(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090047
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/064 20140101AFI20240627BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20240627BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240627BHJP
【FI】
B23K26/064 K
B23K26/073
B23K26/21 F
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205687
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】522498110
【氏名又は名称】フリッツ オアプケ バウシュトフグロースハンドルング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥング
【氏名又は名称原語表記】Fritz Orbke Baustoffgrosshandlung Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Huechtchenweg 1, 59597 Erwitte, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ナピエラヴァ
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA13
4E168BA21
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA39
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】固体レーザを用いたレーザ溶接装置において、溶接時に形成されるスパッタを抑制する。
【解決手段】コイルのストリップ端部同士を溶接するためのレーザ溶接装置が提供される。レーザ溶接装置は、固体レーザで構成されたレーザ発振器と、前記レーザ発振器によって生成されたビームを伝達する光ファイバと、前記光ファイバから伝達されたビームを集光して焦点面に所定の形状のスポットを形成する光学系と、前記光学系が設けられた溶接ヘッドと、を備え、前記焦点面において、コアビームと、該コアビームを取り囲むリング状ビームとが重畳されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルのストリップ端部同士を溶接するためのレーザ溶接装置であって、
固体レーザで構成されたレーザ発振器と、
前記レーザ発振器によって生成されたビームを伝達する光ファイバと、
前記光ファイバから伝達されたビームを集光して焦点面に所定の形状のスポットを形成する光学系と、
前記光学系が設けられた溶接ヘッドと、
を備え、
前記焦点面において、コアビームと、該コアビームを取り囲むリング状ビームとが重畳されていることを特徴とする、レーザ溶接装置。
【請求項2】
前記コアビームの焦点面における直径が0.15~0.8mmであり、前記リング状ビームの焦点面における直径が0.7~3.0mmであることを特徴とする、請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記光ファイバは、コアビーム用ファイバとリング状ビーム用とから構成されており、前記レーザ発振器からそれぞれにビームが供給されている、請求項1または2記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記光学系は、前記光ファイバから供給されたビームから前記コアビームと前記リング状ビームとを形成する回折光学素子を備えている、請求項1または2記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
ビーム強度の最小10%~最大80%が前記コアビームに分配されており、ビーム強度の最小20%~最大90%が前記リング状ビームに分配されている、請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記リング状ビームは、さらに内側リング状ビームと外側リング状ビームとで構成されていることを特徴とする、請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項7】
前記外側リング状ビームの焦点面における直径が1.5mm~3.5mmであることを特徴とする、請求項6記載のレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル材の端部同士を溶接で接合するために、レーザ溶接装置が用いられている。従前の溶接プロセスでは、レーザ源としてCO2レーザを使用していた。CO2レーザを使用する溶接では、プロセスウインドウが非常に大きいため、溶接することができる鋼板(ストリップ)の厚さの範囲が大きいことが知られている。
【0003】
図1は、レーザ源としてCO
2レーザを使用するレーザ溶接装置で形成された溶接シームの断面の顕微鏡写真である。CO
2レーザを使用する場合には、溶接部においてプラズマが発生し、この発生を低減するために、ヘリウムなどのガスがアシストガスとして溶接部に吹き付けられる。このプラズマは、ヘリウムとともに、熱エネルギーの金属面への入射を補償するので、鋼板に形成される溶接池が大きくなる(非特許文献1)。
図1に示されているように、鋼板の接合部にはV字状の溶接池が形成されており、さらに奥側、つまり鋼板の溶接面とは反対側では、溶接池がより狭くなり、I字状の部分が形成されている。広い溶融池が形成されると、溶接プロセス中に発生する金属蒸気による乱流の発生が防止されるため、金属スパッタの形成が低減される。
【0004】
これに対して、
図2は、レーザ源として固体レーザを使用した溶接装置で形成された溶接シームの断面の顕微鏡写真である。固体レーザ源の場合、レーザの波長が異なるため、溶接部にプラズマは発生しない。したがって、プラズマの発生を防ぐための、ヘリウムなどのアシストガスは使用されない。固体レーザの場合は、溶接部には広い溶接池は形成されず、
