(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089913
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びその製造方法、硬化体、並びに炭素骨材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240627BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240627BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20240627BHJP
C04B 28/26 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/08 Z
C04B18/10 Z
C04B28/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205452
(22)【出願日】2022-12-22
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】高巣 幸二
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA26
4G112PB02
(57)【要約】
【課題】混和剤の含有量を増やすことなく、骨材の少なくとも一部を炭素骨材に置き換えることができ、硬化体の強度を維持しつつ、低炭素化又は脱炭素化を実現する硬化体を付与する硬化性組成物を提供する。
【解決手段】硬化性組成物は、セメントと、アルミナシリカ及びアルカリ金属塩の混合物との少なくとも一方を含む結合材と、骨材とを含む。骨材は、MB吸着量が1mg/g以下であり、且つ粒径0.5mmの1粒子当たりの圧縮強度は6N/個以上である炭素骨材を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、アルミナシリカ及びアルカリ金属塩の混合物と、の少なくとも一方を含む結合材と、骨材と、水とを含み、
前記骨材は、MB吸着量が1mg/g以下であり、且つ粒径0.5mmの1粒子当たりの圧縮強度が6N/個以上である炭素骨材を含む、
硬化性組成物。
【請求項2】
前記炭素骨材の炭素含有量は、93質量%以上である、
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記骨材は、細骨材を含み、
前記炭素骨材の含有量は、前記細骨材に対して3質量%以上である、
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記炭素骨材の含有量は、前記結合材に対して5質量%以上である、
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記結合材に対して1.5質量%未満の混和剤をさらに含む、
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記炭素骨材の含有量が前記細骨材に対して3質量%以上であるとき、前記硬化性組成物の硬化体の材齢7日における圧縮強度は、24N/mm2以上である、
請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の硬化性組成物を硬化してなる、
硬化体。
【請求項8】
バイオマス材料、化石燃料由来物及び樹脂からなる群より選ばれる一以上の炭素前駆体を、不活性ガス又は還元性ガスの含有割合が97体積%以上の雰囲気下で、400℃以上の温度で焼成して、炭素骨材を得る工程と、
前記炭素骨材を含む骨材と、結合材と、水とを混合する工程と
を含む、
硬化性組成物の製造方法。
【請求項9】
MB吸着量が1mg/g以下であり、且つ粒径0.5mmの1粒子当たりの圧縮強度が6N/個以上である、
炭素骨材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物及びその製造方法、硬化体、並びに炭素骨材に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2削減を目的として、大気中のCO2を地中に戻すCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)等の取り組みがあり、C(炭素)として地中に戻す方法が紹介されている。そのような方法として、マイナスのCO2排出量を達成する技術、即ち、ネガティブエミッション技術の一つとして、バイオ炭を地中に固定化する技術がある。
【0003】
バイオ炭を農地に固定化するという手法は、Jクレジットとしても認証されている。同様の観点から、モルタルやコンクリートに炭素を固定化することで、大気中の炭素量を低減する低炭素・脱炭素化方法が検討されている。
【0004】
モルタル・コンクリートに用いられるセメントは、CO2の大量排出源である。即ち、セメントの原料である石灰石(炭酸カルシウム)を燃焼する際に、炭酸ガスを排出する。セメント製造時のCO2発生量のうち、セメントの原料である石灰石の燃焼時に全体の6割のCO2が発生し、当該燃焼に使用する化石燃料の消費時に全体の4割のCO2が発生する。例えば、普通ポルトランドセメントのCO2原単位は、766kg-CO2/トンとされる。従って、1トンのセメントに、766×12/44=209kg、重量割合としてセメント比20.9質量%のカーボンネガティブな炭素をセメントに混和させれば、脱炭素となる。
【0005】
カーボンニュートラルな炭素源であるバイオ炭は、炭素の固定化によりカーボンネガティブとなる炭素である。従って、バイオ炭をセメントに混和することで、脱炭素化が可能となる。さらに、CO2排出量がセメントコンクリートの1/3程度であり、脱炭素型セメントと知られるジオポリマー(GP)をセメントの代替として使用することで、脱炭素効果をさらに高めることができる。
