(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089869
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】焼結体、焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 33/02 20060101AFI20240627BHJP
B22D 19/00 20060101ALI20240627BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240627BHJP
【FI】
C22C33/02 B
B22D19/00 P
B22F1/00 T
B22D19/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205369
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】滝口 寛
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA29
4K018DA11
4K018FA05
(57)【要約】
【課題】鋳包まれる軽金属合金との間の境界強度を向上させた焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の焼結体の製造方法は、軽金属合金で鋳包まれる焼結体の製造方法であって、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成の金属粉末を所望の形状に成型することにより圧粉体を設ける成型工程と、前記圧粉体を真空下で焼結することにより前記焼結体を設ける真空焼結工程と、前記焼結体の表面の少なくとも一部に対してアルミナ粒子を含む粒子を吹き付けるブラスト処理により、前記焼結体の表面に複数の凹凸部を有する粗面領域を設けるブラスト処理工程と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属合金で鋳包まれる焼結体の製造方法であって、
質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成の金属粉末を所望の形状に成型することにより圧粉体を設ける成型工程と、
前記圧粉体を真空下で焼結することにより前記焼結体を設ける真空焼結工程と、
前記焼結体の表面の少なくとも一部に対してアルミナ粒子を含む粒子を吹き付けるブラスト処理により、前記焼結体の表面に複数の凹凸部を有する粗面領域を設けるブラスト処理工程と、
を備えることを特徴とする、
焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末には、還元法、又は機械的粉砕法により造粉された還元鉄粉が含まれることを特徴とする、
請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した前記凹凸部の凸部分を構成する突出部の算術平均傾斜RΔaの平均を算術平均傾斜4点平均と定義し、前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した隣接する前記突出部の頂点の平均間隔Sの前記粗面領域における平均を平均間隔4点平均と定義した際、
前記ブラスト処理工程では、前記算術平均傾斜4点平均が0.34以上で、前記平均間隔4点平均が116.9μm以下となるようにブラスト処理が行われることを特徴とする、
請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記ブラスト処理工程では、前記平均間隔4点平均が90μm以上となるようにブラスト処理が行われることを特徴とする、
請求項3に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記ブラスト処理工程では、300~1700μmの範囲の粒度分布を有する前記アルミナ粒子を用いることを特徴とする、
請求項3に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記ブラスト処理工程では、アルミナで構成されるアルミナ領域が前記粗面領域の表面に露出するように設けられることを特徴とする、
請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記アルミナ領域は、前記凹凸部の凹部分を構成する窪み部の最深部を起点として前記窪み部の深さ方向の前記焼結体の内部側に広がることを特徴とする、
請求項6に記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記アルミナ領域の少なくとも一部は、前記焼結体が前記軽金属合金で鋳包れる際に、前記軽金属合金に接触することを特徴とする、
請求項6に記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記真空焼結工程では、前記粗面領域の表面近傍の前記焼結体の空孔の圧力が真空にされ、
前記ブラスト処理工程では、前記空孔を塞ぐ遊離Cu相が前記粗面領域の表面に露出し、
前記焼結体が前記軽金属合金で鋳包れる際に、前記空孔を塞ぐ前記遊離Cu相に前記軽金属合金の溶湯が接触して、前記空孔の内部と外部の圧力差により前記軽金属合金の溶湯が前記空孔に移動することを特徴とする、
請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項10】
軽金属合金で鋳包れる焼結体であって、
前記焼結体は、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成を有し、
自身の外周面において複数の凹凸部を有する粗面領域を備え、
前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した前記凹凸部の凸部分を構成する突出部の算術平均傾斜RΔaの平均を算術平均傾斜4点平均と定義し、前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した隣接する前記突出部の頂点の平均間隔Sの前記粗面領域における平均を平均間隔4点平均と定義した際、
前記算術平均傾斜4点平均が0.34以上で、前記平均間隔4点平均が116.9μm以下であることを特徴とする、
焼結体。
【請求項11】
前記平均間隔4点平均が90μm以上であることを特徴とする、
請求項10に記載の焼結体。
【請求項12】
前記粗面領域は、アルミナで構成され、且つ前記粗面領域の表面に露出するアルミナ領域を有することを特徴とする、
請求項10に記載の焼結体。
【請求項13】
前記アルミナ領域は、前記凹凸部の凹部分を構成する窪み部の最深部を起点として前記窪み部の深さ方向の前記焼結体の内部側に広がることを特徴とする、
請求項12に記載の焼結体。
【請求項14】
軽金属合金で鋳包れる焼結体であって、
前記焼結体は、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成を有し、
自身の外周面において複数の凹凸部を有する粗面領域を備え、
前記粗面領域は、前記粗面領域の少なくとも一部の表面に露出し、アルミナで構成されるアルミナ領域を有することを特徴とする、
焼結体。
【請求項15】
前記軽金属合金で前記焼結体が鋳包れた際、前記アルミナ領域の表面の少なくとも一部は、前記軽金属合金が接触する接触領域が形成されることを特徴とする、
請求項14に記載の焼結体。
【請求項16】
軽金属合金で鋳包れる焼結体であって、
前記焼結体は、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成を有し、
前記焼結体の表面に露出する遊離Cu相で塞がれ、且つ内部が真空の空孔を備え、
前記焼結体が前記軽金属合金で鋳包れる際に、前記空孔を塞ぐ前記遊離Cu相に前記軽金属合金の溶湯が接触して、前記空孔の内部と外部の圧力差により前記軽金属合金の溶湯が前記空孔に移動することを特徴とする、
焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体、及び焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品の軽量化および放熱性を高める目的から、軽金属合金の一種である、アルミニウム合金製の自動車部品が一般化しつつある。しかし、アルミニウム合金は、従来の鋳鉄に比べて強度、耐摩耗性、剛性等の機械的特性が低いことや、熱膨張係数が高いことなど、自動車用構造部材としての材料特性が不足する場合があるという問題が生じている。アルミニウム合金製部材の材料特性向上方法の一つに、重力鋳造、ダイカスト鋳造等によって、異種材料を鋳包む技術や、異種材料との複合化技術がある。その複合化技術として、例えば、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体の下部に取り付けられるアルミニウム合金製ハウジングキャップの軸受部に、鉄系材料を鋳包んだエンジンブロックが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉄系材料がアルミニウム合金で鋳包まれる過程で、アルミニウム合金の溶湯が鉄系材料に接した状態でアルミニウム合金の溶湯が固まる際、アルミニウム合金には、場所ごとの温度差に起因した引張力が生じる。この際、鉄系材料からアルミニウム合金が剥がれるおそれがある。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、鋳包まれる軽金属合金との間の境界強度を向上させた焼結体、及びその焼結体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軽金属合金で鋳包まれる焼結体の製造方法であって、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成の金属粉末を所望の形状に成型することにより圧粉体を設ける成型工程と、前記圧粉体を真空下で焼結することにより前記焼結体を設ける真空焼結工程と、前記焼結体の表面の少なくとも一部に対してアルミナ粒子を含む粒子を吹き付けるブラスト処理により、前記焼結体の表面に複数の凹凸部を有する粗面領域を設けるブラスト処理工程と、を備えることを特徴とする、焼結体の製造方法である。
【0007】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記金属粉末には、還元法、又は機械的粉砕法により造粉された還元鉄粉が含まれることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した前記凹凸部の凸部分を構成する突出部の算術平均傾斜RΔaの平均を算術平均傾斜4点平均と定義し、前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した隣接する前記突出部の頂点の平均間隔Sの前記粗面領域における平均を平均間隔4点平均と定義した際、前記ブラスト処理工程では、前記算術平均傾斜4点平均が0.34以上で、前記平均間隔4点平均が116.9μm以下となるようブラスト処理が行われることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記ブラスト処理工程では、前記平均間隔4点平均が90μm以上となるようブラスト処理が行われることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記ブラスト処理工程では、300~1700μmの範囲の粒度分布を有する前記アルミナ粒子を用いることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記ブラスト処理工程では、アルミナで構成されるアルミナ領域が前記粗面領域の表面に露出するように設けられることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記アルミナ領域は、前記凹凸部の凹部分を構成する窪み部の最深部を起点として前記窪み部の深さ方向の前記焼結体の内部側に広がることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記アルミナ領域の少なくとも一部は、前記焼結体が前記軽金属合金で鋳包れる際に、前記軽金属合金に接触することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の焼結体の製造方法において、前記真空焼結工程では、前記粗面領域の表面近傍の前記焼結体の空孔の圧力が真空にされ、前記ブラスト処理工程では、前記空孔を塞ぐ遊離Cu相が前記粗面領域の表面に露出し、前記焼結体が前記軽金属合金で鋳包れる際に、前記空孔を塞ぐ前記遊離Cu相に前記軽金属合金の溶湯が接触して、前記空孔の内部と外部の圧力差により前記軽金属合金の溶湯が前記空孔に移動することを特徴とする。
【0015】
本発明の焼結体は、軽金属合金で鋳包れる焼結体であって、前記焼結体は、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成を有し、自身の外周面において複数の凹凸部を有する粗面領域を備え、前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した前記凹凸部の凸部分を構成する突出部の算術平均傾斜RΔaの平均を算術平均傾斜4点平均と定義し、前記粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいて導出した隣接する前記突出部の頂点の平均間隔Sの前記粗面領域における平均を平均間隔4点平均と定義した際、前記算術平均傾斜4点平均が0.34以上で、前記平均間隔4点平均が116.9μm以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の焼結体において、前記平均間隔4点平均が90μm以上であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の焼結体において、前記粗面領域は、アルミナで構成され、且つ前記粗面領域の表面に露出するアルミナ領域を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の焼結体において、前記アルミナ領域は、前記凹凸部の凹部分を構成する窪み部の最深部を起点として前記窪み部の深さ方向の前記焼結体の内部側に広がることを特徴とする。
【0019】
本発明の焼結体は、軽金属合金で鋳包れる焼結体であって、前記焼結体は、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成を有し、自身の外周面において複数の凹凸部を有する粗面領域を備え、前記粗面領域は、前記粗面領域の少なくとも一部の表面に露出し、アルミナで構成されるアルミナ領域を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の焼結体において、前記軽金属合金で前記焼結体が鋳包れた際、前記アルミナ領域の表面の少なくとも一部は、前記軽金属合金が接触する接触領域が形成されることを特徴とする。
【0021】
本発明の焼結体は、軽金属合金で鋳包れる焼結体であって、前記焼結体は、質量%で、C:0.5~2.5%、Cu:5~40%を含み、残部における主成分がFeとなる組成を有し、前記焼結体の表面に露出する遊離Cu相で塞がれ、且つ内部が真空の空孔を備え、前記焼結体が前記軽金属合金で鋳包れる際に、前記空孔を塞ぐ前記遊離Cu相に前記軽金属合金の溶湯が接触して、前記空孔の内部と外部の圧力差により前記軽金属合金の溶湯が前記空孔に移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の焼結体、及びその焼結体の製造方法によれば、軽金属合金で鋳包まれても軽金属合金が剥がれ難いという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(A)は、本発明の実施形態における焼結体としての補助部材の正面概略図である。(B)は、本発明の実施形態における焼結体としての補助部材の底面概略図である。
【
図2】(A)は、本発明の実施形態における焼結体の粗面領域の断面図である。(B)は、アルミニウム合金で鋳包まれた本発明の実施形態における焼結体の粗面領域の断面図である。
【
図3】アルミニウム合金で鋳包まれた本発明の実施形態における焼結体としての補助部材を示す断面概略図である。
【
図4】本発明の実施形態におけるパラメータ(算術平均傾斜RΔa)の概念(局部傾斜K)を模式的に示した図である。
【
図5】本発明の実施形態における焼結体の製造方法を表すフローチャートである。
【
図6】(A)は、実施例1における本発明側補強部材の粗面領域を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer:以下同様)により観察倍率400倍でSEM像観察を実施した際のSEM像写真である。(B)は、実施例1における比較例側補強部材の粗面領域を、EPMAにより観察倍率400倍でSEM像観察を実施した際のSEM像写真である。
【
図7】(A)は、EPMAにより観察倍率40倍で観察した実施例1における本発明側補強部材の粗面領域のSEM像の写真(左上領域)、及びFe(左下領域)、Al(右上領域)、Cu(右下領域)のKα線による特性X線像の写真である。(B)は、EPMAにより観察倍率40倍で観察した実施例1における比較例側補強部材の粗面領域のSEM像の写真(左上領域)、及びFe(左下領域)、Al(右上領域)、Cu(右下領域)のKα線による特性X線像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図7は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0025】
