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特開2024-8998電子回路、半導体モジュール及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008998
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】電子回路、半導体モジュール及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/12 20060101AFI20240112BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240112BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H03K17/12
H01L25/04 C
H01L21/60 301B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187666
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2019232117の分割
【原出願日】2019-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 啓樹
(57)【要約】
【課題】並列に接続された複数の半導体素子の一部に電流が集中するのを抑制すること。
【解決手段】電子回路は、第1のスイッチング素子と、第1のスイッチング素子よりもオン電圧が高い第2のスイッチング素子を含む、複数のスイッチング素子(MOS1~MOS4)が並列に接続された電子回路であって、第1端子(32)から第1のスイッチング素子を経由して第2端子(31)に至る第1経路(P1’)のインダクタンスが、第1端子から第2のスイッチング素子を経由して第2端子に至る第2経路(P2’)のインダクタンスよりも大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子よりもオン電圧が高い第2のスイッチング素子を含む、複数のスイッチング素子が並列に接続された電子回路であって、
第1端子から前記第1のスイッチング素子を経由して第2端子に至る第1経路のインダクタンスが、前記第1端子から前記第2のスイッチング素子を経由して前記第2端子に至る第2経路のインダクタンスよりも大きい、電子回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電子回路が実装された基板を備え、
前記第1経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第1のスイッチング素子とを接続する第1の導電性ワイヤを含み、
前記第2経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第2のスイッチング素子とを接続する第2の導電性ワイヤを含み、
前記第1の導電性ワイヤのインダクタンスが、前記第2の導電性ワイヤのインダクタンスよりも大きい、半導体モジュール。
【請求項3】
次の条件(1)~(2)の少なくとも1つを満たす、
(1)前記第1の導電性ワイヤは、前記第2の導電性ワイヤよりも全長が長い、
(2)前記第1の導電性ワイヤは、前記第2の導電性ワイヤよりも断面積が小さい、請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記第1経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第1のスイッチング素子とを接続する第1の配線パターンを含み、
前記第2経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第2のスイッチング素子とを接続する第2の配線パターンを含み、
前記第1の配線パターンのインダクタンスが、前記第2の配線パターンのインダクタンスよりも大きい、請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
次の条件(3)~(4)の少なくとも1つを満たす、
(3)前記第1の配線パターンは、前記第2の配線パターンよりも全長が長い
(4)前記第1の配線パターンは、前記第2の配線パターンよりも断面積が小さい、請求項4に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記複数のスイッチング素子は、同一構造を有するスイッチング素子である、請求項2から請求項5のいずれかに記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記複数のスイッチング素子は、炭化ケイ素(SiC)を用いて作成されたスイッチング素子である、請求項2から請求項6のいずれかに記載の半導体モジュール。
【請求項8】
請求項2から請求項7のいずれかに記載の半導体モジュールであって、一対の端子間に並列に接続された複数の半導体モジュールを備え、
前記複数の半導体モジュールの各々を経由する、前記一対の端子の一方から前記一対の端子の他方までの各経路は、順方向電圧が低い半導体モジュールを経由する経路ほどインダクタンスが大きい、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路、半導体モジュール及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の半導体素子が設けられた基板を有し、インバータ装置等に利用される。例えば特許文献1に、この種の半導体装置の具体的構成が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の半導体装置は、複数のIGBT及びダイオードが並列に接続されている。この半導体装置は、並列に接続された個々のIGBTに電流が分散して流れるため、大電流が必要なインバータ装置への利用に適している。
【0004】
特許文献1に記載の半導体装置では、IGBT及びダイオードを実装する金属板が小型に形成されている。これにより、金属板の寄生インダクタンスが小さく抑えられて、インバータ装置の作動時に発生するサージ電圧が小さく抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-31590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IGBTやダイオード等の半導体素子には製造上の個体差がある。例えば特許文献1では、並列に接続された各ダイオードの順方向電圧(VF:Forward Voltage)がそれぞれ異なり、また、並列に接続された各IGBTのオン電圧(VON)もそれぞれ異なる。この個体差により、インバータ装置を作動させる際、一部のダイオードや一部のIGBTに電流が集中する。電流が集中する一部の半導体素子は、他の半導体素子よりも発熱し、場合によっては異常発熱して破損するおそれがある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、並列に接続された複数の半導体素子の一部に電流が集中するのを抑制することができる電子回路、半導体モジュール及び半導体装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る電子回路は、第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子よりもオン電圧が高い第2のスイッチング素子を含む、複数のスイッチング素子が並列に接続された電子回路であって、第1端子から前記第1のスイッチング素子を経由して第2端子に至る第1経路のインダクタンスが、前記第1端子から前記第2のスイッチング素子を経由して前記第2端子に至る第2経路のインダクタンスよりも大きい。