【0006】
セメントに炭素を混和する技術として、セメントに炭素短繊維を混和して製造される炭素短繊維強化セメント複合材(CFRC)が知られている(特許文献1及び2参照)。その他、セメントと炭素の複合化製品は、土壌浄化、路面硬度改善、防虫、保水、融雪、防食、通水、着色、導電、調湿、電波遮蔽等の様々な目的で使用されている(特許文献3参照)。また、セメントペーストと、木質系バイオマスの炭素化物(バイオ炭)と、粗骨材と、細骨材と、混和材量とを含むモルタル混合物であって、窒素酸化物等の汚染物質を除去する目的で使用されることが開示されている(特許文献4参照)。この炭素化物は、木質系バイオマスを炭化温度400~1800℃で炭素化したものであり、粒径が0.1~5mm程度であることが記載されている。
【0007】
また、バイオ炭としてオガ炭を使用して、脱炭素化を達成する技術も提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-263494号公報
【特許文献2】特開平8-059328号公報
【特許文献3】特開2002-104864号公報
【特許文献4】特開2006-249733号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】JSCE 令和4年度 土木学会全国大会第77回年次学術講演会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1や2のような炭素短繊維は、セメントと混和しにくく分散性が低いことから、セメントに対して2体積%(1.2質量%)よりも多く含有させることは難しかった。また、特許文献4では、窒素酸化物等の汚染物質を除去する目的で、多孔質の木質系バイオマスの炭素化物を使用しているが;そのような多孔質の木質系バイオマスの炭素化物は減水剤等の混和剤を吸着しやすいため、セメントに対して5質量%程度と少量しか含有させることができなかった。従って、いずれもカーボンネガティブな炭素を多く含有させることができないため、脱炭素化を実現できるものではなかった。
【0011】
一方、非特許文献1では、バイオ炭であるオガ炭をセメントに対して20質量%以上含有させることで、脱炭素化を達成できるとされている。しかしながら、オガ炭は多孔質材料であり、減水剤等の混和剤を吸着しやすいため、20質量%のオガ炭を含有させるためには、減水剤等の混和剤の含有量をセメントに対して1.5質量%と大幅に増加させる必要があった。同様に、フライアッシュをセメントと混合すると、フライアッシュ中の未燃炭素がAE減水剤等の混和剤を吸着するため、混和剤の含有量を増やして、空気連行量を維持する必要もあった。このように、混和剤の含有量が多いとコストが増大するため、コストを低減する観点では、混和剤の吸着が少ない炭素材料の使用が望まれている。
【0012】
また、これらの炭素材料はいずれも強度が低いため、セメントに対して20質量%含有させた場合、得られる硬化体の強度が低く、建築および土木資材としての利用は限定的であった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、混和剤の含有量を増やすことなく、骨材の少なくとも一部を炭素骨材に置き換えることができ、硬化体の強度を維持しつつ、低炭素化又は脱炭素化を実現する硬化体を付与する硬化性組成物及びその製造方法、硬化体、並びに炭素骨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の硬化性組成物及びその製造方法、硬化体、並びに炭素骨材に関する。
【0015】
[1] セメントと、アルミナシリカ及びアルカリ金属塩の混合物と、の少なくとも一方を含む結合材と、骨材と、水とを含み、前記骨材は、MB吸着量が1mg/g以下であり、且つ粒径0.5mmの1粒子当たりの圧縮強度が6N/個以上である炭素骨材を含む、硬化性組成物。
[2] 前記炭素骨材の炭素含有量は、93質量%以上である、[1]に記載の硬化性組成物。
[3] 前記骨材は、細骨材を含み、前記炭素骨材の含有量は、前記細骨材に対して3質量%以上である、[1]又は[2]に記載の硬化性組成物。
[4] 前記炭素骨材の含有量は、前記結合材に対して5質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[5] 前記結合材に対して1.5質量%未満の混和剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[6] 前記炭素骨材の含有量が前記細骨材に対して3質量%以上であるとき、上記硬化性組成物の硬化体の、材齢7日における圧縮強度は24N/mm2以上である、[3]に記載の硬化性組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化してなる、硬化体。
[8] バイオマス材料、化石燃料由来物及び樹脂からなる群より選ばれる一以上の炭素前駆体を、不活性ガス又は還元性ガスの含有割合が97体積%以上の雰囲気下で、400℃以上の温度で焼成して、炭素骨材を得る工程と、前記炭素骨材を含む骨材と、結合材と、水とを混合する工程とを含む、硬化性組成物の製造方法。
[9] MB吸着量が1mg/g以下であり、且つ粒径0.5mmの1粒子当たりの圧縮強度が6N/個以上である、炭素骨材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、混和剤の含有量を増やすことなく、骨材の少なくとも一部を炭素骨材に置き換えることができ、硬化体の強度を維持しつつ、低炭素化又は脱炭素化を実現する硬化体を付与する硬化性組成物及びその製造方法、硬化体、並びに炭素骨材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、メチレンブルー吸着量(MB吸着量)で示されるメソ孔が少ないもの、具体的にはMB吸着量が1mg/g以下であり、且つ圧縮強度が6N/個以上である炭素骨材は、例えばモルタルやコンクリート等の組成物を調製する際に、混和剤の吸着が少なく、且つ骨材に適した強度を有することを見出した。そのような炭素骨材は、硬化性組成物中に骨材として多く含有させても、強度の高い硬化体が得られることを見出した。
