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特開2024-89871タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089871
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240627BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205375
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 豊英
(72)【発明者】
【氏名】原田 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕人
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC25
3D131LA22
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる、タイヤの損傷発生の検知装置2の提供。
【解決手段】この検知装置2は、路面16を備え、前記路面16上でタイヤTを走行させる走行部4と、タイヤTが路面16を走行することで生じる騒音を測定する測定部6と、前記騒音の測定データを得る度に、前記騒音の推移を表す推移データを算出する算出部34と、前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する判別部36とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが路面を走行することで生じる、騒音及び振動の少なくとも一つを測定する工程と、
前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定データを得る度に、前記騒音及び振動の少なくとも一つの推移を表す推移データを算出する工程と、
前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する工程と
を含む、
タイヤの損傷発生の検知方法。
【請求項2】
前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定が一定の時間間隔で行われる、
請求項1に記載のタイヤの損傷発生の検知方法。
【請求項3】
前記時間間隔が5秒以下である、
請求項2に記載のタイヤの損傷発生の検知方法。
【請求項4】
前記測定工程において前記騒音の音圧レベルが測定され、
前記算出工程において、2500Hz以下の周波数帯域内の特定の周波数帯域における音圧レベルに基づいて前記推移データが算出され、前記推移データが単位時間当たりの前記音圧レベルの変化量で表され、
前記判別工程において予め設定された閾値と前記推移データとの対比が行われる、
請求項1又は2に記載のタイヤの損傷発生の検知方法。
【請求項5】
路面を備え、前記路面上でタイヤを走行させる走行部と、
タイヤが路面を走行することで生じる騒音及び振動の少なくとも一つを測定する測定部と、
前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定データを得る度に、前記騒音及び振動の少なくとも一つの推移を表す推移データを算出する算出部と、
前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する判別部と
を備える、
タイヤの損傷発生の検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトエッジルース(BEL)やケーシングブレイクアップ(CBU)等の損傷が生じないよう、タイヤには様々な対策が施されている。対策の有効性を確認するために、タイヤの耐久性評価が行われる(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-041728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる、タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るタイヤの損傷発生の検知方法は、タイヤが路面を走行することで生じる騒音及び振動の少なくとも一つを測定する工程と、前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定データを得る度に、前記騒音及び振動の少なくとも一つの推移を表す推移データを算出する工程と、前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する工程とを含む。
【0006】
