(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089974
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20240627BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205564
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 涼輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 淳平
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701EA34
3J701EA36
3J701EA76
3J701FA15
3J701FA53
3J701GA03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】車輪用軸受装置において、保持器の強度を確保しつつ車輪用軸受装置の軸方向の幅を狭く構成することができるものとする。
【解決手段】外輪2(外方部材)と、ハブ輪3及び内輪4(内方部材)と、ボール8(転動体)と、保持器7と、を備える車輪用軸受装置1において、ボール8(転動体)の一部が保持器7の軸方向端面10aから軸方向内側に突出し、保持器7の円環部10の径方向内側端部10cの径dが、ハブ輪3または内輪4(内方部材)の内側軌道面3a・4aの溝底の径Dよりも小さいものとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に外側軌道面が形成された外方部材と、
前記外側軌道面に対向する内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に介装された複数の転動体と、
環状に形成される円環部と前記円環部から周方向に一定の間隔で軸方向に延びる複数の柱部とを有し、隣り合う前記柱部と前記円環部とによって前記転動体の外周面に沿う曲面を有するポケットが形成され、前記ポケットに前記転動体を保持する保持器と、を備える、車輪用軸受装置であって、
前記転動体の一部が前記保持器の前記円環部の軸方向端面から軸方向内側に突出し、
前記円環部の径方向内側端部の径が、前記内方部材の前記内側軌道面の溝底の径よりも小さい、ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記柱部の径方向幅の略中央部分には、前記柱部の軸方向外側端部から軸方向内側に向かって切り欠き部が形成され、
前記切り欠き部は前記転動体の中心位置と重なるように形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記柱部の径方向内側端部から前記円環部の径方向内側端部までの径方向の長さは、1mm以上で構成される、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記円環部の軸方向端面から前記転動体の中心までの軸方向の長さは、前記転動体の半径よりも短い、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記円環部の径方向内側端面は軸方向に対して傾斜する面を有し、
前記柱部の径方向内側端部から前記円環部の径方向内側端部までの径方向の長さは、1mm以上で構成される、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記内方部材における前記円環部の径方向内側端面に対向する面は、前記円環部の径方向内側端面に対応した傾斜する面で構成される、請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記外方部材にはインナー側の外側軌道面とアウター側の外側軌道面とが形成され、
前記内方部材は、ハブ輪、内輪、インナー側ボール列、アウター側ボール列、を有し、
前記ハブ輪にはアウター側の内側軌道面が形成され、
前記内輪にはインナー側の内側軌道面が形成され、
前記インナー側ボール列では、前記内輪の前記インナー側の内側軌道面と前記外輪の前記インナー側の外側軌道面との間に転動自在に前記転動体が介装され、
前記アウター側ボール列では、前記ハブ輪の前記アウター側の内側軌道面と前記外輪のアウター側の外側軌道面との間に前記転動体が転動自在に介装され、
前記保持器は、前記インナー側ボール列に配置される保持器と前記アウター側ボール列に配置される保持器との一対で構成され、前記一対の前記保持器の前記円環部の軸方向端面同士が対向するようにそれぞれ配置され、