【0018】
そのような炭素骨材は、原料となるバイオマス材料や化石燃料由来物等を加熱炭化するときの熱処理条件を調整すること、具体的には熱処理最高温度を400℃以上とし、且つ熱処理雰囲気中の不活性ガス又は還元性ガスの含有割合を97体積%以上とすることによって得ることができる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
1.硬化性組成物
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、結合材と、骨材と、水とを含む。
【0020】
1-1.結合材
結合材は、セメントと、アルミナシリカ及びアルカリ金属塩の混合物との少なくとも一方を含む。
【0021】
(セメント)
セメントの種類は、特に制限されず、JIS R 5210で規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント等が挙げられる。中でも、エトリンガイトをより生成させやすい観点等から、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉スラグセメントが好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(アルミナシリカとアルカリ金属塩の混合物)
アルミナシリカとアルカリ金属塩の混合物は、珪酸の脱水縮重合反応によりジオポリマーを形成する。アルカリ金属塩は、通常、水に溶解させたアルカリ溶液として用いられる。アルカリ溶液に含まれる水は、後述する水と兼用されてもよい。上記混合物は、セメントのように石灰岩を原料としないため、原料工程におけるCO2排出がない結合材として知られる。セメントの代わりに上記混合物を用い、且つ細骨材の少なくとも一部を上記炭素骨材に置換することで、より高い脱炭素効果が得られる。
【0023】
アルミナシリカは、アルミナ及びシリカを含む活性フィラーである。当該活性フィラーの例には、フライアッシュや高炉スラグ微粉末、メタカオリン等が挙げられる。中でも、活性フィラーは、フライアッシュと高炉スラグ微粉末とを含むことが好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アルカリ金属塩は、アルカリ金属珪酸塩やアルカリ金属水酸化物でありうる。アルカリ金属珪酸塩の例には、珪酸ナトリウム(水溶液では水ガラスとも称される)、珪酸カリウム及び珪酸リチウムが含まれ、コストや入手の容易さの観点から、好ましくは珪酸ナトリウムである。アルカリ金属水酸化物の例には、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが含まれ、好ましくは水酸化ナトリウムである。これらは、通常、水溶液の形態で用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、アルカリ金属塩は、アルカリ金属珪酸塩とアルカリ金属水酸化物の両方を含むことが好ましく、珪酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの両方を含むことがより好ましい。
【0025】
結合材の含有量は、特に制限されないが、組成物全体に対して10~60質量%であることが好ましく、25~55質量%であることがより好ましい。なお、結合材が上記混合物である場合、結合材の含有量は、水分を含まない質量を意味する。
【0026】
1-2.骨材
骨材は、炭素骨材を含む。
【0027】
(炭素骨材)
上記炭素骨材は、任意の有機物物質(以下、「炭素前駆体」と称する)を原料とする炭素材料であってよいが、低炭素化や脱炭素化の観点では、木や竹等のバイオマス材料を原料とするバイオ炭や、石油系又は石炭系のピッチやタールを原料とする化石燃料炭であることが好ましい。そして、当該炭素骨材のMB吸着量は1mg/g以下であり、且つ圧縮強度が6N/個以上である。
【0028】
炭素骨材のMB吸着量は、上記の通り、1mg/g以下であり、好ましくは0.5mg/g以下である。MB吸着量が1mg/g以下であると、減水剤等の混和剤を多く吸着しすぎないため、コストの増大を抑制しうる。MB吸着量の下限値は、特に制限されないが、例えば0.01mg/gである。MB吸着量は、セメント協会法「メチレンブルー吸着量試験」に準じて測定することができる。
【0029】
炭素骨材のMB吸着量は、炭素骨材製造時の熱処理雰囲気や熱処理最高温度によって調整することができる。例えば、熱処理雰囲気中の不活性ガス又は還元性ガスの含有割合を多くすると、炭素骨材のMB吸着量は低くなりやすい。また、熱処理最高温度を高くすると、炭素骨材のMB吸着量は低くなりやすい。
【0030】
炭素骨材の粒径0.5mmの1粒子当たりの圧縮強度は、6N/個以上であることが好ましい。圧縮強度が6N/個以上であると、炭素骨材が高い圧縮強度を有するため、得られる硬化性組成物の硬化体の圧縮強度も高まりやすい。そのため、炭素骨材を、結合材に対して22質量%以上添加した場合でも、得られる硬化体の圧縮強度を高く維持できるため、標準的な構造材等に利用できる。同様の観点から、炭素骨材の上記圧縮強度は、9N/個以上であることがより好ましい。炭素骨材の圧縮強度の上限値は、特に制限されないが、例えば20N/個である。
【0031】
炭素骨材の圧縮強度は、以下の方法で測定することができる。