本発明に係るタイヤの損傷発生の検知装置は、路面を備え、前記路面上でタイヤを走行させる走行部と、タイヤが路面を走行することで生じる騒音及び振動の少なくとも一つを測定する測定部と、前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定データを得る度に、前記騒音及び振動の少なくとも一つの推移を表す推移データを算出する算出部と、前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する判別部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる、タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの損傷発生の検知装置の概要を示す概略平面図である。
図2図1の検知装置の概略正面図である。
図3】制御部の一例を示す概念図である。
図4】本発明の一実施形態に係るタイヤの損傷発生の検知方法のフロー図である。
図5】騒音の測定結果を示すグラフである。
図6】騒音の推移を表す推移データの算出方法を説明するグラフである。
図7】騒音の推移を示すグラフである。
図8】タイヤがバーストに至る前に走行を停止することを説明するグラフである。
図9】推移データの計測例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、タイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0010】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0011】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0012】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0013】
[本発明の基礎となった知見]
タイヤの耐久性評価では、タイヤがバーストするまでの時間や走行距離に基づいて、対策の有効性が評価される。バーストまで至ると損傷が広範囲に及ぶ。損傷が生じた原因を特定するのは難しい。
バーストに至る前に損傷が生じていることがわかれば、その時点でタイヤの走行を停止し、バーストに至る前のタイヤをサンプリングできる。このことは、損傷のトリガーになる事象の把握に貢献する。
そこで、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる、タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置を得るために、本発明者らは鋭意検討した。
【0014】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤの損傷発生の検知方法は、タイヤが路面を走行することで生じる騒音及び振動の少なくとも一つを測定する工程と、前記騒音及び振動の少なくとも一つの及び振動の少なくとも一つ測定データを得る度に、前記騒音及び振動の少なくとも一つの推移を表す推移データを算出する工程と、前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する工程とを含む。
【0015】
タイヤの損傷発生の検知方法をこのように整えることにより、この検知方法はバーストの兆候を検知できる。この検知方法は、タイヤがバーストに至る前にタイヤにかけられている荷重を除くことができる。この検知方法は、バーストに至る前のタイヤをサンプリングすることに貢献できる。
しかも騒音又は振動の測定データを得る度に、騒音又は振動の推移を表す推移データが算出されるので、評価対象のタイヤが1本準備されるだけでよい。直前に得た測定データを基準に推移データが算出されるので、推移データを得るために別のタイヤにおいて参照データを準備する必要もない。この検知方法は、バーストの兆候検知に要する労力の低減を図れる。この検知方法は、バーストの兆候検知に関する生産性の向上に貢献できる。
この検知方法は、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを効率よく的確に検知できる。この検知方法は、損傷のトリガーになる事象の把握に貢献できる。
【0016】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載の、タイヤの損傷発生の検知方法においては、前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定が一定の時間間隔で行われる。
こうすることで、騒音又は振動の変化がタイヤの状態変化に効果的に関連付けられる。この検知方法は、推移データに基づいてバーストの兆候を的確に検知できる。
【0017】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成2]に記載の、タイヤの損傷発生の検知方法においては、前記時間間隔が5秒以下である。
こうすることで、この検知方法はタイヤの状態変化をより短時間で判別できる。この検知方法は、バーストの兆候をより的確に検知できる。
【0018】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載の、タイヤの損傷発生の検知方法においては、前記測定工程において前記騒音の音圧レベルが測定され、前記算出工程において、2500Hz以下の周波数帯域内の特定の周波数帯域における音圧レベルに基づいて前記推移データが算出され、前記推移データが単位時間当たりの前記音圧レベルの変化量で表され、前記判別工程において予め設定された閾値と前記推移データとの対比が行われる。
