(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089930
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】サイドトリマー装置、金属帯のサイドトリミング方法、及び金属帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23D 19/06 20060101AFI20240627BHJP
B23D 33/02 20060101ALI20240627BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20240627BHJP
B23D 33/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B23D19/06 A
B23D33/02 B
B23Q11/12 E
B23D33/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205479
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浜田 一駿
(72)【発明者】
【氏名】篠原 雄一郎
【テーマコード(参考)】
3C011
3C039
3C051
【Fターム(参考)】
3C011FF05
3C039CB23
3C051AA15
3C051AA20
3C051FF29
(57)【要約】
【課題】トリマー刃による切断の際における、板のバタツキをより安定して抑える。
【解決手段】鋼板40の幅方向端部を回転刃1で連続的に切断するサイドトリマー装置であって、上記回転刃1よりも切断方向上流側位置で、上記鋼板40の幅方向端部を、板厚方向で対をなす押さえロールで挟持することで板端部を把持するエッジ把持具2と、上記エッジ把持具2を構成する押さえロール2A、2Bのうちの少なくとも一つの押さえロールの板幅位置を変位させることで、上記エッジ把持具2による上記把持の位置を調整する幅方向位置調整機構と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯の幅方向端部をトリマー刃で連続的に切断するサイドトリマー装置であって、
上記トリマー刃よりも切断方向上流側位置で、上記金属帯の幅方向端部を、板厚方向で対をなす押さえロールで挟持することで板端部を把持するエッジ把持具と、
上記エッジ把持具を構成する押さえロールのうちの少なくとも一つの押さえロールの板幅位置を変位させることで、上記エッジ把持具による上記把持の位置を調整する幅方向位置調整機構と、
を備えるサイドトリマー装置。
【請求項2】
上記トリマー刃によるトリム幅に応じ、上記幅方向位置調整機構を介して上記把持の位置を調整する制御部を備える、
請求項1に記載のサイドトリマー装置。
【請求項3】
上記把持の位置を求めるアブソリュート位置検出器を備え、
上記制御部は、アブソリュート位置検出器からの情報によって、上記把持の位置を特定する、
請求項2に記載したサイドトリマー装置。
【請求項4】
上記トリマー刃で切断する前の金属帯表面における、上記トリマー刃で切断する位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える、
請求項1に記載したサイドトリマー装置。
【請求項5】
上記把持の位置は、上記潤滑油付着装置に対し切断方向下流に配置されている、
請求項4に記載したサイドトリマー装置。
【請求項6】
上記潤滑油付着装置を、上記幅方向位置調整機構による上記押さえロールの変位に同期して、上記押さえロールの変位と同方向に同じ距離だけ板幅方向に変位させる同期機構を備える、
ことを特徴とする請求項4に記載したサイドトリマー装置。
【請求項7】
上記エッジ把持具は、対をなす一対の押さえロールを有し、その一対の押さえロールのうち、一方の押さえロールは、他方の押さえロールよりも短く、
上記幅方向位置調整機構は、上記一方の押さえロールを板幅方向に変位することで、上記把持の位置を調整する構成となっており、
上記幅方向位置調整機構は、
上記一方の押さえロールを軸回転可能に支持するロール支持具と、
上記ロール支持具を、板幅方向に案内するスライド軸と、
上記ロール支持具を、軸回転によって板幅方向に変位さるボールねじと、
を備える、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のサイドトリマー装置。
【請求項8】
上記トリマー刃で切断する前の金属帯表面における、上記トリマー刃で切断する位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備え、
上記潤滑油付着装置は、上記ロール支持具に支持されている、
請求項7に記載のサイドトリマー装置。
【請求項9】
金属帯の幅方向端部をトリマー刃で連続的に切断する金属帯のサイドトリミング方法であって、
上記トリマー刃の切断方向上流側位置で、上記金属帯の幅方向端部を、対をなす押さえロールで挟持することで把持し、
上記把持の金属帯幅位置を、上記トリマー刃でのトリマー幅に応じて変更する、
金属帯のサイドトリミング方法。
【請求項10】
上記トリマー刃で切断する前の金属帯表面における、上記トリマー刃で切断する位置に潤滑油を付着する、
請求項9に記載した金属帯のサイドトリミング方法。
【請求項11】
上記潤滑油を付着する金属帯幅方向における位置を、上記把持の位置の変更に同期して、上記把持の変更と同方向に同じ距離だけ変更する、
請求項10に記載した金属帯のサイドトリミング方法。
【請求項12】
請求項9~請求項11のいずれか1項に記載したサイドトリミング方法を有する、金属帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より精度良くサイドトリマーを可能とする、サイドトリマー装置、金属帯のサイドトリミング方法、及び金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼板製造ラインなどでは、パスラインに沿って搬送される鋼板(金属帯)の両端部(エッジ部)を、連続的にサイドトリマー装置によってトリミングが実施される。このトリミングによって、鋼板は、例えば求められる寸法幅の製品として製造される。また、端部の整形のためにトリミングが実行させる場合もある。
【0003】
