(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089947
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】導電性複合体の製造方法、及びキャパシタの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20240627BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20240627BHJP
C08F 12/22 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08G61/12
C08F4/04
C08F12/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205508
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(72)【発明者】
【氏名】和泉 忍
【テーマコード(参考)】
4J015
4J032
4J100
【Fターム(参考)】
4J015AA01
4J015AA06
4J032BA04
4J032BA05
4J032BB01
4J032BC02
4J032BC32
4J032CB07
4J032CE03
4J032CE18
4J032CG01
4J100AB07P
4J100BA56P
4J100CA01
4J100DA01
4J100FA19
4J100JA45
(57)【要約】
【課題】保存中の粘度上昇が低減され、硬化後の塗膜の導電性も良好な導電性高分子分散液の製造に適した導電性複合体の製造方法、及びキャパシタの製造方法を提供する。
【解決手段】重合性アニオンモノマー及び水を含む第一反応液に、水溶性アゾ重合開始剤を添加し、前記重合性アニオンモノマーが重合してなるポリアニオンを含む第二反応液を得る工程A、及び、前記第二反応液に、π共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーと、任意のラジカル重合開始剤を添加し、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンが複合体化した導電性複合体を含む第三反応液を得る工程B、を含む導電性複合体の製造方法であって、前記工程Bに供する前記第二反応液をGPCにて分析したとき、前記ポリアニオンのピーク面積Spと、前記重合性アニオンモノマーのピーク面積SmのSm/Spで表される比率が3.0%以下である導電性複合体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性アニオンモノマー及び水を含む第一反応液に、水溶性アゾ重合開始剤を添加し、
前記重合性アニオンモノマーが重合してなるポリアニオンを含む第二反応液を得る工程A、及び、
前記第二反応液に、π共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーと、任意のラジカル重合開始剤を添加し、前記π共役系導電性高分子を形成することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンが複合体化した導電性複合体を含む第三反応液を得る工程B、を含む導電性複合体の製造方法であって、
前記工程Bに供する前記第二反応液をゲル浸透クロマトグラフィーシステムにて分析したとき、
前記ポリアニオンの含有量に対応する検出信号強度のピーク面積Spと、前記重合性アニオンモノマーの含有量に対応する検出信号強度のピーク面積Smの、Sm/Spで表される比率が、3.0%以下である、導電性複合体の製造方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する前記水溶性アゾ重合開始剤の全量を予め水溶液とし、0.5時間以上かけて徐々に滴下する、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する前記水溶性アゾ重合開始剤の全量を一括で添加し、その後、重合反応が終了した前記第二反応液を得て、続いて前記第二反応液に含まれる未重合の前記重合性アニオンモノマーを陰イオン交換樹脂に接触させて除去し、精製した第二反応液を後段の前記工程Bに供する、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項4】
前記工程Aで用いる前記水溶性アゾ重合開始剤が2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]である、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項5】
前記工程Aで用いる前記水溶性アゾ重合開始剤が4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)又はその塩であり、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する前記水溶性アゾ重合開始剤の全量を一括で添加し、その後、重合反応が終了した前記第二反応液を得て、前記第二反応液を陰イオン交換樹脂に接触させて精製することなしに後段の前記工程Bに供する、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項6】
前記工程Aの前記第一反応液に添加する前記水溶性アゾ重合開始剤が塩を形成している、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項7】
前記工程Aで得た前記第二反応液に含まれる前記ポリアニオンの重量平均分子量が10万~40万である、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項8】
前記π共役系導電性高分子を形成する前記重合性モノマーが(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアニオンを形成する前記重合性アニオンモノマーがスチレンスルホン酸又はその塩である、請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の導電性複合体の製造方法によって導電性複合体を得る工程と、