【0009】
本発明の一態様に係る半導体モジュールは、前記電子回路が実装された基板を備え、前記第1経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第1のスイッチング素子とを接続する第1の導電性ワイヤを含み、前記第2経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第2のスイッチング素子とを接続する第2の導電性ワイヤを含み、前記第1の導電性ワイヤのインダクタンスが、前記第2の導電性ワイヤのインダクタンスよりも大きい。
【0010】
本発明の一態様に係る半導体装置は、一対の端子間に並列に接続された複数の前記半導体モジュールを備え、前記複数の半導体モジュールの各々を経由する、前記一対の端子の一方から前記一対の端子の他方までの各経路は、順方向電圧が低い半導体モジュールを経由する経路ほどインダクタンスが大きい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、電子回路、半導体モジュール及び半導体装置において、並列に接続された複数の半導体素子の一部に電流が集中するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の一形態に係る半導体モジュールを示す平面模式図である。
図2】本発明の実施の一形態に係る半導体モジュールを示す等価回路図である。
図3A】本発明の実施の一形態において並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの長さ関係を概念的に示す図である。
図3B】本発明の実施の一形態において並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの長さ関係を概念的に示す図である。
図4】本発明の実施の一形態において並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの長さ関係を概念的に示す図である。
図5】本発明の実施の一形態において並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの断面積の大小関係を概念的に示す図である。
図6】本発明の実施の一形態において並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの断面積の大小関係を概念的に示す図である。
図7】本発明の実施の一形態において複数のダイオードの各々と接続される配線パターンの長さ関係を概念的に示す図である。
図8】本発明の実施の一形態において複数のダイオードの各々と接続される配線パターンの断面積の大小関係を概念的に示す図である。
図9】本発明の実施の一形態において複数のダイオードの各々と接続される配線パターンの長さ関係及び断面積の大小関係を概念的に示す図である。
図10】本発明の実施の一形態において並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの長さ関係を概念的に示す図である。
図11】本発明の実施の一形態に係る半導体装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用可能な半導体モジュールについて説明する。図1図2は、それぞれ、本発明の実施の一形態に係る半導体モジュール1を示す平面模式図、等価回路図である。なお、本発明の実施の一形態に係る半導体モジュール1はあくまで一例にすぎず、これに限定されることなく適宜変更が可能である。
【0014】
図1に示すように、半導体モジュール1は、例えばパワーモジュールに適用されるものであり、ベース板10、ベース板10上に配置された積層基板2及び積層基板2を収容するケース部材12を備える。
【0015】
ベース板10は、例えば銅、アルミニウム又はこれらの合金等からなる平面視方形状の金属板であり、積層基板2及びこれに実装された電子部品からの熱を外部に放射する放熱板として作用する。
【0016】
ケース部材12は、ベース板10の外形に沿った矩形状の樹脂製枠体であり、例えばベース板10上に接着される。ベース板10及びケース部材12に取り囲われた空間には不図示の封止用樹脂が充填される。この封止用樹脂により、積層基板2及びこれに実装された電子部品が上記の空間内に封止される。
【0017】
積層基板2は、例えばDBA(Direct Bonded Aluminum 登録商標)基板やDBC(Direct Bonded Copper 登録商標)基板、AMB(Active Metal Brazing)基板で構成される。積層基板2は、セラミック等の絶縁体、例えばアルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)等のセラミックス材料によって形成された絶縁層20を有する。絶縁層20の上面には、第1回路板21、第2回路板22及び第3回路板23が形成される。これらの回路板は、銅箔等の金属層であり、絶縁層20上に電気的に互いに絶縁された状態で島状に形成される。
【0018】
第1回路板21、第2回路板22、第3回路板23には、それぞれ、P端子(正電位点)31、U端子(中間電位点)32、N端子(負電位点)33が半田等の接合材を介して配置(接続)される。P端子31、U端子32、N端子は、半導体モジュール1に主電流を入出力する外部接続端子である。
【0019】
第1回路板21及び第2回路板22には、複数の電子部品が半田等の接合材を介して配置される。具体的には、第1回路板21には、スイッチング素子MOS1~MOS4及びダイオードSBD1~SBD4が接合材を介して配置される。第2回路板22には、スイッチング素子MOS5~MOS8及びダイオードSBD5~SBD8が接合材を介して配置される。
【0020】
