(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089988
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】油圧バルブユニット、及び、その油圧バルブユニットを用いた作業機
(51)【国際特許分類】
F16K 3/24 20060101AFI20240627BHJP
B60K 17/06 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F16K3/24 D
B60K17/06 K
B60K17/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205589
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼▲崎▼ 陽平
【テーマコード(参考)】
3D039
3H053
【Fターム(参考)】
3D039AA04
3D039AB12
3D039AC87
3H053AA26
3H053BD10
(57)【要約】
【課題】バルブブロックの外部から付勢バネの調整を行う操作機構として、バックラッシュが生じるような構造を避けて安定した流量調整を行えるようにする。
【解決手段】バルブブロック30に設けられた油路の流量を調節するスプール40aと、スプール40aを移動させるソレノイド5と、スプール40aを初期位置に戻す方向に付勢する付勢バネ50と、付勢バネ50による付勢力を設定変更する初期圧調節機構6と、が設けられ、初期圧調節機構6は、バネ受け部材51と、バルブブロック30の外部から操作可能な操作入力部61とバルブブロック30の内部でバネ受け部材51に当接する操作出力部62とを有する操作体60と、を備え、操作入力部61を操作してバネ受け部材51をスプール40aの移動方向に移動させて付勢バネ50による付勢力を設定変更可能にした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブブロックと、
前記バルブブロックに設けられた油路と、
前記油路を流れる作動油の流量を調節するスプールと、
付加される制御電流に応じて前記油路を開閉する方向に前記スプールを移動させるソレノイドと、
前記スプールを初期位置に戻す方向に付勢する付勢バネと、
前記付勢バネによる付勢力を設定変更する初期圧調節機構と、を備え、
前記初期圧調節機構は、
前記付勢バネの付勢力を受けるバネ受け部材と、
前記バルブブロックの外部から操作可能な操作入力部と前記バルブブロックの内部に位置して前記バネ受け部材に当接する操作出力部とを有する操作体と、を備え、
前記操作入力部を操作することで前記バネ受け部材を前記スプールの移動方向に沿う方向に移動させて前記付勢バネによる付勢力を設定変更可能である油圧バルブユニット。
【請求項2】
前記バルブブロックは、前記操作体が前記スプールの移動方向に対して斜め方向に進退可能に取り付けられる操作体取付孔を備え、
前記操作体を前記進退可能な方向に移動させることにより前記バネ受け部材が前記スプールの移動方向に沿う方向に移動する請求項1に記載の油圧バルブユニット。
【請求項3】
前記バネ受け部材は、前記スプールの外周側に位置する前記付勢バネに外嵌する筒状部と、その筒状部よりも径方向での外方に突出するフランジ状の当接面と、を備え、
前記操作体は、前記操作出力部が前記当接面に当接するように設けられている請求項2に記載の油圧バルブユニット。
【請求項4】
前記バルブブロックは、前記油路の上流側に設けられた第1ポートと、前記油路の下流側に設けられた第2ポートと、前記第1ポート側から流入する作動油を前記第2ポート側へ案内するガイド筒とを備え、
前記ガイド筒は、前記バネ受け部材に外嵌する位置で前記バルブブロックに固定されている請求項1に記載の油圧バルブユニット。
【請求項5】
前記操作体は、前記操作入力部が一端部に設けられ、前記操作出力部が他端部に設けられ、前記操作入力部と前記操作出力部との中間部に雄ネジ部が形成されており、
前記操作体取付孔に、前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されており、前記操作体取付孔に対する前記操作体のねじ込み量を変化させることで前記バネ受け部材が前記スプールの移動方向に沿う方向に移動する請求項2に記載の油圧バルブユニット。
【請求項6】
前記操作入力部とは別に、前記一端部の外周箇所に回り止め用の外周ネジ部が形成され、前記外周ネジ部に対して前記バルブブロックの外部から操作可能な回り止めナットが装着されている請求項5に記載の油圧バルブユニット。
【請求項7】
前記バルブブロックは、
ポンプポートと、タンクポートと、出力ポートと、
前記ポンプポートから前記出力ポートに至る出力用油路と、
