IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京薬科大学の特許一覧 ▶ レナセラピューティクス株式会社の特許一覧

特開2024-89860ZIC5発現を調節するための核酸複合体
<>
  • 特開-ZIC5発現を調節するための核酸複合体 図1
  • 特開-ZIC5発現を調節するための核酸複合体 図2A
  • 特開-ZIC5発現を調節するための核酸複合体 図2B
  • 特開-ZIC5発現を調節するための核酸複合体 図3
  • 特開-ZIC5発現を調節するための核酸複合体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089860
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ZIC5発現を調節するための核酸複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240627BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61P35/00
A61K31/713
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205354
(22)【出願日】2022-12-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「がん治療における薬剤耐性阻害を目指した転写因子ZIC5標的ヘテロ二本鎖核酸(HDO)の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(71)【出願人】
【識別番号】515295979
【氏名又は名称】レナセラピューティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 礼子
(72)【発明者】
【氏名】深見 希代子
(72)【発明者】
【氏名】高木 鋼
(72)【発明者】
【氏名】木澤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】兼子 佳子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大司
(72)【発明者】
【氏名】布施 伸之
(72)【発明者】
【氏名】植原 渉
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明は、ZIC5遺伝子の転写産物及びタンパク質の発現を調節するための核酸複合体を提供する。
【解決手段】ZIC5遺伝子の転写産物及びタンパク質の発現を調節するための核酸複合体は、ZIC5特異的な発現の抑制剤又は阻害剤として働くためZIC5の機能解明に有用である。また、発明者らの研究によりメラノーマにおいてZIC5の発現を抑制すると、がん細胞の特徴である生体内増殖能が著しく低下することが明らかとされたことから、メラノーマの治療、改善またはその進行の遅延に有用である。本発明の核酸複合体は、ZIC5の発現を特異的に阻害するため、メラノーマの治療、改善またはその進行の遅延を、必要とする患者において行うことに有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
12~30個の連結したヌクレオチドからなるアンチセンス鎖を含む核酸複合体であって、当該アンチセンス鎖は、配列番号2で表される核酸塩基配列の
15-28、109-122、180-193、249-262、516-529、615-628、654-667、924-937、1063-1076、1241-1254、1425-1438、1499-1512、1535-1548、1664-1677、1714―1732、1715―1732、1716―1732、1716―1735、1717―1732、1717―1734、1718―1732、1718―1733、1719-1732、1719―1732、1719―1733、1719―1735、1719―1736、1719―1737、1859-1872、1906-1919、1920-1933、1967-1980、1990-2003、2010-2023、2016-2029、2028-2041、2043-2056、2062-2075、2141-2154、2186-2204、2187―2204、2188―2207、2189-2204、2189―2206、2190―2205、2191―2204、2191―2206、2191―2207、2191―2208、2191―2209、2191-2204、2191-2205、2322-2335、2355-2368、2391-2404、2406-2419、2498-2511、2551-2564、2568-2581、2604-2617、2618-2631、2640-2653、3218-3231又は3975-3988番目のヌクレオチド
とハイブリダイズすることが可能であり、かつ、ZIC5転写産物に対しアンチセンス効果を有する、核酸複合体。
【請求項2】
前記アンチセンス鎖は一本鎖オリゴヌクレオチドである請求項1に記載の核酸複合体。
【請求項3】
前記アンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖からなるヘテロ二本鎖核酸である請求項1に記載の核酸複合体。
【請求項4】
前記アンチセンス鎖が少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の核酸複合体。
【請求項5】
前記アンチセンス鎖が少なくとも1つのホスホロチオエートヌクレオチドを含む、請求項1に記載の核酸複合体。
【請求項6】
前記アンチセンス鎖が少なくとも1つのホスホジエステルヌクレオレオチドを含む、請求項1に記載の核酸複合体。
【請求項7】
前記アンチセンス鎖がホスホロチオエートヌクレオチドである、請求項5に記載の核酸複合体。
【請求項8】
前記アンチセンス鎖が修飾核酸塩基を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸複合体。
【請求項9】
前記修飾ヌクレオチドが5-メチルシトシン、2’-MOE、2’-OMe、2’-F、BNA、LNA、ENA、scpBNA、cEt又はAmNAである、請求項8に記載の核酸複合体。
【請求項10】
前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖がRNAであることを特徴とする請求項3に記載の核酸複合体。
【請求項11】
前記アンチセンス鎖が:
複数の核酸からなる5’ウイング領域;
複数の核酸からなるギャップ領域;
複数の核酸からなる3’ウイング領域;
を含むことを特徴とする請求項2に記載の核酸複合体。
【請求項12】
前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖が:
複数の核酸からなる5’ウイング領域;
複数の核酸からなるギャップ領域;
複数の核酸からなる3’ウイング領域;
を含むことを特徴とする請求項3に記載の核酸複合体。
【請求項13】
前記核酸複合体が標識機能、精製機能及び/又は標的への送達機能を有する機能性部分
を含む、請求項1に記載の核酸複合体。
【請求項14】
前記機能性部分が蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物、ビオチン、アビジン、
Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、cRDGペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物、受容体に結合する化合物、S1P受容体に結合する化合物、コレステロール、脂肪酸等の脂質、ビタミンE、トコフェロール類、トコトリエノール類、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK等の脂溶性ビタミン、アシルカルニチン、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質及びグリセリドから選択される化合物又はそれらの誘導体であることを特徴とする請求項13に記載の核酸複合体。
【請求項15】
核酸複合体を標的部位にデリバリーする機能を有するリガンドを、リンカーを介して、又は介さずアンチセンス鎖に結合する、請求項2に記載の核酸複合体。
【請求項16】
核酸複合体を標的部位にデリバリーする機能を有するリガンドを、リンカーを介して、又は介さず前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖に結合する、請求項3に記載の核酸複合体。
【請求項17】
請求項1に記載の核酸複合体を含む、ZIC5特異的な阻害剤。
【請求項18】
請求項1に記載の核酸複合体を含む、腫瘍細胞の悪性化抑制剤。
【請求項19】
請求項1に記載の核酸複合体を含む、メラノーマの治療に用いられる抗腫瘍剤。
【請求項20】
被験体に投与することにより、メラノーマ組織においてZIC5の発現量を調節するための二本鎖核酸複合体であって、
二本鎖核酸複合体は第1の核酸鎖と、第2の核酸鎖とを含み、
第1の核酸鎖は、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む12~30個の連結したヌクレオチドからなるアンチセンス鎖を含み、
第2の核酸鎖は、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む12~30個の連結したヌクレオチドと、機能性部分を含み、
機能性部分は標識機能、精製機能及び/又は標的への送達機能を有する、
さらに、
第1の核酸鎖は、第2の核酸鎖とZIC5mRNAの両方に相補的な塩基配列を有する、二本鎖核酸複合体。
【請求項21】
前記機能性部分が蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物、ビオチン、アビジン、
Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、cRDGペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物、受容体に結合する化合物、S1P受容体に結合する化合物、コレステロール、脂肪酸等の脂質、ビタミンE、トコフェロール類、トコトリエノール類、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK等の脂溶性ビタミン、アシルカルニチン、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質及びグリセリドから選択される化合物又はそれらの誘導体であることを特徴とする請求項20に記載の二本鎖核酸複合体。
【請求項22】
核酸複合体を標的部位にデリバリーする機能を有するリガンドを、リンカーを介して、又は介さずアンチセンス鎖に結合する、請求項20に記載の二本鎖核酸複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジンクフィンガープロテイン5遺伝子(Zinc finger protein 5、以下、ZIC5)の発現を調節するための核酸複合体に関する。また、本発明は、ZIC5遺伝子若しくは転写産物の発現の調節に関する。また、本発明は、ZIC5遺伝子の転写産物の発現を調節する作用を有する悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラニン産生細胞であるメラノサイトががん化した悪性腫瘍である。早期発見により治癒が可能であるが、遠隔性転移を起こした症例における5年生存率は約10%と低く、有効な治療法が確立されていない(例えば、非特許文献1参照。)。また、症例の約60~70%以上でBRAFV600E遺伝子変異が確認されている。BRAF(MAPK経路のMAPKKK)が下流のMEK(MAPK経路のMAPKK)をリン酸化して活性化し、活性化されたMEKによりさらに下流のERK(MAPK経路のMAPK)がリン酸化されて活性化することにより、増殖、生存、浸潤、転移に関わる多くのタンパク質が活性化される(例えば、非特許文献2参照。)。BRAFV600Eの変異によりBRAFが恒常的かつ強力に活性化していることが、メラノーマの原因の1つであり、現在では、変異型BRAFに対する選択的な阻害剤(PLX4032、vemurafenib)を用いた臨床試験が行われ、高い奏効率が確認されている。しかし、BRAF遺伝子のスプライシングバリアントの発現や、間質細胞から分泌される肝細胞増殖因子(HGF)の発現など、様々な機構により、BRAF阻害剤に対する薬剤耐性が生じ、その効果は限定的であることが報告されている(例えば、非特許文献3~5参照。)。
【0003】
上皮性のがんが転移能を獲得する原因の1つとして、上皮間葉形質転換(Epithelial Mesenchymal Transition;EMT)が知られている。EMTは、上皮系の細胞が間葉系細胞の形質を獲得する現象であり、EMTを生じると、上皮細胞間接着分子であるE-カドヘリンの発現量が減少することが知られている。また、EMTは、Snail、Slug、Twistなどの転写因子によって制御されていることが明らかになっており、これらの因子がE-カドヘリンなどの発現を制御し、EMTを引き起こすことが知られている(例えば、非特許文献6参照。)。
【0004】
メラノーマにおいても、転移のある症例で多くのEMT関連遺伝子の発現が変化しており、EMTプログラムの亢進が転移の原因の一つであることが示唆されている(例えば、非特許文献7参照。)。また、BRAF変異をもつメラノーマにおいて、BRAFの恒常的活性化によりZeb1、Twist1などの転写因子が発現誘導され、これらの因子によるE-カドヘリンの発現抑制が生じ、メラノーマの増悪が引き起こされるというEMT様の現象が確認されている(例えば、非特許文献8参照。)。E-カドヘリンの発現レベルは多くのメラノーマにおいて低下しており、E-カドヘリンの発現が低下している症例において再発率が有意に上昇することが報告されている(例えば、非特許文献9参照。)。これらの知見から、E-カドヘリンの発現低下とメラノーマの増悪との関連が示唆されている。
【0005】
一方で、EMTはがんだけでなく、初期胚発生時にも必須の現象であり、原腸陥入や神経冠細胞の分化に関与している。神経冠細胞は、背側神経管の一部でEMTを起こし、上皮組織から乖離することで移動能を獲得し、末梢神経系、グリア細胞、衛星細胞、メラノサイト、象牙芽細胞、頭蓋顔面軟骨などに分化する。神経冠細胞のEMTにおいても、Snail、Slug、Twistなどの転写因子によりE-カドヘリンの発現低下が引き起こされている(例えば、非特許文献6及び10参照。)。
【0006】
がん治療において、薬剤耐性がんの出現は根治を妨げる問題となる。薬剤耐性獲得を防ぐには、最初の治療薬投与時に高率でがん細胞死を引き起こす必要がある。また、既に既存薬に対して耐性が生じてしまった症例に対して、新たな薬剤の開発が望まれる。
【0007】
発明者の深見、佐藤らは、独自のスクリーニングにより、メラノーマの薬剤耐性を促進する転写因子としてZIC5を同定した(非特許文献11参照。)。ZIC5は、正常ヒト組織においてはほとんど発現していないのに対し、様々な種類のがん組織に高発現している。また、メラノーマにおいてZIC5を発現抑制すると、生体内増殖能が著しく低下する。さらに、分子標的薬や抗がん剤により誘導されるメラノーマ細胞死の割合が著しく増加し、ほとんどが死滅する。既に薬剤耐性を獲得しているメラノーマ細胞に対しても転写因子ZIC5の阻害は有効であり、細胞死を誘導した。また、他の癌種においてもZIC5が増悪を促進することが明らかになっている(非特許文献12参照。)。従って、ZIC5は「がん特異的標的分子」であり、ZIC5に対する薬剤は、がん細胞の薬剤耐性を減弱させ、がん細胞死を高率に引き起こすと想定される。発明者の深見、佐藤らは、ZIC5については、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)から国際特許出願している(特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、ZIC5遺伝子の転写産物の発現を調節するアンチセンス鎖を持つ核酸複合体であって、ZIC5の発現阻害活性の強いものは未だ十分に得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2016/178374
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Aamdal et al.,European Journal of Cancer,2011,vol.47,Suppl 3,p.S336-S337.
【非特許文献2】Cangol et al.,FEBS Journal,2009,vol.277(1),p.2-27.
【非特許文献3】Poulikakos et al.,Nature,2011,vol.480,p.387-390.
【非特許文献4】Price et al.,Journal of Clinical Oncology 2011,vol.29(19),p.2675-2682.
【非特許文献5】Villanueva et al.,Cancer Research,2011,vol.71,p.7137.
【非特許文献6】Thiery et al.,Cell,2009,vol.139,p.871-890.
【非特許文献7】Alonso et al.,Cancer Research, 2007,vol.67(7),p.3450-3460.
【非特許文献8】Caramel et al.,Cancer Cell,2013,vol.24,p.466-480.
【非特許文献9】Andersen et al.,Modern Pathology,2004,vol.17,p.990-997.
【非特許文献10】Acloque et al.,Journal of Clinical Investigation,2009,vol.119,p.1438-1449.
【非特許文献11】Satow et al.,Canser Research, 2017,vol.77(2),p.366-377
【非特許文献12】Satow et al.,Canser Science,2017,vol.108,p.2405-2412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ZIC5遺伝子若しくは転写産物の抑制剤又は阻害剤を提供することを解決すべき課題とする。本発明は、ZIC5遺伝子若しくは転写産物の発現を調節する新規な核酸複合体を提供することを解決すべき課題とする。本発明は、被験体のがんの患部若しくはがん組織にデリバリー可能なリガンドを結合した核酸複合体からなるメラノーマ治療薬を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、がんの悪性化に関連する遺伝子について研究を進めた結果、ZIC5がメラノーマの薬剤耐性を促進する転写因子であることを見出した。本発明では、ZIC5遺伝子の転写産物であるmRNAの発現を低減させるための核酸複合体及び方法が課題を解決する手段として開示される。
【0013】
そのようなZIC5の阻害剤は、メラノーマの治療、予防、改善またはその進行の遅延を、必要とする患者において行うことに有用である。
【0014】
特定の実施形態において、核酸複合体は、12~30のオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがZIC5転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する。
特定の実施形態において、核酸複合体のオリゴヌクレオチドはDNA(deoxyribonucleic acid)からなる一本鎖オリゴヌクレオチドである。つまり、DNAからなる一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO:antisense oligonucleotide)である。
【0015】
また、特定の実施形態において、核酸複合体は、オリゴヌクレオチドからなるアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖からなるヘテロ二本鎖核酸(HDO:Heteroduplex oligonucleotide)である。
【0016】
特定の実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは修飾オリゴヌクレオチドを含む。ある実施形態において、修飾ヌクレオチドは、ヌクレオチドと任意に修飾ヌクレオチドとを含んだ構成でよいし、全て修飾ヌクレオチドであってもよい。生体内で酵素による消化作用により核酸鎖の切断を防止するため、核酸間の結合を天然型の核酸よりも強固にする目的で、アンチセンスオリゴヌクレオチドは修飾ヌクレオチドを任意の場所に任意の数だけ含んでよい。
【0017】
本発明のZIC5転写因子の発現を調節する核酸複合体を有効成分として含む医薬組成物が治療薬としての用途を有する疾患は、メラノーマなどの癌である。
【0018】
「阻害剤(inhibitor)」とは、酸化反応、重合反応、あるいは生体内反応の反応速度を低下させる物質の総称である。例えば、ZIC5の阻害剤とは、生体内、生体内の組織若しくは細胞内で転写因子ZIC5の発現を低下、阻害、若しくは抑制する剤のことである。
【0019】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 12~30個の連結した核酸からなるアンチセンス鎖を含む核酸複合体であって、当該アンチセンス鎖は、配列番号2で表される核酸塩基配列の
15-28、180-193、249-262、516-529、615-628、654-667、924-937、1063-1076、1241-1254、1499-1512、1535-1548、1719-1732、1920-1933、1967-1980、2016-2029、2191-2204、109-122、1425-1438、1664-1677、1859-1872、1906-1919、1990-2003、2010-2023、2028-2041、2043-2056、2062-2075、2141-2154、2322-2335、2355-2368、2391-2404、2406-2419、2498-2511、2551-2564、2568-2581、2604-2617、2618-2631、2640-2653、3218-3231、3975-3988、1719―1737、1719―1736、1719―1735、1719―1733、1718―1732、1717―1732、1716―1732、1715―1732、1714―1732、1718―1733、1717―1734、1716―1735、1719―1732、2191―2209、2191―2208、2191―2207、2191―2206、2187―2204、2190―2205、2189―2206、2188―2207又は2191―2204番目のヌクレオチドとハイブリダイズすることが可能であり、かつ、ZIC5転写産物に対しアンチセンス効果を有する、核酸複合体。
[2]前記アンチセンス鎖は一本鎖オリゴヌクレオチドである[1]に記載の核酸複合体。
[3]前記アンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖からなるヘテロ2重鎖核酸である[1]に記載の核酸複合体。
[4]前記アンチセンス鎖が少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の核酸複合体。
[5] 前記アンチセンス鎖が少なくとも1つのホスホロチオエートヌクレオチドを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の核酸複合体。
[6] 前記アンチセンス鎖が少なくとも1つのホスホジエステルヌクレオレオチドを含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の核酸複合体。
[7] 前記アンチセンス鎖がホスホロチオエートヌクレオチドである、[5]に記載の核酸複合体。
[8] 前記アンチセンス鎖が修飾核酸塩基を含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の核酸複合体。
[9]前記修飾ヌクレオチドが5-メチルシトシン、2’-MOE、2’-OMe、2’-F、BNA、LNA、ENA、scpBNA、cEt又はAmNAである、[8]に記載の核酸複合体。
[10]前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖がRNAであることを特徴とする[3]に記載の核酸複合体。
[11]前記アンチセンス鎖が:
複数の核酸からなる5‘ウイング領域;
複数の核酸からなるギャップ領域;
複数の核酸からなる3‘ウイング領域;
を含むことを特徴とする[1]に記載の核酸複合体。
[12]前記アンチセンス鎖が:
複数の核酸からなる5‘ウイング領域;
複数の核酸からなるギャップ領域;
複数の核酸からなる3‘ウイング領域;
を含むことを特徴とする[3]に記載の核酸複合体。
[13]前記核酸複合体が標識機能、精製機能及び/又は標的への送達機能を有する機能性部分を含む、[1]に記載の核酸複合体。
[14]前記機能性部分が蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、cRDGペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物、受容体に結合する化合物、S1P受容体に結合する化合物、コレステロール、脂肪酸等の脂質、ビタミンE、トコフェロール類、トコトリエノール類、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK等の脂溶性ビタミン、アシルカルニチン、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質及びグリセリドから選択される化合物又はそれらの誘導体であることを特徴とする[13]に記載の核酸複合体。
[15]核酸複合体を標的部位にデリバリーする機能を有するリガンドを、リンカーを介して、又は介さずアンチセンス鎖に結合する、[2]に記載の核酸複合体。
[16]核酸複合体を標的部位にデリバリーする機能を有するリガンドを、リンカーを介して、又は介さず前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖に結合する、[3]に記載の核酸複合体。
[17] [1]に記載の核酸複合体を含む、ZIC5特異的な阻害剤。
[18] [1]に記載の核酸複合体を含む、腫瘍細胞の悪性化抑制剤。
[19] [1]に記載の核酸複合体を含む、メラノーマの治療に用いられる抗腫瘍剤。
[20]被験体に投与することにより、メラノーマ組織においてZIC5の発現量を調節するための二本鎖核酸複合体であって、
二本鎖核酸複合体は第1の核酸鎖と、第2の核酸鎖とを含み、
第1の核酸鎖は、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む12~30個の連結したヌクレオチドからなるアンチセンス鎖を含み、
第2の核酸鎖は、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む12~30個の連結したヌクレオチドと、機能性部分を含み、
機能性部分は標識機能、精製機能及び/又は標的への送達機能を有する、
さらに、
第1の核酸鎖は、第2の核酸鎖とZIC5mRNAの両方に相補的な塩基配列を有する、二本鎖核酸複合体。
[21]前記機能性部分が蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、cRDGペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物、受容体に結合する化合物、S1P受容体に結合する化合物、コレステロール、脂肪酸等の脂質、ビタミンE、トコフェロール類、トコトリエノール類、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK等の脂溶性ビタミン、アシルカルニチン、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質及びグリセリドから選択される化合物又はそれらの誘導体であることを特徴とする[20]に記載の二本鎖核酸複合体。
[22]核酸複合体を標的部位にデリバリーする機能を有するリガンドを、リンカーを介して、又は介さずアンチセンス鎖に結合する、[20]に記載の二本鎖核酸複合体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の12~30個の連結した核酸からなるZIC5転写産物の部分配列に対するアンチセンス鎖を含む核酸複合体は、相補的な塩基配列を含み、ZIC5転写産物の当該センス部分とハイブリダイズすることが可能であり、かつ、ZIC5転写産物に対しアンチセンス効果を有する。さらには、本発明の核酸複合体はメラノーマの治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、in vivo試験におけるRen-4-36-1ASOによる腫瘍体積の推移を示す図である。
図2A図2Aは、in vivo試験におけるRen-4-36-1ASOによるZIC5mRNAの相対発現率を示す図である。図2Aは、n=9のそれぞれの値を示す。
図2B図2Bは、in vivo試験におけるRen-4-36-1ASOによるZIC5mRNAの相対発現率を示す図である。図2Bは、n=9の値を統計処理した結果を示す。
図3図3は、各種リガンドを結合したHDOの標的転写産物の相対発現量を示す図である。
図4図4は、Chol-Ren-4-36-1HDOを担癌マウスに静脈投与したときの腫瘍の大きさの推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがZIC5遺伝子の転写産物の特定の核酸塩基サイトに対して相補的である核酸塩基配列を有する核酸複合体である。ZIC5遺伝子の転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する核酸はZIC5遺伝子の転写産物に対してアンチセンス核酸として作用する。すなわち、ZIC5転写産物又は遺伝子の特異的な阻害剤として作用し、標的遺伝子であるZIC5遺伝子の発現、又は通常転写産物レベルをアンチセンス効果によって抑制する活性を有する。