スイッチング素子MOS1~MOS8は、例えばシリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、または炭化ガリウム(GaN)を用いて作成された半導体スイッチング素子であり、具体的には、パワーMOSFETである。スイッチング素子MOS1~MOS8がパワーMOSFETである場合には、裏面に主電極としてドレイン電極を、おもて面に、ゲート電極及び主電極としてソース電極をそれぞれ備えている。スイッチング素子MOS1~MOS8は、パワーMOSFETに寄生するボディダイオードを含んでいてよい。ボディダイオードは、パワーMOSFETに対して逆並列に接続され、裏面にカソード電極を、おもて面にアノード電極をそれぞれ備えている。スイッチング素子MOS1~MOS8は、IGBT等の別の構造を有するスイッチング素子であってもよい。スイッチング素子MOS1~MOS8がIGBTである場合には、裏面に主電極としてコレクタ電極を、おもて面に、ゲート電極及び主電極としてエミッタ電極をそれぞれ備えている。さらに、スイッチング素子MOS1~MOS8は、IGBTとダイオードとを1チップ化したRC(Reverse-Conducting)-IGBTであってもよい。この場合のダイオードは、IGBTに対して逆並列に接続され、裏面にカソード電極を、おもて面にアノード電極をそれぞれ備えている。
【0021】
スイッチング素子MOS1~MOS4は並列に接続される。スイッチング素子MOS1~MOS4は、ドレイン電極が第1回路板21に半田等の接合材を介して配置され、P端子31に電気的に接続される。また、ソース電極がボンディングワイヤを介して第2回路板22に電気的に接続され、U端子32に電気的に接続される。
【0022】
スイッチング素子MOS1~MOS4のゲート電極は1本のボンディングワイヤで接続される。これらのゲート電極を接続する1本のボンディングワイヤは、ケース部材12に埋め込まれた端子部材13と電気的に接続される。端子部材13からゲート電極に所定の閾値を越える電圧が印加される期間、スイッチング素子MOS1~MOS4がオンしてドレイン電極からソース電極に電流が流れる。端子部材13からゲート電極に所定の閾値を越える電圧が印加されない期間は、スイッチング素子MOS1~MOS4がオフしてドレイン電極からソース電極への電流が遮断される。
【0023】
スイッチング素子MOS5~MOS8も並列に接続される。スイッチング素子MOS5~MOS8は、ドレイン電極が第2回路板22に半田等の接合材を介して配置され、U端子32に電気的に接続される。また、ソース電極がボンディングワイヤを介して第3回路板23に電気的に接続され、N端子33に電気的に接続される。
【0024】
スイッチング素子MOS5~MOS8のゲート電極も1本のボンディングワイヤで接続される。これらのゲート電極を接続する1本のボンディングワイヤは、制御用の回路板を介してケース部材12に埋め込まれた端子部材14と電気的に接続される。端子部材14からゲート電極に所定の閾値を越える電圧が印加される期間、スイッチング素子MOS5~MOS8がオンしてドレイン電極からソース電極に電流が流れる。端子部材14からゲート電極に所定の閾値を越える電圧が印加されない期間は、スイッチング素子MOS5~MOS8がオフしてドレイン電極からソース電極への電流が遮断される。なお、ソース電極と第3回路板23の配線、およびゲート電極と制御用の回路板の配線は、ボンディングワイヤに限らず、リボンワイヤやリードフレームなど別の導電性を有する配線部材に置き換えてもよい。
【0025】
ダイオードSBD1~SBD8は、SiCを用いて作成されたダイオードであり、具体的には、ショットキバリアダイオード(Schottky Barrier Diode)である。ダイオードSBD1~SBD8は、Si、またはSiCを用いて作成されたダイオードであってよい。また、ダイオードSBD1~SBD8の一部又は全部を、JBS(junction barrier Schottky)ダイオード、MPS(Merged PN Schottky)ダイオード、PNダイオード等の別の構造を有するダイオードに置き換えてもよい。さらに、ダイオードSBD1~SBD8は、RC-IGBTに内蔵されるダイオードであってもよい。すなわち、ダイオードSBD1~SBD8は、ショットキバリアダイオードに限らず、また、それぞれが、別の構造を有するダイオードであってもよい。ただし、パラ接続されているダイオードは、共に同じ構造を有していることが好ましい。ダイオードSBD1~SBD8は、裏面に主電極としてカソード電極を、おもて面に主電極としてアノード電極をそれぞれ備えている。
【0026】
ダイオードSBD1~SBD4は、並列に接続された、第1のダイオードと、第1のダイオードよりも順方向電圧が高い第2のダイオードを含む、複数のダイオードである。ダイオードSBD5~SBD8も、並列に接続された、第1のダイオードと、第1のダイオードよりも順方向電圧が高い第2のダイオードを含む、複数のダイオードである。ここで、順方向電圧とは、ダイオードに順方向電流を流した時に生じる電圧である。例えば、アノード電極からカソード電極へ定格電流を流した時に、アノード電極とカソード電極との間に発生する電圧である。
【0027】
ダイオードSBD1~SBD4は、それぞれ、スイッチング素子MOS1~MOS4と並列に接続される。より詳細には、ダイオードSBD1~SBD4は、FWD(Free Wheeling Diode)であり、それぞれ、スイッチング素子MOS1~MOS4に対して逆並列に接続される。ダイオードSBD1~SBD4のアノード電極は、U端子32に電気的に接続され、ダイオードSBD1~SBD4のカソード電極は、P端子31に電気的に接続される。
【0028】
図2に示すように、U端子32から各ダイオードSBD1~SBD4を経由してP端子31に至る各経路に符号P1~P4を付す。各経路P1~P4は、それぞれ、U端子32と各ダイオードSBD1~SBD4のアノード電極とを電気的に接続する各配線部材W1~W4及び各ダイオードSBD1~SBD4のカソード電極とP端子31とを電気的に接続する各配線部材W1~W4によって構成される。
【0029】
経路P1~P4のうち、U端子32と各ダイオードSBD1~SBD4のアノード電極間(言い換えると、各配線部材W1~W4)に寄生するインダクタンスにそれぞれ符号L1~L4を付し、各ダイオードSBD1~SBD4のカソード電極とP端子31間(言い換えると、各配線部材W1~W4)に寄生するインダクタンスにそれぞれ符号L1~L4を付す。
【0030】
図2に示す各配線部材W1~W4は、図1のように、それぞれ、U端子32と第2回路板22上の各電極T1~T4とを接続する第2回路板22上の各配線パターン及び各電極T1~T4と各ダイオードSBD1~SBD4のアノード電極とを接続する各ボンディングワイヤBW1~BW4を含む。図2に示す各配線部材W1~W4は、図1のように、それぞれ、各ダイオードSBD1~SBD4のカソード電極とP端子31とを接続する第1回路板21上の各配線パターンを含む。これらの配線パターンは、図面の複雑化を避ける都合上、その図示を省略する。なお、ボンディングワイヤBW1~BW4は、リボンワイヤやリードフレーム等の別の導電性を有する配線部材に置き換えてもよい。
【0031】
ダイオードSBD5~SBD8は、それぞれ、スイッチング素子MOS5~MOS8と並列に接続される。より詳細には、ダイオードSBD5~SBD8は、FWDであり、それぞれ、スイッチング素子MOS5~MOS8に対して逆並列に接続される。ダイオードSBD5~SBD8のアノード電極は、N端子33に接続され、ダイオードSBD5~SBD8のカソード電極は、U端子32に接続される。
