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特開2024-89933正極活物質層、正極および全固体二次電池
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  • 特開-正極活物質層、正極および全固体二次電池 図1
  • 特開-正極活物質層、正極および全固体二次電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089933
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】正極活物質層、正極および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240627BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240627BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240627BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240627BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240627BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240627BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240627BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205482
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】久米 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】野島 昭信
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA26
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ04
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ07
5H050AA09
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA15
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】自己放電の抑制された全固体二次電池の正極を形成できる正極活物質層を提供する。
【解決手段】正極活物質と、固体電解質11とを含み、正極活物質は、コア部10aと、コア部10aの表面の少なくとも一部を覆うシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含み、コア部10aは、リチウム遷移金属酸化物からなり、シェル部10bは、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素とを含む化合物からなり、固体電解質11は、ハライド系固体電解質を含む、正極活物質層1Bとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、固体電解質とを含み、
前記正極活物質は、コア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する粒子を含み、
前記コア部は、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなり、
前記シェル部は、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素とを含む化合物からなり、
前記固体電解質は、下記式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む、正極活物質層。
LiMO・・・(1)
(式(1)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
・・・(2)
(式(2)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【請求項2】
前記シェル部の平均厚みが0.1μm~1.0μmである、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項3】
前記コアシェル構造を有する粒子の断面積に占める前記シェル部の面積の割合が1%~40%である、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項4】
前記シェル部に含まれるハロゲン元素と、前記固体電解質に含まれるハロゲン元素とが同一元素である、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項5】
前記シェル部と前記固体電解質との界面と、前記シェル部と前記コア部との界面とにおけるハロゲン元素の含有量の比が、0.6以上1.0未満である、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の正極活物質層を含む、正極。
【請求項7】
請求項6に記載の正極と、負極と、固体電解質層とを備える、全固体二次電池。
【請求項8】
前記固体電解質層が、下記式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む、請求項7に記載の全固体二次電池。
・・・(2)
(式(2)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【請求項9】
前記固体電解質層が、LiZrSOClを含む、請求項8に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、正極および全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。そこで、電解質として固体電解質を用いる全固体二次電池が注目されている。従来、全固体二次電池の固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが知られている。
【0003】
全固体電池用負極活物質としては、炭素材料を含むコア部と、上記コア部の表面を少なくとも一部被覆するシェル部とを含むものが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、シェル部が金属酸化物を含むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7038951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の全固体二次電池は、自己放電特性が不十分であり、開回路状態で容量が劣化することが問題となっていた。
特に、固体電解質としてハライド系固体電解質を用いた全固体二次電池では、開回路状態で静置したときのセル電圧降下が顕著であり、自己放電特性を改善することが要求されていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、自己放電の抑制された全固体二次電池の正極を形成できる正極活物質層、これを備える正極および全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の一態様に係る正極活物質層は、正極活物質と、固体電解質とを含み、
前記正極活物質は、コア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する粒子を含み、
前記コア部は、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなり、
前記シェル部は、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素とを含む化合物からなり、
前記固体電解質は、下記式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む。
【0008】
LiMO・・・(1)
(式(1)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
・・・(2)
(式(2)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【発明の効果】
【0009】
