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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089894
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】抗ウイルス性繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20240627BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240627BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240627BHJP
   A01N 57/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
D06M13/292
A01P1/00
A01N25/34 B
A01N57/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205414
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】木村 侑翔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 志郎
(72)【発明者】
【氏名】吾田 圭司
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB17
4H011DA10
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA39
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス性に優れ、且つ、黄変が抑制された繊維製品の製造方法を開示する。
【解決手段】本開示の抗ウイルス性繊維製品の製造方法は、繊維に対して処理液を接触させること、を含む。前記処理液は、所定のリン酸エステル化合物を含む。前記処理液のpHは、9.0以下である。前記処理液に含まれる前記リン酸エステル化合物の濃度は、0.01質量%以上である。前記処理液と前記繊維との浴比は、1.0以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウイルス性繊維製品の製造方法であって、
繊維に対して処理液を接触させること、を含み、
前記処理液が、下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、下記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方のリン酸エステル化合物を含み、
前記処理液のpHが、9.0以下であり、
前記処理液に含まれる前記リン酸エステル化合物の濃度が、0.01質量%以上であり、
前記処理液と前記繊維との浴比(処理液/繊維)が、質量比で1.0以上である、
抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【化1】
【化2】
式(1)において、Rは、炭素数8~20のアルキル基であり、Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、xは、0~10の整数であり、
式(2)において、R及びRは、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基であり、A及びAは、各々独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。
【請求項2】
前記繊維を洗浄すること、及び、洗浄後の前記繊維をすすぐこと、を含み、
前記繊維をすすぐ際に、前記繊維に対して前記処理液を接触させる、
請求項1に記載の抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【請求項3】
前記R、R及びRが、分岐を有する、
請求項1又は2に記載の抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は抗ウイルス性繊維製品の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生意識の向上から衣服等の各種製品に対する抗ウイルス加工が求められている。例えば、特許文献1には、衣服に使用される抗ウイルス洗浄剤組成物として、(A)第4級アンモニウム塩0.5~5質量%、(B)非イオン界面活性剤及び/又は両性界面活性剤1~20質量%、(C)アルカリ剤0.07~10.0質量%、並びに、(D)水を含有するものが開示されている。特許文献2には、抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、分子量1500以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧又は加圧下で加熱処理を行うことにより、前記抗ウイルス性化合物を、前記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させることを特徴とする抗ウイルス加工製品の製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-052118号公報
