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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089962
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】高圧水素ガス用シール材組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20240627BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240627BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 5/32 20060101ALI20240627BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/36
C08K3/013
C08L29/10
C08K3/04
C08K7/18
C08K5/14
C08K5/32
C09K3/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205538
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】圖師 浩文
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
4H017AA03
4H017AB12
4H017AC01
4H017AD03
4H017AE04
4J002AC042
4J002BE041
4J002DA037
4J002DJ016
4J002EA059
4J002EG049
4J002EH109
4J002EK038
4J002EK048
4J002EK068
4J002EK088
4J002ES008
4J002ES019
4J002EU199
4J002FA087
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD148
4J002FD159
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】良好な耐ブリスタ性および耐熱性を有する高圧水素ガス用シール材組成物および高圧水素ガス用シール材を提供すること。
【解決手段】パーフルオロエラストマー100質量部と、充填剤5~60質量部とを含み、前記充填剤はシリカを含み、前記シリカの含有量は5~50質量部である、高圧水素ガス用シール材組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロエラストマー100質量部と、充填剤5~60質量部とを含み、
前記充填剤はシリカを含み、
前記シリカの含有量は5~50質量部である、高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項2】
前記パーフルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系である、請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項3】
前記充填剤は、カーボンブラックをさらに含む、請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項4】
前記シリカは球状である、請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項5】
前記シリカの平均粒径は、5nm~5μmである、請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックは、2種以上のカーボンブラックを含む、請求項3に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項7】
有機過酸化物およびニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項8】
前記有機過酸化物の含有量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対し0.5~10質量部である、請求項7に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項9】
前記ニトロオキサイド化合物の含有量は、前記有機過酸化物の含有量を基準として1~10質量%である、請求項8に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項10】
液状または粉末状の共架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の高圧水素ガス用シール材組成物の架橋物を含む、高圧水素ガス用シール材。
【請求項12】
ショアA硬度が85以上である、請求項11に記載の高圧水素ガス用シール材。
【請求項13】
硫黄を含まない、請求項11に記載の高圧水素ガス用シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素ガス用シール材組成物に関し、さらには高圧水素ガス用シール材にも関する。
【背景技術】
【0002】
高圧水素ガスの貯蔵用機器に用いられるシール材として、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(以下、EPDMともいう)を含むシール材が知られている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-206002号公報
【特許文献2】特開2015-108104号公報
【特許文献3】特開2020-51540号公報
【特許文献4】特開2020-158602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧水素ガスの貯蔵機器では、取扱う水素ガスの圧力がますます上昇しており、用いられるシール材には、ブリスタ現象を抑制する耐ブリスタ性が求められている。ブリスタ現象とは、高圧によってゴムの内部に浸透したガスが、高温下での急速減圧の影響でゴム内部に滞留したまま膨張して、ゴム材を破裂させてしまう現象である。また、高温環境下で使用されるシール材の需要が高まってきている。
