(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090057
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】パルプモールド成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21J 5/00 20060101AFI20240627BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20240627BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
D21J5/00
D21H11/18
D21H15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205699
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 了嗣
(72)【発明者】
【氏名】本橋 晃
(72)【発明者】
【氏名】滝田 亮一
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐二
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF09
4L055AF46
4L055AG72
4L055AG83
4L055AG85
4L055AH50
4L055BF06
4L055EA04
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA20
4L055EA23
4L055EA30
4L055EA32
4L055FA13
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】厚さが小さい場合であっても優れた強度を示すパルプモールド成形品の実現に有利な技術を提供する。
【解決手段】パルプモールド成形品MP2は、繊維径が4μm以上のパルプと、繊維径が800nm以下の微細セルロース繊維とを含み、表面における窒素原子の存在比率が0.1乃至7.0原子%の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が4μm以上のパルプと、繊維径が800nm以下の微細セルロース繊維とを含み、表面における窒素原子の存在比率が0.1乃至7.0原子%の範囲内にあるパルプモールド成形品。
【請求項2】
密度が0.45乃至1.2g/m3の範囲内にあり、最小厚さが1.2mm以下である請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項3】
前記パルプと前記微細セルロース繊維との合計量に占める前記微細セルロース繊維の割合は1乃至9質量%の範囲内にある請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項4】
前記パルプは平均繊維径が15乃至40μmの範囲内にあり、前記微細セルロース繊維は平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある請求項1乃至3の何れか1項に記載のパルプモールド成形品。
【請求項5】
前記パルプは、平均繊維径が15乃至22μmの範囲内にある第1パルプを含み、前記微細セルロース繊維は平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある請求項1乃至3の何れか1項に記載のパルプモールド成形品。
【請求項6】
前記パルプは、平均繊維径が22乃至40μmの範囲内にある第2パルプを更に含んだ請求項5に記載のパルプモールド成形品。
【請求項7】
前記パルプに占める前記第1パルプの割合は50質量%以上である請求項5に記載のパルプモールド成形品。
【請求項8】
容器である請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項9】
繊維径が4μm以上のパルプと、繊維径が800nm以下の微細セルロース繊維と、架橋剤と、水とを含み、前記架橋剤は、アクリルアミド基、イソシアネート基、及びカルボジイミド基から選ばれる反応基の何れかを含んだ1以上の化合物であり、前記パルプと前記微細セルロース繊維と前記架橋剤との合計に占める前記架橋剤の固形分ベースでの割合は、前記架橋剤がイソシアネート基又はカルボジイミド基を含んでいる場合には2乃至8質量%の範囲内にあり、前記架橋剤がアクリルアミド基を含んでいる場合には0.5乃至3質量%の範囲内にあるスラリーを準備することと、
立体形状を有する抄型上に前記パルプ及び前記微細セルロース繊維を堆積させてパルプ層を形成することと、
前記パルプ層を脱水して中間成形品を得ることと、
未乾燥の前記中間成形品を、雄型と雌型との間に挟んで0.1乃至3.0MPaの範囲内の圧力で加圧しながら、130乃至250℃の範囲内の温度に加熱することと
を含んだパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項10】
密度が0.45乃至1.2g/m3の範囲内にあり、最小厚さが1.2mm以下であるパルプモールド成形品を製造する請求項9に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項11】
前記スラリーにおいて、前記パルプと前記微細セルロース繊維との合計量に占める前記微細セルロース繊維の割合を1乃至9質量%の範囲内にする請求項9に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項12】
前記パルプとして平均繊維径が15乃至40μmの範囲内にあるものを使用し、前記微細セルロース繊維として平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にあるものを使用する請求項9乃至11の何れか1項に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項13】
前記パルプは、平均繊維径が15乃至22μmの範囲内にある第1パルプを含み、前記微細セルロース繊維は平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある請求項9乃至11の何れか1項に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項14】
前記パルプは、平均繊維径が22乃至40μmの範囲内にある第2パルプを更に含んだ請求項13に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項15】
前記パルプに占める前記第1パルプの割合を50質量%以上とする請求項13に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項16】
前記架橋剤は、カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方を含んだ水溶性樹脂である請求項9に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項17】
前記抄型上への前記パルプ及び前記微細セルロース繊維の堆積は、
開口部を有する中空体としてのカバー体を準備することと、
前記開口部に前記抄型を固定することと、
前記開口部に固定された前記抄型を前記スラリー中に浸漬させることと、
前記カバー体と前記スラリー中に浸漬させている前記抄型とによって囲まれた空間を減圧することと
を含んだ請求項9に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項18】
前記抄型が前記カバー体の上方に位置するように前記抄型を前記スラリー中へ浸漬させる請求項17に記載のパルプモールド成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプモールド成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
紙製容器は、環境に配慮した容器であると広く認知されており、その需要が伸びてきている。
【0003】
パルプモールドは、パルプと水とを含んだスラリーから成形品を製造する技術である。パルプモールドを利用すると、紙製容器等の紙からなる物品の形状の自由度を高めることができる。
【0004】
しかしながら、パルプモールドによって製造されるパルプモールド成形品は、その低い強度が問題になることがある。特許文献1及び2には、パルプモールド成形品の強度を高めるための技術が記載されている。
【0005】
特許文献1には、古紙から得られる古紙パルプを原料としたパルプモールド成形品は、透湿性及び通気性に優れるが、その反面で、重量物を梱包する際に緩衝材として使用した場合には取り扱い中に破損することがあり、また、表面が毛羽立ち易く、紙粉が発生し易いことが記載されている。特許文献1に記載された技術では、パルプスラリーへ、保水度が高い微細繊維を添加する。微細繊維は、例えば、セルロース系繊維である。微細繊維は、通常、数平均繊維長が0.01乃至0.80mmの範囲内にあり、繊維径が0.1乃至30μmの範囲内にある。保水度が高い微細繊維は、繊維表面に存在している水酸基の量が多く、繊維間の水素結合能力が高い。この技術では、上記の微細繊維を使用することにより、パルプモールド成形品において繊維間の結合力を高めて、高い強度を達成するとともに、表面の毛羽立ち及び紙粉の発生を抑制する。
【0006】
特許文献2には、原料として古紙を使用したパルプモールド成形品は、繊維が短いため層間密着強度が低いことが記載されている。特許文献2に記載された技術では、パルプスラリーへ、パルプに対して所定量のセルロースナノファイバを添加する。セルロースナノファイバは、好ましくは原料であるセルロース原料へカルボキシ化などの化学変性処理したものであって、通常、平均繊維径が3乃至500nmの範囲内にあり、長さと径との比が平均で50乃至1000の範囲内にある。この技術では、所定量のセルロースナノファイバを含有させることにより、引張強さ及び破裂強さの両方を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-311000号公報
【特許文献2】特開2018-59254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、厚さが小さい場合であっても優れた強度を示すパルプモールド成形品の実現に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、繊維径が4μm以上のパルプと、繊維径が800nm以下の微細セルロース繊維とを含み、表面における窒素原子の存在比率が0.1乃至7.0原子%の範囲内にあるパルプモールド成形品が提供される。
【0010】