前記導電性複合体を含む導電性高分子分散液を調製する工程と、
弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、前記導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程と、
を有する、キャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性複合体の製造方法、及びキャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。
導電性複合体を含有する導電性高分子分散液(導電性高分子含有液と呼ばれることもある)を材料とした塗料を弁金属からなる陽極表面に設けた誘電体層に塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成し、これに陰極を対向配置させることにより、キャパシタを製造する方法が開示されている(例えば特許文献1)。この開示によれば、塗料に特定の不飽和脂肪族アルコール化合物を含有させることにより、キャパシタ性能が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、キャパシタの製造に使用する上述の導電性高分子分散液及びこれを含む塗料には、誘電体層の多孔質構造に浸み込むために、粘度が適度に低いことが求められる。また、塗膜を乾燥して形成される固体電解質層には導電性が高いことが求められる。
従来の導電性複合体を含む導電性高分子分散液の粘度は、数週間保存すると初期値に比べて大きく上昇してしまい、必ずしも使い勝手がよいものではなかった。
【0005】
本発明は、保存中の粘度上昇が低減され、硬化後の塗膜の導電性も良好な導電性高分子分散液の製造に適した導電性複合体の製造方法、及びキャパシタの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 重合性アニオンモノマー及び水を含む第一反応液に、水溶性アゾ重合開始剤を添加し、前記重合性アニオンモノマーが重合してなるポリアニオンを含む第二反応液を得る工程A、及び、前記第二反応液に、π共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーと、任意のラジカル重合開始剤を添加し、前記π共役系導電性高分子を形成することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンが複合体化した導電性複合体を含む第三反応液を得る工程B、を含む導電性複合体の製造方法であって、前記工程Bに供する前記第二反応液をゲル浸透クロマトグラフィーシステムにて分析したとき、前記ポリアニオンの含有量に対応する検出信号強度のピーク面積Spと、前記重合性アニオンモノマーの含有量に対応する検出信号強度のピーク面積Smの、Sm/Spで表される比率が、3.0%以下である、導電性複合体の製造方法。
[2] 前記工程Aにおいて、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する前記水溶性アゾ重合開始剤の全量を予め水溶液とし、0.5時間以上かけて徐々に滴下する、[1]に記載の導電性複合体の製造方法。
[3] 前記工程Aにおいて、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する前記水溶性アゾ重合開始剤の全量を一括で添加し、その後、重合反応が終了した前記第二反応液を得て、続いて前記第二反応液に含まれる未重合の前記重合性アニオンモノマーを陰イオン交換樹脂に接触させて除去し、精製した第二反応液を後段の前記工程Bに供する、[1]に記載の導電性複合体の製造方法。
[4] 前記工程Aで用いる前記水溶性アゾ重合開始剤が2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性複合体の製造方法。
[5] 前記工程Aで用いる前記水溶性アゾ重合開始剤が4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)又はその塩であり、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する前記水溶性アゾ重合開始剤の全量を一括で添加し、その後、重合反応が終了した前記第二反応液を得て、前記第二反応液を陰イオン交換樹脂に接触させて精製することなしに後段の前記工程Bに供する、[1]に記載の導電性複合体の製造方法。
[6] 前記工程Aの前記第一反応液に添加する前記水溶性アゾ重合開始剤が塩を形成している、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性複合体の製造方法。
[7] 前記工程Aで得た前記第二反応液に含まれる前記ポリアニオンの重量平均分子量が10万~40万である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の導電性複合体の製造方法。
[8] 前記π共役系導電性高分子を形成する前記重合性モノマーが(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の導電性複合体の製造方法。
[9] 前記ポリアニオンを形成する前記重合性アニオンモノマーがスチレンスルホン酸又はその塩である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の導電性複合体の製造方法。
[10] [1]~[9]のいずれか一項に記載の導電性複合体の製造方法によって導電性複合体を得る工程と、前記導電性複合体を含む導電性高分子分散液を調製する工程と、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、前記導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程と、を有する、キャパシタの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性複合体の製造方法によれば、保存中の粘度上昇が低減され、硬化後の塗膜の導電性も良好な塗料の製造に適した導電性複合体を製造することができる。