本発明の正極活物質層は、正極活物質と固体電解質とを含み、正極活物質が、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなるコア部と、酸素とハロゲン元素とを含む化合物からなり、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する粒子を含み、固体電解質が、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む。したがって、コアシェル構造を有する粒子のコア部と固体電解質との間の一部には、酸素とハロゲン元素とを含む化合物からなるシェル部が配置されている。ハロゲン元素は、電気陰性度の大きい元素である。このため、シェル部を形成している酸素とハロゲン元素とを含む化合物中の酸素とハロゲン元素とは、強固な共有結合を形成している。したがって、シェル部を形成している酸素とハロゲン元素とを含む化合物は、電気化学的に安定である。このことから、本発明の正極活物質層を備える正極を有する全固体二次電池では、シェル部によってコア部と固体電解質との反応が抑制される。その結果、この全固体二次電池は、開回路状態で静置したときの副反応によるセル電圧降下が生じにくく、自己放電特性に優れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態にかかる全固体二次電池を示した断面模式図である。
図2図2(a)は、図1に示す全固体二次電池100の正極活物質層1Bの一部を拡大して示した断面模式図である。図2(b)は、図2(a)の一部を拡大して示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、ハロゲン元素を含む固体電解質を含む正極活物質層における、正極活物質と固体電解質との反応に着目し、鋭意検討を重ねた。
その結果、特定のリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質と、特定のハライド系固体電解質を含む固体電解質とを含む正極活物質層を有する全固体二次電池構造を形成し、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行うことによって、正極活物質層中で正極活物質と固体電解質とを反応させて、正極活物質の粒子の表面の少なくとも一部に沿って、酸素とハロゲン元素とを含む化合物を生成させればよいことを見出した。
【0012】
正極活物質の粒子の表面の少なくとも一部に沿って生成した、酸素とハロゲン元素とを含む化合物は、全固体二次電池を60℃~85℃の高温で充放電させることによって、正極活物質から離脱した酸素と、固体電解質から拡散したハロゲン元素とが反応して生成するものと推定される。酸素とハロゲン元素とを含む化合物は、電気陰性度の大きいハロゲン元素と酸素との強固な共有結合を有しているため、電気化学的に安定である。このため、正極活物質の粒子の表面の少なくとも一部に沿って生成した、酸素とハロゲン元素とを含む化合物は、分解しにくく、正極活物質と固体電解質との接触面積を削減し、開回路状態で静置したときの正極活物質と固体電解質との反応を抑制する。
【0013】
上記知見に基づいて、本発明者は、さらに検討を重ねた。その結果、特定のリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質と、特定のハライド系固体電解質を含む固体電解質と、固体電解質に含まれるハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む化合物とを含む正極活物質層を有する全固体二次電池構造を形成し、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行うことによって、正極活物質層中で正極活物質とハロゲン元素を含む化合物とを反応させて、正極活物質の粒子の表面の少なくとも一部に沿って、酸素とハロゲン元素とを含む化合物を生成させてもよいことを見出した。
【0014】
このようにして正極活物質の粒子の表面の少なくとも一部に沿って生成した、酸素とハロゲン元素とを含む化合物も、電気化学的に安定であるため分解しにくく、正極活物質と固体電解質との接触面積を削減し、開回路状態で静置したときの正極活物質と固体電解質との反応を抑制する。
【0015】
これらのことから、特定のリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質と、特定のハライド系固体電解質を含む固体電解質とを含み、正極活物質の粒子の表面の少なくとも一部が、酸素とハロゲン元素とを含む化合物で被覆された正極活物質層を備える正極は、これを有する全固体二次電池を開回路状態で静置したときの副反応によるセル電圧降下が生じにくく、自己放電特性に優れるものになるものと推定される。
【0016】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 正極活物質と、固体電解質とを含み、
前記正極活物質は、コア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する粒子を含み、
前記コア部は、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなり、
前記シェル部は、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素とを含む化合物からなり、
前記固体電解質は、下記式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む、正極活物質層。
【0017】
LiMO・・・(1)
(式(1)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
・・・(2)
(式(2)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【0018】
[2] 前記シェル部の平均厚みが0.1μm~1.0μmである、[1]に記載の正極活物質層。
[3] 前記コアシェル構造を有する粒子の断面積に占める前記シェル部の面積の割合が1%~40%である、[1]または[2]に記載の正極活物質層。
[4] 前記シェル部に含まれるハロゲン元素と、前記固体電解質に含まれるハロゲン元素とが同一元素である、[1]~[3]のいずれかに記載の正極活物質層。
[5] 前記シェル部と前記固体電解質との界面と、前記シェル部と前記コア部との界面とにおけるハロゲン元素の含有量の比が、0.6以上1.0未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の正極活物質層。
【0019】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の正極活物質層を含む、正極。
[7] [6]に記載の正極と、負極と、固体電解質層とを備える、全固体二次電池。
【0020】
[8] 前記固体電解質層が、下記式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む、[7]に記載の全固体二次電池。
・・・(2)
(式(2)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【0021】
[9] 前記固体電解質層が、LiZrSOClを含む、[8]に記載の全固体二次電池。
【0022】
以下、本実施形態の正極活物質層、正極および全固体二次電池について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
[全固体二次電池]
図1は、本実施形態の全固体二次電池100を示した断面模式図である。全固体二次電池100は、例えば、ラミネート電池、角型電池、円筒型電池、コイン型電池、ボタン型電池等に用いられる。
図1に示すように、全固体二次電池100は、積層体4を有する。積層体4は、正極層1(正極)と、負極層2(負極)と、正極層1と負極層2との間に挟持された固体電解質層3とを有する。積層体4に含まれる正極層1および負極層2の層数は、図1に示すように、それぞれ1層ずつであってもよいし、2層以上であってもよい。
【0024】
図1に示す正極層1は、一端が第1外部端子(不図示)に接続されている。負極層2は、一端が第2外部端子(不図示)と接続されている。第1外部端子および第2外部端子は、導電材料で形成され、それぞれ外部と電気的に接続されている。
図1に示す全固体二次電池100は、正極層1と負極層2との間で、固体電解質層3を介したイオンの授受により充電又は放電する。
【0025】
「正極層」
図1に示すように、正極層1は、正極集電体1Aと、正極活物質層1Bとを有する。正極活物質層1Bは、図1に示すように、正極集電体1Aの片面にのみ形成されていてもよいし、正極集電体1Aの両面に形成されていてもよい。
【0026】
(正極集電体)
正極集電体1Aは、導電率に優れる。正極集電体1Aは、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属およびそれらの合金からなる。正極集電体1Aは、例えば、リチウムバナジウム化合物(LiV、Li(PO、LiVOPO)などの正極活物質を含んでいてもよい。
【0027】
(正極活物質層)
図2(a)は、図1に示す全固体二次電池100の正極活物質層1Bの一部を拡大して示した断面模式図である。図2(b)は、図2(a)の一部を拡大して示した断面模式図である。図2(a)および図2(b)に示すように、正極活物質層1Bは、正極活物質であるコアシェル構造を有する粒子10と、固体電解質11とを含む。本実施形態の正極活物質層1Bは、図2(a)および図2(b)に示すように、導電助剤12を含んでいてもよい。
【0028】
(正極活物質)
正極活物質は、イオン(例えば、リチウムイオン)の放出及び吸蔵、イオンの脱離及び挿入を可逆的に進行させる。
