(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090019
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】粉末油脂
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20240627BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240627BHJP
A23C 11/00 20060101ALI20240627BHJP
A23C 11/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/00 508
A23C11/00
A23C11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205638
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅大
(72)【発明者】
【氏名】田中 奈都子
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 公晴
(72)【発明者】
【氏名】小出 篤史
(72)【発明者】
【氏名】田中 健
【テーマコード(参考)】
4B001
4B026
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001AC02
4B001AC06
4B001AC07
4B001AC15
4B001AC43
4B001AC44
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4B026DL08
4B026DP01
4B026DP10
4B026DX08
(57)【要約】
【課題】優れた白濁性と、優れた風味とを低コストで両立することができる粉末油脂を提供する。
【解決手段】粉乳を含み、香料を含まない粉末油脂であって、ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)が0.01~0.7であり、カリウムとリンとの質量比(K/P)が1.4以上であり、乳化粒子のモード径が0.7μm以下である粉末油脂である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉乳を含み、香料を含まない粉末油脂であって、
ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)が0.01~0.7であり、
カリウムとリンとの質量比(K/P)が1.4以上であり、
乳化粒子のモード径が0.7μm以下であることを特徴とする粉末油脂。
【請求項2】
リン酸塩を含む請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)が0.1~0.7である請求項1から2のいずれかに記載の粉末油脂。
【請求項4】
カリウムとリンとの質量比(K/P)が1.5以上である請求項1から2のいずれかに記載の粉末油脂。
【請求項5】
対象物に白濁を付与するために用いられるものである請求項1から2のいずれかに記載の粉末油脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーミングパウダーとも称される粉末油脂(以下、「粉末クリーマー」と称することもある。)は、各種飲食品の原料として又は各種飲食品に添加して用いられている。これまでに、粉末形状以外の形状のクリーマーも含め、様々な提案がされている。
【0003】
例えば、冷却液体用あるいは温湯液体用としてそれぞれ個別に調製することなく同一製品によって、温湯液体に添加した場合には、風味的にまろやかさやこくがあり、一方冷却液体に添加した場合は、分散溶解性が良く、かつ温湯液体に添加したのと同一風味を有する、いわゆるオールシーズンタイプのインスタントクリーミングパウダーとして、融点が12℃以下のパーム核分別油70~95重量%と融点が15~24℃のナタネ硬化油5~3.0重量%とから成り、かつ全脂肪酸中リノール酸とリノレン酸の合計量が8重量%未満である油脂を、油脂成分として組成物中30~40重量%配合したインスタントクリーミングパウダーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
レトルト加熱処理等の高温殺菌を行っても褐変、乳化破壊、風味劣化が生じることがなく、乳本来の優れた風味を有するホワイトソース等の食品を作製することができる水中油型乳化脂として、乳糖を1重量%以下、カリウムを0.1重量%以上及びナトリウムを含有し、且つ該ナトリウムと該カリウムとの重量比が1:0.5~10である水中油型乳化脂が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
カップ式自動販売機等で用いるのに適し味覚を向上させたクリーミングパウダー、湯に溶かしても水っぽくなくコクがある飲料が得られるクリーミングパウダーとして、クリーミングパウダーに乳清ミネラルを添加した改良クリーミングパウダーが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
乳、特にエバミルクと比較して滑らかさおよび純粋で新鮮さの高められた味がよいエバミルクと比較して改良された白度を特徴とする顕著な官能性を有する組成物として、無脂固形重量で、33~36%のタン白、48~58%のラクトースおよび3~5%のミネラルを含み、ミネラルのうち、カルシウム含量は乳の75~100%であり、ナトリウムおよびカリウム含量はそれぞれ乳の5~20%であり、そしてクエン酸塩含量は乳の10~30%である、乳の天然成分をベースとする乳組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
乳起源の原材料に頼らなくとも良好な乳風味を有する可塑性乳化油脂組成物として、所定のカリウム塩、及びナトリウム塩を含有し、カリウムの含有量が0.05~0.3重量%、ナトリウムとカリウムとの重量比率が1:0.5~5である可塑性乳化油脂組成物が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
