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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089952
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20240627BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20240627BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240627BHJP
   A21D 13/41 20170101ALN20240627BHJP
【FI】
A23L11/00 Z
A23L11/00 A
A21D2/36
A21D13/00
A21D13/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205518
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古谷 吏侑
(72)【発明者】
【氏名】前田 卓磨
【テーマコード(参考)】
4B020
4B032
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LC04
4B020LG01
4B020LG05
4B020LP03
4B020LP13
4B020LP30
4B032DB32
4B032DG02
4B032DK32
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP37
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を製造することができる大豆抽出物粉末、及び該大豆抽出物粉末を含有するパン類を提供することである。
【解決手段】下記A)及びB)の条件を満たす大豆抽出物粉末を含有するパン類。
A)全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である。
B)該大豆抽出物粉末のNSIが60~90である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A)及びB)の条件を満たす、パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末。
A)該大豆抽出物粉末が、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である。
B)該大豆抽出物粉末のNSIが、60~90である。
【請求項2】
さらに下記C)の条件を満たす、請求項1記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末。
C)蛋白質/炭水化物含量比が、質量基準で0.1~5である。
【請求項3】
さらに下記D)の条件を満たす、請求項1又は2記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末。
D)全脂大豆が加熱処理全脂大豆である。
【請求項4】
穀粉100質量部に対して、請求項1又は2に記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末を0.5~10質量部を含有するパン類。
【請求項5】
穀粉100質量部に対して、請求項3記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末を0.5~10質量部を含有するパン類。
【請求項6】
穀粉100質量部に対する、該パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末由来の蛋白質量が0.25~6質量%である、請求項1又は2に記載の大豆抽出物粉末を含有するパン類。
【請求項7】
穀粉100質量部に対する、該パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末由来の蛋白質量が0.25~6質量%である、請求項3記載の大豆抽出物粉末を含有するパン類。
【請求項8】
冷蔵長時間発酵のパン類生地練り込み用である、請求項1又は2記載の大豆抽出物粉末。
【請求項9】
冷蔵長時間発酵のパン類生地練り込み用である、請求項3記載の大豆抽出物粉末。
【請求項10】
下記A)及びB)の条件を満たす大豆抽出物粉末をパン類生地に添加し、-6~18℃で6~96時間冷蔵発酵したパン類生地を焼成する、パン類の製造方法。
A)該大豆抽出物粉末が、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である。
B)該大豆抽出物粉末のNSIが、60~90である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末、及び、該大豆抽出物粉末を含有するパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類生地の安定性や作業性は、パン類を製造する上で非常に重要な要素の一つとされる。また、パン類の食感も非常に重要な要素であり、良好な食感を有することで、消費者の購買意欲や喫食意欲に影響する場合がある。
【0003】