正極活物質は、図2(b)に示すように、粒子状のコア部10aと、コア部10aの少なくとも一部を覆うシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を複数含む。シェル部10bは、図2(b)に示すように、コア部10aの表面の一部のみを覆っていてもよいし、コア部10aの表面全体を覆っていてもよい。シェル部10b内には、リチウムイオンなどのイオンが拡散できる。したがって、正極活物質として、コア部10aの表面全体がシェル部10bで被覆されている粒子10を用いた場合であっても、これを含む正極活物質層1Bを有する全固体二次電池100は充放電可能である。
【0029】
正極活物質中に含まれる複数の粒子10は、図2(a)に示すように、シェル部10bによってコア部10aの表面の一部が覆われているもののみであってもよいし、シェル部10bによってコア部10aの表面全体が覆われているもののみであってもよいし、両方が任意の割合で混在していてもよい。
正極活物質に含まれるコアシェル構造を有する粒子10は、1種のみであってもよいし、コア部10aおよび/またはシェル部10bを形成している材料の異なる2種以上のものを含んでいてもよい。
【0030】
コア部10aは、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる。
LiMO・・・(1)
(式(1)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
【0031】
式(1)におけるMは、1種以上の遷移金属である。Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、V、Ti、Al、Nb、Ti、Cu、Crから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、Co、Ni、Mn、Alから選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いて、コア部10aと正極活物質層に含まれるハロゲン元素を含む化合物中のハロゲン元素(固体電解質11に含まれるハロゲン元素、および/または固体電解質11に含まれるハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む化合物に含まれるハロゲン元素)とを反応させることにより、十分な厚みを有し、粒子10の断面積に占める面積の割合が十分に高いシェル部10bが形成されやすいためである。
【0032】
式(1)におけるxは、0.1<x<1.1を満たし、0.2<x<0.6を満たすことが好ましい。コア部10aを形成している式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物が、安定した結晶構造を有するものとなるためである。
【0033】
式(1)におけるyは、1.8<y<2.2を満たし、1.9<y<2.1を満たすことが好ましい。コア部10aを形成している式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物が、安定した結晶構造を有するものとなるためである。
【0034】
式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物としては、具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO(LCO))、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、LiNiCoMn(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物などが挙げられる。これらのリチウム遷移金属酸化物の中でも、LiCoO(LCO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NCM)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(NCA)から選ばれるいずれかを含むことが好ましく、LiCoO(LCO)であることが最も好ましい。コア部10aがLiCoO(LCO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NCM)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(NCA)から選ばれるいずれかであると、開回路状態で静置したときの副反応がより一層生じにくく、より一層自己放電特性に優れる全固体二次電池100を形成できるコアシェル構造を有する粒子10となるためである。
【0035】
コア部10aは、図2(a)および図2(b)に示すように、粒子状である。コア部10aの粒径は、例えば、5μm~30μmとすることができ、10μm~25μmであることが好ましい。コア部10aの粒径が上記範囲内であると、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いて、コア部10aと正極活物質層に含まれるハロゲン元素を含む化合物中のハロゲン元素とを反応させることにより、十分な厚みを有し、粒子10の断面積に占める面積の割合が適正であるシェル部10bが形成されやすいためである。
【0036】
シェル部10bは、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素とを含む化合物からなる。
シェル部10bに含まれるハロゲン元素は、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種であり、Brおよび/またはClを含むことが好ましい。これは、酸素との共有結合力が適正な化合物からなるシェル部10bとなり、開回路状態で静置したときの副反応を効果的に抑制できる粒子10となるためである。
【0037】
シェル部10bに含まれるハロゲン元素は、正極活物質層1Bの固体電解質に含まれるハロゲン元素と同一元素であってもよいし、異なっていてもよい。コアシェル構造を有する粒子10が、複数の種類のコアシェル構造を有する粒子10を含む場合、シェル部10bに含まれるハロゲン元素が、正極活物質層1Bの固体電解質に含まれるハロゲン元素と同一元素である粒子と、異なる粒子とが、任意の割合で混在していてもよい。
【0038】
本実施形態においては、コアシェル構造を有する粒子10の全てが、シェル部10bに含まれるハロゲン元素が、正極活物質層1Bの固体電解質に含まれるハロゲン元素と同一元素であることが好ましい。開回路状態で静置したときの副反応がより一層生じにくく、より一層自己放電特性に優れる全固体二次電池100を形成できる正極活物質層1Bとなるためである。また、シェル部10bに含まれるハロゲン元素と、正極活物質層1Bの固体電解質に含まれるハロゲン元素とが同一元素であると、固体電解質11に含まれるハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む化合物を用いることなく、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いることにより、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含む正極活物質と、固体電解質11とを含む正極活物質層1Bを容易に製造できる。
【0039】
シェル部10bは、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素と、Liと、コア部10aを形成している式(1)におけるM(1種以上の遷移金属)とからなることが好ましい。固体電解質11に含まれるハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む化合物を用いることなく、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いることにより、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含む正極活物質と、固体電解質11とを含む正極活物質層1Bを、容易に製造できるためである。
【0040】
シェル部10bは、平均厚みが0.1μm~1.0μmであることが好ましく、0.3μm~0.8μmであることがより好ましい。シェル部10bの平均厚みが0.1μm以上であると、正極活物質層1Bを備える正極層1を有する全固体二次電池100において、コア部10aからの酸素の脱離を効果的に抑制できるものとなる。このことにより、コア部10aと固体電解質11との反応を、より効果的に抑制できる。その結果、本実施形態の正極活物質層1Bを備える正極層1を有する全固体二次電池100は、開回路状態で静置したときの副反応がより一層生じにくく、より一層自己放電特性に優れるものとなる。シェル部10bの平均厚みが1.0μm以下であると、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いることにより、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含む正極活物質と、固体電解質11とを含む正極活物質層1Bを、容易に製造できる。
【0041】
(シェル部10bの平均厚み)
本実施形態におけるシェル部10bの平均厚みは、以下に示す方法により測定した値である。