【特許文献2】国際公開第2016/009928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維に対して抗ウイルス加工を施すと、その後、繊維に黄変が生じる場合がある。従来技術においては、繊維に対して優れた抗ウイルス性を付与するとともに黄変を抑制することについて、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
抗ウイルス性繊維製品の製造方法であって、
繊維に対して処理液を接触させること、を含み、
前記処理液が、下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、下記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方のリン酸エステル化合物を含み、
前記処理液のpHが、9.0以下であり、
前記処理液に含まれる前記リン酸エステル化合物の濃度が、0.01質量%以上であり、
前記処理液と前記繊維との浴比(処理液/繊維)が、質量比で1.0以上である、
抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【化1】
【化2】
式(1)において、Rは、炭素数8~20のアルキル基であり、Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、xは、0~10の整数であり、
式(2)において、R及びRは、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基であり、A及びAは、各々独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。
<態様2>
前記繊維を洗浄すること、及び、洗浄後の前記繊維をすすぐこと、を含み、
前記繊維をすすぐ際に、前記繊維に対して前記処理液を接触させる、
態様1の抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
<態様3>
前記R、R及びRが、分岐を有する、
態様1又は2の抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の抗ウイルス性繊維製品の製造方法によれば、繊維に対して優れた抗ウイルス性を付与することができるとともに、黄変を抑制することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の抗ウイルス性繊維製品の製造方法の一実施形態について説明するが、本開示の製造方法は当該実施形態に限定されるものではない。
【0008】
一実施形態に係る抗ウイルス性繊維製品の製造方法は、繊維に対して処理液を接触させること、を含む。前記処理液は、下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、下記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方のリン酸エステル化合物を含む。前記処理液のpHは、9.0以下である。前記処理液に含まれる前記リン酸エステル化合物の濃度は、0.01質量%以上である。前記処理液と前記繊維との浴比(処理液/繊維)は、質量比で1.0以上である。
【化3】
【化4】
式(1)において、Rは、炭素数8~20のアルキル基であり、Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、xは、0~10の整数であり、
式(2)において、R及びRは、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基であり、A及びAは、各々独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。
【0009】
1.処理対象
本実施形態において、抗ウイルス加工が施される対象は、繊維である。繊維の種類は特に限定されるものではなく、天然繊維であってもよいし化学繊維であってもよい。繊維の具体例としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維、及びこれらの複合繊維、混紡繊維が挙げられる。ポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン6,6等が挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等が挙げられる。繊維は、糸、綿状、編物(交編を含む)、織物(交織を含む)、不織布、紙、木材などの形態を採るものであってもよい。また、繊維は、衣服、鞄、袋物、テント、カーテン、布団、敷布などの最終製品の形態を採るものであってもよい。繊維は染色されたものであってもよい。繊維は、その表面に何らかの修飾処理が施されたものであってもよい。中でも、繊維が綿、ポリアミド、ポリエステル及びポリウレタンのうちの少なくとも1種を含む場合に黄変に係る課題が生じ易いところ、本開示の方法によって当該黄変を適切に抑制することができる。