前記出力ポートから前記タンクポートに至る戻り用油路と、
前記出力用油路を流れる作動油の流量を調節する第一スプールと、
前記戻り用油路を流れる作動油の流量を調節する第二スプールと、
前記第一スプールを付加される制御電流に基づいて油路開閉方向に操作する第一ソレノイドと、
前記第二スプールを付加される制御電流に基づいて油路開閉方向に操作する第二ソレノイドと、
前記第一スプールを初期位置に戻す方向に付勢する第一付勢バネと、
前記第二スプールを初期位置に戻す方向に付勢する第二付勢バネと、を備え、
前記初期圧調節機構が、前記第一付勢バネおよび前記第二付勢バネの少なくとも一方に設けられている請求項1に記載の油圧バルブユニット。
【請求項8】
前記当接面は前記スプールの移動方向に略垂直な平面であり、
前記操作体を前記進退可能な方向に移動させることにより前記当接面における前記操作出力部の当接位置が変化する請求項3に記載の油圧バルブユニット。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の油圧バルブユニットを備えている作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプールを操作するソレノイドと、スプールをソレノイドによる操作方向とは逆向きに付勢して初期位置に戻すように作用する付勢バネと、を備えた油圧バルブユニット、及びその油圧バルブユニットを用いた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業機の油圧バルブユニットでは、ソレノイドの制御電流に対応する適切な流量を得られるように付勢バネの付勢力を調整して、スプールをバルブブロックに組み込むようにしている。このソレノイドと関連したスプールにおいて、付勢バネによる初期圧の調整に関しては、バルブブロックに対してソレノイドやスプール及び付勢バネを組み込む作業と同時的に行われるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような構造では、一旦設定された初期圧を変更する必要が生じた際には、バルブブロックの全体を分解する必要があり、組み立て、及び調整作業等に多大な労力と時間的ロスを生じることになる。
このような不具合を解消し得るものとして、従来では、例えば
図10に示すように、付勢バネの初期圧を外部から調整可能にした構造のものがある。
この構造では、付勢バネの一端側を受け止め支持するバネ受け部材はバルブブロックの内部に設けられているが、そのバネ受け部材53の外周部にウォームホイール部分が形成されている。そして、ウォームホイール67に噛合するウォーム66の一端部がバルブブロックの外部に露出する状態に設けられ、バルブブロックの外部からウォーム66を介してウォームホイール67を操作可能にしてある。バネ受け部材53は、スプールの軸線方向に沿う方向での移動が可能であるように、内周側がスプールの軸線回りのネジ部を介してバルブブロックに支持されている。
【0005】
しかしながら、上記のウォーム66とウォームホイール67を用いた構造のものでは、必然的にウォーム66とウォームホイール67との間にバックラッシュが存在する。このため、ウォームホイール67に作用する噴流圧の変化でバックラッシュのガタ分だけウォームホイール67が動いたとき、瞬間的にスプールからの制御流量が不安定になることがある。つまり、ウォームホイール67に作用する噴流圧の変化でバックラッシュのガタ分だけウォームホイール67が動くと、そのガタツキが生じた時点で、
図11のグラフに示すように、ソレノイドに印加されている電流値と、その電流値に対応する流量との関係が一時的に乱れた状態となることがある。
したがって、バックラッシュを備えた構造では、上記の点で改善の余地がある。また、構造的にも複雑で、メンテナンス性の向上あるいはコストの削減などを図る上において改善の余地がある。
【0006】
本発明は、バルブブロックの外部から付勢バネの調整を行う操作機構として、バックラッシュが生じるような構造を避けながら、安定した流量調整を行えるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における油圧バルブユニットは、
バルブブロックと、
前記バルブブロックに設けられた油路と、
前記油路を流れる作動油の流量を調節するスプールと、
付加される制御電流に応じて前記油路を開閉する方向に前記スプールを移動させるソレノイドと、
前記スプールを初期位置に戻す方向に付勢する付勢バネと、
前記付勢バネによる付勢力を設定変更する初期圧調節機構と、を備え、
前記初期圧調節機構は、
前記付勢バネの付勢力を受けるバネ受け部材と、
前記バルブブロックの外部から操作可能な操作入力部と前記バルブブロックの内部に位置して前記バネ受け部材に当接する操作出力部とを有する操作体と、を備え、