まず、炭素骨材のうち、メッシュ35を通過し、メッシュ45を通過しなかった粒子であってアスペクト比が1~1.5の範囲の粒子(粒径0.5mmの粒子)を一粒選択する。これを、アナログ上皿秤の上皿に載せて、荷重を増大させて、粒子が割れたときの最大荷重(kg/粒)を読み取る。この最大荷重(kg/粒)に9.8を乗じて、N/粒の単位に換算する。この操作をn=10個の粒子について行い、それらの平均値を、圧縮強度(N/粒)とする。
【0032】
炭素骨材の炭素含有量は、93質量%以上であることが好ましく、93.5質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。炭素含有量が93質量%以上であると、炭素骨材の圧縮強度がより高まるため、得られる硬化体の強度をより高めうる。炭素含有量の上限値は、特に制限されないが、例えば100質量%であってもよいし、98質量%であってもよい。
【0033】
炭素骨材の炭素含有量は、CHN元素分析装置(ジェイ・サイエンス・ラボ社製、JM10)を用いて、反応温度850℃、還元温度550℃にて測定することができる。
【0034】
炭素骨材の圧縮強度や炭素含有量は、炭素骨材製造時の熱処理最高温度と熱処理雰囲気によって調整することができる。例えば、熱処理最高温度を高くすると、炭素骨材の圧縮強度や炭素含有量は高くなりやすい。また、熱処理雰囲気中の不活性ガス又は還元性ガスの含有割合を多くすると、炭素骨材の圧縮強度や炭素含有量は高くなりやすい。
【0035】
炭素骨材のうち、粒径0.1~5mmの炭素骨材の含有割合は80質量%以上であることが好ましい。炭素骨材の80質量%以上の粒径が0.1mm以上であると、各粒子の表面積が大きくなりすぎないため、混和剤の含有量をより少なくしうるだけでなく、硬化性組成物を混練する際に混練スラリー中に適度な自由水を保持しやすいため、硬くなりにくい。炭素骨材の80質量%以上の粒径が5mm以下であると、細骨材として使用した際に、得られる硬化体の強度をより高めやすい。同様の観点から、粒径0.2~2mmの炭素骨材の含有割合は、80質量%であることがより好ましい。
【0036】
炭素骨材の粒度は、篩振動機で振動分級したときの重量を測定することによって求めることができる。例えば、粒径0.1~5mmの炭素骨材の含有割合は、メッシュ6を通過し、メッシュ200を通過しなかったものの重量割合(質量%)を測定することによって求めることができる。粒径0.2~2mmの炭素骨材の含有割合は、メッシュ14を通過し、メッシュ100を通過しなかったものの重量割合(質量%)を測定することによって求めることができる。
【0037】
炭素骨材は、粗骨材として含まれてもよいし、細骨材として含まれてもよい。粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材のことをいう。細骨材とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。例えば、炭素骨材の粒度や強度の観点では、炭素骨材は、細骨材として含まれることが好ましく、JIS R5201:2015で示される標準砂として含まれることがより好ましい。
【0038】
炭素骨材が細骨材として含まれる場合、炭素骨材の含有量は、結合材に対して5質量%以上であることが好ましい。炭素骨材の含有量が結合材に対して5質量%以上であると、硬化体を製造する際に、より低炭素化を実現しやすい。炭素骨材の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば30質量%としうる。脱炭素化を実現する観点では、炭素含有量は、結合剤の排出炭酸ガス原単位に応じて、例えばセメントの場合は結合材に対して10質量%以上であることがより好ましく、20.9質量%以上であることがさらに好ましく、22~30質量%であることが特に好ましい。
【0039】
例えば、結合材がセメントである場合、JIS 5201に示されるモルタル配合の「水:セメント:砂(細骨材)=1:2:6」の砂を、セメント比20.9質量%以上のカーボンネガティブな炭素に置換えることで、脱炭素を達成できる。即ち、砂6質量部のうち、セメント2質量部の20.9質量%=0.418質量部分を、炭素に置換える。それにより、細骨材の炭素置換率0.418÷6×100=7.0質量%以上で脱炭素を達成できる。実際の炭素骨材置換率は、炭素骨材の炭素含有量が95質量%である場合、7.0÷0.95=7.37質量%となる。
【0040】
一方、結合材がアルミナシリカとアルカリ金属塩の混合物である場合のモルタル用途の硬化性組成物では、細骨材の含有量がセメントの場合よりも少ない。上記混合物のCO2排出率がセメントに対して1/3程度であるため、細骨材の炭素骨材置換率は7.0質量%以上×1/3=2.4質量%程度以上、炭素骨材の炭素含有量や細骨材の含有量が少ないことを考慮すると、細骨材に対して3質量%以上、好ましくは5質量%以上で脱炭素を達成できる。
【0041】
このように、上記炭素骨材を所定以上の炭素骨材置換率で含む硬化体は、圧縮強度を維持しつつ、脱炭素を達成できる。
【0042】
炭素骨材が細骨材として含まれる場合、細骨材中の炭素骨材の含有量(炭素骨材置換率)は、3質量%以上であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~12質量%であることがさらに好ましい。炭素骨材置換率が3質量%以上であると、低炭素化又は脱炭素化をより高レベルで達成しやすく、12質量%以下であると、得られる硬化体の強度低下を一層抑制しうる。
【0043】
(他の骨材)
骨材は、上記炭素骨材以外の他の骨材をさらに含んでもよい。他の骨材は、粗骨材であってもよいし、細骨材であってもよい。
【0044】
粗骨材の例には、川砂利、山砂利、海砂利等の天然骨材、砂岩、硬質石灰岩、玄武岩、安山岩等の砕石等の人工骨材、再生骨材等が挙げられる。