本発明のキャパシタの製造方法にあっては、上記の優れた導電性複合体を製造し、これを含む導電性高分子分散液を用いてキャパシタを製造するので、導電性複合体の優れた導電性を反映した高性能のキャパシタを製造することができる。さらに、塗料の材料である導電性高分子分散液は塗布直前に調製されたものである必要はなく、数週間前に調製したものであっても粘度上昇が少ないので使用できる。これにより、キャパシタの製造効率が格段に高まる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のキャパシタの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪導電性複合体の製造方法≫
本発明の第一態様は次の工程A及び工程Bを有する導電性複合体の製造方法である。
工程Aは重合性アニオンモノマー及び水を含む第一反応液に、水溶性アゾ重合開始剤を添加し、前記重合性アニオンモノマーが重合してなるポリアニオンを含む第二反応液を得る工程である。
工程Bは前記第二反応液に、π共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーと、任意のラジカル重合開始剤を添加し、前記π共役系導電性高分子を形成することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンが複合体化した導電性複合体を含む第三反応液を得る工程である。以下、各工程を詳細に説明する。
【0012】
<工程A>
(重合性アニオンモノマー)
重合性アニオンモノマーは、重合するとポリアニオンを形成する有機化合物であり、1分子中に少なくとも1つのアニオン基を有する。アニオン基は水中で電離し得る官能基であり、ナトリウムやカリウム等のカチオンと塩を形成していてもよい。
本工程で用いる重合性アニオンモノマーは、次に例示するポリアニオンを形成し得る公知のモノマーから選択される1種以上であることが好ましい。なかでも、π共役系導電性高分子のドーパントとして特に優れているポリスチレンスルホン酸を形成可能な、スチレンスルホン酸又はその塩が最も好ましい。
【0013】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
【0014】
(水溶性アゾ重合開始剤)
本工程で用いる水溶性アゾ重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(通称:V-501)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](通称:VA-046B)、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等が挙げられる。
【0015】
水溶性アゾ重合開始剤は、塩酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩等の塩を形成していてもよく、水和物であってもよい。塩や水和物であると、水溶性が高まるので好ましい。例えば、VA-046Bは硫酸、酢酸、塩酸、硝酸等のアニオンと塩を形成し得る。また、V-501はNaイオン、Kイオン、アンモニウム等のカチオンと塩を形成しうる。
第一反応液に添加する前の水溶性アゾ重合開始剤に酸成分又はアルカリ成分を反応させて、事前に塩を形成しておいてもよい。
第一反応液に添加する水溶性アゾ重合開始剤の水100gに対する溶解性は、1g以上が好ましく、5g以上がより好ましく、10g以上がさらに好ましい。
【0016】
(反応液の調製)
本工程の第一反応液は重合性アニオンモノマー及び水を含む。重合性アニオンモノマーは1種でもよいし、2種以上でもよい。
第一反応液の総質量に含まれる重合性アニオンモノマーの含有量は、例えば1.0~10.0質量%が好ましく、2.0~8.0質量%がより好ましく、3.0~6.0質量%がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、1回の反応当たりの収量が増加し、製造効率が高まる。
上記範囲の上限値以下であると、未重合の重合性アニオンモノマーが反応終了時に残存する量を低減できる。
第一反応液に2種以上の重合性アニオンモノマーを配合する場合、その配合量の合計は上記範囲である。
【0017】
第一反応液に水溶性アゾ重合開始剤を添加する方法として2通りを例示する。第一の方法は、反応完了に要する全量を複数回に分けて、所望の時間をかけて徐々に、逐次的に、添加する方法(逐次添加法)である。第二の方法は、反応完了に要する全量を一括して添加する方法(一括添加法)である。
【0018】
第一反応液における重合反応の完了に要する水溶性アゾ重合開始の全量は、例えば第一反応液に含まれる重合性アニオンモノマーの100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、3~25質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましく、7~12質量部が特に好ましい。
上記範囲であれば、重合性アニオンモノマーのほとんど全てを重合させてポリアニオンを形成する目的において、理論的又は経験的には充分である。
【0019】
第一反応液に添加する水溶性アゾ重合開始剤の配合量は、水溶性アゾ重合開始剤の全量を配合し終えた反応液の総質量に対して、例えば0.05~1.00質量%が好ましく、0.10~0.80質量%がより好ましく、0.20~0.70質量%がさらに好ましく、0.30~0.60質量%が特に好ましい。
上記範囲であれば、重合性アニオンモノマーの殆ど全てを重合させ、目的のポリアニオンを形成する目的において、理論的又は経験的には充分である。
【0020】
工程Aにおいて、重合反応が終了した第二反応液を得るまでに添加する水溶性アゾ重合開始剤の全量を予め水溶液とし、0.5時間以上かけて徐々に滴下することが好ましい。
滴下にかける時間は0.5~8時間が好ましく、1~6時間がより好ましく、2~4時間がさらに好ましい。
上記の逐次添加法であると、成長中の重合鎖が他のラジカル種と反応して重合反応が停止することが起こりにくく、重合性アニオンモノマーが消費されやすい。つまり、反応液中のラジカル種の発生量を抑制でき、水溶性アゾ重合開始剤が全て消費されて分解したとき(重合反応が終了したとき)に残存する未重合の重合性アニオンモノマーの量を低減することができる。