前記操作入力部を操作することで前記バネ受け部材を前記スプールの移動方向に沿う方向に移動させて前記付勢バネによる付勢力を設定変更可能であることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、油路中の噴流圧の変動によるバネ受け部材のガタツキなどを生じさせる虞が少なく、安定した流量調整をバルブブロックの外部から行い易い。また操作体自体の構成としても、構造的に複雑で、加工精度や組み付け精度も高く要望されるウォームやウォームホイールを採用する必要も無いので、構造簡単に構成し易い、という利点がある。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記バルブブロックは、前記操作体が前記スプールの移動方向に対して斜め方向に進退可能に取り付けられる操作体取付孔を備え、
前記操作体を前記進退方向に移動させることにより前記バネ受け部材が前記スプールの移動方向に沿う方向に移動する。
【0010】
この手段によると、操作体が、バネ受け部材の移動方向に対して斜めに交差する方向に移動するものである。
したがって、操作体自体の動きは直線的であっても、その操作体の移動方向の分力でバネ受け部材を無理なく付勢バネの付勢力を増減する方向に移動させることができる。これにより、操作体の移動をバネ受け部材に伝える機構を簡素化し易い。また、バネ受け部材の移動量に対する操作体の操作量の割合を大きくして、付勢バネ力の調節精度を高め易い。
【0011】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記バネ受け部材は、前記スプールの外周側に位置する前記付勢バネに外嵌する筒状部と、その筒状部よりも径方向での外方に突出するフランジ状の当接面と、を備え、
前記操作体は、前記操作出力部が前記当接面に当接するように設けられている。
【0012】
この手段によると、操作体の移動方向が筒状部の法線上である場合に比べて、バルブブロック内における筒状部よりも径方向での外方における操作体の配設領域を広く確保し易い。これによって、操作体の移動距離も長く設定し易く、バネ受け部材の移動量に対する操作体の操作量の割合を大きくして、付勢バネ力の調節精度を高め易い。
【0013】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記バルブブロックは、前記油路の上流側に設けられた第1ポートと、前記油路の下流側に設けられた第2ポートと、前記第1ポート側から流入する作動油を前記第2ポート側へ案内するガイド筒とを備え、
前記ガイド筒は、前記バネ受け部材に外嵌する位置で前記バルブブロックに固定されている。
【0014】
この手段によると、出力ポートからの戻り油の圧力が高くて、バネ受け部材側へ噴出してきても、バネ受け部材よりも上流側にガイド筒が設けられている。その結果、ガイド筒によって戻り油の噴出圧力を受け止めることができて、バネ受け部材には急激な噴出圧が作用する虞は少ない。これによって、付勢バネがバネ受け部材のガタツキによる影響を受ける虞を極力回避し易い。
【0015】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記操作体は、前記操作入力部が一端部に設けられ、前記操作出力部が他端部に設けられ、前記操作入力部と前記操作出力部との中間部に雄ネジ部が形成されており、
前記操作体取付孔に、前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されており、前記操作体取付孔に対する前記操作体のねじ込み量を変化させることで前記バネ受け部材が前記スプールの移動方向に沿う方向に移動する。
【0016】
この手段によると、バルブブロックの外部から操作可能な操作体自体によってバネ受け部材の位置を調整することができるので、ウォームとウォームホイールを用いるような複雑な構造に比べて、初期圧調整機構を、単一部材で構造簡単に構成し易い。
【0017】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記操作入力部とは別に、前記一端部の外周箇所に回り止め用の外周ネジ部が形成され、前記外周ネジ部に対して前記バルブブロックの外部から操作可能な回り止めナットが装着されている。
【0018】
この手段によると、操作体自体に設けた雄ネジ部や外周ネジ部を、操作体取付孔に設けた雌ネジ部や回り止めナットと併用することで、ダブルナットと同様な回り止め機構を構成することができるので、部品の兼用化による構造の簡素化を図ることができる。
【0019】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記バルブブロックは、
