(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090060
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】堰堤
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205703
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 裕介
(57)【要約】
【課題】壁面材により壁面が形成された堰堤において上流側から流れてくる物体を捕捉する。
【解決手段】水通し部を有する不透過型の堰堤1は、河川の上流側に面し複数の鋼板セグメント21により形成された上流壁面2と、河川の下流側に面する下流壁面3と、コンクリートにより形成されていて少なくとも水通し部17の底面を画定する天端部15と、天端部15に設けられて上流から流れてくる物体を捕捉する捕捉工5と、を備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水通し部を有する不透過型の堰堤であって、
河川の上流側に面し複数の鋼板セグメントにより形成された上流壁面と、
河川の下流側に面する下流壁面と、
コンクリートにより形成されていて少なくとも前記水通し部の底面を画定する天端部と、
前記天端部に設けられて上流から流れてくる物体を捕捉する捕捉工と、
を備えることを特徴とする堰堤。
【請求項2】
前記捕捉工は、前記河川の幅方向に所定の間隔をあけて設けられた複数の柱部材を含むことを特徴とする請求項1に記載の堰堤。
【請求項3】
前記上流壁面と前記下流壁面との間に形成される空間内に中詰材が充填されており、
前記柱部材は、少なくとも
一端が前記中詰材に埋設されていて、他端が前記天端部から突出した基礎部と、
一端において前記基礎部の前記他端と互いに着脱自在に連結されている本体部と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の堰堤。
【請求項4】
前記本体部と連結される側とは反対の側の前記基礎部の一端にベースプレートが取り付けられており、前記ベースプレートの周縁部は、前記基礎部に対して外方に延出していることを特徴とする請求項3に記載の堰堤。
【請求項5】
前記基礎部の一端は、索状部材を有し、該索状部材を介して当該堰堤の底部に連結されていることを特徴とする請求項3に記載の堰堤。
【請求項6】
前記上流壁面と前記下流壁面との間に形成される空間内に中詰材が充填されており、
前記柱部材は、
一端が前記水通し部の前記底面を画定する前記天端部において前記中詰材に埋設されていて、他端が前記天端部から突出した管状部材により形成された基礎部と、
一端において前記基礎部に前記他端の側から挿入されて互いに連結されている本体部と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の堰堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堰堤、特に河川等に設置される不透過型の堰堤に関する。
【背景技術】
【0002】
山間部等の河川においては、台風や大雨による土砂災害に伴い、大量の土砂などの物体が流されることがあり、被害の拡大を招くことがある。対策工として、例えば、大きな礫が存在せず、多量の細かな礫や土砂などが存在している河川には、不透過型の堰堤が設置される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
不透過型の堰堤は、主に土砂を堰き止める本体と、河川の対象流量を流し得る十分な断面をもった水通し部を形成するように本体上で所定の間隔をあけて設けられた一対の袖部と、有する。不透過型の堰堤は、土砂を堰き止めつつ、河川の水を堰き止めることなく、下流側に流すようになっている。
【0004】