正極活物質層1Bの切断面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率30k倍で観察し、コアシェル構造を有する粒子10の256諧調のグレースケールの画像を得る。得られた画像のコアシェル構造を有する粒子10について、色の薄い領域(白っぽい領域(グレースケールの平均明度193~207))をコア部10aとし、色の濃い領域(黒っぽい領域(グレースケールの平均明度174~187))をシェル部10bとする。視野中の任意の1つのコアシェル構造を有する粒子10について、粒子10の直径方向に沿うシェル部10bの厚みを任意の5カ所測定し、その平均値をシェル部10bの平均厚みとする。
【0042】
コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合は、1%~40%であることが好ましく、15%~30%であることがより好ましい。シェル部10bの面積の割合が1%以上であると、シェル部10bによって、コア部10aと固体電解質11との接触面積を効果的に削減できる。その結果、全固体二次電池100のコア部10aから固体電解質11への酸素の脱離が抑制され、コア部10aと固体電解質11との反応が、より効果的に抑制される。このことにより、開回路状態で静置したときの副反応がより一層生じにくく、より一層自己放電特性に優れる全固体二次電池100を形成できる。
【0043】
コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合が40%以下であると、シェル部10bの面積の割合が高すぎることによって、粒子10内におけるリチウムイオンなどのイオンの拡散に支障をきたすことがない。また、シェル部10bの面積の割合が40%以下であると、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いることにより、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含む正極活物質と、固体電解質11とを含む正極活物質層1Bを、容易に製造できる。
【0044】
(コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合)
本実施形態におけるコアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合は、以下に示す方法により測定した値である。
シェル部10bの平均厚みを測定した場合と同様にして、コアシェル構造を有する粒子10の256諧調のグレースケールの画像を得る。得られた画像のコアシェル構造を有する粒子10について、シェル部10bの平均厚みを測定した場合と同様にして、色の薄い領域をコア部10aとし、色の濃い領域をシェル部10bとする。そして、視野内の任意の5つのコアシェル構造を有する粒子10について、それぞれコア部10aの面積とシェル部10bの面積を求める。得られた値を用いて、5つのコアシェル構造を有する粒子10について、それぞれコアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合({シェル部10bの面積/(コア部10aの面積+シェル部10bの面積)}×100(%))を算出し、その平均値を、コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合とする。
【0045】
図2(b)に示すコアシェル構造を有する粒子10におけるシェル部10bと固体電解質11との界面14と、シェル部10bとコア部10aとの界面13とにおけるハロゲン元素の含有量の比(シェル部10bとコア部10aとの界面/シェル部10bと固体電解質11との界面)は、0.6以上1.0未満であることが好ましく、0.6~0.9であることがより好ましい。60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いることにより、コアシェル構造を有する粒子10を生成させた場合、シェル部10b内の固体電解質11との界面14に近い部分ほど、正極活物質層に含まれるハロゲン元素を含む化合物から拡散したハロゲン元素の含有量が多いものとなる。一方、シェル部10b内のコア部10aとの界面13に近い部分ほど、ハロゲン元素の含有量が少ないものとなる。
【0046】
上記の界面14と上記界面13とにおけるハロゲン元素の含有量の比が0.6以上である場合、シェル部10b内全体にハロゲン元素が十分に含まれている。したがって、シェル部10b中には、ハロゲン元素と酸素との強固な共有結合が十分に形成されている。よって、電気化学的により安定なシェル部10bを備える正極活物質層1Bとなる。その結果、開回路状態で静置したときの副反応がより一層生じにくく、より一層自己放電特性に優れる全固体二次電池100を形成できるコアシェル構造を有する粒子10となる。また、上記界面の比が1.0未満であると、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う方法を用いることにより、コア部10aの一部を覆うシェル部10bを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含む正極活物質層1Bを容易に製造できる。また、上記界面の比が1.0未満であると、シェル部10b内のコア部10aとの界面13において、ハロゲン元素と酸素との過剰な共有結合が抑制された粒子10となり、コア部10aの結晶構造が安定なものとなる。その結果、より一層自己放電特性に優れる全固体二次電池100を形成できる粒子10となる。
【0047】
(ハロゲン元素の含有量の比)
本実施形態におけるコアシェル構造を有する粒子10におけるシェル部10bと固体電解質11との界面14と、シェル部10bとコア部10aとの界面13とにおけるハロゲン元素の含有量の比は、以下に示す方法により測定した値である。
正極活物質層1Bの切断面における任意の5つのコアシェル構造を有する粒子10について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)エネルギー分散型X線分光(EDS)装置を用いて、縦3μm、横3μmの正方形の測定範囲(測定間隔0.1μm)についてハロゲン元素のマッピング分析を行う。そして、視野内の任意の5つのコアシェル構造を有する粒子10それぞれについて、粒子10の直径方向に沿う最も厚みの厚いシェル部10bにおけるコア部10aとの界面に最も近接する測定値、および固体電解質11との界面に最も近接する測定値を用いて、上記のハロゲン元素の含有量の比(シェル部10bとコア部10aとの界面13/シェル部10bと固体電解質11との界面14)を算出し、その平均値を算出する。
【0048】
本実施形態の正極活物質層1Bに含まれる正極活物質は、図2(a)に示すように、コアシェル構造を有する粒子10のみであってもよいし、コアシェル構造を有する粒子10とともに、本願の効果が得られる範囲で、公知の全固体二次電池に用いられている正極活物質を含んでいてもよい。コアシェル構造を有する粒子10とともに含有されていてもよい正極活物質としては、例えば、シェル部10bで被覆されていないコア部10aからなる粒子などが挙げられる。
【0049】
(固体電解質)
正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、正極活物質層1B内のイオン伝導度を良好にする。
正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、下記式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む。
【0050】
・・・(2)
(式(2)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【0051】
式(2)におけるAは、必須の成分であり、LiとCsから選択される少なくとも1種の元素であり、Li、またはLiとCsの両方であることが好ましく、Liであることがより好ましい。
【0052】
式(2)におけるaは、0.5≦a<6を満たし、好ましくは2.0≦a≦4.0を満たし、より好ましくは2.5≦a≦3.5を満たす。aが0.5≦a<6であると、式(2)で表されるハライド系固体電解質中に含まれるAの含有量が適正となり、固体電解質11のイオン伝導度が十分に高いものとなる。
【0053】
式(2)におけるEは、固体電解質11のイオン電導度を向上させる必須の成分である。式(2)におけるEは、Al、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。Eは、Al、Sc、Y、Zr、Hf、Laからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、Alおよび/またはZrを含むことがより好ましく、Zrであることが最も好ましい。
【0054】
式(2)におけるbは0<b<2である。bは、Eを含むことによる固体電解質11のイオン電導度を向上させる効果がより顕著となるため、0.6≦b≦1であることが好ましい。
【0055】
