するアプリケーション漏れ流量記憶手段41を有し、推定流量演算手段は、オートマチックトランスミッションの前記漏れ流量に基づいて、ポンプ部2の推定流量を補正してもよい。このように油圧アプリケーションであるオートマチックトランスミッションの漏れ流量に基づいて、ポンプ部2の推定流量を補正することで、ポンプ部2の回転数をきめ細かく且つ高精度に補正することができる。
【0046】
電動オイルポンプを、車両における、A/Tギヤ以外の油圧作動機器に適用してもよい。
電動オイルポンプを、車両以外の産業機械等に適用してもよい。
モータ部として、例えば、ブラシを用いたDCモータ、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。
ポンプ部として、外接ギヤポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ等を適用してもよい。
出力軸とポンプ部との間に減速機が設けられてもよい。この場合、減速機の減速比を加味した各演算が行われる。
回転角検出手段として、光学式エンコーダまたはレゾルバ等を適用してもよい。
温度検出手段をモータ部のステータに設けてもよい。
【0047】
第1の実施形態では、チップクリアランス、サイドクリアランスおよびボディクリアランスを全て加味して漏れ流量を演算しているが、この演算に限定されるものではない。クリアランスとして、チップクリアランス、サイドクリアランスおよびボディクリアランスの少なくともいずれか1つを用いて漏れ流量を演算してもよいし、各クリアランスのうち漏れ流量の影響度に応じた係数を各クリアランスに乗じる等の演算を行ってもよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1,1A…電動オイルポンプ、2…ポンプ部、3…モータ部、4,4A…制御部、18…温度検出手段、26…推定流量演算手段、27…理論流量演算手段、28,28A…回転数補正手段、29…電流・圧力関係設定手段、30…温度関係設定手段、31…PQ特性記憶手段、32…理論流量演算手段、41…アプリケーション漏れ流量記憶手段
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