(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089900
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】医療機器用ワイヤ及びガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20240627BHJP
B21C 1/00 20060101ALI20240627BHJP
A61B 17/28 20060101ALN20240627BHJP
B21F 1/02 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
A61M25/09 510
A61M25/09 500
B21C1/00 L
A61B17/28
B21F1/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205423
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 隆
【テーマコード(参考)】
4C160
4C267
4E070
4E096
【Fターム(参考)】
4C160GG29
4C160NN08
4C267AA28
4C267AA29
4C267BB06
4C267BB38
4C267CC08
4C267GG22
4C267GG24
4C267HH01
4C267HH03
4E070AA00
4E070AB12
4E070AC02
4E070BB01
4E070BD06
4E070DB01
4E070FA01
4E096EA03
4E096EA12
4E096HA22
(57)【要約】
【課題】トルク伝達性に極めて優れた、医療機器用のワイヤ1およびガイドワイヤの提供。
【解決手段】医療機器用のワイヤ1は、両支持点間隔が25.4mmでの3点曲げ試験における撓み7mmの時の荷重P(N)と断面2次モーメントI(mm
4)とが、下記式(i)を満たす。
P/I≦2800・・・(i)
別の態様においては、上記医療機器用のワイヤを使用したガイドワイヤである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器用のワイヤであって、両支持点間隔が25.4mmでの3点曲げ試験における撓み7mmの時の荷重P(N)と断面2次モーメントI(mm4)とが、下記式(i)を満たす。
P/I≦2800・・・(i)
【請求項2】
引張強さが2000MPa以上である請求項1に記載の医療機器用ワイヤ。
【請求項3】
材質がステンレス鋼である請求項1又は2に記載の医療機器用ワイヤ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の医療機器用ワイヤを用いたガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器に適したワイヤ及びガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体管腔内の治療等を行うためにカテーテルデバイスが用いられている。カテーテルデバイスを生体管腔の目的部位へ誘導する医療機器としてガイドワイヤが広く知られている。ガイドワイヤは、真直性とともに、屈曲した血管内に挿入された際、手元の操作部からの押し引き力や、回転力(トルク)を、遅れなく先端に伝達することが求められる。一般的に、ガイドワイヤには、芯材となるコアワイヤが備えられ、コアワイヤにおいても、手元の操作部からの押し引き力や、回転力(トルク)を、遅れなく先端に伝達することが求められる。
さらに、把持鉗子などの処置具に用いられる操作用ワイヤにおいても、同様の伝達性が求められる。
【0003】
特開2003-342696公報には、高強度でトルク伝達性が優れるガイドワイヤ用コアワイヤが開示されている。
特開2020-168143公報には、把持鉗子用などの処置具の高強度でトルク伝達性が優れる操作用ワイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-342696号公報
【特許文献2】特開2020-168143公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療機器の発達に伴い、医療機器用ワイヤには、さらに優れたトルク伝達性が望まれている。本発明は、さらなるトルク伝達性に優れた、医療機器用ワイヤを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る医療機器用ワイヤは、両支持点間隔が24.5mmでの3点曲げ試験における撓み7mmの時の荷重P(N)と断面2次モーメントI(mm4)とが、下記式(i)を満たす。
P/I≦2800・・・(i)
【0007】
好ましくは、上記医療機器用ワイヤは、引張強さが2000MPa以上である。
【0008】
好ましくは、上記医療機器ワイヤは、ステンレス鋼である。
【0009】
本発明の別の態様においては、上記の医療機器用ワイヤを用いた医療用ガイドワイヤが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る医療機器用ワイヤは、トルク伝達性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る医療機器用ワイヤの一実施形態を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の医療機器用ワイヤの三点曲げの測定方法が示された説明図である 。
【
図3】
図3は、本発明に係る医療機器用ワイヤの製造装置の一部を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るガイドワイヤの一実施形態を示す横断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るガイドワイヤの他の実施形態の横断面図である。
【
図6】
図6は、従来の医療機器用ワイヤの製造工程の一部を示す図である。
【
図7】
図7は、従来の医療機器用ワイヤの他の製造工程の一部を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1の医療機器用ワイヤのトルク伝達性の測定方法が示された説明図である 。
【
図9】
図9は、
図8の方法で測定された医療機器用ワイヤのトルク伝達性の評価結果が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0013】
図1には、本発明に係る医療機器用ワイヤ1(以下、単にワイヤとも言う)が例示されている。本発明のワイヤは真直線である。ワイヤ1はリールに巻き取られた長尺であってもよい。
図1に示された実施形態に係る構成には限定されない。
【0014】