【0045】
細骨材の例には、JIS A 5308附属書Aレディミクストコンクリート用骨材で規定される川砂、陸砂、山砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然物由来の砂、高炉スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ等のスラグ由来の砂等が挙げられる。
【0046】
骨材の総量は、特に制限されないが、結合材10重量部に対して7~90重量部であることが好ましく、8~60重量部であることがより好ましい。骨材の総量が7重量部以上であると、硬化体の強度をより高めやすいだけでなく、炭素骨材置換率が確保されやすいため、低炭素化又は脱炭素化をより達成しやすい。また、骨材の総量が90質量部以下であると、成形性等がより損なわれにくい。細骨材の含有量は、硬化性組成物の用途にもよるが、例えばモルタル用途の場合、骨材の総量に対して25質量%以上、好ましくは100質量%でありうる。
【0047】
1-3.水
上記硬化性組成物における水の含有量は、特に限定されず、当該硬化性組成物の流動性や凝結時間を考慮して適宜設定されうる。例えば、モルタルとして用いる場合、硬化性組成物における水の含有量は、結合材に対して10~70質量%とすることができる。
【0048】
1-4.混和剤
上記硬化性組成物は、必要に応じて混和剤をさらに含んでもよい。混和剤の例には、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等が含まれる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
例えばモルタル用途では、結合材に対する水の比率が比較的低いことから、練り混ぜ性や流動性を高める観点では、硬化性組成物は高性能減水剤を含むことが好ましい。高性能減水剤の例には、ポリアルキルアリルスルホン酸塩、芳香族アミノスルホン酸塩、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩、及びポリカルボン酸塩等が含まれ、好ましくはポリカルボン酸塩(例えばポリカルボン酸エーテル化合物)が含まれる。
【0050】
混和剤の含有量は、特に制限されないが、コストを低減する観点から、結合材に対して1.5質量%未満であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
上記硬化性組成物は、任意の用途に用いることができ、例えばモルタルやコンクリート等の土木・建築材料として好ましく用いることができる。即ち、炭素骨材は、例えばモルタルやコンクリート等の土木・建築材料に用いられる骨材として好適である。
【0052】
2.硬化性組成物の製造方法
本実施形態に係る硬化性組成物は、1)炭素骨材を準備する工程と、2)当該炭素骨材を含む骨材と、結合材と、水と、必要に応じて混和剤とを混合する工程と、を経て製造することができる。
【0053】
1)炭素骨材を準備する工程
上記炭素骨材は、原料となる炭素前駆体を所定の雰囲気中で焼成(熱処理)して、加熱炭化させることにより得ることができる。
【0054】
原料となる炭素前駆体としては、バイオマス材料、化石燃料由来物、樹脂等を使用できる。バイオマス材料の例には、木や竹、やし殻等の天然高分子物質が含まれる。化石燃料由来物の例には、石油や石炭等の乾留によって得られるタールやピッチ等の多環芳香族化合物が含まれる。樹脂の例には、フェノール樹脂やフラン樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアクリロニトリルやポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が含まれる。また、ポリアクリロニトリルやピッチ、タール等に酸化等の変性処理を施した炭素前駆体も、原料として好適に使用される。
【0055】
これらの中でも、炭化物の圧縮強度や曲げ強度を高める観点では、見掛け密度0.3g/cc以上の炭素前駆体が好適である。また、製品見掛け比重をより高めやすく、結合材との混和時の吸水をより少なくし、混和剤の添加効果をより高める観点では、非多孔質炭化物を生成するものが好ましい。これらの観点から、炭素前駆体は、木や竹等のバイオマス材料、及び石油系ピッチ等の化石燃料由来物であることが好ましい。バイオマス材料の中では、竹がより好ましい。光合成速度が速いため、大気中炭素の固定量が高く、炭素化物のMB吸着量に影響するメソ孔が少なく、硬化体の圧縮強度をより高めやすいからである。
【0056】
熱処理は、400℃以上の温度で行う。即ち、熱処理最高温度を400℃以上、好ましくは700℃以上、さらに好ましくは900℃以上とする。熱処理最高温度を400℃以上とすると、炭化が十分に進むため、比表面積が減少しやすく、みかけ比重が増大しやすい。それにより、得られる炭素骨材のMB吸着量は低くなりやすく、炭素含有量や圧縮強度を高めやすい。熱処理最高温度の上限値は、特に制限されないが、例えば2400℃以下、好ましくは1600℃以下、より好ましくは1300℃以下としうる。それにより、炭化炉が安価に制作でき、炭化に要する熱エネルギーも少なくしうる。中でも、熱処理最高温度を700℃以上とすると、得られる炭素骨材は、例えば得られる硬化体中では安定で酸化分解しにくいため、半永久的に炭素固定化しうる。
【0057】
なお、400℃以上に熱処理する前に、必要に応じて100~200℃の領域で、原料である炭素前駆体に含まれる水分を除去してもよい。
【0058】
熱処理加熱速度は、特に制限されないが、例えば10℃/min以下、好ましくは5℃/min以下である。それにより、得られる炭素骨材のみかけ比重をより高めやすく、圧縮強度をより高めやすい。
【0059】