【0005】
しかしながら、エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含むシール材は、耐熱性が十分ではなく、150℃以上の高温環境下において使用することができない場合が多い。また、パーフルオロエラストマーを用いたシール材は、耐熱性に優れるため高温環境下において使用することができるものの、高圧水素用途ではブリスタ現象が発生し易い傾向にある。
【0006】
本発明の目的は、良好な耐ブリスタ性および耐熱性を有する高圧水素ガス用シール材組成物および高圧水素ガス用シール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の高圧水素ガス用シール材組成物および高圧水素ガス用シール材を提供する。
[1] パーフルオロエラストマー100質量部と、充填剤5~60質量部とを含み、
前記充填剤はシリカを含み、
前記シリカの含有量は5~50質量部である、高圧水素ガス用シール材組成物。
[2] 前記パーフルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系である、[1]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[3] 前記充填剤は、カーボンブラックをさらに含む、[1]または[2]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[4] 前記シリカは球状である、[1]~[3]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[5] 前記シリカの平均粒径は、5nm~5μmである、[1]~[4]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[6] 前記カーボンブラックは、2種以上のカーボンブラックを含む、[3]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[7] 有機過酸化物およびニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[8] 前記有機過酸化物の含有量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対し0.5~10質量部である、[7]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[9] 前記ニトロオキサイド化合物の含有量は、前記有機過酸化物の含有量を基準として1~10質量%である、[7]または[8]に記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[10] 液状または粉末状の共架橋剤をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の高圧水素ガス用シール材組成物。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の高圧水素ガス用シール材組成物の架橋物を含む、高圧水素ガス用シール材。
[12] ショアA硬度が85以上である、[11]に記載の高圧水素ガス用シール材。
[13] 硫黄を含まない、[11]または[12]に記載の高圧水素ガス用シール材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な耐ブリスタ性および耐熱性を有する高圧水素ガス用シール材組成物および高圧水素ガス用シール材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<シール材組成物>
本発明のシール材組成物は、パーフルオロエラストマー100質量部と、充填剤5~60質量部とを含む。パーフルオロエラストマーと充填剤とを上記含有量で含むことにより、耐熱性に優れ、ブリスタ現象の起きにくいシール材組成物が得られることとなる。
【0010】
(パーフルオロエラストマー)
シール材組成物はパーフルオロエラストマーを含むことにより、耐熱性が向上し易くなる傾向にある。パーフルオロエラストマーは、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系であってよい。テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位と、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位とからなり、これに少量の架橋部位モノマーを共重合させたものであることができる。
【0011】
パーフルオロビニルエーテルは、好ましくはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)およびパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0012】
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)におけるアルキル基の炭素数は、例えば1~5であってよい。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられる。中でも好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0013】
パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)は、ビニルエーテル基(CF2
CFO-)に結合する基の炭素数が3~11であることができ、例えば
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCn2n+1
CF2=CFO(CF23OCn2n+1
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1、又は
