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特開2024-89851トマトのγ-アミノ酪酸を高める方法、及びトマトの生産方法
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  • 特開-トマトのγ-アミノ酪酸を高める方法、及びトマトの生産方法 図1
  • 特開-トマトのγ-アミノ酪酸を高める方法、及びトマトの生産方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089851
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】トマトのγ-アミノ酪酸を高める方法、及びトマトの生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/15 20180101AFI20240627BHJP
   A01G 24/42 20180101ALI20240627BHJP
   A01G 22/05 20180101ALI20240627BHJP
【FI】
A01G24/15
A01G24/42
A01G22/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205336
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 諒
(72)【発明者】
【氏名】今森 久弥
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
2B022BA04
2B022BB01
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、トマトにおいて、γ-アミノ酪酸の高含有化
と収量低下の抑制を両立させることである。
【解決手段】本発明に係るトマトのγ-アミノ酪酸を高める方法を構成するのは、少なく
とも、栽培である。栽培において、トマトが栽培される。栽培を行う培地は、ガラス質火
山岩を高温処理したものである。培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満で
ある。本発明に係るトマトの生産方法を構成するのは、少なくとも、栽培である。栽培に
おいて、トマトが栽培される。栽培を行う培地は、ガラス質火山岩を高温処理したもので
ある。培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトのγ-アミノ酪酸を高める方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の
工程である:
栽培:ここで栽培されるのは、トマトであり、
前記栽培を行う培地は、ガラス質火山岩を高温処理したものであり、
前記培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満である。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記培地は、黒曜石を高温処理したものである。
【請求項3】
請求項2の方法であって、
前記培地は、黒曜石パーライトである。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの方法であって、
前記培地を入れる容器の排水速度は、55mL/秒以上かつ3650mL/秒以下であ
る。
【請求項5】
トマトの生産方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
栽培:ここで栽培されるのは、トマトであり、
前記栽培を行う培地は、ガラス質火山岩を高温処理したものであり、
前記培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満である。
【請求項6】
請求項5の生産方法であって、
前記培地は、黒曜石を高温処理したものである。
【請求項7】
請求項6の生産方法であって、
前記培地は、黒曜石パーライトである。
【請求項8】
請求項5乃至7の何れかの生産方法であって、
前記培地を入れる容器の排水速度は、55mL/秒以上かつ3650mL/秒以下であ
る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、トマトのγ-アミノ酪酸を高める方法、及びトマトの生産方法
である。
【背景技術】
【0002】
長年市場で求められてきたのは、健康価値が付加された商品である。健康価値が付加さ
れた商品として一般的なのは、サプリメント等の加工食品である。しかし近年、健康価値
が付加された生鮮食品(特に、野菜)が注目されている。
【0003】