<焼結体>
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態における焼結体1について以下説明する。本実施形態における焼結体1は、焼結処理を施された構造体であり、軽金属合金で鋳包まれる。軽金属合金として、例えば、アルミニウム合金が挙げられるが、これに限定されるものではなく、その他の種類の軽金属合金であってもよい。なお、以下において軽金属合金がアルミニウム合金の場合を例にとって説明するが、以下の説明はアルミニウム合金以外の軽金属合金にも適用可能である。焼結体1は、例えば、内燃機関の軸受部に対応する位置に装着される補強部材100(
図1(A),(B)参照)であってもよいし、その他の構造体であってもよい。
【0026】
図1(A)に示すように、補強部材100は、本体部110と、2つの延在部120と、を有する。本体部110は、アーチ状に形成される。延在部120は、本体部110の両下端部を結ぶ直線方向Aに沿って、本体部110の両下端部を起点として本体部110から離れる側に延在する。本体部110と延在部120は、一体形成されることが想定されるが、別部材として構成され、連結手段により連結されてもよい。補強部材100は、軸受部に対応する位置に1対配置される。そして、1対の補強部材100は、互いの内周面130が対向するような姿勢で軸受部に配置される。
【0027】
また、本実施形態における焼結体1は、
図1(A)に示すように、直線方向Aに直交する焼結体1の高さ方向Hに焼結体1を貫通する貫通孔150を複数有することが好ましい。焼結体1がアルミニウム合金で鋳包まれる際、アルミニウム合金の溶湯は貫通孔150を通過するため(
図3参照)、焼結体1に対するアルミニウム合金の溶湯の湯回りが良好になり、焼結体1の内周面130及び外周面140に均一にアルミニウム合金の溶湯が供給されるからである。結果、焼結体1とアルミニウム合金の境界強度が向上する。
【0028】
<粗面領域>
焼結体1は、
図2(A)に示すように、複数の凹凸部5を有する粗面領域4を有する。凹凸部5は、焼結体1の表面1B上に形成される凹凸部分である。凹凸部5は、窪み部6と、窪み部6に隣接する突出部7とにより構成される。窪み部6は、凹凸部5の凹部分を構成し、隣接する突出部7の頂部を基準として焼結体1の内部側に窪んだ部分である。突出部7は、凹凸部5の凸部分を構成し、隣接する窪み部6の基底面を基準として焼結体1の外部側に突出する部分である。窪み部6と突出部7が、交互に複数並んで複数の凹凸部5が設けられる。
図2(B)に示すように、アルミニウム合金11で焼結体1を鋳包む過程で、粗面領域4の複数の凹凸部5(窪み部6)にアルミニウム合金11の溶湯が入り込めば、アルミニウム合金11と焼結体1の接合面積が大きくなるので、アルミニウム合金11と焼結体1の境界強度が向上する。
【0029】
粗面領域4における任意の4つの領域のそれぞれにおいてJIS B 0601-1982の規定に準拠して、測定の基準となる基準測定長さの範囲での断面曲線に基づいて導出した十点平均粗さRzの平均を十点平均粗さ4点平均と定義した場合、焼結体1の粗面領域4における十点平均粗さ4点平均は、10~100μmの範囲となることが好ましい。十点平均粗さ4点平均が10μm未満では、十分な表面積の増加が得られずアルミニウム合金11との密着性および境界強度が不足する。一方、十点平均粗さ4点平均が100μmを超えて粗くなると、寸法、精度が不足するとともに、最表面に表層クラックが発生しやすく、密着性及び境界強度が低下する。ちなみに、表面積の増加による密着性および境界強度や、表層クラック、密着性及び境界強度の低下を考えると、表面粗さは、十点平均粗さ4点平均で20~60μmの範囲となることがより好ましい。なお、十点平均粗さRzは、表面粗さパラメータの一つである。
【0030】
ちなみに、粗面領域4における任意の4つの領域のそれぞれは、位置が限定されるものではなく、粗面領域4のいずれの位置の領域であってもよい。例えば、
図1(A),(B)に示す補強部材100を例に挙げると、粗面領域4における4つの領域は、補強部材100の内周面130、外周面140、正面160、及び背面170のいずれか一つの面(同一面)から選択された4つの領域であってもよいし、内周面130、外周面140、正面160、及び背面170のうちの複数の面(複数面)から選択された4つの領域であってもよい。同一面から選択された4つの領域は、例えば、相互に等間隔(例えば、1(mm)または2(mm))、または不等間隔を空けて選択されたものであってもよい。4つの領域の間の間隔は、十点平均粗さRzのばらつきを考慮して決定される。また、任意の4つの領域のそれぞれは、上記十点平均粗さRzに対応する基準測定長さの範囲の断面曲線を取れる広さを有すればよい。また、任意の4つの領域のそれぞれは、下記の局部山頂の平均間隔Sに対応する基準測定長さの範囲の粗さ曲線を取れる広さを有すればよい。また、任意の4つの領域のそれぞれは、下記の算術平均傾斜RΔaに対応する基準測定長さの範囲の粗さ曲線を取れる広さを有すればよい。
【0031】
粗面領域4における任意の4つの領域のそれぞれにおいてJIS B 0601-1994の規定に準拠して、測定の基準となる基準測定長さの範囲での粗さ曲線に基づいて導出した局部山頂の平均間隔S(隣接する突出部7の頂部の平均間隔)の平均を平均間隔4点平均と定義した場合、焼結体1の粗面領域4における平均間隔4点平均は、116.9μm以下となることが好ましく、115.0μm以下となることがより好ましく、112.0μm以下となることが更に好ましい。上記平均間隔4点平均が116.9μm以上であると、粗面領域4に形成される凹凸部5の数が少なくなり、十分な表面積の増加を得られないからである。また、焼結体1の粗面領域4では、平均間隔4点平均が90μm以上となることが好ましく、95μm以上となることがより好ましく、97μm以上となることが更に好ましい。上記平均間隔4点平均を90μm以下とする加工は手間がかかると共に、窪み部6の幅が狭くなりすぎてアルミニウム合金11の溶湯が窪み部6に入り込み難くなるからである。なお、局部山頂の平均間隔Sは、表面粗さパラメータの一つである。
【0032】
粗面領域4における任意の4つの領域のそれぞれにおいて凹凸部5の突出部7の算術平均傾斜RΔaの平均を算術平均傾斜4点平均と定義した場合、算術平均傾斜4点平均は、0.34以上となることが好ましく、0.35以上となることがより好ましく、0.36以上となることが更に好ましい。算術平均傾斜4点平均が0.34以下では、突出部7は、十分な傾斜を有しないので突出部7がなめらかとなり、これに伴い、上記平均間隔4点平均を116.9μm以下にすることが難しいからである。なお、算術平均傾斜RΔaは、測定の基準となる基準測定長さの範囲の粗さ曲線における局部傾斜K(=dZ/dX)(
図4参照)の算術平均を表わしたものである。
【0033】
焼結体1が上記説明した補強部材100で構成される場合、
図3に示すように、補強部材100の内周面130側を覆う内燃機関2の内周面側鋳包み部20の厚みは薄い。このため、対応する金型(図示省略)に焼結体1をセットして、その金型にアルミニウム合金11の溶湯を流し込んで焼結体1を鋳包む際、アルミニウム合金11の溶湯が冷えて固まる過程で、場所に応じた固まる速度の違いに起因して、内周面側鋳包み部20には、
図3に示すように、外側(矢印方向F)に引っ張られる力が働く。結果、補強部材100の内周面130から内周面側鋳包み部20が剥がれるおそれがある。このため、補強部材100の内周面130に粗面領域4を設けることにより、補強部材100の内周面130と内周面側鋳包み部20の境界強度を向上させることが好ましい。
【0034】
一方、補強部材100の外周面140を鋳包む部分では、アルミニウム合金11が剥がれるおそれが少ない。このため、補強部材100の外周面140には、粗面領域4を設けても設けなくてもよい。
【0035】
従って、粗面領域4は、焼結体1の表面の少なくとも一部(補強部材100では内周面130)に設けられればよい。ただし、これに限定されるものではなく、焼結体1の表面の全領域に粗面領域4が設けられてもよい。
【0036】
以上のような粗面領域4を有する焼結体1がアルミニウム合金11で鋳包まれると、両者間に十分な接合面積が得られるので、焼結体1とアルミニウム合金11の間の境界強度が向上する。
【0037】
<アルミナ領域>
また、
図2(A)に示すように、本実施形態における焼結体1は、粗面領域4の凹凸部5の表面に露出する複数のアルミナ領域8を有する。アルミナ領域8は、アルミナ(酸化アルミニウム:Al