河川に大きな礫が存在せず、多量の土砂があるため、不透過型の堰堤の設置が検討される場合であっても、土石流や流木の発生が懸念され、例えば、堆積した土砂の上を流木が水の流れに乗って水通し部を越流することがあり、水通し部を越流しようとする流木等の物体を捕捉する捕捉工を備えた不透過型の堰堤もある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、砂防堰堤には、河川の上流側に面する上流壁面と、河川の下流側に面する下流壁面とを壁面材を配置してなる堰堤がある。この堰堤の中には、複数の鋼矢板、鋼製パネル等を連結して上流壁面が構築されているものがある。両壁面の間に形成される空間内には、中詰材として、ソイルセメントが打設される(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-167735号公報
【特許文献2】特許第7112875号公報
【特許文献3】特許第6431390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、土砂災害の甚大化により、水通し部を通流する水とともに、流木等の物体が下流側に流されることが想定され、壁面材を用いた堰堤であっても捕捉工を設けたいという需要があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、壁面材により壁面が形成された堰堤において上流側から流れてくる物体を捕捉することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る堰堤は、水通し部を有する不透過型の堰堤であって、河川の上流側に面し複数の鋼板セグメントにより形成された上流壁面と、河川の下流側に面する下流壁面と、コンクリートにより形成されていて少なくとも前記水通し部の底面を画定する天端部と、前記天端部に設けられて上流から流れてくる物体を捕捉する捕捉工と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る堰堤の一態様において、前記捕捉工は、前記河川の幅方向に所定の間隔をあけて設けられた複数の柱部材を含んでいてもよい。
【0011】
また、本発明に係る堰堤の一態様において、前記上流壁面と前記下流壁面との間に形成される空間内に中詰材が充填されており、前記柱部材は、少なくとも一端が前記中詰材に埋設されていて、他端が前記天端部から突出した基礎部と、一端において前記基礎部の前記他端と互いに着脱自在に連結されている本体部と、を有していてもよい。
【0012】
また、本発明に係る堰堤の一態様において、前記本体部と連結される側とは反対の側の前記基礎部の一端にベースプレートが取り付けられており、前記ベースプレートの周縁部は、前記基礎部に対して外方に延出していてもよい。
【0013】
また、本発明に係る堰堤の一態様において、前記基礎部の一端は、索状部材を有し、該索状部材を介して当該堰堤の底部に連結されていてもよい。
【0014】
また、本発明に係る堰堤の一態様において、前記上流壁面と前記下流壁面との間に形成される空間内に中詰材が充填されており、前記柱部材は、一端が前記水通し部の前記底面を画定する前記天端部において前記中詰材に埋設されていて、他端が前記天端部から突出した管状部材により形成された基礎部と、一端において前記基礎部に前記他端の側から挿入されて互いに連結されている本体部と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、壁面材により壁面が形成された堰堤において上流側から流れてくる物体を捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本実施の形態に係る部分的に断面にした堰堤を上流側から見た斜視図である。
【
図1B】本実施の形態に係る部分的に断面にした堰堤を下流側から見た斜視図である。
【
図2】本発明における捕捉工の構成を説明するための概略図である。
【
図3】堰堤を構築する工程を説明する図であり、(a)はコンクリート基礎に上流壁面と下流壁面とを積み上げる工程を説明する図であり、(b)はソイルセメントを打設する工程を説明する図であり、(c)は基礎鋼管を設置する工程を説明する図であり、(d)は基礎鋼管に本体鋼管を連結する工程を説明する図である。
【
図4】変形例1に係る捕捉工の構成を説明するための概略図である。
【
図5】変形例2に係る捕捉工の構成を説明するための断面図である。
【
図6】変形例3に係る捕捉工を備えた堰堤を上流側から見た斜視図である。
【
図7】変形例3に係る捕捉工の構成を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率等が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
