(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089973
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】研磨用分散液
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240627BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240627BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240627BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240627BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205563
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】金島 実菜子
(72)【発明者】
【氏名】市川 宗樹
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB03
3C158CB10
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3C158DA17
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5F057AA28
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5F057EA29
5F057EA31
(57)【要約】
【課題】研磨速度が優れた研磨用分散液を提供する。
【解決手段】基材の無機材料からなる表面を化学的機械的研磨する際に使用される研磨用分散液であって、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、砥粒と、分散媒とを含む研磨用分散液。前記研磨用分散液の25℃におけるpHは2.0~7.0であることが好ましい。前記研磨用分散液のゼータ電位は-100~0mVであることが好ましい。前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であることが好ましい。前記研磨用分散液はさらに塩基性化合物を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の無機材料からなる表面を化学的機械的研磨する際に使用される研磨用分散液であって、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、砥粒と、分散媒とを含む研磨用分散液。
【請求項2】
25℃におけるpHが2.0~7.0である、請求項1に記載の研磨用分散液。
【請求項3】
ゼータ電位が-100~0mVである、請求項1又は2に記載の研磨用分散液。
【請求項4】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項3に記載の研磨用分散液。
【請求項5】
さらに塩基性化合物を含む、請求項4に記載の研磨用分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する研磨用分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。このような導電性複合体を含有する導電性高分子含有液を用いて形成した固体電解質層を備えたキャパシタが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
ところで、半導体デバイスやディスプレイパネルの製造において、種々の無機材料からなる基板を平坦化するために化学的機械的研磨(略称:CMP)が行われる。具体的には砥粒と分散媒を含む研磨用組成物を基板表面に塗布し、その上から研磨パッドで基板表面を擦ることにより、基板表面を研磨し、平坦化する。この際、研磨用組成物にπ共役系導電性高分子の一種であるポリピロールを配合することにより、研磨速度を向上させ得ることが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-100744号公報
【特許文献2】特許第4791037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、研磨速度が優れた研磨用分散液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 基材の無機材料からなる表面を化学的機械的研磨する際に使用される研磨用分散液であって、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、砥粒と、分散媒とを含む研磨用分散液。
[2] 25℃におけるpHが2.0~7.0である、[1]に記載の研磨用分散液。
[3] ゼータ電位が-100~0mVである、[1]又は[2]に記載の研磨用分散液。
[4] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の研磨用分散液。
[5] さらに塩基性化合物を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の研磨用分散液。
【発明の効果】
【0007】
本発明の研磨用分散液によれば、CMPにおける研磨速度を向上させることができる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪研磨用分散液≫
本発明の第一態様は、基材の無機材料からなる表面を化学的機械的研磨する際に使用される研磨用分散液であって、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、砥粒と、分散媒とを含む研磨用分散液である。
【0011】
<導電性複合体>
本態様の導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0012】
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