前記インナー側ボール列に配置される前記保持器は、前記インナー側ボール列の前記転動体を保持し、
前記アウター側ボール列に配置される前記保持器は、前記アウター側ボール列の前記転動体を保持し、
前記一対の前記保持器の前記円環部の軸方向端面間の距離は、4mm以下となるように構成される、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記複列の転動体のピッチ円径βと、前記複列の転動体における軸方向一側の転動体と軸方向他側の転動体との転動体間ピッチとが、β/α≧2.0の関係を満たす、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。前記車輪用軸受装置は、内周に外側軌道面が形成された外輪(外方部材)と、外輪の外側軌道面に対向する内側軌道面が形成された内輪(内方部材)と、外輪と内輪との両軌道面間に転動自在に介装された複数のボール(転動体)と、ボールを保持する保持器と、を備えている(特許文献1参照)。
前記車輪用軸受装置の保持器は、環状に形成される円環部と、円環部から周方向に一定の間隔で軸方向に延びる複数の柱部と、を有し、隣り合う柱部と円環部とによってボールの外周面に沿う曲面を有するポケットが形成され、ポケットにボールを保持する構成とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車輪用軸受装置では、用いられる自動車の電動化等の仕様に対応するために、車輪用軸受装置の軸方向に狭く且つ大径化させる仕様とすることが求められる場合がある。このように、車輪用軸受装置を軸方向の幅を狭く構成するにあたって保持器の軸方向の幅を狭くすることが考えられるが、従来の保持器の構成で円環部または柱部等を軸方向に狭くすると、保持器の強度が低下することが考えられる。
【0005】
そこで、本発明においては、保持器の強度を確保しつつ車輪用軸受装置の軸方向の幅を狭く構成することができる車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、内周に外側軌道面が形成された外方部材と、前記外側軌道面に対向する内側軌道面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に介装された複数の転動体と、環状に形成される円環部と前記円環部から周方向に一定の間隔で軸方向に延びる複数の柱部とを有し、隣り合う前記柱部と前記円環部とによって前記転動体の外周面に沿う曲面を有するポケットが形成され、前記ポケットに前記転動体を保持する保持器と、を備える、車輪用軸受装置であって、前記転動体の一部が前記保持器の前記円環部の軸方向端面から軸方向内側に突出し、前記円環部の径方向内側端部の径が、前記内方部材の前記内側軌道面の溝底の径よりも小さい、としたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0008】
即ち、本願の発明によれば、保持器の強度を確保しつつ車輪用軸受装置の軸方向の幅を狭く構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図。
【
図2】同じく車輪用軸受装置の保持器を示す拡大断面図。
【
図3】同じく車輪用軸受装置の内輪と保持器とボールとを示す拡大断面図。
【
図4】同じく車輪用軸受装置の保持器とボールとを示す拡大断面図。
【
図5】同じく車輪用軸受装置の保持器とボールとを示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、
図1から
図5を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0011】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5、アウター側ボール列6を具備する。ここで、本明細書において、インナー側とは、車輪用軸受装置1を車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車輪用軸受装置1を車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、車輪用軸受装置1の回転軸と平行な方向を「軸方向」、車輪用軸受装置1の回転軸に直交する方向を「径方向」、車輪用軸受装置1の回転軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」と表す。また、回転軸に沿って軸受内部から遠ざかる側を「軸方向外側」、回転軸に沿って軸受内部に近づく側を「軸方向内側」と表す。
【0012】