本発明に係る堰堤は、例えば、渓谷間において川幅方向に設置されて、上流から流れてくる土石流等を堰き止める不透過型の堰堤である。なお、治山を目的として傾斜地の斜面に設置される土留、擁壁等として使用してもよい。
【0019】
本発明に係る堰堤は、水通し部を有する不透過型の堰堤であって、河川の上流側に面し複数の鋼板セグメント21により形成された上流壁面2と、河川の下流側に面する下流壁面3と、コンクリートにより形成されていて少なくとも水通し部17の底面を画定する天端部15と、水通し部17における天端部15に設けられて上流から流れてくる物体を捕捉する捕捉工5,5A,5Bと、を備えることを特徴とする。本発明に係る堰堤について以下に具体的に説明する。
【0020】
<堰堤の構成>
図1Aは、本実施の形態に係る部分的に断面にした堰堤1を上流側から見た斜視図である。
図1Bは、本実施の形態に係る部分的に断面にした堰堤1を下流側から見た斜視図である。本実施の形態に係る堰堤1は、コンクリート基礎11と、天端部15と、上流壁面2と、下流壁面3と、中詰材4と、捕捉工5と、を備える。
【0021】
コンクリート基礎11は、コンクリートで形成されており、河川の流れる方向に直交する方向(河川の幅方向)に沿って、河川の河床に設けられている。コンクリート基礎11は、2つ設けられており、河川の流れ方向に所定の間隔をあけて配置されている。上流側のコンクリート基礎11の上面に上流壁面2が設けられ、下流側のコンクリート基礎11の上面に下流壁面3が設けられている。
【0022】
堰堤1は、河川の幅方向に沿った中央近傍、つまり、堰堤1が構築される河川の両岸から河川中央に延在する袖部13の間の上端部には、周囲よりも天端部15が低くなるように切り欠かれた(凹んだ)水通し部17が形成されている。天端部15は、堰堤1を高さ方向上端において画定する部分であり、例えば、コンクリートにより形成されている。水通し部17は、上流から流れてくる流水を堰堤1の中央近傍に集約して下流に流すために形成されている。水通し部17の側面及び底面は、天端部15により画定されている。
【0023】
上流壁面2は、河川の上流側に対向するように設けられている。上流壁面2は、複数の鋼板セグメント21がボルト及びナットを備える締結具によって連結されて構成されている。隣接する鋼板セグメント21の上下端縁が、互いに同じ高さにならないように、隣接する鋼板セグメント21同士は、上下方向に互い違い(千鳥状)に配置されている。鋼板セグメント21は、平面視矩形状に構成されており、例えば、断面形状が波形の鋼板(矢板、ライナープレート等)により形成されていて、河川の上流から流れてくる、主に、例えば岩石、木材等を受ける。なお、鋼板セグメント21は、波形状に形成したものだけに限らず、平板状の鋼板を使用してもよい。
【0024】
下流壁面3は、河川の下流側に対向するように設けられている。下流壁面3は、複数のセグメント31がボルト及びナットを備える締結具で連結されて構成されている。隣接するセグメント31の上下端縁が、互いに同じ高さにならないように、隣接するセグメント31同士は、上下方向に互い違い(千鳥状)に配置されている。セグメント31は、コンクリート製のパネルで構成されている。また、下流壁面3の構成を上流壁面2と同様に、複数のセグメントを断面形状が波形の鋼板(矢板、ライナープレート等)により構成してもよい。
【0025】
中詰材4は、上流壁面2と下流壁面3との間にある空間S内に設けられているものであり、流動性を有する。具体的に、中詰材4は、堰堤1を設置する現場の現地発生土にセメントと水を混合して作成したソイルセメントである。ここで用いられるソイルセメントは、スランプの程度について問われることはない。すなわち、堰堤1は、ソイルセメントの流動性があってもなくても対応可能な堰堤であることを意味する。したがって、現地発生土の性状がどのようなものであっても、セメントと水の量を調整することで堰堤として構築することができる。
【0026】
図2は、本発明における捕捉工5の構成を説明するための概略図である。本発明に係る堰堤1において、水通し部17には、捕捉工5が設けられている。捕捉工5は、鋼管により形成されている複数の柱部材51を有する。柱部材51は、高さ方向において少なくとも水通し部17にわたって延びていて、河川の流れ方向に見て中心より上流壁面2の側に設けられている。なお、柱部材51は、高さ方向において水通し部17より低くてもよい。