CF2=CFO(CF22OCn2n+1
であることができる。上記式中、nは例えば1~5であり、mは例えば1~3である。
【0014】
架橋部位モノマーは架橋部位を与える基を有するモノマーであり、本発明においては、パーフルオロエラストマーにパーオキサイド架橋性を付与するあらゆるモノマーであり得る。架橋部位を与える基の一例を挙げればハロゲン原子(例えばヨウ素原子)である。
【0015】
パーフルオロエラストマーの粘度は、ムーニー粘度〔ML(1+4)121℃〕で50~100であることが好ましい。粘度があまりに低いと、パーフルオロエラストマー組成物の流動性が過度に高くなって、成型の際の金型上において、シール材組成物が自重で変形し、得られる架橋成型物に凹み等の不具合を生じやすい。パーフルオロエラストマーの粘度があまりに高いと、シール材組成物の流動性が過度に低くなって、成型加工性が低下する傾向となる。
【0016】
パーフルオロエラストマーは、市販品を使用することもでき、その具体例は、Dupont社製の「Kalrez(登録商標)」、ダイキン社製の「ダイエル(登録商標)パーフロ」、ソルベイ社製の「Tecnoflon(登録商標)」、住友3M社製の「ダイオニン」、AGC社製の「AFLAS(登録商標)」を含む。
【0017】
(充填剤)
充填剤の含有量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し5~60質量部である。充填剤の含有量がパーフルオロエラストマー100質量部に対し5質量部未満であると、耐ブリスタ性が向上しにくい傾向にある。また、充填剤の含有量がパーフルオロエラストマー100質量部に対し60質量部を超えると、成型加工性が低下したり、ゴム弾性が発揮されず、シール材として機能しにくくなったりする傾向にある。充填剤の含有量は、成型加工性、シール材の耐ブリスタ性およびゴム弾性の観点から好ましくはパーフルオロエラストマー100質量部に対し10~60質量部、より好ましくは15~50質量部、さらに好ましくは20~40質量部である。
【0018】
充填剤はシリカを含む。シリカとしては、汎用ゴム一般に補強効果を発揮することが知られているものを使用することができる。シリカの例として、特に限定はされないが、ハロゲン化珪酸または有機珪素化合物の熱分解法や、けい砂を加熱還元して気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式ホワイトカーボン、ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式ホワイトカーボン等が挙げられる。本発明においては、乾式ホワイトカーボンを用いることが好ましい。シリカは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
シリカの含有量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し5~50質量部であり、成型加工性、シール材の耐ブリスタ性およびゴム弾性の観点から好ましくは10~50質量部、より好ましくは15~45質量部、さらに好ましくは20~40質量部である。
【0020】
本発明のシール材組成物は、シリカが比較的高充填されることが好ましい。シリカが高充填されることにより、シール材の内部に水素が侵入しにくくなり、シール材の耐ブリスタ性を向上させ易くすることができる。シリカはカーボンブラックよりも水素吸着性が低いため、耐ブリスタ性の向上にはシリカを用いることがより有用である。
【0021】
シリカは、少なくとも70質量%のシリカ成分(SiO)を含有することができる。シリカの比表面積は、好ましくは10~120m/g、より好ましくは15~40m/gである。シリカは球状であることが好ましくは、無孔質かつ球状であることがより好ましい。シリカが球状である場合、他の形状(例えば鎖状)のシリカと比べてシリカ同士の摩擦が少なく、分散性が向上するため、シール材組成物にシリカを高充填させることが可能となる。なお、「球状」とは、真球だけでなく、若干歪んだ球も含む。
【0022】
シリカの平均粒径は、凝集の抑制や平滑性の観点から好ましくは5nm~5μm、より好ましくは10nm~1μm、さらに好ましくは30nm~500nm、特に好ましくは50nm~300nmである。シリカの平均粒径が大きすぎると、シール材の耐ブリスタ性が低下するおそれがある。平均粒径は、たとえば顕微鏡を用いて形態観察を行ない、画像解析により観察視野内のシリカの粒径を計測し、計測値の数平均を算出することにより求めることができる。
【0023】
シール材用組成物は、シリカを高充填させ易くするためにシランカップリング剤をさら含むことができる。シランカップリング剤は分子中に、無機質材料と化学結合する反応基と有機質材料と化学結合する反応基をもつため、通常では結合しにくい有機質材料と無機質材料とを結ぶバインダーとしての役割をもつ。シリカの表面をシランカップリング剤で被覆すると、シリカの表面が疎水性となり、シリカの凝集を防ぐことができる。これにより、シール部材用ゴム組成物中でシリカをより分散して高充填させることが可能となり、シール材の耐ブリスタ性を向上させ易くすることができる。また、シランカップリング剤はシリカとゴム成分との結合力を上昇させることによっても、耐ブリスタ性を向上させ易くすることができる。
【0024】
本発明におけるシランカップリング剤としては、特に限定はされないが、例えばビニル系、アクリル系、エポキシ系、メタクリル系、メルカプト系、アミノ系のシランカップリング剤等が挙げられる。ビニル系シランカップリング剤としては、例えばビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が、アクリル系シランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が、エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が、メタクリル系シランカップリング剤としては、例えば3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