ポンプポートと、タンクポートと、出力ポートと、
前記ポンプポートから前記出力ポートに至る出力用油路と、
前記出力ポートから前記タンクポートに至る戻り用油路と、
前記出力用油路を流れる作動油の流量を調節する第一スプールと、
前記戻り用油路を流れる作動油の流量を調節する第二スプールと、
前記第一スプールを付加される制御電流に基づいて油路開閉方向に操作する第一ソレノイドと、
前記第二スプールを付加される制御電流に基づいて油路開閉方向に操作する第二ソレノイドと、
前記第一スプールを初期位置に戻す方向に付勢する第一付勢バネと、
前記第二スプールを初期位置に戻す方向に付勢する第二付勢バネと、を備え、
前記初期圧調節機構が、前記第一付勢バネおよび前記第二付勢バネの少なくとも一方に設けられている。
【0020】
本発明によれば、付勢バネによる付勢力を設定変更する初期圧調節機構が、前記第一付勢バネおよび前記第二付勢バネの少なくとも一方に設けられていて、付勢バネによる付勢力をバルブブロックの外部から操作することが可能である。
上記の構成によれば、油路中の噴流圧の変動によるバネ受け部材のガタツキなどを生じさせる虞が少なく、安定した流量調整をバルブブロックの外部から行い易い。また操作体自体の構成としても、構造的に複雑で、加工精度や組み付け精度も高く要望されるウォームやウォームホイールを採用する必要も無いので、構造簡単に構成し易い、という利点がある。
【0021】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記当接面は前記スプールの移動方向に略垂直な平面であり、
前記操作体を前記進退方向に移動させることにより前記当接面における前記操作出力部の当接位置が変化する。
【0022】
この手段によっても、操作体を付勢バネの付勢力を増減する方向に移動させることができる。これにより、操作体の移動をバネ受け部材に伝える機構を簡素化し易い。
【0023】
本発明の好適な実施形態の1つでは、
上記のバルブユニットが作業機に備えられている。
【0024】
この手段によると、作業機に備えられた機器の作動を制御するバルブユニットとして、好適なものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】昇降用の油圧機構及びバルブユニットが配置された部位を示す正面図である。
【
図3】昇降用の油圧機構の構成を示す油圧回路図である。
【
図4】バルブユニットのバルブブロックを左右方向に沿う上下方向での断面図である。
【
図7】
図2におけるVII-VII線断面図である。
【
図8】
図2におけるVIII-VIII線断面図である。
【
図9】操作体とバネ受け部材を示す分解斜視図である。
【
図10】従来のバルブユニットの下げ側の断面図である。
【
図11】従来のバルブユニットの電流値と流量との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかる作業機の油圧バルブユニットの実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
尚、本実施形態での説明における前後方向及び左右方向は、特段の説明がない限り、次のように記載している。つまり、本発明を適用した作業機の一例であるトラクタの走行時における前進側の進行方向(
図1における矢印F参照)が「前」、後進側への進行方向(
図1における矢印B参照)が「後」、その前後方向での前向き姿勢を基準としての右側に相当する方向(
図3における矢印R参照)が「右」、同様に左側に相当する方向(
図3における矢印L参照)が「左」である。また、図中における矢印Uは「上」方向、矢印Dは「下」方向を示している。
【0027】
〔全体構成〕
図1に示すように、本実施形態で例示するトラクタは、車体フレーム10の前半部に原動部11が設けられ、車体フレーム10の後半部に搭乗運転部12が設けられた走行機体1を備えている。そして、原動部の左右に駆動可能な操舵輪としての前輪1Fを配備し、搭乗運転部12の左右に非操舵輪であり、かつ駆動可能に構成された駆動輪としての後輪1Rを配備してある。走行機体1は、これらの前輪1F及び後輪1Rを備えて自走可能な4輪駆動型に構成されている。
【0028】
車体フレーム10の前フレーム部10Fに水冷式のディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと略称する)13が連結されている。このエンジン13の後下部にクラッチハウジング14を連結している。このクラッチハウジング14の後部に、中間フレーム部分を介してトランスミッションケース15を連結してある。このように、トラクタの車体フレーム10は、前記前フレーム部10F、エンジン13、クラッチハウジング14、及びトランスミッションケース15を含めて、前後方向でのほぼ全体にわたる範囲でモノコック構造に構成されている。