【0010】
2.処理液
本実施形態においては、上記の繊維に対して処理液を接触させることで、当該繊維に抗ウイルス性を付与する。処理液は、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方のリン酸エステル化合物を含む。
【0011】
2.1 リン酸エステル化合物の化学構造
上記一般式(1)及び(2)において、R、R及びRは、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基である。このように、R、R及びRの炭素数が8~20である場合に、優れた抗ウイルス性が発現する。当該炭素数の下限は好ましくは9以上であり、上限は好ましくは18以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは15以下である。R、R及びRは、各々、直鎖であっても分岐を有するものであってもよいが、特に、R、R及びRが分岐を有する場合に、抗ウイルス性に一層優れたものとなり易い。
【0012】
上記一般式(1)及び(2)において、x、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。抗ウイルス性の観点からは、x、y及びzが小さいほうが好ましい。具体的には、x、y及びzが、各々独立して、0~8の整数、特に0~5の整数である場合に、抗ウイルス性に一層優れたものとなり易い。
【0013】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステルと上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステルとのうちの少なくとも一部が、塩の形態で含まれていてもよい。塩としては、アルカリ金属塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0014】
アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
【0015】
アルキルアミン塩を構成するアルキルアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジブチルアミン、ブチルジメチルアミン等が挙げられる。
【0016】
アルカノールアミン塩を構成するアルカノールアミンとしては、ジメチルモノエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロピルエタノールアミン等が挙げられる。
【0017】
2.2 リン酸エステル化合物におけるモノ/ジエステルの組成比
上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩との比率(質量比)は、特に限定されるものではない。例えば、リン酸モノエステル又はその塩と、リン酸ジエステル又はその塩との比率は、0:100~100:0であり、好ましくは10:90~90:10であり、より好ましくは20:80~80:20である。
【0018】
2.3 処理液におけるリン酸エステル化合物の濃度
本実施形態においては、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩とのうちの少なくとも一方が含まれていればよく、双方が含まれていてもよい。本実施形態において、処理液に含まれるリン酸エステル化合物の濃度(リン酸モノエステル、リン酸ジエステル及びこれらの塩の合計の濃度)は、0.01質量%以上であるとよい。当該濃度は、好ましくは0.02質量%以上であり、より好ましくは0.04質量%以上である。処理液におけるリン酸エステルの濃度が低過ぎる場合、繊維に対して十分な抗ウイルス性を付与することが困難となる。一方、当該濃度の上限値は特に限定されるものではない。ただし、処理液におけるリン酸エステルの濃度が高過ぎる場合、効果が飽和してコストが増加するほか、生地の再汚染性の増大の懸念がある。この点、当該濃度は、0.01質量%以上10質量%以下であってもよく、好ましくは0.02質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.04質量%以上2質量%以下である。
【0019】
2.4 その他の成分