シール材用組成物がシランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤の含有量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し、例えば0.1~10質量部であってよく、耐ブリスタ性の観点から好ましくは1~8質量部、より好ましくは3~6質量部である。
【0026】
充填剤は、汎用ゴム一般に補強効果を発揮するフィラーとして用いられるものをさらに含むことができる。充填剤は、好ましくはカーボンブラックをさらに含む。シール材組成物がカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、成型加工性、シール材の機械強度および耐ブリスタ性の観点から好ましくは、パーフルオロエラストマー100質量部に対し3~50質量部、より好ましくは4~30質量部、さらに好ましくは5~20質量部である。
【0027】
カーボンブラックは球状であることが好ましい。カーボンブラックがより真球に近い(比表面積が小さい)場合、カーボンブラックは凝集しにくく、シール材組成物の低温時の機械特性は低下しにくい傾向となる。
【0028】
カーボンブラックは、導電性でも非導電性でもよく、その製法によりファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、ISAF-HF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF、HAF-HS、HAF-LS、MAF、FEF、FEF-LS、GPF、GPF-HS、GPF-LS、SRF、SRF-HS、SRF-LM、FT、MT等のタイプを用いることができる。カーボンブラックの平均粒径は、各製造会社によって異なる場合があるものの、例えばSAFは19nm、ISAFは23nm、HAFは28nm、MAFは38nm、FEFは43nm、GPFは62nm、SRFは66nm、FTは122nmである。補強性の観点からは、カーボンブラックの粒径は小さいことが好ましい。
【0029】
カーボンブラックは、1種を単独で用いてよく、または2種以上を併用してもよい。カーボンブラックは、2種以上のカーボンブラックを含むことができる。シール材組成物が平均粒径の異なった2種類のカーボンブラックを含む場合、大径のカーボンブラックの平均粒径と小径のカーボンブラックの平均粒径との差は、特に限定されるものではないが、例えば7nm以上330nm以下とすることができる。
【0030】
(複合架橋剤)
シール材組成物は、複合架橋剤をさらに含むことができる。複合架橋剤は、架橋性ゴム成分(パーフルオロエラストマー)を架橋させる架橋剤として、有機過酸化物とニトロオキサイド化合物とを含有することができる。複合架橋剤を用いることにより成型加工性を向上させることが可能となる。すなわち、架橋開始時期を適度に遅延させることができるとともに、架橋開始から架橋完了までの時間を短縮することができる。架橋開始から完了までの時間の短縮は、成型時間の短縮および成型コストの低減にも寄与する。また、複合架橋剤の使用により、得られたシール材の最終的な架橋密度を低下させにくい傾向にある。そのため、優れた特性を有するシール材を得ることが可能となる。
【0031】
複合架橋剤を構成する有機過酸化物としては公知のものを使用できる。例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルペルオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、および1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン等が挙げられる。中でも好ましくはジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレートである。有機過酸化物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
複合架橋剤を構成するニトロオキサイド化合物としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,5,5-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペジニルオキシ-4-イル)セバケート、および4,4’-[(1,10-ジオキソ-1,10-デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス(2,2,6,6-テトラメチル)等が挙げられる。中でも好ましくは4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4,4’-[(1,10-ジオキソ-1,10-デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6-テトラメチル]-1-ピペリジジニルオキシである。ニトロオキサイド化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
複合架橋剤は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し、有機過酸化物の含有量が0.5~10質量部となるようにパーフルオロエラストマー組成物中に添加され、好ましくは0.8~6質量部となるようにパーフルオロエラストマー組成物中に添加される。複合架橋剤の添加量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対して、例えば0.6~20質量部程度、1~15質量部程度又は1~10質量部程度であってよい。パーフルオロエラストマー100質量部に対し、有機過酸化物の含有量を0.5質量部以上とすることにより、十分な架橋密度を得ることができる。これによりシール材に良好なゴム弾性、硬度、機械的強度、耐熱性およびシール性を付与し易くなる傾向にある。
【0034】
一方、有機過酸化物の含有量をパーフルオロエラストマー100質量部に対し10質量部以下とすることは、得られる架橋成型物(シール材等)に発泡や粘着性が生じることを抑制又は防止できる点、得られるシール材の耐熱性やシール性が向上され得る点で有利になり易い傾向となる。