このとき、引張強度が590MPa以上の高張力鋼板(ハイテン)を対象材とし、その端部を連続してトリムして、製品としての鋼板を製造する場合もある。この場合、単にトリマー刃でトリミングしようとすると、連続して搬送される板にバタツキが発生する。また、トリマー刃と鋼板せん断部の摩擦によって、トリマー刃に刃欠けが発生しやすくなる。刃欠けが発生したトリマー刃で切断を続けると鋼板幅不良となってしまう。このことは、突発的なトリマー刃の刃替えが必要になってしまうという課題に繋がる。
【0004】
以上のような課題に対する対応として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載の方法がある。
特許文献1には、板幅方向に対向して配置された、一対のナイフ間に、上押さえロールと下押さえロールからなる押さえロールの組を、複数組設けることが記載されている。特許文献1には、この構成によって、切断中に発生する板幅方向の板の反りや撓みを防止でき、トリミング後の板幅精度を大幅に向上させることができる、と記載されている。
【0005】
特許文献2では、ナイフの板幅方向内方位置で鋼板エッジ部を押さえる板押さえロールが、サイドトリマーに直接設けられている。特許文献2では、上記の押さえロールによって切断部近傍の鋼板を保持することが可能となり板がバタつかないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-178716号公報
【特許文献2】特開平5-96305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、サイドトリマー部に対し、サイドトリマーとは独立した板押さえ装置が示されている。しかし、左右のナイフ間に設けた3つの上押さえロールすべてを幅方向へ可変とすることができない。具体的には、特許文献1では、狭幅の鋼板のトリム時は両側2つのロールを不使用とし、センター押さえロールのみしか使用しない構成である。そのため、特許文献1では、狭幅の鋼板のトリム時に鋼板エッジ部を押さえることができておらず、バタツキによって刃欠けの発生リスクが高い。
【0008】
また、特許文献2では、トリマーの内側に板押さえ用のロールが配置しているが、鋼板のトリム部分を完全に押さえることができていない。また、トリマー本体に直接板押さえロールが設置してあり、板押さえロールがトリマー本体と独立した機構になっていない。そのため、特許文献2では、板のバタツキだけでなく刃と鋼板の摩擦係数を直接減らすための塗油装置を設置するスペースが存在せず、刃欠けを完全になくすことはできていない。
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、トリマー刃による切断の際における、板のバタツキをより安定して抑えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題解決のために、本発明の一態様は、金属帯の幅方向端部をトリマー刃で連続的に切断するサイドトリマー装置であって、上記トリマー刃よりも切断方向上流側位置で、上記金属帯の幅方向端部を、板厚方向で対をなす押さえロールで挟持することで板端部を把持するエッジ把持具と、上記エッジ把持具を構成する押さえロールのうちの少なくとも一つの押さえロールの板幅位置を変位させることで、上記エッジ把持具による上記把持の位置を調整する幅方向位置調整機構と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、切断位置の上流位置を挟持するエッジ把持具で把持する。このため、対象とする金属帯の板幅が変わっても、切断位置からエッジ把持具までの距離が変わらず、安定して板のバタツキを抑えることができる。また、エッジ把持具による把持の位置を、板幅に応じて調整可能となる。この結果、本発明の態様によれば、確実に板端部の適切な位置を把持可能となる。このため、トリマー刃による切断の際における、板のバタツキをより確実に押さえることが可能となる。そして、板のバタツキを抑えることで、トリマー刃の刃欠けが抑えられる。
【0012】
また、切断位置上流において金属帯エッジ部へ直接に潤滑油を付与した場合、より確実にトリマー刃への潤滑油の供給が可能となる。この場合には、より刃と鋼板等の金属帯と間の摩擦を減らすことができ、更にトリマー刃の刃欠けが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係るサイドトリマー装置を例示する模式的な側面図である。
【
図3】把持の位置を調整する幅方向位置調整機構を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、金属帯として鋼板を例示する。金属帯は、鋼板に限定されない。また、本実施形態では、鋼板製造における表面処理鋼板製造ラインのサイドトリマー設備を例に挙げて説明する。本発明は、冷延鋼板・熱延鋼板などの圧延鋼板の製造工場であっても適用することができる。本発明は、例えば、鋼板製造ラインに適用可能である。
【0015】
「処理対象の鋼板について」
本発明が対象とする金属帯に特に限定はない。
本実施形態は、処理対象としての鋼板が、高張力鋼板、特に引張強度が590MPa以上の高張力鋼板であって、板厚が0.4mm以上の鋼板であっても適用可能となる。本実施形態は、例えば、板厚が4.0mm以下の高張力鋼板に適用してもよい。
【0016】
トリマー刃を構成する回転刃で切断される鋼板の例としては、GI、GA、EG、CRS、錫めっき鋼板、Zn系めっき鋼板、Al系めっき鋼板等が例示できる。しかし、鋼板は、これに限定されず、任意の鋼鈑に適用可能である。本実施形態は、例えば、GI、GAに固体潤滑皮膜を付与した鋼板や有機被覆を施した鋼板でも適用可能である。
【0017】
ここで、発明者らが調査したところ、引張強度が1180MPa以上の高張力鋼板を切断する場合には、高い頻度で刃欠けによるトリム不良材が生じるという新たな課題も見いだされた。この場合、不良材のオフラインでの再トリム処理が必要となる。この課題に対し、本開示を適用した場合、従来、刃欠けによるトリム不良の著しい発生を生じていた1180MPa級や1470MPa級の高張力鋼板で且つ板厚が0.4mm以上の鋼板においても、トリム不良の発生率を顕著に低減することができることを確認した。
【0018】
(構成)
図1及び
図2は、鋼板製造装置に設けられたサイドトリマー装置の構成を説明する図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、例えば、めっきその他の表面処理が施された鋼板40が、搬送ライン(パスライン)に沿ってサイドトリマー装置に搬送され、搬送中の鋼板40の板幅方向端部(エッジ部)に対して連続してトリム処理が実行される。本実施形態では、板幅方向両端部を同時期に切断するとする。