2O
3)で構成される。
図2(A)に示すように、アルミナ領域8は、窪み部6の最深部を起点に窪み部6の深さ方向の焼結体1の内部側に広がる。そして、アルミナ領域8において焼結体1の表面に露出する露出面以外は、周囲の焼結体1の構成部分(基地1A)に接触(連続)した状態にある。結果、つまり、アルミナ領域8の露出面は、窪み部6の底面を構成する。なお、焼結体1の基地1Aとは、アルミナ領域8以外の焼結体1のベースとなる部分を指す。
【0038】
また、本実施形態においてアルミナ領域8は、複数の窪み部6のうちの一部だけに設けられることが好ましいが、これに限定されるものではなく、複数の窪み部6の全てに設けられてもよい。なお、アルミナ領域8は、粗面領域4が設けられた後に別途アルミナを付着させて設けてもよい。また、アルミナ領域8は、後述する焼結体の製造方法のブラスト処理工程で用いたアルミナグリッドの残留物によって構成されてもよい。この場合、アルミナ領域8のアルミナは、後述する製造方法の焼結工程を終えたもの(後述する焼結済前駆体)に機械的に食い込んでいると考えられる。
【0039】
焼結体1がアルミニウム合金11に鋳包まれる過程で、
図2(B)に示すように、アルミニウム合金11の溶湯が窪み部6に入り込む。そして、粗面領域4が形成されていない焼結体1の表面1Bを粗面領域4まで延長したもの、又は、粗面領域4が形成される前の粗面領域4に対応する領域に存在した焼結体1の表面を仮想表面1Cと定義した際、最終的に、仮想表面1Cを基準とした深さが浅い窪み部6には、アルミニウム合金11の溶湯が最深部まで入り込むが、仮想表面1Cを基準とした深さが深い窪み部6には、アルミニウム合金11の溶湯が最深部まで到達せずに途中まで入り込んだ状態となることがあり得る。
【0040】
図2(B)に示すように、アルミニウム合金11の溶湯が窪み部6の最深部まで到達しないと、焼結体1との間に空気層12が形成される。空気層12の体積は、アルミニウム合金11と焼結体1の境界強度を向上させる上では、小さい方が好ましい。窪み部6の最深部を起点とした下方側領域にアルミナ粒子を配置させてアルミナ領域を形成させれば、窪み部6の最深部を底上げして窪み部6の仮想表面1Cを基準とした窪み部6の見かけ上の深さを浅くすることができるので、空気層12の体積を小さくすることができる。
【0041】
また、アルミニウム合金11の溶湯がアルミナ領域8に接触するまで流れ込むと、アルミナ領域8の表面(露出面)とアルミニウム合金11が接触する接触領域13が設けられる。接触領域13がアルミナ領域8の表面(露出面)全体まで広がると、空気層12が形成されない。また、接触領域13がアルミナ領域8の表面(露出面)の一部領域であっても、空気層12を小さくすることができる。このため、いずれにしても接触領域13が設けられると、アルミニウム合金11と焼結体1の境界強度が高くなる。また、アルミニウム合金11とアルミナは同種の金属を含むため、接触しても問題は生じない。
【0042】
<空孔と遊離Cu相>
また、
図2(A)に示すように、本実施形態における焼結体1は、遊離Cu相9を有する。遊離Cu相9には、粗面領域4の凹凸部5の表面に露出する複数の第一遊離Cu相9Aと、凹凸部5の表面近傍で焼結体1の内部に位置する複数の第二遊離Cu相9Bが含まれる。なお、遊離Cu相9、第一遊離Cu相9A及び第二遊離Cu相9Bとは、銅(Cu)で構成された領域である。
【0043】
アルミニウム合金11で焼結体1が鋳包まれると、アルミニウム合金11の溶湯は上記第一遊離Cu相9Aに接触する。鉄よりも銅の方がアルミニウム合金11等の軽金属合金とのぬれ性がよいので、アルミニウム合金11の溶湯と第一遊離Cu相9Aの接触面積は大きくなる。そして、アルミニウム合金11の溶湯が第一遊離Cu相9Aに接触すると、第一遊離Cu相9Aとアルミニウム合金11の溶湯が反応して両者は強固な接合を形成する。
【0044】
複数の第一遊離Cu相9Aの中には、粗面領域4の凹凸部5の表面近傍で焼結体1の内部に位置する空孔10を塞ぐものもある。その第一遊離Cu相9Aにアルミニウム合金11の溶湯が接触すると、その第一遊離Cu相9Aとアルミニウム合金11の溶湯が反応して、空孔10は外部に開放される。この際、空孔10の内部と外部との圧力差により、アルミニウム合金11の溶湯は空孔10の内部に吸引される。そのアルミニウム合金11の溶湯が空孔10で凝固すると、アンカー効果を発揮して、アルミニウム合金11と焼結体1の境界強度をより向上させる。
【0045】
なお、この圧力差が大きいほど、空孔10の内部にアルミニウム合金11の溶湯が導かれやすい。本実施形態では、空孔10の内部圧力は真空であるので、空孔10の内部と外部の圧力差は大きい。このため、本実施形態では、空孔10内にアルミニウム合金11の溶湯を確実に導くことができる。ちなみに、真空とは、大気圧(焼結体1の外部の圧力)よりも低い圧力を指すが、真空状態には、JIS(日本工業規格)に準拠した低真空、中真空、高真空、超高真空がある。本実施形態においては、いずれの真空状態であってもよいが、上記圧力差を大きくするためには、高真空、超高真空を含む中真空以下の圧力が好ましい。以上のように構成される空孔10は、
図2(A)では、複数設けられているが、これに限定されるものではなく、1つだけ設けられてもよい。
【0046】
<焼結体を構成する材料>
本実施形態における焼結体1は、質量%で、C(炭素):0.5~2.5%、Cu(銅):5~40%を含み、残部にFe(鉄)及び不可避的不純物を含む基地組成を有する。本実施形態における焼結体1では、残部の主成分がFeとなるが、これに限定されるものではない。また、焼結体1では、残部のみならず全体の主成分がFeであってもよく、この場合、焼結体1は、鉄系焼結体と呼んでもよい。また、上記残部には、例えば、質量%で、Cr(クロム):30%以下、Mo(モリブデン):10%以下、Si(シリコーン):3%以下、Mn(マンガン):2.5%以下、W(タングステン):5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下が含まれてもよい。なお、本明細書において組成における質量%は単に%と記す。
【0047】
<C(炭素)>
Cは、焼結体1の強度、硬さを増加させる元素であり、本実施形態では強度確保あるいは基地を被削性に優れたパーライト組織とするために、0.5%以上の含有を必要とする。一方、2.5%を超えて含有すると、焼結体1の基地に網目状にセメンタイトが析出し、焼結体1の被削性や強度が低下する。また、2.5%を超えて含有すると、Cは、黒鉛として残留し、アルミニウム合金で鋳包るまれる際、焼結体1とアルミニウム合金の密着性の低下を招くおそれがある。このため、Cの含有量は0.5~2.5%に限定した。なお、Cの含有量は好ましくは0.5~2.0%であり、より好ましくは0.8~1.5%である。
【0048】
<Cu(銅)>
Cuは、固溶して焼結体1の強度を増加させるとともに、遊離Cu相9として基地中に析出して、焼結体1がアルミニウム合金11で鋳包まれる際にアルミニウム合金11と反応し、焼結体1とアルミニウム合金11との境界強度を増加させる作用を有する。Cu含有量が5%未満では遊離Cu相9の析出がほとんど認められず、所望の境界強度を確保することができない。一方、40%を超えて含有すると、強度等の機械的特性が低下する。このため、Cuの含有量は5~40%の範囲に限定した。なお、Cuの含有量は好ましくは5~30%であり、より好ましくは5~25%である。
【0049】
<Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Si(シリコーン)、Mn(マンガン)、W(タングステン))>
Cr、Mo、Si、Mn、Wは、いずれも焼結体1の強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じ1種または2種以上含有できる。しかし、Cr:30%、Mo:10%、Si:3%、Mn:2.5%、W:5%を超えて含有すると、焼結が困難となり強度が低下する。またとくに、Cr、Wが上記した値を超えて含有されると、炭化物が粗大化し被削性が低下する。また、Siが上記した値を超えて含有されると、シリコーンの酸化物が増加し、融点が低下するとともに被削性が劣化する。また、これら元素の含有量が合計で40%を超えると、合金元素の均一分布が困難となり強度が低下する。なお、Cr、Mo、Si、Wは、Feより熱膨張係数が小さく、焼結体1の熱膨張係数の調整用として好適である。
【0050】
<残部>