パン類生地の安定性に関する出願として、例えば特許文献1が存在する。特許文献1では、「冷蔵発酵工程を有するパン類の品質改良用組成物」に関して記載されている。また、豆類抽出物を含有するパン類に関する出願として、特許文献2~5が存在する。特許文献2では「乾熱加熱食品用風味増強剤」に関して記載されている。特許文献3では「豆類抽出物を含む、ロールイン用油中水型乳化組成物」に関して記載されている。特許文献4では「パン生地練り込み用水中油型乳化油脂組成物」に関して記載されている。特許文献5では「乳代替組成物及びこれを使用した乳代替飲食品」に関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-098859号公報
【特許文献2】特開2018-170965号公報
【特許文献3】特開2018-170966号公報
【特許文献4】特開2018-170967号公報
【特許文献5】特開2013-013395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パン類の製造において、特に焼きたてパン類を提供するリテイルベーカリーにおいては省人化のニーズが近年高まっている。工程の効率化や発酵風味を付与する目的から、パン類生地を冷蔵温度帯で発酵し、翌日に成型および焼成する方法は従来から行われている。しかしながら、多くの場合は翌日には生地を使い切る前提である。品質を維持したままで冷蔵下での発酵時間、すなわち生地の保存時間を延長することができれば、仕込み回数を減らすことができ、省力化や効率化することが可能となる。
一方、冷蔵下での発酵時間を延長する事で、パン類生地の物性が変化し、作業性や焼成後のパン類の食感が不安定になりやすいという問題がある。パン類は、食感が非常に重要なものとされる。良好な食感を有するパン類は、消費者の購買意欲が増加する等の利点があり、有用なものとなり得る。
【0006】
特に、ピザ生地は冷蔵長時間発酵することで、発酵生成物の蓄積による良好な発酵風味の付与、およびグルテン構造の緩和が生じ生地の伸展性が良好になることから、冷蔵下での長時間発酵に適しているパン類の代表例である。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を製造することができるパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末、及び該大豆抽出物粉末を含有するパン類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、本発明に係る特定の大豆抽出物粉末を使用することで、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を得ることができることを見出した。
【0009】
即ち本発明は、
(1)下記A)及びB)の条件を満たす、パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末、
A)該大豆抽出物粉末が、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である、
B)該大豆抽出物粉末のNSIが60~90 である、
(2)さらに下記C)の条件を満たす、(1)記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末、
C)蛋白質/炭水化物含量比が、質量基準で0.1~5である、
(3)さらに下記D)の条件を満たす、(1)又は(2)記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末、
D)全脂大豆が加熱処理全脂大豆である、
(4)穀粉100質量部に対して、(1)~(3)いずれか1項に記載のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末を0.5~10質量部を含有するパン類、
(5)穀粉100質量部に対する、該パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末由来の蛋白質量が0.25~6質量%である、(1)~(3)いずれか1項に記載の大豆抽出物粉末を含有するパン類、
(6)冷蔵長時間発酵のパン類生地練り込み用である、(1)~(3)いずれか1項に記載の大豆抽出物粉末、
(7)下記A)及びB)の条件を満たす大豆抽出物粉末をパン類生地に添加し、-6~18℃で6~96時間冷蔵発酵したパン類生地を焼成する、パン類の製造方法、
A)該大豆抽出物粉末が、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である、
B)該大豆抽出物粉末のNSIが、60~90である、
に関するものである。
【0010】
なお、特許文献1は、pH7.5以下であり、かつ可塑性を有する水中油型乳化組成物であるため、本発明の解決手段とは全く異なるものであった。特許文献2~5は、本発明のような、NSIが60~90である大豆抽出物粉末をパン類生地に練り込むことによって、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類について開示がなく、本発明を完成させる上で参考とならなかった。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって提供される大豆抽出物粉末をパン類生地に練り込んでパン類を製造することにより、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を製造することができる。