本実施形態のサイドトリミング装置は、回転刃1と、板押さえ具と、潤滑油付着装置6とを備える。
【0019】
<回転刃1>
回転刃1は、鋼板40の幅方向端部を切断するトリマー刃を構成する。
回転刃1は、
図1及び
図2に示すように、鋼板40を挟んで対向可能な一対の回転刃1A、1B(上刃2A及び下刃2B)を有する。そして、その一対の回転刃1A、1Bで鋼板40を板厚方向から挟み込んで切断する構成となっている。
図2のように、一対の回転刃1A、1Bの刃先同士の接触位置が切断位置となる。
【0020】
図2における符号Lは、切断方向上流側における、切断位置を通過すると想定される切断前(切断方向上流)の鋼板40の位置を示す。また、
図2における符号30は、潤滑油付着装置6にて鋼板40に付着した潤滑油の位置を例示する。
【0021】
一対の回転刃1A、1Bは、例えば、切断位置での回転方向が板の搬送方向と同方向となる順方向に設定されている。
【0022】
[回転刃1の構成材]
回転刃1の構成材については特に規定しない。回転刃1の構成材の例としては、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等を挙げることができる。引張強度が1180MPa以上の高張力鋼板の切断において刃欠けを安定して抑制する観点からは、回転刃1の構成材として、合金工具鋼や高速度工具鋼を使用するのが好ましい。また、回転刃1の表面に、焼き入れ処理、窒化・浸炭、TD処理等の表面硬化処理や、PVD、CVD、めっき、溶射等の表面被覆処理が施されていることが、更に好ましい。
【0023】
回転刃1は、例えば、出側検査前にて、製品巾に合わせて鋼板40のエッジ部(端部)を切断するトリム処理を実行する。
【0024】
[回転刃1の上刃2Aと下刃2Bのクリアランス]
回転刃1の上刃2Aと下刃2Bのクリアランスは、鋼板40の板厚に対し5%以上19%以下の範囲であることが好ましい。引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においては、従来の軟質な鋼板で問題とならなかった20%程度のクリアランスでは、刃欠けが生じやすくなる。回転刃1の上刃2Aと下刃2Bのクリアランスを5%以上19%以下の範囲制御することで、引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においても、トリム刃欠けとそれによる鉄粉発生が抑制される。この結果、切断以降の処理での押し疵が抑制される。回転刃1の上刃2Aと下刃2Bのクリアランスは、引張強度980MPa以上の高張力鋼板の刃欠けを抑制する観点からは、5%以上14%以下の範囲が更に好ましい。更に、引張強度1180MPa以上の高張力鋼板の刃欠けを抑制する観点からは、5%以上13%以下の範囲が更に好ましい。
【0025】
[回転刃1の回転方向における上刃1Aと鋼板40の垂直方向接触角]
回転刃1の回転方向における上刃2Aと鋼板40の垂直方向接触角は、3度以上13度以下であることが好ましい。引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においては、従来の軟質な鋼板40で問題とならなかった、14度程度の接触角では刃欠けが生じやすくなる。接触角が13度超では、回転刃1と鋼板40の接触面積が小さくなることに加え、曲げ変形を切断屑に与える必要が生じて変形抵抗が高くなる。このことにより、高張力鋼板の切断においては、非常に高い応力が回転刃1の刃先に集中することになり、刃欠けが顕在化する。接触角が3度未満では、板厚方向に十分な切断深さが確保できず、切断不良が生じる。接触角を3度以上13度以下の範囲に制御することで、引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においても回転刃1の刃欠けとそれによる鉄粉発生が抑制され、押し疵が抑制される。
【0026】
[回転刃1の回転方向と鋼板40の搬送方向のなす角]
回転刃1の回転方向と鋼板40の搬送方向のなす角は、搬送後方側に開き角となる方向に、0.01度以上0.5度以下であることが好ましい。引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においては、回転刃1と鋼板40の切断端面の再接触により高い面圧が生じて刃先に凝着物の堆積が生じやすくなる。刃先に凝着物の堆積が生じると、局所的なクリアランスの狭小化を通じて大きな応力が刃先にかかり刃欠けを誘発する。このような現象を回避する観点から、回転刃1の回転方向と鋼板40の搬送方向のなす角は、搬送後方側に開き角となる方向に0.01度以上0.5度以下であることが好ましい。
【0027】
<潤滑油付着装置6>
潤滑油付着装置6は、
図1に示すように、鋼板進行方向における回転刃1の設置位置よりも切断方向上流位置、すなわち切断前の鋼板40の表面と対向可能な位置に配置されている。潤滑油付着装置6は、
図2に示すように、鋼板40の表面における、回転刃1で切断される位置(符号Lの位置)を含む領域に対し、事前に潤滑油30を付着する装置である。
【0028】
本実施形態では、鋼板40の上面に潤滑油30を付着する場合を例示しているが、鋼板40の下面にも潤滑油30を付着してもよい。
【0029】
本実施形態の潤滑油付着装置6は、例えば、噴霧装置(噴射ノズル)から構成される。噴霧装置は、鋼板40の表面に向けて潤滑油を噴霧することで、鋼板40の表面に潤滑油を付着する。噴霧装置には、潤滑油を貯蔵した油タンク(不図示)と、空気を供給するコンプレッサその他のエア供給装置(不図示)が接続されている。噴霧装置は、例えば、コントローラからの指令に応じて、ノズル先端部で潤滑油に空気を混合する。これによって、噴霧装置は、潤滑油を霧状にし、その霧状の潤滑油を鋼板40の表面に向けて噴霧可能に構成されている。
【0030】
[潤滑油の水分含有量]
潤滑油の含有水分量は、3000ppm未満であることが好ましい。
ここで、回転刃1で切断後の鋼板40の端部には、潤滑油が付着したままとなる。その付着している潤滑油の含有水分量が3000ppm以上と含有水分量が多い場合、回転刃1での切断から、自動車メーカや家電メーカ等で鋼板40を製品に加工される迄の間に、潤滑油に含有する水分によって、鋼板40の平坦面あるいは切断面に錆が発生するおそれがある。このことは、自動車用途や家電用途の鋼板の製造に、本実施形態が使用し難しくなることに繋がる。
【0031】
一方、潤滑油の含有水分量を3000ppm未満とすることで、鋼板40の平坦面あるいは切断面での錆の発生を抑制することができる。