熱安定性を確保しつつも、乳風味を損なうことがない乳濃縮物として、全固形分の20質量%あたり、タンパク質、灰分、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素を所定量含有する乳濃縮物が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-46256号公報
【特許文献2】特開2002-223698号公報
【特許文献3】特開2003-33135号公報
【特許文献4】特開平6-217689号公報
【特許文献5】特開2003-284489号公報
【特許文献6】特開2018-38361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように様々な提案がされているものの、安価で白濁性が強く、自然な乳風味増強効果が得られる粉末油脂は未だ提供されていないのが現状であり、その速やかな提供が強く求められている。
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた白濁性と、優れた風味とを低コストで両立することができる粉末油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、粉乳を用いた粉末油脂において、ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)を0.01~0.7とし、カリウムとリンとの質量比(K/P)を1.4以上とし、乳化粒子のモード径を0.7μm以下とすることで、香料を使用せずに、優れた白濁性と、優れた風味とを両立することができることを知見した。
【0013】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 粉乳を含み、香料を含まない粉末油脂であって、
ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)が0.01~0.7であり、
カリウムとリンとの質量比(K/P)が1.4以上であり、
乳化粒子のモード径が0.7μm以下であることを特徴とする粉末油脂である。
<2> リン酸塩を含む前記<1>に記載の粉末油脂である。
<3> ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)が0.1~0.7である前記<1>から<2>のいずれかに記載の粉末油脂である。
<4> カリウムとリンとの質量比(K/P)が1.5以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載の粉末油脂である。
<5> 対象物に白濁を付与するために用いられるものである前記<1>から<4>のいずれかに記載の粉末油脂である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた白濁性と、優れた風味とを低コストで両立することができる粉末油脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、試験例1における試験例1-1~1-4の白濁性を評価したときの溶液の外観を示す図である。
【
図2】
図2は、試験例1における試験例1-5~1-8の白濁性を評価したときの溶液の外観を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例1における試験例1-9~1-12の白濁性を評価したときの溶液の外観を示す図である。
【
図4】
図4は、試験例2における試験例2-1~2-4の白濁性を評価したときの溶液の外観を示す図である。
【
図5】
図5は、試験例2における試験例2-5~2-8の白濁性を評価したときの溶液の外観を示す図である。
【
図6】
図6は、試験例2における試験例2-9~2-12の白濁性を評価したときの溶液の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(粉末油脂)
本実施形態の粉末油脂は、粉乳を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。本実施形態の粉末油脂は、香料を含まない。
【0017】
<粉乳>
前記粉乳としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脱脂粉乳、全粉乳などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記脱脂粉乳及び全粉乳は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」において定義されているものをいう。具体的には、「脱脂粉乳」とは、「生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳の乳脂肪分を除去したものからほとんど全ての水分を除去し、粉末状にしたもの」をいい、「全粉乳」とは、「生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳からほとんど全ての水分を除去し、粉末状にしたもの」をいう。
前記粉乳は、生乳等から調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記粉乳の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1質量%~30質量%とすることができる。
【0018】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、従来粉末油脂に用いられる各種成分などを適宜使用することができ、例えば、食用油脂、糖質、タンパク質、乳化剤、pH調整剤、酸化防止剤、食塩、加工デンプンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記その他の成分の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
前記食用油脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、動物性油脂、植物性油脂、それらの硬化油、エステル交換油、分別油などが挙げられる。