さらに、本発明によって提供される大豆抽出物粉末をパン類生地に練り込んでパン類を製造することにより、焼成温度が高温でなくとも、短時間焼成後に良好な焼き色を有するパン類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(冷蔵発酵)
本発明における冷蔵発酵とは、原材料を混捏して得た生地を冷蔵温度域において発酵および保存する工程のことをいう。本発明で言う冷蔵温度域は、-6~18℃であることが好ましく、より好ましくは0~10℃、更に好ましくは3~7℃である。また、通常の冷蔵発酵は一般に約6~24時間であるが、パン類の種類によっては48時間、最長で約96時間程度まで取られる場合もある。本発明での発酵時間は、6~96時間であることが好ましく、12~48時間であることがより好ましく、更に好ましくは16~30時間である。生地の発酵は経時的に進行するため、時間が経つほど品質差が大きくなり、一定の商品価値を維持することが困難となる。しかし本発明のパン生地練り込み用大豆抽出物粉末を用いることで、経時的な品質低下が抑制される。そのため、冷蔵発酵2日後、3日後であっても生地状態が安定し、品質良好なパン類を提供することができる。より具体的な効果としては生地玉の弾性維持、及び生地の伸展性維持、焼成後のパン類の形状や外観、良好な食感(もっちりとした食感及び歯切れ)が例示できる。
【0013】
(パン類)
本発明が適用できるパン類の種類としては特に制限はなく、穀粉を主原料とし、これに水、油脂類、糖類、澱粉類、調味料、卵、乳製品、イースト、イーストフード、酵素類、乳化剤、フレーバー等の原料を必要に応じて添加し、混捏工程を経て得られた生地を、発酵、分割および成型、ホイロなどの工程を経て焼成加熱し得られるものを指す。具体的には、食パン、コッペパン、テーブルロール、デニッシュペストリー、ピザ、ナン、ブリオッシュ、菓子パン類、調理パン類、惣菜パン類、フランスパン類、ドイツパン類、食事パン類、などが挙げられる。コッペパン、ピザ、ナン、フランスパン類においてその効果が顕著に発揮され、本発明ではピザが特に好ましい。前記したパン類はいずれも冷蔵発酵工程をとり得るが、特に、冷蔵下の条件で長時間発酵工程が適しているパン類であることが好ましく、その代表例として、特にピザ生地が挙げられる。
なお、本発明のパン類生地で用いる穀粉類としては、通常のパン類の製造と同様、強力粉、薄力粉、中力粉などの小麦粉類の他、ライ麦粉、全粒粉、上新粉などの米粉、デュラム粉などの穀物の粉や、アーモンド、ヘーゼルナッツなどの木の実の粉や、各種澱粉、加工澱粉類から選ばれる1種類、あるいは2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、特に薄力粉、アーモンドパウダー(アーモンドプードル)、強力粉、上新粉、デュラム粉からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0014】
(ピザ生地)
ピザ生地は、強力粉、中力粉、薄力粉等の小麦粉に、食塩、油脂、イーストなどの原料を添加して水を加えて捏ね上げ、発酵工程を経た生地を平たく延ばす成型、すなわち展延がなされるものを指す。この展延は、捏ね上げた生地を一定の重量に分割してから展延機等で伸ばして行う方法や、分割は行わずに先に展延した後に、適当な大きさに抜型等でくり抜く方法がある。展延成型後のピザ生地の形状は様々であるが、一般的には、円盤状あるいは小判状のものが多く使用されており、その厚みは概ね1mm~10mm、好ましくは2mm~5mmである。このとき、発酵工程は、一般的なピザ生地の発酵条件であっても調製できるが、本発明では、冷蔵下での長時間発酵条件であっても調製することができる。本発明のパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末を使用することで、冷蔵長時間発酵であっても、経時的な品質低下が抑制される。冷蔵発酵2日後、3日後であっても生地状態が安定し、品質良好なピザ生地を提供することができる。
【0015】
本発明に係るパン類生地練り込み用大豆抽出物粉末(以下、単に「大豆抽出物粉末」と称する場合がある。)は、A)全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下であること、及び、B)該大豆抽出物粉末のNSIが60~90であることを特徴とする。以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0016】
(パン類生地練り込み用大豆抽出物粉末)
本発明において「パン類生地」とは、前記したパン類の生地を指し、「練り込み用」とは該パン類生地に大豆抽出物粉末を添加及び混合して練り込むことを指す。また、「大豆抽出物粉末」は、大豆原料から水抽出される抽出物である豆乳を加熱して調製される組成物であって、粉末状のものをいう。
【0017】
(A.全脂大豆からの水抽出物)
本発明の大豆抽出物粉末は、全脂大豆からの水抽出物(以下、「本抽出物」と称する場合がある。)を原料として含有することを特徴とする。この点で、脱脂大豆からの水抽出物である脱脂豆乳とは相違する。
【0018】
(炭水化物含量)
