(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090005
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】刃先交換式切削工具、切削インサート、及び工具本体
(51)【国際特許分類】
B23B 29/00 20060101AFI20240627BHJP
B23B 29/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B23B29/00 C
B23B29/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205620
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 翔太
(72)【発明者】
【氏名】元売 明瑞紗
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046KK02
3C046KK13
3C046MM07
3C046PP03
(57)【要約】
【課題】工具本体を工作機械から取り外すことなく切削インサートの位置決めや位置の変更を行うことが可能な刃先交換式切削工具、切削インサート、及び工具本体を提供する。
【解決手段】刃先交換式切削工具は、軸線を中心とした円筒状の工具本体の内周部に形成された取付孔に、先端部に切刃が形成された軸状の切削インサートが挿入されて着脱可能に固定される刃先交換式切削工具であって、切削インサートは、軸線方向に延びるとともに該軸線に交差する幅方向に間隔をあけて配列されることで互いの間に軸線方向に延びる溝部を形成する一対の突条部を有し、工具本体は、軸線に対する径方向に延びるとともに径方向内側の端部が取付孔に連通する位置決め孔を有し、位置決め孔には、先端が一対の突条部に軸線方向から当接する位置決めボルトが挿通される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした円筒状の工具本体の内周部に形成された取付孔に、先端部に切刃が形成された軸状の切削インサートが挿入されて着脱可能に固定される刃先交換式切削工具であって、
前記切削インサートは、前記軸線方向に延びるとともに該軸線に交差する幅方向に間隔をあけて配列されることで互いの間に前記軸線方向に延びる溝部を形成する一対の突条部を有し、
前記工具本体は、前記軸線に対する径方向に延びるとともに径方向内側の端部が前記取付孔に連通する位置決め孔を有し、
前記位置決め孔には、先端が前記一対の突条部に前記軸線方向から当接する位置決めボルトが挿通される、
刃先交換式切削工具。
【請求項2】
前記切削インサートは、前記軸線方向及び前記幅方向に直交する厚さ方向を向く両面にそれぞれ一対ずつの前記突条部を有する、
請求項1に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項3】
前記工具本体は、前記軸線方向に間隔をあけて配列された複数の前記位置決め孔を有し、
前記位置決めボルトは、複数の前記位置決め孔の何れかに挿通される、
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項4】
前記工具本体は、前記位置決め孔とは別に設けられる固定孔を有し、
前記固定孔には、先端が前記切削インサートの前記突条部に前記軸線の径方向外側から当接する固定ネジが挿通される、
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具における軸状の切削インサートであって、
前記軸線方向に延びるとともに該軸線に交差する幅方向に間隔をあけて配列されることで互いの間に前記軸線方向に延びる溝部を形成する一対の突条部を有する、
切削インサート。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具における軸線を中心とした円筒状の工具本体であって、
前記軸線に対する径方向に延びるとともに径方向内側の端部が前記取付孔に連通する位置決め孔を有し、
前記位置決め孔には、先端が前記一対の突条部に対して前記軸線方向から当接する位置決めボルトが挿通される、
工具本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式切削工具、軸状の切削インサート、および円筒状の工具本体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような刃先交換式切削工具として、例えば特許文献1には、工具本体(ホルダ)の先端から長尺の取付孔(挿入孔)が形成され、この取付孔内に、切削インサートを切刃が形成された先端部とは反対側の端部から挿入できるようにしたものが記載されている。ここで、切削インサートの後端部には傾斜面が設けられているとともに、工具本体には取付孔の長手方向に対して垂直な方向に延在する位置決め部材が設けられており、傾斜面を位置決め部材に当接させて切削インサートを位置決めしている。