【0027】
柱部材51は、河川の幅方向において互いに所定の間隔をあけて設置されている。柱部材51は、水通し部17において、一端が中詰材4に埋め込まれた状態において、他端が天端部15から突出して設けられている。なお、柱部材51が設けられる位置は、水通し部17であれば特に限定されない。
【0028】
柱部材51は、基礎鋼管(基礎部)52と、本体鋼管(本体部)53と、を有する。基礎鋼管52は、例えば、円形状の断面形状を有し、その両端にそれぞれ、鋼製の、例えば、平面視円形状のベースプレート52Pを有する。基礎鋼管52は、一方のベースプレート52Pが中詰材4内に埋設されており、他方のベースプレート52Pが天端部15から少しだけ突出しているように水通し部17に設けられている。各ベースプレート52Pは、基礎鋼管52よりも大きな直径を有する。つまり、ベースプレート52Pの周縁部は、基礎鋼管52の外周面に対して外方に延出している。
【0029】
本体鋼管53は、例えば、円形状の断面形状を有しており、その一端には、鋼製の、例えば、平面視円形状のベースプレート53Pが設けられており、他端は閉鎖されている。ベースプレート53Pは、本体鋼管53の直径よりも大きな直径を有する。本体鋼管53は、ベースプレート53Pを介して基礎鋼管52のベースプレート52Pに、例えば、ボルト接合されている。柱部材51は、基礎鋼管52及び本体鋼管53が互いに連結された状態において同軸又は略同軸上に延びている。
【0030】
<堰堤の構築方法>
次に、ソイルセメント(中詰材)を用いた堰堤の施工方法について説明する。
図3は、堰堤1を構築する工程を説明する図であり、(a)はコンクリート基礎11に上流壁面2と下流壁面3とを積み上げる工程を説明する図であり、(b)はソイルセメントを打設する工程を説明する図であり、(c)は基礎鋼管52を設置する工程を説明する図であり、(d)は基礎鋼管52に本体鋼管53を連結する工程を説明する図である。堰堤1の構築位置にコンクリートを打設し、コンクリート基礎11を構築する。構築したコンクリート基礎11の上に所定の間隔をあけて、上流壁面2の鋼板セグメント21、及び下流壁面3のセグメント31をそれぞれ積み上げていき、一回のソイルセメント打設分の高さに相当する鋼板セグメント21及びセグメント31の壁を構築する。
【0031】
上記作業後、又は、この作業に並行して、施工現場に混合施設(混合枡)を設け、この混合施設内で現場発生土にセメント及び水を加えて混合し、中詰材4としてのソイルセメントを作成する。なお、この混合作業は、現場発生土を掘削したバックホウのバケットを利用して現場発生土とセメントと水とを混合する。作成したソイルセメントを上流壁面2と下流壁面3との間にできた空間S内に打設する。打設作業は、コンクリートバケットをクレーン等で吊して行う。
【0032】
次に、コンクリート用のバイブレータを用いて、打設したソイルセメントを締め固める。なお、ソイルセメントは、上記のように水とセメントを混ぜてスランプを有するようなソイルセメントであってもよいし、スランプ値がゼロのソイルセメントであってもよい。スランプ値がゼロのソイルセメントを打設する際には、上流壁面2と下流壁面3との間にある空間Sに打設して、敷き均した後、締め固める。
【0033】
水通し部17の底面を形成する作業においては、ソイルセメントの養生、固化後、水通し部17の底面高さに相当する位置にまで上流壁面2及び下流壁面3を構築する。上流壁面2と下流壁面3との間に所定数の基礎鋼管52を幅方向に間隔をあけて、固化後の中詰材4の上に設置していく。この場合、ベースプレート52Pは、基礎鋼管52よりも大きな直径を有しているので、基礎鋼管52を安定して設置することができる。また、基礎鋼管52の中詰材4に設置される側とは反対の側のベースプレート52Pは、高さ方向において上流壁面2及び下流壁面3よりも高い位置にある。仮に、中詰材4に設置される側とは反対の側のベースプレート52Pが高さ方向において上流壁面2及び下流壁面3よりも低い位置にある場合には、適切な量だけソイルセメントを追加で打設して、基礎鋼管52の高さ位置を調整するようにする。次いで、ソイルセメントを打設して基礎鋼管52を部分的に埋めていく。