【0029】
原動部11では、ボンネット16により形成されたエンジンルームに、前記エンジン13等が配備されている。搭乗運転部12には、前輪操舵用のステアリングホイール17及び運転座席18などが配備されている。運転座席18の後部を跨ぐ状態で正面視門形のロプス19が、車体フレーム10の後部から立設されている。
前輪駆動用の動力は、トランスミッションケース15の内部から左右の前輪1Fにわたる前輪伝動系(図示せず)を介して左右の前輪1Fに伝達されている。後輪駆動用の動力は、トランスミッションケース15の内部から左右の後輪1Rにわたる後輪伝動系(図示せず)を介して左右の後輪1Rに伝達されている。
【0030】
図1に示すように、トランスミッションケース15の後部には、このトラクタの後部に連結するロータリ耕耘装置やプラウなどの作業装置(図示せず)を連結して昇降操作するための作業装置連結機構2が設けられている。
作業装置連結機構2は、左右一対のリフトアーム20と、対応するリフトアーム20を上下方向に揺動駆動する左右一対のリフトシリンダ21,21(伸縮シリンダに相当する)と、作業装置連結用としてトランスミッションケース15の後端下部に上下揺動可能に連結した左右一対の下部リンク22,22と、を備えている。
【0031】
右側のリフトアーム20は、左右の下部リンク22,22のうち、右側の下部リンク22に伸縮可能なローリングシリンダ23を介して連結してある。左側のリフトアーム20は、左右の下部リンク22,22のうち、左側の下部リンク22に連係ロッド(図外)を介して連結してある。
左右のリフトシリンダ21,21には単動型の油圧シリンダが採用され、ローリングシリンダ23には複動型の油圧シリンダが採用されている。
【0032】
上記の構造を備えたことにより、左右のリフトシリンダ21,21に対する作動油の流れを切り換えて、左右のリフトシリンダ21,21を同時に同方向へ伸縮作動させることにより、作業装置を昇降駆動することができる。
そして、ローリングシリンダ23に対する作動油の流れを切り換えて、ローリングシリンダ23を伸縮駆動することにより、作業装置をローリング作動させることができる。
左右のリフトシリンダ21,21及びローリングシリンダ23に対する作動油の流れは、油圧バルブユニット3の作動によって切り換えることができる。この油圧バルブユニット3の作動は、マイクロコンピュータを利用して構成した制御装置(図外)に制御プログラムとして備えた制御手段により制御される。
【0033】
〔油圧バルブユニット〕
油圧バルブユニット3について説明する。
図1及び
図2に示されるように、油圧バルブユニット3は、搭乗運転部12における運転座席18の下側空間に相当する箇所で、前記トランスミッションケース15の上面部に設けられている。
【0034】
図2乃至
図7に示されているように、油圧バルブユニット3は、内部に油路が形成されたバルブブロック30と、バルブブロック30の油路内で作動油の流れを制御するバルブ4と、バルブ4を操作するソレノイド5と、ソレノイド5に作用する付勢バネ50の初期圧調節を行うための初期圧調節機構6と、が備えられたものである。
【0035】
図2乃至
図4に示されるように、バルブブロック30には、油圧ポンプ24からの圧油が供給されるポンプポート30Pと、バルブブロック30から外部のタンク(この実施形態では、トランスミッションケース15を作動油タンクとして用いているが、別途専用の作動油タンクを用いてもよい)へ作動油を戻すためのタンクポート30T(油路の下流側に設けられた第2ポートに相当する)と、リフトアーム20を昇降作動させる一対のリフトシリンダ21,21に連なる出力ポート30S(油路の上流側に設けられた第1ポートに相当する)と、が設けられている。
【0036】
そして、上記のポンプポート30Pと出力ポート30Sとは、バルブブロック30内に形成された出力用油路31を介して接続されている。同様に、出力ポート30Sとタンクポート30Tとは、バルブブロック30内に形成された戻り用油路32を介して接続されている。
さらに、バルブブロック30には、後述する上昇操作弁40が上昇停止状態に操作されているときに、油圧ポンプ24から供給される圧油をタンクポート30T側へ導く環流油路33が設けられている。
【0037】
バルブブロック30の油路内で作動油の流れを制御するバルブ4は、油圧ポンプ24から供給される圧油をリフトシリンダ21,21に対して供給、及び供給停止する状態に切換操作可能な上昇操作弁40を備えている。
また、リフトシリンダ21,21からの戻り油をタンクへ戻す状態、及び下降を停止する状態に切り換え操作可能な下降操作弁41を備えている。