前記動物性油脂の具体例としては、例えば、乳脂肪、ラード、牛脂(ヘット)、魚油などが挙げられる。
前記植物性油脂の具体例としては、例えば、ベニバナ油、ヒマワリ油、大豆油、とうもろこし油、綿実油、コメ油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油などが挙げられる。
前記食用油脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記食用油脂は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記食用油脂の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%~70質量%が好ましく、25質量%~40質量%がより好ましい。前記好ましい範囲であると、白濁性や風味が優れ、かつ、粉末化の際の加工適性が優れる点で、有利である。
【0020】
前記糖質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デキストリン、マルトデキストリン、粉末水飴、粉末還元水飴、水飴、マルトースシロップ、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖、オリゴ糖、乳糖、ショ糖、麦芽糖、トレハロース、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、セルロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラフィノース、エリスリトール、ラクチトール、キシリトールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記糖質は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記糖質の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%~80質量%が好ましく、40質量%~70質量%がより好ましい。前記好ましい範囲であると、粉末化の際の加工適性が優れる点で、有利である。
【0021】
前記タンパク質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳タンパク、ホエイタンパク、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム等の動物性タンパク質、大豆タンパク質、えんどうタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質等の植物性タンパク質などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記タンパク質は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記タンパク質の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%~20質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましい。前記好ましい範囲内であると、粉末化の際の加工適性が優れ、また、溶解性及び乳化安定性も優れる点で、有利である。
【0022】
前記乳化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留モノグリセライド、反応モノグリセライド、ポリグリセリンエステル、有機酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記乳化剤は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記乳化剤の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%~5質量%が好ましく、0.5質量%~2質量%がより好ましい。前記好ましい範囲内であると、風味を損なうことなく、乳化安定性が優れる点で、有利である。
【0023】
前記pH調整剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記pH調整剤は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記pH調整剤の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%~8質量%が好ましく、1質量%~4質量%がより好ましい。前記好ましい範囲内であると、風味を損なうことなく、溶解性及び分散性が優れる点で、有利である。
【0024】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、dl-α-トコフェロール、ミックストコフェロール、L-アスコルビン酸ナトリウム等のビタミン類、茶抽出物、ローズマリー抽出物等の酸化防止機能のある植物抽出物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記酸化防止剤は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記酸化防止剤の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが0.001質量%~0.01質量%が好ましく、0.002質量%~0.004質量%がより好ましい。前記好ましい範囲内であると、油脂の酸化による風味劣化抑制が優れる点で、有利である。
【0025】
<香料>
前記香料は、「食品衛生法」において定義されているものをいう。具体的には、「食品の製造または加工の工程で、香気を付与または増強するために添加される添加物及びその製剤」のことをいう。前記香料には、合成香料だけではなく、天然物から精製された天然香料も含まれる。
【0026】
従来、乳風味を付与するための香料としては、例えば、ラクトン類、ケトン類や脂肪酸類等の香気成分を含むミルク香料やクリーム香料などが知られているが、上記したように、本実施形態の粉末油脂は、香料を含まない。
【0027】
