(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089844
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】水性金属加工油剤組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 173/00 20060101AFI20240627BHJP
C10M 107/08 20060101ALN20240627BHJP
C10M 145/26 20060101ALN20240627BHJP
C10M 129/70 20060101ALN20240627BHJP
C10M 129/40 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M107/08
C10M145/26
C10M129/70
C10M129/40
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N40:20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205313
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】尾寅 瞬
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB16C
4H104BB32C
4H104BB41C
4H104CA04A
4H104CB14C
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA21
4H104QA02
(57)【要約】
【課題】地球環境や人体に影響を及ぼしやすい塩素や硫黄を含有する極圧添加剤を使用せずとも、長期間にわたる潤滑性、液安定性に優れた水性金属加工油剤組成物を提供すること。
【解決手段】水性金属加工油剤組成物は、数平均分子量が800~3,000のポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、炭素数10~30の常温で液状である、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)水中に含有する。前記組成物中、ポリブテン(A)が5.0~55.0質量%であり、非イオン系界面活性剤(B)が0.5~3.0質量%であり、脂肪酸(C)が0.1~5.0質量%である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が800~3,000のポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、炭素数10~30の常温で液状である、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)を水中に含有する水性金属加工油剤組成物であって、
前記組成物中、前記ポリブテン(A)が5.0~55.0質量%、前記非イオン系界面活性剤(B)が0.5~3.0質量%、前記脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)が0.1~5.0質量%であることを特徴とする、水性金属加工油剤組成物。
【請求項2】
前記非イオン系界面活性剤(B)が下記一般式(1)で表されることを特徴とする、請求項1記載の水性金属加工油剤組成物。
【化1】
(式(1)中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して直鎖アルキル基であり、R
1およびR
2の合計炭素原子数が8~29であり、
Aは炭素原子数が2~8の直鎖アルキレン基を表し、
nは1~50である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球環境や人体に影響を及ぼしやすい塩素や硫黄を含有する極圧添加剤を使用せずとも、長期間にわたる潤滑性、液安定性に優れた水性金属加工油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に切削加工や研削加工の金属加工分野では、加工効率の向上、被加工材と工具との摩擦抑制、工具の寿命延長、切屑の除去などを目的として金属加工油が使用される。その内、鉱物油をベースとした不水性金属加工油剤と、鉱物油もしくは合成油、界面活性剤、有機アミン等を含有し、水に希釈して使用する水性金属加工油剤とがある。
【0003】
不水溶性金属加工油剤は、一般に、切削性能や研削性能、及び耐腐敗性能において水性金属加工油剤よりも高い性能を有するが、その使用形態から引火の懸念が不可避であり、消防法への対応、使用中の不慮の火災への対応という負担が使用者に発生する。また、大量の鉱物油を使用することから廃液処理が問題であり、さらに加工後ワークの洗浄工程の負荷も水性金属加工油剤に比べ高く、地球環境への影響も無視できない。
【0004】
そこで、近年では資源の有効活用や火災防止などの理由から水性金属加工油剤が広く用いられるようになってきている。水性の油剤は冷却性能に優れるものの、不水溶性の油剤と比較して潤滑性が劣る傾向があるため、従来、極圧添加剤を添加している。しかしながら、極圧添加剤は塩素や硫黄を含有するものが多く、ダイオキシンや富栄養化の問題に代表されるように、近年の地球環境への意識への高まり、焼却処理・排水処理の観点から、極圧添加剤は使用しにくくなってきている。また、潤滑性の維持には、長期間にわたり油剤の液安定性が高いことが望まれている。