【0021】
工程Aにおいて、重合反応が終了した前記第二反応液を得るまでに添加する水溶性アゾ重合開始剤の全量を一括で添加し、その後、重合反応が終了した第二反応液を得て、続いて前記第二反応液に含まれる未重合の前記重合性アニオンモノマーを陰イオン交換樹脂に接触させて除去し、精製した第二反応液を後段の工程Bに供することが好ましい。
上記の一括添加法であると、重合反応が終了した第二反応液に未重合の重合性アニオンモノマーが無視できないほどに残存することがある。そこで、第二反応液を後段の工程Bに供する前に、第二反応液に含まれる未重合の重合性アニオンモノマーの少なくとも一部を除去する精製を行うことが好ましい。
【0022】
重合性アニオンモノマーを第二反応液から除去して精製する方法としては、例えば限外ろ過法や陰イオン交換樹脂吸着法が挙げられる。
限外ろ過法では低分子量の重合性アニオンモノマーが限外ろ過膜を透過する一方、ポリアニオンは透過しないので両者を分離できる。
陰イオン交換樹脂吸着法では低分子量の重合性アニオンモノマーが優先的に結合し易い陰イオン交換樹脂を使用すれば、モノマーは吸着する一方、ポリアニオンはほとんど吸着しないので、両者を分離できる。このような陰イオン交換樹脂としては、例えば住化ケムテックス社製のデュオライトC255LFHが挙げられる。
【0023】
工程Aで用いる水溶性アゾ重合開始剤が2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](通称:VA-046B)である場合、その添加方法は逐次添加法、一括添加法の何れであってもよいが、逐次添加法であると未重合の重合性アニオンモノマーの上記精製が不要であるため好ましい。
【0024】
工程Aにおける水溶性アゾ重合開始剤の添加方法が一括添加法である場合、水溶性アゾ重合開始剤は4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(通称:V-501)であると、未重合の重合性アニオンモノマーが残存し難く、上記精製が不要であるため好ましい。
【0025】
工程Aにおけるポリアニオンの重合反応の終了は、第一反応液に添加した水溶性アゾ重合開始剤が全て消費され、ラジカル種が全て消費されたことが目安となる。
例えば、70~95℃で攪拌しながら反応させた場合、4~12時間程度で反応が終了し得る。
【0026】
工程Aの反応終了後に得られる第二反応液に含まれるポリアニオンの重量平均分子量(質量平均分子量)Mwは、2万~100万が好ましく、7万~70万以下がより好ましく、10万~40万がさらに好ましい。ここで、Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
上記範囲の下限値以上であると、π共役系導電性高分子のドーパントとしての機能が高まり、導電性複合体の導電性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体を含む導電性高分子分散液の粘度が過度に高くならず、塗布に適した塗料になり易い。
【0027】
<工程B>
本工程の材料として用いる第二反応液には、未重合の重合性アニオンモノマーが実質的に含まれないことが好ましい。もしも未重合の重合性アニオンモノマーの存在下でπ共役系導電性高分子を合成すると、導電性が劣る導電性複合体が形成されてしまうからである。この原因の詳細なメカニズムは未解明であるが、副反応が生じてしまうことが一因と考えられる。
【0028】
第二反応液に含まれる未重合の重合性アニオンモノマーの量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システムにて分析することができる。第二反応液の一部を試料としてGPCにかけると、ポリアニオンと未重合モノマーが分離して、異なる又はずれた保持時間でカラムから溶出される。各保持時間で溶出される溶液に含まれる化合物の量は、検出器の検出信号強度として観測される。ここで使用する検出器としては、示差屈折率検出器(RI検出器)、紫外線検出器、光散乱検出器、蒸発光散乱検出器、粘度検出器、電気伝導度検出器、等が挙げられる。信頼性が高く、装置構成が簡便で済むことから示差屈折率検出器が好ましい。横軸に保持時間をとり、縦軸に検出信号強度をとったチャートを作成することがGPCシステム分析において一般的である。このチャートには、ポリアニオンの検出信号強度のピークと、これと区別可能な残存した未重合モノマーの検出信号強度のピークが観測される。
【0029】
第二反応液中のポリアニオンの含有量に対応する検出信号強度のピーク面積Spと、重合性アニオンモノマーの含有量に対応する検出信号強度のピーク面積Smの、Sm/Spで表される比率は、3.0%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、検出限界以下である0%が最も好ましい。
【0030】
工程Bにおいて、上記のように未重合の重合性アニオンモノマーの含有量が少ない第二反応液を材料とすること以外は、公知方法により、導電性複合体を含む第三反応液を得ることができる。
すなわち、第二反応液にπ共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーと、任意のラジカル重合開始剤を添加し、前記π共役系導電性高分子を形成することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンが複合体化した導電性複合体を含む第三反応液を得ることができる。
【0031】
π共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーは、次に例示するπ共役系導電性高分子を形成し得る公知のモノマーから選択される1種以上であることが好ましい。なかでも、導電性、耐熱性に優れるPEDOTを形成可能な、3,4-エチレンジオキシチオフェンが最も好ましい。
【0032】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0033】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
工程Bで形成するπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0034】