さらに、リフトシリンダ21,21作動中における出力用油路31の作動圧を所定圧に維持するリリーフ弁42と、上昇操作弁40の上昇停止状態で、油圧ポンプ24から供給される圧油を無負荷でタンクへ逃がすアンロード弁43と、リフトシリンダ21,21から上昇操作弁40への圧油の逆流を阻止するように出力用油路31に設けられた逆止弁44と、が備えられている。
【0038】
上昇操作弁40は、出力用油路31内に位置する第一スプール40aを備えている。この第一スプール40aの位置を上昇用ソレノイド5U(第一ソレノイドに相当する)の操作で、
図3に示す上昇位置U1と上昇停止位置U2とに切り換え操作するように構成された直動形の電磁操作弁である。
また、上昇操作弁40は、第一スプール40aを上昇用ソレノイド5Uによる操作方向とは逆向きに付勢して、初期位置に戻し操作するコイル状の第一付勢バネ50を備えている。この第一付勢バネ50は、第一スプール40aの外周部に備えたストッパー40bと、第一スプール40aに外嵌させた筒状のバネ受け部材51との間に装着されている。
【0039】
第一スプール40aに外嵌させた筒状のバネ受け部材51は、
図5及び
図9に示すように、大径筒状部51aと小径筒状部51bとを備えた段付きの筒状体で構成されている。
前記第一付勢バネ50は、小径筒状部51bの底部51cと、ストッパー40bとの間に配置されており、後述する初期圧調節機構6で、底部51cと、ストッパー40bとの間隔を変更することにより、上昇用ソレノイド5Uに対する初期圧を変更可能であるように構成されている。
【0040】
下降操作弁41は、戻り用油路32内に位置する第二スプール41aを備えている。この第二スプール41aの位置を下降用ソレノイド5D(第二ソレノイドに相当する)の操作で、
図3に示す下降位置D1と下降停止位置D2とに切り換え操作するように構成された直動形の電磁操作弁である。
また、下降操作弁41は、第二スプール41aを下降用ソレノイド5Dによる操作方向とは逆向きに付勢して、初期位置に戻し操作するコイル状の第二付勢バネ52を備えている。この第二付勢バネ52は、第二スプール41aの外周部に備えたストッパー41bと、第二スプール41aに外嵌させた筒状のバネ受け部材53との間に装着されている。
【0041】
第二スプール41aに外嵌させた筒状のバネ受け部材53は、
図4、
図6、及び
図8に示すように、第二スプール41aに外嵌する筒状部53aの一端部に、鍔状に拡がるフランジ部53bを備え、他端部に、筒状部53aの半径方向内方側へ向かう底部53cを備えている。
前記第二付勢バネ52は、筒状部53aの底部53cと、ストッパー41bとの間に配置されており、後述する初期圧調節機構6で、底部53cと、ストッパー41bとの間隔を変更することにより、下降用ソレノイド5Dに対する初期圧を変更可能であるように構成されている。
【0042】
〔初期圧調節機構〕
前記第一付勢バネ50(付勢バネに相当する)及び第二付勢バネ52(付勢バネに相当する)による付勢力を設定変更する初期圧調節機構6について説明する。
初期圧調節機構6は、第一付勢バネ50及び第二付勢バネ52の反力受けとなるバネ受け部材51,53と、各バネ受け部材51,53をソレノイド5による操作方向に沿う方向で位置変更させる操作体60,60と、を備えている。
【0043】
バネ受け部材51,53のうち、第一付勢バネ50の反力受けとなるバネ受け部材51には、大径筒状部51aと小径筒状部51b(筒状部に相当する)との段差部分に、第一付勢バネ50の付勢方向に対して垂直に交差する方向の当接面51dが設けられている。
この当接面51dが操作体60と当接した状態で、操作体60による押し操作が加えられると、第一付勢バネ50を圧縮する方向へバネ受け部材51が操作され、ソレノイド5による初期圧を変更することが可能となる。
操作体60による押し操作が加えられずに、操作体60の位置を当接面51dから離れる側へ操作すると、第一付勢バネ50による弾性復元力によって、第一付勢バネ50の圧縮方向とは逆に緩める方向へバネ受け部材51を移行させて、ソレノイド5による初期圧を変更することが可能となる。
【0044】
バネ受け部材51,53のうち、第二付勢バネ52の反力受けとなるバネ受け部材53には、筒状部53a(筒状部に相当する)の一端部で鍔状に拡がるフランジ部53bに、第二付勢バネ52の付勢方向に対して垂直に交差する方向の当接面53dが設けられている。
この当接面53dが操作体60と当接した状態で、操作体60による押し操作が加えられると、第二付勢バネ52を圧縮する方向へバネ受け部材53が操作され、ソレノイド5による初期圧を変更することが可能となる。
操作体60による押し操作が加えられずに、操作体60の位置を当接面53dから離れる側へ操作すると、第二付勢バネ52による弾性復元力によって、第二付勢バネ52の圧縮方向とは逆に緩める方向へバネ受け部材53を移行させて、ソレノイド5による初期圧を変更することが可能となる。