【0005】
特許文献1には、合成油としてポリブテンをベースとした加工油剤を被加工物の加工部周辺に霧状に供給することで、加工性能を向上し、かつ廃液量を大幅に削減できる技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、セカンダリーアルコール及びセカンダリーアルコールアルコキシレートを含有する潤滑油剤により、機械用潤滑油や金属加工油の潤滑性、生分解性、相溶性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、重合脂肪酸を含有する油性剤からなる水性金属加工油剤に硫黄系極圧添加剤を添加することで、ステンレス鋼に対する研削性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-031518号公報
【特許文献2】特開2003-176488号公報
【特許文献3】特開2020-158611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、加工性能を向上し、かつ地球環境に影響を及ぼす可能性のある廃液の量を大幅に削減できる技術が開示されているが、不水溶性ミスト切削・研削油剤として使用されるために、ミスト飛散による作業環境の悪化や、火災の危険性が問題とされる。
【0010】
特許文献2では、金属加工油の優れた生分解性に関する技術が開示されているが、水性金属加工油剤としての長期間にわたる潤滑性については検討されていない。
【0011】
特許文献3では、硫黄系極圧添加剤の添加により、ステンレス鋼に対する研削性を向上させる技術が開示されているが、油性剤の含有量以上の極圧添加剤が必要であるため、ダイオキシン等の地球環境への悪影響が懸念されている。また、水性金属加工油剤の液安定性については検証されていない。
【0012】
以上のような事情を鑑み、本発明の課題は、塩素や硫黄を含有する極圧添加剤を使用せずとも、長期間にわたる潤滑性、液安定性に優れた水性金属加工油剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下である。
(1) 数平均分子量が800~3,000のポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、炭素数10~30の常温で液状である、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)を水中に含有する水性金属加工油剤組成物であって、
前記組成物中、前記ポリブテン(A)が5.0~55.0質量%、前記非イオン系界面活性剤(B)が0.5~3.0質量%、前記脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)が0.1~5.0質量%であることを特徴とする、水性金属加工油剤組成物。
(2) 前記非イオン系界面活性剤(B)が下記一般式(1)で表されることを特徴とする、(1)の水性金属加工油剤組成物。
【化1】
(式(1)中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して直鎖アルキル基であり、R
1およびR
2の合計炭素原子数が8~29であり、
Aは炭素原子数が2~8の直鎖アルキレン基を表し、
nは1~50である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塩素や硫黄を含有する極圧添加剤を使用せずとも、長期間にわたる潤滑性、液安定性に優れた水性金属加工油剤組成物を提供することができる。本発明の水性金属加工油剤組成物は、特定のポリブテン(A)と、特定の脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)を、非イオン系界面活性剤(B)を用いて水と混合することで、(A)および(C)がそれぞれ均一な粒径の粒子として水中に分散した水中油型エマルションを形成するため、優れた液安定性が発現すると考えられる。また、本発明の水性金属加工油剤組成物が金属表面に付着すると、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)が金属表面に吸着して層を形成し、さらにその上にポリブテン(A)が層を形成することにより、塩素や硫黄を含有する極圧添加剤を使用せずとも、長期間に亘り高い潤滑性が発現すると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。なお、本発明において数値範囲を示す「N1~N2」とは、特に明示しない限り「N1以上N2以下」を意味するものとする。
【0016】
<ポリブテン(A)>
本発明に使用するポリブテン(A)は、炭素数4のアルケンの重合体である。好ましくは、イソブチレン(2-メチル-1-プロペン)単独重合体、あるいはイソブチレンとその異性体との共重合体である。ここで、イソブチレンの異性体としては1-ブテン、シス-2-ブテン、トランス-2-ブテンが挙げられる。
ポリブテンは安全性の高い材料であり、生体成分に対しても不活性な油性ポリマーであるとともに、本発明の水性金属加工油剤組成物において油性材料として潤滑性を付与することができる。
【0017】
ポリブテン(A)の数平均分子量は蒸気圧浸透圧計により求めることができる。本発明のポリブテン(A)の数平均分子量は800~3,000であり、好ましくは1000~2,500、より好ましくは1,200~2000である。数平均分子量をこの範囲にすることにより、水性金属加工油剤組成物の液安定性と潤滑性を向上させることができる。