【0034】
袖部13の部分まで上流壁面2と下流壁面3とを形成し、ソイルセメントを打設し、締固めた後、保護コンクリートを打設して天端部15を形成する。天端部15が形成された状態において、柱部材51はそのベースプレート52Pが天端部15から突出して露出している。最後に、本体鋼管53を吊り上げて天端部15から突出している基礎鋼管52に接近させて、互いのベースプレート52P,53P同士を接触させてボルト接合する。これにより水通し部17に捕捉工5を備える堰堤1が構築される。
【0035】
以上のような堰堤1によれば、例えば、上流から流れてくる水を水通し部17において下流側に流しつつ、流水に含まれる礫、流木等の物体を捕捉工5によって捕捉することができる。本実施の形態においては、複数の鋼板セグメント21を連結して形成された上流壁面2に捕捉工5を設けるのではなく、水通し部17の天端部15に設けるので、鋼板セグメント21及びセグメント31をそれぞれ有する上流壁面2及び下流壁面3を構築する際に大幅な作業変更を伴うことなく堰堤1に捕捉工5を設けることができる。これにより、鋼板セグメント21を連結することにより形成された上流壁面2を有する堰堤1においても水通し部17を越流する流木等を捕捉することができる。
【0036】
例えば、1つの柱部材51が設けられている場合、水の流れ方向に横たわるように流れてきた流木が柱部材51に衝突した場合、流木が柱部材51を中心に回転して捕捉工5を抜けて下流側に流されることがある。これに対して、捕捉工5は、幅方向に並ぶ複数の柱部材51を有するので、種々異なるサイズや形状の流木を確実に捕捉工5において捕捉し、捕捉工5を抜けて水通し部17を超えていく流木等を大幅に減じる。
【0037】
また、捕捉工5における柱部材51は、基礎鋼管52及び本体鋼管53の2つの部材により構成されているので、捕捉工5の構築が容易になる。また、例えば、本体鋼管53に礫、流木等が衝突し、本体鋼管53が変形した場合であっても、基礎鋼管52と本体鋼管53との連結を解除して、損傷した本体鋼管53を新たな本体鋼管53と容易に交換することができる。
【0038】
また、本体鋼管53が連結される側とは反対側の基礎鋼管52の端部には、基礎鋼管52の外径よりも大きな外径を有するベースプレート52Pが設けられている。これにより、ベースプレート52Pが中詰材4内において基礎鋼管52の引張方向における抵抗となるとともに、基礎鋼管52に押し込まれる方向の力(圧縮力)が作用した場合にも抵抗となる。
【0039】
<変形例1>
次に、変形例1に係る捕捉工5Aについて説明する。
図4は、変形例1に係る捕捉工5Aの構成を説明するための断面図である。なお、以下では、捕捉工5と異なる部分について説明し、堰堤1において同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省く。
【0040】
捕捉工5Aは、鋼管により形成されている複数の柱部材511を有する。柱部材511は、高さ方向Hにおいて少なくとも水通し部17にわたって延びていて、複数の柱部材511が幅方向Wに互いに所定の間隔をあけて設けられている。柱部材511は、水通し部17において、一端が中詰材4に埋め込まれた状態において設けられている。
【0041】
柱部材511は、基礎鋼管(基礎部)521と、本体鋼管(本体部)531と、補強ロープ541と、を有する。柱部材511は、基礎鋼管521及び本体鋼管531が互いに連結された状態において同軸又は略同軸上に延びている。基礎鋼管521は、両端にそれぞれベースプレート521Pを有する。ベースプレート521Pは、基礎鋼管521よりも大きな直径を有する。基礎鋼管521は、一方のベースプレート521Pが中詰材4内に埋設されており、他方のベースプレート521Pが天端部15から少しだけ突出している。
【0042】
基礎鋼管521は、補強ロープ541を介して、コンクリート基礎11の間の堰堤1の底部に連結されている。補強ロープ541は、例えば、鋼製のワイヤーロープとして形成されている。補強ロープ541の一端は、ベースプレート521Pに連結されている。補強ロープ541は、他端に鋼製の円形状のベースプレート541Pを有する。ベースプレート541Pは、補強ロープ541の他端と連結されていて、堰堤1の底部における中詰材4に埋め込まれている。なお、ベースプレート541Pは、円形に限定されず、多角形であってもよい。