図2に示すように、I字状の狭く平行な溶接池が形成される。この場合、溶接プロセス中に発生する金属蒸気が乱流を形成するため、溶接部の近傍に金属スパッタが形成されてしまう(非特許文献2)。その結果、固体レーザを使用する溶接プロセスでは、溶接品質が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Binroth, D. et al., “Differences of CO2 and Solid-State Laser Welding in Industrial Flat Steel Production”, AISTech2019 Proceedings of the Iron and Steel Technology Conference (2019)
【非特許文献2】Kaplan, Alexander & Powell, John, Laser welding: The spatter map, International Congress on Applications of Lasers & Electro-Optics (2010), p. 683-690
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、固体レーザ源を使用するレーザ溶接装置では、溶接シームの周辺にスパッタが飛散するため、溶接品質に影響を及ぼすおそれがある。そこで、本発明の課題は、固体レーザ源を使用するレーザ溶接装置において、スパッタの発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、コイルのストリップ端部同士を溶接するためのレーザ溶接装置であって、固体レーザで構成されたレーザ発振器と、前記レーザ発振器によって生成されたビームを伝達する光ファイバと、前記光ファイバから伝達されたビームを集光して焦点面に所定の形状のスポットを形成する光学系と、前記光学系が設けられた溶接ヘッドと、を備え、前記焦点面において、コアビームと、該コアビームを取り囲むリング状ビームとが重畳されている、レーザ溶接装置が提供される。
【0008】
前記コアビームの焦点面における直径が0.15~0.8mmであってもよく、前記リング状ビームの焦点面における直径が0.7~3.0mmであってもよい。
【0009】
前記光ファイバは、コアビーム用ファイバとリング状ビーム用とから構成されており、前記レーザ発振器からそれぞれにビームが供給されてもよい。
【0010】
前記光学系は、前記光ファイバから供給されたビームから前記コアビームと前記リング状ビームとを形成する回折光学素子を備えていてもよい。
【0011】
ビーム強度の最小10%~最大80%が前記コアビームに分配されており、ビーム強度の最小20%~最大90%が前記リング状ビームに分配されていてもよい。
【0012】
前記リング状ビームは、さらに内側リング状ビームと外側リング状ビームとで構成されていてもよい。
【0013】
前記外側リング状ビームの焦点面における直径が1.5mm~3.5mmであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体レーザ源を使用するレーザ溶接装置において、スパッタの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】レーザ源としてCO
2レーザを使用するレーザ溶接装置で形成された溶接シームの断面の顕微鏡写真である。
【
図2】レーザ源として固体レーザを使用するレーザ溶接装置で形成された溶接シームの断面の顕微鏡写真である。
【
図3】(a)は、本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置の構成を示す概略図である。(b)は、焦点面におけるビームの断面図である。(c)および(d)は、焦点面におけるビーム強度の分布図である。
【
図4】焦点面におけるビームの三次元強度分布である。
【
図5】一実施形態に係るレーザ溶接装置で形成された溶接シームの断面の顕微鏡写真である。
【
図6】(a)は従来のレーザ溶接装置で形成された溶接シームであり、(b)は一実施形態に係るレーザ溶接装置で形成された溶接シームである。
【
図7】(a)は、本発明の別の実施形態に係るレーザ溶接装置の構成を示す概略図である。(b)は、焦点面におけるビームの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置について、以下に説明する。本実施形態のレーザ溶接装置は、コイルのストリップ端部同士を溶接するために使用される。一般に、ストリップ端部の溶接は特別な課題である。溶接前の製品には、うねりがあり、厚さの公差が大きく、オイル、グリース、スケールなどによって汚染されている。そのため、完成品を溶接する場合に比べて、スパッタが飛散するリスクが大きくなる。そのため、ストリップ端部の溶接には、堅牢な溶接プロセスと溶接装置が必要になる。なお、本実施形態のレーザ溶接装置は、これ以外の溶接にも使用可能である。
【0017】
図3(a)は、本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置10の構成を示す概略図である。レーザ溶接装置10は、レーザ発振器1と、光ファイバ2と、光学系3と、を少なくとも備えている。
【0018】
レーザ発振器1は、レーザ媒体を励起させると共に、励起したレーザ媒体が発した光を増幅させることで、ビームを生成する。レーザ発振器は、例えば、YAGレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザなどの固体レーザで構成されており、予め定めた波長および予め定めた出力のレーザビームを供給する。レーザ発振器1におけるレーザ出力は、4~24kWであってよい。
【0019】
光ファイバ2は、レーザ発振器1にて生成されたビームを光学系3に導く。
【0020】
光学系3は、光ファイバにより導かれたビームを平行ビームに変換するコリメートレンズと、レーザビームを集光して焦点面に所定の形状のスポットを形成するための集光レンズとで構成されている。このようなコリメートレンズおよび集光レンズは当業者には周知であるので、光学系3の詳細な構成については説明を省略する。光学系3は、図示しない溶接ヘッド内に設けられており、この溶接ヘッドを、ワーク、すなわち本実施形態では互いに突き合せたストリップ端部に対して移動させることによって、レーザ溶接を行う。焦点面に集光されたレーザビームによって、ワーク材料が溶融して溶融池が形成される。
【0021】
本実施形態では、焦点面において、コアビーム5aと、コアビームの周りを囲むリング状ビーム5bとを重畳するようにレーザビームを照射する。コアビームのビーム強度と、リング状ビームのビーム強度とを互いに異ならせることで、ワークにおける溶融池の形成を制御することができる。
【0022】
図3(b)は、焦点面におけるビームの断面図である。コアビーム5aの直径は、例えば0.15~0.8mmでああってよく、リング状ビーム5bの直径(外径)は、例えば0.7~3.0mmであってよい。
【0023】
図3(c)は、焦点面におけるビーム強度の分布の一例であり、ビーム強度の90%がコアビームに、ビーム強度の10%がリング状ビームに分配されている。
図3(d)は、焦点面におけるビーム強度の分布の別の例であり、ビーム強度の10%がコアビームに、ビーム強度の90%がリング状ビームに分配されている。
【0024】
コアビームとリング状ビームとを形成するために、光ファイバ2は、コアビームを伝達するためのコアファイバと、コアファイバを取り囲みリング状ビームを伝達するためのリングファイバとで構成されている。代替的に、光学系3が、光ファイバ2から供給されたビームからコアビームとリング状ビームとを形成するための回折光学素子を備えていてもよい。
【0025】
図4は、固体レーザの出力が1000Wであり、ビーム強度の20%をコアビームに、80%をリング状ビームに分配した場合の、焦点面におけるビームの三次元強度分布を示している。この場合、焦点面の中央部におけるビーム強度が高くなるので、ワークにおいて深くかつ広い溶融池を形成することができる。
【0026】
本願発明者は、上記のレーザ溶接装置を用いて溶接試験を実施した。この試験では、厚さ0.4mm~15mmの鋼およびアルミニウムの試験片を使用し、パラメータとして、総レーザ出力、出力分布、コアビームおよびリング状ビームの直径、焦点面の位置、ならびに溶接速度を様々に変化させて、試験片同士を溶接した。
【0027】
図5は、上記試験で得られた溶接シームの断面の顕微鏡写真である。適切なパラメータが選択されている場合、固体レーザを用いた場合であっても、
図1に示したCO
2レーザを用いた場合と同様に、適度な深さのV字状の溶融池と、その奥に細くて狭いI字状の溶融池とを形成することができることが分かった。コアビームとリング状ビームへのビーム強度の配分を変更することによって、V字状の溶融池と、I字状の溶融池の形状を調整することができる。ビーム強度の配分は、溶接されるストリップの材料特性(例えば、熱伝導性など)や、ストリップ表面の汚染の種類や程度に適したものが選択される。
【0028】
図6(a)は、固体レーザを用いた従来のレーザ溶接装置によって形成された溶接シームの拡大図である。図から分かるように、シームの両側に多くのスパッタが形成されてしまっている。
【0029】
これに対して、
図6(b)は、本実施形態に係る、固体レーザを用いたレーザ溶接装置によって形成された溶接シームの拡大図である。図から分かるように、溶接シームの近傍にはスパッタが形成されておらず、またビードの幅も
図6(a)と比較して大きく形成されている。
【0030】
このように、コアビームとリング状ビームとを重畳させる本実施形態のレーザ溶接装置では、適切なパラメータを選択しさえすれば、固体レーザであっても、CO2レーザの場合と同様に、より深くより大きな溶融池が形成されるため、ビード幅を大きくし、かつ、スパッタの少ない溶接を実行することができる。したがって、溶接の品質を向上させることができる。
【0031】
図7(a)は、本発明の別の実施形態に係るレーザ溶接装置である。この実施形態では、
図3(a)に示した実施形態と異なり、リング状ビームが二重に形成される。すなわち、
図7(b)に示されているように、コアビーム5aと、その周囲の第1リング状ビーム5bと、さらにその周囲の第2リング状ビーム5cとが形成される。二重のリング状ビームを使用すると、焦点面におけるレーザのビーム強度の分布をより正確に調整することができる。これは主に、表面に厚い汚染層がある薄いストリップを溶接する場合に適している。なぜなら、より広いV字状の溶融池を形成することができるからである。
【符号の説明】
【0032】
1 レーザ発振器
2 光ファイバ
3 光学系
4、4’ ビーム
5 ビーム断面
5a コアビーム
5b リング状ビーム
5b1 内側リング状ビーム
5b2 外側リング状ビーム
10、10’ レーザ溶接装置
【手続補正書】
【提出日】2024-04-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルのストリップ端部同士を溶接するためのレーザ溶接装置であって、
固体レーザで構成されたレーザ発振器と、
前記レーザ発振器によって生成された連続波のビームを伝達する光ファイバと、
前記光ファイバから伝達されたビームを集光して焦点面に所定の形状のスポットを形成する光学系と、
前記光学系が設けられた溶接ヘッドと、
を備え、
前記焦点面において、コアビームと、該コアビームを連続的に取り囲むリング状ビームとが重畳されていることを特徴とする、レーザ溶接装置。
【請求項2】
前記コアビームの焦点面における直径が0.15~0.8mmであり、前記リング状ビームの焦点面における直径が0.7~3.0mmであることを特徴とする、請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記光ファイバは、コアビーム用ファイバとリング状ビーム用ファイバとから構成されており、前記レーザ発振器からそれぞれにビームが供給されている、請求項1または2記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記光学系は、前記光ファイバから供給されたビームから前記コアビームと前記リング状ビームとを形成する回折光学素子を備えている、請求項1または2記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
ビーム強度の最小10%~最大80%が前記コアビームに分配されており、ビーム強度の最小20%~最大90%が前記リング状ビームに分配されている、請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記リング状ビームは、さらに内側リング状ビームと外側リング状ビームとで構成されていることを特徴とする、請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項7】
前記外側リング状ビームの焦点面における直径が1.5mm~3.5mmであることを特徴とする、請求項6記載のレーザ溶接装置。