図1に示すように、外輪2は、インナー側ボール列5及びアウター側ボール列6を介してハブ輪3と内輪4を支持するものである。外輪2は、略円筒状に形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2aとアウター側の外側軌道面2bとが形成されている。
【0013】
図1に示すように、ハブ輪3は、車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、円柱状に形成されている。ハブ輪3の内周面には、周方向に構成されるアウター側の内側軌道面3aが形成されている。ハブ輪3は、アウター側の内側軌道面3aが外輪2のアウター側の外側軌道面2bに対向するように配置されている。
【0014】
図1に示すように、内輪4は、円柱状に形成されている。内輪4は、ハブ輪3と対向するようにハブ輪3に対してインナー側に配置される。内輪4の軸方向内側端面とハブ輪3の軸方向内側端面とは当接した状態とされる。内輪4の外周面には、周方向に環状に構成されるインナー側の内側軌道面4aが形成されている。内輪4は、インナー側の内側軌道面4aが外輪2のインナー側の外側軌道面2aに対向するように配置されている。
【0015】
図1に示すように、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール8が保持器7によってそれぞれ環状に保持されてそれぞれ構成される。インナー側ボール列5では、内輪4の内側軌道面4aと外輪2のインナー側の外側軌道面2aとの間に転動自在にボール8が介装されている。アウター側ボール列6では、ハブ輪3の内側軌道面3aと外輪2のアウター側の外側軌道面2bとの間にボール8が転動自在に介装されている。
【0016】
図1または
図2に示すように、保持器7は、インナー側ボール列5に配置される保持器7とアウター側ボール列6に配置される保持器7との一対で構成され、一対の保持器7はインナー側とアウター側とに対象となるようにそれぞれ配置される。インナー側ボール列5に配置される保持器7は、インナー側ボール列5のボール8を保持する。アウター側ボール列6に配置される保持器7は、アウター側ボール列6のボール8を保持する。保持器7は、ポリアミド66(PA66)またはポリアミド46(PA46)等の素材から構成されている。また、補強材として、樹脂の中にグラスファイバが5%~30%の配合率で含まれている。
【0017】
図1または
図2に示すように、保持器7は、環状の円環部10と、複数の柱部11とを有している。円環部10は、ボール8の中心位置Pよりも軸方向中央側に位置している。柱部11は、円環部10から軸方向外側に延びている。柱部11は、円環部10の周方向に沿って等間隔に配置されている。隣り合う柱部11の間には、ボール8を独立して保持するポケット12が等間隔で形成されている。ポケット12の内面はボール8の外周面に沿う曲面で構成されている。ポケット12の半径r’はボール8の半径rよりも若干大きく構成される。ボール8は、高炭素クロム軸受鋼SUJ2からなる鋼球等から構成されている。複数のボール8は、保持器7のポケット12に回転自在にそれぞれ保持されている。
【0018】
図1または
図2に示すように、柱部11は、円環部10から円環部10の外周面よりも外径側に離れるように傾斜して延出している。柱部11が円環部10における径方向側の部分から延出することによって、円環部10と柱部11(径方向内側端部11a)との境界部分に段差部13が形成されている。保持器7の柱部11の径方向内側端部11aは、軸方向に対して平行に構成されている。柱部11の径方向幅の略中央部分には、柱部11の軸方向外側端部から軸方向内側に向かって切り欠き部14が形成されている。切り欠き部14は、ボール8の中心位置Pと重なるように形成されている。そして、隣接するボール8同士の距離ができるだけ短くなるようにボール8の中心位置Pを配置するように切り欠き部14を構成とすることで、隣接するボール8同士の間隔を狭くして、保持器7による保持するボール8の個数を増やすことができる。
【0019】
図1または
図2に示すように、円環部10の軸方向端面10aがボール8の端部に比べて軸方向外側(柱部11側)に位置している。保持器7の円環部10は、ボール8の一部が円環部10の軸方向端面10aから軸方向内側に突出するように構成されている。保持器7の円環部10の径方向内側端面10bは、軸方向に対して平行に構成されている。円環部10の径方向内側端部10cは、円環部10の最も回転軸心側に位置する部分を構成する。本実施形態では円環部10の径方向内側端面10bが軸方向に対して平行に構成されていることから、円環部10の径方向内側端面10bは径方向内側端部10cとして構成され、円環部10の径方向内側端部10cは軸方向に対して平行に構成されている。円環部10の径方向内側端部10c(径方向内側端面10b)は、柱部11の径方向内側端部11aよりも径方向内側(回転軸心側)に突出するように構成されている。保持器7の円環部10の径方向内側端部10cの径dが、ハブ輪3または内輪4の内側軌道面3a・4aの溝底の径Dよりも小さく構成されている。