【0045】
図4及び
図6に示すように、第二スプール41a及びバネ受け部材53が設けられた戻り用油路32には、出力ポート30Sからの戻り油をバネ受け部材53よりも上流側でタンクポート30T側へ案内するガイド筒54が設けられている。このガイド筒54は、上流側ほど先細りとなる円錐状のガイド面を有した形状に形成され、下流側がバネ受け部材53に外嵌する状態で、戻り用油路32を形成したバルブブロック30に固定されている。
これにより、バネ受け部材53をガタツキの生じ難い状態で安定良く支持し易く、また、出力ポート30Sからの戻り油の噴出圧が、直接にバネ受け部材53に作用するのではなく、戻り油の動圧をガイド筒54で受け止め易くなる。これによって、出力ポート30Sからの戻り油の噴出圧が大きい場合にも、バネ受け部材53のガタツキを抑制して第二付勢バネ52の付勢力を安定良く保ち易い。
【0046】
〔操作体〕
初期圧調節機構6の操作体60,60は次のように構成されている。
操作体60,60は、一端部に操作入力部61が設けられ、他端部に操作出力部62が設けられ、操作入力部61と操作出力部62との中間箇所に雄ネジ部63が形成されている。
バルブブロック30に操作体60を装着可能な操作体取付孔34が形成され、その操作体取付孔34の内部に、操作体60の中間箇所に形成された雄ネジ部63と螺合可能な雌ネジ部34aが形成されている。
【0047】
操作入力部61では、六角レンチ等の工具を用いて、操作体60の上端側から操作可能な六角穴が形成されている。中間箇所に形成された雄ネジ部63を、操作体取付孔34の雌ネジ部34aに螺合させて、操作体60を回転操作すると、操作入力部61が、第一付勢バネ50の反力受けとなるバネ受け部材51の当接面51d、あるいは、第二付勢バネ52の反力受けとなるバネ受け部材53の当接面53dに当接し、第一付勢バネ50あるいは第二付勢バネ52の付勢力を調節することが可能となる。
【0048】
上記の操作体60は、長手方向の中心軸線P1が、側面視で
図5及び
図6中での下方側ほど当接面51d,53dに近い箇所に位置するように傾斜させた傾斜姿勢でバルブブロック30に装着されている。
そして、この操作体60が当接面51d,53dに当接する箇所は、
図8に示されているように、第一スプール40aや第二スプール41aの中心軸心P0を通る法線y1の直上ではなく、その法線y1と直交する別の法線x1に沿う方向で横方向に位置ずれした箇所である。
【0049】
つまり、
図8に示すように、操作体60は、長手方向の中心軸線P1が、筒状部に相当するところの小径筒状部51b、あるいは筒状部53aの周面に対する接線に沿う方向に移動して、当接面51d,53dに当接するように設けられている。
このように、当接面51d,53dとの接触箇所が、中心軸心P0を通る法線y1の直上から、その法線y1と直交する別の法線x1に沿う方向で横方向に位置ずれした箇所であることにより、当接面51d,53dとの接触範囲を比較的広く(長く)確保し易くなる。
【0050】
図8及び
図9に示すように、操作体60,60の一端部には、操作入力部61とは別に、一端部の外周箇所に回り止め用の外周ネジ部64が形成されている。そして、この外周ネジ部64に対して、バルブブロック30の外部から操作可能な回り止めナット65が装着されている。
回り止めナット65は、バルブブロック30の上面に形成された凹部35の底面に当接した状態で締め付け固定されることにより、操作体60の中間箇所に形成された雄ネジ部63と雌ネジ部34aとの螺合箇所とともにダブルナットとしての機能を得られる。これによって、回り止めナット65と、中間箇所に形成された雄ネジ部63と雌ネジ部34aとの螺合部が、操作体60,60のバルブブロック30に対する取り付け構造での回り止め機構としての役割を果たすことになる。
【0051】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態について説明する。下記の各別実施形態は、矛盾が生じない限り、複数組み合わせて上記実施形態に適用してもよい。なお、本発明の範囲は、これらの実施形態の内容に限定されるものではない。
【0052】
(1)上述した実施形態では、バルブブロック30に設けられるバルブ4として、リフトシリンダ21の昇降操作を行う上昇操作弁40と下降操作弁41とを備えた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、リフトアーム20を昇降させるリフトシリンダ21に対するバルブ4を設けたものに限らず、別の作業装置を操作するためのシリンダの操作を行うものであっても差し支えない。