(ラジカル重合開始剤)
工程Bで用いるラジカル重合開始剤は公知のものから任意に選択され、過酸化水素、t-ブチルヒドロパーオキシド等の過酸化物;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;上述の水溶性アゾ重合開始剤;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アスコルビン酸と過酸化水素、スルホキシル酸ナトリウムとt-ブチルヒドロパーオキシド、過硫酸塩と金属塩等の、酸化剤と還元剤とを組み合わせてラジカルを発生させる酸化還元型開始剤等が挙げられる。
酸化還元型開始剤の金属塩(触媒)としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化還元型開始剤の酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
【0035】
(反応液の調製)
本工程の第二反応液の総質量に対するポリアニオンの含有量は、例えば1~10質量%とすることができる。
本工程の第二反応液に含まれる、π共役系導電性高分子を形成する重合性モノマーとポリアニオンとの割合は、重合性モノマー100質量部に対して、ポリアニオンが1~1000質量部が好ましく、10~700質量部がより好ましく、100~500質量部がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、ポリアニオンのドーピング効果が高まり、導電性が優れた導電性複合体が得られ易い。
上記範囲の上限値以下であると、複合化した導電性複合体にπ共役系導電性高分子が充分に含まれ、導電性が優れた導電性複合体が得られ易い。
【0036】
工程Bの第二反応液にラジカル重合開始剤を添加する方法は特に制限されず、逐次法であってもよいし、一括添加法であってもよい。
工程Bの第二反応液に対するラジカル重合開始剤の添加量は、従来のπ共役系導電性高分子の合成と同様でよく、例えば、反応液の総質量に対して、0.01~2.0質量%が挙げられる。
【0037】
工程Bにおけるπ共役系導電性高分子の重合反応の終了は、第二反応液に添加したラジカル重合開始剤が全て消費され、ラジカル種が全て消費されたことが目安となる。
例えば、15~30℃で攪拌しながら反応させた場合、6~30時間程度で反応が終了し得る。
【0038】
ラジカル重合により形成されたπ共役系導電性高分子に対してポリアニオンが自然にドープして、導電性複合体が形成された第三反応液が得られる。
導電性複合体中のポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
なお、本明細書において分散状態と溶解状態とは特に区別せず、導電性複合体が液性媒体に分散した状態は溶解した状態と言い換えてもよい。
【0039】
工程Bで得た第三反応液は水と導電性複合体とを含む。ラジカル重合開始剤の残渣や触媒等は、必要に応じて、限外ろ過法、イオン交換樹脂吸着法、ゲル浸透クロマトグラフィー等の常法により除去し、精製した第三反応液を得てもよい。
【0040】
≪キャパシタの製造方法≫
本発明の第二態様は、第一態様の製造方法で得た導電性複合体を材料として、キャパシタを製造する方法である。
本態様の製造方法は、第一態様の製造方法によって導電性複合体を得る工程と、前記導電性複合体を含む導電性高分子分散液を調製する工程と、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、前記導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程と、を有することが好ましい。
【0041】
本態様の製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程(誘電体形成工程)と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程(陰極形成工程)と、前記誘電体層の表面の少なくとも一部に固体電解質層を形成する工程(成膜工程)と、を含むことが好ましい。以下、
図1を参照して各工程を説明する。
【0042】
[誘電体形成工程]
本工程では、弁金属の多孔質体からなる陽極11の表面を酸化して誘電体層12を形成する。誘電体層12を形成する方法は、特に制限されず、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液などの化成処理用電解液中にて、陽極11の表面を陽極酸化する方法が挙げられる。
【0043】
[陰極形成工程]
本工程では、誘電体層12に対向する位置に陰極13を配置する。陰極13の配置方法は、特に制限されず、例えば、カーボンペースト、銀ペースト等の導電性ペーストを用いて陰極13を形成する方法、アルミニウム箔等の金属箔を誘電体層12に対向配置させる方法などが挙げられる。
【0044】
[成膜工程]
本工程は、誘電体層12の表面の少なくとも一部に後述する導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させることにより、固体電解質層14を形成する。
【0045】
導電性高分子分散液の塗布方法としては、例えば、浸漬(ディップコーティング)、コンマコーティング、リバースコーティング、リップコーティング、マイクログラビアコーティング等を適用することができる。これらのうち、陽極11を減圧下で導電性高分子分散液中に浸漬する方法が好ましい。浸漬方法であると、誘電体層12の表面の多孔質構造の内部にまで導電性高分子分散液を充分に塗布することができる。浸漬後に取り出して次の乾燥処理に進む。
【0046】
乾燥方法としては、例えば室温乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等が挙げられる。これらの中でも熱風乾燥が好ましい。
乾燥温度としては、例えば100~180℃が好ましく、120~150℃がより好ましい。乾燥時間としては、例えば0.2~1時間が好ましい。
乾燥処理の後、常法によりキャパシタを組み立てればよい。
【0047】
<導電性高分子分散液>
本態様の成膜工程で用いる導電性高分子分散液は、第一態様の製造方法で得た導電性複合体と、前記導電性複合体を分散させる分散媒と、を含む。