<ナトリウム、カリウム、リンの含有量>
前記粉末油脂におけるナトリウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.01質量%~1.5質量%などが挙げられる。
前記粉末油脂におけるカリウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.01質量%~2.5質量%などが挙げられる。
前記粉末油脂におけるリンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.01質量%~1.5質量%などが挙げられる。
【0028】
前記粉末油脂におけるナトリウム、カリウム、及びリンの含有量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法を適宜選択することができる。ナトリウム及びカリウムの含有量は、例えば、原子吸光光度法により測定することができる。リンの含有量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。
【0029】
<ナトリウムとリンとの質量比(Na/P)>
前記粉末油脂に含まれるナトリウムとリンとの質量比(Na/P)としては、0.01~0.7であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1~0.7が好ましく、0.1~0.6がより好ましい。前記Na/Pが、0.01~0.7の範囲外であると、自然な乳風味やコクといった風味を良好なものとすることができない。一方、前記好ましい範囲内であると、自然な乳風味やコクといった風味をより良好にすることができる点で、有利である。
【0030】
<カリウムとリンとの質量比(K/P)>
前記粉末油脂に含まれるカリウムとリンとの質量比(K/P)としては、1.4以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。前記K/Pの上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3.0などが挙げられる。前記K/Pが、1.4未満であると、自然な乳風味やコクといった風味を良好なものとすることができない。一方、前記好ましい範囲内であると、自然な乳風味やコクといった風味をより良好にすることができる点で、有利である。
【0031】
前記Na/P及びK/Pは、前記粉末油脂に含まれるナトリウム源、カリウム源、及びリン源となる原料の配合量により適宜調整することができるが、前記質量比を容易に調整することができる点で、前記粉末油脂は、リン酸塩あるいは天然由来物を含むことが好ましい。
【0032】
前記リン酸塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸3ナトリウム等のナトリウムのリン酸塩;リン酸水素2カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸3カリウム等のカリウムのリン酸塩;リン酸三カルシウム等のカルシウムのリン酸塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記リン酸塩は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記リン酸塩の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ナトリウムのリン酸塩を配合する場合は、0.1質量%~2.5質量%、カリウムのリン酸塩を配合する場合は、0.1質量%~8.0質量%などが挙げられる。
【0033】
前記天然由来物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ミネラル濃縮ホエイや乳清ミネラルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記天然由来物の粉末油脂における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1質量%~20質量%などが挙げられる
【0034】
<乳化粒子のモード径>
本明細書において、「乳化粒子のモード径」とは、前記粉末油脂を水に懸濁させた懸濁液(乳化液)における前記粉末油脂(油滴)のモード径のことをいう。
前記モード径とは、体積基準粒度分布における頻度が最大になる粒子径(最頻径)のことをいう。
前記乳化粒子のモード径の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、レーザ回折式粒子径測定装置(例えば、Mastersizer 3000、マルバーン・パナリティカル社製)により測定することができる。前記測定は、装置のマニュアルに沿って行うことができる。
【0035】
前記乳化粒子のモード径としては、0.7μm以下であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.6μm以下が好ましい。前記乳化粒子のモード径の下限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.3μmなどが挙げられる。前記乳化粒子のモード径が、0.7μm超であると、白濁性を良好なものとすることができない。一方、前記好ましい範囲内であると、白濁性をより良好にすることができる点で、有利である。
【0036】
前記乳化粒子のモード径を調整する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、圧力式ホモジナイザーの設定圧力を調整することによる方法などが挙げられる。
【0037】
<製造方法>
本実施形態の粉末油脂の製造方法としては、特に制限はなく、公知の粉末油脂の製造方法を適宜選択することができる。
例えば、食用油脂以外の原料を温水に溶解させた溶液を調製し、必要に応じてその他の成分を溶解した加温した油脂を前記溶液に加え、混合及び予備乳化を行った後、均質化を行い、乳化液を調製する。次いで、前記乳化液を、公知の噴霧乾燥の装置を用いて噴霧乾燥し、粉末油脂とすることができる。また、前記噴霧乾燥の後、必要に応じて、乾燥や顆粒化を行って、粉末油脂としてもよい。
【0038】