式(2)におけるGは、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、O、SO、SO、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Gは、O、SO、SO、SO、SOからなる群から選択される少なくとも1つの基であることが好ましく、特に、Oおよび/またはSOであることが好ましい。
【0056】
式(2)におけるcは0≦c≦6を満たす。式(2)で表されるハライド系固体電解質がGを含む(0<c)ものであると、固体電解質11の還元側の電位窓が広くなり、還元されにくくなる。cは、Gを含むことによる還元側の電位窓が広くなる効果がより顕著となるため、0.5≦cであることが好ましい。cは、Gの含有量が多すぎることに起因する固体電解質のイオン伝導度の低下が生じないように、c≦3であることが好ましい。
【0057】
式(2)におけるXは、固体電解質11のイオン電導度を向上させる必須の成分である。式(2)におけるXは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種であり、正極活物質層1Bがコアシェル構造を有する粒子10を含むことによる効果が顕著となるため、Brおよび/またはClを含むことが好ましい。
【0058】
式(2)におけるdは、0<d≦6.1を満たす。dは1≦dであることが好ましい。dが1≦dであると、固体電解質11のイオン伝導度がより高くなる。また、dは、Xの含有量が多すぎることによって、固体電解質11の電位窓が狭くならないように、d≦5であることが好ましい。
【0059】
式(2)で表されるハライド系固体電解質は、具体的には例えば、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrCCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)、LiZrBOCl、LiZrBFCl、LiYSOCl、LiYCOCl、LiYBOCl、LiYBFClなどが挙げられる。これらのハライド系固体電解質の中でも、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrCCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)から選ばれるいずれかであることが好ましく、LiZrSOCl(LZSOC)であることが最も好ましい。ハライド系固体電解質が、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrCCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)から選ばれるいずれかであると、開回路状態で静置したときの副反応がより一層生じにくく、より一層自己放電特性に優れる全固体二次電池100を形成できる正極活物質層1Bとなる。
【0060】
本実施形態の正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、1種のみであってもよいし、組成の異なる2種以上の固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質11が組成の異なる2種以上の固体電解質を含む場合、全て式(2)で表されるハライド系固体電解質であってもよいし、式(2)で表されるハライド系固体電解質とともに、本願の効果が得られる範囲で、公知の全固体二次電池に用いられている固体電解質を含んでいてもよい。
本実施形態の正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、後述する固体電解質層3に含まれる固体電解質と同じものであってもよい。
【0061】
(導電助剤)
導電助剤12は、正極活物質層1B内の電子伝導性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。導電助剤12は、粉体、繊維の各形態であっても良い。導電助剤12としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素系材料、金、白金、銀、パラジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属、ITO(酸化インジウムスズ)などの伝導性酸化物、またはこれらの混合物などが挙げられる。これらの中でも導電助剤12は、正極活物質層1Bの物理的強度を向上させることができるため、カーボンナノチューブ等の炭素系材料であることが好ましい。
【0062】
正極活物質層1B中に導電助剤12が十分に含まれている場合、正極活物質層1B内の電子伝導性が良好になる。また、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行うことにより、コアシェル構造を有する粒子10を生成させる際に、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粒子状の材料の表面の少なくとも一部を導電助剤12が被覆して、固体電解質11から式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物中にハロゲン元素が拡散するのを妨げる。その結果、過剰なシェル部10bの生成が抑制され、コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合が適正となる。
【0063】
本実施形態において、正極活物質層1B中にコアシェル構造を有する粒子10が十分に含まれている場合、イオン(例えば、リチウムイオン)の放出及び吸蔵、イオンの脱離及び挿入を十分に行うことができる。
また、正極活物質層1B中に式(2)で表されるハライド系固体電解質からなる固体電解質11が十分に含まれている場合、正極活物質層1B内のイオン伝導度が良好になる。また、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行うことにより、コアシェル構造を有する粒子10を生成させる際に、固体電解質11から拡散するハロゲン元素量が十分多くなり、シェル部10bが十分に生成される。
【0064】
本実施形態の正極活物質層1Bは、コアシェル構造を有する粒子10と、固体電解質11と、必要に応じて含有していてもよい導電助剤12の他に、コアシェル構造を有する粒子10のシェル部10bに含まれるハロゲン元素と同じハロゲン元素を含む化合物を含んでいてもよい。ハロゲン元素を含む化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムなどが挙げられる。
【0065】
「負極層」
図1に示すように、負極層2は、負極集電体2Aと、負極活物質層2Bとを有する。負極活物質層2Bは、図1に示すように、負極集電体2Aの片面にのみ形成されていてもよいし、負極集電体2Aの両面に形成されていてもよい。
【0066】
(負極集電体)
負極集電体2Aは、正極集電体1Aと同様である。
(負極活物質層)
負極活物質層2Bは、負極活物質を含む。負極活物質層2Bは、導電助剤、固体電解質を含んでもよい。
【0067】
(負極活物質)
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物である。負極活物質は、正極活物質より卑な電位を示す化合物である。負極活物質としては、公知のものを用いることができ、正極活物質と同様の材料を用いてもよい。負極活物質の電位と正極活物質の電位とを考慮して、全固体二次電池100に用いる負極活物質及び正極活物質が決定される。
【0068】
(導電助剤)
導電助剤は、負極活物質層2Bの電子伝導性を良好にする。導電助剤としては、正極活物質層1Bに用いることができる材料と、同様の材料を用いることができる。
【0069】
(固体電解質)
負極活物質層2Bに含まれる固体電解質は、負極活物質層2B内のイオン伝導度を良好にする。固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが挙げられる。固体電解質として、上述した正極活物質層1Bに使用した固体電解質11と同様のものを用いてもよい。
【0070】
「固体電解質層」
固体電解質層3は、外部から印加された電場によって、イオンを移動させることができる。固体電解質層3を形成している固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが挙げられる。固体電解質層3は、正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11と同様に、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含むことが好ましく、LiZrSOClを含むことが好ましい。固体電解質層3が、LiZrSOClを含む場合、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行うことにより、固体電解質層3と正極活物質層1Bとなる層の界面において、固体電解質層3と正極活物質層1Bとなる層との反応が進行しやすいものとなるためである。
【0071】
(外装体)
本実施形態の全固体二次電池100では、正極層1と固体電解質層3と負極層2とを有する積層体4は、外装体(不図示)に収納され、密封されていることが好ましい。外装体は、外部から内部への水分などの侵入を抑止できるものであればよく、公知のものを用いることができ、特に限定されない。