本発明の他の側面によると、密度が0.45乃至1.2g/m3の範囲内にあり、最小厚さが1.2mm以下である上記側面に係るパルプモールド成形品が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプと前記微細セルロース繊維との合計量に占める前記微細セルロース繊維の割合は1乃至9質量%の範囲内にある上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプは平均繊維径が15乃至40μmの範囲内にあり、前記微細セルロース繊維は平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプは、平均繊維径が15乃至22μmの範囲内にある第1パルプを含み、前記微細セルロース繊維は平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプは、平均繊維径が22乃至40μmの範囲内にある第2パルプを更に含んだ上記側面に係るパルプモールド成形品が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプに占める前記第1パルプの割合は50質量%以上である上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、容器である上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、繊維径が4μm以上のパルプと、繊維径が800nm以下の微細セルロース繊維と、架橋剤と、水とを含み、前記架橋剤は、アクリルアミド基、イソシアネート基、及びカルボジイミド基から選ばれる反応基の何れかを含んだ1以上の化合物であり、前記パルプと前記微細セルロース繊維と前記架橋剤との合計に占める前記架橋剤の固形分ベースでの割合は、前記架橋剤がイソシアネート基又はカルボジイミド基を含んでいる場合には2乃至8質量%の範囲内にあり、前記架橋剤がアクリルアミド基を含んでいる場合には0.5乃至3質量%の範囲内にあるスラリーを準備することと、立体形状を有する抄型上に前記パルプ及び前記微細セルロース繊維を堆積させてパルプ層を形成することと、前記パルプ層を脱水して中間成形品を得ることと、未乾燥の前記中間成形品を、雄型と雌型との間に挟んで0.1乃至3.0MPaの範囲内の圧力で加圧しながら、130乃至250℃の範囲内の温度に加熱することとを含んだパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、密度が0.45乃至1.2g/m3の範囲内にあり、最小厚さが1.2mm以下であるパルプモールド成形品を製造する上記側面に係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によると、前記スラリーにおいて、前記パルプと前記微細セルロース繊維との合計量に占める前記微細セルロース繊維の割合を1乃至9質量%の範囲内にする上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0020】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプとして平均繊維径が15乃至40μmの範囲内にあるものを使用し、前記微細セルロース繊維として平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にあるものを使用する上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0021】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプは、平均繊維径が15乃至22μmの範囲内にある第1パルプを含み、前記微細セルロース繊維は平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0022】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプは、平均繊維径が22乃至40μmの範囲内にある第2パルプを更に含んだ上記側面に係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0023】
本発明の更に他の側面によると、前記パルプに占める前記第1パルプの割合を50質量%以上とする上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0024】
本発明の更に他の側面によると、前記架橋剤は、カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方を含んだ水溶性樹脂である上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0025】
本発明の更に他の側面によると、前記抄型上への前記パルプ及び前記微細セルロース繊維の堆積は、開口部を有する中空体としてのカバー体を準備することと、前記開口部に前記抄型を固定することと、前記開口部に固定された前記抄型を前記スラリー中に浸漬させることと、前記カバー体と前記スラリー中に浸漬させている前記抄型とによって囲まれた空間を減圧することとを含んだ上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【0026】
本発明の更に他の側面によると、前記抄型が前記カバー体の上方に位置するように前記抄型を前記スラリー中へ浸漬させる上記側面に係るパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、厚さが小さい場合であっても優れた強度を示すパルプモールド成形品の実現に有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るパルプモールド成形品を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のパルプモールド成形品の製造に利用可能な製造装置の一例を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層形成工程を示す図である。
【
図4】
図4は、抄型上に形成されたパルプ層の一例を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形における脱水工程を示す図である。
【
図6】
図6は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層の搬送工程を示す図である。
【
図7】
図7は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形における熱プレス形成工程を示す図である。
【
図8】
図8は、熱プレス工程によって得られるパルプモールド成形品の一例を概略的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプモールド成形品の搬送工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0030】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0031】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0032】
<1>パルプモールド成形品
図1は、本発明の一実施形態に係るパルプモールド成形品を示す斜視図である。
図1に示すパルプモールド成形品MP2は、容器である。このパルプモールド成形品MP2は、底部と側壁部とを含んでおり、上部で開口している。
【0033】
底部は、円盤形状を有している。底部は、容器の深さ方向に対して垂直な平面への正射影が、円以外の形状を、例えば、四角形状などの多角形状を有していてもよい。
【0034】
側壁部は、底部の縁から上方へ伸びた筒形状を有している。側壁部は、底部から開口部へ向けて拡径している。側壁部の内面及び外面は、底部の上面に対して垂直であってもよい。但し、側壁部が底部から開口部へ向けて拡径しているパルプモールド成形品MP2は、高い離型性を実現するうえで有利であるとともに、積み重ね易い。
【0035】
パルプモールド成形品MP2は、カップ形状、ボウル形状、トレー形状、及び箱形状などの様々な形状を有し得る。パルプモールド成形品MP2は、立体成形品、即ち、シートのように二次元形状を有するものではなく、三次元形状を有する成形品であれば、容器でなくてもよい。
【0036】
パルプモールド成形品MP2は、最小厚さが、好ましくは1.2mm以下である。即ち、パルプモールド成形品MP2は、壁部の厚さの最小値、ここでは、底部及び側壁部の厚さの最小値が、好ましくは1.2mm以下である。パルプモールド成形品MP2は、最小厚さが1.0mm以下であることがより好ましい。厚いパルプモールド成形品MP2は、特に積み重ねた場合に嵩張る。また、厚さを大きくすると、パルプモールド成形品MP2を複雑な形状に成形することが難しくなる。一方、パルプモールド成形品MP2の壁部を薄くすることは、その製造時の乾燥を短時間で完了可能とするうえで有利である。
【0037】
パルプモールド成形品MP2は、最小厚さが0.4mm以上であることが好ましく、0.7mm以上であることがより好ましい。壁部が薄いパルプモールド成形品MP2は、壁部の厚さにばらつきを生じ易い。
【0038】
なお、複数の面を繋げた形状を有しているパルプモールド成形品は、一般に、それら面の接続箇所における厚さが、他の箇所における厚さと比較してより大きい。パルプモールド成形品MP2では、通常、底部と側壁部との接続箇所における厚さが、他の箇所における厚さと比較してより大きい。上記の「最小厚さ」は、接続箇所以外の箇所における厚さを特定するものである。
【0039】
パルプモールド成形品MP2は、密度が0.45乃至1.2g/cm3の範囲内にあることが好ましい。パルプモールド成形品MP2の密度は、0.45乃至1.1g/cm3の範囲内にあることが好ましく、0.6乃至1.0g/cm3の範囲内にあることがより好ましい。
【0040】
密度が小さい場合、優れた強度を達成することが難しい。密度を過剰に大きくしたパルプモールド成形品MP2は、通常、柔軟性が低く、割れを生じ易い。
【0041】
パルプモールド成形品MP2は、坪量が400乃至1000g/cm2の範囲内にあることが好ましく、400乃至600g/cm2の範囲内にあることがより好ましい。
【0042】
ここで、上記の最小厚さ、密度及び坪量は、以下の方法によって得られる値である。即ち、パルプモールド成形品MP2のうち表面が湾曲していない部分から、正方形又は長方形の試験片を切り出し、寸法、質量、及び厚さを計測する。例えば、パルプモールド成形品MP2から、幅が15mm、長さが145mmの短冊形状を各々が有している10個の試験片を切り出す。そして、各試験片について、幅、長さ、厚さ、及び質量を計測する。幅、長さ、及び厚さの計測には、例えば、デジタルノギスを使用する。質量の計測には、例えば、電子天秤を使用する。そして、個々の試験片について得られた値から、その試験片の厚さ、密度及び坪量を算出する。そして、10個の試験片について得られた値を算術平均することにより、上記の最小密度及び坪量を得る。
【0043】
パルプモールド成形品MP2は、パルプと微細セルロース繊維とを含んでいる。好ましくは、パルプモールド成形品MP2が含む繊維は、パルプと微細セルロース繊維とからなる。
【0044】
パルプは、繊維径が4μm以上である。パルプの繊維径は、7μm以上であることが好ましい。パルプの繊維径は、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。また、パルプの平均繊維径は、15乃至40μmの範囲内にあることが好ましく、17乃至25μmの範囲内にあることがより好ましい。パルプモールド成形品MP2に好適なパルプは、繊維径が上記範囲内にある。
【0045】