【0032】
図2に示すように、N端子33から各ダイオードSBD5~SBD8を経由してU端子32に至る各経路に符号P5~P8を付す。各経路P5~P8は、それぞれ、N端子33と各ダイオードSBD5~SBD8のアノード電極とを接続する各配線部材W5~W8及び各ダイオードSBD5~SBD8のカソード電極とU端子32とを接続する各配線部材W5~W8によって構成される。
【0033】
経路P5~P8のうち、N端子33と各ダイオードSBD5~SBD8のアノード電極間(言い換えると、各配線部材W5~W8)に寄生するインダクタンスにそれぞれ符号L5~L8を付し、各ダイオードSBD5~SBD8のカソード電極とU端子32間(言い換えると、各配線部材W5~W8)に寄生するインダクタンスにそれぞれ符号L5~L8を付す。
【0034】
図2に示す各配線部材W5~W8は、図1のように、それぞれ、N端子33と第3回路板23上の各電極T5~T8とを接続する第3回路板23上の各配線パターン及び各電極T5~T8と各ダイオードSBD5~SBD8のアノード電極とを接続する各ボンディングワイヤBW5~BW8を含む。図2に示す各配線部材W5~W8は、図1のように、それぞれ、各ダイオードSBD5~SBD8のカソード電極とU端子32とを接続する第2回路板22上の各配線パターンを含む。これらの配線パターンも、図面の複雑化を避ける都合上、その図示を省略する。なお、ボンディングワイヤBW5~BW8も、リボンワイヤやリードフレーム等の別の導電性を有する配線部材に置き換えてもよい。
【0035】
図2中、符号BD1~BD8は、それぞれ、スイッチング素子MOS1~MOS8に寄生するボディダイオードである。図2に示すように、ダイオードBD1~BD8は、それぞれ、スイッチング素子MOS1~MOS8のチャンネルに対して逆並列に接続される。
【0036】
このように構成される半導体モジュール1においては、各スイッチング素子MOS1~MOS8のオンオフ動作に伴い、負電位側から正電位側に逆向きの電流が流れる期間がある。各スイッチング素子MOS1~MOS8に逆並列に接続されたショットキバリアダイオードであるダイオードSBD1~SBD8は、順方向電圧が各スイッチング素子MOS1~MOS8に寄生したボディダイオードであるダイオードBD1~BD8よりも低い。そのため、U端子32からP端子31への電流は、印加電圧がダイオードBD1~BD4の順方向電圧を超えない限り、ダイオードSBD1~SBD4を流れる。N端子33からU端子32への電流は、印加電圧がダイオードBD5~BD8の順方向電圧を超えない限り、ダイオードSBD5~SBD8を流れる。
【0037】
例えば、スイッチング素子MOS1~MOS8がSiCを用いて作成されたパワーMOSFETである場合を考える。この場合、スイッチング素子MOS1~MOS8に寄生するダイオードBD1~BD8では、順方向電圧が通電時間の経過とともに増加する、通電劣化が生じ、スイッチング素子MOS1~MOS8が破損するおそれがある。しかし、本実施の形態では、順方向電圧の低いダイオードSBD1~SBD8をダイオードBD1~BD8と並列に接続することにより、電流がダイオードBD1~BD8に流れにくくなっている。そのため、ダイオードBD1~BD8の通電劣化が抑制され、スイッチング素子MOS1~MOS8の長期信頼性が高くなる。
【0038】
ダイオードSBD1~SBD8は、同一構造を有するダイオードであるものの、製造上の個体差を持つ。そのため、ダイオードSBD1~SBD8の順方向電圧はばらつきを含む。
【0039】
電流は、複数のダイオードが並列に接続される場合、通常、順方向電圧がより低いダイオードに集中する。U端子32からP端子31への電流がダイオードSBD1~SBD4のうち順方向電圧が最も低いダイオードに集中すると、そのダイオードは、電流の集中によって他のダイオードよりも発熱し、場合によっては異常発熱して破損するおそれがある。これと同様に、N端子33からU端子32への電流がダイオードSBD5~SBD8のうち順方向電圧が最も低いダイオードに集中すると、そのダイオードは、電流の集中によって他のダイオードよりも発熱し、場合によっては異常発熱して破損するおそれがある。
【0040】
そこで、本件発明者は、複数のダイオード間の順方向電圧のばらつきに着目し、本発明に想到した。本実施の形態では、上記のような異常発熱によるダイオードの破損を防ぐため、半導体モジュール1は、一部のダイオードへの電流の集中を抑制する構成となっている。
【0041】
より具体的には、上記の構成を得るため、本実施の形態では、4個のショットキバリアダイオードの順方向電圧が予め測定される。その中で順方向電圧が最も低いショットキバリアダイオードが経路P1に配置され、以降、順方向電圧が低い順にショットキバリアダイオードが経路P2~P4に配置される。すなわち、ダイオードSBD1~SBD4は、符号の数字が小さいものほど順方向電圧が低い。
【0042】
また、本実施の形態に係る半導体モジュール1では、並列に接続された経路P1~P4のうち、順方向電圧が低いショットキバリアダイオードが配置された経路ほど寄生インダクタンスを大きくしている。すなわち、経路P1~P4の寄生インダクタンスのうち、経路P1(言い換えると、配線部材W1及びW1)の寄生インダクタンス(インダクタンスL1とインダクタンスL1との合計であり、以下、「インダクタンス(L1+L1)」と記す。他の経路の寄生インダクタンスについても同様に記す。)が最も大きく、以降、経路P2~P4(言い換えると、配線部材W2及びW2、配線部材W3及びW3、配線部材W4及びW4)の順に寄生インダクタンスが大きい。すなわち、経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0043】
このように、半導体モジュール1は、第1端子(例えばU端子32)から第1のダイオード(例えばダイオードSBD1)を経由して第2端子(例えばP端子31)に至る第1経路(例えば経路P1)のインダクタンスが、第1端子から第2のダイオード(例えばダイオードSBD2)を経由して第2端子に至る第2経路(例えば経路P2)のインダクタンスよりも大きい電子回路を有する構成となっている。
【0044】
また、半導体モジュール1は、経路P1~P4の符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きくなるように、次の条件(1)~(4)の少なくとも1つを満たす。
(1)経路を構成するボンディングワイヤ(以下「第1の導電性ワイヤ」と記す。)は、当該経路よりも順方向電圧が高いショットキバリアダイオードが配置された経路を構成するボンディングワイヤ(以下「第2の導電性ワイヤ」と記す。)よりも全長が長い、
(2)第1の導電性ワイヤは、第2の導電性ワイヤよりも断面積が小さい、
(3)経路を構成する配線パターン(以下「第1の配線パターン」と記す。)は、当該経路よりも順方向電圧が高いショットキバリアダイオードが配置された経路を構成する配線パターン(以下「第2の配線パターン」と記す。)よりも全長が長い、