こうすることで、この検知方法はバーストの兆候をさらに的確に検知できる。
【0019】
[構成5]
本発明の一態様に係るタイヤの損傷発生の検知装置は、路面を備え、前記路面上でタイヤを走行させる走行部と、タイヤが路面を走行することで生じる騒音及び振動の少なくとも一つを測定する測定部と、前記騒音及び振動の少なくとも一つの測定データを得る度に、前記騒音及び振動の少なくとも一つの推移を表す推移データを算出する算出部と、前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する判別部とを備える。
【0020】
タイヤの損傷発生の検知装置をこのように整えることにより、この検知装置は、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを効率よく的確に検知できる。この検知装置は、損傷のトリガーになる事象の把握に貢献できる。
【0021】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0022】
[タイヤの損傷発生の検知装置]
図1及び2は、本発明の一実施形態に係る、タイヤの損傷発生の検知装置2(以下、検知装置2)の概要を示す。図1が検知装置2の平面図であり、図2が検知装置2の正面図である。図1及び2に示された検知装置2には、タイヤTがセットされている。この検知装置2は、タイヤTに生じた損傷の検知を行う。この検知装置2は、後述する、タイヤの損傷発生の検知方法で用いられる。
この検知装置2は、走行部4、測定部6及び制御部8を備える。
【0023】
走行部4は、タイヤTの走行を行う。走行部4は、ドラム10、駆動ユニット12及び接地ユニット14を備える。
【0024】
ドラム10は、タイヤTが走行する路面16と、中心軸18とを有する。中心軸18が回転することでドラム10は回転する。この検知装置2では、ドラム10の外周面が、タイヤTが走行する路面16である。
検知装置2の走行部4は、路面16を備え、この路面16上でタイヤTを走行させる。
【0025】
駆動ユニット12はドラム10を回転駆動する。駆動ユニット12はドラム10の中心軸18を回転自在に支持する。図示されないが、駆動ユニット12はモーターを備える。モーターがドラム10の中心軸18を回転駆動する。モーターの回転速度を制御することで、ドラム10の回転速度が調整される。これにより、路面16を走行するタイヤTの速度が調整される。
【0026】
接地ユニット14はタイヤTを支持する。接地ユニット14は、ドラム10の路面16に向けてタイヤTを動かし、このタイヤTを路面16に接触させることができる。これにより、タイヤTに荷重がかけられる。タイヤTに荷重がかけられている状態がロード状態とも呼ばれる。この接地ユニット14は路面16に接地していたタイヤTを路面16から遠ざけることもできる。これにより、タイヤTにかけられていた荷重が除かれる。タイヤTに荷重がかけられていない状態がアンロード状態とも呼ばれる。
接地ユニット14はタイヤ軸20と支持部22とを備える。
【0027】
タイヤ軸20の一方の端は支持部22に支持される。タイヤ軸20はドラム10の中心軸18と平行に支持される。タイヤ軸20の他方の端には、リム(図示されず)に組まれたタイヤTが回転自在に取り付けられる。ドラム10の軸芯を含む仮想平面内にタイヤTの軸芯が位置するように、タイヤTは走行部4にセットされる。
【0028】
支持部22はタイヤ軸20を支持する。支持部22は、タイヤ軸20をドラム10の径方向に移動させることができる移動機構(図示されず)を有する。
支持部22がタイヤ軸20をドラム10に近づけることで、タイヤTが路面16に押し当てられる。これによりタイヤTがロード状態になる。タイヤ軸20の移動量を制御することでタイヤTにかかる荷重の大きさが調整される。
支持部22がタイヤ軸20をドラム10から遠ざけることで、タイヤTは路面16から離される。これによりタイヤTはアンロード状態になる。
【0029】
支持部22は角度調整機構(図示されず)を有する。角度調整機構は、ドラム10の中心軸18に対してタイヤ軸20がなす角度を調整できる。詳述しないが、走行部4は、ドラム10の中心軸18に対してタイヤ軸20を傾けることで、タイヤTのスリップ角及びキャンバー角を調整できる。
【0030】
タイヤTが路面16を走行することで騒音が生じる。この騒音を測定部6は測定する。測定部6は騒音計24を備える。騒音計24には市販の騒音計が用いられる。騒音計24は、騒音の音圧レベルを測定する。
【0031】
騒音計24はタイヤTの軸方向外側に配置される。騒音計24は、内蔵するマイク(図示されず)がタイヤTと路面16との接地面26に向くように配置される。
図2において一点鎖線ELはタイヤTの赤道面である。騒音計24は、タイヤTの赤道面ELから軸方向外側に離して配置される。符号SDで示される長さは、赤道面から騒音計24までの軸方向距離である。