前記乳化液の固形分濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、30%(w/w)~70%(w/w)が挙げられる。
前記乳化液の調製に用いる装置としては、特に制限はなく、公知の装置を適宜選択することができる。
前記均質化に用いる装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、圧力式ホモジナイザーなどが挙げられる。
前記乳化液の調製では、予備乳化と均質化の間に、加熱殺菌を行ってもよい。
【0039】
前記粉末油脂の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、飲食品などの対象物に白濁(「白色」と称することもある。)を付与するために用いることが好ましい。
【0040】
前記飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コーヒー、紅茶、ココア、粉末飲料、ヨーグルト風味飲料、スープ、ソース、ホワイトソース、カレー、アイス、デザート、チョコレート、菓子、サンドクリーム、ポタージュ、シーズニング、グラタン、ドリア、ピザ、ピラフなどが挙げられる。
【0041】
本発明によれば、安価で白濁性が強く、自然な乳風味増強効果が得られ、またコクにも優れた粉末油脂を提供することができる。
【実施例0042】
以下に試験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0043】
(試験例1)
粉乳の一例として脱脂粉乳を用い、下記のようにして粉末油脂(クリーミングパウダー)を製造した。
粉末油脂とした際に後述の表1~3に示す組成となるように、植物性油脂以外の原料を温水(温度60℃~70℃)に溶解させ、溶液を調製した。
粉末油脂とした際に後述の表1~3に示す組成となるように、約70℃に調温した植物性油脂を前記溶液に加え、混合及び予備乳化を行った。次いで、圧力式ホモジナイザーを用いて均質化(圧力の大きさは目的とする乳化粒子の粒子径に応じて適宜調整した。)を行った後、殺菌し、乳化液(固形分約50%(w/w))を得た。
この乳化液を噴霧乾燥機にて、常法により噴霧し、乾燥と粉末化を行い、粉末油脂を得た。
なお、植物性油脂は極度硬化ヤシ油(不二製油株式会社製)、粉飴は粉飴(富士)GO(東洋化学株式会社製)、ソルビタン脂肪酸エステルはエマゾールS-10V(花王株式会社製)、レシチンはJ レシチンCL(株式会社J-オイルミルズ製)を使用した(後述の試験例2も同様)。
【0044】
[乳化粒子のモード径]
得られた粉末油脂の乳化粒子のモード径(以下、「乳化径(モード径)」と称することがある。)は、下記のようにして調製した試料をレーザ回折式粒子径測定装置(Mastersizer 3000、マルバーン・パナリティカル社製)を用いて測定した。結果を表1~3に示す。
-試料の調製-
得られた粉末油脂1gを水50mLに懸濁させたものを試料とした。
【0045】
[ナトリウム/リン、カリウム/リン]
得られた粉末油脂におけるナトリウム及びカリウムの含有量は、原子吸光光度法により分析した。また、得られた粉末油脂におけるリンの含有量は、ICP発光分析法により分析した。これらの結果から、粉末油脂におけるナトリウムとリンとの質量比(Na/P)と、カリウムとリンとの質量比(K/P)を算出した。結果を表1~3に示す。
【0046】
[評価]
-風味-
得られた粉末油脂15gをお湯150mLで溶解し、溶解液を調製した。前記溶解液を口に含み、コク及び自然な乳風味について、下記の評価基準で8名の評価者により評価した。8名の評価者による評価結果の平均値を表1~3に示す。なお、表1~3中の「風味合計」は、コクの評価結果と、自然な乳風味の評価結果を合計したものである。
--コク--
前記溶解液を飲み込んだ後に感じる油脂感や厚みを評価した。
評価は、試験例1-5の粉末油脂の場合を5点とした相対評価とし、飲み込んだ後に感じる油脂感や厚みが強いほど高い点数とし、飲み込んだ後に感じる油脂感や厚みが弱いほど低い点数とした(1点~10点の10段階評価)。
【0047】
--自然な乳風味--
前記溶解液を口に含んでから飲み込むまでの味及び香りを総合的に評価した。
評価は、試験例1-5の粉末油脂の場合を5点とした相対評価とし、口に含んでから飲み込むまでの味及び香りが良好であるほど高い点数とし、口に含んでから飲み込むまでの味及び香りが悪いほど低い点数とした(1点~10点の10段階評価)。
【0048】
-白濁性-
得られた粉末油脂5gをお湯50mLで溶解し、次いで、インスタントコーヒー0.5gを溶解した際の溶液を目視にて確認し、下記の評価基準で8名の評価者により評価した。8名の評価者による評価結果の平均値を表1~3に示す。また、溶液の外観を
図1~3に示す。
5点 : 白濁が強い。
4点 : 白濁がやや強い。
3点 : 白濁はあるが弱い。
2点 : 白濁がほとんど無い。
1点 : 白濁が全く無い。
【0049】
【表1】
表1中、リン酸水素2カリウムの配合量は、リン酸水素2カリウム液を粉末換算した値である(表2~6も同様)。
【0050】
【0051】
【0052】
(試験例2)
粉乳の他の一例として全粉乳を用い、表4~6に示す組成とした以外は、試験例1と同様にして粉末油脂を得た。
得られた粉末油脂について、試験例1と同様にして、乳化粒子のモード径の測定、Na/P及びK/Pの算出、風味及び白濁性の評価を行った。結果を表4~6に示し、また、白濁性を評価したときの溶液の外観を
図4~6に示す。なお、風味は、試験例2-5の粉末油脂の場合を5点として相対評価を行った。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
粉乳は、安価ではあるものの独特の風味を有するため、粉末油脂では使用が避けられる、又は香料を使用して乳風味を付与する必要があった。また、乳化粒子径を細かく(小さく)すると乳風味が弱くなるため香料を使用して乳風味を付与する必要があった。また、粉末化することでも風味が低下してしまっていた。
しかしながら、上記試験例に示したように、本発明によれば、粉乳を使用し、乳化粒子径が小さいにも関わらず、香料を使用しなくても優れた風味とすることができ、優れた白濁性と、優れた風味とを低コストで両立できる粉末油脂が得られることが確認された。