なお、パルプの繊維径は、光学顕微鏡等の顕微鏡を用いて取得した画像から測定することができる。また、パルプの平均繊維径は、先の画像から測定した繊維径を算術平均することにより得ることができる。
【0046】
パルプモールド成形品MP2は、パルプとして、1種のパルプのみを含んでいてもよく、複数種のパルプを含んでいてもよい。例えば、パルプモールド成形品MP2は、パルプとして、平均繊維径が15乃至22μmの範囲内にある第1パルプのみを含んでいてもよく、第1パルプと平均繊維径が22乃至40μmの範囲内にある第2パルプとを含んでいてもよい。パルプに占める第1パルプの割合は50質量%以上であることが好ましい。
【0047】
微細セルロース繊維は、繊維径が800nm以下である。微細セルロース繊維の繊維径は、500nm以下であることが好ましい。繊維径が小さな微細セルロース繊維は、隣り合ったパルプ間での水素結合を妨げることなしに、パルプ間の隙間を充填し得る。それ故、優れた強度を達成するうえでは、微細セルロース繊維は、繊維径が小さいことが好ましい。
【0048】
微細セルロース繊維の繊維径は、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。微細セルロース繊維の一部は、パルプモールド成形品MP2の製造時における脱水工程において、水とともにパルプ層から脱離する可能性がある。繊維径が大きな微細セルロース繊維は、この脱離を生じ難い。また、繊維径が大きな微細セルロース繊維は、パルプモールド成形品MP2の製造時における乾燥工程の直前におけるパルプ層の残存水分量を過度に高めることがない。それ故、繊維径が大きな微細セルロース繊維は、パルプモールド成形品MP2の製造時における乾燥を短時間で完了するうえで有利である。
【0049】
微細セルロース繊維の平均繊維径は、50乃至500nmの範囲内にあることが好ましく、100乃至300nmの範囲内にあることがより好ましい。パルプモールド成形品MP2に好適な微細セルロース繊維は、繊維径が上記範囲内にある。
【0050】
なお、微細セルロース繊維の繊維径は、走査電子顕微鏡等の顕微鏡を用いて取得した画像から測定することができる。また、微細セルロース繊維の平均繊維径は、先の画像から20本の微細セルロース繊維を無作為に選択し、選択した微細セルロース繊維について測定した繊維径を算術平均することにより得ることができる。
【0051】
パルプと微細セルロース繊維との合計量に占める微細セルロース繊維の割合は、1乃至9質量%の範囲内にあることが好ましく、3乃至5質量%の範囲内にあることがより好ましい。この割合を小さくすると、微細セルロース繊維の添加によるパルプモールド成形品MP2の強度向上効果が小さくなる。この割合を大きくすると、パルプモールド成形品MP2の製造時における乾燥工程の直前におけるパルプ層の残存水分量が高まり。それ故、パルプモールド成形品MP2の製造時における乾燥に、より長い時間を要するようになる可能性がある。
【0052】
パルプモールド成形品MP2は、表面における窒素原子の存在比率が0.1乃至7.0原子%の範囲内にある。ここで、パルプモールド成形品MP2の表面における窒素原子の存在比率は、X線光電子分光法によって得られる値である。この値は、0.5乃至5.0原子%の範囲内にあることが好ましく、1.0乃至4.5原子%の範囲内にあることがより好ましい。
【0053】
上記の比率は、後述する架橋剤の量と関連した値である。この比率が小さい場合、架橋剤の使用による強度向上効果が顕著には現れない。この比率を過剰に大きくすると、パルプモールド成形品MP2に含まれる未反応の架橋剤の量が増加する。その結果、パルプモールド成形品MP2の強度が低下する可能性がある。
【0054】
パルプモールド成形品MP2は、ISOリングクラッシュ圧縮強さが、例えば、6乃至15kN/mの範囲内にある。パルプモールド成形品MP2のISOリングクラッシュ圧縮強さは、好ましくは9乃至15kN/mの範囲内にあり、より好ましくは9乃至13kN/mの範囲内にある。
【0055】
ここで、パルプモールド成形品MP2のISOリングクラッシュ圧縮強さは、JIS P8126:2015「圧縮強さ試験方法-リングクラッシュ法」で規定される方法によって得られる値である。圧縮強さは、円筒状(リング状)に曲げた細長い試験片を、平行な上下圧縮板の間に挟み、圧縮荷重を加えて座屈させたときの最大荷重を取得し、得られた最大荷重を試験片の長さで除することで求められる。なお、この試験方法において、細長い試験片は、パルプモールド成形品MP2から、幅が15mm、長さが145mmの短冊形状を有している試験片を切り出すことにより準備する。
【0056】
ISOリングクラッシュ圧縮強さが大きなパルプモールド成形品MP2は、大きな荷重が加わった場合であっても座屈を生じ難い。但し、パルプモールド成形品MP2のISOリングクラッシュ圧縮強さが大きくすると、落下時等に衝撃荷重が加わった場合に破損し易くなる。
【0057】
<2>パルプモールド成形品の製造装置
次に、パルプモールド成形品MP2の製造に利用可能な製造装置について説明する。
図2は、
図1のパルプモールド成形品の製造に利用可能な製造装置の一例を概略的に示す図である。
【0058】
図2に示す製造装置1は、支持体10と、第1ステーション20と、第2ステーション30と、第3ステーション40とを含んでいる。
【0059】
支持体10は、枠体と、その上部に設置されたレールとを含んでいる。
【0060】
第1ステーションは、容器210と、昇降装置220と、カバー体230と、抄型240と、移動装置250と、昇降装置260と、上型270とを含んでいる。
【0061】
容器210は、支持体10の枠体内に設置されている。容器210は、上部で開口している。容器210は、パルプと微細セルロース繊維と架橋剤と水とを含んだスラリーSを収容している。
【0062】
昇降装置220は、容器210よりも上方で、支持体10の枠体に取り付けられている。昇降装置220は、例えば、油圧シリンダを含む。昇降装置220は、カバー体230を支持している。昇降装置220は、カバー体230を、容器210の開口部の位置で昇降させ得る。
【0063】
カバー体230は、上部に開口部を有する中空体である。カバー体230には、図示しないポンプが接続されている。
【0064】
抄型240は、カバー体230の開口部に固定されている。具体的には、抄型240は、その一方の面と隣接した空間が、抄型240とカバー体230とによって囲まれるように、カバー体230の開口部に固定されている。
【0065】
抄型240は、液体透過性を有する型である。抄型240は、立体形状を有している。即ち、抄型240は、パルプ等が堆積する面に、1以上の凸部及び/又は1以上の凹部を有している。具体的には、抄型240の外面、即ち、上記空間と隣接した面の裏面は、パルプモールド成形品に対応した形状を有している。ここでは、抄型240は、上面が突き出た雄型である。
【0066】
抄型240は、例えば、多数の貫通孔が設けられ、外面がパルプモールド成形品に対応した形状を有している抄型本体と、抄型本体の外面上に、この外面に沿うように設けられた網体とを含んでいる。
【0067】
移動装置250は、支持体10のレールに沿って、第1ステーション20と第2ステーション30との間で移動可能である。移動装置250は、動力源として、例えば、モータを含んでいる。移動装置250には、昇降装置260が取り付けられており、これを第1ステーション20と第2ステーション30との間で移送し得る。
【0068】
昇降装置260は、上記の通り、移動装置250に取り付けられている。昇降装置260は、例えば、油圧シリンダを含む。昇降装置260は、上型270を支持している。昇降装置260は、上型270を昇降させ得る。
【0069】
上型270は、抄型240との間に後述するパルプ層を挟み、パルプ層を真空吸着式で保持する保持具である。上型270の下面は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、上型270は、下面が凹んだ雌型である。上型270は、例えば、一端が下面で開口し、他端がポンプに接続された多数の貫通孔を有している。
【0070】
第2ステーション30は、第1ステーション20の近傍に設けられている。第2ステーション30は、台310と、下型320と、移動装置330と、プレス装置340と、上型350とを含んでいる。
【0071】
台310は、支持体10の枠体内に設置されている。台310上には、下型320が設置されている。
【0072】
下型320は、気体及び/又は液体透過性を有する型である。下型320は、上面が抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、下型320は、上面が突き出た雄型である。下型320は、例えば、多数の貫通孔を有し、抄型240の上記外面に対応した形状を有している面が滑らかである。
【0073】
移動装置330は、支持体10のレールに沿って、第2ステーション30と図示しない第4ステーションとの間で移動可能である。移動装置330は、動力源として、例えば、モータを含んでいる。移動装置330は、第2ステーション30に位置している場合には、ロック機構により、上下、左右及び前後方向の移動が規制され得る。また、移動装置330には、プレス装置340が取り付けられており、これを第2ステーション30と第4ステーションとの間で移送し得る。
【0074】
プレス装置340は、上記の通り、移動装置330に取り付けられている。プレス装置340は、例えば、油圧シリンダを含む。プレス装置340は、上型350を支持している。プレス装置340は、上型350を昇降させ得る。
【0075】
上型350は、気体透過性及び液体透過性を有していない型である。上型350の下面は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、上型350は、下面が凹んだ雌型である。上型350は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している面が滑らかである。
【0076】
第2ステーション30は、ヒータ及びポンプを更に含んでいる(何れも図示せず)。ヒータは、下型320及び上型350の両方を加熱する。ポンプは、下型320の下部空間に接続されている。
【0077】
第3ステーション40は、第2ステーション30の近傍に設けられている。第3ステーション40は、台410と、移動装置420と、昇降装置430と、保持具440とを含んでいる。
【0078】
台410は、支持体10の枠体内に設置されている。台410上には、パルプモールド成形品が配置される。
【0079】
移動装置420は、支持体10のレールに沿って、第2ステーション30と第3ステーション40との間で移動可能である。移動装置420は、動力源として、例えば、モータを含んでいる。移動装置420には、昇降装置430が取り付けられており、これを第2ステーション30と第3ステーション40との間で移送し得る。
【0080】
昇降装置430は、上記の通り、移動装置420に取り付けられている。昇降装置430は、例えば、油圧シリンダを含む。昇降装置430は、保持具440を支持している。昇降装置430は、保持具440を昇降させ得る。
【0081】
保持具440は、後述するパルプモールド成形品を真空吸着式で保持する保持具である。保持具440の下面は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、保持具440は、下面が凹んだ形状を有している。保持具440は、例えば、一端が下面で開口し、他端がポンプに接続された多数の貫通孔を有している。