【0032】
より長期間に渡って錆の発生を抑制する観点を考えると、潤滑油の含有水分量は、2000ppm以下であることが更に好ましい。
また、潤滑油の含有水分量の下限は0ppmである。脱水に要するコストを考慮すると、潤滑油の含有水分量の下限は、20ppm以上が好ましい。
なお、本明細書のおける「ppm」は、重量ppmを表す。
【0033】
[噴霧量]
噴霧量とは、鋼板表面への潤滑油30の付着量と同義である。
自動車製造業等の鋼板40を加工する製造メーカでは、例えば、鋼板40若しくは鋼板40からトリムしたブランク材にプレス加工を施した後、化成処理・電着塗装工程の前に、鋼板40に付着した油(プレス油や防錆油)をアルカリ洗浄液で脱脂する洗浄工程を備える。このとき、油の付着量が多くなるほど、脱脂工程での脱脂性が著しく劣化し、化成処理性や塗装性に悪影響を及ぼす。したがって、このような用途の鋼板40を製造する場合、従来の場合、次の問題が発生するおそれがある。すなわち、回転刃1に直接油を塗布して鋼板40を切断する方法では、更に多量の切削油を供給することは、回転刃1から鋼板40に油が過剰に転写されて脱脂不良を招く。
【0034】
一方で、発明者らが種々検討したところ、トリム前の鋼板40に潤滑油を直接塗布して(付着させて)切断する方法を採用した場合、以下のような効果が得られるという新たな知見を得た。
すなわち、発明者らは、鋼板40への潤滑油の供給量が同じであっても、トリム用の回転刃1に直接油を塗布する場合に比べて、鋼板40に直接潤滑油を供給(付着)して切断した方が、刃欠けの頻度が抑制されることを確認した。
【0035】
この理由は必ずしも明らかではないが、次に示すような、刃先で油を保つ新たな機構が生じる事が理由と考えられる。
すなわち、従来のように回転刃1に直接塗布する場合、刃が鋼板40に接触した後、新たな潤滑油の供給が生じない。このため、刃のコーナ部、つまり刃先が鋼板40上を摺動しながら鋼板40を変形させて切断に至る過程において、刃先の油切れを抑制できない。このため、この過程で、刃には、鋼板40-刃間の摩擦に起因する側方力が強く作用すると推定される。
【0036】
一方、トリム前の鋼板40に直接塗布(付着)した場合、刃が鋼板40に接触した後も、刃先が鋼板表面を摺動して切断する過程で、刃先が摺動した先の新たな鋼板表面の領域にも、塗布された(付着した)潤滑油が存在する。このため、潤滑油が供給され続けることになる。この結果、油切れが抑制され、鋼板40-刃間の摩擦も低減されることで、鋼板40に直接潤滑油を塗布(付着)する場合に刃欠けが著しく抑制されると考えられる。また、摺動過程で刃先と鋼板40の間に局所的に堆積する油は、トリム除去される切り屑側に生じるので、堆積した油による脱脂不良も生じにくい。
【0037】
以上のことから、油を回転刃1に直接塗布する場合に比べ、鋼板40に直接潤滑油を塗布(付着)させる場合、トリムのために鋼板40に供給される潤滑油の量を抑えることが可能となる。
【0038】
なお、鋼板40全体に多量の塗油を行うと、脱脂ラインで大量の潤滑油の除去が必要となり、薬液交換頻度が著しく増大する。このため、コストやライン操業性の面から、現実的に実施するのは非常に難しい。また、鋼板40全体に塗布した場合には、地球環境への負荷増大も顕著である。本開示の切断手法では、回転刃1の近傍の領域のみに塗布することで顕著な効果が得られるので、係る問題も解決できる。
【0039】
すなわち、本実施形態を適用することで、顕著な刃欠けの抑制効果を得るのに多量の油の塗布(付着)を必要としない。この結果、自動車メーカなどから求められる脱脂性を損なわない範囲の油の付着量で、その効果が得られるという有利な点がある。
【0040】
このように、本開示によれば、回転刃1に直接油を塗布して鋼板40を切断する方法に比べて、少ない潤滑油の付着量で、刃欠けの頻度が抑制される。この結果、本開示によれば、自動車骨格・ボディ部品用等の用途に適用できる利点を有し、環境保全の面においても優れている、との知見を得た。また、本開示によれば、飛散することが防止され、鋼板40への潤滑油の付着領域も限定的にすることも可能となる。
【0041】
ここで、潤滑油の噴霧量は、鋼板40の表面のエッジ部に対し、連続的かつムラなく塗布(付着)できるように、油流量などを調整する。
例えば、噴霧量は、鋼板40の表面に対して一定以上の塗油密度を確保するために、下記(1)式のように設定する。
【0042】
すなわち、噴霧量の下限値は、鋼板40の搬送速度に応じて、例えば下記(1)式によって設定する。より好ましくは、噴霧量の下限値は、(2)式によって設定する。
【0043】
噴霧量の下限値=1.00[mL/m2]
×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(1)
噴霧量の下限値=7.24[mL/m2]
×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(2)
【0044】
噴霧量を、片面あたり(1)式で規定する量以上に設定することで、特に優れた刃欠けの抑制効果が得られる。なお、(1)式で規定される噴霧量の下限値は、1.00mL/m2の塗油密度に対応する。塗油密度は、単位面積当たりの鋼板表面における潤滑油の付着量である。更に、噴霧量を(2)式で規定する量以上に設定することで、更に優れた刃欠けの抑制効果が得られる。このため、噴霧量の下限値はこの範囲とすることが好ましい。なお、(2)式で規定される噴霧量の下限値は、7.24mL/m2の塗油密度に対応する。刃欠けの初期発生箇所となる上刃側(上面)の鋼板面で、上記塗油密度とすることが好ましい。上刃側と下刃側の両鋼板面で、上記塗油密度とすることが更に好ましい。
【0045】
ここで、(1)式及び(2)式での規定は、噴霧領域(付着領域)の幅が鋼板エッジ部から0.04mの範囲を前提としたものである。その幅が異なる場合は、0.04mに替えてその値を代入することで噴霧量を求めることができる。[mpm]は、一分間当たりの鋼板40の通過距離(m)である。
【0046】
噴霧領域の幅を0.01m、搬送速度を40mpmとすると、(1)式では0.02L/hr、(2)式では0.17L/hrとなる。これらの値が、優れた刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値、及び、更に刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値と考えることができる。なお、塗油密度に換算した場合の値は、上述の通りである。
【0047】
