(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089868
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびガスセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240627BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205365
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏文
(72)【発明者】
【氏名】郡司島 造
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046EA02
2G046FE03
2G046FE14
2G046FE20
2G046FE48
2G046FE49
(57)【要約】
【課題】気体試料中のガス成分を検知可能なガスセンサおよびガスセンサの製造方法を提供する。
【解決手段】ガスセンサは、トランスデューサと、トランスデューサの表面に配置されている感応膜と、を備える。感応膜は、目的ガス分子を吸脱着する粒子状の金属有機構造体が、トランスデューサの表面に垂直な方向に複数積み重なっている構造を有している。トランスデューサの表面と感応膜との界面の近傍における金属有機構造体の結晶配向度は、感応膜の上面近傍の金属有機構造体の結晶配向度よりも高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスデューサと、前記トランスデューサの表面に配置されている感応膜と、を備えるガスセンサであって、
前記感応膜は、目的ガス分子を吸脱着する粒子状の金属有機構造体が、前記トランスデューサの前記表面に垂直な方向に複数積み重なっている構造を有しており、
前記トランスデューサの前記表面と前記感応膜との界面の近傍における前記金属有機構造体の結晶配向度は、前記感応膜の上面近傍の前記金属有機構造体の結晶配向度よりも高い、ガスセンサ。
【請求項2】
前記トランスデューサは、水晶振動子マイクロバランス(QCM)素子である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記金属有機構造体は特定の結晶面を備えており、
前記特定の結晶面が前記トランスデューサの前記表面と平行になっている割合が、前記界面の近傍における前記金属有機構造体の方が、前記感応膜の上面近傍の前記金属有機構造体よりも高い、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記金属有機構造体は、金属イオンクラスタの金属イオンとしてZr、Hf、Ce、Zn、Mg、Alのいずれかを含んでおり、
前記金属イオンクラスタは、金属元素をXとした場合の構造式が、X1~6(μ3-O)4(μ3-OH)3~8、X1~6(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X1~6O1~6、である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記金属有機構造体は、UiO-66~68、NU-1000~1104、MOF-801~867、PCN-56~777、DUT-51~69、BUT-10~30、MIL-140A~D、MIL-153~163のいずれかである、請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記金属有機構造体は、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積が789m2/gよりも大きく、細孔容量が0.28cm3/gよりも大きい条件を満たす、請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
酸を添加した粒子合成により、粒子状の金属有機構造体を含んだ溶液を生成する工程と、
生成された前記溶液に機械的振動を印加する工程と、
前記機械的振動が印加された前記溶液を、電圧を印加した状態でトランスデューサの表面にスプレー塗布する工程と、
を備える、ガスセンサの製造方法。
【請求項8】
前記酸は、酢酸、ギ酸、塩酸の少なくとも1つを含む、請求項7に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項9】
前記機械的振動は、超音波で印加される、請求項7に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項10】
前記溶液はアルコールを含んでおり、