熱処理は、不活性雰囲気又は還元性雰囲気中で行う。具体的には、冷却時を含めて熱処理中の400℃以上の領域では、不活性ガス又は還元性ガスの含有割合を97体積%以上、好ましくは99体積%以上、さらに好ましくは99.7体積%以上の雰囲気中で熱処理する。熱処理雰囲気中の不活性ガス又は還元性ガスの含有割合が97体積%以上であると、得られる炭素骨材のMB吸着量を低くしやすく、熱処理中の炭素前駆体の酸化を一層抑制しやすいため、得られる炭素骨材の圧縮強度を高めやすい。熱処理雰囲気中の不活性ガス又は還元性ガスの含有割合の上限値は、特に制限されないが、100体積%でありうる。不活性ガスの例には、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが含まれ、好ましくは窒素ガスである。還元性ガスの例には、水素ガス、一酸化炭素ガス、炭化水素ガス等が含まれる。これらの中でも、窒素ガスが好ましい。なお、熱処理エネルギーを低減する観点では、3体積%未満となる範囲で酸素が含まれていてもよい。酸素により、熱処理中発生する炭化水素分を自燃(自燃式炭化)させることで、熱処理エネルギーを低減できるからである。
【0060】
熱処理後、冷却して炭化物を得る。得られた炭化物を粉砕し、必要に応じてさらに分級することによって、粒径が調整された炭素骨材を得ることができる。
【0061】
例えば、得られた炭化物を標準的な細骨材と同様に、粒径が0.1~5mm、好ましくは0.2~2mmの含有割合が80質量%となるように、粒径を調整することが好ましい。小さい粒径のものを多くしすぎないようにすることで、フロー値の増大やそれによる施工性の低下を一層抑制しうる。一方、大きい粒径のものを多くしすぎないことで、得られる硬化体の強度の低下を一層抑制しうる。なお、炭化物の粒径が上記範囲となるように、予め炭素前駆体の粒径を調整してもよい。
【0062】
粉砕は、例えば焼成物をシュレッダー式粉砕機で粉砕して行うことができる。分級は、例えば粉砕物を所定の篩に載せて篩振動機等で振動させて行うことができる。
【0063】
それにより、少なくともMB吸着量及び圧縮強度が上記範囲を満たす炭素骨材を得ることができる。
【0064】
2)混合する工程
上記準備した炭素骨材を含む骨材と、結合材と、水と、必要に応じて混和剤等とを混合する。
【0065】
混合は、例えば連続式ミキサやバッチ式ミキサ等を用いて行うことができる。
【0066】
これらの成分は、全てを同時に混合してもよいし、逐次的に混合してもよい。例えば、炭素骨材は吸水性を有するため、フロー値が低下しやすく、施工性が低下することがある。その場合、まず水と結合材とを混合して混合物とした後、これに、炭素骨材を予め混合した骨材を加えるか、又は、他の骨材、炭素骨材の順に混合することで、フロー値の低下を改善し、施工性を保ちやすくすることができる。
【0067】
また、フロー値の低下による施工性の低下を抑制する方法としては、高性能減水剤等の混和剤を、骨材を混合する前の上記混合物に、1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上混合してもよい。それにより、フロー値の低下をより抑制しやすく、施工性をより改善しうる。製造コストの増大を避ける観点では、混和剤を多量に使用しないことが好ましく、その観点でも、見掛け密度が高く、非多孔質の上記炭素骨材を使用することが有効である。炭素骨材を吸水させる際に、硬化性組成物の硬化体のひび割れを自己治癒できる補修材、接着剤、バクテリアを仕込むこともできる。
【0068】
なお、結合材がアルミナシリカとアルカリ金属塩を含む場合、アルカリ金属塩は、最終的に水に溶解していればよい。例えば、アルカリ金属塩としてアルカリ金属珪酸塩を用いる場合、予めアルカリ金属珪酸塩と水とを混合してアルカリシリカ溶液を調製しておき、それと他の成分とを混合してもよいし;硬化性組成物の調製時に、他の成分と同様に、アルカリ金属珪酸塩と水とを別々に配合して十分に混合することで、硬化性組成物中でアルカリシリカ溶液が形成されてもよい。混合手順も、特に限定されないが、例えばアルミナシリカと炭素骨材を含む骨材とを混合した後、アルカリシリカ溶液を混合することが好ましい。
【0069】
3.硬化体
本実施形態に係る硬化性組成物の硬化体は、上記硬化性組成物を硬化させたものである。具体的には、上記硬化体は、上記硬化性組成物を成形した後、養生硬化させて得ることができる。
【0070】
成形方法は、特に制限されないが、例えば型枠に硬化性組成物を流し込んで成形する方法でありうる。
【0071】
養生硬化方法は、例えば自然養生、水蒸気養生、オートクレーブ養生、標準水中養生等の任意の養生方法であってよい。中でも、高強度の硬化体を得る観点では、十分な水分の存在下で、養生することが好ましい。例えば、結合材がセメントを含む場合は、標準水中養生により養生することが好ましい。結合材がアルミナシリカとアルカリ金属塩の混合物を含む場合、自然養生でも十分な強度発現性がある場合がある。
【0072】
養生硬化の後、追加養生を実施してもよい。追加養生の養生条件は、最初の養生条件と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0073】
結合材が、アルミナシリカとアルカリ金属塩の混合物を含む場合、以下のような硬化反応が起こると考えられる。例えば、アルカリ金属塩がアルカリ珪酸金属塩を含む場合、アルミナシリカ(活性フィラー)に含まれるアルミニウム等の金属イオンが、アルカリ珪酸金属塩を含むアルカリ溶液と接することで、アルカリ珪酸金属塩に由来するケイ酸が、当該金属イオンを取り込みながら脱水縮重合反応して硬化する。そのため、得られる硬化体は、アルカリ金属珪酸塩に由来するケイ酸を、アルミニウム等の金属元素で架橋させた構造を有するポリマー(ケイ酸ポリマー)を含みうる。
【0074】