【0048】
本態様の成膜工程で用いる導電性高分子分散液は、その調製後、保存して2週間以上経過したものであってもよい。第一態様の製造方法で得た導電性複合体を含むので、導電性高分子分散液の調製直後の粘度の値(初期値)に対する、2週間以上の保存後の粘度の値の上昇倍率が低減しているからである。
【0049】
前記導電性高分子分散液の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、例えば0.1~3.0質量%が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましく、0.8~2.0質量%がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、キャパシタ性能が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体の分散性が高まる。
【0050】
(分散媒)
前記導電性高分子分散液を構成する分散媒は、前記導電性複合体を分散させ得る液体であれば特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、又は、水と有機溶剤との混合液が挙げられる。導電性複合体はポリアニオンに由来する余剰のアニオン基を有し、水に対する分散性が高いので、水系分散媒が好ましい。ここで、水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水系分散媒に含まれる水溶性有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0051】
分散媒の総質量に対する水の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。
【0052】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0053】
前記導電性高分子分散液にポリオール化合物の1種以上を添加することが好ましい。固体電解質層にポリオール化合物を含有させることができ、これによりキャパシタ性能を向上させることができる。ここで、ポリオール化合物は、π共役系導電性高分子及びポリアニオン以外の化合物であって、2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物である。具体的なポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンから選択される1種以上が挙げられる。
【0054】
前記導電性高分子分散液に含まれるポリオール化合物の含有量は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部(つまり導電性複合体100質量部)に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタのESRがより低下し易くなるので好ましい。
【0055】
前記導電性高分子分散液は、任意の添加剤を含有してもよく、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部(つまり導電性複合体100質量部)に対して、例えば、1~1000質量部とすることができる。
ここで、任意の添加剤は、前記導電性複合体、前記ポリオール化合物、及び前記分散媒以外の化合物である。
【0056】
任意の添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【実施例0057】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造1;実施例1で使用
899mlのイオン交換水に55gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め40mlの水に溶解した6.0gの2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](通称:VA-046B)の水溶液を2時間かけて一定量で徐々に滴下し、さらにその溶液を4時間攪拌した。得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液を、陽イオン交換樹脂(住化ケムテックス社製、デュオライトC255LFH)に接触させ、ナトリウムイオンを除去した。得られたポリスチレンスルホン酸(PSS)水溶液の固形分(不揮発成分)は5質量%だった。
【0058】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、昭和電工株式会社製の既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として、上記で得たPSS水溶液を分析した。その結果、重量平均分子量(Mw)は675000であった。またGPC測定の際、示差屈折率検出器を用い、縦軸に示差屈折率の信号強度を示し、横軸に保持時間を示すチャートに現れる、PSSのピーク面積Spと未重合のスチレンスルホン酸モノマーのピーク面積Smを解析し、算出した比率(Sm/Sp)は0%であった。この比率値は未重合のモノマーが実質的に残存していないことを意味する。
【0059】
上記のGPCシステムによる測定は、株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ装置Prominenceを使用し、溶媒として0.1%NaNO3水溶液を使用し、カラムとしてShodex OHpack SB-806M HQを使用し、検出器として示差屈折率検出器RID-20Aを使用し、溶媒温度40℃に設定し、流速0.6ml/minに設定し、試料中のPSS濃度を0.1質量%に希釈して、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した試料100μlを注入し、解析ソフトウェアLab Solutions(島津製作所製)を使用して行った。
【0060】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸の製造2;実施例2で使用
スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の調製の際、926.5mlのイオン交換水に27.5gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解したこと以外は、製造例1と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは338000であり、比率(Sm/Sp)は0%であった。
【0061】
(製造例3)ポリスチレンスルホン酸の製造3;比較例1で使用
VA-046Bの水溶液を滴下せず、全量を一括投入して重合を開始させたこと以外は、製造例2と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは33000であり、比率(Sm/Sp)は3.3%であった。この比率値は未重合のモノマーが確実に残存していることを示している。
【0062】
(製造例4)ポリスチレンスルホン酸の製造4;比較例2で使用
スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の調製の際、930.5mlのイオン交換水に27.5gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解したことと、VA-046B水溶液の調製の際、溶解するVA-046Bを2.0gに変更したこと以外は、製造例3と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは73000であり、比率(Sm/Sp)は4.0%であった。
【0063】
(製造例5)ポリスチレンスルホン酸の製造5;比較例3で使用
スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の調製の際、931.0mlのイオン交換水に27.5gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解したことと、VA-046B水溶液の調製の際、溶解するVA-046Bを1.5gに変更したこと以外は、製造例3と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは105000であり、比率(Sm/Sp)は4.3%であった。
【0064】
(製造例6)ポリスチレンスルホン酸の製造6;比較例4で使用
スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の調製の際、931.5mlのイオン交換水に27.5gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解したことと、VA-046B水溶液の調製の際、溶解するVA-046Bを1.0gに変更したこと以外は、製造例3と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは134000であり、比率(Sm/Sp)は7.5%であった。
【0065】
(製造例7)ポリスチレンスルホン酸の製造7;実施例3で使用
スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の調製の際、929.5mlのイオン交換水に27.5gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解したことと、VA-046Bに代えて4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(通称:V-501)を3.0g溶解した水溶液を用いたこと以外は、製造例3と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは218000であり、比率(Sm/Sp)は0%であった。
この結果から、V-501を用いると、反応液に全量の開始剤を一括で添加しても、未重合モノマーが生じ難いことが分かった。
【0066】
(製造例8)ポリスチレンスルホン酸の製造8;実施例4で使用
反応液の温度を90℃に変更したこと以外は、製造例7と同様に行った。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.6質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは134000であり、比率(Sm/Sp)は0%であった。
【0067】
(製造例9)ポリスチレンスルホン酸の製造9;比較例5で使用
820mlのイオン交換水に110gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め55mlの水に溶解した8.54gのペルオキソ二硫酸ナトリウムの全量を一括で添加し2時間かけて一定量で徐々に滴下し、その溶液を6時間攪拌した。得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、陽イオン交換樹脂を入れ、ナトリウムイオンを除去した。
得られたPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は10質量%だった。
GPC分析の結果、Mwは105000であり、比率(Sm/Sp)は0%であった。
【0068】
(製造例10)ポリスチレンスルホン酸の製造10;実施例5で使用
まず、製造例4と同様にしてPSS水溶液を得た。次にこのPSS水溶液を陰イオン交換樹脂(住化ケムテックス社製、デュオライトA368MS)に接触させ、未重合のスチレンスルホン酸を除去した。
上記精製後のPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.3質量%だった。
これを製造例1と同様にGPCシステムで分析した結果、Mwは80000であり、比率(Sm/Sp)は0%であった。
【0069】
(製造例11)ポリスチレンスルホン酸の製造11;実施例6で使用
まず、製造例5と同様にしてPSS水溶液を得た。次にこのPSS水溶液を製造例10と同様に精製し、未重合のスチレンスルホン酸を除去した。
上記精製後のPSS水溶液の固形分(不揮発成分)は2.3質量%だった。
これを製造例1と同様にGPCシステムで分析した結果、Mwは112000であり、比率(Sm/Sp)は0%であった。
【0070】
[実施例1]