例えば、外装体として、金属箔の両面を高分子フィルムでコーティングしてなる金属ラミネートフィルムを、袋状に形成したものを用いることができる。このような外装体は、開口部をヒートシールすることにより密閉される。
【0072】
金属ラミネートフィルムを形成している金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔などを用いることができる。外装体の外側に配置される高分子フィルムとしては、融点の高い高分子を用いることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドなどを用いることができる。外装体の内側に配置される高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0073】
[全固体二次電池の製造方法]
次に、本実施形態の全固体二次電池100の製造方法について説明する。
本実施形態では、コアシェル構造を有する粒子10として、正極活物質層1Bの固体電解質11に含まれるハロゲン元素と同じハロゲン元素を含むシェル部10bを備える粒子10を生成させる場合を例に挙げて説明する。
【0074】
本実施形態の全固体二次電池100は、例えば、粉末成形法を用いて製造できる。
まず、中央に貫通穴を有する樹脂ホルダーと、下パンチと、上パンチとを用意する。
また、正極活物質層1Bの材料である粉末状の正極合剤と、負極活物質層2Bの材料である粉末状の負極合剤と、固体電解質層3の材料である粉末状の固体電解質とをそれぞれ用意する。
【0075】
本実施形態では、正極合剤として、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む固体電解質の粉末と、必要に応じて含有される導電助剤の粉末との混合粉末を用意する。式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)の組成は、コア部10aの組成と対応する。式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む固体電解質の粉末の組成は、固体電解質11の組成と対応する。
【0076】
そして、樹脂ホルダーの貫通穴の下から下パンチを挿入し、樹脂ホルダーの開口側から粉末状の材料である、正極合剤と、固体電解質と、負極合剤とをこの順に投入する。次いで、投入した粉末状の材料の上に上パンチを挿入し、プレス機に載置してプレスする。プレスの圧力は、例えば20kPaとする。
樹脂ホルダーに投入した粉末状の材料は、樹脂ホルダー内で上パンチと下パンチとによってプレスされる。このことにより、正極活物質層1Bと固体電解質層3と負極活物質層2Bとが積層した成形体となる。
【0077】
次いで、公知の方法により、成形体の正極活物質層1Bの上に、正極集電体1Aを設置し、負極活物質層2Bの下に負極集電体2Aを設置する。上記手順を経て、正極集電体1A/正極活物質層1B/固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体2Aが順に積層された積層体4が得られる。
【0078】
次に、積層体4を形成している正極層1の正極集電体1Aおよび負極層2の負極集電体2Aに、それぞれ公知の方法により外部端子を溶接し、正極集電体1Aまたは負極集電体2Aと外部端子とを電気的に接続する。その後、外部端子と接続された積層体4を外装体に収納する。そして、外装体の開口部をヒートシールすることにより密封し、全固体二次電池構造とする。
【0079】
本実施形態では、このようにして形成した全固体二次電池構造に対して、60℃~85℃の高温で初回の充放電を行う。初回の充放電における温度が60℃以上であると、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む固体電解質の粉末との界面で、リチウム遷移金属酸化物から離脱した酸素と、ハライド系固体電解質から拡散したハロゲン元素とが反応する。このことにより、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10が生成する。
【0080】
初回の充放電における温度が60℃以下であると、コアシェル構造を有する粒子10が生成されない。初回の充放電における温度は、60℃以上であり、70℃以上であることが好ましく、充放電に要する時間などに応じて適宜決定できる。また、初回の充放電における温度が85℃以下であると、リチウム遷移金属酸化物から離脱した酸素と、ハライド系固体電解質から拡散したハロゲン元素とが過剰に反応することがなく、コア部10aの結晶構造が安定な粒子10が得られる。
初回の充放電における充電時の温度と、放電時の温度との温度差は25℃以下であることが好ましい。
【0081】
なお、従来、全固体二次電池構造に対する充放電は、常温(20℃~30℃の範囲)で行われている。したがって、従来の製造方法では、全固体二次電池構造を加熱する操作は行われていなかった。また、初回の充放電を行うために、全固体二次電池構造を加熱する必要がないため、恒温槽などの全固体二次電池構造を加熱する装置は不要であった。なお、従来、全固体二次電池構造の充放電を行うことによって、全固体二次電池構造が発熱することがあった。しかし、全固体二次電池構造が発熱しても、初回の充放電時の全固体二次電池構造全体が60℃を超える温度となることはなかった。
【0082】
全固体二次電池構造に対する初回の充放電における電流電圧などの温度以外の条件は、公知の条件とすることができ、コアシェル構造を有する粒子10が生成する範囲内で、製造する全固体二次電池100の用途などに応じて適宜決定できる。
全固体二次電池構造に対する初回の充放電としては、具体的には、以下に示す方法を用いることができる。
全固体二次電池構造を60℃~85℃の恒温槽内に静置し、0.01C~2.00Cで電池電圧が2.75V~2.85Vになるまで定電流充電を行う。次いで、その電池電圧で定電圧充電を0.5時間~8.0時間行う。その後、0.05Cにて電池電圧が1.3Vになるまで定電流放電を行う。
【0083】
初回充電における定電流充電条件を変化させると、コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合が変化する。具体的には、初回充電における定電流充電条件が0.02C以上であると、上記のシェル部10bの面積の割合が40%以下である粒子10が生成されやすくなり、0.04C以上であると、上記のシェル部10bの面積の割合が30%以下である粒子10が生成されやすくなる。初回充電における定電流充電条件が2.00C以下であると、上記のシェル部10bの面積の割合が1%以上である粒子10が生成されやすくなり、0.50C以下であると、上記のシェル部10bの面積の割合が15%以上である粒子10が生成されやすくなる。
【0084】
また、初回充電における上限の電池電圧を高くすると、コアシェル構造を有する粒子10におけるシェル部10bと固体電解質11との界面14と、シェル部10bとコア部10aとの界面13とにおけるハロゲン元素の含有量の比が小さくなる傾向がある。初回充電における上限の電池電圧を低くすると、上記のハロゲン元素の含有量の比が大きくなる傾向がある。初回充電における上限の電池電圧が、2.75V~2.84Vの範囲内であると、上記のハロゲン元素の含有量の比が0.6以上1.0未満である粒子10が生成されやすくなり、2.80V~2.84Vの範囲内であると、上記のハロゲン元素の含有量の比が0.6以上0.9以下である粒子10が生成されやすくなる。
【0085】
初回充電における定電圧充電時間を長くすると、シェル部10bの平均厚みが厚くなり、上記の定電圧充電時間を短くすると、シェル部10bの平均厚みが薄くなる。初回充電における定電圧充電時間が1.0時間以上であると、シェル部10bの平均厚みが0.1μm以上である粒子10が生成しやすくなり、3.0時間以上であると、シェル部10bの平均厚みが0.3μm以上である粒子10が生成しやすくなる。初回充電における定電圧充電時間が7.0時間以下であると、シェル部10bの平均厚みが1.0μm以下である粒子10が生成しやすくなり、6.0時間以下であると、シェル部10bの平均厚みが0.8μm以下である粒子10が生成しやすくなる。
【0086】
全固体二次電池構造に対して、上記のように高温で初回の充放電を行うと、正極活物質層1Bとなる層中で、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物と式(2)で表されるハライド系固体電解質とが反応する。そして、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粒子の表面の少なくとも一部に沿って、酸素とハロゲン元素とを含む化合物が生成し、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10が生成する。
以上の工程を経ることによって、全固体二次電池100を製造できる。
【0087】
次に、コアシェル構造を有する粒子10として、正極活物質層1Bの固体電解質11に含まれるハロゲン元素と異なるハロゲン元素を含むシェル部10bを備える粒子10を生成させる場合を例に挙げて説明する。