【0018】
本発明において数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算にて算出した。
[GPC測定条件]
装置:GPC-8220(東ソー(株)製)
カラム:ShodexLF-804(昭和電工(株)製)
温度:40℃
溶媒:THF
流速:1.0ml/min
試料濃度:0.05~0.6質量%
注入量:0.1ml
【0019】
本発明のポリブテン(A)は、例えば、イソブチレン単独やイソブチレンとその異性体からなるガス混合物を塩化アルミニウム等の酸触媒を用いて重合することにより、製造される。この場合、触媒の塩化アルミニウムの添加量あるいは反応温度を調整することにより、低粘度の軽質ポリブテンから高粘度のポリブテンを製造できる。
【0020】
本発明の水性金属加工油剤組成物中、ポリブテン(A)は5.0~55.0質量%であり、好ましくは10.0質量%以上である。45.0質量%以下とすることが好ましく、30.0質量%以下とすることが更に好ましい。ポリブテン(A)の含有量を5.0質量%以上とすることにより油剤組成物の潤滑性を高めることができ、また、ポリブテン(A)の含有量を55.0質量%以下に留めることにより、本発明の水性金属加工油剤組成物の粘性が著しく高くなることによる作業性の悪化を防ぐことができる。
【0021】
<非イオン系界面活性剤(B)>
本発明に使用する非イオン系界面活性剤(B)は、下記一般式(1)で示される化合物である。水性金属加工油剤組成物の製造において、非イオン系界面活性剤(B)を含有することで、ポリブテン(A)を容易に乳化させることができ、本発明の水性金属加工油剤組成物の潤滑性、液安定性を向上させる機能を有する。
【0022】
【0023】
式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立して直鎖アルキル基であり、R1とR2の合計炭素原子数は8~29とする。R1とR2の合計炭素原子数を8以上とすることにより、潤滑性、液安定性が優れた油剤組成物にすることができる。こうした観点からは、R1とR2の合計炭素原子数を9以上とすることが好ましく、11以上とすることが更に好ましい。また、R1とR2の合計炭素原子数を29以下に留めることにより、潤滑性、液安定性に優れた油剤組成物にすることができる。こうした観点からは、R1とR2の合計炭素原子数を19以下とすることが好ましく、14以下とすることが更に好ましい。
【0024】
式(1)において、Aで表される直鎖アルキレン基としては、炭素原子数2~8、好ましくは炭素原子数2~4の直鎖アルキレン基である。これにより、アルキレン基の親水性が高まり、液安定性が優れた油剤組成物にすることができる。AOで表されるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシペンチレン基、オキシヘキシレン基、オキシヘプチレン基、オキシオクチレン基、およびオキシフェニルエチレンが挙げられる。好ましくは、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシブチレン基である。
【0025】
式(1)において、nは1~50であり、好ましくは1~20である。これにより、油剤組成物の潤滑性、界面活性能を高め、さらに粘性が著しく高くなることによる作業性の悪化を防ぐことができる。
【0026】
本発明の水性金属油剤組成物中、非イオン系界面活性剤(B)は、0.5~3.0質量%である。非イオン系界面活性剤(B)を0.5質量%以上とすることにより潤滑性を高めることができる。こうした観点からは、非イオン系界面活性剤(B)の含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。また、非イオン系界面活性剤(B)の含有量を3.0質量%以下に留めることにより、水性金属加工油剤組成物の液安定性が大きく損なわれることを抑制することができる。こうした観点からは、非イオン系界面活性剤(B)の含有量を2.0質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
<脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)>
本発明に使用する、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)は、常温(25℃)で液状の脂肪酸および常温(25℃)で液状の脂肪酸エステルから選ばれる一種以上である。常温で液状の脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)は、油剤組成物の液安定性を低下させることなく、初期の潤滑性を付与させる機能を有し、さらにポリブテン(A)との併用により長期間にわたる潤滑性を高めることができる。本発明の常温で液状の、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の炭素数は10~30であり、好ましくは炭素数14~26である。炭素数を10以上とすることにより、油剤組成物の長期間にわたる潤滑性を維持することができ、30以下とすることで油剤組成物の粘性が最適となり、作業性がより良好になる。
【0028】
本発明で用いる常温で液状の、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)は、公知のものを使用することができる。
脂肪酸としては、分岐飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸が好ましく用いることができる。