【0003】
また、この特許文献1に記載された刃先交換式切削工具では、工具本体に、位置決め部材よりも先端側で工具本体の外周面から取付孔に貫通するネジ孔が形成されており、このネジ孔にネジ部材を螺合して、ネジ部材の先端で切削インサートの切刃部よりも後端側のシャンク部の外周面を押圧することにより、切削インサートを取付孔に固定して取り付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように切削インサートの後端部に傾斜面を設けることによって当該切削インサートの位置決めをする構成では、切削インサートの位置を変更する際に後端部にアクセスする必要があることから、工具本体自体を工作機械から都度取り外さなければならない。このため、加工作業の効率が限定的となってしまう。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、工具本体を工作機械から取り外すことなく切削インサートの位置決めや位置の変更を行うことが可能な刃先交換式切削工具、切削インサート、及び工具本体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の刃先交換式切削工具は、軸線を中心とした円筒状の工具本体の内周部に形成された取付孔に、先端部に切刃が形成された軸状の切削インサートが挿入されて着脱可能に固定される刃先交換式切削工具であって、前記切削インサートは、前記軸線方向に延びるとともに該軸線に交差する幅方向に間隔をあけて配列されることで互いの間に前記軸線方向に延びる溝部を形成する一対の突条部を有し、前記工具本体は、前記軸線に対する径方向に延びるとともに径方向内側の端部が前記取付孔に連通する位置決め孔を有し、前記位置決め孔には、先端が前記一対の突条部に前記軸線方向から当接する位置決めボルトが挿通されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の切削インサートは、このような刃先交換式切削工具における軸状の切削インサートであって、前記軸線方向に延びるとともに該軸線に交差する幅方向に間隔をあけて配列されることで互いの間に前記軸線方向に延びる溝部を形成する一対の突条部を有することを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の工具本体は、このような刃先交換式切削工具における軸線を中心とした円筒状の工具本体であって、前記軸線に対する径方向に延びるとともに径方向内側の端部が前記取付孔に連通する位置決め孔を有し、前記位置決め孔には、先端が前記一対の突条部に対して前記軸線方向から当接する位置決めボルトが挿通されることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、位置決め孔に挿入された位置決めボルトの先端が、切削インサートの一対の突条部の端部に軸線方向から当接する。これにより、当該切削インサートがさらに軸線方向に移動してしまうことを規制することができる。つまり、切削インサートの軸線方向における位置決めを容易に行うことが可能となる。
【0011】
上述の刃先交換式切削工具において、前記切削インサートは、前記軸線方向及び前記幅方向に直交する厚さ方向を向く両面にそれぞれ一対ずつの前記突条部を有する、構成としてもよい。
【0012】
このような構成によれば、切削インサートの厚さ方向の両面に一対ずつの突条部が設けられていることから、当該切削インサートの向きを問わず、工具本体に固定することができる。言い換えると、いわゆる2コーナータイプの切削インサートにも上記構成を適用することができる。
【0013】
上述の刃先交換式切削工具において、前記工具本体は、前記軸線方向に間隔をあけて配列された複数の前記位置決め孔を有し、前記位置決めボルトは、複数の前記位置決め孔の何れかに挿通される、構成としてもよい。
【0014】
このような構成によれば、位置決め孔は、軸線方向に間隔をあけて複数配列されていることから、任意の位置決め孔を選択して位置決めボルト挿入することで、段階的に切削インサートの軸線方向の突出量を調節することができる。
【0015】
上述の刃先交換式切削工具において、前記工具本体は、前記位置決め孔とは別に設けられる固定孔を有し、前記固定孔には、先端が前記切削インサートの前記突条部に前記軸線の径方向外側から当接する固定ネジが挿通される、構成としてもよい。
【0016】
このような構成によれば、固定ネジの先端が切削インサートの突条部に対して当接することで当該切削インサートの軸線方向位置が固定される。さらに、一対の突条部の間に設けられる溝部の底面と固定ネジの先端との間に間隙を設けることができる。この間隙を通じて、クーラントを切削インサートの切刃に向けて円滑に供給することができる。これにより、切削作業をさらに安定的に進めることが可能となる。