この場合、正極合剤として、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む固体電解質の粉末と、シェル部10bに含有させたいハロゲン元素を含む化合物の粉末と、必要に応じて含有される導電助剤の粉末との混合粉末を用いること以外は、上述した製造方法と同様にして全固体二次電池100を製造できる。
【0088】
上記の正極合剤は、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と、シェル部10bに含有させたいハロゲン元素を含む化合物とを混合して混合物とし、得られた混合物に対して、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む固体電解質の粉末と、必要に応じて含有される導電助剤の粉末とを混合する方法により製造することが好ましい。このような方法により製造した正極合剤では、リチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と、シェル部10bに含有させたいハロゲン元素を含む化合物との接触面積が、上記のリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と、上記の固体電解質との接触面積と比較して、十分に大きくなるためである。その結果、この正極合剤を用いて製造した全固体二次電池構造に対して、上記のように高温で初回の充放電を行った場合、上記のリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と上記のハロゲン元素を含む化合物との反応が、上記のリチウム遷移金属酸化物からなる粉末(粒子)と上記の固体電解質との反応よりも優先される。
【0089】
正極合剤に含有させるシェル部10bに含有させたいハロゲン元素を含む化合物としては、上述したシェル部10bに含まれるハロゲン元素と同じハロゲン元素を含む化合物を用いることができる。
【0090】
上記の正極合剤を用いて製造した全固体二次電池構造に対して、上記のように高温で初回の充放電を行うと、正極活物質層1Bとなる層中で、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物とシェル部10bに含有させたいハロゲン元素を含む化合物とが、優先的に反応する。そして、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる粒子の表面の少なくとも一部に沿って、酸素とハロゲン元素とを含む化合物が生成し、コア部10aとシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10が生成する。
以上の工程を経ることによって、全固体二次電池100を製造できる。
【0091】
本実施形態の正極活物質層1Bは、正極活物質と、固体電解質11とを含み、正極活物質は、式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなるコア部10aと、酸素と、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン元素とを含む化合物からなり、コア部10aの表面の少なくとも一部を覆うシェル部10bとを備えるコアシェル構造を有する粒子10を含み、固体電解質11は、式(2)で表されるハライド系固体電解質を含む。したがって、コアシェル構造を有する粒子10のコア部10aと固体電解質11との間の一部には、シェル部10bが配置されている。シェル部10bを形成している酸素とハロゲン元素とを含む化合物は、電気化学的に安定である。このことから、本実施形態の正極活物質層1Bを備える正極層1を有する全固体二次電池100では、シェル部10bによってコア部10aと固体電解質11との反応が抑制され、開回路状態で静置したときの副反応が生じにくく、自己放電特性に優れる。
【0092】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0093】
「実施例1」
(正極合剤の作製)
正極合剤として、表1に示すコア部となるリチウム遷移金属酸化物の粉末(粒子)と、表1に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを用意し、それぞれ50質量%:40質量%:10質量%(リチウム遷移金属酸化物:固体電解質:導電助剤)となるように秤量し、混合した。
【0094】
(負極合剤の作製)
負極合剤として、負極活物質であるチタン酸リチウムの粉末と、表1に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを用意し、それぞれ40質量%:50質量%:10質量%(負極活物質:固体電解質:導電助剤)となるように秤量し、混合した。
【0095】
(成形体の作製)
中央に直径12mmの貫通穴を有する樹脂ホルダーと、SKD11材製の直径11.99mmの下パンチおよび上パンチを用意した。樹脂ホルダーの貫通穴の下から下パンチを挿入し、樹脂ホルダーの開口側から粉末状の材料である、正極合剤と、固体電解質であるLiZrSOCl(LZSOC)と、負極合剤とをこの順に投入した。
【0096】
次いで、投入した粉末状の材料の上に上パンチを挿入し、上パンチと粉末状の材料を収容する樹脂ホルダーと下パンチとを有するユニットを、プレス機に静置し、圧力20kPaでプレスし、成形体を作製した。
次いで、正極活物質の上に、アルミニウム箔からなる直径12mm、厚さ15μmの正極集電体を設置した。また、負極活物質層の下に、銅箔からなる直径12mm、厚さ9μmの負極集電体を設置した。上記手順を経て、正極集電体1A/正極活物質層1B/固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体2Aが順に積層された積層体4を得た。
【0097】
次に、積層体4を形成している正極層1の正極集電体1Aおよび負極層2の負極集電体2Aに、それぞれ公知の方法により外部端子を溶接し、正極集電体1Aまたは負極集電体2Aと外部端子とを電気的に接続した。その後、外部端子と接続された積層体4を、アルミニウムラミネート材からなる外装体に収納した。そして、外装体の開口部をヒートシールすることにより密封し、全固体二次電池構造とした。
【0098】
次に、このようにして形成した全固体二次電池構造に対して、以下に示す方法により、初回の充放電を行った。
全固体二次電池構造を、60℃の恒温槽内に静置し、充放電機SD8(北斗電工株式会社製)を用いて、0.05Cで電池電圧が2.80Vになるまで定電流充電を行った。次いで、電池電圧2.8Vの定電圧充電を6.0時間行った。初回充電時の条件を表2に示す。その後、0.05Cにて電池電圧が1.3Vになるまで定電流放電を行った。
以上の工程を経ることによって、実施例1の全固体二次電池100を得た。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
表1に示すリチウム遷移金属酸化物は、以下に示すものである。
(LCO);LiCoO
(NCM);LiNi1/3Mn1/3Co1/3
(NCA);LiNi0.85Co0.10Al0.05
【0102】
表1に示す固体電解質は、以下に示すものである。
(LZSOC);LiZrSOCl
(LZOC);LiZrCCl
(LZC);LiZrCl
(LZBr);LiZrBr
(LGPS);Li10GeP12
【0103】
「実施例2~実施例4」
初回充電時の上限の電池電圧を、表2に示すように、実施例2は2.84V、実施例3は2.85V、実施例4は2.79Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例4の全固体二次電池100を得た。
【0104】
「実施例5、実施例6」
表1に示す固体電解質を用いて正極合剤を作製したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5、実施例6の全固体二次電池100を得た。
【0105】
「実施例7」
表1に示すコア部となるリチウム遷移金属酸化物の粉末(粒子)と、塩化ナトリウムとを混合して混合物とし、得られた混合物に対して、表1に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを混合する方法により正極合剤を作製したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例7の全固体二次電池100を得た。正極合剤中の各成分の割合は、50質量%:40質量%:10質量%(リチウム遷移金属酸化物:固体電解質:導電助剤)とし、塩化ナトリウムの割合をリチウム遷移金属酸化物と固体電解質と導電助剤との合計100質量部に対して2質量部とした。
【0106】
「実施例8」
表1に示すコア部となるリチウム遷移金属酸化物の粉末(粒子)と、臭化ナトリウムとを混合して混合物とし、得られた混合物に対して、表1に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを混合する方法により正極合剤を作製したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例8の全固体二次電池100を得た。正極合剤中の各成分の割合は、50質量%:40質量%:10質量%(リチウム遷移金属酸化物:固体電解質:導電助剤)とし、臭化ナトリウムの割合をリチウム遷移金属酸化物と固体電解質と導電助剤との合計100質量部に対して2質量部とした。
【0107】