本実施形態の焼結体1の基地組成では、残部の主成分はFeである。また、本実施形態の焼結体1は、上記した基地組成を有するとともに、さらに、空孔10と、基地組織と、基地中に分散した遊離Cu相9(第一遊離Cu相9A及び第二遊離Cu相9B)を有する組織とする。なお、さらに基地中に体積率で2%以下の遊離黒鉛相を分散させてもよい。ちなみに、本実施形態の焼結体1の基地組成は、残部のみならず全体の主成分がFeであってもよい。また、上記残部にはFe以外に不可避的不純物が含まれるが、それ以外の成分が含まれていてもよいし、含まれなくてもよい。
【0051】
<基地組織>
本実施形態の焼結体1では、基地組織はパーライト組織とすることが好ましい。基地組織をパーライト組織とすることにより被削性が向上する。なお、基地組織は被削性の観点から、このパーライトに代えて、ソルバイト、トルースタイトとしてもよい。なお、ベイナイト、マルテンサイト、およびそれらの混合組織としても何ら問題はない。
【0052】
<遊離Cu相>
焼結体1の基地中に分散する遊離Cu相9(第一遊離Cu相9A及び第二遊離Cu相9B)は、体積率で5~30%とすることが好ましい。遊離Cu相9が5%未満と少ないと、Cuとアルミニウム合金11との金属間化合物の形成が少なく境界強度が低下する。一方、30%を超えて多くなると、焼結体1の強度がアルミニウム合金11の強度以下となり、かえって境界強度も低下する。基地中に遊離Cu相9が多数分散していることにより、鋳包まれたときに、アルミニウム合金11の溶湯と遊離Cu相9が反応して金属間化合物を形成するため、アルミニウム合金11の溶湯が焼結体1の奥深くまで浸透せずに接合点を多数確保でき高い境界強度が得られる。
【0053】
<空孔>
焼結体1は、空孔10(
図2(A)参照)を含むが、本実施形態では、空孔10は互いに独立または断続して存在する。ここで、「断続した空孔」とは、複数個の空孔10が連続しているが、それ以上の多くの数の空孔10との連続性を有していない空孔を意味する(図示省略)。本発明でいう「空孔が独立または断続して存在する」とは、(連続した空孔量)/(全空孔量)×100%で定義される値が50以下の場合をいうものとする。50超えの場合を空孔10が連続しているとする。なお、全空孔量は、アルキメデス法で測定した密度から換算して求めるものとする。また、連続した空孔量は、焼結体1を液状のワックス等中に60min間浸漬しワックスを浸透させ、浸透前後の重量変化量から換算しその量を求め連続した空孔量とする。
【0054】
空孔10が独立または断続して存在することにより、鋳包み時に、アルミニウム合金11の溶湯が焼結体1の内部まで浸透することが少なく、アルミニウム合金11の浸透による特性劣化が少なくなり、焼結体1本来の強度、熱膨張係数の維持が可能となる。なお、本実施形態の焼結体1の空孔率は5~35体積%とすることが好ましい。空孔率が5体積%未満では加圧成形時に多大の成形圧力を必要とし、大型の成形設備を必要とし、生産性も低下し経済的に不利となる。一方、35体積%を超えると、鋳包むアルミニウム合金11が深部まで溶浸し焼結体1の特性が低下する。なお、空孔率はアルキメデス法で焼結体1の密度を測定し、体積%に換算して求めるものとする。
【0055】
<被削性改善用微細粒子>
また、本実施形態の焼結体1は、上記した組成の基地中に、被削性改善のため、被削性改善用微細粒子を分散させることが好ましい。分散させる被削性改善用微細粒子としては、MnS、CaF2、BNおよびエンスタタイトのうちから選ばれた1種または2種以上とすることが好ましい。MnS、CaF2、BNおよびエンスタタイトはいずれも、被削性を改善する粒子であり、必要に応じ選択して含有できる。
【0056】
このような被削性改善用微細粒子を基地中に均一分散させることにより、切削中の切粉は,これらの微細粒子と微細粒子間の距離で決定される大きさに分断されるため、切削抵抗は低く維持される。また、基地中に分散させる被削性改善用微細粒子は、粒径:150μm以下の微細粒子とすることが好ましい。微細粒子の粒径が150μmを超えると、境界強度が低下する。なお、好ましくは5~100μmである。
【0057】
また、焼結体1の基地中に分散させる被削性改善用微細粒子の含有量は、混合粉(鉄系粉末、銅粉末、黒鉛粉末、被削性改善用微細粒子粉末の合計量)に対し0.1~5質量%とすることが好ましい。被削性改善用微細粒子の含有量が、0.1質量%未満では被削性改善の効果が認められない。一方、5質量%を越えて含有すると、基地との密着強度および界面の密着強度が低下する。このため、粒径:150μm以下の被削性改善用微細粒子は、0.1~5質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0058】
<熱膨張係数>
上記した基地組成、組織を有する本実施形態の焼結体1は、室温から200℃までの平均で13.5×10
-6/℃以下の熱膨張係数を有する。室温から200℃までの平均熱膨張係数が13.5×10
-6/℃以下であれば、アルミニウム合金11が断続して存在する空孔10に溶浸した場合でも平均熱膨張係数が15.0×10
-6/℃以下とすることができ、例えば、内燃機関の鉄系材料製クランクシャフトの熱膨張係数(9×10
ー6~12×10
ー6/K程度)に近い値とすることができる。そして、例えば、
図3に示すように、焼結体1が内燃機関2の軸受部3に鋳包まれた場合、内燃機関2の稼動時の軸受部3の熱膨張を抑えることができ、軸受部3とクランクシャフトとの熱膨張率の差によりクリアランス変化量を適正に維持することができるという効果がある。
【0059】
<焼結体の製造方法>
図5を参照して、本実施形態における焼結体1の製造方法の一例について以下説明する。本実施形態における焼結体1の製造方法は、
図5に示すように、粉末混合工程S100と、成型工程S110と、真空焼結工程S120と、加工工程S130と、ブラスト処理工程S140と、を有する。
【0060】
<粉末混合工程>
粉末混合工程S100では、複数種類の粉末を混合して、焼結体1の原料となる金属粉末を設ける。金属粉末は、鉄系粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末と、潤滑剤粉末と、あるいはさらに被削性改善用微細粒子とを混合して設けられる。混合方法は、とくに限定する必要はないが、Vミルを用いることが経済上から好ましい。
【0061】
上記鉄系粉末は、純鉄粉とすることが好ましい。そして、本実施形態の焼結体1の純鉄粉は、アトマイズ鉄粉と異なる種類のもの(非アトマイズ鉄粉)が好ましく、還元鉄粉が特に好ましい。還元鉄粉には、還元法により設けられたものであってもよいし、機械的粉砕法により設けられたものであってもよい。なお、還元法とは、対象物に還元作用(例えば、仕上還元(第二還元)前の粗還元(第一還元))を施すものである。還元法により設けられる還元鉄粉は、原料であるミルスケールを粗還元(第一還元)した後,粉砕、仕上還元(第二還元)を経て設けられる。また、機械的粉砕法とは、圧縮作用、曲げ作用、せん断作用、衝撃作用、摩擦作用などが単独に作用して被粉砕物を粉砕するか、又は、複数の作用が組み合わせられて被粉砕物を粉砕する方法を指す。機械的粉砕法において被粉砕物が比較的大きい塊の場合にはジークラッシャ、ハンマーミル、又はスタンプミルにより被粉砕物が粉砕され、ある程度粉砕されたものではボールミル、振動ミルにより被粉砕物は微細化される。機械的粉砕法により設けられる還元鉄粉は、原料を機械的に粉砕した後に仕上還元を経て設けられる。
【0062】
一方、アトマイズ鉄粉は、噴霧法により設けられるものである。具体的にアトマイズ鉄粉は、例えば、溶鋼を高圧水でアトマイズした後、仕上還元を経て設けられるものである。アトマイズ鉄粉は、一般的に圧縮性が良く、圧縮すると密度が上がりやすい。しかし、アトマイズ鉄粉を材料に用いた焼結体は、微細空孔を形成する傾向があると共に、還元鉄粉を用いた場合と比較すると密度が同じでも表面粗さが小さくなる傾向がある。結果、アトマイズ鉄粉を用いた場合に比較して還元鉄粉を用いた方が焼結体の表面粗さは大きくなると共に、断続した空孔が得られやすい。このため、還元鉄粉を用いた焼結体がアルミニウム合金で鋳包まれた際、アルミニウム合金との間の境界強度が高くなる。また、アトマイズ鉄粉を用いた焼結体は、アルミニウムで鋳包まれる際、アルミニウムの溶湯の熱により結晶粒界の酸化が大きい傾向があり、強度が劣化するが、還元鉄粉を用いた焼結体は、結晶粒界の酸化の度合いは低く、強度も劣化しない。以上の理由から、鉄系粉末には、還元鉄粉を用いることが好ましい。
【0063】
上記銅粉末は、純銅粉末を用いることが好ましい。銅粉末は金属粉末(鉄系粉末、合金元素粉末、銅粉末、黒鉛粉末、被削性改善用微細粒子粉末の合計量)中のCu含有量が、5~40質量%となるように添加する。金属粉末中のCu含有量が5質量%未満では遊離Cu相9の析出が認められない。一方、40質量%を超えると、強度等の機械的特性が低下する。このため、銅粉末は、金属粉末中のCu含有量が5~40質量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは5~25質量%である。
【0064】
黒鉛粉末は、焼結体の強度を増加させ、基地組織をパーライトとし被削性を向上させる合金元素として添加する。このためには、金属粉末中のC含有量が0.5~2.5質量%となるように、調整して添加する必要がある。また、潤滑剤粉末は、圧粉成形時の成形性を向上し、圧粉密度を増加させるために金属粉末中に含有される。潤滑剤粉末としては、ステアリン酸亜鉛等が好ましい。なお、金属粉末中の潤滑剤粉末の混合量は、金属粉末全量(鉄系粉末、銅粉末、合金元素粉末、黒鉛粉末、被削性改善用微細粒子粉末の合計量)100重量部に対し、0.5~5重量部とすることが好ましい。
【0065】
本発明では、上記した鉄系粉末、銅粉末、黒鉛粉末、潤滑剤粉末に加えてさらに、金属粉末には、被削性改善のために、被削性改善用微細粒子粉末を含有することができる。被削性改善用微細粒子粉としては、MnS、CaF2、BN、およびエンスタタイトのうちから選ばれた1種または2種以上とすることが好ましい。MnS、CaF2、BN、およびエンスタタイトはいずれも、被削性を改善する粒子であり、必要に応じて選択して含有できる。また、金属粉末に添加する被削性改善用微細粒子粉は、粒径:150μm以下の微細粒子粉とすることが好ましい。微細粒子粉の粒径が150μmを超えると、境界強度が低下する。なお、好ましくは5~100μmである。金属粉末中に被削性改善用微細粒子粉を含有する場合には、被削性改善用微細粒子粉の含有量は金属粉末全量(鉄系粉末、銅粉末、合金元素粉末、黒鉛粉末、被削性改善用微細粒子粉末の合計量)に対し0.1~5質量%とすることが好ましい。0.1質量%未満では、被削性改善効果が少なく、一方、5質量%を超えると境界強度が低下する。
【0066】
また、本実施形態では、上記した金属粉末に、さらに合金元素粉末として、Cr粉、Mo粉、W粉、Fe-Cr粉、Fe-Mo粉、Fe-W粉を、単独または複合して、金属粉末全量(鉄系粉末、合金元素粉末、銅粉末、黒鉛粉末、被削性改善用微細粒子粉末の合計量)に対し、質量%で、Cr:30%以下、Mo:10%以下、Si:3%以下、Mn:2.5%以下、W:5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有するように配合することが好ましい。
【0067】
Cr粉、Mo粉、W粉、Fe-Cr粉、Fe-Mo粉、Fe-W粉はいずれも、焼結体の強度向上、熱膨張係数低下のために配合するもので、合計で40質量%以下となるように配合することが好ましい。配合量が、40質量%を超えて配合すると、合金元素の均一性が低下し、強度が劣化する。なお、混合方法は、とくに限定する必要はないが、Vミルを用いることが経済上から好ましい。
【0068】
<成型工程>
成型工程S110では、粉末混合工程S100で設けられた金属粉末を所望の形状に成型して圧粉体を設ける。成型工程S110における成型方法に特に限定はないが、例えば、金属粉末を金型に入れて、プレス機により加圧して押し固める金型成型、金属粉末射出成形(MIM)等の成型方法が一例として挙げられる。なお、金型成型を行う場合、焼結体1が室温から200℃までの平均熱膨張係数が13.5×10-6/℃以下を有するように、圧粉体の加圧成型条件を調整することが好ましい。
【0069】
<真空焼結工程>
真空焼結工程S120では、圧粉体を真空焼結炉に入れて真空下で焼結(真空焼結処理)することにより焼結済前駆体を設ける。なお、本実施形態では、ブラスト処理工程S140を経たものを焼結体1と呼び、ブラスト処理工程S140を経ていないものは焼結体1との区別のため、焼結済前駆体と呼ぶこととする。焼結温度は、1100~1180℃が好ましい。また、真空とは、大気圧より低い圧力の状態を指し、焼結炉内の圧力は、1(torr)以下が好ましい。圧粉体を真空下で焼結することで、焼結済前駆体の表面に酸化被膜が形成されることを制限できる。結果、焼結済前駆体の表面は、清浄化された状態となる。また、真空焼結工程S120では、焼結済前駆体の内部の空孔10内の圧力を真空にすることができる。そして、真空焼結工程S120では、雰囲気下で焼結処理を行った場合に比べて空孔10内の圧力をより低くすることができる。結果、空孔10を塞ぐ第一遊離Cu相9Aにアルミニウム合金11の溶湯が接触して空孔10が外部に開放された際、空孔10の内部にアルミニウム合金11の溶湯を確実に引き込むことができ、アルミニウム合金11と焼結体1の境界強度を強固なものにすることができる。
【0070】
なお、焼結条件は、焼結済前駆体が室温から200℃までの平均熱膨張係数が13.5×10-6/℃以下を有するように、温度、時間を調整することが好ましい。また、空孔10が単独または断続して存在させるためには、焼結条件を調整して、部分液相焼結を行なうことが好ましい。これにより、空孔10が遊離Cu相9で塞がれた状態となり空孔10が単独および断続して存在する状態となる。
【0071】
<ブラスト処理工程>
ブラスト処理工程S140では、焼結済前駆体の表面の少なくとも一部に対して、アルミナ粒子(以下、適宜、アルミナグリッドと呼ぶ。)を吹き付けるブラスト処理を行う。ブラスト処理により焼結体1が完成する。アルミナグリッド(アルミナ粒子)は、鋭角な形状を有する。本工程のブラスト処理で用いられるメディアは、アルミナグリッドで構成されるが、主としてアルミナグリッドを含めば、一部別のものが含まれてもよい。ブラスト処理により焼結済前駆体の表面にアルミナグリッドを衝突させると、焼結済前駆体の表面にアルミナグリッドが刺さり込み、焼結済前駆体の表面が削られる。結果、焼結済前駆体の表面に複数の凹凸部5を有する粗面領域4が設けられ、焼結体1が完成する。
【0072】
ブラスト処理を行う過程で、アルミナグリッド同士の衝突やアルミナグリッドと焼結済前駆体の表面の衝突により、破砕されて様々な形状・大きさになるアルミナグリッドの数は多い。破砕したアルミナグリッドは、更に焼結済前駆体の表面に衝突して刺さり込み得る。結果、単位面積当たりに焼結済前駆体に衝突するアルミナグリッドの数は多くなる。一方、ブラスト処理のメディアとして一般的なスチールグリッド(特殊鋼製の鋭いエッジを持った多角形粒子)を用いた場合、破砕するスチールグリッドの数は少ない。結果、単位面積当たりに焼結済前駆体に衝突するスチールグリッドの数はアルミナグリッドの場合よりも少ない。両者を比較すると、ブラスト処理のメディアとしてアルミナグリッドを用いた場合の方が隣接する突出部7は、ピッチ(突出部7の頂点の平均間隔S)が短くなる。また、スチールグリッドを用いた場合と比較するとアルミナグリッドを用いた場合の方が、突出部7の傾斜は大きいものが多く含まれ、多くの突出部7は鋭く尖った態様となる。
【0073】
ブラスト処理のメディアとしてスチールグリッドを用いた場合と比べて、ブラスト処理のメディアとしてアルミナグリッドを用いた場合の粗面領域4の方が、焼結体1の表面積が増えるため、アルミニウム合金11と焼結体1の接合力が高まり、アルミニウム合金11が焼結体1から剥がれることをより確実に防止することができる。なお、アルミニウム合金11と焼結体1の接合力を向上させる観点から見ると、ブラスト処理は、アルミニウム合金11が剥がれやすい焼結体1の一部領域(補強部材100なら内周面130)に行えばよい。
【0074】
ブラスト処理のメディアとしてアルミナグリッドを用いた場合、既に説明済みの焼結体1の粗面領域4の十点平均粗さ4点平均が10~100μmの範囲となることが好ましく、30~60μmとなるようにブラスト処理が行われることがより好ましい。また、既に説明済みの焼結体1の粗面領域4の算術平均傾斜4点平均が0.34以上となるようにブラスト処理が行われることが好ましく、0.35以上となるようにブラスト処理が行われることがより好ましく、0.36以上となるようにブラスト処理が行われることがより好ましい。また、既に説明済みの焼結体1の粗面領域4の平均間隔4点平均が116.9μm以下となるようにブラスト処理が行われることが好ましく、115.0μm以下となるようにブラスト処理が行われることがより好ましく、112.0μm以下となるようにブラスト処理が行われることが更に好ましい。また、焼結体1の粗面領域4の平均間隔4点平均が90μm以上となるようにブラスト処理が行われることが好ましく、95μm以上となるようにブラスト処理が行われることがより好ましく、97μm以上となるようにブラスト処理が行われることが更に好ましい。以上の十点平均粗さ4点平均、算術平均傾斜4点平均、平均間隔4点平均の調整はショット粒径、エア圧力等を調整して行なう。そして、上記ブラスト処理で用いられるアルミナグリッド(アルミナ粒子)の集合体は、300~1700μmの範囲内の粒度分布を有するものが好ましく、600~1700μmの範囲内の粒度分布を有するものがより好ましい。ただし、上記粒度分布において、分級で取り除くことができなかった少量の微粒子は無視することとする。
【0075】
なお、一般的な焼結工程を経た焼結済前駆体の表面には酸化被膜が形成され、次工程のブラスト処理でその酸化被膜を除去することが行われるので、ブラスト処理にはある程度の時間を要する。しかしながら、本実施形態では、真空焼結工程S120を経た焼結済前駆体の表面には、ほとんど酸化被膜が形成されず、表面が清浄である。このため、ブラスト処理工程S140におけるブラスト処理では、焼結済前駆体の表面に粗面領域4を設けることだけを考慮すればよい。また、焼結済前駆体の表面が清浄なので、焼結体1の表面に粗面領域4を設けやすい。結果、本実施形態のブラスト処理工程S140におけるブラスト処理は、通常よりも短い時間で終了することができる。
【0076】
また、ブラスト処理を施すことにより、焼結済前駆体の基地中に分散する遊離Cu相9が表面に多く露出する。これにより、アルミニウム合金11の溶湯とのぬれ性が向上し、アルミニウム合金11の溶湯との反応が促進され、界面における隙間を低減して接合でき密着性が向上する。また、第一遊離Cu相9Aで塞がれた空孔10内にアルミニウム合金11の溶湯を容易に導くことができるので、それに起因したアンカー効果も加わり、密着後の接合強度も向上する。
【0077】
<加工工程>
加工工程S130では、加工装置(図示省略)を用いて焼結体1に対して乾式加工を行う。焼結体1に対する加工として、穴開け加工が一例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、切削加工等の他の加工であってもよい。いずれにしても所望する形状に応じてどのような加工が行われてもよい。なお、加工工程S130は必要があれば、行うものであり、必ずしも必要な工程ではない。
【0078】
上記した製造方法で製造された焼結体1は、金型内の対応部位に装着され、金型内にアルミニウム合金11の溶湯が注入され、高圧ダイキャストされてアルミニウム合金製部材(例えば、内燃機関2)となる。その際に、本実施形態の焼結体1では従来の焼結体では必須であった、500~600℃という高温での予熱を必要とせず、常温あるいは200℃程度までの予熱で十分である。このような予熱なし、あるいは低温での予熱によっても、本発明の焼結体1は、アルミニウム合金11の溶湯の注入に際し、湯回りがよく、アルミニウム合金11の溶湯との密着性および境界強度を確保できるため、焼結体1を鋳包むアルミニウム合金製部材の製造工程を単純化、簡素化でき、部材製造コストを低減できるという利点を有する。
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【実施例0080】
本願発明者は、本発明の焼結体の特性を検証するために、質量%で、C:1.00%、Cu:10%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する補強部材(
図1(A)に示す補強部材100を参照)を複数作成した。具体的には最初に補強部材を象った金型に金属粉末を充填して、成形プレスで加圧成型して圧粉体を作った(成型工程S110)。そして、真空炉の炉内圧力を1(torr)にしつつ、炉内焼結温度を1000~1180℃の範囲にして、圧粉体に対して焼結処理を行い、焼結済前駆体を設けた(真空焼結工程S120)。なお、金属粉末には、鉄系粉末、銅粉末、黒鉛粉末、潤滑剤粉末が含まれる。次に、焼結済前駆体に対して所定の穴を空ける加工を行った(加工工程S130)。
【0081】
最後に、アルミナグリッドを用いてブラスト処理により設けた粗面領域の特性と、スチールグリッドを用いてブラスト処理により設けた粗面領域の特性を比較するため、アルミナグリッドを用いてブラスト処理を行って、粗面領域を設けた補強部材(以下、本発明側補強部材と呼ぶ。)を3つ設け、スチールグリッドを用いてブラスト処理を行って、粗面領域を設けた補強部材(以下、比較例側補強部材と呼ぶ。)を3つ設けた(ブラスト処理工程S140)。
【0082】
なお、ブラスト処理は、所定のエア圧をかけてノズルからメディアを発射するショットブラスト装置(図示省略)により行った。そして、ノズル径を7(mm)とし、エア圧を5(kg/cm2)に設定し、アルミナグリッド及びスチールグリッドは、20メッシュ(#20)のものを用いた。なお、20メッシュのアルミナグリッドには、600~1700(μm)の範囲の粒度分布を有するアルミナ粒子が含まれる。ショットブラスト装置により、20メッシュのアルミナグリッド、スチールグリッドを、補強部材の表面にそれぞれ4(s)噴射した。
【0083】
<粗面領域のSEM像の写真による表面粗さの比較>
本発明側補強部材の粗面領域及び比較例側補強部材の粗面領域を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer:以下同様)により観察倍率400倍でSEM像観察を実施した際のSEM像写真を
図6(A),(B)に示す。
図6(A)は、本発明側補強部材の粗面領域のSEM像写真である。
図6(B)は、比較例側補強部材の粗面領域のSEM像写真である。両者を比較すると、写真から明らかなように、比較例側補強部材の粗面領域は、突出部の傾斜がなだらかで、隣接する突出部間の間隔が大きいのに対して、本発明側補強部材の粗面領域は、突出部の傾斜が急で、隣接する突出部間の間隔が小さい。つまり、写真で確認しても本発明側補強部材の粗面領域の方が比較例側補強部材の粗面領域よりも粗く、表面積が増加していることが確認できる。
【0084】
<十点平均粗さ4点平均、平均間隔4点平均、算術平均傾斜4点平均の比較>
本実施例では、粗面領域の十点平均粗さ4点平均、平均間隔4点平均、算術平均傾斜4点平均の基礎となる粗面領域における4つの領域を、3つの本発明側補強部材の粗面領域及び3つの比較例側補強部材の粗面領域のそれぞれから任意に選択し、ここではそれらを第一~第四エリアと呼ぶこととする。3つの本発明側補強部材及び3つの比較例側補強部材のそれぞれの第一~第四エリアの十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaを表1及び表2に示す。なお、十点平均粗さRzは、JIS B 0601-1982規定に準拠したものであり、局部山頂の平均間隔Sは、JIS B 0601-1994規定に準拠したものであり、算術平均傾斜RΔaは、
図4を参照して既に説明したものと同様である。そして、表1及び表2では、粗面領域の第一~第四エリアの十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaに基づいて導出された十点平均粗さ4点平均、平均間隔4点平均、算術平均傾斜4点平均も記載してある。なお、表1及び表2では、粗面領域4の十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaの測定の基準となる基準測定長さは、5(mm)である。基準測定長さを5(mm)としても、第一~第四エリアの全部またはいずれかを組み合わせてその組み合わせれば、実質的に基準測定長さを少なくとも12.5(mm)に延長できるので、基準測定長さを12.5(mm)とした場合のものと実質的に同じ評価値(十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔa)を得ることができる。また、各表1,2、5~8における「平均」の表示は、対応する十点平均粗さ4点平均、平均間隔4点平均、算術平均傾斜4点平均を表すものとする。
【0085】
【0086】
【0087】
表1及び表2を参照して両者の十点平均粗さ4点平均を比較すると、本発明側補強部材の粗面領域では、十点平均粗さ4点平均の最小値が48.94(μm)(表1の補強部材No1参照)で、十点平均粗さ4点平均の最大値が52.08(μm)(表1の補強部材No3参照)であるのに対して、比較例側補強部材の粗面領域では、十点平均粗さ4点平均の最小値が46.64(μm)(表2の補強部材No1参照)で、十点平均粗さ4点平均の最大値が44.07(μm)(表2の補強部材No3参照)ある。
【0088】
表1及び表2を参照して両者の平均間隔4点平均を比較すると、本発明側補強部材の粗面領域では、平均間隔4点平均の最小値が1103.29(μm)(表1の補強部材No3参照)で、平均間隔4点平均の最大値が111.30(μm)(表1の補強部材No2参照)であるのに対して、比較例側補強部材の粗面領域では、平均間隔4点平均の最小値が116.96(μm)(表2の補強部材No1参照)で、平均間隔4点平均の最大値が119.48(μm)(表2の補強部材No2参照)である。両者の平均間隔4点平均には大きな差があることが確認できた。つまり、本発明側補強部材の粗面領域の方が、比較例側補強部材の粗面領域よりも、たくさんの凹凸部が存在することが確認できた。また、表1を参照すると、本発明側補強部材の粗面領域では、各面における局部山頂の平均間隔Sの平均が90.00(μm)以上で、且つ116.9(μm)以下である。