健康価値が付加された野菜を得る方法は、様々であるが、ストレス栽培はその1つであ
る。特許文献1が開示するのは、栽培装置及び栽培方法である。具体的には、作物に安定
的に適度な水分ストレスをかけることができる栽培装置である。特許文献2が開示するの
は、養液栽培による植物栽培方法である。非特許文献1が開示するのは、水ストレス下お
よび塩ストレス下で栽培したトマトにおける果実内成分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016‐000027号
【特許文献2】特開2003-092924号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】植物環境工学 2005年17巻3号p.128-136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、トマトにおいて、γ-アミノ酪酸の高含有化と収量
低下の抑制を両立させることである。ストレス栽培は、トマトのγ-アミノ酪酸を高含有
化させるが、収量を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、栽培を行う培地の種類とそ
の粒径である。すなわち、ガラス質火山岩を高温処理した培地であって、粒径が2.8m
m以上かつ26.5mm未満のものを用いることである。この観点から、本発明を定義す
ると、以下のとおりである。
【0008】
本発明に係るトマトのγ-アミノ酪酸を高める方法を構成するのは、少なくとも、栽培
である。栽培において、トマトが栽培される。栽培を行う培地は、ガラス質火山岩を高温
処理したものである。培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満である。
【0009】
本発明に係るトマトの生産方法を構成するのは、少なくとも、栽培である。栽培におい
て、トマトが栽培される。栽培を行う培地は、ガラス質火山岩を高温処理したものである
。培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満である。
【0010】
上記手段により課題が解決される理由は、推察ではあるが、以下のとおりである。スト
レス栽培の多くは、潅水量を調整する(潅水量を少なくする)ことで、植物にストレスを
与えるものである。それに対し、本発明に係る方法は、排水性の高い培地を用いることで
、排水量を調整する(排水量を多くする)ものである。これにより、植物体への負担を軽
減しつつ、ストレスを与えることが可能となる。すなわち、γ-アミノ酪酸の高含有化と
収量低下の抑制を両立させることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明が可能にするのは、トマトにおいて、γ-アミノ酪酸の高含有化と収量低下の抑
制を両立させることである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係るトマトの生産方法の流れ図
図2】プランターの底にあけた穴の位置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本実施の形態に係るトマトのγ-アミノ酪酸を高める方法>
本実施の形態に係るトマトのγ-アミノ酪酸を高める方法(以下、「本方法」という。
)を構成するのは、主に、栽培(S11)である。
【0014】
<栽培(S11)>
栽培において、トマトを栽培する。トマトの栽培を行う場所は、トマトが生育すればよ
く、特に限定されない。例示すると、圃場、ビニールハウス、植物工場等である。栽培を
行う手段は特に限定されない。好ましくは、施設栽培である。好ましくは、水耕栽培や養
液栽培である。本工程が排除しないのは、植物の栽培において一般的に行われる作業の実
施である。例示すると、施肥、農薬散布、病虫害の防除、葉かき、芽かき等である。
【0015】
<培地>
培地とは、植物を栽培する際に、根を定着させるものを指す。本方法において用いる培
地は、ガラス質火山岩を高温処理したものである。ガラス質火山岩は、高温処理すること
で、内部の水分が急激に蒸発し、多孔質の構造となる。多孔質の構造をもつ培地は、孔隙
の大きさや数より、排水性や保水性を有する。本生産方法では、栽培する植物にストレス
を与える観点から、排水性の高い培地であることが好ましい。本生産方法において用いる
培地は、好ましくは、黒曜石を高温処理したものである。より好ましくは、黒曜石パーラ
イトである。
【0016】
<培地の粒径>
本方法において用いる培地の粒径は、2.8mm以上かつ26.5mm未満である。こ
の範囲であれば、トマトにおいて、γ-アミノ酪酸の高含有化と収量低下の抑制を両立さ
せることができる。ここで、培地の粒径は、JIS-Z8801-1に規定される篩を用