【0032】
制御部8は、走行部4及び測定部6のそれぞれと通信ケーブルで接続される。制御部8は、例えば、プログラマブルシーケンサ、マイコン、パーソナルコンピュータ、その他の制御デバイスで構成される。制御部8は、走行部4及び測定部6の動作を制御する。
【0033】
図3は、制御部8の一例を示す概念図である。制御部8は、CPU(中央演算装置)からなる演算部28と、処理手順を記憶する記憶部30と、記憶部30から処理手順を読み込む作業用メモリ32とを含んで構成される。制御部8には、処理結果等を表示するための表示部や、オペレータが操作するための操作部が設けられてもよい。
【0034】
[タイヤの損傷発生の検知方法]
図4は、本発明の一実施形態に係る、タイヤの損傷発生の検知方法(以下、検知方法)のフロー図である。この検知方法には前述の検知装置2が用いられる。
【0035】
この検知方法は、タイヤに生じた損傷の検知に適用される。この検知方法が対象とするタイヤに、特に制限はない。乗用車用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、小形トラック用タイヤ、トラック・バス用タイヤ等の様々なタイヤが、この検知方法の対象である。
【0036】
この検知方法は、測定工程S1、算出工程S2、判別工程S3及び停止工程S4を含む。以下に、各工程の詳細が説明される。
【0037】
測定工程S1では、タイヤTが検知装置2にセットされる。タイヤTはリム(図示されず)に組まれる。リムは、例えば正規リムであってもよく、JATMA規格における許容リムであってもよい。このリムが、JATMA規格における適用リムに対応する試験用リムであってもよい。
【0038】
タイヤTをリムに組むとタイヤTの内部に空気が充填される。これにより、タイヤTの内圧が調整される。タイヤTの内圧は正規内圧に調整されてもよく、正規内圧よりも低い内圧に調整されてもよく、正規内圧よりも高い内圧に調整されてもよい。
【0039】
内圧の調整後、タイヤTを装着したリムが走行部4のタイヤ軸20に取り付けられる。タイヤTを路面16に押し当て、タイヤTに荷重がかけられる。タイヤTにかけられる荷重は正規荷重であってもよく、正規荷重よりも低い荷重であってもよく、正規荷重よりも高い荷重であってもよい。
【0040】
この検知方法では、タイヤTの内圧、タイヤTにかける荷重、スリップ角、キャンバー角等の走行条件に、特に、制限はない。この検知方法は、様々なモードの走行に対応できる。
【0041】
検知装置2へのタイヤTのセットが完了すると、制御部8が走行部4の駆動ユニット12を駆動し、ドラム10を回転させる。これにより、タイヤTの走行が開始される。記憶部30に記録されている走行条件にしたがって、制御部8が、タイヤTに係る荷重を監視しながら、タイヤTの走行速度をコントロールする。
【0042】
タイヤTの走行が開始すると、測定部6が騒音の測定を開始する。騒音の測定値が時系列で記憶部30に記録される。
測定工程S1は、タイヤTが路面を走行することで生じる騒音を測定する。
【0043】
図5は、耐久試験モードでタイヤTを走行させた際の、騒音の測定結果の一例を示す。図5は、測定時間と音圧レベルとの関係を示すグラフである。横軸は測定時間(秒)である。縦軸は音圧レベル(dB)である。このグラフにプロットされている符号Dbで示されるデータは、音圧レベルの測定データである。測定データDbは、測定時間tbでの音圧レベルがNbデシベルであることを示す。音圧レベルの測定データが騒音の測定データとして用いられる。
【0044】
図5では、タイヤTがバーストするまで騒音が測定されている。測定時間tbでデータが途切れているのは、タイヤTが時間tbでバーストしたからである。バーストに至った時間がtb秒であり、そのときの音圧レベルがNbデシベルである。測定データDbは、タイヤTがバーストした時の測定データである。
【0045】
図5に示されるように、バーストの直前に音圧レベルは著しく上昇する。音圧レベルの急上昇は、その後にタイヤTがバーストしていることから、バーストに至る損傷がタイヤTに生じていることを示唆する。音圧レベルの急上昇を検知できれば、バーストに至る前にタイヤTの走行を停止できる。この場合、バーストに至る前のタイヤTをサンプリングすることができる。
【0046】
この検知方法では、算出工程S2において、騒音の測定データを得る度に、騒音の推移を表す推移データが算出される。図6はこの算出の要領を説明するためのグラフである。
図6において(a)が付されたグラフには、騒音の測定データの一部がプロットされている。図6には、6つの測定データがプロットされている。各測定データD(n)は、nを自然数として、測定時間t(n)での音圧レベルがN(n)デシベルであるとして表される。
【0047】
6つの測定データは、左から、測定データD1、測定データD2、測定データD3、測定データD4、測定データD5及び測定データD6である。