【0017】
また、位置決めボルトは、軸線に対する径方向に延びていることから、工具本体の取付孔における後端側には何らの拘束部材を設ける必要がなく、クーラント(冷却油)の流路として取付孔の容積のほぼ全体を有効に利用することができる。さらに、後端側に切削インサートの拘束部材を設ける構成とは異なり、工具本体が工作機械のチャックに挟持された状態でも、位置決めボルトにアクセスすることが可能である。これにより、切削インサートの突出長さを調節するに当たって、工具本体を工作機械から都度取り外す必要がなくなる。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明によれば、工具本体を工作機械から取り外すことなく切削インサートの位置決めや位置の変更を行うことが可能な刃先交換式切削工具、切削インサート、及び工具本体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の刃先交換式切削工具の軸線を含む面における破断斜視図である。
【
図3】本発明の切削インサートの端部をすくい面側から見た斜視図である。
【
図4】本発明の切削インサートの端部を下面側から見た斜視図である。
【
図5】本発明の位置決めボルトと切削インサートとの相対位置関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る刃先交換式切削工具1について、
図1から
図5を参照して説明する。この刃先交換式切削工具1は、回転する被削材に予め形成された下孔の内周面の仕上げ加工等に使用される。
【0021】
図1に示すように、刃先交換式切削工具1は、工具本体10と、切削インサート11と、位置決めボルト12と、固定ネジ13と、を備えている。
【0022】
工具本体10は、軸線Oを中心とする円筒状をなしている。具体的には、工具本体10は、小径部21と、拡径部22と、大径部23と、を有する。大径部23は、小径部21よりも大きな径寸法を有する。拡径部22は、小径部21と大径部23を接続する部分であり、小径部21側から大径部23側に向かうに従って径寸法が次第に拡大している。小径部21の軸線O方向を向く端面には、軸線O方向に延びる取付孔31が開口している。取付孔31は、小径部21の内周部における中心位置に形成されている。取付孔31は、小径部21、拡径部22、及び大径部23の一部を軸線O方向に貫通するとともに、大径部23の内側に形成された内部空間32に連通している。この内部空間32にはクーラントが外部から供給される。
【0023】
図2に示すように、工具本体10の小径部21、及び拡径部22には、径方向に延びる複数(一例として2つ)の固定孔41が形成されている。固定孔41の内周側の端部は取付孔31に連通している。これら固定孔41には、切削インサート11を取付孔31の内部で固定するための固定ネジ13が挿入される。つまり、固定孔41の内周面には雌ネジが形成されている。
【0024】
さらに、工具本体10の大径部23には、軸線O方向に間隔をあけて配列された複数の位置決め孔42が形成されている。位置決め孔42の内周側の端部は、上述の内部空間32に連通している。
図1と
図2の例では、4つの位置決め孔42が形成されている例を示しているが、位置決め孔42の数は設計や仕様に応じて適宜変更されてよい。これら複数の位置決め孔42のいずれか1つには、切削インサート11の軸線O方向位置を決めるための位置決めボルト12が挿通可能である。位置決めボルト12の頭部には、例えば六角レンチと嵌合する六角形の穴が形成されている。位置決め孔42の内周面には、位置決めボルト12の雄ネジと螺合する雌ネジが形成されている。
【0025】
切削インサート11は、上記の取付孔31に挿入されている。切削インサート11は、工具本体10よりも硬質な超硬合金等の材料によって概略円柱形の軸状に形成されている。
図3に示すように、切削インサート11は、棒状のインサート本体51と、切刃52と、突条部53と、を有する。切削インサート11の先端部には、切刃52が形成されている。この切刃52は、切削インサート11の先端部の上面を切り欠いた切刃52のすくい面61と、切刃52の逃げ面62である切削インサート11の先端面との交差稜線部に形成されている。この切刃52は、切削インサート11の上下面の間の周面から僅かに突出していることで、いわゆる引き加工を可能としている。また、このような切刃52が、切削インサート11の両端側に形成されている。つまり、この切削インサート11は2コーナータイプである。また、これら2つの切刃52は、互いに反対側に設けられている。
【0026】