(4)第1の配線パターンは、第2の配線パターンよりも断面積が小さい。
【0045】
条件(1)~(2)は、第1の導電性ワイヤの寄生インダクタンスが第2の導電性ワイヤの寄生インダクタンスよりも大きくなる条件を示す。条件(3)~(4)は、第1の配線パターンの寄生インダクタンスが第2の配線パターンの寄生インダクタンスよりも大きくなる条件を示す。
【0046】
図3A図3B図4は、条件(1)を概念的に示す図である。図3A図3B図4に示すように、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど全長が長い。
【0047】
図3Aに示す例では、第1回路板21上にダイオードSBD1~SBD4がこの順に1列に配置される。また、順方向電圧が高いダイオードSBD4に近い側に第2回路板22が形成される。各ダイオードSBD1~SBD4は、それぞれ、ボンディングワイヤBW1~BW4を介して第2回路板22の電極T1~T4に電気的に接続される。すなわち、各ダイオードSB1~SBD4は、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、接続先の電極T1~T4との距離が離れるように配置される。そのため、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど、全長が長い。例えば、ダイオードSBD1が配置された経路P1を構成するボンディングワイヤBW1は、ダイオードSBD1よりも順方向電圧が高いダイオードSBD2が配置された経路P2を構成するボンディングワイヤBW2よりも全長が長い。従って、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。そのため、各ボンディングワイヤBW1~BW4を含む各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0048】
図3Bは、図3Aに示す例の変形例を示す。図3Bに示す例では、第1回路板21上にダイオードSBD1、SBD3、SBD4、SBD2がこの順に1列に配置される。また、第1回路板21の中心からダイオードSBD4側にややシフトした位置に第2回路板22が形成される。図3Bに示す例においても図3Aに示す例と同様に、各ダイオードSB1~SBD4は、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、接続先の電極T1~T4との距離が離れるように配置される。そのため、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど、全長が長く、寄生インダクタンスが大きい。従って、各ボンディングワイヤBW1~BW4を含む各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0049】
図4に示す例では、第1回路板21上にダイオードSBD1~SBD4がこの順に1列に配置される。また、第2回路板22が第1回路板21に並べて形成される。図4の平面視図に示すように、平面視において、各ダイオードSB1~SBD4と各電極T1~T4との距離は等しい。一方、図4の平面視図及び側面図に示すように、ボンディングワイヤBW1~BW4は、緩やかに曲げて配線されており、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、その曲げ具合(曲率)が大きい(曲率半径が小さい)。言い換えると、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど、大きく曲げて配線されてその全長が長くなっているため、寄生インダクタンスが大きい。従って、各ボンディングワイヤBW1~BW4を含む各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0050】
図5及び図6は、条件(2)を概念的に示す図である。図5及び図6に示す例では、図4の例と同様に、第1回路板21上にダイオードSBD1~SBD4がこの順に1列に配置される。また、第2回路板22が第1回路板21に並べて形成される。なお、図3A図3B及び図4の例と異なり、各ボンディングワイヤBW1~BW4の全長は同じである。
【0051】
図5及び図6に示すように、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど断面積が小さい。具体的には、図5の例では、各ボンディングワイヤBW1~BW4は、1本のワイヤからなり、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、線径が細く、断面積が小さい。図6の例では、各ボンディングワイヤBW1~BW4は、線径が同一の、複数本のワイヤからなり、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、本数が少なく、合計の断面積が小さい。すなわち、図5及び図6の何れの例においても、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど断面積が小さく、寄生インダクタンスが大きい。そのため、各ボンディングワイヤBW1~BW4を含む各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0052】
図7は、条件(3)を概念的に示す図である。図7の例では、図4の例と同様に、第1回路板21上にダイオードSBD1~SBD4がこの順に1列に配置される。図7の例では、各ダイオードSBD1~SBD4とP端子31との距離が異なる。具体的には、各ダイオードSBD1~SBD4は、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、P端子31との距離が遠く、第1回路板21上に形成された、P端子31との間の配線パターンが長い。そのため、経路P1~P4を構成する第1回路板21上の配線パターンは、符号の数字が小さいダイオードSBD1~SBD4が配置された経路を構成する配線パターンほどその全長が長く、寄生インダクタンスが大きい。従って、各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0053】
図8は、条件(4)を概念的に示す図である。なお、図8並びに後述の図9及び図10に示す矢印は、説明の便宜上付したものであり、構成要素を示すものではない。図8の例では、P端子31が第1回路板21の中央に半田等の接合材を介して配置される。各ダイオードSBD1~SBD4は、P端子31を中心とした四方に配置されており、P端子31との距離が等しい。第1回路板21には、幅の異なる複数のスリット41~46が形成されている。各スリット41~44は、各ダイオードSBD1~SBD4とP端子31との間に形成されており、符号の数字が小さいものほど幅が広い。スリット45は、ダイオードSBD1とダイオードSBD3との間に形成され、スリット46は、ダイオードSBD2とダイオードSBD4との間に形成される。スリット45及び46は、幅がスリット42よりも狭くスリット43よりも広い。これらのスリット41~46を第1回路板21に形成することにより、符号の数字が小さいダイオードSBD1~SBD4が配置された経路を構成する配線パターンほど、各ダイオードSBD1~SBD4とP端子31間の断面積の平均値が小さく、寄生インダクタンスが大きくなっている。そのため、各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0054】