(PEDOT-PSS水分散液の製造)
5.71gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た282.5gのポリスチレンスルホン酸水溶液、イオン交換水605.25gを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、26.65gのイオン交換水に溶かした硫酸第二鉄1.60gの酸化触媒溶液を添加し、78.9gのイオン交換水に溶かした8.68gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを2時間かけて一定量で徐々に滴下し、さらに4時間攪拌して反応させた。得られた反応液に陽イオン交換樹脂(住化ケムテックス社製、デュオライトC255LFH)と陰イオン交換樹脂(住化ケムテックス社製、デュオライトA368S)を入れ、重合開始剤と鉄を除去した。これによりPEDOT:PSS=1:2.5(質量比)の青色のPEDOT-PSS水分散液を得た。得られた分散液の固形分(不揮発成分)を限外濾過により1.6質量%に調整した。
【0071】
(導電性評価)
上記で得たPEDOT-PSS水分散液1.9gと、メタノール4gと、プロピレングリコール0.1gとを混和し、得られた塗料をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)上に#12のバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥して、導電層が表面に形成された導電性フィルムを得た。
その表面抵抗値を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとして測定した。測定結果を表に示す。表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。
【0072】
(粘度測定)
上記で得たPEDOT-PSS水分散液を高圧ホモジナイザーで分散した後、その一部を分取し、音叉振動式粘度計(型番:SV-10、A&D社製)を用い、25℃にてJIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定方法)に準拠して測定した。
上記の分散後の残部を密閉瓶に入れて5~10℃で2週間保存した。保存後のPEDOT-PSS水分散液を25℃に戻し、これを試料として上記と同じ方法で粘度を測定した。
各粘度の測定結果を表に示す。
表中、1Pa・s(パスカル秒)=1000cP(センチポアズ)として換算した。
【0073】
[実施例2]
製造例2で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例3]
製造例7で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例2と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例4]
製造例8で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例2と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0076】
[実施例5]
製造例10で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0077】
[実施例6]
製造例11で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例5と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0078】
[比較例1]
製造例3で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0079】
[比較例2]
製造例4で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0080】
[比較例3]
製造例5で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0081】
[比較例4]
製造例6で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0082】
[比較例5]
製造例9で得たポリスチレンスルホン酸水溶液を用い、3,4-エチレンジオキシチオフェン:PSS=1:2.5の質量比となるように水の量で調整して配合したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
実施例1~6の製造方法で得た導電性複合体を含む導電性高分子分散液は、導電性に優れた導電層を形成でき、さらに保存安定性にも優れていた。これは工程Bにおいて導電性複合体を形成する反応液中に未重合の重合性アニオンモノマーが実質的に含まれていなかったからである。
実施例1~2では、工程Aで水溶性アゾ重合開始剤VA-046Bを徐々に滴下したので、重合性アニオンモノマーが全て反応した。
実施例3~4では、工程Aで水溶性アゾ重合開始剤V-501を用いたので、重合性アニオンモノマーが全て反応した。
実施例5~6では、工程Aで水溶性アゾ重合開始剤VA-046Bの全量を一括で添加したので、反応終了時に未重合の重合性アニオンモノマーが残存した。しかし、これを工程Bに供する前に陰イオン交換樹脂を用いて重合性アニオンモノマーを除去し、精製したので、工程Bへ重合性アニオンモノマーを持ち込むことがなかった。
比較例1~4の製造方法では、工程Aで水溶性アゾ重合開始剤VA-046Bの全量を一括で添加したので、反応終了時に未重合の重合性アニオンモノマーが残存した。これが工程Bに持ち込まれたため、製造した導電性複合体を含む導電性高分子分散液は、導電性の点で劣っていた。
従来品の製造方法である比較例5の製造方法では、工程A(製造例9)で水溶性アゾ重合開始剤を使用せず、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを使用した。未重合の重合性アニオンモノマーは残存しなかったが、工程Bで得た導電性複合体を含む導電性高分子分散液の粘度が保存中に大きく上昇し、保存安定性が低く、使い勝手が悪いものであった。