噴霧量の上限値については、特に規定は無い。
ただし、過剰塗油の場合、鋼板40のエッジ部に付着した油30が鋼板40から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念がある。このため、噴霧量は極力少量が望ましい。このような観点から、潤滑油の噴霧量は、両面合計で60L/hr未満とすることが望ましい。両面合計の噴霧量とする理由は、油が上下面の両面から流れ出てくるためと、コイルとした場合には両面の油が一体化して流れ出るためである。両面合計で60L/hr未満の噴霧量は、両面へ噴霧する場合、片面あたり15mL/m2未満の塗油密度に対応する。片面のみに噴霧する場合、30mL/m2未満の塗油密度に対応する。ここで、噴霧領域の幅は0.15m、鋼板40の搬送速度は230mpmとした。これは噴霧領域の幅と鋼板40の搬送速度の上限相当の条件である。
【0048】
また、自動車用鋼板で必要とされる優れた脱脂性を確保する観点からは、塗油密度は10mL/m2以下とするのが好ましい。これは、脱脂時間は塗油密度の影響を顕著に受けるためである。塗油密度が10mL/m2以下は、片面噴霧の場合、20L/hr以下に対応し、両面噴霧の場合、40L/hr以下の潤滑油の噴霧量に対応する。ここで、前記潤滑油の噴霧量は、噴霧領域の幅0.15m、鋼板40の搬送速度230mpmとして算出される潤滑油の噴霧量である。より優れた脱脂性を確保する観点からは、塗油密度は5mL/m2以下とするのがさらに好ましい。これは、片面噴霧の場合、10L/hr以下の潤滑油の噴霧量に対応し、両面噴霧の場合、20L/hr以下の潤滑油の噴霧量に対応する。塗油密度をこの範囲に制御することで、自動車メーカ等で実施する脱脂処理に要する時間を削減できる。
【0049】
なお、この実施形態では、潤滑油をそのまま噴射すること無く、霧状として供給する。このため、潤滑油の給油が自ずと抑えられる。
【0050】
ここで、潤滑油の塗布(付着)を滴下で実行した場合、その滴下量の範囲は、上記の噴霧の場合と同様の範囲となる。なお、滴下の場合、(1)式や(2)式において(噴霧領域の幅)を(滴下領域の幅)に置き換えて算定すればよい。
【0051】
[噴霧圧力]
噴霧圧力は、例えば0.09MPa以上0.12MPa以下とする。
噴霧圧力は、規定する噴霧領域に均一塗油可能となるように設定されれば、特に限定は無い。
【0052】
[噴霧領域]
噴霧領域は、切断位置となる位置Lを基準として、鋼板40の巾方向へ±20mmの領域を有することが好ましい。
噴霧領域の巾(噴霧巾)が40mm以下の噴霧巾になると、切断位置において、十分な潤滑領域を確保できず、刃欠けのおそれが発生する。
【0053】
噴霧領域の巾の上限値については特に規定はない。ただし、過剰塗油の場合、鋼板40のエッジ部に付着した油30が鋼板40から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念があるため、噴霧領域の巾は極力少量が望ましい。
【0054】
製造された鋼板40を自動車用途へ適用する場合には、脱脂速度向上、脱脂不良削減、薬液交換頻度削減、環境負荷低減の観点から優れた脱脂性が求められる。このため、噴霧領域の幅は極力低減することが望ましい。このような観点から、塗布領域の幅は±100mm(200mm幅)以下とすることが望ましい。また、噴霧領域の幅は、鋼板40への潤滑油塗布密度を精密に制御することにより、±40mm(80mm幅)以下とすることが好ましい。更に、噴霧領域の幅は、±20mm(40mm幅)以下とすることがより好ましく、±10mm(20mm幅)以下とすることが更に好ましい。
【0055】
[噴霧装置の噴射部と鋼板40との距離]
噴霧装置の噴射部と鋼板40との距離は、40mm以上離すことが好ましい。40mm未満の場合、鋼板形状が悪形状の鋼板40が通過する時に、噴霧装置のノズル部が鋼板40と干渉するおそれがある。
【0056】
噴霧装置の噴射部と鋼板40との距離の上限値については、特に規定はない。距離を離すほど、鋼板40の表面、に付着する潤滑油の密度(塗油密度)が低くなると共に、噴霧領域の巾が広くなる。しかし、塗油密度と噴霧領域とが予め設定した目的とする範囲に確保できる距離の範囲であれば、距離の上限値に規定はない。
【0057】
本実施形態では、噴射ノズルは、鋼板40の上面及び下面に対向させて配置されて、鋼板40の表裏両面における、回転刃1で切断する位置に潤滑油を付着する構成となっている。
【0058】
[潤滑油の粘度]
潤滑油の粘度は、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、3mm2/s以上、130mm2/s以下であることが望ましい。3mm2/s未満の場合、回転刃1の切断面と鋼板40が高い面圧で作用する。このため、油切れにより回転刃1と鋼板40が直接接触する恐れがある。1180MPa以上の強度の高張力鋼板の切断においては、より高い面圧となっても油切れを抑制する観点からは、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、潤滑油の粘度は8mm2/s以上が更に好ましい。
【0059】
また、滑油の粘度が130mm2/sよりも大きい場合、潤滑油が鋼板面に付着した後に鋼板面での拡散・浸透が不足し、局所的に潤滑油が不足する恐れがある。また、回転刃1が鋼板40を切断する過程で潤滑油の回転刃1側面への供給が不足し、回転刃1側面と鋼板40が直接接触する恐れがある。したがって、滑油の粘度は、130mm2/s以下とすることが好ましい。更に、付着した油をより均一に分布させる観点からは、潤滑油の粘度は潤滑油の液温が40℃のときにおいて、100mm2/s以下とすることが更に好ましい。なお、粘度の測定は、JIS Z8803に基づく。粘度の測定は、例えば、回転粘度計で測定できる。
【0060】
潤滑油の種類は特に規定しない。例えば、潤滑油として、プレス油、防錆油、切削油等が例示できる。高張力鋼板を切断する場合においても安定して刃欠けを抑制する観点から、これらの潤滑油に対し、極圧添加剤を添加したものとすることもできる。
【0061】
噴霧後のミストの平均直径は、例えば1μm以上2000μm以下の範囲とする。ミストの平均直径について、下限の制約は特にない。ただし、粒径が小さすぎると、周囲へ飛散し鋼板40への付着率が下がる。また、飛散した油が周囲へ飛び散り、防災の観点からリスクが発生する、などの懸念がある。ミストの平均直径について、上限の制約も特にない。ただし、付着量が不均一になり、刃欠けが生じやすくなる懸念がある。刃欠け抑制の観点から、ミストの平均直径のより好ましい範囲は、100μm以下である。