【0020】
このように、ボール8の一部が保持器7の軸方向端面10aから軸方向内側に突出することから、ボール8の一部が保持器7の軸方向端面10aから突出しない構成のものに比べて、保持器7の円環部10を軸方向側に短く構成して、車輪用軸受装置1の軸方向の幅を狭く構成することができる。また、保持器7の円環部10の径方向内側端部10cが柱部11の径方向内側端部11aよりも径方向内側(回転軸心側)に突出して、保持器7の円環部10の径方向内側端部10cの径dがハブ輪3または内輪4(内方部材)の内側軌道面3a・4aの溝底の径Dよりも小さく構成されることから、例えば、保持器7の円環部10の径方向内側端部10cの径dがハブ輪3または内輪4(内方部材)の内側軌道面3a・4aの溝底の径Dと同じ構成のものと比べて、保持器7の円環部10を肉厚状に構成することができ保持器7の強度を向上させることができる。したがって、保持器7の強度を確保しつつ車輪用軸受装置1の軸方向の幅を狭く構成することができる。
【0021】
図2に示すように、円環部10の径方向内側端部10c(径方向内側端面10b)が柱部11の径方向内側端部11aよりも径方向内側(回転軸心側)に突出する構成として、柱部11の径方向内側端部11a(段差部13)から円環部10の径方向内側端部10cまでの径方向の長さaが1mm以上で構成されると好適である。このように構成することによって、保持器7の強度をより確実に確保することができる。
なお、保持器7の柱部11の径方向内側端部11aは、軸方向に対して平行に構成されることに限定されず、軸方向に対して傾斜する面で構成することもできる。このように構成されるとき、柱部11の段差部13が径方向内側端部11aの最も回転軸心側に位置する部分として構成される。そして、前述のような保持器7の強度を確保する構成としては、柱部11の段差部13から円環部10の径方向内側端部10cまでの径方向の長さaが1mm以上で構成されると好適なものとされる。
【0022】
図2に示すように、円環部10の軸方向端面10aからボール8の中心までの軸方向の長さbは、ボール8の半径rよりも短く構成されている。円環部10の軸方向端面10aからボール8の中心までの軸方向の長さbは、0.7r<b<1.0rの関係を満たすように構成されると好適である。このように、円環部10の軸方向端面10aからボール8の中心までの軸方向の長さbがボール8の半径rよりも短く構成されることから、円環部10を軸方向側に短く構成して、車輪用軸受装置1の軸方向の幅を狭く構成することができる。
【0023】
図1に示すように、一対の保持器7はインナー側とアウター側とに対称となるようにそれぞれ配置されることから、一対の保持器7の円環部10の軸方向端面15同士は対向するようにそれぞれ配置される。車輪用軸受装置1の軸方向の幅を狭く構成するにあたって、一対の保持器7の円環部10の軸方向端面15間の距離cは、4mm以下となるように構成されると好適である。
【0024】
図3に示すように、円環部10の径方向内側端面10bは軸方向に対して傾斜する面(テーパ面)を有する構成とすることもできる。円環部10の径方向内側端面10bは、全体的に傾斜する面で構成される。径方向内側端面10bは、軸方向外側が広く且つ軸方向内側が狭く傾斜する面で構成されている。本実施形態では円環部10の径方向内側端面10bが軸方向に対して傾斜して構成されていることから、径方向内側端部10cは、軸方向端面10aと径方向内側端面10bとで形成される角部で構成されて、径方向内側端面10bの最も回転軸心側に位置する部分として構成されている。ハブ輪3または内輪4における円環部10の径方向内側端面10bと対向する面3b・4bは、円環部10の径方向内側端部10cの突出する形状に合わせて切り欠かれるように構成される。
【0025】