【0035】
複合架橋剤におけるニトロオキサイド化合物の含有量は、好ましくは有機過酸化物の含有量の1~10質量%の範囲内であり、より好ましくは2~8質量%の範囲内である。ニトロオキサイド化合物の含有量をこの範囲内にすることにより、良好な初期流動時間伸長効果および架橋時間の短縮効果を得ることができる。
【0036】
複合架橋剤は、有機過酸化物およびニトロオキサイド化合物のみから構成されていてもよいが、フィラー成分等の他の成分を含有していてもよい。フィラー成分としては、上述のシリカやカーボンブラック、それら以外の無機顔料(炭酸カルシウム、クレー、タルク等)、有機顔料、樹脂成分等が挙げられる。複合架橋剤の形態は特に制限されず、液状、粉末状の他、成型体(例えば、顆粒状、ペレット状、シート状等)であることもできる。フィラー成分は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。複合架橋剤がフィラー成分としてシリカを含む場合、複合架橋剤中のシリカの含有量は上述の充填剤の含有量中に含まれる。複合架橋剤がシリカを含む場合、複合架橋剤中のシリカの含有量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し、例えば10質量部以下であることができる。
【0037】
本発明において使用し得る複合架橋剤の市販品としては、例えば、いずれも有機過酸化物のニトロオキサイド処理物である、Arkema社製の「Luperox DC40P-SP2」(有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド40重量%、ニトロオキサイド化合物:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル2.4重量%、残部:フィラー);「Luperox F40P-SP2」(有機過酸化物:α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40重量%、ニトロオキサイド化合物3.8重量%、残部:フィラー);「Luperox 101XL45-SP2」(有機過酸化物:2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン45重量%、ニトロオキサイド化合物5.0重量%及びフィラーからなる)等がある。中でも、架橋成型物の耐熱性の観点からは、「Luperox 101XL45-SP2」が好ましく用いられる。
【0038】
(共架橋剤)
シール材組成物は、共架橋剤をさらに含むことができる。共架橋剤としては、例えば、キノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2-ポリブタジエン、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等があげられる。共架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
共架橋剤は、液状または固体状のいずれであってよく、ロール練りを行う場合、作業性及び分散性の観点から好ましくは固体状である。
【0040】
シール材組成物が共架橋剤を含む場合、その含有量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し、1~10質量部程度であることができる。
【0041】
(その他の成分)
シール材組成物は、必要に応じて、上述の成分以外の他の成分を含有することができる。他の含有としては、例えば、シリカおよびカーボンブラック以外のフィラー、架橋助剤、多価アルコール、シランカップリング剤以外の界面活性剤、粘着付与剤、難燃剤、離型剤、加工助剤、安定剤、ワックス類、滑剤等の添加剤をあげることができる。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーの具体例は、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状または粉末状樹脂(フッ素樹脂等)、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等を含む。シール材組成物がシリカおよびカーボンブラック以外のフィラーを含む場合、その含有量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対し、1~10質量部程度であることができる。
【0043】
架橋助剤としては、例えば酸化亜鉛等が挙げられる。
【0044】
多価アルコールとしては、例えばジエチレングリコール等が挙げられる。
【0045】
シール材組成物は、可塑剤を含むことができるが、可塑剤の含有量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、パーフルオロエラストマー100質量部に対100質量部に対して10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下)、可塑剤を含有しないことが極めて好ましい。可塑剤を含有させることによってシール材組成物の流動性が過度に高くなると、熱プレス形用の金型上において、シール材組成物が自重で変形し、得られるシール材に凹み等の不具合を生じ易くなる傾向となる。また、可塑剤を含有させると、シール材の耐熱性が低下しやすく、シール材に接触する物体に汚染を生じさせるおそれがある。
【0046】
また同様にシール材に接触する物体に汚染を生じさせるおそれのある他の添加剤、例えば、離型剤、ワックス類、滑剤、液状の加工助剤等の含有量は、できるだけ少なくすることが好ましく(例えば、架橋性ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、このような添加剤を含有しないことがより好ましい。
【0047】
なお、ここでいう可塑剤とは、狭義の可塑剤(シリコーン系、フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、クエン酸エステル系、トリメリット系可塑剤等)の他、オイル(シリコーン系オイル、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、フッ素系オイル、植物油、エポキシ化植物油等)も含まれる。
【0048】
シール材組成物は、パーフルオロエラストマー、シリカ、カーボンブラック、および必要に応じて添加されるその他の配合成分を均一に混練りすることにより調製することができる。混練り機としては、例えば、オープンロールのようなロール混練機;加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)のようなミキサー等の従来公知のものを用いることができる。これらの配合成分は、一度に混合して混練されてもよいし、一部の配合成分を混練した後、残りの配合成分を混練するといったように複数段に分けてすべての配合成分を混練するようにしてもよい。
【0049】
<高圧水素ガス用シール材>
上記シール材組成物を架橋成型することにより、架橋成型物であるシール材を製造することができる。架橋成型方法は、熱プレス成型、送りプレス成型、インジェクション成型のような従来公知の方法を採用することができる。架橋成型温度は、例えば100~200℃程度であり、好ましくは150~190℃である。必要に応じて、架橋成型温度と同程度の温度以上で二次架橋(熱処理)を行ってもよい。
【0050】
上記シール材組成物の架橋物を含むシール材は、優れた耐ブリスタ性および耐熱性を有することから、高圧水素ガス用シール材に好適である。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択されるが、その代表例はOリングのようなリング状である。
【0051】
本発明の高圧水素ガス用シール材は、例えば温度150℃以上の高温環境下でシール材としての機能を発揮することができ、好ましくは温度180℃以上、より好ましくは温度200℃以上の高温環境下でシール材としての機能を発揮する。
【0052】
本発明の高圧水素ガス用シール材は、少なくとも圧力90MPaの高圧水ガス下においてブリスタ現象が発生しない。
【0053】
本発明の高圧水素ガス用シール材のショアA硬度は、例えば85~95であってよい。
【0054】
本発明の高圧水素ガス用シール材は、硫黄を含まない。硫黄を含有しているとシール材から遊離した硫黄と水素が反応し、毒性のある硫化水素が発生する。発生した硫化水素は水素ガスの汚染や、人体への悪影響を及ぼす可能性がある。また、空気中で酸化されると硫酸となり、配管等を腐食する恐れがある。
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記のない限り、質量%及び質量部である。
【実施例0056】
[常態物性の評価]
JISK6250:2006に従い、2mm厚のシート状の物性評価用試料から、JISK6251:2017に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500m/分で引張り、引張強度、破断伸び、100%引張応力を、インストロン社製引張万能試験機にて測定した。また、JISK6253:2012に従い、タイプAデュロメーター硬さ試験機にて、シート状の物性評価用試料の硬度を測定した。これらの試験は、すべて温度25℃環境下で実施した。
【0057】
[耐熱性(圧縮永久ひずみ率)の評価]
JISK6262:に従い、300℃×72時間、圧縮率25%の条件で、JIS小型試験片(φ13×6h)を使用し、圧縮永久ひずみ率を算出した。
【0058】
[耐ブリスタ性の評価]
Oリングおよびφ13×2t試験片を使用し、以下の表1に示す条件にて、水素曝露試験を実施した。試験終了後、Oリングおよびφ13×2t試験片それぞれの外観および断面を観察した。
○:Oリングおよびφ13×2t試験片のいずれにも破損および亀裂が確認されなかった。
×:Oリングおよびφ13×2t試験片のいずれかに破損または亀裂が確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
<実施例1、2および比較例1~4>
表2に示す成分の配合比で8インチロールを用いて混合し、シール材組成物を得た。得られたシール材組成物を、温度160~180℃に設定した金型に投入し、時間3~20分加圧プレスで成型した。その後、200~300℃に設定したオーブンで2~8時間2次加硫を行ない、各評価試験用試料を得た。結果を表3に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例および比較例に用いた各配合成分の詳細は次のとおりである。
ゴム成分A:FFKM:テトラフルオロエチレン―パーフルオロビニルエーテル系パーフルオロエラストマー
ゴム成分B:FKM:フッ素ゴム
ゴム成分C:EPDM:エチレン-プロピレン-ジエンゴム
【0063】
架橋助剤:酸化亜鉛(JIS規格2種)
老化防止剤:2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン共重合体
【0064】
充填剤A:シリカ Elkem社製(SiDISTAR)、平均粒径:0.15μm
充填剤B:カーボンブラック-1 ダイアブラックH HAFカーボン
充填剤C:カーボンブラック-2 シーストGSO FEFカーボン
【0065】
シランカップリング剤:ビニルトリメトキシシラン
多価アルコール:エチレングリコール
共架橋剤-1:トリアリルイソシアヌレート
共架橋剤―2:トリメチロールプロパントリメタクリレート
【0066】
架橋剤-1:複合架橋剤:Arkema社製(Luperox 101 XL45-SP2E)
架橋剤―2:ビス(t-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン
架橋剤―3:2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示されるとおり、実施例1及び2では、耐ブリスタ性に優れると共に、圧縮永久歪ひずみ率が小さいシール材が得られた。これに対し、比較例1~4のシール材は、圧縮永久歪ひずみ率が大きく、比較例3及び4では耐ブリスタ性も不十分であった。このことから、本発明のシール材組成物によれば、良好な耐ブリスタ性および耐熱性を有する高圧水素ガス用シール材が得られることが分かる。