本実施形態において、処理液は、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩とに加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、水や有機溶媒や酸成分やアルカリ成分等が挙げられる。また、その他の成分として、界面活性剤やキレート剤等各種の添加剤が含まれていてもよい。例えば、一実施形態において、処理液は、上記のリン酸エステル化合物を含む処理剤と、前記処理剤を希釈するための希釈液とを混合することによって得られたものであってもよく、この場合、前記処理剤が、上記のリン酸エステル化合物と、有機溶剤及び界面活性剤のうちの一方又は両方とを含むものであってよく、前記希釈液が、水を含むものであってもよい。また、処理液は、その他の成分として、抗ウイルス加工以外の種々の加工を目的とする加工剤が含まれていてもよい。その他の加工剤としては、例えば、柔軟剤、糊剤、撥水剤、抗菌剤、香り付与剤等が挙げられる。また、処理液は、抗ウイルス加工工程の前工程に由来する成分を含んでいてもよい。例えば、抗ウイルス加工工程の前工程として洗浄工程が行われる場合において、当該洗浄工程に由来する成分が繊維に付着した状態で上記の処理液を当該繊維に接触させることで、結果として、当該繊維に接触した状態にある当該処理液が、洗浄工程に由来する成分を含むものとなってもよい。尚、本実施形態において、処理液は、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩とに加えて、これ以外の抗ウイルス成分を含んでいてもよい。或いは、本実施形態において、処理液は、抗ウイルス成分として、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩、及び、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩のうちの少なくとも一方のみを含んでいてもよい。
【0020】
2.4.1 有機溶媒
有機溶媒の種類は、特に限定されるものではない。有機溶媒は、例えば、炭素数2~4の一価アルコール及びグリコールエーテル系溶媒のうちの少なくとも一方であってもよい。特に、処理液の安定性の観点から、3―メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが好ましい。
【0021】
2.4.2 酸成分
後述するように、本実施形態においては、繊維に接触している最中の処理液のpHが所定範囲内である必要がある。処理液は、例えば、pHを調製するために酸成分を含んでいてもよい。酸成分の種類は、特に限定されるものではない。酸成分は、例えば、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、イソクエン酸、マロン酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸及びフィチン酸等の有機酸;並びに硫酸、リン酸等の無機酸から選ばれる少なくとも1種であってもよい。繊維の脆化防止の観点からは、有機酸が好ましく、また、コストの観点からは、クエン酸、リンゴ酸、酢酸及び乳酸のうちの少なくとも1種がより好ましい。
【0022】
2.4.3 アルカリ成分
後述するように、本実施形態においては、繊維に接触している最中の処理液のpHが所定範囲内である必要がある。処理液は、例えば、pHを調製するためにアルカリ成分を含んでいてもよい。アルカリ成分の種類は、特に限定されるものではない。アルカリ成分は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、珪酸塩及び炭酸塩から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。珪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩としては、1号珪酸ナトリウム、2号珪酸ナトリウム、3号珪酸ナトリウム、オルト珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム等の珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等が挙げられる。炭酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩としては、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。また、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩も好ましい。
【0023】
2.5 pH
本実施形態においては、繊維に対してpHが9.0以下の処理液を接触させる。すなわち、繊維に接触している最中の処理液のpHが9.0以下である。後述するように、洗濯のすすぎの際に繊維に対して処理液を接触させる場合、繊維に接触している最中の当該処理液には、洗浄やすすぎに用いた成分が含まれ得る。例えば、繊維の洗浄の際は洗浄成分としてアルカリ成分を使用することが多く、繊維に接触している最中の処理液が過度なアルカリ性となる場合がある。本実施形態においては、例えば、処理液に上述の酸成分等を含ませることで、繊維に接触している当該処理液のpHを9.0以下に調整してもよい。より具体的には、一実施形態に係る製造方法は、繊維に対して処理液を接触させる前において、前記繊維にアルカリ成分が付着しており、且つ、前記処理液が酸成分を含んでおり、前記繊維に対して前記処理液を接触させることで、前記繊維に付着した前記アルカリ成分を前記処理液に含まれる前記酸成分によって中和しつつ、前記繊維に接触した状態における前記処理液のpHを9.0以下に調整すること、を含んでいてもよい。処理液のpHが9.0以下であることで、繊維の黄変や脆化を抑制することができ、また、安全性に優れた処理液となる。処理液のpHは、好ましくは8.5以下、より好ましくは8.0以下である。一方で、処理液のpHの下限は特に限定されるものではない。例えば安全性等の観点から、処理液のpHは、2.0以上9.0以下であってもよく、好ましくは3.0以上8.5以下であり、より好ましくは5.0以上8.0以下である。