「実施例9~実施例13」
初回充電時の定電流充電条件を、表2に示すように、実施例9は1.00C、実施例10は0.80C、実施例11は0.10C、実施例12は0.02C、実施例13は0.01Cとしたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9~実施例13の全固体二次電池100を得た。
【0108】
「実施例14~実施例18」
初回充電時の定電圧充電時間を、表2に示すように、実施例14は0.5時間、実施例15は1.0時間、実施例16は4.0時間、実施例17は7.0時間、実施例18は8.0時間としたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例14~実施例18の全固体二次電池100を得た。
【0109】
「実施例19」
初回充電時の定電流充電条件を、表2に示すように、2.00Cとし、初回充電時の定電圧充電時間を0.3時間としたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例19の全固体二次電池100を得た。
【0110】
「実施例20」
表1に示す固体電解質を用いて正極合剤を作製したこと以外は、実施例8と同様にして、実施例20の全固体二次電池100を得た。
「実施例21、実施例22」
表1に示すリチウム遷移金属酸化物を用いて正極合剤を作製したこと以外は、実施例8と同様にして、実施例21、実施例22の全固体二次電池100を得た。
【0111】
「比較例1」
初回充電時における温度を、表1に示すように、20℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の全固体二次電池100を得た。
「比較例2」
表1に示す固体電解質を用いて正極合剤を作製したこと以外は、実施例7と同様にして、比較例2の全固体二次電池100を得た。
【0112】
このようにして得られた実施例1~実施例22、比較例1、比較例2の全固体二次電池について、それぞれ以下に示す方法により、「コア部の平均粒径」と、コアシェル構造を有する粒子のシェル部に含まれる「ハロゲン元素」と、「シェル部の平均厚み」と、コアシェル構造を有する粒子の断面積に占めるシェル部の「面積の割合」と、「シェル部と固体電解質との界面と、シェル部とコア部との界面とにおけるハロゲン元素の含有量の比(コア部との界面/固体電解質との界面)」と、「自己放電特性(自己放電)」とを測定した。その結果を表1に示す。
【0113】
「コア部の平均粒径」
正極活物質層1Bの切断面を、走査電子顕微鏡(SEM)(商品名;SU3800;日立ハイテク社製)を用いて倍率30k倍で観察した。得られた像を、画像解析ソフト(imageJ)を用いて8bit(256階調)の白黒像とし、コアシェル構造を有する粒子10の256諧調のグレースケールの画像を得た。得られた画像のコアシェル構造を有する粒子10について、色の薄い領域(白っぽい領域(グレースケールの平均明度193~207))をコア部10aとし、色の濃い領域(黒っぽい領域(グレースケールの平均明度174~187))をシェル部10bとした。視野中の縦100μm、横100μmの正方形の測定範囲に含まれる全てのコアシェル構造を有する粒子10について、コア部10aの直径を測定し、その平均値をコア部10aの平均粒径とした。
【0114】
「コアシェル構造を有する粒子のシェル部に含まれるハロゲン元素」
正極活物質層1Bの切断面における任意のコアシェル構造を有する粒子10について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)エネルギー分散型X線分光(EDS)装置(商品名;HD-2700;日立ハイテク社製)を用いて、ハロゲン元素のマッピング分析(縦3μm、横3μmの正方形の測定範囲、測定間隔0.1μm)を行った。このことにより、コアシェル構造を有する粒子10のシェル部10bにおけるハロゲン元素を同定した。
【0115】
「シェル部の平均厚み」
正極活物質層1Bの切断面を、走査電子顕微鏡(SEM)(商品名;SU3800;日立ハイテク社製)を用いて倍率30k倍で観察した。得られた像を、画像解析ソフト(imageJ)を用いて8bit(256階調)の白黒像とし、コアシェル構造を有する粒子10の256諧調のグレースケールの画像を得た。得られた画像のコアシェル構造を有する粒子10について、色の薄い領域(白っぽい領域(グレースケールの平均明度193~207))をコア部10aとし、色の濃い領域(黒っぽい領域(グレースケールの平均明度174~187))をシェル部10bとした。視野中の任意の1つのコアシェル構造を有する粒子10について、粒子10の直径方向に沿うシェル部10bの厚みを任意の5カ所測定し、その平均値をシェル部10bの平均厚みとした。
【0116】
「コアシェル構造を有する粒子の断面積に占めるシェル部の面積の割合」
シェル部10bの平均厚みを測定した場合と同様にして、コアシェル構造を有する粒子10の256諧調のグレースケールの画像を得た。得られた画像のコアシェル構造を有する粒子10について、シェル部10bの平均厚みを測定した場合と同様にして、色の薄い領域をコア部10aとし、色の濃い領域をシェル部10bとした。そして、視野内の任意の5つのコアシェル構造を有する粒子10について、それぞれコア部10aの面積とシェル部10bの面積を求めた。得られた値を用いて、5つのコアシェル構造を有する粒子10について、それぞれコアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの割合({シェル部10bの面積/(コア部10aの面積+シェル部10bの面積)}×100(%))を算出し、その平均値を、コアシェル構造を有する粒子10の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合とした。
【0117】
「シェル部と固体電解質との界面と、シェル部とコア部との界面とにおけるハロゲン元素の含有量の比(コア部との界面/固体電解質との界面)」
正極活物質層1Bの切断面における任意の5つのコアシェル構造を有する粒子10について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)エネルギー分散型X線分光(EDS)装置(商品名;HD-2700;日立ハイテク社製)を用いて、ハロゲン元素のマッピング分析(縦3μm、横3μmの正方形の測定範囲、測定間隔0.1μm)を行った。そして、視野内の任意の5つのコアシェル構造を有する粒子10それぞれについて、粒子10の直径方向に沿う最も厚みの厚いシェル部10bにおけるコア部10aとの界面に最も近接する測定値、および固体電解質11との界面に最も近接する測定値を用いて、ハロゲン元素の含有量の比(シェル部10bとコア部10aとの界面/シェル部10bと固体電解質11との界面)を算出し、その平均値を算出した。
【0118】
「自己放電特性(自己放電)」
全固体二次電池について、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて、充電レート1.0C(25℃で定電流充電を行ったときに1時間で充電終了となる電流値)の定電流充電で電池電圧が2.8Vとなるまで充電を行った。充電完了後、室温で24時間放置した後の電圧をV1とし、その後、40℃環境下にて5日間放置後の電圧をV2とした。得られたV1およびV2の値を用いて、以下の式(I)を用いて自己放電を求めた。
自己放電(mV/day)=V1-V2 (I)
【0119】
表1に示すように、実施例1~実施例22の全固体二次電池は、比較例1、比較例2の全固体二次電池と比較して、自己放電の抑制されたものであった。
特に、界面におけるハロゲン元素の含有量の比が0.6以上1.0未満である実施例1および実施例2の全固体二次電池は、界面におけるハロゲン元素の含有量の比が0.5である実施例3、界面におけるハロゲン元素の含有量の比が1.0である実施例4~22と比較して、自己放電が非常に抑制されたものであった。
【0120】
また、シェル部10bに含まれるハロゲン元素がClである実施例4は、シェル部10bに含まれるハロゲン元素がBrである実施例8と比較して、自己放電が非常に抑制されたものであった。
また、シェル部10bのハロゲン元素が、正極活物質層1Bの固体電解質11に含まれるハロゲン元素と同じである実施例6は、正極活物質層1Bの固体電解質11に含まれるハロゲン元素と異なる実施例7と比較して、自己放電が非常に抑制されたものであった。
【0121】
また、コアシェル構造を有する粒子の断面積に占めるシェル部10bの面積の割合が1%~40%である実施例10~12では、シェル部10bの面積の割合が1%未満である実施例9および40%超である実施例13と比較して、自己放電が抑制されたものであった。
また、シェル部10bの厚みが0.1μm~1.0μmである実施例15~17では、シェル部10bの厚みが0.1μm未満である実施例14、シェル部10bの厚みが1.0μm超である実施例18と比較して、自己放電が抑制されたものであった。
【符号の説明】
【0122】
1…正極層、1A…正極集電体、1B…正極活物質層、2…負極層、2A…負極集電体、2B…負極活物質層、3…固体電解質層、4…積層体、10…コアシェル構造を有する粒子、10a…コア部、10b…シェル部、11…固体電解質、12…導電助剤、100…全固体二次電池。
図1
図2