いて測定される。具体的には以下のとおりである。目開き26.5mmの篩を用いて分粒
し、通過した粒子の粒径は、26.5mm未満である。目開き2.8mmの篩を用いて分
粒し、篩上に残った粒子の粒径は、2.8mm以上である。すなわち、目開き26.5m
mの篩を通過し、かつ、目開き2.8mmの篩を通過しない粒子の粒径は、2.8mm以
上かつ26.5mm未満である。
【0017】
<培地を入れる容器の排水速度>
本方法において用いる培地を入れる容器の排水速度は、トマトが生育すればよく、特に
限定されない。本方法では、栽培する植物にストレスを与える観点から、排水性を高くす
ることが好ましい。本方法において用いる培地を入れる容器の排水速度は、好ましくは、
55mL/秒以上かつ3650mL/秒以下である。培地を入れる容器の排水速度を調整
する手段は、公知のものでよく、特に限定されない。例示すると、培地を入れる容器の底
面の穴の数の調節、培地を入れる容器の底面の穴の大きさの調節、培地を入れる容器の底
面の穴の位置の調節、培地を入れる容器の底面の素材の変更等である。
【0018】
<排水速度の測定方法>
本発明において、培地を入れる容器の排水速度を測定する方法は、以下のとおりである
。培地を入れる容器(プランター、鉢、袋等があり、これらに限定されない。)に最大容
量の水を充填する。排水を開始し、排水開始から水が抜けきるまでの時間を測定する。充
填した水の容量(mL)と排水開始から水が抜けきるまでの時間(秒)を以下の式にあて
はめて算出する。
【0019】
培地を入れる容器の排水速度(mL/秒)=充填した水の容量(mL)/排水開始から
水が抜けきるまでの時間(秒)
【0020】
<潅水条件>
本方法において、潅水条件は、トマトが生育すればよく、特に限定されない。ここで本
願が取り込むのは、施設と園芸(ISSN 0912-666X)No.167(201
4 秋)p.53~p.55に記載の内容である。
【0021】
<収量>
収量とは、収穫された果実の重量を単位面積あたりの重量へ換算したものを言う。具体
的には、収穫された全ての果実の重量を単位面積あたりの重量へ換算したものを言う。
【0022】
本願において収量の低下が抑制されるとは、通常の栽培をした場合と比較して、収量が
80%以上であることを言う。通常の栽培とは、ストレス栽培ではない栽培を意味する。
具体的な栽培方法は、公知のものであればよく、特に限定されない。好ましくは、以下の
とおりである。養液EC(電気伝導率)が3.0以下の養液を給液する栽培である。ヤシ
ガラを培地に用いる栽培である。
【0023】
<γ-アミノ酪酸>
γ-アミノ酪酸(以下、「GABA」と言う場合もある。)は、グルタミン酸から作ら
れるアミノ酸の1種である。γ-アミノ酪酸は、ヒトや哺乳動物の中枢神経系において抑
制性の神経伝達物質として機能することが知られている。
【0024】
本願においてγ-アミノ酪酸の高含有化とは、通常の栽培をした場合と比較して、γ-
アミノ酪酸含有量が高くなることを言う。好ましくは、通常の栽培をした場合と比較して
、γ-アミノ酪酸含有量が1.3倍以上になることを言う。より好ましくは、通常の栽培
をした場合と比較して、γ-アミノ酪酸含有量が1.5倍以上になることを言う。最も好
ましくは、通常の栽培をした場合と比較して、γ-アミノ酪酸含有量が2.0倍以上にな
ることを言う。γ-アミノ酪酸含有量分析方法は、後述する。通常の栽培とは、前述のと
おりである。
【0025】
<本実施の形態に係るトマトの生産方法>
図1が示すのは、本実施の形態に係るトマトの生産方法(以下、「本生産方法」という
。)の流れである。本生産方法を構成するのは、主に、定植(S21)、栽培(S22)
、収穫(S23)である。
【0026】
<定植(S21)>
定植において、トマトの苗を定植する。定植の手段は、特に限定されない。例示すると
、手作業、機械等である。トマトの苗を得る手段は、特に限定されない。トマトの苗は、
苗の状態で流通しているものであってもよく、種子の状態で流通しているものを発芽させ
て得られるものであってもよく、組織培養や挿し芽等の栄養繁殖によって得られるもので
あってもよい。種子を発芽させて苗を得る場合においては、必要に応じ、定植の前に播種
を行ってもよい。さらに、トマトの栽培を行う場所に直接播種を行い、間引きして残った
ものを苗としてもよい。定植を行う時期は、トマトが生育すればよく、特に限定されない
【0027】
<栽培(S22)>
本生産方法における栽培(S22)は、本方法における栽培(S11)に準ずる。
【0028】
<収穫(S23)>
収穫において、トマトを収穫する。トマトを収穫する手段は、特に限定されない。例示
すると、手作業、機械等である。収穫を行うタイミングは、品種や栽培環境により変化す
るため、特に限定されない。好ましくは、以下のとおりである。収穫を行うタイミングは