【0024】
上述の通り、本実施形態において、処理液のpHは、繊維に接触させる前と繊維に接触させている最中とで、異なるものであってよい。繊維に接触させる前の処理液のpHは、例えば、0以上7.0以下、より好ましくは1.0以上7.0以下であり、安定性の観点から、さらに好ましくは1.5以上7.0以下である。
【0025】
2.6 浴比
本実施形態において、抗ウイルス加工における処理液と繊維との浴比(処理液/繊維)は、質量比で、1.0以上である。浴比が1.0以上であることで、繊維に対して優れた抗ウイルス性を付与することができる。一方、浴比の上限は特に限定されるものではない。例えば、浴比は15.0以下であってもよい。浴比が15.0以下であることで、処理液由来の成分が繊維製品に過度に残留し難くなり、また、節水も可能となる。当該浴比は、1.0以上15.0以下であってよく、好ましくは3.0以上12.0以下であり、より好ましくは4.0以上10.0以下である。
【0026】
3.接触
本実施形態においては、上記の繊維に対して上記の処理液を接触させることで、抗ウイルス性繊維製品が製造される。繊維を処理液に接触させる方法は、上記の浴比等が満たされる条件であればよい。例えば、パディング処理、浸漬処理、塗布処理(例えば、スプレー処理、インクジェット加工、泡加工及びコーティング処理等から選ばれる少なくとも1種の処理であってもよい)等が挙げられる。
【0027】
4.その他の工程
繊維を処理液に接触させた後は、繊維から余分な成分を除去するために、水洗等の洗浄処理を行ってもよい。また、繊維に処理液を接触させた後は、当該繊維から水分を除去するために、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度や乾燥時間も特に制限されず、例えば、室温~200℃で10秒~数日間乾燥させればよい。乾燥温度は好ましくは40~130℃、より好ましくは60~100℃であり、乾燥時間は好ましくは20秒~60分、より好ましくは10分~50分である。
【0028】
5.応用例
上記の抗ウイルス加工(繊維に対する処理液の接触)は、繊維の洗濯中又は洗濯後に行われてもよい。洗濯は、家庭洗濯及び商業洗濯のうちのいずれであってもよいが、本開示の方法は、特に、工程短縮、節水、コストなどが厳密に求められる商業洗濯に有用である。
【0029】
商業洗濯は、通常、洗浄工程、すすぎ工程及び加工工程を有する。一般には、最終の加工工程において、抗ウイルス加工を行う。一方で、本実施形態においては、抗ウイルス加工が、すすぎ工程及び加工工程のどの工程において行われてもよい。特に、工程短縮及び節水の観点から、すすぎ工程において行われることが好ましい。言い換えれば、本開示の抗ウイルス性繊維製品の製造方法は、一実施形態において、前記繊維を洗浄すること(洗浄工程)、及び、洗浄後の前記繊維をすすぐこと(すすぎ工程)、を含んでいてもよく、この場合、前記繊維をすすぐ際に、前記繊維に対して前記処理液を接触させてもよい。また、本開示の抗ウイルス性繊維製品の製造方法は、一実施形態において、前記繊維をすすぐ際、すすぎ水の成分及びpHを調整することで、上記の処理液を得ること、を含んでいてもよい。
【0030】
この場合、繊維に対する処理液の接触は、すすぎ回数によらず、少なくとも最後のすすぎの段階(少なくともすすぎの最終回)で行われることがより好ましい。尚、すすぎ回数については、被洗物である繊維やすすぎ水の量比等の違いによって一概には言えない。すすぎの回数は、1回以上又は2回以上であってもよく、10回以下、8回以下又は5回以下であってもよい。すすぎ工程の前工程である洗浄工程においてアルカリ含有水で繊維を洗浄した場合、工程短縮や節水の観点から、pHが好ましくは7.0以上13.0以下、より好ましくは8.0以上12.0以下、さらに好ましくは8.5以上11.5以下であるすすぎ水を用いて、すすぎ工程の少なくとも最後のすすぎを行い、且つ、当該最後のすすぎの段階で、繊維に上記の処理液(当該すすぎ水とは別個に準備されたものであってもよいし、当該すすぎ水に各種成分を添加してpHを調整して得られたものであってもよい)を接触させて、抗ウイルス加工が行われるとよい。ここで、繊維に対して処理液が接触している状態において、当該処理液のpHが9.0以下となるようにする。すなわち、すすぎ水のpHが9.0を超えている場合、酸成分を加えるなどして、処理液としてのpHを9.0以下に調整するとよい。以上をまとめると、例えば、一実施形態に係る製造方法は、前記繊維を洗浄すること(洗浄工程)、洗浄後の前記繊維をすすぐこと(すすぎ工程)、及び、前記すすぎ工程における少なくとも最後のすすぎの段階で、前記繊維に前記処理液を接触させること、を含んでいてもよく、前記処理液は、少なくとも前記最後のすすぎに用いられるすすぎ水に上記のリン酸エステル化合物を添加し、且つ、pHを9.0以下に調整して得られたものであってもよい。