本抽出物は、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であることを特徴とし、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは33質量%以上である。上限は85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下又は40質量%以下であるのが好ましい。
【0019】
(脂質含量)
本抽出物は、脂質含量が固形分中15質量%以下であることを特徴とする。好ましくは10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6.5質量%以下又は6質量%以下などとすることができる。
【0020】
また本抽出物は、蛋白質含量が固形分中に下限が40質量%以上、45質量%以上又は50質量%以上であるのが好ましく、上限が85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下又は55質量%以下であるのが好ましい。
本抽出物において、かかる組成の範囲のものを得るには、公知の方法を用いて調製するか又は市販品を入手することができる。
【0021】
また、本発明の粉末豆乳組成物中における、蛋白質/炭水化物含量比は、質量基準で0.1~5であることが好ましい。下限を0.2以上、0.3以上、0.5以上、0.8以上、1以上、1.2以上又は1.4以上とすることができ、また上限を4以下、3.5以下、3以下、2.5以下、2以下、1.9以下、1.8以下又は1.7以下とすることができる。
【0022】
公知の調製方法については特に工程的に限定されるものではない。例えば、全脂大豆から水抽出してオカラを除去して得られる豆乳から、遠心分離等の分離手段により脂質を除去する方法、全脂大豆から水抽出してオカラを除去する際に、遠心分離等の手段によりオカラと共に脂質を除去する方法などを用いることができる。より具体的な例として特許第5077461号公報、特表2009-528847号公報に記載の方法などを用いることができる。
【0023】
特に、特許第5077461号公報のように、加熱処理全脂大豆からの水抽出物を含有することが好ましい。ここで加熱処理全脂大豆とは、水抽出される前に予め蒸気加熱や乾熱加熱等により加熱処理された全脂大豆である。全脂大豆の加熱処理の程度を表す指標としては、蛋白質の変性度合いの指標とされる窒素溶解指数(NSI)を用いることができる。より適切なNSIとしては、下限が20以上、30以上又は40以上など、また上限が77以下、70以下、60以下、55以下などの数値範囲が挙げられる。このような所定の数値範囲を有する加熱処理全脂大豆を選択できる特許第5077461号公報記載の方法で得られた市販品として、不二製油(株)製の「低脂肪豆乳」を用いることができる。
【0024】
なお、NSIは所定の方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(質量%)で表すことができ、本発明においては以下の方法に基づいて測定された値とする。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分間攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。
【0025】
(大豆抽出物粉末の製造法)
本発明の大豆抽出物粉末の一製造態様を以下に示す。
【0026】
○工程a)
まず、全脂大豆から炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である水抽出物を得る。本抽出物は製造者が市販の製品を入手することにより得ても良いし、上記A.の通り製造者自身で調製することにより得ることもできる。
【0027】
○工程b)
次に、本抽出物を加熱処理する。加熱処理の方式は特に限定されないが、直接加熱方式でも間接加熱方式でも良い。加熱装置は、加圧蒸気による直接加熱方式やプレート殺菌などの間接加熱方式があげられる。加熱条件は、90~190℃の温度で0.5秒~5分程度が好ましく、100~150℃で0.5~4分である高温短時間の加熱処理がより好ましい。加熱処理することにより、微生物を殺菌する。
【0028】
○工程c)
次に、該加熱処理液を乾燥粉末化する。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、接触乾燥、赤外線乾燥、フリーズドライなどがあげられる。乾燥粉末化後の本発明に係る大豆抽出物粉末のNSIは60~90であることを特徴とする。NSIはより好ましくは65~88、さらに好ましくは70~86であり、最も好ましくは75~85である。該大豆抽出物粉末のNSIを上記の範囲とすることで、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を製造することが可能となる。
【0029】
本発明の大豆抽出物粉末のパン類生地への添加量は、特に限定されないが、穀粉100質量部に対して蛋白質量として0.25~6質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~4質量%が更に好ましく、2~3質量%が最も好ましい。
また、穀粉100質量部に対して、大豆抽出物粉末として0.5~10質量部添加することが好ましく、1~8質量部添加することがより好ましく、1.5~7質量部添加することが更に好ましく、2~6質量部添加することが最も好ましい。
【0030】
(パン類の製造方法)
本発明では、A)該大豆抽出物粉末が、全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である、及びB)該大豆抽出物粉末のNSIが60~90である、という条件を満たす大豆抽出物粉末をパン類生地に添加し、-6~18℃で6~96時間冷蔵発酵したパン類生地を焼成することが好ましい。さらに、焼成条件は、焼成温度が250~300℃、焼成時間が4~5分であることが好ましい。一般的なピザ釜の焼成温度が400℃以上と高温であるのに対し、オーブンの温度が250~300℃と高温でなくとも、4~5分という短時間の焼成で、パン類の外観が良好な焼き色を有することができる。
【実施例0031】
以下、実施例等により本発明の実施形態についてさらに具体的に記載する。なお、以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【0032】
(実施例1)
「低脂肪豆乳」(不二製油(株)製、固形分9.8%、脂質含量5.1%(固形分中)、蛋白質含量52.0%(固形分中)、炭水化物含量34.7%(固形分中))を、110℃、3分にて間接加熱殺菌を行い、熱風温度180℃の熱風乾燥し、大豆抽出物粉末を得た。なお、用いた「低脂肪豆乳」は、加熱処理した全脂大豆からの水抽出物であり、得られた大豆抽出物粉末は、固形分97.0%、脂質含量5.1%(固形分中)、蛋白質含量52.1%(固形分中)、炭水化物含量34.7%(固形分中)であり、蛋白質/炭水化物含量比が1.5、NSIが83である。
得られた該大豆抽出物粉末を用い、表2の配合に従って、パン類の一例であるピザ生地を調製した。ピザ生地の調製方法は、表2に記載の原材料を全てミキサー内で混捏し、22℃で捏ね上げた。捏ね上げた生地を20℃で1時間発酵させた後、200gで分割し、5℃で18時間以上発酵(冷蔵発酵)させた。発酵後に適宜、室温で1時間復温し、円板状に成型した。成型した生地を天板に乗せて、上火300℃下火300℃のデッキオーブンで4分20秒焼成した。このとき、穀粉100部に対し蛋白質量が2.5%となるように大豆抽出物粉末を配合した。
【0033】
(比較例1)
実施例1で使用した大豆抽出物粉末5部に代えて、脱脂粉乳7.1部を使用し、水を60部にした以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、比較例1のピザ生地を得た。このとき、実施例1と同様に、穀粉100部に対し蛋白質量が2.5%となるように脱脂粉乳を配合した。
なお、本比較例で用いた脱脂粉乳は、固形分95.9%、脂質含量0.7%(固形分中)、蛋白質含量37.1%(固形分中)、炭水化物含量54.0%(固形分中)であり、蛋白質/炭水化物含量比が0.7である。
【0034】
(比較例2)
実施例1で使用した大豆抽出物粉末5部に代えて、液体の「低脂肪豆乳」(不二製油(株)製)49.5部を使用し、水を19.5部にした以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、比較例2のピザ生地を得た。このとき、実施例1と同様に、穀粉100部に対し蛋白質量が2.5%となるように低脂肪豆乳を配合した。
なお、本比較例で用いた低脂肪豆乳は、全脂大豆からの水抽出物であり、固形分9.8%、脂質含量5.1%(固形分中)、蛋白質含量52.0%(固形分中)、炭水化物含量34.7%(固形分中)であり、蛋白質/炭水化物含量比が1.5、NSIが94である。
【0035】
(比較例3)
実施例1で使用した大豆抽出物粉末5部に代えて、粉末状の分離大豆蛋白である「プロリーナ700」(不二製油(株)製)2.8部を使用した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、比較例3のピザ生地を得た。このとき、実施例1と同様に、穀粉100部に対し蛋白質量が2.5%となるように分離大豆蛋白を配合した。
なお、本比較例で用いた分離大豆蛋白は、脱脂大豆からの抽出物であり、固形分94.2%、脂質含量0.2%(固形分中)、蛋白質含量91.0%(固形分中)、炭水化物含量4.6%(固形分中)であり、蛋白質/炭水化物含量比が19.8、NSIが30である。
【0036】
(比較例4)
実施例1で使用した大豆抽出物粉末5部に代えて、脱脂豆乳粉末「ソヤフィット2000」(不二製油(株)製)4.3部を使用した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、比較例4のピザ生地を得た。このとき、実施例1と同様に、穀粉100部に対し蛋白質量が2.5%となるように脱脂豆乳粉末を配合した。
なお、本比較例で用いた脱脂豆乳粉末は、脱脂大豆からの抽出物であり、固形分94.0%、脂質含量0.2%(固形分中)、蛋白質含量62.8%(固形分中)、炭水化物含量28.6%(固形分中)であり、蛋白質/炭水化物含量比が2.2、NSIが85である。
【0037】
実施例および比較例で使用した各粉末の組成を表1にまとめた。
【0038】
(表1)
【0039】
(表2)配合
・マーガリンは、不二製油株式会社製「メサージュV」を使用した。
【0040】
○パン類での品質評価
実施例1及び比較例1~4のピザ生地、及び対照区のピザ生地を以下の評価項目に従って、品質評価を行った。