、果実が赤く熟したタイミングである。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定さ
れるものではない。
【0030】
[試験1.収量への影響の比較]
培地と養液ECの違いが、トマトの収量に与える影響を比較した。
【0031】
<材料と方法>
試験に用いたトマトは、市販のトマト品種A(フラガール)及び市販のトマト品種B(
フルティカ)である。前記トマトに対して、培地と養液ECを変えて栽培を行った。各区
分の条件を表1に示す。養液EC3.0±1.0は、一般的な養液栽培の条件である。E
C7.0±1.0は、高ECによるストレス栽培の条件である。
【0032】
【表1】
【0033】
ヤシガラは、市販のヤシガラ(RIOCOCO社製)を使用した。パーライトは、市販
の黒曜石パーライト(粒径2.8mm以上かつ26.5mm未満)を使用した。前記トマ
トを各培地に定植し、栽培を行った。栽培は、カゴメ株式会社が保有する大型ハウス内に
て行った。表1に記載のECに調整した養液を給液した。8月上旬にトマトの種子を播種
した。種子の播種後、約4週間後に定植を行った。定植後、約8週間後から収穫を開始し
た。収穫は、約6カ月間実施した。収穫した果実の収量を測定した。
【0034】
<収量の測定方法>
収量の測定は、以下の方法で行った。収穫期間中、区分ごとに赤く熟した果実を収穫し
た。収穫した全ての果実の重量を測定し、平方メートルあたりの重量へ換算したものを、
収量(kg/平方メートル)とした。
【0035】
<結果>
【表2】
【0036】
表2が示すのは、各区分の収量の比較である。この結果からわかるのは、以下である。
区分1-1に比べ、区分1-2では、収量が63%まで低下した。しかし、区分1-3で
は、収量の低下は、87%で維持されていた。また、区分1-4に比べ、区分1-5では
、収量が87%であったものの、区分1-6では収量の低下は殆ど見られなかった。これ
は、パーライトでの栽培が、高い養液ECでの栽培に比べ、植物に与えるストレスが少な
いことを意味している。つまり、養液ECを高くするという一般的なストレス栽培に比べ
、培地にパーライトを使用すると、収量の低下が抑制される。
【0037】
詳細なデータは示していないが、区分1-3では、区分1-2に比べ、小果が少ない傾
向であった。これは、区分1-6及び区分1-5でも同様の傾向であった。小果とは、果
実の大きさが極端に小さくなるものを言う。小果は、販売価格を低下させることや、廃棄
の対象となることがある。ストレス栽培では、小果が問題になりやすい。小果と判断され
る基準は、品種や市場が求める品質により異なるが、例示すると、果重が出荷される果実
の平均果重に対して30%以下である。
【0038】
[試験2.γ-アミノ酪酸含有量への影響の比較]
培地の違いが、トマトの収量及びγ-アミノ酪酸含有量に与える影響を比較した。
【0039】
<材料と方法>
試験に用いたトマトは、市販のトマト品種(富丸ムーチョ)である。前記トマトに対し
て、培地を変えて栽培を行った。各区分の条件は、以下のとおりである。区分2-1では
、培地にヤシガラ(RIOCOCO社製)を用いた。区分2-2では、培地に市販の黒曜
石パーライト(粒径2.8mm以上かつ26.5mm未満)を用いた。前記トマトを各培
地に定植し、栽培を行った。栽培は、カゴメ株式会社が保有する大型ハウス内にて行った
。養液ECは3.0±1.0とした。7月末にトマトの種子を播種した。種子の播種後、
約4週間後に定植を行った。定植後、約3カ月後から収穫を開始した。収穫は、約8カ月
間実施した。収穫した果実は、収量及びγ-アミノ酪酸含有量を測定した。
【0040】
<収量の測定方法>
収量の測定は、前述と同様の方法で行った。
【0041】
<γ-アミノ酪酸含有量の測定方法>
γ-アミノ酪酸含有量の測定は、以下の方法で行った。各区分から、赤く熟した果実を
収穫した。収穫後に果重を測定した。果重の測定は、電子天秤(ME1002E、メトラ
ー社製)で行った。果重の測定が終了した果実をミキサーで1分間破砕した。破砕後、ビ
ン容器に充填し、沸騰湯浴中で30分間加熱した。加熱後、ろ紙(定量濾紙No.5A、
ADVANTEC社製)でろ過した。ろ液をγ-アミノ酪酸含有量の測定用サンプルとし
た。測定は、次の方法で行った。ろ液を3%スルホサリチル酸で10倍(容量)に希釈し
た後、メンブレンフィルター(DISMIC-25CS0.20μm 25CS020A
N、ADVANTEC社製)で濾過し、アミノ酸自動分析計(L-8900、日立製作所
社製)を用いて測定した。γ-アミノ酪酸含有量は、市販の標品を用いて作成した検量線
及び果実の重量から算出(mg/100g)した。
収穫期間を通じて合計6回の測定を行い、平均値を算出した。1回の測定あたり、3果実