【0082】
<3>パルプモールド成形品の製造方法
本発明の一実施形態に係る製造方法では、例えば、上記の製造装置1を用いてパルプモールド成形品MP2を製造する。これについて、
図1乃至
図10を参照しながら説明する。
【0083】
図3は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層形成工程を示す図である。
図4は、抄型上に形成されたパルプ層の一例を概略的に示す断面図である。
図5は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形における脱水工程を示す図である。
図6は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層の搬送工程を示す図である。
図7は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形における熱プレス成形工程を示す図である。
図8は、熱プレス工程によって得られるパルプモールド成形品の一例を概略的に示す断面図である。
図9は、
図2の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプモールド成形品の搬送工程を示す図である。
図10は、
図9の搬送工程を完了した状態を示す図である。
【0084】
この方法では、先ず、スラリーSを準備する。
スラリーSは、上記の通り、パルプと微細セルロース繊維と架橋剤と水とを含んでいる。スラリーSは、パルプ及び微細セルロース繊維が水に分散し、架橋剤が水に溶解又は分散した、高い粘度を有する懸濁液である。
【0085】
スラリーSが含んでいるパルプは、パルプモールド成形品MP2が含んでいるパルプについて上述したのとほぼ同様の特徴を有している。
【0086】
スラリーSに使用するパルプの種類に、特に制限はない。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、古紙が例示され、木材パルプ、非木材パルプが好ましい。森林保全や未利用資源の活用など環境配慮の視点から、非木材パルプを用いることが好ましい。
【0087】
パルプは、その調製法の違いによって分類され得る。例えば、木材パルプであれば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等が例示される。これらのなかでも、化学パルプを使用することが好ましい。パルプは、晒パルプであってもよく、未晒パルプであってもよい。
【0088】
木材パルプは、原料によって分類され得る。木材パルプとしては、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプが挙げられる。針葉樹パルプとしては、モミ属、マツ属等から得られるパルプが例示される。また、広葉樹パルプとしては、アカシア属、ユーカリ属、ブナ属、ヤマナラシ属(例えば、ポプラ)等から得られるパルプが例示される。
【0089】
非木材パルプは、植物の皮、茎、葉、葉鞘から採取した繊維から得られる。具体的には、コットンリンター、木綿、リネン、大麻、ラミー、ワラ、エスパルト、マニラ麻、ザイザル麻、黄麻、亜麻、ケナフ、竹、サトウキビ、がんぴ、みつまた、こうぞ、桑から得られるパルプが挙げられる。なかでも、竹、サトウキビのパルプが好ましい。
【0090】
これらのパルプは、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。
【0091】
パルプは、その原料や製造方法に応じて、繊維長等が異なっている。例えば、一般に、サトウキビを原料とするパルプは、竹を原料とするパルプと比較して、平均繊維長が短い。また、パルプの平均繊維長は、任意の手法により、例えば、叩解や粉砕などの機械的な処理により調節することができる。従って、或る特徴を有しているパルプは、例えば、複数種のパルプの中から適当なものを選択すること、又は、2種以上のパルプを適宜組み合わせることにより得ることができる。パルプとしては、非木材パルプを使用することが好ましく、サトウキビを原料とするパルプ、竹を原料とするパルプ、又は、それらの組み合わせを使用することが好ましい。
【0092】
スラリーSのパルプ含有量は、0.01乃至3.0質量%の範囲内にあることが好ましく、0.01乃至0.5質量%の範囲内にあることがより好ましい。パルプ含有量が小さいと、高い生産性を達成することが難しい。パルプ含有量が大きいと、パルプ層の厚さのばらつきが大きくなる可能性がある。
【0093】
スラリーSが含んでいる微細セルロース繊維は、パルプモールド成形品MP2が含んでいる微細セルロース繊維について上述したのとほぼ同様の特徴を有している。
【0094】
微細セルロース繊維としては、例えば、平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にあるもの、平均繊維径が50nm未満であるもの、平均繊維径が500nmよりも大きいもの、又はそれらの2以上の組み合わせを使用することができる。平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にある微細セルロース繊維又はその分散液としては、例えば、ダイセルミライズ社製のセリッシュ(登録商標)シリーズ又はBorregaard社製のEXILVA(登録商標)シリーズが挙げられる。平均繊維径が50nm未満である微細セルロース繊維又はその分散液としては、例えば、スギノマシン社製のBiNFi-s(登録商標)及び大王製紙社製のELLEX(登録商標)-☆が挙げられる。平均繊維径が500nmよりも大きい微細セルロース繊維又はその分散液としては、例えば、ダイセルミライズ社製のセリッシュ(登録商標)シリーズが挙げられる。微細セルロース繊維としては、例えば、平均繊維径が50乃至500nmの範囲内にあるものを使用することが好ましい。
【0095】
スラリーSにおいて、パルプと微細セルロース繊維との合計量に占める微細セルロース繊維の割合は、1乃至9質量%の範囲内にすることが好ましく、3乃至5質量%の範囲内にすることがより好ましい。
【0096】
架橋剤は、アクリルアミド基、イソシアネート基、及びカルボジイミド基から選ばれる反応基の何れかを含んだ1以上の化合物である。架橋剤は、一分子内に上記反応基を2以上含んでいる。
【0097】
アクリルアミド基を含んだ化合物としては、例えば、ポリアクリルアミドを使用することができる。例えば、荒川化学工業社製のポリストロン(登録商標)シリーズ、星光PMC社製のDSシリーズ若しくはDHシリーズ、又は、ハリマ化成社製のハーマイド(登録商標)シリーズを使用することができる。
【0098】
イソシアネート基を含んだ化合物としては、例えば、明成化学工業社製のメイカネートシリーズ、旭化成社製のデュラネート(登録商標)シリーズ、又は、三井化学社製のタケネート(登録商標)シリーズを使用することができる。
【0099】
カルボジイミド基を含んだ化合物としては、例えば、日清紡ケミカル社製のカルボジライト(登録商標)シリーズを使用することができる。
【0100】
架橋剤は、カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方を更に含んでいることが好ましい。そのような架橋剤は、一例によれば、カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方を含んだ水溶性樹脂である。
【0101】
カチオン性基は、例えば、1級アミン、2級アミン、又は3級アミンである。アニオン性基は、例えば、カルボキシル基、スルホ基、硝酸エステル塩、又はリン酸エステル塩である。
【0102】
カチオン性基は、スラリーS中でセルロースのカルボキシ基と相互作用し得る。従って、架橋剤が、カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方を更に含んでいる場合、少なくともカチオン性基を更に含んでいることが好ましい。即ち、架橋剤は、カチオン性基を含んだものであるか、又は、カチオン性基とアニオン性基とを含んだものであることが好ましい。
【0103】
架橋剤が、カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方としてアニオン性基のみを更に含んでいる場合、スラリーSは、定着剤を更に含んでいることが好ましい。定着剤としては、例えば、硫酸アルミニウムを使用することができる。
【0104】
カチオン性基及びアニオン性基の少なくとも一方を更に含んだ架橋剤としては、例えば、荒川化学工業社製のポリストロン(登録商標)1280、日清紡ケミカル社製のカルボジライト(登録商標)V-02、又は星光PMC社製のDS4424を使用することができる。
【0105】
架橋剤は、反応基を安定化させたものであってもよい。例えば、架橋剤は、イソシアネート基がブロック剤によって安定化されており、加熱するとブロック剤が解離してイソシアネート基が再生するものであってもよい。そのような架橋剤は、例えば、水系エマルションの形態とすることができる。この水系エマルションとしては、例えば、明成化学工業社製のメイカネートCXを使用することができる。
【0106】
水溶性樹脂又は水系エマルションの形態にある架橋剤は、スラリーS中でセルロースとイオン相互作用を生じ、繊維間の結合強化に関して特に優れた効果を奏する。従って、そのような架橋剤は、少ない使用量で、強度に優れたパルプモールド成形品MP2を製造可能とする。
【0107】
架橋剤がイソシアネート基又はカルボジイミド基を含んでいる場合、スラリーSにおいて、パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、2乃至8質量%の範囲内とする。この割合は、3乃至5質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0108】
架橋剤がアクリルアミド基を含んでいる場合、パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、0.5乃至3質量%の範囲内とする。この割合は、1乃至2質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0109】
スラリーSは、他の添加剤を更に含むことができる。添加剤としては、有機系低分子材料、有機系高分子材料、無機系材料、又はそれらの組み合わせを使用することができ、例えば耐水性や耐油性を付与する薬剤などが挙げられるが、パルプモールド容器としての要求性能に応じた薬剤を選定すればよい。
【0110】
パルプと微細セルロース繊維と架橋剤と他の添加剤との合計に占める他の添加剤の割合は、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0111】
次に、スラリーSを容器210内へ供給する。次いで、
図3に示すように、昇降装置220によりカバー体230を下降させて、抄型240の上面をスラリーSの液面よりも十分に下方へ位置させる。この状態でポンプを駆動して、カバー体230と抄型240とによって囲まれた空間を減圧する。これにより、抄型240を横切るスラリーSの流れを生じさせ、抄型240上にパルプと微細セルロース繊維との混合物を堆積させる。以上のようにして、
図4に示すように、抄型240上にパルプ層MP1を形成する。
【0112】
次に、ポンプを駆動したまま、