測定データD1は、測定時間t1での音圧レベルがN1デシベルであることを示す。測定データD2は、測定時間t2での音圧レベルがN2デシベルであることを示す。測定データD3は、測定時間t3での音圧レベルがN3デシベルであることを示す。測定データD4は、測定時間t4での音圧レベルがN4デシベルであることを示す。測定データD5は、測定時間t5での音圧レベルがN5デシベルであることを示す。測定データD6は、測定時間t6での音圧レベルがN6デシベルであることを示す。ここで、測定時間t1からt2までのゾーンがゾーンZ1である。nを自然数として、測定時間t(n)からt(n+1)までのゾーンがゾーンZ(n)と呼ばれる。
【0048】
例えば算出工程S2では、ゾーンZ(n)での推移データC(n)は測定データD(n)と測定データD(n+1)とを用いて算出される。この推移データC(n)は、例えば次の式(1)を用いて得られる。
C(n)=(N(n+1)-N(n))/(t(n+1)-t(n))・・・式(1)
式(1)で示される推移データC(n)は、単位時間あたりの音圧レベルの変化量(以下、音圧レベルの変化率)を表す。言い換えれば、推移データC(n)は、測定データD(n)と測定データD(n+1)とを結ぶ線分の傾きである。
ゾーンZ(n)での推移データC(n)が、音圧レベルN(n+1)と音圧レベルN(n)との差で表されてもよい。騒音の測定が一定の時間間隔で行われていれば、音圧レベルN(n+1)と音圧レベルN(n)との差も単位時間あたりの音圧の変化量を表すからである。
【0049】
図6の(b)は、前述の式(1)を用いて図6の(a)に示した6つの測定データから得られる推移データをプロットしたグラフである。前述したように、式(1)で示された推移データC(n)は、測定データD(n)と測定データD(n+1)とを結ぶ線分の傾きである。したがって、図6の(a)に示した6つの測定データから得られる5つの推移データC1からC5は、図6の(b)のようにプロットされる。
【0050】
前述したように、算出工程S2では、騒音の測定データを得る度に、騒音の推移を表す推移データが算出される。この推移データの算出は、検知装置2の制御部8において行われる。制御部8は、推移データを算出する算出部でもある。この検知装置2は、騒音の測定データを得る度に、騒音の推移を表す推移データを算出する算出部34を備える。
【0051】
図7は、算出工程S2で得た推移データの挙動を説明するグラフである。この図7に示されたグラフは、騒音の測定データを得る度に算出される、騒音の推移を表す推移データの経時変化を表す。横軸は測定時間(秒)である。縦軸は、騒音の推移の指標としての、音圧レベルの変化率(dB/sec)である。
【0052】
前述したように、バーストの直前に音圧レベルは急な上昇を示す。
音圧レベルが直線的に上昇する場合、推移データは立ち上がった後、ほぼ一定の値で推移する。その後、時間tbでタイヤTがバーストする。
音圧レベルが段階的に上昇しタイヤTがバーストする場合もある。この場合は、推移データは階段状に上昇する。
いずれの場合も、音圧レベルは低下することなく上昇し続ける。タイヤTがバーストに至る場合は、その手前の推移データに負の値は含まれない。推移データが所定の値を超えると、算出される推移データに負の値が含まれなくなる。
推移データはタイヤTの状態を反映する。推移データを監視することで、バーストに繋がる損傷の発生、言い換えれば、バーストの兆候を検知できる。
【0053】
この検知方法の判別工程S3では、騒音の測定データを得る度に算出工程S2において算出される推移データに基づいてタイヤTの状態が判別される。具体的には、検知装置2の制御部8が、推移データを監視して、バーストの兆候が生じているかを確認する。
制御部8は、算出部34が算出した推移データに基づいてタイヤTの状態を判別する。制御部8はタイヤTの状態を判別する判別部でもある。検知装置2は、推移データに基づいてタイヤTの状態を判別する判別部36を備える。
【0054】
この検知方法では、推移データにバーストの兆候が表れると、停止工程S4が開始される。この停止工程S4においては、制御部8が走行部4を制御して、ロード状態のタイヤTをアンロード状態に移行させるとともにタイヤTの走行を停止させる。
【0055】
停止工程S4では、タイヤTが路面16から離され、タイヤTの回転が停止される。この検知方法では、判別部36がバーストの兆候を検知すると、制御部8が走行部4を制御して、ロード状態のタイヤTをアンロード状態に移行させるとともにタイヤTの走行を停止させる。制御部8が、タイヤ軸20を動かし、タイヤTを路面16から引き離すとともに、タイヤTの回転を停止する。
この検知方法は、タイヤTがバーストに至る前に、タイヤTを路面16から引き離し、タイヤTにかけられている荷重を除くことができる。
【0056】
この検知方法は、タイヤTがバーストに至る前にバーストに繋がる損傷がタイヤTに生じていることを検知できる。言い換えれば、この検知方法は、バーストの兆候を検知できる。この検知方法は、タイヤTがバーストに至る前にタイヤTにかけられている荷重を除くことができる。この検知方法は、バーストに至る前のタイヤTをサンプリングすることに貢献できる。
しかも騒音の測定データを得る度に、騒音の推移を表す推移データが算出されるので、評価対象のタイヤが1本準備されるだけでよい。直前に得た測定データを基準に推移データが算出されるので、推移データを得るために別のタイヤにおいて参照データを準備する必要もない。この検知方法は、バーストの兆候検知に要する労力の低減を図れる。この検知方法は、バーストの兆候検知に関する生産性の向上に貢献できる。
この検知方法は、タイヤTがバーストに至る前に損傷が生じていることを効率よく的確に検知できる。この検知方法は、損傷のトリガーになる事象の把握に貢献できる。
【0057】
この検知方法では、騒音の測定は一定の時間間隔で行われる。これにより、音圧レベルの変化がタイヤTの状態変化に効果的に関連付けられる。この検知方法は、推移データに基づいてバーストの兆候を的確に検知できる。この観点から、騒音の測定は一定の時間間隔で行われるのが好ましい。この場合、この時間間隔は5秒以下であるのが好ましい。これにより、この検知方法はタイヤTの状態変化をより短時間で判別できる。この検知方法は、バーストの兆候をより的確に検知できる。
ところで時間間隔が短くなると、得られるデータの数も増える。データ数の増加は制御部8の動作に影響する。制御部8の動作への影響を抑制できる観点から、時間間隔は0.5秒以上であるのが好ましい。
【0058】
前述したように、測定工程S1において騒音の音圧レベルが測定される。この検知方法では、測定された音圧レベルの周波数帯域の中でも、2500Hz以下の周波数帯域内の特定の周波数帯域における音圧レベルに基づいて推移データが算出されるのが好ましい。これにより、タイヤTの状態変化が十分に反映された推移データが得られる。この検知方法は、バーストの兆候を的確に検知できる。この場合、音圧レベルの測定は一定の時間間隔で行われるのがより好ましい。これにより、この検知方法は、推移データに基づいてバーストの兆候をより的確に検知できる。さらにこの場合、時間間隔を5秒以下に設定することで、この検知方法はタイヤTの状態変化をより短時間で判別できる。この検知方法は、バーストの兆候をさらに的確に検知できる。
【0059】
測定された音圧レベルの周波数帯域の中でも、2500Hz以下の周波数帯域内の特定の周波数帯域における音圧レベルに基づいて推移データが算出される場合、特定の周波数帯域の幅は少なくとも1000Hzに設定されるのが好ましい。これにより、タイヤTの状態変化が効果的に反映された推移データが得られる。この検知方法は、バーストの兆候をより的確に検知できる。この場合、例えば0Hzから1000Hzまでの周波数帯域を特定の周波数帯域として設定してもよく、500Hzから1500Hzまでの周波数帯域を特定の周波数帯域として設定してもよく、1000Hzから2000Hzまでの周波数帯域を特定の周波数帯域として設定してもよく、1500Hzから2500Hzまでの周波数帯域を特定の周波数帯域として設定してもよい。この検知方法では、評価対象のタイヤTの使用に応じて、幅が少なくとも1000Hzとなるように、特定の周波数帯域が設定される。
【0060】
この検知方法では、推移データは、単位時間当たりの音圧レベルの変化量、すなわち、音圧レベルの変化率で表されるのが好ましい。これにより、タイヤTの状態を判別するために、基準となる別のタイヤを準備し、この別のタイヤの状態を事前に把握しておく必要がない。タイヤTが出力する情報のみでタイヤTの状態が把握されるので、タイヤTの構成の違い等を考慮することなく、この検知方法はバーストの兆候を検知できる。この検知方法は種々な用途のタイヤTに適用できる。
【0061】
前述したように、タイヤTがバーストに至る場合は、推移データが所定の値を超えると、音圧レベルは低下することなく上昇し続ける。そのため、この検知方法は、推移データに閾値を設けることで、音圧レベルが低下することなく上昇し続ける状態、すなわち、バーストの兆候を的確に検知できる。
【0062】
図7において、符号Ctは推移データに設定した閾値であり、符号LTで示される点線は、この閾値Ctを通り、時間軸方向にのびる直線である。この図7に示されるように、符号ttで表される時間に推移データは閾値Ctを超える。図5に示されるように、この時間tt以降は、タイヤTがバーストするまで音圧レベルが低下することなく上昇し続ける。つまり、バーストの兆候を検知するために、この検知方法は、推移データに閾値Ctを予め設定できる。判定工程において、この閾値Ctと推移データとの対比が行われることで、この検知方法はバーストの兆候を的確に検知できる。そうすることで、図8に示されるように、推移データが閾値Ctに達した時間ttで、ロード状態のタイヤTをアンロード状態にすることで、この検知方法は、タイヤTがバーストに至る前にタイヤTにかけられている荷重を除くことができる。この検知方法は、バーストに至る前のタイヤTをサンプリングすることができる。この観点から、判別工程S3において、予め設定された閾値と推移データとの対比が行われるのが好ましい。この場合、バーストの兆候をより的確に検知できる観点から、推移データは前述の音圧レベルの変化率で表されるのがより好ましい。
【0063】