図9は、条件(3)と(4)を組み合わせたものを概念的に示す図である。図9に示す例では、第1回路板21上にダイオードSBD1、SBD3、SBD4、SBD2がこの順に1列に配置される。また、第1回路板21の中心位置付近にP端子31が半田等の接合材を介して配置される。ダイオードSBD1とダイオードSBD2は、P端子31との距離が等しい。ダイオードSBD3とダイオードSBD4は、P端子31との距離が等しく、また、ダイオードSBD1及びSBD2よりもP端子31との距離が短い。また、各ダイオードSBD1~SBD4に近接する位置に幅の等しいスリット51~54が形成される。これらのスリット51~54を第1回路板21に形成することにより、第1回路板21上の配線パターンは、ダイオードSBD2又はSBD4が配置された経路を構成する配線パターンよりもダイオードSBD1又はSBD3が配置された経路を構成する配線パターンの方が断面積の平均値が小さく、寄生インダクタンスが大きくなっている。
【0055】
すなわち、図9の例では、ダイオードSBD1とSBD2は、P端子31から同じ距離離れているものの、ダイオードSBD1が配置された経路を構成する配線パターンの方が断面積の平均値が小さい。そのため、ダイオードSBD1が配置された経路P1は、ダイオードSBD2が配置された経路P2よりも寄生インダクタンスが大きい。
【0056】
ダイオードSBD3及びSBD4とP端子31との距離は、ダイオードSBD1及びSBD2とP端子31との距離よりも短い。また、ダイオードSBD3とSBD4は、P端子31から同じ距離離れているものの、ダイオードSBD3が配置された経路を構成する配線パターンの方が断面積の平均値が小さい。そのため、ダイオードSBD3が配置された経路P3は、経路P1及びP2よりも寄生インダクタンスが小さく、また、ダイオードSBD4が配置された経路P4よりも寄生インダクタンスが大きい。
【0057】
このように、図9に示す例においても、各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0058】
図1のU端子32からダイオードSBD1~SBD4を経由してP端子31に至る経路は、条件(1)と(3)を組み合わせたものである。同様に、図1のN端子33からダイオードSBD5~8を経由してU端子32に至る経路も、条件(1)と(3)を組み合わせたものである。
【0059】
具体的には、図1に示すように、ボンディングワイヤBW1~BW4は、符号の数字が小さいものほど、全長が長く、寄生インダクタンスが大きい。また、各ダイオードSBD1~SBD4は、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、P端子31との距離が遠く、第1回路板21上に形成された、P端子31との間の配線パターンが長い。そのため、経路P1~P4を構成する第1回路板21上の配線パターンは、符号の数字が小さいダイオードSBD1~SBD4が配置された経路を構成する配線パターンほどその全長が長く、寄生インダクタンスが大きい。この結果、各経路P1~P4は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0060】
同様に、ボンディングワイヤBW5~BW8も符号の数字が小さいものほど、全長が長く、寄生インダクタンスが大きい。また、各ダイオードSBD5~SBD8は、符号の数字が小さくなるほど(順方向電圧が低いダイオードほど)、P端子31との距離が遠く、第2回路板22上に形成された、U端子32との間の配線パターンが長い。そのため、経路P5~P8を構成する第2回路板22上の配線パターンは、符号の数字が小さいダイオードSBD5~SBD8が配置された経路を構成する配線パターンほどその全長が長く、寄生インダクタンスが大きい。この結果、各経路P5~P8は、符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。
【0061】
なお、半導体モジュール1は、条件(1)~(4)の全てを満たす構成である必要はない。例えば、ボンディングワイヤBW2の全長がボンディングワイヤBW1の全長よりも長い場合であっても、条件(2)~(4)の少なくとも1つを満たすことにより、経路P1全体の寄生インダクタンスが経路P2全体の寄生インダクタンスよりも大きくなるように、配線部材W1、W2、W1及びW2が形成されていればよい。
【0062】
このように、条件(1)~(4)は、例示的に挙げた条件である。半導体モジュール1は、符号の数字が小さい経路ほど寄生インダクタンスが大きければよく、条件(1)~(4)の全てを満たさない構成であってもよい。
【0063】
U端子32からP端子31への電流は、経路P1~P4のうち、順方向電圧が最も低いショットキバリアダイオードが配置された経路(すなわち経路P1)に流れ始める。経路P1に流れる電流の変化(増加)に伴い、配線部材W1及びW1の寄生インダクタンス(L1+L1)に比例した逆起電力が経路P1に発生する。この逆起電力により、経路P1に電流が流れにくくなる。言い換えると、電流は、経路P2~P4に流れやすくなる。
【0064】
経路P2においても電流が増加すると、配線部材W2及びW2の寄生インダクタンス(L2+L2)に比例した逆起電力が経路P2に発生して、経路P2に電流が流れにくくなる。そのため、電流は、経路P2よりも経路P3や経路P4に流れやすくなる。経路P3においても電流が増加すると同様の現象が発生するため、電流は、経路P3よりも経路P4に流れやすくなる。
【0065】
各経路P1~P4に流れる電流の変化率が小さくなるにつれて各経路P1~P4で発生する逆起電力も減少する。各経路P1~P4に流れる電流が一定値に収束すると、各経路P1~P4において逆起電力もゼロとなる。この定常状態では、均等な電流が各経路P1~P4に流れる。
【0066】
このように、順方向電圧が低いショットキバリアダイオードを経由する経路ほど寄生インダクタンスが大きくなるように各経路の配線部材を形成することにより、U端子32からP端子31への電流が、並列に接続された各経路P1~P4に速やかに分散され、一部の経路(例えば経路P1)での電流の集中が抑制される。そのため、電流の集中によるショットキバリアダイオード等の半導体素子の異常発熱及び破損が防がれる。
【0067】
同様に、ダイオードSBD5~SBD8も符号の数字が小さいものほど順方向電圧が低く、また、経路P5~P8も符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きい。そのため、経路P5~P8においても経路P1~P4と同様に電流が速やかに分散され、一部の経路での電流の集中が抑制される。