[ポリアニオン]
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を形成するポリアニオンは一種でもよいし、二種以上でもよい。
【0015】
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは、例えば1000~100万とすることができる。
ここでポリアニオンの重量平均分子量Mwは、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0016】
前記導電性複合体の体積平均粒子径は10~1000nmであることが好ましい。
上記範囲であると研磨用分散液中における分散性が高まり、研磨速度の向上が高まる。
前記導電性複合体の平均粒子径は、動的光散乱法(DLS)により測定し、キュムラント法で解析した平均粒子径である。
【0017】
本態様の研磨用分散液の総質量に対する前記導電性複合体(すなわちπ共役系導電性高分子及び全ポリアニオン)の含有量は、0.00002~5.00質量%が好ましく、0.0005~2.00質量%がより好ましく、0.001~1.00質量%がさらに好ましい。上記好適な範囲であると、研磨用分散液中における導電性複合体の分散性をより高めることができる。
【0018】
本態様の研磨用分散液に含まれる砥粒100質量部に対して、前記導電性複合体(すなわちπ共役系導電性高分子及び全ポリアニオン)の含有量は、0.01~1000質量部が好ましく、0.05~500質量部がより好ましく、0.1~100質量部がさらに好ましい。上記好適な範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。
【0019】
[砥粒]
砥粒としては、公知のCMPに使用される砥粒が適用でき、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ、チタニア、セリア(酸化セリウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、ゲルマニア、マグネシア、窒化珪素、それらの共形成生成物、及びそれらの組み合わせから成る群より選択された金属酸化物の砥粒が挙げられる。シリカとしては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカが挙げられる。
【0020】
砥粒の質量平均粒子径は、例えば0.005~10.0μmとすることができ、0.01~5.0μmが好ましい。
【0021】
本態様の研磨用分散液の総質量に対する砥粒の含有量は、例えば0.1~20質量%の範囲で調整することが好ましく、例えば0.5~15質量%または1~10質量%とすることができる。
【0022】
[分散媒]
本態様の研磨用分散液に含まれる分散媒は、導電性複合体が親水性であることから、水を含む水系分散媒であることが好ましい。また、水以外の分散媒を含んでもよい。水以外の分散媒は、前記導電性複合体の分散性を著しく損なうものでなければ特に限定されない。導電性複合体はポリアニオンに由来する余剰のアニオン基を有し、水に対する分散性が高いので、水以外の分散媒は水溶性有機溶剤が好ましい。ここで水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。分散媒として含まれる水溶性有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0023】
研磨用分散液中の不揮発成分を除いた分散媒の総質量に対する水の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。上記下限値以上で水を含むと、研磨用分散液に含まれる導電性複合体の分散性が高まる。
【0024】
[塩基性化合物]
本態様の研磨用分散液には1種以上の塩基性化合物を含んでもよい。塩基性化合物を含むと研磨用分散液のpHを上昇させ、所望の範囲に調整することができる。
塩基性化合物は、ポリアニオンの余剰のアニオン基からプロトンを受け取るブレンステッド塩基として機能するものである。この機能を果たすために、塩基性化合物の水に対する溶解量は、20℃の水100gに対して、0.001g以上であることが好ましい。前記溶解量の上限値は特に制限されないが、例えば0.1g程度であっても充分に上記機能は果たし得る。
【0025】
塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0026】
アミンとしては、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、窒素含有芳香族化合物等が挙げられる。
脂肪族1級アミンとしては、モノエチルアミン、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
脂肪族2級アミンとしては、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
脂肪族3級アミンとしては、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
【0027】
窒素含有芳香族化合物(少なくとも1つの窒素原子が環構造を形成する芳香族化合物)としては、例えば、ピロール、インドール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、N-プロピルイミダゾール、N-ブチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン及びこれらのアルキル置換体(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1~4のアルキル基での置換体)、ハロゲン置換体(例えば、フロロ、クロロ、ブロム等のハロゲン基での置換体)、ニトリル置換体等の誘導体が挙げられる。
【0028】
研磨用分散液に含まれる塩基性化合物の含有量は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部(つまり導電性複合体100質量部)に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下の範囲で適宜調整すればよい。