図5に示すように、昇降装置220によりカバー体230を上昇させて、抄型240の下部をスラリーSの液面よりも十分に上方へ位置させる。これにより、パルプ層MP1を減圧脱水する。次に、昇降装置260を駆動して、上型270を、その下面がパルプ層MP1に接触するまで下降させる。なお、
図5には、パルプ層MP1は描いていない。この脱水工程は、上型270及び抄型240の何れも加熱することなしに行う。
【0113】
脱水工程における減圧時間は、1乃至60秒の範囲内にあることが好ましく、1乃至10秒の範囲内にあることがより好ましい。
【0114】
脱水直後のパルプ層MP1の水分含有量は、40乃至90質量%の範囲内にあることが好ましく、50乃至70質量%の範囲内にあることがより好ましく、60乃至70質量%の範囲内にあることが更に好ましい。水分含有量が小さいと、熱プレス工程において、パルプ層内での面内方向への繊維の移動が不十分となる可能性がある。水分含有量が大きいと、熱プレス工程において、パルプ層内での面内方向への繊維の移動が過剰となるか、又は、脱水工程を終了してから熱プレス工程を開始するまでの期間内において、パルプ層MP1の形状保持性が不十分となる可能性がある。
【0115】
上記空間の減圧及び上記の加圧を停止した後、ポンプを駆動して、上型270にパルプ層MP1を吸着保持させる。なお、ポンプと上型270とによる吸引は、パルプ層MP1の更なる脱水を生じさせるものではない。
【0116】
次いで、上型270にパルプ層MP1を吸着保持させた状態で昇降装置260を駆動して、
図2に示すように、上型270を上昇させる。これにより、パルプ層MP1を抄型240から剥離する。
【0117】
次に、移動装置250及び330を駆動して、
図6に示すように、プレス装置340及び上型350を第2ステーション30から第4ステーションへ移動させるとともに、昇降装置260及び上型270を第1ステーション20から第2ステーション30へ移動させる。続いて、昇降装置260を駆動して、パルプ層MP1が下型320と接触するまで上型270を下降させる。その後、ポンプと上型270とによる吸引を停止して、上型270からパルプ層MP1を解放する。次いで、昇降装置260を駆動して、上型270を上昇させる。このようにして、パルプ層MP1を第1ステーション20から第2ステーション30へ移送するとともに、パルプ層MP1を下型320上に載置する。
【0118】
次に、移動装置250及び330を駆動して、
図2に示すように、昇降装置260及び上型270を第2ステーション30から第1ステーション20へ移動させるとともに、プレス装置340及び上型350を第4ステーションから第2ステーション30へ移動させる。続いて、プレス装置340を駆動して、
図7に示すように上型350を下降させる。そして、上型350と下型320とによって、それらの間に挟まれたパルプ層MP1を加圧する。また、これとともに、ヒータを駆動してパルプ層MP1を加熱する。更に、これとともに、ポンプを駆動して、上型350と下型320とによって挟まれた空間から水及び/又は水蒸気を吸引除去する。これにより、パルプ層MP1の表面形状を整えるとともに、パルプ層MP1を緻密化及び乾燥させる。以上のようにして、
図8に示すパルプモールド成形品MP2を得る。
【0119】
なお、この熱プレス工程を開始する直前におけるパルプ層MP1の水分含有量は、脱水工程を終了した直後におけるパルプ層MP1の水分含有量とほぼ等しい。
【0120】
この熱プレス工程において、プレス圧は、0.1乃至3.0MPaの範囲内とする。このプレス圧は、0.5乃至2.0MPaの範囲内とすることがより好ましい。プレス圧が低いと、高密度なパルプモールド成形品MP2が得られない可能性がある。パルプ層MP1は、繊維長が短いパルプや微細セルロース繊維を含んでいる。そのようなパルプ及び微細セルロース繊維は、特にプレス圧が過剰に高い場合に、パルプ層MP1内での移動を生じ易い。従って、プレス圧が過剰に高いと、パルプモールド成形品MP2の厚さにばらつきを生じ易い。
【0121】
この熱プレス工程において、パルプ層MP1の加熱温度、即ち、ヒータによって加熱する上型350又は下型320の温度は、130乃至250℃の範囲内とする。この温度は、150乃至190℃の範囲内とすることが好ましい。パルプ層MP1は、繊維長が短いパルプや微細セルロース繊維を含んでいるため、水蒸気が外部へ逃げ難い。それ故、加熱温度が低いと、パルプ層MP1の乾燥に長時間を要する。加熱温度を高くすると、乾燥に伴うパルプ層MP1の収縮がより大きくなり、その結果、パルプモールド成形品MP2における歪がより大きくなる可能性がある。
【0122】
熱プレス工程におけるプレス時間は、加熱温度や成形品の形状等にもよるが、40乃至120秒の範囲内とすることが好ましく、50乃至80秒の範囲内とすることがより好ましい。
【0123】
上記の熱プレス工程を終了するに当たり、上型350が上昇するようにプレス装置340を駆動すると、パルプモールド成形品MP2は上型350から剥離する。
【0124】
次に、移動装置330及び420を駆動して、
図9に示すように、プレス装置340及び上型350を第2ステーション30から第4ステーションへ移動させるとともに、昇降装置430及び保持具440を第3ステーション40から第2ステーション30へ移動させる。続いて、昇降装置430を駆動して、保持具440がパルプモールド成形品MP2と接触するまで保持具440を下降させる。下型内部からエアーを噴出させてパルプモールド成形品MP2を下型から離型させ、その後、ポンプを駆動して、保持具440にパルプモールド成形品MP2を吸着保持させる
次いで、保持具440にパルプモールド成形品MP2を吸着保持させた状態で昇降装置430を駆動して、保持具440を上昇させる。続いて、移動装置330及び420を駆動して、
図10に示すように、昇降装置430及び保持具440を第2ステーション30から第3ステーション40へ移動させるとともに、プレス装置340及び上型350を第4ステーションから第2ステーション30へ移動させる。続いて、ポンプと保持具440とによる吸引を停止して、保持具440からパルプモールド成形品MP2を解放する。このようにして、パルプモールド成形品MP2を第2ステーション30から第3ステーション40へ移送するとともに、パルプモールド成形品MP2を台410上に載置する。
以上のようにして、パルプモールド成形品MP2を製造する。
【0125】
その後、必要に応じて、パルプモールド成形品MP2に対して、後処理、例えば、絵柄印刷及び無地印刷等の印刷、コーティング、又はそれらの組み合わせを行う。後処理によって形成するコーティング層は、例えば、耐水性や耐油性を付与する薬剤を含んだ層、断熱性を付与する材料が充填された層、発泡剤によって発泡させた層、又はそれらの組み合わせである。後処理を行うことにより、例えば、パルプモールド成形品MP2の美粧性を更に高めることや、パルプモールド成形品MP2に新たな機能を付与することができる。
【0126】
上記の方法によると、厚さが小さい場合であっても優れた強度を示すパルプモールド成形品MP2を製造できる。壁部の厚さが小さなパルプモールド成形品MP2は、軽量であるのに加え、積み重ねた場合の高さも小さい。それ故、パルプモールド成形品MP2は、高い輸送効率を達成し得る。
【0127】
本発明者らは、上記の方法によって得られるパルプモールド成形品MP2が、厚さが小さい場合であっても優れた強度を示すのは、以下の理由によると考えている。
【0128】
パルプモールド成形品の強度は、パルプが含むセルロース間の水素結合や繊維の絡み合いによって主にもたらされる。パルプモールド成形品の壁部の厚さを小さくすると、厚さ方向に重なり合うセルロース繊維が減少し、セルロース間の水素結合や繊維の絡み合いが少なくなり、その結果、強度が低下する。
【0129】
上記の方法では、パルプスラリーへ微細セルロース繊維を添加する。パルプ層において、微細セルロース繊維の少なくとも一部は、パルプ間の隙間に入り込む。そして、パルプモールド成形品MP2において、或る微細セルロース繊維が含んでいるセルロースは、他の微細セルロース繊維が含んでいるセルロースや、パルプが含んでいるセルロースと水素結合を形成し得る。
【0130】
また、上記の方法では、パルプスラリーへ、架橋剤を更に添加する。架橋剤は、アクリルアミド基、イソシアネート基、及びカルボジイミド基から選ばれる反応基の何れかを含んだ1以上の化合物である。アクリルアミド基は、セルロースのカルボキシ基と水素結合を形成し得る。イソシアネート基は、セルロースの水酸基とウレタン結合を形成し得る。カルボジイミド基は、セルロースのカルボキシ基とウレア結合を形成し得る。それ故、架橋剤は、パルプモールド成形品MP2の製造時における脱水工程において、微細セルロース繊維が水とともにパルプ層から脱離するのを抑制するとともに、パルプモールド成形品MP2における繊維間の結合を強化する。
【0131】
従って、上記の方法によって得られるパルプモールド成形品MP2は、厚さが小さい場合であっても優れた強度を示す。
【0132】
更に、上記の方法によると、架橋剤を使用するため、パルプと微細セルロース繊維との合計に占める微細セルロース繊維の割合が小さい場合であっても、強度に優れたパルプモールド成形品MP2を製造することができる。それ故、乾燥工程の直前におけるパルプ層の残存水分量が過度に高くなることがなく、従って、乾燥を短時間で完了することができる。特に、微細セルロース繊維として、繊維径又は平均繊維径が大きなものを使用した場合、乾燥をより短い時間で完了することができる。それ故、生産効率の向上やエネルギーの削減が見込める。
【0133】
また、上記の方法により得られるパルプモールド成形品MP2は、表面性状に優れている。この理由について、以下に説明する。
【0134】
熱プレス工程の代わりに、オーブンを使用した乾燥を行った場合、パルプ層には、その収縮によって、表面に高低差が大きな凹凸を生じる。また、このような方法では、パルプ層は十分に緻密化されず、それ故、パルプモールド成形品は高い多孔度を有する。従って、この場合、表面性状に優れたパルプモールド成形品を製造することはできない。
【0135】
また、脱水工程後に、オーブンを使用した乾燥を行い、この乾燥品を必要に応じて加湿して、これを熱プレス処理に供した場合、乾燥に伴って表面に生じた凹凸の高低差は、その後の加湿及び熱プレス処理によって小さくすることができる。また、加湿及び熱プレス処理によって、多孔度を小さくすることができる。しかしながら、オーブンを使用した乾燥に伴って表面に生じる凹凸の高低差は非常に大きいため、その後の加湿及び熱プレス処理によって十分に小さくすることはできない。また、乾燥後に加湿及び熱プレス処理を行っても、多孔度を十分に低下させることが難しい。
【0136】
図2乃至
図10を参照しながら説明した方法では、熱プレス工程において、パルプ層MP1を乾燥させる。即ち、上記の方法では、脱水工程後に、乾燥工程を経ることなしに、熱プレス工程を実施する。そして、繊維としては、上述した繊維径をそれぞれ有しているパルプ及び微細セルロース繊維を使用する。
【0137】
熱プレス工程前に乾燥工程を行わないので、パルプ層MP1の表面に、高低差が大きな凹凸を生じることはない。熱プレス工程では、乾燥に伴うパルプ層MP1の変形を、上型350及び下型320が防止する。また、熱プレス工程は、水分含有量が高く且つパルプの平均繊維長が上述した範囲内にあるパルプ層MP1に対して行うので、パルプ層MP1内での面内方向への繊維の移動が適度に生じ得る。厚さのばらつきを生じることなしに、パルプ層MP1を緻密化することができる。