このワイヤ1が所定長さに切断され、医療機器の部材として用いられる。例えば、先端にテーパー加工を施され、表面を樹脂で被覆されたガイドワイヤに用いられる。さらに、例えば、その一端部が医療機器の手元操作部に連結され、その他端部が先端部として処置部に連結され処置具をなす。処置具としては、把持鉗子、スネアなどが挙げられる。手元部に加えられた押し力、引き力及びトルクが、操作用ワイヤを介して先端部に伝わる。これにより、処置部が治療対象部位に配置され、処置を施す。医療機器用ワイヤ1の一般的な直径Dは、0.2mmから5mmである。
【0015】
ワイヤ1は、
図2に示されるように、両支持点間隔W1が25.4mmでの3点曲げ試験における撓み7mmの時の荷重P(N)と断面2次モーメントI(mm
4)が下記式(i)を満たす。
P/I≦2800・・・(i)
このワイヤは柔軟性に優れる。柔軟性に優れるため、屈曲した管内に配置された際に、管の内側面への応力が小さく、そのために一端を回転した際に、他端が回転するのを阻害する管の内側面からの力が小さいために、トルク伝達性が優れることが判明した。
【0016】
3点曲げ試験は、
図2に示されるように、試料の長さ方向両端を支点にて支持して中央部に圧子による曲げを加えた際の最大曲げ応力を、3点曲げ力として計測する試験であり、得られた3点曲げ力の値が小さいほど、柔軟性が高いことを示す。これを、引張圧縮試験機(例:ミネベア社製のLTS-500NB)を用いて、支点間距離25.4mm、圧子のスピード5mm/分の条件下で7mm押し込んだ際の応力の測定を行う。
【0017】
ワイヤ1は、引張強さが2000MPa以上であるのが好ましい。2300MPa以上がさらに好ましい。
【0018】
ワイヤ1は金属材料から形成されている。好ましい金属材料として、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304及びSUS316、ニッケル-チタン合金が挙げられる。もちろん、これらの材料には限定されない。ステンレス鋼が特に好ましい。
【0019】
本発明の医療機器用ワイヤは、以下の製造工程で製造される。すなわち、伸線または圧延により所望の線径の中間ワイヤ7を製造し、このワイヤ7に
図3のようなベースプレート6に固定された複数のピン5がワイヤ7の周囲を回転する装置8を通した後に、熱処理炉において、テンションアニールを施す。装置8においては、ワイヤに大きなうねりが生じないように、ピン間隔と回転数が調整される。ワイヤが屈曲された状態でピンに擦られるため、ワイヤ表面の応力が大きく緩和される。テンションアニールにおいては、荷重は、ワイヤの線径変化が生じない範囲のできるだけ高いのが望ましく、温度は300~650℃で行う。装置8で少量のうねりが生じても、テンションアニールによりうねりが解消されうる。
【0020】
ワイヤ1は、ガイドワイヤのコアワイヤとして用いられる。
図4は、一実施形態に係るガイドワイヤ10の一部が示された断面図である。
図4において、長軸に延在するコア9と、前記コア9の外表面を覆う樹脂により形成された被覆層10を備えている。このガイドワイヤ11の全長は、特に限定されないが200mmから50000mmであるのが好ましい。このガイドワイヤ11の外径(太さ)は、特に限定されないが、0.1mmから1.2mm程度であるのが好ましい。
【0021】
被覆層10は、コア9を覆っている。被覆層10は、樹脂からなる。被覆層の樹脂は特に限定されないが、フッ素系樹脂が好ましい。特に、テフロン(登録商標)樹脂が好ましい。樹脂により、血管へガイドワイヤ11が挿入されるときの円滑性がもたらされる。
【0022】
コア9は、主部12とテーパー部13とを備えている。主部12における線径は、実質的に一定である。主部12における線径は、典型的には0.25mmから0.50mmである。テーパー部13は、先端に向かって縮径している。
【0023】
ガイドワイヤの先端にコイルが具備されてもよい。
図5には先端にコイルが具備されたガイドワイヤが示される。図中、15はコイル部、16はキャップ部である。コイル部およびキャップ部を具備することにより、血管等への挿入性が良くなる。コイル部に用いるワイヤは白金、金、ステンレス鋼などが挙げられる。
【実施例0024】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて 本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0025】
[実施例1]
その材質がSUS304である鋼材に伸線加工を施し、線径0.34mm、引張強さ2623MPaの中間ワイヤ7を得た。
図3の装置で加工した後に580℃でテンションアニールを施して真直ワイヤを得た。
【0026】
[実施例2]
実施例1の中間ワイヤ7に、
図3の装置での加工後、480℃でテンションアニールを施して真直ワイヤを得た。
【0027】
[比較例1]
実施例1の中間ワイヤ7に機械的な真直加工を施し、真直ワイヤを得た。真直加工は、
図6に示す従来の矯正装置17にて実施した。
図6の矯正装置は複数のローラー18の間に中間ワイヤ7を通す機構である。この矯正装置を縦横の方向を違え2個配置して、真直加工を施した。
【0028】
[比較例2]
実施例1の中間ワイヤ7に機械的な真直加工を施し、真直ワイヤを得た。真直加工は、
図7に示す従来のねじり真直加工装置19で実施した。ねじり真直加工装置19は、中間ワイヤの両端をクランプで固定し、一端を回転してねじり加工を施し矯正する機構である。
【0029】
[トルク伝達性の評価] トルク伝達性は、
図8に示されるように、スパイラルにおける手元側を回転させた際の、先端部の回転角との差によって評価される。
図8に示される22が二重となっている二重スパイラルを有する硬質パイプ22が使用される。二重スパイラル22は二重でなく単一周回のものでもよい。二重スパイラルの方が評価の差が明確となるため好ましい。二重スパイラル部22の直径は、200mmである。この硬質パイプに通されたワイヤ1の手元側23に矢印R1で示される方向に、回転力が負荷される。これにより、ワイヤ1の先端側24は、矢印R2で示されるように回転する。手元側23の回転角と先端側24の回転角とが、同時に測定される 。
【0030】
図9は、
図8の方法で測定されたトルク伝達性の結果が示されたグラフである。
図9では、同時点におけるワイヤの手元側の回転角と、先端側の回転角とが、対応付けて表されている。グラフの中の破線は、手元側の回転角と先端側の回転角との差がゼロであることを示す直線である。グラフの中の実線の曲線は、測定されたワイヤの例が示されている。手元側の回転角と先端側の回転角の差は、破線と実線との縦軸における差である。手元側の回転角の0°から360°の範囲において測定された回転角度差の最大値の小さいものが、トルク伝達性に優れる。
【0031】
下記表1に、実施例1、2と比較例1、2の各ワイヤの最大角度差が、比較例1の最大角度差が100とされたときの数として示される。この指数が小さいワイヤは、トルク伝達性に優れる。
【0032】
【0033】
表1に示されるように、この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。