前記スプレー塗布する工程では、前記トランスデューサの表面を前記アルコールの沸点よりも高い温度にした状態で、前記溶液を塗布する、請求項7に記載のガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、気体試料中のガス成分を検知することが可能なガスセンサおよびガスセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、粒状材料を検知部上に被覆することにより、測定対象の物質の分子の検出を可能とするセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、粒状材料で構成された感応膜を検知部表面に形成するために、通常のスプレーコーティング法、スピンコーティング法、インクジェット法、ディップコーティング法、などが使用されている。しかしこれらの方法では、検知部表面と感応膜との界面において、検知部表面と接触している粒子材料は、結晶配向性がランダムになる。そのため、粒状材料の検知部表面への密着状態のばらつきが大きくなる。その結果、センサ特性が不安定になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するガスセンサの一実施形態は、トランスデューサと、トランスデューサの表面に配置されている感応膜と、を備える。感応膜は、目的ガス分子を吸脱着する粒子状の金属有機構造体が、トランスデューサの表面に垂直な方向に複数積み重なっている構造を有している。トランスデューサの表面と感応膜との界面の近傍における金属有機構造体の結晶配向度は、感応膜の上面近傍の金属有機構造体の結晶配向度よりも高い。
【0006】
上記の構造によると、粒子状の金属有機構造体の結晶配向度が、界面近傍の方が感応膜の上面近傍よりも高い。従って、トランスデューサ表面と接触している金属有機構造体の結晶配向性を高めることができる。金属有機構造体のトランスデューサ表面への密着状態におけるばらつきを、抑制することが可能となる。センサ特性を安定化することが可能となる。
【0007】
トランスデューサは、水晶振動子マイクロバランス(QCM)素子であってもよい。
【0008】
金属有機構造体は特定の結晶面を備えていてもよい。特定の結晶面がトランスデューサの表面と平行になっている割合が、界面の近傍における金属有機構造体の方が、感応膜の上面近傍の金属有機構造体よりも高くてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
金属有機構造体は、金属イオンクラスタの金属イオンとしてZr、Hf、Ce、Zn、Mg、Alのいずれかを含んでいてもよい。金属イオンクラスタは、金属元素をXとした場合の構造式が、X1~6(μ3-O)4(μ3-OH)3~8、X1~6(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X1~6O1~6、であってもよい。
【0010】
金属有機構造体は、UiO-66~68、NU-1000~1104、MOF-801~867、PCN-56~777、DUT-51~69、BUT-10~30、MIL-140A~D、MIL-153~163のいずれかであってもよい。
【0011】
金属有機構造体は、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積が789m2/gよりも大きく、細孔容量が0.28cm3/gよりも大きい条件を満たしてもよい。
【0012】
本明細書が開示するガスセンサの製造方法の一実施形態は、酸を添加した粒子合成により、粒子状の金属有機構造体を含んだ溶液を生成する工程を備える。製造方法は、生成された溶液に機械的振動を印加する工程を備える。製造方法は、機械的振動が印加された溶液を、電圧を印加した状態でトランスデューサの表面にスプレー塗布する工程を備える。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
酸は、酢酸、ギ酸、塩酸の少なくとも1つを含んでもよい。
【0014】
機械的振動は、超音波で印加されてもよい。
【0015】
溶液はアルコールを含んでいてもよい。スプレー塗布する工程では、トランスデューサの表面をアルコールの沸点よりも高い温度にした状態で、溶液を塗布してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】ガスセンサ2の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図5】酢酸の添加量を変化させて作成したUiO-66のSEM像である。
【
図6】UiO-66の比表面積および細孔容量を示す表である。
【
図7】スプレー塗布回数nを変化させた場合のXRDプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ガス検知システム1の構成)