【0138】
従って、
図2乃至
図10を参照しながら説明した方法によると、表面性状に優れたパルプモールド成形品MP2を製造することができる。具体的には、算術平均粗さRa、最大高さ粗さRz、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmの1以上が小さな領域を表面に有するパルプモールド成形品MP2が得られる。そのようなパルプモールド成形品MP2は、美粧性に優れるとともに、印刷層やコーティング層の形成が容易である。
【0139】
算術平均粗さRaは、2乃至10μmの範囲内にあることが好ましく、2.5乃至4.5μmの範囲内にあることがより好ましい。最大高さ粗さRzは、10乃至60μmの範囲内にあることが好ましく、15乃至30μmの範囲内にあることがより好ましい。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、90乃至300μmの範囲内にあることが好ましく、90乃至150μmの範囲内にあることがより好ましく、90乃至130μmの範囲内にあることが更に好ましい。
【0140】
ここで、「算術平均粗さRa」、「最大高さ粗さRz」及び「粗さ曲線要素の平均長さRSm」は、JIS B0601:2001で規定される表面性状パラメータである。表面性状パラメータの測定には、例えば、ミツトヨ社製の表面粗さ測定機SJ-210(先端半径2μm、測定力0.75mN)を用い、以下の条件で測定する。
フィルタ:Gasussian
カットオフλc:0.25mm
カットオフλs:8μm
測定速度:0.25mm/s
区間数:5
パルプモールド成形品MP2から板状片を採取し、任意の5箇所で測定を行い、平均値を算出する。
【0141】
パルプモールド成形品MP2は、表面の全体が上記の表面性状を有していてもよく、表面の一部の領域のみが上記の表面性状を有していてもよい。例えば、印刷等の後処理を行う部分を含む領域のみが上記の表面性状を有し、他の領域は上記の表面性状を有していなくてもよい。或いは、パルプモールド成形品MP2の一方の面が上記の表面性状を有し、その裏面は上記の表面性状を有していなくてもよい。そのような構造は、例えば、上型350及び下型320のパルプ層MP1と接する面の一部の領域と他の領域とで表面性状を異ならしめることにより実現することができる。
【0142】
また、
図2乃至
図10を参照しながら説明した方法によると、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品MP2を製造することができる。パルプモールド成形品MP2の坪量の標準偏差は、好ましくは30g/m
2以下であり、より好ましくは15g/m
2以下である。この標準偏差の下限値は、ゼロであり、一例によれば2g/m
2である。
【0143】
ここで、パルプモールド成形品MP2の坪量の標準偏差は、以下の方法によって得られる値である。
【0144】
先ず、パルプモールド成形品MP2のうち、或る面内に位置した複数の領域から、幅が15mmであり、長さが40mmの短冊形状を各々が有している9つの試験片を切り出す。次に、これら試験片の質量を測定する。その後、各々の試験片について、その質量と面積(600mm2)とから坪量を算出する。このようにして得られた坪量から、その標準偏差を算出する。
【0145】
次に、パルプモールド成形品MP2のうち、別の面内に位置した複数の領域から、上記と同様に、9つの試験片を切り出す。これら試験片についても、質量の測定並びに坪量及びその標準偏差の算出を行う。
【0146】
パルプモールド成形品MP2が更に別の面を有している場合には、残りの面の各々についても、上記と同様に、試験片の切り出し、質量の測定並びに坪量及びその標準偏差の算出を行う。
そして、これら標準偏差の最大値を、パルプモールド成形品MP2の坪量の標準偏差とする。
【0147】
本発明者らは、
図2乃至
図10を参照しながら説明した方法(以下、第1方法と呼ぶ)によると、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品MP2を製造することができるのは、以下の理由によると考えている。
【0148】
パルプモールド成形品は、例えば、以下に記載する方法(以下、第2方法と呼ぶ)で製造することもできる。
【0149】
第2方法では、先ず、抄型として、雌型を準備する。この抄型は、多数の貫通孔が設けられ、上面がパルプモールド成形品に対応した形状に凹んだ抄型本体と、抄型本体の内面上に、この内面に沿うように設けられた網体とを含んでいる。
【0150】
次に、この抄型を、その開口部が上方を向くように設置する。次いで、抄型のキャビティ内へパルプと水とを含んだスラリーを供給して、抄型内をスラリーで満たす。更に、抄型内へのスラリーの供給を継続して、網体上にパルプを堆積させる。抄型内へのスラリーの供給は、抄型内のスラリーが加圧状態になるように行う。
【0151】
十分な量のパルプが網体上に堆積した後、抄型内へのスラリーの供給を停止する。続いて、抄型内に残留している水を抄型から排出させる。例えば、抄型内へ空気を圧入して、抄型内に残留している水を抄型から排出させる。
【0152】
次に、抄型と雄型である上型とでパルプ層を押圧して、パルプ層を脱水する。この脱水工程は、上型及び抄型の何れも加熱することなしに行う。脱水直後におけるパルプ層の水分含有量は、第1方法における脱水直後におけるパルプ層MP1の水分含有量と同様とする。
【0153】
次いで、上型にパルプ層を吸着保持させ、この状態で上型を上昇させる。これにより、パルプ層を抄型から剥離する。
【0154】
次に、パルプ層を吸着保持している上型を、雌型である下型の位置まで移動させる。続いて、パルプ層が下型と接触するまで上型を下降させる。その後、吸引を停止して、上型からパルプ層を解放する。このようにして、パルプ層を下型上に載置する。
【0155】
次に、熱プレス用の上型と下型との間にパルプ層を挟み、それらの間のパルプ層を加圧する。また、これとともに、ヒータを駆動してパルプ層を加熱する。更に、これとともに、ポンプを駆動して、上型と下型とによって挟まれた空間から水及び/又は水蒸気を吸引除去する。第2方法では、以上のようにして、パルプモールド成形品を得る。
【0156】
第2方法では、抄型内へのスラリーの供給を開始してから抄型内がスラリーで完全に満たされるまでの期間においては、抄型内を循環するスラリーの流れを生じ得る。この循環流は、パルプの沈降を防止し得る。しかしながら、第2方法では、抄型内をスラリーで満たす必要があるため、抄型には、水が速やかに排出される構造を採用することができない。それ故、抄型内がスラリーで完全に満たされた後は、スラリーの圧力を高めても、パルプの沈降を防止できるほどのスラリーの循環流は生じず、抄型内のスラリーにおいてパルプの沈降を生じる。
【0157】
その結果、抄型の側壁部に堆積するパルプの量は、上方と比較して、下方においてより多くなる。そして、抄型の側壁部の上方に十分な量のパルプが堆積するまでスラリーを供給すると、抄型の底部には過剰な量のパルプが堆積することになる。パルプを過剰に堆積させると、パルプの堆積量のばらつきが大きくなる。例えば、抄型本体に設けられた貫通孔の近傍とそれらから離れた位置とで、パルプの堆積量に大きな相違を生じ得る。
【0158】
このように、第2方法では、パルプの堆積量に大きなばらつきを生じる。熱プレス処理の際には、パルプ層内で繊維が面内方向へ移動し得るが、各繊維の移動は狭い範囲に限られる。即ち、パルプ堆積量のばらつきは、熱プレス処理の際の繊維の移動によって解消されるものではない。それ故、第2方法によると、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品を製造することはできない。
【0159】
これに対し、第1方法では、カバー体230の上部に抄型240を設置し、これらの複合体をスラリーS中に浸漬させる。スラリーSの深さは、抄型240の高さと比較して遥かに大きい。それ故、スラリーSにおいてパルプの沈降を生じても、抄型240の上部の位置と抄型240の下部の位置とで、パルプ濃度は大きくは相違しない。従って、第1方法によると、抄型240上にパルプを略均一に堆積させることができ、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品MP2を製造することができる。
【0160】
パルプモールド成形品MP2は、開口部を有し、この開口部から離れる方向へ拡径していない。ここでは、パルプモールド成形品MP2は、開口部を有し、この開口部から離れる方向へ先細りしている。このような形状によると、複数のパルプモールド成形品MP2を重ねてなる積層物の体積を小さくすることができる。
【0161】
なお、第1方法において、パルプ層MP1を上型350及び下型320によって加圧する代わりに、上型350及び下型320の一方と弾性体との間にパルプ層MP1を挟んで、これを加圧した場合、弾性体の変形を生じる。それ故、パルプ層MP1に十分な圧力が加わらず、表面性状に優れたパルプモールド成形品を得ることができない。
【0162】
第2方法においても、熱プレス処理に使用する上型及び下型の一方を弾性体とすると、表面性状に優れたパルプモールド成形品を得ることはできない。また、この場合、上記の通り、坪量の標準偏差が大きくなる。
【0163】
パルプモールド成形品MP2は、例えば、容器である。パルプモールド成形品MP2は、容器以外の物品であってもよい。パルプモールド成形品MP2は、立体成形品、即ち、シートのように二次元形状を有するものではなく、三次元形状を有する成形品であればよい。
【0164】
なお、
図2乃至
図10は、本発明の一実施形態に係るパルプモールド成形品の製造方法の理解を容易にするためのものである。上述した方法は、他の構造を有する製造装置を使用して実施することも可能である。例えば、製造装置1では、上型270及び上型350は雌型であり、抄型240及び下型320は雄型である。上型270及び上型350は雄型であり、抄型240及び下型320は雌型であってもよい。このように、上記の製造装置1及び製造方法には、様々な変形が可能である。
【実施例0165】
以下に、本発明の具体例を記載する。本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0166】
<1>試験1
<1.1>パルプモールド成形品の製造
(例1)
パルパーを用いて、パルプと水とからなるスラリーを調製した。スラリーのパルプ含有量は0.3質量%とした。パルプとしては、平均繊維径が17.4μmのパルプP1を使用した。
【0167】
このスラリーを使用して、
図2乃至
図10を参照しながら説明した方法により、パルプモールド成形品を製造した。ここでは、坪量が大きなパルプモールド成形品が得られるように、抄型へ比較的多量のパルプを堆積させた。脱水工程は、脱水直後のパルプ層の水分含有量が65質量%となるように行った。熱プレス工程は、加熱温度を180℃、プレス圧を1.2MPaとして行った。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが1.0mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
以上のようにして、パルプモールド成形品として容器を製造した。
【0168】
(例2)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプは比較的少ない量で抄型へ堆積させた。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが0.7mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0169】
(例3)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
即ち、本例では、パルパーを用いて、パルプP1と微細セルロース繊維と水とからなるスラリーを調製した。微細セルロース繊維としては、平均繊維径が100nmの微細セルロース繊維F2を使用した。パルプと微細セルロース繊維との合計に占める微細セルロース繊維の割合は、4質量%とした。スラリーの繊維含有量は0.3質量%とした。
【0170】
また、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプと微細セルロース繊維との混合物は、比較的少ない量で抄型へ堆積させた。そして、脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが0.7mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0171】
(例4)
微細セルロース繊維F2の代わりに、平均繊維径が40nmの微細セルロース繊維F1を使用したこと以外は例3と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0172】
(例5)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
即ち、本例では、パルパーを用いて、パルプP1と架橋剤と水とからなるスラリーを調製した。パルプとしては、パルプP1を使用した。架橋剤としては、明成化学工業社製のメイカネートCXである架橋剤C1を使用した。なお、架橋剤C1は、イソシアネート基がブロック剤によって安定化されており、水系エマルションの形態にあるものである。パルプと架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、1質量%とした。
【0173】
また、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプは比較的少ない量で抄型へ堆積させた。そして、脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが0.7mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0174】
(例6)
パルプと架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、1質量%から5質量%へ変更したこと以外は例5と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0175】
(例7)
パルプと架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、1質量%から9質量%へ変更したこと以外は例5と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0176】
(例8)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
即ち、本例では、パルパーを用いて、パルプP1と微細セルロース繊維F2と架橋剤C1と水とからなるスラリーを調製した。パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める微細セルロース繊維の固形分ベースでの割合は、4質量%とした。パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、1質量%とした。
【0177】
また、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプと微細セルロース繊維との混合物は比較的少ない量で抄型へ堆積させた。そして、脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが0.7mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0178】
(例9)
パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、1質量%から3質量%へ変更したこと以外は例8と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0179】
(例10)
パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、1質量%から4.5質量%へ変更したこと以外は例8と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0180】
(例11)
パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、1質量%から8.5質量%へ変更したこと以外は例8と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0181】
(例12)
微細セルロース繊維F2の代わりに微細セルロース繊維F1を使用したこと以外は例10と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0182】
(例13)
微細セルロース繊維F2の代わりに、平均繊維径が200nmの微細セルロース繊維F3を使用したこと以外は例10と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0183】
(例14)
微細セルロース繊維F2の代わりに、平均繊維径が500nmの微細セルロース繊維F4を使用したこと以外は例10と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0184】
(例15)
架橋剤C1の代わりに、架橋剤C2を使用したこと以外は例5と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。架橋剤C2は、荒川化学工業社製のポリストロン(登録商標)1280である。なお、架橋剤C2は、反応基としてアクリルアミド基を有するとともに、カチオン性基及びアニオン性基を有している両性の水溶性樹脂である。
【0185】
(例16)
架橋剤C1の代わりに、架橋剤C3を使用したこと以外は例10と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。架橋剤C3は、日清紡ケミカル社製のカルボジライト(登録商標)V-02である。なお、架橋剤C3は、反応基としてカルボジイミド基を有するとともに、カチオン性基を有している水溶性樹脂、具体的には、ポリカルボジイミド樹脂へカチオン性基を含んだ親水性セグメントを付与した水性架橋剤である。
【0186】
(例17)
パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、4.5質量%から8.5質量%へ変更したこと以外は例16と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0187】
(例18)
架橋剤C1の代わりに、架橋剤C2を使用したこと以外は例8と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0188】
(例19)
パルプと微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合を、1質量%から2質量%へ変更したこと以外は例18と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0189】
<1.2>評価
例1乃至19において製造したパルプモールド成形品の各々について、上述した方法により各種測定を行った。以下の表1及び表2に、結果を記載する。
【0190】
【0191】
【0192】
表1及び表2において、「強度保持率」は、ISOリングクラッシュ圧縮強さ(各表では、「リングクラッシュ圧縮強さ」と表記)を、例1に係るパルプモールド成形品ついて得られた値を100%とした場合の相対値で示したものである。「強度」に関する判定は、以下の基準による。
AA:強度保持率が100%以上。
A: 強度保持率が95%以上100%未満。
B: 強度保持率が95%未満。
【0193】
また、表1及び2には、熱プレス工程において乾燥に要した時間、具体的には、パルプ層の水分含有量が2質量%未満になるまでに要した加熱時間を、「乾燥到達時間」として記載している。例Nについて記載している「乾燥時間短縮率」は、例1における乾燥到達時間T1に対する、乾燥到達時間T1と例Nにおける乾燥到達時間TNとの差T1-TNとの比(T1-TN)/T1である。「乾燥」に関する判定は、以下の基準による。
A: 乾燥時間短縮率が0%以上。
B: 乾燥時間短縮率が0%未満。
【0194】
なお、表1及び表2には記載していないが、微細セルロース繊維を含んだパルプモールド成形品の各々において、パルプと微細セルロース繊維との合計量に占める微細セルロース繊維の割合は、その製造に使用したスラリーにおける割合と同様であった。
表1及び表2に示すように、例9、10、12乃至14、16、18及び19において得られたパルプモールド成形品は、例1において得られたパルプモールド成形品と比較して坪量及び壁部の厚さが小さいにも拘わらず、例1において得られたパルプモールド成形品と同等以上のISOリングクラッシュ圧縮強さを達成した。また、微細セルロース繊維F2乃至F4の何れかを使用した例9、10、13、14、16、18及び19では、微細セルロース繊維F1を使用した例12と比較して、熱プレス工程における乾燥をより短い時間で完了することができた。
【0195】
<2>試験2
<2.1>パルプモールド成形品の製造
(例20)
パルパーを用いて、パルプと水とからなるスラリーを調製した。平均繊維径が17.4μmのパルプP1と、平均繊維径が24.3μmのパルプP2とを使用した。パルプP1とパルプP2との合計量に占めるパルプP1の割合は70質量%とした。スラリーのパルプ含有量は0.3質量%とした。
【0196】
このスラリーを使用して、
図2乃至
図10を参照しながら説明した方法により、パルプモールド成形品を製造した。ここでは、坪量が大きなパルプモールド成形品が得られるように、抄型へ比較的多量のパルプを堆積させた。脱水工程は、脱水直後のパルプ層の水分含有量が65質量%となるように行った。熱プレス工程は、加熱温度を180℃、プレス圧を1.2MPaとして行った。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが1.1mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
以上のようにして、パルプモールド成形品として容器を製造した。
【0197】
(例21)