【0023】
ZIC5遺伝子の転写産物とは、ZIC5遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されたmRNAのことであり、塩基の修飾を受けていないmRNAや、スプライシングを受けていないmRNA前駆体等も含まれる。通常、「転写産物」は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される、いかなるRNAであってもよい。
【0024】
本発明において「核酸複合体」とは、標的遺伝子、その転写産物又はその翻訳産物の発現又は編集を調節する核酸分子のことである。当該核酸分子の例としては、標的遺伝子又はその転写産物に相補的な核酸配列を有しアンチセンス活性を有する核酸分子が挙げられる。当該核酸分子は、より具体的には、一本鎖アンチセンス鎖(single stranded Antisense Oligonucleotide,ASO)、RNA干渉(RNAi)、short interference RNA(siRNA)、short hairpin RNA(shRNA)、アンチセンス二本鎖核酸(antisense double-stranded DNA oligonucleotide,ADO)、ヘテロ二本鎖核酸(Hetero-duplex oligonucleotide,HDO)が挙げられる。
【0025】
特定の実施形態において、核酸複合体のオリゴヌクレオチドは一本鎖オリゴヌクレオチドである。つまり、一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO:antisense oligonucleotide)である。
【0026】
また、特定の実施形態において、核酸複合体は、オリゴヌクレオチドからなるアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖であるセンス鎖からなるヘテロ2重鎖核酸(HDO:Heteroduplex oligonucleotide)であり、アンチセンス鎖がセンス鎖核酸鎖にアニーリングしている。アンチセンス鎖を第1の核酸鎖と呼び、センス鎖を第2の核酸鎖と呼ぶことがある。このような核酸複合体を2重鎖核酸複合体という。
【0027】
また、特定の実施形態において、核酸複合体は、製造時は一本鎖のオリゴヌクレオチドであって、DNAヌクレオチド若しくはDNAヌクレオチドアナログからなるアンチセンス鎖と、3~10ヌクレオチドからなるリンカー部分と、前記アンチセンス鎖に相補的であるRNAヌクレオチド若しくはRNAヌクレオチドアナログからなるセンス鎖を含む構造であってもよい。この構造の核酸複合体は一本鎖ヘテロ二本鎖(single stranded heteroduplex oligonucleotide:ss-HDO)と言われるものであり、例えば、WO2017/131124A1に記載されているX-L-Yの構造からなるオリゴヌクレオチドである。Xはアンチセンス鎖で、Yはアンチセンス鎖に対する相補鎖で、Lがリンカーの役割をするヌクレオチドからなる。この一本鎖オリゴヌクレオチドを医薬組成物として用いる際は、生理食塩水や水性注射剤、非水性注射剤、懸濁性注射剤、固形注射剤等に用いられる溶媒若しくは血液または血漿中でアンチセンス鎖と、アンチセンス鎖に対する相補鎖がリンカーを支点として一分子アニーリングして2重鎖構造をとる。このような核酸複合体は、医薬組成物として作用するときは一分子アニーリングして2重鎖構造をとるため、2重鎖核酸複合体の一つである。
【0028】
本発明のZIC5転写産物又は遺伝子特異的な阻害剤を含む医薬組成物を実施するためのヘテロ2重鎖核酸(HDO)の基本的な形態は以下に述べるものである。すなわち、HDOは活性本体であるDNAで構成されるアンチセンス鎖(Active鎖)と、それと相補的な配列を有するRNAで主に構成されるセンス鎖(Carrier鎖)との2本鎖で構成される。さらにHDOはそのセンス鎖にリガンド構造を含むことを特徴とする。このような形態を持つことによりZIC5転写産物又は遺伝子特異的な阻害剤を含む医薬組成物はヒトにおける血中での安定性が高く、リガンドの性能に応じた標的組織に効率よくデリバリーされる。HDOが細胞内に送達された後にはRNase Hにより速やかにRNA鎖が分解され除かれる。そこでフリーになったDNA鎖とmRNAとの間で新たに2本鎖構造を形成し、細胞内RNase Hの作用によりmRNAが分解されることでノックダウン作用が発揮される。
【0029】
特定の実施形態において、核酸複合体は、12~30のオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがZIC5遺伝子の転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する。
【0030】
本発明の核酸複合体のアンチセンス鎖であるオリゴヌクレオチドは、ZIC5遺伝子の転写産物であるmRNAを標的とする。該アンチセンス鎖の塩基配列は、ヒトZIC5遺伝子の塩基配列中の部分配列に相補的である。ヒトZIC5転写産物の塩基配列を配列番号1(NM_033132.4)、配列番号2(NM_033132.5)に表す。すなわち、本発明の12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがZIC5転写産物に対して相補的である核酸塩基配列は、ヒトZIC5遺伝子の塩基配列中の部分配列に相補的である配列である。
【0031】
「アンチセンス効果」とは、核酸分子のアンチセンス鎖が、標的遺伝子又はその転写産物(RNAセンス鎖)にハイブリダイズすることによって、標的遺伝子又はその転写産物にもたらされる発現又は編集を調節する効果をいう。
【0032】
「調節」とは、「標的遺伝子の発現を調節する」とか、「標的転写産物の発現を調節する」といった説明で使用され、標的遺伝子の発現又は標的転写産物の発現量(本明細書では、「標的転写産物の発現量」をしばしば「標的転写産物のレベル」と表記する)の抑制又は低下、亢進、翻訳の阻害、翻訳産物の機能阻害、RNAスプライシング制御(例えばスプライシングスイッチ、エクソンインクルージョン、エクソンスキッピング等)、転写産物の分解、又は標的遺伝子のタンパク質への結合の阻害を意味する。
【0033】
ある実施態様では、アンチセンス効果はハイブリダイゼーションにより前記転写産物を被覆することによって生じ得る翻訳の阻害又はエクソンスキッピング等のスプライシング機能変換効果、及び/又は、ハイブリダイズした部分が認識されることにより生じ得る前記転写産物の分解によって生じる、前記抑制を意味する。また別の実施態様では、アンチセンス効果は、標的遺伝子又は転写産物のエクソンインクルージョンにおいて、エクソンスキッピングとは逆に遺伝子の異常によりmRNAから排除されてしまうエクソンをアンチセンスの作用によりmRNAに組み込むことによって生じる、正常なmRNAの発現の亢進を意味する。
【0034】
例えば、標的遺伝子の転写後阻害では、ASOとしてRNAオリゴヌクレオチドが細胞に導入されると、ASOは標的遺伝子の転写産物であるmRNAとアニーリングによって部分的二本鎖を形成する。この部分的二本鎖はリボソームによる翻訳を妨げるためのカバーとしての役割を果たし、それによって標的遺伝子にコードされた標的タンパク質の発現が翻訳レベルで阻害される(ステリックブロッキング)。一方、ASOとしてDNAを含むオリゴヌクレオチドが細胞に導入されると、部分的DNA-RNAヘテロ二本鎖が形成される。このヘテロ二本鎖構造がRNaseによって認識される結果、標的遺伝子のmRNAが分解され、標的遺伝子にコードされたタンパク質の発現が発現レベルで阻害される。さらに、アンチセンス効果は、mRNA前駆体におけるイントロンを標的としてももたらされ得る。一実施形態で、標的転写産物の発現調節は、標的転写産物量の低下であってもよい。
【0035】
例えば、アンチセンス鎖を持つ核酸分子としてADOを使用する場合、細胞内でDNA二本鎖は、DNAヌクレアーゼ(DNase)によって切断された後、DNAアンチセンス鎖は標的RNAにハイブリダイズし二本鎖を形成した後、標的RNAはRNaseにより分解される、このサイクルを繰り返すことにより標的RNAの発現の阻害や標的RNAの作用抑制などを行う。また、別の実施態様では、ADOのDNA二本鎖がDNAヌクレアーゼ(DNase)によって切断された後、DNAアンチセンス鎖が標的RNAにハイブリダイズした後、標的RNAの転写または翻訳の阻害やエクソンスキッピング等のRNAスプライシングの制御により標的遺伝子の発現抑制や発現亢進などを行う。
【0036】
例えば、アンチセンス鎖を持つ核酸分子としてHDOを使用する場合、細胞内でHDOのRNAからなる相補鎖がRNaseによって切断された後、DNAアンチセンス鎖は、標的RNAにハイブリダイズし二本鎖を形成した後、標的RNAがRNaseにより分解される、このサイクルを繰り返すことにより標的RNAの発現の阻害や標的RNAの作用抑制などを行う。また、細胞内でHDOのRNA相補鎖がRNaseによって切断された後、DNAアンチセンス鎖が標的RNAにハイブリダイズし、標的RNAの転写または翻訳の阻害やエクソンスキッピング等のRNAスプライシングの制御によって、標的遺伝子の発現抑制や発現亢進などを行う。
【0037】
例えば、アンチセンス鎖を持つ核酸分子としてRNA干渉(RNAi)を使用する場合、RNAiは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を利用する機序を介した、アンチセンス媒介性遺伝子サイレンシングを指す。RNAiの例としては、siRNA、shRNA等が挙げられる。
【0038】
特定のアンチセンス鎖を持つ核酸分子は、pre-mRNAのスプライシングを変更する。特定の機序にかかわらず、配列特異性は、アンチセンス鎖を持つ核酸分子を、標的の検証及び遺伝子の機能化のためのツールとして、また、疾患の病因に関与する遺伝子の発現を選択的に調節する治療薬として使用される。
【0039】
アンチセンス鎖の鎖長としては特に制限はないが、少なくとも8塩基、例えば8~40塩基であり、好ましくは12~30塩基であり、より好ましくは12~25塩基であり、又は13~20塩基である。ある場合においては、通常、前記標的に対する核酸鎖によるアンチセンス効果の強さや、費用、合成収率等の他の要素に応じて、鎖長は選択される。二本鎖核酸の場合においては、鎖長は、好ましくは二本鎖のTm値が50℃以上、さらに好ましくは60℃以上となる鎖長から選択してもよい。
【0040】
二本鎖核酸の場合、相補鎖の鎖長は、アンチセンス鎖と同じであってもよい。その場合、少なくとも8塩基、例えば8~40塩基であり、好ましくは12~30塩基であり、より好ましくは12~25塩基であり、又は13~20塩基である。また、アンチセンス核酸鎖の鎖長に対して数塩基、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8又は9塩基から十数塩基、例えば、11、12、13、14、15、16、17、18又は19塩基長くても短くてもよい。
【0041】
「ハイブリダイゼーション」とは、物の交雑あるいは雑種掲載のことであり、DNAまたはRNAといった核酸の分子が相補的に複合体を形成することをハイブリダイゼーションという。
【0042】
「ハイブリダイズする」とは、ハイブリダイゼーションを形成するという意味である。例えば、ある核酸鎖と、相補的な配列を有する核酸鎖は、ハイブリダイズするといった表現で使用される。
【0043】
本発明の核酸複合体のアンチセンス鎖は、標的転写産物の全部又は一部の塩基配列に相補的であることから標的転写産物にハイブリダイズ(又はアニール)することができる。塩基配列の相補性は、BLASTプログラム等を使用することによって決定することができる。
【0044】
当業者であれば、鎖間の相補度を考慮して、2本の鎖がハイブリダイズし得る条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。さらに、当業者であれば、例えば標的遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸を容易に設計することもできる。ハイブリダイゼーション条件は、例えば、低ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件等の様々なストリンジェントな条件であってもよい。低ストリンジェントな条件は、比較的低温で、かつ高塩濃度の条件、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、比較的高温で、かつ低塩濃度の条件、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度及び塩濃度等の条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0045】
「相補的」又は「相補性」とは、水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック型塩基対(天然型塩基対)や非ワトソン-クリック型塩基対(フーグスティーン型塩基対等)を形成できる関係のことを意味する。アンチセンス鎖の十分な数の核酸塩基が、標的遺伝子又は標的転写産物の対応する核酸塩基と水素結合し得る場合、アンチセンス鎖及び標的遺伝子又は標的転写産物は互いに相補的であるので、所望のアンチセンス効果が生じる。アンチセンス鎖と標的遺伝子又は標的転写産物との間の非相補的核酸塩基は、アンチセンス鎖が標的核酸に特異的にハイブリダイズできるという条件で許容され得る。さらに、アンチセンス鎖は標的遺伝子又は標的転写産物の1つ以上のセグメントに対してハイブリダイズでき、それにより介入する又は隣接するセグメントはハイブリダイゼーション事象(例えば、ループ構造、ミスマッチ又はヘアピン構造)に関与しない。当該アンチセンス鎖は、標的遺伝子又は標的転写産物の配列に対して相補的であると言える。相補的であるとは、アンチセンス鎖が標的遺伝子又は標的転写産物に結合できる程度に相補的であればよく、例えば、80%以上、90%以上、又は95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上相補的であればよい。100%相補的であってもよい。0~4個程度のミスマッチがあってもよい。
【0046】
特定の実施形態において、本明細書に提供されているアンチセンス鎖は標的核酸配列に対して80~100%、好ましくは90~100%、より好ましくは95~100%、若しくは100%相補的である。標的核酸配列に対するアンチセンス鎖の相補性の割合は慣例の方法を使用して求められ得る。
【0047】
例えば、アンチセンス鎖の20核酸塩基のうちの16が標的領域に対して相補的であり、したがって特異的にハイブリダイズするアンチセンス鎖は80%の相補性を表す。この例において、残りの非相補的核酸塩基には、相補的核酸塩基が集まり得る又は散在し得、これらの非相補的核酸塩基は互いに又は相補的核酸塩基に隣接している必要はない。例えば、標的核酸と完全な相補性の2つの領域の隣に4つの非相補的核酸塩基を有する18核酸塩基長であるアンチセンス鎖は、標的核酸に対して14が標的領域に対して相補的であるから77.8%の全体の相補性を有するので、本発明の範囲内である。標的核酸の領域に対するアンチセンス鎖の相補性の割合は、当該技術分野において公知のBLASTプログラム等によって求めることができる。
【0048】
ある実施形態においては、第1の核酸鎖は、標的遺伝子の転写産物等の標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸であって、第1の核酸鎖が前記転写産物にハイブリダイズした際に、少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む領域を有する核酸である。
【0049】
ここでは、「核酸」とはモノマーヌクレオチドを意味する場合もあり、複数のモノマーから構成されるオリゴヌクレオチドを意味する場合もある。「核酸鎖」という文言は、ここではオリゴヌクレオチドを称するためにも用いられる。核酸鎖は、その全部又は一部を、自動合成機の使用といった化学合成法によって調製してもよく、ポリメラーゼ、ライゲース又は制限酵素反応に限定されるわけではないが、酵素処理により調製してもよい。
【0050】
第1の核酸鎖の鎖長としては特に制限はないが、12~30塩基であり、12~25塩基であり、又は13~20塩基である。ある場合においては、通常、前記標的に対する核酸鎖によるアンチセンス効果の強さや、費用、合成収率等の他の要素に応じて、鎖長は選択される。
【0051】
第2の核酸鎖の鎖長は、第1の核酸鎖と同じであってもよい。その場合、12~30塩基であり、12~25塩基であり、又は13~20塩基である。また、第1の核酸鎖の鎖長に対して数塩基から十数塩基長くても短くてもよい。
【0052】
「RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチド」は、通常、4~20塩基の連続したヌクレオチドを含む領域であり、5~16塩基の連続したヌクレオチドを含む領域であり、又は、6~12塩基の連続しヌクレオチドを含む領域である。また、この領域には、天然型DNAのような、RNAヌクレオチドにハイブリダイズした際に、RNA鎖を切断するRNaseHによって認識されるヌクレオチドを用いることができる。修飾されたDNAヌクレオチド及び他の塩基といった、好適なヌクレオチドは、この分野において知られている。また、RNAヌクレオチドのような、2’位にヒドロキシ基を有するヌクレオチドは、不適当であることも知られている。「少なくとも4つの連続したヌクレオチド」を含むこの領域への利用に関し、当業者であればヌクレオチドの適合性を容易に決定することができる。
【0053】
ある実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチド若しくはアンチセンス鎖は、修飾ヌクレオチドを含む。
【0054】
ある実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドと任意に修飾ヌクレオチドとを含んだ構成でよいし、全て修飾ヌクレオチドであってもよい。生体内で酵素による消化作用により核酸鎖の切断を防止するため、核酸間の結合を天然型の核酸よりも強固にする目的で、アンチセンスオリゴヌクレオチドは修飾ヌクレオチドを任意の場所に任意の数だけ含んでよい。
【0055】
ある実施形態において、第1の核酸鎖は「ヌクレオチド及び任意にヌクレオチドアナログ」を含む。この文言は、第1の核酸鎖は、DNAヌクレオチド、RNAヌクレオチドを有し、また当該核酸鎖において任意にヌクレオチドアナログを更に有していてもよいということを意味する。
【0056】
ここで「DNAヌクレオチド」は、天然に存在するDNAヌクレオチド、又はその塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットが修飾されているDNAヌクレオチドを意味する。同様に、「RNAヌクレオチド」は、天然に存在するRNAヌクレオチド、又はその塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットが修飾されているRNAヌクレオチドを意味する。塩基、糖又はリン酸塩結合のサブユニットの修飾とは、1の置換基の付加、又は、サブユニット内における1の置換のことであり、サブユニット全体を異なる化学基に置換することではない。ヌクレオチドを含む領域の一部又は全部は、DNA分解酵素等に対する耐性が高いという観点から、DNAは修飾されたヌクレオチドであってもよい。
【0057】
また、「修飾ヌクレオチド」とは、修飾されたヌクレオチドを意味する。このような修飾ヌクレオチドとしては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2’-O-メチル化、2’-メトキシエチル(MOE)化、2’-アミノプロピル(AP)化、2’-フルオロ化が挙げられるが、体内動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が好ましい。さらに、かかる修飾は同一のDNAに対して、複数種組み合わせて施されていてもよい。また、後述の通り、同様の効果を奏するために、RNAヌクレオチドに修飾を施してもよい。ホスホロチオエート化されているヌクレオチドをホスホロチオエートヌクレオチドといい、ホスホロチオエート結合を形成する。また、ホスホジエステル結合を形成するヌクレオチドをホスホジエステルヌクレオチドという。
【0058】
ある場合において、修飾されたDNAの数や位置によっては、ここで開示する二本鎖核酸が奏するアンチセンス効果等に影響を与えることになるかもしれない。これらの態様は、標的遺伝子の配列等によっても異なるため、一概には言えないが、当業者であれば、後記のアンチセンス法に関する文献の記載を参酌しながら、決定することができる。また、修飾後の二本鎖核酸複合体が有するアンチセンス効果を測定し、得られた測定値が、修飾前の二本鎖核酸複合体のそれよりも有意に低下していなければ(例えば、修飾後の二本鎖核酸複合体の測定値が修飾前の二本鎖核酸複合体の測定値の30%以上であれば)、当該修飾は評価することができる。アンチセンス効果の測定は、例えば、後述の実施例において示されているような、細胞等に被検核酸化合物を導入し、該被検核酸化合物が奏するアンチセンス効果によって抑制された該細胞等における標的遺伝子の発現量(mRNA量、cDNA量、タンパク質量等)を、ノザンブロッティング、定量的PCR、ウェスタンブロッティング等の公知の手法を適宜利用することによって行うことができる。修飾ヌクレオチドは次に説明するヌクレオチドアナログを含む。
【0059】
ここで「ヌクレオチドアナログ」は天然には存在しないヌクレオチドを意味し、ヌクレオチドの塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットにおいて、2以上の置換基が付加されており、若しくは、サブユニット内が2以上置換されており、又はサブユニット全体を異なる化学基に置換されていることを意味する。2以上の置換を伴うアナログの例としては、架橋化核酸が挙げられる。架橋化核酸は、糖環における2箇所の置換に基づいて架橋ユニットが付加されるヌクレオチドアナログであり、典型的には、2’位の炭素と4’位の炭素とが結合しているヌクレオチドアナログが挙げられる。ある実施形態における第1の核酸鎖においては、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性及び/又は核酸分解酵素に対する耐性が増大させるという観点から、第1の核酸鎖はヌクレオチドアナログをさらに含む。「ヌクレオチドアナログ」としては、修飾(架橋、置換等)により、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性及び/又は核酸分解酵素に対する耐性が増大されているヌクレオチドであればよく、例えば、特開平10-304889号公報、国際公開第2005/021570号、特開平10-195098号公報、特表2002-521310号公報、国際公開第2007/143315号、国際公開第2008/043753号、国際公開第2008/029619号、国際公開第2008/049085号(以下、これら文献を「アンチセンス法に関する文献」とも称する)において、アンチセンス法に好適に用いられるとして開示されている核酸が挙げられる。すなわち、前記文献に開示されている核酸:ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、2’-O-メチル化核酸、2’-MOE(2’-O-メトキシエチル)化核酸、2’-AP(2’-O-アミノプロピル)化核酸、2’-フルオロ化核酸、2’F‐アラビノ核酸(2’-F-ANA)、BNA(架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid)が挙げられる。
【0060】
ある実施態様におけるBNAとしては、2’位の炭素と4’位の炭素とが、2以上の原子によって架橋されているリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドであればよい。架橋化核酸の例は当業者に知られている。このようなBNAの一のサブグループとしては、2’位の炭素と4’位の炭素とが、4’-(CH)p-O-2’、4’-(CH)p-S-2’、4’-(CH)p-OCO-2’、4’-(CH)n-N(R)-O-(CH)m-2’によって架橋されているBNAを挙げられる(ここで、p、m及びnは、各々1~4、0~2及び1~3の整数である。Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、及びユニット置換基(蛍光あるいは化学発光標識分子、核酸切断活性官能基、又は細胞内若しくは核内移行シグナルペプチド等)を示す)。さらに、ある実施態様におけるBNAにおいて、3’位の炭素における置換基:OR及び5’位の炭素における置換基:ORのR及びRは、典型的には水素原子であるが、同一又は異なっていてもよく、核酸合成の水酸基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、又は、-P(R)R(式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルチオ基、炭素数1~6のシアノアルコキシ基、又は、炭素数1~5のアルキル基で置換されたアミノ基を示す)であってもよい。このようなBNAとしては、例えば、LNA(ロックド核酸(Locked Nucleic Acid(登録商標)、2’,4’-BNA)とも称される、α-L-メチレンオキシ(4’-CH-O-2’)BNA又はβ-D-メチレンオキシ(4’-CH-O-2’)BNA、ENAとも称されるエチレンオキシ(4’-(CH)2-O-2’)BNA、β-D-チオ(4’-CH-S-2’)BNA、アミノオキシ(4’-CH-O-N(R3)-2’)BNA、2’,4’-BNANCとも称されるオキシアミノ(4’-CH-N(R)-O-2’)BNA、2’,4’-BNACOC、3’アミノ-2’,4’-BNA、5’-メチルBNA,cEt又はcEt-BNAとも称される(4’-CH(CH)-O-2’)BNA、cMOE-BNAとも称される(4’-CH(CHOCH)-O-2’)BNA、AmNAとも称されるアミドBNA(4’-C(O)-N(R)-2’)BNA(R=H,Me)、scpBNAと称される2’,4’-BNAの架橋部にスピロシクロプロパン構造を導入した2’-O,4’-C-spirocyclopropylene bridged nucleic acid並びに当業者に知られた他のBNAが挙げられる。
【0061】
さらに、ある実施態様における修飾核酸においては、塩基部位が修飾されていてもよい。塩基部位の修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化が挙げられる。さらにまた、ある実施態様における修飾核酸においては、リン酸ジエステル結合部位が修飾されていてもよい。リン酸ジエステル結合部位の修飾としては、例えば、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化が挙げられるが、体内動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が用いられる。また、このような塩基部位の修飾やリン酸ジエステル結合部位の修飾は同一の核酸に対して、複数種組み合わせて施されていてもよい。
【0062】
全体として、修飾されたヌクレオチド及び修飾されたヌクレオチドアナログは、ここで例示したものに限定されるわけではない。多数の修飾されたヌクレオチド及び修飾されたヌクレオチドアナログが当該分野では知られており、例えば、Tachasらの米国特許第8299039号明細書の記載、特に17~22欄の記載を、本願の実施態様として利用することもできる。
【0063】
当業者であれば、このような修飾核酸の中から、アンチセンス効果、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性、核酸分解酵素に対する耐性等の観点を考慮し、適宜ヌクレオチドアナログを選択して利用することができるが、ある実施形態において、ヌクレオチドアナログは下記式(1)で表わされるLNAである。
【0064】
【化1】
【0065】
式(1)中、Baseは、置換基を有していてもよい芳香族複素環基若しくは芳香族炭化水素環基、例えば、天然型ヌクレオシドの塩基部位(プリン塩基、ピリミジン塩基)又は非天然型(修飾)ヌクレオシドの塩基部位を示す。なお、塩基部位の修飾の例は、前述の通りである。
【0066】
、Rは、同一又は異なっていてもよく、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、又は、-P(R)R[ここで、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルチオ基、炭素数1~6のシアノアルコキシ基、又は、炭素数1~5のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。]を示す。
【0067】
なお、前記化学式において示されている化合物はヌクレオシドであるが、ある実施形態における「LNA」及び通常BNAには、当該ヌクレオシドにリン酸基が結合した形態(ヌクレオチド)も含まれる。すなわち、LNAといったBNAは、二本鎖核酸複合体を含む核酸鎖に、ヌクレオチドとして組み込まれる。
【0068】
ある実施態様における「少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含むウイング領域」は、DNAヌクレオチドを含む複数の核酸からなる領域(以下「DNAギャップ領域」とも称する)の5’末側及び/又は3’末側に配置されるものである。ある実施態様では、DNAギャップ領域は、少なくとも4つ以上の連続したDNAヌクレオチドを含む複数の核酸からなる。
【0069】
該DNAギャップ領域の5’末端に配置されたヌクレオチドアナログを含む領域(以下「5’ウイング領域」あるいは「5’ウイングセグメント」とも称する)、及び該DNAギャップ領域の3’末端に配置されたヌクレオチドアナログを含む領域(以下「3’ウイング領域」あるいは「3’ウイングセグメント」とも称する)は、それぞれ独立したものであり、前記アンチセンス法に関する文献に挙げられている修飾ヌクレオチドを少なくとも1種含んでいればよく、さらに、かかるヌクレオチドアナログ以外に天然型の核酸(DNA又はRNA)も含まれていてもよい。また、5’ウイング領域及び3’ウイング領域の鎖長は独立的に、通常1~10塩基であり、1~7塩基、1~5塩基、又は2~5塩基である。
【0070】
さらに、5’ウイング領域及び3’ウイング領域において、修飾ヌクレオチドとしてのヌクレオチドアナログ及び天然型のヌクレオチドの種類や数や位置については、ある実施形態における二本鎖核酸複合体が奏するアンチセンス効果等に影響を与える場合もあるため、好ましい態様は、配列等によっても変わり得る。一概には言えないが、当業者であれば、前記アンチセンス法に関する文献の記載を参酌しながら、好ましい態様を決定することができる。また、前記「少なくとも4つ以上の連続したDNAヌクレオチド」を含む領域同様に、修飾後の二本鎖核酸が有するアンチセンス効果を測定し、得られた測定値が、修飾前の二本鎖核酸のそれよりも有意に低下していなければ、当該修飾は好ましい態様であると評価することができる。
【0071】
修飾ヌクレオチドを含むZIC5転写産物のmRNAに対するアンチセンス鎖は、1~10個の塩基からなる5’ウイング領域(5’wing site)、8~25個の塩基からなるギャップ領域、及び1~10個の塩基からなる3’ウイング領域(3’wing site)からなり得る。アンチセンス鎖は、例えば、5-8-5,5-10-5,4-10-4,3-10-3,2-10-2,1-10-1,5-8-5,4-8-4又は3-8-3で表されるモチーフ等を有することができる。ここで、モチーフの1番目の数字は、5’ウイング領域内の塩基の数を表し、2番目の数字は、ギャップ領域内の塩基の数を表し、3番目の数字は、3’ウイング領域内の塩基の数を表す。
【0072】
なお、従前から試みられているRNAやLNAのみからなるアンチセンス法は、標的となるmRNAと結合することで翻訳を抑制したが、その効果は概して不十分であった。一方DNAのみからなるアンチセンス法では、標的遺伝子と結合するとDNAとRNAからなる二本鎖構造となるため、RNaseHの標的となることでmRNAが切断されることにより強い標的遺伝子発現抑制効果が期待できたが、標的遺伝子との結合自体が弱いため実際の効果はやはり不十分だった。
【0073】
従って、第1の核酸鎖において、中央に少なくとも4塩基以上の鎖長のDNAが配置され、さらにRNA(すなわち、標的転写産物)と強い結合能力を持つLNA(又は他のBNA)が両端に配置されることによって、このような複合鎖は、RNaseHによる標的RNAの切断を促進することとなる。「鎖長が4塩基であるDNA」は、DNAヌクレオチドだけに制限されるわけではなく、第1の核酸鎖が転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを、第1の核酸鎖が含むことも意図するものである。ある実施形態において、標的転写産物とのヘテロ二重鎖形成により生じるアンチセンス効果が極めて高いという観点から、第1の核酸鎖が転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む領域の、5’末側及び3’末側に配置された修飾核酸を含むウイング領域は、任意にヌクレオチドアナログを含んでいることが望ましい。該ヌクレオチドアナログはBNAであってもよく、例えばLNAであってもよいし、ENAであってもよい。
【0074】
二本鎖核酸複合体の実施形態における第2の核酸鎖は、前述の第1の核酸鎖と相補的な核酸である。第2の核酸鎖の塩基配列と第1の核酸鎖の塩基配列とは、完全に相補的である必要はなく、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有していればよい。
【0075】
第2の核酸鎖としては、RNA、DNA、PNA(ペプチド核酸)及びBNA(例えば、LNA)からなる群から選択される少なくとも1種の核酸からなるオリゴヌクレオチドである。より具体的には、第2の核酸鎖は、(i)RNAヌクレオチドと、任意にヌクレオチドアナログと、任意にDNAヌクレオチドとを含み、(ii)DNAヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを含み、又は、(iii)PNAヌクレオチドを含む。「RNAヌクレオチドと、任意にヌクレオチドアナログと、任意にDNAヌクレオチドとを含む」という文言は、第2の核酸鎖はRNAヌクレオチドを含み、さらに任意にヌクレオチドアナログを含んでもよく、さらにまた任意にDNAヌクレオチドを含んでもよいということを意味する。「DNAヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを含む」という文言は、第2の核酸鎖はDNAヌクレオチド及びヌクレオチドアナログのいずれかを含んでいてもよく、またDNAヌクレオチド及びヌクレオチドアナログを共に含んでいてもよいということを意味する。「PNAヌクレオチドを含む」とは第2の核酸鎖はPNAヌクレオチドから構成されてもよいということを意味する。
【0076】
しかしながら、ある実施形態における二本鎖核酸複合体が細胞内のRNaseHに認識され、第2の核酸鎖が分解されることにより、第1の核酸鎖のアンチセンス効果が発揮し易くなるという観点から、第2の核酸鎖はRNAを含む。また、ある実施形態における二本鎖核酸複合体にペプチド等の機能性分子を結合させ易いという観点からは、第2の核酸鎖はPNAであってもよい。
【0077】
ここで、「RNAヌクレオチド」は、天然に存在するRNAヌクレオチド、又はその塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットが修飾されているRNAヌクレオチドを意味する。塩基、糖又はリン酸塩結合のサブユニットの修飾とは、1の置換基の付加、又は、サブユニット内における1の置換のことであり、サブユニット全体を異なる化学基に置換することではない。
【0078】
第2の核酸鎖において、核酸の一部又は全部は、RNA分解酵素等の核酸分解酵素に対する耐性が高いという観点から、修飾されたヌクレオチドであってもよい。このような修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2’-O-メチル化、2’-メトキシエチル(MOE)化、2’-アミノプロピル(AP)化、2’-フルオロ化が挙げられる。また、ウラシル塩基をチミジン塩基に置換したRNAヌクレオチドの利用も考えられるが、薬物動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が用いられる。また、かかる修飾は同一の核酸に対して、複数種組み合わせて施されていても良く、例えば、後述の実施例において用いられているように、酵素による切断に対する抵抗性を付与するため、同一のRNAに対して、ホスホロチオエート化及び2’-O-メチル化を施してもよい。しかしながら、RNaseHによってRNAヌクレオチドが切断されることを期待し、又は望む場合には、ホスホロチオエート化及び2’-O-メチル化のいずれかのみを施すことができる。
【0079】
修飾の数や位置は、ある実施形態における二本鎖核酸複合体が奏するアンチセンス効果等に影響を与える場合もあるため、第2の核酸鎖におけるヌクレオチドアナログの数及び修飾の位置には好ましい態様が存在する。この好ましい態様は、修飾対象となる核酸の種類、配列等によっても異なるため、一概には言えないが、前述の第1の核酸鎖同様に、修飾後の二本鎖核酸が有するアンチセンス効果を測定することにより特定することができる。このような好ましい態様として、第2の核酸鎖が特定の細胞の核内に送達されるまで、RNaseA等のRNA分解酵素による分解を抑制しつつも、特定の細胞内においてはRNaseHにより該核酸鎖が分解されることにより、アンチセンス効果を発揮し易いという観点から、第2の核酸鎖はRNAであって、第1の核酸鎖のヌクレオチドアナログを含む領域(すなわち、5’ウイング領域及び/又は3’ウイング領域)に対して相補的な領域は、修飾された核酸又はヌクレオチドアナログであり、前記修飾又はアナログがRNA分解酵素等の酵素による分解を抑制する効果を有するものである。ある実施態様においては、前記修飾はRNAに対する2’-O-メチル化及び/又はホスホロチオエート化である。また、このような場合、第1の核酸鎖のヌクレオチドアナログを含む領域に相補的な領域の全てが修飾されていてもよく、第1の核酸鎖の修飾核酸を含む領域に相補的な領域の一部が修飾されていてもよい。さらに、修飾されている領域は、該一部を含む限り、第1の核酸鎖の修飾核酸を含む領域よりも長くなっていてもよく、短くなっていてもよい。
【0080】
ある実施形態における二本鎖核酸複合体において、第2の核酸鎖に機能性部分が結合していてもよい。第2の核酸鎖と機能性部分との結合は、直接的な結合であってもよく、他の物質を介した間接的な結合であってもよいが、ある実施形態において、共有結合、イオン結合、水素結合等で第2の核酸鎖と機能性部分とが直接的に結合していることが好ましく、より安定した結合が得られるという観点から、共有結合がより好ましい。
【0081】
ある実施形態において、「機能性部分」の構造上、特に制限はなく、それを結合する二本鎖核酸複合体及び/又は核酸鎖に所望の機能を付与する。所望の機能としては、標識機能、精製機能及び標的への送達機能が挙げられる。標識機能を付与する部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物が挙げられる。精製機能を付与する部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物が挙げられる。
【0082】
また、アンチセンス鎖を特異性高く効率的に標的部位に送達し、かつ当該核酸によって標的遺伝子の発現を非常に効果的に抑制するという観点から、核酸複合体に機能性部分として、ある実施形態における核酸複合体を標的部位に送達させる活性を有する分子が結合していることが好ましい。
【0083】
二本鎖核酸複合体におけるある実施形態では、第2の核酸鎖に機能性部分として、ある実施形態における二本鎖核酸複合体を標的部位に送達させる活性を有する分子が結合していることが好ましい。
【0084】
「標的への送達機能」を有する部分として、例えば、肝臓等に特異性高く効率的にある実施形態における二本鎖核酸複合体を送達できるという観点から、脂質が挙げられる。このような脂質としては、コレステロール、脂肪酸等の脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA、ビタミンD)、ビタミンK等の脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン)、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質、グリセリド、並びにそれらの誘導体等を例示することができるが、これらの中では、より安全性が高いという観点から、ある実施形態において、コレステロール、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)を利用することが好ましい。また、脳に特異性高く効率的に本発明の二本鎖核酸を送達できるという観点から、ある実施形態における「機能性部分」としては、糖(例えば、グルコース、スクロース)が挙げられる。また、各臓器の細胞表面にある各種タンパク質に結合することにより、当該臓器に特異性高く効率的にある実施形態における二本鎖核酸複合体を送達できるという観点から、受容体のリガンド、例えばS1P受容体のリガンドや、細胞接着分子に結合するペプチド、例えばインテグリンに結合するcRGDペプチドや、抗体、及び/又はそれらの断片等のペプチド又はタンパク質が、ある実施形態における「機能性部分」として挙げられる。
【0085】
以上、いくつかの実施態様において、二本鎖核酸複合体の好適な典型例について説明したが、いくつかの実施形態において、一本鎖アンチセンスからなるASOや、二本鎖核酸である、例えば、HDO、siRNA、shRNAなどを使用することが可能である。
【0086】
それらの核酸複合体のアンチセンス鎖や相補鎖は、当業者であれば公知の方法を適宜選択することにより調製することができる。例えば、標的転写産物の塩基配列(又は、いくつかの場合においては標的遺伝子の塩基配列)の情報に基づいて、核酸の塩基配列を設計し、市販の核酸自動合成機(アプライドバイオシステムズ社製、べックマン社製等)を用いて合成し、次いで、得られるオリゴヌクレオチドを逆相カラム等を用いて精製することにより、核酸を調製することができる。そして、このようにして調製した核酸を適当な緩衝液中にて混合し、約90~98℃にて数分間(例えば、5分間)かけて変性させた後、約30~70℃にて約1~8時間かけてアニーリングさせることにより、いくつかの実施形態における二本鎖核酸複合体を調製することができる。また、機能性部分が結合している二本鎖核酸複合体は、予め機能性部分を結合させた核酸種を用いて、前記の通り、合成、精製及びアニーリングすることにより、調製することができる。機能性部分と核酸とを結合させるための多くの方法は、当該分野においてよく知られている。
【0087】
一般的には、RNaseH依存的アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性部位は、siRNAの活性部位であると予想される(Vickers et al.,2003,J.Biol Chem.278,7108-7118)。本発明の一態様において、二本鎖のアンチセンス鎖の核酸塩基配列は、少なくとも表1、表2、表6に示されるオリゴヌクレオチド配列の部分を含む。dsRNA鎖の末端を、1またはそれ以上の天然の核酸塩基または修飾核酸塩基を付加することにより修飾して、オーバーハングを形成することができる。次いで、dsRNAのセンス鎖を、アンチセンス鎖の相補物として設計しそして合成し、そしていずれかの末端に修飾または付加を含有してもよい。例えば、一態様において、dsRNA二本鎖の両方ともの鎖が、中央部核酸塩基にわたり相補的であり、それぞれが一方の末端または両方の末端にオーバーハングを有する。二本鎖は、単分子の二本鎖であってもまたは二分子の二本鎖であってもよい。すなわち、2本の鎖が、直接的またはリンカーにより連結されていてもよく、または別々の分子であってもよい。
【0088】
ある実施形態において、アンチセンス核酸はRNaseH非依存的アンチセンス効果を有する。「RNaseH非依存的アンチセンス効果」とは、標的遺伝子の転写産物(RNAセンス鎖)と、その部分配列に相補的な核酸鎖とがハイブリダイズすることによる翻訳の阻害やエクソンスキッピング等のスプライシング機能変換効果によって生じる標的遺伝子の発現を抑制する活性のことを意味する。
【0089】
いくつかの実施形態における核酸複合体を含む組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤等として、経腸管的(経口的等)又は非経腸管的に使用することができる。
【0090】
これら製剤化においては、薬理学上もしくは飲食品として許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、pH調節剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。
【0091】
製剤化等に際し、機能性部分として脂質が結合している、いくつかの実施形態における核酸複合体においては、カイロミクロンやカイロミクロンレムナント等のリポタンパク質との複合体を形成させてもよい。さらに、経腸投与の効率を高めるという観点から、前記リポタンパク質に加え、大腸粘膜上皮透過性亢進作用を有する物質(例えば、中鎖脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸又はそれらの誘導体(塩、エステル体又はエーテル体))及び界面活性剤(非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤)との複合体(混合ミセル、エマルジョン)であってもよい。
【0092】
いくつかの実施形態における組成物の好ましい投与形態としては特に制限はなく、経腸管的(経口的等)又は非経腸管的、より具体的には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与及び筋肉内投与、輸液による投与が挙げられる。
【0093】
いくつかの実施形態における組成物は、ヒトを含む動物を被験体として、被験体に用いることができる。
【0094】
いくつかの実施形態における組成物を投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品など)等に応じて、適宜選択されるが、ある実施形態にかかる組成物の有効摂取量は、ヌクレオチド換算で0.001mg/kg/日~50mg/kg/日であることが好ましい。
【0095】
本発明は、ZIC5遺伝子特異的な阻害剤、又はZIC5転写産物の阻害剤を含むメラノーマの治療薬を包含する。
【実施例0096】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0097】
実施例1
ZIC5を阻害するHDOの設計
NCBIのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)よりヒトおよびマウスZIC5の配列情報を入手し、ヒトZIC5転写産物配列:NCBI Reference Sequence:NM_033132.4(配列番号1)、ヒトZIC5転写産物配列:NCBI Reference Sequence:NM_033132.5(配列番号2)およびマウスZIC5転写産物配列:NCBI Reference Sequence:NM_022987.3(配列番号3)配列に基づいて、計110本のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)をデザインした。これら110本のASO配列のうち68本がヒト選択的配列で、42本がヒトマウス共通配列である。
【0098】
表1には、アンチセンス鎖名称、アンチセンス鎖の塩基配列、相補鎖名称、相補鎖の塩基配列、鎖長、モチーフ、種別、GC含有量、Tm値(℃)、ZIC5mRNAのサイト位置(開始サイト、停止サイト)を示す。
【0099】
表1は、ヒト選択的ZIC5配列(68本)にハイブリダイズ可能な核酸塩基配列を有するアンチセンス鎖を示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
表1のアンチセンス鎖、センス鎖の配列式中、小文字はDNA、大文字はRNA、(L)はLNA、C(L)は5-メチルシトシンLNA、(M)は2’―O―メチル糖修飾、^はホスホロチオエート結合をそれぞれ表す。
【0106】
表2は、ヒト・マウスZIC5共通配列(42本)にハイブリダイズ可能な核酸塩基配列を有するアンチセンス鎖を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
表2のアンチセンス鎖、センス鎖の配列式中の表記方法は、表1と同様である。
表1、2中のAntisenseの欄に記載されている配列はすべてヌクレオチド間にホスホロチオエート(PS)結合を含む。それらのうち太字部分の塩基にはLNA修飾を含む。Motifの欄の例えば3-8-3は3個のLNA修飾核酸-8個の非修飾核酸-3個のLNA修飾核酸(すべてのヌクレオチド間にPS修飾含む)の計14mer核酸塩基で構成されるアンチセンス核酸を示す。Species specificityの欄のhuman/mouseとはヒトとマウスとで完全マッチするアンチセンス核酸であることを示す。また、mouseとはマウス配列とは完全マッチするが、ヒト配列とは完全マッチしないアンチセンス核酸であることを示す。GC contentはウェブサイト(http://www.ngrl.co.jp/tools/0217oligocalc.htm)に基づいて算出した。LNA修飾アンチセンス核酸のTm値はウェブサイト(https://www.exiqon.com/ls/pages/exiqontmpredictiontool.aspx)に基づいて算出した。ヒト及びマウスのcoding領域内の配列情報はNCBIのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より入手した。
【0113】
実施例2
In vitro 試験(スクリーニング)
ZIC5の発現を阻害するHDO配列を同定するため、また、ZIC5抑制率の高いアンチセンス鎖配列を同定する為、ZIC5に対応する110か所の配列を使用し、次の方法でスクリーニングを行った。表1、2に記載した配列の核酸鎖は、株式会社ジーンデザイン社から入手した。
【0114】
ZIC5を高発現するメラノーマ細胞株であるA375細胞を市販の96-well plateに3×10cells/wellずつ播種し、24時間COインキュベータ中で培養した。その翌日にLipofectamine LTX with Plus Reagent(Thermo Fisher製)を用いてASOのトランスフェクションを行い、COインキュベータ中にて48時間培養した。培養後の96-well plateの各ウェルよりSuperPrep(登録商標)Cell Lysis&RT Kit for qPCR(Toyobo製)を用いてTotal RNAの抽出と逆転写反応を行った。12-well plateを使用したアッセイにおいては、ReliaPrep(商標)RNA Miniprep Systems(Promega)を使用してtotal RNAを抽出し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher)を用いてcDNAを合成した。定量PCRはTHUNDERBIRD(登録商標)SYBR(登録商標) qPCR Mix(Toyobo製)を用い、定量PCR装置はCFX96 リアルタイム PCR 解析システム(Bio-Rad)を使用した。その際、プライマーとしてZIC5-F:AACCTCAAGATCCACAAGCGT(配列番号282)and R:CACTGGTGTGGACATGGGAA(配列番号283);ACTB-F:GCCCTGGCACCCAGCACAAT(配列番号284)and R:GGAGGGGCCGGACTCGTCAT(配列番号285);GAPDH-F:AGCCTCCCGCTTCGCTCTCT(配列番号286)and R:CCAGGCGCCCAATACGACCA(配列番号287)を使用し、mRNA発現量はZIC5とACTB又はGAPDHの各Ct値を測定した後、検量線に基づく相対定量法により算出した。この方法で算出した値をZIC5mRNAの相対発現率(relative expression rate)という。
【0115】
1)スクリーニング(96-well plate assay:100nM)(i)
ヒトメラノーマA375細胞を用いたスクリーニング(i)を実施した。試験は再現性確認を兼ねて3回に分けて実施した。ZIC5発現量の補正はACTBで行った。はじめに、96-well plateを用いてASO濃度は100nMで110本のすべてにつきノックダウン活性を調べた。
ノックダウン活性の測定は、上述したZIC5mRNAの相対発現率の算出方法に従った。
結果を表3に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
【0118】
【0119】
その結果、Ren-4-5ASO、Ren-4-7ASO、Ren-4-10ASO、Ren-4-13ASO、Ren-4-14ASO、Ren-4-16ASO、Ren-4-22ASO、Ren-4-23ASO、Ren-4-24ASO、Ren-4-32ASO、Ren-4-33ASO、Ren-4-36ASO、Ren-4-39ASO、Ren-4-40ASO、Ren-4-41ASO、Ren-4-42ASO、Ren-4-48ASO、Ren-4-53ASO、Ren-4-54ASO、Ren-4-56ASO、Ren-4-57ASO、Ren-4-58ASO、Ren-4-59ASO、Ren-4-60ASO、Ren-4-61ASO、Ren-4-62ASO、Ren-4-63ASO、Ren-4-64ASO、Ren-4-66ASO、Ren-4-67ASO、Ren-4-68ASO、Ren-4-69ASO、Ren-4-72ASO、Ren-4-73ASO、Ren-4-75ASO、Ren-4-76ASO、Ren-4-77ASO、Ren-4-89ASO、Ren-4-105ASOの39本は、50%以上のノックダウン活性を示した。
【0120】
これら39本のアンチセンス鎖は、配列番号2の核酸塩基15-28、180-193、249-262、516-529、615-628、654-667、924-937、1063-1076、1241-1254、1499-1512、1535-1548、1719-1732、1920-1933、1967-1980、2016-2029、2191-2204、109-122、1425-1438、1664-1677、1859-1872、1906-1919、1990-2003、2010-2023、2028-2041、2043-2056、2062-2075、2141-2154、2322-2335、2355-2368、2391-2404、2406-2419、2498-2511、2551-2564、2568-2581、2604-2617、2618-2631、2640-2653、3218-3231又は3975-3988のセンス部分とハイブリダイズする。
【0121】
これら39本のアンチセンス鎖の配列番号は、配列番号8、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号35、配列番号36、配列番号39、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号51、配列番号56、配列番号57、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号75、配列番号76、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号92、配列番号108である。
【0122】
その中でRen-4-5ASO、Ren-4-7ASO、Ren-4-22ASO、Ren-4-23ASO、Ren-4-24ASO、Ren-4-32ASO、Ren-4-33ASO、Ren-4-36ASO、Ren-4-40ASO、Ren-4-42ASO、Ren-4-53ASO、Ren-4-63ASO、Ren-4-64ASO、Ren-4-72ASO、Ren-4-73ASO、Ren-4-76ASOの16本は、60%以上のノックダウン活性を示した。
【0123】
これら16本のアンチセンス鎖は、配列番号2の核酸塩基15-28、180-193、924-937、1063-1076、1241-1254、1499-1512、1532062-20755-1548、1719-1732、1967-1980、2191-2204、1425-1438、2141-2154、2322-2335、2551-2564、2568-2581、2618-2631のセンス部分とハイブリダイズする。
【0124】
これら16本のアンチセンス鎖の配列番号は、配列番号8、配列番号10、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号35、配列番号36、配列番号39、配列番号43、配列番号45、配列番号56、配列番号66、配列番号67、配列番号75、配列番号76、配列番号79である。
【0125】
2)スクリーニング(12-well plate assay:30,50,100nM)(ii)
次に、ヒトメラノーマA375細胞を用いたスクリーニング(ii)を実施した。ノックダウン活性の測定は、上述したZIC5mRNAの相対発現率の算出方法に従った。ZIC5発現量の補正はACTBとGAPDHの両方で行った。試験は12-well plateを用いてASO濃度は30,50,100nMで、スクリーニング(i)で50%以上のノックダウン活性を示したASO16本について上述した方法によりZIC5mRNAの相対発現率を調べた。
その結果を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
その結果、オリゴはRen-4-32ASO、Ren-4-36ASO、Ren-4-42ASOの3本は、ZIC5mRNAの相対発現率で60%以上のノックダウン活性を示した。
【0128】
3)スクリーニング(12-well plate assay:30,50nM)(iii)
次に、ヒトメラノーマA375細胞を用いたスクリーニング(iii)を実施した。ノックダウン活性の測定は、上述したZIC5mRNAの相対発現率の算出方法に従った。ZIC5発現量の補正はACTBとGAPDHの両方で行った。試験は12-well plateを用いてASO濃度は30,50nMで、スクリーニング(ii)でヒットした配列を含む計12本についてノックダウン活性を調べた。その結果を表5に示す。
【0129】
Ren-4-36ASOとRen-4-42ASOの2本は59%以上のノックダウン活性を示した。
【0130】
以上の結果より、Ren-4-36ASOとRen-4-42ASOが再現性よく強いノックダウン作用を示すことが明らかとなった。よって、これらの2配列を2次スクリーニングに進めることにした。
【0131】
【表5】
【0132】
実施例3
In vitro試験(スクリーニング)
発明者らは、実施例2のスクリーニングの抑制効率が高かった14量体(14mer)のRen-4-36ASOとRen-4-42ASOの配列付近で、各配列をさらに改変したアンチセンス鎖を14本ずつ、塩基長は14~20mer、合計28本をデザインした。
【0133】
発明者らが対象とする疾患領域はヒトの癌であることから、in vivo評価をヒト癌モデルで実施することを考慮してアンチセンス鎖の塩基長を14~20merで設計する際に、マウスのmRNAの塩基配列とヒトのmRNAの配列のミスマッチが生じた場合は全てヒト配列を選択した。14merのRen-4-36ASOは、ヒト/マウス共通であったが、Ren-4-36ASOに由来する14配列のうち10配列(Ren-4-36-1,2,3,4,5,9,10,11,12,13)はマウスのmRNAの塩基配列とヒトのmRNAの配列のミスマッチが生じたため、ヒトのmRNAの塩基配列のセンス部位に相補的な配列とした。一方、Ren-4-42ASOに由来する14配列には、ミスマッチ部分がなかったため、全ての配列をヒト/マウス共通配列としてデザインした。これらの28本のオリゴはジーンデザインから入手した。
【0134】
これら28本のアンチセンス鎖、相補鎖、モチーフ、GC含有量(GC contents)、Tm値(Tm value)、ZIC5mRNA上のスタート位置、ストップ位置を表6に示す。
【0135】
表6は、Ren-4-36ASO、Ren-4-42ASOの配列付近で、配列設計した28本のアンチセンス鎖を示す表である。
【0136】
【表6】
【0137】
【0138】
【0139】
これらの28本のアンチセンス鎖を使用し、発明者らは、A375細胞における各アンチセンス鎖のZIC5 mRNAのノックダウン活性を測定した。ノックダウン活性の測定は、上述したZIC5mRNAの相対発現率の算出方法に従った。ZIC5発現量の補正はACTBとGAPDHの両方で行った。試験は12-well plateを用いてASO濃度は30,50nMでZIC5mRNAのノックダウン活性を調べた。その結果を表7、表8に示す。
【0140】
表7は、ASO濃度30nM,50nMにおけるZIC5mRNAの相対発現率(ZIC5/GAPDH)を示す表である。
【0141】
【表7】
【0142】
表7に示す通り、Ren-4-36-1ASO、Ren-4-36-2ASO、Ren-4-36-3ASO、Ren-4-36-5ASO、Ren-4-36-6ASO、Ren-4-36-7ASO、Ren-4-36-8ASO、Ren-4-36-9ASO、Ren-4-36-10ASO、Ren-4-36-11ASO、Ren-4-36-12ASO、Ren-4-36-13ASO、Ren-4-36-14ASO、Ren-4-42-1ASO、Ren-4-42-2ASO、Ren-4-42-3ASO、Ren-4-42-4ASO、Ren-4-42-9ASO、Ren-4-42-11ASO、Ren-4-42-12ASO、Ren-4-42-13ASO、Ren-4-42-14ASOは、ZIC5mRNAの発現を50%以上阻害した。
【0143】
これら22本のアンチセンス鎖は、配列番号2の核酸塩基1719―1737、1719―1736、1719―1735、1719―1733、1718―1732、1717―1732、1716―1732、1715―1732、1714―1732、1718―1733、1717―1734、1716―1735、1719―1732、2191―2209、2191―2208、2191―2207、2191―2206、2187―2204、2190―2205、2189―2206、2188―2207、2191―2204のセンス部分とハイブリダイズする。
【0144】
これら22本のアンチセンス鎖の配列番号は、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121、配列番号122、配列番号123、配列番号124、配列番号125、配列番号126、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号130、配列番号131、配列番号136、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141である。
【0145】
Ren-4-36-1ASO、Ren-4-36-6ASO、Ren-4-36-11ASO、Ren-4-42-3ASO、Ren-4-42-4ASO、Ren-4-42-11ASO、Ren-4-42-12ASOは、30nMでZIC5mRNAの発現を80%以上阻害した。
【0146】
Ren-4-36-1ASO、Ren-4-36-6ASO、Ren-4-42-12ASOは30nM、50nMの両方でZIC5mRNAの発現を80%以上阻害した。Ren-4-36-1ASOは、30nM、50nMの両方でZIC5mRNAの発現を87%以上阻害した。
【0147】
表8は、ASO濃度30nM,50nMにおけるZIC5mRNAの相対発現率(ZIC5/ACTB)を示す表である。
【0148】
【表8】
【0149】
表8に示す通り、Ren-4-36-1ASO、Ren-4-36-2ASO、Ren-4-36-3ASO、Ren-4-36-5ASO、Ren-4-36-6ASO、Ren-4-36-7ASO、Ren-4-36-8ASO、Ren-4-36-9ASO、Ren-4-36-10ASO、Ren-4-36-11ASO、Ren-4-36-12ASO、Ren-4-36-13ASO、Ren-4-36-14ASO、Ren-4-42-1ASO、Ren-4-42-2ASO、Ren-4-42-3ASO、Ren-4-42-4ASO、Ren-4-42-5ASO、Ren-4-42-7ASO、Ren-4-42-10ASO、Ren-4-42-11ASO、Ren-4-42-12ASO、Ren-4-42-13ASO、Ren-4-42-14ASOの24本は、ZIC5mRNAの発現を50%以上阻害した。
【0150】
これら24本のアンチセンス鎖は、配列番号2の核酸塩基1719―1737、1719―1736、1719―1735、1719―1733、1718―1732、1717―1732、1716―1732、1715―1732、1714―1732、1718―1733、1717―1734、1716―1735、1719―1732、2191―2209、2191―2208、2191―2207、2191―2206、2191-2205、2189-2204、2186-2204、2190―2205、2189―2206、2188―2207、2191―2204のセンス部分とハイブリダイズする。
【0151】
これら24本のアンチセンス鎖の配列番号は、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121、配列番号122、配列番号123、配列番号124、配列番号125、配列番号126、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号130、配列番号131、配列番号132、配列番号134、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141である。
【0152】
Ren-4-36-1ASO、Ren-4-42-3ASO、Ren-4-42-4ASOは、30nMでZIC5mRNAの発現を80%以上阻害した。
【0153】
Ren-4-36-1ASOは、30nM、50nMの両方でZIC5mRNAの発現を84%以上阻害した。
【0154】
実施例4
ヒトメラノーマ細胞A375を5×10cellsをマトリゲル(Corning製)50μLと混合し、皮下移植した免疫不全マウスを被験体とし、被験体におけるRen-4-36-1ASO投与による抗腫瘍作用を検証した。
【0155】