図1に、ガス検知システム1の概略断面図を示す。ガス検知システム1は、ガスセンサ2および発振回路3を備える。ガスセンサ2は、トランスデューサ10、感応膜20、を備えている。トランスデューサ10は、水晶振動子マイクロバランス(QCM)素子である。トランスデューサ10は、第1電極11、第2電極12、水晶振動子13、を備えている。これらの電極はいずれか一方だけでもよい。第1電極11は、水晶振動子13の一方の面に接合されている。第2電極12は、水晶振動子13の他方の面に接合されている。第1電極11および第2電極12の材料は、金、銅、アルミ、ニッケル、スズなどの導電性を有する一般的な表面処理用の金属である。
【0018】
発振回路3は、第1電極11および第2電極12に接続されている。発振回路3は、水晶振動子13の振動動作を駆動する回路である。また発振回路3は、目的ガス分子が感応膜20に吸着した際の、水晶振動子13の機械的または電気機械的な応答を測定可能な回路である。
【0019】
感応膜20は、トランスデューサ10の表面に配置されている。具体的には、感応膜20は、第1電極11の表面11sに配置されている。感応膜20は、表面11sを、少なくとも部分的に覆っている。
【0020】
(感応膜20の構造)
図2に、感応膜20の断面の拡大概略図を示す。
図2では、粒子状の金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)の結晶の外形を、長方形で示している。なお実際には、金属有機構造体の結晶の外形や大きさは、様々である。また以下において、金属有機構造体をMOFと略記する場合がある。感応膜20は、粒子状のMOF21が、第1電極11の表面11sに垂直な方向(+z方向)に複数積み重なっている構造を有している。
【0021】
MOFは、目的ガス分子を吸脱着する物質である。ガスセンサ2を気体試料に暴露することで、目的ガス分子が感応膜20に吸着される。目的ガス分子の吸着量に応じて、感応膜20の質量が変化する。この質量変化による、トランスデューサ10の振動周波数の変化を検出することにより、気体試料中のガス成分を検知することができる。目的ガス分子は、様々に設定することができる。本実施例では、目的ガス分子を、アセトンガス分子とした。
【0022】
MOFは、金属イオンと、それらを連結する架橋性の有機配位子と、を組み合わせた構造を有する。MOFは、内部に空間を持つ、結晶性の高分子構造体である。金属イオンと有機配位子の組み合わせによって、様々な結晶多形ができる。MOFの結晶性は非常に高く、単結晶として得られる。従ってMOFは、様々な結晶面を備えている。
図2では、特定の結晶面を、長方形の長辺で示している。また、特定の結晶面以外の面を、長方形の短辺で示している。特定の結晶面の定め方は、特に限定されない。本実施例では、結晶の外形において一番面積の大きい面を、特定の結晶面とした。具体的には、本実施例では、MOF21をfcc構造粒子とした。また本実施例では、特定の結晶面を(111)面とした。
【0023】
ここで、表面11sと感応膜20との界面IFの近傍領域を、界面領域R1とする。また、感応膜20の上面20uの近傍領域を、上面領域R2とする。MOF21の特定の結晶面が表面11sと平行になっている割合が、界面領域R1内のMOF21の方が上面領域R2のMOF21よりも高い。換言すると、界面IFの近傍におけるMOF21の結晶配向度は、上面20u近傍のMOF21の結晶配向度よりも高い。
【0024】
MOFは、金属イオンクラスタの金属イオンとしてZr、Hf、Ce、Zn、Mg、Alのいずれかを含んでいることが好ましい。金属イオンクラスタは、金属元素をXとした場合の構造式が、X1~6(μ3-O)4(μ3-OH)3~8、X1~6(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X1~6O1~6、であることが好ましい。
【0025】
またMOFは、粒子径が0.1~100μmの範囲内であり、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積が789m2/gより大きく、細孔容量が0.28cm3/gよりも大きい条件を満たすことが好ましい。
【0026】
さらに好ましくは、MOFは、UiO-66~68、NU-1000~1104、MOF-801~867、PCN-56~777、DUT-51~69、BUT-10~30、MIL-140A~D、MIL-153~163のいずれかであるとよい。本実施例では、UiO-66とした。
【0027】
(ガスセンサ2の製造方法)
図3のフローチャートを用いて、ガスセンサ2の製造方法を説明する。ステップS10において、酸を添加した粒子合成により、粒子状のMOFが生成される。酸は、酢酸、ギ酸、塩酸の少なくとも1つを含むものであってよい。本実施例では、酢酸を用いた。