以下の点を除き、例20と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプは比較的少ない量で抄型へ堆積させた。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが0.7mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0198】
(例22)
以下の点を除き、例20と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
即ち、本例では、パルパーを用いて、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤と水とからなるスラリーを調製した。パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合は、66.5質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28.5質量%とした。微細セルロース繊維としては、平均繊維径が100nmの微細セルロース繊維F2を使用した。上記合計に占める微細セルロース繊維の固形分ベースでの割合は、4質量%とした。スラリーの繊維含有量は0.3質量%とした。架橋剤としては、反応基としてアクリルアミド基を有するとともに、カチオン性基及びアニオン性基を有している両性の水溶性樹脂である架橋剤C2を使用した。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、1質量%とした。
【0199】
また、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプと微細セルロース繊維との混合物は、比較的少ない量で抄型へ堆積させた。そして、脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが0.7mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0200】
(例23)
以下の点を除き、例22と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合を、66質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28質量%とした。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、2質量%とした。
【0201】
(例24)
架橋剤C2の代わりに、架橋剤C4を使用したこと以外は例22と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。架橋剤C4は、星光PMC社製のDS4424である。なお、架橋剤C4は、反応基としてアクリルアミド基を有するとともに、カチオン性基及びアニオン性基を有している両性の水溶性樹脂である。
【0202】
(例25)
以下の点を除き、例24と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合を、66質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28質量%とした。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、2質量%とした。
【0203】
(例26)
微細セルロース繊維F2の代わりに、微細セルロース繊維F3を使用したこと以外は例24と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0204】
(例27)
以下の点を除き、例26と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合を、66質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28質量%とした。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、2質量%とした。
【0205】
(例28)
微細セルロース繊維F2の代わりに、微細セルロース繊維F4を使用したこと以外は例24と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。
【0206】
(例29)
以下の点を除き、例28と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合を、66質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28質量%とした。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、2質量%とした。
【0207】
<2.2>評価
例20乃至29において製造したパルプモールド成形品の各々について、上述した方法により各種測定を行った。以下の表3に、結果を記載する。
【0208】
【0209】
表3において、「強度保持率」は、ISOリングクラッシュ圧縮強さ(各表では、「リングクラッシュ圧縮強さ」と表記)を、例20に係るパルプモールド成形品ついて得られた値を100%とした場合の相対値で示したものである。「強度」に関する判定は、以下の基準による。
AA:強度保持率が100%以上。
A: 強度保持率が95%以上100%未満。
B: 強度保持率が95%未満。
【0210】
また、表3には、熱プレス工程において乾燥に要した時間、具体的には、パルプ層の水分含有量が2質量%未満になるまでに要した加熱時間を、「乾燥到達時間」として記載している。例Nについて記載している「乾燥時間短縮率」は、例20における乾燥到達時間T1に対する、乾燥到達時間T1と例Nにおける乾燥到達時間TNとの差T1-TNとの比(T1-TN)/T1である。「乾燥」に関する判定は、以下の基準による。
A: 乾燥時間短縮率が0%以上。
B: 乾燥時間短縮率が0%未満。
【0211】
なお、表3には記載していないが、微細セルロース繊維を含んだパルプモールド成形品の各々において、パルプと微細セルロース繊維との合計量に占める微細セルロース繊維の割合は、その製造に使用したスラリーにおける割合と同様であった。
表3に示すように、例22乃至29において得られたパルプモールド成形品は、例20において得られたパルプモールド成形品と比較して坪量及び壁部の厚さが小さいにも拘わらず、例20において得られたパルプモールド成形品よりも高いISOリングクラッシュ圧縮強さを達成した。また、例22乃至29では、例20と比較して、熱プレス工程における乾燥をより短い時間で完了することができた。
【0212】
<3>試験3
<3.1>パルプモールド成形品の製造
(例30)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、坪量がより小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプは比較的少ない量で抄型へ堆積させた。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが1.5mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。熱プレス工程におけるプレス圧は0.3MPaとした。
【0213】
(例31)
以下の点を除き、例30と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、坪量が更に小さなパルプモールド成形品が得られるように、パルプはより少ない量で抄型へ堆積させた。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが1.0mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを調節した。
【0214】
(例32)
以下の点を除き、例31と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、パルパーを用いて、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維F2と架橋剤C4と水とからなるスラリーを調製した。パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合は、66.5質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28.5質量%とした。上記合計に占める微細セルロース繊維の固形分ベースでの割合は、4質量%とした。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、1質量%とした。スラリーの繊維含有量は0.3質量%とした。
【0215】
(例33)
以下の点を除き、例32と同様の方法により、パルプモールド成形品を製造した。即ち、本例では、パルプP1とパルプP2と微細セルロース繊維と架橋剤との合計に占めるパルプP1の固形分ベースでの割合を、66質量%とした。上記合計に占めるパルプP2の固形分ベースでの割合は、28質量%とした。上記合計に占める架橋剤の固形分ベースでの割合は、2質量%とした。
【0216】
<3.2>評価
例30乃至33において製造したパルプモールド成形品の各々について、上述した方法により各種測定を行った。以下の表4に、結果を記載する。
【0217】
【0218】
表4において、「強度保持率」は、ISOリングクラッシュ圧縮強さ(各表では、「リングクラッシュ圧縮強さ」と表記)を、例30に係るパルプモールド成形品ついて得られた値を100%とした場合の相対値で示したものである。「強度」に関する判定は、以下の基準による。
AA:強度保持率が100%以上。
A: 強度保持率が95%以上100%未満。
B: 強度保持率が95%未満。
【0219】
また、表4には、熱プレス工程において乾燥に要した時間、具体的には、パルプ層の水分含有量が2質量%未満になるまでに要した加熱時間を、「乾燥到達時間」として記載している。例Nについて記載している「乾燥時間短縮率」は、例30における乾燥到達時間T1に対する、乾燥到達時間T1と例Nにおける乾燥到達時間TNとの差T1-TNとの比(T1-TN)/T1である。「乾燥」に関する判定は、以下の基準による。
A: 乾燥時間短縮率が0%以上。
B: 乾燥時間短縮率が0%未満。
【0220】
なお、表4には記載していないが、微細セルロース繊維を含んだパルプモールド成形品の各々において、パルプと微細セルロース繊維との合計量に占める微細セルロース繊維の割合は、その製造に使用したスラリーにおける割合と同様であった。
表4に示すように、例32及び33において得られたパルプモールド成形品は、例30において得られたパルプモールド成形品と比較して坪量及び壁部の厚さが小さいにも拘わらず、例30において得られたパルプモールド成形品よりも高いISOリングクラッシュ圧縮強さを達成した。また、例32及び33では、例30と比較して、熱プレス工程における乾燥をより短い時間で完了することができた。
1…製造装置、10…支持体、20…第1ステーション、30…第2ステーション、40…第3ステーション、210…容器、220…昇降装置、230…カバー体、240…抄型、250…移動装置、260…昇降装置、270…上型、310…台、320…下型、330…移動装置、340…プレス装置、350…上型、410…台、420…移動装置、430…昇降装置、440…保持具、MP1…パルプ層、MP2…パルプモールド成形品、S…スラリー。