さらに、インサート本体51の厚さ方向両面における一対の切刃52同士の間には、一対の突条部53がそれぞれ設けられている。なお、ここで言う「厚さ方向」とは、軸線O方向、及び幅方向に直交する方向であり、幅方向とは上記の切刃52が延びる方向である。厚さ方向一方側の面の突条部53は、インサート本体51から厚さ方向に突出するとともに、幅方向に間隔をあけて一対設けられている。突条部53同士の間には、軸線O方向に延びる溝部54が形成されている。また、
図3と
図4に示すように、溝部54は、切刃52のすくい面61の一部から、逃げ面62の一部までを貫通するように延びている。言い換えると、一対の突条部53は、切削インサート11の軸線O方向における全域にわたって設けられている。
【0027】
固定ネジ13は、一対の突条部53に軸線Oの径方向外側から当接する。これにより、固定ネジ13は、切削インサート11を工具本体10に対し移動不能に固定している。つまり、固定ネジ13の先端は、溝部54の内側には挿入されない。また、
図5に示すように、位置決めボルト12の先端における外周面は、軸線O方向から一対の突条部53の端面に対してそれぞれ当接する。このように二点で当接することにより、切削インサート11の軸線O方向における位置決めがなされている。また、この時、位置決めボルト12の先端面とインサート本体51との間には間隙が形成されていることが望ましい。
【0028】
以上のように構成された切削インサート11を工具本体10に取り付けるに当たっては、まず予め定められた切削インサート11の突出長さに合わせて、任意の1つの位置決め孔42に位置決めボルト12を挿通する。これにより、位置決めボルト12が工具本体10の内部空間32に突出した状態となる。この状態で、切削インサート11を工具本体10の取付孔31に挿入する。切削インサート11は、後端部が上記の位置決めボルト12に当接するまで挿入される。これにより、切削インサート11の軸線O方向における位置決めがなされる。その後、固定ネジ13をそれぞれの固定孔41に挿通することで、切削インサート11が工具本体10に対して脱離不能に固定された状態となる。
【0029】
上記のような構成によれば、位置決め孔42に挿入された位置決めボルト12の先端が、切削インサート11の一対の突条部53の端部に軸線O方向から当接する。これにより、当該切削インサート11がさらに軸線O方向に移動してしまうことを規制することができる。つまり、切削インサート11の軸線O方向における位置決めを容易に行うことが可能となる。
【0030】
さらに、切削インサート11の厚さ方向の両面に一対ずつの突条部53が設けられていることから、当該切削インサート11の向きを問わず、工具本体10に固定することができる。言い換えると、いわゆる2コーナータイプの切削インサート11にも上記構成を適用することができる。
【0031】
加えて、位置決め孔42は、軸線O方向に間隔をあけて複数配列されていることから、任意の位置決め孔42を選択して位置決めボルト12を挿入することで、段階的に切削インサート11の突出量を調節することができる。
【0032】
加えて、固定ネジ13の先端が切削インサート11の突条部53に対して当接することで当該切削インサート11の軸線O方向位置が固定される。また、一対の突条部53の間に設けられ溝部54の底面と固定ネジ13の先端との間には間隙が形成される。この間隙を通じて、クーラントを切削インサート11の切刃52に向けて円滑に供給することができる。これにより、切削作業をさらに安定的に進めることが可能となる。
【0033】
また、位置決めボルト12は、軸線Oに対する径方向に延びていることから、工具本体10の取付孔31における後端側には何らの拘束部材を設ける必要がなく、クーラント(冷却油)の流路として取付孔31、及び内部空間32の容積のほぼ全体を有効に利用することができる。したがって、クーラントをより円滑に流すことが可能となり、切削作業の効率性や精度を向上させることが可能となる。
【0034】
さらに、従来の後端側に切削インサート11の拘束部材を設ける構成とは異なり、位置決め孔42が工具本体10の径方向を向く面に露出していることから、工具本体10が工作機械のチャックに挟持された状態でも、位置決めボルト12にアクセスすることが可能である。これにより、切削インサート11の突出長さを調節するに当たって、工具本体10を工作機械から都度取り外す必要がなくなる。したがって、切削作業をより効率的に行うことが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1…刃先交換式切削工具
10…工具本体
11…切削インサート
12…位置決めボルト
13…固定ネジ
21…小径部
22…拡径部
23…大径部
31…取付孔
32…内部空間
41…固定孔
42…位置決め孔
51…インサート本体
52…切刃
53…突条部
54…溝部
61…すくい面
62…逃げ面
O…軸線