上記の通り、炭素骨材は混和剤の吸着が少ないため、硬化体は多くの炭素骨材を含有することができる。また、炭素骨材は高い強度を有するため、硬化体は多くの炭素骨材を含有していても、高い強度を有しうる。
【0075】
例えば、硬化性組成物の硬化体は、炭素骨材を細骨材に対して3質量%以上と多く含む場合であっても、材齢7日において24N/mm2以上、好ましくは30~40N/mm2の圧縮強度を有する。そのような硬化体は、例えば構造材として好適に利用できる。
【0076】
硬化体の圧縮強度は、JIS-1132に準拠して供試体を作製し、その供試体の圧縮強度をJIS-1108に準拠して測定して求めることができる。供試体を作製するときの硬化条件は、セメントを用いる場合は、練り混ぜから16時間以上3日間以内に脱型し、20±2℃で所定材齢まで標準水中養生の条件(JIS A 1132:2020参照)で行うことができる。一方、アルミナシリカとアルカリ金属塩の混合物を用いる場合は、練混ぜから16時間以上3日以内に脱型し、20±2℃で所定材齢まで気中養生の条件で行うことができる。さらに、80℃で6時間加熱養生後脱型し、その後、所定材齢まで20℃60%RHの恒温恒湿養生の条件で行うことも可能である。
【0077】
また、硬化体は炭素骨材を多く含むことで、脱炭素や低炭素をより好適に実現できる。
【0078】
例えば、炭素骨材として、カーボンニュートラルな木や竹等の植物由来のバイオ炭を固定化する場合、当該バイオ炭の固定化によりカーボンネガティブとなる。そのため、硬化体製造に係る排出CO2量がオフセットされ、脱炭素の硬化体(モルタル・コンクリート)を得ることができる。
一方、樹脂や石油系・石炭系ピッチ等の化石燃料由来物から得られる炭を固定化する場合、当該炭の固定化によりカーボンニュートラルとなる。そのため、硬化体製造に係る排出CO2量はオフセットされず、脱炭素化はできないが、炭素の固定化により大気中CO2を低減できるため、低炭素化は可能である。つまり、化石燃料由来や、廃プラ等の含炭素廃棄物の骨材への再利用と、炭素固定化によるCO2排出削減とのコベネフィット効果が得られ、環境対策の観点からも好ましい。
【実施例0079】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
1.炭素骨材の作製及び評価
(1)炭素骨材1、2及び7(バイオ炭)の作製
(原料の準備)
以下の材料を準備した。
木:薪用のナラ材
竹:資材用 孟宗竹直材(農業・園芸用)
【0081】
(焼成)
表1に示される原料を、薪用ナタやのこぎり等で、100mm×10mm×200mm程度に小型に切断した後、さらに炉内に入るサイズに切断した。これを、井ゲタ状に組んで、焼成装置 株式会社デンケン製 卓上マッフル炉 KDF P90のマッフル炉内に仕込んだ。
次いで、窒素又は窒素ベース酸素標準ガスボンベのガスを5NL/min(炉の標準操作条件)で流通させて、炉内の雰囲気を、表1に示される雰囲気とした。
次いで、仕込んで15分後、加熱速度は5~10℃/minにて、150℃にて1時間保持して乾燥、その後、表1に示される熱処理最高温度まで加熱し、1時間保持した後、常温まで自然冷却して取り出した。
【0082】
(粉砕)
焼成物を、ホロン精工株式会社製のシュレッダー式粉砕機BITEXにて粉砕した。
【0083】
(分級)
粉砕物を、試験用篩に載せて篩振動機を用いて振動させて分級した。
【0084】
(2)炭素骨材6(石油系炭)の作製
(石油系ピッチの作製)
内容積25リットルのステンレス製耐圧容器に、比重(15℃における試料の質量と4℃における等体積の純水の質量との比)1.08のエチレンの製造時に生成するボトム油(エチレンボトム油)10.0kgを仕込んだ。反応容器の下部より3.7L/minで空気を吹き込み0.4MPaの加圧下、230から250℃で、エアーブローイング反応を4時間20分行った。こうして、9.5kgのエアーブローイングタールを得た。得られたエアーブローイングタール3.0kgを385℃で熱重質化したのち、さらに軽質分を減圧留去することにより、エアーブローイングピッチ1.4kgを得た。得られたピッチは、軟化点が203℃、トルエン不溶分が58%であった。
【0085】
上記エアーブローイングピッチ0.72kgと、ナフタレン0.28kgを、攪拌翼のついた内容積1.5Lの耐圧容器に仕込み、200℃で溶融混合を行った後、140~160℃に冷却して押し出し、直径2mmの棒状成形体を得た。次いで、この棒状成形体を長さが約2.0mmから2.8mmになるように破砕した。懸濁剤としての1.2重量%のポリビニルアルコール(ケン化度=88%)を溶解して100℃に加熱した水溶液1L中に、前記の破砕物約450mlを投入した。破砕物を攪拌分散により球状化した後、冷却し、前記のポリビニルアルコール水溶液を水で置換することにより球状ピッチ成形体スラリーを得た。大部分の水をろ過により除去した後、球状ピッチスラリーの7倍重量のn-ヘキサンで球状ピッチスラリー中のナフタレンを抽出除去し、多孔性球状ピッチを得た。
【0086】
(焼成、粉砕、分級)
得られた多孔性球状ピッチを、上記と同様に、卓上マッフル炉内で、表1に示される窒素雰囲気中にて300℃で焼成した。その後、上記と同様に、粉砕分級処理を行い、炭素骨材6を得た。
【0087】
(3)炭素骨材5(石油系活性炭)の作製
上記(2)で作製した多孔性球状ピッチを、縦型石英製管状流動層(200mmφ×2000mmH:目皿は焼結石英)に入れて、950℃まで10℃/minで、外部電熱ヒータで加熱、不活性ガスや還元性ガスの他、総ガス量の50体積%以上の水蒸気ガスを、炉外部ヒータと同じ温度で流通させることにより水蒸気賦活反応させて、炭素を二酸化炭素や一酸化炭素として消失させて多孔質化を行い、さらに不活性ガス中で同様な炭素化を行った以外は、炭素骨材1と同様にして炭素骨材5を得た。そして、50wt%の収量となる活性炭を得た。