脂肪酸エステルとしては、脂肪酸に分岐鎖を有する飽和アルコールが脱水縮合した脂肪酸エステル、炭素数10~18の不飽和脂肪酸と炭素数1~4の直鎖状飽和アルコールとが脱水縮合した脂肪酸エステルを好ましく用いることができる。
【0029】
常温(25℃)で液状である脂肪酸、脂肪酸エステル(C)として、オレイン酸(融点:8℃)、リノール酸(融点:5℃)、リノレン酸(融点:-11℃)、イソステアリン酸(融点:7℃)、オレイン酸メチル(融点:0℃)、オレイン酸エチル(融点:-32℃)、オレイン酸ブチル(融点:-55℃)、ラウリン酸メチル(融点:7℃)、ラウリン酸エチル(融点:-10℃)、ラウリン酸ブチル(融点:-13℃)、ミリスチン酸メチル(融点:18℃)、ミリスチン酸エチル(融点:12℃)、ミリスチン酸ブチル(融点:7℃)、パルミチン酸エチル(融点:18℃)、パルミチン酸ブチル(融点:14℃)、ミリスチン酸イソプロピル(融点:3℃)、パルミチン酸イソプロピル(融点:11℃)、パルミチン酸2-エチルへキシル(融点:0℃)、ステアリン酸2-エチルへキシル(融点:10℃)、オレイン酸2-エチルへキシル(融点:-40℃)等が挙げられるが、潤滑性の面から、とりわけオレイン酸が好適に使用される。これらの脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明における脂肪酸および脂肪酸エステル(C)の融点は、基準油脂分析試験法(日本油化学会編2.2.4.2融点(上昇融点))に準じて測定した。
【0030】
本発明の水性金属加工油剤組成物中、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)は0.1~5.0質量%である。脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の含有量を0.1質量%以上とすることにより油剤の初期の潤滑性を高めることができる。こうした観点から、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)は0.1質量%以上であり、1.0質量%以上が好ましく、2.5質量%以上が更に好ましい。また、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の含有量を5.0質量%以下に留めることにより、油剤の粘性が著しく高くなることによる作業性の悪化を防ぐことができる。こうした観点からは、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)を4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
<水>
本発明に使用する水は、精製水、イオン交換水、蒸留水、水道水、工業用水等が挙げられる。水中に、数平均分子量が800~3,000のポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、炭素数10~30の常温で液状である、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上を含有することにより、本発明の金属油剤組成物とすることができる。
ただし、潤滑性の観点からは、水の含有量は、本発明の金属油剤組成物中、好ましくは40.0~93.0質量%であり、より好ましくは45.0~90.0質量%であり、最も好ましくは60.0~80.0質量%である。水の含有量を40.0質量%以上とすることにより初期の潤滑性を高めることができ、93.0質量%以下に留めることにより油剤の長期間にわたる潤滑性を高めることができる。
【0032】
<水性金属加工油剤組成物>
本発明の水性金属加工油剤組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の全量を混合してから、25℃~90℃の温度範囲で水を一括もしくは少量ずつ分割して添加し、ホモミキサー、ロール試験機やミル等の乳化機あるいは混練機を用いて、10~120分程度混錬することにより、製造することができる。また、各成分を配合する順序は特に制限されず、ポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)の全量を混合してから、水を一括もしくは少量ずつ分割して添加し、前記機器にて混錬した後、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)を一括もしくは少量ずつ分割して添加し、攪拌機等で混合してもよい。水性金属加工油剤組成物の液安定性を考慮すると、ポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)の全量を混合してから、40~60℃の温度範囲で水を少量ずつ分割して添加し、前記機器にて60分程度混錬した後、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)を少量ずつ分割して添加し、攪拌機で混合するのが好ましい。
【0033】
また、液安定性及び潤滑性の面からは、前記組成物中におけるポリブテン(A)の含有量を100質量部としたとき、非イオン系界面活性剤(B)の含有量は2~10質量部、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の含有量は、5~20質量部とするのが好ましい。
【0034】
<その他の配合剤>