【0028】
具体的に説明する。MOFの粒子合成では、ZrCl4とテレフタル酸を入れたビーカに、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)と酢酸を混合した溶液を作製した。溶媒に用いた酢酸は、0~3.2M(モーラー)まで変化させた。作製した溶液をテフロン(登録商標)加工されたステンレス製のオートクレーブに入れ、恒温槽を用いて加熱し、ソルボサーマル合成を行った。その後、室温まで冷却したオートクレーブから溶液を取り出し、遠心分離器を用いてDFMおよびエタノールで数回洗浄した。その後、真空乾燥を行い、UiO-66の粉末を試料として回収した。
【0029】
ステップS20において、MOFを含んだ溶液を生成する工程が行われる。本実施例では、MOFをエタノール溶媒と混合し、2wt.%の溶液を調製した。
【0030】
ステップS30において、生成された溶液に機械的振動を印加する工程が行われる。機械的振動は、様々な方法で印加することができる。本実施例では、超音波によって機械的振動を印加している。
【0031】
具体的に説明する。エタノール溶液中に超音波ホモジナイザの超音波振動子を挿入し、10分間処理を行った。これにより、MOF粒子の粒子同士の結合を機械的に分断できる。MOFの二次粒子の凝集を破壊し、一次粒子が分散している分散液を作製することができる。
【0032】
ステップS40において、機械的振動が印加された溶液を、電圧を印加した状態で、トランスデューサ10の表面にスプレー塗布する工程が行われる。
図4に、スプレー塗布装置30の模式図を示す。スプレー塗布装置30は、静電スプレー(ESP)法による塗布を行う装置である。スプレー塗布装置30は、加熱台31、基材32、ノズル33、電源34、を備える。加熱台31は、不図示のヒータを備えている。また加熱台31は、グランドGNDにアースされている。加熱台31の表面には、基材32が配置されている。基材32は、トランスデューサ10を配置するための部材である。本実施例では、基材32としてシリコンウエハを用いた。基材32の表面には、トランスデューサ10が配置される。
【0033】
トランスデューサ10の上方には、ノズル33が配置されている。ノズル先端33tと加熱台31との距離D1は、不図示の駆動機構により調整可能である。本実施例では、距離D1を65mmとした。ノズル33の内部には、前述のステップS30で生成された分散液35が格納される。電源34は、ノズル33内の分散液35に電圧を印加するための装置である。
【0034】
スプレー塗布の具体的工程を説明する。加熱台31のヒータによって、基材32を介してトランスデューサ10を、所定温度に加熱する。所定温度は、分散液35の溶媒の沸点よりも高い温度が好ましい。本実施例では、所定温度を、溶媒であるエタノールの沸点(78℃)よりも高い85℃に設定した。
【0035】
次に、電源34によって、ノズル33内の分散液35に数kVの電圧を印加する。本実施例では、印加電圧を12kVとした。そして、帯電した状態の分散液35を、ノズル先端33tから吐出する。帯電した分散液35は、静電気力の反発により細かくミスト化される。ミスト化された分散液35は、静電気力により基材32に引き寄せられる。これにより、界面領域R1(
図2)におけるMOF21の塗布において(すなわち塗布の初期段階において)、特定の結晶面((111)面)が表面11sと平行となるように、MOF21の結晶方位を制御することができる。またこれにより、第1電極11の表面11sに分散液を均一に付着させることができる。
【0036】
分散液35のミストが表面11sに付着すると、加熱台31によって加熱されているため、溶媒であるエタノールが瞬時に揮発する。これにより、MOF21の結晶方位が制御されている状態で、MOF粒子を表面11s上に堆積させることができる。このスプレー塗布を複数回繰り返すことにより、表面11s上に感応膜20を成膜することができる。本実施例では、スプレー塗布回数を5~30まで変化させ、MOF粒子の塗布量を制御した。
【0037】
(酸の添加量の評価)
本明細書では、酸を添加して、MOF粒子の合成を行っている。酸添加の効果を説明する。
図5に、酢酸の添加量を変化させて作成したUiO-66のSEM像を示す。
図5の左から右側へ向かって、酢酸の添加量を、0M、1.6M、2.4M、3.2Mと変化させている。酢酸無添加(0M)の試料は、数百nmの細かい一次粒子が強固に凝集し、二次粒子を形成している様子が分かる。一方、酢酸を添加した試料は、添加量が多くなるほど一次粒子のサイズが大きくなっていることが分かる。また酢酸無添加(0M)の場合に比して、酢酸を添加した場合の方が、一次粒子同士の隙間を大きくできることが分かる。これにより、酢酸無添加の場合よりも、酢酸を添加した場合の方が、凝集粒子の結合力を小さくできることが分かる。