【0043】
本体鋼管531は、一端にベースプレート531Pを有する。本体鋼管531は、ベースプレート531Pを介して基礎鋼管521に、例えば、ボルト接合されている。
【0044】
捕捉工5Aを構築する際には、まず、コンクリート基礎11の間で幅方向Wにおいて所定の位置に、補強ロープ541の他端が連結されているベースプレート541Pを設置する。次いで、上流壁面2及び下流壁面3を積み上げかつその間にソイルセメントを打設していく。積み上げられた上流壁面2と下流壁面3との間の空間Sにソイルセメントを打設していく際に、補強ロープ541に張力がかかるようにしてソイルセメントを打設して、中詰材4を敷き固めていく。
【0045】
その後、補強ロープ541と基礎鋼管521のベースプレート521Pとを連結させつつ、基礎鋼管521を中詰材4に設置していく。天端部15を形成した後、本体鋼管531を吊り上げて基礎鋼管521に対して接近させて、互いのベースプレート520P,530P同士を接触させてボルト接合する。これにより、水通し部17に捕捉工5Aを備える堰堤が構築される。
【0046】
以上のような捕捉工5Aを備えた堰堤によれば、少なくとも捕捉工5と同様の効果を奏することができる。さらに、捕捉工5Aにおいて柱部材511に衝撃が加わった場合、補強ロープ541を介して反力が発生するので、強度の高い捕捉工5Aを達成することができる。
【0047】
<変形例2>
次に、変形例2に係る捕捉工5Bについて説明する。
図5は、変形例2に係る捕捉工5Bの構成を説明するための断面図である。なお、以下では、捕捉工5と異なる部分について説明し、堰堤において同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省く。
【0048】
捕捉工5Bは、鋼管により形成されている複数の柱部材512を有する。柱部材512は、高さ方向Hにおいて少なくとも水通し部17にわたって延びていて、複数の柱部材512が幅方向Wに互いに所定の間隔をあけて設けられている。柱部材512は、水通し部17において、一端が中詰材4に埋め込まれた状態において設けられている。
【0049】
柱部材512は、基礎鋼管(基礎部)522と、本体鋼管(本体部)532と、を有する。柱部材512は、基礎鋼管522及び本体鋼管532が互いに連結された状態において同軸又は略同軸上に延びている。基礎鋼管522は、一端がベースプレート522Pにより閉鎖されていて、他端が開口している。ベースプレート522Pは、基礎鋼管521よりも大きな直径を有する。基礎鋼管521は、ベースプレート522Pが設けられた側で中詰材4及び天端部15に埋設されており、他端が天端部15から少しだけ突出している。
【0050】
本体鋼管532は、基礎鋼管522の内径よりも小さな外径を有し、基礎鋼管522の他端から基礎鋼管522内に挿入されている。基礎鋼管522と本体鋼管532との間の隙間はモルタルにより塞がれていて、本体鋼管532の内部もモルタルにより充填されている。柱部材512は、基礎鋼管522に本体鋼管532が挿入されて互いに連結された状態において同軸又は略同軸上に延びている。
【0051】
捕捉工5Bを構築する際には、コンクリート基礎11を構築した後に、コンクリート基礎11の上に所定の間隔をあけて、上流壁面2の鋼板セグメント21、及び下流壁面3のセグメント31をそれぞれ積み上げていき、一回のソイルセメント打設分の高さに相当する鋼板セグメント21及びセグメント31の壁を構築する。
【0052】
次に、ソイルセメントを上流壁面2と下流壁面3との間にできた空間S内に打設して、ソイルセメントを締め固める。水通し部17の底面を形成する作業においては、ソイルセメントの養生、固化後、水通し部17の底面高さに相当する位置にまで上流壁面2及び下流壁面3を構築する。上流壁面2と下流壁面3との間に所定数の基礎鋼管52を幅方向に間隔をあけて固化後の中詰材4の上に設置していく。この場合、中詰材4に設置される基礎鋼管522の開口した端部は、高さ方向において上流壁面2及び下流壁面3よりも高い位置にある。仮に、基礎鋼管522の開口した端部が高さ方向において上流壁面2及び下流壁面3よりも低い位置にある場合には、適切な量だけソイルセメントを追加で打設して、基礎鋼管522の高さ位置を調整するようにする。次いで、ソイルセメントを打設して基礎鋼管522を部分的に埋めていく。