を1分析点とし、3分析点の測定を行った。
【0042】
<結果>
【表3】
【0043】
表3が示すのは、各区分の収量及びγ-アミノ酪酸含有量の比較である。この結果から
わかるのは、以下である。区分2-1に比べ、区分2-2では、γ-アミノ酪酸含有量が
154%になった。収量は、区分2-1に比べ低下したものの、80%に留まっており、
この程度の減少であれば、十分に事業利用可能である。つまり、培地にパーライトを使用
すると、γ-アミノ酪酸の高含有化と収量低下の抑制が可能となる。
【0044】
[試験3.培地の粒径及び培地を入れる容器の排水速度の影響の比較]
培地の粒径及び培地を入れる容器の排水速度が、トマトの収量及びγ-アミノ酪酸含有
量に与える影響を比較した。
【0045】
<材料と方法>
試験に用いたトマトは、カゴメ株式会社が育成したトマト品種(KGM211)である
。前記トマトに対して、培地の粒径及びプランターの排水速度を変えて栽培を行った。
【0046】
プランターの排水速度の調整は、プランター底面の穴の数を変えること及びプランター
底面をメッシュに替えることにより行った。具体的には、以下のとおりである。市販のプ
ランター(アイリスオーヤマ社製、レリーフプランター、品番370)の底には、もとも
と1か所の穴がある。それをそのまま用いたものを、プランターAとした。市販のプラン
ターの底に、新たに2か所の穴をあけて合計3穴となるようにしたものをプランターBと
し、新たに6カ所の穴をあけて合計7穴となるようにしたものをプランターCとした。市
販のプランターの底面を切除し、市販のメッシュ(目開き0.154mm)を底面に固定
したものをプランターDとした。
【0047】
図2が示すのは、プランターA~Cの穴の位置である。プランターの底面を真上から見
た場合に、穴が大体どの位置に存在しているかを示している。黒塗りの丸で示したのが、
市販のプランターにもともとあいている穴である。白塗りの丸で示したのが、新たに設け
た穴である。図2における上流側とは、排水速度を測定する際の傾斜の高い側を示してい
る。図2における下流側とは、排水速度を測定する際の傾斜の低い側を示している。
【0048】
プランターの排水速度の測定は、以下の方法で行った。水を溜めた桶に各プランターを
沈め、引き上げることで最大容量の水を充填した。プランターA、B及びCは、上流側と
下流側で約2cmの高低差の傾斜を設けた状態で静置し、排水を行った。プランターDは
、すぐに排水が完了するため、傾斜は設けずに静置し、排水を行った。排水開始から水が
抜けきるまでの時間を測定した。充填した水の容量(mL)と排水開始から水が抜けきる
までの時間(秒)から、プランターの排水速度(mL/秒)を算出した。測定は5回繰り
返し行い、平均値と標準偏差を算出した。プランターA~Dの排水速度を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
培地は、ヤシガラ(RIOCOCO社製)及び粒径の異なる市販の黒曜石パーライトを
用いた。尚、ヤシガラは、もともと袋状の容器に入っているため、プランターは使用して
いない。前記のトマトを各培地に定植し、栽培を行った。栽培は、カゴメ株式会社が保有
する大型ハウス内にて行った。養液ECは3.0±1.0とした。9月上旬にトマトの種
子を播種した。種子の播種後、約4週間後に定植を行った。定植後、約2カ月後から収穫
を開始した。収穫は、約2カ月間実施した。収穫した果実は、収量及びγ-アミノ酪酸含
有量を測定した。
【0051】
<収量の測定方法>
収量の測定は、前述と同様の方法で行った。
【0052】
<γ-アミノ酪酸含有量の測定方法>
γ-アミノ酪酸含有量の測定は、前述と同様の方法で行った。
【0053】
<結果>
【表5】
【0054】
表5が示すのは、各区分の収量及びγ-アミノ酪酸含有量である。この結果からわかる
のは、以下である。区分3-1に比べ、区分3-2から区分3-5では、γ-アミノ酪酸
含有量は約2倍になる。収量は低下するものの、いずれも区分3-1対比で80%以上で
あり、この程度の減少であれば、十分に事業利用可能である。また、区分3-1に比べ、
区分3-6から区分3-9では、γ-アミノ酪酸含有量は約1.5倍になる。収量は低下
するものの(区分3-9は除く)、いずれも区分3-1対比で80%以上であり、この程
度の減少であれば、十分に事業利用可能である。他方、区分3-10から区分3-13で
は、γ-アミノ酪酸含有量は1.5倍未満であった(区分3-13は除く)。以上のこと
から、培地に粒径が2.8mm以上かつ26.5mm未満のパーライトを使用すると、γ
-アミノ酪酸の高含有化と収量低下の抑制を両立させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明が有用な分野は、野菜の生産である。
図1
図2