【0038】
図6の表に、酢酸の添加量を変化させた場合における、UiO-66の比表面積および細孔容量を示す。比表面積および細孔容量は、N
2吸着等温線から算出した。比表面積は、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積を用いた。BET比表面積および細孔容量ともに、酢酸無添加(0M)の試料において最小値となっている。そして、酢酸量が2.4(M)までの領域では、酢酸添加量が多くなるほど、BET比表面積および細孔容量が増大することが分かる。これは、酢酸がUiO-66のリンカー部分に欠陥を生じさせるために発生する現象であると考えられる。BET比表面積および細孔容量が増大するほど、アセトンガス分子の吸脱着作用を促進することができる。
【0039】
完成したガスセンサ2を用いて、アセトンガス濃度のセンサ特性を評価した。その結果、酢酸を添加したUiO-66粒子からなる感応膜20を備える場合は、O
2およびCO
2ガスは、測定結果に影響をほとんど及ぼさないことが分かった。O
2およびCO
2ガスは、呼気ガス中に含まれる主要成分ガスである。従って、酢酸を添加したUiO-66粒子を用いることにより、呼気ガス中に含まれるアセトンガスの選択性が非常に高いガスセンサ2を、作製することが可能となる。これにより、
図6の表から、UiO-66は、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積が789m
2/gよりも大きく、細孔容量が0.28cm
3/gよりも大きい条件を満たすことが好ましいことが分かる。
【0040】
(結晶配向性の評価)
図2では、界面IFの近傍におけるMOF21の結晶配向度が、上面20u近傍のMOF21の結晶配向度よりも高い特徴があることを説明した。この配向性についての評価結果を説明する。
図7(A)-(C)に、ステップS40のスプレー塗布回数nを変化させた場合のXRDプロファイルを示す。MOF粒子には、fcc構造粒子であるUiO-66粒子を使用した。横軸は回折角2θ(deg)であり、縦軸は回折強度(cps)である。スプレー塗布回数nは、
図7(A)において5回、
図7(B)において10回、
図7(C)において20回である。従って、感応膜20の厚さは、
図7(A)から
図7(C)の順番に、次第に厚くなる。すなわち、
図7(A)は
図2の界面領域R1の測定結果に対応しており、
図7(B)および
図7(C)は
図2の上面領域R2の測定結果に対応している。
【0041】
図7(A)の界面領域R1の測定結果では、約7°の回折角2θにおいて大きなピークが検出される。そのピーク強度は1400cps程度を示している。すなわち、UiO-66粒子が[111]に強く配向していることが分かる。一方、
図7(B)および
図7(C)の上面領域R2の測定結果では、約7°の回折角2θにおけるピーク強度が、750cps程度と小さくなっている。すなわち、界面領域R1よりも上面領域R2の方が、配向状態が低下していることが分かる。
【0042】
以上の結果から、界面領域R1には[111]に強く配向したUiO-66粒子が存在していることが分かる。そして上面領域R2に堆積したUiO-66粒子は、配向がランダムになることが分かる。本実施例の感応膜20は、このような特徴的な粒子膜構造を有していることが確認された。
【0043】
(効果)
本実施例の感応膜20は、界面IFの近傍におけるMOF粒子の結晶配向度が、上面20u近傍のMOF21の結晶配向度よりも高い。すなわち本実施例の感応膜20では、第1電極11の表面11sと接触しているMOF粒子の結晶配向性が高められている。これにより、MOF粒子の表面11sへの密着状態におけるばらつきを、抑制することができる。その結果、接触抵抗を安定させることや、感応膜20の質量変化によるトランスデューサ10の振動周波数の変化態様を安定させることができる。ガスセンサ2の特性を安定化することが可能となる。
【0044】
本実施例の感応膜20は、特定の結晶面が表面11sと平行になっている割合が、界面領域R1内のMOF21の方が上面領域R2のMOF21よりも高い。特定の結晶面は、MOF21の結晶の外形において、一番面積の大きい面である。これにより、界面IFにおいて、MOF21と表面11sとの接触面積を有意に高めることができる。接触抵抗や接触状態のばらつきを抑制できるため、ガスセンサ2の特性を安定化することが可能となる。また、感応膜20の表面11sへの密着強度を高めることが可能となる。
【0045】