また、二つのリフトシリンダ21を同時的に操作するようにした構造のものを例示したが、一つ、もしくは三つ以上の複数個のリフトシリンダ21を同時的に操作するものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0053】
(2)上述した実施形態では、作動油タンクとしてトランスミッションケース15を用いた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。別途専用の作動油タンクを用いてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0054】
(3)上述した実施形態では、付勢バネ50,52の付勢方向に対して垂直に交差する方向の当接面51d,53dを備えた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、当接面51d,53dが、付勢バネ50,52の付勢方向に対して少し傾斜していたり、湾曲面であったりしてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0055】
(4)上述した実施形態では、操作体60が、筒状部(小径筒状部51b、及び筒状部53a)の筒中心を通る法線から周方向に外れた位置で、筒状部の周面に対する接線に沿う方向に移動して、当接面51d,53dに当接するように設けられた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、操作体60が、
図6に示すように、筒状部の筒中心を通る法線y1や、その法線y1に直交する方向の別の法線x1と合致する位置で、法線方向に移動するように構成したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0056】
(5)上述した実施形態では、操作体60における長手方向の中心軸線P1が、側面視で下方側ほど当接面51d,53dに近い箇所に位置するように傾斜させた傾斜姿勢でバルブブロック30に装着された構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、操作体60の長手方向の中心軸線P1が、第一スプール40aや第二スプール41aの長手方向に沿うほぼ平行な姿勢で設けられ、第一スプール40aや第二スプール41aの長手方向に沿って操作される構造のものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0057】
(6)上述した実施形態では、一つの上昇操作弁40又は下降操作弁41に対して、一つの操作体60を設けた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、一つの上昇操作弁40又は下降操作弁41に対して、二つ以上の複数個の操作体60を設けた構造のものであっても差し支えない。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0058】
(7)上述した実施形態では、操作体60の回り止めを行うための機構として、操作体60に外周ネジ部64や回り止めナット65を設けた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、回り止め用のピンを刺すようにしたり、緩み止めクッションを採用したり、してもよい。又、回り止めを行うための機構を備えなければいけないものでもない。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0059】
(8)上述した実施形態では、第一付勢バネ50及び第二付勢バネ52の両方に初期圧調節機構6が設けられている構成を例示したが、これに限らず、いずれか一方にのみ初期圧調節機構6が設けられていてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る作業機の油圧バルブユニットは、トラクタ以外の乗用田植機や乗用草刈機などの各種の農作業機や、散水機、建機、土工機等、各種の作業機に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
5 ソレノイド
5U 第一ソレノイド
5D 第二ソレノイド
6 初期圧調節機構
20 リフトアーム
21 伸縮シリンダ
30 バルブブロック
30P ポンプポート
30S 出力ポート(第1ポート)
30T タンクポート(第2ポート)
31 出力用油路
32 戻り用油路
34 操作体取付孔
34a 雌ネジ部
40a 第一スプール
41a 第二スプール
50,52 付勢バネ
51,53 バネ受け部材
51a,53a 筒状部
51d、53d 当接面
60 操作体
61 操作入力部
62 操作出力部
63 雄ネジ部
64 外周ネジ部
65 回り止めナット