【0068】
電流の集中による一部の半導体素子の異常発熱を抑制することにより、半導体モジュール1の定格電流を増加させることができる。なお、上記のような電流集中の抑制効果は、ダイオードの並列接続数が増えるほど、より顕著に得ることが可能である。
【0069】
次に、具体的実施例について説明する。図10は、並列に接続された複数のダイオードと回路板上の電極とを接続するボンディングワイヤの長さ関係を概念的に示す図である。本実施例では、便宜上、経路P1と経路P2との関係についてのみ説明する。
【0070】
本実施例において、経路P1と経路P2は、条件(1)~(4)のうち条件(1)のみを満たす。すなわち、本実施例に係る経路P1と経路P2は、ボンディングワイヤBW1とボンディングワイヤBW2の全長が異なる点を除き、同一の構成を有する。言い換えると、経路P1と経路P2の寄生インダクタンスは、ボンディングワイヤBW1とBW2との全長差にだけ依存して異なる。
【0071】
経路P1、P2に流れる電流をそれぞれ「I」、「I」とし、ダイオードSBD1、SBD2の順方向電圧をそれぞれ「VF」、「VF」とし、時間を「t」とする。この場合、次式(1)に示す関係を満たすことにより、経路P1での電流の集中が抑制される。
【0072】
VF+(L1+L1)dI/dt=VF+(L2+L2)dI/dt・・・(1)
【0073】
ダイオードSBD1、SBD2の仕様上の順方向電圧をX±Y(V:ボルト)とし、それぞれの実測値をX-Y(V)、X+Y(V)とする。本実施例では、経路P1、経路P2の夫々にα(A:アンペア)の電流をβ(ns:ナノセカンド)流す。ここに例に挙げた数値を上記式(1)に代入すると、次式(2)が得られる。更に、次式(2)から次式(3)が得られる。
【0074】
-2Y(V)={(L2+L2)-(L1+L1)}×α(A)/β(ns)・・・(2)
(L1+L1)-(L2+L2)=2Y×β/α(nH:ナノヘンリー)・・・(3)
【0075】
上記式(3)に示すように、経路P1の寄生インダクタンス(L1+L1)を経路P2の寄生インダクタンス(L2+L2)よりも2Y×β/α(nH)大きくすることにより、経路P1での電流の集中が抑制される。
【0076】
例えば、寄生インダクタンス(L2+L2)が12nHの場合を考える。この場合、ボンディングワイヤBW2の全長をボンディングワイヤBW1の全長よりも10%短くする。これにより、寄生インダクタンス(L1+L1)が寄生インダクタンス(L2+L2)よりも0.12nH大きくなる。
【0077】
上記実施の形態において、積層基板2に配置されるスイッチング素子やダイオードの個数及び配置箇所は、上記構成に限定されず、適宜変更が可能である。
【0078】
上記実施の形態において、絶縁層20上の回路板の個数及びレイアウトは、上記構成に限定されず、適宜変更が可能である。
【0079】
上記実施の形態では、並列に接続された全ての経路の寄生インダクタンスを規定している(具体的には、経路P1~P4(又はP5~P8)順に寄生インダクタンスが大きい)が、少なくとも2つの経路の寄生インダクタンスを規定する(例えば経路P2よりも経路P1の寄生インダクタンスが大きくする)だけで、一部の経路における電流の集中を抑制する効果は得られる。
【0080】
上記実施の形態において、ダイオードの所定経路における寄生インダクタンスをアノード電極側のインダクタンス(例えばL1)とカソード電極側のインダクタンス(例えばL1)の合計で表す構成とした。この場合、順方向電圧の低い方のダイオードのアノード電極側のインダクタンスが、順方向電圧の高い方のダイオードのアノード電極側のインダクタンスよりも高いことが好ましい。すなわち、並列接続された各ダイオードの所定経路間のインダクタンスの大小は、アノード電極側のインダクタンスで調整してもよい。言い換えると、例えば経路P1~P4において、カソード電極と電気的に接続された配線部材W1~W4のインダクタンスL1~L4を等しくし、アノード電極と電気的に接続された配線部材W1~W4のインダクタンスL1~L4を符号の数字が小さいものほど大きくしてもよい。アノード電極は半導体モジュール1の表面側に現れ、ボンディングワイヤBW1~BW4の配線長等を変更することで容易にインダクタンスを調整することが可能だからである。なお、各ダイオード間のインダクタンスの調整は、アノード電極側の配線部材に限らず、カソード電極側の配線部材で調整してもよい。
【0081】
また、スイッチング素子MOS1~MOS4においても、ダイオードSBD1~SBD4と同様に一部のスイッチング素子に電流が集中する問題がある。具体的には、電流は、複数のスイッチング素子が並列に接続される場合、通常、オン電圧(VON)がより低いスイッチング素子に集中する。
【0082】
そこで、上記実施の形態において、オン電圧が最も低いスイッチング素子をスイッチング素子MOS1として配置し、以降、オン電圧が低いスイッチング素子をスイッチング素子MOS2~MOS4として順に配置する。すなわち、符号の数字が小さいものほどオン電圧が低くなるようにスイッチング素子MOS1~MOS4を配置する。
【0083】
このように、スイッチング素子MOS1~MOS4を配置した構成において、P端子31から各スイッチング素子MOS1~MOS4を経由してU端子32に至る各経路P1’~P4’の寄生インダクタンスが、符号の数字が小さいスイッチング素子を経由する経路ほど大きくなるように配線部材を形成する。これにより、各経路P1’~P4’において、電流が速やかに分散され、一部の経路での電流の集中が抑制される。
【0084】
スイッチング素子MOS5~MOS8も符号の数字が小さいものほどオン電圧が低く、また、U端子32から各スイッチング素子MOS5~MOS8を経由してN端子33に至る各経路P5’~P8’も符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きくなるように構成されてもよい。この構成により、経路P5’~P8’においても経路P1’~P4’と同様に電流が速やかに分散され、一部の経路での電流の集中が抑制される。
【0085】
すなわち、半導体モジュール1は、一部のスイッチング素子への電流の集中を抑制するため、第1のスイッチング素子(例えばスイッチング素子MOS1)と、第1のスイッチング素子よりもオン電圧が高い第2のスイッチング素子(例えばスイッチング素子MOS2)を含む、複数のスイッチング素子が並列に接続された電子回路であって、第1端子(例えばP端子31)から第1のスイッチング素子を経由して第2端子(例えばU端子32)に至る第1経路のインダクタンスが、第1端子から第2のスイッチング素子を経由して記第2端子に至る第2経路のインダクタンスよりも大きい電子回路を有する構成としてもよい。
【0086】