発明者らは、免疫不全マウスにヒトメラノーマ細胞A375を皮下移植した担癌マウスを作製し、腫瘍抑制試験を行った。各群9匹ずつに対して、PBSまたはRen-4-36-1ASOを1.5μmol/kgの量で週一回、3週に亘り、繰り返し尾静脈から投与を行った。1回目の投与(8日目)、2回目の投与(15日目)、3回目の投与(22日目)、3回目の投与から1週間後(29日目)にそれぞれ被験体の腫瘍体積(mm)を測定した。また、3回目の投与から1週間後(29日目)に被験体の腫瘍組織を摘出しZIC5mRNAのノックダウン活性を測定した。ノックダウン活性の算出方法は、実施例2に記載したZIC5mRNAの相対発現率の算出方法に従って行った。
【0156】
Ren-4-36-1ASOの投与により腫瘍体積は減少し、腫瘍におけるZIC5 mRNA量の有意な減少がみられた(図1図2)。
【0157】
図1は in vivo試験におけるRen-4-36-1ASOによる腫瘍サイズの推移を示す。Ren-4-36-1ASOの投与により腫瘍体積は減少した。22日以降の腫瘍体積の減少幅は拡大傾向を示した。
【0158】
図2A、2Bは in vivo試験におけるRen-4-36-1ASOによるZIC5 mRNAの相対発現率を示す。n=1-9の平均値Avは、PBS投与群3.37に比べRen-4-36-1ASO投与群の平均値Av1.99と、Ren-4-36-1ASOはZIC5 mRNAの発現を抑制した(図2A)。n=9のデータを統計処理し、Ren-4-36-1ASOの投与により腫瘍体積は減少し、腫瘍におけるZIC5 mRNA量の有意な減少がみられた(図2B Compared to PBS投与群 **:p<0.01)。
【0159】
実施例5
リガンドの選択試験を実施した。
HDOのRNA鎖にリガンド分子を付加することで、HDOをがん細胞選択的にデリバリーすることが可能である。メラノーマ特異的にHDOをデリバリーするために適切なリガンドを確認した。
【0160】
本実施例では下記に示す配列番号142のアンチセンス鎖と、配列番号143の相補鎖(配列番号142のアンチセンス鎖に相補的でありハイブリダイズ可能に構成されている)とからなり、ヒトMalat1 ncRNAを標的とするHDOを用いて、メラノーマ特異的にHDOをデリバリーするために適切なリガンドを評価した。HDOはヒトMalat1 ncRNAを標的とする連続する16個の核酸(16mer)からなるアンチセンス鎖であり、ヒトMalat1 ncRNAの標的部位にハイブリダイズ可能な次の配列で構成されている。アンチセンス鎖と相補鎖の配列は次の通りである。
【0161】
アンチセンス鎖:5’-G(L)^C(L)^A(L)^t^t^c^t^a^a^t^a^g^c^A(L)^G(L)^C(L)―3’(Malat1ASO、配列番号142)
センス鎖:5’-G(M)^C(M)^U(M)GCUAUUAGAAU(M)^G(M)^C(M)―3’(Malat1SO、配列番号143)
【0162】
上記アンチセンス鎖、センス鎖の配列式中、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、(L)はLNAを表し、C(L)は5-メチルシトシンLNAを表し、(M)は2’―O―メチル糖修飾を表し、^はホスホロチオエート結合を表す。
【0163】
Malat1ASOと、Malat1SOがアニーリングしているHDOを、Malat1HDOという。
【0164】
オリゴ核酸とcRGD基はトリアゾール環、SS結合、Maleimide-Thiol結合など介した共有結合させることが可能である。
【0165】
【化2】
【0166】
例えば相補鎖Malat1SOにcRGDを結合させる方法としては、配列番号143のMalat1SOの5’端にX(ビシクロオクチン-カルボニル-ヘキシルアミノ基)を結合した5′ジベンゾシクロオクチン-スクシニル-ヘキシルアミノオリゴ核酸(5’-XG(M)^C(M)^U(M)GCUAUUAGAAU(M)^G(M)^C(M)―3’
【0167】
配列中、Xはビシクロオクチン-カルボニル-ヘキシルアミノ基、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、(L)はLNAを表し、C(L)は5-メチルシトシンLNAを表し、(M)は2’―O―メチル糖修飾を表し、^はホスホロチオエート結合を表す。)に対し、cRGDfKとAzido-PEG4-NHSesterをDMSO溶媒化縮合させることで合成することができるcRGD-Amide-Peg4-Azideを加え、攪拌後5分から~36時間静置する事で合成ができる。この際Azido-PEG4-NHSに変えて任意の長さのPEG基をもつAzido-PEGn-NHS(n=1~32)や任意の長さのアルキル基を持つAzido-(CH)n-NHS(n=1~32)用いる事で任意を用いても同様に対応するアジドを合成しオリゴ核酸に結合させることができる。
【0168】
反応後の溶液を8mMトリエチルアミン100mMヘキサフルオロイソプロパノール5%(v/v)メタノール水溶液で希釈し、HPLCにて精製(カラム:YMC-TriartC18、150X10.0mmID S-5μm;溶離液:A 8mM トリエチルアミン100mMヘキサフルオロイソプロパノール5%(w/v)メタノール水溶液、B 80%(w/v)メタノール水溶液;溶出条件:4.7mL/分、0-60%B)を行った。溶媒を減圧下除去した後に、水(1mL)に再度溶解し、塩化ナトリウム水溶液を(5.0M、30μL)添加・攪拌した後、EtOH(4mL)を加え遠心した。得られた沈殿は80%(w/v)EtOHで洗浄したのち減圧下乾燥させ、cRGD-Malat1SOを得た。
【0169】
上記プロセスにおいて、Malat1SOを任意のオリゴ核酸配列に変更することで、任意のオリゴ核酸を得ることが可能である。例えばMalat1ASOとすることでcRGD―Malat1ASOが合成可能である。
【0170】
Malat1ASO(10nmol)と、cRGD-Malat1SO(10.5nmol)を混合させ溶媒を除去することでリガンドを結合させたHDOであるcRGD-Malat1HDOを得た。cRGD-Malat1HDOに生理食塩液(大塚生食注(大塚製薬))を添加し、この溶液を95℃で5分加熱し、溶液をゆっくりと室温に冷却してアニールを実施した。
【0171】
上記の合成プロセスで、オリゴ核酸の配列をMalat1を任意の配列に変更することができる。例えば、Ren-4-36とすることでcRGD―Ren-4-36―HDOを合成可能である。また、5′ジベンゾシクロオクチン-スクシニル-ヘキシルアミノ基に代えて、5′ビシクロオクチン-カルボニル-ヘキシルアミノ基にかえてもcRGD基を導入することが可能である。
【0172】
配列番号143:Malat1SOの5’端に3―(2―ピリジルジチオプロピオニル-ヘキシルアミノ基を修飾した5′3―(2―ピリジルジチオプロピオニル-ヘキシルアミノオリゴ核酸(1.0mM1.0mL、:5’-XG*C*A*UUCAGUGAAC*U*A*G-3’、Xは3―(2―ピリジルジチオプロピオニル-ヘキシルアミノ基、*はホスホロチオエート結合、大文字斜体は2’-O-メチル糖修飾を表し、大文字はRNAを表す)に対し、cRGDfCを加え攪拌後5分から36時間静置した。8mMトリエチルアミン100mMヘキサフルオロイソプロパノール5%(w/v)メタノール水溶液で希釈し、HPLCにて精製(カラム:YMC-TriartC18、150X10.0mmID S-5μm;溶離液:A 8mM トリエチルアミン100mMヘキサフルオロイソプロパノール5%(w/v)メタノール水溶液、B 80%(w/v)メタノール水溶液;溶出条件:4.7mL/分、0-60%B)を行った。溶媒を留去後、水(1mL)に再度溶解し、塩化ナトリウム水溶液を(5.0M、30μL)添加・攪拌した後、エタノール(4mL)を加え遠心した。得られた沈殿は80%(w/v)EtOHで洗浄したのち減圧下乾燥させ、cRGDfC-Malat1SOを得た。
【0173】
Malat1ASO(10nmol)と、cRGDfC-Malat1SO(10.5nmol)を混合させ溶媒を除去することでリガンドを結合させたHDOであるcRGD-Malat1HDOを得た。cRGD-Malat1HDOに生理食塩液(大塚生食注(大塚製薬))を添加し、この溶液を95℃で5分加熱し、溶液をゆっくりと室温に冷却してアニールを実施した。
【0174】
cRGD以外のリガンド:コレステロール(Chol)、トコフェノール(Toc)、VPC-Pも同様の方法によりMalat1HDOに付加した。
【0175】
【表9】
【0176】
実施例2で作成したMalat1HDOと、リガンド結合したMalat1HDOの培養細胞における標的遺伝子ノックダウン効果を試験した。この実験では、ヒトメラノーマ細胞株A375(ATCCより入手)を使用した。37℃にて5%CO中、A375細胞を、10%(w/v)ウシ胎仔血清(Thermo Fisher Scientific)、100U/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Thermo Fisher Scientific)中で維持した。10cm dish1枚に80%コンフルエントな状態の細胞を、0.25%(w/v)トリプシンー0.53mM EDTAを用いて回収した後、48well―plateに細胞を2×10/wellで播種し、37℃で培養した。翌日、終濃度が10、100、1000μMのHDOを培養液中に添加し、48well―platのwellに全量加えた。陰性対照として、PBS添加群を実施した。各HDO添加7日後、上清を捨てて細胞からLysis bufferを用いてRNAを抽出し、SV96 Total RNA Isolation System(Promega)を用いてTotal RNAを精製し、Total RNAからPrimeScriptRT master mix(Takara、RR036A)を用いてcDNAを合成した。さらにこれを2分の1に希釈した後、Luna Universal qPCR Master Mix(NEB、M3003)とヒトMalat1とヒトGapdhのプライマーおよびプローブ(Thermo Fisher Scientific、Hs00273907_s1、Hs02786624_g1)を用いてqPCRを行いhMalat1とhGapdh mRNA発現量はヒトMalat1とヒトGapdh mRNAの各Ct値を測定した後、ΔΔCt法に基づく相対定量法により算出した。
【0177】
上記の方法で、各HDOについて内在遺伝子Malat1のノックダウン効果試験を実施した。結果を図3に示す。図3の縦軸は、相対的なhMalat1 ncRNA発現量を示す。0nMのHDOを投与した時のhMalat1 ncRNA発現量を1とした。図3に於いて横軸は、PBS群又は10nmol/L、100nmol/L、1000nmol/LのMalat1HDO、Chol―Malat1HDO、Toc-Malat1HDO、cRGD-Malat1HDO又はVPC-P―Malat1HDOを表す。縦軸は、相対発現レベル(hMalat1 ncRNA発現量/hGapdh mRNA発現量)を表す。図3に示すように、10nmol/Lまたは100nmol/Lまたは1000nmol/LのMalat1HDO添加で31、30、70%のhMalat1 ncRNA発現量のノックダウン効果が確認された。10nmol/Lまたは100nmol/Lまたは1000nmol/LのChol―Malat1HDO添加で25、72、65%のhMalat1 ncRNA発現量のノックダウン効果が確認された。10nmol/Lまたは100nmol/Lまたは1000nmol/LのToc―Malat1HDO添加で26、20、68%のhMalat1 ncRNA発現量のノックダウン効果が確認された。10nmol/Lまたは100nmol/Lまたは1000nmol/LのcRGD―Malat1HDO添加で4、18、52%のhMalat1 ncRNA発現量のノックダウン効果が確認された。100nmol/Lまたは1000nmol/LのVPC-P―Malat1HDO添加で8、68%のhMalat1 ncRNA発現量のノックダウン効果が確認された。図3に示すとおりに、コレステロール(Chol)、トコフェノール(Toc)、cRGD、VPC-PはMalat1HDOをヒトメラノーマ細胞A375にHDOをデリバリーする効果があることが明らかとなった。
【0178】
Malat1HDOと、各リガンド結合したMalat1HDOのIC50値を調べた。結果を表10に示す。
【0179】
【表10】
【0180】
実施例6
ヒトメラノーマ細胞A375を5×10cellsをマトリゲル(Corning製)50μLと混合し、皮下移植した免疫不全マウスを被験体とし、被験体におけるChol-Ren-4-36-1HDO投与による抗腫瘍作用を検証した。
【0181】
実施例5で複数のリガンドを付加したHDOを用いて検討を行ったところ、コレステロール(chol)を付加したものでより低濃度でメラノーマ細胞内に取り込まれることを見出した。そこで、発明者らはZIC5標的HDOを用いたリガンドの効果を調べるため、担癌マウスにChol-Ren-4-36-1HDOを静脈内投与したときのin vivo での腫瘍抑制効果を検証した。Chol-Ren-4-36-1HDOを1.5μmol/kgの量で週一回、2週間、尾静脈投与を行った。その結果、肝毒性がみられたがChol-Ren-4-36-1HDOの投与により、腫瘍が有意に退縮した(図4 Compared to Control group on Day19**:p<0.01)。
【0182】
図4は、Chol-Ren-4-36-1HDOを担癌マウスに静脈投与したときの腫瘍の大きさの推移を示す。
図1
図2A
図2B
図3
図4
【配列表】
2024089860000001.xml