【0041】
○対照区
マーガリン(不二製油(株)製「メサージュV」)6部、上白糖5部、をコートミキサー30(愛工舎製作所)のミキサーボールへ投入し、低速2分、中速6分間ミキシングし、混合および攪拌した。次に、捏ね上げた生地を20℃で1時間発酵させた後、200gで分割し、5℃で18時間以上発酵(冷蔵発酵)させた。発酵後に適宜、室温で1時間復温し、円板状に成型した。成型した生地を天板に乗せて、上火300℃下火300℃のデッキオーブンで4分20秒焼成した。
【0042】
冷蔵発酵24時間後の生地を使って得られたピザを20℃で保管し、保管開始から30分後の生地の食感(もっちりとした食感及び歯切れ)について、下記評価基準に従って5段階で評価を行った。
【0043】
○官能評価(n=20)
実施例、比較例1~4、及び対照区で調製したピザをパン類の官能評価に熟練した20名のパネラーに試食してもらい、生地部分の食感(もっちりとした食感及び歯切れ)について、下記評価基準により官能評価を実施し、採点をした。
【0044】
(評価基準)
・食感(もっちりとした食感)
5点:非常に良好(もっちりとした食感が強く感じられる)
4点:良好
3点:許容できる
2点:やや不良(もっちりとした食感が弱い)
1点:不良(もっちりとした食感がない)
【0045】
・食感(歯切れ)
5点:非常に良好
4点:良好
3点:許容できる
2点:やや不良(やや歯切れが悪い)
1点:不良(歯切れが悪い)
【0046】
各パネラーの評点の平均値を求めた。そして平均値より、
A:4.5点以上
B:3.5点以上4.5点未満
C:2.5点以上3.5点未満
D:1.5点以上2.5点未満
E:1.5点未満
の5段階で評価付けを行い、両評価がB以上のものを合格とした。結果を表3に示した。
【0047】
生地の安定性については、冷蔵発酵24時間後と30時間後とを比較し、生地の冷蔵発酵時間の違いによるピザ生地の作業性及び食感の品質安定度を評価した。
なお、作業性の安定度は、生地玉の弾力及び成型時の伸展性を評価し、下記の評価基準に従って評価した。また、食感の品質安定度は、もっちりとした食感及び歯切れについて、下記評価基準に従って評価した。ピザ生地の作業性及び食感の品質安定度の評価がB評価以上のものを合格品質とし、結果を表3に示した。
【0048】
・作業性及び食感の品質安定度
A:発酵時間が30時間後であっても、24時間後の状態と変わらず非常に良好で、品質が安定している
B:発酵時間が30時間後であっても、24時間後の状態とほぼ同様に良好で、品質が安定している
C:24時間後に比べ、30時間後の状態では品質がやや劣化している
D:24時間後に比べ、30時間後の状態では品質が劣化している
E:24時間後に比べ、30時間後の状態では品質が明らかに劣化している
【0049】
・焼成後のパン類の外観評価(焼き色)
冷蔵発酵時間が30時間後のピザ生地の、焼成後の表皮色を評価した。表皮色は頂面、側面、底面が平均して褐色に焼けているものを、十分に着色しているとし、下記の評価基準にて評価した。
A:焼成後のピザ生地の焼き色が十分に着色しており良好である
B:許容できる
C:焼成後のピザ生地の焼き色が着色しているが不十分である
B評価以上を合格として評価した。
【0050】
(表3)評価結果
【0051】
以上の通り、実施例1において、全ての項目でB評価以上であった。よって、A)全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である、及び、B)該大豆抽出物粉末のNSIが60~90である、という特徴を有する大豆抽出物粉末をパン類生地に練り込むことにより、冷蔵下での長時間発酵であっても作業性及び食感の品質安定度が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を製造することができた。さらに、焼成温度が300℃と高温でなくとも、5分以内の短時間焼成後に良好な焼き色を有するパン類を提供することができることを見出した。
【0052】
○パン類への添加試験(本発明の大豆抽出物粉末の配合量の変更)
実施例1にて配合している本発明の大豆抽出物粉末の配合量を5部から2部(実施例2)、又は10部(実施例3)と変更した以外は実施例1の配合及び製法と同様にして、焼成したピザ生地を得た。なお、穀粉100質量部に対する大豆抽出物粉末由来の蛋白質量は、実施例2では1.3%、実施例3では5%であった。
【0053】
得られた各ピザ生地を焼成後、20℃で保管し、保管開始から30分後の品質評価について、「○パン類での品質評価」と同じ評価基準に従って評価を行った。結果を、対照区、実施例1と比較し、表4に示した。
【0054】
(表4)
【0055】
実施例2及び3は、実施例1と同様に、全ての評価項目でB評価以上であり、合格品質であった。
【0056】
よって、表3~4の結果より、A)全脂大豆からの水抽出物であって、炭水化物含量が固形分中20~90質量%であり、脂質含量が固形分中15質量%以下である、及び、B)該大豆抽出物粉末のNSIが60~90である、という特徴を有する大豆抽出物粉末をパン類生地に使用することで、冷蔵下での長時間発酵であっても生地の安定性および作業性が良好であり、かつ、良好な食感を有するパン類を製造することができることを見出した。さらに、焼成温度が高温でなくとも、短時間焼成後に良好な焼き色を有するパン類を提供することができることを見出した。