本発明の水性金属加工油剤組成物には、さらに他の成分を配合することができ、例えば、界面活性剤、潤滑性向上剤、金属不活性化剤、消泡剤、殺菌剤等を配合することができる。ただし、液安定性の面から、前記組成物における非イオン系界面活性剤(B)の含有量を100質量部としたとき、上記のその他の配合剤の含有量の合計を10質量部以下に留めることが好ましい。
【0035】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤など非イオン系界面活性剤以外を用いることができる。水性金属加工油剤組成物の液安定性、潤滑性の面から、非イオン系界面活性剤(B)の含有量を100質量部としたとき、上記の界面活性剤の含有量を10質量部以下に留めることが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩等がある。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの四級アンモニウム塩等がある。両性界面活性剤としては、ベタイン系としてアルキルベタインなどが挙げられる。
【0036】
(潤滑性向上剤)
潤滑性向上剤としては、パラフィン系やナフテン系などの鉱物油、ポリαオレフィン、アルキルベンゼン、エステルなどの合成油、ひまし油、菜種油などの植物油、ラノリンなどの油脂およびこれらの精製物など等が挙げられる。また、水性金属加工油剤組成物の液安定性の面から、前記組成物中の脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の含有量を100質量部としたとき、上記の潤滑性向上剤の含有量を10質量部以下に留めることが好ましい。
【0037】
(金属不活性化剤、酸化防止剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、及びチアジアゾール、リン酸ナトリウム塩、リン酸エステル誘導体等が挙げられる。
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2、6-ジ-t-ブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;さらにモリブデン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0038】
(殺菌剤、消泡剤)
殺菌剤としては、例えば、トリアジン系防腐剤、アルキルベンゾイミダゾール系防腐剤、イソチアゾリン系防腐剤、ピリジン系防腐剤、フェノール系防腐剤、ピリチオン系防腐剤などが挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン系化合物、ポリエーテル系化合物などを挙げることができる。
【実施例0039】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0040】
<水性金属加工油剤組成物の製造>
(実施例1、10~15、比較例1、3~5)
ホモミキサー(T.K.HOMOMIXER МARK II、TOKUSHUKIKA社製)および温度計を備えた500mL筒型セパラブルフラスコに、ポリブテン(A)(商品名「ポリブテン30N」、日油株式会社製、数平均分子量:1,350)を180g、非イオン系界面活性剤(B)(ポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名「ソフタノール70」、株式会社日本触媒製、R1、R2の合計炭素原子数:11~14、n=7))を9.0g仕込んだ後、3.6gの水(水道水)を加え、50℃、1600rpmで3分間予備攪拌した。続いて、3500rpmまで攪拌速度を徐々に上げ、フラスコ内が60℃以下となるよう、10分間かけて水道水を18.0g滴下した後、ホモミキサーを前後左右に動かし全体的に乳化させた。その後、3000rpmまで攪拌速度を下げ、10分間かけて75.6gの水道水を滴下し、続いて2500rpmまで攪拌速度を下げ、7分間かけて73.8gの水道水を滴下した。その後、1300rpmまで攪拌速度を下げ、10分間泡取りを行い、乳化物を得た。
【0041】
さらに、当該乳化物の内、95.0gを200mlビーカーに移し入れ、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)(オレイン酸(商品名「NAA(登録商標)-35」、日油株式会社製、融点:8℃))5.0gを前記ビーカーに少量ずつ添加し、攪拌機を用いて25℃で3分間混合することにより、実施例1の水性金属加工油剤組成物を得た。
【0042】
実施例10~15、比較例1、3~5の各組成物は、表1~表3の比率にて、実施例1と同様に製造した。
【0043】
(実施例2~9、比較例2、6)
実施例1の水性金属加工油剤組成物54.5gを200mlビーカーに入れ、攪拌機で混合しながら水45.5gを少量ずつ添加し、ポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の合計が30質量%である実施例2の水性金属加工油剤組成物を得た。また、実施例3~8、比較例2、6の水性金属加工油剤組成物は、表1、表3記載の各成分を用いて、実施例2と同様に製造した。
さらに、実施例1の水性金属加工油剤組成物に水を添加して、ポリブテン(A)、非イオン系界面活性剤(B)、脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる1種以上(C)の合計が10質量%である実施例9の水性金属加工油剤組成物を得た。
【0044】