【0062】
[潤滑油の鋼板40への付着後、切断が開始されるまでの保持時間]
潤滑油の鋼板40への付着後、切断が開始されるまでの保持時間は特に規定しない。ただし、鋼板表面に付着した油の粒子を鋼板表面に分散させて均一な付着状態とする観点から、該保持時間は1秒以上とすることが好ましい。付着した潤滑油の粒子の直径が大きい場合は、鋼板表面に付着した油の粒子が鋼板表面に分散して均一な付着状態となる時間が長くなる。このため、潤滑油の粒径が2000μmを超える場合は、該保持時間は3秒以上とすることが望ましい。
【0063】
[変形例]
以上の説明では、潤滑油付着装置6を噴霧装置で構成する場合を例示した。潤滑油付着装置6は、鋼板表面に潤滑油を付与可能な構成であれば、他の構成も取り得る。例えば、潤滑油付着装置6は、油滴下装置などで構成しても良い。
【0064】
<板押さえ具>
本実施形態の板押さえ具は、センター押さえロール5と、全幅押さえロール4と、エッジ押さえロール2と、を備える。センター押さえロール5と全幅押さえロール4の一方若しくは両方を設けなくても良い。
【0065】
[センター押さえロール5]
センター押さえロール5は、
図2に示すように、左右の回転刃1の間の領域における、板幅方向中央部に配置されている。センター押さえロール5は、上下で対をなす上センター押さえロールと下センター押さえロールとを有する。そして、上センター押さえロールと下センター押さえロールとで、板幅方向中央部を上下から把持する(挟み込む)ことで、トリマー部における鋼板40のバタツキを、板幅方向から抑える。
【0066】
[全幅押さえロール4]
全幅押さえロール4は、
図1及び
図2に示すように、回転刃1の位置よりも切断方向上流に配置されている。本実施形態では、全幅押さえロール4は、平面視で、潤滑油付着装置6よりも切断方向上流であって、且つ潤滑油付着装置6に近づけて配置されている。鋼板進行方向において、潤滑油付着装置6と全幅押さえロール4との距離は、例えば、50mm以上500mm以下とする。
【0067】
全幅押さえロール4は、上下で対をなす上全幅押さえロールと下全幅押さえロールとを有する。上全幅押さえロール及び下全幅押さえロールは、例えば対象とする鋼板40の板幅よりも長い。そして、上全幅押さえロールと下全幅押さえロールとで、板幅方向全域を上下から把持する(挟み込む)ことで、回転刃1に向かう鋼板40の挙動を安定化すると共に、潤滑油付着装置6による潤滑油を付着する位置での鋼板40のバタツキを抑える。
【0068】
全幅押さえロール4は、平面視で、潤滑油付着装置6よりも切断方向下流側(回転刃側)に配置されていてもよい。
【0069】
[エッジ押さえロール2]
エッジ押さえロール2は、エッジ把持具を構成する。
エッジ押さえロール2は、
図1及び
図2に示すように、回転刃1の位置よりも切断方向上流に配置されている。本実施形態では、エッジ押さえロール2は、平面視で、潤滑油付着装置6よりも切断方向下流であって、且つ潤滑油付着装置6に近づけて配置されている。
【0070】
鋼板進行方向(切断方向)において、平面視で、回転刃1の中心軸とエッジ押さえロール2との距離は、例えば、500mm以下とする。エッジ押さえロール2は、回転刃1に出来るだけ接近させて配置することが好ましいが、回転刃1と干渉しない位置に配置して、回転刃1で切断する位置を把持する。
【0071】
エッジ押さえロール2は、上下で対をなす上エッジ押さえロール2Aと下エッジ押さえロール2Bとを有する。そして、上エッジ押さえロール2Aと下エッジ押さえロール2Bとで、板幅方向端部を上下から把持する(挟み込む)ことで、トリマー部における鋼板40のバタツキを、鋼板進行方向から抑える。
【0072】
ここで、エッジ押さえロール2は、
図2に示すように、回転刃1と潤滑油の付着位置との間に配置され、鋼板表面に付着させた潤滑油を回転するロールで鋼板表面側に押し付けることで、鋼板表面に付着させた潤滑油の膜厚を均一化する働きも有する。すなわち、エッジ押さえロール2は、滴下や噴霧により付着させた潤滑油が不均一に分布していた場合に、潤滑油の付着領域とりわけ切断箇所近傍(10~100mm幅)の付着量を均一に調整する働きも有する。
【0073】
なお、エッジ押さえロール2は、平面視で、潤滑油付着装置6よりも切断方向上流位置に配置しても良いが、よりエッジ押さえロール2を回転刃1に近づけて配置する観点からは、エッジ押さえロール2は、平面視で、潤滑油付着装置6よりも、切断方向下流側(回転刃側)に配置することが好ましい。
【0074】
[幅方向位置調整機構]
ここで、本実施形態のエッジ押さえロール2は、対をなす上エッジ押さえロール2A及び下エッジ押さえロール2Bにおいて、次の構成となっている。すなわち、
図3に示すように、下エッジ押さえロール2Bの長さは、例えば長さ2000mm等と長く設定し、対象とする鋼板40の切断後の長さに全て対応可能なだけの長さを有する。これに対し、上エッジ押さえロール2Aは、幅方向位置調整機構によって、下エッジ押さえロール2Bと上下で対向可能な範囲で板幅方向に変位可能に構成されている。
その変位させる機構が、幅方向位置調整機構である。
【0075】
幅方向位置調整機構は、
図3に示すように。ロール支持具11と、スライド軸8と、ボールネジ7と、幅可変用モーター9と、エンコーダなどからなるアブソリュート位置検出器10と、を備える。
【0076】
ロール支持具11は、上エッジ押さえロール2Aを軸回転可能に支持する。なお、
図3に図示したロール支持具11の形状は、模式的に例示したものである。
【0077】
スライド軸8は、板幅方向に延在する軸部材であって、ロール支持具11を支持し、ロール支持具11を板幅方向に変位可能に案内する部材である。
【0078】
ボールネジ7は、スライド軸8と平行に板幅方向に軸を向けて配置され、ロール支持具11の雌ネジが形成されたナット部11Aに螺合することで、当該ナット部11Aと共に直動案内機構を構成する。そして、ボールネジ7の回転及び回転方向に応じて、ロール支持具11が上記スライド軸8に沿って板幅方向に変位する。なお、左右のロール支持具11が有するナット部11Aは、雌ネジの向きが互いに反対向きとなっている。
【0079】
本実施形態では、
図3に示すように、板の右側に配置された上エッジ押さえロール2Aが支持するロール支持具11と、板の左側に配置された上エッジ押さえロール2Aが支持するロール支持具11を備える。そして、左側のロール支持具11と右側のロール支持具11は、共通のスライド軸8に案内可能となっていると共に、共通のボールネジ7の軸回転によって逆方向に変位可能に構成されている。また、板右側の上エッジ押さえロール2Aと板左側の上エッジ押さえロール2Aを、板幅方向中央部からの距離を等しく設定しておく。