【0031】
洗浄工程、すすぎ工程及び加工工程に使用される機器は、特に限定されないが、市販の洗濯機、リネンサプライ業やクリーニング業等で使用される業務用の洗濯機、例えば、バッチワッシャー、連続式洗濯機等が挙げられる。乾燥機能が搭載された洗濯機を用いれば、乾燥工程も行うことができる。
【0032】
洗浄工程の具体的な形態は、特に限定されない。洗浄回数は1回でもよいし、2回以上でもよい。洗浄工程に用いられる薬剤は、洗浄剤、アルカリ剤、漂白剤、SR剤、蛍光増白剤、再汚染防止剤、キレート剤、消泡剤等のいずれが使用されていてもよいが、洗浄性の観点からアルカリ剤を含んだ薬剤が好ましい。洗浄工程は、予洗工程及び本洗工程を含むものであってもよく、予洗工程及び本洗工程で使用する洗浄剤は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
すすぎ工程に使用されるすすぎ水は、特に限定されない。例えば、洗浄剤を含有しない水を使用することが好ましく、具体的には水道水、地下水、イオン交換水等が挙げられる。すすぎ工程以降は、洗濯槽の水の余剰分が使用されてもよい。また、すすぎ工程に使用されるすすぎ水に、上記のリン酸エステル化合物等が添加されて、上記の処理液が調製されてもよい。
【0034】
すすぎ工程において抗ウイルス加工を行った場合、その後、その他の加工工程を行ってもよい。その他の加工形態は特に限定されず、その他の加工剤を含む加工液にすすぎ工程後の繊維を浸漬させる方法や、繊維表面へ加工液をスプレー噴霧する方法等が挙げられる。抗ウイルス性の観点からは、繊維表面へ加工液をスプレー噴霧する方法が好ましい。その他の加工剤としては、上述のように、柔軟剤、糊剤、撥水剤、抗菌剤、香り付与剤などが挙げられる。
【実施例0035】
以下、本発明について、実施例を示しつつさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0036】
1.抗ウイルス剤の調製
1.1 化合物A1の調製
下記表1に示されるアルコールに無水リン酸(五酸化ニリン)を加えた後、90~95℃で攪拌加温しながら6時間反応させて化合物A1を得た。次に化合物A1の濃度が20質量%、pHが2~3となるように、水と水酸化カリウムとを添加し、均一な液体が得られない場合は、適宜3―メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを添加して調整した。
【0037】
1.2 化合物A2~A6、a1~a3の調整
下記表1に示されるアルコール及び中和塩に変更したこと以外は、化合物A1と同じ方法で各化合物を調製した。
【0038】
【表1】
【0039】
1.3 その他の抗ウイルス剤の調整
本実施例において使用したその他の抗ウイルス剤は以下の通りである。
a4:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム(製品名:リポランLB-440 ライオンスペシャリティケミカルズ社製)
a5:ドデシルスルホン酸エステルナトリウム(製品名:エマール2F-30 花王社製)
a6:ネオデカン酸(製品名:ネオデカン酸 エクソンモービル社製)に3―メトキシ-3-メチル-1-ブタノールと水を添加し、水酸化ナトリウムでpH7に調整した。
b1:ジメチルアルキル(炭素数12~16)ヒドロキシエチルアンモニウム・ブチルリン酸エステル(製品名:ニッカノンRB 日華化学社製)
b2:ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(製品名:ニッカノン50 日華化学社製)
b3:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(製品名:リポカード210-80E ライオンスペシャリティケミカルズ社製)
b4:ジステアリルアンモニウムクロライド(製品名:リポカード2HT-75 ライオンスペシャリティケミカルズ社製)
b5:ジオレイルアンモニウムクロライド(製品名:リポカード2O-75I ライオンスペシャリティケミカルズ社製)
【0040】
2.試験布作成方法
450mL蓋つきガラス瓶容器に、綿メリヤス生地(谷頭商店)10gと、洗浄液(組成:炭酸ナトリウム0.17質量%、メタケイ酸ナトリウム0.13質量%、過炭酸ソーダ0.06質量%)40gとを加え、3分間浸漬させ洗浄操作を行った。次に溶液を廃棄して、すすぎ操作として表2及び3に示される浴比量の水道水で3分間振盪し、これを1回のすすぎ操作とした。すすぎ操作はそれぞれ表2及び3に記載された回数行った。尚、比較例13では、すすぎ1回目の浴比を7.0とし、2回目を表3に記載された浴比(0.5)とした。