実施例1~15及び比較例1~6についての評価結果を表1~表3に示す。
各性能の評価方法は以下の通りである。
【0045】
[評価方法]
<潤滑性の評価>
ステンレスもしくはアルミニウムからなる試験片(50mm×100mm×0.5mm)を用い、表面製測定機(新東科学株式会社製、type:14DR)による潤滑性の評価を行った。
まず、深型バット(ステンレス製、136mm×105mm×60mm)の底面中央部に前記試験片を貼付けた後、常温(25℃)の水性金属加工油剤組成物100gを深型バットに投入した。次に、前記試験機を用い、垂直荷重:300gにて、試験球(材質:SUJ2、直径:13mm)と前記試験片とを、前記組成物中で接触させた。その後、試験速度:50mm/s、往復回数:100回の条件で、前記試験球と前記試験片とを擦れ合わせる試験を行い、初期摩擦係数及び摩擦係数増加率、試験片外観にて潤滑性を評価した。
【0046】
(初期摩擦係数、摩擦係数増加率)
上記試験にて、1~10往復目の摩擦係数の平均と100往復目の摩擦係数を測定し、それぞれ初期摩擦係数、最終摩擦係数とした。また、前記摩擦係数を用いて、摩擦係数増加率を下記一般式(2)にて求めた。
摩擦係数増加率(%)=(最終摩擦係数/初期摩擦係数)×100(%)
・・・(2)
【0047】
潤滑性の評価において、初期摩擦係数の値が小さいほど、初期の潤滑性が良好であり、目標値はいずれの試験片の場合も0.15以下とした。また、摩擦係数増加率の値が小さいほど、長期間にわたる潤滑性が良好であり、いずれの試験片の場合も目標値は120%以下とした。
【0048】
(試験片外観)
上記試験にて、100往復後の試験片外観の表面状態を目視により判定し、以下のようにランク付けした。試験片外観の目標値は〇とした。
〇:表面にほぼ傷なし
△:一部傷が見られる
×:全体的に傷やへこみが見られる
【0049】
<液安定性の評価>
栓付きメスシリンダーに各水性金属加工油剤組成物100mlを入れ、室温で14日間放置し、目視により、分離度合いを調べ、以下のようにランク付けした。
〇:分離無し
×:油分もしくは固形分の凝集有り
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表1、表2に示す各成分は以下のとおりである。
A-1:ポリブテン(商品名「ポリブテン30N」、日油株式会社製、数平均分子量:1,350:モノマーはイソブチレン、1-ブテン、シス-2-ブテン、トランス-2-ブテンの混合物)
A-2:ポリブテン(商品名「ポリブテン200N」、日油株式会社製、数平均分子量:3,000:モノマーはイソブチレン、1-ブテン、シス-2-ブテン、トランス-2-ブテンの混合物)
A-3:ポリブテン(商品名「ポリブテン10N」、日油株式会社製、数平均分子量:1,000:モノマーはイソブチレン、1-ブテン、シス-2-ブテン、トランス-2-ブテンの混合物)
A’-1:ポリブテン(商品名「ポリブテン0N」、日油株式会社製、数平均分子量:370:モノマーはイソブチレン、1-ブテン、シス-2-ブテン、トランス-2-ブテンの混合物)
B-1:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名「ソフタノール70」、株式会社日本触媒製、R1、R2の合計炭素原子数:11~14、n=7)
C-1:オレイン酸(商品名「NAA(登録商標)-35」、日油株式会社製、融点:8℃)
C-2:イソステアリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、融点:7℃)
C-3:オレイン酸メチル(商品名「ユニスター(登録商標)M-182A」、日油株式会社製、融点:0℃)
C-4:オレイン酸2-エチルへキシル(商品名「ユニスター(登録商標)MB-881」、日油株式会社製、融点:-40℃)
C-5:パルミチン酸2-エチルへキシル(商品名「ユニスター(登録商標)MB-816」、日油株式会社製、融点:0℃)
C’-1:ステアリン酸(商品名「NAA(登録商標)-180」、日油株式会社製、融点:65℃)
水:水道水
【0054】
表1、表2の結果から明らかなように、実施例1~15の水性金属加工油剤は、いずれも長期間にわたる潤滑性、液安定性に優れていた。
【0055】
一方、表3の結果から明らかなように、比較例1~6の水性金属加工油剤は、これらの性能バランスが不十分であった。
【0056】
比較例1の水性金属加工油剤組成物は、ポリブテン(A)の含有量が過剰なため、水性金属加工油剤の粘度が高く、初期の潤滑性が劣っていた。
【0057】
比較例2の水性金属加工油剤組成物は、常温で固体の脂肪酸(C’-1)を含有しているため、水性金属加工油剤組成物中で脂肪酸が凝集することによる液安定性の低下が見られ、かつ初期及び長期間にわたる潤滑性が劣っていた。
【0058】
比較例3の水性金属加工油剤組成物は、脂肪酸(C)を含有していないため、初期及び長期間にわたる潤滑性が劣っていた。
【0059】
比較例4の水性金属加工油剤組成物は、非イオン系界面活性剤(B)の含有量が過少なため、水性金属加工油剤組成物における粒子の大きさが不均一となり、初期の潤滑性、液安定性が劣っていた。
【0060】
比較例5の水性金属加工油剤組成物は、ポリブテン(A)の含有量が過少なため、初期及び長期間にわたる潤滑性が劣っていた。
【0061】
比較例6の水性金属加工油剤組成物は、ポリブテン(A’)の数平均分子量が過少なため、初期及び長期間にわたる潤滑性、液安定性が劣っていた。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではない。