(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089970
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】導電性複合体分散液及びその製造方法、並びに導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240627BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20240627BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240627BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240627BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L25/18
C08L65/00
C08G61/12
H01B1/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205557
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】市川 宗樹
【テーマコード(参考)】
4J002
4J032
【Fターム(参考)】
4J002BC12W
4J002CE00X
4J002FB08W
4J002GQ02
4J002HA08
4J032BA04
4J032BA05
4J032BB01
4J032BC02
4J032BC32
4J032BD05
4J032CG01
(57)【要約】
【課題】メチルエチルケトンを分散媒として用いた導電性複合体分散液の保存安定性を向上させることを目的の一つとする。
【解決手段】π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒を含む導電性複合体分散液であり、前記分散媒は、メチルエチルケトンと、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を含み、前記メチルエチルケトンの含有量は前記分散媒の総質量に対して50質量%以上であり、前記ポリアニオンのドープに関与しないアニオン基が第四級アンモニウム基との結合を有する、導電性複合体分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒を含む導電性複合体分散液であり、
前記分散媒は、メチルエチルケトンと、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を含み、
前記メチルエチルケトンの含有量は前記分散媒の総質量に対して20質量%以上であり、
前記ポリアニオンのドープに関与しないアニオン基が第四級アンモニウム基との結合を有する、導電性複合体分散液。
【請求項2】
前記グリコールエーテル系有機溶剤の含有量は、前記分散媒の総質量に対して25質量%以上である、請求項1に記載の導電性複合体分散液。
【請求項3】
前記グリコールエーテル系有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む、請求項2に記載の導電性複合体分散液。
【請求項4】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、請求項3に記載の導電性複合体分散液。
【請求項5】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸を含む、請求項4に記載の導電性複合体分散液。
【請求項6】
前記第四級アンモニウム基の炭素数が4~40である、請求項5に記載の導電性複合体分散液。
【請求項7】
前記第四級アンモニウム基がテトラブチルアンモニウム基、テトラオクチルアンモニウム基の少なくとも1種を含む、請求項6に記載の導電性複合体分散液。
【請求項8】
第四級アンモニウムを含む有機溶媒に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が分散された水系分散液を滴下する反応工程と、反応により生じた析出物を回収する析出物回収工程と、前記析出物を洗浄溶剤で洗浄する洗浄工程と、分散媒と混合して前記析出物を分散させる分散工程を含む、導電性複合体分散液の製造方法であり、
前記分散媒がメチルエチルケトンと、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤の少なくとも1種とを含む、導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項9】
前記グリコールエーテル系有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む、請求項8に記載の導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項10】
基材の少なくとも一部に、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性複合体分散液を塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性複合体分散液及びその製造方法、並びに導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。さらに、ポリアニオンのドープに関与しないアニオン基をエポキシ化合物やアミン化合物と反応させ、化学的に修飾することにより、有機溶剤に対する分散性を付与することができる。これらの導電性複合体の分散液(導電性高分子分散液/含有液ということもある。)を基材に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムやキャパシタ等を製造することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のイソシアヌル酸誘導体を導電性高分子含有液に添加することにより、大気暴露耐性に優れた導電層を形成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、メチルエチルケトン(MEK)は導電性複合体を良好に分散し得る分散媒であるが、保存安定性に問題がある。すなわち、導電性複合体をMEKに分散し、夏場の室内温度に相当する40℃で1ヵ月程度保存した後で導電層を形成すると、保存前よりも導電性が劣る問題がある(後述の比較例1~2)。
【0006】
本発明者は保存安定性を向上させるべく、他の有機溶剤との組み合わせを鋭意検討した。その過程で、イソプロピルアルコール(IPA)をMEKと組み合わせると、保存安定性が向上することを見出した。しかしながら、導電層が白化してしまう現象(ブラッシング)が発生する新たな問題に直面した。
【0007】
本発明は、メチルエチルケトンを分散媒として用いた導電性複合体分散液の保存安定性を向上させることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒を含む導電性複合体分散液であり、前記分散媒は、メチルエチルケトンと、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を含み、前記メチルエチルケトンの含有量は前記分散媒の総質量に対して20質量%以上であり、前記ポリアニオンのドープに関与しないアニオン基が第四級アンモニウム基との結合を有する、導電性複合体分散液。
[2] 前記グリコールエーテル系有機溶剤の含有量は、前記分散媒の総質量に対して25質量%以上である、[1]に記載の導電性複合体分散液。
[3] 前記グリコールエーテル系有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む、[1]又は[2]に記載の導電性複合体分散液。
[4] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性複合体分散液。
[5] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の導電性複合体分散液。
[6] 前記第四級アンモニウム基の炭素数が4~40である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性複合体分散液。
[7] 前記第四級アンモニウム基がテトラブチルアンモニウム基、テトラオクチルアンモニウム基の少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の導電性複合体分散液。
[8] 第四級アンモニウムを含む有機溶媒に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が分散された水系分散液を滴下する反応工程と、反応により生じた析出物を回収する析出物回収工程と、前記析出物を洗浄溶剤で洗浄する洗浄工程と、分散媒と混合して前記析出物を分散させる分散工程を含む、導電性複合体分散液の製造方法であり、前記分散媒がメチルエチルケトンと、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤の少なくとも1種とを含む、導電性複合体分散液の製造方法。
[9] 前記グリコールエーテル系有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む、[8]に記載の導電性複合体分散液の製造方法。
[10] 基材の少なくとも一部に、[1]~[7]のいずれか一項に記載の導電性複合体分散液を塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性複合体分散液にあっては、MEKに沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を配合しているので、保存安定性が向上しており、さらに導電層形成時のブラッシングを抑制することができる。
本発明の導電性複合体分散液の製造方法によれば、保存安定性が向上した導電性複合体分散液を容易に製造することができる。
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、例えば基材としてフィルムを用いると、導電性フィルムを容易に製造することができる。
【0010】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪導電性複合体分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒を含む導電性複合体分散液である。
前記分散媒はメチルエチルケトン(MEK)と、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤(以下、単に「高沸点グリコールエーテル類」ということがある)。を含む。また、前記ポリアニオンのドープに関与しないアニオン基が第4級アンモニウム基との結合を有する。
【0013】
本態様の導電性複合体分散液において、導電性複合体はMEKと高沸点グリコールエーテル類を含む分散媒に分散されている。本明細書において、特に明記しない限り、分散と溶解を区別せず、分散媒と溶剤とを区別しない。
【0014】
<導電性複合体>
本態様の導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、この余剰のアニオン基が修飾されていない導電性複合体は水分散性を有する。
【0015】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性や導電性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0016】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0017】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下が好ましく、10万以上50万以下がより好ましい。質量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0018】
導電性複合体中のポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、アニオン基に第四級アンモニウム塩を反応させ、導電性複合体を疎水性に変換することが容易になる。
【0019】
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0020】
本態様において、ポリアニオンが有するドープに関与しない余剰のアニオン基(以下、「一部のアニオン基」ともいう)は、第四級アンモニウムとの反応によって修飾されている。この反応により、第四級アンモニウム基が一部のアニオン基に結合した形態となる。
【0021】
(ポリアニオンの化学的修飾)
本態様の導電性複合体の分散性を高める観点から、第四級アンモニウムは、窒素原子に結合する4つの1価の有機基を有することが好ましい。各有機基の炭素数は4以上が好ましい。各有機基の炭素数の上限値は特に制限されず、反応液における溶解性や反応性を考慮して、40以下が好ましく、25以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
また、保存安定性を高める観点から、各有機基の炭素数の下限値は3以上が好ましく、6以上がより好ましい。
また、第四級アンモニウムが有する各有機基の合計の炭素数(反応後に形成された第四級アンモニウム基が有する炭素数)は、保存安定性を高める観点から、4~100が好ましく、4~40がより好ましく、16~40がさらに好ましく、24~40が最も好ましい。
各有機基の炭素数の数は互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
ポリアニオンとの反応に用いる第四級アンモニウムは塩であってもよい。第四級アンモニウム塩を構成するアンモニウムカチオンのカウンターアニオンは、臭素イオン、塩素イオン等のハロゲンイオンやヒドロキシイオンが好ましく、水素イオン(プロトン)であってもよい。
【0023】
導電性複合体を構成するポリアニオの一部のアニオン基と、第四級アンモニウムとの反応によって、下記の置換基(C)が形成される。
【0024】
(置換基C)
-N+R11R12R13R14 ・・・(C)
[式(C)中、R11~R14はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0025】
置換基(C)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、第四級アンモニウムカチオンの正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0026】
化学式(C)におけるR11~R14は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
化学式(C)におけるR11~R14は第四級アンモニウムに由来する置換基である。
化学式(C)における炭化水素基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0027】
第四級アンモニウム塩は非水溶性であることが好ましい。ここで、非水溶性であるとは、20℃の水100gに対する溶解性が1g未満であることをいう。
非水溶性第四級アンモニウム塩は、後述する反応液においてポリアニオンに対する反応性が高いので、目的の置換基(C)を容易に形成することができる。
【0028】
第四級アンモニウム塩はテトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、テトラアルキルアンモニウムハライドであることがより好ましい。ポリアニオンに対する反応性が高く、反応生成物が水系分散媒に溶解し難くなり容易に析出するからである。カウンターアニオンのハロゲンイオンとしては、臭素イオン、塩素イオンが好ましく、導電性を高める観点から塩素イオンがより好ましい。
【0029】
第四級アンモニウム塩の具体例としては、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、テトラデシルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。これらの第四級アンモニウム塩を構成するアルキル基は直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0030】
<分散媒>
本態様の導電性複合体分散液は、導電性複合体を分散する分散媒を含み、前記分散媒はMEKと1種以上の高沸点グリコールエーテル類を含む。
【0031】
MEKの含有量は、導電性複合体の分散性を高め、後述する導電層の初期の表面抵抗値R0を低減する観点から、分散媒の総質量に対して、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましく、70質量%以上が最も好ましい。
【0032】
高沸点グリコールエーテル類の含有量は、導電性複合体分散液の保存安定性を高め、後述する導電層の表面抵抗値R1を低減する観点から、分散媒の総質量に対して、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましく、70質量%以上が最も好ましい。
【0033】
前記分散媒には、他の有機溶剤又は水が含まれてもよいし、含まれなくてもよい。
前記分散媒が、他の有機溶剤又は水を含む場合、これらの合計の含有量は、前記分散媒の総質量に対して10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましく、1質量%未満がさらに好ましい。ここで、他の有機溶剤とはMEK及び高沸点グリコールエーテル類以外の有機溶剤をいう。
【0034】
(高沸点グリコールエーテル類)
1気圧(760mmHg)における沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を次に例示する。括弧内の温度は沸点である。例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(約124℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(約193℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(約136℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(約196℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(約156℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(約217℃)、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル(約168℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(約230℃)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(約192℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(約246℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(約121℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(約146℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(約171℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート(約161℃)ジエチレングリコールジメチルエーテル(約162℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(約216℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(約276℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(約121℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(約188℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(約179℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(約255℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(約258℃)等が挙げられる。
前記分散媒に含まれる高沸点グリコールエーテル類は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0035】
本態様の導電性複合体分散液の総質量に対する、修飾型の導電性複合体(第四級アンモニウム基と結合した導電性複合体)の含有量は、例えば0.01質量%以上5.0質量%以下とすることができ、0.05質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体分散液を塗布して形成する導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体分散液における導電性複合体の分散性と保存安定性を高め、均一な導電層を形成することができる。
【0036】
≪導電性複合体分散液の製造方法≫
本発明の第二態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体に第四級アンモニウムを反応させ、前記ポリアニオンの一部のアニオン基に第四級アンモニウム基を結合させた修飾型の導電性複合体を得る反応工程と、前記修飾型の導電性複合体を分散媒に分散させ、導電性複合体分散液を得る分散工程と、を含む、導電性複合体分散液の製造方法である。
前記分散媒はメチルエチルケトンと、沸点が100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤の少なくとも1種とを含む。
本態様の製造方法によれば、第一態様の導電性複合体分散液が得られる。
【0037】
[反応工程]
導電性複合体を構成するポリアニオンに第四級アンモニウムを反応させ、ポリアニオンが有する余剰のアニオン基を修飾する方法は特に制限されず、公知方法を適用することができる。例えば、有機溶剤に第四級アンモニウム塩を溶解してなる有機アンモニウム溶液に導電性複合体を接触させる方法が挙げられる。具体的には粉末状の導電性複合体に前記有機アンモニウム溶液を混合し、反応液を得る方法、導電性複合体を含む水系分散液(導電性高分子水系分散液)に前記有機アンモニウム溶液を添加し、反応液を得る方法、前記有機アンモニウム溶液に導電性高分子水系分散液を添加し、反応液を得る方法、が挙げられる。
導電性複合体と第四級アンモニウムとの反応生成物は疎水性であるので、反応液が水系分散を含む場合、その反応液中に反応生成物が析出し得る。これを修飾型の導電性複合体として回収することができる。
【0038】
前記有機アンモニウム溶液を構成する有機溶剤は1種でもよく、2種以上でもよい。
前記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
【0039】
前記反応液中の第四級アンモニウム塩の含有量としては、反応させるπ共役系導電性高分子及びポリアニオン(すなわち導電性複合体)の総質量100質量部に対して、10質量部以上5000質量部以下が好ましく、100質量部以上1000質量部以下がより好ましく、150質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体と第四級アンモニウムとの反応効率が高まり、反応生成物を容易に得られる。
上記範囲の上限値以下であると、未反応の第四級アンモニウムが混入することによる導電性複合体の導電性低下を防止できる。
【0040】
(導電性高分子水系分散液)
導電性高分子水系分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に分散された分散液である。
ここで、水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤は水100g(20℃)に対して1g以上溶解するものをいう。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水系分散媒に含まれる水溶性有機溶剤は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。水の含有量が多いと、導電性複合体の分散性が高まり、ひいては第四級アンモニウムとの反応効率が高まる。さらに反応生成物が反応液中に析出し易くなる。
【0041】
導電性高分子水系分散液の総質量に対する、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.8質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの分散性が高まり、第四級アンモニウムとの反応効率が高まる。
【0042】
導電性高分子水系分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性複合体の水系分散液は市販のものを使用してもよい。
前記化学酸化重合には、公知の触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
前記化学酸化重合の反応温度は特に制限されず、例えば、5~40℃とすればよい。
【0043】
[析出物回収工程]
前記反応液中で生成した反応生成物(修飾型の導電性複合体)を析出物として回収する方法は特に制限されず、例えば、デカンテーションやろ過処理によって回収することができる。
【0044】
[洗浄工程]
回収した反応生成物をアルコールや水等の洗浄液で洗浄することによって、反応生成物に残留する水、未反応の第四級アンモニウム塩、導電性高分子水系分散液に含まれていた不純物等を除去することができる。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、反応生成物の上から洗浄液をかけ流してもよいし、洗浄液中で反応生成物を穏やかに攪拌してもよい。
【0045】
[乾燥工程]
洗浄した反応生成物を回収して乾燥させてもよい。乾燥方法は特に制限されず、自然乾燥、風乾、加熱乾燥等の公知の粉体の乾燥方法を適用することができる。
【0046】
[分散工程]
得られた反応生成物(修飾型の導電性複合体)を分散媒に分散させる方法は特に制限されず、従来の導電性複合体を分散させる常法を適用できる。例えば前述した分散媒に反応生成物を添加し、高圧ホモジナイザーで分散させる方法が好ましい。
【0047】
本態様の好ましい実施形態としては、第四級アンモニウムを含む有機溶媒に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が分散された水系分散液を滴下する反応工程と、反応により生じた析出物を回収する析出物回収工程と、前記析出物を洗浄溶剤で洗浄する洗浄工程と、分散媒と混合して前記析出物を分散させる分散工程をこの順で行う方法が挙げられる。
【0048】
≪導電性積層体≫
本発明の第三態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部に形成された、第一態様の導電性複合体分散液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体である。
本態様の導電性積層体は、後述の第四態様の製造方法によって製造することができる。
【0049】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0050】
前記導電層の平均厚さとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
導電層の平均厚さは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0051】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0052】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0053】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0054】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0055】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0056】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0057】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第四態様は、第一態様の導電性複合体分散液を用い、下記の工程1~3を順に行うことにより、導電性積層体を製造する方法である。
本態様によって第三態様の導電性積層体を製造することができる。
【0058】
(工程1)
本工程は、基材の少なくとも一部に前記導電性複合体分散液を塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥して導電層を形成することにより、導電性積層体を得る工程である。
【0059】
前記基材の説明は前述と同様であるので、ここで重複する説明は省略する。
【0060】
導電性複合体分散液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0061】
導電性複合体分散液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0062】
基材に導電性複合体分散液を塗布した直後の塗膜の厚さとしては、例えば、0.1μm以上500μm以下が好ましく、1μm以上100μm以下がより好ましく、5μm以上50μm以下がさらに好ましい。
上記の塗膜の厚さは、例えば、バーコーターの番手を変更することにより調整することができる。
【0063】
基材に塗布した導電性複合体分散液の塗膜を乾燥させ、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
乾燥後にUV照射を行い、塗膜に含まれるバインダ成分を硬化させてもよい。
【0064】
塗膜の乾燥により、基材の任意の面に導電層が形成された導電性積層体が得られる。
導電性積層体が有する導電層の平均厚さとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
導電層の平均厚さは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0065】
調製した直後の初期の導電性複合体分散液を用いて形成した導電層の表面抵抗値は、例えば、3500Ω/□以下とすることができ、3000Ω/□以下が好ましく、2000Ω/□以下がより好ましく、1000Ω/□以下がさらに好ましい。
調製後に40℃で1ヶ月保存した後の導電性複合体分散液を用いて形成した導電層の表面抵抗値は、例えば、3500Ω/□以下とすることができ、3000Ω/□以下が好ましく、2000Ω/□以下がより好ましく、1000Ω/□以下がさらに好ましい。
導電層の表面抵抗値の下限値は特に制限されず、目安として10Ω/□が挙げられる。
【実施例0066】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で撹拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間で滴下し、この溶液を12時間撹拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0067】
(製造例2)導電性高分子水系分散液の調製
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次いで、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS水分散液)溶液を得た。なお、PEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%であった。
【0068】
(製造例3)
テトラブチルアンモニウムブロミド2.4gをエタノール100gに溶解させた有機層に、製造例2で調製したPEDOT-PSS水分散液100gを滴下して加えて30分撹拌した。析出物をろ取し、メタノール100gを加えて30分撹拌後に再度析出物をろ取した。この洗浄操作をもう1度繰り返した。これにより、導電性複合体1.1gを得た。
【0069】
(製造例4)
テトラブチルアンモニウムブロミド2.4gをテトラオクチルアンモニウムブロミド2.4gに変更した以外は製造例3と同様にして、導電性複合体1.1gを得た。
【0070】
(実施例1)
製造例3で得た導電性複合体1.1gとメチルエチルケトン(MEK)205.5gとプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)69gを加えて高圧ホモジナイザーで処理することで、導電性複合体分散液を得た。
得られた導電性複合体分散液をバーコーターNo.8でポリエステルフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、120℃で2分間乾燥することで導電性フィルムを得た。
【0071】
(実施例2)
製造例3で得た導電性複合体1.1gとメチルエチルケトン69gとプロピレングリコールモノメチルエーテル205.5gを加えて高圧ホモジナイザーで処理することで、導電性複合体分散液を得た。これを用い、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0072】
(実施例3)
製造例3で得た導電性複合体1.1gとメチルエチルケトン137.3gとプロピレングリコールモノメチルエーテル137.3gを加えて高圧ホモジナイザーで処理することで、導電性複合体分散液を得た。これを用い、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0073】
(実施例4)
製造例3で得た導電性複合体1.1gを製造例4で得た導電性複合体1.1gに変更した以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0074】
(実施例5)
製造例3で得た導電性複合体1.1gを製造例4で得た導電性複合体1.1gに変更した以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。
【0075】
(実施例6)
製造例3で得た導電性複合体1.1gを製造例4で得た導電性複合体1.1gに変更した以外は、実施例3と同様にして導電性フィルムを得た。
【0076】
(比較例1)
製造例3で得た導電性複合体1.1gとメチルエチルケトン274.5gを加えて高圧ホモジナイザーで処理することで、導電性複合体分散液を得た。これを用い、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0077】
(比較例2)
製造例3で得た導電性複合体1.1gを製造例4で得た導電性複合体1.1gに変更した以外は、比較例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0078】
(比較例3)
製造例4で得た導電性複合体1.1gとメチルエチルケトン205.5gとイソプロピルアルコール(IPA)69gを加えて高圧ホモジナイザーで処理することで、導電性複合体分散液を得た。これを用い、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。ただし、形成した導電層にブラッシング(白化現象)が生じた。
【0079】
<導電性の評価>
各例で調製した初期の導電性複合体分散液を用いて作製した導電性フィルムについて、その表面抵抗値R0を測定した(単位:Ω/□:オームパースクエア)。この際、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとした。
測定結果を表1に示す。
【0080】
<保存安定性の評価>
各例で得た導電性複合体分散液を密閉瓶に入れ、40℃の恒温槽内で1ヵ月保存した。その後、保存した導電性複合体分散液を用い、各例と同様にして導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値R1を測定した。測定結果を表1に示す。
【0081】
各測定結果における表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。また、変化率(R1/R0で表される表面抵抗値の比)の値が小さい程、製造後の経時的な導電性低下を抑制できたことを示している。
【0082】
<分散液外観の評価>
各例で調製した初期の導電性複合体分散液と、40℃の恒温槽内で1ヵ月保存した後の導電性複合体分散液の色調を表1に示す。
【0083】
【0084】
本発明に係る各実施例の導電性複合体分散液は、いずれも良好な導電層を形成することができ、保存安定性が優れていた。実施例5~6にあっては、むしろ保存後の方が導電性に優れていた。
比較例1~2の導電性複合体分散液は沸点100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を含まないので、保存安定性が劣っていた。また、比較例1では初期は青色であったが、保存後に黒色に変色していた。
比較例3の導電性複合体分散液は沸点100℃以上のグリコールエーテル系有機溶剤を含まず、イソプロピルアルコールを含むので、保存安定性は良好であるが、形成される導電層が白化してしまうブラッシングが生じた。