このように円環部10の径方向内側端面10bは軸方向に対して傾斜する面(テーパ面)を有することから、保持器7の強度を確保しつつ、ハブ輪3または内輪4における円環部10の径方向内側端面10bと対向する面3b・4bの切り欠き量(削り量)を比較的少なくして、ハブ輪3または内輪4の強度を確保することができる。保持器7の強度を確保するにあたっては、柱部11の径方向内側端部11a(段差部13)から円環部10の径方向内側端部10c(径方向内側端面10bの最も回転軸心側に位置する部分)までの径方向の長さeが1mm以上で構成されると好適である。なお、保持器7の柱部11の径方向内側端部11aが軸方向に対して傾斜する面で構成されるとき、前述のような保持器7の強度を確保する構成としては、柱部11の段差部13が径方向内側端部11aの最も回転軸心側に位置する部分として構成されて、柱部11の段差部13から円環部10の径方向内側端部10cまでの径方向の長さeが1mm以上で構成されると好適なものとされる。また、ハブ輪3または内輪4の強度を確保するにあたっては、ハブ輪3または内輪4(内方部材)における円環部10の径方向内側端面10bに対向する面3b・4bが、保持器7の円環部10の径方向内側端面10bの傾斜面の傾斜角度と一致するように径方向内側端面10bに対応した傾斜する面で構成されると好適である。なお
図1または
図2に示すように、円環部10の軸方向に対して傾斜する面を径方向内側端面10bの一部に有する構成とすることもできる。
【0026】
円環部10が肉厚状されることから、保持器7が切り欠き部14を備える構成であっても、保持器7の強度を確保することができる。また、円環部10を肉厚状にして保持器7の強度を向上させる構成とすることから、
図4に示すように、切り欠き部14の開口幅を比較的大きく且つ切り欠きの深さを比較的深く構成することもできる。またこのとき、
図5に示すように、切り欠き部14が軸方向に対して傾斜する方向に形成される構成とすることもできる。このように切り欠き部14が軸方向に対して傾斜する方向に形成される構成とすることで、保持器7を形成する型を抜く作業を容易に行うことができる。
【0027】
なお、インナー側とアウター側とに配置される保持器7のうち、いずれか一方の保持器7のみを上述した構成のものとし、いずれか他方の保持器を従来のような構成(例えば、円環部10の径方向内側端部10cの径dがハブ輪3または内輪4の内側軌道面3a・4aの溝底の径Dと同じ構成)のものとすることもできる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、更に種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【0029】
また、車輪用軸受装置1においては、ボール間ピッチαに対するピッチ円径βの比率(β/α)が2.0以上となるように設定されている。つまり、ピッチ円径βとボール間ピッチαとが、β/α≧2.0の関係を満たすように設定されている。
【0030】
ボール間ピッチαは、インナー側のボール8の列(インナー側ボール列5)におけるボール8の中心Pと、アウター側のボール8の列(アウター側ボール列6)におけるボール8の中心Pとの、軸方向における距離である。ボール間ピッチαは、転動体間ピッチαの一例である。
【0031】
ピッチ円径βは、回転軸心を中心とし、インナー側のボール8の列におけるボール8の中心Pを通る円の直径である。また、ピッチ円径βは、回転軸心を中心とし、アウター側のボール8の列におけるボール8の中心Pを通る円の直径である。ボール8のピッチ円径βは、転動体のピッチ円径βの一例である。
【0032】
ピッチ円径βとボール間ピッチαとを、β/α≧2.0となるように設定することで、車輪用軸受装置1の径方向の大きさを大きく形成するとともに、インナー側のボール8の列の保持器7とアウター側のボール8の列の保持器7とが干渉することを防ぎながら車輪用軸受装置1の軸方向の大きさを小さく形成することが可能となる。これにより、車輪用軸受装置1の径方向の大きさと軸方向の大きさとの最適化を図って、車輪用軸受装置1の剛性や寿命を高めつつ、車輪用軸受装置1を軽量化することが可能となっている。
【符号の説明】
【0033】
1 車輪用軸受装置
2 外輪(外方部材)
2a 外側軌道面
2b 外側軌道面
3 ハブ輪(内方部材)
3a 内側軌道面
4 内輪(内方部材)
4a 内側軌道面
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 保持器
8 ボール
10 円環部
10a 円環部の軸方向端面
10b 円環部の径方向内側端面
10c 円環部の径方向内側端部
11 柱部
11a 柱部の径方向内側端部
12 ポケット
13 段差部
14 切り欠き部
a 保持器の柱部の径方向内側端部から円環部の径方向内側端部までの径方向の長さ
b 保持器の円環部の軸方向端面からボールの中心までの軸方向の長さ
c 一対の保持器の円環部の軸方向端面間の距離
d 保持器の円環部の径方向内側端部の径
e 保持器の柱部の径方向内側端部から円環部の径方向内側端部までの径方向の長さ
D 内方部材の内側軌道面の溝底の径
P ボールの中心位置
r ボールの半径
r’ 保持器のポケットの半径
α ボール間ピッチ
β ピッチ円径