従来の技術では、MOF粒子で構成された感応膜を検知部表面に形成するために、通常のスプレーコーティング法、スピンコーティング法、インクジェット法、ディップコーティング法、などが使用されている。しかしこれらの方法では、検知部表面と感応膜との界面において、検知部表面と接触しているMOF粒子は、結晶配向性がランダムになる。そのため、MOF粒子の検知部表面への密着状態のばらつきが大きくなる。その結果、接触抵抗が不安定となったり、感応膜の質量変化に応じたセンサの振動周波数の変化が不安定になるおそれがあった。本明細書の技術では、強い電場与えたスプレー塗布(ESP法)を用いて、MOF粒子を塗布している。これにより、界面領域R1(
図2)において、特定の結晶面((111)面)が表面11sと平行になるように、MOF21の結晶方位を制御することができる。界面IFにおいて、MOF粒子と表面11sとの接触面積を有意に高めることが可能となる。よって、ガスセンサ2の特性を安定化することが可能となる。
【0046】
MOF粒子の二次粒子が形成された状態でトランスデューサ上に塗布を行う場合、感応膜としての均一性の低下(分布ばらつき、表面11sとの密着不良など)が問題となり、安定したセンサ特性が得られないおそれがあった。本明細書の技術では、酸を添加してMOF粒子を合成することにより、一次粒子のサイズを大きくすることができるとともに、MOF粒子のBET比表面積および細孔容量を上昇させることができる。一次粒子径の増大により、二次粒子の形成を抑制することができるため、感応膜の均一性を向上させることができる。またMOF粒子のBET比表面積および細孔容量の増大により、一次粒子径の増大による比表面積の低下を抑制することができる。よって、目的ガス分子の吸脱着作用を促進することができるため、ガスセンサ2の感度を高めることが可能となる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0048】
以下に、本技術の態様を列挙する。
[態様1]
トランスデューサと、前記トランスデューサの表面に配置されている感応膜と、を備えるガスセンサであって、
前記感応膜は、目的ガス分子を吸脱着する粒子状の金属有機構造体が、前記トランスデューサの前記表面に垂直な方向に複数積み重なっている構造を有しており、
前記トランスデューサの前記表面と前記感応膜との界面の近傍における前記金属有機構造体の結晶配向度は、前記感応膜の上面近傍の前記金属有機構造体の結晶配向度よりも高い、ガスセンサ。
[態様2]
前記トランスデューサは、水晶振動子マイクロバランス(QCM)素子である、態様1に記載のガスセンサ。
[態様3]
前記金属有機構造体は特定の結晶面を備えており、
前記特定の結晶面が前記トランスデューサの前記表面と平行になっている割合が、前記界面の近傍における前記金属有機構造体の方が、前記感応膜の上面近傍の前記金属有機構造体よりも高い、態様1または2に記載のガスセンサ。
[態様4]
前記金属有機構造体は、金属イオンクラスタの金属イオンとしてZr、Hf、Ce、Zn、Mg、Alのいずれかを含んでおり、
前記金属イオンクラスタは、金属元素をXとした場合の構造式が、X1~6(μ3-O)4(μ3-OH)3~8、X1~6(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X(μ3-O)4~8、X1~6O1~6、である、態様1~3の何れか1項に記載のガスセンサ。
[態様5]
前記金属有機構造体は、UiO-66~68、NU-1000~1104、MOF-801~867、PCN-56~777、DUT-51~69、BUT-10~30、MIL-140A~D、MIL-153~163のいずれかである、態様4に記載のガスセンサ。
[態様6]
前記金属有機構造体は、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積が789m2/gよりも大きく、細孔容量が0.28cm3/gよりも大きい条件を満たす、態様1~5の何れか1項に記載のガスセンサ。
[態様7]
酸を添加した粒子合成により、粒子状の金属有機構造体を含んだ溶液を生成する工程と、
生成された前記溶液に機械的振動を印加する工程と、
前記機械的振動が印加された前記溶液を、電圧を印加した状態でトランスデューサの表面にスプレー塗布する工程と、
を備える、ガスセンサの製造方法。
[態様8]
前記酸は、酢酸、ギ酸、塩酸の少なくとも1つを含む、態様7に記載のガスセンサの製造方法。
[態様9]
前記機械的振動は、超音波で印加される、態様7または8に記載のガスセンサの製造方法。
[態様10]
前記溶液はアルコールを含んでおり、
前記スプレー塗布する工程では、前記トランスデューサの表面を前記アルコールの沸点よりも高い温度にした状態で、前記溶液を塗布する、態様7~9の何れか1項に記載のガスセンサの製造方法。
【符号の説明】
【0049】
1:ガス検知システム 2:ガスセンサ 10:トランスデューサ 11:第1電極 11s:表面 12:第2電極 13:水晶振動子 20:感応膜 R1:界面領域 R2:上面領域 IF:界面