図9は算出工程S2で得た推移データの一例を示す。横軸は、測定を開始してからの時間を示す。縦軸は、騒音の推移(すなわち、音圧レベルの変化率)を示す。図9に示されるように、測定を開始してからタイヤTが路面16に馴染むまでの間(グラフの左側部分)は、推移データに大きな振れが散見される。その後、振れが小さくなり、タイヤTが路面16に馴染み、タイヤTの走行状態が安定していることが確認される。そして、閾値Ctを超える、推移データの変化が検出され、タイヤTが路面16から引き離され、タイヤTの状態がロード状態からアンロード状態に移行される。
【0064】
この検知方法では、バーストの兆候をさらに的確に検知できる観点から、測定工程S1において騒音の音圧レベルが測定され、算出工程S2において、2500Hz以下の周波数帯域内の特定の周波数帯域における音圧レベルに基づいて推移データが算出され、この推移データが単位時間当たりの音圧レベルの変化量で表され、判別工程S3において予め設定された閾値と前記推移データとの対比が行われるのがさらに好ましい。
【0065】
検知装置2は、タイヤTが路面16を走行することで生じる騒音以外に、様々な騒音を生じさせる。そのため、騒音計24が測定する音には、タイヤTが路面16を走行することで生じる騒音以外の騒音(以下、ノイズ)が含まれる。
この点を考慮して、騒音計24の配置について本発明者が検討したところ、2500Hz以下の周波数帯域の騒音によってバーストの兆候を検知する場合、タイヤTと路面16との接地面26の近くに騒音計24を配置すると、騒音計24が測定する音へのノイズの影響が大きく、バーストの兆候の検知感度が低下する懸念があり、タイヤTの軸方向外側に騒音計24を配置することで、検知感度を向上できる見込みがあるとの知見が見出された。この検知方法において騒音計24は、この知見に基づいて配置されている。
【0066】
前述したように、騒音計24は、タイヤTの赤道面ELから軸方向外側に離して配置される。そのため、この検知方法では、騒音計24が測定する音へのノイズの影響が効果的に抑制される。この検知方法では、タイヤTが路面16を走行することで生じる騒音が十分に反映された音が騒音計24において測定される。この検知方法は、バーストの兆候を的確に検知できる。この観点から、この検知方法では、騒音の測定に用いられる騒音計24は、タイヤTの赤道面ELから軸方向外側に離して配置されるのが好ましい。この場合、騒音計24は、赤道面ELから軸方向外側に少なくとも1m(メートル)離して配置されるのがより好ましい。言い換えれば、赤道面ELから騒音計24までの軸方向距離SDが1m以上であるのがより好ましい。
【0067】
タイヤTが路面16を走行することで振動も生じる。測定部6において振動を測定することでも、タイヤTがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる。
この場合、タイヤTが取り付けられるタイヤ軸20にロードセル(図示されず)が取り付けられる。ロードセルが、タイヤTの軸力を測定する。この軸力の測定データによって、前述の騒音(詳細には、音圧レベル)の測定データの場合と同様にして、本発明の検知方法が実行される。この検知方法は、タイヤが路面を走行することで生じる振動を測定する工程と、前記振動の測定データを得る度に、前記振動の推移を表す推移データを算出する工程と、前記推移データに基づいて前記タイヤの状態を判別する工程とを含む。この検知方法が行われる検知装置2では、ロードセルが、タイヤTが路面16を走行することで生じる振動を測定する測定部6に対応する。タイヤが路面を走行することで生じる振動を測定する場合においても、この検知方法はバーストの兆候を検知できる。この検知方法は、タイヤがバーストに至る前にタイヤにかけられている荷重を除くことができる。この検知方法は、バーストに至る前のタイヤをサンプリングすることに貢献できる。
しかも振動の測定データを得る度に、振動の推移を表す推移データが算出されるので、評価対象のタイヤTが1本準備されるだけでよい。直前に得た測定データを基準に推移データが算出されるので、推移データを得るために別のタイヤにおいて参照データを準備する必要もない。この検知方法は、バーストの兆候検知に要する労力の低減を図れる。この検知方法は、バーストの兆候検知に関する生産性の向上に貢献できる。
この検知方法は、タイヤTがバーストに至る前に損傷が生じていることを効率よく的確に検知できる。この検知方法は、損傷のトリガーになる事象の把握に貢献できる。
【0068】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる、タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明された、タイヤがバーストに至る前に損傷が生じていることを検知できる、タイヤの損傷発生の検知方法及び検知装置は、種々のタイヤに適用できる。
【符号の説明】
【0070】
2・・・検知装置
4・・・走行部
6・・・測定部
8・・・制御部
10・・・ドラム
16・・・路面
24・・・騒音計
26・・・接地面
34・・・算出部
36・・・判別部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9