【0041】
ここで、最終すすぎの際は、表2及び3に示される浴比量の水道水を添加後、ガラス瓶容器内の綿メリヤス生地をガラス棒にて軽くかき混ぜ、綿メリヤス生地を一旦取り出し、すすぎ液のpHを測定した。pH測定後、綿メリヤス生地をガラス瓶容器に戻して、表2に示される各化合物を添加して、処理液を調製した。表2に示される各化合物の濃度は、処理液中の有効成分濃度を表す。また、処理液のpHを、水酸化ナトリウム水溶液(1質量%)とクエン酸水溶液(1質量%)とを用いて調整した。pH調整後、上下に3分間振盪した。その後、綿メリヤス生地を30秒間遠心脱水し、80℃、30分間乾燥させて試験布を得た。
【0042】
3.pH測定方法
pH調整前後の処理液のpHは、室温にて、卓上型pH・水質分析計(F-74 HORIBA社製)で測定した。
【0043】
4.抗ウイルス性評価方法
JIS L1922(2016年)に従い抗ウイルス活性値を測定した。抗ウイルス活性値は以下の計算式により算出した。また、ウイルスとしては、A型インフルエンザウイルス(H3N2)ATCC VR-1679を用いた。
抗ウイルス活性値(Mv)=log(Va)―log(Vo)
Va:標準試験布のウイルス液2時間作用後のウイルス感染価対数値
Vo:抗ウイルス加工布のウイルス液2時間作用後のウイルス感染価対数値
【0044】
抗ウイルス性の評価基準は、以下の◎、〇、×の3段階とし、Mvが◎又は〇であるものを合格とした。
◎:Mv3.0以上
○:Mv2.0以上3.0未満
×:Mv2.0未満
【0045】
5.黄変試験方法
試験布の色相を、色彩色差計(CR-200 コニカミノルタ社製)にて測定し、以下の計算式に基づいて黄変性を評価した。
(Δb)=(黄変試験布のb値)―(未処理綿メリヤス布のb値)
【0046】
黄変性の評価基準は、以下の◎、〇、×の3段階とし、Δbが◎又は〇であるものを合格とした。
◎:Δb2.5未満
○:Δb2.5以上3.0未満
×:Δb3.0以上
【0047】
6.節水性の評価方法
上記のすすぎに要した水量に基づいて節水性を評価した。節水性の評価基準は、以下の◎、〇、△及び×の4段階とし、水量が◎、〇又は△であるものを合格とした。
◎:175ml未満
〇:175ml以上245ml未満
△:245ml以上525ml未満
×:525ml以上
【0048】
7.評価結果
下記表2及び3に、最後のすすぎに用いた処理液における抗ウイルス成分(化合物A1~A6、a1~a6、b1~b5)の濃度、当該処理液と繊維との浴比(処理液/繊維、質量比)、pH調整前後の当該処理液のpH、節水性の評価結果、抗ウイルス性の評価結果、及び、黄変性の評価結果を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表2及び3に示される結果から以下のことが分かる。
・ 比較例1、2は、抗ウイルス成分として用いたリン酸エステル化合物におけるアルキル基の炭素数が小さ過ぎたため、試験布に十分な抗ウイルス性を付与することができなかった。
・ 比較例3は、抗ウイルス成分として用いたリン酸エステル化合物におけるアルキル基の炭素数が大き過ぎたため、試験布に十分な抗ウイルス性を付与することができなかった。
・ 比較例4~6は、抗ウイルス成分として所定のリン酸エステル化合物以外の化合物a4~a6を用いたため、試験布に十分な抗ウイルス性を付与することができなかった。
・ 比較例7~11は、抗ウイルス成分として所定のリン酸エステル化合物以外の化合物b1~b5を用いたため、試験布の黄変が顕著となった。
・ 比較例12は、処理液のpHが高過ぎたため、試験布の黄変が顕著となった。
・ 比較例13は、浴比が小さ過ぎたため、試験布に十分な抗ウイルス性を付与することができなかった。
・ 比較例14は、処理液における抗ウイルス成分の濃度が低過ぎたため、試験布に十分な抗ウイルス性を付与することができなかった。
・ これに対し、実施例1~16は、抗ウイルス成分として所定のリン酸エステル化合物を用い、処理液における抗ウイルス成分の濃度が所定範囲内であり、処理液のpHが所定範囲内であり、且つ、浴比が所定範囲内であったため、試験布に優れた抗ウイルス性を付与することができるとともに、試験布の黄変も抑制することができた。
【0052】
8.まとめ
以上の実施例の結果から、以下の(A)~(D)を満たす製造方法により、優れた抗ウイルス性を有し、且つ、黄変が抑制された繊維製品を製造可能といえる。尚、一般的に、カチオン界面活性剤よりもアニオン界面活性剤のほうが、皮膚刺激性が低い傾向にある。この点、本実施例にて用いた処理液は皮膚刺激性が低いという利点も有する。
(A)繊維に接触させる処理液が、炭素数8~20のアルキル基を有するリン酸モノエステル又はその塩(上記一般式(1))と、炭素数8~20のアルキル基を有するリン酸ジエステル又はその塩(上記一般式(2))と、のうちの少なくとも一方を含む。
(B)処理液のpHが、9.0以下である。
(C)処理液に含まれるリン酸エステル化合物の濃度が、0.01質量%以上である。
(D)処理液と繊維との浴比(処理液/繊維)が、質量比で1.0以上である。