なお、上エッジ押さえロール2Aの転動面は、潤滑油が付着することで、より板幅方向へ変位しやすくなっている。
【0080】
幅可変用モーター9は、サーボモーター等から構成され、ボールネジ7を軸回転させる。
また、ボールネジ7の軸回転量をアブソリュート位置検出器10が検出する。アブソリュート位置検出器10は、例えば、上エッジ押さえロール2Aの板幅方向への初期位置からの変位量を検出する。
【0081】
上エッジ押さえロール2Aの板幅方向への可変幅(変位可能な量)は、例えば、700mm~1850mmの範囲に設定すればよい。これによって、この範囲内の鋼板40のエッジ部分を押さえる、つまり把持することが可能である。エッジ押さえロール2によってどのような幅の鋼板40でも、トリマー刃直前部でトリム部を上下で押さえることができるようになる。
【0082】
また、本実施形態では、ロール支持具11に潤滑油付着装置6も支持させている。なお、平面視において、潤滑油付着装置6の板幅方向位置が、上エッジ押さえロール2Aの板幅方向位置と重なるように設定する。
【0083】
そして、幅方向位置調整機構によって、上エッジ押さえロール2Aの板幅方向位置(エッジ押さえロール2の把持の位置)を調整する。すると、同期をとって、潤滑油付着装置6による潤滑油付着位置も、
図2のような、回転刃1による切断位置の切断方向上流位置に調整される。
【0084】
なお、他の幅方向位置調整機構によって、潤滑油付着装置6の板幅方向位置が調整されるように構成されていても良い。また、左右の上エッジ押さえロール2A毎に、個別の幅方向位置調整機構を設けても良い。
【0085】
<ロール位置制御部21>
ロール位置制御部21は、上エッジ押さえロール2Aの板幅方向位置を調整する制御部である。
なお、符号20は、切断前の鋼板40幅方向端部位置を検出する端部位置検出器20である。
【0086】
ロール位置制御部21は、端部位置検出器20が検出した板の端部位置と、回転刃1によるトリム幅とから、板幅方向における回転刃1での切断位置を求める。
なお、同一の鋼板40を切断している場合、一度、現在の切断位置が特定されれば、端部位置検出器20からの信号は不要であり、回転刃1によるトリム幅だけから板幅方向における回転刃1での切断位置を求めることができる。
【0087】
そして、ロール位置制御部21は、アブソリュート位置検出器10からの信号によって、上エッジ押さえロール2Aの板幅方向位置を特定しつつ、幅可変用モーター9を駆動して、上エッジ押さえロール2Aの板幅方向位置を、板幅方向における回転刃1での切断位置に変位させる。
【0088】
なお、例えば、上エッジ押さえロール2Aの長手方向中央部が、板幅方向における、回転刃1での切断位置となるように設定する。
【0089】
(動作)
ここで、
図1及び
図2では、鋼板40は、紙面右から左に搬送されることで、鋼板40の端部(エッジ部)は紙面左側から右側に向けて切断が連続して実行される。このため、
図1及び
図2では、紙面右側が切断方向上流側となる。
【0090】
本実施形態では、回転刃1(トリマー刃)による切断位置の前側に配置したエッジ押さえロール2で、切断部近傍を押さえることで、切断の際の、板のバタツキを抑える。本実施形態では、更に、センター押さえロール5で切断位置の板幅方向中央位置を押さえることで、より切断の際の板のバタツキを抑えることができる。
【0091】
また、本実施形態では、エッジ押さえロール2による板の把持の位置(上エッジ押さえロール2Aの板幅方向位置)が調整可能となっている。この結果、回転刃1によるトリム幅(切断量)が変化しても、エッジ押さえロール2は、板幅方向において、回転刃1(トリマー刃)による切断位置を確実に把持可能となって、より確実に切断の際の、板のバタツキを抑えることが可能となる。この結果、回転刃1の刃欠けを抑制する。
【0092】
ここで、本実施形態では、切断位置の前側をエッジ押さえロール2で押さえるため、板幅に関係無く、切断位置とバタツキを抑える位置との距離を同じに設定でき、安定して板のバタツキを抑えることが可能となる。
【0093】
更に、本実施形態では、切断位置よりも切断方向上流位置に潤滑油を付着(塗油)することで、切断位置に切断のための潤滑油30を付与する。これによって、トリマー刃を構成すえる回転刃1と鋼板40と間の摩擦を減少させることができる。そして、板のバタツキを抑えると共に、回転刃1と鋼板40と間の摩擦を減少させることで、回転刃1の刃欠けをより抑制することが可能となる。すなわち、トリム前の鋼板40に潤滑油30を直接塗布する(付着させる)ことで、切断位置での油の供給不足を解消する。これによって、本実施形態では、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制して、仮に回転刃1を高速回転させて切断を行う必要があっても、鋼板製造の歩留りが向上する。
【0094】
このとき、本実施形態では、ロール支持具11に潤滑油付着装置6を支持させる。この結果、板幅方向において、エッジ押さえロール2での把持の位置を変更すると、自動的に、潤滑油付着装置6の幅方向位置も調整されるという効果を有する。
【0095】
また本実施形態では、切断方向において、潤滑油付着装置6を上エッジ押さえロール2Aよりも上流に配置している。このため、鋼板40に付着した潤滑油30を、転動する上エッジ押さえロール2Aが、鋼板40の表面に押し付けて引き伸ばす。これによって、エッジ押さえロール2は、付着した潤滑油30を均一化すると共に潤滑油30の鋼板40への密着度を高める役割も有する。すなわち、上エッジ押さえロール2Aで油を押さえることで、より安定して切断位置に対し油を供給可能となる。
【0096】
なお、回転刃1の刃欠けは、鋼板強度や設定条件等にも依存するので、厳密には特定されないが、数百m~数万mの切断長の中で発生する。このため、生産性向上の観点から、鋼板40長手方向において数百mの範囲で部分的に塗油を行わない領域を作ることも可能である。部分的に塗油を行わない領域が存在しても、本開示の要件を満たす領域が存在することで、刃欠けの抑制効果やそれによる押し疵の抑制効果、更には搬送トラブル、コイル巻き形状不良、プレス寸法精度不良の抑制効果は得られる。
【0097】