【0089】
表1及び表2を参照して両者の算術平均傾斜4点平均を比較すると、本発明側補強部材の粗面領域では、算術平均傾斜4点平均の最小値が0.36(表1の補強部材No1参照)で、算術平均傾斜4点平均の最大値が0.38(表1の補強部材No3参照)であるのに対して、比較例側補強部材の粗面領域では、算術平均傾斜4点平均の最小値が0.31(表2の補強部材No3参照)で、算術平均傾斜4点平均の最大値が0.32(表1の補強部材No1,2参照)である。両者の算術平均傾斜4点平均には大きな差があることが確認できた。つまり、本発明側補強部材の粗面領域の突出部の方が、比較例側補強部材の粗面領域の突出部よりも、鋭く尖っていることが確認できた。また、表1を参照すると、本発明側補強部材の粗面領域では、各面における算術平均傾斜4点平均の平均が0.34以上である。
【0090】
<十点平均粗さ2点平均、平均間隔2点平均、算術平均傾斜2点平均の比較>
本実施例では、粗面領域の十点平均粗さ2点平均、平均間隔2点平均、算術平均傾斜2点平均の基礎となる粗面領域における2つの領域を、3つの本発明側補強部材の粗面領域及び3つの比較例側補強部材の粗面領域のそれぞれから任意に選択し、ここではそれらを第一,二エリアと呼ぶこととする。測定の基準となる基準測定長さを12.5(mm)として、3つの本発明側補強部材及び3つの比較例側補強部材のそれぞれの第一,二エリアの十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaを表3及び表4に示す。なお、十点平均粗さRzは、JIS B 0601-1982規定に準拠したものであり、局部山頂の平均間隔Sは、JIS B 0601-1994規定に準拠したものであり、算術平均傾斜RΔaは、
図4を参照して既に説明したものと同様である。そして、表3及び表4では、第一,二エリアの十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaに基づいて導出された十点平均粗さ2点平均、平均間隔2点平均、算術平均傾斜2点平均も記載してある。十点平均粗さ2点平均は、粗面領域における2つの領域のそれぞれにおいてJIS B 0601-1982の規定に準拠して、上記基準測定長さの範囲での断面曲線に基づいて導出した十点平均粗さRzの平均を表す。平均間隔2点平均は、粗面領域における4つの領域のそれぞれにおいてJIS B 0601-1994の規定に準拠して、上記基準測定長さの範囲での粗さ曲線に基づいて導出した局部山頂の平均間隔S(隣接する突出部の頂部の平均間隔)の平均を表す。算術平均傾斜2点平均は、上記基準測定長さの範囲での粗さ曲線に基づいて導出した凹凸部5の突出部7の算術平均傾斜RΔaの平均を表す。また、各表3,4における「平均」の表示は、対応する十点平均粗さ2点平均、平均間隔2点平均、算術平均傾斜2点平均を表すものとする。
【0091】
【0092】
【0093】
表3及び表4を参照して両者の十点平均粗さ2点平均を比較すると、本発明側補強部材の粗面領域では、十点平均粗さ2点平均の最小値が63.96(μm)(表3の補強部材No3参照)で、十点平均粗さ2点平均の最大値が68.80(μm)(表3の補強部材No1参照)であるのに対して、比較例側補強部材の粗面領域では、十点平均粗さ2点平均の最小値が57.01(μm)(表4の補強部材No2参照)で、十点平均粗さ2点平均の最大値が66.30(μm)(表4の補強部材No1参照)である。つまり、本発明側補強部材の粗面領域の方が、比較例側補強部材の粗面領域よりも十点平均粗さ2点平均が高いことが確認できた。
【0094】
表3及び表4を参照して両者の平均間隔2点平均を比較すると、本発明側補強部材の粗面領域では、平均間隔2点平均の最小値が106.46(μm)(表3の補強部材No2参照)で、平均間隔2点平均の最大値が118.86(μm)(表3の補強部材No1参照)であるのに対して、比較例側補強部材の粗面領域では、平均間隔2点平均の最小値が121.54(μm)(表4の補強部材No2参照)で、平均間隔2点平均の最大値が129.68(μm)(表4の補強部材No1参照)である。両者の平均間隔2点平均には大きな差があることが確認できた。つまり、本発明側補強部材の粗面領域の方が、比較例側補強部材の粗面領域よりも、たくさんの凹凸部が存在することが確認できた。
【0095】
表3及び表4を参照して両者の算術平均傾斜2点平均を比較すると、本発明側補強部材の粗面領域では、算術平均傾斜2点平均の最小値が0.46(表3の補強部材No3参照)で、算術平均傾斜2点平均の最大値が0.50(表3の補強部材No2参照)であるのに対して、比較例側補強部材の粗面領域では、算術平均傾斜2点平均の最小値が0.30(表4の補強部材No3参照)で、算術平均傾斜2点平均の最大値が0.33(表4の補強部材No1参照)である。両者の平均間隔2点平均には大きな差があることが確認できた。つまり、本発明側補強部材の粗面領域の突出部の方が、比較例側補強部材の粗面領域の突出部よりも、鋭く尖っていることが確認できた。また、表3を参照すると、本発明側補強部材の粗面領域では、各面における算術平均傾斜2点平均が0.34以上である。
【0096】
<粗面領域の元素分析の比較>
本発明者は、本発明側補強部材の粗面領域及び比較例側補強部材の粗面領域をEPMAにより観察倍率40倍にてSEM像観察(
図7(A),(B)のそれぞれの左上領域)、及びFe-Kα線(
図7(A),(B)のそれぞれの左下領域)、Al-Kα線(
図7(A),(B)のそれぞれの右上領域)、Cu-Kα線(
図7(A),(B)のそれぞれの右下領域)による特性X線像観察を実施した。
【0097】
図7(A)の右上領域のSEM像写真から明らかなように、本発明側補強部材の粗面領域には、Alを含むAl領域(白色(薄いグレー)の領域)が多数分布している。Al領域は、Al元素が存在することを意味し、相対値として白色に近いほど検出強度が強く、Al元素が多く存在することを示している。
【0098】
また、
図7(A)の右下領域のSEM像写真から明らかなように、本発明側補強部材の粗面領域には、白色(薄いグレー)の領域が多数分布している。白色(薄いグレー)の領域は、Cuで構成されるCu領域である。
図7(B)の右下領域のSEM像写真と比較すると、表面に露出するCu領域の合計面積は、
図7(A)の写真の方が明らかに大きい。ブラスト処理でアルミナグリッドを用いる場合、噴射されるアルミナグリッドが補強部材に衝突するだけでなく、アルミナグリッド自体も粉砕されて更に細かくなって補強部材に衝突する。結果、粉砕されて更に細かくなったアルミナグリッドもある分、単位面積当たりに補強部材に衝突するアルミナグリッドは多くなり、補強部材の表面が多く削られると推測されるので、本発明側補強部材の粗面領域において表面に露出するCu領域の表面積は大きくなると推測される。一方で、ブラスト処理でスチールグリッドを用いる場合、スチールグリッド自体が粉砕されて更に細かくなって補強部材100に衝突するということが多くないので、単位面積当たりに補強部材に衝突するスチールグリッドは、アルミナグリッドよりも少ないと推測される。このため、比較例側補強部材の粗面領域に露出するCu領域の表面積は、本発明側補強部材の粗面領域に露出するCu領域の表面積よりも小さい。
以上のようにして設けた12個の本発明側補強部材に形成される粗面領域における第一~第四エリアの十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaを表5~表8に示す。なお、表5~表8では、粗面領域4の十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S、算術平均傾斜RΔaの測定の基準となる基準測定長さは、5(mm)である。
表5によれば、本発明側補強部材の各面に形成される粗面領域の十点平均粗さ4点平均は、20メッシュ(#20)のアルミナグリッドよりも16メッシュ(#16)のアルミナグリッドを用いた方が大きくなることが確認できる。
表6によれば、本発明側補強部材の各面に形成される粗面領域の平均間隔4点平均は、16メッシュ(#16)のアルミナグリッドよりも20メッシュ(#20)のアルミナグリッドを用いた方が小さくなることが確認できる。また、表6によれば、本発明側補強部材の各面に形成される粗面領域の平均間隔4点平均は、ショットブラスト装置のエア圧を小さくした方が小さくなることが確認できる。
表7によれば、本発明側補強部材の各面に形成される粗面領域の算術平均傾斜4点平均は、20メッシュ(#20)のアルミナグリッドよりも16メッシュ(#16)のアルミナグリッドを用いた方がやや大きくなることが確認できる。また、ショットブラスト装置のエア圧やショット時間が算術平均傾斜4点平均に与える影響は小さい。