【0088】
(4)炭素骨材3(石油系炭)の作製
上記(2)で作製した多孔性球状ピッチを、上記と同様に、卓上マッフル炉にて、窒素雰囲気中にて600℃で焼成した以外は、炭素骨材1と同様にして炭素骨材3を得た。
【0089】
(5)炭素骨材4(石油系炭)の作製
上記(4)で焼成した炭を、押出黒鉛材製るつぼに入れたものを中外炉工業社製の真空バッチ式高温焼成炉にて真空中にて熱処理最高温度2000℃で焼成した以外は、炭素骨材1と同様にして炭素骨材4を得た。
【0090】
2.評価
作製した炭素骨材の粒度、炭素含有量、圧縮強度及びMB吸着量を、以下の方法で測定した。
【0091】
(1)粒度
粒度は、篩振動機で振動分級したものの重量を測定して求めた。具体的には、メッシュ14及び100を使用し、メッシュ14を通過し、メッシュ100を通過しなかったものの重量割合(質量%)を測定した。
【0092】
(2)炭素含有量
CHN元素分析装置(ジェイ・サイエンス・ラボ社製、JM10)を用いて、反応温度850℃、還元温度550℃にて測定した。
【0093】
(3)圧縮強度
上記作製した炭素骨材のうち、メッシュ35を通過し、メッシュ45を通過しなかった粒子であってアスペクト比が1~1.5の粒子を一粒選択し、アナログ上皿秤の上皿に載せた。この粒子にかける荷重を増大させて、粒子が割れたときの最大荷重(kg/粒)を読み取った。この最大荷重(kg/粒)に9.8を乗じて、N/粒の単位に換算した。この操作をn=10個の粒子について行い、それらの平均値を、圧縮強度(N/粒)とした。
【0094】
(4)MB吸着量
セメント協会法「メチレンブルー吸着量試験」に準じて測定した。
【0095】
炭素骨材1~7の評価結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
2.硬化体の作製及び評価
<実施例1~3、比較例1~4>
(硬化性組成物の調製)
JIS R5201に準拠して、硬化性組成物を調製した。具体的には、普通ポルトランドセメントと、高性能減水剤を添加した蒸留水とを、機械練り混ぜ機で混合した。得られた混合物に、標準砂及び炭素骨材をこの順に添加して、上記機械練り混ぜ機でさらに混合して、硬化性組成物を調製した。
なお、蒸留水、普通ポルトランドセメント及び細骨材の配合比率は、JIS R5201に示される配合比率(水225g、セメント450g、細骨材(砂)1350g)の通りとし、上記細骨材としては、標準砂を、表2に示される割合の炭素骨材で置換したものとした。また、高性能減水剤としては、ポリカルボン酸エーテル化合物を主成分とする高性能減水剤を用いた。
【0098】
(硬化体の作製)
得られた硬化性組成物を用いて、JIS A 1132:2020に準拠して供試体を作製した。具体的には、得られた硬化性組成物を型枠内に入れ、24時間硬化させ、得られた硬化体を型枠から取り出した。その後、20±2℃で水中に保管して材齢7日まで養生し、40mm×40mm×160mmの角柱状の供試体を得た。
【0099】
<実施例4>
(硬化性組成物の調製)
活性フィラーとしてフライアッシュ(密度2.27g/cm3、JIS II 種認定品)341kg/m3と、高炉スラグ微粉末(密度2.91g/cm3、比表面積4070cm2/g)227kg/m3と、細骨材1097kg/m3とを混合した。これに、アルカリ溶液として、水ガラスと苛性ソーダとを含む市販のジオポリマー溶液(Si:Na=69:31質量比、密度1.4g/cm3)369kg/m3を投入し、低速で60秒間混ぜた。その後、高速で60秒間混ぜて、硬化性組成物を得た。なお、細骨材としては、標準砂を、表2に示される割合の炭素骨材で置換したものを用いた。
【0100】
(硬化体の作製)
得られた硬化性組成物を型枠内に入れた後、型枠から取り出し、その後,室内温度20±1.0℃の気中で材齢7日まで養生し、50mmφ×100mmの円柱状の供試体を得た。
【0101】
<評価>
得られた供試体の圧縮強度を、以下の方法で測定した。また、製造時CO2排出分以上の混和率を達成しているかどうかについても、以下の方法で評価した。
【0102】
(1)圧縮強度
得られた供試体の圧縮強度を、JIS-1108に準拠して測定した。測定は、材齢7日での圧縮強度を測定した。
【0103】
(2)混和率
製造時CO2排出分以上の混和率を達成しているかどうかは、組成物における細骨材の炭素置換率(炭素骨材置換率×炭素含有量)がセメントを用いた場合で7質量%以上、アルミナシリカ及びアルカリ金属塩の混合物を用いた場合で5質量%以上となり達成している場合を○として示し、達成していないものを×とした。
【0104】
実施例1~4、比較例1~4の評価結果を表2に示す。
【0105】
【0106】
表2に示されるように、MB吸着量が1mg/g以下であり、且つ圧縮強度が6N/個以上である炭素骨材を含む実施例1~4の供試体は、炭素骨材への置換をしなかった比較例1の供試体と比べて遜色ない圧縮強度を示すことがわかる。また、炭素骨材の含有量は、細骨材に対する炭素量(炭素置換率)がセメントで7質量%以上、アルミナシリカ/アルカリ金属塩の混合物で5質量%以上であり、いずれも製造時CO2排出分以上の混和率を達成でき、脱炭素化に有効であることがわかる。
【0107】
これに対して、MB吸着量が1mg/gを超える比較例2及び4の供試体は、圧縮強度が低下するか、又は減水剤の含有量が多くなり、コスト的に不利であることがわかる。また、焼成温度が300℃であり、炭素含有量が93質量%よりも低い炭素骨材を用いた比較例3の供試体は、圧縮強度が低く、混和率も低いことがわかる。
本発明によれば、混和剤の含有量を増やすことなく、骨材の少なくとも一部を炭素骨材に置き換えることができ、硬化体の強度を維持しつつ、低炭素化又は脱炭素化を実現する硬化体を付与する環境配慮型の硬化性組成物を提供することができる。