【0053】
袖部13の部分まで上流壁面2と下流壁面3とを形成し、ソイルセメントを打設し、締固めた後、保護コンクリートを打設して天端部15を形成する。最後に、本体鋼管532を吊り上げて天端部15から突出している基礎鋼管522に接近させて、基礎鋼管522の中に挿入する。
【0054】
次いで、基礎鋼管522と本体鋼管532との間の隙間にモルタルを充填する。また、本体鋼管532の内部にもモルタルを充填してもよい。これにより、水通し部17に捕捉工5Bが構築される。
【0055】
以上のような捕捉工5Bを備える堰堤によれば、少なくとも捕捉工5と同様の効果を奏することができる。さらに、捕捉工5Bにおいて本体鋼管532の一端は、基礎鋼管522内に部分的に挿入されており、さらに、本体鋼管532の内部はモルタルが充填されて固化しているので、捕捉工5Bの強度をより高めることができる。
【0056】
<変形例3>
次に、変形例3に係る捕捉工5Cについて説明する。
図6は、変形例3に係る捕捉工5Cを備えた堰堤1Cを上流側から見た斜視図である。なお、以下では、堰堤1と異なる部分について説明し、堰堤1Cにおいて同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省く。堰堤1Cは、コンクリート基礎11と、天端部15と、上流壁面2と、下流壁面3と、中詰材4と、捕捉工5C、とを備える。
【0057】
図7は、変形例3に係る捕捉工5Cの構成を説明するための断面図である。捕捉工5Cは、水通し部17に対向する位置で上流壁面2に設けられている。捕捉工5Cは、鋼管により形成されている複数の柱部材513を有する。柱部材513は、一端が上流壁面2を通って中詰材4に埋め込まれている。柱部材513は、高さ方向Hにおいて少なくとも水通し部17にわたって延びている。
【0058】
柱部材513は、基礎鋼管523と、本体鋼管533と、を有する。基礎鋼管523は、一端が中詰材4内に埋設されており、他端が上流壁面2から上流側に向かって突出しているように設けられている。基礎鋼管523は、少なくとも他端の側にベースプレート523Pを有していて、基礎鋼管523よりも大きな直径を有する。
【0059】
本体鋼管533は、連結部533Aと、本体部533Bと、を有する。連結部533A及び本体部533Bは、互いに一体に形成されており、それぞれの軸線が直交するように延びている。なお、本体部533Bは、連結部533Aに対して上流側に斜めに延びていてもよい。
【0060】
連結部533Aは、本体部533Bに連結されている側とは反対の側にベースプレート533Pを有する。ベースプレート533Pは、本体部533Bよりも大きな直径を有する。本体鋼管533は、各連結部533Aのベースプレート533Pを介して基礎鋼管523それぞれにボルト接合により連結されている。
【0061】
本体部533Bは、連結部533Aと、ベースプレート533Pが取り付けられている側とは反対の側の連結部533Aの一端において、例えば、溶接等により一体に連結されている。柱部材513が堰堤1Cに取り付けられた状態において、本体部533Bは、少なくとも水通し部17と重なるように延びている。
【0062】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。例えば、上記実施の形態及び変形例1において、柱部材51,511は、鋼管により形成されていたが、H形鋼等の他の鋼材により形成されていてもよく、変形例2においては、本体鋼管532がH形鋼等の他の鋼材により形成されていてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態及び変形例において柱部材51,511,512は、円形状の断面形状を有していたが、多角形状の断面形状を有していてもよく、柱部材51,511,512に取り付けられるベースプレートも柱部材51,511,512の断面形状に応じて、平面視多角形状であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1・・・堰堤
15・・・天端部、17・・・水通し部
2・・・上流壁面
21・・・鋼板セグメント
3・・・下流壁面
31・・・セグメント
4・・・中詰材
5・・・捕捉工