【0029】
[任意の添加剤]
研磨用分散液は、任意の添加剤を含有してもよく、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部(つまり導電性複合体100質量部)に対して、例えば、1~1000質量部とすることができる。ここで、任意の添加剤は、前記導電性複合体、前記砥粒、前記分散媒、及び前記塩基性化合物以外の化合物である。
【0030】
[pH]
本態様の研磨用分散液の25℃におけるpHは、2.0~7.0が好ましく、2.0~5.0、又は2.5~4.0範囲としてもよい。
上記の好適な範囲のpHは、基材の表面の等電点より低く、砥粒の構成材料の等電点よりも高い状態となりやすい。この状態であると、基材の表面に対する砥粒の親和性が静電相互作用により高まり、結果として研磨速度をより高めることができる。
【0031】
[ゼータ電位]
本態様の研磨用分散液のゼータ電位は、-100~0mVであることが好ましく、-100~-20mV、又は-80mV~-40mVの範囲としてもよい。上記範囲であると、本態様の研磨用分散液を用いたCMPの研磨速度をより一層向上させることができる。
ここで、ゼータ電位の測定原理としては、電気泳動光散乱法を採用する。電気泳動光散乱法としては例えばゼータ電位測定システムELSZ(大塚電子社製)、ナノ粒子径測定装置NANOTRAC WAVE(マイクロトラック・ベル社製)、粒子径・ゼータ電位・分子量測定装置ゼータサイザー(マルバーン・パナリティカル社製)にて測定することができる。測定条件は、研磨用分散液のpHを所望の範囲(例えば2.0~7.0、25℃)に調整し、研磨用分散液の総質量に対する砥粒及び導電性複合体の合計含有量を0.01~0.1質量%とし、温度を25℃として測定とする。
【0032】
≪研磨用分散液の製造方法≫
本発明の研磨用分散液は、上述した導電性複合体と、砥粒と、分散媒と、必要に応じて塩基性化合物やその他の任意成分を混合して製造することができる。
各材料は公知方法により得られ、市販品を用いてもよい。
【0033】
≪研磨用分散液の使用方法≫
本発明にかかる研磨用分散液は、基材の無機材料からなる表面に研磨パッドを接触させながら擦り、その表面を化学的機械的に研磨する際に、基材表面と研磨パッドの間に介在させる用途で用いられる。
【0034】
(基材)
基材としては、例えば、半導体デバイスの製造に使用される半導体基板や、フラットパネルディスプレイ等の製造に使用されるガラス基板等が挙げられる。基材の全体が無機材料である必要はなく、研磨対象となる表面の構成材料が無機材料であればよい。
前記表面を構成する無機材料としては、シリコン(pH2.5)、サファイア(pH9.0)、窒化ガリウム(pH5.0)、シリコンカーバイド(pH3.5)等が挙げられる。ここで括弧内のpHは、各材料のおよその等電点を示す。
【0035】
(研磨パッド)
研磨パッドは、任意の好適な研磨パッドであることができる。例えば、米国特許第5489233号明細書、同第6062968号明細書、同第6117000号明細書、及び同第6126532号明細書に記載された研磨パッドが挙げられる。
【0036】
≪研磨用分散液の作用メカニズム≫
被研磨物である基材表面及び、砥粒は表面電荷をもっており、基材表面と砥粒の間で働く静電的相互作用が研磨速度に大きく影響する。例えば、基材表面と砥粒が静電的に同符号である場合、静電斥力によって研磨速度は下がる。一方、静電的に異符号である場合、静電引力により研磨速度が向上する。
例えば、砥粒を構成するシリカの等電点がpH約2.5、基材表面を構成するアルミナの等電点がpH約9.0である。ここで、研磨用分散液のpHが基材表面の等電点より低ければ、基材表面の表面電荷は正となる。一方、研磨用分散液のpHが砥粒の等電点より高ければ、砥粒の表面電荷は負となる。このとき、砥粒と基材表面の互いの表面電荷が異符号をとり、静電引力が働くので、研磨速度が向上する。つまり、砥粒としてシリカを用い、基材表面がアルミナである場合、研磨用分散液のpHは2.5超9.0未満が好ましい。
【実施例0037】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、ポリスチレンスルホン酸含有液を得て、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0038】
(製造例2)
3,4-エチレンジオキシチオフェン14.2gと、製造例1で得たポリスチレンスルホン酸36.7gとを2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返し、1.0質量%のPEDOT-PSS水分散液を得た。
【0039】
[研磨用分散液の調製例1]
次の方法により本発明に係る研磨用分散液を調製した。
市販の砥粒を含む研磨用分散液100g(型番:LUDOX SM、シグマアルドリッチ製、濃度30質量%、砥粒:シリカ)に、製造例2で得た導電性複合体分散液10g(砥粒300質量部に対して、導電性複合体1質量部)を加え、室温で撹拌することによって本発明に係る研磨用分散液Sを調製した。
【0040】
[pHの測定]
各例で調製した研磨用分散液について、市販のpHメータを用いて常法により、温度25℃でのpHを測定した。調製例1で得た研磨用分散液SのpHは2.0であった。
【0041】
[ゼータ電位の測定]
各例で調製した研磨用分散液について、蒸留水で希釈して砥粒の含有濃度を0.1質量%に調整したものを試料として、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ-2000ZS、大塚電子社製)を用いて、25℃でのゼータ電位を測定した。
調製例1で得た研磨用分散液Sのゼータ電位は-10mVであった。
【0042】
[研磨速度の測定]
市販の卓上研磨機を用いて、荷重20kPa、研磨ヘッド及びプラテン回転数をそれぞれ100rpmとし、被研磨物のサファイア基板を、研磨用分散液Sを用いて10分間研磨した。研磨前後の質量差を測定し、表面積及び基材密度から研磨速度を算出した。
【0043】
本発明に係る研磨用分散液Sを用いた場合と、導電性複合体を配合しない市販の研磨用分散液を用いた場合と比較して、研磨用分散液Sを用いた方が研磨速度は優れていた。