上記実施の形態では、経路P1~P4の符号の数字が小さいものほど寄生インダクタンスが大きくなるように配線部材を形成しているが、別の実施の形態では、経路P1~P4の符号の数字が小さいものほどインダクタンスが大きくなるように、インダクタンスが夫々異なるインダクタンス素子(例えば透磁率が夫々異なるコアを持つインダクタ)が各経路P1~P4に配置されてもよい。
【0087】
図11は、本発明の実施の一形態に係る半導体装置100を模式的に示す図である。この半導体装置100は、並列に接続された半導体モジュール1A及び1Bを備える。半導体モジュール1A及び1Bは、上記の実施の形態に係る半導体モジュール1と同様の構成を有する。図4では、便宜上、半導体モジュール1AをP端子31A及びN端子33Aを有するブロックで示し、半導体モジュール1BをP端子31B及びN端子33Bを有するブロックで示す。
【0088】
P端子31A及び31Bは、電源200の正極側の正電位点200A(一対の端子の一方)に電気的に接続される。N端子33A及び33Bは、電源200の負極側の負電位点200B(一対の端子の他方)に電気的に接続される。正電位点200Aから半導体モジュール1Aを経由して負電位点200Bに至る経路に符号P1を付す。正電位点200Aから半導体モジュール1Bを経由して負電位点200Bに至る経路に符号P1を付す。
【0089】
半導体モジュール1A全体の順方向電圧と半導体モジュール1B全体の順方向電圧にもばらつきが含まれる。そのため、順方向電圧が低い半導体モジュールに電流が集中することが懸念される。そこで、半導体装置100は、順方向電圧が低い半導体モジュールを経由する経路ほどインダクタンスが大きい構成となっている。
【0090】
本例では、半導体モジュール1Aの順方向電圧が半導体モジュール1Bの順方向電圧よりも低く、また、経路P1の寄生インダクタンスが経路P1の寄生インダクタンスよりも大きい。
【0091】
電流は、順方向電圧が低い半導体モジュール1Aが配置された経路P1に流れ始める。経路P1に流れる電流の変化(増加)に伴い、経路P1の配線部材の寄生インダクタンスに比例した逆起電力が経路P1に発生する。この逆起電力により、経路P1に電流が流れにくくなる。言い換えると、電流は、経路P1に流れやすくなる。すなわち、電流は、並列に接続され経路P1と経路P1に速やかに分散され、経路P1での電流の集中が抑制される。そのため、本例においても、電流の集中によるショットキバリアダイオード等の半導体素子の異常発熱及び破損が防がれる。
【0092】
図11では、2つの半導体モジュールを並列に接続した半導体装置を示すが、3つ以上の半導体モジュールを並列に接続した半導体装置も本発明の範疇である。
【0093】
本実施の形態及び変形例を説明したが、他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0094】
また、本実施の形態は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらに、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0095】
下記に、上記実施の形態における特徴点を整理する。
【0096】
上記実施の形態に記載の電子回路は、第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子よりもオン電圧が高い第2のスイッチング素子を含む、複数のスイッチング素子が並列に接続された電子回路であって、第1端子から前記第1のスイッチング素子を経由して第2端子に至る第1経路のインダクタンスが、前記第1端子から前記第2のスイッチング素子を経由して前記第2端子に至る第2経路のインダクタンスよりも大きい。
【0097】
上記実施の形態に記載の半導体モジュールは、前記電子回路が実装された基板を備え、前記第1経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第1のスイッチング素子とを接続する第1の導電性ワイヤを含み、前記第2経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第2のスイッチング素子とを接続する第2の導電性ワイヤを含み、前記第1の導電性ワイヤのインダクタンスが、前記第2の導電性ワイヤのインダクタンスよりも大きい。
【0098】
上記実施の形態に記載の半導体モジュールは、次の条件(1)~(2)の少なくとも1つを満たす、
(1)前記第1の導電性ワイヤは、前記第2の導電性ワイヤよりも全長が長い、
(2)前記第1の導電性ワイヤは、前記第2の導電性ワイヤよりも断面積が小さい。
【0099】
上記実施の形態に記載の半導体モジュールにおいて、前記第1経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第1のスイッチング素子とを接続する第1の配線パターンを含み、前記第2経路の配線部材は、前記基板に配置された前記第1端子又は前記第2端子と前記第2のスイッチング素子とを接続する第2の配線パターンを含み、前記第1の配線パターンのインダクタンスが、前記第2の配線パターンのインダクタンスよりも大きい。
【0100】
上記実施の形態に記載の半導体モジュールは、次の条件(3)~(4)の少なくとも1つを満たす、
(3)前記第1の配線パターンは、前記第2の配線パターンよりも全長が長い
(4)前記第1の配線パターンは、前記第2の配線パターンよりも断面積が小さい。
【0101】
上記実施の形態に記載の半導体モジュールにおいて、前記複数のスイッチング素子は、同一構造を有するスイッチング素子である。
【0102】
上記実施の形態に記載の半導体モジュールにおいて、前記複数のスイッチング素子は、炭化ケイ素(SiC)を用いて作成されたスイッチング素子である。
【0103】
上記実施の形態に記載の半導体装置は、一対の端子間に並列に接続された、前記半導体モジュールを複数備え、前記複数の半導体モジュールの各々を経由する、前記一対の端子の一方から前記一対の端子の他方までの各経路は、順方向電圧が低い半導体モジュールを経由する経路ほどインダクタンスが大きい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように、本発明は、並列に接続された複数の半導体素子の一部に電流が集中するのを抑制することができるという効果を有し、特に、電子回路、半導体モジュール及び半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 :半導体モジュール
2 :積層基板
10 :ベース板
12 :ケース部材
13,14 :端子部材
20 :絶縁層
21 :第1回路板
22 :第2回路板
23 :第3回路板
31 :P端子(正電位点)
32 :U端子(中間電位点)
33 :N端子(負電位点)
BD1~BD8 :ダイオード
BW1~BW8 :ボンディングワイヤ
L1~L8,L1~L8 :インダクタンス
MOS1~MOS8 :スイッチング素子
P1~P8 :経路
SBD1~SBD8 :ダイオード
T1~T8 :電極
W1~W8,W1~W8 :配線部材
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11