ここで、潤滑油を回転刃1に直接塗布する場合は、前述の通り刃先で油切れを生じやすく、その結果、せん断断面に大きな摩擦力が生じて大きな塑性変形を生じる。このため、切断面が、せん断面比率の高い破面形状となる。このように大きな塑性変形を伴った切断面は、残留延性が乏しい。このため、端面からの鉄粉の剥脱が切断工程以降の処理で生じやすく、剥奪した鉄粉が押し疵を招いて表面欠陥の発生率を増加させる。その作用は、980MPa級以上の高張力鋼板で特に顕在化し、1180MPa級以上の高張力鋼板で一層顕在化する。一方で、本開示に基づき、潤滑油30を鋼板40に直接塗布して切断した場合は、590MPa級以上の広い範囲の強度の高張力鋼板において、第1の切断面での摩擦力を軽減する。
【0098】
また、本開示の切断方法で形成された圧延鋼板、コイル材、及びブランク材等の金属帯は、幅方向端部の切断面が、平滑な端面となる。このため、切断後の鉄粉の剥奪が従来よりも抑制されて製造されるため、鉄粉剥奪による押し疵の発生が抑制することが可能となる。つまり、品質の良い圧延鋼板、コイル材、及びブランク材を提供可能となる。
【0099】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)金属帯の幅方向端部をトリマー刃で連続的に切断するサイドトリマー装置であって、
上記トリマー刃よりも切断方向上流側位置で、上記金属帯の幅方向端部を、板厚方向で対をなす押さえロールで挟持することで板端部を把持するエッジ把持具と、
上記エッジ把持具を構成する押さえロールのうちの少なくとも一つの押さえロールの板幅位置を変位させることで、上記エッジ把持具による上記把持の位置を調整する幅方向位置調整機構と、
を備えるサイドトリマー装置。
(2)上記トリマー刃によるトリム幅に応じ、上記幅方向位置調整機構を介して上記把持の位置を調整する制御部を備える。
(3)上記把持の位置を求めるアブソリュート位置検出器を備え、
上記制御部は、アブソリュート位置検出器からの情報によって、上記把持の位置を特定する。
(4)上記トリマー刃で切断する前の金属帯表面における、上記トリマー刃で切断する位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える。
(5)上記把持の位置は、上記潤滑油付着装置に対し切断方向下流に配置されている。
(6)上記潤滑油付着装置を、上記幅方向位置調整機構による上記押さえロールの変位に同期して、上記押さえロールの変位と同方向に同じ距離だけ板幅方向に変位させる同期機構を備える。
(7)上記エッジ把持具は、対をなす一対の押さえロールを有し、その一対の押さえロールのうち、一方の押さえロールは、他方の押さえロールよりも短く、
上記幅方向位置調整機構は、上記一方の押さえロールを板幅方向に変位することで、上記把持の位置を調整する構成となっており、
上記幅方向位置調整機構は、
上記一方の押さえロールを軸回転可能に支持するロール支持具と、
上記ロール支持具を、板幅方向に案内するスライド軸と、
上記ロール支持具を、軸回転によって板幅方向に変位さるボールねじと、
を備える。
(8)上記トリマー刃で切断する前の金属帯表面における、上記トリマー刃で切断する位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備え、
上記潤滑油付着装置は、上記ロール支持具に支持されている、
本開示に記載のサイドトリマー装置。
(9)金属帯の幅方向端部をトリマー刃で連続的に切断する金属帯のサイドトリミング方法であって、
上記トリマー刃の切断方向上流側位置で、上記金属帯の幅方向端部を、対をなす押さえロールで挟持することで把持し、
上記把持の金属帯幅位置を、上記トリマー刃でのトリマー幅に応じて変更する、
金属帯のサイドトリミング方法。
(10)上記トリマー刃で切断する前の金属帯表面における、上記トリマー刃で切断する位置に潤滑油を付着する。
(11)上記潤滑油を付着する金属帯幅方向における位置を、上記把持の位置の変更に同期して、上記把持の変更と同方向に同じ距離だけ変更する。
(12)本開示のサイドトリミング方法を有する、金属帯の製造方法。
【実施例0100】
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
(構成)
【0101】
サイドトリマー装置として、
図1及び
図2のような、実施形態で説明した装置構成を採用した。すなわち、トリマー刃である回転刃1の直前部にエッジ押さえロール2を設けた。また全幅押さえロール4を設けた。また、左右の回転刃1の板幅方向中央部にセンター押さえロール5を設けた。これによって、トリマー部における鋼板40のバタツキを抑えることが可能な構成とした。
【0102】
更に、上エッジ押さえロール2Aのロール支持具11に取り付けた潤滑油付着装置6によって鋼板エッジ部に油を直接塗油させることで回転刃1と鋼板40との摩擦を減少させることが可能な構成とした。
ここで、
図3に示すように、上エッジ押さえロール2Aのロール支持具11は、ボールネジ7、スライド軸8によって、板幅方向へ可変な構造としている。可変は幅可変用モーター9の駆動によって可変させ、上エッジ押さえロール2Aの位置(エッジ押さえロール2による把持の位置)は、アブソリュート位置検出器10にて特定した。そして、トリム幅に応じて、上エッジ押さえロール2Aの位置を、板幅方向において、切断位置に調整した。
【0103】
(評価)
上記構成のサイドトリマー装置で、切断する鋼板40を590MPa以上の高張力鋼板(ハイテン)として、鋼板製造の操業を実施した。
このとき、上記のエッジ押さえロール2、全幅押さえロール4、及びセンター押さえロール5による板押さえが無い場合(潤滑油の供給無し)と、上記の板押さえが有る場合(潤滑油の供給無し)とで、刃欠けによる操業停止の回数を確認した。その結果、板押さえが無い場合(潤滑油の付着無し)に比べ、板押さえがある場合(潤滑油の付着無し)の方が、刃欠けによる操業停止の回数が10分の1以下に低減したことを確認した。
【0104】
更に、板押さえがある状態で、潤滑油の付着も実施した場合について確認したところ、次のようになった。すなわち、潤滑油の付着が無い場合、月4回あった操業停止が、潤滑油の付着も実施すると月ゼロ回となった。
【0105】
また、その操業の際の、回転刃1を駆動する駆動モーターの負荷率を評価した。
切断する鋼板40は、980MPaハイテン材で1.0mm厚の鋼板とした。その結果、板押さえも潤滑油も無い場合に比べ、板押さえも潤滑油も使用する場合は、モーター負荷率を、15.8%減少できることが確認できた。
【0106】
このように、本開示に基づく、板押さえ、及び潤滑油の塗布の効果によって、回転刃1のモーター負荷率の減少が確認できた。つまり、本開示に基づくことで、トリマー刃と鋼板40の摩擦を減少させ、刃欠け数を減らすことが可能となることが分かった。